[本開示が解決しようとする課題]
タイヤ等のゴム複合体を含む製品において、スチールコードの端面近傍で腐食が生じる場合があった。近年ではゴム複合体を含む製品の交換頻度等を抑制するため、耐久性を高めることが求められるようになっている。このため、係るスチールコードの端面近傍での腐食を抑制することが求められていた。
そこで、スチールコードの端面の腐食を抑制したゴム複合体を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
本開示によれば、スチールコードの端面の腐食を抑制したゴム複合体を提供できる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
(1)本開示の一態様に係るゴム複合体は、スチールコードと、
前記スチールコードの表面の少なくとも一部を覆うゴムと、を有し、
前記スチールコードの長手方向の端面にCuを含む第1被覆物が配置されている。
本開示の一態様に係るゴム複合体は、スチールコードの長手方向の端面に第1被覆物を有することで、スチールコードの端面の耐腐食性を向上できる。
第1被覆物がCu(銅)を含有することで、スチールコードの表面、具体的には長手方向の端面を保護し、耐腐食性を高めることができる。
(2)前記第1被覆物は、Sをさらに含んでいてもよい。
第1被覆物がS(硫黄)をさらに含有することで、既述のCuとCu2S等の銅-硫黄化合物を形成し、特にスチールコードの長手方向の端面を保護し、耐腐食性を特に高めることができる。また、スチールコードとゴムとが第1被覆物を介して接着している場合に、Cu2S等の銅-硫黄化合物は、スチールコードとゴムとの間の接着力を高め、ゴム複合体の耐久性を特に高めることができる。
(3)前記第1被覆物が、Znをさらに含んでいてもよい。
Zn(亜鉛)はCuとゴムに含まれる他の元素との反応を促進し、Cu2S等の銅化合物の生成を促進する。銅化合物はスチールコードの長手方向の端面を特に保護し、耐腐食性をさらに高められる。また、スチールコードとゴムとが第1被覆物を介して接着している場合に、銅化合物はスチールコードとゴムとの間の接着力を高め、ゴム複合体の耐久性を高められる。
(4)前記第1被覆物が、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含んでいてもよい。
Sn(スズ)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)は、イオン化傾向がZnより大きい。このため、第1被覆物が、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むことで、犠牲防食として機能、あるいはCuとZnの合成電位を貴にできる。このため、スチールコードの長手方向の端面を特に保護し、耐腐食性をさらに高めることができる。
(5) 前記スチールコードの前記端面は、前記第1被覆物を介して前記ゴムにより覆われていてもよい。
スチールコードの長手方向の端面が、第1被覆物を介してゴムにより覆われていることで、第1被覆物に加えてゴムによりスチールコードの長手方向の端面を保護できる。このため、スチールコードの長手方向の端面の耐腐食性を高められる。さらに、ゴム複合体が破損することを抑制し、耐久性を高められる。
(6) 前記スチールコードの前記端面は、前記第1被覆物を介して前記ゴムと接着していてもよい。
スチールコードの長手方向の端面が、第1被覆物を介してゴムと接着することで、第1被覆物に加えてゴムによりスチールコードの長手方向の端面を保護できる。このため、スチールコードの長手方向の端面の耐腐食性を高められる。
また、ゴム複合体をタイヤ等に適用した場合、スチールコードの長手方向の端面とゴムとの境目近傍に大きな力が加わり易い。しかし、スチールコードの長手方向の端面が、第1被覆物を介してゴムと接着していることで、ゴム、第1被覆物、スチールコードが一体となって加えられた力を支持できる。このため、ゴム複合体が破損することを特に抑制し、耐久性を高められる。
さらに、スチールコードの長手方向の端面と、第1被覆物と、ゴムとが接着することで、上記部材間に水等の異物が侵入することを特に防止できる。このため、スチールコードの端面にまで水等の異物が侵入することを抑制し、耐腐食性を特に高められる。
(7)前記第1被覆物が、前記端面の20%以上を覆っていても良い。
第1被覆物が、スチールコード11の長手方向の端面の面積の20%以上を覆っていることで、スチールコードの端面の耐腐食性を特に高めることができる。
(8) 前記スチールコードの側面にCuを含む第2被覆物が配置されていてもよい。
ゴム複合体が、スチールコードの側面に第2被覆物を有することで、スチールコードの側面の耐腐食性を向上できる。
第2被覆物がCuを含有することで、スチールコードの表面、具体的には側面を保護し、耐腐食性を高めることができる。
(9)本開示の一態様に係るタイヤは、(1)から(8)のいずれかのゴム複合体を含む。
本開示の一態様に係るタイヤは、既述のゴム複合体を含んでいる。このため、スチールコードの長手方向の端面での腐食を抑制し、耐久性を高めることができる。
(10) 本開示の一態様に係るスチールコードは、長手方向の端面にCuを含む被膜が配置されている。
本開示の一態様に係るスチールコードが、長手方向の端面に被膜を有することで、端面の耐腐食性を向上できる。
被膜がCu(銅)を含むことで、スチールコードの表面を保護し、耐腐食性を高めることができる。
(11) 前記被膜が、Znをさらに含んでいてもよい。
Znは、イオン化傾向がCuより大きい。このため、被膜が、Cuに加えて、Znをさらに含むことで、犠牲防食として機能できる。このため、スチールコードの長手方向の端面を特に保護し、耐腐食性をさらに高めることができる。
(12) 前記被膜が、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含んでいてもよい。
Sn、Cr、Fe、Co、Niは、イオン化傾向がZnより大きい。このため、被膜が、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むことで、犠牲防食として機能、あるいはCuとZnの合成電位を貴にできる。このため、スチールコードの長手方向の端面を特に保護し、耐腐食性をさらに高めることができる。
(13) 前記被膜が、前記端面の20%以上を覆っていても良い。
被膜が、スチールコード11の長手方向の端面の面積の20%以上を覆っていることで、スチールコードの端面の耐腐食性を特に高めることができる。
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るゴム複合体、タイヤ、スチールコードの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
〔ゴム複合体〕
タイヤ等のゴム複合体を含む製品において、スチールコードの端面近傍で腐食が生じる場合があった。係る腐食の発生を抑制するため、本発明の発明者らは、腐食が生じる原因について検討を行った。
既述の様に、スチールコードの線材の表面にめっきによる被膜を形成することが従来からなされている。
被膜を有するスチールコードを用いてゴム複合体を製造すると、スチールコードの被膜が有する金属成分と、ゴムの成分とが反応し、スチールコードの表面に接着層とも呼ばれる被覆物が形成される。スチールコードの表面に上記被覆物が形成されることで、スチールコードが保護され、耐腐食性が高められると考えられる。
しかしながら、ゴム複合体を製造する際、ゴム複合体のサイズにあわせてスチールコードを切断する必要がある。このため、ゴム複合体に含まれるスチールコードの端面では線材が露出し、スチールコードの端面には被覆物が形成されない。その結果、従来のゴム複合体では、スチールコードの端面が保護されず、端面で腐食が生じていたものと考えられる。
以上の検討結果に基づいて、本発明の発明者らは、スチールコードの端面での腐食を抑制できる、本実施形態のゴム複合体を完成させた。
本実施形態のゴム複合体の構成例を図1、図2に示す。図1は、本実施形態のゴム複合体10の斜視図であり、図2は、図1のA-A´線での断面図、具体的には、スチールコード11の長手方向の端部の、スチールコード11の中心軸を通る面での断面図を示している。図1、図2中、Y軸方向がスチールコード11の長手方向と平行な方向であり、XZ平面が、スチールコード11の長手方向と垂直な面となる。なお、図1、図2では、X軸方向がゴム複合体10の幅方向になり、X軸方向に沿って複数本のスチールコード11が一列に配列されている。Z軸方向がゴム複合体10の厚さ方向になる。
図1に示すように、本実施形態のゴム複合体10は、スチールコード11と、スチールコード11の表面の少なくとも一部を覆うゴム12とを有することができる。そして、図2に示すように、スチールコード11の長手方向の端面11Aに被覆物13である第1被覆物131を有することができる。
本実施形態のゴム複合体10が有するスチールコード11の本数は特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば1本であってもよく、複数本であっても良い。本実施形態のゴム複合体10が複数本のスチールコード11を有する場合、該スチールコード11の配置は特に限定されないが、例えば図1に示すように、複数本のスチールコード11の長手方向と垂直な断面であるXZ平面において、一列に配列できる。
以下に、本実施形態のゴム複合体が有する各部材について説明する。
(1)スチールコード
スチールコード11は、図2に示すように、線材111と、線材111の表面を覆う被膜112とを有することができる。なお、図1、図2において、スチールコード11は1本の線で構成された例を示しているが、係る形態に限定されない。例えば、複数本のスチールワイヤを撚り合せたスチールコードであっても良い。スチールコードが複数本のスチールワイヤを撚り合せた構成を有する場合、各スチールワイヤについて、以下に説明する線材111と、該線材111の表面を覆う被膜112を有することが好ましい。
スチールコード11が有する線材111は例えば鋼線とすることができ、高炭素鋼線をより好ましく用いることができる。
スチールコード11は、被膜112として、スチールコード11の側面11B側を覆う第2被膜1122に加えて、端面11A側を覆う第1被膜1121を有することができる。
スチールコード11の線材111の表面に被膜112を設けることで、ゴム複合体10とした場合に、スチールコード11の表面に被覆物13を形成できる。具体的には、スチールコード11の長手方向の端面11A側を覆う第1被膜1121を設けることで、ゴム複合体10とした場合に、スチールコード11の長手方向の端面11Aに第1被覆物131を形成、配置できる。
また、スチールコード11の側面11B側を覆う第2被膜1122を設けることで、ゴム複合体10とした場合に、スチールコード11の側面11B側に、第2被覆物132を形成、配置できる。
第1被膜1121および第2被膜1122は、ゴム複合体10とする際に、ゴムの成分と反応して、第1被覆物131、第2被覆物132を形成できる。このため、第1被膜1121および第2被膜1122は、ゴム複合体10とした場合にその一部が残っていても良いが、全てが第1被覆物131、第2被覆物132となっていても良い。すなわち、ゴム複合体10は、第1被膜1121、および第2被膜1122を有していなくても良い。
既述の様に、ゴム複合体を作製する際、スチールコードをゴム複合体のサイズにあわせて切断する必要がある。このため、従来のゴム複合体では、スチールコードの長手方向の端面に被膜が設けられていなかった。そして、被覆物は、ゴムの成分と、スチールコードの被膜の成分とが反応して形成されると考えられる。このため、スチールコードの長手方向の端面に被膜がない場合、該端面には被覆物も形成されず、従来のゴム複合体では、スチールコードの長手方向の端面から腐食が生じていた。
一方、本実施形態のゴム複合体10が有するスチールコード11は、長手方向の端面11Aに被膜112である第1被膜1121を有する。このため、ゴム複合体10は、スチールコード11の長手方向の端面に第1被覆物131を有することができ、スチールコードの端面11Aの耐腐食性を向上することができる。
本実施形態のゴム複合体10が有するスチールコード11は、側面11Bに被膜112である第2被膜1122を有することもできる。このため、ゴム複合体10は、スチールコード11の側面に第2被覆物132を有することもでき、スチールコードの側面11Bの耐腐食性も向上することができる。
第1被膜1121は、ゴム複合体10を製造するために、スチールコードを所定の長さに切断した後に形成できる。具体的にはスチールコード11をゴム12に埋設する前、もしくはスチールコード11の一部をゴム12に埋設した後、スチールコード11の長手方向の端面をゴム12等で覆う前に形成できる。
第1被膜1121を形成する具体的な手段は特に限定されず、所望の組成を有する被膜を形成できる各種手段を用いることができる。第1被膜1121は、例えば酸化物および金属から選択された1種類以上を含有できる。このため、第1被膜1121は、酸化物や、金属を形成できる各種手段により形成できる。第1被膜1121の製造方法としては、例えば金属等の所定の成分を含有する塗布液を塗布する塗布法や、該塗布液にスチールコード11の端面11A側を浸漬する浸漬法等が挙げられる。第1被膜1121の製造方法としては他に、電気めっき法、無電解めっき法、置換めっき法等が挙げられる。電気めっき法としては、筆めっき法等も挙げられる。なお、第1被膜1121が複数の成分を含有する場合には、スチールコード11の長手方向の端面に第1被膜1121が有する複数の成分に対応した複数の層を成膜し、必要に応じて熱処理を行うことで、第1被膜1121を形成することもできる。第1被膜1121を形成する前に、スチールコード11の端面11Aについて、脱脂処理等の表面に付着した物質を除去する前処理を実施することが好ましいが、前処理を行うことなく第1被膜1121を形成してもよい。
第2被膜1122の形成方法は特に限定されないが、例えばスチールコード11を製造するための母線の表面に対応する被膜を形成しておき、該母線を伸線することで、線材111の表面に第2被膜1122が形成された状態にできる。すなわち、スチールコード11の側面11B側に配置された第2被膜1122は、伸線する前に、母線の表面に形成した被膜に由来する。
上述のように、スチールコード11の端面11A側に設けた第1被膜1121と、側面11B側に設けた第2被膜1122とは、別のタイミングで形成するものである。このため、第1被膜1121と、第2被膜1122とは組成や膜厚が同じであっても良く、異なっていても良い。
被膜112である第1被膜1121および第2被膜1122の組成は特に限定されない。被膜112は、例えばCu(銅)を含有することが好ましい。特に、Cuに加えて、Zn(亜鉛)をさらに含有することがより好ましい。
また、被膜112は、Cu、Znに加えて、Sn(スズ)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)から選択された1種類以上をさらに含有することがさらに好ましい。
(2)ゴム
ゴム12は、ゴムの組成物を成形し、必要に応じて加硫することで製造できる。
ゴムの具体的な組成は本実施形態のゴム複合体の用途や、特性等に応じて選択することができ、特に限定されない。ゴムは、例えばゴム成分と、硫黄と、加硫促進剤とを含むことができる。
ゴム成分は、ゴム成分中、例えば天然ゴム(NR:natural rubber)、およびイソプレンゴム(IR:isoprene rubber)から選択された1種類以上を60質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことさらに好ましい。
これは、ゴム成分中の天然ゴム、およびイソプレンゴムから選択された1種類以上のゴムの割合を、60質量%以上とすることで、ゴム複合体の破断強度を高めることができ、好ましいからである。
天然ゴムや、イソプレンゴムと混用して用いるゴム成分としては、例えばスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)から選択された1種類以上を挙げることができる。
硫黄としては特に限定されないが、例えばゴム工業において加硫剤として一般的に用いられる硫黄を用いることができる。
ゴムの硫黄の含有量は特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して例えば5質量部以上8質量部以下とするのが好ましい。
これは、ゴム成分100質量部に対する、硫黄の割合を5質量部以上とすることで、得られるゴムの架橋密度を高め、特にスチールコードとゴムとの接着力を高めることができるからである。また、ゴム成分100質量部に対する、硫黄の割合を8質量部以下とすることで、硫黄をゴム内に特に均一に分散させることができ、またブルーミングが生じることを抑制できるため、好ましいからである。
加硫促進剤についても特に限定されないが、例えばN,N′-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系促進剤が好適に用いられる。また、所望により、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系促進剤や、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系促進剤を用いてもよい。
本実施形態のゴム複合体に用いるゴム組成物は、上述の各成分を、常法により混練りし、熱入れおよび押し出しすることにより製造することができる。
また、本実施形態のゴム複合体のゴムは、コバルト単体、およびコバルトを含有する化合物から選択された1種類以上を含有することが好ましい。
コバルトを含有する化合物としては、有機酸コバルトや、無機酸コバルトを挙げることができる。
有機酸コバルトとしては例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。なお、有機酸コバルトは有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩でもよい。
無機酸コバルトとしては例えば、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、クロム酸コバルトから選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
特に、本実施形態のゴム複合体のゴムは、有機酸コバルトを含有することがより好ましい。これは、有機酸コバルトを含有することで、スチールコードと、ゴムとの初期接着性能を特に向上させることができるからである。なお、初期接着性能とは、ゴム複合体の製造時、例えば加硫を行った直後のスチールコードと、ゴムとの接着性能を意味する。
また、本発明の発明者らの検討によれば、コバルトをゴムに添加することで、被覆物中のCu2S等の銅化合物の割合を高めることができ、スチールコードとゴムとの接着力を高めることができる。そして、添加するコバルトとして、有機酸コバルトを用いた場合、その傾向が顕著なものとなる。このため、本実施形態のゴム複合体のゴムは、コバルト、特に有機酸コバルトを含有することが好ましく、それにより特に耐久性に優れたゴム複合体とすることができる。
また、ゴムは上記ゴム成分や、硫黄、加硫促進剤、コバルト等以外に任意の成分を含むことができる。ゴムは、例えば補強剤(カーボンブラック、シリカ等)、ワックス、老化防止剤などの周知のゴム用の添加剤を含有することもできる。
ゴム12は、スチールコード11の表面の少なくとも一部を覆うことができる。スチールコード11の表面の少なくとも一部をゴム12で覆うことで、ゴム12で直接覆われていない部分でも、既述の被膜112を設けた部分では、被膜112の成分とゴム12の成分とが反応して被覆物13を形成でき、耐腐食性を向上できる。
このため、ゴム12は、例えばスチールコード11の端面11Aの少なくとも一部を覆うこともでき、端面11Aの全体を覆うこともできる。また、ゴム12は、スチールコード11の側面11Bの少なくとも一部を覆うこともでき、スチールコード11の側面11B全体を覆うこともできる。ゴム12は、スチールコード11の表面全体を覆うこともできる。
スチールコード11の長手方向の端面11Aを保護し、耐腐食性を特に向上する観点から、ゴム12は、スチールコード11の長手方向の端面11Aの少なくとも一部を覆うことが好ましく、スチールコード11の長手方向の端面11A全体を覆うことがより好ましい。
(3)被覆物
(3-1)第1被覆物
既述の様に、本実施形態のゴム複合体10では、スチールコード11の長手方向の端面11Aに、被覆物13である第1被覆物131を有することができる。
図2において、第1被覆物131は、スチールコード11の長手方向の端面11Aに沿って、均一な厚さで形成された例を示しているが、図2は模式的に示したものであり、係る形態に限定されない。例えば、第1被覆物131は、スチールコード11の長手方向の端面11Aの表面に点在するように配置されていても良く、図2に示すように、スチールコード11の長手方向の端面11A全体を覆うように、膜状形状を有していても良い。
第1被覆物131は、第1被膜1121に含まれる成分と、ゴム12に含まれる成分等とが反応し、形成されると考えられる。このため、第1被覆物131の組成は、第1被膜1121や、ゴム12の組成に応じて変化し、特に限定されないが、第1被覆物131は、例えばCu(銅)を含むことが好ましい。これは第1被覆物131がCuを含有することで、スチールコード11の表面、具体的には長手方向の端面を保護し、耐腐食性を高めることができるからである。
既述の様に、第1被膜1121は、Cuに加えて、Zn(亜鉛)をさらに含むこともできる。また、第1被膜1121は、Cu、Znに加えて、Sn(スズ)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)から選択された1種類以上をさらに含むこともできる。このため、第1被覆物131についても、Cuに加えて、Znをさらに含むこともできる。また、第1被覆物131は、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むこともできる。
第1被膜1121が、Cuに加えてZnを含む場合、第1被覆物131もCuに加えてZnを含むことができる。ZnはCuとゴムに含まれる他の元素との反応を促進し、Cu2S等の銅化合物の生成を促進する。銅化合物はスチールコード11の長手方向の端面11Aを特に保護し、耐腐食性をさらに高められる。また、スチールコード11とゴム12とが第1被覆物131を介して接着している場合に、銅化合物はスチールコードとゴムとの間の接着力を高め、ゴム複合体の耐久性を高められる。
また、Sn、Cr、Fe、Co、Niは、イオン化傾向がZnより大きい。このため、第1被覆物131が、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むことで、犠牲防食として機能、あるいはCuとZnの合成電位を貴にできる。このため、スチールコード11の長手方向の端面11Aを特に保護し、耐腐食性をさらに高めることができる。
ゴム複合体を製造する際、通常加硫が行われる。このため、第1被覆物131は、加硫の際に添加されるS(硫黄)をさらに含むことがより好ましい。第1被覆物131がSをさらに含有することで、既述のCuとCu2S等の銅-硫黄化合物を形成し、特にスチールコード11の長手方向の端面11Aを保護し、耐腐食性を特に高めることができる。また、スチールコード11とゴム12とが第1被覆物131を介して接着している場合に、Cu2S等の銅-硫黄化合物は、スチールコード11とゴムとの間の接着力を高め、ゴム複合体の耐久性を特に高めることができる。
第1被覆物131は、さらに第1被膜1121の成分の一部を含有することもできる。第1被膜1121は、既述の様に、酸化物および金属から選択された1種類以上を含有することができる。このため、第1被覆物131は、第1被膜1121に由来する、酸化物および金属から選択された1種類以上を含有することもできる。第1被覆物131が、酸化物および金属から選択された1種類以上を含有することで、第1被膜1121との密着性が特に高くなる。このため、スチールコード11の耐腐食性を特に高め、スチールコード11とゴム12とが接着している箇所では、スチールコード11と、ゴム12との接着力を高めることもできる。
既述のように、本実施形態のゴム複合体10において、ゴム12はスチールコード11の長手方向の端面11Aの少なくとも一部を覆うことが好ましく、スチールコード11の長手方向の端面11A全体を覆うことがより好ましい。
ゴム複合体10の製造時、上述のようにゴム12をスチールコード11の長手方向の端面11Aの少なくとも一部を覆うように配置することで、スチールコード11の長手方向の端面11Aが、第1被覆物131を介してゴム12と接着した状態にできる。すなわち、スチールコード11の長手方向の端面11A側に、ゴム複合体10の外表面側からゴム12、第1被覆物131、スチールコード11がその順に配置され、ゴム12、第1被覆物131、スチールコード11の各部材間が接着した状態にできる。
上記のように、スチールコード11の長手方向の端面11Aが、第1被覆物131を介してゴム12と接着することで、第1被覆物131に加えてゴム12によりスチールコード11の長手方向の端面11Aを保護できる。このため、スチールコード11の長手方向の端面11Aの耐腐食性を高められる。
また、ゴム複合体10をタイヤ等に適用した場合、スチールコード11の長手方向の端面11Aとゴム12との境目近傍に大きな力が加わり易い。しかし、スチールコード11の長手方向の端面11Aが、第1被覆物131を介してゴム12と接着していることで、ゴム12、第1被覆物131、スチールコード11が一体となって加えられた力を支持できる。このため、ゴム複合体10が破損することを特に抑制し、耐久性を高められる。
さらに、スチールコード11の長手方向の端面11Aと、第1被覆物131と、ゴム12と、が接着することで、上記部材間に水等の異物が侵入することを特に防止できる。このため、スチールコード11の長手方向の端面11Aにまで水等の異物が侵入することを抑制し、耐腐食性を特に高められる。
ただし、例えばゴム複合体10を長期間に渡って使用すると、ゴム12の成分と、第1被膜1121の成分との反応が進行して、第1被覆物131やその周辺の状態が変化する場合がある。また、ゴム12とスチールコード11との間に繰り返し力が加えられ、両部材間に隙間等が生じる場合がある。このため、ゴム複合体10を長期間に渡って使用すると、ゴム12とスチールコード11との間の接着力が低下する場合がある。
しかし、ゴム12とスチールコード11との間の接着力が低下した場合でも、ゴム複合体10では、スチールコード11の端面11Aに第1被覆物131が配置されているため、スチールコード11の端面11Aを保護し、耐腐食性を向上する効果は有する。
このため、スチールコード11の長手方向の端面11Aは、第1被覆物131を介してゴム12と接着している形態に限定されず、スチールコード11の長手方向の端面11Aは、第1被覆物を介してゴムにより覆われている形態とすることができる。
スチールコード11の長手方向の端面11Aが、第1被覆物を介してゴム12により覆われていることで、第1被覆物131に加えてゴム12によりスチールコード11の長手方向の端面11Aを保護できる。このため、スチールコード11の長手方向の端面11Aの耐腐食性を高められる。さらに、ゴム複合体10が破損することを抑制し、ゴム複合体10の耐久性を高めることができる。
上記スチールコードの長手方向の端面11Aが第1被覆物131を介してゴム12により覆われているとは、既述の接着している場合と以下の2つの形態を含む。第1の形態としては、スチールコード11の長手方向の端面11Aにおいて、ゴム複合体10の外表面側から、ゴム12、第1被覆物131、スチールコード11がその順に配置され、各部材同士が接触している形態である。ここでいう各部材同士が接触しているとは、各部材間は接着力がないが、隙間なく接している状態を意味する。第2の形態としては、スチールコード11の長手方向の端面11Aにおいて、ゴム複合体10の外表面側から、ゴム12、第1被覆物131、スチールコード11がその順に配置され、各部材の間の少なくとも一部に隙間を含む形態である。
なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aが、第1被覆物131を介してゴムに覆われているいずれ態様の場合でも、スチールコード11の、第1被覆物131と対向する面には、第1被膜1121が配置されていても良い。
既述の様に、従来のゴム複合体では、スチールコード11の端面11A側には、被膜112である第1被膜1121が形成されていなかったため、スチールコード11の端面11Aには、第1被覆物131も配置されていなかった。このため、第1被覆物131は、スチールコード11の端面11Aに少しでも配置されていれば、従来と比較して耐腐食性を高めることができ、第1被覆物131が配置されている程度は特に限定されない。しかしながら、第1被覆物131が、スチールコード11の長手方向の端面11Aの面積の20%以上を覆っていることが好ましく、40%以上覆っていることがより好ましい。第1被覆物131が、スチールコード11の長手方向の端面11Aの面積の20%以上を覆っていることで、スチールコード11の端面11Aの耐腐食性を特に高めることができるため、好ましい。
第1被覆物131は、スチールコード11の端面11A全体を覆うこともできるため、第1被覆物131は、スチールコード11の端面11Aの面積の100%以下覆うことができる。
第1被覆物131がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を測定する方法は特に限定されない。例えば、ゴム複合体10の、スチールコード11の端面11A側に配置されているゴム12の一部である端面側ゴム121を剥離すると、図3に示したように、スチールコード11の端面11A側が露出する。このため、スチールコード11の端面11Aのうち、例えば第1被膜1121等のスチールコード11が露出した領域を除いた、ゴム12が占める面積の割合を算出できる。なお、スチールコード11の端面11Aに残ったゴム12は、第1被覆物131が形成されていた箇所に対応するため、上述のようにゴム12が占める面積の割合により、第1被覆物131がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を算出できる。
また、端面側ゴム121を剥離した際に、端面側ゴム121と、剥離後に露出したスチールコードの端面11A側とのいずれかの元素分布マッピングを行い、第1被覆物131がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を測定してもよい。なお、スチールコードの端面11A側にゴムが残っている場合にはスチールコードの端面11A側を、スチールコードの端面11A側にゴムが残っていない場合には端面側ゴム121の側を元素分布マッピングできる。
上記元素分布マッピングを行った際に、第1被膜1121の成分と、ゴムの成分との両方、例えばCuとSとが分布している領域が、第1被覆物131が形成されている領域となる。このため、元素分布マッピングの結果から、スチールコード11の端面11Aのうち、上記第1被覆物131が形成されている領域の面積の割合を求めることで、第1被覆物131がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を算出できる。
なお、元素分布マッピングを行う手段は特に限定されず、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscop)等を用いることができる。端面側ゴムについて元素マッピングを行う場合には、被測定物が絶縁体であることから、例えば低加速電圧SEMと、EDXとを用いることができる。
(3-2)第2被覆物
ゴム複合体10は、スチールコード11の側面11B側にも、被覆物13である第2被覆物132を有することができる。第2被覆物132は、第2被膜1122に含まれる成分と、ゴム12に含まれる成分等とが反応し、形成されると考えられる。このため、第2被覆物132の組成は、第2被膜1122や、ゴム12の組成に応じて変化し、特に限定されないが、第2被覆物132は、例えばCu(銅)を含むことが好ましい。これは第2被覆物132がCuを含有することで、スチールコード11の表面、具体的には側面を保護し、耐腐食性を高めることができるからである。
また、既述の様に、第2被膜1122は、Cuに加えて、Zn(亜鉛)をさらに含むこともできる。このため、第2被覆物132についても、Cuに加えて、Znをさらに含むこともできる。ZnはCuとゴムに含まれる他の元素との反応を促進し、Cu2S等の銅化合物の生成を促進する。銅化合物はスチールコード11の側面11Bを特に保護し、耐腐食性をさらに高められる。また、スチールコード11とゴム12とが第2被覆物132を介して接着している場合に、銅化合物はスチールコードとゴムとの間の接着力を高め、ゴム複合体の耐久性を高められる。
第2被膜1122は、Cu、Znに加えて、Sn(スズ)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)から選択された1種類以上をさらに含むこともできる。このため、第2被覆物132は、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むこともできる。Sn、Cr、Fe、Co、Niは、イオン化傾向がZnより大きい。このため、第2被覆物132が、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むことで、犠牲防食として機能、あるいはCuとZnの合成電位を貴にできる。このため、スチールコード11の側面11Bを特に保護し、耐腐食性をさらに高めることができる。
第2被覆物132についても、加硫の際に添加されるS(硫黄)をさらに含むことがより好ましい。第2被覆物132がSをさらに含有することで、既述のCuとCu2S等の銅-硫黄化合物を形成できる。銅-硫黄化合物は、スチールコード11とゴム12とが第2被覆物132を介して接着している場合に、スチールコード11とゴムとの間の接着力を高め、ゴム複合体の耐久性を特に高めることができる。
既述のように、本実施形態のゴム複合体10において、ゴム12はスチールコード11の側面11Bの少なくとも一部を覆うことが好ましく、スチールコード11の側面11B全体を覆うことがより好ましい。
ゴム複合体10の製造時、上述のようにゴム12をスチールコード11の側面11Bの少なくとも一部を覆うように配置することで、スチールコード11の側面11Bが、第2被覆物132を介してゴム12と接着した状態にできる。すなわち、スチールコード11の側面11B側に、ゴム複合体10の外表面側からゴム12、第2被覆物132、スチールコード11がその順に配置され、ゴム12、第2被覆物132、スチールコード11の各部材間が接着した状態にできる。
上記のように、スチールコード11の側面11Bが、第2被覆物132を介してゴム12と接着することで、第2被覆物132に加えて、ゴム12によりスチールコード11の側面11Bを保護できる。このため、スチールコード11の側面11Bの耐腐食性を高められる。
また、ゴム複合体10をタイヤ等に適用した場合、スチールコード11の側面11Bとゴム12との境目近傍に大きな力が加わり易い。しかし、スチールコード11の側面11Bが、第2被覆物132を介してゴム12と接着していることで、ゴム12、第2被覆物132、スチールコード11が一体となって加えられた力を支持できる。このため、ゴム複合体10が破損することを特に抑制し、耐久性を高められる。
さらに、スチールコード11の側面11Bと、第2被覆物132と、ゴム12とが接着することで、上記部材間に水等の異物が侵入することを特に防止できる。このため、スチールコード11の側面11Bにまで水等の異物が侵入することを抑制し、耐腐食性を高められる。
ただし、例えばゴム複合体10を長期間に渡って使用すると、ゴム12の成分と、第2被膜1122の成分との反応が進行して、第2被覆物132やその周辺の状態が変化する場合がある。また、ゴム12とスチールコード11との間に繰り返し力が加えられ、両部材間に隙間等が生じる場合がある。このため、ゴム複合体10を長期間に渡って使用すると、ゴム12とスチールコード11との間の接着力が低下する場合がある。
しかし、ゴム12とスチールコード11との間の接着力が低下した場合でも、ゴム複合体10では、スチールコード11の側面11Bに第2被覆物132が配置されているため、スチールコード11の側面11Bを保護し、耐腐食性を向上する効果は有する。
このため、スチールコード11の側面11Bは、第2被覆物132を介してゴム12と接着している形態に限定されず、スチールコード11の側面11Bは、第2被覆物を介してゴムにより覆われている形態とすることができる。
スチールコード11の側面11Bが、第2被覆物を介してゴム12により覆われていることで、第2被覆物132に加えてゴム12によりスチールコード11の側面11Bを保護できる。このため、スチールコード11の側面11Bの耐腐食性を高められる。さらに、ゴム複合体10が破損することを抑制し、ゴム複合体10の耐久性を高めることができる。
上記スチールコードの側面11Bが第2被覆物を介してゴムにより覆われているとは、既述の接着している場合と、以下の2つの形態を含む。第1の形態としては、スチールコード11の側面11Bにおいて、ゴム複合体10の外表面側から、ゴム12、第2被覆物132、スチールコード11がその順に配置され、各部材同士が接触している形態である。ここでいう各部材同士が接触しているとは、各部材間は接着力がないが、隙間なく接している状態を意味する。第2の形態としては、スチールコード11の側面11Bにおいて、ゴム複合体10の外表面側から、ゴム12、第2被覆物132、スチールコード11がその順に配置され、各部材の間の少なくとも一部に隙間を含む形態である。
なお、スチールコード11の側面11Bが、第2被覆物132を介してゴムに覆われているいずれ態様の場合でも、スチールコード11の、第2被覆物132と対向する面には、第2被膜1122が配置されていても良い。
〔タイヤ〕
次に、本実施形態におけるタイヤについて図4に基づき説明する。
本実施形態のタイヤは、既述のゴム複合体を含むことができる。
図4は、本実施形態に係るタイヤ40の周方向と垂直な面での断面図を示している。図4ではCL(センターライン)よりも左側部分のみを示しているが、CLを対称軸として、CLの右側にも連続して同様の構造を有している。
図4に示すように、タイヤ40は、トレッド部41と、サイドウォール部42と、ビード部43とを備えている。
トレッド部41は、路面と接する部位である。ビード部43は、トレッド部41よりタイヤ40の内径側に設けられている。ビード部43は、車両のホイールのリムに接する部位である。サイドウォール部42は、トレッド部41とビード部43とを接続している。トレッド部41が路面から衝撃を受けると、サイドウォール部42が弾性変形し、衝撃を吸収する。
タイヤ40は、インナーライナー44と、カーカス45と、ベルト層46と、ビードワイヤー47とを備えている。
インナーライナー44は、ゴムで構成されており、タイヤ40とホイールとの間の空間を密閉する。
カーカス45は、タイヤ40の骨格を形成している。カーカス45はポリエステル、ナイロン、レーヨンなどの有機繊維あるいはスチールコードと、ゴムと、により構成されている。カーカス45に既述のゴム複合体を用いることもできる。
ビードワイヤー47は、ビード部43に設けられている。ビードワイヤー47は、カーカス45に作用する引っ張り力を受け止める。
ベルト層46は、カーカス45を締め付けて、トレッド部41の剛性を高めている。図4に示した例では、タイヤ40は2層のベルト層46を有している。
2層のベルト層46は、タイヤ40の径方向に重ねあわせることができ、既述のゴム複合体を用いることができる。
本実施形態のタイヤは、既述のゴム複合体を含んでいる。このため、スチールコードの長手方向の端面での腐食を抑制し、耐久性を高めることができる。
[スチールコード]
本実施形態のスチールコードは、ゴム複合体で説明したスチールコード11と同様の構成を有することができる。このため、重複する説明は一部省略する。
図5に本実施形態のスチールコードの中心軸を通る面での断面図を模式的に示す。図5中、Y軸方向がスチールコード11の長手方向と平行な方向であり、XZ平面が、スチールコード11の長手方向と垂直な面となる。
図5に示すように本実施形態のスチールコード11は、線材111と、線材111の表面を覆う被膜112とを有することができる。図5において、スチールコード11は1本の線で構成された単線のスチールコードの例を示しているが、既述のように係る形態に限定されない。例えば、複数本のスチールワイヤを撚り合せたスチールコードであっても良い。スチールコードが複数本のスチールワイヤを撚り合せた構成を有する場合、各スチールワイヤについて、以下に説明する線材111と、該線材111の表面を覆う被膜112を有することが好ましい。
スチールコード11が有する線材111は例えば鋼線とすることができ、高炭素鋼線をより好ましく用いることができる。
スチールコード11は、被膜112として、スチールコード11の長手方向の端面を覆う第1被膜1121を有することができる。第1被膜1121は、スチールコード11の長手方向の端面11Aの表面全体を覆ってもよく、端面11Aの一部を覆っていても良い。
また、スチールコード11は、被膜112として、スチールコード11の側面11B側を覆う第2被膜1122を有することができる。第2被膜1122は、スチールコード11の側面11Bの表面全体を覆ってもよく、側面11Bの一部を覆っていても良い。
スチールコード11の線材111の表面に被膜112を設けることで、線材111のみの場合と比較して、スチールコード11の耐腐食性を高めることができる。
スチールコードを用いてゴム複合体等を製造する際に、要求されるサイズ等にあわせて切断する必要がある。このため、従来のスチールコードでは、長手方向の端面に被膜が設けられていなかった。そして、スチールコードの長手方向の端面に被膜がない場合、スチールコードの長手方向の端面から腐食が生じていた。
これに対して、本実施形態のスチールコード11は、長手方向の端面11A側を覆う第1被膜1121を有することで、特に耐腐食性を向上できる。
また、本実施形態のスチールコード11は、側面11B側を覆う第2被膜1122を有することで、側面11Bも保護し、耐腐食性を向上できる。
第1被膜1121は、ゴム複合体10を製造するために、スチールコードを所定の長さに切断した後に形成できる。具体的にはスチールコード11を切断後に形成できる。
第1被膜1121を形成する具体的な手段は特に限定されず、所望の組成を有する被膜を形成できる各種手段を用いることができる。第1被膜1121は、例えば酸化物および金属から選択された1種類以上を含有できる。このため、第1被膜1121は、酸化物や、金属を形成できる各種手段により形成できる。第1被膜1121の製造方法については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
第2被膜1122の形成方法は特に限定されないが、例えばスチールコード11を製造するための母線の表面に対応する被膜を形成しておき、該母線を伸線することで、線材111の表面に第2被膜1122が形成された状態にできる。すなわち、スチールコード11の側面11B側に配置された第2被膜1122は、伸線する前に、母線の表面に形成した被膜に由来する。
スチールコード11の端面11A側に設けた第1被膜1121と、側面11B側に設けた第2被膜1122とは、別のタイミングで形成するものである。このため、第1被膜1121と、第2被膜1122とは組成や膜厚が同じであっても良く、異なっていても良い。
被膜112である第1被膜1121および第2被膜1122の組成は特に限定されない。第1被膜1121は、例えばCu(銅)を含むことが好ましい。これは第1被膜1121がCuを含むことで、スチールコード11の端面を保護し、耐腐食性を高めることができるからである。
第1被膜1121は、Cuに加えて、Zn(亜鉛)をさらに含むことがより好ましい。
Znは、イオン化傾向がCuより大きい。このため、第2被膜1122が、Cuに加えて、Znをさらに含むことで、犠牲防食として機能できる。このため、スチールコード11の長手方向の端面11Aを特に保護し、耐腐食性をさらに高めることができる。
また、第2被膜1122は、Cu、Znに加えて、Sn(スズ)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)から選択された1種類以上をさらに含むことがさらに好ましい。
Sn、Cr、Fe、Co、Niは、イオン化傾向がZnより大きい。このため、第2被膜1122が、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むことで、犠牲防食として機能、あるいはCuとZnの合成電位を貴にできる。このため、スチールコード11の長手方向の端面11Aを特に保護し、耐腐食性をさらに高めることができる。
第2被膜1122についても、第1被膜1121の場合と同様の材料を好適に用いることができる。すなわち、第2被膜1122は、Cuを含むことが好ましい。また、第2被膜1122は、Cuに加えて、Znをさらに含むことがより好ましい。第2被膜1122は、Cu、Znに加えて、Sn、Cr、Fe、Co、Niから選択された1種類以上をさらに含むことがさらに好ましい。理由については、第1被膜1121の場合と同様であるので、説明を省略する。
従来のスチールコードでは、スチールコード11の端面11A側には、被膜112である第1被膜1121が形成されていなかった。このため、第1被膜1121は、スチールコード11の端面11Aに少しでも配置されていれば、従来と比較して耐腐食性を高めることができ、第1被膜1121が配置されている程度は特に限定されない。しかしながら、第1被膜1121が、スチールコード11の長手方向の端面11Aの面積の20%以上を覆っていることが好ましく、40%以上覆っていることがより好ましい。第1被膜1121が、スチールコード11の長手方向の端面11Aの面積の20%以上を覆っていることで、スチールコード11の端面11Aの耐腐食性を特に高めることができるため、好ましい。
第1被膜1121は、スチールコード11の端面11A全体を覆うこともできるため、第1被膜1121は、スチールコード11の端面11Aの面積の100%以下覆うことができる。
第1被膜1121がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を測定する方法は特に限定されない。既述の第1被覆物の場合と同様にして評価できる。
すなわち、例えば、まず評価を行うスチールコード11を用いてゴム複合体10とする。得られたゴム複合体10の、スチールコード11の端面11A側に配置されたゴム12の一部である端面側ゴム121を剥離すると、図3に示すように、スチールコード11の端面11A側が露出する。このため、スチールコード11の端面11Aのうち、例えば第1被膜1121や、スチールコード11が露出した領域を除いた、ゴム12が占める面積の割合を算出できる。なお、スチールコード11の端面11Aに残ったゴム12は、少なくとも第1被膜1121が形成されていた箇所に対応する。このため、上述のようにゴム12が占める面積の割合により、少なくとも第1被膜1121がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を算出できる。
ただし、第1被膜1121が形成されていた箇所でもゴムの一部が剥離する場合がある。このため、第1被膜1121が、スチールコード11の長手方向の端面11Aを覆っている面積割合は、上記手法により算出された面積割合以上になる。
また、スチールコード11の端面11Aの元素分布マッピングを行い、第1被膜1121がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を算出することもできる。
具体的にはスチールコード11の端面の元素分布マッピングを行った場合、第1被膜1121の成分が分布している領域が、第1被膜1121が形成されている領域となる。このため、元素分布マッピングの結果から、スチールコード11の端面11Aのうち、上記第1被膜1121が形成されている領域の面積の割合を求めることで、第1被膜1121がスチールコード11の端面11Aを覆っている面積の割合を算出できる。
なお、元素分布マッピングを行う手段は特に限定されず、SEM-EDX等を用いることができる。
第1被膜1121の厚さは特に限定されないが、平均厚さが5nm以上2μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。
第1被膜1121の平均厚さを5nm以上とすることで端面の耐腐食性を特に高めることができるからである。また、ゴム複合体とした場合に、十分な厚さの第1被覆物131を形成し、端面の耐腐食性を高められるからである。
第1被膜1121の平均厚さを2μm以下とすることで、スチールコード製造時の生産性を高められる。また、ゴム複合体に適用する場合、第1被膜1121を過度に厚くすると、第1被覆物131がポーラスとなり、端面11Aの耐腐食性を向上させる効果が抑制される恐れがあるからである。
第1被膜1121の平均厚さの求め方は特に限定されないが、例えば蛍光エックス線膜厚計を用いて測定を行うことができる。測定は、スチールコード11の端面11Aの中心と、中心を通る線分上の2つの測定点との合計3点で行い、その平均値を該第1被膜1121の平均厚さとすることができる。
上記スチールコード11の端面11Aの中心を通る線分とは、端面11Aの輪郭線である円の直径となる線分である。ここで、端面11Aの輪郭線である円の直径をDとする。この場合、上記2つの測定点は、端面11Aにおいて第1被膜1121上を通るように任意に引いた、端面11Aの輪郭線である円の直径となる線分上の、中心から0.25Dの距離にある2つの点になる。
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例において作製したゴム複合体の評価方法について説明する。
(1)ゴム複合体の耐腐食性の評価
以下の各実験例で作製したゴム複合体10について、スチールコード11の端面11A側の端面側ゴム121を剥離した際に、スチールコード11の長手方向の端面11Aのうち、ゴム12が占める面積の割合で、耐腐食性の評価を行った。
評価に当たっては、端面側ゴム121を剥離した後のスチールコード11の長手方向の端面11A側の画像において、目視でゴム12が残っている部分と、第1被膜1121やスチールコード11の長手方向の端面11Aが露出している部分との間に境界線を引いた。また、端面11Aの輪郭線も合わせて引いた。係る境界線、および端面11Aの輪郭線はゴム12が残っている部分を囲む線となる。そして、境界線、および端面11Aの輪郭線で囲まれたゴム12が残っている部分とそれ以外の部分とを二値化処理により区分けし、ゴム12が残っている部分の面積を算出した。
そして、ゴム複合体のうちの任意の1本のスチールコードの長手方向の1つの端面における、ゴム12が占める面積の割合を求めた。
スチールコードの長手方向の端面のうち、ゴム12の面積の割合が80%以上の場合にはA、60%以上80%未満の場合にはB、20%以上60%未満の場合にはC、20%未満の場合にはDと評価した。
以下の各実験例1-1~実験例1-10では、評価用にゴム複合体を2個ずつ製造している。そして、1個のゴム複合体は製造直後に上記耐腐食性の評価を行った(初期評価)。もう1個のゴム複合体については、湿熱試験に供した後、上記耐腐食性の評価を行った。湿熱試験は温度が80℃、相対湿度が95%の環境下に150時間、ゴム複合体を置く試験になる(湿熱評価)。
上記初期評価、および湿熱評価は、いずれもAが最もよく、B、C、Dの順に評価が悪くなることを意味する。
ゴムを剥離した際に、スチールコードの端面に残ったゴムは被覆物が形成されている箇所に対応する。このため、湿熱試験を実施した後に評価を行った湿熱評価が高いほど、湿熱試験後も継続してスチールコードの端面が安定した被覆物により保護されているといえ、スチールコードの端面の腐食を抑制したゴム複合体といえる。
ただし、表1に示した様に、湿熱評価と初期評価とは相関を有しており、初期評価が優れる場合には、スチールコードの端面の腐食を抑制したゴム複合体といえる。そこで、実験例2以降は初期評価のみを実施した。
なお、初期評価において、ゴムを剥離した際に、スチールコードの端面に残ったゴムの部分は少なくとも第1被膜1121が形成されていた箇所にも対応する。このため、初期評価の結果は、スチールコードの長手方向の端面のうち、少なくとも第1被膜1121が形成されている部分の面積の割合ということもできる。
(2)スチールコードの耐腐食性の評価
電気化学測定(LSV:リニアスイープボルタンメトリ)を用いて評価した。具体的には、評価サンプルをpH1の硫酸水溶液に浸漬し、0V(参照極:Ag/AgCl、対極:Pt)で流れる電流を観測した。
評価サンプルは、端部の影響が確認しやすい様に、同じ条件で作製したスチールコードを30本束ね、第1被膜が形成された端面から10mmを、上記硫酸水溶液に浸漬し、上記電流の測定を行った。
上記測定方法で、以下の実験例1-1の「(スチールコードの準備)」で作製した端面にめっき被膜を形成する前のスチールコードについて測定した電流値、すなわち腐食電流は、10mA/cm2であった。
このため、測定した電流値が10mA/cm2未満の場合には耐腐食性に優れていることを意味し、電流値が10mA/cm2以上の場合には、耐腐食性に劣ることを意味する。
(実験例)
以下、実験条件について説明する。
[実験例1]
以下の手順によりゴム複合体、スチールコードを作製し、耐腐食性の評価を行った。実験例1-1~実験例1-9が実施例であり、実験例1-10が比較例となる。
(実験例1-1)
(スチールコードの準備)
鋼製のフィラメントの表面に銅層、及び亜鉛層をめっきにより形成した。なお、銅層は、めっき液としてピロリン酸銅を用い、電流密度を22A/dm2、処理時間を14秒として成膜した。また、亜鉛層は、めっき液として硫酸亜鉛を用い、電流密度を20A/dm2、処理時間を7秒として成膜した。
その後、大気雰囲気下で、600℃で、9秒間加熱することで熱処理を行い、金属成分を拡散させ、めっき被膜を形成した。
得られためっき被膜を形成したフィラメントについて伸線加工を行うことで、コード径を1mmとした。
次いで、伸線加工したスチールコードを、製造するゴム複合体のサイズに合うように、長手方向の複数箇所で切断した。得られたスチールコードは、上記フィラメントのめっき被膜に由来する、側面11B側を覆う第2被膜1122を有している。第2被膜1122について、SEM-EDXで分析したところ、CuとZnを含むことを確認できた。
得られたスチールコードの一部は以下のゴム複合体の製造に供し、残部は後述するスチールコードの製造に供した。
(ゴム組成物の準備)
ゴム成分と、添加剤とを含むゴム組成物を用意した。ゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴムを100質量部含む。そして、ゴム組成物は添加剤として、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを60質量部、硫黄を6質量部、加硫促進剤を1質量部、酸化亜鉛を10質量部、有機酸コバルトとしてステアリン酸コバルトを1質量部の割合で含有する。
(ゴム複合体の製造)
上記スチールコードと、ゴム組成物とを用いて図1、図2に示すゴム複合体10を製造した。
スチールコード11は、互いに長手方向が平行になるように配置し、ゴム組成物でスチールコード11の側面11Bを覆いゴム複合体の前駆体を作製した。この際、スチールコード11の長手方向の端面11Aはゴム組成物で覆わずに露出させておいた。
ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側に、厚さが15μmの樹脂マスクを配置し、ゴム組成物を保護した。樹脂マスクは、スチールコード11の長手方向の端面11Aに対応する位置に開口部を有しており、該端面11Aは樹脂マスクで覆われずに露出している。
次いで、露出した、スチールコード11の長手方向の端面11Aについて、前処理を行った。
前処理は、20質量%硫酸による電解脱脂、水洗、10質量%水酸化ナトリウム水溶液による電解脱脂、水洗、1質量%硫酸への浸漬、水洗を順に行うことで実施した。20質量%硫酸による電解脱脂は、液温45℃で、電流密度を10A/dm2として、1秒間行った。10質量%水酸化ナトリウムによる電解脱脂は、液温40℃で、電流密度を10A/dm2として1秒間行った。1質量%硫酸への浸漬は、液温35℃で、1秒間行った。
そして、スチールコード11の長手方向の端面11Aに塗布法により第1被膜1121を形成した。具体的には、石原ケミカル株式会社製の導電性銅ナノインク(型番GO-01)を、スチールコード11の長手方向の端面11A全体に塗布し、乾燥することで厚さが0.15μmの第1被膜1121を形成した。
なお、ゴム複合体に含まれる全てのスチールコード11の長手方向の両側の端面11Aに同じ条件で上記第1被膜1121を形成した。また、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
第1被膜1121の平均厚さは、蛍光X線膜厚計を用いて行った。厚さの測定は、スチールコード11の端面11Aの中心と、中心を通る線分上の2つの測定点との合計3点で行い、その平均値を該第1被膜1121の平均厚さとした。
上記スチールコード11の端面11Aの中心を通る線分とは、端面11Aの輪郭線である円の直径となる線分である。そして、端面11Aの輪郭線である円の直径をDとした場合に、上記2つの測定点は、端面11Aにおいて第1被膜1121上を通るように任意に引いた、端面11Aの輪郭線である円の直径となる線分上の、中心から0.25Dの距離にある2つの点である。以下の他の実験例でも同様にして第1被膜1121の平均厚さの測定を行った。
上記導電性銅ナノインクを塗布、乾燥した後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置した。
その後、180℃、10分間の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11BにはCu、Zn、およびSを含む第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。
第1被覆物131がCu、Sを含有すること、および第2被覆物132がCu、Zn、Sを含むことは、SEM-EDXにより分析することで確認した。以下の実験例1-2~実験例1-10においても同様にして分析を行い、含有する成分を特定した。なお、以下の他の実験例でも、第2被覆物132はCu、Zn、Sを含むため、説明を省略している。また、以下の実験例1-2~実験例1-9、実験例2、実験例3でも第1被覆物131、第2被覆物132は共に少なくともCuとSとを含んでおり、銅-硫黄化合物を含有するものといえる。
得られたゴム複合体10を用いて、上記ゴム複合体の耐腐食性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
評価結果に示すように、スチールコード11の長手方向の端面11A側について耐腐食性の評価を行うために端面側ゴム121を剥離するとゴム12が残ることが確認できた。このため、上述のように、スチールコード11の端面11Aは、第1被覆物131を介してゴム12と接着しているといえる。同様にスチールコード11の側面11B側についてもゴムを剥離すると、スチールコード11の側面11Bにゴム12が残ることが確認できた。このため、スチールコード11の側面11Bは、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着しているといえる。
以下の実験例1-2~実験例1-9についても同様の理由から、スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していることを確認できた。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cuを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-2)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で電気めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121は、端面11A上にCu層と、Sn層とを順に積層した積層膜であり、Cu層とSn層との合計の膜厚が0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
Cu層はピロリン酸浴であるCuめっき液を用いて形成した。Sn層は硫酸浴であるSnめっき液用いて形成した。各層を形成する際、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aに、めっき液をしみこませたスポンジ付き電極を接触させ、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aとは反対側の端面から給電した。供給する電気量により、第1被膜1121の厚さを調整した。
第1被膜1121を形成後、水洗、乾燥した後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCu、SnおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cu、Snを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-3)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で電気めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121は、端面11A上にCu層と、Zn層と、Cu層とを順に積層した積層膜であり、Cu層の厚さ:Zn層の厚さ:Cu層の厚さ=3:4:3であり、合計の厚さが0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
Cu層はピロリン酸浴であるCuめっき液を用いて形成した。Zn層はホウフッ化浴であるZnめっき液用いて形成した。各層を形成する際、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aに、めっき液をしみこませたスポンジ付き電極を接触させ、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aとは反対側の端面から給電した。供給する電気量により、第1被膜1121の厚さを調整した。
第1被膜1121を形成後、水洗、乾燥した後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCu、ZnおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cu、Znを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-4)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で電気めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121は、端面11A上にCu層と、Zn層とを順に積層した積層膜であり、Cu層の厚さ:Zn層の厚さ=6:4であり、合計の厚さが0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
Cu層はピロリン酸浴であるCuめっき液を用いて形成した。Zn層はホウフッ化浴であるZnめっき液用いて形成した。各層を形成する際、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aに、めっき液をしみこませたスポンジ付き電極を接触させ、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aとは反対側の端面から給電した。供給する電気量により、第1被膜1121の厚さを調整した。
第1被膜1121を形成後、水洗、乾燥した後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCu、ZnおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cu、Znを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-5)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で電気めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121はCu層であり、膜厚が0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
第1被膜1121であるCu層はピロリン酸浴であるCuめっき液を用いて形成した。Cu層を形成する際、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aに、めっき液をしみこませたスポンジ付き電極を接触させ、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aとは反対側の面から給電した。供給する電気量により、第1被膜1121の厚さを調整した。
第1被膜1121を形成後、水洗、乾燥した後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cuを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-6)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で置換めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121はCu層であり、膜厚が0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
第1被膜1121は、硫酸銅が0.01mol/dm3となるように調整した硫酸浴にスチールコード11の長手方向の端面を1分間浸漬した後、水洗、乾燥することで形成した。
第1被膜1121を形成後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cuを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-7)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で電気めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121はCu-Zn合金層であり、膜厚が0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
第1被膜1121であるCu-Zn合金層は、銅めっき用のピロリン酸浴に硫酸亜鉛と、添加剤であるL-ヒスチジン一塩酸塩一水和物を添加しためっき液を用いて形成した。Cu-Zn合金層は、CuとZnの含有割合がモル比でCu:Zn=6:4となるように形成した。Cu-Zn合金層を形成する際、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aに、めっき液をしみこませたスポンジ付き電極を接触させた。そして、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aとは反対側の面から給電した。供給する電気量により、第1被膜1121の厚さを調整した。
第1被膜1121を形成後、水洗、乾燥した後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCu、ZnおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cu、Znを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-8)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で電気めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121はCu-Sn合金層であり、膜厚が0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
第1被膜1121であるCu-Sn合金層は、銅めっき用のピロリン酸浴に硫酸錫と、添加剤であるL-ヒスチジン一塩酸塩一水和物を添加しためっき液を用いて形成した。Cu-Sn合金層は、CuとSnの含有割合がモル比でCu:Sn=95:5となるように形成した。Cu-Sn合金層を形成する際、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aに、めっき液をしみこませたスポンジ付き電極を接触させた。そして、第1被膜1121を形成するスチールコード11の長手方向の端面11Aとは反対側の面から給電した。供給する電気量により、第1被膜1121の厚さを調整した。
第1被膜1121を形成後、水洗、乾燥した後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCu、SnおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cu、Snを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-9)
(ゴム複合体の製造)
スチールコード11の長手方向の端面11A全体に第1被膜1121を以下の条件で置換めっき法により形成した点以外は実験例1-1と同様にしてゴム複合体10を製造し、評価を行った。
本実験例において第1被膜1121はCu-Sn合金層であり、膜厚が0.15μmとなるように第1被膜1121を形成した。スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
第1被膜1121であるCu-Sn合金層は、銅、および錫を含有する硫酸浴にスチールコード11の長手方向の端面を20秒間浸漬した後、水洗、乾燥することで形成した。Cu-Sn合金層は、CuとSnの含有割合がモル比でCu:Sn=95:5となるように形成した。
第1被膜1121を形成後、ゴム組成物を保護していた樹脂マスクを剥離した。そして、ゴム複合体の前駆体の、スチールコード11の長手方向の端面11A側にもゴム組成物を配置し、実験例1-1の場合と同様の条件で加硫し、ゴム複合体10を得た。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCu、SnおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードの長手方向の端面11Aについて、本実験例でゴム複合体を製造した場合と同様に、前処理を行った後、第1被膜1121を形成した。第1被膜1121は、SEM-EDXで分析したところ、Cu、Snを含むことが確認できた。また、第1被膜1121の平均厚さは0.15μmであった。
得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2未満であった。
(実験例1-10)
(ゴム複合体の製造)
スチールコードを製造する際、伸線加工したスチールコードを、製造するゴム複合体のサイズに合うように、長手方向の複数箇所で切断し、端面に第1被膜1121を形成せず、線材111が露出した状態で用いた。以上の点以外は実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されているが、スチールコード11の長手方向の端面11Aには第1被覆物が形成されていなかった。評価結果を表1に示す。
(スチールコードの製造)
実験例1-1のスチールコードの準備で得られたスチールコードについてスチールコードの耐腐食性の評価を行ったところ、電流は10mA/cm2であった。
表1に示した結果によると、実験例1-1~実験例1-9では初期評価、湿熱評価が共にA~Cであり、初期評価、湿熱評価がほぼ同じになることを確認できた。これに対して、実験例1-10では初期評価、湿熱評価が共にDであり、第2被覆物が形成されておらず、実験例1-1~実験例1-9と比較して耐腐食性が劣ることを確認できた。
また、実験例1-1~実験例1-9で、湿熱評価を行った後、端面11Aに残ったゴムを剥がし、端面11Aの状態を目視で確認したところ、湿熱評価のために端面側ゴム121を剥離した際にゴムが残った部分は変色していないことが確認できた。すなわち、第1被覆物131が形成されていた部分については、保護され、腐食を防止できていたことも確認できた。
これに対して、実験例1-10で、湿熱評価を行った際、端面11Aにはゴムがほとんど残っておらず、第1被覆物131が形成されていなかったため、端面11A全体が変色し腐食が進行していたことを確認できた。
上記結果から、スチールコードの長手方向の端面に被膜を設けることで、ゴム複合体とした場合にスチールコードの長手方向の端面に被覆物が形成され、耐腐食性が向上することを確認できた。
また、スチールコードについて、ゴム複合体としない場合でも、実験例1-1~実験例1-9のように、長手方向の端面に被膜を設けることで、耐腐食性を向上できることも確認できた。
[実験例2]
以下の手順によりゴム複合体を作製し、耐腐食性の評価を行った。実験例2-1~実験例2-5はいずれも実施例となる。
(実験例2-1)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11A全体に、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後の該第1被膜1121の厚さが0.05μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.05μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表2に示す。
なお、第1被覆物131がCu、Sを含有することは、SEM-EDXにより分析することで確認した。以下の実験例2-2~実験例2-5や、実験例3においても同様にして分析を行い、含有する成分を特定した。
(実験例2-2)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11A全体に、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後に得られる該第1被膜1121の厚さが0.1μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.1μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表2に示す。
(実験例2-3)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11A全体に、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後に得られる該第1被膜1121の厚さが0.5μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.5μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表2に示す。
(実験例2-4)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11A全体に、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後に得られる該第1被膜1121の厚さが1μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、1μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表2に示す。
(実験例2-5)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11A全体に、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後に得られる該第1被膜1121の厚さが2μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、2μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表2に示す。
表2に示した結果によると第1被膜の厚さを厚くすることで、耐腐食性が向上する傾向が確認できた。これは、第1被膜を一定以上の厚さとすることで、十分な厚さの被覆物を形成できるためと考えられる。
ただし、実験例2-4、実験例2-5のように第1被膜の厚さが一定厚さを超えて厚くなると、耐腐食性が低下する傾向を示すことを確認できた。これは、ゴム中のS(硫黄)との反応層がポーラスに形成されたためであると考えられる。
[実験例3]
以下の手順によりゴム複合体を作製し、耐腐食性の評価を行った。実験例3-1~実験例3-3はいずれも実施例である。
(実験例3-1)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11Aに、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後に得られる該第1被膜1121の厚さが0.15μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。
ただし、スチールコード11の長手方向の端面11Aに上記塗布液を塗布する際、スチールコード11の長手方向の端面11Aの一部をマスキングしておき、上記端面のうち、上記塗布液を塗布した領域の面積の割合が20%になるようにした。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表3に示す。
(実験例3-2)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11Aに、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後に得られる該第1被膜1121の厚さが0.15μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。
ただし、スチールコード11の長手方向の端面11Aに上記塗布液を塗布する際、スチールコード11の長手方向の端面11Aの一部をマスキングしておき、上記端面のうち、上記塗布液を塗布した領域の面積の割合が60%になるようにした。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表3に示す。
(実験例3-3)
ゴム複合体の前駆体に含まれるスチールコード11の長手方向の端面11Aに、塗布法により第1被膜1121を形成する際、乾燥後に得られる該第1被膜1121の厚さが0.15μmとなるように実験例1-1と同じ塗布液である導電性銅ナノインクを塗布した。
ただし、スチールコード11の長手方向の端面11Aに上記塗布液を塗布する際、スチールコード11の長手方向の端面11Aの一部をマスキングしておき、上記端面のうち、上記塗布液を塗布した領域の面積の割合が80%になるようにした。なお、スチールコード11の長手方向の端面11Aに形成した第1被膜1121の平均厚さを測定したところ、0.15μmであることを確認できた。
以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にしてゴム複合体を作製した。
得られたゴム複合体10はスチールコード11の表面全体を覆うようにゴム12が配置されていた。スチールコード11の長手方向の端面11AにはCuおよびSを含む第1被覆物131が配置されていた。スチールコード11の側面11Bには第2被覆物132が配置されていた。スチールコード11の端面11A、および側面11Bは、それぞれ第1被覆物131、第2被覆物132を介して、ゴム12と接着していた。評価結果を表3に示す。
表3に示した結果によると、スチールコードの長手方向の端面の内、塗布液を塗布した領域の面積の割合が高くなるほど、耐腐食性試験の結果が向上していることを確認できた。スチールコードの長手方向の端面のうち、塗布液を塗布した面積の割合を高くすることで、該端面に占める被膜が形成される領域の割合が高くなり、スチールコードの長手方向の端面のうち、被覆物で覆われている面積の割合も高くなる。その結果、耐腐食性を向上できたためと考えられる。