JP7543656B2 - 心毒性評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、新規薬剤に関して、副作用予測や臨床試験前のヒトへの投与量決定のために、薬物誘導性の心毒性を評価する方法に関し、特に、薬物の投与に起因する心筋細胞の拍動数の変化を測定することにより心毒性を評価する方法に関する。
心疾患を診断する方法の1つとして、心筋細胞の拍動数を測定する方法が挙げられる。特許文献1には、薬剤のスクリーニングのためにin vitro分化心筋細胞を用い、その薬効評価や毒性評価を行うことが記載されている。また特許文献2には、印刷装置として開発されたインクジェット技術を用いた液滴吐出装置により、細胞を吐出先に精度よく吐出することが記載されている。
特表第2007-537429号公報 特開第2015-158489号公報
しかしながら、一般的な薬剤スクリーニングのためのバイオマーカー測定では、バイオマーカーが分析機器により測定可能な程度に発現するためには、所定数以上の細胞が必要となる。そのため、96ウェルプレートのようなマルチウェルプレートによる分析には、上記必要な細胞数×ウェル数分といった、多くの細胞が必要となる。
また、液滴吐出装置により、細胞をマルチウェルプレートの各ウェルのような吐出先に細胞を含む液滴を吐出して分析を行う場合であっても、各液滴を、吐出された位置にそのまま固定して分析することについてはこれまで検討されてこなかった。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、少ない細胞量で正確に評価できる心毒性評価方法を提供することを目的とする。
本発明者は、(i)脂環構造含有重合体で構成され、かつ、培養面の表面自由エネルギーが特定の範囲内である培養容器を用い、かつ、(ii)培養容器の培養面に対して心筋細胞を含む培地で形成される液滴が接着するための足場を形成し、その足場の上に液滴を吐出して、当該液滴を培養面に固定することにより、少ない細胞量で正確な心毒性評価が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、表面自由エネルギーとは、インク等がプラスチックや金属の表面にどれだけ接着するかを測定することにより判断される基準である。単位は、mN/mで表され、表面自由エネルギーの値が高いほど接着性が高い。
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであって、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の一態様は、心筋細胞を含む培地で形成される液滴を付着させるための足場を培養面に対して形成し、その後、前記液滴を前記足場の上に吐出して前記液滴を前記培養面に付着させることにより心筋細胞を培地とともに培養容器に播種し、前記培養容器内に薬剤を添加して、該薬剤を前記心筋細胞に接触させ、その後、前記心筋細胞の拍動数変化を測定して前記薬剤の心毒性を評価する、心毒性評価方法であって、前記培養容器の少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で構成され、かつ、前記培養面の表面自由エネルギーが30~37mN/mである、心毒性評価方法である。
このようにすることで、心筋細胞を含む培地で形成される液滴が足場に安定して接着するため、液滴がくずれることがない。そのため、一定の細胞密度を保持した状態の液滴ごとに薬剤スクリーニング等の試験や分析を行うことができる。
また、上記態様では、前記心筋細胞が多能性幹細胞由来心筋細胞であることが好ましい。とりわけ、人工多能性幹細胞由来心筋細胞であることが好ましい。倫理上の問題がないこと、安定供給が見込めるため、測定が長期間にわたる場合でも精度の高い測定を行うことができるからである。
上記態様では、前記足場が、1つの培養面に対してドット状に複数形成されることが好ましい。
このようにすることで、例えば、培養面がマルチウェルプレート(例えば、96ウェルプレート)の1ウェルである場合に、1つのウェル内に複数の足場を互いに接触しないように形成して、各足場に液滴を配置することにより、液滴ごとに複数の試験を行うことができる。これにより、1つのウェル内で、多重試験を行うことができる。
また、上記態様では、前記足場が、前記脂環構造含有重合体に親和性のあるペプチド配列を有する材料により形成されることが好ましい。
このようにすることで、心筋細胞の種類に応じて細胞の足場を設計でき、培養面に対する心筋細胞の接着効率を高めることができる。
脂環構造含有重合体は疎水性表面を有する(所定の表面自由エネルギーを有する)ことから、ペプチド配列を有する材料または心筋細胞を含む水溶液をはじくため、狙った箇所以外に液滴が広がることない。そのため、液滴の培養面への付着を安定させることができる。
また、上記態様では、前記脂環構造含有重合体がノルボルネン系開環重合体水素化物であることが好ましい。脂環構造含有重合体のなかでもノルボルネン系開環重合体水素化物で培養容器の培養面を構成することにより、培養面に対する心筋細胞の接着効率をより高めることができる。
本発明によれば、少ない細胞量で正確に評価できる心毒性評価方法を提供することができる。
図1は、心筋細胞の1分あたりの拍動数を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の方法は、心筋細胞の拍動数変化を測定するにあたって、培養面に足場を形成してその上に心筋細胞を含む培地の液滴を接着させ、培養容器内面における細胞が接する面(以下、「培養面」という)の表面自由エネルギーが特定の範囲であり、培養面が脂環構造含有重合体で構成される培養容器を用いる点に特徴がある。
このようにすることで、培養面に足場を介して付着した液滴単位で試験を行うことができ、これにより、少ない細胞数であっても正確に心毒性評価を行うことができる。また、細胞数が十分にある場合も、同じ細胞量で試験数(n数)を何倍にも増やすことができる。
本発明では、使用される細胞は、心筋細胞であり、例えば、多能性幹細胞由来心筋細胞(なかでも人工多能性幹細胞由来心筋細胞)、胚性幹細胞由来心筋細胞、ヒト由来心筋細胞などが挙げられる。
本発明では、足場は、心筋細胞を含む培地で形成される液滴を、培養容器の培養面の所定の位置に付着させるためのものである。
足場は、脂環構造含有重合体(特に、ノルボルネン系開環重合体水素化物)に親和性のあるペプチド配列を有する材料により形成されることが好ましい。具体的には、例えば、国際公開第2018/117242号に記載される方法により探索されるオリゴペプチドを使用することが好ましい。使用されるオリゴペプチドは、例えば、Thr-Val-Asp-Ser-Cys-Leu-Thr(配列番号1)のアミノ酸配列を含むオリゴペプチド等が挙げられるが、これに限定されない。
足場材料として使用される場合、上記オリゴペプチドの濃度は、細胞の接着性が良好であることから、1~500μg/mLが好ましく、10~100μg/mLがより好ましい。
足場は、1つの培養面に対してドット(dot)状に複数形成されることが好ましい。足場を形成する各ドットのサイズは、100~1000μmが好ましい。ドットのサイズが100μmより小さいと、複数の培養面(マルチウェルプレートの各ウェル)に形成された複数の足場に液滴をそれぞれ吐出する場合に、最初に吐出された液滴が、その液量が少ないために、他の足場に液滴を吐出している間に乾燥してしまうからである。また、ドットのサイズが1000μmを超えると、液滴の大きさに対して足場が必要以上に大きくなる。液滴の大きさを当該足場に合わせると、1液滴あたりの細胞数が増えるため、試験に多くの細胞が必要となる。そのため、1つの細胞面あたりで行える試験の数が減ることとなる。より好ましくは、各ドットのサイズは、400~800μmである。その理由は、上記液滴の乾燥が生じない範囲で、一度に行う試験の数を最大にできるサイズだからである。試験条件をそろえる観点から、各ドットのサイズは同じであることが好ましいが、これに限定されない。
1つの培養面あたりに形成される、ドット状の足場の数は、例えば、96ウェルプレートを培養容器として使用する場合、ウェルの底面(培養面)に形成されるドット状の足場の数は、ドットの中心間距離が800μmである場合、最大19とすることが可能であり、15~16ドットとすることが好ましいが、これに限定されない。試験数に合わせて、形成されたドット状の足場が互いに接触しない中心間距離で、各ドットが形成されていればよい。
本発明では、心筋細胞を含んで液滴を形成するための培地は、心筋細胞を培養し、維持することができれば、特に限定されるものではなく、市販の心筋細胞培養用培地を用いることができる。
上記培地には、添加剤を配合することもできる。添加剤としては、ミネラル、金属、ビタミン成分等が挙げられる。
これらの添加剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
上記心筋細胞を含む培地で構成される液滴に含まれる細胞数は、1つの足場(dot)に付着させる液滴の合計で、100~5000cells/dotとすることが好ましい。細胞数が100cells/dotより少なすぎると細胞が散らばりやすくなるためである。また、細胞数が5000cells/dotを超えると、細胞が拍動できる空間が減るため拍動数が低下し、アッセイ結果に影響を及ぼすためである。細胞が拍動できる空間が適切な大きさとなることから、より好ましくは、200~1000cells/dotである。液滴の大きさおよび量は、上記足場の大きさに合わせることとすればよく、特に限定されない。例えば、ドット(足場)の直径が600μmである場合には、LaboJet(登録商標)-500Bio(マイクロジェットジェット社製)を用いると、細胞を含む液滴を54回吐出すれば(1回あたり32.4nL)、上記の大きさのドットの表面を、液滴で埋めることができる。
本発明では、培養面に形成された足場の上に液滴が吐出される。足場材料および液滴の吐出は、例えば、特開第2015-158489号公報に記載される吐出装置(インクジェット装置)により行うことができるが、これに限定されず、例えば、LaboJet(登録商標)-500Bio(マイクロジェットジェット社製)等、所定の位置に所定の量で、足場材料および液滴を吐出できる装置を使用することとすればよい。
本発明では、薬剤の心毒性を、薬剤の投与前後または投与の有無における、心筋細胞の拍動数変化により評価する。これにより、1つのウェル内の複数サンプルについて、少ない細胞数で正確な評価を行うことができる。具体的には、心筋細胞の拍動数変化は、イメージングで心筋の拍動数を測定することにより行う。例えば、カルシウムイメージング(例えば、共焦点定量イメージサイトメーター:CellVoyager(登録商標)CQ1(横河電機株式会社製))、ライブセルイメージング(例えば、ライブセルイメージングシステムSI-8000シリーズ(ソニー株式会社製))等により、心筋細胞の拍動数を測定することができるが、これらに限定されない。
本発明では、培養容器としては、薬剤スクリーニングの用途であることを考慮すると、96ウェルプレートが好ましいが、これに限定されず、脂環構造含有重合体を培養容器の材料として用いることが可能であれば、任意の形状のものを使用することができる。培養容器の形状としては、ディッシュ、プレート、マイクロ流路チップ、バッグ、チューブ、スキャホールド、カップ、ジャー・ファーメンターなどが挙げられる。
培養容器のうち、少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で構成されていればよい。例えば、96ウェルプレートの場合、各ウェルの内側の底面が脂環構造含有重合体で形成されていればよい。バッグの場合、例えば、異なるポリマー材料からなるフィルムの積層体で構成されているものは、最内層(バッグ内面)が脂環構造含有重合体からなるフィルムにより形成されていればよい。
あるいは、培養容器全体が脂環構造含有重合体からなることとしてもよい。例えば、培養ディッシュ、フラスコ、または複数のウェルを有するプレートであれば、脂環構造含有重合体でこれらの容器全体を成形することにより、容器全体を脂環構造含有重合体で構成することができる。
上記脂環構造含有重合体は、主鎖および/または側鎖に脂環構造を有する樹脂であり、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環構造を含有するものが好ましく、分化誘導効率の観点から、極性基を有しないものがより好ましい。ここで、極性基とは、極性のある原子団を指す。極性基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基などが挙げられる。
上記脂環構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
脂環構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4~30個、好ましくは5~20個、より好ましくは5~15個である。脂環構造を構成する炭素原子数がこの範囲内であるときに、機械的強度、耐熱性、および成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと耐熱性に劣り好ましくない。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、および(1)~(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体およびその水素化物が好ましい。
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
開環重合によって得られるもの(COP:シクロオレフィンポリマー)としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるもの(COC:シクロオレフィンコポリマー)としては、ノルボルネン系単量体の付加重合体およびノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましい。
ノルボルネン系重合体の合成に使用可能なノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチル-5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環式単量体;
トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)、2-メチルジシクロペンタジエン、2,3-ジメチルジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロキシジシクロペンタジエン等の3環式単量体;
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデン-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチル-8-カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4-メタノ-8-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-クロロ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-ブロモ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン等の4環式単量体;等が挙げられる。
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,4-シクロヘキサジエン、1,5-シクロオクタジエン、1,5-シクロデカジエン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1,5,9,13-シクロヘキサデカテトラエン等の単環のシクロオレフィン系単量体が挙げられる。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~20のα-オレフィン系単量体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンとも言う)等のシクロオレフィン系単量体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン系単量体;等が挙げられる。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、α-オレフィン系単量体が好ましく、エチレンがより好ましい。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
ノルボルネン系単量体の付加重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体は、単量体成分を、公知の付加重合触媒の存在下で重合して得ることができる。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2-または1,4-付加重合した重合体およびその水素化物などを用いることができる。
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体およびその水素化物;スチレン、α-メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられる。ビニル脂環式炭化水素重合体は、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
脂環構造含有重合体の分子量に格別な制限はないが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算の重量平均分子量で、通常5,000以上であり、好ましくは5,000~500,000、より好ましくは8,000~200,000、特に好ましくは10,000~100,000である。重量平均分子量がこの範囲内であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50~300℃、好ましくは100~280℃である。ガラス転移温度がこの範囲内であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
本発明における脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
上記脂環構造含有重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、脂環構造含有重合体には、熱可塑性樹脂材料で通常用いられている配合剤、例えば、軟質重合体、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などの配合剤を、通常採用される量、添加することができる。
また、脂環構造含有重合体には、軟質重合体以外のその他の重合体(以下、単に「その他の重合体」という)を混合しても良い。脂環構造含有重合体に混合されるその他の重合体の量は、脂環構造含有重合体100質量部に対して、通常200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
脂環構造含有重合体に対して配合する各種配合剤やその他の重合体の割合が多すぎると細胞が浮遊し難くなるため、いずれも脂環構造含有重合体の性質を損なわない範囲で配合することが好ましい。
脂環構造含有重合体と配合剤やその他の重合体との混合方法は、ポリマー中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。また、配合の順番に格別な制限はない。配合方法としては、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などを用いて樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させた後、凝固法、キャスト法、または直接乾燥法により溶剤を除去する方法などが挙げられる。
二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
脂環構造含有重合体で構成される容器の成形方法は、所望される培養容器の形状に応じて任意に選択することができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形法、圧縮成形法、回転成形法、カレンダー成形法、圧延成形法、切削成形法、紡糸等が挙げられ、これらの成形法を組み合わせたり、成形後必要に応じて延伸等の後処理をすることもできる。
本発明で使用される培養容器は、滅菌処理することが好ましい。
滅菌処理の方法に格別な制限はなく、高圧蒸気法や乾熱法などの加熱法;γ線や電子線などの放射線を照射する放射線法や高周波を照射する照射法;酸化エチレンガス(EOG)などのガスを接触させるガス法;滅菌フィルタを用いる濾過法;など、医療分野で一般的に採用される方法から、成形体の形状や用いる細胞に応じて、選択することができる。なかでも、培養面の表面自由エネルギーを特定の範囲に維持しやすいことから、ガス法が好ましい。
本発明で使用される培養容器の培養面の表面自由エネルギーは、30~37mN/mの範囲であることとする。培養面の表面自由エネルギーを上記の範囲に制御するためには、細胞の接着性を向上させるために通常行われるプラズマ処理などの表面処理を、培養面に対して行わないことが重要である。上記表面自由エネルギーは、好ましくは、32~36mN/mの範囲である。
上記表面自由エネルギーは、所定のレンジが付与されているテストインクが、培養面にどれだけ接着するかを測定することにより評価される。より具体的には、培養面に引いたインクの線が水滴にならずに2秒間変わらなければ、表面自由エネルギーの値は、使用したインクのレンジと同じ数値か、それ以上であることを意味する。インクの成分は、有機溶媒(2-エトキシエタノール、2-プロパノール)と塩基性染料(ホルムアミド)の混合物であり、これらの液体を異なる比率で混ぜ合わせて、種々の表面自由エネルギーの値を示すインクを作製する。
具体的な表面自由エネルギーの測定方法としては、例えば、まず38mN/m程度の値のインクを使用し、測定面に線を引き、インクの線が水滴にならず2秒間変わらなければ表面自由エネルギーは38mN/mと同じかそれ以上ということである。この場合、次に、40mN/m程度のインクを使って同様の測定を行う。インクの線が水滴にならず2秒間変わらなければ、このような測定を、2秒以内にインクの線が水滴に変わるまで、さらに値の高いインクを使用して行う。
上記の測定において、38mN/m程度のインクで既に水滴に変わるようであれば、38mN/mよりも低い値のインクを使って同様の測定を行う。例えば、35mN/m程度の値のインクで測定面に線を引き、2秒以内にインクの線が水滴にならず2秒間変わらなければ、表面自由エネルギーの値は2つの値の間(35~38mN/m)となる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例I)
脂環構造含有重合体として、ゼオノア(登録商標)1060R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物:以下、単に「1060R」という)を用いて、射出成形法により、0.32cmの底面積を有する円筒形状のウェルを96個含むウェルプレートを培養容器として得た。その後、当該培養容器について酸化エチレンガスによる滅菌処理を行った(以下、この培養容器を「1060R製96ウェルプレート」という。)。1060R製96ウェルプレートのウェル内底面(細胞と接触する面、すなわち培養面)における表面自由エネルギーは34mN/mであった。ここで、上記表面自由エネルギーは、表面エネルギー値評価インク(Arcotest社製)を用いて測定した。
1060R製96ウェルプレートの各ウェルに対して、LaboJet(登録商標)-500Bio(マイクロジェットジェット社製)を用いて、滅菌水を用いて100μg/mLに調製した、ノルボルネン系開環体水素化物に対して親和性のある合成ペプチド水溶液を直径600μm、中心点間距離800μmで1060R製プレートの底面にドット状に塗布し、心筋細胞の足場をドット状に形成した。ペプチド水溶液を乾燥させた後、付属の心筋細胞用解凍培地を使用して、iCell(登録商標)Cardiomyocytes2(Cellular Dynamics International社製、型番CMC-100-012-001)を4.4×10cells/mLに調製し、上記LaboJet(登録商標)-500Bioを用いて、32.4nL/液滴の量で、1ドット(足場)あたり54液滴の細胞懸濁液を播種し、5%CO雰囲気下、37℃の条件で4時間培養を行った。
その後、1060R製96ウェルプレートの各ウェルに新たに心筋細胞用維持培地を100μL加え、5%CO雰囲気下37℃の条件で培養を行った。
心筋細胞を播種してから2日後に1060R製96ウェルプレートの各ウェル内の心筋細胞用維持培地を半量交換した。心筋細胞を播種してから3日後に1060R製ウェルプレートの各ウェルから培養上清を10μLずつ採取した。次に、1060R製ウェルプレートの各ウェルにジメチルスルホキシド(DMSO)(ナカライテスク社製、型番13435-35)を用いてアミオダロン(Amiodarone Hydrochloride)(東京化成工業株式会社製、型番A2530)、ニフェジピン(Nifedipine)(東京化成工業株式会社製、型番N0528)、シクロスポリンA(Cyclosporin A)(東京化成工業株式会社製、型番C2408)およびドキソルビシン(Toronto Research Chemical社製、型番D558000)の各薬剤化合物の溶液を100μMに希釈し、1060R製96ウェルプレートに10μLずつ添加した。このとき各ウェルの薬剤濃度は10μMであった。
薬剤化合物を添加してから18時間後に、Cal-520AM(ATT Bioquest社製、型番21130)を用いて、1060R製プレートの各ウェルの心筋細胞をカルシウム染色した。その後、共焦点定量イメージサイトメーターCellVoyager(登録商標)CQ1(横河電機株式会社製)を用いて各ウェルの心筋細胞のカルシウム流入シグナルを拍動数として観察した。また、コントロールとして、10μLのDMSOを添加したウェルを用いた。
各薬剤化合物の添加有無における、心筋細胞の拍動数の変化を図1のグラフに示す(図1の「COP」)。図1のグラフでは、上記の各薬剤化合物あたりn=3の試験数の平均からの標準偏差を表すエラーバーとともに各足場上の心筋細胞塊の1分あたりの拍動数をプロットした。
(比較例1)
実施例1で使用した1060R製96ウェルプレートの代わりに、ポリスチレン製96ウェルプレート(ファルコン(登録商標)、コーニング社製、型番353916;表面自由エネルギー:43mN/m)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、細胞培養、アミオダロン、ニフェジピン、シクロスポリンAおよびドキソルビシンの添加を行い、薬剤化合物を添加してから18時間後の心筋細胞の拍動数をそれぞれ測定し、同様にグラフにプロットした(図1の「ポリスチレン」)。
図1の結果から、培養面の表面自由エネルギーの値が特定の範囲内であり、かつ、培養面が脂環構造含有重合体で構成されているウェルプレートを使用することにより、各足場上の心筋細胞塊の拍動数を明瞭に測定可能となることがわかる。ポリスチレン製96ウェルプレートを用いた場合は、培養面の表面自由エネルギーが高いため、心筋細胞が培養面に定着せず、心筋細胞塊が形成されなかったと考えられる。このため、カルシウムイメージングによる拍動数を明瞭に測定することができなかった。
本発明の心毒性評価方法によれば、高精度で心疾患を示す薬剤に起因する心筋細胞の拍動数の変化を測定することができるため、正確な心毒性評価を行うことができる。
これにより、既に心毒性を有することが分かっている化合物について、その毒性を正確に測定できる。そのため、本発明の評価方法を利用して、例えば、ドキソルビシンをポジティブコントロールとしつつ、別の新規薬剤の毒性を評価することが可能となり、ひいては、毒性を低減しつつ薬効を最大限に引き出すための当該薬剤の投与量を決定することも可能となる。

Claims (5)

  1. 心筋細胞を含む培地で形成される液滴を付着させるための足場を培養面に対して形成し、その後、前記液滴を前記足場の上に吐出して前記液滴を前記培養面に付着させることにより心筋細胞を培地とともに培養容器に播種し、
    前記培養容器内に薬剤を添加して、該薬剤を前記心筋細胞に接触させ、その後、
    前記心筋細胞の拍動数変化を測定して前記薬剤の心毒性を評価する、心毒性評価方法であって、
    前記培養容器の少なくとも培養面がノルボルネン系重合体およびその水素化物で構成され、かつ、前記培養面の表面自由エネルギーが30~37mN/mである、心毒性評価方法。
  2. 前記心筋細胞が多能性幹細胞由来心筋細胞である、請求項1に記載の心毒性評価方法。
  3. 前記足場が、1つの培養面に対してドット状に複数形成される、請求項1または2に記載の心毒性評価方法。
  4. 前記足場が、前記ノルボルネン系重合体およびその水素化物に親和性のあるペプチド配列を有する材料により形成される、請求項1~3のいずれかに記載の心毒性評価方法。
  5. 前記ノルボルネン系重合体およびその水素化物がノルボルネン系開環重合体水素化物である、請求項1~4のいずれかに記載の心毒性評価方法。
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