JP7534265B2 - 水性塗料組成物及び複層塗膜形成方法 - Google Patents

水性塗料組成物及び複層塗膜形成方法 Download PDF

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Description

本発明は、水性塗料組成物及びそれから形成される塗膜、並びに、複層塗膜形成方法に関する。
自動車車体等の被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を順次形成して、被塗物を保護すると同時に美しい外観及び優れた意匠を付与している。このような複数の塗膜の形成方法としては、例えば鋼板に対しては、導電性に優れた被塗物上に電着塗膜等の下塗り塗膜を形成し、その上に、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を順次形成する方法が一般的である〔国際公開第2017/131101号(特許文献1)〕。
国際公開第2017/131101号
自動車車体等の被塗物は、極めて複雑な構造を有している。例えば、自動車車体を構成する、ドア、ボンネットフード、ルーフ等の箇所では、2つの板状の鋼板をそれぞれ互いに重ね合わせた接合部又は継ぎ目部が存在する。接合部又は継ぎ目部は、境界部に隙間が存在する。該隙間は、中塗り塗料組成物、上塗りベース塗料組成物及び上塗りクリヤー塗料組成物のような通常の塗料組成物を用いた塗装のみでは、被覆が困難である。さらに接合部又は継ぎ目部において存在する境界部の隙間には、水、塵等の異物が侵入し易く、該異物が錆の発生の原因となるという問題もある。そのため、接合部又は継ぎ目部においては一般に、シーリング剤の塗装及び充填によるシーラー部が設けられている。シーリング剤の塗装及び充填は、一般に、電着塗膜が形成された鋼板に対して行われる。そして、シーラー部を設けた被塗物に対して、中塗り塗膜及び上塗り塗膜が形成される。
自動車車体の塗装等における中塗り塗膜及び上塗り塗膜は、塗膜そして製品の外観及び意匠に対して大きく影響を及ぼす。そのため、中塗り塗膜及び上塗り塗膜の塗装及び焼き付け硬化工程において、異物の付着によるブツの発生、塗装不具合等によるヘコミ又はハジキの発生等の塗膜欠陥が見出された場合は、この塗膜欠陥部が存在する箇所又は被塗物全体に対して、再度、中塗り塗膜及び上塗り塗膜を設ける塗装が行われる。このような再塗装はリコートといわれる。このリコートにおいては、被塗物に既に設けられている中塗り塗膜及び上塗り塗膜を含む複層塗膜と、再塗装によって設けられた中塗り塗膜及び上塗り塗膜からなる再塗装塗膜との層間密着性が問題となる。この層間密着性が低い場合は、既に設けられた複層塗膜と再塗装塗膜との間で剥離が生じてしまうためである。そして、リコートにおける層間密着性の問題は、シーラー部を有する被塗物においてとりわけ顕著である。
一方、自動車製造においてウインドシールドガラスは、ウインドシールドガラス接着用ボンド(ウインドダイレクトボンド(WDB)ともいう。)を用いて自動車本体に接着される。中塗り塗膜及び上塗り塗膜が順に形成された自動車本体の上塗り塗膜上にWDBを介してウインドシールドガラスが接着されることから、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性が求められる。
本発明の目的は、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を与えることができる水性塗料組成物及びそれから形成される塗膜を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記水性塗料組成物を用いた、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を含む複層塗膜の形成方法を提供することにある。
本発明は、以下に示す水性塗料組成物、塗膜及び複層塗膜形成方法を提供する。
[1] 塗膜形成性樹脂、硬化剤及び顔料を含有する水性塗料組成物であって、
前記塗膜形成性樹脂は、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含み、
前記ウレタン樹脂の含有率は、前記塗膜形成性樹脂及び前記硬化剤の合計100質量%中、5質量%以上15質量%以下であり、
前記硬化剤は、メラミン樹脂を含み、
前記メラミン樹脂は、疎水性メラミン樹脂及び親水性メラミン樹脂を含み、
前記硬化剤の含有率は、前記塗膜形成性樹脂及び前記硬化剤の合計100質量%中、40質量%以上60質量%以下である、水性塗料組成物。
[2] 前記疎水性メラミン樹脂は、溶解性パラメーターSPが9.0以上11.0未満であり、
前記親水性メラミン樹脂は、溶解性パラメーターSPが11.0以上15.0未満である、[1]に記載の水性塗料組成物。
[3] 前記親水性メラミン樹脂の含有率は、前記メラミン樹脂100質量%中、55質量%以上75質量%以下である、[1]又は[2]に記載の水性塗料組成物。
[4] 前記アクリル樹脂の含有率は、前記塗膜形成性樹脂及び前記硬化剤の合計100質量%中、10質量%以上30質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[5] 前記塗膜形成性樹脂は、ポリエステル樹脂をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の水性塗料組成物から形成される塗膜。
[7] 被塗装物上に水性ベース塗料を塗装して未硬化のベース塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜の上にクリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜と前記未硬化のクリヤー塗膜とを同時に加熱硬化させる工程と、
を含む複層塗膜形成方法であって、
前記水性ベース塗料は、[1]~[5]のいずれかに記載の水性塗料組成物である、複層塗膜形成方法。
リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を与えることができる水性塗料組成物及びそれから形成される塗膜を提供することができる。また、上記水性塗料組成物を用いた、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を含む複層塗膜の形成方法を提供することができる。
<水性塗料組成物>
本発明に係る水性塗料組成物(以下、単に「水性塗料組成物」ともいう。)は、塗膜形成性樹脂、硬化剤及び顔料を含有する。塗膜形成性樹脂はアクリル樹脂及びウレタン樹脂を含み、硬化剤はメラミン樹脂を含む。メラミン樹脂は、疎水性メラミン樹脂及び親水性メラミン樹脂を含む。
自動車塗装等における複層塗膜の形成において、本発明に係る水性塗料組成物を水性ベース塗料として用いた場合、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を有する複層塗膜を得ることができる。このため、自動車塗装等における複層塗膜形成方法において、本発明に係る水性塗料組成物は、水性ベース塗料として好適に用いられる。
ベース塗料とは、ベース塗膜を形成するための塗料である。上塗り塗膜は、一般的に、ベース塗膜と、その上に形成されるクリヤー塗膜と、を含んで構成される。クリヤー塗膜を形成するための塗料をクリヤー塗料という。
(1)塗膜形成性樹脂
(1-1)アクリル樹脂
塗膜形成性樹脂として水性塗料組成物に含有されるアクリル樹脂は水性アクリル樹脂であり、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)及び水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができるアクリル樹脂エマルション;上記モノマー混合物を溶液重合し、得られた重合物を水性媒体中に分散させることによって得られるアクリル樹脂ディスパージョン;上記モノマー混合物を溶液重合して得ることができる水溶性アクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂ディスパージョン又は水溶性アクリル樹脂の調製において上記モノマー混合物は、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)又は水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)のいずれか一方を含んでいなくてもよい。
水性塗料組成物は、1種又は2種以上のアクリル樹脂を含有することができる。
本明細書において(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルから選択される少なくとも1つを意味する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)は、酸基及び水酸基を含有しない(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。上記モノマー混合物が(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)を含むことによって、アクリル樹脂の主骨格を良好に構成することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸基等から選ばれることが好ましい。分散安定性向上及び硬化反応促進機能の観点から、酸基は、好ましくはカルボキシル基である。上記モノマー混合物が、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)を含むことによって、得られるアクリル樹脂の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性を向上させることができるとともに、塗膜形成時におけるアクリル樹脂と硬化剤との硬化反応を促進させることができる。
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の一例であるカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の一例であるスルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-アクリルアミドプロパンスルホン酸、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の一例であるリン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルのリン酸モノエステル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルのリン酸モノエステル等が挙げられる。
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、いずれも商品名で、ダイセル化学工業(株)製の「プラクセルFA-1」、「プラクセルFA-2」、「プラクセルFA-3」、「プラクセルFA-4」、「プラクセルFA-5」、「プラクセルFM-1」、「プラクセルFM-2」、「プラクセルFM-3」、「プラクセルFM-4」及び「プラクセルFM-5」等が挙げられる。
上記モノマー混合物が、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むことによって、水酸基に基づく親水性がアクリル樹脂に付与され、水性塗料組成物の塗装作業性及び凍結に対する安定性を向上させることができ、また、アクリル樹脂と硬化剤との硬化反応性を高めることができる。
モノマー混合物は、上記モノマーに加えて、他のエチレン性不飽和モノマー(d)を含んでもよい。他のエチレン性不飽和モノマー(d)としては、例えば、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー等が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。他のエチレン性不飽和モノマー(d)は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
モノマー混合物は、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマー等の架橋性モノマーを含んでいてもよい。モノマー混合物が架橋性モノマーを含むことによって、得られるアクリル樹脂に対して自己架橋性を付与することができる。架橋性モノマーは1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
アクリル樹脂エマルションの調製において、乳化重合は、上記モノマー混合物を、水性媒体中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下で、攪拌条件下で加熱することによって行うことができる。反応温度は例えば30~100℃程度であってよい。反応時間は、反応スケール及び反応温度に応じて適宜選択することができ、例えば1~10時間程度であってよい。乳化重合では、例えば、水と乳化剤とを仕込んだ反応容器に対して、モノマー混合物又はモノマープレ乳化液を、一括で加えてもよく、また暫時滴下してもよい。このような手順を適宜選択することによって、反応温度を調節することができる。
上記ラジカル重合開始剤としては、アクリル樹脂の乳化重合で用いられる公知の開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤は、好ましくは水溶性のラジカル重合開始剤であり、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩を、水溶液の状態で用いることができる。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とが組み合わされた、いわゆるレドックス系開始剤を、水溶液の状態で用いることもできる。
ラジカル重合開始剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記乳化剤としては、例えば、炭素数が6以上の炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステル等の親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系の乳化剤を用いることができる。アニオン乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテル等が挙げられる。また、乳化剤の他の例として、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、(メタ)アクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系等の基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤が挙げられる。
乳化剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
乳化重合において、メルカプタン系化合物や低級アルコール等の分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)を、必要に応じて用いることができる。これらの助剤を用いることによって、乳化重合を好適に進行させることができ、また、塗膜の円滑かつ均一な形成を促進して塗膜の被塗装物に対する密着性を向上させることができる。
乳化重合としては、一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法等、いずれの重合法も適宜選択することができる。
得られたアクリル樹脂エマルションに対して中和剤を添加して、アクリル樹脂に含まれる酸基の少なくとも一部を中和してもよい。中和によって、アクリル樹脂エマルションの安定性を向上させることができる。中和剤としては、塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びジメチルエタノールアミン(ジメチルアミノエタノール)等の有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等の無機塩基が挙げられる。中和剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
アクリル樹脂エマルションの平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上1.0μm以下である。
アクリル樹脂エマルションの重量平均分子量は、好ましくは50,000以上5,000,000以下、より好ましくは50,000以上200,000以下である。
アクリル樹脂エマルションの固形分酸価は、好ましくは1mgKOH/g以上80mgKOH/g以下、より好ましくは2mgKOH/g以上70mgKOH/g以下、さらに好ましくは3mgKOH/g以上60mgKOH/g以下である。
アクリル樹脂エマルションの固形分水酸基価は、好ましくは30mgKOH/g以上120mgKOH/g以下、より好ましくは35mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である。
アクリル樹脂エマルションの平均粒子径、重量平均分子量、固形分酸価及び固形分水酸基価が上記範囲内であることにより、塗料安定性、塗装作業性及び得られる塗膜物性等を良好なものとすることができる。アクリル樹脂エマルションの平均粒子径は、レーザー光散乱法により温度25℃で測定される体積平均粒径である。アクリル樹脂エマルションの重量平均分子量は、減圧乾燥等により固形分を取り出した後、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定することができる。アクリル樹脂エマルションの固形分酸価は、JIS K 0070に従う、フェノールフタレインを指示薬とする中和滴定法によって測定することができる。アクリル樹脂エマルションの固形分水酸基価は、アクリル樹脂の調製に使用したモノマーの配合量から計算によって求めることができる。
アクリル樹脂ディスパージョンは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)及び水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を、無溶媒又は適当な有機溶媒の存在下において重合反応を行い、水中に滴下、混合し、必要に応じて過剰な溶媒を除去することによって調製することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)及び水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)の具体例は上述のとおりである。モノマー混合物は、上記モノマーに加えて、他のエチレン性不飽和モノマー(d)を含んでいてもよい。他のエチレン性不飽和モノマー(d)の具体例は上述のとおりである。上記モノマーはそれぞれ、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
重合反応において、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤として例えば、ラジカル重合開始剤として当技術分野において用いられる開始剤を使用することができる。重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシド及びクメンハイドロパーオキシド等の有機過酸化物、アゾビスシアノ吉草酸及びアゾイソブチロニトリル等の有機アゾ化合物等が挙げられる。ラジカル重合開始剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
重合反応は、例えば80~140℃の温度で行うことができる。重合反応時間は、重合温度及び反応スケールに応じて適宜選択することができ、例えば1~8時間である。重合反応は、当業者に通常行われる操作で行うことができる。例えば、加熱した有機溶媒中に、モノマー混合物及び重合開始剤を滴下することにより重合を行うことができる。
重合に用いることができる有機溶媒は、特に限定されないが、沸点が60~250℃程度のものが好ましい。好適に用いることができる有機溶媒として、例えば、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、メチルエーテルアセテートのような非水溶性有機溶媒;テトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、ジオキサン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、N-メチルピロリドン、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートのような水溶性有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
得られたアクリル樹脂に中和剤を添加して、アクリル樹脂に含まれる酸基の少なくとも一部を中和してもよい。中和によって、アクリル樹脂の水分散性を向上させることができる。中和剤としては、塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物の例は上述のとおりである。中和剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
必要に応じて中和したアクリル樹脂に対して水を混合するか、又は水中にアクリル樹脂を混合することにより、アクリル樹脂ディスパージョンを調製することができる。アクリル樹脂ディスパージョンの調製において、必要に応じて、中和剤の添加前又は水分散後に、過剰な有機溶媒を除去してもよい。
アクリル樹脂ディスパージョンは、固形分水酸基価が好ましくは5mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、固形分酸価が好ましくは5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が好ましくは50,000~5,000,000である。アクリル樹脂ディスパージョンの固形分水酸基価、固形分酸価及び重量平均分子量が上記範囲内であることにより、塗料安定性、塗装作業性及び得られる塗膜物性等を良好なものとすることができる。アクリル樹脂ディスパージョンの固形分水酸基価、固形分酸価及び重量平均分子量は、アクリル樹脂エマルションと同様にして測定又は算出することができる。
水溶性アクリル樹脂は、上記モノマー混合物を溶液重合することによって調製することができる。モノマー混合物は、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)を含むことが好ましい。モノマー混合物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)を含んでいてもよく、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)をさらに含んでいてもよく、他のエチレン性不飽和モノマー(d)をさらに含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)及び他のエチレン性不飽和モノマー(d)の具体例は上述のとおりである。上記モノマーはそれぞれ、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
得られたアクリル樹脂に中和剤を添加して、アクリル樹脂に含まれる酸基の少なくとも一部を中和してもよい。中和によって、アクリル樹脂の水溶性を向上させることができる。中和剤としては、塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物の例は上述のとおりである。中和剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性アクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5,000以上100,000以下、より好ましくは20,000以上50,000以下である。
水溶性アクリル樹脂の固形分酸価は、好ましくは10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である。
水溶性アクリル樹脂の固形分水酸基価は、好ましくは20mgKOH/g以上180mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以上160mgKOH/g以下である。
水溶性アクリル樹脂の重量平均分子量、固形分酸価及び固形分水酸基価が上記範囲内であることにより、塗料安定性、塗装作業性及び得られる塗膜物性等を良好なものとすることができる。
1つの好ましい実施形態において塗膜形成性樹脂は、塗装作業性及び塗膜物性の観点から、アクリル樹脂エマルションを含む。他の好ましい実施形態において塗膜形成性樹脂は、塗装作業性及び塗膜物性の観点に加えてさらに塗料安定性の観点から、アクリル樹脂エマルションと水溶性アクリル樹脂とを含む。
水性塗料組成物におけるアクリル樹脂(固形分換算)の含有率は、塗装作業性及び塗膜物性の観点から、塗膜形成性樹脂(固形分換算)及び硬化剤(固形分換算)の合計100質量%中、好ましくは5質量%以上70質量%以下、より好ましくは10質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上50質量%以下、なおさらに好ましくは10質量%以上40質量%以下、特に好ましくは10質量%以上30質量%以下、最も好ましくは15質量%以上30質量%以下である。
例えば塗膜形成性樹脂がアクリル樹脂エマルションと水溶性アクリル樹脂とを含む場合、水性塗料組成物における水溶性アクリル樹脂(固形分換算)の含有率は、アクリル樹脂エマルション(固形分換算)100質量部に対して、塗装作業性及び塗膜物性の観点に加えてさらに塗料安定性の観点から、好ましくは1質量部以上60質量部以下、より好ましくは5質量部以上50質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上40質量部以下、なおさらに好ましくは15質量部以上40質量部以下である。
(1-2)ウレタン樹脂
塗膜形成性樹脂として水性塗料組成物に含有されるウレタン樹脂は、水性ウレタン樹脂である。本発明に係る水性塗料組成物中にウレタン樹脂が含まれることにより、上記水性中塗り塗料及び本発明に係る水性塗料組成物である水性ベース塗料を順次塗装し、次いで、低温硬化条件で水性塗料組成物を焼き付け硬化させる場合であっても、水性ポリウレタン樹脂が自己及び他の成分と融着することで強靭な塗膜を形成することが可能なため、塗膜間密着性、耐水密着性等に優れた複層塗膜を得ることができる。また後述するように、ウレタン樹脂を所定量で水性塗料組成物に含有させることは、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を有する複層塗膜を得るうえで肝要である。
水性塗料組成物は、1種又は2種以上のウレタン樹脂を含有することができる。
水性ウレタン樹脂は、ポリオール化合物(e-1)と、分子内に活性水素基及び親水基を有する化合物(e-2)と、有機ポリイソシアネート(e-3)と、必要により鎖伸長剤及び重合停止剤を用いて得られるポリマーであって、得られたポリマーを水中に溶解又は分散することによって調製することができる。水性ウレタン樹脂を形成する上記成分はそれぞれ、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリオール化合物(e-1)としては、水酸基を2個以上有するポリオール化合物であれば特に限定されない。ポリオール化合物(e-1)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸とエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコールとから得られるポリエステルポリオール;ポリカプロラクトンポリオール;ポリブタジエンポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリチオエーテルポリオール;等が挙げられる。
ポリオール化合物(e-1)は、好ましくは数平均分子量が500以上5,000以下である。数平均分子量は、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定することができる。
分子内に活性水素基及び親水基を有する化合物(e-2)としては、活性水素及びアニオン基〔アニオン基又はアニオン形成性基(塩基と反応してアニオン基を形成するものであり、この場合にはウレタン化反応前、途中又は後に塩基で中和することによってアニオン基に変える)〕を含有する化合物として公知のもの(例えば、特公昭42-24192号公報及び特公昭55-41607号公報に記載のもの。具体例には、α,α-ジメチロールプロピオン酸、α,α-ジメチロール酪酸、ジメチロール酢酸等のジメチロールアルカン酸);分子内に活性水素及びカチオン基を有する化合物として公知のもの(例えば、特公昭43-9076号公報に記載のもの);分子内に活性水素及びノニオン性の親水基を有する化合物として公知のもの(例えば、特公昭48-41718号公報に記載のもの。具体的には、ポリエチレングリコール、アルキルアルコールアルキレンオキシド付加物等)が挙げられる。分子内に活性水素基及び親水基を有する化合物(e-2)は、好ましくはジメチロールアルカン酸である。
有機ポリイソシアネート(e-3)としては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。有機ポリイソシアネート(e-3)としては、例えば、
ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネ-ト等の、炭素数2~12の脂肪族ジイソシアネート;
1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソプロピリデンシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネート等の、炭素数4~18の脂環族ジイソシアネート;
2,4-トルイレンジイソシアネート、2,6-トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,5’-ナフテンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;
リジンエステルトリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4,4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等のトリイソシアネート;
等が挙げられる。
また、有機ポリイソシアネート(e-3)の他の例として、上記ポリイソシアネート化合物のダイマー若しくはトリマー(イソシアヌレート結合)、又は、上記ポリイソシアネート化合物をアミンと反応させてなるビウレット型のポリイソシアネートが挙げられる。有機ポリイソシアネート(e-3)のさらに他の例として、上記ポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させてなるウレタン結合を有するポリイソシアネートが挙げられる。
有機ポリイソシアネート(e-3)は、好ましくは脂肪族ジイソシアネートである。脂肪族ジイソシアネートを用いて水性ウレタン樹脂を調製することにより、得られる塗膜の透水性を適切な範囲に調節することができ、また、塗膜に良好な耐水性を付与することができる。
水性ウレタン樹脂の調製時において必要により用いることができる鎖伸長剤としては、活性水素基を2個以上含有していれば特に限定されないが、例えば、低分子(数平均分子量500未満)ポリオール、ポリアミン等が挙げられる。低分子ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール及びトリメチロールプロパン等が挙げられる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドラジン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
水性ウレタン樹脂の調製時において必要により用いることができる重合停止剤としては、分子内に活性水素を1個有する化合物、又はモノイソシアネート化合物が挙げられる。
上記分子内に活性水素を1個有する化合物としては、例えば、モノアルコール(例えば、メタノール、ブタノール、オクタノール等のアルキルアルコール;アルキルアルコールアルキレンオキサイド付加物等)または、モノアミン(例えば、ブチルアミン、ジブチルアミン等のアルキルアミン)が挙げられる。
上記モノイソシアネート化合物としては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ラウリルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリレンイソシアネート等が挙げられる。
水性ウレタン樹脂を調製するにあたっての反応方法は、各成分を一度に反応させるワンショット法又は段階的に反応させる多段法〔例えば、活性水素含有化合物の一部(例えば、高分子ポリオール)とポリイソシアネートとを反応させてNCO末端プレポリマーを形成した後に活性水素含有化合物の残部を反応させて製造する方法〕のいずれの方法でもよい。水性ウレタン樹脂の合成反応は通常40~140℃、好ましくは60~120℃で行われる。反応を促進させるため、通常のウレタン化反応に用いられるジブチルスズラウレ-ト、オクチル酸スズ等のスズ系あるいはトリエチレンジアミン等アミン系の触媒を使用してもよい。また上記反応は、イソシアネートに不活性な有機溶媒(例えば、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアミド等)中で行ってもよく、反応の途中又は反応後に溶媒を加えてもよい。
水性ウレタン樹脂は、公知の方法(アニオン形成性基の場合は塩基で中和してアニオン基を形成する方法、カチオン形成性基の場合は4級化剤でカチオン基を形成する方法、又は、酸で中和してカチオン基を形成する方法)で処理した後、水中に溶解又は分散することによって調製することができる。
上記の水中に溶解又は分散する工程は、上記反応後に行ってもよいし、多段法の途中の段階で行ってもよい。例えば、NCO末端プレポリマーの段階で水中に溶解又は分散するときは、水及び/又はポリアミンで鎖伸長しながら水中に溶解又は分散することにより水性ウレタン樹脂が得られる。また、イソシアネートに不活性な有機溶媒を使用した場合、水中に溶解又は分散した後に脱溶媒を行ってもよい。
水性ウレタン樹脂として、市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、「NeoRezシリーズ」(楠本化成社)、「HUXシリーズ」(ADEKA社)、「ユーコートシリーズ」、「パーマリンシリーズ」、「ユープレンシリーズ」(いずれも三洋化成社)、「Bayhydrolシリーズ」(コベストロ社)等が挙げられる。
水性塗料組成物におけるウレタン樹脂(固形分換算)の含有率は、塗膜形成性樹脂(固形分換算)及び硬化剤(固形分換算)の合計100質量%中、5質量%以上15質量%以下であり、好ましくは5質量%以上12質量%以下、より好ましくは5質量%以上10質量%以下である。ウレタン樹脂の含有率が上記範囲であることにより、リコートにおける高い層間密着性を向上させることができる。また、ウレタン樹脂の含有率が上記範囲であると、ベース塗膜における凝集破壊が起こりにくくなることにより、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を向上させることができる。
水性塗料組成物におけるウレタン樹脂(固形分換算)の含有率は、アクリル樹脂(固形分換算)100質量部に対して、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を向上させる観点から、好ましくは10質量部以上200質量部以下、より好ましくは15質量部以上150質量部以下、さらに好ましくは20質量部以上120質量部以下である。
(1-3)ポリエステル樹脂
塗膜形成性樹脂は、ポリエステル樹脂をさらに含むことができる。該ポリエステル樹脂は、水性ポリエステル樹脂である。塗膜形成性樹脂がポリエステル樹脂をさらに含むことは、塗料安定性、塗装作業性及び得られる塗膜物性等の点で有利である。
水性塗料組成物は、1種又は2種以上のポリエステル樹脂を含有することができる。
水性ポリエステル樹脂は、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを縮合することによって得られるポリマーであって、得られたポリマーを水中に溶解又は分散することによって調製することができる。水性ポリエステル樹脂を形成する上記成分はそれぞれ、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、水素化ビスフェノールA等のジオール成分;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の三価以上のポリオール成分;2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールペンタン酸、2,2-ジメチロールヘキサン酸、2,2-ジメチロールオクタン酸等のジヒドロキシカルボン酸成分等が挙げられる。
上記多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸及び酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、1,4-若しくは1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族多価カルボン酸及び無水物;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族多価カルボン酸及び無水物等の、多塩基酸及びそれらの無水物が挙げられる。必要に応じて安息香酸、t-ブチル安息香酸等の一塩基酸を併用してもよい。
さらなる反応成分として、1価アルコール、カージュラE(商品名:シエル化学製)等のモノエポキサイド化合物、及びラクトン類(β-プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトンなど)を併用してもよい。
また、さらなる反応成分として、ヒマシ油、脱水ヒマシ油等の脂肪酸、及びこれらの脂肪酸のうち1種、又は2種以上の混合物である油成分を用いてもよい。また、ポリエステル樹脂にアクリル樹脂、ビニル樹脂等をグラフト化したり、ポリイソシアネート化合物を反応させたりしてもよい。
得られたポリエステル樹脂に中和剤を添加して、ポリエステル樹脂に含まれる酸基の少なくとも一部を中和してもよい。中和によって、ポリエステル樹脂の水分散性又は水への溶解性を向上させることができる。中和剤としては、塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物の例は上述のとおりである。中和剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
得られるポリエステル樹脂の数平均分子量は、好ましくは500~20,000、より好ましくは1,500~10,000である。数平均分子量が500未満であるとポリエステル樹脂を水分散させた時の保存安定性が低下するおそれがある。また数平均分子量が20,000を超えると、ポリエステル樹脂の粘度が上がるため、水性塗料組成物の塗装作業性が低下するおそれがある。数平均分子量は、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定することができる。
ポリエステル樹脂の固形分酸価は、好ましくは15mgKOH/g以上100mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である。
ポリエステル樹脂の固形分水酸基価は、好ましくは35mgKOH/g以上170mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。
ポリエステル樹脂の数平均分子量、固形分酸価及び固形分水酸基価が上記範囲内であることにより、塗料安定性、塗装作業性及び得られる塗膜物性等を良好なものとすることができる。
ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgは、好ましくは-20℃以上80℃である。Tgが-20℃未満である場合、得られる塗膜の硬度が低下するおそれがあり、80℃を超える場合、下地隠蔽性が低下するおそれがある。Tgは、より好ましくは-10℃以上60℃である。ポリエステル樹脂のTgは、ポリエステル樹脂の調製に用いたモノマーの種類及び量から計算によって求めることができる。また、ポリエステル樹脂のTgを、示差走査型熱量計(DSC)によって測定してもよい。
水性塗料組成物がポリエステル樹脂を含む場合、水性塗料組成物におけるポリエステル樹脂(固形分換算)の含有率は、塗料安定性等の観点から、塗膜形成性樹脂(固形分換算)及び硬化剤(固形分換算)の合計100質量%中、1質量%以上40質量%以下であり、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上25質量%以下である。
(2)硬化剤
水性塗料組成物は硬化剤を含有し、硬化剤はメラミン樹脂を含む。メラミン樹脂は、疎水性メラミン樹脂及び親水性メラミン樹脂を含む。硬化剤として疎水性メラミン樹脂及び親水性メラミン樹脂の両方を水性塗料組成物に含有させることは、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を有する複層塗膜を得るうえで肝要である。
メラミン樹脂は、メラミン等のアミノ化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド化合物との縮合体に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールを用いて変性させることによって得られる縮合体である。メラミン樹脂としては、例えば、完全アルキル型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチロール基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、イミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチロール基・イミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、イミノ型ブチル化メラミン樹脂が挙げられる。
本明細書において、疎水性メラミン樹脂とは、溶解性パラメーターSP(以下、「SP値」ともいう。)が11.0未満であるメラミン樹脂をいう。親水性メラミン樹脂とは、SP値が11.0以上であるメラミン樹脂をいう。
SP値は、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、数値が小さいほど極性が低いことを示す。SP値は、SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967)に従って求めることができる。
SP値は、より具体的には、次の方法により測定することができる。測定温度20℃で、SP値を測定する成分0.5gを100mLビーカーに秤量し、良溶媒(アセトン)10mLをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解し、希釈溶液を調製する。次に、この希釈溶液に50mLビュレットを用いて、低SP貧溶媒(n-ヘキサン)を徐々に滴下し、希釈溶液に濁りが生じた点を低SP貧溶媒の滴下量とする。また別途、上記希釈溶液に高SP貧溶媒(イオン交換水)を徐々に滴下し、希釈溶液に濁りが生じた点を高SP貧溶媒の滴下量とする。SP値は、上記各貧溶媒の濁点に至るまでの滴下量から、上記参考文献等に記載されている公知の計算方法により算出することができる。
硬化剤が含有する疎水性メラミン樹脂のSP値は、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を向上させる観点から、好ましくは9.0以上11.0未満、より好ましくは9.2以上11.0未満、さらに好ましくは9.5以上11.0未満、なおさらに好ましくは10.0以上11.0未満である。硬化剤が含有する親水性メラミン樹脂のSP値は、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を向上させる観点から、好ましくは11.0以上15.0未満、より好ましくは11.0以上14.5以下、さらに好ましくは11.5以上14.0以下、なおさらに好ましくは11.5以上13.0以下である。
疎水性メラミン樹脂及び親水性メラミン樹脂として市販品が用いられてもよい。市販品としては、例えば、「サイメル202」〔SP値11.36〕等のメチロール基・イミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;「サイメル204」〔SP値10.94〕、「サイメル211」〔SP値11.91〕、「サイメル250」〔SP値10.40〕、「サイメル254」〔SP値11.39〕等のイミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;「サイメル350」〔SP値12.42〕等の完全アルキル型メチル化メラミン樹脂;「サイメル325」〔SP値13.69〕、「サイメル327」〔SP値12.42〕、「サイメル385」〔SP値14.21〕、「サイメル701」〔SP値12.86〕、「サイメル712」〔SP値14.45〕等のイミノ基型メチル化メラミン樹脂;「サイメル370N」〔SP値12.76〕等のメチロール基型メチル化メラミン樹脂(以上、オルネクスジャパン社製)、「マイコート212」〔SP値10.10〕、「マイコート518」〔SP値9.80〕、「マイコート525」〔SP値11.84〕等のイミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;「マイコート508」〔SP値10.70〕等のイミノ型ブチル化メラミン樹脂;「マイコート723」〔SP値11.11〕、「マイコート776」〔SP値13.44〕等のイミノ基型メチル化メラミン樹脂;「マイコート2677」〔SP値10.80〕等のメチロール基型メチル/イソブチル混合エーテル化メラミン樹脂(以上、三井サイテック社製)等が挙げられる。
水性塗料組成物における硬化剤(固形分換算)の含有率は、塗膜形成性樹脂(固形分換算)及び硬化剤(固形分換算)の合計100質量%中、40質量%以上60質量%以下であり、好ましくは45質量%以上60質量%以下、より好ましくは45質量%以上55質量%以下である。硬化剤の含有率が上記範囲であることにより、リコートにおける高い層間密着性、及び、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を向上させることができる。また、硬化剤の含有率が60質量%を超えると、水性塗料組成物がゲル化を生じやすい。
水性塗料組成物における硬化剤(固形分換算)の含有率は、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性をより向上させる観点から、塗膜形成性樹脂(固形分換算)及び硬化剤(固形分換算)の合計100質量%中、好ましくは40質量%超60質量%以下、より好ましくは42質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは45質量%以上60質量%以下、なおさらに好ましくは50質量%以上60質量%以下である。
親水性メラミン樹脂(固形分換算)の含有率は、メラミン樹脂(すなわち疎水性メラミン樹脂及び親水性メラミン樹脂の合計、固形分換算)100質量%中、例えば50質量%以上75質量%以下であり、リコートにおける層間密着性の観点から、好ましくは55質量%以上70質量%以下、より好ましくは55質量%以上65質量%以下である。
硬化剤は、メラミン樹脂以外の硬化剤成分(例えばカルボジイミド化合物等)を必要に応じて含むことができるが、好ましくはメラミン樹脂からなる。
(3)顔料
水性塗料組成物は、顔料を含有する。顔料は一般に、顔料分散ペーストの状態に予め調製された状態で、水性塗料組成物中に配合される。
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを、公知の方法に従って少量の水性媒体に分散することによって得られる。顔料分散剤は、顔料親和部分及び親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分及び親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性及びアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。顔料分散剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
顔料分散剤としては、特に限定されず、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。顔料分散剤は市販品であってもよく、例えば、いずれも商品名で、ビックケミー社製のアニオン・ノニオン系分散剤である「Disperbyk 190」、「Disperbyk 181」、「Disperbyk 182」、「Disperbyk 184」)、EFKA社製のアニオン・ノニオン系分散剤である「EFKAPOLYMER4550」、アビシア社製のノニオン系分散剤である「ソルスパース27000」、アニオン系分散剤である「ソルスパース41000」、「ソルスパース53095」等が挙げられる。
顔料としては、通常の水性塗料に使用される顔料であれば特に限定されないが、耐候性を向上させ、かつ隠蔽性を確保する点から、着色顔料であることが好ましい。
着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料;二酸化チタン、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックなどの無機着色顔料等が挙げられる。
着色顔料は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
着色顔料と体質顔料とを併用してもよい。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が挙げられる。
顔料は、光輝顔料を含んでいてもよい。光輝顔料として、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属又は合金等の無着色又は着色された金属製光輝顔料、及び、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料等が挙げられる。
水性塗料組成物における顔料の含有率は、水性塗料組成物中に含まれる全ての樹脂(塗膜形成性樹脂及び硬化剤)の固形分並びに顔料の合計質量に対する顔料の質量の比(PWC;pigment weight content)で、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下である。5質量%未満では、隠蔽性が低下するおそれがある。60質量%を超えると、硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
(4)他の成分
水性塗料組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、粘性剤、造膜助剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、難燃剤、帯電防止剤、静電助剤、熱安定剤、光安定剤、ピンホール防止剤、溶媒等が挙げられる。
水性塗料組成物は、ポリエーテルポリオールを含有することができる。ポリエーテルポリオールを含有することにより、塗膜のフリップフロップ性、耐水性及び耐チッピング性を向上させ得る。
ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコール、多価フェノール、多価カルボン酸類等の活性水素含有化合物にエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加した化合物が挙げられる。
ポリエーテルポリオールの水酸基価は、好ましくは30mgKOH/g以上700mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以上500mgKOH/g以下である。水酸基価がこの範囲であることは、塗膜の耐水性及び耐チッピング性、水性塗料組成物の保存安定性を高める観点から有利である。
ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、好ましくは300以上3,000以下、より好ましくは400以上2,000以下である。数平均分子量がこの範囲であることは、塗膜の硬化性、耐チッピング性及び耐水性を高める観点から有利である。
ポリエーテルポリオールとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、いずれも商品名で、「プライムポールPX-1000」、「サンニックスSP-750」(いずれも三洋化成工業株式会社製)、「PTMG-650」(三菱化学株式会社製)等が挙げられる。
水性塗料組成物がポリエーテルポリオールを含む場合、水性塗料組成物におけるポリエーテルポリオールの含有率は、塗膜のフリップフロップ性、耐水性及び耐チッピング性、水性塗料組成物の保存安定性等の観点から、塗膜形成性樹脂(固形分換算)及び硬化剤(固形分換算)の合計100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上40質量部以下、より好ましくは1質量部以上30質量部以下、さらに好ましくは2質量部以上20質量部以下である。
<水性塗料組成物の調製及び塗膜の形成>
水性塗料組成物は、該組成物を構成する各成分を、通常用いられる手段によって混合することによって、調製することができる。水性塗料組成物は、水性ベース塗料、とりわけ自動車用水性ベース塗料として好適に使用することができるものである。このため、水性塗料組成物は、自動車車体、部品等に適用する複層塗膜形成方法に適用することができる。
本発明に係る塗膜は、本発明に係る水性塗料組成物から形成される塗膜であり、例えば、水性塗料組成物を塗布してなる未硬化の塗膜を加熱することによって硬化させた硬化塗膜である。本発明に係る塗膜は、例えば自動車塗装等におけるベース塗膜として好適である。本発明に係る塗膜は、他の塗膜と組み合わせて複層塗膜を構成していてもよい。
<複層塗膜形成方法>
本発明に係る複層塗膜形成方法は、下記工程を含む。
被塗装物上に水性ベース塗料を塗装して未硬化のベース塗膜を形成する工程(A)、
未硬化のベース塗膜の上にクリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(B)、及び
未硬化のベース塗膜と未硬化のクリヤー塗膜とを同時に加熱硬化させる工程(C)。
上記複層塗膜形成方法が適用される被塗装物は、特に限定されず、例えば、金属基材、プラスチック基材及びその発泡体等が挙げられる。
金属基材の材質としては、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属及び合金等が挙げられる。金属基材として具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体及び自動車車体用の部品等が挙げられる。このような金属基材は、予め電着塗膜が形成されていることが好ましい。また電着塗膜形成前に、必要に応じた化成処理(例えばリン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理等)が行われていてもよい。電着塗装に用いられる電着塗料組成物として、公知のカチオン電着塗料組成物又はアニオン電着塗料組成物を用いることができる。防食性の観点から、カチオン型電着塗料組成物であることが好ましい。
プラスチック基材としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等からなる基材が挙げられる。プラスチック基材として具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品等が挙げられる。これらのプラスチック基材は、純水及び/又は中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
被塗装物上には、必要に応じて、さらに中塗り塗膜が形成されていてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料組成物が用いられる。この中塗り塗料組成物は水性であり、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系や無機系の着色顔料及び体質顔料等が含有される。塗膜形成性樹脂及び硬化剤としては、特に限定されるものではなく、上記水性塗料組成物について挙げられた塗膜形成性樹脂及び硬化剤を用いることができる。着色顔料及び体質顔料についても上記水性塗料組成物について挙げられたものを用いることができる。
被塗装物の電着塗膜の上に上述のシーラー部を形成し、その上に中塗り塗膜(中塗り塗膜を形成しない場合にはベース塗膜)を形成してもよい。シーラー部は、シーリング剤を塗装することにより形成できる。シーリング剤としては、市販のボディーシーラーを用いることができる。
工程(A)において、被塗装物上に水性ベース塗料としての本発明に係る水性塗料組成物を塗装して未硬化のベース塗膜を形成する。水性ベース塗料が塗装される被塗装物の表面は、電着塗膜、シーラー部又は中塗り塗膜の表面である。塗装方法としては、外観向上の観点から、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法が挙げられる。
水性ベース塗料による塗装時の塗膜の膜厚は、一般的には乾燥膜厚で10μm以上30μm以下であることが好ましい。上記乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地を隠蔽することができず膜切れが発生し、30μmを超える場合、鮮映性が低下したり、塗装時にムラあるいはタレ等の不具合が起こるおそれがある。良好な外観の複層塗膜を得るために、クリヤー塗料を塗装する前に、得られた未硬化のベース塗膜を、乾燥のために40~100℃で2~10分間加熱しておくことが好ましい。
続く工程(B)において、水性ベース塗料を塗装して得られるベース塗膜を加熱硬化させることなくその上にクリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する。クリヤー塗膜は、ベース塗膜に起因する凹凸等を平滑にし、保護し、さらに美観を与えるものである。
クリヤー塗膜を形成するためのクリヤー塗料は、特に限定されず、塗膜形成性樹脂及び硬化剤等を含有するクリヤー塗料を利用できる。下地の意匠性を妨げない程度で有れば着色成分をさらに含有することもできる。クリヤー塗料の形態としては、溶剤型、水性型及び粉体型が挙げられる。
溶剤型クリヤー塗料の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の観点から、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂と、アミノ樹脂及び/又はイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂等が挙げられる。
水性型クリヤー塗料の例としては、上記溶剤型クリヤー塗料の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものが挙げられる。この中和は、重合の前又は後に、ジメチルエタノールアミン及びトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
粉体型クリヤー塗料としては、熱可塑性及び熱硬化性粉体塗料のような通常の粉体塗料を用い得ることができる。良好な物性の塗膜が得られるため、熱硬化性粉体塗料が好ましい。熱硬化性粉体塗料の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系及びポリエステル系の粉体クリヤー塗料等が挙げられるが、耐候性が良好なアクリル系粉体クリヤー塗料が特に好ましい。
クリヤー塗料には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、従来から公知のものを使用することができる。クリヤー塗料は、必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含むことができる。
ベース塗膜に対して、クリヤー塗料を塗装する方法としては、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法が挙げられる。
上記クリヤー塗料を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10μm以上80μm以下が好ましく、20μm以上60μm以下であることがより好ましい。上記乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地の凹凸を隠蔽することができず、80μmを超えると塗装時にワキあるいはタレ等の不具合が起こるおそれがある。
このようにして形成された未硬化のクリヤー塗膜は、工程(C)において、先に形成されている未硬化のベース塗膜とともに同時に加熱硬化させることによって硬化塗膜が形成される。加熱硬化温度は、硬化性及び得られる複層塗膜の物性の観点から、80~180℃に設定されていることが好ましく、120~160℃に設定されていることがより好ましい。加熱硬化時間は上記温度に応じて任意に設定することができるが、加熱硬化温度120℃~160℃で時間が10~30分であることが適当である。
本発明に係る複層塗膜形成方法は、被塗装物上に上記中塗り塗料を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成し、これを加熱硬化させることなく、その上に本発明に係る水性塗料組成物(水性ベース塗料)を塗装して未硬化のベース塗膜を形成し、次いで上記クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成して、これらの塗膜を同時に加熱硬化させる3コート1ベークによる複層塗膜形成方法にも関する。このような方法において使用する各種塗料としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
上記複層塗膜形成方法によって得られる硬化されたベース塗膜及び硬化されたクリヤー塗膜を含む複層塗膜は、シーラー部を有する場合においてもリコートにおける高い層間密着性を有し、また、上塗り塗膜とWDBとの間の高い接着性を有する。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。例中の「%」及び「部」は、特記のない限り、それぞれ質量%及び質量部である。
<製造例1:アクリル樹脂エマルションの調製>
反応容器に脱イオン水126.5部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル27.61部、アクリル酸エチル53.04部、スチレン4.00部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル9.28部、メタクリル酸3.07部及びメタクリル酸アリル3.00部からなるモノマー混合物100部、アクアロンHS-10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)0.7部、アデカリアソープNE-20(α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製)0.5部、並びに脱イオン水80部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.3部及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを、反応容器内の攪拌を継続しながら、2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、同温度で2時間、反応容器内の攪拌を継続した。次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、脱イオン水70部及びジメチルアミノエタノール0.32部を加えpH6.5に調整し、平均粒子径120nm、固形分25%、固形分酸価10mgKOH/g、固形分水酸基価40mgKOH/gの単層のアクリル樹脂エマルションを得た。
<製造例2:水溶性アクリル樹脂の調製>
反応容器にトリプロピレングリコールメチルエーテル23.89部及びプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.6部及びメタクリル酸6.9部を含むモノマー混合物100部と、トリプロピレングリコールメチルエーテル10.0部及びターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを、反応容器内の攪拌を継続しながら、3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、同温度で0.5時間、反応容器内の攪拌を継続した。
さらに、トリプロピレングリコールメチルエーテル5.0部及びターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を、反応容器内の攪拌を継続しながら、0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、同温度で2時間、反応容器内の攪拌を継続した。
次に、脱溶剤装置により、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.1部留去した後、脱イオン水204部及びジメチルアミノエタノール7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂溶液を得た。得られた水溶性アクリル樹脂溶液の固形分は30%であり、固形分酸価は40mgKOH/g、固形分水酸基価は50mgKOH/g、粘度は140ポイズ(E型粘度計1rpm/25℃)であった。
<製造例3:水性ポリエステル樹脂の調製>
反応容器にイソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε-カプロラクトン17.5部、ジブチルスズオキサイド0.1部を加え、混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後3時間かけて220℃まで昇温しつつ、酸価8mgKOH/gとなるまで縮合反応により生成する水を除去した。次いで、無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させて、酸価が40mgKOH/gのポリエステル樹脂を得た。さらに、100℃まで冷却後、ブチルセロソルブ11.2部を加え均一になるまで撹拌し、60℃まで冷却後、イオン交換水98.8部、ジメチルエタノールアミン5.9部を加えて、固形分50%の水酸基含有ポリエステル樹脂分散液を得た。得られた水酸基含有ポリエステル樹脂は、固形分酸価が40mgKOH/g、固形分水酸基価が110mgKOH/g、数平均分子量が2870、ガラス転移温度Tgが-3℃であった。
<製造例4:着色顔料ペーストの調製>
シャニンブルーG314(山陽色素社製、フタロシアニン着色顔料)10.5部、製造例2で得られた水溶性アクリル樹脂溶液16.7部(固形分30%)、EFKA4550(EFKA社製、ノニオン系顔料分散剤、固形分50%)10.0部及びイオン交換水31.1部からなる混合物に分散メディアとして直径0.5mmのジルコンビーズを68.3部添加した。これをSGミルを用いて3000rpmにて5時間攪拌した。ジルコンビーズを濾別して、着色顔料ペーストを得た。
<実施例1~8、比較例1~5>
[a]水性塗料組成物の調製
表1の配合処方(質量部)に従い、同表に示す成分を混合・分散させることにより、水性塗料組成物を調製した。表1に示される各成分の数値は、固形分換算量(質量部)である。
なお、比較例4においては、水性塗料組成物のゲル化が生じ、下記[b]~[d]の評価試験を行うことができなかった。
表1に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
(1)アクリル樹脂Em:製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション(固形分25%)
(2)水溶性アクリル樹脂:製造例2で得られた水溶性アクリル樹脂溶液(固形分30%)
(3)ウレタン樹脂:コベストロ社製の水性ウレタン樹脂「Bayhydrol UH2606」(固形分35%)
(4)ポリエステル樹脂:製造例3で得られた水酸基含有ポリエステル樹脂分散液(固形分50%)
(5)親水性メラミン樹脂:三井サイテック社製のメラミン樹脂「サイメル350」(固形分100%、SP値12.42)
(6)疎水性メラミン樹脂:三井サイテック社製のメラミン樹脂「マイコート2677」(固形分78%、SP値10.80)
(7)成分A1:製造例4で得られた着色顔料ペースト
(8)成分A2:三洋化成工業社製のポリエーテルポリオール「プライムポールPX-1000」(ポリオキシプロピレングリコール又はポリオキシプロピレントリオール、固形分100%)
表1中、「ウレタン樹脂の含有率(%)」は、塗膜形成性樹脂及び硬化剤の合計100質量%中のウレタン樹脂の含有率(質量%)を表す。「硬化剤の含有率(%)」は、塗膜形成性樹脂及び硬化剤の合計100質量%中の硬化剤の含有率(質量%)を表す。「親水性メラミン樹脂の含有率(%)」は、メラミン樹脂100質量%中の親水性メラミン樹脂の含有率(質量%)を表す。「アクリル樹脂の含有率(%)」は、塗膜形成性樹脂及び硬化剤の合計100質量%中のアクリル樹脂の含有率(質量%)を表す。
各種測定は下記に従って行った。
〔1〕アクリル樹脂エマルションの平均粒子径
株式会社島津製作所製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置「SALD-2200」を用いて温度25℃で測定した体積平均粒径をアクリル樹脂エマルションの平均粒子径とした。
〔2〕樹脂の固形分酸価
減圧乾燥により得られた樹脂固形分について、JIS K 0070に従う、フェノールフタレインを指示薬とする中和滴定法によって固形分酸価を測定した。
〔3〕固形分水酸基価
固形分水酸基価は、使用したモノマー混合物の酸価及び水酸基価から計算して求めた。
〔4〕樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量
減圧乾燥により得られた樹脂固形分について、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定した。用いた測定装置及び測定条件は次のとおりである。
(測定装置)
Waters社製「Alliance 2695」
(測定条件)
溶離液:10mM LiBr含有DMF
温度:40℃
流速:0.6ml/min
カラム:TSKgel Super AWM-H ×2本
検出器:RI及びUV(265nm)
〔5〕樹脂のガラス転移温度
各モノマーのTgの文献値より計算により求めた。
〔6〕SP値
既述の方法により求めた。
[b]リコートにおける層間密着性の評価
手順1:SPC鋼板(日本テストパネル製、16cm×5cm)に電着塗装を施し、乾燥硬化させることにより、膜厚15μmの電着塗膜を形成した。電着塗装には、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製の電着塗料「PN-1010」を用いた。電着塗膜上に、アイシン化工製のシーラー「SN-2650-2」を塗布し、130℃で12分間乾燥させることにより、膜厚1mmのシーラー部を形成した。
手順2:シーラー部の表面上に、実施例又は比較例で調製した水性ベース塗料としての水性塗料組成物を塗布してベース塗膜を形成し、80℃で3分間プレヒートを行った。続いて、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のクリヤー塗料「O-1860」をベース塗膜上に塗布してクリヤー塗膜を形成した後、130℃で12分間の加熱硬化を行った。加熱硬化後のベース塗膜及びクリヤー塗膜の膜厚はいずれも10μmであった。
手順3:手順2で得られた電着塗膜、シーラー部、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を有する鋼板を23±2℃、50±5%RHの環境下で24時間又は240時間放置した。
手順4:クリヤー塗膜上に、上記と同様にしてベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成し(リコート工程)、鋼板側から順に、電着塗膜、シーラー部、ベース塗膜、クリヤー塗膜、ベース塗膜、クリヤー塗膜を有する試験板を得た。
手順5:得られた試験板を23±2℃、50±5%RHの環境下で24時間以上放置した。
手順6:試験板の塗膜に、カッターで1mmの間隔で縦横11本ずつの切れ目を入れ、その上にセロハンテープ(登録商標)(ニチバン社製)を貼付してはがし、100個のマス目のうち、残存したマス目の数をカウントした。手順3の放置時間が24時間である試験板、240時間である試験板のそれぞれについての結果を表1に示す。
[c]ウインドダイレクトボンド(WDB)接着性の評価1
手順1:SPC鋼板(日本テストパネル製、35mm×150mm)に電着塗装を施し、乾燥硬化させることにより、膜厚15μmの電着塗膜を形成した。電着塗装には、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製の電着塗料「PN-1010」を用いた。電着塗膜上に、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製の水性中塗り塗料「AR-630-X」を塗布して中塗り塗膜を形成し、80℃で3分間プレヒートを行った。続いて、実施例又は比較例で調製した水性ベース塗料としての水性塗料組成物を塗布してベース塗膜を形成し、80℃で3分間プレヒートを行った。その後、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のクリヤー塗料「O-1860」をベース塗膜上に塗布してクリヤー塗膜を形成した後、140℃で18分間の加熱硬化を行った。加熱硬化後の中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜の膜厚はそれぞれ20μm、13μm、35μmであった。
手順2:クリヤー塗膜の表面に横浜ゴム社製のボンド「Hamatite WS-373」を帯状に塗布した後、ボンドの上に離型紙を置き、離型紙の上から圧力を印加しながら室温で72時間ボンドを硬化させて試験板を得た。試験板が有するボンドの膜厚は3mmとした。
手順3:試験板を40℃の温水中に240時間浸漬した後、室温と同じ温度の水に1~2時間浸漬して試験板を冷却した。
手順4:治具に試験板を固定し、ボンドの端部を塗膜面(水平面)から90°以上の角度でボンドが凝集破壊するまで引っ張り上げた。
手順5:ボンドが凝集破壊している箇所にカッターナイフの刃を塗膜面(水平面)から60°の角度で素地に達する深さまで入れた。カッターナイフによる切れ目は、帯状のボンドにおける幅方向一端から他端にわたる。
手順6:カッターナイフの刃を入れた線(帯状のボンドにおける幅方向一端から他端にわたる線)上で、塗膜が剥がれている部分の長さを定規で測るとともに、塗膜が剥がれている部分の面積を求めて、下記の基準に基づいてWDBの接着性を評価した。塗膜が剥がれている場合、その部分は、ベース塗膜に凝集破壊が生じている箇所である。
手順7:カッターナイフの刃で入れた切れ目のボンドの端面を手順4と同様に引っ張り上げ、切れ目から2~3mmの間隔をあけて手順5と同様にしてカッターナイフの刃で切れ目を入れ、手順6と同様にして評価することを数回繰り返した。
手順8:上記の手順による複数回の評価結果に基づき、下記の基準に従って総合的に評価した。評価結果を表1に示す。
A:剥れが全く認められない。
B:1mm未満の剥がれが認められる。
C:1mm以上2mm未満の剥がれが認められる。
D:2mm以上の剥れが認められるが、剥がれた面積は全体の50%未満である。
E:全体の50%以上70%未満の剥がれが認められる。
F:全体の70%以上100%未満の剥がれが認められる。
G:100%の剥がれが認められる。
[d]ウインドダイレクトボンド(WDB)接着性の評価2
上記[c]の手順3において、試験板を40℃の温水中に240時間浸漬する代わりに、日本ケミカル工業社製の「ニッケミ ウィンドウォッシャーフルードJCW-34」と脱イオン水とを1:1で混合した室温の混合液中に240時間浸漬したこと以外は、上記[c]と同様にしてWDBの接着性を評価した。評価結果を表1に示す。
[e]貯蔵安定性の評価
水性塗料組成物を40℃の保温庫で1週間静置したのちの状態を、下記の基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
A:増粘が認められない。
B:若干の増粘が認められる。
C:著しい増粘が認められる。
Figure 0007534265000001

Claims (7)

  1. 塗膜形成性樹脂、硬化剤及び顔料を含有する水性塗料組成物であって、
    前記塗膜形成性樹脂は、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含み、
    前記アクリル樹脂は、アクリル樹脂エマルション及び水溶性アクリル樹脂を含み、
    前記ウレタン樹脂の含有率は、前記塗膜形成性樹脂及び前記硬化剤の合計100質量%中、5質量%以上15質量%以下であり、
    前記硬化剤は、メラミン樹脂を含み、
    前記メラミン樹脂は、疎水性メラミン樹脂及び親水性メラミン樹脂を含み、
    前記硬化剤の含有率は、前記塗膜形成性樹脂及び前記硬化剤の合計100質量%中、40質量%以上60質量%以下である、水性塗料組成物。
  2. 前記疎水性メラミン樹脂は、溶解性パラメーターSPが9.0以上11.0未満であり、
    前記親水性メラミン樹脂は、溶解性パラメーターSPが11.0以上15.0未満である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
  3. 前記親水性メラミン樹脂の含有率は、前記メラミン樹脂100質量%中、55質量%以上75質量%以下である、請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
  4. 前記アクリル樹脂の含有率は、前記塗膜形成性樹脂及び前記硬化剤の合計100質量%中、10質量%以上30質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
  5. 前記塗膜形成性樹脂は、ポリエステル樹脂をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物から形成される塗膜。
  7. 被塗装物上に水性ベース塗料を塗装して未硬化のベース塗膜を形成する工程と、
    前記未硬化のベース塗膜の上にクリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、
    前記未硬化のベース塗膜と前記未硬化のクリヤー塗膜とを同時に加熱硬化させる工程と、
    を含む複層塗膜形成方法であって、
    前記水性ベース塗料は、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である、複層塗膜形成方法。
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