以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1~図11は、本実施形態に係る止血器具100を説明するための図、図12~図19は、止血器具100の使用例を説明するための図である。
止血器具100は、例えば、図12~図19に示すように、患者の前腕部Aよりも遠位側(指先側)に位置する手Hに形成された穿刺部位(例えば、後述する各穿刺部位p1、p2)に留置していたイントロデューサー300のシースチューブを抜去する際、その穿刺部位を止血するために使用することができる。
止血器具100の止血対象となる穿刺部位の具体的な位置は特に限定されないが、本実施形態では下記の第1穿刺部位p1及び第2穿刺部位p2を例示する。
第1穿刺部位p1は、図12~図17に示すように、患者の前腕部Aよりも遠位側に位置する右手H1(手H)の甲Hb側を走行する手掌動脈のスナッフボックスに位置する動脈B1(以下、「血管B1」とも称する)に形成された穿刺部位である。なお、スナッフボックスは、患者が手Hの親指を広げた際に橈骨付近に位置する手の空洞である。
第2穿刺部位p2は、図12、図18、図19に示すように、患者の右手H1の甲Hb側を走行する手掌動脈のスナッフボックスよりも遠位側に位置する遠位橈骨動脈B2(以下、「血管B2」とも称する)に形成した穿刺部位である。第2穿刺部位p2は、患者の右手H1の甲Hbに位置する長母指伸筋腱t1を基準にして第1穿刺部位p1よりも右手H1の遠位側に位置する。
なお、図9には、患者の右手H1に形成された第1穿刺部位p1及びその周辺部を含む第1穿刺スポットs1と、患者の右手H1に形成された第2穿刺部位p2及びその周辺部を含む第2穿刺スポットs2を例示している。
第1穿刺スポットs1は、スナッフボックス周辺の所定の範囲を含む。第1穿刺スポットs1は、患者の右手H1の遠位側に向けて先細る略二等辺三角形の形状を有する。また、第1穿刺スポットs1には、患者が右手H1の親指を広げた際、長母指伸筋腱t1よりも患者の右手H1の内側に窪む凹部が形成される。
第2穿刺スポットs2は、長母指伸筋腱t1を基準にしてスナッフボックスよりも患者の右手H1の遠位側の所定の範囲を含む。第2穿刺スポットs2は、患者の右手H1の近位側に向けて先細る略二等辺三角形の形状を有する。また、第2穿刺スポットs2には、患者が右手H1の親指を広げた際、長母指伸筋腱t1よりも患者の右手H1の内側に窪む凹部が形成される。
明細書の説明では、患者の右手H1に形成された第1穿刺部位p1を単に「第1穿刺部位p1」とも記載し、患者の右手H1に形成された第2穿刺部位p2を単に「第2穿刺部位p2」とも記載する。
以下、止血器具100について詳述する。
止血器具100は、概説すると、図1、図2、図5、図16、図17に示すように、第1穿刺部位p1を覆うように構成された支持部材110と、支持部材110を第1穿刺部位p1に固定するように構成された固定部材120と、支持部材110に接続され、第1穿刺部位p1を圧迫するように構成された押圧部材170と、を有する。
<支持部材>
支持部材110は、図5、図6、図11に示すように、支持部材110の外表面110b側へ向けて凸状に湾曲した湾曲部115と、支持部材110の内表面110aと支持部材110の外表面110bの間を貫通し、押圧部材170の一部を挿通可能な溝部117と、を備える。
上記の「支持部材110の外表面110b側」とは、支持部材110を患者の右手H1に配置した際、患者の右手H1の体表面側から離間する方向であり、図6、図17に示す断面図の上方側である。
支持部材110の内表面110aは、支持部材110を患者の右手H1に配置した際、患者の右手H1の体表面側に配置される面である。支持部材110の外表面110bは、内表面110aの反対側に位置する面である。
支持部材110の先端部111aは、図16、図18に示すように、止血器具100を患者の右手H1に装着した際に、各穿刺部位p1、p2よりも患者の右手H1の遠位側の位置に配置される部分である。支持部材110の基端部111bは、図16、図18に示すように、止血器具100を患者の右手H1に装着した際に、各穿刺部位p1、p2よりも患者の右手H1の近位側(前腕部A側)の位置に配置される部分である。
支持部材110の先端部111aから基端部111bに向かう長軸方向(図5の上下方向)に対して交差する方向(図5の左右方向)における支持部材110の各端部は「支持部材110の一端部112a」及び「支持部材110の他端部112b」とする。
支持部材110の幅は、図5に示すように、一端部112a側から他端部112b側に向かって次第に大きくなっている。
図11に示すように、支持部材110の基端部111bは、支持部材110を患者の右手H1に配置した際に患者の右手H1から離間する方向(図17の断面図の上方向)へ向けて凸状に湾曲している。
支持部材110は、図6に示す断面の左右両側(図5、図11に示す一端部112a及び他端部112bの両側)から支持部材110の中心位置c1側に向けて凸状に湾曲した湾曲部115が形成されている。
図5、図11に示すように、湾曲部115の最も湾曲した部分に位置する頂部115aは、溝部117を横切るようにして、支持部材110の先端部111aと基端部111bの間を延在している。
溝部117は、図5、図11に示すように、湾曲部115と交差しつつ、第1帯体部130側から第2帯体部140側へ向かって延在している。具体的には、溝部117は、湾曲部115の頂部115aの位置を基準にして、支持部材110の先端部111a側と支持部材110の基端部111b側とに跨って連続的に延在している。
本明細書において「溝部117が湾曲部115に対して交差する」とは、図11に示すように、溝部117が湾曲部115の頂部115aに対して交差することを意味する。
溝部117は、図5、図11に示すように、支持部材110上の第2帯体部140側の周縁部113に位置する。上記の「第2帯体部140側の周縁部113」は、支持部材110の面方向における略中心位置c1の周囲を囲む周縁部のうち、第2帯体部140の第1の一端部131の接続位置に近接した部分である。
溝部117は、図5に示すように、第1帯体部130側から第2帯体部140側に向かって延びる溝部本体117aと、把持部190の移動を規制するために設けられた第1係止溝117b及び第2係止溝117cと、を有する。
第2係止溝117cは、溝部117の長軸方向を基準にして、湾曲部115の頂部115aを間に挟んで、第1係止溝117bと反対側に位置する。本実施形態では、第2係止溝117cは、溝部117の第2帯体部140側に位置する第2端部118cに形成されている。第1係止溝117bは、溝部117の第1帯体部130側に位置する第1端部118bに形成されている。
第1係止溝117b及び第2係止溝117cは、溝部本体117aよりも大きな幅を有する。上記の「幅」は、溝部117の長軸方向に対して交差する方向の寸法である。
各係止溝117b、117cは、把持部190の挿通部193の回転(図8、図10の矢印r1、r1’で示す回転)を許容する形状及び大きさを持つ。
溝部本体117aは、溝部117に挿通される把持部190の挿通部193の向きに応じて溝部本体117aに沿った把持部190の移動を許容又は規制する。
図9に示すように、把持部190の挿通部193の長軸方向が溝部本体117aの長軸方向と一致した状態では、挿通部193は溝部本体117aに沿って移動可能である(図9を参照)。
また、図10に示すように、第1係止溝117bにおいて、挿通部193の長軸方向が溝部本体117aの長軸方向に対して交差するように配置された状態では、第1係止溝117bから溝部本体117aへの挿通部193の移動が規制される。それにより、止血器具100は、溝部本体117aに沿った把持部190及び押圧部180の移動を規制できる。
同様に、図10に示すように、第2係止溝117cにおいて、挿通部193の長軸方向が溝部本体117aの長軸方向に対して交差するように配置された状態では、第2係止溝117cから溝部本体117aへの挿通部193の移動が規制される。それにより、止血器具100は、溝部本体117aに沿った把持部190及び押圧部180の移動を規制できる。
支持部材110は、所定の硬さを有する材料で構成することが好ましい。支持部材110が所定の硬さを有するように構成されている場合、図17、図19に示すように第1穿刺部位p1及び第2穿刺部位p2に対して押圧部180が圧迫力を付与する際、支持部材110が患者の右手H1に対して押圧部180を押さえ付けることができる。それにより、押圧部180が患者の右手H1から浮き上がることを防止できる。
上記のような硬さを備える支持部材110の構成材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を用いることができる。
<固定部材>
固定部材120は、図1、図5、図16に示すように、患者の右手H1の指同士の間に配置するように構成され、第1方向に延在する第1帯体部130と、第1方向と異なる方向に延在する第2帯体部140と、第1方向及び第2方向と異なる第3方向に延在する第3帯体部150と、を備える。第3帯体部150は、支持部材110を挟んで、第2帯体部140と対向する位置に配置される。
第1帯体部130は、図16に示すように、患者の右手H1の一部を覆うように支持部材110を配置した状態で、患者の右手H1の親指と人差し指の間に位置する指間部fbに引っ掛けるように配置することができる。
第2帯体部140及び第3帯体部150は、図13~図16に示すように、患者の右手H1の一部を覆うように支持部材110を配置した状態で、患者の右手H1の外周に沿って巻き付けるように配置することができる。
第1帯体部130は、図1、図2に示すように、支持部材110に接続された第1の一端部131と、支持部材110とは接続されていない自由な第1の他端部133と、第1の一端部131と第1の他端部133との間に延在する第1の本体部135と、を有する。
第2帯体部140は、図1、図2に示すように、支持部材110に接続された第2の一端部141と、支持部材110とは接続されていない自由な第2の他端部143と、第2の一端部141と第2の他端部143との間に延在する第2の本体部145と、を有する。
図1、図5に示すように、第2帯体部140は、支持部材110から溝部117の長軸方向と交差する方向に延在している。つまり、第2帯体部140の第2の本体部145の延在方向は、溝部117の長軸方向に対して交差している。
図5に示すように、第2帯体部140の支持部材110側に配置された第2の一端部141は、溝部117の第1端部118bよりも支持部材110の先端部111a側の位置、及び溝部117の第2端部118cよりも支持部材110の基端部111b側の位置で、支持部材110と接続されている。
本実施形態では、第2帯体部140の第2の一端部141の幅W1は、溝部117の長軸方向に沿う長さL1よりも長く形成されている。また、支持部材110上において第2帯体部140の第2の一端部141の幅方向の各端部は、溝部117の各端部118b、118cよりも支持部材110の先端部111a側及び支持部材110の基端部111b側に位置する。
第3帯体部150は、図1、図2に示すように、支持部材110に接続された第3の一端部151と、支持部材110とは接続されていない自由な第3の他端部153と、第3の一端部151と第3の他端部153との間に延在する第3の本体部155と、を有する。
各帯体部130、140、150の各一端部131、141、151は、例えば、図5に示すように、支持部材110の外表面110bに接着や溶着で接続することができる。
各帯体部130、140、150の構成材料は特に限定されないが、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等で構成することができる。また、各帯体部130、140、150の形状、長さ、厚み、支持部材110に対する接続位置、各帯体部130、140、150の間の角度等について特に制限はない。
止血器具100は、図1、図2、図3、図4に示すように、第1固定部位161、第2固定部位162、第3固定部位163、第4固定部位164、第5固定部位165の5つの固定部位を備える。
図1、図3に示すように、第2帯体部140の外面には第1固定部位161を配置している。第3帯体部150の外面には第2固定部位162を配置している。
図2、図4に示すように、第2帯体部140の内面には第3固定部位163を配置している。第1帯体部130の内面には第4固定部位164を配置している。第3帯体部150の内面には第5固定部位165を配置している。
各帯体部130、140、150の「内面」は、止血器具100を患者に装着した際に患者の体表面側に配置される面であり、各帯体部130、140、150の「外面」は、内面と反対側に位置する面である。
第1固定部位161及び第2固定部位162は、面ファスナーの雄側で構成している。第3固定部位163、第4固定部位164、及び第5固定部位165は、面ファスナーの雌側で構成している。本明細書における面ファスナーは、面的に着脱可能なファスナーであり、例えば、Magic Tape(登録商標)やVelcro(登録商標)である。
なお、各固定部位161、162、163、164、165は、止血器具100を患者の右手H1に配置した状態で各帯体部130、140、150同士を接続することにより、支持部材110を患者の右手H1に固定することが可能な限り、具体的な構造は限定されない。例えば、一部の固定部材の設置の省略や各帯体部130、140、150において固定部材を配置する位置の変更等は任意に行いうる。また、各固定部位161、162、163、164、165を面ファスナーで構成する場合、面ファスナーの雄側と雌側を入れ替えた構成としてもよい。また、各固定部位161、162、163、164、165は、例えば、スナップ、ボタン、クリップ、孔や突起が形成された枠部と当該枠部に対して係合可能な孔部が形成された被係合部を備える連結機構等であってもよい。
<押圧部材>
押圧部材170は、図5、図6、図7、図16、図17に示すように、第1穿刺部位p1を圧迫するように構成された押圧部180と、押圧部180と接続し、支持部材110の溝部117を介して支持部材110の外表面110b側に突出する把持部本体191を備える把持部190と、を有する。
押圧部材170は、図9に示すように、支持部材110に形成された溝部117に沿って支持部材110上を移動可能に構成されている。
<押圧部>
押圧部180は、例えば、空気等の流体が流入可能な内腔183を備える樹脂製のバルーン(拡張部材)で構成することができる。図6、図7、図17、図19には、押圧部180が拡張された状態の断面図を示している。
なお、押圧部180は、第1穿刺部位p1に対して圧迫力を付与可能な限り、具体的な構造は特に限定されず、バルーン(拡張部材)以外で構成されていてもよい。バルーン以外の部材としては、例えば、プラスチック等の樹脂材料やゲル等で構成された部材、時間経過に応じて含水率が低下して圧迫力を徐々に減少させるゲルを含む部材、スポンジ状の物質等の弾性材料、綿(わた)のような繊維の集合体、金属、所定の立体形状を備える部材(球状、楕円体、三角錐等)、これらを適宜組み合わせたもの等を用いることができる。
押圧部180の内腔183には、後述するチューブ203(図1を参照)が連結されている。
押圧部180は、図6、図7に示すように、支持部材110の内表面110a側に配置される。
押圧部180は、図7に示すように、把持部190の接続部195に接続することができる。押圧部180と接続部195の接続には、例えば、融着や接着を採用することができる。接続部195は、例えば、樹脂製の板状部材やシート状部材で構成することができる。
押圧部180は、図1~図5に示す平面視において、円形を有する。ただし、平面視における押圧部180の形状は円形に限定されない。
また、押圧部180の拡張前後における断面形状、押圧部180の構成材料、押圧部180の具体的な構造等についても特に制限はない。例えば、押圧部180の外面(止血器具100を患者の右手H1に装着した際に、患者の右手H1の体表面側に配置される面)には、患者の右手H1の体表面に対する密着性を高めるためのゲル等を配置することができる。
押圧部180には、図5、図16、図17に示すように、押圧部180を第1穿刺部位p1に位置合わせするためのマーカー185を配置することができる。
マーカー185は、図6、図7に示すように、押圧部180の外面に配置している。また、マーカー185は、図5に示すように、押圧部180の面方向の中心位置に配置している。
マーカー185は、例えば、マーカー185全体が有色で形成された矩形形状のマーカーで形成することができる。なお、マーカー185の具体的な形状、色、形成方法、押圧部180に形成する位置等は特に限定されない。例えば、マーカー185は、透明な中心部と、その中心部を囲む有色の線状の枠部とから構成されてもよい。
<把持部>
把持部190は、図6、図7に示すように、支持部材110の外表面110b側に配置され、手指での把持が可能に構成された把持部本体191と、把持部本体191と接続され、溝部117に挿通された挿通部193と、挿通部193と押圧部180を接続する接続部195と、を有する。
図8~図10に示すように、把持部本体191は、溝部117の各部117a、117b、117cよりも大きな外形を有する。そのため、把持部本体191は、把持部本体191が溝部117を通り抜けて支持部材110の外表面110b側から支持部材110の内表面110a側へ移動することを防止できる。
把持部本体191の外形は、例えば、平行四辺形に形成することができる。把持部本体191の外形が平行四辺形に形成されている場合、例えば、図9に示すように溝部本体117aに沿って把持部190を移動させる際、平行四辺形の長辺を溝部本体117aの長軸方向と平行に配置することができる。術者は、このように配置された把持部本体191の向きを目視で確認することにより、押圧部180が溝部本体117aに沿って移動可能な状態であることを簡単に確認することができる。
図5に示すように、把持部190は、把持部本体191が押圧部180の中心からオフセットした状態で押圧部180と固定されている。上記の「押圧部180の中心」は、押圧部180の面方向の中心であり、本実施形態ではマーカー185が配置された位置である。
挿通部193は、長軸方向及び短軸方向を有する楕円形の平面形状を有する。本実施形態では、挿通部193の長軸方向の寸法は、溝部本体117aの幅よりも大きく形成されており、各係止溝117b、117cの幅よりも小さく形成されている。そのため、止血器具100は、図8、図10に示すように、各係止溝117b、117cに挿通部193を配置した状態において、挿通部193を図中の矢印r1、r1’で示す方向に回転させることができる。止血器具100は、各係止溝117b、117cで挿通部193を回転させることにより、挿通部193と接続された把持部本体191及び押圧部180を回転させることができる。
術者は、図8、図10に示すように、挿通部193を各係止溝117b、117c内に配置し、挿通部193の長軸方向が溝部本体117aの長軸方向と交差するように挿通部193を配置することにより、挿通部193が各係止溝117b、117cから溝部本体117aへ移動することを防止できる。それにより、止血器具100は、把持部190が溝部本体117aに沿って移動することを規制できる。一方で、術者は、各係止溝117b、117c内に挿通部193を配置した状態で、把持部本体191を手指で把持して回転させ、挿通部193の長軸方向を溝部本体117aの長軸方向に対して平行に配置することにより、図9の矢印a1、a1’で示すように、溝部本体117aの長軸方向に沿って挿通部193を移動させることができる。術者は、把持部本体191を溝部本体117aの長軸方向に沿って移動させることにより、把持部190と接続された押圧部180を溝部本体117aに沿って移動させることができる。
止血器具100は、溝部117が湾曲部115に対して交差しているため、図8、図9に示すように、溝部117に沿って押圧部180を移動させることにより、湾曲部115の頂部115aを基準にして支持部材110の先端部111a側に位置する溝部117の第1端部118b側に押圧部180を配置したり、湾曲部115を間に挟んで溝部117の第1端部118bよりも基端部111b側に位置する溝部117の第2端部118c側に押圧部180を配置したりすることができる。そのため、患者の右手H1に形成された第1穿刺部位p1や第2穿刺部位p2(図12を参照)に対して押圧部180を適切に配置することができる。
図11、図12、図16、図18に示すように、第1穿刺部位p1と第2穿刺部位p2は、支持部材110の湾曲部115の頂部115aに沿う線を挟んで、支持部材110の湾曲部115の頂部115aに沿う線と直交する方向に所定距離離れている。そのため、溝部117の長軸方向が支持部材110の湾曲部115の頂部115aに沿う線と平行な方向に延びている場合、止血器具100は、第1穿刺部位p1及び第2穿刺部位p2のうちの一方の穿刺部位しか止血できない可能性がある。
また、図11、図12、図16、図18に示すように、第1穿刺部位p1と第2穿刺部位p2は、支持部材110の湾曲部115の頂部115aに沿う線に対して左右対称ではない(上下方向にズレている)。そのため、溝部117の長軸方向が支持部材110の湾曲部115の頂部115aに沿う線に対して直交する方向と平行に延びている場合、止血器具100は、第1穿刺部位p1及び第2穿刺部位p2のうちの一方の穿刺部位しか止血できない可能性がある。
支持部材110、押圧部180、及び接続部195の各々において、図6、図7、図17に示す平面視で互いに重なる部分は、例えば、透明に形成することができる。このように支持部材110、押圧部180、及び接続部195を構成した場合、図13~図16に示すように、止血器具100を患者の右手H1に装着する際、術者が各部110、180、195を介してマーカー185及び/又は第1穿刺部位p1の位置を目視で簡単に確認することが可能になる。なお、上記の「透明」には、有色透明、無色透明、半透明が含まれる。
<注入部>
押圧部材170は、図1、図2に示すように、押圧部180の内腔183に流体を注入するための注入部201を有する。
注入部201は、逆止弁(図示せず)を内蔵するコネクタで構成している。注入部201にはシリンジ(図示せず)を接続することができる。
注入部201と押圧部180との間には、拡張可能な空間を有する緩衝部材202を配置している。緩衝部材202は、内部に空間が形成された可撓性を備える袋状の部材で構成している。なお、緩衝部材202には注入部201へのシリンジの挿入方向を示す矢印状のマーカーを設けてもよい。
緩衝部材202の一端側には注入部201を接続している。注入部201の内腔は、緩衝部材202の空間と連通している。ただし、注入部201に内蔵された逆止弁が閉じている間は、注入部201の内腔と緩衝部材202の空間との連通は遮断されている。
緩衝部材202の他端側には可撓性を備えるチューブ203が接続されている。チューブ203の内腔は、緩衝部材202の空間と連通している。また、チューブ203は、緩衝部材202と接続された一端部と反対側の他端部が押圧部180に接続されている。チューブ203の内腔は、押圧部180の内腔183と連通している。
術者は、押圧部180を拡張させる際、注入部201にシリンジ(図示せず)の先筒部を挿入して逆止弁を開く。術者は、注入部201の逆止弁を開いた状態で、シリンジの押し子を押すことにより、シリンジ内の空気を押圧部180の内腔183に注入する。
押圧部180の内腔183に空気が注入されると、押圧部180が拡張する。押圧部180が拡張すると、チューブ203を介して押圧部180の内腔183と連通する緩衝部材202が膨張する。術者は、緩衝部材202の膨張を目視により確認することにより、空気が漏れること無く、押圧部180が拡張したことを簡単に把握することができる。
術者は、押圧部180を収縮させる際、注入部201にシリンジの先筒部を挿入して、シリンジの押し子を引く。術者は、上記の操作を行うことにより、押圧部180の内腔183の空気をシリンジへ排出することができる。
なお、注入部201、緩衝部材202、及びチューブ203は、押圧部材170と連結れた状態で準備及び提供されるようにしてもよいし、押圧部材170とは分離された状態で準備及び提供されるようにしてもよい。
<止血器具の使用例>
次に、図12~図17を参照して、止血器具100の第1使用例を説明する。
第1使用例では、図12に示す患者の右手H1に形成した第1穿刺部位p1を止血する際の止血器具100の使用手順を説明する。
図13には、第1穿刺部位p1にイントロデューサー300のシースチューブを挿入して各種の手技を実施し終えた状態を示している。
術者は、第1穿刺部位p1を止血するに際し、溝部117の第2係止溝117cに把持部190の挿通部193を配置する。術者は、把持部本体191を手指で操作し、挿通部193の長軸方向を溝部本体117aの長軸方向に対して交差するように配置する(図8を参照)。術者は、上記のように挿通部193を配置することにより、把持部190に接続された押圧部180が不用意に溝部本体117aに沿って移動することを防止できる。
術者は、支持部材110の外表面110b側で把持部190を把持及び操作することができる。そのため、術者が把持部190を操作して押圧部180の位置を調整する際、支持部材110の内表面110a側に術者の手指が触れることを防止できる。そのため、止血器具100の接液部分(支持部材110の内表面110a側に配置された押圧部180等)を清潔に保つことができる。
術者は、第2係止溝117cに把持部190の挿通部193を配置した状態で、図13に示すように、患者の右手H1の甲Hbの一部に支持部材110を重ねるように配置する。この際、術者は、押圧部180に配置されたマーカー185の位置を目視で確認しつつ、マーカー185を第1穿刺部位p1に配置することにより、押圧部180を第1穿刺部位p1に適切に配置することができる。
止血器具100では、溝部117が支持部材110上の第2帯体部140側の周縁部113に位置する(図5、図11を参照)。そのため、止血器具100は、術者が第1穿刺部位p1にマーカー185を配置する際、溝部117によってマーカー185及び第1穿刺部位p1の視認性が低下することを防止できる。
また、把持部190は、把持部本体191がマーカー185が位置する押圧部180の中心からオフセットした状態で押圧部180と固定されている(図5を参照)。そのため、止血器具100は、術者が第1穿刺部位p1にマーカー185を配置する際、把持部本体191によってマーカー185及び第1穿刺部位p1の視認性が低下することを防止できる。
術者は、支持部材110を患者の右手H1の甲Hbに配置する際、支持部材110の湾曲部115の頂部115aを長母指伸筋腱t1に重ねるように配置することができる(図17を参照)。
なお、術者は、イントロデューサー300を使用した手技を終えた後、止血器具100を患者の右手H1に装着する前に、第1穿刺部位p1からイントロデューサー300のシースチューブの一部を引き抜いてもよい。術者は、例えば、イントロデューサー300のシースチューブが血管B1(図17を参照)に留置された状態で、術者の手元側にシースチューブを2~3cm程度引き抜いた後、止血器具100の装着作業を開始することができる。
術者は、図14、図15に示すように、第2帯体部140及び第3帯体部150を患者の右手H1の外周に沿って巻き付ける。この際、術者は、各帯体部140、150を患者の右手H1の近位側の部分(前腕部A側の部分)に巻き付けることができる。術者は、各帯体部140、150を患者の右手H1の近位側の部分に巻き付けることにより、患者の右手H1の遠位側の部分が各帯体部140、150で拘束されることを防止できる。なお、上記の「患者の手H(右手H1)の遠位側の部分」は、各指及び親指の付け根の関節から手首までの手Hの掌を含む部分である。
術者は、図14、図15に示すように、第2帯体部140の外面に配置された第1固定部位161(図1を参照)を第3帯体部150の内面に配置された第5固定部位165(図2を参照)と接触させることにより、各固定部位161、165を介して、第2帯体部140と第3帯体部150を接続することができる。
術者は、図16に示すように、第1帯体部130を患者の右手H1の親指と人差し指の間に位置する指間部fbに通しつつ、第1帯体部130の一部を患者の右手H1の掌側に配置する。この際、術者は、第1帯体部130の内面に配置された第4固定部位164(図2を参照)を第3帯体部150の外面に配置された第2固定部位162(図1を参照)と接触させることにより、各固定部位162、164を介して、第1帯体部130と第3帯体部150を接続することができる。
術者は、以上のように、第2帯体部140及び第3帯体部150を患者の右手H1の外周に沿って巻き付けるように配置し、さらに患者の右手H1の親指と人差し指の間の指間部fbに第1帯体部130の一部を引っ掛けて配置することにより、止血器具100が患者の右手H1から位置ずれすることを効果的に防止することができる。
術者は、注入部201(図1を参照)にシリンジを接続する。術者は、シリンジを使用して押圧部180に空気を注入することにより、押圧部180を拡張させる。止血器具100は、図17に示すように、押圧部180が拡張すると、押圧部180が第1穿刺部位p1に対して圧迫力を付与する。
止血器具100は、湾曲部115を患者の右手H1の外周に沿うように配置した状態で押圧部180が拡張すると、湾曲部115の周辺部が押圧部180を湾曲部115側に向けて斜め方向(図17の矢印z1を参照)に押し付ける。そのため、押圧部180が拡張した際、押圧部180は、第1穿刺部位p1が形成された周囲の皮下組織を第1穿刺部位p1側に向けて押し付けることができる。そのため、押圧部180は、第1穿刺部位p1に対して効果的に圧迫力を付与することができる。
また、図16、図17に示すように、第2係止溝117c(図8を参照)に挿通部193を配置した状態で、第1穿刺部位p1に押圧部180を配置すると、湾曲部115の頂部115aを挟んで第2係止溝117cよりも第1係止溝117b側に配置された支持部材110の一部が、図17に示す矢印z2方向で患者の右手H1の皮下組織を圧迫する。そのため、止血器具100は、支持部材110が患者の右手H1に固定された状態で、支持部材110の一部により、第2係止溝117c付近に位置する第1穿刺部位p1側に向けて患者の右手H1の皮下組織を圧迫することができる。それにより、押圧部180は、第1穿刺部位p1に対して効果的に圧迫力を付与することができる。
本実施形態に係る止血器具100では、長母指伸筋腱t1に湾曲部115の頂部115aを配置することにより、支持部材110が患者の右手H1から浮き上がることを防止できる。
例えば、長母指伸筋腱t1に湾曲部115以外の支持部材110の他の部分(平坦な部分)が配置されると、患者の右手H1の外周に沿うように支持部材110を配置することができず、支持部材110が長母指伸筋腱t1によって患者の右手H1から浮き上がってしまう。このように支持部材110を配置した状態で押圧部180が拡張した場合、押圧部180は第1穿刺部位p1に対して効果的に圧迫力を付与することができなくなる。特に、止血器具100は、支持部材110が患者の右手H1から浮き上がることを防止した状態で押圧部180の拡張を開始させることにより、押圧部180の拡張量が小さい段階(押圧部180が低圧下で拡張した段階)においても、第1穿刺部位p1に対して効果的に圧迫力を付与することができる。
止血器具100では、把持部190は、把持部本体191が押圧部180の中心からオフセットした状態で押圧部180と固定されている。そのため、図16、図17に示すように押圧部180が第1穿刺部位p1を圧迫する際、押圧部180は把持部本体191よりも支持部材110の中心位置c1側に近接した位置に配置される。止血器具100は、押圧部180が支持部材110の中心位置c1に近接した位置で拡張することにより、押圧部180の拡張力が支持部材110の周縁部に付与されることで支持部材110の傾きが発生することを防止できる。それにより、止血器具100は、押圧部180が拡張した状態で、押圧部180が第1穿刺部位p1に付与する圧迫力の逃げが生じることを防止できる。
また、例えば、接続部195が可撓性を有する材料(例えば、押圧部180と同様の材料)で構成されている場合、押圧部180が拡張した際、接続部195を介して押圧部180の圧迫力が溝部117から上方側に向けて逃げてしまい、圧迫力を第1穿刺部位p1に対して効果的に付与できなくなる可能性がある。前述したように、止血器具100は、把持部本体191が押圧部180の中心からオフセットした状態で押圧部180と固定されているため、支持部材110で押圧部180を効果的に支持することができ、圧迫力の逃げが生じることを防止できる。
支持部材110の基端部111bは、右手H1の体表面側から離間する方向へ向けて凸状に湾曲している(図11を参照)。そのため、止血器具100が患者の右手H1に装着された状態で、患者が手首を捻って右手H1を手の甲Hbが前腕部Aに近接する方向(上方向)に動作させた際、基端部111b側に位置する支持部材110の周縁部が患者の右手H1に当接することを防止できる。それにより、止血器具100は、第1穿刺部位p1を止血している間、支持部材110の基端部111b側に位置する周縁部が患者の右手H1に当接したり、食い込んだりすることによって患者が不快に感じたり、痛みを感じたりすることを防止できる。
術者は、押圧部180を拡張させた後、図16に示すようにイントロデューサー300のシースチューブを第1穿刺部位p1から抜去する。術者は、止血器具100を使用して止血を行っている間、第1穿刺部位p1から出血がないことを確認する。術者は、第1穿刺部位p1から出血がある場合、押圧部180への空気の注入量を調整する。
術者は、以上の手順により、止血器具100を使用して第1穿刺部位p1を止血することができる。
次に、止血器具100の第2使用例を説明する。
図18、図19には、止血器具100の第2使用例を示している。第2使用例は患者の右手H1に形成した第2穿刺部位p2を止血する際の止血器具100の使用例である。なお、第2使用例の説明では、第1使用例で既に説明した内容は適宜省略する。
術者は、図18に示すように、患者の右手H1に形成された第2穿刺部位p2を止血するに際し、止血器具100を患者の右手H1に装着させる。第2穿刺部位p2は、前述した第1穿刺部位p1よりも患者の右手H1の遠位側に位置する(図12を参照)。
術者は、支持部材110を患者の右手H1の甲Hbに配置するのに先立ち、把持部本体191を把持及び操作し、溝部本体117aに沿って第1係止溝117bまで把持部本体191を移動させる(図8~図9を参照)。術者は、把持部190を移動させることにより、把持部190と接続された押圧部180を支持部材110の第2穿刺部位p2に対応した位置に配置することができる。
術者は、挿通部193が第1係止溝117bに配置された状態で把持部本体191を回転させることにより、挿通部193の長軸方向が溝部本体117aの長軸方向に対して交差するように挿通部193の向きを調整する。術者は、このように把持部190を配置することにより、圧迫止血を行っている間、把持部190が溝部本体117aに沿って不用意に移動することを防止できる。
術者は、各帯体部140、150を患者の右手H1に巻き付ける。前述したように、止血器具100では、溝部117に沿って把持部190を移動させることにより、押圧部180を第2穿刺部位p2に対応した位置に配置することができる。そのため、止血器具100を第2穿刺部位p2の止血に使用する際に、各帯体部140、150を患者の右手H1に配置する位置は、止血器具100を第1穿刺部位p1の止血に使用する際の位置(図16を参照)から変更する必要がない。そのため、術者は、第2穿刺部位p2を止血するに際し、各帯体部140、150を患者の右手H1の遠位側の部分に巻き付ける必要がない。それにより、止血器具100は、患者の右手H1の遠位側の部分が各帯体部140、150で拘束されることを防止できる。
止血器具100では、溝部117が湾曲部115に対して交差している(図11を参照)。そのため、術者は、湾曲部115の頂部115aを間に挟んで、溝部117の第2端部118cよりも支持部材110の先端部111a側に位置する溝部117の第1端部118bに押圧部180を配置することができる(図5を参照)。そして、止血器具100は、図19に示すように、湾曲部115の頂部115aが長母指伸筋腱t1に配置された状態で押圧部180が拡張すると、押圧部180が湾曲部115の頂部115aの配置された側に向けて斜め方向(図19の矢印z3を参照)に圧迫力を付与する。つまり、押圧部180が第2穿刺部位p2に対して圧迫力を付与する方向は、図19に示す断面図において、湾曲部115の頂部115aを基準として、押圧部180が第1穿刺部位p1に対して圧迫力を付与する方向(図17を参照)と略対称の方向となる。
また、押圧部180が拡張した際、押圧部180は、第2穿刺部位p2が形成された周囲の皮下組織を第2穿刺部位p2側に向けて押し付ける。そのため、押圧部180は、第2穿刺部位p2に対して効果的に圧迫力を付与することができる。
また、図19に示すように、第1係止溝117bに挿通部193を配置した状態で、第2穿刺部位p2に押圧部180を配置すると、湾曲部115の頂部115aを間に挟んで第2係止溝117c側に配置された支持部材110の一部が、図19に示す矢印z4方向で患者の右手H1の皮下組織を圧迫する。そのため、止血器具100は、支持部材110が患者の右手H1に固定された状態で、支持部材110の一部により、第1係止溝117b付近に位置する第2穿刺部位p2側に向けて患者の右手H1の皮下組織を圧迫することができる。それにより、押圧部180は、第2穿刺部位p2に対して効果的に圧迫力を付与することができる。
また、止血器具100は、患者の右手H1の甲Hbから離間する方向へ向けて突出する長母指伸筋腱t1に湾曲部115の頂部115aが配置されることにより、支持部材110の湾曲部115以外の他の部分が長母指伸筋腱t1に配置されることを防止できる。そのため、止血器具100は、支持部材110が長母指伸筋腱t1によって患者の右手H1から浮き上がってしまうことを防止できる。それにより、押圧部180は、押圧部180が拡張した際、第2穿刺部位p2に対して効果的に圧迫力を付与することができる。
止血器具100は、第2穿刺部位p2を止血する際、図18に示すように、前腕部Aからの距離が遠くなる右手H1の遠位側の部分に押圧部180が配置される。そのため、止血器具100は、患者の右手H1の近位側付近に巻き付けられた各帯体部140、150の固定力が押圧部180に十分に及ばず、押圧部180を右手H1の甲Hb上で安定的に固定することが難しくなる。
上記のような課題に対して、止血器具100では、第2帯体部140の第2の一端部141の幅W1が溝部117の長軸方向の長さL1よりも長く形成されており、かつ支持部材110上において第2帯体部140の第2の一端部141の幅方向に位置する各端部が溝部117の長軸方向に位置する各端部118b、118cよりも支持部材110の先端部111a側及び支持部材110の基端部111b側に位置する。そのため、第2帯体部140が支持部材110を患者の右手H1に対して固定する固定力を支持部材110の先端部111aと基端部111bの間のより広い範囲に作用させることができる。さらに、止血器具100では、図5に示すように、第3帯体部150の幅W2が溝部117の長軸方向の長さL1よりも長く形成されている。そのため、第3帯体部150は、第2帯体部140と対向する側で、支持部材110を患者の右手H1に対して固定する固定力を高めることができる。それにより、止血器具100は、第2穿刺部位p2に押圧部180を配置した状態においても、押圧部180を患者の右手H1に対してしっかりと固定することができる。
第1使用例及び第2使用例を通じて説明したように、止血器具100は、患者の右手H1の異なる位置に形成された各穿刺部位p1、p2の止血に使用する場合においても、患者の右手H1の遠位側の部分が各帯体部140、150で拘束されることのないように患者の右手H1に装着させることができる。
以上、本実形態に係る止血器具100は、患者に形成された各穿刺部位p1、p2を覆うように構成された支持部材110と、支持部材110を患者の各穿刺部位p1、p2に固定するように構成された固定部材120と、支持部材110に接続され、患者の各穿刺部位p1、p2を圧迫するように構成された押圧部材170と、を有する。支持部材110は、支持部材110の外表面110b側へ向けて凸状に湾曲する湾曲部115と、支持部材110の内表面110aと支持部材110の外表面110bの間を貫通し、押圧部材170の一部を挿通可能な溝部117と、を備える。固定部材120は、患者の指同士の間に配置するように構成され、第1方向に延在する第1帯体部130と、第1方向と異なる方向に延在する第2帯体部140と、を備える。溝部117は、湾曲部115と交差しつつ、第1帯体部130側から第2帯体部140側へ向かって延在している。第2帯体部140は、支持部材110から溝部117の長軸方向と交差する方向に延在している。押圧部材170は、溝部117に沿って支持部材110上を移動可能に構成されている。
上記のように構成した止血器具100によれば、支持部材110に形成された溝部117に沿って押圧部材170を移動させることができる。それにより、止血器具100は、患者の右手H1に形成された各穿刺部位p1、p2の位置に合わせて押圧部材170を選択的に配置することができるように構成される。そのため、止血器具100は、患者の右手H1に形成された各穿刺部位p1、p2の位置に合わせて患者の右手H1への固定部材120の固定位置を変更することなく、各穿刺部位p1、p2を適切に止血することができる。そのため、止血器具100は、押圧部材170が各穿刺部位p1、p2に配置された際、支持部材110が患者の手Hの動きを拘束するような位置に配置されることを防止できる。
また、止血器具100は、患者の右手H1に形成された各穿刺部位p1、p2に押圧部材170を配置する際、患者の右手H1に位置する腱(例えば、長母指伸筋腱t1)に支持部材110の湾曲部115を配置することができる。止血器具100は、上記のように湾曲部115が患者の右手H1に配置されることにより、患者が右手H1を動作させた際、患者の右手H1の動作に伴う腱の動作が支持部材110へ伝わることを抑制できる。そのため、止血器具100は、患者の右手H1に形成された各穿刺部位p1、p2に対して押圧部材170が適切に圧迫力を伝えることができる。
また、止血器具100は、溝部117が支持部材110に形成された湾曲部115と交差しつつ、第1帯体部130側から第2帯体部140側へ向かって延在している。そのため、止血器具100は、患者の右手H1に形成された各穿刺部位p1、p2を止血する際、溝部117に沿って押圧部材170を移動させることにより、患者の右手H1の指先側に形成された第2穿刺部位p2と、支持部材110に形成された湾曲部115を間に挟んで第2穿刺部位p2よりも患者の前腕部A側に形成された第1穿刺部位p1を選択的かつ適切に止血することができる。また、止血器具100は、患者の右手H1に形成された各穿刺部位p1、p2を止血する際、支持部材110の湾曲部115が基点となって押圧部材170を患者の右手H1の外周面に沿って押し付けることができる。
また、止血器具100は、第2帯体部140が支持部材110から溝部117の長軸方向と交差する方向に延在している。そのため、止血器具100は、患者の右手H1に形成された各穿刺部位p1、p2を止血する際、溝部117の長軸方向を患者の右手H1の外表面に沿って押し付けることで、溝部117に位置する押圧部材170の一部を患者の右手H1の外表面に適切に固定することができる。
また、溝部117は、支持部材110上の第2帯体部140側の周縁部113に位置する。
上記のように構成された止血器具100は、押圧部材170を各穿刺部位p1、p2に配置する際、押圧部材170を支持部材110上の第2帯体部140側の周縁部113に沿って移動させることができる。そのため、各穿刺部位p1、p2が支持部材110の中心位置c1と近接した位置に形成されている場合、溝部117が各穿刺部位p1、p2と重なることを防止できる。それにより、止血器具100は、押圧部材170によって各穿刺部位p1、p2を止血する際、各穿刺部位p1、p2に押圧部材170を容易に配置することができる。
また、押圧部材170は、各穿刺部位p1、p2を圧迫するように構成された押圧部180と、押圧部180と接続し、溝部117を介して支持部材110の外表面110b側に突出する把持部本体191を備える把持部190と、を有する。把持部190は、把持部本体191が押圧部180の中心からオフセットした状態で押圧部180と固定されている。
上記のように構成された止血器具100は、術者が各穿刺部位p1、p2にマーカー185を配置する際、把持部本体191によってマーカー185及び各穿刺部位p1、p2の視認性が低下することを防止できる。また、押圧部180が各穿刺部位p1、p2を圧迫止血する際、押圧部180は把持部本体191よりも支持部材110の中心位置c1に近接した位置に配置される。止血器具100は、押圧部180が支持部材110の中心位置c1に近接した位置で拡張することにより、押圧部180の拡張力が支持部材110の周縁部に付与されることで支持部材110の傾きが発生することを防止できる。それにより、止血器具100は、押圧部180が拡張した状態で、押圧部180が第1穿刺部位p1に付与する圧迫力の逃げが生じることを防止できる。また、止血器具100は、把持部本体191が押圧部180の中心からオフセットした状態で押圧部180と固定されているため、支持部材110で押圧部180を効果的に支持することができ、圧迫力の逃げが生じることを防止できる。
止血器具100の押圧部180には、押圧部180の中心位置を視認可能にするマーカー185を有する。
上記のように構成された止血器具100は、溝部117及び把持部本体191が押圧部180の中心位置を示すマーカー185と重ならないように配置される。そのため、術者は、マーカー185を視認することにより、押圧部180を各穿刺部位p1、p2に容易に配置することができる。
溝部117は、溝部117の長軸方向に沿う把持部190の移動を規制する第1係止溝117b及び第2係止溝117cを有する。第2係止溝117cは、溝部117の長軸方向を基準にして湾曲部115を間に挟んで第1係止溝117bと反対側に位置する。
上記のように構成された止血器具100は、把持部190の一部を各係止溝117b、117cに配置することにより、把持部190が溝部117の長軸方向に沿って不用意に移動することを防止できる。また、第2係止溝117cは、溝部117の長軸方向を基準にして湾曲部115を間に挟んで第1係止溝117bと反対側に位置するため、第1係止溝117bに把持部190の一部を配置することにより、第2穿刺部位p2に対応した位置で把持部190の移動を規制することができ、かつ第2係止溝117cに把持部190の一部を配置することにより、第1穿刺部位p1に対応した位置で把持部190の移動を規制することができる。
また、第2帯体部140の支持部材110側に配置された第2の一端部141は、溝部117の第1帯体部130側に位置する第1端部118bよりも支持部材110の先端部111a側の位置、及び溝部117の第2帯体部140側に位置する第2端部118cよりも支持部材110の基端部111b側の位置で支持部材110と接続されている。また、固定部材120は、支持部材110を挟んで第2帯体部140と対向する位置から延在する第3帯体部150を有し、第3帯体部150の幅W2は、溝部117の長軸方向の長さL1よりも長く形成されている。
上記のように構成された止血器具100は、第1穿刺部位p1よりも前腕部Aからの距離が遠くなる右手H1の遠位側の部分に形成された第2穿刺部位p2を止血する際、第2帯体部140と第3帯体部150が支持部材110を患者の右手H1に対して固定する固定力が支持部材110の先端部111aと基端部111bの間のより広い範囲に及ぶ。それにより、止血器具100は、第2穿刺部位p2に押圧部180を配置した状態においても、押圧部180を患者の右手H1に対してしっかりと固定することができる。特に、止血器具100では、第3帯体部150の幅W2が溝部117の長軸方向の長さL1よりも長く形成されている。そのため、第3帯体部150は、第2帯体部140と対向する側で、支持部材110を患者の右手H1に対して固定する固定力を高めることができる。
次に、本発明に係る止血器具の変形例を説明する。変形例の説明では、前述した実施形態の説明において既に説明した部材や止血器具の使用手順等についての説明は適宜省略する。また、各変形例において特に説明の無い内容は、前述した実施形態と同一のものとすることができる。
<変形例1>
図20には、変形例1に係る止血器具100Aの一部を拡大して示している。
変形例1に係る止血器具100Aは、溝部117と連続的に繋げられた補助溝部119を有する。押圧部材170は、溝部117及び補助溝部119に沿って移動可能に構成されている。なお、溝部117と補助溝部119の交点は、両者の間を挿通部193が通過できるように、挿通部193の回転軌道よりも大きな外形で構成することができる。
補助溝部119は、例えば、溝部117の長軸方向(溝部本体117aの長軸方向)と交差する方向に延びる第1溝部119aと、第1溝部119aと交差する方向に延びる第2溝部119bを有するように構成することができる。
止血器具100Aでは、溝部117及び補助溝部119に沿って押圧部材170を移動させることができる。そのため、図12で例示した各穿刺部位p1、p2以外の他の穿刺部位が患者の手Hに形成されている場合においても、当該他の穿刺部位に押圧部180を適切に配置することができる。したがって、止血器具100Aは、止血時の利便性がより一層高い。
なお、補助溝部119の具体的な形状や位置は特に限定されない。例えば、第1溝部119aに相当する溝部のみで補助溝部119を形成してもよい。また、補助溝部119の任意の位置に係止溝を設けたり、補助溝部119に近接した位置に後述するロック機構400を構成するロック用凸部403a、403b(図23を参照)を配置したりしてもよい。
<変形例2>
図21、図22には、変形例2に係る止血器具100Bの一部を拡大して示している。
変形例2に係る止血器具100Bは、押圧部180が把持部190に対して着脱可能に構成されている。
把持部190は、押圧部180との着脱を可能にする構成として、接続部195を有する。
接続部195は、図21に示すように、枠部195aと、枠部195aに形成された開口部(窓部)195bと、枠部195a内への押圧部180の挿入を可能にする挿入孔195cと、を有する。
止血器具100は、支持部材110を患者の手Hに配置した際、開口部195bが患者の手Hの体表面に向かい合って配置されるように、接続部195が支持部材110の内表面110aに固定されている。止血器具100は、支持部材110を患者の手Hに配置した際、支持部材110の内表面110aの形状に倣って枠部195aが変形可能となるように、枠部195aが柔軟な樹脂材料で形成されていることが好ましい。
接続部195は、支持部材110に形成された溝部117を挿通する挿通部193に固定されている。
術者は、図22に示すように、接続部195の挿入孔195cを介して押圧部180を枠部195a内に挿入することができる。術者は、例えば、押圧部180の外周部分に位置する融着しろを枠部195aで挟み込ませるように配置することができる。
術者は、押圧部180を枠部195a内に挿入することにより、接続部195を介して把持部190と押圧部180とを接続することができる。また、術者は、接続部195の挿入孔195cを介して押圧部180を枠部195aの外部へ取り出すことにより、把持部190と押圧部180の接続を解除することができる。術者は、例えば、患者の手Hの大きさや穿刺部位の位置等に応じて使用する押圧部180の種類を任意に変更することができる。
術者は、押圧部180を枠部195a内に挿入した状態で押圧部180を拡張させることにより、開口部195bを介して押圧部180の一部を患者の手Hの体表面側に向けて突出させることができる。術者は、開口部195bから突出させた押圧部180により、患者の手Hに形成された穿刺部位に対して圧迫力を付与することができる。
なお、押圧部180は、枠部195aの形状に合わせた任意の形状のものを使用することができる。例えば、変形例2では、略矩形に形成された枠部195aに合わせて略矩形に形成された押圧部180を使用することができる。
<変形例3>
図23には、変形例3に係る止血器具100Cの一部を拡大して示している。また、図24~図27には、止血器具100Cの使用例を説明するための断面図を示している。図24~図26は、図23に示す矢印24A-24Aに沿う断面図であり、図27は、図23に示す矢印27A-27Aに沿う断面図である。なお、図24~図26では押圧部180の断面の図示は省略している。
変形例3に係る止血器具100Cは、押圧部材170の位置を固定するロック機構400を備える。
ロック機構400は、把持部本体191に形成されたロック用凹部401(図27を参照)と、支持部材110に形成されたロック用凸部403a、403bと、を有する。
第1ロック用凸部403aは、第1係止溝117b付近に形成されている。第2ロック用凸部403bは、第2係止溝117c付近に形成されている。各ロック用凸部403a、403bは、ロック用凹部401に対する嵌合及び嵌合解除が可能に構成されている。
把持部190の挿通部193は、図24に示すように、外筒部193aと内筒部193bを備える二重筒構造で構成されている。内筒部193bの内部には、バネ等で構成される弾性部材198が収容されている。弾性部材198の上端部は把持部本体191と接続されている。弾性部材198の下端部は接続部195と接続されている。
図24には、溝部117に沿って把持部190を移動させている際の様子を示している。術者は、図25に示すように、第2係止溝117cで把持部190及び押圧部180の位置を固定する場合、把持部本体191を手指等で押し下げる。術者が把持部本体191を押し下げると、図26、図27に示すように、ロック用凹部401に対して第2ロック用凸部403bが嵌合する。これにより、把持部190及び押圧部180の位置を固定することが可能になる。
また、術者が把持部本体191を押し下げる際、把持部本体191と接続部195との間に配置された弾性部材198が把持部本体191を押し下げる方向に圧縮変形する。そのため、把持部本体191を押し下げた距離に応じた隙間が支持部材110の内表面110aと押圧部180との間に形成されることを防止できる。それにより、術者は、ロック機構400を使用して押圧部180の位置を固定して圧迫止血を行っている間、各穿刺部位p1、p2に対して効果的に圧迫力を付与することができる。
術者は、第1係止溝117b側付近で押圧部180の位置を固定する場合、把持部本体191を手指で把持して持ち上げることにより、ロック用凹部401と第2ロック用凸部403bによる嵌合を解除する。術者は、ロック用凹部401と第2ロック用凸部403bによる嵌合を解除した状態で溝部本体117aに沿って把持部190を第1係止溝117bまで移動させる。術者は、第1係止溝117bまで把持部190を移動させた後、把持部190を回転させることにより、第1係止溝117bから溝部本体117a側へ挿通部193が移動できない状態にする。術者は、第1係止溝117b付近に形成された第1ロック用凸部403aに対してロック用凹部401を嵌合させることにより、第1係止溝117b付近で把持部190を固定することができる。
<変形例4>
図28には、変形例4に係る止血器具100Dを示している。
変形例4に係る止血器具100Dは、支持部材110Dの形状が前述した実施形態に係る止血器具100(図1を参照)と相違する。
支持部材110Dは、図28に示すように、略楕円形の平面形状を有する。このような形状で形成された支持部材110Dは、前述した実施形態に係る止血器具100の支持部材110と比較して、患者の前腕部A側に配置される部分の面積が小さくなる。そのため、支持部材110Dを患者の手Hに配置した際、支持部材110Dの基端部111bが患者の手Hに対して広い範囲に亘って喰い込むことを防止できる。
なお、支持部材の形状は、図示により例示した各形状に限定されることはない。例えば、支持部材は、略正三角形の形状を有していてもよい。
以上、実施形態及び変形例を通じて本発明に係る止血器具を説明したが、本発明は明細書において説明した内容のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
実施形態の説明では、右手の甲に形成された穿刺部位を止血するための止血器具を例示した。ただし、止血器具は、左手の甲に形成された穿刺部位を止血可能に構成することも可能である。また、止血器具を患者に装着する際の各帯体の配置は図示により説明した位置に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。例えば、第1帯体は、親指と人差し指の間に位置する指間部以外の指間部(他の指同士の間に位置する指間部)に配置することも可能である。
止血器具の各部の形状や寸法等は、患者の手に形成された穿刺部位を止血するように構成されている限り、特に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。例えば、溝部の形状や配置等は、湾曲部と交差する限り、限定されることはない。