次に、本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、配管10へのガスセンサ100の取り付け状態の概略説明図である。図2は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図3は、ガスセンサ100が備えるセンサ素子110の断面模式図である。図4は、図2の部分拡大図である。図5は、図2のA-A断面図である。図6は図2のB視図である。図2に示すように、センサ素子110が備える素子本体20の長手方向を前後方向、素子本体20の厚み方向を上下方向とする。また、図5に示すように、素子本体20の幅方向(長手方向と厚み方向に垂直な方向)を左右方向とする。なお、図2は、図5のC-C断面図に相当する。センサ素子110の内部構造については、図3に詳しく図示し、図2,図4~図5では図示を省略する。
図1に示すように、ガスセンサ100は車両のエンジンからの排気経路である配管10に取り付けられる。ガスセンサ100は、エンジンから排出された排気ガスを被測定ガスとして、被測定ガス中の第1特定ガスの濃度と、被測定ガス中の第2特定ガスの濃度とを検出するようになっている。本実施形態では、第1特定ガスがNOxであり、第2特定ガスがアンモニアである場合について説明する。
ガスセンサ100は、図2に示すように、センサ素子110と、このセンサ素子110を保護する保護カバー120とを備えている。また、ガスセンサ100は、センサ素子110を封入固定する素子封止体101と、素子封止体101に取り付けられたボルト103とを備えている。素子封止体101は、金属製で円筒状のハウジング102と、ハウジング102の内側の貫通孔内に封入されたセラミックス製のサポーター104と、ハウジング102の内側の貫通孔内に封入されたタルクなどのセラミックス粉末を成形した圧粉体105と、を備えている。センサ素子110は素子封止体101の中心軸上に位置しており、素子封止体101を前後方向に貫通している。圧粉体105はハウジング102とセンサ素子110との間で圧縮されている。これにより、圧粉体105がハウジング102内の貫通孔を封止すると共にセンサ素子110を固定している。ボルト103は、金属製で円筒状の部材であり、外周面におねじが設けられている。素子封止体101のハウジング102は配管10に溶接され内周面にめねじが設けられた固定用部材12内に挿入されており、さらにボルト103が固定用部材12に螺合されることでハウジング102が固定用部材12内に固定されている。これにより、ガスセンサ100が配管10内に固定されている。
センサ素子110は、細長な長尺の板状体形状の素子であり、先端と、先端とは反対側の後端とを有している。図3に示すように、センサ素子110は、素子本体20と、検出部23と、混成電位セル55と、を備えている。センサ素子110の先端は、センサ素子110の長手方向の両端のうち後述するセンサ素子室124内に配置される端、つまり前方の端であり、以下では前端とも称する。
図3に示すように、素子本体20は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数枚(図3では6枚)上下方向に積層した積層体を有している。素子本体20は直方体形状であるため、図3,5に示すように、素子本体20は外表面として上面20a,下面20b,左面20c,右面20d,前端面20e,後端面20fを有している。上面20aは、素子本体20の長手方向(軸線方向)に沿った表面である。素子本体20の前後方向の長さは例えば25mm以上100mm以下である。素子本体20の左右方向の長さ(幅)は例えば2mm以上10mm以下である。素子本体20の上下方向の長さ(厚み)は例えば0.5mm以上3mm以下である。また、素子本体20には、前端面20eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口21a(本発明のガス導入口に相当)と、後端面20fに開口してNOx濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口22と、が形成されている。素子本体20の内部には、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部21が設けられている。被測定ガス流通部21は、被測定ガス流通部21の入口である被測定ガス導入口21aから測定電極27に至る空間である。被測定ガス導入口21aの左右方向の長さ(幅)は例えば1mm以上9mm以下である。上面20aから被測定ガス導入口21aまでの上下方向の長さ、言い換えると前端面20eの上端から被測定ガス導入口21aまでの上下方向の長さである距離K3(図3,4参照)は、例えば0.1mm以上2.4mm以下である。
検出部23は、被測定ガス導入口21aから被測定ガス流通部21に流入した被測定ガス中のNOx濃度を検出するためのものである。検出部23は、素子本体20の前端側に配設された複数の電極を有している。本実施形態では、検出部23は、複数の電極として、外側電極24と、内側主ポンプ電極25と、内側補助ポンプ電極26と、測定電極27と、基準電極28と、を備えている。外側電極24は、素子本体20の外部、より詳しくは、素子本体20の上面20aに配設されている。内側主ポンプ電極25,内側補助ポンプ電極26,及び測定電極27は、素子本体20の内部に配設され、被測定ガス導入口21aから後方に向かってこの順に被測定ガス流通部21内に配設されている。基準電極28は、素子本体20の内部に配設されており、基準電極28には基準ガス導入口22を介して基準ガスが到達する。内側主ポンプ電極25及び内側補助ポンプ電極26は、素子本体20の内部の空間の内周面に配設されておりトンネル状の構造を有していてもよい。外側電極24は、例えば多孔質サーメット電極(例えば、Au及びPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。検出部23が有する他の電極25~28も、同様に多孔質サーメット電極として形成されていてもよい。
検出部23を用いて被測定ガス中のNOx濃度を検出する原理は周知であるため詳細な説明は省略するが、検出部23は、例えばセンサ素子110(特に検出部23、混成電位セル55)に接続された図示しないコントローラーによって以下のように制御され、以下のように動作する。コントローラーは、外側電極24と基準電極28との間の電圧V0が目標値となるように、外側電極24と内側主ポンプ電極25との間に電圧Vp0を印加する。この電圧Vp0によって、検出部23は、内側主ポンプ電極25周辺の被測定ガス中の酸素を外部(図2のセンサ素子室124)へ汲み出し又は汲み入れる。このとき、外側電極24と内側主ポンプ電極25との間にはポンプ電流Ip0が流れる。このポンプ電流Ip0は、被測定ガス中の酸素濃度に応じた値(酸素濃度を導出可能な値)となる。また、コントローラーは、内側補助ポンプ電極26と基準電極28との間の電圧V1が目標値となるように、外側電極24と内側補助ポンプ電極26との間に電圧Vp1を印加する。この電圧Vp1によって、検出部23は、内側補助ポンプ電極26周辺の被測定ガス中の酸素を外部(センサ素子室124)へ汲み出し又は汲み入れる。これらにより、酸素濃度が所定値に調整された後の被測定ガスが、測定電極27周辺に到達する。測定電極27は、NOxの還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中のNOxを還元する。そして、コントローラーは、測定電極27と基準電極28との間の電圧V2が目標値となるように、外側電極24と測定電極27との間に電圧Vp2を印加する。この電圧Vp2によって、検出部23は、測定電極27周辺の被測定ガス中の酸素を外部(センサ素子室124)に汲み出す。これにより、検出部23は、被測定ガス中のNOxが還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、測定電極27周辺の酸素を外部に汲み出す。このとき、外側電極24と測定電極27との間にはポンプ電流Ip2が流れる。このポンプ電流Ip2は、被測定ガス中のNOx濃度に応じた値(NOx濃度を導出可能な値)となる。
また、素子本体20には、検知電極56が配設されている。検知電極56は、被測定ガスと接触するように素子本体20の外部かつ被測定ガス導入口21aよりも後方に配設されている。より具体的には、検知電極56は、素子本体20の上面20aに配設されている。また、検知電極56は、素子本体20のうち外側電極24よりも後方に配設されている。この検知電極56と、検出部23と兼用の基準電極28と、両電極間の固体電解質層とによって、混成電位セル55が構成されている。混成電位セル55では、検知電極56において被測定ガス中のアンモニア濃度に応じた混成電位(起電力EMF)が生じる。そして、検知電極56と基準電極28との間の起電力EMFの値が被測定ガス中のアンモニアの濃度の検出に用いられる。検知電極56は、アンモニアの濃度に応じた混成電位を生じ、アンモニア濃度に対する検出感度を有する材料を主成分として構成されている。検知電極56は、例えば金(Au)などの貴金属を主成分としてもよいし、導電性酸化物を主成分としてもよい。貴金属を主成分とする場合、検知電極56は、Au-Pt合金を主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは、含まれる成分全体のうち存在量(atm%,原子量比)が最も多い成分をいうものとする。本実施形態では、検知電極56は、Au-Pt合金とジルコニアとの多孔質サーメット電極とした。検知電極56の前後方向の長さは例えば0.1mm以上3mm以下である。検知電極56の左右方向の長さ(幅)は例えば1.0mm以上9.0mm以下である。検知電極56の厚みは例えば5μm以上40μm以下である。検知電極56は、例えば、素子本体20の前端面20eから検知電極56の前端までの距離K1(図3,図4参照)が7mm以上14mm以下となる位置に配置されている。
センサ素子110は、ヒータ29を備えている。ヒータ29は、素子本体20内部に配設された電気抵抗体である。ヒータ29は、外部から給電されることにより発熱して素子本体20を加熱する。ヒータ29は、素子本体20が有する固体電解質層の加熱及び保温を行って、検出部23の固体電解質層が活性化する温度(例えば800℃)に調整することが可能となっている。また、これによって、混成電位セル55の検知電極56は、アンモニアの検知に適した温度(例えば800°よりも低い温度)に調整される。これらの検出部23及び検知電極56の温度は、例えば、外部からヒータ29に給電される電力を調整するとともに、ヒータ29,検出部23,及び検知電極56の位置関係を調整することによって、調整できる。
また、センサ素子110は、緩衝層84及び保護層85を備えている。緩衝層84は、多孔質体であり、素子本体20の表面に配設されて保護層85と素子本体20とを接着する役割を果たす。緩衝層84は、素子本体20の上面20aの少なくとも一部を被覆する上側緩衝層84aと、素子本体20の下面20bの少なくとも一部を被覆する下側緩衝層84bと、を備えている。上側緩衝層84aは、検知電極56及び外側電極24も被覆している。上側緩衝層84a及び下側緩衝層84bの各々は、素子本体20の前端から、検出部23及び混成電位セル55に含まれる各電極24,25,26,27,28,56よりも後方までの領域に存在している。また、上側緩衝層84a及び下側緩衝層84bの各々は、被測定ガス流通部21の後端及び保護層85の後端よりも後方まで存在している。保護層85は、多孔質体であり、素子本体20の前端部の周辺、より具体的には検出部23及び混成電位セル55が存在する領域の周囲を被覆している。保護層85は、緩衝層84が形成された素子本体20について、その前端面を全て被覆し、その上下左右の面の一部を被覆している。保護層85は、被測定ガス流通部21の後端よりも後方まで存在している。保護層85は、例えば被測定ガス中の水分等が付着して素子本体20にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。また、保護層85は、被測定ガスに含まれるオイル成分等が素子本体20の外部に配設された外側電極24及び検知電極56等に付着するのを抑制する役割も果たす。緩衝層84も、保護層85と同様の役割を果たす。このため、緩衝層84及び保護層85が本発明の保護層に相当する。緩衝層84及び保護層85は、例えばアルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、マグネシアなどの多孔質セラミックスからなるものである。緩衝層84と保護層85とは、主成分が同じであることが好ましい。本実施形態では、緩衝層84及び保護層85はアルミナからなる多孔質セラミックスであるものとした。保護層85は多孔質体であるため、被測定ガスは保護層85の内部を流通して被測定ガス導入口21aに到達可能である。また、保護層85及び緩衝層84は多孔質体であるため、被測定ガスは保護層85及び緩衝層84の内部を流通して外側電極24及び検知電極56に到達可能である。なお、センサ素子110は緩衝層84及び保護層85のうちの少なくとも一方を備えなくてもよい。また、緩衝層84及び保護層85は、少なくとも検知電極56を被覆していれば、その他の部分を被覆しなくてもよい。
図2,図4~図6に示すように、保護カバー120は、センサ素子110の周囲を取り囲むように配置されている。この保護カバー120は、センサ素子110の先端を覆う有底筒状の内側保護カバー130と、内側保護カバー130を覆う有底筒状の外側保護カバー140とを有している。内側保護カバー130に囲まれた空間としてセンサ素子室124が形成されている。また、内側保護カバー130と外側保護カバー140とに囲まれた空間として第1ガス室122,第2ガス室126が形成されている。なお、ガスセンサ100,センサ素子110,内側保護カバー130,外側保護カバー140の中心軸は同軸になっている。保護カバー120は、金属(例えばSUS310Sなどのステンレス鋼)で形成されている。
内側保護カバー130は、第1部材131と、第2部材135と、を備えている。第1部材131は、円筒状の大径部132と、円筒状で大径部132よりも径の小さい第1円筒部134と、大径部132と第1円筒部134とを接続する段差部133と、を有している。第1部材131は、センサ素子110の周囲を囲んでいる。第2部材135は、第1円筒部134よりも径が大きい第2円筒部136と、第2円筒部136よりも前方に位置する先端部138と、先端部138の後端に接続して配設され先端部138の外周面よりも外側に突出する段差部139と、第2円筒部136の前端と段差部139とを接続する接続部137と、を有している。第2部材135は、第1部材131(特に第1円筒部134)の周囲を囲んでいる。先端部138は、側部138dと底部138eとを有している。先端部138には、センサ素子室124と第2ガス室126とに通じ、センサ素子室124からの被測定ガスの出口である1以上の素子室出口138aが形成されている。本実施形態では、素子室出口138aは、側部138dに周方向に等間隔に形成された複数(4個)の円形の孔138bを有している。素子室出口138aは、先端部138の底部138eには配設されていない。素子室出口138aは、被測定ガス導入口21aよりも前方に配置されている。第1円筒部134の外径の半径は例えば3mm以上6mm以下である。第2円筒部136の内径の半径は例えば3.2mm以上7mm以下である。第1円筒部134及び第2円筒部136を含む内側保護カバー130の厚みは例えば0.2mm以上0.5mm以下である。
大径部132,第1円筒部134,第2円筒部136,先端部138は中心軸が同一である。大径部132は、ハウジング102に内周面が当接しており、これにより第1部材131がハウジング102に固定されている。第2部材135は、接続部137の外周面が外側保護カバー140の内周面と当接しており溶接などにより固定されている。なお、接続部137の先端側(前端側)の外径を外側保護カバー140の先端部146の内径よりわずかに大きく形成し、接続部137の先端部分を先端部146内に圧入することで、第2部材135を固定してもよい。
第2円筒部136の内周面には、第1円筒部134の外周面に向けて突出してこの外周面に接している複数の突出部136aが形成されている。図5に示すように、突出部136aは3個設けられ、第2円筒部136の内周面の周方向に沿って均等に配置されている。突出部136aは、略半球形状に形成されている。このような突出部136aが設けられていることで、突出部136aによって第1円筒部134と第2円筒部136との位置関係が固定されやすくなっている。なお、突出部136aは、第1円筒部134の外周面を径方向内側に向けて押圧していることが好ましい。こうすれば、突出部136aによって第1円筒部134と第2円筒部136との位置関係をより確実に固定できる。なお、突出部136aは、3個に限らず2個や4個以上としてもよい。なお、第1円筒部134と第2円筒部136との固定が安定化しやすいため、突出部136aは3個以上とすることが好ましい。
内側保護カバー130は、上述したようにセンサ素子室124を内側に有している。センサ素子室124は、内側保護カバー130の内側の空間として形成されており、センサ素子室124の後端は素子封止体101で塞がれている。より具体的には、センサ素子室124は、先端部138,段差部139,接続部137,第2円筒部136,第1円筒部134,ハウジング102,サポーター104により囲まれた空間である。センサ素子室124の内部には、センサ素子110の先端及び被測定ガス導入口21aが配置される。また、センサ素子室124の内部には、検知電極56が配置される。内側保護カバー130は、センサ素子室124への入口である素子室入口127を有している。
素子室入口127は、第1部材131及び第2部材135の間の隙間として形成されている。本実施形態では、素子室入口127は、第1円筒部134の外周面と第2円筒部136の内周面との間の円筒状の隙間(ガス流路)として形成されている。素子室入口127は、第2部材135の後端(ここでは第2円筒部136の後端)から第1部材131の前端(ここでは第1円筒部134の前端)までの空間である。素子室入口127は、外側入口144aの配置された空間である第1ガス室122側の開口である後方開口128と、被測定ガス導入口21aの配置された空間であるセンサ素子室124側の開口である前方開口129と、を有している。後方開口128は、外側開口とも称する。前方開口129は、素子側開口とも称する。後方開口128は、第2円筒部136の内周面の後端と第1円筒部134の外周面との間のリング状の隙間である。前方開口129は、第2円筒部136の内周面と第1円筒部134の外周面の前端との間のリング状の隙間である。後方開口128は、前方開口129よりも後方に形成されている。そのため、外側入口144aから被測定ガス導入口21aに達するまでの被測定ガスの経路中で、素子室入口127はセンサ素子110の後端側から先端側、言い換えると後方から前方へ向かう流路となっている。また、素子室入口127は、センサ素子110の後端-先端方向に平行な流路(前後方向に平行な流路)となっている。
前方開口129は、検知電極56よりも前方に配置され、かつ、センサ素子110の後端から先端へ向かう方向(前方)に向けて開口している。また、前方開口129は、センサ素子110の後端-先端方向(前後方向)に平行に開口している。そのため、センサ素子110は、素子室入口127を前方開口129から仮想的に延長した領域(前方開口129の真前の領域)以外の位置に、配置されている。
前方開口129は、被測定ガス導入口21aからの距離K2(図4参照)が-5mm以上2mm以下の位置に形成されていることが好ましい。なお、距離K2は、センサ素子110の軸方向に沿った距離(前後方向の距離)であり、被測定ガス導入口21aよりも前方開口129が後方に位置する場合に距離K2が正の値となるものとする。また、距離K2は、前後方向で、被測定ガス導入口21aの開口の端部のうち最も前方開口129に近い部分と、前方開口129の端部のうち最も被測定ガス導入口21aに近い部分と、の距離とする。例えば、図4において被測定ガス導入口が素子本体20の側面(例えば上面20a)に開口する穴である場合、被測定ガス導入口の開口の後端より後方に前方開口129が位置するときには、被測定ガス導入口の開口の後端と前方開口129との距離が距離K2となり、距離K2は正の値となる。同様に、図4において被測定ガス導入口が素子本体20の側面に開口する穴である場合、被測定ガス導入口の開口の前端より前方に前方開口129が位置するときには、被測定ガス導入口の開口の前端と前方開口129との距離が距離K2となり、距離K2は負の値となる。なお、図4において被測定ガス導入口が素子本体20の側面に開口する穴である場合、被測定ガス導入口の開口の前端と後端との間に前方開口129が位置するときには、距離K2は値0となる。本実施形態では、前方開口129は、距離K2が正の値となる位置に形成されているものとした。すなわち、被測定ガス導入口21aよりも後方に前方開口129が形成されているものとした。なお、前方開口129は、距離K2が負の値となる位置に形成されていてもよい。すなわち、被測定ガス導入口21aよりも前方に前方開口129が存在していてもよい。
外側保護カバー140は、図2に示すように、円筒状の胴部143と、有底筒状で胴部143よりも内径の小さい先端部146とを有している。また、胴部143は、外側保護カバー140の中心軸方向(前後方向)に沿った側面をもつ側部143aと、胴部143の底部であり側部143aと先端部146とを接続する段差部143bと、を有している。なお、胴部143,先端部146の中心軸はいずれも内側保護カバー130の中心軸と同一である。胴部143のうち後端周辺の部分は、ハウジング102及び大径部132に内周面が当接しており、これにより外側保護カバー140がハウジング102に固定されている。胴部143は、大径部132,第1円筒部134,第2円筒部136の外周を覆うように位置している。先端部146は、先端部138を覆うように位置していると共に、内周面が接続部137の外周面と当接している。先端部146は、外側保護カバー140の中心軸方向(前後方向)に沿った側面を有し外径が側部143aの内径よりも小さい側部146aと、外側保護カバー140の底部である底部146bと、側部146aと底部146bとを接続し側部146aから底部146bに向けて縮径するテーパー部146cと、を有している。先端部146は、胴部143よりも前方に位置している。この外側保護カバー140は、胴部143に形成され被測定ガスの外部からの入口である1以上(本実施形態では複数であり、具体的には12個)の外側入口144aと、先端部146に形成され被測定ガスの外部への出口である1以上の外側出口147aとを有している。
外側入口144aは、外側保護カバー140の外側(外部)と第1ガス室122とに通じる孔である。外側入口144aは、側部143aに周方向に等間隔に形成された複数(本実施形態では6個)の孔144bと、段差部143bに周方向に等間隔に形成された複数(本実施形態では6個)の孔144cとを有している。この外側入口144a(孔144b及び孔144c)は、円形に開けられた孔である。なお、外側入口144aは、図5,6に示すように、外側保護カバー140の周方向に沿って孔144bと孔144cとが交互に等間隔に位置するように形成されている。外側入口144aは、いずれも、第2部材135の後端(ここでは第2円筒部136の後端)よりも下方に位置している。
外側出口147aは、外側保護カバー140の外側(外部)と第2ガス室126とに通じる孔である。この外側出口147aは、先端部146の底部146bの中心に形成された1以上(本実施形態では1個)の孔147cを有している(図2,図6参照)。なお、外側入口144aとは異なり、外側出口147aは、外側保護カバー140の側部(ここでは先端部146の側部146a)には配設されていない。この外側出口147a(ここでは孔147c)は、円形に開けられた孔である。
外側保護カバー140及び内側保護カバー130は、上述したように第1ガス室122及び第2ガス室126を形成している。第1ガス室122は、胴部143と内側保護カバー130との間の空間として形成されている。より具体的には、第1ガス室122は、段差部133,第1円筒部134,第2円筒部136,側部143a、段差部143bにより囲まれた空間である。第2ガス室126は、先端部146と内側保護カバー130との間の空間として形成されている。より具体的には、第2ガス室126は、先端部138と先端部146とに囲まれた空間である。なお、先端部146の内周面が接続部137の外周面と当接しているため、第1ガス室122と第2ガス室126とは直接には連通していない。
次に、ガスセンサ100がNOx濃度及びアンモニア濃度を検出する際の保護カバー120内の被測定ガスの流れについて説明する。配管10内を流れる被測定ガスは、まず、複数の外側入口144a(ここでは孔144b及び孔144c)の少なくともいずれかを通って第1ガス室122内に流入する。第1ガス室122内に流入した被測定ガスは、素子室入口127を通ってセンサ素子室124に流入する。素子室入口127からセンサ素子室124に流入した被測定ガスは、少なくとも一部がセンサ素子110の検知電極56に到達する。被測定ガスが検知電極56に到達すると、センサ素子110の混成電位セル55では、この被測定ガス中のアンモニア濃度に応じた混成電位(起電力EMF)が生じる。コントローラーは、この起電力EMFに基づいてアンモニア濃度を検出する。また、センサ素子室124内に流入した被測定ガスは、少なくとも一部がセンサ素子110の被測定ガス導入口21aに到達する。被測定ガスが被測定ガス導入口21aに到達してセンサ素子110の内部に流入すると、上述したコントローラーの制御によって、検出部23では、この被測定ガス中のNOx濃度に応じたポンプ電流Ip2が流れる。コントローラーは、このポンプ電流Ip2に基づいてNOx濃度を検出する。なお、被測定ガス導入口21aから被測定ガス流通部21内に流入する被測定ガスは、測定電極27周辺から外側電極24周辺への酸素の汲み出しに伴って速やかに測定電極27に到達して、NOx濃度の検出に用いられる。また、センサ素子室124内の被測定ガスは、素子室出口138a(ここでは孔138b)の少なくともいずれかを通って第2ガス室126に流入し、そこから外側出口147aを通って外部に流出する。
ここで、内側保護カバー130及び検知電極56は、上記のように被測定ガスが保護カバー120内を流れる際の素子室入口127から検知電極56までの最短経路長M1が1.5mm以上19.9mm以下となるように、配置されている。最短経路長M1について、図4を用いて説明する。最短経路長M1は、素子室入口127のうちセンサ素子室124側の開口端から検知電極56までの被測定ガスの流路の最短経路の長さとする。本実施形態では、最短経路長M1は、図4に示す破線の折れ線の長さであり、具体的には、素子室入口127の前方開口129の内周(第1部材131の前端面の外周)から第1部材131の前端面の内周に至る直線と、第1部材131の前端面の内周から検知電極56の上面の前端に至る直線と、の合計の長さである。この最短経路長M1が1.5mm以上であることで、言い換えると長さが1.5mm未満となるような被測定ガスの流路が存在しないことで、素子室入口127からセンサ素子室124内に流入した被測定ガスの流速が検知電極56に至るまでに適度に抑えられる。これにより、被測定ガスが当たることによる検知電極56の劣化が抑制される。また、最短経路長M1が19.9mm以下であることで、素子室入口127からセンサ素子室124内に流入した被測定ガスの少なくとも一部について、被測定ガスが比較的速い流速を保ったまま検知電極56に至る。これにより、アンモニアの濃度検出の応答性が良好になる。このように、最短経路長M1が1.5mm以上19.9mm以下であることで、ガスセンサ100は検知電極56の劣化が抑制され且つアンモニアに対する応答性が良好になる。最短経路長M1は、例えば第1円筒部134の外径を調整したり、素子本体20の前端面20eから検知電極56までの前後の距離を調整したり、素子本体20の寸法を調整したりすることで、調整できる。最短経路長M1は、11.6mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましい。こうすれば、アンモニアの濃度検出の応答性がより良好になる。
また、ガスセンサ100の使用時にはセンサ素子110がヒータ29によって加熱されて高温になっている。そのため、被測定ガスがセンサ素子110と接触することで被測定ガス中のアンモニアが燃焼し、アンモニアの濃度検出の感度が低下することがある。しかし、本実施形態では、最短経路長M1が19.9mm以下であるため、センサ素子室124内に流入した被測定ガスが検知電極56に至るまでの間の被測定ガスの経路として、センサ素子110と接触する距離が比較的短い経路が存在する。これにより、被測定ガス中のアンモニアの濃度検出の感度の低下を抑制できる。最短経路長M1は、11.6mm以下が好ましく、6.9mm以下がより好ましい。こうすれば、アンモニアの濃度検出の感度の低下をより抑制できる。
また、内側保護カバー130及びセンサ素子110は、上記のように被測定ガスが保護カバー120内を流れる際の素子室入口127から被測定ガス導入口21aまでの最短経路長M2が9.6mm以下であることが好ましい。最短経路長M2について、図4を用いて説明する。最短経路長M2は、素子室入口127のうちセンサ素子室124側の開口端から被測定ガス導入口21aまでの被測定ガスの流路の最短経路の長さとする。本実施形態では、最短経路長M2は、図4に示す破線の折れ線の長さであり、具体的には、素子室入口127の前方開口129の内周(第1部材131の前端面の外周)から素子本体20の前端面20eの端部に至る直線と、前端面20eの端部から被測定ガス導入口21aに至る直線と、の合計の長さである。この最短経路長M2が9.6mm以下であることで、素子室入口127からセンサ素子室124内に流入した被測定ガスの少なくとも一部について、被測定ガスが比較的速い流速を保ったまま被測定ガス導入口21aに至る。これにより、NOxの濃度検出の応答性が良好になる。最短経路長M2は、例えば第1円筒部134の外径を調整したり、被測定ガス導入口21aの位置及び大きさを調整したり、素子本体20の寸法を調整したりすることで、調整できる。最短経路長M2は、6.6mm以下が好ましく、4.1mm以下がより好ましい。こうすれば、NOxの濃度検出の応答性がより良好になる。最短経路長M2は、0.3mm以上であってもよい。
なお、最短経路長M1,M2は、説明の便宜上の理由により図4中に示したが、実際は最短経路長M1,M2は図4(図5のC-C断面)には現れない。例えば本実施形態の最短経路長M1は、図7に示すように、前方開口129と検知電極56の前端面の左上の角部とを最短距離で結ぶ折れ線の長さである。最短経路長M1は図7では1本の直線に見えるが、図4に示したように第1部材131の前端面を回り込むように折れ曲がった直線である。また、本実施形態の最短経路長M2は、図7に示すように、前方開口129と被測定ガス導入口21aの左上の角部とを最短距離で結ぶ折れ線の長さである。最短経路長M2は図7では1本の直線に見えるが、図4に示したように素子本体20の前端面20eを回り込むように折れ曲がった直線である。また、最短経路長M1,M2は、素子本体20を前方から後方に向かって見ると、すなわち図7のように内側保護カバー130の中心軸に沿って素子本体20を見ると、内側保護カバー130の中心軸と第1円筒部134の外周とを結ぶ第1円筒部134の半径に沿った経路となる。そのような経路が被測定ガスの流路の最短経路となるためである。
また、内側保護カバー130及びセンサ素子110は、最短経路長M2と最短経路長M1との比M2/M1が0.01以上6.37以下であることが好ましい。比M2/M1が0.01以上6.37以下であることで、ガスセンサ100のNOx濃度の検出の応答時間とアンモニア濃度の検出の応答時間とが比較的近くなる。NOx濃度の検出の応答時間とは、具体的には、被測定ガス中のNOx濃度の変化に応じて検出部23におけるNOx濃度を表す検出値(ここではポンプ電流Ip2)が変化するまでの時間である。同様に、アンモニア濃度の検出の応答時間とは、具体的には、被測定ガス中のアンモニア濃度の変化に応じて混成電位セル55におけるアンモニア濃度を表す検出値(ここでは起電力EMF)が変化するまでの時間である。そして、このNOx濃度の検出の応答時間とアンモニア濃度の検出の応答時間とが比較的近いことで、例えば時々刻々と被測定ガスの組成が変化する場合でも、ガスセンサ100によるNOx濃度及びアンモニア濃度の検出タイミングのずれが小さくなる。比M2/M1は、0.21以上2.22以下が好ましい。こうすれば、ガスセンサ100によるNOx濃度及びアンモニア濃度の検出タイミングのずれがさらに小さくなる。
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100では、最短経路長M1が1.5mm以上であることで、検知電極56の劣化が抑制される。また、最短経路長M1が19.9mm以下であることで、アンモニアに対する濃度検出の応答性が良好になる。したがって、本実施形態のガスセンサ100では、検知電極56の劣化が抑制され且つアンモニアに対する濃度検出の応答性が良好になる。
また、比M2/M1が0.01以上6.37以下であることで、ガスセンサのNOx濃度の検出の応答時間とアンモニア濃度の検出の応答時間とが比較的近くなるため、第1特定ガス濃度及び第2特定ガス濃度の検出タイミングのずれが小さくなる。さらに、最短経路長M2が9.6mm以下であることで、第1特定ガスに対する応答性が良好になる。
さらにまた、検出部23は、素子本体20の外部に配設された外側電極24を備え、検知電極56は、素子本体20の外部且つ外側電極24よりも後方に配設されている。検知電極56が外側電極24よりも後方に配設されている場合には、最短経路長M1が比較的長くなりやすいが、その場合でも上述したように最短経路長M1が19.9mm以下であることで、アンモニアに対する濃度検出の応答性が良好になる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施しうることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態では、検知電極56の前端は外側電極24の後端よりも後方に配設されているものとしたが、外側電極24の前端よりも後方に配設されていてもよい。また、図8に示すように、検知電極56の後端は外側電極24の前端よりも前方に配設されていてもよい。この場合も、上述した実施形態と同様の効果が得られる。例えば、最短経路長M1が1.5mm以上19.9mm以下であることで検知電極56の劣化が抑制され且つアンモニアに対する濃度検出の応答性が良好になる効果が得られる。なお、図4と同様に、説明の便宜上の理由により最短経路長M1,M2を図8中に示している。素子本体20の前端面20eから検知電極56の前端までの距離K1は、上述した図3,4の態様では例えば7mm以上としたが、図8のように検知電極56が外側電極24よりも前方に配設されている場合は、距離K1は0mm以上である。
上述した実施形態及び図8に示した例では、検知電極56は素子本体20の外部に配設されていたが、これに限らず検知電極56が素子本体20の内部に配設されていてもよい。例えば、検知電極56が被測定ガス流通部21内に配設されていてもよい。検知電極56が被測定ガス流通部21内に配設されている場合、最短経路長M1は、最短経路長M2と、被測定ガス導入口21aから検知電極56までの被測定ガスの流路の最短経路の長さと、の和となる。
上述した実施形態において、ガスセンサ100では、センサ素子110に接続された図示しないコントローラーが、混成電位セル55の起電力EMFを取得し、起電力EMFに基づいて被測定ガス中のアンモニア濃度を検出する。このとき、起電力EMFは被測定ガス中の酸素の影響も受けるため、コントローラーは、起電力EMFと、ポンプ電流Ip0に基づいて導出した被測定ガス中の酸素濃度と、を用いて被測定ガス中のアンモニア濃度を検出することが好ましい。例えば、被測定ガス中の酸素濃度(又は酸素濃度を表す値としてのポンプ電流Ip0)と起電力EMFとアンモニア濃度との対応関係を表す関係式又はマップなどを予め実験により作成してメモリに記憶しておく。そして、コントローラーは被測定ガス中の酸素濃度と起電力EMFとこの対応関係とを用いて、被測定ガス中のアンモニア濃度を検出する。これにより、ガスセンサ100では、酸素濃度による起電力EMFの誤差を補正したアンモニア濃度を導出できる。
上述した実施形態において、ガスセンサ100では、センサ素子110に接続されたコントローラーが、混成電位セル55の起電力EMFを取得し、起電力EMFに基づいて被測定ガス中のNOx濃度の誤差を補正してもよい。ポンプ電流Ip2は、被測定ガス中のアンモニアの影響も受けることがある。これは、以下の理由による。被測定ガス中にアンモニアが含まれると、アンモニアが被測定ガス流通部21内で酸素と反応してNOが生じ、そのNOに由来して測定電極27の周囲の空間に酸素が発生する。そのため、測定電極27の周囲の空間から外側電極24の周囲に汲み出す酸素には、このようなアンモニア由来の酸素が含まれてしまう。したがって、ポンプ電流Ip2の値は被測定ガス中のアンモニアの濃度によっても変化する。そのため、ガスセンサ100において、コントローラーは、ポンプ電流Ip2と、上述した起電力EMFに基づいて導出した被測定ガス中のアンモニア濃度と、を用いて被測定ガス中のNOx濃度を検出することが好ましい。例えば、ポンプ電流Ip2とアンモニア濃度とNOx濃度との対応関係を表す関係式又はマップなどを予め実験により作成してメモリに記憶しておく。そして、コントローラーはポンプ電流Ip2と被測定ガス中のアンモニア濃度とこの対応関係とを用いて、被測定ガス中のNOx濃度を導出する。これにより、ガスセンサ100では、アンモニアによるポンプ電流Ip2の誤差を補正したNOx濃度を導出できる。このように、混成電位セル55の起電力EMFをNOx濃度の補正に用いる場合には、NOx濃度の検出の応答時間とアンモニア濃度の検出の応答時間とが近いほど、補正の精度が高まる。そのため、このような場合には比M2/M1を0.01以上6.37以下とする意義が高い。なお、このように起電力EMFをNOx濃度の補正に用いる場合には、アンモニア濃度を検出(導出)せず、起電力EMFをそのままNOx濃度の補正に用いてもよい。
上述した実施形態では、素子室入口127の前方開口129は、検知電極56の前端よりも前方に配置されているものとしたが、検知電極56の前端よりも後方に配置されていてもよい。また、前方開口129は、検知電極56の後端よりも後方に配置されていてもよい。
上述した実施形態では、検知電極56は、センサ素子110の幅方向の中央に配設されているものとしたが、センサ素子110の幅方向において中央からずれていてもよい。
上述した実施形態では、素子本体20には基準電極28が1つ配設され、基準電極28が検出部23の基準電極と混成電位セル55の基準電極とを兼ねていたが、これに限られない。例えば、基準電極28は検出部23用の基準電極とし、混成電位セル55が備える基準電極を基準電極28とは別に設けてもよい。
上述した実施形態では、素子室入口127は、センサ素子110の後端-先端方向に平行な流路(前後方向に平行な流路)としたが、素子室入口127は、前方に向かうにつれてセンサ素子110に近づくように前後方向から傾斜した流路としてもよい。図9は、この場合の変形例のガスセンサ200の縦断面図である。図9では、ガスセンサ100と同じ構成要素については同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。図9に示すように、ガスセンサ200の保護カバー220は、内側保護カバー130に代えて内側保護カバー230を備えている。内側保護カバー230は、第1部材231と、第2部材235と、を備えている。第1部材231は、第1部材131と比べて、第1円筒部134を備えない代わりに、円筒状の胴部234aと、前方に向かうにつれて縮径する円筒状の第1円筒部234bと、を備えている。第1円筒部234bは、後端部で胴部234aと接続されている。第2部材235は、第2部材135と比べて、第2円筒部136を備えない代わりに、前方に向かうにつれて縮径する円筒状の第2円筒部236を備えている。第1円筒部234bの外周面と第2円筒部236の内周面とは接しておらず、両者により形成される隙間が素子室入口227となっている。素子室入口227は、後方開口228と、前方開口229と、を有している。この素子室入口227は、第1円筒部234b及び第2円筒部236の形状によって、前方に向かうにつれてセンサ素子110に近づくように(内側保護カバー230の中心軸に近づくように)前後方向から傾斜した流路となっている。同様に、前方開口229は、前方に向かうにつれてセンサ素子110に近づくように前後方向から傾斜して開口している(図9の拡大図参照)。なお、前方開口229の向きは、前方開口229周辺の第1円筒部234bの外周面及び第2円筒部236の内周面に基づいて定まる前方開口229の軸線方向とする。図9のガスセンサ200では、素子室入口227の流路幅は、前方に向かうにつれて狭くなっている。そのため、前方開口229の開口面積は後方開口228の開口面積よりも小さい。これにより、被測定ガスが第1ガス室222から素子室入口227に流入するときと比べて、素子室入口227からセンサ素子室124に流入するときの被測定ガスの流速が高まる。そのため、NOx濃度検出及びアンモニア濃度検出の応答性を向上させることができる。なお、図9では、素子室入口227が前後方向から傾斜した流路となっており、前方開口229が前後方向から傾斜して開口し、且つ前方開口229の開口面積が後方開口228の開口面積よりも小さくなるようにしているが、これらの3つの特徴のうち1以上を省略してもよいし、ガスセンサがこれらの3つの特徴のうち1以上の特徴を有するようにしてもよい。
上述した実施形態では、素子室入口127は第1部材131の第1円筒部134の外周面と第2部材135の第2円筒部136の内周面との間の筒状の隙間としたが、これに限られない。例えば、第1円筒部の外周面と第2円筒部の内周面との少なくとも一方に凹部(溝)が形成されており、素子室入口は、凹部により形成された第1円筒部と第2円筒部との隙間としてもよい。図10は、この場合の変形例の素子室入口327を示す模式図であり、図2のA-A断面に相当する断面図である。図10に示すように、ガスセンサ300は、第1部材131に代えて第1部材331を有している。第1部材331の第1円筒部334は、図2,図5に示した第1円筒部134よりも肉厚になっており、第1円筒部334の外周面と第2円筒部136の内周面とは接している。また、第1円筒部334の外周面には複数(図10では4個)の凹部334bが等間隔に形成されている。この凹部334bと第2円筒部136の内周面との間の隙間が、素子室入口327となっている。
上述した実施形態では、素子室入口127は1つであったが、素子室入口127は1以上であればよく、例えば図10に示したように素子室入口127が複数存在していてもよい。素子室入口127が複数存在する場合は、複数の素子室入口127の各々について、検知電極56までの最短経路長を算出し、その中の最小値を最短経路長M1とする。こうして算出される最短経路長M1が1.5mm以上19.9mm以下であればよい。また、複数の素子室入口127のいずれについても、検知電極56までの最短経路長が19.9mm以下であることが好ましい。同様に、素子室入口127が複数存在する場合は、複数の素子室入口127の各々について、被測定ガス導入口21aまでの最短経路長を算出し、その中の最小値を最短経路長M2とする。こうして算出される最短経路長M2が9.6mm以下であることが好ましい。また、複数の素子室入口127のいずれについても、被測定ガス導入口21aまでの最短経路長が9.6mm以下であることがより好ましい。
上述した実施形態では、被測定ガス導入口21aは、センサ素子110の先端面(素子本体20の前端面20e)に開口しているものとしたが、これに限られない。被測定ガス導入口21aは、例えば、センサ素子110の上面20a,下面20b,左面20c,右面20dのいずれかに開口していてもよい。この場合、被測定ガス導入口21aは、検知電極56よりも前方に開口していてもよいし、検知電極56よりも後方に開口していてもよい。
上述した実施形態では、素子本体20は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数枚厚み方向に積層した積層体を有しているものとしたが、積層体において、検出部23及び混成電位セル55を構成する固体電解質層以外の部分は固体電解質でなくてもよい。
上述した実施形態では、第1特定ガスをNOxとしたが、NOx以外の酸化物ガスとしてもよいし、酸素としてもよい。また、第2特定ガスをアンモニアとしたが、第1特定ガスとは異なるガスであればよく、炭化水素ガスなどの可燃性ガスとしてもよい。
以下には、ガスセンサを具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例2~7が本発明の実施例に相当し、実験例1,8が比較例に相当する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
図2~7を用いて説明したガスセンサ100を作製して、実験例1とした。実験例1では、素子本体20の前端面20eから検知電極56の前端までの距離K1を14.0mmとし、素子室入口127の前方開口129と素子本体20の被測定ガス導入口21aとの距離K2を0.0mmとし、素子本体20の上面20aから被測定ガス導入口21aまでの上下方向の長さである距離K3を0.1mmとした。また、実験例1では、素子室入口127から検知電極56までの最短経路長M1を20mmとし、素子室入口127から被測定ガス導入口21aまでの最短経路長M2を0.1mmとした。そのため実験例1では比M2/M1は0.005である。
[実験例2~8]
実験例1と同様に、図2~7を用いて説明したガスセンサ100を作製して、実験例2とした。実験例2では、距離K1を14.0mmとし、距離K2を0.0mmとし、距離K3を0.1mmとし、最短経路長M1を19.9mmとし、最短経路長M2を0.3mmとした。そのため実験例2では比M2/M1は0.01である。同様に、図2~7を用いて説明したガスセンサ100を作製して、実験例3~8とした。実験例1~8の各々の比M2/M1,最短経路長M1,最短経路長M2,距離K1,距離K2,距離K3を後述する表1にまとめて示した。
[出力特性の評価]
実験例1のガスセンサ100の出力特性を評価した。具体的には、まず、ガスセンサ100を図1と同様に配管に固定し、ベースガスが窒素であり、酸素濃度が10%であり、H2O濃度が5%であり、アンモニア濃度が0ppmである被測定ガスを配管に流した。そして、配管内に流す被測定ガスのアンモニア濃度を0ppmから500ppmに変化させて、ガスセンサ100の出力値(起電力EMF及びポンプ電流Ip2)を測定した。アンモニア濃度を変化させる直前の起電力EMFを0%、アンモニア濃度を500ppmにして起電力EMFが安定したときの起電力EMFを100%として、起電力EMFが100%のときの起電力EMFをアンモニアの濃度検出の感度を表す値とした。アンモニア濃度検出の感度(起電力EMF)が大きいほど、アンモニアに対する感度が良好であり、アンモニア濃度検出の精度が高いことを意味する。そして、アンモニア濃度検出の感度が150mV以上であった場合にアンモニア濃度の検出感度を「A(優)」と判定し、アンモニア濃度検出の感度が120mV以上150mV未満であった場合にアンモニア濃度の検出感度を「B(良)」と判定し、アンモニア濃度検出の感度が120mV未満であった場合にアンモニア濃度の検出感度を「不可(F)」と判定した。
また、配管内に流す被測定ガスのアンモニア濃度を0ppmから500ppmに変化させたときの、起電力EMFが10%を超えたときから90%を超えるまでの経過時間をアンモニア濃度検出の応答時間とした。アンモニア濃度検出の応答時間が短いほど、アンモニアに対する応答性が良好であることを意味する。そして、アンモニア濃度検出の応答時間が1.0sec以下であった場合にアンモニア濃度検出の応答性を「A(優)」と判定し、1.2sec以下であった場合にアンモニア濃度検出の応答性を「B(良)」と判定し、1.2secを超えていた場合にアンモニア濃度検出の応答性を「F(不可)」と判定した。
同様に、アンモニア濃度を変化させる直前のポンプ電流Ip2を0%、アンモニア濃度を500ppmにしてポンプ電流Ip2が安定したときのポンプ電流Ip2を100%として、ポンプ電流Ip2が10%を超えたときから90%を超えるまでの経過時間をNOx濃度検出の応答時間とした。NOx濃度検出の応答時間が短いほど、NOxに対する応答性が良好であることを意味する。なお、NOx濃度の検出に用いられるポンプ電流Ip2は、上述したようにアンモニアの濃度の変化によっても変化するため、アンモニア濃度を変化させたときのポンプ電流Ip2の応答時間を調べることで、NOxに対する応答性を評価できる。そして、NOx濃度検出の応答時間が1.0sec以下であった場合にNOx濃度検出の応答性を「A(優)」と判定し、1.2sec以下であった場合にNOx濃度検出の応答性を「B(良)」と判定し、1.2secを超えていた場合にNOx濃度検出の応答性を「F(不可)」と判定した。
また、上記のようにして得たアンモニア濃度検出の応答時間とNOx濃度検出の応答時間との差を算出した。応答時間の差が小さいほど、ガスセンサ100によるNOx濃度及びアンモニア濃度の検出タイミングのずれが小さいことを意味する。そして、応答時間の差の絶対値が0.1sec以下であった場合に応答時間の差を「A(差が非常に小さい)」と判定し、応答時間の差の絶対値が0.1sec超過0.3sec以下であった場合に応答時間の差を「B(差が小さい)」と判定し、応答時間の差の絶対値が0.3sec超過0.5sec以下であった場合に応答時間の差を「C(差が許容できる程度である)」と判定し、応答時間の差の絶対値が0.5secを超えていた場合に応答時間の差を「F(差が許容できない程度に大きい)」と判定した。
表1に、実験例1~8の各々の比M2/M1,最短経路長M1,最短経路長M2,距離K1~距離K3,アンモニアの濃度検出の感度(起電力EMF),検出感度の評価結果,アンモニア濃度検出の応答時間,アンモニア濃度検出の応答性の評価結果,NOx濃度検出の応答時間,NOx濃度検出の応答性の評価結果,応答時間の差,及び応答時間の差の評価結果をまとめて示す。
表1に示すように、素子室入口127から検知電極56までの最短経路長M1が19.9mm以下である実験例2~8では、アンモニア濃度検出の応答性の評価が「A(優)」又は「B(良)」であった。これに対し、最短経路長M1が19.9mmを超えている実験例1では、アンモニア濃度検出の応答性の評価が「F(不可)」であった。これらの結果から、最短経路長M1が19.9mm以下であることで、アンモニア濃度検出の応答性が良好になることが確認された。また、最短経路長M1が小さいほど、アンモニア濃度検出の応答時間が短くなる傾向が確認された。特に、最短経路長M1が11.6mm以下である実験例4~8は、いずれもアンモニア濃度検出の応答性の評価が「A(優)」であった。実験例4~8の結果から、最短経路長M1は11.6mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましいと考えられる。
表1に示すように、素子室入口127から検知電極56までの最短経路長M1が19.9mm以下である実験例2~8では、アンモニアの濃度検出の感度の評価が「A(優)」又は「B(良)」であった。これに対し、最短経路長M1が19.9mmを超えている実験例1では、アンモニアの濃度検出の感度(起電力EMF)が低下しており、アンモニア濃度検出の感度の評価が「F(不可)」であった。これらの結果から、最短経路長M1が19.9mm以下であることで、アンモニア濃度検出の感度の低下を抑制できることが確認された。また、最短経路長M1が小さいほど、アンモニア濃度検出の感度の低下が抑制される傾向が確認された。特に、最短経路長M1が11.6mm以下である実験例4~8は、いずれもアンモニア濃度検出の感度の評価が「A(優)」であった。実験例4~8の結果から、最短経路長M1は11.6mm以下が好ましく、6.9mm以下がより好ましいと考えられる。
表1に示すように、素子室入口127から被測定ガス導入口21aまでの最短経路長M2が9.6mm以下である実験例1~7では、NOx濃度検出の応答性の評価が「A(優)」又は「B(良)」であった。これに対し、最短経路長M2が9.6mmを超えている実験例8では、NOx濃度検出の応答性の評価が「F(不可)」であった。これらの結果から、最短経路長M2が9.6mm以下であることで、NOx濃度検出の応答性が良好になることが確認された。また、最短経路長M2が小さいほど、NOx濃度検出の応答時間が短くなる傾向が確認された。特に、最短経路長M2が6.6mm以下である実験例1~6は、いずれもNOx濃度検出の応答性の評価が「A(優)」であった。実験例1~6の結果から、最短経路長M2は6.6mm以下が好ましく、4.1mm以下がより好ましいと考えられる。
表1に示すように、最短経路長M1と最短経路長M2との比M2/M1が0.01以上6.37以下である実験例2~7では、応答時間の差の評価が「A(差が非常に小さい)」,「B(差が小さい)」又は「C(差が許容できる程度である)」であった。これに対し、比M2/M1が0.01未満である実験例1、及び比M2/M1が6.37より大きい実験例8では、応答時間の差の評価が「F(差が許容できない程度に大きい)」であった。これらの結果から、比M2/M1が0.01以上6.37以下であることで、NOx濃度及びアンモニア濃度の検出タイミングのずれが小さくなることが確認された。また、実験例2~7の結果から、比M2/M1は0.21以上2.22以下が好ましいと考えられる。