JP7481930B2 - 磁壁移動型磁性細線デバイス、および、そのデータ書き込み方法、並びに記録装置 - Google Patents

磁壁移動型磁性細線デバイス、および、そのデータ書き込み方法、並びに記録装置 Download PDF

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Description

本発明は、磁壁移動型磁性細線デバイス、および、そのデータ書き込み方法、並びに記録装置に関する。
近年、スピントランスファー効果による磁壁の電流駆動現象が注目されている(例えば非特許文献1および非特許文献2参照)。
非特許文献1に記載されたレーストラックメモリは、磁性細線を基板に対して垂直方向にも延伸させたU字型の3次元構造を持つメモリである。レーストラックメモリでは、磁性細線に直交するように配置された書き込みヘッドで磁性細線中に磁区を形成し、磁性細線にパルス電流を印加してその位置を動かしてデータを記録する。この書き込みヘッドは、書き込み電流が通電される配線からの漏れ磁場により、磁性細線に所定磁化方向のデータの書き込みを行っている。なお、レーストラックメモリでは、再生時には、読み出したいデータ(磁区)が、磁性細線に直交するように配置された読出しヘッドの直下に来るまで磁性細線にパルス電流を印加して磁区を移動させている。
非特許文献2には、垂直磁化を示す材料としてCo/Niが積層された磁性細線上に、直交するように、12μmの間隔を空けて2本のTi/Au電極を設けた磁壁移動型磁性細線デバイスが記載されている。磁性細線において2本の電極間の領域がデータ記録領域となっている。一方の電極は書き込みヘッドとして機能し、他方の電極は読出しヘッドとして機能する。このデバイスでは、一方の電極(書き込みヘッド)に電流を流すことで発生した漏れ磁場を用いることで磁性細線に磁区を書き込む。そして、磁区が書き込まれた磁性細線に電極を介して電流パルスを流すことで、この磁性細線内で磁区を移動させている。非特許文献2には、電流パルスでシフトされる磁区の幅(磁壁間距離)は、5.1±0.9μm、あるいは、3.2±0.6μmであることが開示されている。
Parkin Stuart S. P. et al.," Magnetic Domain-Wall Racetrack Memory", Science, 11 Apr 2008, Vol. 320, Issue 5873, pp. 190-194 Chiba D., et al.," Control of Multiple Magnetic Domain Walls by Current in a Co/Ni Nano-Wire", Applied Physics Express, June 2010, 073004
磁性細線にデータを書き込むために記録素子の周りに形成される磁場には広がりがあるため、従来の磁壁移動型磁性細線デバイスでは、微小な磁区を形成しようとしたときには、安定した形状の磁区を形成することができなかった。また、記録素子に流す電流の電流密度を高くすると、導線でEM(Electro Migration)による発熱がおき、導線がアブレーションされてしまうという問題があった。一方、記録素子に流す電流が下限値を下回ると、磁場の強さが不十分となり、磁性細線に磁区が形成できないという問題もあった。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、記録素子に対して流す電流値を低減しつつ、安定した形状の磁区を形成することができる磁壁移動型磁性細線デバイス、および、そのデータ書き込み方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために、本発明に係る磁壁移動型磁性細線デバイスは、磁性細線と、前記磁性細線におけるデータ導入領域を挟むように配置される第1記録素子および第2記録素子と、前記第1記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、前記第2記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、の作用によって前記データ導入領域の磁化が反転するように、前記第1記録素子に対して第1方向に流す電流と、前記第2記録素子に対して前記第1方向とは反対の第2方向に流す電流と、を制御する電流制御部と、を備え、前記電流制御部は、前記データ導入領域で磁化を反転させるときに、前記第1記録素子に流す電流の位相と前記第2記録素子に流す電流の位相とをずらす構成とした。
また、本発明に係る磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法は、磁性細線と、前記磁性細線におけるデータ導入領域を挟むように配置される第1記録素子および第2記録素子と、前記第1記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、前記第2記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、の作用によって前記データ導入領域の磁化が反転するように、前記第1記録素子に対して第1方向に流す電流と、前記第2記録素子に対して前記第1方向とは反対の第2方向に流す電流と、を制御する電流制御部と、を備える磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法であって、前記磁性細線にパルス電流を流す磁性細線通電工程と、前記電流制御部によって、前記データ導入領域で磁化を反転させるときに、前記第1記録素子に流す電流の位相と前記第2記録素子に流す電流の位相とをずらすことと、また、前記データ導入領域で磁化を反転させないときに、前記第1記録素子に流す電流の位相と前記第2記録素子に流す電流の位相とを揃えることと、を前記パルス電流に同期しながら所定の順序で行うデータ導入工程と、を有することとした。
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
磁壁移動型磁性細線デバイスの第1記録素子と第2記録素子各々に対し流す電流の位相を適切にずらすことにより、第1記録素子にて記録された磁区を、時間差で電流が印加された第2記録素子によって発生する磁場で拡大させ、安定化させることができる。これにより磁性細線に磁区を形成するのに必要な電流の波高値の下限値を低減させること、すなわち、第1記録素子と第2記録素子に流す電流密度を低減させることができる。そのため、磁壁移動型磁性細線デバイスの省電力化に寄与できる。
また、磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法によれば、磁性細線に常にパルス電流を流しながら、電流制御部によって、第1記録素子および第2記録素子に流す電流の位相をずらすか否かを選択しながら、磁性細線のデータ導入領域に2値データのいずれかを選択的に書き込むことができる。
本発明の第1実施形態に係る磁壁移動型磁性細線デバイスを模式的に示す構成図である。 (a)は、本発明の第1実施形態に係る磁壁移動型磁性細線デバイスの模式図であって、(b)は、磁区が形成された磁性細線の模式図である。 (a)-(b)、および(c)-(d)は、それぞれ磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法の模式的な説明図である。 (a)-(b)、および(c)-(d)は、それぞれ磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法の別の例の説明図である。 (a)-(e)は、磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法の模式的な説明図である。 シミュレーションを実施したときの磁壁移動型磁性細線デバイスの模式図である。 (a)-(b)は、磁壁移動型磁性細線デバイスに対しシミュレーションを実施したときの記録素子に対し流すパルス電流の波形であり、(c)-(d)はパルス電流の波形に位相差をつけたものである。 磁壁移動型磁性細線デバイスに対しシミュレーションを実施したとき磁性細線のある点での磁化の時間変化のグラフである。 磁壁移動型磁性細線デバイスに対しシミュレーションを実施したときの磁性細線上に形成される磁区の時間変化の様子を表す図である(位相差なし)。 磁壁移動型磁性細線デバイスに対し、位相差を変えながらシミュレーションを実施したときの磁性細線上に2ns経過時に形成される磁区の様子を表す図である。 (a)-(c)は、磁壁移動型磁性細線デバイスに対しそれぞれ異なる観点でシミュレーションを実施したときの磁区形成の判定結果を表す図である。 (a)は、本発明の第2実施形態に係る磁壁移動型磁性細線デバイスの模式図であり、(b)は、磁区が形成された磁性細線の模式図である。 磁壁移動型磁性細線デバイスを適用した磁性細線メモリを示す模式図である。 磁壁移動型磁性細線デバイスを適用した空間光変調器を示す模式図である。 一般的なHDDのグレインと記録信号の模式図である。 パルス列Aとパルス列Bで記録マークを形成(記録動作)する書き込み方法の模式図であって、(a)は電流A1,B1の波形、(b)は電流A2,B2の波形をそれぞれ示している。 パルス列Aとパルス列Bによる磁気モーメントの運動のシミュレーション結果(Z)を示す図である。 パルス列Aとパルス列Bによる磁気モーメントの運動のシミュレーション結果(Y)を示す図である。 パルス列Aとパルス列Bによる磁気モーメントの運動のシミュレーション結果(X)を示す図である。 実施例2の磁気モーメントの計算結果(200ps)を示す図である。 実施例2の磁気モーメントの計算結果(2000ps)を示す図である。 磁壁移動型磁性細線デバイスを適用した磁性細線メモリの他の例を示す模式図である。
(第1実施形態)
[磁壁移動型磁性細線デバイスの概要]
まず、磁壁移動型磁性細線デバイスの概要について図1~図3を参照して説明する。
図1に示すように、磁壁移動型磁性細線デバイス1は、図示しない基板上に、磁性細線10と、第1記録素子21および第2記録素子22と、電流制御部50と、を主に備えている。
磁性細線10は、第1記録素子21および第2記録素子22の例えば上(z方向の正の向き)に設けられている。第1記録素子21および第2記録素子22は、磁性細線10に直交するように配置された直線状の配線である。第1記録素子21および第2記録素子22は、通電によって発生する磁場により磁性細線10に磁区を形成する。図3(a)に示すように、第1記録素子21および第2記録素子22は、磁性細線10におけるデータ導入領域11を挟むように配置される。
電流制御部50は、第1記録素子21に流れる電流によって形成される磁場と、第2記録素子22に流れる電流によって形成される磁場と、の作用によってデータ導入領域11の磁化が反転するように、第1記録素子21に対して第1方向に流す電流と、第2記録素子22に対して第1方向とは反対の第2方向に流す電流と、を制御する。この電流制御部50は、データ導入領域11で磁化を反転させるときに、第1記録素子21に流す電流の位相と第2記録素子22に流す電流の位相とをずらす。また、電流制御部50は、データ導入領域11で磁化を反転させないときには、第1記録素子21に流す電流の位相と第2記録素子22に流す電流の位相とを揃える。ここで、位相をずらすとは、第1記録素子21に流すパルス電流の時間軸上における波形と、第2記録素子22に流すパルス電流の時間軸上における波形とをずらすことを意味する。
前記位相をずらすときに、磁壁移動型磁性細線デバイス1は、第1記録素子21に流れる電流によってデータ導入領域11に電流磁場の形成を開始する時刻と、第2記録素子22に流れる電流によってデータ導入領域11に電流磁場の形成を開始する時刻と、をずらすようにしてもよい。つまり、パルス幅を変えて、パルス電流の時間軸上における波形の立ち上がりだけをずらしてもよい。なお、このとき、パルス波形の終端がずれてもよいし、合致するようにしてもよい。
ここで、データ導入領域11に電流磁場の形成を開始する時刻をずらす第1の手法としては、電流制御部50により電流の供給タイミングを適切に制御する方法がある。電流制御部50は、第1記録素子21と第2記録素子22に接続されており、これらに対し電流を供給するタイミングを自由に設定することができる。そのため、それらのタイミング差が、必要な位相差と等しくなるように設定すれば、第1記録素子21に流す電流と第2記録素子22に流す電流とのそれぞれによって生じる磁界が強め合うように制御でき、例えば予め上向きの磁化方向の磁区が形成された磁性細線10に対し、下向きの磁化反転を起こす力を増大させることができる。例えば電流制御部50が、データ導入領域11で磁化を反転させるときに、第1記録素子21および第2記録素子22の一方へ電流供給を開始した後に、第1記録素子21および第2記録素子22の他方へ電流供給を開始するようにしてもよい。このときの時間差は、例えばナノ秒(ns)やサブナノ秒のオーダーが想定され、この値は、デバイス構造に応じて実験的に求めればよい。この方法により、第1記録素子21に流す電流と第2記録素子22に流す電流のそれぞれの電流値が同じ組み合わせであっても、より磁性細線10に対し磁区が形成されやすい条件を作ることができる。
また、データ導入領域11に電流磁場の形成を開始する時刻をずらす第2の手法として、例えば、第1記録素子21へ電流を供給するケーブル61a,61b(図1参照)の長さと、第2記録素子22へ電流を供給するケーブル62a,62b(図1参照)の長さとが異なる手法を用いることができる。電流制御部50は、ケーブル61a,61bによって第1記録素子21へ接続されており、またケーブル62a,62bによって第2記録素子22へ接続されている。その上で、電流制御部50は、第1記録素子21へ電流供給を開始するときに、同時に第2記録素子22へ電流供給を開始する。それらケーブル61a,61bおよび62a,62b内を通って電流は、電流制御部50から第1記録素子21および第2記録素子22に流れる。ケーブル長が等しくない場合、電流が第1記録素子21および第2記録素子22に到達する時間もずれる。すなわち、ケーブル長のずれによって、第1記録素子21と第2記録素子22に流す電流の位相差を作り出すことができる。逆に、設定したい所望の位相差に対応するように、ケーブル61a,61bの長さと、ケーブル62a,62bの長さと、を変えればよい。このときのケーブル長のずれは、ケーブルを進む電流の速さと所望の位相差とを乗算することで求めることができる。なお、ケーブルを進む電流の速さVは、次の式(1)で表される。
Figure 0007481930000001
ここで、cは光速3.0×10[m/s]である。また、εは絶縁体の誘電率であり、絶縁体がポリエチレンである場合、その誘電率εは2.7である。具体的には、例えば0.2[ns]の位相差を設定したい場合、ケーブル長のずれを、0.037[m]すなわち3.7[cm]にすればよい。このケーブル長のずれは、現実的に十分に作成可能な長さである。
なお、第2の手法において、電流制御部50が、データ導入領域11で磁化を反転させないときには、ケーブル長が短い記録素子へ電流供給を開始する時刻が、ケーブル長のずれに対応した時間だけ遅延するように制御することで、第1記録素子21と第2記録素子22に流す電流の位相を揃えることができる。
電流制御部50は、第1記録素子21に流す電流の大きさと、第2記録素子22に流す電流の大きさとを等しくしてもよい。また、電流制御部50は、第1記録素子21に流す電流の大きさと、第2記録素子22に流す電流の大きさとを互いに異なるものとしてもよい。後記するシミュレーションの実験例では、電流の大きさを互いに異なるものとした場合に、記録電流のいっそうの低減効果を確認することができた。
[磁壁移動型磁性細線デバイスの構造]
次に、磁壁移動型磁性細線デバイスの構造について図1~図3を参照して説明する。
図1~図3では、磁性細線10の長さ方向がx方向である。第1記録素子21および第2記録素子22の長さ方向がy方向である。また、磁性細線10、第1記録素子21、第2記録素子22の厚み方向がz方向である。なお、磁性細線10の幅方向がy方向であり、第1記録素子21および第2記録素子22の幅方向がx方向である。
以下の説明では、図2(b)に示すように、y軸の正の方向(第1方向)へ流れる電流が電流Aであり、y軸の負の方向(第2方向)へ流れる電流が電流Bであるものとする。また、電流Aを流すことで記録素子の周囲に発生する磁場が磁場Aであり、電流Bを流すことで記録素子の周囲に発生する磁場が磁場Bであるものとする。
磁性細線10は、磁性体を厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成してなる。
磁性細線10としては、磁化方向が膜厚方向(z方向)に向き易い垂直磁化膜を採用することができる。垂直磁化膜は、垂直磁気異方性の磁気材料で形成される。このような材料としては、公知の強磁性材料を適用できる。具体的には、Co等の遷移金属とPd,Pt,Cuとを繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、またTb-Fe-Co,Gd-Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE-TM合金)、Tb/Coなどの希土類多層膜が挙げられる。
これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィと、エッチングまたはリフトオフとにより、細線形状に成形されて磁性細線10となる。本実施形態においては、磁性細線10は垂直磁気異方性材料であるので、異なる2つの磁化方向とは、上向きまたは下向きのいずれかを指す。以下では、下向きの磁化方向を例えばデータ「0」に対応付け、上向きの磁化方向を例えばデータ「1」に対応付けるようにしてもよい。
図3(a)に示すように、磁性細線10は、長さ方向に、データを導入するデータ導入領域11と、データ導入領域11の端部14に隣接したデータ保持領域12と、を少なくとも備えている。
図3(a)に示す例では、磁性細線10の長さ方向がx方向である。この磁性細線10において図中左側の一部の領域がデータ導入領域11として利用され、その右側の大部分の領域がデータ保持領域12として利用される。データ導入領域11とデータ保持領域12は、磁性細線10を形式的に区分するものであり、磁性細線10は物理的には連続的に形成されている。なお、データ導入領域11における図中左側の一端を端部13、図中右側の他端を端部14と呼ぶ。データ導入領域11は、データとして上向きまたは下向きの所望の磁化方向を書き込む領域である。データ保持領域12は、記録したデータを保持するための領域である。磁性細線10は、上向きまたは下向きの磁化方向の磁区をデータ導入領域11に形成され、この磁区が細線の長さ方向に移動してデータ保持領域12に到達する。なお、磁性細線10は、両端に電極71,72を接続するための領域を備えている。これらの電極71,72は、Cu,Al,Au,Pt,Ag,Co等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなる。
第1記録素子21および第2記録素子22は、y方向に延設された直線状の配線である。図3(a)および図3(b)に示すように、第1記録素子21の中心は、データ導入領域11の端部13で磁性細線10に直交するように配置される。また、第2記録素子22の中心は、データ導入領域11の端部14で磁性細線10に直交するように配置される。ここでは、磁性細線10の左端が、データ導入領域11の端部13になっている。
第1記録素子21および第2記録素子22の材料としては、一般的な電極材料を適用できる。具体的には、例えば、導電性のよいCu,Al,Au,Ag,Ta,Cr,Co等の金属やその合金を挙げることができる。一例としては、第1記録素子21および第2記録素子22の材料に、Cuを用いることが好適である。第1記録素子21および第2記録素子22の形成方法としては、例えばスパッタリング法等の公知の方法により電極材料を成膜し、フォトリソグラフィ工程と、エッチングまたはリフトオフ法等の工程とを用いることができる。
なお、図1および図2に示す例では、第1記録素子21および第2記録素子22の断面形状を円形としたが矩形でも構わない(図6参照)。また、第1記録素子21、第2記録素子22および磁性細線10の断面形状は、正方形、長方形、多角形、円形、楕円形等でも構わない。
図1および図2に示す例では、磁壁移動型磁性細線デバイス1は、磁性細線10と、第1記録素子21および第2記録素子22と、の間に絶縁層30を備えている。絶縁層30は、第1記録素子21および第2記録素子22と、磁性細線10とを絶縁するものである。図1および図2に示す例では、絶縁層30は、第1記録素子21および第2記録素子22の上に形成されている。また、絶縁層30の上には磁性細線10が形成されている。すなわち、z方向において、第1記録素子21と第2記録素子22とは、絶縁層30に対して同じ側に配置されている。
なお、磁性細線10と、第1記録素子21および第2記録素子22と、の配置を入れ換えてもよい。その場合、磁性細線10の上に絶縁層30が形成され、その上に第1記録素子21および第2記録素子22が形成される(図6参照)。
絶縁層30を形成する絶縁体は、一般的な絶縁体材料で構成されている。このような材料として、例えばSiO2やAl23等の酸化膜や、Si34やMgF2等を挙げることができる。絶縁層30は、図示しない基板上で安定に支持されていればその形状は図示した平板状に限定されない。第1記録素子21と第2記録素子22の間に絶縁材料を充填したり、第1記録素子21および第2記録素子22の周囲に絶縁材料を敷き詰めたりすることが好ましい。
図1に仮想線で示すように、磁壁移動型磁性細線デバイス1は、第1記録素子21と第2記録素子22との間に磁束集中部材40を挿入した構造としてもよい。
磁束集中部材40は、y方向に延設された直線状の部材であって、第1記録素子21に電流が流れることで発生する磁束と、第2記録素子22に電流が流れることで発生する磁束とを集中させて、磁束の密度を増加させる磁性部材からなる。磁束集中部材40は、例えば軟磁性材料からなることが好ましい、軟磁性材料としては、例えば、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト、Mn-Niフェライト、Ni-Zn-Coフェライトなどのソフトフェライト等を挙げることができる。磁束集中部材40は、図示した中実の棒状の構造であってもよいし、中空の円筒状の構造でもよい。なお、磁束集中部材40の断面形状を円形としたが矩形でも構わない(図6参照)。
[磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法]
磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法は、磁性細線通電工程と、データ導入工程と、を有している。
磁性細線通電工程は、磁性細線10にパルス電流を流す工程である。
データ導入工程は、電流制御部50によって、データ導入領域11で磁化を反転させるときに、第1記録素子21に流す電流の位相と第2記録素子22に流す電流の位相とをずらすことと、また、データ導入領域11で磁化を反転させないときに、第1記録素子21に流す電流の位相と第2記録素子22に流す電流の位相とを揃えることと、を磁性細線10に流すパルス電流に同期しながら所定の順序で行う工程である。
以下では、磁壁移動型磁性細線デバイス1が、磁束集中部材40を有さないものとして、また、磁性細線10のデータ導入領域11の近傍に注目して、図2~図4を参照しながらデータ書き込み方法について説明する。
磁壁移動型磁性細線デバイス1のデータ書き込み方法は、データ導入工程において、例えば、双方向第1磁区形成工程を行う。この双方向第1磁区形成工程は、図2(b)および図3(b)に示すように、第1記録素子21に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、第2記録素子22に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、により磁性細線10のデータ導入領域11に、例えば下向きの磁区を形成する工程である。磁壁移動型磁性細線デバイス1は、磁化を反転させることでデータを書き込む際には、電流制御部50によって、電流Aと電流Bとの位相をずらす。
ここでは、磁性細線10のデータ導入領域11に下向きの磁区を書き込む前の初期状態では、図3(a)に示すように、磁性細線10の全体に、例えば上向きの磁区が形成されているものとする。図3(b)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、図3(a)および図3(b)において上向きの磁化は無地で示されている。
磁性細線10のデータ導入領域11の端部13は、図3(c)および図3(d)に示すように、例えば磁性細線10の左端ではなくてもよい。これらの形態では、データ導入領域11の端部13よりも外側(図3において左側)に磁性細線10の左端部15が配置されている。なお、図3(d)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、図3(c)および図3(d)において上向きの磁化は無地で示されている。
また、磁壁移動型磁性細線デバイス1のデータ書き込み方法は、データ導入工程において、前記双方向第1磁区形成工程の代わりに、双方向第2磁区形成工程を行うこととしてもよい。この双方向第2磁区形成工程は、第1記録素子21に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、第2記録素子22に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、により磁性細線10のデータ導入領域11に上向きの磁化の磁区を形成する工程である。
ここでは、磁性細線10のデータ導入領域11に上向きの磁区を書き込む前の初期状態では、図4(a)に示すように、磁性細線10の全体に、例えば下向きの磁区が形成されているものとする。図4(a)および図4(b)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、図4(b)において上向きの磁化は無地で示されている。
磁性細線10のデータ導入領域11の端部13は、図4(c)および図4(d)に示すように、例えば磁性細線10の左端ではなくてもよい。図4(c)および図4(d)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、図4(d)において上向きの磁化は無地で示されている。
次に、図5を参照して、磁壁移動型磁性細線デバイス1の磁性細線10のデータ保持領域12へのデータの記録方法について説明する。図5(a)は、磁壁移動型磁性細線デバイス1の磁性細線10の全体に、事前に上向きの磁区を書き込んだ上で(図3(c)参照)、双方向第1磁区形成工程を行うことで磁性細線10のデータ導入領域11に、下向きの磁区を形成した状態を示している(図3(d)参照)。なお、図5では、一例として下向きの磁区をドットで示し、上向きの磁区を無地で示している。
磁壁移動型磁性細線デバイス1のデータ書き込み方法は、例えば前記双方向第1磁区形成工程に続けて、磁性細線通電工程によって磁壁駆動工程を行うこともできる。この磁壁駆動工程は、第1記録素子21および第2記録素子22への印加電流を止め、図5(b)に示すように、磁性細線10に対して磁壁を駆動するための電流(電流C)を流す。詳細には、磁性細線10の長さ方向にパルス電流(電流C)を印加すると、負の電荷を持った電子eが図5において右へ移動し、当該磁性細線10に形成されている磁壁を駆動する。この磁壁電流駆動現象により、データ導入領域11に形成されていた下向き磁区を1ビット分の長さだけ図5において右方向へ高速に駆動(ビットシフト)させることができる。なお、図5ではビットシフトの向きを直感的に理解し易いように電子eの移動方向を電流Cの向きとして図示しているが、パルス電流(電流C)は電子の移動方向とは逆向きに流す。また、磁壁駆動方向は、電子の移動方向に限定されるものではなく、磁性細線10の磁性膜を構成する材料によっては、電子の移動方向とは逆方向(電流方向)に磁壁が駆動する場合がある。
上記1回の磁壁駆動工程によって、磁性細線10のデータ保持領域12には、下向き磁区が記録される。また、これにより、磁性細線10のデータ導入領域11には、次のデータを記録できるスペースが生じる。そして、図5(b)に示す磁性細線10の磁化状態から、続けて、上向き磁区をデータ保持領域12に記録したい場合、図5(c)に示すように、再度、磁性細線10の長さ方向にパルス電流(電流C)を印加する。これにより、データ導入領域11に形成されていた上向き磁区を1ビット分の長さだけビットシフトさせることができる。上記2回の磁壁駆動工程によって、磁性細線10のデータ保持領域12には、右から順に、下向き磁区および上向き磁区が記録される。なお、磁性細線10のデータ導入領域11には、次のデータを書き込むスペースが生じる。
次に、図5(c)に示す磁性細線10の磁化状態に続いて、データ導入領域11に下向き磁区を書き込みたい場合、図5(d)に示すように、データ導入工程において双方向第1磁区形成工程を再び行う。これにより、磁性細線10のデータ導入領域11に、下向きの磁区を形成することができる。
次に、図5(d)に示す磁性細線10の磁化状態から、続けて、下向き磁区をデータ保持領域12に記録したい場合、磁壁移動型磁性細線デバイス1のデータ書き込み方法は、双方向第1磁区形成工程に続けて、例えば図5(e)に示す一方向第1磁区形成工程を行うこともできる。この一方向第1磁区形成工程は、磁性細線通電工程とデータ導入工程を併用し、磁性細線10に流す電流Cに連動させて、第2記録素子22に電流を流さずに第1記録素子21に電流Aを流すことで発生する磁場Aにより磁性細線10のデータ導入領域11に第1磁化方向(下向きの磁化)の磁区を形成する工程である。
この一方向第1磁区形成工程によれば、パルス電流(電流C)を印加することで下向き磁区を1ビット分の長さだけビットシフトさせると共に、データ導入領域11に生じた記録スペースには電流磁場(磁場A)により、下向き磁区を形成することができる。上記2回の磁壁駆動工程および一方向第1磁区形成工程によって、磁性細線10のデータ保持領域12には、右から順に、下向き磁区、上向き磁区、および下向き磁区が記録される。以後は同様に磁区形成およびビットシフトを繰り返すことによって、磁性細線10の長さ方向にシーケンシャルな磁区列のデータを蓄積することができる。磁性細線10のデータ保持領域12は、順次情報をデータ保持領域12中にそのままの順番で蓄積することが可能なFirst-in-first-out型のメモリ構成である。つまり、磁性細線10のデータ導入領域11に下向き磁区と上向き磁区のいずれかを所定の順序で書き込みながらビットシフトを行うことで、磁性細線10は、所定ビット長のデータが記録されたメモリとなる。
なお、前記磁壁駆動工程等の説明では、一例として、図5(a)を参照して磁性細線10は初期状態で上向きの磁区が形成されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、磁壁移動型磁性細線デバイス1の磁性細線10の全体に、下向きの磁区を形成した上で(図4(c)参照)、双方向第2磁区形成工程を行うことで磁性細線10のデータ導入領域11に、上向きの磁区を形成した状態(図4(d)参照)からでも、前記磁壁駆動工程等を行うことができる。すなわち、双方向第2磁区形成工程に続けて磁壁駆動工程を行うこともできる。
双方向第2磁区形成工程を行う場合、磁壁移動型磁性細線デバイス1のデータ書き込み方法は、前記一方向第1磁区形成工程の代わりに、一方向第2磁区形成工程を行うことができる。この一方向第2磁区形成工程は、磁性細線通電工程とデータ導入工程を併用し、磁性細線10に流す電流Cに連動させて、第2記録素子22に電流を流さずに第1記録素子21に電流Bを流すことで発生する磁場Bにより磁性細線10のデータ導入領域11に上向きの磁化の磁区を形成する工程である。
また、磁壁移動型磁性細線デバイス1のデータ書き込み方法は、例えば磁性細線10のデータ導入領域11へのデータ書き込みに関して、双方向第1磁区形成工程と双方向第2磁区形成工程の両方を行うこととしてもよい。この場合、初期状態において、磁性細線10は磁化されていなくてもよいし、あるいは、磁性細線10において、部分的に上向きの磁化と下向きの磁化とがランダムに配置された状態(ランダム磁化)であっても構わない。
[シミュレーション]
次に、磁壁移動型磁性細線デバイス1において、磁性細線10上の磁区形成のために第1記録素子21および第2記録素子22に流す記録電流に関するいくつかの実験について図6~図11を参照(図1を適宜参照)して説明する。本願発明者らは、記録電流の低減効果を確認するため、磁性細線10への磁区形成過程のマイクロマグネティックシミュレーションを行った。このとき、図6に示す磁壁移動型磁性細線デバイス1Bを用いた。
磁壁移動型磁性細線デバイス1Bは、磁性細線10と、第1記録素子21と、第2記録素子22と、磁束集中部材40と、図示しない電流制御部50と、を主に備えている。磁壁移動型磁性細線デバイス1Bにおいて、磁壁移動型磁性細線デバイス1と同じ構成には、同じ符号を付して説明を省略する。この磁壁移動型磁性細線デバイス1Bにおいて、磁性細線10は、第1記録素子21および第2記録素子22の下(z方向の負の向き)に設けられている。また、第1記録素子21および第2記録素子22は、断面が正方形であるものとした。磁束集中部材40は、第1記録素子21および第2記録素子22の間に配置されており、ここでは軟磁性材料で構成されるものとした。
磁壁移動型磁性細線デバイス1Bは、下記の構造および磁気特性を有するものとして実験(第1本実験、第2本実験)を行った。
また、第1比較例として、磁壁移動型磁性細線デバイス1Bから磁束集中部材40を除去した構造を有し、かつ、記録電流の位相差がない場合についても実験(第1比較実験)を行った。さらに、第2比較例として、磁壁移動型磁性細線デバイス1Bと同じ構造を有し、かつ、記録電流の位相差がない場合についても実験(第2比較実験)を行った。
[構造および磁気特性]
(磁性細線の構造)
長さ(x方向):1.6[μm]
幅 (y方向):120[nm]
膜厚(z方向):12[nm]
(磁性細線の磁気特性)
飽和磁化4πM:0.15[T]
異方性磁界H:5.0[kOe]
交換結合係数A:1.2×10-11[J/m]
なお、1[Oe]=103/(4π)[A/m]である。
(第1記録素子、第2記録素子の構造)
長さ(y方向):2.0[μm]
幅 (x方向):120[nm]
膜厚(z方向):120[nm]
記録素子間距離(x方向):100[nm]
各記録素子と磁性細線との間の距離(z方向)h:10[nm]
(磁束集中部材40の構造)
長さ(y方向):2.0[μm]
幅 (x方向):80[nm]
膜厚(z方向):120[nm]
記録素子間距離(x方向):100[nm]
(磁束集中部材40の比透磁率)
μ=3000
[記録電流を流す向きの前提条件]
各実験の前提として、予め磁性細線10の全体にz軸の正の方向(上向き)の磁区を形成しておいた。その上で、図2(b)に示すように、第1記録素子21に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、第2記録素子22に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、により磁性細線10に第1磁化方向(下向き)の磁区を形成する計算を、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を用いて実行した。また、各記録素子に対して、後記するように数十~100[mA]の範囲の記録電流を印加した。ここで、電流値100[mA]は、電流密度に換算すると6.7×10[A/cm]に相当する。
以下、第1比較実験、第2比較実験、第1本実験、第2本実験について順次説明する。
(第1比較実験)
第1比較実験は、第1比較例に関する実験であって、磁壁移動型磁性細線デバイス1Bから磁束集中部材40を除去し、かつ、第1記録素子21に流すパルス電流と、第2記録素子22に流すパルス電流の時間軸上における位相差が0[ns]であるものとした。このときに第1記録素子21に流す電流Aの波形を図7(a)に示し、第2記録素子22に流す電流Bの波形を図7(b)に示す。なお、以下では、第1記録素子21に流すパルス電流の電流値(波高値)をIとし、第2記録素子22に流すパルス電流の電流値(波高値)をIとする。また、パルス幅は2.0[ns]とした。
この実験では、第1記録素子21に流す電流Aの電流値Iと、第2記録素子22に流す電流Bの電流値Iを、100[mA]から徐々に低減させた場合に、それぞれ磁区形成できるか否かを調べた。
なお、磁性細線10に予め形成されていた上向きの磁区が、下向きの磁区に変化するのは、上向きの磁気モーメントが、下向きに反転するためである。図8に磁化反転の一例を示す。磁気モーメントは、例えば初期方向が上向きである場合、最初は、S1の状態で固定化されている。そして、下向きにある強度以上の外部磁界が印加されると、磁気モーメントは歳差運動しながら、状態S1→状態S2→状態S3→状態S4の順序で連続的に移動して、状態S5のように反転する。
第1比較実験の結果、図11(a)に示すように、電流値I,Iが共に90mA以上のときには磁区形成することができた。しかし、電流値I=I=80mA以下の場合、磁区形成不可であった。第1比較実験の代表例として、電流値I=I=90mAの場合に、第1記録素子21および第2記録素子22への電流印加を開始してから2.0[ns]までの間における磁化状態の時間遷移図を図9に示す。
図9において左には、上から下に向かって磁化状態を計算した時刻をそれぞれ記載している。磁化状態を計算した時刻は、電流印加開始からの経過時間[ns]であって、ここでは、10個の時刻について磁化状態をそれぞれ計算した。具体的には、経過時間が0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.50、0.75、1.0、1.5、2.0となる各時刻において磁化状態をそれぞれ計算した。
図9において中央には、磁化状態を計算した10個の時刻それぞれに対応させて、磁性細線における磁化状態をそれぞれ示している。詳細には、磁化状態を計算した時刻ごとに、磁性細線10のデータ導入領域11の近傍をz軸の正の方向から見た場合における磁化状態をそれぞれ示している。なお、磁化の強さはモノトーンの濃淡で示されている。
図9において下には、x方向の長さを示すx軸が記載されており、x方向の長さの単位はナノメートルである。ここでは、x軸の原点Oは、磁性細線10のデータ導入領域11の中心に対応している。x軸において-170~-50nmの位置には、磁性細線10の下側に絶縁層30を介して第1記録素子21が配置されている。また、x軸において50~170nmの位置には、磁性細線10の下側に絶縁層30を介して第2記録素子22が配置されている。なお、磁性細線10上の計算メッシュサイズは4nmとした。
図9において右には、z軸方向の磁化の強さと、モノトーンの濃淡との関係を示している。ここでは、縦軸がz軸方向の磁化の強さを示している。縦軸の上方が+z(上向き磁区)を示し、縦軸の下方が-z(下向き磁区)を示す。縦軸の上ほど白色に近づき、縦軸の下ほど黒色に近づく。縦軸の最大値(白色)が飽和磁化+1.0、最小値(黒色)が飽和磁化-1.0であるものとして、計算後の磁化の強さの結果を濃淡として表現することにより、磁化がどのような中間値を取っているかを調べた。
記録電流を流す向きの前提条件で述べたように、第1比較実験では、予め磁性細線10の全体に、+z(上向きの磁区)を形成しておいた。また、第1記録素子21に対して、y軸の正の方向への電流(電流A)を印加し、かつ、第2記録素子22に対して、y軸の負の方向への電流(電流B)を印加した。また、図7(a)に波形を示す電流Aの電流値I=90mA、図7(b)に波形を示す電流Bの電流値I=90mA、電流Aおよび電流Bの位相差は0[ns]であるものとした。このとき、図9に示すように、時間の経過(~0.50ns)に伴って、x軸の原点Oの近傍は、白色の領域が徐々に減少し、経過時間が0.75nsのときには、x軸の原点Oの近傍は、すべて黒色の領域に転じた。これは、第1記録素子21および第2記録素子22の間のデータ導入領域11に、下向きに、ある強度以上の電流による外部磁界が印加されることにより、記録素子間に、-z(下向きの磁区)が形成されたためであると考えられる。なお、x軸の原点Oの近傍は、すべて黒色の領域に転じた後、経過時間が2.0ns(パルス幅)になるまで大きな変化はなかった。
(第2比較実験)
第2比較実験は、磁束集中部材40の有無を対比するための実験である。すなわち、第2比較例と第1比較例とを対比するための実験である。この第2比較実験では、磁壁移動型磁性細線デバイス1Bと同様に磁束集中部材40を備え、かつ、第1記録素子21に流すパルス電流と、第2記録素子22に流すパルス電流の時間軸上における位相差が0[ns]であるものとした。このときに第1記録素子21に流す電流Aの波形を図7(a)に示し、第2記録素子22に流す電流Bの波形を図7(b)に示す。この第2比較実験では、磁束集中部材40による記録電流の低減効果を調べた。具体的には、軟磁性材料を有する場合、第1記録素子21に流す電流Aの電流値Iと、第2記録素子22に流す電流Bの電流値Iとを、90[mA]からどこまで低減できるかを調べた。なお、第1記録素子21および第2記録素子22への電流印加を開始してから2[ns]が経過した時点における磁化状態を判定に用いた。
第2比較実験の結果、図11(b)に示すように、記録電流値をI=I=90mAから下げていくと、I=I=80mAの条件で軟磁性材料を用いないデバイスには磁区が形成されなかった。つまり、軟磁性材料を用いない第1比較例では、記録電流値I=I=90mAが、磁区形成される電流の下限値である。
一方、軟磁性材料を有する場合、電流値I,Iが共に80mAのときでも70mAのときでも磁区形成することができた。つまり、軟磁性材料を記録素子間に挿入することにより、軟磁性材料を用いない場合に比べて、記録電流値をI=I=90mAから、I=I=70mAまで20mA低減させることができた。しかしながら、軟磁性材料を有していても位相差が0[ns]である場合、電流値I=I=60mA以下では、磁区形成不可であった。
(第1本実験)
第1本実験では、磁壁移動型磁性細線デバイス1Bを用い、かつ、第1記録素子21に流すパルス電流と、第2記録素子22に流すパルス電流との間に、時間軸上における位相差がT[ns]であるものとした。このときに第1記録素子21に流す電流Aの波形を図7(c)に示し、第2記録素子22に流す電流Bの波形を図7(d)に示す。図7(c)に示すように、第1記録素子21に流す電流Aの波形は、図7(a)に示す波形と同じである。一方、図7(d)に示すように、第2記録素子22に流す電流Bの波形は、図7(b)に示す波形と比べて、パルスの立ち上がりをT[ns]遅らせ、位相差をつけた。
記録電流を流す向きの前提条件で述べたように、第1本実験では、予め磁性細線10の全体に、上向きの磁区を形成しておいた。また、第1記録素子21に対して、y軸の正の方向への電流(電流A)を印加し、かつ、第2記録素子22に対して、y軸の負の方向への電流(電流B)を印加した。また、この実験では、記録素子に流す電流として、第2比較実験の下限値(電流値I=I=70mA)よりも低い電流値I=I=50mAの電流を用いて、位相差T[ns]を変化させた場合に、それぞれ磁区形成できるか否かを調べた。
図10は、第1本実験の結果を示す図である。図10において左には、記録電流を記載している。図10において中央には、上から下に向かって位相差T[ns]をそれぞれ記載している。ここでは、9個の位相差について磁化状態をそれぞれ計算した。具体的には、位相差T[ns]が、0、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4となる各位相差において磁化状態をそれぞれ計算した。
図10において右には、磁化状態を計算した9個の位相差それぞれに対応させて、磁性細線における磁化状態をそれぞれ示している。詳細には、磁化状態を計算した位相差ごとに、第1記録素子21および第2記録素子22への電流印加を開始してから2[ns]が経過した時点における磁化状態を示している。また、磁性細線10のデータ導入領域11の近傍をz軸の正の方向から見た場合における磁化状態を示している。
磁化の強さはモノトーンの濃淡で示されている。ここで、磁化状態を示すモノトーンの濃淡と、z軸方向の磁化の強さとの関係も図9と同様である。また、図10における磁化状態の模式図は、記録素子間に軟磁性材料(磁束集中部材40)が設けられている点を除き、図9における磁化状態の模式図と同様である。つまり、図10では図9のx軸を省略したが、磁性細線10のデータ導入領域11や各記録素子の位置は図9と同様である。
このとき、図10に示すように、記録電流値I=I=50mAの条件では、同位相(位相差T[ns]=0)のとき、記録素子間のデータ導入領域は、黒色にならず、磁区形成できなかった。
一方、記録電流値I=I=50mAの条件であっても、位相差T[ns]を0.05としたとき、および0.15としたときには、記録素子間のデータ導入領域は、黒色になって磁区形成することができた。磁区形成できた理由については、おそらく、位相差T[ns]=0.05,0.15における歳差運動のベクトル位置、および、その傾きが関係して磁化反転しやすい状況になったためであると考えられる。
なお、位相差T[ns]が0.1のときには磁化反転できなかった。磁区形成できなかった理由については、おそらく、位相差T[ns]=0.01における歳差運動のベクトル位置、および、その傾きが関係して磁化反転しにくい状況になったためであると考えられる。例えば図8のように磁気モーメントがS1の状態で固定化されている場合に、下向きに印加される外部磁界の強度が不十分であると、磁化反転しにくい状況であると考えられる。状態S1から次の状態に遷移するときに外部磁界の強度が不十分であると、磁気モーメントの歳差運動も不十分なものとなって、例えば状態S1→状態S2→状態S1といった遷移をして反転することなく元の状態S1に戻ってしまう。あるいは、状態S1→状態S2→状態S3→状態S2→状態S1といった遷移をして反転することなく元の状態S1に戻ってしまう。
一方、第1本実験では、図6に示す磁壁移動型磁性細線デバイス1Bにおいて、前記した構造および磁気特性の条件下で、50mAという低電流値で磁区を形成できること、すなわち、データを記録できることを確かめることができた。この50mAという電流値は、HDD用磁気ヘッドに用いられる電流値と同等の値なので、磁壁移動型磁性細線デバイス1Bを用いる記録手法は、実デバイス実現のために有効な記録手法であると考えられる。
(第2本実験)
第2本実験は、第1本実験で磁区形成を確認した事例(位相差T[ns]を0.05とした場合の事例)において、記録電流値I,Iを異なる値とした点以外は、第1本実験と同様である。この第2本実験では、位相差T[ns]=0.05である場合に、第1記録素子21に流す電流Aの電流値Iを50mAとし、かつ、第2記録素子22に流す電流Bの電流値Iを40mAとしてシミュレーションを行った。また、同様に、第1記録素子21および第2記録素子22への電流印加を開始してから2[ns]が経過した時点における磁化状態を判定に用いた。その結果、上記条件であっても、図11(c)に示すように、磁区を形成できることが確認できた。
(第3本実験)
記録電流の位相差があって磁束集中部材40の無いデバイスについても実験(第3本実験)を行った。第3本実験では、磁束集中部材40の無いデバイスであって、下記のように第1記録素子21および第2記録素子22の太さの値だけを低減して、前記した構造および磁気特性と同様のものを用いてシミュレーションを行った。
(第1記録素子、第2記録素子の構造)
長さ(y方向):2.0[μm]
幅 (x方向):100[nm]
膜厚(z方向): 40[nm]
第3本実験で用いた磁束集中部材40の無いデバイスの場合、記録電流の位相差が無いときの記録電流値はI=I=60mAが、磁区形成される電流の下限値であった。第3本実験では、記録素子に流す電流として、この下限値(電流値I=I=60mA)よりも低い電流値I=I=50mAの電流を用いて、位相差T[ns]を、0、0.1および0.2とした場合に、それぞれ磁区形成できるか否かを調べた。その結果、下記の表1に示すように、磁束集中部材40の無いデバイスであっても記録電流に位相差をつけることで、位相差が無いときの記録電流の下限を低減できることが確かめられた。
Figure 0007481930000002
(第2実施形態)
図12(a)に示す磁壁移動型磁性細線デバイス1Cは、複数の磁性細線10と、第1記録素子21と、第2記録素子22と、図示しない電流制御部50と、を主に備えている。磁壁移動型磁性細線デバイス1Cは、複数の磁性細線10を備えている点が図1に示す磁壁移動型磁性細線デバイス1と相違している。磁壁移動型磁性細線デバイス1Cにおいて、磁壁移動型磁性細線デバイス1と同じ構成には、同じ符号を付して説明を省略する。図12(a)には、3個の磁性細線10を図示しているが、個数は特に限定されない。y方向に隣り合う磁性細線10は、微小距離だけ離間して配設されている。隣り合う磁性細線10の間には絶縁層を設けてもよい。
磁壁移動型磁性細線デバイス1Cのデータ書き込み方法は、一度に複数の磁性細線10に対して所定の磁化方向の磁区を形成できる点を除いて、磁壁移動型磁性細線デバイス1のデータ書き込み方法と同様である。例えば、磁壁移動型磁性細線デバイス1Cのデータ書き込み方法は、図12(b)に示すように、第1記録素子21に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、第2記録素子22に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、により、一度に複数の磁性細線10に対して第1磁化方向(下向き)の磁区を形成する工程(双方向第1磁区形成工程)を行う。なお、磁壁移動型磁性細線デバイス1Cも、磁化を反転させることでデータを書き込む際には、電流Aと電流Bとの位相をずらすことで、第1実施形態と同様、記録素子に対して流す電流値を低減しつつ、安定した形状の磁区を形成することが可能となる。
また、磁壁移動型磁性細線デバイス1Cのデータ書き込み方法は、例えば、双方向第1磁区形成工程の代わりに、第1記録素子21に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、第2記録素子22に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、により、一度に複数の磁性細線10に対して上向きの磁区を形成する工程(双方向第2磁区形成工程)を行うこととしてもよい。さらに、磁壁移動型磁性細線デバイス1Cのデータ書き込み方法は、双方向第1磁区形成工程と双方向第2磁区形成工程の両方を行うこととしてもよい。
また、磁壁移動型磁性細線デバイス1Cのデータ書き込み方法は、双方向第1磁区形成工程または双方向第2磁区形成工程に続けて、前記した磁壁駆動工程を行うことができる。磁壁駆動工程は、磁性細線10ごとに行うことができる。
また、磁壁移動型磁性細線デバイス1Cのデータ書き込み方法は、双方向第1磁区形成工程に続けて、前記した一方向第1磁区形成工程を行うこととしてもよい。
また、磁壁移動型磁性細線デバイス1Cのデータ書き込み方法は、双方向第2磁区形成工程に続けて、前記した一方向第2磁区形成工程を行うこととしてもよい。
第2実施形態では、一方向第1磁区形成工程または一方向第2磁区形成工程は、一度に複数の磁性細線10に対して所定の磁化方向の磁区を形成する工程である。
前記実施形態に係る磁壁移動型磁性細線デバイス1~1Cは、磁性細線10と、第1記録素子21および第2記録素子22と、の間に絶縁層30を備える形態で説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、平板状の絶縁層30を有する代わりに、第1記録素子21および第2記録素子22に絶縁被膜を設けることもできる。
[磁壁移動型磁性細線デバイスの適用例]
(磁性細線メモリ)
磁壁移動型磁性細線デバイス1~1Cは、例えば磁性細線メモリに適用することができる。図13に示す記録再生装置100は、図示しない基板上に設けられた磁性細線メモリ110と、パルス電流源120と、を備え、磁性細線メモリ110への情報の記録処理や磁性細線メモリ110から情報を読み出す再生処理を行う。磁性細線メモリ110は、データの記録トラックとしての複数の磁性細線10と、第1記録素子21および第2記録素子22と、再生用の磁気ヘッド(再生ヘッド)90と、を備えている。ここで、複数の磁性細線10と、第1記録素子21および第2記録素子22と、電流制御部50と、によって磁壁移動型磁性細線デバイス1Cが構成されている。なお、図13では、絶縁層30を省略している。
磁性細線メモリ110は、不図示の基板上に複数の磁性細線10を備えている。ここで、磁性細線10は、予め例えば上向きに磁化しておく。また、隣接する磁性細線10は、互いに不図示の絶縁層を挟み、微小距離だけ離間して配設されている。各磁性細線10は、第2記録素子22から、第1記録素子21とは反対側に所定距離だけ離れた所定位置に再生ヘッド90を有している。再生ヘッド90は、直下の磁区から生じた漏えい磁束の方向を検出し、磁化の向きに対応した信号を出力する。
各磁性細線10は、パルス電流源120に接続されている。各磁性細線10には、図13において右から左にパルス電流が流される。パルス電流を流す方向とは逆向き(図13において左から右)に電子が移動する。電子の移動方向と磁区Dの移動方向とは同じ向き(図13において左から右)である。これにより、磁区Dを再生ヘッド90に対向する位置に高速でシフト移動させて読出しを行うように構成されている。なお、磁性細線10の磁性膜を構成する材料によっては、電子の移動方向とは逆方向(電流方向)に磁壁が駆動する場合がある。
また、図13に示すように、記録再生装置100は、記録系制御部130と、再生系制御部140と、を備える。記録系制御部130は、入力された情報信号を分割し、分割された単位情報を各磁性細線10に記録するために、第1記録素子21および第2記録素子22に電流を供給すると共に、パルス電流源120から各磁性細線10へのパルス電流の供給タイミングを制御する。記録系制御部130は、電流制御部50を備えている。電流制御部50は前記した通りなので、ここでは説明は省略する。再生系制御部140は、各再生ヘッド90で得られた情報信号を合成して信号を復元し、外部に出力する。
記録再生装置100が、磁性細線メモリ110へデータを記録する手順は、図5を参照して説明した記録手順と同様なので、ここでは説明を省略する。
なお、記録再生装置100は、再生系制御部140を除く構成の記録装置101を備えている。すなわち、記録装置101は、磁性細線メモリ110と、パルス電流源120と、記録系制御部130と、を備え、磁性細線メモリ110への情報の記録処理を行うことができる。なお、図13では、記録系制御部130が電流制御部50を備えることとしたが、記録系制御部130と電流制御部50とは別体でも構わない。
記録再生装置100が、磁性細線メモリ110に記録されている情報を再生するには、磁性細線10に連続的にパルス電流を印加して、記録された磁区列を再生ヘッド90の直下まで移動させる。これにより、再生ヘッド90は直下の磁区から生じた漏えい磁束の方向を検出し、磁化の向きに対応した信号を出力する。以後は、同様にビットシフト(磁壁駆動)および再生ヘッド90による磁区の検出を繰り返すことにより、元の2値情報を再生する。このような磁性細線10を複数用意し、それらを同期させて駆動することで、磁性細線メモリ110は高速記録を実現する。
(空間光変調器)
磁壁移動型磁性細線デバイス1~1Cは、例えば空間光変調器に適用することができる。図14は、磁壁移動型磁性細線デバイス1を用いた空間光変調器200の構成を示す説明図である。この空間光変調器200は、不図示の基板上に第1記録素子21および第2記録素子22と、絶縁層30と、磁性細線10と、偏光フィルタ201,202と、を備えている。なお、磁性細線10と、第1記録素子21および第2記録素子22と、絶縁層30と、によって磁壁移動型磁性細線デバイス1が構成されている。
空間光変調器200では、磁性細線10にデータを記録するために、図13に示す記録装置101と同様の構成の記録装置を用いることができる。不図示の記録装置は、磁壁移動型磁性細線デバイス1と、パルス電流源120と、電流制御部50を含む記録系制御部130(図13参照)と、を備えている。
磁性細線10は、パルス電流源120に接続されている。磁性細線10には、図14において右から左にパルス電流が流される。パルス電流を流す方向とは逆向き(図14において左から右)に電子が移動することで、磁壁が電子の移動方向に駆動する。なお、磁性細線10の磁性膜を構成する材料によっては、電子の移動方向とは逆方向(電流方向)に磁壁が駆動する場合がある。
記録系制御部130は、空間光変調器200で所定の明暗像を表示するためのデータを磁性細線10に記録する処理を行う。なお、磁性細線10へデータを記録する手順は、図5を参照して説明した記録手順と同様なので、ここでは説明を省略する。
一例として図14に示すように磁性細線10に、長さ方向の右から順に、「下向き、下向き、下向き、上向き、上向き」のデータがそれぞれ記録されているものとする。この場合の空間光変調器200の動作は次の通りである。例えばレーザー光源等の光源300から空間光変調器200に照射された光は、レーザーの種類によるが、様々な偏光成分を含んでいる場合もあり、偏光フィルタ201を透過して1つの偏光成分の光301となり、磁性細線10に入射する。磁性細線10で反射した光のうち、特定の偏光302は、偏光フィルタ202で遮光される。また、磁性細線10で反射した光のうち他の光303は、偏光フィルタ202を透過する。
詳細には、磁性細線10に入射した光301は、磁性細線10で反射したときに、その偏光の向きが、磁気光学効果により回転する(旋光する)。図14においては、磁性細線10の上向きの磁化方向を示す領域で反射した光303は、入射光301に比べて+θKだけ旋光する。また、磁性細線10の下向きの磁化方向を示す領域で反射した光302は、入射光301と比べて-θKだけ旋光する。したがって、空間光変調器200は、明暗像を表示することができる。
[他の実施形態]
他の実施形態として、磁性細線メモリに適用することを想定した磁壁移動型磁性細線デバイス、および、そのデータ書き込み方法の実施形態について、随時、一般的なHDD(Hard Disk Drive)の記録法と対比させながら説明する。そのため、この実施形態では、最短記録マークの長さ(所謂、最短記録マーク長M)についても言及する。前記した位相差T[ns]は時間を一般的に表すTと混同するので、遅延を表すdをつけて、Td[ps]と呼称する。なお、適宜、単位nsを単位psに換算して説明する。
まず、HDDの記録法について簡単に説明する。図15に示すように、磁気力顕微鏡を用いるとHDDの媒体410の表面には多数のグレイン(磁気微粒子)が観察される。HDDの記録信号500が有する1の情報や0の情報は、媒体410の所定領域420に記録マークとして形成される。記録信号500のうち例えばパルス510は、その1パルスで1記録マークを形成する。ところで、現在のHDDの最高記録密度は、ほぼ1T(テラ)[bit/inch2]で、最短記録マーク長Mは10~20[nm]程度である。また、最近のHDDの回転数として例えば5400rpm(revolutions per minute)を想定した場合、最短記録マークを形成するときの記録時間は約500[ps]になる。そのため、図15に示すパルス510のパルス幅は例えば500[ps]であるものとする。
この実施形態では、例えば磁壁移動型磁性細線デバイス1の電流制御部50が第1記録素子21および第2記録素子22に流す電流が、データ導入領域11の磁化を反転することのできる予め定められたパルス幅を有するパルス電流に基づいて、当該パルス電流の周波数を上げる変調が施された高周波パルス電流であるものとする。
例えば、前記した第1本実験(図10参照)に示した結果によれば、例えば第1記録素子21に流す電流Aのパルス幅が200psの場合、かつ、第2記録素子22に流す電流Bのパルス幅が例えば150psの場合、磁性細線10のデータ導入領域11の磁化を反転することができる。これらのパルス電流の周波数を上げる変調をすることで後記するように高周波パルス電流を設定することができる。
以下では、第1記録素子21に流すパルス列をパルス列Aという。第2記録素子22に流すパルス列をパルス列Bという。なお、パルスの1周期は、所定データの信号を送るためのデータ区間(例えばピーク区間、以下、パルス幅という)と、信号はあるものの実質的なデータがない区間(例えばベース区間、以下、アイドル区間という)と、を備えている。
この実施形態の磁壁移動型磁性細線デバイスについても、磁性細線10への磁区形成過程のマイクロマグネティックシミュレーションを行った。なお、図6に示す磁壁移動型磁性細線デバイス1Bにおいて、磁束集中部材40を除き、磁性細線10、第1記録素子21、および第2記録素子22のサイズを小型化すると共に記録素子間距離を縮め、以下の計算条件に変更してLLG方程式を用いて計算した。
[計算条件]
(磁性細線の構造)
長さ(x方向):216[nm]
幅 (y方向):16[nm]
膜厚(z方向):12[nm]
(磁性細線の磁気特性)
飽和磁化4πM:0.15[T]
異方性磁界H:5.0[kOe]
交換結合係数A:1.2×10-11[J/m]
(第1記録素子、第2記録素子の構造)
長さ(y方向):270[nm]
幅 (x方向):13.5[nm]
膜厚(z方向):40[nm]
記録素子間距離(x方向):13.5[nm]
各記録素子と磁性細線との間の距離(z方向)h:10[nm]
各記録素子への印加電流:0.05[A](=50[mA])
磁性細線の初期磁化方向:z軸の正の方向(上向き)
また、第1記録素子21および第2記録素子22に流すパルス電流の条件を変えてそれぞれ計算した結果をいくつかの実施例および比較例として説明する。まず、実施例1について、図16(a)を参照して説明する。図16(a)に示す電流A1は、第1記録素子21に流す電流Aとして、図7(c)に示す波形を有する電流パルスがいくつも並んだパルス列Aのうちの1つ分の電流パルスに相当する。図16(a)に示す電流B1は、第2記録素子22に流す電流Bとして、図7(d)に示す波形を有する電流パルスがいくつも並んだパルス列Bのうちの1つ分の電流パルスに相当する。これら電流A1と電流B1とを用いることで、従来の1パルス(図15の電流パルス510)でHDDに記録している記録マークを、磁性細線10に形成することができる。なお、図16(a)において、電流A1および電流B1の時間軸上における位相差を遅延時間Td[ps]と呼称している。
また、HDDでは、最短記録マーク長Mを有する最短記録マーク1Mから、それよりも長い記録マークまで様々な記録マークを形成している。一例として4M記録マーク(最短記録マーク1Mの4倍)において、実施例1で、磁性細線10に4M記録マークの形成をする場合を想定し、以下の条件で計算した。電流A1のパルス幅は、例えば図7(c)と同様に2[ns]であるものとした。電流A1に対する電流B1の遅延時間は、Td=0.05[ns]であるものとした。以下では、単位nsを単位psに換算して説明する。すなわち、第1記録素子21に流すパルス列A(電流A1)のパルス幅を2000[ps]、第2記録素子22に流すパルス列B(電流B1)の遅延時間をTd=50[ps]とした。つまり、パルス列A(電流A1)の記録パルス幅は2000[ps]であり、パルス列B(電流B1)の記録パルス幅は1950[ps]であるものとして、それぞれ電流を印加した。実施例1では、磁性細線10における磁化反転が可能であることを確認した。
次に、実施例2について、図16(b)を参照して説明する。図16(b)に示す電流A2は、第1記録素子21に流すパルス列Aのうちの4つ分の電流パルスであって、電流A1とは波形が異なっている。図16(b)に示す電流B2は、第2記録素子22に流すパルス列Bのうちの4つ分の電流パルスであって、電流B1とは波形が異なっている。
図16(b)に示すように、実施例2では、第1記録素子21に流すパルス列A(電流A2)のパルス幅をS[ps]、アイドル区間をL[ps]とした。また、第2記録素子22に流すパルス列B(電流B2)の遅延時間をTd[ps]とした。つまり、パルス列A(電流A2)の記録パルス幅はS[ps]であり、パルス列B(電流B2)の記録パルス幅は(S-Td)[ps]であるものとして、それぞれ電流を印加した。
実施例2では、実施例1と同様に2nsで記録マークを形成している場合を想定し、以下の条件で計算した。
電流A2のパルス幅:S=200[ps]
電流A2に対する電流B2の遅延時間:Td=50[ps](Td=0.05[ns])
なお、記録パルス幅S=200[ps]とアイドル区間L=300[ps]との和であるパルス周期は500[ps]である。
これら電流A2と電流B2とを用いることで、従来の1パルス(図15の電流パルス510)でHDDに記録している記録マークを、磁性細線10に形成することができる。すなわち、実施例2においても、磁性細線10における磁化反転が可能であることを確認した。そのシミュレーション結果の詳細については後記する。ここでは、実施例2においてパルス幅をS=200[ps]とした理由を述べるために、遅延時間を僅かに変更した実施例3および実施例4を説明する。
図17、図18、図19は、1つの球面上にプロットされたシミュレーション結果を異なる3方向から観察した図面であって、いずれも同じシミュレーション結果を示している。より詳しくは、図17は、Z軸上部方向(正の方向)から見た状態遷移図である。図17に図示するように、球(上面視で円)を縦に2分割する直径上において、右がX軸上部方向(正の方向)であり、この球を横に2分割する直径上において、下がY軸上部方向(正の方向)である。この図17においてY軸上部が配置された側から斜め上方向に見た状態遷移図が図18である。図19は、X軸上部方向(正の方向)の正面から見た状態遷移図である。図19に図示するように、球(上面視で円)を横に2分割する直径上において、上がZ軸上部方向(正の方向)であり、この球を縦に2分割する直径上において、左がY軸上部方向(正の方向)である。
このシミュレーションでは、第1記録素子21に電流A2を印加し始めてから200[ps]までの間に、磁気モーメントの運動がどのように変化するのかを確かめた。
図17、図18、図19は、球面上に、歳差運動のベクトル位置の遷移を、電流A2が印加された時刻(t=0[ns])から10[ps]刻みで示している。この歳差運動のベクトル位置は、磁気モーメントの状態の指標であり、図8におけるベクトルの先端位置のことである。ここでは、時刻t=0[ns]のとき、磁性細線の初期磁化方向は上向きである。よって、時刻t=0[ns]のとき、歳差運動のベクトル位置は、図8の状態S1と同様にz軸上にある。
シミュレーションでは、比較例1として、パルス列B(電流B2)を用いずに電流A2のみを印加した場合を調べた。図17~図19において、比較例1の結果は、すべて丸印で示されている。
また、以下の実施例3、実施例4、比較例2、および比較例3では、パルス列A(電流A2)を印加すると共に、所定の遅延時間Tdだけ遅れたパルス列B(電流B2)を印加した。実施例3は、遅延時間Tdを、実施例2の遅延時間(Td=50[ps])よりも僅かに小さくしたものであり(Td=40[ps])、実施例4は、遅延時間Tdを、実施例2の遅延時間よりも僅かに大きくしたものである(Td=60[ps])。比較例2は、遅延時間Tdを非常に小さくしたものであり(Td=30[ps])、比較例3は、遅延時間Tdを非常に大きくしたものである(Td=70[ps])。
図17~図19において、実施例3の結果は、丸印(パルス列Aのみの時間帯)とクロス形状(パルス列B追加後の時間帯)で示されている。同様に、実施例4の結果は、丸印と矩形で示されている。比較例2の結果は、丸印とダイヤ形状で示されており、比較例3の結果は、丸印と三角形で示されている。なお、分岐箇所等のグラフを見やすくするために、パルス列B追加後の時間帯を表す各形状の図示を省略している場合がある。
図17を参照すると、比較例1の結果、すなわち電流A2のみを印加した結果、初期状態では上向きだった磁化方向(プラス極)が、t=30[ps]くらいまでは、下向き(マイナス極)側へ振れることが分かる(図18も併せて参照)。しかし、比較例1は、パルス列Bを用いていないため、下向きに印加される外部磁界の強度が不十分である。そのため、比較例1は、一度マイナス極側へ振れた後、プラス極側に戻っており、磁化反転しない。
比較例2、実施例3、比較例3、実施例4では、電流A2の印加開始から遅延時間Td[ps]後、電流B2の印加を開始している。そのため、これらのシミュレーション結果は、電流B2の印加を開始する前までは、電流A2のみが印加されていることから、比較例1の結果の一部と重複している。
例えば比較例2では、電流A2の印加開始からt=20[ps]まで電流A2のみが印加されており、t=30[ps]のときに電流B2の印加が開始される。したがって、比較例2の結果は、t=20[ps]までの間は、比較例1の結果と重複する。そして、比較例2の結果では、その後、遅延時間Td(30[ps])付近で分岐し、マイナス極側へ移動した後、途中でプラス極側に戻るようになっており、反転していないことが分かる(図19も併せて参照)。また、比較例3では、t=60[ps]までの間は、比較例1の結果と重複し、その後、遅延時間Td(70[ps])付近で分岐し、マイナス極側へ移動した後、途中でプラス極側に戻るようになっており、反転していないことが分かる(図19も併せて参照)。
これに対して、例えば実施例3の場合、t=30[ps]までの間は、比較例1の結果と重複し、その後、遅延時間Td付近で分岐した後、マイナス極側へ大きく振れて、反転していることが分かる(図18および図19も併せて参照)。また、実施例4では、t=50[ps]までの間は、比較例1の結果と重複し、その後、遅延時間Td(60[ps])付近で分岐した後、マイナス極側へ大きく振れて、反転していることが分かる(図18および図19も併せて参照)。
これらのシミュレーション結果から、電流B2の遅延時間Tdが40~60[ps]の範囲内で磁化が反転していることが確かめられた。また、実施例3、実施例4によれば、磁化反転に要する時間は、電流A2の印加が開始してからほぼ200[ps]であることから、図16(b)に示すパルス幅Sを、S=200[ps]と置くことができる。
次に、磁性細線10における磁化反転について、実施例2(遅延時間Td=50[ps])の磁気モーメントの計算結果を説明する。図20は、磁性細線10において、電流A2の印加を開始してからt=200[ps]後の時点に、z軸の正の方向から見た、磁性細線10のデータ導入領域11の近辺の磁化状態を示している。磁性細線の初期磁化方向は、z軸の正の方向(上向き)であり、このことは、図20において濃度が濃い状態(黒)で表される。また、磁化方向が、z軸の負の方向(下向き)であれば、図20において濃度が非常に淡い状態(白)で表される。
このシミュレーションにおいて、初期状態(t=0[ps])では、この磁性細線10のデータ導入領域11の近辺は、全体的に濃度が濃い状態(黒)であった。しかし、t=200[ps]の時点では、図20に示すように、一部区間の濃度が非常に淡い状態(白)になった。この区間の長さは約10[nm]である。したがって、t=200[ps]の時点では、約10[nm]長の磁化反転している磁区が見られており、上記の条件の場合に、十分反転していることが確認された。なお、この場合、既記録の領域(磁区)のエッジ部分から、次の反転領域(磁区)を繋げて記録することになる。
図20に示す結果から、磁性細線で磁化反転している磁区の長さ(約10[nm])は、以下の式(2)により、5400rpmのHDDにおいて、500[ps]の間にHDDの記録媒体が移動する距離と同等であることが分かる。なお、5400rpmは線速18.3×109[nm/s]に相当する。この線速は、直径65mmのディスクの最外周での速度である。
線速18.3×109[nm/s]×500[ps]≒10[nm] … (2)
図21は、磁性細線10において、電流A2の印加を開始してからt=2000[ps]後の時点に、z軸の正の方向から見た、磁性細線10のデータ導入領域11の近辺の磁化状態を示している。この時点では、図21に示すように、濃度が非常に淡い状態(白)の区間の長さが約40[nm]まで広がった。したがって、t=2000[ps]の時点では、約40[nm]長の磁化反転している磁区が見られており、上記の条件の場合に、十分反転していることが確認された。なお、前記したように、現在のHDDの最高記録密度は、ほぼ1T[bit/inch2]で、最短記録マーク長Mは10~20[nm]程度であるので、図21において反転している磁区の長さは、その4M記録マーク長と同等であることが分かる。さらに、最短記録マーク長Mが10~20[nm]である記録マークは、図16(b)の一つのパルス+アイドルを使用すれば記録できることが分かった。実施例2によれば、約10[nm]長の短い記録マークだけでなく、約40[nm]長の広い記録マークも記録することができる。
さらに、実施例2(図16(b))は、実施例1(図16(a))に比べて、次のような記録電流の低減効果を奏することができる。すなわち、図16(a)および図16(b)に示すように、電流A2に関しては、電流A1の場合に必要な記録電流を1(=100%)とすると、およそS/(S+L)程度の電流量で記録マークの形成が可能となる。また、電流B2に関しては、電流B1の場合に必要な記録電流を1(=100%)とすると、およそ(S-Td)/(S+L)程度の電流量で記録マークの形成が可能となる。
具体的には、実施例2の電流A2は、パルス周期(500[ps])において、200[ps]で書き込みを行い、それに続く300[ps]がアイドル区間となっている。そのため、記録マークの記録期間(2ns)に一律で電流を流している場合と比較すると、電流A2に関しては、記録マークの記録期間における総電流量が約2/5で済む。また、このときの電流B2は、パルス周期(500[ps])において、150[ps]で書き込みを行い、それに続く350[ps]がアイドル区間となっている。そのため、記録マークの記録期間に一律で電流を流している場合と比較すると、電流B2に関しては、記録マークの記録期間における総電流量が約3/10で済む。したがって、実施例2は、総電流量を低減させることができ、かつ発熱を抑制できるので、磁壁移動型磁性細線デバイスの省電力化に寄与できる。また、実施例3および実施例4も同様の効果を奏することができる。
次に、この実施形態に係る磁壁移動型磁性細線デバイスを適用した磁性細線メモリについて図22を参照して説明する。図22に示す記録再生装置100Bにおいて、図13に示す記録再生装置100と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
記録再生装置100Bは、再生系制御部140を除く構成の記録装置101Bを備えている。すなわち、記録装置101Bは、磁性細線メモリ110と、パルス電流源120と、記録系制御部130と、高周波パルス変調部135と、を備え、磁性細線メモリ110への情報の記録処理を行うことができる。なお、図22では、記録系制御部130と高周波パルス変調部135とが別体であることとしたが、記録系制御部130が高周波パルス変調部135を備える構成としても構わない。また、電流制御部50が高周波パルス変調部135を備える構成としても構わない。
高周波パルス変調部135は、入力したパルス電流の周波数を上げる変調を施して高周波パルス電流を生成するものである。高周波パルス変調部135は、例えば2nsのパルス幅を有した1つのパルスを、200psのパルス幅を有した4つのパルス列に変換する。高周波パルス変調部135には、例えばパルス電流源120からパルス電流が入力するように構成することができる。また、例えば電流制御部50は、第2記録素子22に流す高周波パルス電流(パルス列B)を、第1記録素子21に流す高周波パルス電流(パルス列A)よりも遅延させる。
記録装置101Bでは、図16(b)に示す電流A2、B2(高周波パルス電流)の4つのパルス幅Sの期間とアイドル区間Lが、それぞれ「記録1」、「駆動1」、「記録2」、「駆動2」、「記録3」、「駆動3」、「記録4」、「駆動4」の期間となる。詳細には、図16(b)、図20~22、図5(a)および図5(b)を参照すると、図16(b)の電流A2のパルス列の1番左のパルスのパルス幅Sの期間内では、遅延時間Tdだけ遅れた電流B2のパルス列の1番左のパルスが印加されることによって、磁性細線10のデータ導入領域11の反転が安定し、例えば約10nm長の磁区が形成された状態(図20参照)となり、図5(a)の状態となる。次に、電流A2のパルス列の2番目のパルス幅Sの前のアイドル区間Lでは、磁性細線10に対してパルス電流源120からのパルス電流(電流C:図5(b)参照)が流されることで、磁性細線10のデータ導入領域11の磁気情報(磁区)は、データ保持領域12に移動する。
続いて、電流A2のパルス列の2番目のパルス幅Sの期間内では、遅延時間Tdだけ遅れた電流B2のパルス列の2番目のパルスが印加されることによって、磁性細線10のデータ導入領域11の反転が安定する。次に、電流A2のパルス列の3番目のパルス幅Sの前のアイドル区間Lでは、磁性細線10に対してパルス電流源120からのパルス電流(電流C:図5(b)参照)が流されることで、磁性細線10のデータ導入領域11の磁気情報(磁区)は、データ保持領域12に移動する。電流A2,B2の各パルス列の3番目、4番目のパルスも同様の作用をすることで、例えば約40nm長の磁区が形成された状態(図21参照)を実現できる。なお、パルス列のパルスの個数は4つに限定されるものではなく、必要個数でよい。記録装置101Bでは、アイドル区間Lにおいて第1記録素子21および第2記録素子22に電流を流さなくてよいので、記録素子に対して流す電流値を低減することができる。
記録再生装置100Bが、磁性細線メモリ110に記録されている情報を再生する方法は、記録再生装置100と同じである。
HDDは、ディスクが回転するための駆動部が必須であり、そのため壊れやすく信頼性が悪い、というデメリットがある。これに対して、本実施形態の磁壁移動型磁性細線デバイスを適用した磁性細線メモリは、ディスクを回転させることなく磁性細線10中の磁区(磁気情報)を駆動して移動させるため信頼性がよい、というメリットがある。
1,1B,1C 磁壁移動型磁性細線デバイス
10 磁性細線
11 データ導入領域
12 データ保持領域
13,14 データ導入領域における端部
15 左端部
21 第1記録素子
22 第2記録素子
30 絶縁層
40 磁束集中部材
50 電流制御部
61a,61b,62a,62b ケーブル
71,72 電極
90 再生用の磁気ヘッド(再生ヘッド)
100,100B 記録再生装置
101,101B 記録装置
110 磁性細線メモリ
120 パルス電流源
130 記録系制御部
135 高周波パルス変調部
140 再生系制御部
200 空間光変調器
201,202 偏光フィルタ
300 光源
301 入射光
302 偏光
303 反射光

Claims (11)

  1. 磁性細線と、
    前記磁性細線におけるデータ導入領域を挟むように配置される第1記録素子および第2記録素子と、
    前記第1記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、前記第2記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、の作用によって前記データ導入領域の磁化が反転するように、前記第1記録素子に対して第1方向に流す電流と、前記第2記録素子に対して前記第1方向とは反対の第2方向に流す電流と、を制御する電流制御部と、を備え、
    前記電流制御部は、前記データ導入領域で磁化を反転させるときに、前記第1記録素子に流す電流の位相と前記第2記録素子に流す電流の位相とをずらすことを特徴とする磁壁移動型磁性細線デバイス。
  2. 前記データ導入領域で磁化を反転させるときに、前記第1記録素子に流れる電流によって前記データ導入領域に電流磁場の形成を開始する時刻と、前記第2記録素子に流れる電流によって前記データ導入領域に電流磁場の形成を開始する時刻と、をずらすことを特徴とする請求項1に記載の磁壁移動型磁性細線デバイス。
  3. 前記電流制御部は、前記データ導入領域で磁化を反転させるときに、前記第1記録素子および前記第2記録素子の一方へ電流供給を開始した後に、前記第1記録素子および前記第2記録素子の他方へ電流供給を開始する、請求項1または請求項2に記載の磁壁移動型磁性細線デバイス。
  4. 前記第1記録素子へ電流を供給するケーブルの長さと、前記第2記録素子へ電流を供給するケーブルの長さとが異なり、
    前記電流制御部は、前記第1記録素子へ電流供給を開始するときに、同時に前記第2記録素子へ電流供給を開始する、請求項1または請求項2に記載の磁壁移動型磁性細線デバイス。
  5. 前記第1記録素子と前記第2記録素子との間に磁束集中部材を有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁壁移動型磁性細線デバイス。
  6. 前記磁束集中部材は、軟磁性材料からなる、請求項5に記載の磁壁移動型磁性細線デバイス。
  7. 前記電流制御部は、前記第1記録素子に流す電流の大きさと、前記第2記録素子に流す電流の大きさとを互いに異なるものとする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の磁壁移動型磁性細線デバイス。
  8. 前記電流制御部が前記第1記録素子および前記第2記録素子に流す電流は、前記データ導入領域の磁化を反転することのできる予め定められたパルス幅を有するパルス電流に基づいて、当該パルス電流の周波数を上げる変調が施された高周波パルス電流である、
    請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の磁壁移動型磁性細線デバイス。
  9. 磁性細線と、前記磁性細線におけるデータ導入領域を挟むように配置される第1記録素子および第2記録素子と、前記第1記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、前記第2記録素子に流れる電流によって形成される磁場と、の作用によって前記データ導入領域の磁化が反転するように、前記第1記録素子に対して第1方向に流す電流と、前記第2記録素子に対して前記第1方向とは反対の第2方向に流す電流と、を制御する電流制御部と、を備える磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法であって、
    前記磁性細線にパルス電流を流す磁性細線通電工程と、
    前記電流制御部によって、前記データ導入領域で磁化を反転させるときに、前記第1記録素子に流す電流の位相と前記第2記録素子に流す電流の位相とをずらすことと、また、前記データ導入領域で磁化を反転させないときに、前記第1記録素子に流す電流の位相と前記第2記録素子に流す電流の位相とを揃えることと、を前記パルス電流に同期しながら所定の順序で行うデータ導入工程と、を有することを特徴とする磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法。
  10. 前記電流制御部が前記第1記録素子および前記第2記録素子に流す電流は、前記データ導入領域の磁化を反転することのできる予め定められたパルス幅を有するパルス電流に基づいて、当該パルス電流の周波数を上げる変調が施された高周波パルス電流である、
    請求項9に記載の磁壁移動型磁性細線デバイスのデータ書き込み方法。
  11. 磁性細線と、
    前記磁性細線におけるデータ導入領域を挟むように配置される第1記録素子および第2記録素子と、
    前記磁性細線にパルス電流を流すパルス電流源と、
    前記パルス電流の周波数を上げる変調を施して前記第1記録素子および前記第2記録素子用の高周波パルス電流を生成する高周波パルス変調部と、
    電流磁場によって前記データ導入領域で磁化を反転させるときに、前記第1記録素子に第1方向に流す前記高周波パルス電流の位相と前記第2記録素子に前記第1方向とは反対の第2方向に流す前記高周波パルス電流の位相とをずらす電流制御部と、
    を備えることを特徴とする記録装置。
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