以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦締結装置を備えた自動変速機の骨子図である。この自動変速機10は、エンジンなどの駆動源にトルクコンバータなどの流体伝動装置を介することなく連結されている。自動変速機10は、変速機ケース11内に、駆動源に連結されて駆動源側(図の左側)に配設された入力軸12と、反駆動源側(図の右側)に配設された出力軸13とを有している。自動変速機10は、入力軸12と出力軸13とが同一軸線上に配置されたフロントエンジン・リヤドライブ車用等の縦置き式のものである。
入力軸12及び出力軸13の軸心上には、駆動源側から、第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「第1、第2、第3、第4ギヤセット」という)PG1、PG2、PG3、PG4が配設されている。
変速機ケース11内において、第1ギヤセットPG1の駆動源側に第1クラッチCL1が配設され、第1クラッチCL1の駆動源側に第2クラッチCL2が配設され、第2クラッチCL2の駆動源側に第3クラッチCL3が配設されている。また、第3クラッチCL3の駆動源側に第1ブレーキBR1が配設され、第3ギヤセットPG3の駆動源側且つ第2ギヤセットPG2の反駆動源側に第2ブレーキBR2が配設されている。
第1、第2、第3、第4ギヤセットPG1、PG2、PG3、PG4は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤに直接噛合するシングルピニオン型である。第1、第2、第3、第4ギヤセットPG1、PG2、PG3、PG4はそれぞれ、回転要素として、サンギヤS1、S2、S3、S4と、リングギヤR1、R2、R3、R4と、キャリヤC1、C2、C3、C4とを有している。
第1ギヤセットPG1は、サンギヤS1が軸方向に2分割されたダブルサンギヤ型である。サンギヤS1は、駆動源側に配置された第1サンギヤS1aと、反駆動源側に配置された第2サンギヤS1bとを有している。第1及び第2サンギヤS1a、S1bは、同一歯数を有し、キャリヤC1に支持された同一ピニオンに噛合する。これにより、第1及び第2サンギヤS1a、S1bは、常に同一回転する。
自動変速機10では、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1、具体的には第2サンギヤS1bと第4ギヤセットPG4のサンギヤS4とが常時連結され、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1と第2ギヤセットPG2のサンギヤS2とが常時連結され、第2ギヤセットPG2のキャリヤC2と第4ギヤセットPG4のキャリヤC4とが常時連結され、第3ギヤセットPG3のキャリヤC3と第4ギヤセットPG4のリングギヤR4とが常時連結されている。
入力軸12は、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1に第1サンギヤS1a及び第2サンギヤS1bの間を通じて常時連結され、出力軸13は、第4ギヤセットPG4のキャリヤC4に常時連結されている。
第1クラッチCL1は、入力軸12及び第1ギヤセットPG1のキャリヤC1と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっており、第2クラッチCL2は、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1及び第2ギヤセットPG2のサンギヤS2と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設され、これらを断接するようになっており、第3クラッチCL3は、第2ギヤセットPG2のリングギヤR2と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
第1ブレーキBR1は、変速機ケース11と第1ギヤセットPG1のサンギヤS1、具体的には第1サンギヤS1aとの間に配設されて、これらを断接するようになっており、第2ブレーキBR2は、変速機ケース11と第3ギヤセットPG3のリングギヤR3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
以上の構成により、自動変速機10は、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、第2ブレーキBR2の締結状態の組み合わせにより、図2に示すように、Dレンジでの1~8速と、Rレンジでの後退速とが形成されるようになっている。
自動変速機10では、発進時に1速の変速段で締結される第2ブレーキBR2がスリップ制御される。本発明に係る摩擦締結装置について、第2ブレーキBR2を用いて説明するが、本発明に係る摩擦締結装置は、その他の摩擦締結装置(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1ブレーキBR1)にも適用できる。
図3は、自動変速機の第2ブレーキBR2及びその周辺の断面図、図4は、自動変速機の第2ブレーキBR2及びその周辺の別の断面図、図5及び図8は、自動変速機の第2ブレーキBR2及びその周辺の更に別の断面図である。図3は、図6(b)のIII-III線に沿った断面に対応する自動変速機のブレーキ及びその周辺の断面を示し、図4、図5、図8はそれぞれ、図6のIV-IV線、V-V線、VIII-VIIIに沿った断面に対応する自動変速機の第2ブレーキBR2及びその周辺の断面を示している。
図3に示すように、ブレーキBR2は、略円筒状に形成された変速機ケース11内に収容され、第3ギヤセットPG3のサンギヤS3に連結されて第1、第2、第3クラッチCL1、CL2、CL3の内外一対の回転部材の一方が一体化された動力伝達部材14の外周側に配置されている。
動力伝達部材14は、第2ギヤセットPG2のキャリヤC2と第4ギヤセットPG4のキャリヤC4とを連結する動力伝達部材15の外周側に配置され、動力伝達部材15は、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1、具体的には第2サンギヤS1bと第4ギヤセットPG4のサンギヤS4とを連結する動力伝達部材16の外周側に配置されている。
ブレーキBR2は、変速機ケース11に結合されるハブ部材(内側円筒部材)20と、ハブ部材20の反駆動源側に配置されて第3ギヤセットPG3のリングギヤR3に結合されるドラム部材(外側円筒部材)60と、ハブ部材20の外周にスプライン係合した複数の内側摩擦板71と、ドラム部材60の内周にスプライン係合した複数の外側摩擦板72と、を備える。さらに、ブレーキBR2は、ハブ部材20とドラム部材60との間に軸方向に交互に並べて配置された複数の内側摩擦板71及び外側摩擦板72の反駆動源側に配置されてこれら複数の摩擦板70を軸方向に押圧して締結するピストン80とを有している。
ブレーキBR2は、摩擦板70の径方向内側にピストン80を付勢する作動油が供給される油圧室sを有している。油圧室sは、ピストン80を締結方向に付勢する締結用作動油が供給される締結用油圧室s1と、ピストン80を解放方向に付勢する解放用作動油が供給される解放用油圧室s2とを備えている。
ブレーキBR2はまた、図3に示すように、摩擦板70の径方向内側にピストン80を付勢するスプリング101を有している。
図3に示すように、ハブ部材20は、複数の内側摩擦板71がスプライン係合されると共に変速機ケース11にスプライン係合される第1ハブ部材21と、第1ハブ部材21の駆動源側に配置されて変速機ケース11に嵌合されると共に第1ハブ部材21より径方向内側に延びる第2ハブ部材31と、第1ハブ部材21より径方向内側において第2ハブ部材31の反駆動側に結合される第3ハブ部材41と、第1ハブ部材21より径方向内側において第3ハブ部材41の反駆動源側に結合される第4ハブ部材51とを備えている。
第1ハブ部材21は、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成された縦壁部22と、縦壁部22の径方向内側において縦壁部22から反駆動源側に略円筒状に延びる円筒部23とを備えている。換言すると、縦壁部22は、円筒部23の駆動源側の端部から径方向外側に延びて形成されている。
第1ハブ部材21は、縦壁部22の外周面にスプラインが形成されたスプライン部24を有し、スプライン部24が変速機ケース11の内周面にスプラインが形成されたスプライン部11aにスプライン係合されて変速機ケース11に結合されている。換言すると、円筒部23は、縦壁部22を介してケースに支持されている。
第1ハブ部材21の円筒部23は、外周面にスプラインが形成されたスプライン部25を有し、スプライン部25に、複数の内側摩擦板71がスプライン係合されている。スプライン部25は、図6に示すように、複数の内側摩擦板71をセンタリングするためのセンタリング用スプライン歯(幅広スプライン歯)26と、センタリング用スプライン歯26よりも周方向寸法が短く形成された他のスプライン歯27とを有する。換言すると、センタリング用スプライン歯26は、他のスプライン歯27に比して幅広に形成されている。第1ハブ部材21には、複数、具体的には3つのセンタリング用スプライン歯26が周方向に略等間隔に配置されている。
第1ハブ部材21の円筒部23のセンタリング用スプライン歯26には、第1ハブ部材21の円筒部23の外周面と内周面とを径方向に貫通する複数の潤滑油孔133が設けられている。潤滑油孔133は、第1ハブ部材21の円筒部23の軸方向に並んで複数設けられると共に、第1ハブ部材21の円筒部23の周方向に離間して複数設けられる。
第2ハブ部材31は、図3に示すように、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成された縦壁部32を備えている。第2ハブ部材31の縦壁部32には、図4に示すように、内側摩擦板71及び外側摩擦板72に潤滑用作動油を供給する潤滑用供給油路L1を構成する径方向油路131が形成されている。
第2ハブ部材31は、縦壁部32の外周面が第1ハブ部材21のスプライン部24の駆動源側において変速機ケース11の内周面11bに嵌合されている。第2ハブ部材31は、スナップリング17により駆動源側への抜け止めが図られると共に回り止めピン18を用いて変速機ケース11に固定され、変速機ケース11に結合されている。なお、第2ハブ部材31を変速機ケース11の内周面11bに圧入によって嵌合させて固定し、変速機ケース11に結合させるようにしてもよい。
変速機ケース11の下方には、図4に示すように、ブレーキBR2の油圧室sや摩擦板70などに作動油を供給するバルブボディ5が配設されている。バルブボディ5は、変速機ケース11の下方に取り付けられたオイルパン(不図示)内に収容され、変速機ケース11に固定されている。第2ハブ部材31は、バルブボディ5に接続するためのバルブボディ接続部34を有し、変速機ケース11に形成されたケース開口部11cを通じて潤滑用供給油路L1がバルブボディ5に接続されるように形成されている。
第2ハブ部材31の縦壁部32には、締結用油圧室s1に締結用作動油を供給する締結用供給油路L2が形成されると共に、解放用油圧室s2に解放用作動油を供給する解放用供給油路L3が形成されている(図6参照)。潤滑用供給油路L1、解放用供給油路L3及び締結用供給油路L2は、図6に仮想線で示すように、変速機ケース11の下方側に周方向に並んで配置され、第2ハブ部材31は、潤滑用供給油路L1、解放用供給油路L3及び締結用供給油路L2がそれぞれバルブボディ5に接続されるように形成されている。
第2ハブ部材31の縦壁部32には、図3に示すように、反駆動源側に駆動源側に窪む段差部32aが形成されている。第2ハブ部材31の段差部32aは、第2ハブ部材31の縦壁部32に第1ハブ部材21の縦壁部22が当接されたときに第1ハブ部材21の縦壁部22の内周側が係合するように形成されている。
第2ハブ部材31の縦壁部32には、内周側に反駆動源側に略円柱状に延びる複数のボス部35が形成されている。複数のボス部35は、周方向に分散して配置され、ボス部35にはそれぞれ、反駆動源側にネジ孔35aが形成されている。ボス部35のネジ孔35aに第4ハブ部材51の反駆動源側から締結ボルトB1を螺合させることにより第2ハブ部材31の反駆動源側に第3ハブ部材41及び第4ハブ部材51が結合されている。
第3ハブ部材41は、図3に示すように、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成された縦壁部42と、縦壁部42の径方向外側から反駆動源側に略円筒状に延びる第1円筒部43と、縦壁部42の径方向内側から反駆動源側に略円筒状に延びる第2円筒部44とを備え、第1円筒部43及び第2円筒部44は、略等しい軸方向長さを有するように形成されている。
第3ハブ部材41の第1円筒部43は、第1ハブ部材21の円筒部23の径方向内側に設けられている。第3ハブ部材41の第1円筒部43の軸方向の反駆動源側には、第1ハブ部材21の円筒部23の内周面に当接するように径方向外側に延びるフランジ部43aが設けられている。
第1ハブ部材21の円筒部23の内周面と、第3ハブ部材41の第1円筒部43の外周面との間には、環状の空間(周方向潤滑油室)132が形成され、前記空間の駆動源側の端部は、図4に示すように、第2ハブ部材31の縦壁部32に設けられた径方向油路131に連通している。また、周方向潤滑油室132は、第1ハブ部材21の円筒部23の内周面と、第3ハブ部材41の第1円筒部43の外周面との間に形成されているので、第1ハブ部材21の円筒部23の外周面と内周面とを径方向に貫通する複数の潤滑油孔133に連通している。
これにより、バルブボディ5から供給される潤滑油は、径方向油路131を介して周方向潤滑油室132に供給され、周方向潤滑油室132から潤滑油孔133を介して複数の摩擦板70に潤滑油が供給される。換言すると、潤滑油用供給油路L1は、図3及び図4に示すように、潤滑油を径方向に案内する径方向油路131と、潤滑油を周方向に案内する周方向潤滑油室132と、潤滑油を第1ハブ部材21の円筒部23の内側から外側に供給する潤滑油孔133とを備えて構成されている。
第3ハブ部材41の第2円筒部44は、駆動源側の外周面44aと反駆動源側の外周面44bとを有し、反駆動源側の外周面44bは、解放用油圧室s2を形成するように駆動源側の外周面44aに比して径方向寸法が小さく形成されている。
第3ハブ部材41の第2円筒部44にはまた、図3に示すように、駆動源側から反駆動源側に略矩形状に窪んで第2ハブ部材31の複数のボス部35をそれぞれ収容する複数のボス部収容部45と、締結ボルトB1を挿通するボルト挿通穴44cとが形成されている。
第4ハブ部材51は、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成され、第3ハブ部材41の反駆動源側に配置されている。第4ハブ部材51の径方向内側には、締結ボルトB1を挿通するボルト挿通穴52が形成されている。
前述したように、第4ハブ部材51の反駆動源側から第4ハブ部材51のボルト挿通穴52及び第3ハブ部材41のボルト挿通穴44cを通じて締結ボルトB1を第2ハブ部材31のネジ孔35aに螺合させることにより、第2ハブ部材31の反駆動源側に第3ハブ部材41が結合されると共に第3ハブ部材41の反駆動源側に第4ハブ部材51が結合されている。
第4ハブ部材51は、第3ハブ部材41の第2円筒部44より径方向外側に延びるように形成され、第4ハブ部材51の外周面がピストン80に嵌合されている。第4ハブ部材51の外周面には、ピストン80との嵌合部分より反駆動源側に径方向内側に断面略矩形状に窪むスナップリング用周溝54が形成され、スナップリング用周溝54に断面略矩形状に形成されたスナップリング55が装着されている。
ピストン80の径方向中央側には、スナップリング55に対応して反駆動源側から駆動源側に断面略L字状に窪むスナップリング用溝部80aが形成されている。スナップリング55は、駆動源側がスナップリング用溝部80aの駆動源側の側面に当接すると共に反駆動源側がスナップリング用周溝54の反駆動源側の側面に当接したときに、ピストン80を所定の解放位置に規制するようになっている。このようにして、ハブ部材20、具体的には第4ハブ部材51に、ピストン80を解放位置に規制するスナップリング55が取り付けられている。
ハブ部材20では、第1ハブ部材21、第2ハブ部材31、第3ハブ部材41及び第4ハブ部材51がそれぞれ、アルミニウム系材料から形成されて同一材料から形成されている。
ドラム部材60は、第1ハブ部材21の円筒部23の外周側に対向配置されて略円筒状に軸方向に延びる円筒部61と、円筒部61の反駆動源側から径方向内側に変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成された縦壁部62とを備えている。
ドラム部材60の縦壁部62は、回転部材としてのリングギヤR3に結合されている。ドラム部材60の円筒部61は、内周面にスプラインが形成されたスプライン部61aを有し、スプライン部61aに、摩擦板70を構成する外側摩擦板72がスプライン係合されている。内側摩擦板71と外側摩擦板72とは、軸方向に交互に配置されている。
ピストン80は、環状に形成され、外周側に設けられて摩擦板70を押圧する押圧部81と、内周側に設けられて油圧室sを形成する油圧室形成部82と、押圧部81と油圧室形成部82とを連結する連結部83とを備えている。
ピストン80は、ハブ部材20とドラム部材60との間に、具体的には、押圧部81が第1ハブ部材21の円筒部23とドラム部材60の円筒部61との間に配置され、油圧室形成部82が第3ハブ部材41の第2円筒部44の外周面に摺動自在に嵌合されている。ピストン80は、ピストン80を解放位置に規制するスナップリング55によって反駆動源側への抜け止めが図られている。
ピストン80の押圧部81は、摩擦板70の反駆動源側に配置され、油圧室形成部82は、摩擦板70の径方向内側に配置され、連結部83は、押圧部81と油圧室形成部82とを連結するように摩擦板70の反駆動源側から摩擦板70の径方向内側に延びている。連結部83には、スナップリング55に対応して設けられたスナップリング用溝部80aが形成されている。
図3に示すように、スプリング101は、締結用油圧室s1内に配置されている。締結用油圧室s1は、反駆動源側がスプリング101による付勢力を受けるようになっている。スプリング101が自由長さとなったときにピストン80がゼロクリアランス位置になるように設定されている。なお、ピストン80のゼロクリアランス位置では、ピストン80が複数の摩擦板70を締結方向に移動させて、ブレーキBR2は各摩擦板70が接した状態もしくはほぼ接した状態であるゼロクリアランス状態となる。
このようにして、スプリング101は、ピストン80に解放位置からゼロクリアランス位置まで締結方向に付勢力を作用させるようになっている。そして、ピストン80がゼロクリアランス位置にあるときに締結用油圧室s1に締結用油圧を供給すると、ピストン80が複数の摩擦板70を押し付けて、複数の摩擦板70が第1ハブ部材21の縦壁部22とピストン80との間に挟み込まれて相対回転不能になる締結状態となる締結位置まで移動される。
一方、ピストン80が締結位置にあるときに、締結用油圧室s1から締結用油圧を排出して解放用油圧室s2に解放用油圧を供給すると、ピストン80が解放方向に付勢されて移動され、ピストン80がゼロクリアランス位置に移動される。ピストン80はさらに、スプリング101に抗して解放方向に付勢されて移動され、解放位置に移動される。
上述の構成に加えて、ブレーキBR2のハブ部材20は、複数の内側摩擦板71及び複数の外側摩擦板72の収容空間にエアを導入するためのエア導入部Xを備えている。図5及び図6を参照しながらエア導入部Xについて説明する。
エア導入部Xは、ハブ部材20に設けられた軸方向に延びる複数のエア導入通路28…28と、該エア導入通路28…28に連通すると共に、ハブ部材20と複数の内側摩擦板71とのスプライン係合部に開口する複数のエア導出孔29と、を有する。
複数のエア導入通路28…28は、第1ハブ部材21の円筒部23内に設けられて変速機ケース11の軸方向に延びると共に駆動源側に開口するように形成されている。第2ハブ部材31の縦壁部32には、各エア導入通路28に対応して設けられると共に、縦壁部32を軸方向に貫通する複数のエア導入孔30とが設けられている。
各エア導入通路28及び各エア導入孔30は、図6に示すように、周方向に所定の幅を有する、駆動源側からの正面視において円弧状に形成されている。各エア導入通路28は、潤滑油孔133とは異なる周方向位置で、かつ、周方向に均等に配置されている。各エア導入通路28及び各エア導入孔30は、潤滑用供給油路L1の径方向油路131、締結用供給油路L2の径方向油路(141)及び解放用供給油路L3の径方向油路(151)に対しても周方向に異なる位置に配置されている。各エア導入通路28と、周方向潤滑油室132とは、第1ハブ部材21の内周面によって分離されているので、周方向潤滑油室132に案内された潤滑油がエア導入通路28に流入することはない。なお、エア導入部Xのエア導入通路28は、第1ハブ部材21の円筒部23内において軸方向に延びる軸方向穴を形成し、該孔にエア導出孔29を連通するように構成されてもよい。
複数のエア導出孔29…29は、第1ハブ部材21の円筒部23のスプライン歯27に設けられている。各エア導出孔29は、図6に示すように、各エア導入通路28に対応した周方向位置に設けられている。各エア導出孔29は、図5に示すように、第1ハブ部材21の円筒部23の外周面とエア導入通路28とを径方向に貫通するように形成されている。
複数のエア導出孔29…29は、第1ハブ部材21の円筒部23の軸方向に並んで複数設けられると共に、第1ハブ部材21の円筒部23の周方向に離間して複数設けられる。各エア導出孔29は、好ましくは第1ハブ部材21の円筒部23の他のスプライン歯27の歯底(スプライン歯溝27a)に開口するように設けられるが、他のスプライン歯27の歯先に開口するように設けることも可能である。
これにより、第2ハブ部材の縦壁部32に設けられた各エア導入孔30から取り入れられたエアは、各エア導入通路28を介してエア導出孔29から各内側摩擦板71と各外側摩擦板72との間に供給される。換言すると、エア導入部Xによって、第1ハブ部材21と複数の内側摩擦板71との係合部にエアが導かれる。
さらに、図5に示すように、ブレーキBR2におけるハブ部材20のスプライン部25には、ウェーブスプリング(プレート部材)90が係合されている。ウェーブスプリング90は、ドラム部材60と第1ハブ部材21との間で複数の内側摩擦板71の反駆動源側に軸方向に並べて配置されている。
ウェーブスプリング90は、円盤状のプレート部材で形成され、軸方向に振幅を有する。ウェーブスプリング90は、図7に示すように、複数の内側摩擦板71の最もピストン側に位置するピストン側摩擦板71aと共にピストン80の押圧部81に複数、本実施形態では4つの連結部材91…91によって連結されている。
なお、図7は、ウェーブスプリング90、ピストン80及びピストン側摩擦板71aを模式的に示した分解図であるため、ウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aに設けられているスプライン部を模式的に示されると共に、ウェーブスプリング90の振幅が省略されている。
連結部材91は、周方向に延びてピストン80の反駆動源側の面に当接する底部91aと、底部91aの周方向の両端から軸方向に延びる一対の側部91b,91bとを備え、駆動源側に開口した断面コ字状を有する。
一対の側部91b,91bの駆動源側の部位には、底部91aの幅よりも狭い狭幅部91cが設けられている。底部91aから狭幅部91cまでの軸方向寸法H1は、ピストン80の押圧部の厚さ、ウェーブスプリング90の全振幅を含めた厚さH2及びピストン側摩擦板71aの厚さを合わせた寸法よりもわずかに大きく設定されている(図5参照)。
ピストン80には、各連結部材91の側部91b,91bを挿通するための軸方向に貫通する一対の貫通穴81a,81aが設けられている。各一対の貫通穴81a,81aは、周方向に位置を異ならせて均等に配置されている。
ウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aには、ピストン80の各一対の貫通穴81a,81aに対応する位置に、各連結部材91を係合するための被係合部90a,71bが設けられている。各被係合部90a,71bは、ウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aにそれぞれ設けられている第1ハブ部材21のスプライン部25に係合する複数のスプライン歯90b,71cに周方向に並べて形成されている。
各被係合部90a,71bは、スプライン歯90b,71cの歯底から径方向内側に延びる径方向部90c,71dと、径方向部90c,71dの内端部から周方向の両側に延びるストッパ部90d,71eとを有する。
径方向部90c,71dの幅は、連結部材91の底部91aよりも小さく狭幅部91cよりも大きくなるように設定され、ストッパ部90d,71eの幅は、連結部材91の底部91aよりも大きくなるように設定されている。
各連結部材91が、側部91b,91bがピストン80の一対の貫通穴81a,81aに挿通されると共に、各連結部材91の狭幅部91cを周方向に広げた状態で側部91b,91b間にウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aの径方向部90c,71dを係合させる。これにより、連結部材91は、ピストン80、ウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aを、連結部材91の底部91aと狭幅部91cとの間に軸方向に並べた状態で連結する。
ウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aのストッパ部90d,71eが側部91b,91bと周方向にオーバラップすることによって、連結部材91のウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aからの径方向の抜けが防止されている。また、ウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aの径方向部90c,71dが連結部材91の狭幅部91cと周方向にオーバラップすることによって、連結部材91のウェーブスプリング90及びピストン側摩擦板71aからの軸方向への抜けが防止されている。
ピストン80によって複数の内側摩擦板71及び複数の外側摩擦板72に押圧力が作用すると、複数の内側摩擦板71及び複数の外側摩擦板72が駆動源側に移動し、複数の摩擦板70間の隙間がゼロ(ゼロクリアランス状態)となる(図10(b)参照)。さらにピストン80によってウェーブスプリング90が押圧されると、ウェーブスプリング90は振幅がゼロになるように変形する(図10(c)参照)。このウェーブスプリング90の変形によって、複数の内側摩擦板71及び複数の外側摩擦板72に作用する荷重が漸増する。これにより、締結時に油圧室に供給される油圧が意図せずに変動した場合等においてもピストン80による押圧力が急激に立ち上がることが抑制され、急激な締結によるショックを抑制できる。
ピストン側摩擦板71aは、第1の相手部材としてのピストン80に連結されているので、解放状態においてピストン側摩擦板71aはピストン80の軸方向の移動に連動して、第1ハブ部材21の縦壁部22から最も離間した位置(解放位置)まで移動する。換言すると、解放状態において、ピストン側摩擦板71aを、反ピストン側摩擦板71fから最も離間する解放位置に規制するために、ピストン側摩擦板71aは、ピストン80に対する相対位置が規制されている。なお、スプライン部25の他のスプライン歯27における被係合部90a,71bに対応する部位は、締結状態における被係合部90a,71bとの干渉を避けるために欠歯にされていてもよい。
また、図8及び図9に示すように、ブレーキBR2におけるハブ部材20には、複数の内側摩擦板71の最も反ピストン側に位置する反ピストン側摩擦板71fを、ピストン側摩擦板71aに対して最も離れた位置に位置規制するための位置規制部材93を備えている。位置規制部材93は、反ピストン側摩擦板71fを第2の相手部材としての第1ハブ部材21の縦壁部22に対する軸方向移動を規制するように構成されている。換言すると、反ピストン側摩擦板71fを、ピストン側摩擦板71aから最も離間する解放位置に規制するために、反ピストン側摩擦板71fは、縦壁部22に対する相対位置が規制されている。
図9に示すように、位置規制部材93は、第1ハブ部材21におけるスプライン部25のスプライン歯溝27a内(他のスプライン歯27,27間)に配置されて軸方向に延びる、複数(本実施形態では3つ)の固定部93aと、複数の固定部93aを連結するリング状の連結部93bとを有する。なお、本実施形態においては、複数の固定部93aと連結部93bとは一体的に形成されている。
複数の固定部93aは、スプライン部25の歯底に設けられたエア導出孔29と異なる位置で、周方向に均等に配置されている。これにより、固定部93aによって、エア導出孔29が閉塞されることが回避されている。
各固定部93aは、軸方向視でスプライン歯溝27aに沿った台形状の断面を有し、各固定部93aの径方向外側の面93cはスプライン歯27の歯先と略同じ径方向位置になるように設定されている。
各固定部93aの反駆動源側(ピストン80側)の端部93dは、スプライン部25の反駆動源側の端面と一致している。各固定部93aの駆動源側(反ピストン80側)の端面93eは、反ピストン側摩擦板71fが第1ハブ部材21の縦壁部22に当接した状態における反ピストン側摩擦板71fのピストン80側の面に当接する位置まで延びている。換言すると、反ピストン側摩擦板71fは、固定部93aによって、ピストン80から最も離間した位置(縦壁部22と当接する位置)に位置規制(固定)されている。
連結部93bの外径は、他のスプライン歯27の歯先円の径と略一致するように設定され、連結部93bの内径は、第1ハブ部材21の円筒部23の内径と略一致するように設定されている。複数の固定部93aは、外径側で連結部93bの駆動源側(反ピストン80側)の面に接合されている。
連結部93bには、位置規制部材93を第1ハブ部材21のスプライン部25に固定するねじ等の取付部材93fを挿通するための被固定部としてのねじ孔93gが備えられている。ねじ孔93gは、センタリング用スプライン歯26に対応した位置に設けられて、周方向に均等に配置されている。
位置規制部材93は、第1ハブ部材21に反ピストン側摩擦板71fを係合した後に、固定部93aをスプライン歯溝27aに沿って挿入し、ねじ孔93gに取付部材93fを挿通してスプライン部25に螺合することによって、第1ハブ部材21のスプライン部25に固定される。
図8に示すように、反ピストン側摩擦板71fを除く他の内側摩擦板71は、固定部93aが挿入されるスプライン歯溝27aに対応する部位にそれぞれ切欠き部C11…C11が設けられている。同様に、ウェーブスプリング90についても、固定部93aが挿入されるスプライン歯溝27aに対応する部位に切欠き部C12が設けられている。これにより、他の内側摩擦板71とウェーブスプリング90が位置規制部材93によって位置が規制されることが回避されている。
次に、このようにして構成されたブレーキBR2の作動について説明する。本実施形態のブレーキBR2は、油圧制御により、ハブ部材20とドラム部材60との間の締結状態と解放状態が切り替えられる。具体的には、図10に示すように、ブレーキBR2は、内側摩擦板71と外側摩擦板72の各々が互いに密接する締結状態と、内側摩擦板71と外側摩擦板72の各々が離間可能になる解放状態との間で切り替えられる。
図10(a)では、締結用油圧室s1から締結用油圧が排出されると共に解放用油圧室s2に解放用油圧が供給されてピストン80を介してスプリング101を圧縮してピストン80が反駆動源側である解放方向に移動される。これにより、各内側摩擦板71及び各外側摩擦板72に作用していた押付力が除かれ、解放状態になる。
ブレーキBR2の締結時には、図10(a)に示す解放状態において解放用油圧室s2から解放用油圧が排出され、図10(b)に示すように、ピストン80がスプリング101の付勢力を受けてスプリング101の自由長さまで締結方向に移動され、ピストン80が複数の摩擦板70を締結方向に移動させて、ブレーキBR2は各摩擦板70が接した状態もしくはほぼ接した状態であるゼロクリアランス状態となる。このとき、ウェーブスプリング90は、軸方向の振幅を有した状態を維持している。
そして、図10(b)に示すゼロクリアランス状態において締結用油圧室s1に締結用油圧が供給されると、図10(c)に示すように、ピストン80が締結用油圧室s1に供給された締結用油圧によって締結方向に付勢されて移動される。ピストン80を介して、ウェーブスプリング90に押圧力が付加され、ウェーブスプリング90は振幅がゼロになるように変形する。この変形によって、複数の摩擦板70に伝達される押圧力が漸増するようにコントロールされる。このように、ウェーブスプリング90の変形に連動して、ピストン80が複数の摩擦板70の押圧力が複数の摩擦板70が相対回転不能になることで、ブレーキBR2が締結状態となる。なお、ウェーブスプリング90の特性(ストロークに対する荷重特性)を、適切に設定することで締結時のショックの低減と締結制御性とをコントロールすることができる。
一方、ブレーキBR2の解放時には、図10(c)に示す締結状態において締結用油圧室s1から締結用油圧が排出されると共に解放用油圧室s2に解放用油圧が供給され、ピストン80が解放用油圧室s2に供給された解放用油圧によって反駆動源側である解放方向に付勢されて移動され、図10(b)に示すゼロクリアランス状態を経て、図10(a)に示す解放状態となる。
この解放状態では、図10(a)に示すように、ピストン80の押圧部81は最もドラム部材60の縦壁部62に近い位置まで移動されるので、ピストン側摩擦板71aと反ピストン側摩擦板71fの間の間隔Lが最も広くなる。この状態では、ピストン側摩擦板71aと反ピストン側摩擦板71fの間に配置された各内側摩擦板71及び外側摩擦板72は、ピストン側摩擦板71aと反ピストン側摩擦板71fの間でフリーな状態(軸方向にスライド自在な状態)となる。
また、この解放状態では、ピストン側摩擦板71aと反ピストン側摩擦板71fには、押圧力が作用せず、かつ、軸方向にスライド自在なため、本来的には、これらの間に摩擦力は作用しない。しかしながら、本実施形態のブレーキBR2は湿式であるため、各摩擦板の間に潤滑油が介在し、その流体摩擦によって摩擦抵抗が発生して、トルク損失を招くおそれがある(引き摺り現象)。
すなわち、解放状態において、ドラム部材60が回転していると、各摩擦板の間の潤滑油には遠心力が作用し、径方向内側から外側に向けて、潤滑油の流れが促進される。潤滑油は、内側摩擦板71及び外側摩擦板72間に一定の流量で供給されており、ドラム部材60の回転数が高くなると遠心力による流速が高くなり、内側摩擦板71及び外側摩擦板72間に供給される潤滑油よりも、内側摩擦板71及び外側摩擦板72間から排出される潤滑油の量が多くなる。そのような状態になると、互いに隣接している内側摩擦板71及び外側摩擦板72の各板面の間に、径方向の圧力差が形成されて、板面間に負圧が発生する。
図11(b)に示すように、回転数が低い領域では、潤滑に働く遠心力が小さく、潤滑油の供給量が流出量よりも多くなるため、面間圧力も高くなり(正圧)、面間距離は、ほぼ適正面間距離S0となる。このため、摩擦抵抗も小さく、引き摺りトルクも僅かである。これに対して、回転数が高い領域では、潤滑油に働く遠心力が大きくなる。これにより、潤滑油の流出量が供給量を上回る状態となり、板面間に負圧が発生する。
解放状態における内側摩擦板71及び外側摩擦板72の各々は、軸方向にフリーな状態となっているため、その負圧の作用によって互いに引き付けられ、面間距離が小さくなる。このため、従来の湿式の摩擦締結装置では、図11(a)に示すように、高回転時においては、解放状態の内側摩擦板71及び外側摩擦板72が移動可能範囲Lの中で偏って位置した状態となる。即ち、各内側摩擦板71及び外側摩擦板72が軸方向に移動可能な範囲に対して偏って位置し、各摩擦板の間隔が適正面間距離S0よりも小さい面間距離Sとなり、各摩擦板が密集してしまう。この結果、従来の湿式の摩擦締結装置では、板面間に存在する潤滑油の流体摩擦により、引き摺りトルクが大きくなるという問題がある。
従来の摩擦締結装置においては、解放状態において、全ての内側摩擦板及び外側摩擦板が軸方向にフリーな状態であるため、負圧の作用で引き付けられて互いに近接し、摩擦プレートの間隔が適正面間距離S0よりも小さくなることにより、引き摺りトルクが大きくなるという問題が発生していた。
また、本実施形態においては、ブレーキBR2の潤滑油用供給経路L1は、油密状態であるため、ブレーキBR2の径方向内側からエアを導入し難く、内側摩擦板71及び外側摩擦板72の各板面の間に負圧がより生じやすい構造を有している。
これに対して、本発明の実施形態によるブレーキBR2においては、ハブ部材20と内側摩擦板71との係合部から、外側摩擦板72と内側摩擦板71との間にエアを導くエア導入部Xが設けられているので、内側摩擦板71の径方向内側から、各摩擦板間にエアを供給することができる。これにより、各摩擦板間に流入する潤滑油の量よりも、遠心力によって各摩擦板間から流出する潤滑油の量が多い場合に生じ得る各摩擦板間の負圧が回避される。
すなわち、エア導入部Xから各摩擦板間にエアを導入することによって、各摩擦板間の圧力が高まって(正圧となって)、隣り合う摩擦板同士を引きはがす方向に力が働く。これにより、解放状態において軸方向にフリーな状態となっている内側摩擦板及び外側摩擦板の各々が互いに引き付けられることが回避されて、各摩擦板間が近づくことによる引き摺りトルクが低減される。
ハブ部材21の縦壁部22は、軸方向に貫通してエア導入部Xにエアを導入するためのエア導入孔30を有しているので、エア導入孔30によって、ハブ部材20の軸方向外側からもエア導入部Xにエアを導入することができる。これにより、各摩擦板間にエアを十分に供給することができ、各摩擦板間の負圧が抑制される。
エア導入部Xの第1ハブ部材21に設けられた軸方向に延びるエア導入通路28と、エア導入通路28に連通すると共に、第1ハブ部材21と複数の内側摩擦板71とのスプライン係合部に開口するエア導出孔29とによって、ハブ部材20と複数の内側摩擦板71とが係合する係合部近傍から、各摩擦板間にエアを供給できる。
さらに、本発明の実施形態によるブレーキBR2においては、ピストン80から最も離れた反ピストン側摩擦板71fが第1ハブ部材21の縦壁部22に対して固定され、ピストン80に隣接するピストン側摩擦板71aがピストン80に固定されている。この構成を採用することにより、本実施形態のブレーキBR2では、ピストン側摩擦板71aと反ピストン側摩擦板71fとの間に配置された全ての摩擦板を、図11(b)に示すように、移動可能範囲Lの中でほぼ等間隔に分布させることができる。
具体的には、各内側摩擦板71と外側摩擦板72の間には、潤滑油が流入すると共に、流入した潤滑油は、潤滑油に働く遠心力により、摩擦板の間から流出する。ここで、摩擦板の面間距離が大きい場合には、摩擦板の間を流れる潤滑油に作用する流路抵抗が小さく、摩擦板間の潤滑油は遠心力により容易に排出される。これに対して、摩擦板の面間距離が小さい場合には、摩擦板の間を流れる潤滑油に作用する流路抵抗が大きく、摩擦板間の潤滑油は排出されにくくなる。この結果、摩擦板の間の面間圧力は、摩擦板の面間距離が小さい場合には高く、面間距離が大きい場合には低くなる。
ここで、図10(c)のに示すブレーキBR2の締結状態から、解放状態(図10(a))に移行する際には、ピストン80が、図10における右方向に移動される。このピストン80の移動に連動して、ピストン80側に位置するピストン側摩擦板71aが右方向に移動される。これにより、密接していたピストン側摩擦板71aと該ピストン側摩擦板71aに隣接する外側摩擦板(隣接摩擦板)72aの間に隙間が生じる。このように隙間が生じると、ピストン側摩擦板71aと外側摩擦板72aの間の面間圧力が低下する。これにより、ピストン側摩擦板71aと外側摩擦板72aの間の面間圧力が、外側摩擦板72aの駆動源側に隣接する内側摩擦板71gとの間の面間圧力よりも低くなる。この圧力差に基づいて、外側摩擦板72aは、図10における右方向に移動される。
外側摩擦板72aが右方向に移動されると、外側摩擦板72aと内側摩擦板71gとの間に隙間ができる。この結果、内側摩擦板71gと外側摩擦板72aの間の面間圧力が、内側摩擦板71gと外側摩擦板72bの間の面間圧力よりも低くなる。これにより、外側摩擦板72bが図10における右方向に移動される。このような作用が繰り返されることにより、内側摩擦板71と外側摩擦板72の間にできた隙間が、各摩擦板間に伝播して、各摩擦板間に隙間が発生する。これにより、ピストン80に隣接したピストン側摩擦板71aがピストン80と共に移動されると、他の各摩擦板も、図10における左方向に順次移動される。
また、或る摩擦板の間の間隔が、隣接する摩擦板の間の間隔よりも狭い場合には、間隔の狭い摩擦板間の圧力の方が、間隔の広い摩擦板間の圧力よりも高くなる。このように圧力差が生じると、間隔の狭い摩擦板の間隔が押し広げられ、間隔の広い摩擦板の間隔が狭められることになり、各摩擦板の間の間隔が均等になるよう自動調整される。なお、ピストン80から最も離れた位置にある反ピストン側摩擦板71fは、第2の相手部材によって縦壁部22に対して軸方向に固定されているので、反ピストン側摩擦板71fが軸方向に移動されることはない。その結果、ピストン80が解放位置まで移動された状態では、図11(b)に示すように、移動可能範囲Lの中に内側摩擦板71、外側摩擦板72がほぼ等間隔で配置され、各摩擦プレートの間隔は適正な面間距離S0となる。なお、面間距離S0は、解放状態において、内側摩擦板71と外側摩擦板72の各々が、移動可能範囲Lの中で均等に、すなわち等間隔に配置された場合の適正な面間距離を表している。
この構成によれば、解放状態において、ピストン側摩擦板71a及び反ピストン側摩擦板71fが解放位置に規制されるので、各内側摩擦板71と各外側摩擦板72の間を流れる潤滑油の圧力により、各摩擦板の間隔を広げやくす、摩擦板間の引き摺りトルクを低減できる。
さらに、本発明の実施形態によるブレーキBR2においては、複数の摩擦板と軸方向に並べて配置されたウェーブスプリング90によって、締結時にピストン80が複数の摩擦板70を押圧する荷重を漸増させて、締結時の急激な締結によるショックを抑制できる。
ウェーブスプリングは、軸方向に振幅を有するため、ウェーブスプリング90と該ウェーブスプリング90に隣接する摩擦板(ピストン側摩擦板)71aとの間を流れる潤滑油の流速は、他の摩擦板間を流れる潤滑油の流速に比して低下する。そのため、ウェーブスプリング90が配置されている部位と、他の摩擦板間との間で面間圧力が不均一になり、上述のような各摩擦板間の間隔を広げる効果が得られにくい。
これに対して、ウェーブスプリング90は、ピストン側摩擦板71aとピストン80との間に配置されると共に、連結部材91によってピストン側摩擦板71aとピストン80と連結されている。すなわち、ウェーブスプリング90とピストン側摩擦板71aとは相対動きが規制されるので、ウェーブスプリング90に寄らず、各摩擦板の間隔が保持されやすく、摩擦板間の引き摺りによる抵抗を低減することができる。なお、連結部材91は、ウェーブスプリング90の変形を許容するので、ウェーブスプリング90による締結時のショック低減効果を維持できる。
上述のように、ピストン側摩擦板71aは、ピストン80に対して相対動きが規制され、反ピストン側摩擦板71fは、第1ハブ部材21の縦壁部22に対して相対動きが規制されているので、解放状態において、ピストン側摩擦板71aと反ピストン側摩擦板71fとの間の離間距離を最も広く確保することができる。これにより、ピストン側摩擦板71aと反ピストン側摩擦板71fとの間に配置される各摩擦板の間隔をより広げやすい。
ブレーキBR2は、自動変速機を構成し、車両の発進時に締結される発進用摩擦締結装置であるので、ウェーブスプリング90によって発進時のショックが抑制される。
また、ブレーキBR2は、ピストン80の締結油圧室s1が回転しないので、ピストン80の締結油圧室s1に遠心油圧が作用することが回避され、より緻密な制御ができる。
ブレーキBR2は、ハブ部材20が、自動変速機のケース11に回転不能に固定されているので、ドラム部材60の回転で生じる遠心力によって、各摩擦板に供給された潤滑油を早期にドラム部材60の内周面の外側すなわち各摩擦板から離間した位置に吹き飛ばすことができ、潤滑油がこれら摩擦板付近に滞留するのを抑制することができる。
例えば、ドラム部材60が固定される場合には、遠心力によって摩擦板の内側から外側に流出する潤滑油がケース11の内周面すなわち外側摩擦板72付近に滞留し、内側摩擦板71と外側摩擦板72との締結を完全に解除した際にも、この滞留している潤滑油によって各摩擦板間に引き摺りトルクを生じ得るが、上述の構造によれば、外側摩擦板72付近に滞留した潤滑油による引き摺りトルクを低減できる。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
本実施形態では、例えば、摩擦板間の負圧を抑制するためのエア導入部Xを備える構成について説明したが、エア導入部Xを備えなくてもよい。
本実施形態においては、ウェーブスプリング90がピストン80とピストン側摩擦板71aとの間に配置される構成について説明したが、これに限られるものではない。例えば、ウェーブスプリング90は、図12に示すように、内側摩擦板71の間に配置されてもよく、この場合ウェーブスプリング90と、該ウェーブスプリング90に隣接する一対の内側摩擦板71h,71hとは、ウェーブスプリング90の変形を許容する連結部材191によって連結されればよい。これにより、ピストン80にウェーブスプリング90を連結できないような場合においても、ウェーブスプリング90による締結時のショックを低減するための効果が得られる。
また、セーブスプリング90は、図13に示すように、ハブ部材21の縦壁部22と反ピストン側摩擦板71fとの間に配置されてもよく、この場合ウェーブスプリングと縦壁部22と反ピストン側摩擦板71fとは、ウェーブスプリング90の変形を許容する連結部材291によって連結されればよい。
本実施形態においては、反ピストン側摩擦板71fが位置規制部材93によって、縦壁部22に対して位置が規制される構造について説明したが、反ピストン側摩擦板71fは、ピストン側摩擦板71aに対して最も離間した位置に配置されればよく、例えば、反ピストン側摩擦板71fは、縦壁部22に溶接等によって接合される構成であってもよい。
本実施形態においては、第1の相手部材としてのピストン80と位置規制部材93とによって、解放状態において、ピストン側摩擦板71a及び反ピストン側摩擦板71fの両方が解放位置に規制される構成を説明したが、ピストン側摩擦板71a及び反ピストン側摩擦板71fは、どちらか一方が解放位置に規制される構成であってもよい。
この構成によれば、例えば、ピストン側摩擦板71aのみがピストン80に規制されている場合、解放状態において、ピストン側摩擦板71aが解放位置に規制されるので、各内側摩擦板71と各外側摩擦板72の間を流れる潤滑油の圧力により、各摩擦板の間隔を広げやくす、摩擦板間の引き摺りトルクを低減できる。
具体的には、負圧の作用によって、解放状態において各摩擦板が互いに引き付けられる場合に、ピストン側摩擦板71aを解放位置に規制することで、ピストン側摩擦板71aと該ピストン側摩擦板71aに隣接する外側摩擦板72aとの面間距離が、他の摩擦板間の面間よりよりも大きくなる。前述のように、面間距離が小さい場合には面間圧力が高く、面間距離が大きい場合には面間圧力が小さくなるので、ピストン側摩擦板71aと外側摩擦板72aとの間の面間圧力が、他の摩擦板間の面間圧力よりも低くなる。
このように、外側摩擦板72aとピストン側摩擦板71aとの面間圧力と、外側摩擦板72aと内側摩擦板71gとの面間圧力との間に生じた圧力差によって、外側摩擦板72aはピストン側摩擦板71aとの間隔が狭められ、内側摩擦板71gとの間隔が押し広げられることになり、各摩擦板間の間隔がピストン側摩擦板71a側に向かって広がるように調整される。その結果、各摩擦板間の引き摺りトルクを低減できる。
このとき、反ピストン側摩擦板71fに対しても、反ピストン側摩擦板とこれに隣接する内側摩擦板71との間で面間圧力が変化するが、反ピストン側摩擦板71fと第1ハブ部材21のスプライン部25との間の摺動抵抗に抗する程度の負圧が発生しない場合(例えば、ドラム部材60の回転数が低い場合)には、反ピストン側摩擦板71fがピストン側摩擦板71aの方向に移動することはなく、各摩擦板間の面間距離を広げることができる。