JP7458680B2 - 新規加水分解酵素及びそれを利用した(1s,2s)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造に利用可能な新規加水分解酵素(エステラーゼ)及びその利用に関するものである。
(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸は、C型肝炎治療薬として開発中の各種HCV NS3プロテアーゼ阻害剤等の製造に有用な中間体である。
非特許文献1、特許文献1及び特許文献2には、ジメチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を酵素により加水分解し、(1S,2S)-1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を得る方法が記載されている。
しかしながら、非特許文献1で使用されている酵素は、光学的選択性が不十分であり、得られる(1S,2S)-1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の光学純度も90%e.e.と不十分であり、医薬品の中間体の工業的な製造法としては不向きであった。また、特許文献1及び特許文献2で使用されている酵素は、光学的選択性が不十分であり、目的とする(1S,2S)-1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸以外に、副生物である(1S,2R)-1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の生成量が多いため、目的物を高効率で製造することが難しく、また、工業的に製造する場合には大型の分離装置や精製装置が必要となりコストが高くなる。
したがって、C型肝炎治療薬等の製造用中間体として有用な(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を、高純度、高効率、かつ低コストで、工業的に製造する方法が望まれていた。
特許第5613660号 特許第5657560号
C. Fliche他 Synth. Commun. 24(20), 2873-2876 (1994)
本発明は、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を高光学純度、高選択性で製造するための新規な加水分解酵素(エステラーゼ)を提供することを解決すべき課題とする。さらに、本発明は、光学純度の高い(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を、高効率、かつ低コストで工業的に製造する新規な方法を提供することを解決すべき課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ロドコッカス・スピーシーズD32株(Rhodococcus sp.D32株)、シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)及びミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)由来の酵素が、高い選択性でジアルキル2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解し、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を高効率で得ることが可能であることを見出した。また、該酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液(以下、これらをまとめて「酵素等」という場合がある)を、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に接触させることにより、高光学純度、高選択性かつ高濃度の(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を低コストで得ることができることを見出した。さらに、このようにして得られた(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を用いることで高効率、かつ低コストで光学純度の高い(1R,2S)-1-アミノ-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンも製造することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]以下の(a)~(e)のいずれかのポリペプチドを含む加水分解酵素。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列番号4又は6で表されるアミノ酸配列を有し、かつ式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチド
Figure 0007458680000001
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
(c)配列番号2、4又は6に示すアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチド
(d)配列番号2、4又は6に示すアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチド
(e)配列番号2、4又は6に示すアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、前記アミノ酸配列中に以下の(i)~(iv)のモチーフ配列から選ばれる1以上のモチーフ配列を有するポリペプチド
(i)連続する5残基(アスパラギン酸(D)、アラニン(A)、スレオニン(T)、アルギニン(R)、グリシン(G))からなる配列
(ii)連続する4残基(プロリン(P)、チロシン(Y)、グリシン(G)、フェニルアラニン(F))からなる配列
(iii)連続する4残基(アスパラギン(N)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列
(iv)連続する5残基(プロリン(P)、グリシン(G)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列
[2]式(1)におけるRがエチル基である、[1]に記載の加水分解酵素。
[3][1]又は[2]に記載の加水分解酵素をコードする核酸。
[4]前記核酸が、以下の(f)、(g)、(h)又は(i)に示す塩基配列を含む、[3]に記載の核酸。
(f)配列番号1、3又は5で表される塩基配列
(g)配列番号1、3又は5で表される塩基配列において、1~複数個の塩基の置換、欠失、及び/又は付加を有する塩基配列であって、かつ式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする核酸
Figure 0007458680000002
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
(h)配列番号1、3又は5で表される塩基配列と60%以上の配列同一性を有する塩基配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする核酸
(i)配列番号1、3又は5で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする核酸
[5][1]又は[2]に記載の加水分解酵素、前記酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、前記微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は前記微生物若しくは細胞を培養して得られた前記酵素を含む培養液を、式(I)で表されるジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に接触させて、式(II)で表される(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造することを含む、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造方法。
[6]前記微生物又は細胞が、[3]又は[4]に記載の核酸で形質転換された微生物又は細胞である、[5]に記載の製造方法。
[7][3]又は[4]に記載の核酸を含む組換えベクター。
[8][7]に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする形質転換体。
本発明によれば、C型肝炎治療薬等の製造用中間体として有用な(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を高光学純度、高選択性で製造するための新規な加水分解酵素(エステラーゼ)を提供することができる。また、本発明によれば、光学純度の高い(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を、高効率かつ低コストで工業的に製造する新規な方法を提供することができる。さらに、このようにして得られた(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を用いることにより、高効率、かつ低コストで、光学純度の高い(1R,2S)-1-アミノ-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンを製造することができる。
本発明の方法により製造される(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸や、これを用いて製造される(1R,2S)-1-アミノ-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンは、C型肝炎の治療薬等の製造における出発物質や製造用中間体として利用することができる。
図1は、実施例1において、アミノ酸配列D32Estを有する菌体を用いて得られた反応生成物のHPLC分析結果を示す図である。 図2は、アミノ酸配列PnbA3027-m26を有する菌体を用いて得られた反応生成物のHPLC分析結果を示す図である。 図3は、加水分解酵素のアライメントを示す図である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
1.本発明の加水分解酵素
本発明の加水分解酵素は、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むもの、又は該アミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列のホモログ」という場合がある)を有し、ジエチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解する活性を有するポリペプチドを含むもの(以下、「加水分解酵素のホモログ」という場合がある)である。具体的には、本発明の新規加水分解酵素は、以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)に示すポリペプチドを含むものである。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)配列番号4又は6で表されるアミノ酸配列を有し、かつ式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチド
Figure 0007458680000003
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
(c)配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチド
(d)配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチド
(e)配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、当該アミノ酸配列中に以下の(i)~(iv)のモチーフ配列から選ばれる1以上のモチーフ配列を有するポリペプチド
(i)連続する5残基(アスパラギン酸(D)、アラニン(A)、スレオニン(T)、アルギニン(R)、グリシン(G))からなる配列
(ii)連続する4残基(プロリン(P)、チロシン(Y)、グリシン(G)、フェニルアラニン(F))からなる配列
(iii)連続する4残基(アスパラギン(N)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列
(iv)連続する5残基(プロリン(P)、グリシン(G)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列
式(1)において、Rで表される炭素数1~6のアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、ノルマルヘキシル基等が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましく、エチル基が特に好ましい。なお、式(I)中の2つのRは、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
本発明において、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列を有する加水分解酵素のホモログは、前記(c)、(d)又は(e)に示すポリペプチドを含むものである。
前記(c)に示すポリペプチドは、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドである。置換の場合は、1~複数個のアミノ酸が保守的に置換されたものが好ましい。本明細書において、「アミノ酸が保守的に置換された」とは、化学的性質等が類似するアミノ酸同士の置換を意味し、例えば、塩基性アミノ酸を塩基性アミノ酸で置換すること、酸性アミノ酸を酸性アミノ酸で置換することが挙げられる。
「1~複数個のアミノ酸」とは、通常1個~100個、好ましくは1個~50個、より好ましくは1個~20個、さらに好ましくは1個~10個、特に好ましくは1個~5個のアミノ酸である。
前記(d)に示すポリペプチドは、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドである。好ましくは、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列全長と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドである。
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性(同一性又は類似性ともいう)は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、例えば、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLAST及びXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら,J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、Myers及びMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version2.0)に組み込まれている]、Pearsonら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
本発明において、式(1)に示す反応を触媒する活性とは、式(I)で表されるジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解して、式(II)で表される(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を生成する反応を触媒する活性のことである。
ここで、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸には、(2R)体及び(2S)体の2種類の立体異性体が存在するが、2位での立体反転が起こる特殊な条件でない限り、基本的には(2S)体のみが目的とする(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の原料となり得る。
したがって、式(1)に示す反応を触媒する活性とは、ジアルキル (2S)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸の1位のプロキラルな炭素に結合した二つのアルコキシカルボニル基のうち、pro-Rなアルコキシカルボニル基のみを優先的に加水分解し、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を優先的に生成するという選択性を有する反応を触媒する活性である。
なお、pro-Rとは、CX2YZ上にある2個のXについて、それらを区別する表記法であり、C上の各置換基についてCIP則により優先順位を決める。そのとき、2個のXのうち一方の優先順位を他方よりも高いものと仮定し、Y、Zとの優先順位の関係は変えない。仮の優先順位に基づき、RS表記法により中心炭素のキラリティがRかSかを決める。R体の場合は、そのときに優先させたXをpro-Rとし、S体の場合はpro-Sとする。
この選択性は、加水分解により生成する1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2S)体と(1R,2S)体の比率を指標として確認することができる。(1S,2S)体の生成量に比して(1R,2S)体の生成量が低いものほど(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の収率が向上し、工業化において有利である。
また、(1S,2S)体と(1R,2S)体の生成比率は、生成するAnti体とSyn体の比率を指標として比較可能である。Anti体、Syn体は幾何異性体を意味しており、(1S,2S)体と(1R,2R)体がAnti体であり、(1R,2S)体と(1S,2R)体がSyn体である。本発明においては、加水分解による生成物は(1S,2S)体が主成分であるため、生成物を定量する際に(1S,2S)体単独で定量する評価系だけでなく、Anti体とSyn体を分離できる評価系を用いて生成量を定量することが可能である。すなわち、(1S,2S)体を定量する場合に、Anti体の生成量を定量することで代用できる。同様に、(1R,2S)体を定量する場合に、Syn体の生成量を定量することで代用できる。Syn体の生成比率が低いものほど、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の収率が向上し、工業化において有利である。
これらの選択性は、ラセミ体のジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に、対象とする加水分解酵素等を接触させて1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を生成させ、生成した1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2S)体と(1R,2S)体の生成量を測定すること又はAnti体とSyn体の生成量を測定することにより確認することができる。
接触方法は特に限定されず、例えば、対象とする前記加水分解酵素を含む液体に、ラセミ体のジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加え、適当な温度(例えば、10℃~45℃程度)や圧力(例えば大気圧程度)で反応させること等が挙げられる。
また、ラセミ体のジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解する際に、(2R)体が加水分解すると(1S,2R)体及び(1R,2R)体を生成し得るが、目的とする(1S,2S)体のエナンチオマーにあたる(1R,2R)体の生成量は低く抑えることが好ましい。したがって、本発明においては、ジアルキル (2R)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸の1位のプロキラルな炭素に結合した二つのアルコキシカルボニル基のうち、pro-Rなアルコキシカルボニル基のみを優先的に加水分解し、(1S,2R)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を優先的に生成する選択性を有することが更に好ましい。同様に、ジアルキル (2R)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に比してジアルキル (2S)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を優先的に加水分解する選択性を有することが更に好ましい。いずれの選択性も、加水分解により生成する1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2S)体の(1R,2R)体に対するエナンチオマー過剰率(% e.e.)により測定可能である。(1S,2S)体のエナンチオマー過剰率が高いものほど、後の製造工程や製造された医薬品の生理活性に悪影響が生じる可能性が低く、工業的に有利である。
前記(e)に示すポリペプチドは、配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、当該アミノ酸配列中に以下の(i)~(iv)のモチーフ配列から選ばれる1以上のモチーフ配列を有するポリペプチドである。
(i)連続する5残基(アスパラギン酸(D)、アラニン(A)、スレオニン(T)、アルギニン(R)、グリシン(G))からなる配列
(ii)連続する4残基(プロリン(P)、チロシン(Y)、グリシン(G)、フェニルアラニン(F))からなる配列
(iii)連続する4残基(アスパラギン(N)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列、及び
(iv)連続する5残基(プロリン(P)、グリシン(G)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列
本発明において、モチーフ配列とは、ポリペプチドのアミノ酸配列中に認められる小さい構造部分を指す。特定の機能を保持する一群のポリペプチド(タンパク質)には、特徴的なモチーフ配列が共通して存在することが知られている。例えば、特定の種類の加水分解酵素においては、セリン(S)、アスパラギン酸(D)、及びヒスチジン(H)が触媒活性(加水分解機能)に必要なアミノ酸残基であることが知られている。具体的には、Catalysis Science and Technology, 2015, vol.5, 2622に示される加水分解酵素RhEst1は、アミノ酸残基としてセリン(S)、アスパラギン酸(D)及びヒスチジン(H)を有する。また、図3に示すように、米国特許第8298799号に記載の加水分解酵素AFX20780も、アミノ酸残基としてセリン(S)、アスパラギン酸(D)及びヒスチジン(H)を特定の位置に有する。
図3に示すように、本発明の配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列も、前記加水分解酵素RhEst1及びAFX20780と同様に、セリン(S)、アスパラギン酸(D)及びヒスチジン(H)を特定の位置に有しており、触媒活性(加水分解機能)を有していることが分かる。
また、図3に示すように、本発明の配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列は、特徴的なモチーフ配列として、以下の(i)~(iv)のモチーフ配列から選ばれる1以上のモチーフ配列を有する。
(i)連続する5残基(アスパラギン酸(D)、アラニン(A)、スレオニン(T)、アルギニン(R)、グリシン(G))からなる配列
(ii)連続する4残基(プロリン(P)、チロシン(Y)、グリシン(G)、フェニルアラニン(F))からなる配列
(iii)連続する4残基(アスパラギン(N)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列
(iv)連続する5残基(プロリン(P)、グリシン(G)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G))からなる配列
これらのモチーフ配列は、本発明の配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列が、上述のセリン(S)、アスパラギン酸(D)及びヒスチジン(H)以外に共通して有しているものであるため、該アミノ酸配列を有する本発明の酵素が有している特徴的な機能である、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を立体選択的に加水分解するためのモチーフ配列であると推測される。これらのモチーフ配列は単独で機能する可能性もあるし、複数のモチーフ配列が同時に作用することにより所望の機能を発揮する可能性もある。
上述のとおり、本発明の加水分解酵素は、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むもの、又は該アミノ酸配列のホモログであってジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸加水分解活性を有するポリペプチドを含むものである。該アミノ酸配列のホモログを有するポリペプチドを含む加水分解酵素のジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸加水分解活性の程度は、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む加水分解酵素と定量的に同等であり得るが、許容し得る範囲(例えば、約0.1~約5倍、好ましくは、約0.3~約3倍)で異なってもよい。
配列番号2、4及び6で表されるアミノ酸配列は、それぞれ、ロドコッカス・スピーシーズD32株(Rhodococcus spD32株)、シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)及びミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)に由来するものである。これらのアミノ酸配列は、本発明者らにより、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸の加水分解酵素であると同定されたものである。
配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、Rhodococcus sp D32株に由来するポリペプチドであり、その菌株は土壌サンプルから回収された菌である。該菌が生産するジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸加水分解酵素のN末端配列の解析とRhodococcus spD32株の染色体DNAの解析から、配列番号2で表されるアミノ酸配列が得られた。
配列番号4及び6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、それぞれが由来する微生物のゲノム情報から得られた配列である。配列番号4及び6で表されるアミノ酸配列は、それぞれ、タンパク質をコードすると予測されたDNA配列によりコードされるアミノ酸配列であるGenBank accession No.WP-013673631及びWP-053548180と同一である。いずれもタンパク質として単離される等、実際に存在を確認した報告例は無く、当然、タンパク質としての機能についても全く不明であったものである。
本発明においては、配列番号2、4及び6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドのうち、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の収率が高く、選択性も高いことから、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド好ましい。
本発明の配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む加水分解酵素は、それぞれロドコッカス・スピーシーズD32株(Rhodococcus sp.D32株)、シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)、及びミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)から公知の方法により精製単離して得ることもできる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
また、本発明の加水分解酵素は、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物から該加水分解酵素を分離精製することによって製造することもできる。本発明の加水分解酵素をコードする核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(すなわち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(すなわち、非コード鎖)であってもよい。
本発明の加水分解酵素をコードするDNAとしては、合成DNAなどが挙げられる。例えば、ロドコッカス・スピーシーズD32株(Rhodococcus sp.D32株)、シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)又はミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)由来の細胞若しくは組織より調製した全RNA若しくはmRNA画分を鋳型として用い、Reverse Transcriptase-PCRによって直接増幅した全長加水分解酵素 cDNAを、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(TAKARA BIO INC.)、MutanTM-K(TAKARA BIO INC.)等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することによって取得することができる。あるいは、上記した全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、クローニングしたcDNAを、上記の方法に従って変換することによっても取得することができる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸としては、それぞれ、配列番号1、3又は5で表される塩基配列を含む核酸が挙げられる。式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする限り、配列番号1、3又は5の塩基配列と高い同一性を有する塩基配列を含む核酸(以下、「核酸のホモログ」という場合がある)でもよい。即ち、該ポチペプチドをコードする核酸としては、以下の(f)、(g)、(h)又は(i)に示す塩基配列を有するものが挙げられる。
(f)配列番号1、3又は5で表される塩基配列を有する核酸
(g)配列番号1、3又は5で表される塩基配列において、1~複数個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードする核酸
(h)配列番号1、3又は5で表される塩基配列と60%以上の配列同一性を有する塩基配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする核酸
(i)配列番号1、3又は5で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードする核酸
前記(g)に示す核酸のホモログとしては、配列番号1、3又は5で表される塩基配列において、1~複数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列を含み、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードする核酸が挙げられる。置換、挿入又は付加の場合は、1~複数個の塩基が置換、挿入又は付加されたものが好ましい。ここで、「1~複数個の塩基」とは、例えば、1個~300個、好ましくは1個~150個、より好ましくは1個~60個、さらに好ましくは1個~30個、特に好ましくは1個~15個の塩基である。
なお、配列番号1、3又は5で表される塩基配列は、それぞれロドコッカス・スピーシーズ(Rhodococcus sp.)D32株由来の加水分解酵素RsD32Est(配列番号2)、シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)由来の加水分解酵素PdEst(配列番号4)、及びミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)由来の加水分解酵素McEst(配列番号6)の遺伝子を大腸菌発現用にコドンを最適化した塩基配列である。このように形質転換対象の宿主に応じてコドンが最適化されたDNAも当然に本発明に使用し得る上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードする核酸に包含される。
前記(h)に示す核酸のホモログとしては、配列番号1、3又は5で表される塩基配列と60%以上の配列同一性を有する塩基配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードする核酸が挙げられる。好ましくは、配列番号1、3又は5で表される塩基配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、なお一層好ましくは98%以上の相同性(同一性ともいう)を有する塩基配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードする核酸である。
本明細書における塩基配列の相同性(同一性ともいう)は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、例えば、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
前記(h)に示す核酸のホモログとしては、上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする限り、配列番号1、3又は5の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、既報の条件(例:Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 6.3.16.3.6, 1999)を参考に適宜設定することができ、具体的には、例えば、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1 x SSC、0.1% SDS、好ましくは、0.1 x SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは、65℃、0.1 x SSC、0.1% SDSや68℃、0.1 x SSC、0.1% SDS等(高ストリンジェントな条件)に相当する塩濃度及び温度で、1回、より好ましくは2~3回洗浄する条件等が挙げられる。
当業者であれば、配列番号1、3又は5で表される核酸に部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res.10,pp.6487(1982)、Methods in Enzymol.100,pp.448(1983)、Molecular Cloning、PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991))等を用いて、適宜、置換、欠失、挿入及び/又は付加を行い、所望の変異を導入することにより、上記のような核酸のホモログを得ることが可能である。
本発明の核酸は、上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードし得る。本発明の核酸が、配列番号1、3若しくは5に示す塩基配列、又は配列番号1、3若しくは5に示す塩基配列と高い同一性を有する塩基配列を有する場合、該核酸によりコードされるポリペプチドを含む加水分解酵素のジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸加水分解活性の程度は、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むもの、又は該アミノ酸配列のホモログを有するポリペプチドを含むものと定量的に同等であり得るが、許容し得る範囲(例えば、約0.1~約5倍、好ましくは約0.3~約3倍)で異なってもよい。
また、配列番号2、4又は6のアミノ酸配列又はその一部や、配列番号1、3又は5で表される塩基配又はその一部をもとに、例えばDNA Databank of JAPAN(DDBJ)等のデータベースに対してホモロジー検索を行って、式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列情報又はそれをコードするDNAの塩基配列情報を手に入れることも可能である。
本発明の加水分解酵素は、上記式(1)に示す反応を、従来公知の配列番号24に示すポリペプチドを含む加水分解酵素より、高い選択性で触媒する活性を有するものである。また、本発明の加水分解酵素は、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解した際に、1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2R)体、(1R,2S)体及び/又は(1R,2R)体の生成比率が低いものであり、特に、配列番号24に示すポリペプチドを含む加水分解酵素より、該(1S,2R)体、(1R,2S)体及び/又は(1R,2R)体の生成比率が低いものである。
後述する本発明の製造方法においては、ジアルキル2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に、上述した加水分解酵素を直接反応に使用してもよいが、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を用いることが好ましい。
本発明の加水分解酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞としては、もともと当該加水分解酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を用いてもよいし、育種により前記生産能力を付与した微生物若しくは細胞であってもよい。微生物若しくは細胞としては、その生死は問わず、例えば、休止菌体等を好適に用いることができる。本発明の加水分解酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞の種類としては、「宿主微生物」又は「宿主細胞」として後述するものが挙げられる。
育種により前記生産能力を付与する手段としては、遺伝子組換え処理(形質転換)や変異処理等、公知の方法を採用することができる。形質転換の方法としては、目的とするDNAを導入する方法、染色体上でプロモーター等の発現調節配列を改変して目的とするDNAの発現を強化する方法等が挙げられる。
これらのうち、前記の本発明のポチペプチドをコードするDNAで形質転換された微生物若しくは細胞を用いることが好ましい。
本発明のポリペプチド(加水分解酵素)をコードする核酸(DNA)は、前記の通り、ロドコッカス・スピーシーズD32株(Rhodococcus sp.D32株)、シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)又はミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)由来の染色体DNAを鋳型として用い、適切なプライマーを用いてPCRを行うことでクローニングできる。
また、本発明のポリペプチド(加水分解酵素)をコードする核酸(DNA)は、前記の通り、ロドコッカス・スピーシーズD32株(Rhodococcus sp.D32株)、シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)又はミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)由来の全RNA若しくはmRNAを鋳型として用い、RT-PCR法によって直接増幅した全長加水分解酵素 cDNAを調製した後、適切なプライマーを用いてPCRを行うことによりクローニングできる。
例えば、上記のようにして得た本発明のポリペプチドをコードするDNAを公知の発現ベクターに発現可能な配置で挿入することにより、本発明のポリペプチド遺伝子発現ベクターが提供される。そして、該発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより、本発明のポリペプチドをコードするDNAが導入された形質転換体を得ることができる。形質転換体は、宿主の染色体DNAに本発明のポリペプチドをコードするDNAを相同組み換え等の手法によって発現可能に組み込むことによっても得ることができる。
本明細書において「発現ベクター」とは、所望の機能を有するタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを組み込み宿主生物へ導入することにより、所望の機能を有するタンパク質を前記宿主生物において複製及び発現させるために用いられる遺伝因子である。例えば、プラスミド、ウイルス、ファージ、コスミド等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、発現ベクターはプラスミドである。
本明細書において、「形質転換体」とは、前記発現ベクター等を用いて目的の遺伝子が導入され、所望の機能を有するタンパク質に関連する所望の形質を表すことができるようになった微生物又は細胞を意味する。
形質転換体の作製方法としては、具体的には、宿主細胞において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクターやウイルスベクター中に、本発明のポリペプチドをコードするDNAを導入し、構築された発現ベクターを該宿主細胞中に導入する方法や直接宿主ゲノム中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる方法が例示される。この場合、宿主において適当なプロモーターをDNAの5'-側上流に連結させることが好ましく、さらに、ターミネーターを3'-側下流に連結させることがより好ましい。このようなプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する細胞中において機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば特に限定されず、例えば、「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」に詳述されているベクター、プロモーター及びターミネーターを使用することができる。
本発明の加水分解酵素を発現させるための形質転換の対象となる宿主微生物としては、宿主自体がジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸や(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸に悪影響を与えない限り特に限定されることはなく、例えば、以下に示すような微生物を挙げることができる。
エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属等に属する宿主ベクター系の確立されている細菌。
ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属等に属する宿主ベクター系の確立されている放線菌。
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属等に属する宿主ベクター系の確立されている酵母。
ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する宿主ベクター系の確立されているカビ。
形質転換体作製のための手順、宿主に適合した組換えベクターの構築及び宿主の培養方法は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Molecular Cloningに記載の方法)。
以下、具体的に、好ましい宿主微生物、各微生物における好ましい形質転換の手法、ベクター、プロモーター、ターミネーター等の例を挙げるが、本発明はこれらの例に限定されない。
エシェリヒア属、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとしては、pBR、pUC系プラスミド等が挙げられ、lac(β-ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PR等に由来するプロモーター等が挙げられる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーター等が挙げられる。
バチルス属においては、ベクターとしては、pUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等を挙げることができ、また、染色体にインテグレートすることもできる。プロモーター及びターミネーターとしては、アルカリプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、α-アミラーゼ等の酵素遺伝子のプロモーターやターミネーター等が利用できる。
シュードモナス属においては、ベクターとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)等で確立されている一般的な宿主ベクター系や、トルエン化合物の分解に関与するプラスミド、TOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240(Gene,26,273-82(1983))等を挙げることができる。
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、ベクターとしては、pAJ43(Gene 39,281(1985))等のプラスミドベクターを挙げることができる。プロモーター及びターミネーターとしては、大腸菌で使用されている各種プロモーター及びターミネーターが利用可能である。
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、ベクターとしては、pCS11(特開昭57-183799号公報)、pCB101(Mol.Gen.Genet.196,175(1984))等のプラスミドベクターが挙げられる。
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、ベクターとしては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミド等が挙げられる。また、アルコール脱水素酵素、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、酸性フォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、エノラーゼといった各種酵素遺伝子のプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、ベクターとしては、Mol.Cell.Biol.6,80 (1986)に記載のシゾサッカロマイセス・ポンベ由来のプラスミドベクター等を挙げることができる。特に、pAUR224は、タカラバイオ株式会社から市販されており容易に利用できる。
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae)等がカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trendsin Biotechnology 7,283-287(1989))。
また、上記以外でも、各種微生物に応じた宿主ベクター系が確立されており、それらを適宜使用することができる。
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が確立されており、特に昆虫(例えば、蚕)等の動物中(Nature 315,592-594(1985))や、菜種、トウモロコシ、ジャガイモ等の植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系、及び大腸菌無細胞抽出液や小麦胚芽等の無細胞タンパク質合成系を用いた系が確立されており、好適に利用できる。
本発明の加水分解酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞の処理物としては、例えば、該微生物若しくは細胞をアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン等の有機溶媒や界面活性剤により処理したもの、凍結乾燥処理したもの、物理的又は酵素的に破砕したもの等の細胞調製物、微生物若しくは細胞中の酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等に代表される担体に固定化したもの等を挙げることができる。
本発明の加水分解酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液としては、例えば、該細胞と液体培地の懸濁液や、該細胞が分泌発現型細胞である場合は該細胞を遠心分離等で除去した上清やその濃縮物を挙げることができる。
2.本発明の組成物
本発明の組成物(酵素剤)は、本発明の加水分解酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた前記酵素を含む培養液を含み、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を基質とし、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を生成する反応を触媒するものである。本発明の組成物は、触媒として使用することで、光学純度の高い(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を、高効率、かつ低コストで工業的に製造することができるため、有用である。
本発明の組成物は、有効成分(酵素等)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
3.本発明の加水分解酵素を用いた下式(II')で表されるカルボン酸モノエステルの製造
本発明によれば、式(2)で表される製造、即ち、本発明の加水分解酵素を下式(I')で表されるジカルボン酸エステルに作用させて、下式(II')で表されるカルボン酸モノエステルを製造することを含む、下式(II')で表されるカルボン酸モノエステルの製造方法が提供される。
Figure 0007458680000004
(式中、R'は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数7~20のアラルキル基、又は炭素数6~12のアリール基を示す。)
式(2)において、R'で表される「置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基」における「1~10のアルキル基」としては、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基が挙げられる。これらのうち、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が好適に挙げられ、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましく、エチル基が特に好ましい。「置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基」における置換基としては、ハロゲン原子(例、塩素原子、臭素原子)、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐のアルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ)、ニトロ基等が挙げられる。
R'で表される「置換されていてもよい炭素数7~20のアラルキル基」における「炭素数7~20のアラルキル基」としては、好ましくは炭素数7~12のアラルキル基である。これらのうち、ベンジル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等が挙げられる。「置換されていてもよい炭素数7~20のアラルキル基」における置換基としては、ハロゲン原子(例、塩素原子、臭素原子)、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐のアルキル基(例、メチル、エチル)、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐のアルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ)等が挙げられる。「置換されていてもよい炭素数7~20のアラルキル基」としては、ベンジル基、4-メチルベンジル基、4-メトキシベンジル基、4-クロロベンジル基、4-ブロモベンジル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等が好適に挙げられる。
R'で表される「置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基」における「炭素数6~12のアリール基」としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。「置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基」における置換基としては、ハロゲン原子(例、塩素原子、臭素原子)、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐のアルキル基(例、メチル、エチル)、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐のアルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ)、ニトロ基等が挙げられる。「置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基」としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、o-メチルフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メチルフェニル基、o-メトキシフェニル基、m-メトキシフェニル基、p-メトキシフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,3,5-トリメチルフェニル基、2,3,6-トリメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、o-ニトロフェニル基、m-ニトロフェニル基、p-ニトロフェニル基等が好適に挙げられる。
R'としては、特に好ましくはメチル基、エチル基、tert-ブチル基、又はベンジル基であり、より好ましくはエチル基である。
なお、式(I')中の2つのR'は、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
本発明の加水分解酵素を式(I')で表されるジカルボン酸ジエステルに接触させる際には、精製又は粗精製した本発明の加水分解酵素、本発明の加水分解酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞(例えば、本発明のポリペプチドをコードするDNAを有する形質転換体等)、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を、式(I')で表されるジカルボン酸ジエステルに接触させることによって、式(II')で表されるカルボン酸モノエステルを製造することができる。
本発明の加水分解酵素は、直接反応に使用してもよいが、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を用いることが好ましく、これらの中でも、本発明のポリペプチドをコードするDNAを有する形質転換体を用いることが好ましい。
反応液に添加する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液の量は、微生物若しくは細胞を添加する場合は、反応液にその微生物若しくは細胞の濃度が、通常、湿菌体重で0.1 w/v%~50 w/v%程度、好ましくは1 w/v%~20 w/v%となるように添加し、処理物や培養液を用いる場合には、酵素の比活性を求め、添加したときに上記細胞濃度になるような量を添加する。ここで、w/v%は、重量(weight)/体積(volume)%を表す。
本発明の加水分解酵素の反応基質である式(I')で表されるジカルボン酸ジエステルとしては、通常、(2S)体又はラセミ体が用いられる。
反応の方法は特に限定されず、本発明の加水分解酵素を含む液体に、基質となる式(I')で表されるジカルボン酸ジエステルを加え、適当な温度や圧力(例えば大気圧程度)で反応させることができる。これにより、式(II')で表されるカルボン酸モノエステルを製造することができる。
反応基質となる式(I')で表されるジカルボン酸ジエステルは、通常、基質濃度が0.01 w/v%~90 w/v%、好ましくは0.1 w/v%~30 w/v%の範囲で用いられる。反応基質は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素の基質阻害があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点からすると、連続的もしくは間欠的に添加することが望ましい。
反応は、通常、水性媒体中、又は水性媒体と有機溶媒との混合物中で行われる。水性媒体としては、例えば、水又は緩衝液が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド等、反応基質である式(I')で表されるジカルボン酸ジエステルの溶解度が高いものを使用することができる。また、有機溶媒としては、反応副産物の除去等に効果のある、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン等を使用することもできる。
反応は、通常、4℃~60℃、好ましくは10℃~45℃の反応温度で、また、通常pH 3~11、好ましくはpH 5~8の条件下で行われる。反応時間は、通常、1時間~72時間程度である。
本発明の製造方法により生成する式(II')で表されるカルボン酸モノエステルは、反応終了後、反応液中の菌体やタンパク質等を遠心分離、膜処理等当業者に公知の分離又は精製方法により分離した後に、1-ブタノール、tert-ブタノール等の有機溶媒による抽出、蒸留、イオン交換樹脂やシリカゲル等を用いたカラムクロマトグラフィー、等電点における晶析や一塩酸塩、二塩酸塩、カルシウム塩等での晶析等を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
本発明の加水分解酵素は、ジエチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解して、(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造する方法に、特に好適に用いることができる。
また、基質である式(I')で表されるジカルボン酸ジエステルは、以下の式(3)の反応により製造することができる。
Figure 0007458680000005
(式中、R3は、置換されていてもよい炭素数6~12のアリールスルホニル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキルスルホニル基、又は置換されていてもよい炭素数7~20のアラルキルスルホニル基を示し、R'は前記と同義である。)
すなわち、式(III)で表される化合物を、アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ金属水素化物の存在下で、式(IV)で表されるマロン酸エステル類と反応させることにより製造することができる。
式(III)において、R3で表される「置換されていてもよい炭素数6~12のアリールスルホニル基」における「炭素数6~12のアリールスルホニル基」としては、例えば、ベンゼンスルホニル基、1-ナフタレンスルホニル基、2-ナフタレンスルホニル基等が挙げられる。「置換されていてもよい炭素数1~10のアルキルスルホニル基」における「炭素数1~10のアルキルスルホニル基」としては、例えば、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、プロパンスルホニル基等が挙げられる。「置換されていてもよい炭素数7~20のアラルキルスルホニル基」における「炭素数7~20のアラルキルスルホニル基」としては、例えば、ベンジルスルホニル基等が挙げられる。「置換されていてもよい炭素数6~12のアリールスルホニル基」、「置換されていてもよい炭素数1~10のアルキルスルホニル基」及び「置換されていてもよい炭素数7~20のアラルキルスルホニル基」における置換基としては、ハロゲン原子(例、塩素原子、臭素原子)、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐のアルキル基(例、メチル、エチル)、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐のアルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ)、ニトロ基等が挙げられる。R3の好適な具体例としては、例えば、ベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、1-ナフタレンスルホニル基、2-ナフタレンスルホニル基、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、プロパンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、及びベンジルスルホニル基等が挙げられる。R3は、好ましくはメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、及びp-トルエンスルホニル基であり、特に好ましくはp-トルエンスルホニル基である。
ここで、式(3)の原料化合物である式(III)で表される化合物は、公知の方法、例えばFrederic Dolle他、Bioorg. Med. Chem. 2006, 14, 1115-1125 等に記載された方法に準じて製造することができる。また、以下の式(4)の反応により製造することができる。
Figure 0007458680000006
すなわち、1,4-ブテンジオール(VI)をR3X(Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を示す)と反応させて、得られた式(V)の化合物を晶析することにより、あるいは、市販されている原料化合物(VII)を酸又は塩基で加水分解して1,4-ブテンジオールを得、さらにR3Xと反応させて、得られた式(V)の化合物を晶析することにより製造することができる。
式(4)中、X1は水素原子又はR1を示し、X2は水素原子又はR2を示し、R1及びR2はそれぞれ独立して、炭素数2~11のアルキルカルボニル基、炭素数8~21のアラルキルカルボニル基、又は炭素数7~13のアリールカルボニル基を示す。但し、X1及びX2が同時に水素原子となる場合を除く。好ましくは、X1がR1で、かつX2がR2であり、市販品として入手可能である点から、より好ましくはR1及びR2が共にアセチル基、エチルカルボニル基、tert-ブチルカルボニル基、又はベンゾイル基であり、さらに好ましくは共にアセチル基である。
本発明で得られた式(II')で表されるカルボン酸モノエステルを用いることにより、C型肝炎治療薬として開発中の各種HCV NS3プロテアーゼ阻害剤等の製造に有用な中間体である(1R,2S)-1-アミノ-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパン(VIII)及びその塩を製造することができる。さらに、このようにして得られた式(II')で表されるカルボン酸モノエステルを用いて製造することにより、高効率、低コストで、光学純度の高い(1R,2S)-1-アミノ-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンも製造することができる。
Figure 0007458680000007
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1:加水分解酵素遺伝子のクローニング
土壌サンプルから加水分解活性を指標に探索することによって、ロドコッカス・スピーシーズ(Rhodococcus sp.)D32株を得た。本微生物が産生する加水分解酵素の解析と遺伝子情報の解析から、新しい加水分解酵素RsD32Est(配列番号2)を得た。本アミノ酸配列情報を元にRsD32Estをコードする大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列(配列番号1)をDNA2.0社にて人工合成し、pJ411RsD32Estを得た。
シュードノカルディア・ジオキサニボランスCB1190株(Pseudonocardia dioxanivorans CB1190株)、ミクロバクテリウム ココラタム(Microbacterium chocolatum)由来の推定上の加水分解酵素PdEst(GenBank Accession No.WP_01367363、配列番号4)、McEst(GenBank Accession No.WP_053548180、配列番号6)及び加水分解酵素AFX20780(GenBank Accession No. AFX20780、配列番号8)をコードする大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列(pedst_Ecodon、配列番号3、mcest_Ecodon、配列番号5及びafx20780_Ecodon)をDNA2.0社にて人工合成し、pJExpress411(DNA2.0社製)に挿入されたプラスミド(それぞれpJ411PdEst、pJ411McEst及びpJ411AFX20780)を作製した。それぞれの遺伝子配列がコードするアミノ酸配列を、それぞれRsD32Est、PdEst、McEst、AFX20780と命名した。各アミノ酸配列は、それぞれ、配列番号2(RsD32Est)、配列番号4(PdEst)、配列番号6(McEst)、配列番号8(AFX20780)で表されるとおりである。
得られた各プラスミドを用いて、大腸菌(Eschelichia coli)BL21(DE3)(インビトロジェン社製)を定法に従い形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pJ411RsD32Est、BL21(DE3)/pJ411PdEst、BL21(DE3)/pJ411McEst及びBL21(DE3)/pJ411AFX20780を得た。導入した遺伝子を発現する菌体を得るために、各組換え大腸菌についてカナマイシン、及びlacプロモーター誘導物質を含む液体LB培地を用いて30℃で培養し、培養後約20時間で集菌した。
後述の参考例1により作成した大腸菌クローンNo.26についても、カナマイシン及びlacプロモーター誘導物質を含む液体LB培地を用いて30℃で培養し、培養後約20時間で集菌した。
実施例2
実施例1で得られた各菌体を用いて、30 g/Lのラセミ体のジエチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸(以下、VCPDEという)、及び5%のジメチルスルホキシドを含む、100 mmol/Lリン酸カリウム緩衝液中で、30℃、pH 7の条件で21時間反応させた。各菌体としては、実施例1で作成した培養液0.4 mLから遠心分離によって得られた菌体を用いた。なお、VCPDEは、日本国特許第5657560号の合成例に記載の方法に準じて合成したものである。
20時間反応後の反応液をアセトニトリルで適切な濃度に希釈後、下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。分析条件(1)は、光学純度を評価する分析条件である。分析条件(2)は、生成した1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2S)体を主成分とするAnti体の定量及びAnti体に対するSyn体の生成比率を評価するための分析条件である。
分析条件(1)
カラム:CHIRALPAK AD-3(4.6×250 mm、ダイセル化学社製)
溶離液:ヘキサン:エタノール:トリフルオロ酢酸=95:5:0.1
流速:0.8 ml/min
温度:30℃
検出:UV 210 nm
分析条件(2)
カラム:COSMOSIL 5C18-MS-II(4.6×250 mm、ナカライテスク社製)
溶離液A:0.1%トリフルオロアセトフェノン含有水溶液
溶離液B:0.1%トリフルオロアセトフェノン含有アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
温度:40℃
検出:UV 210 nm
Figure 0007458680000008
表1に、各菌体を用いた場合に生成した1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のAnti体の量、Anti体に対するSyn体の生成比率及び光学純度を示す。
Figure 0007458680000009
表2から明らかなように、配列番号2(RsD32Est)、配列番号4(PdEst)及び配列番号6(McEst)のアミノ酸配列を有する本発明の加水分解酵素は、配列番号8(AFX20780)や配列番号24(PnbA3027-m26)のアミノ酸配列を有する従来の加水分解酵素よりも、生成する1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のAnti体の量が多く、Anti体に対するSyn体の生成比率が低い。
特に、配列番号2(RsD32Est)を有する本発明の加水分解酵素は、生成する1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のAnti体の量が極めて多く、Syn体が生成せず、光学純度も極めて高い。
また、図1はアミノ酸配列RsD32Estを有する菌体を用いて得られた反応生成物のHPLC分析結果、図2はアミノ酸配列PnbA3027-m26を有する菌体を用いて得られた反応生成物のHPLC分析結果である。図1から明らかなように、アミノ酸配列RsD32Estを有する本発明の加水分解酵素は、1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2R)体、(1R,2S)体及び(1R,2R)体を殆ど生成せず、(1S,2S)体を高い選択性で生成することができる。図2から明らかなように、アミノ酸配列PnbA3027-m26を有する従来の加水分解酵素は、1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2R)体の生成量が多く、本発明の加水分解酵素と比べて選択性が低い。
実施例3:(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造
5 Lジャーファーメンターに、1 mol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)160 mL、脱塩水1332 mL、ジエチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸84.2 g及び実施例1で得られた大腸菌クローンBL21(DE3)/pJ411RsD32Estの湿菌体24 gを混合し、反応温度30℃、反応時のpH 7.0として、十分な撹拌速度の下、24時間反応させた。反応終点での(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の濃度は22.3 g/Lであった。
反応終了後の液1100 mL((1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の純分は22.2 g)から、菌体及び菌体残渣を取り除いた後、トルエンを500 mL添加し、室温で20分間攪拌した後、トルエン層を分離して残存するジエチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を取り除いた。得られた水層に対して、6 N(=3 mol/L)の硫酸を添加しpHを2.0に調整した。その後、トルエンを250 mL添加し、室温で20分間攪拌した後、(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を含むトルエン層を取得した。得られた水層に対し再度トルエンを250 mL添加し、室温で20分間攪拌した後、(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を含むトルエン層を取得した。得られたトルエン層のHPLC分析による純度分析及び光学純度分析の結果、(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の純分は19.3 gであり、光学純度は99.7%e.e.であった。
参考例1:パラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子(pnbA3027;配列番号9)のクローニング
遺伝子のクローニング
バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3027を菌株保存機関が指定する液体培地でそれぞれ一晩培養して得られた菌体より、DNeasy Blood & Tissue Kit (キアゲン社製)を用いて、染色体DNAをそれぞれ調製した。
ゲノム配列公知株バシラス・サチリス(Bacillus subtilis) ATCC23857由来パラニトロベンジルエステラーゼ(PNBE23857、GenBank Accession No. AQR87688、配列番号12)をコードする遺伝子配列(pnbA23857、配列番号11)を元に、パラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーを設計、合成した。それぞれの塩基配列を、配列表の配列番号13(pnbA F)及び14(pnbA R)に示す。
調製した染色体DNAを鋳型とし、pnbA F、pnbA Rをプライマーとして、PCRにより約1.5 kbpのDNA断片を増幅した。
発現ベクターの調製
特開2005-34025号公報記載の方法に準じて調整したプラスミドpKV32をテンプレートとし、配列番号15に示すプライマー(pKVXmaIFW)と配列番号16に示すプライマー(pKVXmaIRV)を用いて、PCRにより約4 kbpの断片を増幅した。増幅された断片をXmaIにより消化し、Ligation-Convenience Kit(ニッポンジーン社製)により自己閉環させ、得られたプラスミドをpKW32と命名した。
発現用プラスミドの調製
前記遺伝子のクローニングで得られたDNA断片を、常法に従って、上述の「発現ベクターの調製」で調製したクローニングベクターpKW32に導入した。以下、得られたプラスミドをppnbA3027とする。
プラスミドに挿入されたDNA配列の解析を行い、1467 bpのORFからなる遺伝子を含むことを確認した。得られた遺伝子はpnbA3027と命名し、配列は配列番号9で示される通りであった。本DNA配列がコードするアミノ酸配列はPNBE3027と命名し、そのアミノ酸配列は配列番号10で示される通りであった。PNBE3027のアミノ酸配列は既知のPNBE23857の配列に対して90%の配列同一性を示した。
参考例2:変異導入によるパラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子の改変
参考例1で得たプラスミドppnbA3027を鋳型として、配列表の配列番号17に示すプライマー(L70FW)と配列番号18に示すプライマー(L70RV)を用いて、QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)によりアミノ酸番号70番のロイシンをコードする塩基にランダムな変異を導入した。同様に配列表の配列番号19に示すプライマー(L313FW)と配列番号20に示すプライマー(L313RV)を用いて、アミノ酸番号313番のロイシン残基をコードする塩基に対して、また、配列表の配列番号21に示すプライマー(L270L273FW)と配列番号22に示すプライマー(L270L273RV)を用いて、アミノ酸番号270と273番のロイシン残基をコードする塩基に対してランダムな変異を導入し、得られた変異導入プラスミドを用いて大腸菌(Escherichia coli) JM109(タカラバイオ株式会社製)を常法に従って形質転換した。
得られた組換え大腸菌よりクローンNo.26を単離し、本クローンが有するプラスミドに挿入されたDNA配列の解析を行ったところ、その配列(pnbA3027-26と命名)は配列番号23で示される通りであった。本DNA配列がコードするアミノ酸配列をPNBE3027-m26と命名し、そのアミノ酸配列は配列番号24で示される通りであった。
本発明の加水分解酵素等を用いることにより、光学純度の高い(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を、高効率、かつ低コストで工業的に製造することができる。
本発明は、日本で出願された特願2018-070188を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。

Claims (2)

  1. 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む加水分解酵素、前記酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、前記微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は前記微生物若しくは細胞を培養して得られた前記酵素を含む培養液を、式(I)で表されるジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に接触させて、式(II)で表される(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造する方法であって、
    前記酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸で形質転換された微生物又は細胞であり、

    (1)中、Rは、炭素数1~6のアルキル基を示、かつ
    式(II)で表される1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のAnti体よりも、1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のSyn体の生成比率が低いことを特徴とする、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造方法。
  2. 式(II)で表される1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のAnti体に対する、1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のSyn体の生成比率が0.2%以下である、請求項1に記載の製造方法。
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