先ず始めに、空気調和機の気流を制御する気流制御方法および空気調和システムの各種態様について説明する。
本開示に係る第1の態様の空気調和システムは、空調制御の対象とする制御空間に存在するユーザに対して、気流を吹き出す空気調和機と、前記気流の制御パラメータを決定する気流制御装置を含む。当該気流制御装置は、前記ユーザの産熱量を取得し、取得した前記産熱量に基づいて、前記ユーザが放熱するように、前記気流の前記制御パラメータを決定する。前記制御パラメータは、吹出風速および吹出温度の少なくとも1つを含む。前記気流制御装置は、取得した前記産熱量に基づいて、取得した前記産熱量が増加すると前記ユーザの放熱量が増加するように、かつ、取得した前記産熱量が減少すると前記ユーザの放熱量が減少するように、前記気流の前記制御パラメータを決定する。
本開示に係る第2の態様の空気調和システムは、第1の態様において、前記気流制御装置は、前記産熱量に基づいて、前記吹出風速および吹出温度の少なくとも1つにゆらぎを発生させるように、前記気流の前記制御パラメータを決定してもよい。
本開示に係る第3の態様の空気調和システムは、第2の態様において、前記気流制御装置は、前記吹出風速および吹出温度の一方を一定に維持しつつ、他方を変化させるように、前記制御パラメータを決定してもよい。
本開示に係る第4の態様の空気調和システムは、第2の態様において、前記気流制御装置は、前記吹出風速と前記吹出温度の両方が増加するまたは両方が減少するように前記制御パラメータを決定していてもよい。
本開示に係る第5の態様の空気調和システムは、第1の態様~第4の態様のいずれか1つにおいて、前記気流制御装置は、前記ユーザの活動量、体動、心拍変動、および体温の少なくとも1つを含む生体データを取得し、前記生体データに基づいて、前記産熱量を推定していてもよい。
本開示に係る第6の態様の空気調和システムは、第5の態様において、前記気流制御装置は、前記生体データに基づいて前記ユーザの代謝量を推定し、または、前記ユーザの着衣量を取得してもよい。前記気流制御装置は、前記代謝量または前記着衣量に基づいて、前記産熱量を推定してもよい。
本開示に係る第7の態様の空気調和システムは、第1の態様~第4の態様のいずれか1つにおいて、前記気流制御装置は、前記ユーザの性別、年齢、体重、および身長の少なくとも1つのユーザ特徴パラメータと予め求められた前記ユーザ特徴パラメータと前記産熱量との関係を示す産熱量テーブルに基づいて、前記産熱量を取得してもよい。
本開示に係る第8の態様の空気調和システムは、第1の態様~第7の態様のいずれか1つにおいて、前記気流制御装置は、前記産熱量に基づいて、前記ユーザに放熱させる目標放熱量を決定し、前記目標放熱量に基づいて、決定した前記目標放熱量が増加すると前記ユーザの放熱量が増加するように、かつ、決定した前記目標放熱量が減少すると前記ユーザの放熱量が減少するように、前記制御パラメータを決定してもよい。前記産熱量と目標放熱量との差である人体熱収支がゼロを含む所定の範囲内になるように、前記制御パラメータが決定されてもよい。
本開示に係る第9の態様の空気調和システムは、第8の態様において、前記人体熱収支がゼロであってもよい。
本開示に係る第10の態様の空気調和システムは、第8の態様において、前記気流制御装置は、前記目標放熱量と、予め求められた前記目標放熱量と前記制御パラメータとの関係を示す制御パラメータテーブルとに基づいて、前記制御パラメータを決定してもよい。
本開示に係る第11の態様の空気調和システムは、第10の態様において、前記制御空間が複数の制御領域に区分され、前記制御パラメータテーブルが、前記複数の制御領域それぞれに対応する複数の制御パラメータテーブルを含んでもよい。前記気流制御装置は、前記ユーザの位置として、前記ユーザが存在する前記制御領域を特定し、前記目標放熱量と、前記ユーザが存在する前記制御領域に対応する前記制御パラメータテーブルとに基づいて、前記制御パラメータを決定してもよい。
本開示に係る第12の態様の空気調和システムは、第10の態様において、前記気流制御装置は、前記ユーザの位置を特定し、特定したユーザの位置に基づいて、前記目標放熱量と前記制御パラメータテーブルとに基づいて決定した制御パラメータを補正してもよい。
本開示に係る第13の態様の空気調和システムは、第1の態様~第12の態様のいずれか1つにおいて、前記気流制御装置は、前記空気調和機に組み込まれていてもよい。
本開示に係る第14の態様の空気調和機の気流を制御する気流制御方法は、前記空気調和機の空調制御の対象とする制御空間に存在するユーザの産熱量を取得するステップと、取得した前記産熱量に基づいて、前記ユーザが放熱するように、前記ユーザに対する前記気流の前記制御パラメータを決定するステップであって、前記制御パラメータは、吹出風速および吹出温度の少なくとも1つを含む、前記制御パラメータを決定するステップと、を含む。前記制御パラメータを決定するステップにおいては、取得した前記産熱量に基づいて、取得した前記産熱量が増加すると前記ユーザの放熱量が増加するように、かつ、取得した前記産熱量が減少すると前記ユーザの放熱量が減少するように、前記気流の前記制御パラメータを決定する。
以下、本開示に係る空気調和機の気流を制御する気流制御方法および空気調和システムのいくつかの実施の形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
以下で説明する実施の形態のそれぞれは、本開示の一例を示すものである。以下の実施の形態のそれぞれにおいて示される数値、形状、構成、ステップ、およびステップの順序などは、一例を示すものであり、本開示を限定するものではない。
以下に述べる実施の形態のそれぞれにおいて、特定の要素に関しては変形例を示す場合があり、その他の要素に関しては任意の構成を適宜組み合わせることを含むものであり、組み合わされた構成においてはそれぞれの効果を奏するものである。実施の形態1のそれぞれおいて、それぞれの変形例の構成をそれぞれ組み合わせることにより、それぞれの変形例における効果を奏するものとなる。
本開示において、「第1」、「第2」などの用語は、説明のためだけに用いられるものであり、相対的な重要性または技術的特徴の順位を明示または暗示するものとして理解されるべきではない。「第1」と「第2」と限定されている特徴は、1つまたはさらに多くの当該特徴を含むことを明示または暗示するものである。
《実施の形態1》
以下の実施の形態1における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
図1Aは、本開示の1つの実施例に係る空気調和システムの概略構成を示すブロック図である。以下、図1Aに示す空気調和システムおよび空気調和システムの概要について説明する。空気調和システム10は、少なくとも1つの空気調和機20と、気流制御装置30と、を含む。気流制御装置30は、空気調和機20に対する制御パラメータを決定し、決定した制御パラメータに従うように空気調和機20に運転させる。気流制御装置30は、空気調和機20のユーザに対して、快適性の向上できる気流を空気調和機20に吹き出させるように、空気調和機20が吹き出す気流の制御パラメータを決定することができる。「制御パラメータを決定する」とは、特定の制御パラメータ(例えば、吹出風速または吹出温度)に対して、そのパラメータの値を決定することを指す。図1Aの実施例において、気流制御装置30は空気調和機20を管理可能なサーバである。
<空気調和機20>
気流制御装置30が制御し得る空気調和機20は、例えば、家庭やオフィスにおける部屋の内部空間を空調制御の対象とする制御空間とし、当該制御空間の壁面または天井に設けられた室内機と、屋外、制御空間以外の中央空調室等に設けられた室外機とを有する。以下の実施の形態1の空気調和機20においては、冷房および暖房の機能を有する空気調和機について説明するが、この構成は例示である。本開示は、以下の実施の形態において説明する構成に限定されるものではなく、例えば、冷房および暖房の機能に加え、除湿機能、空気洗浄機能などの他の機能も有し、または、冷房モード・暖房モードと他の機能との組み合わせ(例えば、冷房除湿機能)を有する空気調和機を含むものである。空気調和機20は、空調記憶部21と、空調制御部22と、空調通信部23と、生体温度センサ24などの内蔵のセンサと、撮影装置25と、圧縮機26と、ファン27とを有する。
空調記憶部21は種々の情報や制御プログラムを記録する記録媒体であり、空調制御部22の作業領域として機能するメモリであってもよい。空調記憶部21は、例えば、フラッシュメモリ、RAM、その他の記憶デバイス又はそれらを適宜組み合わせて実現される。
空調制御部22は、空気調和機20全体の制御を司るコントローラである。空調制御部22は、プログラムを実行することにより所定の機能を実現するCPU、MPU、FPGA、DSP、ASICのような汎用プロセッサを含む。空調制御部22は、空調記憶部21に格納された制御プログラムを呼び出して実行することにより、空気調和機20における各種の制御を実現することができる。また、空調制御部22は空調記憶部21と協働して空調記憶部21に記憶されたデータを読み取り/書き込みを行うことができる。空調制御部22は、ハードウェアとソフトウェアの協働により所定の機能を実現するものに限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。
空調制御部22は、設定温度、運転モードなどの制御パラメータ、および、様々なセンサから受信した検出値などに基づいて、制御空間の温度、および、空気調和機20から噴出される気流の風速や風向を制御する。空調制御部22は制御空間の湿度を制御してもよい。
空調通信部23は、気流制御装置30やユーザの端末装置50等と通信することもでき、例えば、インターネットパケットを送受信することができる。空調制御部22は、空調通信部23を介して気流制御装置30と協働するとき、インターネットを介して気流制御装置30から制御に関する、例えば、圧縮機26およびファン27の回転数や、ファン27の吹出方向に関する制御パラメータおよびそのパラメータ値または指令を受信することできる。
1つの実施例においては、気流制御装置30はインターネットを経由して複数の空気調和機20に接続して、これらの空気調和機20の制御パラメータを決定することによって空気調和機20を制御することができる。ここで言う複数の空気調和機20としては、日本全国または世界の各地域に設けられている構成が想定される。それぞれの空気調和機20は、それぞれの制御空間に設けられている。
空気調和機20の圧縮機26は、圧縮機26は、空調制御部22から回転数に関する制御パラメータを受信し、当該回転数に従って運転する。これによって、圧縮機26は、空気調和機20が吹き出す気流の吹出温度を調節するまたは維持するように運転することができる。
空気調和機20のファン27は、室内送風ファンであってもよい。ファン27は、空気調和機20の吹出口から制御空間に向けて、特には制御空間に存在するユーザに向けて、気流を吹き出すことができる。さらに具体的にいうと、ファン27は、空気調和機20の内部で熱交換器(図示せず)と熱交換した空気を前述した気流として吹き出すことができ、よって、制御空間内の室内温度を制御することができる。また、空気調和機20は、吹出口を開閉するとともに、気流の吹出方向を上下左右の少なくとも1つの方向に調整することができる、羽根などの風向変更手段を有してもよい。
<気流制御装置30>
図1Aの気流制御装置30としては、例えば、少なくとも1つの空気調和機20を管理するため、またはデータを収集するための空気調和機20の製造会社の管理サーバであってもよい。または、気流制御装置30は、アプリケーションサーバであってもよい。気流制御装置30は、特定の空気調和機20を管理するとき、空気調和機20が吹き出す気流の吹出風速および吹出温度を決定し、決定した吹出風速および吹出温度に基づいて圧縮機26およびファン27に対して回転数を制御することによって、空気調和機20に当該吹出風速および吹出温度を有する気流を吹き出させることができる。
図1Aの実施例における気流制御装置30はサーバであり、サーバ記憶部31と、サーバ制御部32と、サーバ通信部33とを有してもよい。気流制御装置30は、サーバ通信部33を介して空気調和機20、端末装置50、または他の外部装置と通信することができる。
サーバ記憶部31は種々の情報や制御プログラムを記録する記録媒体であり、サーバ制御部32の作業領域として機能するメモリであってもよい。サーバ記憶部31は、例えば、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Disk)、ハードディスク、RAM、その他の記憶デバイス又はそれらを適宜組み合わせて実現される。サーバ記憶部31は、気流制御装置30内部のメモリであってもよく、気流制御装置30と無線通信または有線通信にて接続されているストレージ装置であってもよい。
サーバ記憶部31は、空気調和機20から受信した室内温度などの検出値、運転記録または制御履歴、外部情報源から受信した天気情報などを記憶してもよい。また、サーバ記憶部31は受信した検出値、運転記録、制御履歴をデータベースの一部としてまたは個別の電子ファイルとして記憶してもよい。
気流制御装置30のサーバ制御部32は、気流制御装置30全体の制御を司るコントローラである。サーバ制御部32は、プログラムを実行することにより所定の機能を実現するCPU、MPU、GPU、FPGA、DSP、ASICのような汎用プロセッサを含む。サーバ制御部32は、サーバ記憶部31に格納された制御プログラムを呼び出して実行することにより、気流制御装置30における各種の制御を実現することができる。また、サーバ制御部32はサーバ記憶部31と協働してサーバ記憶部31に記憶されたデータを読み取り/書き込みを行うことができる。サーバ制御部32は、ハードウェアとソフトウェアの協働により所定の機能を実現するものに限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。
サーバ通信部33は、サーバ制御部32と協働して、空気調和機20やユーザの端末装置50等とインターネットパケットを送受信する、すなわち、通信することもできる。気流制御装置30はサーバ通信部33を介して、空気調和機20の制御に関する、例えば、圧縮機26およびファン27の回転数や、ファン27の吹出方向に関する制御パラメータおよびそのパラメータ値または指令を送信することできる。また、気流制御装置30はサーバ通信部33を介して、空気調和機20から空気調和機20の運転記録や制御履歴を受信してもよく、外部情報源から過去、現在または未来の天気情報を受信してもよい。サーバ通信部33または空調通信部23は、気流制御装置30と、空気調和機20と、端末装置50と、外部情報源との間において、データの送受信を行うために用いられる通信手段としては、Wi-Fi(登録商標)、IEEE802.2、IEEE802.3、3G、LTE等の規格にしたがい通信を行ってもよく、インターネットの他、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等、赤外線、ブルートゥース(登録商標)と通信してもよい。
図1Aにおいて、サーバである気流制御装置30のサーバ制御部32が、吹出風速または吹出温度との制御パラメータを決定して空気調和機20の運転を制御することは、以下のように間接的な方式により行われる。サーバ制御部32は、制御パラメータを決定し、サーバ通信部33を介して、決定した制御パラメータを空気調和機20に送信する。空調制御部22は、空調通信部23を介して気流制御装置30から当該制御パラメータを受信したとき、受信した制御パラメータに従って圧縮機26やファン27の運転を制御する。このようにして、サーバ制御部32は、間接的な方式により空気調和機20の運転制御を行う。
図1Bは、本開示の他の実施例に係る空気調和システムの概略構成を示すブロック図である。図1Bの実施例において、気流制御装置30は空気調和機20内に設けられている。例えば、気流制御装置30は空調制御部22であってもよい。また、空調記憶部21は本開示に係る空気調和システムおよび気流制御方法に関する、サーバ記憶部31の必要な機能を兼ねてもよい。空調制御部22は本開示に係る空気調和システムおよび気流制御方法に関する、サーバ制御部32の必要な機能を兼ねてもよい。空調通信部23は本開示に係る空気調和システムおよび気流制御方法に関する、サーバ通信部33の必要な機能を兼ねてもよい。
図1Bの実施例において、空気調和機20内に設けられた気流制御装置30は空調制御部22を兼ねているため、サーバ制御部32が直接的な方式により圧縮機26の運転制御を行うことができる。すなわち、気流制御装置30は空調通信部23とサーバ通信部33とまたはインターネットを経由せずに、圧縮機26およびファン27に直接的に制御することができる。この場合において、空調制御部22は後述する気流制御方法によって吹出風速や吹出温度などの制御パラメータを決定して圧縮機26およびファン27の運転を制御することができる。
本開示における制御パラメータの制御対象となる気流は、ユーザに対して吹き出されるものである。すなわち、空気調和機20は気流を発生し、当該気流をユーザに当たるように、ユーザに向かって当該気流を吹き出す。なお、本開示による制御パラメータの決定は、空気調和機20の特定の運転モードの下に行われ得る。
本開示における吹出温度とは、空気調和機20から吹き出す気流が空気調和機20から離れるときの温度である。例えば、吹出温度は、気流が吹き出される空気調和機20の吹出口近傍の温度である。当該吹出温度は、ユーザが空気調和機20のコントローラや空気調和機20と関連付けられたスマートフォン等を介して入力したユーザ設定温度、空気調和機20が実際に運転する内部設定温度、または室内温度と異なってもよい。一般的には、運転モードが冷房である場合、吹出温度は設定温度や室内温度より低く、運転モードが暖房である場合、吹出温度は設定温度や室内温度より高い。
本開示における吹出風速とは、空気調和機20から吹き出す気流が空気調和機20から離れるときの風速である。例えば、吹出風速は、気流が吹き出される空気調和機20の吹出口を通過する気流の速度である。空気調和機20はファン27を制御することによって吹出風速を制御することができる。
なお、気流の吹出風速に基づいて、気流の風量が計算できる。例えば、気流を吹き出す吹出口から出る風量は、以下の式によって計算できる。そのため、気流の吹出風速を決定することによって、空気調和機20から出す風量を制御することができる。
(数1)
風量(立方メートル毎分)=60(秒)×吹出風速(メートル毎秒)×吹出口の開口面積(平方メートル)
図2Aは従来技術における気流制御を示す例図であり、図2Bは本開示における気流制御を示す例図である。図2Aに示されているように、従来の空気調和機は、制御空間60に存在するユーザに当てるか否かに関わらず、制御空間60全体にわたって室内温度を設定温度にするように気流を吹き出す。そのため、温度を制御すべき範囲が広く、その広い範囲の空気を冷却または加熱するために、消費電力が多い。例えば、制御空間60全体の室内温度(室温)を25.5℃に維持するために、吹出温度が17℃であって吹出風速が1m/sである気流を吹き出して制御空間60において循環させる必要がある。
一方、図2Bに示されているように、本開示における空気調和機20はユーザに対して気流を吹き出す。そのため、制御空間60全体の温度を制御する必要がなく、ユーザの周りの空気の温度(雰囲気温度とも呼ばれる)のみを設定温度に達成させるように制御すれば、十分にユーザに快適に感じさせられる。空気調和機20気流制御装置は、従来技術に比べて小さい消費電力(低い圧縮機の出力)によって発生させた気流、例えば、吹出温度が20℃であって吹出風速が0.3m/sである気流により、ユーザの周りの空気を十分に冷却または加熱することができる。よって、従来技術と比較すると、このような空気調和機20によれば、ユーザに快適性を提供しつつ消費電力を抑えることができ、また省エネルギの効果を得ることができる。
<ユーザの産熱量による制御パラメータの決定>
ユーザに対して快適な気流を発生させるために、気流制御装置30は、ユーザが人体熱収支のバランスを取れるように、ユーザの産熱量を考慮して気流の制御パラメータを決定する。人体熱収支とは、人体の産熱(量)と放熱(量)との関係を指す。図3は、ユーザの産熱および放熱を示す図である。産熱量とは、代謝や筋肉の運動によって人体中に産生される熱の量を指し、人の活動状態によって異なる。例えば、運動中の人の産熱量は比較的高く、静かに読書している人の産熱量は比較的低い。放熱量は、人体から外部へ放出される熱の量を指す。人体熱収支において、産熱量が放熱量より高い場合、体温が上がり、人は暑く感じる。一方、放熱量が産熱量より高い場合、体温が下がり、人は寒く感じる。人体熱収支のバランスが取れている状態においては、人は暑くもなく寒くもなく快適と感じる。気流制御装置30はこのような人体熱収支の観点から、ユーザに対する気流の制御パラメータを決定する。なお、人体熱収支のバランスが取れていることとは、原則的には人体熱収支が実質的にゼロであることを指す。
具体的に言えば、気流制御装置30は、まず、ユーザの産熱量を取得する(取得方法は後述する)。そして、取得した産熱量に基づいて、ユーザが放熱するように、気流制御装置30は気流の制御パラメータを決定する。ここで、制御パラメータは、吹出風速および吹出温度の少なくとも1つを含む。さらに具体的に言えば、気流制御装置30は、取得した産熱量に基づいて、取得した産熱量が増加するとユーザの放熱量が増加するように、かつ、取得した産熱量が減少するとユーザの放熱量が減少する減少するように、気流の制御パラメータを決定する。
取得した産熱量が増加する場合、すなわち、ユーザの産熱量が高くて暑く感じる場合、気流制御装置30は、ユーザの放熱を促してユーザの放熱量が増加するように制御パラメータを決定する。例えば、吹出温度および/または吹出風速を下げ、吹き出す気流が比較的に冷たいおよび/または強い風となるように制御パラメータを決定してもよい。
取得したユーザの産熱量が減少する場合、過度に放熱を促すとユーザが寒く感じてしまうので、気流制御装置30はユーザの放熱量が減少するように制御パラメータを決定する。例えば、吹出温度および/または吹出風速を上げ、比較的に暖かいおよび/または弱い風となるように気流の制御パラメータを決定してもよい。
1つの実施例において、気流制御装置30は、互いに対応するように吹出温度および吹出風速を決定してもよい。図4は、吹出温度と吹出風速との対応関係の一例を示す図である。この例示において、吹出温度と吹出風速とは、実質的に一次関数的な対応関係にある。この対応関係に基づいて、吹出温度が高く設定されるほど、吹出風速も高く設定される。この対応関係(関係式)については、理論的にまたは実験によって決定されてもよい。もう1つの実施例において、吹出温度と吹出風速は、一次関数的な対応関係とは異なる対応関係、例えばステップ関数的な対応関係であってもよい。
さらに、気流制御装置30は吹出温度および吹出風速に対して上限値および下限値を設定してもよい。一般的には、人間は体感温度が25℃前後の一定範囲にある場合に快適と感じる。例えば、予測温冷感申告(PMV(Predicted Mean Vote))指数を快適指標とする場合、PMV指数が±0.5以内である範囲内は快適範囲となる。気流制御装置30は、ユーザに快適と感じさせる風(気流)を吹き出すことを制御目的とするため、快適範囲に入るように吹出温度を制御し、吹出温度に合わせて吹出風速を制御することができる。例えば、図4において、破線の四角形内の温度範囲、すなわち23.5℃~26℃が吹出温度の快適範囲と設定され、すなわち、吹出温度は上限値が26℃で下限値が23.5℃であるように設定されている。なお、PMV指数の他、予測不快者率(Predicted Percentage of Dissatisfied、PPD)または標準有指数効温度(standard new effective temperature、SET*)などの指標に基づいて、制御パラメータの値の上下限値を決定してもよい。なお、これらの指標に、制御パラメータ以外のパラメータ、例えば着衣量、代謝量、平均放射温度などのパラメータが含まれている場合がある。その場合、指標を、制御パラメータ以外のパラメータを一定値として算出してもよい。
1つの実施例において、気流制御装置30は、定期的にまたは動的に産熱量を取得し、取得した産熱量に基づいて制御パラメータを決定する。産熱量はユーザの活動状態、着衣の増減、飲食状態などによって変動し得る。快適な気流を維持するために、気流制御装置30は、例えば、5分間ごと、10分間ごと、1時間ごと、定期的にユーザの産熱量を取得し、制御パラメータを調整してもよい。また、気流制御装置30は、活動量計、カメラ、赤外線サーモグラフィカメラなどを介してユーザの活動または体温を検出して、その活動または体温に一定程度以上の変化があるときに、ユーザの産熱量を取得し、制御パラメータを調整してもよい。
以上のように、気流制御装置30は、ユーザの産熱量を考慮し、ユーザに対する気流の制御パラメータを決定する。これにより、吹き出す気流を介してユーザに人体熱収支のバランスを取らせ、快適と感じさせることができる。また、ユーザの活動状態に関わらず、現在の産熱量に基づいて気流の制御パラメータを決定するため、快適性が確保される。
<産熱量の取得方法>
産熱量の取得について、様々な計算方法や取得手段がある。以下の通りに複数の取得・計算方法を開示するが、気流制御装置30が実際に採用する産熱量の取得・計算方法はこれらに限らない。
1つの実施例において、気流制御装置30は、ユーザの活動量、体動、心拍変動、体温の少なくとも1つを含む生体データを取得し、その取得した生体データに基づいて、産熱量を推定してもよい。体動とはユーザの身体の動きを指す。上述したように、産熱量はユーザの活動状態によって異なる。一般的には、運動中に、ユーザの活動量、体動、心拍変動または体温が比較的に高く、静かにしているときに、これらの生体データが比較的に低い。よって、生体データに基づいて産熱量を推定できると考えられる。なお、心拍数、体温の上昇率などの他の生体データも産熱量の推定に利用され得る。
生体データは、空気調和機20の生体センサ24を介して取得可能である。生体センサ24としての例は、カメラ、焦電センサ、マイクロ波センサ、加速度センサ、心拍センサ、活動量計、赤外線サーモグラフィカメラなどが挙げられる。例えば、生体センサ24がカメラである場合、カメラで撮った影像におけるユーザの位置変化や動作変化を分析することにより、活動量または体動を取得することができる。生体センサ24は空気調和機20以外の場所、例えば、端末装置50または制御空間60に設けられてもよく、ユーザの身に装着可能なウェアラブル端末やスマートウォッチに設けられてもよい。生体センサ24が検出した生のデータまたは生体データは、直接的に気流制御装置30に送信されてもよく、サーバ通信部33、空気調和機20、または端末装置50を介して間接的に気流制御装置30に送信されてもよい。また、気流制御装置30は取得した生体データを空調記憶部21またはサーバ記憶部31に記憶させてもよい。
1つの実施例において、気流制御装置30は、事前に決められた、少なくとも1つの生体データと、産熱量との関係を示すテーブル(照合表)を記憶してもよい。この場合において、制御パラメータを決定するとき、気流制御装置30は、当該テーブルを読み出し、取得した生体データに基づいてテーブルを照合して産熱量を取得し、取得した産熱量に基づいて制御パラメータを決定する。このテーブルの内容は事前に行われる実験によって取得し得る。
1つの実施例において、気流制御装置30は、生体データと制御パラメータとが直接的に対応するテーブルを記憶してもよい。当該テーブルは、事前に決められた、少なくとも1つの生体データと、少なくとも1つの制御パラメータとの対応関係を示す。すなわち、生体データと産熱量とのテーブル、および、産熱量と制御パラメータとのテーブルを1つのテーブルにまとめて記憶・照合してもよい。制御パラメータを決定するとき、気流制御装置30は当該まとめたテーブルを読み出し、取得した生体データに基づいて当該まとめたテーブルを照合することによって、直接的に制御パラメータを決定することができる。
1つの実施例において、気流制御装置30は、生体データに基づいてユーザの代謝量を推定する、または、ユーザの着衣量を取得する。そして、気流制御装置30は、代謝量または着衣量に基づいて、産熱量を推定してもよい。
代謝量について、気流制御装置30は、生体データに基づいてユーザの身体活動レベルや運動以外の身体活動量(nonexercise activity thermogenesis、NEAT)を取得し、身体活動レベルやNEATに基づいて産熱量を推定してもよい。例えば、気流制御装置30は、基礎代謝量(すなわち、1metに対応する数値)を「58」と設定し、基礎代謝量と異なる活動状態の代謝量(すなわち、metの係数)との掛け算の結果を産熱量と推定してもよい。一例として、ユーザが安静状態である場合の代謝量を0.9とし、通常状態である場合の代謝量を1.0とし、一定程度以下の運動状態である場合の代謝量を1.1とし、一定程度以上の運動状態である場合の代謝量を1.2としてもよい。この場合、例えば、ユーザが通常状態にあることを示す生体データを取得した場合、気流制御装置30は、58×1=58を産熱量として計算する。
1つの実施例において、気流制御装置30は、取得した着衣量と、および下記の式に基づいて産熱量を計算してもよい。
(数2)
S=M-W-(C+R)-E
ここで、Sは人体熱収支バランス(人体熱収支と略称されることがある)であり、単位はw/m2である。Mは産熱量であり、Wは機械的仕事量であり、Cは対流放熱量であり、Rは放射放熱量であり、Eは水分蒸発熱量である。
この式から分かるように、人体熱収支バランスがゼロであるとき、産熱量Mは、機械的仕事量W、対流放熱量C、放射放熱量Rおよび水分蒸発熱量Eの合計値と同値となる。
一般的には、機械的仕事量Wはゼロと設定してもよく、対流放熱量Cおよび放射放熱量Rはまとめて計算してもよい。また、機械的仕事量W、対流放熱量C、放射放熱量Rおよび水分蒸発熱量Eはまとめて、室内温度ta、着衣量clo、皮膚温tsに基づいて計算可能である。
着衣量cloについては、気流制御装置30は、端末装置50を介してユーザに入力させることによって取得してもよく、カメラで撮影したユーザの画像を分析することなどによって取得してもよい。また、着衣量について、ユーザの入力がないなどの場合において、所定のデフォルト値を利用してもよい。例えば、3月~5月または9月~11月の期間においてはデフォルト値を0.8cloとし、6月~8月の期間においてデフォルト値を0.5cloとし、12月~2月の期間においてデフォルト値を1cloとしてもよい。
皮膚温tsについては、生体センサ24によって取得してもよく、36℃などのデフォルト値を利用してもよい。
水分蒸発熱量Eは、ユーザの体重Wtおよび身長Htに基づいて以下の式で計算されてもよく、定数のデフォルト値を利用されてもよい。
(数3)
E=20×0.67/(Wt0.444×Ht0.663×0.008883)
以上のように、気流制御装置30は着衣量等に基づいて産熱量Mを計算することができる。ただし、他の計算式、パラメータ、デフォルト値などを用いて産熱量を計算してもよい。
1つの実施例において、気流制御装置30は、ユーザの性別、年齢、体重、および身長の少なくとも1つのユーザ特徴パラメータに基づいて、産熱量テーブルと照合することによって、前記産熱量を取得してもよい。気流制御装置30は、端末装置50を介してユーザに入力させることによって、ユーザの性別、年齢、体重、および身長を取得してもよい。そして、気流制御装置30は、事前に決められた、ユーザの性別、年齢、体重、および身長の少なくとも1つのユーザ特徴パラメータと産熱量と関係を示す産熱量テーブルを記憶してもよい。この場合において、制御パラメータを決定するとき、気流制御装置30は、当該産熱量テーブルを読み出し、取得したユーザの性別等に基づいて産熱量テーブルを照合して産熱量を取得し、取得した産熱量に基づいて制御パラメータを決定する。
制御パラメータを決定する前に、様々な検出値に基づいて産熱量を動的に計算すれば、精確な産熱量を取得することができる。一方、産熱量テーブルを記憶し照合することによって、産熱量について一部または全部の計算を代替すれば、迅速に産熱量を取得することができる。
《実施の形態2》
<気流がゆらぐ場合(風速ゆらぎ)>
人は、一定の風(気流)にずっと当たっていると、当該風に飽きを覚えて不快と感じることがある。本実施の形態2においては、この対処として、吹き出す気流がゆらぐように制御パラメータを決定する。特には、吹出風速にゆらぎが発生するように、制御パラメータが決定される。
本実施の形態2において、気流制御装置30は、この不快感を回避するために、吹き出す気流に変化(ゆらぎ)を発生させてもよい。気流制御装置30は、産熱量に基づいて、吹出風速および吹出温度の少なくとも1つにゆらぎを発生させるように、気流の制御パラメータを決定する。前述したように、室温や風を含めて周囲の環境が一定の範囲(快適)内さえであれば、ユーザは快適と感じられる。そのため、産熱量に基づいて、人体熱収支のバランスが取れる快適範囲内において吹き出す気流をゆらがせれば、常に快適で、かつ、飽きない気流(風)を発生させることができる。
ゆらぎとは、吹出温度や吹出風速などの制御パラメータが平均値を中心として変化・変動する現象を指す。好ましくは、一定範囲内における変化、および/または周期的な変化である。気流のゆらぎとは、気流の温度や風速などの属性値に発生するゆらぎの現象を指す。気流のゆらぎは、制御パラメータを決定するときに、ゆらぎ対象の制御パラメータのゆらぎ範囲の上下限値、またはゆらぎ平均値とその平均値を中心とするゆらぎ幅とを設定することによって達成できる。例えば、気流制御装置30は吹出風速のゆらぎ範囲を0.1m/s~1.0m/sに設定してもよい。また、気流制御装置30は吹出温度のゆらぎ範囲を22.5℃~28℃に設定してもよい。なお、吹出風速のゆらぎ範囲はファン27の回転数によって規定されてもよい。
気流制御装置30が周期的なゆらぎを発生させる場合、制御パラメータのゆらぎの周期は、例えば、3分、5分、10分、15分、30分、60分、90分、120分、150分、240分、または300分であってもよい。また、ゆらぎの周期は、気流制御装置30によって決定された所定値または変動値であってもよく、端末装置50等を介してユーザに指定される数値であってもよい。また、制御パラメータの周期波形は、周期が長い周期波形に、周期が短い複数の周期波形が重畳した波形であってもよい。空気調和機20が気流制御装置30からゆらぎのある制御パラメータを受信すると、当該制御パラメータに基づいて、圧縮機26および/またはファン27をその回転数が変化するように稼働させ、ゆらぎのある気流を吹き出す。
ゆらぎの態様の一例としては、1/fゆらぎが挙げられる。1/fゆらぎとは、スペクトル密度が周波数fに反比例するゆらぎを指す。生体は、五感を通して外部から1/fゆらぎを感知すると、自律神経が整えられ、精神が安定し、リラックスになると考えられている。そのため、制御パラメータに1/fゆらぎを発生させれば、ユーザを快適にする、且つリラックスさせる気流を吹き出すことができる。なお、1/fゆらぎ以外のゆらぎで気流の制御パラメータを変化させてもよい。また、後述するように、ゆらぎ対象の制御パラメータは1つでもよく、複数であってもよい。
1つの実施例において、気流制御装置30は、吹出温度を一定に維持しつつ、吹出風速を変化させるように、制御パラメータを決定する。このとき吹出風速に発生させるゆらぎは、以下、風速ゆらぎと略称することがある。図5は、実施の形態2における吹出温度の変化と吹出風速の変化(対応関係)を示す図である。図5の実施例において、気流制御装置30は吹出温度を一定値に決定する。当該一定値は、例えば、ユーザが端末装置50を介して入力したユーザ設定温度、空気調和機20が実際に運転する内部設定温度、またはこれらの設定温度より一定値で低いもしくは高い温度であってもよい。
そして、気流制御装置30は、吹出温度に基づいて、吹出風速を決定する。例えば、一定値である吹出温度に基づいて、PMV指数が快適範囲内(PMV指数=±0.5以内)の数値なるように吹出風速のゆらぎ範囲の上下限値を設定し、吹出風速がこの設定されたゆらぎ範囲においてゆらぐように、吹出風速が決定されてもよい。ここで、SET*等の指標による快適範囲に基づいて、吹出風速のゆらぎ範囲の上下限値が決定されてもよい。図5における破線の四角形に囲まれた範囲は、快適範囲を表している。風速ゆらぎの変化の中心とされる平均値は、所定値であってもよく、また、「強」、「中」、「弱」などの、端末装置50を介してユーザから受信する入力に基づく数値であってもよい。
空気調和機20は、気流制御装置30が決定した吹出風速に従って、ファン27の回転数を変化させることによって気流に風速ゆらぎを発生させる。圧縮機26より、ファン27の回転数の変化に対して風速が素早く変化するため、風速ゆらぎの周期は比較的に短く設定できる。例えば、吹出温度を一定に維持しつつ吹出風速を変化させる場合、風速ゆらぎの周期を3分、5分、10分、15分、または30分と設定してもよい。
吹出風速のゆらぎの波形は、正弦波、矩形波、三角波、または複合形状を有してもよい。また、当該波形は、図5に示されたような周期的な滑らかな波形状であってもよく、不規則な矩形状であってもよい。図6は、実施の形態2における吹出風速のゆらぎの一例を示す図であり、吹出風速はその対応するファン回転数によって表されている。図6の実施例において、ゆらぎの周期は300分であり、ゆらぎ範囲は500rpm~1100rpmであり、波形は不規則の矩形波とされている。吹出風速のゆらぎは特定の状況に応じて設定可能である。例えば、森林や、草原、高原における快い風を再現するようなゆらぎを気流に発生させてもよく、これにより、ユーザに更なる快適性を持たせることができる。
以上のように、気流制御装置30は、ユーザがその身体に当たる気流に飽きないように、吹き出す気流にゆらぎを発生させることができる。ユーザが気流に飽きた場合、ユーザが手動で温度や風速を変更することによって圧縮機26および/またはファン27の回転数が急激に変化し、その結果として消費電力が増加するとともに、ユーザの人体熱収支のバランスも崩れる可能性がある。しかしながら、気流制御装置30がユーザの飽きが生じないように気流の吹出風速および吹出温度の少なくとも1つにゆらぎを発生させることにより、圧縮機26および/またはファン27の回転数が急増するまたは急減することが抑制され、それにより人体熱収支のバランスも常に快適範囲内に保てられる。
さらに、気流制御装置30は、吹出温度を一定に維持しつつ、吹出風速を変化させることができる。一般的には、圧縮機26の消費電力がファン27の消費電力に比べて高いので、圧縮機26を定速運転させつつ、風速ゆらぎを発生させると、省エネルギの効果も生じる。また、ファンの回転数の変化に対して風速が素早く変化するため、風速ゆらぎの設定の自由度が高く、様々な周期を有するゆらぎを設定することができ、複雑なゆらぎパターンを設定することができる。
《実施の形態3》
<気流がゆらぐ場合(温度ゆらぎ)>
本実施の形態3においては、ユーザがその身体に当たる風に飽きないように、吹き出す気流がゆらぐように制御パラメータを決定する。特には、吹出温度にゆらぎが発生するように、制御パラメータが決定される。
本実施の形態3において、気流制御装置30は、吹出風速を一定に維持しつつ、吹出温度を変化させるように、制御パラメータを決定する。このように吹出温度に発生させるゆらぎは、以下、温度ゆらぎと略称することがある。図7は、実施の形態3における吹出温度の変化と吹出風速の変化を示す図である。図7の実施例において、気流制御装置30は吹出風速を一定値に決定する。当該一定値は、所定値であってもよく、また、「強」、「中」、「弱」などの、端末装置50を介してユーザから受信する入力に基づく数値であってもよい。
図7における破線の四角形に囲まれた範囲は、快適範囲を表している。実施の形態2と同様に、気流制御装置30は、産熱量に基づいて、人体熱収支のバランスが取れる快適範囲を決めることができる。そして、当該快適範囲内において気流の吹出温度をゆらがせる。温度ゆらぎの変化の中心とされる平均値は、ユーザが端末装置50を介して入力したユーザ設定温度、空気調和機20が実際に運転する内部設定温度、またはこれらの設定温度より一定値で低いもしくは高い温度であってもよい。
温度ゆらぎの周期については、気流制御装置30は自由に決定してもよい。設定温度の変更に対する圧縮機26の応答速度を考慮すると、また圧縮機26の回転数の変化が頻繁に生じると圧縮機26の故障が生じ得ることを考慮すると、温度ゆらぎの周期は、短すぎない周期が好ましい。例えば、温度ゆらぎの周期を10分間まだはその以上に設定することが好ましい。
気流制御装置30は、一定値である吹出温度に基づいて、産熱量およびPMV指数などによって規制された快適範囲内の数値になるように吹出温度のゆらぎ範囲の上下限値を設定し、吹出温度がこの設定されたゆらぎ範囲においてゆらぐように、吹出温度が決定されてもよい。ここで、SET*等の指標による快適範囲に基づいて、吹出温度のゆらぎ範囲の上下限値が決定されてもよい。空気調和機20は、気流制御装置30が決定した吹出温度に従って、圧縮機26の回転数を変化させることによって気流に温度ゆらぎを発生させる。
吹出温度のゆらぎの波形は、正弦波、矩形波、三角波、または複合形状を有してもよく、図7に示されたような周期的な滑らかな波形状であってもよく、不規則な矩形状であってもよい。また、気流制御装置30は吹出温度に1/fゆらぎを発生させるように吹出温度を決定してもよい。
気流制御装置30は特定の状況に応じて吹出温度のゆらぎを自由に設定可能である。例えば、読書中など、ユーザは身に当たる気流の風速・風量の変化に対して敏感である場合には、弱い風(すなわち、吹出風速が低い気流)を維持しつつ、温度ゆらぎを発生させることによって、快適性を向上させることができる。一方、運動中または調理中のユーザに対して、強い風(すなわち、吹出風速が高い気流)を維持しつつ、温度ゆらぎを発生させることによって、快適性を向上させることができる。
これにより、気流制御装置30は、ユーザに対して、快適かつ飽きさせない気流を吹き出すことができる。特には、吹出風速を一定に維持しつつ、吹出温度を変化させることができる。よって、ユーザはその身体に当たる気流の風速・風量の変化に対して敏感である場合にも気流をゆらがせることができ、快適な環境を作ることができる。
《実施の形態4》
<気流がゆらぐ場合(風速ゆらぎおよび温度ゆらぎ)>
本実施の形態4においては、ユーザがその身体に当たる風に飽きないように、吹き出す気流がゆらぐように制御パラメータを決定する。特には、吹出風速と吹出温度の両方にゆらぎが発生するように、制御パラメータが決定される。
実施の形態4において、気流制御装置30は吹出風速と吹出温度の両方にゆらぎを発生させる。図8は、実施の形態4における吹出温度の変化と吹出風速の変化(吹出温度と吹出風速との対応関係)を示す図である。具体的にいうと、気流制御装置30は、吹出風速と吹出温度の両方が増加するまたは両方が減少するように制御パラメータを決定する。すなわち、風速ゆらぎおよび温度ゆらぎにおいて、制御パラメータの数値の増減の方向が同様である。吹出温度が上がればユーザの産熱量も増加する方向に変化するが、吹出風速も相応に上げてユーザの放熱を促すれれば、人体熱収支のバランスが保てる。そのため、気流制御装置30は、吹出風速を上げるとともに吹出温度も上げ、または、吹出風速を下げるとともに吹出温度も下げる。
実施の形態2および実施の形態3と同様に、気流制御装置30は、産熱量に基づいて、人体熱収支のバランスが取れる快適範囲を決めることができる。そして、当該快適範囲内において気流の吹出風速および吹出温度をゆらがせる。風速ゆらぎの変化の中心とされるは、所定値であってもよく、端末装置50を介してユーザから受信する入力に基づく数値であってもよい。温度ゆらぎの変化の中心とされる平均値は、ユーザ設定温度、内部設定温度、またはこれらの設定温度より一定値で低いもしくは高い温度であってもよい。
まだ、上述したように、風速ゆらぎと温度ゆらぎとの周期やゆらぎの波形については、気流制御装置30は自由に決定してもよい。図8の実施例において、風速ゆらぎと温度ゆらぎとの周期が同じで、振幅の増減(すなわち、ゆらぎにおいて変化の程度)も同じである。ただし、需要に応じて、風速ゆらぎおよび温度ゆらぎのそれぞれに対して、個別に設定してもよい。よって、決定した風速ゆらぎと温度ゆらぎとの周期、ゆらぎ範囲、および波形は、同様であってもよく、異なってもよい。決定した風速ゆらぎと温度ゆらぎとの、ゆらぎ範囲におけるゆらぎ幅の割合、およびゆらぎ幅の変化は同様であってもよく、異なってもよい。
これにより、気流制御装置30は、ユーザに対して、快適かつ飽きさせない気流を吹き出すことができる。特には、吹出風速および吹出温度を相応に変化させることができる。吹出風速および吹出温度の両方をゆらがせることによって、さらに自由にゆらぎを設定することができる。例えば、様々な自然環境における快い風を再現することができる。
《実施の形態5》
<目標放熱量によって制御パラメータを決定する場合>
本実施の形態5においては、産熱量に関連する目標放熱量を決定し、その決定した目標放熱量に基づいて、制御パラメータを決定する。
実施の形態5において、気流制御装置30は、産熱量に基づいて、ユーザに放熱させる目標放熱量を決定する。ユーザの人体熱収支のバランスを取るために、産熱量と目標放熱量との差である人体熱収支が、ゼロを含む所定の範囲内になるように、制御パラメータが決定される。好ましくは、目標放熱量を産熱量に実質的に等しい数値に決定してもよい。すなわち、人体熱収支がゼロになるように、目標放熱量を産熱量と同値に決定してもよい。ただし、気流制御の都合またはテーブル内のデータの精度を考慮すると、目標放熱量は、取得した産熱量に実質的に等しければよく、取得した産熱量と完全一致しなくてもよい。例えば、ユーザが室内温度を素早く低下させるまたは上昇させることを所望する場合、空気調和機20の起動したときからまたはユーザからの入力を受信したときからしばらくの間、目標放熱量を産熱量に比べて高くまたは低く設定してもよい。
次に、気流制御装置30は、目標放熱量に基づいて、決定した目標放熱量が増加するとユーザの放熱量が増加するように、かつ、決定した目標放熱量が減少するとユーザの放熱量が減少するように、制御パラメータを決定する。実施の形態1~実施の形態4の気流制御装置30の動作において、目標放熱量は、産熱量の代わりとして、制御パラメータの決定基準となってもよい。例えば、気流制御装置30は、目標放熱量と制御パラメータとの関係を示す制御パラメータテーブルを記憶し、そして、目標放熱量に基づいて制御パラメータテーブルを照合することによって、制御パラメータを決定してもよい。
なお、この制御パラメータテーブルは、他の変数や形式を介して、目標放熱量と制御パラメータとの関係を間接的に示すものであってもよい。例えば、上述したように人体熱収支は放熱量と関係するため、制御パラメータテーブルは、人体熱収支と少なくとも1つの制御パラメータとの関係を示してもよい。
図9は、実施の形態5における人体熱収支、吹出温度、および吹出風速の関係を示す図である。縦軸は人体熱収支(W/m2)であり、横軸は吹出風速(m/s)であり、異なる吹出温度(23℃~28℃)に対応する曲線が示されている。図9における破線の四角形に囲まれた範囲は快適範囲を表している。この快適範囲は、人体熱収支が±7.5(W/m2)以内である範囲であり、PMV指数に換算すれば、PMV指数が±0.1以内である範囲である。
気流制御装置30は図9に示された対応関係図によって吹出風速または/および吹出温度を決定してもよい。例えば、ユーザ設定温度または内部設定温度によって吹出温度を24℃とし、取得した産熱量および空気調和機20の運転モードによって人体熱収支を0とする場合、気流制御装置30は関係図を照合して吹出風速を0.4m/sに決定する。吹出温度を24℃とし、人体熱収支を2.5とする場合、気流制御装置30は関係図を照合して吹出風速を0.3m/sに決定する。吹出温度を25℃とし、人体熱収支をゼロとする場合、気流制御装置30は関係図を照合して吹出風速を0.9m/sに決定する。一方、吹出風速および人体熱収支を決めてから照合によって吹出温度を決定してもよい。また、吹出風速および吹出温度の少なくとも1つにゆらぎを発生させる場合、照合によって取得する吹出風速または吹出温度を、風速ゆらぎまたは温度ゆらぎの変化の中心とされる平均値としてもよい。
このような目標放熱量を使用することにより、ユーザの好みや体質などに合わせて快適な気流を空気調和機は吹き出すことができる。例えば、産熱量に比べて大きい目標放熱量に基づいて気流の制御パラメータを決定することにより、涼しい環境を好むユーザに対して快適な気流を吹き出すことができる。また例えば、産熱量に比べて小さい目標放熱量に基づいて気流の制御パラメータを決定することにより、温かい環境を好むユーザに対して快適な気流を吹き出すことができる。また、制御パラメータと目標放熱量や人体熱収支との関係を示すテーブルを用いれば、効率よく制御パラメータを決定することができる。
《実施の形態6》
<ユーザの位置を考慮する場合>
空気調和機から吹き出された気流は、ユーザに届く(当たる)までの間に、その風速および温度が減衰し得る。例えば、気流が遠い距離に位置するユーザに届くまでの間に、風速が吹出風速から低下し、温度が吹出温度から上昇する(冷房モード)または低下する(暖房モード)ことが起こり得る。本実施の形態6においては、気流制御装置30は、ユーザの位置を考慮し、制御パラメータを決定するまたは補正する。
1つの実施例において、気流制御装置30はユーザが存在する制御空間60における位置を取得し、当該位置に基づいて、制御パラメータを決定するまたは補正する。制御空間60における位置は、絶対位置であってもよく、空気調和機20を基準とした相対位置であってもよい。また、ユーザの位置は座標によって表されてもよく、ユーザが存在する、制御空間60内の特定の制御領域によって表されてもよい。
図10は、実施の形態6における制御領域の一例を示す図である。制御空間60は複数の制御領域62に区分される。これらの制御領域62は、例えば、空気調和機20との距離(「近(N)」、「中(M)」、「遠F」)および空気調和機20からの視野角(「左(L)」、「中央(C)」、「右(R)」)によって定義可能である。
1つの実施例において、空気調和システム10は、ユーザの位置を検出する検出装置40をさらに含む。気流制御装置30は、検出装置40を用いて、ユーザがどの制御領域62に存在するか、または、ユーザと空気調和機20との距離を検出してもよい。検出装置40は、例えば、カメラ、赤外線サーモグラフィカメラ、距離センサであってもよい。検出装置40は、空気調和機20、端末装置50、制御空間60、またはユーザに装着されるユーザの身に装着可能なウェアラブル端末やスマートウォッチに設けられてもよい。
1つの実施例において、気流制御装置30は、複数の制御領域62それぞれに対応する複数の制御パラメータテーブルを記憶している。例えば、空気調和機20に最も近い制御領域62(LN、CN、RN)に対して第1制御パラメータテーブルが用意され、空気調和機20に中間の距離を有する制御領域62(LM、CM、RM)に対して第2制御パラメータテーブルが用意され、空気調和機20に最も遠い制御領域62(LF、CF、RF)に対して第3制御パラメータテーブルが用意されてもよい。吹き出す気流の風速および温度は空気調和機20との距離が遠いほど減衰する。制御パラメータテーブルにおける制御パラメータの数値は、ユーザに届く気流が人体熱収支のバランスを取れるように、距離によって減衰する分を予め予測してそれを補うように設定されてもよい。したがって、同様な人体熱収支のバランスを実現するために、第1制御パラメータテーブルにおける吹出風速は第2制御パラメータテーブルにおける吹出風速に比べて低く、および/または、第1制御パラメータテーブルにおける吹出温度は第2制御パラメータテーブルにおける吹出温度に比べて高い(冷房モード)もしくは低い(暖房モード)。なお、制御領域62はそれぞれに対して異なる制御パラメータテーブルが用意されてもよく、いくつかの制御領域62に対して同一の制御パラメータテーブルが用意されてもよい。
制御パラメータを決定するとき、気流制御装置30は、ユーザの位置が属する制御領域62を特定し、当該制御領域62に対応する制御パラメータテーブルを読み出す。そして、気流制御装置30は、目標放熱量に基づいて、ユーザが存在する制御領域62に対応する制御パラメータテーブルを照合することによって、制御パラメータを決定する。
代わりの1つの実施例において、気流制御装置30は同一の制御パラメータテーブルを照合することによって制御パラメータを一旦取得する。その後、気流制御装置30は、ユーザの位置、すなわちユーザが存在する制御領域62またはユーザと空気調和機20との間の距離に基づいて、一旦取得した制御パラメータを補正することによって、制御パラメータの最終値を決定する。例えば、気流制御装置30は、一旦取得した制御パラメータに、ユーザの位置、すなわちユーザが存在する制御領域62またはユーザと空気調和機20との間の距離に基づく補正係数を掛け算することによって制御パラメータを補正してもよい。
一例として、所定の位置、制御領域62、または距離を基準として補正係数を決めてもよい。例えば、ユーザの位置、すなわちユーザが存在する制御領域62またはユーザが空気調和機20との距離が基準より空気調和機20に対して近い場合、補正係数を1に比べて小さい正数にしてもよい。これと異なり、基準より空気調和機20に対して遠い場合、補正係数を1に比べて大きい正数にしてもよい。
これにより、気流制御装置30は、ユーザの位置を考慮した上で制御パラメータを決定するため、吹き出す気流がユーザに届くときにユーザの人体熱収支のバランスがより確実に取れる。
《実施の形態7》
<空気調和機の気流の制御パラメータを決定する気流制御方法>
実施の形態7において、空気調和機20の気流の制御パラメータを決定することによって、当該気流を制御することができる気流制御方法が開示される。当該気流制御方法は気流制御装置30によって実行され得る。
図11は、実施の形態7における気流制御方法の一例のフローチャートである。気流制御方法は、以下のステップS100とステップS200とを含む。まず、気流制御装置30は、空気調和機20の空調制御の対象とする制御空間60に存在するユーザの産熱量を取得する(ステップS100)。次に、空気調和機30は、取得した産熱量に基づいて、ユーザが外部へ放熱するように、ユーザに対する気流の制御パラメータを決定する(ステップS200)。ここで、制御パラメータは、吹出風速および吹出温度の少なくとも1つを含む。
ステップS200においては、気流制御装置30は、取得した産熱量に基づいて、取得した産熱量が増加するとユーザの外部への放熱量が増加するように、かつ、取得した産熱量が減少するとユーザの外部への放熱量が減少するように、気流の制御パラメータを決定する。
このような気流制御方法によれば、ユーザに対して快適な気流を発生させることができる。また、気流制御方法によれば、制御対象となる気流がユーザに当て、かつ、制御パラメータがユーザの産熱量に基づいて決定されるため、省エネルギの効果がもたらせる。
気流制御方法は、実施の形態1~6において気流制御装置30が行う、気流の制御パラメータの決定に関する動作を表すステップを有してもよい。例えば、気流制御方法は、風速ゆらぎおよび/または温度ゆらぎを発生させるステップや、目標放熱量を決定するステップを有してもよい。ここでは、気流制御装置30によるこれらの動作を重複に説明しない。
以上は本開示の具体的な実施の形態に過ぎず、本開示の保護範囲はこれに限定されるものではない。本開示は図面および前述した具体的な実施の形態において前述された内容を含むが、本開示がそれらの内容に限定されるものではない。本開示の範囲または趣旨から逸脱することなく、開示された様々の実施の形態または実施例を組み合わせることができる。本開示の機能および構造原理から逸脱しない変更は特許請求の範囲内のものである。