JP7455375B2 - ラジカル重合禁止剤組成物及び当該ラジカル重合禁止剤組成物を含む歯科用接着性組成物 - Google Patents

ラジカル重合禁止剤組成物及び当該ラジカル重合禁止剤組成物を含む歯科用接着性組成物 Download PDF

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Description

本発明は、ラジカル重合禁止剤組成物及び当該ラジカル重合禁止剤組成物を含む歯科用接着性組成物に関する。詳しくは、ラジカル重合性単量体を含む歯科用接着性組成物の接着耐久性に悪影響を与えないような少量の添加で、その保存安定性を向上させることができるラジカル重合禁止剤組成物及び当該ラジカル重合禁止剤組成物を含む歯科用接着性組成物に関する。
(メタ)アクリレート等のラジカル重合性単量体をベースにした材料は、塗料、印刷材料、接着材、歯科材料などの幅広い分野で使用されている。例えば歯科分野においては、ボンディング材、レジンセメント、レジン強化型グラスアイオノマー、コンポジットレジンなど各種材料に応用されている。(メタ)アクリレートは熱や光の影響により、保管中にゲル化してしまうことがある。
このようなゲル化は、ラジカル重合禁止剤の添加により抑制することが知られているが、ラジカル重合禁止剤は使用時における重合も阻害するため、目的とする物性を考量して添加量が決められている。たとえば、歯科用接着性組成物においては、実用上問題となる接着性低下を起こさないようにするためにラジカル重合禁止剤の配合量は、一般に、ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.1~0.3質量部とされることが多い(特許文献1参照。)。
しかしながら、酸性基含有ラジカル重合性単量とイオン性物質が共存する場合には、上記配合量では十分な保存安定性を得ることは困難であり(特許文献1及び2参照。)、イオン架橋等により重合阻害による悪影響を補うことができる特殊な系を除いて、保存安定性を高めるためにラジカル重合禁止剤の配合量を増やした場合には、耐久接着性等の目的物性の低下を避けることは困難である。
別言すれば、酸性基含有ラジカル重合性単量体を含む歯科用接着性組成物において、耐久接着性を低下させずに保存安定性を向上させるためには、特許文献2に記載されているように(不純物として含まれるものを含めて)イオン性物質を含有しないようにするか、特許文献1に記載されているように、ラジカル重合禁止剤の配合量を増やすと共に第4族元素イオンのように酸性基含有ラジカル重合性単量体とイオン結合体を形成する物質を積極的に配合してイオン架橋による硬化体の高強度化を図る必要があった。
特許6244207号公報 特許4637994号公報
上記したように、酸性基含有ラジカル重合性単量体を含む歯科用接着性組成物において、耐久接着性を低下させずに保存安定性を向上させるためには、イオン性物質を含有しないようにするか、ラジカル重合禁止剤の配合量を増やすと共にイオン架橋による硬化体の高強度化を図る必要がある。しかしながら、イオン性化合物であるアミン化合物は、光重合開始材の電子供与体として、レドックス開始材の還元剤として、また、酸素による重合阻害抑制材として歯科用接着性組成物に配合されることが多く、このような目的でアミン化合物を配合した系に前者の方法を採用することはできない。また、当然のことながらイオン架橋を用いない系では後者の方法は採用できないし、イオン架橋を用いる系においてもラジカル重合禁止剤の配合量を増やすことによる重合阻害は避けることはできず、そのことによる悪影響も懸念される。
そこで、本発明は、ラジカル重合性単量体成分を含む歯科用接着性組成物において、酸性基含有ラジカル重合性単量体やアミン化合物等のイオン性化合物の有無に拘わらず、また、イオン架橋などの手段を特に採用することなく、歯科用接着性組成物が本来有する耐久接着性を維持したまま長期保存中におけるゲル化を防止して保存安定性を向上させる技術を提供することを目的とする。
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、フェノール系重合禁止剤とカルボキシチオウラシル化合物と併用した場合には、少ない量のフェノール系重合禁止剤を配合した場合でも、酸性基含有ラジカル重合性単量体及びイオン化合物を含む系を含めてラジカル重合性単量体成分を含有する歯科用接着性組成物のゲル化を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一の形態は、フェノール系重合禁止剤:100質量部及び下記式(1)で示されるカルボキシチオウラシル化合物:0.0025質量部~0.8質量部からなることを特徴とするラジカル重合禁止剤組成物である。

(式中、Rは、水素原子又は1価の有機基である。)
また、本発明の第二形態は、ラジカル重合性単量体成分及び前記本発明のラジカル重合禁止剤組成物を含み、前記ラジカル重合性単量体成分100質量部に対する前記ラジカル重合禁止剤組成物中の前記フェノール系重合禁止剤の含有量が0.05質量部~0.5質量部であることを特徴とする歯科用接着性組成物である。
上記本発明の歯科用接着性組成物は、前記ラジカル重合性単量体成分が酸性基含有ラジカル重合性単量体を含むことが好ましく、また、イオン性物質を更に含んでなることが好ましい。
本発明のラジカル重合禁止剤組成物によれば、少ない量のフェノール系重合禁止剤を配合した場合でも、酸性基含有ラジカル重合性単量体及びイオン化合物を含む系を含めてラジカル重合性単量体成分を含有する歯科用接着性組成物のゲル化を防止できる。
また、上記本発明のラジカル重合禁止剤を含む本発明の歯科用接着性組成物は、ゲル化が起こり難いため長期間安定に保存できるばかりでなく、フェノール系重合禁止剤の配合量に少なさに起因して、使用時における重合阻害も起こり難く、調製直後は勿論、長期間保存後においても本来の接着性能を発揮することができる。しかも、このような効果は、歯科用接着性組成物に含まれる成分の影響を受け難く、たとえば酸性基含有ラジカル重合性単量体とアミン化合物等のイオン性化合物が共存する系のような、従来、保存安定性向上と接着性維持の両立が困難であった系においても有効に発揮される。
以下、本発明のラジカル重合禁止剤組成物及び本発明の歯科用接着性組成物について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
1.本発明のラジカル重合禁止剤組成物
本発明のラジカル重合禁止剤組成物は、レスヒンダードフェノール化合物、セミヒンダードフェノール化合物及びヒンダードフェノール化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合からなるフェノール系重合禁止剤:100質量部及びカルボキシチオウラシル化合物:0.0025質量部~0.8質量部からなることを特徴とする。そして、上記したような優れた効果を奏する。
このような優れた効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のような理由によるものと考えている。すなわち、歯科用接着性組成物の保存中に生じるラジカル種は空気中の酸素と反応してハイドロパーオキシドラジカル(ROOラジカル)を生成し、これによってゲル化が進行すると考えられる。フェノール系重合禁止剤はこのハイドロパーオキシドラジカルを補足して安定化することによってゲル化を抑制するが、その効果はフェノール系重合禁止剤の配合量に依存する。これに対し、フェノール系重合禁止剤とカルボキシチオウラシル化合物とを併用した場合には、芳香六員環同士のπ―π相互作用による親和性により両者が近接して存在することになり、ハイドロパーオキシドラジカルはフェノール系重合禁止剤によってハイドロパーオキシドに変換され、直ちにカルボキシチオウラシル化合物によって分解されるという協奏的反応サイクル(フェノール系重合禁止剤によるラジカル補足→生じたハイドロパーオキサイドの、カルボキシチオウラシル化合物による分解というサイクル)が繰り返し進行するようになるため、フェノール系重合禁止剤の配合量が少量であってもゲル化防止効果が長期間持続するものと考えている。なお、カルボキシチオウラシル化合物に代えて六員環に直接結合したカルボキシル基を有しないチオウラシル化合物(「その他チオウラシル化合物」ともいう。)を用いた、恐らくπ―π相互作用による親和性が発現しないためと思われるが、本発明の効果を得ることはできない(比較例7参照)。
1-1.フェノール系重合禁止剤
本発明のラジカル重合禁止剤組成物の一方の構成成分であるフェノール系重合禁止剤は、分子内に少なくとも1つのフェノール系水酸基を有する化合物であって、ハイドロパーオキシドラジカル補足能を有する化合物からなるものであれば特に限定されない。このようなフェノール系重合禁止剤は、重合禁止剤として広く使用されているものであり、通常、ヒドロキノンモノメチルエーテル(別名p-メトキシフェノール)、レスヒンダードフェノール化合物、セミヒンダードフェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物などからなる。
ここでレスヒンダードフェノール化合物とは、フェノールの一方のオルト位が嵩高い基で置換され、他方のオルト位が無置換である(水素原子である)フェノール化合物を意味し、セミヒンダードフェノール化合物とはフェノールの一方のオルト位が嵩高い基で置換され、他方のオルト位が嵩高でない基で置換されたフェノール化合物を意味し、ヒンダードフェノール化合物とは、フェノールの2つのオルト位が嵩高い基で置換されたフェノール化合物を意味する。また、「嵩高い基」とは、具体的には、t-アルキル基のような3級のα炭素を有する脂肪族基又は芳香族基であり、更に置換基を有してもよい。
レスヒンダードフェノール化合物としては、4,4´-チオビス(3-メチル-6-ターシャリーブチル)フェノール(例えば、大内新興化学工業社のノクラック300)、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-ターシャリーブチルフェニル)ブタン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO-30)、4,4´-ブチリデンビス(3-メチル-6-ターシャリーブチル)フェノール(例えば、アデカ社のアデカスタブAO-40)などを挙げることができる。
また、セミヒンダードフェノール化合物しては、3,9-ビス[2-{3-(3-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2、4-8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO-80)、エチレンビス(オキシエチエレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](例えば、チバスペシャルティケミカルズ社のイルガノックス245)、トリエチレングリコールビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート(例えば、アデカ社のアデカスタブAO-70)等を挙げることができる。
更にヒンダードフェノール化合物としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノール、2,6-ジイソプロピル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-オクチル-4-n-プロピルフェノール、2,6-ジシクロヘキシル-4-n-オクチルフェノール、2-イソプロピル-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-2-エチル-6-tert-オクチルフェノール、2-イソブチル-4-エチル-6-tert-ヘキシルフェノール、2-シクロヘキシル-4-n-ブチル-6-イソプロピルフェノール、などを挙げることができる。
これらフェノール化合物の中でも、歯科用重合禁止剤として広く用いられており、生体安全性が確認されているという理由から、ヒドロキノンモノメチルエーテル及び/又は2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを使用することが好ましい。
なお、フェノール系重合禁止剤は、上記したフェノール化合物1種類のみからなるものであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
1-2.カルボキシチオウラシル化合物
本発明のラジカル重合禁止剤組成物のもう一方の構成成分であるカルボキシチオウラシル化合物としては、記一般式(1)で示されるカルボキシチオウラシル化合物を使用する
ここで、一般式(1)中、Rは、水素原子又は1価の有機基である。
前記一般式(1)におけるRが1価の有機基である場合、Rの違いによる効果への影響は大きくないため、Rは合成や入手の容易さ等の観点から適宜決定すればよい。通常は、主鎖の構成元素数が1~10の分岐を有していても良い鎖状の有機基(例えば、アルキル基、アシル基、アラルキル基、アルケニル基等)又は環員数3~14の環状の有機基(例えばシクロアルキル基、アリール基、複素環基等)が用いられる。なお、例示されたこれら基の水素原子の一部は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基等の置換基で置換されていても良い。さらに、カルボキシチオウラシル化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
上記一般式(1)で示されるカルボキシチオウラシル化合物の中でも、保存安定性の観点から、Rが水素原子である、下記一般式(2)で示される5-カルボキシチオウラシルを使用することが好ましい。
1-3.組成(配合割合)
本発明のラジカル重合禁止剤組成物の組成、すなわち前記2成分の配合割合は、フェノール系重合禁止剤100質量部に対するカルボキシチオウラシル化合物の配合量は、0.0025質量部~0.8質量部である。カルボキシチオウラシル化合物の上記配合量(配合割合)が0.0025質量部未満の場合には、ハイドロパーオキシドの分解が起こり難く所期の効果を得ることができない。また、0.8質量部を越える場合には、カルボキシチオウラシル化合物を過剰使用することとなり、非効率的であるばかりでなく、(過剰量が多すぎると)接着性能の低下などの弊害を起こすことがある。効果の観点から、カルボキシチオウラシル化合物の前記配合量(配合割合)は、0.005質量部~0.5質量部であることが好ましく、0.01質量部~0.3質量部であることが更に好ましい。
2.本発明の歯科用接着性組成物
本発明の歯科用接着性組成物は、ラジカル重合性単量体成分を含む従来の歯科用接着性組成物に前記本発明のラジカル重合禁止剤組成物を特定量配合した点に特徴を有する。すなわち、本発明の歯科用接着性組成物は、ラジカル重合性単量体成分及び本発明のラジカル重合禁止剤組成物を含み、前記ラジカル重合性単量体成分100質量部に対する前記ラジカル重合禁止剤組成物中の前記フェノール系重合禁止剤の含有量が0.05質量部~0.5質量部であることを特徴とする。そして、本発明の歯科用接着性組成物は、フェノール系重合禁止剤の含有量が0.05質量部~0.5質量部と少ないにも拘わらず、酸性基含有ラジカル重合性単量及びイオン性物質を含む場合であっても、保管中のゲル化が抑制される。さらに含まれるフェノール系重合禁止剤の量が少ないため、使用時における重合阻害による悪影響を受け難く、耐久接着性等が低下することがない。
本実施形態の歯科用接着性組成物において、ラジカル重合性単量体成分100質量部に対する前記フェノール系重合禁止剤の配合量(配合割合)が、0.05質量部未満である場合には十分なゲル化防止効果が得られず、保存安定性を高くすることができない。また、0.5質量部を越える場合には、使用時における重合阻害の影響が大きくなり、接着性等の性能(或いは硬化体物性)が低下する。より高い保存安定性とより良好な硬化体物性を発揮するためには、フェノール系重合禁止剤の上記配合量(配合割合)は、0.08質量部~0.4質量部であることがより好ましく、0.1質量部~0.3質量部であることがさらに好ましい。
なお、前記したように、酸性基含有ラジカル重合性単量及びイオン性物質を含む歯科用接着性組成物においては、耐久接着性等を低下させること無く、保存安定性を向上させることは従来の技術では困難であった。本発明は、このような困難性を克服するものであり、効果の顕著性という観点から、本発明の歯科用接着性組成物は、酸性基含有ラジカル重合性単量及びイオン性物質、アミン化合物を含むことが好ましく、特にトリエチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の脂肪族アミン化合物を含むことが好ましい。
以下、本発明の歯科用接着性組成物に含まれる本発明のラジカル重合禁止剤組成物以外の成分を中心に、詳しく説明する。
2-1.ラジカル重合性単量体成分
ラジカル重合性単量体成分は、重合硬化することによって被接着体と接合する接着層を構成する成分であり、ラジカル重合性単量体、すなわち分子内に少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基を有する化合物からなる。ラジカル重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル系基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。ラジカル重合性単量体成分は1種類のラジカル重合性単量体のみからなっていても複数種類のラジカル重合性単量体の混合物からなっていても良い。
ラジカル重合性単量体としては、従来の歯科用接着剤組成物で使用し得るラジカル重合性単量体が特に制限なく使用できるが、重合性及び生体への安全性の観点から(メタ)アクリル酸エステル系のラジカル重合性単量体を使用することが好適である。歯科用接着剤組成物で使用されるラジカル重合性単量体は、その機能の違いから、一般に(a1)酸性基含有重合性単量体(酸性モノマー)と(a2)酸性基非含有重合性単量体(非酸性モノマー)に分類されている。ここで、酸性モノマー(a1)とは、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{-P(=O)(OH)}、酸無水物基、酸ハロゲン化物基等の酸性基を有するラジカル重合性単量体であり、歯質、卑金属材料及び金属酸化物材料に対する接着性を高める機能を有する。一方、非酸性モノマー(a2)は、接着層の構成成分となるばかりでなく、多官能重合性の非酸性モノマーによってコンポジットレジン等のラジカル重合性単量体を含む歯科材料との接着性を高める共に接着層内に架橋構造を導入して強度を高め、延いては耐久接着性をより高める機能を有する。
好適に使用できる酸性モノマーとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-ジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等を挙げることができる。
また、好適に使用できる非酸性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等を挙げことができる
従来の歯科用接着剤組成物では、具体的な用途に応じて酸性モノマー及び/又は非酸性モノマーが適宜選択されて配合されており、この点は本発明のラジカル重合性単量体成分についても同様であるが、本発明の効果が顕著であると言う観点から、ラジカル重合性単量体成分は、酸モノマーを含有することが好ましい。このとき、ラジカル重合性単量体成分100質量部中に占める酸モノマーの配合量は、通常1~50質量部、好ましくは5~30質量部である。
2-3.その他成分
本発明の歯科用接着剤組成物は、必要に応じて、重合開始剤成分、充填材、溶媒等の成分を含むことができる。以下、これら成分について説明する。
<重合開始剤>
重合開始剤としては、従来の歯科用接着性組成物で使用され得る光重合開始剤、化学重合開始剤、熱重合開始剤等の重合開始剤が特に制限なく使用できる。また、従来の歯科用接着性組成物と同様に、重合開始剤が複数の成分からなる場合には、重合開始剤を構成する成分の全てを含んでいても良く、一部を含んでいても良い。
操作の簡便性の観点からは、光重合開始剤及び/又は化学重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤としては、カンファーキノンと第三級芳香族アミン化合物等の電子供与体を組み合わせなどの水素引き抜き型やアシルホスフィンオキサイドなどの自己開裂型の光重合開始剤が好適に使用される。また、化学重合開始剤としては、酸化剤、還元剤、必要に応じて遷移金属化合物を組み合わせた化学重合開始剤が好適に使用される。これらの重合開始剤成分の中でも保存安定性の低下を招く過酸化物やアミン化合物を用いた場合には、本発明の効果がより顕著となる。重合開始剤を配合する場合の配合量は、ラジカル重合性単量体成分100質量部当たり、0.0005質量部~10質量部質量部とすることが好ましく、0.001質量部~5質量部とすることがより好ましい。
<充填材>
充填材としては、従来の歯科材料等で使用されている無機充填材、有機充填材、有機無機複合充填材などが特に制限なく利用できる。硬化体の機械的強度の観点からは、無機充填材や有機無機複合充填材を使用することが好ましい。充填材は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
充填材の形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られる様な不定形の粒子形状を有するものであってもよいし、球状粒子であってもよい。また、充填材の平均粒径は特に限定されるものではないが、0.001μm~100μm程度が好ましく、0.005μm~50μm程度がより好ましい。
充填材の総配合量は、目的とする用途に応じて適宜決定すればよい。歯科用セメントに使用する場合には、歯科用セメントに含まれるラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、65~1000質量部配合することが好ましい。練和性や硬化体の機械的強度の観点からは、歯科用セメントに含まれるラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、150~400質量部とすることがより好ましい。歯科用前処理材や歯科用ボンディング材に使用する場合には、歯科用前処理材や歯科用ボンディング材に含まれるラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、1~50質量部配合することが好ましい。練和性や硬化体の機械的強度の観点からは、歯科用セメントに含まれるラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、3~30質量部とすることがより好ましい。
本発明の歯科用接着性組成物において好適に使用できる無機充填材を例示すれば、各種シリカ;シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア等のケイ素を構成元素として含む複合酸化物;タルク、モンモリロナイト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム等のケイ素を構成元素として含む粘土鉱物或いはケイ酸塩類(以下、これらをシリカ系フィラーと呼ぶ);フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等;を挙げることができる。これら無機充填材は、重合性単量体とのなじみを良くし、得られる硬化体の機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理して使用されることもある。前記シリカ系フィラーは、化学的安定性に優れており、シランカップリング剤等での表面処理が容易である。
本発明の歯科用接着性組成物において好適に使用できる有機充填材を例示すれば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体等を挙げることができる。
本発明の歯科用接着性組成物において好適に使用できる有機無機複合充填材としては、(a1)酸性モノマーまたは(a2)非酸性モノマーとして使用し得る重合性単量体と無機充填材とを複合化させた、有機無機複合充填材が好適に使用できる。複合化方法は、特に限定されず、また、中実なものであっても、細孔を有するものであってもよい。硬化体の機械的強度の観点からは、国際公開第2013/039169号パンプレットに記載されているような、無機凝集粒子の表面が有機重合体で被覆され、且つ細孔を有する有機無機複合充填材を使用することが好ましい。
<溶媒>
溶媒としては、従来の歯科材料等で使用されているメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、水等が使用できる。中でも、塗布性、揮発性、取扱いの容易さなどの観点から、エタノール、アセトン、水が特に好ましい。
溶媒を使用する場合の配合量は、歯科用接着性組成物の相溶性と塗布性に応じて適宜決定すればよいが、通常は、ラジカル重合性単量体成分100質量部に対して、10~1000質量部の範囲で配合されるが、25質量部~500質量部、特に50~100質量部配合することが特に好ましい。
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものでは無い。
1.使用した物質の略称
まず、以下に、各実施例および各比較例の歯科用接着性組成物において使用した物質の略称について説明する。
(A)ラジカル重合性単量体成分:モノマー成分
<(a1)酸性基含有ラジカル重合性単量体:酸性モノマー>
MDP;10-メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
SPM;2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートおよびビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェートをモル比1:1の割合で混合した混合物。
<(a2)酸性基非含有ラジカル重合性単量体;非酸性モノマー>
BisGMA;2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
D-2.6E;2,2-ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA;2-ヒドロキシエチルメタクリレート
UDMA;2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート。
(B)ラジカル重合禁止剤組成物:禁止剤成分
<(b1)フェノール系重合禁止剤:フェノール化合物>
BHT;2,6-ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン
HQME;ハイドロキノンモノメチルエーテル
<(b2)カルボキシチオウラシル化合物:>
CTU;前記一般式(2)で示される5-カルボキシチオウラシル。
<(b2´)その他チオウラシル化合物>
ETU;下記式(3)で示されるチオウラシルエチルエステル化合物
(C)その他成分
<(C)重合開始剤>
CQ;カンファーキノン
DMBE;N,N-ジメチル-p-アミノ安息香酸エチルエステル(イオン性化合物でもある。)
PhBNa;テトラフェニルホウ素のナトリウム塩(イオン性化合物でもある。)
CHP;クメンハイドロパーオキサイド
<充填材>
F1;平均粒径3μmのシリカジルコニア充填材
F2;平均粒径0.2μmのシリカジルコニア充填材。
<イオン性化合物>
脂肪族アミン化合物:
MDEОA;メチルジエタノールアミン
TEOA;トリエタノールアミン
TEA;トリエチルアミン
その他:
BMOV;ビスマルトラートオキソバナジウム(IV)。
2.実施例および比較例
実施例1
以下に示すようにして歯科用接着性組成物を調製し、評価を行った。
<歯科用接着性組成物の調製>
以下の成分を混合して歯科用接着性組成物を調製した(ラジカル重合性単量体成分の合計が100質量部となるように配合している。)。
(A)モノマー成分
・(a1)MDP:10質量部
・(a2)HEMA:30質量部
・(a2)BisGMA:40質量部
・(a2)3G:20質量部
(B)ラジカル重合禁止剤組成物
・(b1)BHT:0.2質量部
・(b2)CTU:0.000035質量部
(C)重合開始剤
・CQ:0.3質量部
・DMBE:1.0質量部
得られた歯科用接着性組成物の組成を表1に示す。なお、表1では重合性単量体成分の総質量を100質量部としたときの各成分の質量部を示している。
<初期の耐久接着強さの測定>
抜去した牛下顎前歯を注水下、#600の耐水研磨紙で研磨し、唇面と平行になるように象牙質平面を削り出した。この象牙質平面に圧縮空気を吹き付けて乾燥させた後、直径3mmの円孔の開いた両面テープをそれぞれ固定し、接着面積を規定した。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に接着性組成物を塗布した後、歯科用光照射器(エリパー、スリーエム社製)を用い、光照射20秒による光硬化を行った。直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように歯科用接着性組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣクイック、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した後、歯科用光照射器(エリパー、スリーエム社製)を用い、光照射10秒による光硬化を行った。その後、あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(ビスタイトII、トクヤマデンタル社製)で接着した。この試験サンプルを37℃の水中にて24時間浸漬した。さらに、耐久接着強さを評価する試験サンプルに関しては、サーマルサイクリング(東京技研社製)を用いて5℃と55℃の水槽に3000回交互に浸して熱衝撃を与えた。初期接着強さを評価する試験サンプルおよび耐久接着強さを評価する試験サンプルの、それぞれのサンプルについて、万能試験機(AG-I型、島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/mmの条件で荷重を開始し、測定サンプルが破断するまで試験サンプルに荷重を加え、最大荷重から下記式(1)を用いて接着強さを求めた。
・式(1) 接着強さ(MPa)=最大荷重(N)/被着面積(mm)。
<保存後の耐久接着強さの測定(保存安定性の評価)>
調製した接着性組成物を遮光容器に入れて60℃のインキュベーターに50日間保存した後、上記<初期の耐久接着強さの測定>と同様にして耐久接着強さの測定を行った。
<評価結果>
上記した評価方法に基づいて評価を行った結果を、以下に示す。
・耐久接着強さ(初期); 18.1MPa
・耐久接着強さ(保管後); 18.1MPa
上に示されるように、実施例1の歯科用接着性組成物は、初期および保管後の接着強さ共に良好な結果を示した。この結果から、実施例1の歯科用接着性組成物は、優れた耐久接着性と保存安定性を有することが判った。
実施例2~20及び22~24、並びに比較例1~5及び7~10
実施例1において、歯科用接着性組成物の成分並びにこれらの配合量等を表1~3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、歯科用接着性組成物を調製し、評価を行った。結果を実施例1の結果と合わせて表4に示す。
実施例21及び比較例6
実施例1において、歯科用接着性組成物の成分並びにこれらの配合量等を表2及び表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、第一の硬化性組成物を調製した。これとは別に下記組成の第二の硬化性組成物を調製した。
<第二の硬化材組成物の組成>
・MDP:10質量部
・BMOV:0.05質量部
・BisGMA:65質量部
・3G:25質量部
・BHT:0.2質量部
次に得られた第一の接着性組成物と第二の接着性組成物とを質量比1:1で混合して実施例21及び比較例6の(化学重合型の)歯科用接着性組成物を調製し、評価を行った。結果を実施例1の結果と合わせて表4に示す。
表4に示されるように、実施例2~24の歯科用接着性組成物も、実施例1と同様に耐久接着性及び保存安定性の双方共に良好な結果を示した。この結果から、実施例2~24の歯科用接着性組成物も、優れた耐久接着性と保存安定性を有することが判った。
これに対し、フェノール系重合禁止剤またはカルボキシチオウラシル化合物を欠く比較例1~10では、保存後の耐久接着強さが大きく低下した。
特に比較例8~10はカルボキシチオウラシル化合物を欠き、脂肪族アミン化合物を含む例であり、保存後の耐久接着強さが更に大きく低下している。これに対し、実施例22~24はカルボキシチオウラシル化合物及び脂肪族アミン化合物を含む例であり、耐久接着性及び保存安定性の双方共に良好な結果を示した。この結果から、脂肪族アミン化合物を含む組成物において特に効果が顕著であることがわかる。

Claims (4)

  1. フェノール系重合禁止剤:100質量部及び
    下記式(1)
    (式中、Rは、水素原子又は1価の有機基である。)
    で示されるカルボキシチオウラシル化合物:0.0025質量部~0.8質量部
    からなることを特徴とするラジカル重合禁止剤組成物。
  2. ラジカル重合性単量体成分及び請求項1記載のラジカル重合禁止剤組成物を含み、前記ラジカル重合性単量体成分100質量部に対する前記ラジカル重合禁止剤組成物中の前記フェノール系重合禁止剤の含有量が0.05質量部~0.5質量部であることを特徴とする歯科用接着性組成物。
  3. 前記ラジカル重合性単量体成分が酸性基含有ラジカル重合性単量体を含む請求項に記載の歯科用接着性組成物。
  4. イオン性物質を更に含んでなる、請求項又はに記載の歯科用接着性組成物
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