JP7441418B2 - 耐塑性変形性、耐欠損性にすぐれたwc基超硬合金製切削工具および表面被覆wc基超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
しかし、近年、被削材の種類、切削加工条件等に応じて、WC基超硬工具の切削性能、工具寿命をより一段と向上させるべく、各種の提案がなされている。
R>(0.82-0.086×D)×(10/V)
の式を満足させることにより、Ni基耐熱合金の切削加工において、WC基超硬工具の耐熱塑性変形性と靱性を向上させることが提案されている。
なお、R=(L1)/((L1)+(L2))
D:WC面積平均粒径(μm)であって、0.6≦D≦1.5の範囲である。
ここで、前記Dは、WCの面積率が50%となるときのWCの粒径をいう。
V:結合相体積(vol%)であって、9≦V≦14の範囲である。
ここで、
組成 Crまたは/およびCr化合物:0~4%(Cr換算で)
(重量%) Vまたは/およびV化合物:0~4%(V換算で)
TaC:0~2%
TiC:0~2%
Nまたは/およびN化合物:0~1%(N換算で)
Co:0.1~10%
WCおよび不可避不純物:残
Co平均厚み:0.06~30ナノメータ
そして、上記のWC-Co系超硬部品は、Co含有量を低減できるため、剛性が高くなり、また耐熱性もCo含有量が少ないほど向上するため、切削熱が多量に発生する、例えば超硬チップ、エンドミル、ドリルなどの切削用途に適するとされている。
しかし、前記従来の工具では、ステンレス鋼のような難削材の切削加工においては、耐塑性変形性が十分でなく、また、靱性が十分でないために亀裂の進展を抑制することが難しく、そのため、刃先の変形や欠損等の異常損傷の発生を原因として、工具寿命は短命であった。
WC基超硬合金の主成分は、FCC相と主硬質相であるWCである。FCC相はCoを主とする結合相とTaC、NbC、TiC、ZrCおよびそれらの複合炭化物からなる副硬質相の双方から成る。
図1にWC基超硬合金の断面概略模式図を示すが、WC基超硬合金の断面を観察すると、WC粒子とWC粒子とFCC相の粒界三重点(以下、「WC/WC/FCC相粒界三重点」と略記する)、及び、WC粒子とWC粒子とWC粒子の粒界三重点(以下、「WC/WC/WC粒界三重点」と略記する)という二種類の粒界三重点が存在する。
本発明者らは、前記二種類の粒界三重点のうちの、特に、WC/WC/WC粒界三重点について、工具特性への影響を調査すべく、種々のWC基超硬合金からWC基超硬工具を作製し、それぞれのWC基超硬合金についてEBSDデータを解析することで、解析視野範囲内に存在するWC粒子数とWC/WC/WC粒界三重点数を測定した。
一方、前記種々のWC基超硬合金について、切削加工試験を行うことにより、耐耐塑性変形性の良否を評価した。
その結果、図2に示すように、(WC/WC/WC粒界三重点数)/WC粒子数(即ち、一個のWC粒子当たりのWC/WC/WC粒界三重点の数)が、特定の数値以上である場合には、ステンレス鋼等の難削材の切削加工において、耐塑性変形性が向上し、これによって、工具の刃先の変形が抑制され、さらに、亀裂の進展が抑制されることによって、欠損等の異常損傷の発生も抑制され、工具の長寿命化を図ることができることを見出したのである。
「(1)WC基超硬合金を基体とするWC基超硬合金製切削工具において、
前記WC基超硬合金の成分組成は、Co:6~14質量%、Cr3C2:0.1~1.4質量%、残部はWC及び不可避不純物からなり、
前記WC基超硬合金の断面における24(μm)×72(μm)の視野でEBSD測定を行い、前記視野範囲に存在するWC粒子数Nと前記視野範囲に存在するWC/WC/WC粒界三重点数nを求めた時、前記n/Nの値が1.4以上であることを特徴とするWC基超硬合金製切削工具。
(2)前記WC基超硬合金は、TaC、NbC、TiC及びZrCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を合計量で4質量%以下、さらに含有することを特徴とする(1)に記載のWC基超硬合金製切削工具。
(3)(1)または(2)に記載のWC基超硬合金製切削工具の少なくとも切れ刃には、硬質被覆層が形成されていることを特徴とする表面被覆WC基超硬合金製切削工具。」
を特徴とするものである。
なお、前記(1)、(2)におけるCr3C2、TaC、NbC、TiC、ZrCの含有量は、WC基超硬合金の断面について測定したCr量、Ta量、Nb量、Ti量、Zr量を、いずれも炭化物換算した数値である。
さらに、WC基超硬合金中に亀裂が発生したとしても、前記高密度のWC/WC/WC粒界三重点によって、亀裂の直線的な進展が抑制されることから、欠損等の耐異常損傷性が向上する。
Coは、WC基超硬合金の主たる結合相形成成分として含有させるが、Co含有量が6質量%未満では十分な靱性を保持することはできず、一方、Co含有量が14質量%を超えると急激に軟化し、切削工具として必要とされる所望の硬さが得られず、変形および摩耗進行が顕著になることから、WC基超硬合金中のCo含有量を6~14質量%と定めた。
Cr3C2は、主たる結合相を形成するCo中にCrが固溶し、Coを固溶強化することで、WC基超硬合金の強度を高める。しかし、この作用は、Cr3C2含有量が、0.1質量%未満では不充分であり、一方、その含有量がCoの含有量に対し10%を超えると、CrとWの複合炭化物を析出し、靱性が低下し、また、欠損発生の起点となる。
本発明においてはCo含有量上限が14質量%であるため、Cr3C2の上限はCo含有量上限の10%である1.4質量%である。
したがって、WC基超硬合金中のCr3C2含有量は、0.1~1.4質量%と定めた。
本発明のWC基超硬合金は、その成分として、さらに、TaC、NbC、TiC及びZrCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を合計量で4質量%以下、さらに含有することができる。
TaC、NbC、TiC、ZrCはいずれも、耐酸化性や耐クレーター摩耗性を高める効果を有するが、それらを炭化物換算した合計含有量が4質量%を超えると、耐摩耗性が不十分となり、また凝集体が出来やすくなるため欠損発生の起点となる。
したがって、WC基超硬合金中の成分としてTaC、NbC、TiC及びZrCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を含有させる場合には、その合計含有量は、4質量%以下とすることが望ましい。
なお、前記したCr3C2、TaC、NbC、TiC、ZrCの含有量は、WC基超硬合金についてEPMAによって測定したCr量、Ta量、Nb量、Ti量、Zr量を、いずれも炭化物換算した数値である。
図1に、WC基超硬合金の断面概略模式図を示すように、WC基超硬工具におけるWC基超硬合金中のWC/WC/WC粒界三重点とは、WC基超硬合金の断面において3個のWC粒子の粒界の共通接触部分として形成され、一方、WC/WC/FCC相粒界三重点は、2個のWC粒子の粒界とFCC相の共通接触部分として形成される。尚、WC基超硬合金において、FCC相はCoを主とする結合相とTaC、NbC、TiC、ZrCおよびそれらの複合炭化物からなる副硬質相の双方から成る。
WC基超硬合金の製法、製造条件等を種々変更することによって、WC基超硬合金中でのWC粒子の存在形態が異なる種々のWC基超硬合金(但し、WC基超硬合金の成分組成は、いずれも、前述した本発明の範囲内とする)を作製し、塑性変形により工具寿命に至る切削試験を実施することにより、それぞれのWC基超硬合金についての、耐塑性変形性の良否の評価を行う。
次に、前記種々のWC基超硬合金について、EBSD解析により、解析視野(24(μm)×72(μm))範囲内に存在するWC粒子数NとWC/WC/WC粒界三重点数nを測定し、n/Nを求める。
n/Nと耐塑性変形性の鋭意調査した結果、従来の製法ではn/Nが0.5~1.3の範囲であるが、WC同士の接触頻度を高めることにより、本発明の製法では、n/Nを1.4以上に高めることが出来、そうして作製したn/Nが1.4以上のWC基超硬合金はn/Nが1.4未満のWC基超硬合金に比べ高い耐塑性変形性を有することを見出した。
また、n/Nが1.5以上では一層優れた耐塑性変形性を発揮することを見出した。
一方、n/Nが3以上となると、WC粒子が強く凝集すると同時に、粗大な結合相が現れやすく、耐欠損性が低下する傾向が見られた。このため、好ましくはn/Nが1.5以上となると3.0未満とすることが望ましい。
耐塑性変形性が向上する理由は、WC基超硬合金の組織中に、高密度でWC/WC/WC粒界三重点が存在するため、WC―WC粒子間の粒界滑りが抑制されるためであると推定される。
なお、耐塑性変形性の向上については、特に、切削加工進行時の高温発熱状態における高温耐塑性変形性の向上が顕著であることが判明した。
n/Nの値が1.4以上である本発明のWC基超硬工具を製造するためには、原料粉末を混合し焼結用粉末を作製するに際し、本発明では、焼結用のWC原料粉末として、多結晶WC粉末を使用する。
そして、焼結用粉末をプレス成形して圧粉成形体を作製した後、焼結を行うが、本発明では、低温短時間加熱条件による通電加圧焼結を行うことで、n/Nの値が1.4以上である本発明のWC基超硬工具用のWC基超硬合金焼結体を作製することができる。
焼結用のWC原料粉末として、多結晶WC粉末を使用するのは、多結晶WC内に含まれるWC三重点をWC基超硬合金に導入し、n/Nを上昇することが可能であるためである。
また、低温短時間加熱条件による通電加圧焼結を行うのは、WCの溶解再析出を抑制し、原料粉末である多結晶WCのWC三重点をWC基超硬合金に多く導入可能であるためである。例えば、加圧力を10~20MPaの範囲とし、昇温速度を50~100℃/minの範囲とし、焼結温度を1200~1250℃の範囲とし、さらに、保持時間を10~30minの範囲とした低温短時間加熱条件で通電加圧焼結することで、n/Nの値が1.4以上である本発明のWC基超硬合金焼結体を作製することができる。上記範囲より加圧力が高い、もしくは、昇温速度が遅い、焼結温度が高い、あるいは保持時間が長い場合、WCの溶解再析出が進行し、WC/WC界面にCoが侵入することによりWC三重点が減少し、n/Nの値が1.4未満となる。また、上記範囲より加圧力が低い、もしくは、昇温速度が早い、焼結温度が低い、あるいは保持時間が短い場合、焼結が十分に進行せず、内部に空隙を有するWC基超硬合金が得られやすく、そのため靭性が十分に発揮できない。これらの理由から焼結条件は上記の範囲であることが好ましい。
また、WC基超硬合金中に亀裂が発生したとしても、高密度のWC/WC/WC粒界三重点が、亀裂の直線的な進展を抑制するため、靱性、耐欠損性が向上する。
さらに、前記WC基超硬合金製切削工具の少なくとも切れ刃に、Ti-Al系、Al-Cr系等の炭化物、窒化物、炭窒化物あるいはAl2O3等の硬質皮膜を、PVD、CVD等の成膜法により被覆形成することにより、表面被覆WC基超硬合金製切削工具を作製することができる。
なお、表面被覆WC基超硬合金製切削工具の作製にあたり、硬質皮膜の種類、成膜法は、当業者に既によく知られている膜種、成膜手法を採用すればよく、特に、制限するものではない。
これらの粉末を、表1に示す配合組成に配合して、焼結用粉末を作製した。
その製造工程は、表3に示す配合組成の焼結用粉末を、湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形して圧粉成形体を作製した後、表4に示す条件で通電加圧焼結することで、あるいは、通常の焼結をすることで、WC基超硬合金焼結体を作製し、これを、機械加工、研削加工し、CNMG120408-GMのインサート形状の表6に示すWC基超硬工具1~9(以下、比較例工具1~9という)を作製した。
なお、Cr、Ta、Nb、Ti、Zrは、それぞれの炭化物に換算して含有量を算出した。
表5、表6に、それぞれの平均含有量を示す。
前記観察・測定を少なくとも10の視野で行い、N、n、n/Nについて平均値を算出した。
表5、表6に、これらの値を示す。
被削材:JIS・SUS304(HB170)の丸棒、
切削速度:110m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.5mm/rev、
切削時間:4分、
湿式水溶性切削油使用。
上記湿式連続切削加工試験後の、切れ刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。
なお、切れ刃の逃げ面塑性変形量は、図3に、逃げ面塑性変形量の測定模式図を示すように、工具の主切れ刃側逃げ面について、切れ刃から十分離れた位置で主切れ刃側逃げ面とすくい面が交差する稜線上に線分を引き、同線分を切れ刃部方向に延伸し、延伸した線分と切れ刃部稜線間の距離(延伸した線分の垂直方向)が最も離れている部分を測定し、切れ刃の逃げ面塑性変形量とした。また、逃げ面塑性変形量が0.04mm以上であった時、損耗状態を刃先変形とした。
表7に、この測定結果を示す。
上記の各被覆工具について、以下に示す、湿式連続切削加工試験を実施し、切れ刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。
切削条件:
被削材:JIS・SUS304(HB170)の丸棒、
切削速度:160m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.4mm/rev、
切削時間:5分、
湿式水溶性切削油使用。
表9に、切削試験の結果を示す。
これに対して、比較例工具および比較例被覆工具は、耐欠損性、耐チッピング性、耐塑性変形性に劣り、短時間で寿命に至った。
Claims (3)
- WC基超硬合金を基体とするWC基超硬合金製切削工具において、
前記WC基超硬合金の成分組成は、Co:6~14質量%、Cr3C2:0.1~1.4質量%、残部はWC及び不可避不純物からなり、
前記WC基超硬合金の断面における24(μm)×72(μm)の視野でEBSD測定を行い、前記視野範囲に存在するWC粒子数Nと前記視野範囲に存在するWC/WC/WC粒界三重点数nを求めた時、前記n/Nの値が1.4以上であることを特徴とするWC基超硬合金製切削工具。 - 前記WC基超硬合金は、TaC、NbC、TiC及びZrCのうちから選ばれる少なくとも1種以上を合計量で4質量%以下、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載のWC基超硬合金製切削工具。
- 請求項1または2に記載のWC基超硬合金製切削工具の少なくとも切れ刃には、硬質被覆層が形成されていることを特徴とする表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
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