JP7440399B2 - 釣具 - Google Patents

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Description

本発明は、魚釣りに際して携行される各種の釣具に関し、詳細には、アルミダイカスト製の釣具に関する。
従来、魚釣用リール等の釣具には、特許文献1に開示されているように、外観を向上すると共に、十分な耐食性や強度を確保できるように、アルミダイカストによって構成部品を形成し、表面にアルマイト処理を施した構成が知られている。このような構成部品の基材は、価格性、入手し易さ、加工性、強度等を考慮して、アルミニウム合金(主にADC12)が用いられることが多く、その表面に高純度なアルミニウムを、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法や、気相めっき等の化学蒸着法などで被着することが行なわれている(以下、このような方法で形成される層を「蒸着層」とも称する)。特許文献1には、そのような高純度のアルミニウムが被着された構成部品に対してアルマイト処理(陽極酸化処理)を施すことで表面の改質処理を行ない、その後、染色処理及び封孔処理を行なうことで、耐摩耗性、耐食性に優れ、かつ、光輝性のある外観の釣具(魚釣用リール)を得ることが開示されている。
特開2005-13153号
ところで、上記したようなアルマイト処理を施して光沢のある釣具の構成部材に仕上げたものについて時間をおいて観察したところ、その内の幾つかについて、蒸着層にクラック(ヒビ割れ)が生じていることが発見された。このようなクラックは、蒸着層の肉厚に関連していると考えられたため、蒸着層の肉厚が異なっている製品(クラックが生じている製品)複数について、断面を観察したところ、図1のグラフで示すような結果が得られた。
図1のグラフは、横軸を蒸着層の肉厚、縦軸をヒビ(クラック)の度合いとしたものであり、ヒビの度合いについては5段階で評価したものである。ここでは、ヒビがほぼないものを「1」、蒸着層内の一部に細かいヒビが見られるものを「2」、蒸着層内の全体に細かいヒビが見られるものを「3」、蒸着層内に細かいヒビが見られ、かつ大きなヒビが散見されるものを「4」、そして、蒸着層内に大きなヒビがあり、アルマイト層にもヒビが見られるものを「5」として評価を行なった。
この検証結果によれば、蒸着層の肉厚が30μmを超えると、ヒビの入り方が大きくなることが見出された。
上記したようなクラックは、幾つかの要因で発生するものと考えられる。その一つは、基材となっているアルミニウム合金素材(ADC12とする)と、その上に被着される純アルミニウムの線膨張係数の違いによる応力が関係していると推測される。これを図2の模式図を参照して具体的に説明する。
図2において、上側の図は、ADC12の基材10に対して、純アルミニウムによる蒸着層20を形成した直後の状態を示している。蒸着直後は、(ア)に示すように、基材10上に蒸着層20が形成された状態となるが(水平方向に同一長さLで被着)、線膨張係数については、ADC12よりも純アルミニウムの方が大きいので、冷却後では、下側の図に示すように、ADC12の収縮状態((イ)で示す状態)よりも、純アルミニウムの収縮状態((ウ)で示す状態)が大きくなる(L2<L1)。すなわち、素材のみの収縮量で考慮すると、純アルミニウムは、ADC12よりも小さくなる筈であるが、純アルミニウムは蒸着された膜としてADC12に一体化されているため、下側の図に示すように、蒸着層20には、常に引っ張られる応力F(残留応力)が作用した状態となっている。この応力Fが蒸着層におけるクラックの要因の一つと考えられる。
また、別の要因として、アルマイト処理する際の体積増加による応力や、基材の形状によるアルマイトの構造が影響するものと考えられる。
すなわち、図3の模式図に示すように、純アルミニウムによる蒸着層20に対してアルマイト処理を行なうと、そのアルマイト層30は体積が増加(純アルミニウムによる蒸着層20に対して約1.4倍程度に増加)することから、純アルミニウムによる蒸着層20は引っ張られるような応力F1が作用する。この応力F1がアルマイト層でのクラックの要因の一つと考えられる。
また、ダイカスト成形する基材を、凸面を有する形状にすると、凸面側では表面に対して垂直にアルマイト層が成長するため、放射状に広がって多孔質層の部分でクラックが生じ易くなる。すなわち、急なエッジ部分や凸湾曲面を有する釣具に対してアルマイト処理を施すと、上記した蒸着層の肉厚や残留応力と相俟ってクラックが生じ易くなるものと考えられる。
なお、本発明では、蒸着層を複層にすることで、内部応力の低減を図るようにしている。すなわち、図4のように、蒸着層を複層にすることで、凸面では、1層目の蒸着層21は、基材10から引張の力を受け、2層目の蒸着層22からは圧縮の力を受けるため、1層目の蒸着層21の内部応力は打ち消され、蒸着層全体で見ると、内部応力の低減が図れるようになる。
上述したとおり、従来のアルマイト処理を施した釣具は、その幾つかについてクラックが発生していることが見出された。そして、このようなクラックが生じるのは、基材に対して蒸着される純アルミニウム層の肉厚や、層内の残留応力が大きな要因であると考えられる。
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、表面にアルマイト処理を施した際、クラックが生じ難い釣具を提供することを目的とする。
上記した目的を達成するために、本発明に係る釣具は、アルミニウム合金をダイカスト成形した基材の表面に、基材よりも純度の高いアルミニウムによる蒸着層を少なくとも2層以上積層、被着した後、アルマイト処理を施したことを特徴とする。
上記した構成では、基材に対して純度の高いアルミニウムによる蒸着層を形成し、その表面をアルマイト処理することから、光沢を有する光輝性外観が得られようになる。この場合、蒸着層を1層ではなく、2層以上に分けて積層することで、1層だけ積層する構成と比較すると、1層当たりの膜厚を薄くすることが可能となる。通常、蒸着膜の内部応力(残留応力)は、膜厚が厚くなる程、高くなることから、蒸着層を2層以上に分割して被着することで、1層形成するのと同じ肉厚で複数層に分けて形成した方が、蒸着層での内部応力を効果的に低減してクラックの発生を抑制することができる。
本発明によれば、表面にアルマイト処理を施した際、クラックが生じ難い釣具が得られる。
アルマイト処理を施した釣具において、蒸着層の肉厚とクラック(ヒビ)の発生の度合いについての評価結果を示したグラフ。 アルミニウム合金(ADC12)に、アルミの蒸着層を形成した際に、クラックが発生する原理を概略的に示した模式図。 アルミの蒸着層にアルマイト層を形成した際、アルマイト層部分にクラックが発生する原理を概略的に示した模式図。 本発明に係る釣具の積層構造の一例を示した概略図。
本発明は、アルミ製の各種の釣具に適用可能であり、例えば、魚釣用リールの本体フレーム、カバー、ハンドル等に適用することが可能である。これらの部材については、アルミニウム合金(本実施形態では、ADC12を用いる)をダイカスト成形によって所定の形状に形成し、その表面に、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法や、気相めっき等の化学蒸着法などの蒸着工程で高純度なアルミニウム(純アルミニウム)を被着して蒸着層を形成した後、その表面に陽極酸化処理(アルマイト処理)を施してアルマイト層を形成する。
以下、上記した工程でアルマイト層が形成された部材の積層構造について、図4を参照しながら説明する。
上記したように、釣具の構成部品となる基材10は、アルミニウム合金(ADC12)をダイカスト成形で所定の形状に形成し、その表面に、基材よりも純度の高いアルミニウム(純アルミニウム)による蒸着層を少なくとも2層以上積層、被着した後、アルマイト処理を施したことを特徴とする。
本実施形態では、蒸着層を2層(蒸着層21,22)形成しており、その表面にアルマイト処理を施してアルマイト層30を形成する。この場合、ADC12は、94.12質量%、20℃~100℃で、21×10-6(/℃)の線膨張係数のものが用いられる。また、基材の表面に被着される純アルミニウムは、それよりも純度が高いものであれば良く、例えば、蒸着層21としては、99.5質量%、20℃~100℃で、23.5×10-6(/℃)の線膨張係数の普通純度アルミニウム、蒸着層22としては、99.996質量%、20℃~100℃で、24.58×10-6(/℃)の線膨張係数の高純度アルミニウムを用いることが可能である。
本実施形態のように、基材よりも純度の高いアルミニウムによる蒸着層21,22を複数層(2層)形成することで、1層の場合と比較して、1層当たりの膜厚を薄くすることが可能となる。一般的に、蒸着膜の内部応力(残留応力)は、膜厚が厚くなる程、高くなることから、蒸着層を2層以上に分割して被着することにより、内部応力を効果的に低減してクラックの発生を抑制することができる。
また、2層目(蒸着層22)を蒸着する際、その熱によって1層目の蒸着層21の残留応力が取り除かれるため(アニール効果)、蒸着層としての残留応力が低減され、クラックを抑制することが可能となる。また、1層目の表面に多少のヒビ割れが生じていても(湾曲面において生じ易いと考えられる)、2層目が被着される際、そのようなヒビ割れの隙間に入り込むことで、クラックの発生を効果的に抑制することも可能となる。
更に、アルミ純度が高い表面にアルマイト処理を施すことから、光輝性のあるメタリック感(光沢)が得られると共に、染色アルマイトができるので、表面の色彩バリエーションが増加する。
上記したように、蒸着層を2層以上形成する際、各層の純度(線膨張係数)については、下層(本実施形態では蒸着層21)に対して上層(本実施形態では蒸着層21)の方が高いものを用いることが好ましい。一般的に、純度が高いほど線膨張係数が高くなる傾向にあることから、線膨張係数が高い純アルミニウム素材を最外層にすることで、光輝性の高い外観が得られると考えられる。
すなわち、アルミニウムの純度が高くなると、その光沢度が増すので、基材に対しては、高純度のアルミニウムを蒸着することが好ましいが、純度が高くなると、上記したように線膨張係数が高くなることから、1層の蒸着層を形成する構成では、ADC12の基材との間で線膨張係数の差が大きくなり過ぎてしまって、図2で示したような問題が生じ易くなる。このため、純度(線膨張係数)が高いアルミニウムについては、基材に直接被着するのではなく、それよりも純度(線膨張係数)が低い層を介在して複数層にすることで、内部応力の軽減(クラックの軽減)を図りながら、高純度のアルミ層に対してアルマイト処理を行なうことができ、光沢度の高い外観表面を得ることが可能となる。
なお、積層される蒸着層については、3層以上形成しても良く、このようなケースでは、上層に移行するにしたがって、段階的に純度が高くなるアルミニウムを被着することが好ましい(一部の隣接する層において、同一の純度のものを被着する構成、下層が純度の高いものが被着する構成が含まれていても良い)。
また、純アルミニウムによる蒸着層については、図3の模式図で説明したように、最終的にアルマイト処理する際に体積膨張による引っ張り応力が発生し、これがクラックの要因になる可能性がある。
純アルミニウム層は、その厚さに比例して引っ張り応力が大きくなることから、本発明のように、純アルミニウム層を複数層に分けて被着する場合は、上層に行くに従って膜厚を段階的に薄くすることで、層間での応力の差を緩和することができクラックが生じ難くなると考えられる。
更に好ましくは、アルマイト処理によって形成されるアルマイト層30の肉厚については、アルマイトによる内部応力を減少させるために薄肉厚に形成することが好ましく、具体的には、2層以上形成される蒸着層(21,22)の肉厚よりも薄肉厚にするのが良い。これは、アルマイト層を厚く形成し過ぎると、最上の蒸着層に生じる残留応力が大きくなり過ぎてクラックが発生し易くなる傾向になるためであり、アルマイト層30を薄肉厚に形成することで、アルマイト層の部分でクラックが発生することをより効果的に防止することが可能となる。
特に、基材10が凸面を有する構造では、酸化被膜が垂直に配向することから、アルマイト層そのものにクラックが入り易くなってしまう。このため、アルマイト層30の肉厚については、その凸面の曲率にもよるが、5~10μm程度に形成することで、そのようなクラックを効果的に防止することが可能となる。なお、前記アルマイト処理によって形成されるアルマイト層による外観部は、その全てが薄肉厚に形成されていても良いし、その一部が、2層以上形成される蒸着層(21,22)の肉厚よりも薄肉厚にされていても良い。このように、一部が薄肉厚であっても、クラックの発生を抑制することが可能となる。或いは、部材の形状によっては、蒸着層の被着態様が均一でないこともあり得るため、そのようなケースでは、最も厚くなっている部分の蒸着層の厚さよりも薄肉厚に形成しておけば良い。
前記2層以上形成される蒸着層の各層(蒸着層21,22)については、肉厚が30μm以下に形成することが好ましい。
これは、図2で説明した評価の結果から、蒸着層の肉厚については、30μmにすることで、クラックの発生が低減するため、複数層の各蒸着層についても、肉厚を30μm以下に形成することで、クラックの発生を抑制することが可能となる。
また、最終的にアルマイト処理をする際、体積膨張による引っ張り応力が発生し、それがクラックの要因になることから、アルマイト処理する前段階で純アルミニウム層に圧縮応力を与えておき、アルマイト処理時に発生する引張応力と干渉させて見た目の応力を減少させることがクラックの発生防止に有効と考えられる。このため、2層以上形成される蒸着層の各層の表面、又は、いずれかの層の表面には、ショットピーニング処理を施しておくことが好ましい。ショットピーニング処理は、表面を叩いて圧縮応力を発生させることで加工硬化をさせるので、アルマイト処理前に圧縮応力を加えることとなり、アルマイト時に発生する引っ張り応力を緩和してクラックの発生を抑制することが可能となる。また、この処理は、結晶粒微細化による硬化もするので、表面の傷や衝撃にも強くなる。なお、このようなショットピーニング処理は、蒸着層が形成される毎に行なっても良いし、最上の蒸着層を被着した後に行なっても良く、意匠性を向上することも可能となる。
上記した蒸着層については、基材10に対して、2層以上被着されていれば良いが、現実的には2層又は3層にすることが好ましい。層数の上限については、限定されることはないが、加工コスト、加工時間、手間などを考慮すると、5層以下に形成しておくことが好ましい。
実際に、高純度の純アルミニウムを、ADC12で形成された基材に対して、2層被着してアルマイト処理をしたテストピース(8個形成)と、従来のように、高純度の純アルミニウムを1層被着してアルマイト処理したものとを比較したところ、従来の構成では、幾つかのテストピースでクラックが見られたのに対し、2層形成したものでは、いずれのテストピースも全てクラックが発生しない効果を得ることができた。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。例えば、アルマイト処理を施した後については、特に限定されることはなく、各種の表面処理を施しても良い。また、基材10を構成する素材については、ADC12に限定されることはない。
10 基材
20,21,22 蒸着層
30 アルマイト層

Claims (7)

  1. アルミニウム合金をダイカスト成形した基材の表面に、基材よりも純度の高いアルミニウムによる蒸着層を少なくとも2層以上積層、被着した後、アルマイト処理を施し、
    前記2層以上形成される蒸着層の純度は、下層に対して上層の方が高いことを特徴とする釣具。
  2. アルミニウム合金をダイカスト成形した基材の表面に、基材よりも純度の高いアルミニウムによる蒸着層を少なくとも2層以上積層、被着した後、アルマイト処理を施し、
    前記2層以上形成される蒸着層は、上層に行くに従い段階的に膜厚が薄く形成されることを特徴とする釣具。
  3. 前記2層以上形成される蒸着層の純度は、下層に対して上層の方が高いことを特徴とする請求項2に記載の釣具。
  4. 前記2層以上形成される蒸着層の各層は、肉厚が30μm以下に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の釣具。
  5. 前記2層以上形成される蒸着層の各層の表面、又は、いずれかの層の表面には、ショットピーニング処理が施されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の釣具。
  6. 前記アルマイト処理によって形成される外観部の少なくとも一部におけるアルマイト層の肉厚は、前記2層以上形成される蒸着層の肉厚よりも薄肉厚であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の釣具。
  7. 前記蒸着層は、5層以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の釣具。
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