本発明は、親綱を垂直方向に摺動自在に挿通する溝部内に、軸回りに回動自在としたロープロックを配設し、当該ロープロックが前記親綱を押圧する方向へ回転したときに当該親綱の摺動を不可とする親綱装着具と、親綱装着具の下部に上端部を連結し、下端部を使用者が装着したフルハーネス型の安全帯の着脱部を着脱自在に連結可能とした安全帯装着具と、を備えた転落防止装置において、親綱装着具は、溝部を形成する断面略U字状の第1半筒体と、この第1半筒体の溝部と対向する開口部内に、第1半筒体を摺動自在に抱持する断面略U字状の第2半筒体と、を備え、第2半筒体は、下端部に安全帯装着具を使用者側に回動自在に軸支する枢支部と、安全帯装着具を使用者側への回動範囲を規制する回動規制部と、を設け、枢支部及び回動規制部の上方に少なくとも1個以上のロープロックを軸支し、安全帯装着具は、親綱装着具の枢支部と連結する上端連結部と、安全帯の着脱部と連結する下端連結部とを有する所定長さの支持部と、支持部を使用者側に所定角度で回動した状態に維持するフックガイドと、を備え、上端連結部は、枢支部に下端連結部を使用者側に回動自在に連結され、下端連結部は、安全帯の着脱部の連結を係止するとともに、当該下端連結部をフックガイドに係止することで、支持部を使用者側に所定角度で回動した状態を維持する係止部を有し、下端連結部に前記安全帯の着脱部を介して下方への所定の衝撃荷重が加わると、安全帯装着具は使用者側に回動した状態から垂直に変位することを特徴とする転落防止装置に関するものである。
以下、本発明を適用した転落防止装置の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る転落防止装置の使用態様を示す説明図である。図2は、本実施形態に係る転落防止装置の斜視分解図である。図3は、本実施形態に係る転落防止装置の正面図(a)及び側面図(b)である。図4は、本実施形態に係る転落防止装置の図3の正面図(a)のA-Aにおける側断面図である。図5は、本実施形態に係る転落防止装置の係止部の操作を説明する図3の側面図(b)のB-Bにおける断面図である。図6は、本実施形態に係る転落防止装置の使用状態を説明する正面図(a)及び断面図(b)である。図7は、本実施形態に係る転落防止装置に衝撃荷重がかかった状態を説明する正面図(a)及び断面図(b)である。図8は、本実施形態に係る転落防止装置の間隔調整部を説明する断面図である。図9は、本実施形態に係る転落防止装置への安全帯の連結部の取り付けを説明する斜視図である。図10は、本実施形態に係る転落防止装置の係止部の変形例の構成を説明する斜視図である。図11は、本実施形態に係る転落防止装置へ係止部の変形例の操作を説明する断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る転落防止装置1は、梯子Hの上方に一端を固設し、他端を梯子Hに沿って垂下した親綱Rと、梯子H上で作業又は昇降移動する使用者Mが装着したフルハーネス型の安全帯Bの、使用者Mの体の前面の略中心に位置する連結ベルトB1の先端に取り付けられた着脱部としての外観視略D字状の環状部材Dとの間に掛け渡されて用いられるものである。なお、以下の説明では、梯子Hに、本発明に係る転落防止装置1を適用した場合を例に挙げて説明を行うが、本発明は、これに限定されるものではなく、法面や高層ビルの壁面などの高所作業を行う作業現場などに適用することができる。
ここで、本実施形態で使用者Mの体に装着されるフルハーネス型の安全帯Bを説明する。フルハーネス型の安全帯Bは、使用者Mの身体を肩ベルト、腰部ベルト、腿ベルトなどの複数のベルトで保持するものである。そして、使用者Mの前面の胸の位置で両肩ベルトを水平方向に連結した胸ベルトの略中央部に、着脱部としての先端に環状部材Dを設けた連結ベルトB1を連結している。なお、安全帯Bの名称は、正式には「墜落制止用器具」と称されるが、以下の説明では便宜上安全帯Bと称する。
そして、詳細は後述するが、転落防止装置1の下方の使用者M側に回動した状態の安全帯装着具の一端に、使用者Mの前面の胸ベルトの略中央部に設けられた着脱部の環状部材Dを連結固定することで、図1に示すように、転落防止装置1の溝部内に垂直方向に摺動自在に挿通された親綱と安全帯Bの着脱部との距離を使用者Mの体近くの前面に一定の距離を保った状態で、転落防止装置1を上方又は下方に移動させることができ、転落防止装置1内に垂直に挿通された親綱Rの垂直方向の摺動に対して負荷をかけることなく、転落防止装置1を介しての使用者Mのスムーズな昇降が可能となる。
また、使用者Mが梯子Hを昇降中に足を踏み外して落下した場合は、親綱Rと安全帯Bの着脱部との距離を使用者の体近くに一定の距離としているため、親綱の摺動が禁止されるまでの使用者Mの落下距離を小さくすることができ、安全帯Bを介して使用者に付加される衝撃荷重を緩和することができる。さらに、使用者Mにかかる衝撃荷重は、フルハーネス型の安全帯Bにより、使用者Mの身体の複数箇所のベルト(肩ベルト、腰ベルト、腿ベルト等)に分散するため、使用者Mの体にかかる負担を可及的に低く抑えることができ、安全性に優れた転落防止装置1とすることができる。
以下、図2~8を参照して、本実施形態の転落防止装置1の構成及び機能を詳説する。転落防止装置1は、図2~図9に示すように、親綱Rを摺動自在に挿通する溝部10a内に、軸回りに回動自在としたロープロック12を臨ませ、このロープロック12が親綱Rを押圧する方向へ回転したときに親綱Rの摺動を不可とする親綱装着具10と、この親綱装着具10の下端の枢支部18に、支持部26の上端連結部22を回動自在に連結する一方、この支持部26の下端連結部24を使用者Mが装着した安全帯Bの着脱部の環状部材Dに着脱自在に連結可能とした係止部材33を有する安全帯装着具20とにより構成されている。
ロープロック12は、親綱装着具10の下端の回動規制部19の上方に2箇所設けられており、詳細は後述するが、安全帯装着具20に対して伸延方向下向きに一定の荷重(例えば、使用者Mの落下による衝撃荷重)が作用したときに、親綱Rを押圧する方向へ回転し親綱Rの摺動を不可とする。一方、安全帯装着具20に対して伸延方向上向き又は下向きに一定の荷重以下の荷重が作用したきは、親綱Rを押圧する方向へは回転せず、親綱Rの摺動を可能とするようにしている。
安全帯装着具20は、支持部26とフックガイド21により構成されている。支持部26の一端(下端)には、安全帯Bの着脱部の環状部材Dとの連結を固定する下端連結部24が設けられている。支持部26の下端連結部24は、平面視でクの字状に折り返されて、所定間隔で対向する2枚の平板部26a、26bが形成される。対向する2枚の平板部26a、26bのうち、一方の平板部26bには、下端連結部24に安全帯Bの環状部材Dを係止する係止部である係止部材33が設けられている。
係止部材33は、内部空間を有する箱型の内ガイド筒25と、一端の連結端27cを内ガイド筒25内に挿通し、他端の貫通端27dが2枚の平板部26a、26b間を貫通する円柱状のロックピン27と、ロックピン27の一端の連結端27cに連結されると共に内ガイド筒25のフランジ部25bに当接する有底筒状の操作ノブ29と、ロックピン27の中途の外周に形成された挿入溝27aに嵌合するE型止め輪27bと、このE型止め輪27bにより内ガイド筒25の内部空間に、ロックピン27を内包して配設されたワッシャW及びスプリング31と、により構成されている。内ガイド筒25は、平板部26bの垂直方向上下に対向して延設された上下平板部26c、26d間にビスNにより固設される。操作ノブ29及びロックピン27は、スプリング31によってロックピン27の貫通端27dが2枚の平板部26a、26b間を貫通する方向に付勢されている。
安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24を構成する2枚の平板部26a、26b間には、平板状のフックガイド21とスペーサーSとが配設される。このフックガイド21は、安全帯装着具20(支持部26の下端連結部24)を、使用者M側に回動した状態を維持するためのものである。スペーサーSは、下端連結部24に安全帯Bの着脱部の環状部材Dを装着した場合に、2枚の平板部26a、26b間における環状部材Dの移動を規制するためのものである。スペーサーSの素材は衝撃を吸収する樹脂等が好適に用いられる。このスペーサーSにより、使用者Mが梯子Hを昇降中に足を踏み外して落下した場合に親綱Rの摺動が禁止されるまでの使用者Mの落下距離を小さくするとともに、安全帯Bの着脱部の環状部材Dを介して使用者Mにかかる衝撃荷重を緩和するためのものである。
フックガイド21の両端部の内の基端部21bは、後述の枢支部18により、第2半筒体16の下端に回動自在に軸支される。このとき、図2及び図4に示すように、フックガイド21の基端部21bは、親綱装着具10の第2半筒体16の下端に逆U字状に形成された開口部16a内に、側壁16bから側壁16cに向かって、ねじりばね23、スペーサーK2、フックガイド21の基端部21b、ワッシャW、支持部26の上端連結部22、スペーサーK1の順で取付けられる。ねじりばね23の一端23bは、第2半筒体16の側壁16bの下端に設けられた係止ピンPで係止され、ねじりばね23の他端23aは、フックガイド21の先端部21aの下端縁部を上方に係止している。
これにより、フックガイド21の先端部21aは、ねじりばね23の付勢力によりフックガイド21の基端部21bを支点として、所定角度(例えば、100度~105度)回動した状態で枢支部18に係止される。そして、上記係止部材33により、安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24は、スプリング31によってロックピン27が2枚の平板部26a、26b間を貫通する方向に付勢されているので、ロックピン27が2枚の平板部26a、26b間のフックガイド21の先端部21aも貫通することで、安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24も、フックガイド21と同様に、枢支部18を支点として所定角度(例えば、略100度~105度)回動した状態で枢支部18に係止される。
ここで、ねじりばね23の他端23aによるフックガイド21の先端部21aの下端縁部の上方への付勢力は、図1に示すように、通常時に使用者Mが梯子Hを昇降する場合に、安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24を、枢支部18を支点として所定角度回動した状態に係止するためだけのものであり、使用者Mが梯子Hを昇降中に落下したときの衝撃荷重に耐えられるものではない。つまり、安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24に、使用者Mの落下による衝撃荷重がかかると、ねじりばね23の他端23aの係止は解消され、ねじりばね23による付勢力は効果を失い、安全帯装着具20(支持部26、フックガイド21)は、枢支部18を支点として垂直に回動し、親綱装着具10の下端部に垂直に変位する。
これにより、使用者Mが落下した衝撃荷重は、安全帯Bの着脱部の環状部材D、支持部26の下端連結部24を介して親綱装着具10に直接伝播し、後述の親綱装着具10を構成する第2半筒体16が第1半筒体14に対して相対的に下方に移動することで、ロープロック12の親綱押圧部12bが親綱Rを押圧する方向へ回動する。そして、ロープロック12の親綱押圧部12bが親綱Rを第1半筒体14の溝部10aに押圧して係合することによって、親綱Rは第1半筒体14の溝部10a内を摺動不可となり、使用者の転落が防止される。
以下、図5及び図9を参照して、使用者Mが装着した安全帯Bの着脱部である環状部材Dと安全帯装着具20との連結を説明する。安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24を、使用者Mが装着した安全帯Bの着脱部である環状部材Dに装着する場合には、操作ノブ29をスプリング31の付勢力に抗して操作すると、ロックピン27の貫通端27dが2枚の平板部26a、26b間のフックガイド21の先端部21aから抜け出た状態となる。この状態で、支持部26の上端連結部22を支点として下方に回動して環状部材Dを2枚の平板部26a、26b間に介在させる。
具体的には、図9(a)に示す状態から係止部材33を構成する操作ノブ29をスプリング31の付勢力に抗して操作(つまり、水平方向に引く)すると、図9(b)に示すように、ロックピン27の貫通端27dが2枚の平板部26a、26b間のフックガイド21の先端部21aから抜け出た状態(図5(b)参照)となる。そして、この状態で、図9(c)に示すように、係止部材33を含む安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24を、枢支部18を支点として下方に回動させることにより、安全帯装着具20の支持部26が親綱装着具10の下端部に垂直に変位する。そして、安全帯Bの着脱部である環状部材DをスペーサーSの上面Saと当接してフックガイド21と支持部26との間に介在させる。最後に、図9(d)に示すように、係止部材33を構成する操作ノブ29をスプリング31の付勢力に抗して操作した状態で、安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24を、枢支部18を支点として所定角度(例えば、100度~105度)回動させて操作ノブ29の操作をやめると、スプリング31の付勢力により、ロックピン27の貫通端27dが2枚の平板部26a、26b間のフックガイド21の先端部21aを挿通した状態(図5(a)参照)となる。
上述した操作により、スプリング31の付勢力によってロックピン27の貫通端27dが2枚の平板部26a、26b及び環状部材Dの環状孔を貫通し、安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24が使用者Mの装着した安全帯Bの環状部材Dに連結される。すなわち、安全帯装着具20の支持部26の下端連結部24が使用者Mの胸部ベルトに近接した状態で安全帯Bの環状部材Dに連結される。
本実施形態に係る転落防止装置1では、安全帯装着具20は、親綱装着具10と連結した上端連結部22と、安全帯Bの着脱部である環状部材Dと連結する下端連結部24との間を連結する所定長さの支持部26を備えており、さらに、支持部26の下端連結部24が使用者Mの胸部に近接して配置するように、フックガイド21により支持部26の下端連結部24を、枢支部18を支点として所定角度回動させた状態を維持する構成としているため、上昇したときに親綱装着具10を押し上げることができる。
すなわち、転落防止装置1では、使用者Mが親綱Rに沿って上昇移動する場合に、安全帯装着具20の下端連結部24に作用する押し上げ力を、支持部26を介して親綱装着具10に伝達し、この支持部26が親綱装着具10を下方から押し上げるようにしている。これにより、安全帯装着具20の下端連結部24が親綱装着具10よりも上方に位置する状態が回避される。
したがって、万一使用者Mが転落した場合であっても、親綱Rの摺動が禁止されるまでの落下距離を小さくし、安全帯装着具20を介して使用者Mに付加される衝撃荷重を緩和することができる。なお、当然のことながら、安全帯装着具20の支持部26は、使用者Mの転落による所定の衝撃荷重に耐えることができる強度で枢支部18に連結されている。
以下、親綱装着具10の具体的な構成について詳説する。親綱装着具10は、図2~図4に示すように、親綱Rを摺動自在に挿通する溝部10aを形成する断面略U字状の第1半筒体14と、この第1半筒体14の溝部10aと対向した位置に、第1半筒体14を摺動自在に抱持する断面略U字状の第2半筒体16とを備えている。なお、図中、15は、第2半筒体16の上端に取り付けられた親綱Rのロープガイドであり、このロープガイド15を第2半筒体16の上端に設けることにより、溝部10aを摺動する親綱Rが第2半筒体16側への摺接することを防止している。図中の14dは、第1半筒体14の溝部10a側に複数設けられた凸部であり、後述のロープロック12の親綱押圧部12bに設けられた複数の係合歯12cと親綱Rとの係合を強化するためのものである。図中、17bは、ロープガイド15を第2半筒体16の上端に固設する取付ボルト17aの先端を固定する取付ナットである。図中Wは、取付ナットと第2半筒体16の側壁16bの間に介在するワッシャー(平座金)である。
また、親綱装着具10は、安全帯装着具20の上端連結部22を回動自在に連結する枢支部18と、この枢支部18を介しての安全帯装着具20の回動範囲を規制する回動規制部19とを備えている。
枢支部18は、安全帯装着具20の支持部26の上端連結部22を、親綱装着具10の第2半筒体16の下端に逆U字状に形成された開口部16aに下方から挿入した状態で、第2半筒体16の両側壁16b、16c及び上端連結部22を、別途設けた連結ボルト18aを貫通させることにより構成される。図2中、18bは、連結ボルト18aの先端を固定する固定ナットである。図中Wは、固定ナット18bと第2半筒体16の側壁16bの間に介在するワッシャー(平座金)である。なお、枢支部18は、安全帯装着具20の支持部26の上端連結部22を使用者M側に回動可能に連結している。
回動規制部19は、第2半筒体16の下端の使用者M側であって安全帯装着具20の上端連結部22に近接する位置に設けられている。回動規制部19は、親綱装着具10の第2半筒体16の中央部を、下端から上方に一部逆U字状に切欠いた上部に形成されており、第2半筒体16の枢支部18を支点として使用者M側に回動する安全帯装着具20の支持部26の回動を、図1に示すように、使用者M側に所定角度以上回動しないように規制するためのものである。具体的には、安全帯装着具20の支持部26の上端連結部22が枢支部18を中心として回動して、支持部26の上端縁部が回動規制部19に当接することによって規制されるようになっている。
このように、親綱装着具10は、回動規制部19によって、枢支部18を介しての安全帯装着具20の回動範囲が規制されるので、親綱装着具10に対する安全帯装着具20の動きにある程度の自由度を持たせつつ、安全帯装着具20の下端連結部24が親綱装着具10よりも上方に位置した状態となることを回避することができる。このため、万一使用者が転落した場合であっても、親綱Rの摺動が禁止されるまでの使用者Mの落下距離を小さくし、安全帯装着具20を介して使用者に付加される衝撃荷重を緩和することができる。また、使用者Mが親綱Rに沿って上昇移動する場合に、安全帯装着具20の支持部26を介しての押上げ力を親綱装着具10に対して効率良く作用させることができる。
また、第2半筒体16は、その下端側に安全帯装着具20を連結する枢支部18及び安全帯装着具20の回動範囲を規制する回動規制部19を設けるとともに、これら枢支部18及び回動規制部19の上方に2個のロープロック12を上下に軸支している。このように、枢支部18、回動規制部19、及びロープロック12を親綱Rに沿って上下に配置することで、第1半筒体14と第2半筒体16との間隔の増大を抑制することになり装置構成を簡素化することができる。
なお、ロープロック12は、2個に限らず、1個あるいは2個以上設けても良い。ロープロック12を2個以上設ければ、使用者が転落した場合に親綱Rに作用する押圧力を増大することができ、親綱Rの摺動をより確実に禁止することで安全性を向上することができる。
ロープロック12は、第2半筒体16の両側壁16b、16c間に架設した支軸32と連結する基部12aと、この基部12aに連設するとともに、先端で親綱Rを押圧する親綱押圧部12bと、基部12aにおける親綱押圧部12b側から突設され、重合した第1半筒体14及び第2半筒体16の各両側壁14b、14c、16b、16cを貫通する連結ピン38とを有している。支軸32は、第2半筒体16の両側壁16b、16cの外側に、少なくとも1個以上のワッシャWを介して連結されており、連結ピン38も同様に、第2半筒体16の両側壁16b、16cの外側に、少なくとも1個以上のワッシャWを介して連結されている。このワッシャWは、平座金やナイロンワッシャー等が好適に用いられる。
基部12aは、下向きの断面略L字状を形成し、その一端に支軸32が挿通連結されている。親綱押圧部12bの先端は、第1半筒体14の溝部10aと対向する弧状縁とされ、その弧状縁に沿って複数の係合歯12cが設けられている。ロープロック12が親綱Rを押圧する方向へ回転することにより、親綱押圧部12bが親綱Rを第1半筒体14の溝部10aに押圧し、係合歯12cが親綱Rに噛み合い、係合するようになっている。係合歯12cと親綱Rとの係合により、親綱Rの摺動が不可となる。係合歯12cとしては、例えば、鋸歯状、十字歯状、斜行歯状の係合歯を採用することができる。また、必ずしも係合歯12cである必要はなく、摩擦係数を向上する形状、材料を採用しても良い。
また、第2半筒体16は、その両側壁16b、16cに連結ピン38を移動自在に挿通するとともに、移動範囲を規制する弧状案内孔40を有している。弧状案内孔40は、第1半筒体14側に向って膨出した弧状を形成している。
そして、本実施形態では、弧状案内孔40で規制された範囲内で、ロープロック12の支軸32回りの回動に伴い、連結ピン38を介して第1半筒体14を第2半筒体16内で上下摺動可能としている。
以下、図6及び図7を参照して、第1半筒体14及び第2半筒体16の周辺の構成及び親綱Rを垂直方向に摺動自在に挿通する親綱装着具10の溝部10a内において、軸回りに回動自在としたロープロック12が親綱Rの押圧する方向へ回転したときの親綱Rの摺動を不可とする動作を説明する。
図6に示すように、第2半筒体16が第1半筒体14に対して相対的に上方に移動すると、支軸32を介してロープロック12の基部12aが上方に押し上げられる一方、ロープロック12の連結ピン38が弧状案内孔40に沿って同弧状案内孔40の下端に向けて移動する。このため、支軸32を中心として図中の時計方向、すなわち、ロープロック12の親綱押圧部12bが親綱Rから離反する方向へロープロック12が回動する。このロープロック12の回動に伴い、連結ピン38を介して第1半筒体14が第2半筒体16内で相対的に下方へ摺動するようになっている。この状態では、ロープロック12の親綱押圧部12bの親綱Rに対する押圧力が弱い(又は、押圧力は作用しない)ので、係合歯12cと親綱Rとの係合が解除されている。例えば、使用者が定位置で作業している際、あるいは作業場所を変えるために昇降移動する際には、係合歯12cと親綱Rとの係合が解除され、親綱Rは第1半筒体14の溝部10a内を摺動可能となり、使用者は自由に移動することができる。
一方、図7に示すように、第2半筒体16が第1半筒体14に対して相対的に下方に移動すると、支軸32を介してロープロック12の基部12aが下方に引き下げられる一方、ロープロック12の連結ピン38が弧状案内孔40に沿って同弧状案内孔40における第1半筒体14側に向って最も膨出した部分に向けて移動する。このため、支軸32を中心として図中の反時計方向、すなわち、ロープロック12の親綱押圧部12bが親綱Rを押圧する方向へロープロック12が回動する。このロープロック12の回動に伴い、連結ピン38を介して第1半筒体14が第2半筒体16内で相対的に上方へ摺動するようになっている。この状態では、ロープロック12の親綱押圧部12bが親綱Rを第1半筒体14の溝部10aに押圧し、係合歯12cが親綱Rに噛み合い、係合する。この係合によって、親綱Rは第1半筒体14の溝部10a内を摺動不可となり、使用者の転落が防止される。
このように、本実施形態では、弧状案内孔40で規制された範囲内で、ロープロック12の支軸32回りの回動に伴い、連結ピン38を介して第1半筒体14を第2半筒体16内で上下摺動可能としているので、使用者が転落した際に、安全帯装着具20の上端連結部22を介して第2半筒体16の下端部に対して安全帯装着具20の伸延方向下向きの引張荷重が作用すると、第1半筒体14に対して第2半筒体16を相対的に下方へ円滑に摺動させることができる。このため、この摺動に連動して連結ピン38を介してロープロック12を支軸32周りに即座に回動することができ、結果として、使用者の落下とほぼ同時に親綱Rの摺動を禁止することができる。したがって、親綱Rの摺動が禁止されるまでの使用者の落下距離を可及的に小さくし、安全帯装着具20を介して使用者に付加される衝撃荷重を可及的に緩和することができる。また、使用者Mにかかる衝撃荷重は、フルハーネス型の安全帯Bにより、使用者Mの身体の複数箇所のベルト(肩ベルト、腰ベルト、腿ベルト等)に分散するため、使用者Mの体にかかる負担を可及的に低く抑えることができ、安全性に優れた転落防止装置1とすることができる。
以下、図8を参照して、本実施形態におけるロープロック12の親綱押圧部12bと第1半筒体14の溝部10a内に挿通する親綱Rとの間隔を調整する間隔調整部の構成を説明する。
図8に示すように、下方に配設されたロープロック12の親綱押圧部12bの下方であり、第2半筒体16の枢支部18の上方には、ロープロック12の親綱押圧部12bと第1半筒体14の溝部10a内に垂直に挿通した親綱Rとの間隔を調整する間隔調整部としての板バネ28が設けられている。
この板バネ28は、第2半筒体16の下端の回動規制部19の上方に、ネジ37によりネジ調整部28bに取り付けられている。そして、ネジ37を所定の方向(右又は左回り)に回すことで、板バネ先端部28aが上下に変位する。すなわち、図8(a)に示すように、板バネ先端部28aが下方に位置する場合は、ロープロック12の親綱押圧部12bと第1半筒体14の溝部10a内に垂直に挿通した親綱Rとの間隔は大きくなる。図8(b)に示すように、板バネ先端部28aが上方に位置する場合は、ロープロック12の親綱押圧部12bが板バネ先端部28aにより上部に押し上げられて、ロープロック12の親綱押圧部12bと第1半筒体14の溝部10a内に垂直に挿通した親綱Rとの間隔は小さくなる。
これにより、親綱Rを摺動自在に挿通する溝部10a内において、ロープロック12の親綱押圧部12bと溝部10aに垂直に挿通する親綱Rとの間隔を、親綱Rの太さ等に応じて一定間隔に調整することができるので、溝部10a内に挿通された親綱Rとロープロック12の親綱押圧部12bとの間隔を必要最低限の間隔に調整することができる。また、ロープロック12の親綱押圧部12bと親綱Rとの間隔を最小(必要最低限の間隔)に調整することで、親綱Rの摺動が禁止されるまでの使用者Mの落下距離が最小となるように調整することができ、安全帯装着具20を介して使用者Mに係る落下時の衝撃荷重を緩和することができる。
上記の本実施形態では、2個のロープロック12を設ける構成としたが、例えば、各ロープロック12の親綱押圧部12bと第1半筒体14の溝部10aとの間隔を異ならせ、各親綱押圧部12bの親綱Rに対する押圧力に差を設ける構成としても良い。
具体的には、支軸32や連結ピン38の配設位置を第1半筒体14の溝部10aから離間する方向へ移動したり、第1半筒体14の溝部10aにおけるロープロック12の親綱押圧部12bと対向する部位をロープロック12の親綱押圧部12bから離間する方向へ膨出させたりする構成とすることにより、各ロープロック12の親綱押圧部12bと第1半筒体14の溝部10aとの間隔を異ならせることができる。
このように、各ロープロック12の親綱押圧部12bと第1半筒体14の溝部10aとの間隔を異ならせ、各親綱押圧部12bの親綱Rに対する押圧力に差を設ければ、親綱Rに対する押圧力を分散し、各親綱押圧部12bの係合歯12cによる親綱Rの損傷を防止し、親綱Rの耐久性の向上を図ることができる。
ここで、上述してきた転落防止装置1は、図2及び図5に示すように、安全帯装着具20のロックピン27の貫通端27dによる支持部26とフックガイド21との連結(図5(a)参照)は、スプリング31の付勢力でしか保持されない。これでは、使用者Mが梯子Hを昇降中や梯子Hで作業中に、操作ノブ29と使用者Mの体や使用者が所持する工具等との接触による操作ノブ29が水平方向の移動することにより、操作ノブ29に連結されたロックピン27の貫通端27dがスプリング31の付勢力に抗して水平方向に移動することを規制(固定)できない。このため、使用者Mが意図しないタイミングで支持部26とフックガイド21との連結が解消(図5(b)参照)され、支持部26が垂直下方に変位して、安全帯Bの環状部材Dが支持部26から外れてしまう恐れがあり、使用者Mの落下した場合の安全が担保されない。そこで、スプリング31の付勢力に抗したロックピン27の水平方向の移動を確実に規制できる規制部材を係止部材33に設けることが望ましい。
以下、図10及び図11を参照して、係止部材33にロックピン27の水平方向の移動を規制する規制部材を設けた係止部材の第二実施形態を説明する。なお、以下の説明では、上述した係止部材33と異なる構成を重点的に説明し、同様な構成は省略する場合がある。
図10(b)に示すように、第二実施形態の係止部材33Aは、内部空間25cを有する箱型の内ガイド筒25と、内ガイド筒25のフランジ部25b側に上下を貫通して形成されたストッパー挿入孔25aに上部から挿入される平板状のストッパー60と、一端の連結端27cが内ガイド筒25内を水平に挿通して配設されると共に、他端の貫通端27dが支持部26とフックガイド21とを連結する(図5(a)参照)円柱状のロックピン27と、ロックピン27の連結端27cに内ガイド筒25のフランジ部25bを囲繞して連結されるプッシュボタン51を上部に有する筒状の操作ノブ50と、ロックピン27の中途の外周に設けられた挿入溝27aに嵌合するE型止め輪27bと、このE型止め輪27bにより内ガイド筒25の内部空間25cに、ロックピン27を内包して配設されるワッシャW及びスプリング31とにより構成されている。
ストッパー60は、略中央部にロックピン挿入孔62が形成され、その上部には、圧縮ばね63を係止する圧縮ばね係止部61が形成されている。ストッパー60は、圧縮ばね係止部61に圧縮ばね63を係止した状態で、内ガイド筒25のストッパー挿入孔25aに上部から挿入される。このとき、圧縮ばね63の下端は、内ガイド筒25のロックピン挿入孔62の上端近傍に形成された圧縮ばね載置部25dに載置され、圧縮ばね63の上端は、圧縮ばね係止部61の上端を上方に押し上げるように付勢する。これにより、ストッパー60の上端64がストッパー挿入孔25aの上部に突出する。
内ガイド筒25内のストッパー60のロックピン挿入孔62には、ロックピン27の連結端27cが内ガイド筒25のフランジ部25b側に突出するように挿入される。また、ロックピン27の連結端27c側の外周には係合溝27hが形成されている。この係合溝27hは、圧縮ばね63によるストッパー60の上方への付勢により、ロックピン挿入孔62の下縁端62aと係合して、ロックピン27の平方向の移動を規制する。つまり、ストッパー60は、変形例におけるロックピン27の水平方向の移動を規制する規制部材として機能する。
操作ノブ50は中央上部に開口部50aが設けられている。プッシュボタン51は、開口部50aの下方からプッシュボタン51の上部を挿入し、プッシュボタン51の後部両側に設けられた軸支部51a、51aを、開口部50aの両側下方に設けられた挿入部50b、50bにそれぞれ挿入して軸支部51a、51aを支点として上下動自在に軸支される。
操作ノブ50は、ロックピン27の連結端27cに内ガイド筒25のフランジ部25bを囲繞するようにワッシャWにより連結される。このとき、図11(a)に示すように、プッシュボタン51の底面51bは、ストッパー挿入孔25aの上部に突出したストッパー60の上端64に当接する。これにより、圧縮ばね63の付勢力によりストッパー挿入孔25aの上部に突出したストッパー60の上端64は、プッシュボタン51の底面51bを上方に押し上げる。
上記構成の係止部材33Aは、図10(a)に示すように、ロックピン27の貫通端27dがスプリング31の付勢力により、内ガイド筒25のE型止め輪27b側から突出した状態で一体に構成されている。そして、図2に示すように、係止部材33Aの内ガイド筒25は、平板部26bの垂直方向上下に対向して延設された上下平板部26c、26d間にビスNにより固設される。
以下、図11を参照して、係止部材33Aの内ガイド筒25の内部空間25cにおけるロックピン27の水平方向の移動の規制及び記載を解除するための操作ノブ50のプッシュボタン51の操作を説明する。図11(a)に示すように、圧縮ばね63の付勢力によりストッパー60は上方に付勢されている。これにより、ストッパー60のロックピン挿入孔62の下縁端62aは、ロックピン27の係合溝27hに係合する。この状態では、使用者Mが操作ノブ50をスプリング31の付勢力に抗して操作(つまり、引く)しても、ストッパー60のロックピン挿入孔62の下縁端62aとロックピン27の係合溝27hとが係合しているため、物理的にロックピン27の水平方向の移動が規制される。
図11(b)に示すように、使用者Mが操作ノブ50のプッシュボタン51を押下すると、プッシュボタン51の底面51bがストッパー60の上端64を下方に押圧し、ストッパー60が圧縮ばね63の付勢力に抗して垂直下方に変位する。これにより、ロックピン27の係合溝27hとロックピン挿入孔62の下縁端62aとの係合が解消されて、操作ノブ50をスプリング31の付勢力に抗して操作することが可能となる。
図11(c)に示すように、使用者Mが操作ノブ50のプッシュボタン51を押下した状態で、操作ノブ50をスプリング31の付勢力に抗して操作すると、ロックピン27はスプリング31の付勢力に抗して水平方向(図中は右方向)に移動させることが可能となる。これにより、支持部26とフックガイド21とのロックピン27の貫通端27dによる連結が解消(図5(b)参照)され、支持部26が垂直下方に変位(図9(c)参照)させることができ、安全帯Bの環状部材Dの支持部26への着脱が可能となる。
そして、使用者Mによる操作ノブ50の操作を止めると、ロックピン27はスプリング31の付勢力により水平方向(図中は左方向)に移動して、図11(a)に示す状態に戻るとともに、ストッパー60が圧縮ばね63の付勢力により垂直上方に変位して、ロックピン27の係合溝27hとストッパー60のロックピン挿入孔62の下縁端62aとが再び係合して、物理的にロックピン27の水平方向の移動が規制される。
上述してきた第二実施形態の係止部材33Aによれば、ロックピン27の水平方向の移動を物理的に規制する規制部材としてのストッパー60により、使用者Mが意図しないタイミングで支持部26とフックガイド21との連結が解消(図5(b)参照)されることで、安全帯Bの環状部材Dが支持部26から外れるという使用者Mの安全が担保されなくなる状態を防止することができる。また、このストッパー60によるロックピン27の水平方向の移動の規制解除機構(プッシュボタン51)を設けている。これにより、使用者Mは、プッシュボタン51を押下して操作ノブ50を操作する支持部26への安全帯Bの環状部材Dの着脱を容易に行うことができる。
以上、上記実施形態を通して本発明を説明してきたが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、上述した各効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。