JP7435905B2 - 質量分析装置及び質量分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、質量分析装置及び質量分析方法に関する。
試料中の高分子化合物成分を同定したりその構造を解析したりするために、試料成分由来のイオンから特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別し、そのプリカーサイオンを解離させて生成した種々のフラグメントイオンを質量電荷比に応じて分離し検出する質量分析法が広く利用されている。
高分子化合物の多くは炭化水素鎖を主たる骨格とする有機物である。高分子化合物の特性を知るには、炭素原子の不飽和結合の有無、特徴的な官能基の有無などの情報を得ることが有効である。そこで、最近では、試料成分由来のプリカーサイオンにラジカルを付着させることにより炭素原子の不飽和結合や特定の官能基の位置でプリカーサイオンを解離させる、ラジカル付着解離法が提案されている。例えば、特許文献1及び2には、プリカーサイオンに水素ラジカル等を付着させることによりペプチド結合の位置で選択的にプリカーサイオンを解離させることが記載されている。また、特許文献3及び4には、プリカーサイオンに酸素ラジカル等を付着させることにより炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の位置で選択的にプリカーサイオンを解離させることが記載されている。
ラジカル付着解離法を用いて試料に含まれる未知の成分を分析する際には、例えば前段マスフィルタ、コリジョンセル、及び後段マスフィルタを備えた質量分析装置を用いたデータディペンデント分析(DDA)が行われる。DDAでは、例えば液体クロマトグラフに液体試料を導入し、そのカラムで試料に含まれる成分を分離して質量分析装置に導入する。そして、各成分が質量分析装置に導入されている間にMS分析とMS/MS分析を連続して行う。MS分析では、試料成分から生成したイオンを前段マスフィルタ又は後段マスフィルタで質量電荷比に応じて分離し、それらを検出してマススペクトル(MSスペクトル)のデータを取得する。そして、マススペクトルに含まれるマスピークのうち、所定の基準を満たすもの(典型的には最も強度が大きいマスピーク)を特定し、そのマスピークに対応するイオンをプリカーサイオンとして決定する。MS/MS分析では、試料成分から生成したイオンの中から前段マスフィルタによってプリカーサイオンを選別し、コリジョンセルでプリカーサイオンを解離させてフラグメントイオンを生成し、後段マスフィルタでそれらを質量電荷比に応じて分離して検出し、プロダクトイオンスペクトル(MS/MSスペクトル)のデータを取得する。
MS分析及びMS/MS分析の終了後、MSスペクトル又はMS/MSスペクトルにおけるプリカーサイオンのマスピークのピークトップを特定してプリカーサイオンの質量電荷比を例えば小数点以下3桁の精密な値まで算出し、その精密質量電荷比に基づいて化合物の組成式を推定する。また、MS/MSスペクトルにおけるフラグメントイオンについても、マスピークの精密な質量電荷比に基づいて組成式を推定し、推定した組成式の化合物から生成されるイオンの部分分子構造を推定する。そして、複数のフラグメントイオンのマスピークから推定された部分分子構造を組み合わせて化合物全体の分子構造を推定し、当該化合物を同定する。
国際公開第2015/133259号 国際公開第2018/186286号 国際公開第2019/155725号 国際公開第2020/240908号 特開2020-177784号公報
Hidenori Takahashi, Yuji Shimabukuro, Daiki Asakawa, Akihito Korenaga, Masaki Yamada, Shinichi Iwamoto, Motoi Wada, Koichi Tanaka, "Identifying Double Bond Positions in Phospholipids Using Liquid Chromatography-Triple Quadrupole Tandem Mass Spectrometry Based on Oxygen Attachment Dissociation", Mass Spedctrometry, Volume 8, Issue 2, Pages S0080, 2020
特許文献1~4に記載のラジカル付着解離法で生成されるフラグメントイオンの量はプリカーサイオンの数%程度と少ない。そのため、これらのフラグメントトイオンを十分な強度で測定するには検出器のゲインを大きく設定する必要がある。しかし、そのようにゲインを大きくするとプリカーサイオンの測定強度が飽和してしまう。すると、プリカーサイオンのマスピークが変形してピークトップの位置を正確に特定することができなくなり、プリカーサイオンの精密質量電荷比の誤差が大きくなってしまう。上記のDDAでは、プリカーサイオンの精密質量電荷比に基づいて化合物の組成式を推定するため、プリカーサイオンの精密質量電荷比の誤差が大きくなると化合物の組成式を正しく推定することができず、化合物を同定することが難しくなるという問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、プリカーサイオンを解離させて生成したフラグメントイオンを質量分析する際に、フラグメントイオンを十分な強度で測定しつつ、プリカーサイオンの質量電荷比を正しく決定することができる技術を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析方法は、
プリカーサイオンを既知の種類のラジカルと反応させて、フラグメントイオンとアダクトイオンを生じさせるステップと、
検出器のゲインを、前記フラグメントイオン及び前記アダクトイオンがハレーションしないが、前記プリカーサイオンはハレーションするゲインに設定するステップと、
前記検出器によって、前記プリカーサイオン、前記フラグメントイオン、及び前記アダクトイオンを含むイオン群を測定してマススペクトルを得るステップと、
前記マススペクトルから、前記プリカーサイオンに対応するピークを特定するステップと、
前記特定されたプリカーサイオンに対応するピークから求められる質量に前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の質量を加算した質量値を中心とする所定の質量範囲内をサーチすることにより、前記アダクトイオンのピークを特定するステップと、
前記特定されたアダクトイオンのピークから求められる精密質量から、前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、前記プリカーサイオンの精密質量を推定するステップと、
前記マススペクトルにおける前記特定されたプリカーサイオン及び前記特定されたアダクトイオンのピーク以外のピークを、前記フラグメントイオンのピーク候補として特定するステップと
を備える。
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
プリカーサイオンが導入される反応室と、
既知の種類のラジカルを生成するラジカル生成部と、
プリカーサイオンが導入された前記反応室に前記ラジカル生成部で生成されたラジカルを供給して、フラグメントイオンとアダクトイオンを生じさせるラジカル供給部と、
前記プリカーサイオン、前記フラグメントイオン、及び前記アダクトイオンを含むイオン群を測定してマススペクトルを得る測定制御部と、
前記マススペクトルにおいて、前記プリカーサイオンに対応するピークを特定し、該プリカーサイオンに対応するピークから求められる質量に前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の質量を加算した質量値を中心とする所定の質量範囲内をサーチすることにより前記アダクトイオンのピークを特定し、該アダクトイオンのピークから求められる精密質量から、前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、前記プリカーサイオンの精密質量を推定する精密質量推定部と
を備える。
ラジカル付着解離法では、プリカーサイオンの数%のみが反応してアダクトイオンやフラグメントイオンが生成されるため、フラグメントイオンを十分な強度で測定するために検出器のゲインを大きくするとプリカーサイオンのマスピークの強度が飽和してしまう。一方、プリカーサイオンにラジカルが付着して生成されるアダクトイオンの量は、プリカーサイオンが解離して生成されるフラグメントイオンの量と同程度である。本発明に係る質量分析方法及び質量分析装置では、フラグメントイオンを十分な強度で測定するように検出器のゲインを設定することによって、アダクトイオンも同様に十分な強度で測定することができ、かつ、その精密質量を正しく決定することができる。そして、アダクトイオンのピークから求められる精密質量から該アダクトイオンに付着していると想定されるラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、プリカーサイオンの質量電荷比を正しく決定することができる。
本発明に係る質量分析装置の一実施例の要部構成図。 本実施例の質量分析装置におけるラジカル生成部の概略構成図。 本実施例の質量分析装置におけるラジカルの輸送経路の概略構成図。 イオン検出器の印加電圧を上限値に設定し、ホスファチジルコリン(PC18:2/18:0)を酸素ラジカルと反応させて測定したプロダクトイオンスペクトル。 図4のプロダクトイオンスペクトルの、プロトン付加イオンの近傍の範囲を示したもの。 プリカーサイオンを種々のラジカルと反応させたときに生成されるアダクトイオンの精密質量電荷比とプリカーサイオンの精密質量電荷比の差。
本発明に係る質量分析装置及び質量分析方法の実施例について、以下、図面を参照して説明する。
図1は、本実施例の質量分析装置1を液体クロマトグラフ2と組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置100の要部構成図である。
液体クロマトグラフ2は、移動相が収容された移動相容器20、移動相を送液する送液ポンプ21、インジェクタ22、及びカラム23を備えている。また、インジェクタ22には複数の液体試料を所定の順番でインジェクタに導入するオートサンプラ24が接続されている。
質量分析装置1は、略大気圧であるイオン化室10と真空チャンバで構成される本体と制御・処理部6を備えている。真空チャンバの内部には、イオン化室10の側から順に、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第3中間真空室13、及び分析室14を備えており、この順に真空度が高くなる多段差動排気系の構成を有している。
イオン化室10には、液体試料に電荷を付与して噴霧するエレクトロスプレイイオン化プローブ(ESIプローブ)101が設置されている。ESIプローブ101には、液体クロマトグラフ2のカラム23で分離された試料成分が順次、導入される。
イオン化室10と第1中間真空室11は細径の加熱キャピラリ102を通して連通している。第1中間真空室11には径が異なる複数のリング状の電極で構成され、イオンの飛行経路の中心軸であるイオン光軸Cの近傍にイオンを集束させるイオンレンズ111が配置されている。
第1中間真空室11と第2中間真空室12は頂部に小孔を有するスキマー112で隔てられている。第2中間真空室12には、イオン光軸Cを取り囲むように配置された複数のロッド電極で構成され、該イオン光軸Cの近傍にイオンを集束させるイオンガイド121が配置されている。
第3中間真空室13には、イオンを質量電荷比に応じて分離する四重極マスフィルタ131、多重極イオンガイド133を内部に備えたコリジョンセル132、及びコリジョンセル132から放出されたイオンを輸送するためのイオンガイド134が配置されている。イオンガイド134は同一径の複数のリング状の電極で構成されている。
コリジョンセル132には衝突ガス供給部4が接続されている。衝突ガス供給部4は、衝突ガス源41、該衝突ガス源41からコリジョンセル132にガスを導入するガス導入流路42、及び該ガス導入流路42を開閉するバルブ43を有している。衝突ガスには、例えば窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガスが用いられる。
また、コリジョンセル132には、ラジカル供給部5も接続されている。ラジカル供給部5は、特許文献5や非特許文献1に記載のものと同様の構成を有している。図1及び2に示すように、ラジカル供給部5は、内部にラジカル生成室51が形成されたラジカル源54と、ラジカル生成室51を排気する真空ポンプ(図示略)と、ラジカルの原料となるガス(原料ガス)を供給する原料ガス供給源52と、高周波電力供給部53とを備えている。原料ガス供給源52からラジカル生成室51に至る流路には、原料ガスの流量を調整するためのバルブ56が設けられている。
図2ではラジカル源54を断面図で示している。ラジカル源54は、アルミナ等の誘電体(例えば酸化アルミニウム、石英、窒化アルミニウム)からなる管状体541を有しており、その内部空間がラジカル生成室51となる。管状体541は、中空筒状の磁石544の内部に挿入された状態でプランジャー545により固定される。管状体541のうち、磁石544の内側に位置する部分の外周にはスパイラルアンテナ542(図2の破線)が巻回されている。
また、ラジカル源54には、高周波電力投入部546が設けられている。高周波電力投入部546には高周波電力供給部53から高周波電力が供給される。さらに、ラジカル源54は、該ラジカル源54の先端部分を固定するためのフランジ547を備えている。フランジ547の内部には、磁石544と対を成す、該磁石544と同径の中空筒状の磁石548が収容されている。磁石544、548により管状体541の内部(ラジカル生成室51)に磁場が発生し、その作用によりプラズマの発生及び維持が容易になる。
ラジカル源54の出口端にはバルブ582を介して、ラジカル生成室51内で生成されたラジカルをコリジョンセル132に輸送するための輸送管58が接続されている。輸送管58は絶縁管であり、例えば石英ガラス管やホウケイ酸ガラス管を用いることができる。
図3に示すように、輸送管58のうち、コリジョンセル132の壁面に沿って配設された部分には、複数のヘッド部581が設けられている。各ヘッド部581には傾斜したコーン状の導入口が設けられており、イオンの飛行方向の中心軸(イオン光軸C)と交差する方向にラジカルが導入される。これにより、コリジョンセル132の内部にまんべんなくラジカルを供給することができる。
分析室14には、第3中間真空室13から入射したイオンを輸送するためのイオン輸送電極141、イオンの入射光軸(直交加速領域)を挟んで対向配置された1組の押し出し電極1421と引き込み電極1422からなる直交加速電極142、該直交加速電極142により飛行空間に送出されるイオンを加速する加速電極143、飛行空間においてイオンの折り返し軌道を形成するリフレクトロン電極144、イオン検出器145、及び飛行空間の外縁を規定するフライトチューブ146を備えている。イオン検出器145は、例えば電子増倍管やマイクロチャンネルプレートである。
制御・処理部6は、各部の動作を制御するとともに、イオン検出器145で得られたデータを保存及び解析する機能を有する。制御・処理部6は、記憶部61を備えている。記憶部61には化合物データベース611とラジカル情報データベース612が収録されている。また、記憶部61には後述する測定を実行する際の測定条件を記載したメソッドファイルや、イオンの飛行時間をイオンの質量電荷比に変換するための情報も保存されている。制御・処理部6は、さらに、機能ブロックとして、測定条件設定部62、測定制御部63、精密質量推定部64、及び化合物同定部65を備えている。制御・処理部6の実体は、入力部7及び表示部8が接続された一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされた質量分析プログラムをプロセッサで実行することにより上記の機能ブロックが具現化される。
次に、本発明に係る質量分析方法の一例として、本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置100を用いた分析の手順を説明する。この例では、液体試料に含まれる未知の成分を同定するためにデータディペンデント分析(DDA)を行う。この例では未知成分の保持時間は既知であるものとする。未知成分の保持時間が不明である場合には液体クロマトグラフィを実行する時間全体にわたってDDAを行えばよい。DDAでは、各試料成分が質量分析装置1に導入されている間に、まずMSスキャン測定を行ってプリカーサイオンを決定し、続いてMS/MSスキャン測定を行って当該プリカーサイオンを解離させてプロダクトイオンスペクトルを取得する。また、以下の測定を行う前に、イオン検出器145のゲインは、フラグメントイオンを十分な強度で測定可能な値に設定される。イオン検出器145のゲインは、同種の試料を複数のゲイン設定で測定し、その結果に基づいて設定することができる。あるいは、予備的な測定を行わなくても、理論値で決めたり、分析者の経験に基づいて設定したりしてもよい。さらには、後記する測定例のように、フラグメントイオン及びアダクトイオンの強度が低いと見込まれるときは、検出器のゲインを最大に設定してもよい。本実施例では、MS/MSスキャン測定の際に、プリカーサイオンを酸素ラジカルと反応させる。
使用者が所定の入力操作により分析開始を指示すると、測定条件設定部62は、DDAにおける質量走査範囲、プリカーサイオンの選定条件、ラジカル種、衝突誘起解離(CID: Collision-Induced Dissociation)の情報を含む測定条件を入力する画面を表示部8に表示する。質量走査条件の情報としては、例えばMSスキャン測定及びMS/MSスキャン測定における質量走査範囲やスキャン速度を入力する。プリカーサイオンの選定条件の情報としては、例えばMSスキャン測定データにおいて最も測定強度が大きいイオンであることを入力する。ラジカル種の情報としては、例えばプリカーサイオンと反応させるラジカルの種類、あるいはラジカルの生成に使用する原料ガスの種類の情報を入力する。CIDについては、MS/MS測定におけるコリジョンガスの導入の有無、コリジョンガスの種類、及び衝突エネルギーの大きさを選択する。使用者がこれらを含む所要の測定条件を設定すると、測定条件設定部62はそれらを記載したバッチファイルを作成する。このバッチファイルを実行すると、測定制御部63により、以下のようにして未知成分の保持時間に合わせてMSスキャン測定とMS/MSスキャン測定が連続して行われる。
バッチファイルが作成された後、使用者が所定の入力操作により測定開始を指示すると、まず、真空ポンプによってラジカル生成室51の内部が所定の真空度に排気され、原料ガス供給源52から原料ガス(本実施例では酸素ガス)がラジカル生成室51に導入される。続いて、高周波電力供給部53からスパイラルアンテナ542に高周波電圧が供給され、ラジカル生成室51にプラズマが発生する。これによって、ラジカル生成室51に供給された酸素ガスから酸素ラジカルが生成される。ただし、この時点ではバルブ582を閉じておきコリジョンセル132に酸素ラジカルを導入しない。
次に、予め使用者がオートサンプラ24にセットした液体試料がインジェクタ22に導入される。液体試料は移動相容器20から送液ポンプ21によって送液される移動相の流れに乗ってカラム23に導入される。液体試料に含まれる各成分はカラム23で時間的に分離されたあと、順次、エレクトロスプレイイオン化プローブ101に導入されてイオン化される。
試料から生成されたイオンはイオン化室10と第1中間真空室11の圧力差により、加熱キャピラリ102を通って第1中間真空室11に引き込まれる。第1中間真空室11ではイオンレンズ111によってイオンがイオン光軸Cの近傍に集束される。
第1中間真空室11で集束されたイオンは続いて第2中間真空室12に進入し、再びイオンガイド121によってイオン光軸Cの近傍に集束されたあと、第3中間真空室13に進入する。
測定開始後、未知成分がカラム23から流出する時間(保持時間)に達すると、MSスキャン測定が行われる。MSスキャン測定では、第3中間真空室13において四重極マスフィルタ131及びコリジョンセル132を動作させずに全てのイオンをそのまま通過させる。コリジョンセル132を通過したイオンはイオンガイド134によってイオン光軸Cの近傍に集束された後、分析室14に進入する。
分析室14に進入したイオンはイオン輸送電極141によって直交加速電極142に輸送される。直交加速電極142には所定の周期で電圧が印加され、イオンの飛行方向がそれまでと略直交する方向に偏向される。飛行方向が偏向されたイオンは、加速電極143によって加速されて飛行空間に送出される。飛行空間に送出されたイオンは、リフレクトロン電極144とフライトチューブ146で規定された所定の飛行経路を、各イオンの質量電荷比に応じた時間で飛行し、イオン検出器145に入射する。イオン検出器145はイオンが入射する毎にイオンの入射量に応じた大きさの信号を出力する。イオン検出器145からの出力信号は順次、記憶部61に保存される。記憶部61には、イオンの飛行時間とイオンの検出強度を軸とする測定データが保存される。
MSスキャン測定が完了すると、測定制御部63は記憶部61に保存された測定データと、イオンの飛行時間をイオンの質量電荷比に変換する情報を読み出し、イオンの質量電荷比とイオンの検出強度を軸とするマススペクトルデータに変換する。
測定制御部63は、続いて、マススペクトルデータにおいて最も強度が大きいピークを特定し、その質量電荷比を取得する。本実施例で使用したエレクトロスプレイイオン化プローブ101では、通常、試料分子にプロトンが付加したプロトン付加イオンが最も多く生成される。従って、本実施例では最も強度が大きいピークに対応するプリカーサイオンとしてプロトン付加イオンが特定される。そして、プリカーサイオンの質量電荷比を概算値(例えば小数点以下1桁又は2桁の精度の値)で決定する。なお、数値として小数点以下3桁以上を求めること自体は可能であるが、測定強度が飽和しているため精密質量電荷比を求めたとしても、通常、その値には誤差が含まれる。
プリカーサイオンの質量電荷比を決定した後、測定制御部63は続いてMS/MSスキャン測定を行う。まず、バルブ582を開放し、酸素ラジカルをコリジョンセル132に導入する。
MS/MSスキャン測定においても、試料から生成されたイオンは、MSスキャン測定時と同様に、第1中間真空室11、第2中間真空室12を通る間にイオン光軸Cの近傍に集束されて第3中間真空室13に進入する。
第3中間真空室13では、四重極マスフィルタ131によって、上記のMSスキャン測定結果に基づいて決定された質量電荷比を有するイオンがプリカーサイオンとして選別され、コリジョンセル132に導入される。上記の通りコリジョンセル132には酸素ラジカルが導入されており、酸素ラジカルがプリカーサイオンに付着し、それによりプリカーサイオンが解離してなるフラグメントイオンと、解離せず酸素ラジカルが付着したままのアダクトイオンが生成される。コリジョンセル132で生成されたフラグメントイオン及びアダクトイオン(以下、これらをまとめて「プロダクトイオン」とも呼ぶ。)は、イオンガイド134によってイオン光軸Cの近傍に集束された後、分析室14に進入する。
分析室14では、MSスキャン測定時と同様にプロダクトイオンが、リフレクトロン電極144とフライトチューブ146で規定された所定の飛行経路を、各イオンの質量電荷比に応じた時間で飛行し、イオン検出器145に入射する。イオン検出器145はイオンが入射する毎にイオンの入射量に応じた大きさの信号を出力する。イオン検出器145からの出力信号は順次、記憶部61に保存される。記憶部61には、イオンの飛行時間とイオンの検出強度を軸とする測定データとして保存される。
測定が完了すると、測定制御部63は、記憶部61に保存された測定データと、イオンの飛行時間をイオンの質量電荷比に変換する情報を読み出し、イオンの質量電荷比とイオンの検出強度を軸とするマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)のデータに変換する。
次に、精密質量推定部64は、プロダクトイオンスペクトルにおける、プリカーサイオンに酸素原子が付着したアダクトイオンのマスピークを特定する。本分析例のようなラジカル付着解離法では、プリカーサイオンの数%のみが反応してプロダクトイオンが生成される。従って、プロダクトイオンスペクトルにおいて最も強度が大きいマスピークがプリカーサイオンのマスピークとなる。そして、それよりも酸素原子の概算質量に相当する16Daだけ大きい質量を中心とする所定の質量範囲内にあるピークを探索してアダクトイオンのピークとして特定する。この所定質量範囲は、プリカーサイオンに対応するピークの飽和の程度に応じて適宜に決めればよい。プリカーサイオンの検出強度が飽和している質量範囲が広いほどプリカーサイオンの質量電荷比の概算値の誤差が大きい可能性があることを考慮して上記所定の質量範囲を広くすればよく、具体的な数値としては、例えば±1Daや±0.5Daとすることができる。
精密質量推定部64は、続いて、アダクトイオンのマスピークの精密質量(質量電荷比)を小数点以下4桁の精度で求め、そこから酸素原子の精密質量(15.9949Da)を減じた値を算出する。これがプリカーサイオンの精密質量電荷比となる。通常は1つのアダクトピークを特定すれば十分であるが、ここで複数のアダクトピークを特定してもよい。例えば、上記実施例のように酸素ラジカルを用いた場合、酸素の同位体(15.9949Da, 16.9991Da, 17.9991Da)の存在比に応じた強度で複数のアダクトピークが現れる。従って、これら複数のアダクトピーク群を特定してもよい。
プリカーサイオンの精密質量電荷比が算出されると、化合物同定部65は、その精密質量電荷比に基づいて未知成分の組成式を推定する。また、プロダクトイオンスペクトルから、プリカーサイオンのマスピークとアダクトイオンのマスピークを除いたマスピークを、フラグメントイオンのマスピーク候補として特定する。そして、フラグメントイオンのマスピーク候補の精密質量電荷比からも未知成分の組成式を求め、それに基づいて未知成分の部分分子構造を推定する。複数のフラグメントイオンから推定した部分分子構造を組み合わせて、化合物データベース611に収録されている既知の化合物の分子構造と照合し、未知成分を同定する。フラグメントイオンから部分分子構造を推定して化合物を同定する処理は、特許文献1~4に記載されているような方法を用いて従来と同様に行えばよいため、ここでは説明を省略する。
本実施例の質量分析方法及び液体クロマトグラフ質量分析装置100では、上記のとおり、試料成分由来のプリカーサイオンを酸素ラジカルと反応させ、酸素原子が付着したアダクトイオンを含むプロダクトイオンを生成する。
ラジカル付着解離法では、プリカーサイオンの数%のみが反応してフラグメントイオンが生成される。フラグメントイオンを十分な強度で測定するためにイオン検出器145のゲインを大きくするとプリカーサイオンのマスピークの強度が飽和してしまう。一方、プリカーサイオンにラジカルが付着して生成されるアダクトイオンの量は、プリカーサイオンが解離して生成されるフラグメントイオンの量と同程度である。そのため、フラグメントイオンを十分な強度で測定するようにイオン検出器145のゲインを設定することによって、アダクトイオンも同様に十分な強度で測定することができ、かつ、その質量電荷比を正しく決定することができる。従って、アダクトイオンの質量電荷比と、当該アダクトイオンに付着している原子や分子の質量に基づいて、プリカーサイオンの質量電荷比を正しく決定することができる。特に、質量分析装置のイオン検出器として広く用いられている電子増倍管やマイクロチャンネルプレートでは検出器のゲインのダイナミックレンジが狭い範囲に限られており、測定強度が飽和しやすいため、上記実施例の質量分析方法及び質量分析装置1を好適に用いることができる。
なお、DDAではMSスキャン測定時とMS/MSスキャン測定時のイオン検出器145のゲインは同じであるため、MSスキャン測定により得られるマススペクトルにおいてもプリカーサイオンの測定強度が飽和しているが、MS/MSスキャン測定においてプリカーサイオンを選別するために必要とされる質量電荷比の精度は小数点1桁~2桁であるため、マススペクトルにおいてプリカーサイオンのマスピークの測定強度が飽和していても特段の問題は生じない。
次に、図4及び図5を参照して実際の測定例を説明する。図5は、ホスファチジルコリン(PC18:2/18:0)を酸素ラジカルと反応させて測定したプロダクトイオンスペクトルである。この測定ではイオン検出器としてマイクロチャンネルプレート(MCP)を用いた。本発明者が従来、リン脂質を各種のラジカルと反応させる測定を行った経験から、リン脂質を酸素ラジカルと反応させた場合に生成されるフラグメントイオン及びアダクトイオンの強度が低いことが分かっていたため、この測定では印加電圧を上限値である2.5kVに設定(即ち検出器のゲインを最大に設定)した。
図4は、図5のプロダクトイオンスペクトルのうち、プロトン付加イオン(プリカーサイオン。[M+H]+: 精密質量電荷比786.600731)の近傍の範囲を示したものである。プロダクトイオンスペクトルでは、プロトン付加イオン(水素原子が全て1Hである、モノアイソトピックイオン)のマスピークの測定強度が飽和しており、図4に示すようにマスピークの形状が崩れていることが分かる。また、このマスピークのピークトップの質量電荷比は786.6364となった。この値は真値(786.600731Da)から大幅にずれており、質量精度は約50ppmとなっている。なお、この測定に使用した質量分析装置の本来の質量精度は3ppmである。
MS/MSスキャン測定を行って分子構造を推定する際は、プリカーサイオンの精密質量から組成式を推定する。また、プロダクトイオンスペクトルから、プリカーサイオンのマスピークとアダクトイオンのマスピークを除いたマスピークを、フラグメントイオンのマスピーク候補として特定する。そして、推定した組成式と、特定したフラグメントイオンのマスピーク候補の質量電荷比に基づいて各フラグメントイオンのマスピーク候補を帰属させる。そのため、図5に示す例のように測定強度が飽和してプリカーサイオンの質量電荷比の誤差が大きくなると正しく構造解析を行うことができない。一般的に、プリカーサイオンの質量電荷比から正しく組成式を推定するためには10ppm以上の質量精度が求められる。
図5に示すとおり、検出器の印加電圧を高く設定したため微弱なフラグメントイオンが観測されている。上記のようにプリカーサイオンのマスピークの測定強度は飽和している一方、酸素ラジカルが付着しているアダクトイオンは信号強度が低いため、そのマスピークは飽和しておらず、その質量電荷比の値として802.6026が得られている。酸素ラジカルの精密質量は15.9949Daであるため、プリカーサイオン[M+H]+の質量値として802.6026-15.9949=786.6077が得られる。この値は、真値(786.600731Da)と10ppm以上の精度で一致している。
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例は液体クロマトグラフ質量分析装置としたが、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いてもよく、あるいはクロマトグラフを用いることなく質量分析装置のみを使用してもよい。上記実施例では後段マスフィルタとして直交加速飛行時間型のものを用いたが、多重周回型、磁場セクター型などのマスフィルタを用いることもできる。
また、精密質量は、その精密質量電荷比に基づいてプリカーサイオンから未知試料である化合物の組成式が推定できる程度の精度を有する質量であればよい。上記実施例では精密質量を小数点以下4桁の精度で算出しているが、必要な精度は測定する化合物の特性(類似の構造を有する化合物の数など)によって異なり、上記実施例に記載した精度に限られるものではない。
上記実施例では正イオンであるプロトン付加イオンをプリカーサイオンとし、それを酸素ラジカルと反応させたが、プリカーサイオンの極性及びラジカルの種類の組み合わせは適宜に変更することができる。負のプリカーサイオンを使用する場合には、例えばナトリウム付加体、アンモニア付加体、カリウム付加体、塩素付加体をプリカーサイオンとすることができる。
プリカーサイオンと反応させるラジカルとしては、酸素ラジカルのほか、例えば、水素ラジカル、ヒドロキシラジカル、窒素ラジカル、メチルラジカル、塩素ラジカル、フッ素ラジカル、リン酸ラジカル、ケイ素ラジカルなどが考えられる。また、そのようなラジカルを生成可能な原料ガスとして、例えば水素ラジカルを生成可能な水素ガス、酸素ラジカルを生成可能な酸素ガスやオゾンガス、水素ラジカル、酸素ラジカル、及びヒドロキシラジカルを生成可能な水蒸気、窒素ラジカルを生成可能な窒素ガス、メチルラジカルを生成可能なメチルガス、塩素ラジカルを生成可能な塩素ガス、フッ素ラジカルを生成可能なフッ素ガス、リン酸ラジカルを生成可能なリン酸の蒸気、あるいはケイ素ラジカルを生成可能なシランガスを用いることができる。図6に、各種のラジカル(X)を用いた場合に得られるアダクトイオン(通常のアダクトイオン[M+H(+X)]+(中央欄)、水素原子が脱離したアダクトイオン[M+H(+X-H)]+(左欄)、及び水素原子が付着したアダクトイオン[M+H(+X+H)]+)の精密質量電荷比とプリカーサイオンの精密質量電荷比の差を示す。
上記実施例ではコリジョンセル132を通過するプリカーサイオンをラジカルと反応させたが、コリジョンセル132に代えてイオントラップを用い、イオントラップにプリカーサイオンを捕捉してラジカルと反応させることもできる。
試料成分によってはラジカル誘起解離中にバックグランドガスとの衝突によりH2O、CO2、極性基などが脱離(ニュートラルロス)し、その結果、プリカーサイオンそのものは検出されない場合がある。その場合は、そのニュートラルロスピークへのラジカル付着イオンの質量値からプリカーサイオンの精密質量を算出すればよい。
上記実施例ではCIDを行わない場合の測定例を説明したが、ラジカルの供給と同時に衝突ガスをコリジョンセル132に導入し、CIDによってフラグメントイオンを生成するようにしてもよい。CIDを併用することにより、より多くの種類のフラグメントイオンを生成して解析に供することができる。ただし、CIDを行うことによって、プリカーサイオンが全て開裂してしまうと上記測定例の方法でプリカーサイオンの精密質量電荷比を求めることができない。そうした場合には、測定制御部63が、MSスキャン測定の後に、ラジカルと反応させるMS/MSスキャン測定と、CIDを行うMS/MSスキャン測定とを順番に(個別に)行うように構成すればよい(測定条件設定部62がこの順に測定を行うバッチファイルを作成すればよい)。
さらに、上記実施例ではMSスキャン測定とMS/MSスキャン測定を行う場合を説明したが、プリカーサイオンをイオントラップに捕捉して複数回解離させることによりフラグメントイオンを生成する、MSスキャン測定においても本発明を適用することができる。
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
(第1項)
一態様に係る質量分析方法は、
プリカーサイオンを既知の種類のラジカルと反応させて、フラグメントイオンとアダクトイオンを生じさせるステップと、
検出器のゲインを、前記フラグメントイオン及び前記アダクトイオンがハレーションしないが、前記プリカーサイオンはハレーションするゲインに設定するステップと、
当該検出器によって、前記プリカーサイオン、前記フラグメントイオン、及び前記アダクトイオンを含むイオン群を測定してマススペクトルを得るステップと、
前記マススペクトルから、前記プリカーサイオンに対応するピークを特定するステップと、
前記特定されたプリカーサイオンに対応するピークから求められる質量に前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の質量を加算した質量値を中心とする所定の質量範囲内をサーチすることにより、前記アダクトイオンのピークを特定するステップと、
前記特定されたアダクトイオンのピークから求められる精密質量から、前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、前記プリカーサイオンの精密質量を推定するステップと、
前記マススペクトルにおける前記特定されたプリカーサイオン及び前記特定されたアダクトイオンのピーク以外のピークを、前記フラグメントイオンのピーク候補として特定するステップと
を備える。
(第2項)
一態様に係る質量分析装置は、
プリカーサイオンが導入される反応室と、
既知の種類のラジカルを生成するラジカル生成部と、
プリカーサイオンが導入された前記反応室に前記ラジカル生成部で生成されたラジカルを供給して、フラグメントイオンとアダクトイオンを生じさせるラジカル供給部と、
前記プリカーサイオン、前記フラグメントイオン、及び前記アダクトイオンを含むイオン群を測定してマススペクトルを得る測定制御部と、
前記マススペクトルにおいて、前記プリカーサイオンに対応するピークを特定し、該プリカーサイオンに対応するピークから求められる質量に前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の質量を加算した質量値を中心とする所定の質量範囲内をサーチすることにより前記アダクトイオンのピークを特定し、該アダクトイオンのピークから求められる精密質量から、前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、前記プリカーサイオンの精密質量を推定する精密質量推定部と
を備える。
第1項の質量分析方法及び第2項の質量分析装置では、試料成分由来のプリカーサイオンを既知の種類のラジカルと反応させて、当該ラジカルの種類に応じた原子又は分子がプリカーサイオンに付着したアダクトイオン、及びプリカーサイオンが開裂したフラグメントイオンを生成する。そして、プリカーサイオン、フラグメントイオン、及びアダクトイオンを含むイオン群を測定してマススペクトルを得る。このとき、検出器のゲインを、フラグメントイオン及びアダクトイオンがハレーションしないが、プリカーサイオンはハレーションするゲインに設定しておく。そのような検出器のゲインは、同種の試料を複数のゲイン設定で測定し、その結果に基づいて設定することができる。あるいは、予備的な測定を行わなくても、理論値で決めたり、分析者の経験に基づいて設定したりしてもよい。さらには、フラグメントイオン及びアダクトイオンの強度が低いと見込まれるときは、検出器のゲインを最大に設定してもよい。いずれにしても、測定した結果として、フラグメントイオン及びアダクトイオンを十分な強度かつ飽和しないで測定できるゲインに設定されていればよい。
続いて、マススペクトルから、プリカーサイオンに対応するピークをそれぞれ特定する。一般的に、上記マススペクトルにおいて高さや面積が最大であるピークがプリカーサイオンに対応するピークである。従って、マススペクトルにおける最大のピークを、プリカーサイオンに対応するピークとして特定すればよい。そして、このピークからプリカーサイオンの質量を求める。上記のとおり、検出器のゲインはプリカーサイオンがハレーションするように設定されていることから、プリカーサイオンのピークは飽和しており、飽和したピークから求められる質量は誤差を含んでいるが、この時点で求める質量は整数レベルの概算値で正しければよく、例えば小数点以下の数値には多少の誤差があってもよい。続いて、この概算値に、アダクトイオンに付着していると想定されるラジカル由来の原子又は分子の質量を加算した質量値を中心とする所定の質量範囲内をサーチすることにより、アダクトイオンのピークを特定する。この所定質量範囲は、プリカーサイオンに対応するピークの飽和の程度に応じて適宜に決めればよく、例えば±1Daや±0.5Daとすることができる。その後、特定されたアダクトイオンのピークから求められる精密質量から、アダクトイオンに付着していると想定されるラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることによりプリカーサイオンの精密質量を推定する。最後に、マススペクトルにおけるプリカーサイオン及びアダクトイオンのピーク以外のピークをフラグメントイオンのピーク候補として特定する。
ラジカル付着解離法では、プリカーサイオンの数%のみが反応してアダクトイオンやフラグメントイオンが生成されるため、フラグメントイオンを十分な強度で測定するために検出器のゲインを大きくするとプリカーサイオンのマスピークの強度が飽和してしまう。一方、プリカーサイオンにラジカルが付着して生成されるアダクトイオンの量は、プリカーサイオンが解離して生成されるフラグメントイオンの量と同程度である。そのため、フラグメントイオンを十分な強度で測定するように検出器のゲインを設定することによって、アダクトイオンも同様に十分な強度で測定することができ、かつ、その質量電荷比を正しく決定することができる。そして、アダクトイオンのピークから求められる精密質量から該アダクトイオンに付着していると想定されるラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、プリカーサイオンの質量電荷比を正しく決定することができる。
(第3項)
第2項に記載の質量分析装置において、
前記ラジカルが、水素ラジカル、酸素ラジカル、ヒドロキシラジカル、窒素ラジカル、メチルラジカル、塩素ラジカル、フッ素ラジカル、リン酸ラジカル、及びケイ素ラジカルのいずれかである。
第3項に記載の質量分析装置のように、第2項に記載の質量分析装置においてプリカーサイオンと反応させるラジカルとして、水素ラジカル、酸素ラジカル、ヒドロキシラジカル、窒素ラジカル、メチルラジカル、塩素ラジカル、フッ素ラジカル、リン酸ラジカル、及びケイ素ラジカルのいずれかとすることができる。これらのラジカルはいずれも生成容易であり、またプリカーサイオンに付着する原子又は分子を予測可能であることから、簡便な測定でプリカーサイオンの精密質量電荷比を取得することができる。
(第4項)
第2項又は第3項に記載の質量分析装置において、
前記イオン群を検出するイオン検出器として電子増倍管又はマイクロチャンネルプレートを備える。
第4項に記載の質量分析装置において用いる電子増倍管やマイクロチャンネルプレートは、イオン検出器として広く用いられているが、検出器のゲインのダイナミックレンジが狭い範囲に限られるため、第2項又は第3項に記載の質量分析装置を特に好適に用いることができる。
(第5項)
第2項から第4項のいずれかに記載の質量分析装置において、さらに、
前記測定制御部が、試料から生成されたイオンを質量分離して測定するMSスキャン測定を行ってマススペクトルデータを取得し、該マススペクトルデータに含まれるマスピークに基づいて予め決められた条件でプリカーサイオンを決定し、その後、当該プリカーサイオンを前記ラジカルと反応させるMS/MSスキャン測定を実行する。
第5項の質量分析装置を用いることにより、未知の試料成分についてデータディペンデント分析(DDA)を行うことができる。
(第6項)
第5項に記載の質量分析装置において、さらに、
前記反応室に衝突ガスを供給する衝突ガス供給部
を備え、
前記測定制御部が、前記プリカーサイオンを前記ラジカルと反応させるMS/MSスキャン測定と、前記衝突ガスを前記反応室に供給するMS/MSスキャン測定とを実行する。
第6項に記載の質量分析を用いることにより、ラジカル付着解離法で生成されるフラグメントイオンとCID法で生成されるフラグメントイオンの両方を用いて試料成分を分析することができる。なお、ラジカル付着解離法を用いるMS/MSスキャン測定とCID法を用いるMS/MSスキャン測定は同時に行ってもよく、個別に行ってもよい。ただし、CID法によってプリカーサイオンの多くが開裂する場合には、両者を順番に(個別に)行うことが好ましい。
100…液体クロマトグラフ質量分析装置
1…質量分析装置
10…イオン化室
101…エレクトロスプレイイオン化(ESI)プローブ
11…第1中間真空室
12…第2中間真空室
13…第3中間真空室
131…四重極マスフィルタ
132…コリジョンセル
133…多重極イオンガイド
14…分析室
142…直交加速電極
144…リフレクトロン電極
145…イオン検出器
146…フライトチューブ
2…液体クロマトグラフ
20…移動相容器
21…送液ポンプ
22…インジェクタ
23…カラム
24…オートサンプラ
4…衝突ガス供給部
41…衝突ガス源
42…ガス導入流路
5…ラジカル供給部
51…ラジカル生成室
52…原料ガス供給源
53…高周波電力供給部
54…ラジカル源
541…管状体
542…スパイラルアンテナ
544、548…磁石
546…高周波電力投入部
58…輸送管
6…制御・処理部
61…記憶部
611…化合物データベース
612…ラジカル情報データベース
62…測定条件設定部
63…測定制御部
64…精密質量推定部
65…化合物同定部
7…入力部
8…表示部
C…イオン光軸

Claims (6)

  1. プリカーサイオンを既知の種類のラジカルと反応させて、フラグメントイオンとアダクトイオンを生じさせるステップと、
    検出器のゲインを、前記フラグメントイオン及び前記アダクトイオンがハレーションしないが、前記プリカーサイオンはハレーションするゲインに設定するステップと、
    当該検出器によって、前記プリカーサイオン、前記フラグメントイオン、及び前記アダクトイオンを含むイオン群を測定してマススペクトルを得るステップと、
    前記マススペクトルから、前記プリカーサイオンに対応するピークを特定するステップと、
    前記特定されたプリカーサイオンに対応するピークから求められる質量に前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の質量を加算した質量値を中心とする所定の質量範囲内をサーチすることにより、前記アダクトイオンのピークを特定するステップと、
    前記特定されたアダクトイオンのピークから求められる精密質量から、前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、前記プリカーサイオンの精密質量を推定するステップと、
    前記マススペクトルにおける前記特定されたプリカーサイオン及び前記特定されたアダクトイオンのピーク以外のピークを、前記フラグメントイオンのピーク候補として特定するステップと
    を備える質量分析方法。
  2. プリカーサイオンが導入される反応室と、
    既知の種類のラジカルを生成するラジカル生成部と、
    プリカーサイオンが導入された前記反応室に前記ラジカル生成部で生成されたラジカルを供給して、フラグメントイオンとアダクトイオンを生じさせるラジカル供給部と、
    前記プリカーサイオン、前記フラグメントイオン、及び前記アダクトイオンを含むイオン群を測定してマススペクトルを得る測定制御部と、
    前記マススペクトルにおいて、前記プリカーサイオンに対応するピークを特定し、該プリカーサイオンに対応するピークから求められる質量に前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の質量を加算した質量値を中心とする所定の質量範囲内をサーチすることにより前記アダクトイオンのピークを特定し、該アダクトイオンのピークから求められる精密質量から、前記アダクトイオンに付着していると想定される前記ラジカル由来の原子又は分子の精密質量を減じることにより、前記プリカーサイオンの精密質量を推定する精密質量推定部と
    を備える質量分析装置。
  3. 前記ラジカルが、水素ラジカル、酸素ラジカル、ヒドロキシラジカル、窒素ラジカル、メチルラジカル、塩素ラジカル、フッ素ラジカル、リン酸ラジカル、及びケイ素ラジカルのいずれかである、請求項2に記載の質量分析装置。
  4. 前記イオン群を検出するイオン検出器として電子増倍管又はマイクロチャンネルプレートを備える、請求項2に記載の質量分析装置。
  5. さらに、
    前記測定制御部が、試料から生成されたイオンを質量分離して測定するMSスキャン測定を行ってマススペクトルデータを取得し、該マススペクトルデータに含まれるマスピークに基づいて予め決められた条件でプリカーサイオンを決定し、その後、当該プリカーサイオンを前記ラジカルと反応させるMS/MSスキャン測定を実行する
    ものである、請求項2に記載の質量分析装置
  6. さらに、
    前記反応室に衝突ガスを供給する衝突ガス供給部
    を備え、
    前記測定制御部が、前記プリカーサイオンを前記ラジカルと反応させるMS/MSスキャン測定と、前記衝突ガスを前記反応室に供給するMS/MSスキャン測定とを実行する、請求項5に記載の質量分析装置。
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