以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、各実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。
各実施形態に係るリップ形成方法でいうリップとは、溶接前に互いに接合される2つの被溶接対象物の少なくとも一方の母材に形成され、溶接時に熱源が照射されることで溶融して溶接金属となる突出部をいう。また、各実施形態に係る溶接方法は、各実施形態に係るリップ形成方法を用いて形成されたリップをいずれか一方が有する2つの被溶接対象物を互いに接合するために溶接する方法である。
一般に、溶接時に溶融して溶接金属となる溶接材料としてフィラー(溶加材)を添加しながら溶接する方法がある。しかし、例えば、溶接部位に関する要因、溶接装置に関する要因、溶接方法に関する要因、または、仮付け作業に関する要因から、溶接時にフィラーの添加が困難な場合がある。溶接部位に関する要因は、被溶接対象物が複雑形状であったり、溶接部が狭隘部にあったり、被溶接対象物の近くに干渉する部材があったりするような要因である。溶接装置に関する要因は、フィラーの送給に起因するトラブルを回避したい遠隔自動溶接機や、装置構成の簡略化や軽量化をしたい自動溶接機など、可能であれば装置構成からフィラーの送給機構を無くしたいという要望に係る要因である。溶接方法に関する要因は、例えば、熱源がレーザ光であってミラー反射による複数個所溶接を行う場合など、事実上、フィラーの添加が困難であるような要因である。また、仮付け作業に関する要因は、仮付け作業の簡易化や仮付け精度の向上に関する要望に係る要因である。これに対して、少なくともいずれか一方にリップが形成されている2つの被溶接対象物を互いに接合する溶接方法によれば、溶接時のフィラーの添加が不要となるので、上記のようなフィラーの添加が困難な場合への対処として特に有効である。
(第1実施形態)
第1実施形態に係るリップ形成方法は、互いに接合される2つの被溶接対象物の母材にリップを形成する方法である。本実施形態が適用される2つの被溶接対象物の母材は、それぞれ平板状部材である。また、2つの被溶接対象物は、以後、突合せ溶接により互いに接合されるものとする。
図1および図2は、本実施形態に係るリップ形成方法に関する図である。ここで、本実施形態に適用される2つの被溶接対象物の母材は、一例として、互いに同一形状で、かつ、互いに鋼材で形成された第1平板部材10と第2平板部材12とである。また、以後の突合せ溶接では、第1平板部材10の第1端面10bと第2平板部材12の第2端面12bとが接合されるものとする。この場合、一方の被溶接対象物の母材である第1平板部材10にリップ20aが形成され、他方の被溶接対象物の母材である第2平板部材12にはリップが形成されない。
本実施形態に係るリップ形成方法は、肉盛り工程と、リップ加工工程とを含む。
図1は、肉盛り工程を説明する図である。図1(a)は、肉盛り工程が実施されている途中の状態にある第1平板部材10を示す図である。図1(b)は、肉盛り工程が終了している状態にある第1平板部材10を示す図である。図1(c)は、図1(b)におけるIC-IC断面に対応し、肉盛り部20の延伸方向とは垂直な面で切断した第1平板部材10の一部断面図である。
肉盛り工程は、リップ20aが形成される方の母材である第1平板部材10に、肉盛り溶接により肉盛り部20を形成する工程である。ここで、肉盛り溶接を行う溶接装置は、金属積層溶接装置であってもよい。金属積層溶接装置は、例えば、熱源として高密度エネルギーであるレーザ光Lを照射位置に向けて照射しながら、照射位置に形成された溶融領域に金属パウダーPOを吹き付けることで、金属材料を堆積させ、連続的な肉盛り部20を造形する溶接装置である。なお、肉盛り溶接を行う溶接装置としては、これに限らず、電子ビーム溶接、プラズマ溶接、TIG溶接など、母材上に肉盛り部を形成することができるものであれば、様々な溶接装置を採用し得る。
肉盛り工程では、肉盛り部20は、第1平板部材10の互いに連続する2つの面の双方に接するように形成される。本実施形態のように2つの被溶接対象物が互いに突合せ溶接により接合される場合、ここでいう2つの面のうちの一方の面は、第1平板部材10と第2平板部材12とが対向する端面、すなわち、第1端面10bである。また、2つの面のうちの他方の面は、第1平板部材10と第2平板部材12とが溶接されるときに熱源が照射される側の表面、すなわち、第1平板部材10の第1表面10aである。
肉盛り工程では、図1(a)に示すように、上記のように規定された2つの面の双方に接する肉盛り部20が、第1端面10bの長手方向に沿って、第1端面10bの一方の端部から他方の端部に向かって徐々に形成されていく。最終的に、肉盛り工程が終了した段階では、図1(b)に示すように、第1平板部材10には、丸棒状の肉盛り部20が形成される。肉盛り工程後では、肉盛り部20と接する第1平板部材10の一部は、図1(c)に示すように溶融され、肉盛り部20の一部と一体化する。
図2は、リップ加工工程を説明する図である。図2(a)は、リップ加工工程が終了している状態、すなわち、本実施形態に係るリップ形成方法でリップが形成された状態にある第1平板部材10を示す図である。図2(b)は、図2(a)におけるIIB-IIB断面に対応し、リップ20aの延伸方向とは垂直な面で切断した第1平板部材10の一部断面図である。
リップ加工工程は、肉盛り工程で形成された肉盛り部20を切削して、リップ20aの形状に加工する工程である。ここで、肉盛り部20を切削する加工装置は、特に限定されるものではなく、一般的な加工装置の中から適切な加工装置を選択し、採用してよい。
リップ加工工程では、リップ20aは、少なくとも、第1平板部材10と第2平板部材12とが溶接されるときに第2平板部材12の第2表面12a(図3参照)の一部とリップ20aとが対向する形状に加工される。本実施形態の例では、リップ加工工程が終了した段階では、図2(a)に示すように、第1平板部材10には、角棒状のリップ20aが形成される。
この場合、リップ20aは、図2(b)に示すように、それぞれ長手方向に沿った、上面20c、下面20e、第1側面20bおよび第2側面20dを有する。上面20cは、第1表面10aとおおよそ平行となる面であり、第1表面10aから高さH1の位置にある。下面20eは、上面20cの反対側にある面であり、第1表面10aとおおよそ同じ高さ位置にある。本実施形態では、第1平板部材10と第2平板部材12とが溶接されるときに、下面20eが第2平板部材12の第2表面12aと対向することになる。第1側面20bは、第1表面10aに対しておおよそ垂直で、かつ、第1表面10aと接する面である。第2側面20dは、第1側面20bの反対側にある面であり、第1表面10aに対しておおよそ垂直であるが、第1表面10aとは接しない。また、第2側面20dは、第1端面10bとはおおよそ平行で、かつ、第1端面10bから幅W1だけ離れた位置にある。
本実施形態におけるリップ加工工程では、上面20c、下面20e、第1側面20bおよび第2側面20dのすべてが切削により平坦化される。つまり、これら面は、切削前には肉盛り部20の内部にある。また、リップ加工工程では、肉盛り部20のうち、第1表面10aと連続して第1側面20bに接する面、および、第1端面10bと連続して下面20eに接する面も、併せて平坦化される。
ただし、上面20c、第1側面20bおよび第2側面20dのうちのいずれかの面が切削されずに、肉盛り部20の一部がそのままの形で残存してもよい場合もあり得る。
次に、本実施形態に係るリップ形成方法を用いて形成されたリップ20aを有する第1平板部材10と、第2平板部材12とを接合する溶接方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る溶接方法を説明する図である。図3(a)は、本実施形態に係る溶接方法を実施している途中の状態にある第1平板部材10および第2平板部材12を示す図である。図3(b)は、図3(a)におけるIIIB-IIIB断面に対応し、いまだ溶接されていない部分を溶接方向とは垂直な面で切断した第1平板部材10および第2平板部材12の一部断面図である。図3(c)は、図3(a)におけるIIIC-IIIC断面に対応し、すでに溶接された部分を溶接方向とは垂直な面で切断した第1平板部材10および第2平板部材12の一部断面図である。
本実施形態に係る溶接方法は、リップ形成工程と、位置決め工程と、溶接工程とを含む。
リップ形成工程は、上記のリップ形成方法により、第1平板部材10にリップ20aを形成する工程である。
位置決め工程は、リップ形成工程の後に、突合せ溶接時の位置として、第2平板部材12からなる一方の被溶接対象物に対して、リップ20aを含む第1平板部材10からなる他方の被溶接対象物を位置決めする工程である。位置決め工程により互いに位置決めされた第1平板部材10および第2平板部材12の状態は、本実施形態では、図3(b)に示す状態に対応する。具体的には、位置決め工程により、リップ20aが形成されている方の第1平板部材10の第1端面10bと、リップが形成されていない方の第2平板部材12の第2端面12bとは、対向する。ここで、第1端面10bと第2端面12bとは互いに接してもよい。一方、本実施形態によれば、第1端面10bと第2端面12bとの間には、図3(b)に示すように、隙間G1が設けられてもよい。また、位置決め工程により、リップが形成されていない方の第2平板部材12の第2表面12aの一部と、第1平板部材10に形成されているリップ20aの一部とは、対向する。ここで、第1平板部材10に形成されているリップ20aの一部とは、すなわち、リップ20aの下面20eである。
溶接工程は、位置決め工程の後に、リップ20aを溶融させながら2つの被溶接対象物を突合せ溶接する工程である。ここで、突合せ溶接を行う溶接装置は、フィラーの送給を要しないレーザ溶接装置であってもよい。レーザ溶接装置は、例えば、熱源として高密度エネルギーであるレーザ光Lを接合位置上にあるリップ20aに集光した状態で照射して局部的に溶融・凝固させることで、2つの被溶接対象物を互いに接合する溶接装置である。なお、突合せ溶接を行う溶接装置としては、これに限らず、特にフィラーの送給を要しない、電子ビーム溶接、プラズマ溶接、TIG溶接など、様々な溶接装置を採用し得る。
溶接工程では、図3(a)に示すように、リップ20aの延伸方向に沿って、第1端面10b及び第2端面12bの一方の端部から他方の端部に向かって徐々に溶接が進行し、溶接部には溶接金属30が形成されていく。溶接工程の終了により、2つの被溶接対象物、すなわち、第1平板部材10と第2平板部材12との接合が完了する。溶接工程が終了した段階では、図3(c)に示すように、リップ20aは溶融されて、溶接金属30となり、第1平板部材10および第2平板部材12と一体化する。なお、図3(c)では、比較のために、溶融前のリップ20aの形状を二点鎖線で示している。
ここで、位置決め工程において、第1端面10bと第2端面12bとの間に、適切な寸法に調整された隙間G1が設けられていると仮定する。この場合、溶接工程においてリップ20aが溶融されたときに、溶融したリップ20aは、図3(b)に示すように、第1平板部材10および第2平板部材12の反対側にまで到達しやすくなる。ここで、第1平板部材10および第2平板部材12の反対側とは、溶接時に熱源が照射される側の反対側を意味する。具体的には、第1平板部材10では、第1表面10aとは反対側の第1裏面10cであり、第2平板部材12では、第2表面12aとは反対側の第2裏面12cである。つまり、この場合の溶接部では、第1表面10aおよび第2表面12a、ならびに、反対側である第1裏面10cおよび第2裏面12cの双方の側に、溶接金属30の余盛が形成されることになる。すなわち、溶接部が減肉状態となることを予め抑えることができる。
本実施形態に係るリップ形成方法において、リップ20aの材質は、被溶接対象物の母材の材質または大きさにより、適宜選択される。このとき、肉盛り部20を形成する材料に、予め材料特性を向上させる成分を付与しておいてもよい。これにより、リップ20aには、材料特性を向上させる成分が含まれることになり、最終的に形成される溶接部に、フィラーが添加された場合と同様の特性が持たせることができる。具体的には、溶接金属30を低炭素化させたり、Ni系を用いてオーステナイト化させたりするなど、金属組織を改善させることができ、結果として、継手性能を向上させるほか、割れの発生を抑えたり、施工裕度を大きくさせたりするのに有利となる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法において、リップ20aの大きさも、被溶接対象物の母材の材質または大きさにより、適宜選択される。例えば、リップ20aの大きさを適宜調整することで、第1端面10bと第2端面12bとの間の隙間G1が所望の寸法よりも大きくなるような場合には、リップ20aの大きさを大きくすることで、溶接金属30の余盛不足を予め回避させることができる。
次に、本実施形態に係るリップ形成方法および溶接方法による効果について説明する。
まず、本実施形態に係るリップ形成方法は、互いに接合される2つの被溶接対象物の少なくとも一方の母材に、溶接時に溶融されるリップを形成する。また、リップ形成方法は、母材に肉盛り溶接により肉盛り部20を形成する肉盛り工程と、肉盛り工程で形成された肉盛り部20を切削してリップ20aの形状に加工するリップ加工工程とを含む。
ここで、本実施形態では、2つの母材は、平板状部材であり、例えば、第1平板部材10と第2平板部材12とに相当する。また、本実施形態では、2つの被溶接対象物が互いに突合せ溶接により接合される場合に相当し、肉盛り工程では、肉盛り部20は、一方の被溶接対象物の母材である第1平板部材10に形成される。
本実施形態に係るリップ形成方法では、母材に形成されるリップ20aは、母材に肉盛りされた肉盛り部20を加工して形成されたものである。したがって、例えば、肉盛り部20を形成する材料として、予め以後の溶接において溶融されることを想定して適当な材料を選定しておくことで、溶接時にはリップ20aを所望の状態に溶融させることができる。具体的には、リップ20aの材料を、溶接時に溶融部で溶融しやすく、余盛の形成や、2つの被溶接対象物の母材同士の隙間の変動などに対して柔軟に対応することができる。本実施形態に係るリップ形成方法によれば、結果として、溶接部が減肉状態となったり、割れが発生しやすくなったりすることを予め抑えることができる。したがって、従来の母材と同一材料からなるリップを有する被溶接対象物同士を溶接する場合に比べて、継手性能を向上させることができる。
比較例として、従来、リップを有する被溶接対象物を形成する場合には、ある素材を切削加工することで、リップ部が形成される。つまり、リップが形成されている被溶接対象物を接合する従来の溶接方法では、母材の一部であるリップを溶融させることになる。そして、被溶接対象物の母材の材質は、最終的に製造される構造体での一部位としての性能を主たる条件として選定されるものであって、溶接時に溶融させることを主たる条件として選定されるものではない。そのため、特定の材質からなる母材によっては、リップを好適に溶融させることができず、結果として、溶接部が減肉状態となったり、割れが発生しやすくなったりするおそれがある。
このように、本実施形態によれば、継手性能を向上させるのに有利なリップ形成方法を提供することができる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法による効果は、上記の効果に限られない。例えば、従来、リップは母材に対して切削加工により形成されるので、母材の元となる素材の板厚は、本来必要な板厚ではなく、リップを含めた板厚となる。したがって、母材が大きいほど、材料費や加工費などのコストが増加するおそれがある。これに対して、本実施形態によれば、元の素材は、母材の形状として準備すればよいので、材料費を抑えたり、また、切削加工がない分、加工費を抑えたりすることができる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法における肉盛り工程では、肉盛り部20は、母材の互いに連続する2つの面の双方に接するように形成されてもよい。特に本実施形態では、2つの面は、2つの母材が互いに対向する端面と、2つの被溶接対象物が互いに溶接されるときに熱源が照射される側の表面とであってもよい。
本実施形態によれば、以後のリップ加工工程において形成されるリップ20aの形成位置に合う場所に肉盛り部20が形成されることになる。したがって、肉盛り部20を形成させるための材料の節約や、肉盛り工程に要する溶接時間の削減などに有利となる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法におけるリップ加工工程では、リップ20aは、2つの被溶接対象物が互いに溶接されるときに、リップが形成されていない方の母材の表面の一部とリップ20aの一部とが対向する形状に加工されてもよい。
本実施形態によれば、2つの被溶接対象物が互いに溶接される溶接部にてリップが適切に溶融されやすくなるので、継手性能を向上させるのにより有利となる。
次に、本実施形態に係る溶接方法は、母材が平板状部材である2つの被溶接対象物を互いに接合する。溶接方法は、2つの被溶接対象物の一方の母材に、上記のリップ形成方法によりリップ20aを形成するリップ形成工程を含む。溶接方法は、一方の被溶接対象物に対して他方の被溶接対象物を位置決めする位置決め工程を含む。このとき、リップ20aが形成されている方の母材の端面と、リップが形成されていない方の母材の端面とが対向し、かつ、リップが形成されていない方の母材の表面の一部とリップ20aの一部とが対向する。また、溶接方法は、位置決め工程の後に、リップ20aを溶融させながら2つの被溶接対象物を突合せ溶接する溶接工程を含む。
本実施形態に係る溶接方法によれば、リップ20aは上記のリップ形成方法により形成されたものであるので、溶接された被溶接対象物同士の継手性能は、従来の溶接方法により溶接された被溶接対象物同士の継手性能よりも向上する。
(第2実施形態)
第2実施形態に係るリップ形成方法は、第1実施形態に係るリップ形成方法と同様に、互いに接合される2つの被溶接対象物の母材にリップを形成する方法である。ただし、本実施形態が適用される2つの被溶接対象物の母材は、第1実施形態と異なり、それぞれ管状部材である。これに伴い、2つの被溶接対象物は、以後、縦継ぎ溶接により互いに接合される。
図4~図6は、本実施形態に係るリップ形成方法に関する図である。ここで、本実施形態に適用される2つの被溶接対象物の母材は、一例として、互いに同一規格で、かつ、互いに鋼材で形成された第1配管50と第2配管52とである。また、以後の縦継ぎ溶接では、第1配管50の一方の端面と、第2配管52の一方の端面とが接合されるものとする。この場合、一方の被溶接対象物の母材である第1配管50と、他方の被溶接対象物の母材である第2配管52との双方にリップが形成される。第1配管50に形成されるリップがリップ60aであり、第2配管52に形成されるリップがリップ62aである(図7等参照)。なお、第1配管50にリップ60aを形成する方法と、第2配管62にリップ62aを形成する方法とは、同一である。そこで、以下、第1配管50にリップ60aを形成する方法を例として説明する。
本実施形態に係るリップ形成方法は、段差形成工程と、肉盛り工程と、リップ加工工程とを含む。
図4は、段差形成工程を説明する図である。図4(a)は、段差形成工程が開始される前の第1配管50の端部を示す図である。図4(b)は、段差形成工程が終了した後の第1配管50の端部を示す図である。
段差形成工程は、肉盛り部60(図5参照)が形成される第1領域50aが高位で、肉盛り部60が形成されない第2領域50bが低位となるように段差を形成する工程である。そのため、実際に段差が形成される前に、第1配管50の端部には、第1領域50aと第2領域50bとのそれぞれの範囲が予め設定される。なお、当該範囲の設定については、以後、図9を用いて説明する。以下、段差形成工程により形成された一方の段差面を第1段差面50cと表現し、他方の段差面を第2段差面50dと表現する。また、図4(b)では、第1領域50aと第2領域50bとの高さ差をH2と表現している。
本実施形態では、段差は、第1配管50の端部において肉盛り部60が形成されない第2領域50bを切り欠くことで形成される。第2領域50bを切り欠く加工装置は、特に限定されるものではなく、一般的な加工装置の中から適切な加工装置を選択し、採用してよい。
図5は、肉盛り工程を説明する図である。図5(a)は、肉盛り工程が実施されている途中の状態にある第1配管50を示す図である。図5(b)は、肉盛り工程が終了している状態にある第1配管50を示す図である。図5(c)は、図5(b)におけるVC-VC断面に対応し、肉盛り部60の延伸方向とは垂直な面で切断した第1配管50の一部断面図である。
肉盛り工程は、第1配管50に、肉盛り溶接により肉盛り部60を形成する工程である。ここで、肉盛り溶接を行う溶接装置は、第1実施形態と同様であってよい。肉盛り工程では、肉盛り部60は、第1配管50の互いに連続する2つの面の双方に接するように形成される。本実施形態のように2つの被溶接対象物が互いに縦継ぎ溶接により接合される場合、ここでいう2つの面のうちの一方の面は、第1配管50と第2配管52とが対向する端面の一部、すなわち、第1領域50aである。また、2つの面のうちの他方の面は、第1配管50の内周面50eの一部である。
肉盛り工程では、図5(a)に示すように、上記のように規定された2つの面の双方に接する肉盛り部60が、第1領域50aの周方向に沿って、第1段差面50cから第2段差面50dに向かって徐々に形成されていく。最終的に、肉盛り工程が終了した段階では、図5(b)に示すように、第1配管50には、半環状の肉盛り部60が形成される。肉盛り工程後では、肉盛り部60と接する第1配管50の一部は、図5(c)に示すように溶融され、肉盛り部60の一部と一体化する。
図6は、リップ加工工程を説明する図である。図6(a)は、リップ加工工程が終了している状態、すなわち、本実施形態に係るリップ形成方法でリップが形成された状態にある第1配管50を示す図である。図6(b)は、図6(a)におけるVIB-VIB断面に対応し、リップ60aの延伸方向とは垂直な面で切断した第1配管50の一部断面図である。
リップ加工工程は、肉盛り工程で形成された肉盛り部60を切削して、リップ60aの形状に加工する工程である。ここで、肉盛り部60を切削する加工装置は、第1実施形態と同様であってよい。リップ加工工程では、リップ60aは、第1領域50aよりも第1配管50の内側にある形状に加工される。本実施形態の例では、リップ加工工程が終了した段階では、図6(a)に示すように、第1配管50には、断面が矩形である半環状のリップ60aが形成される。
この場合、リップ60aは、図6(b)に示すように、それぞれ周方向に沿った、上面60c、下面60e、第1側面60bおよび第2側面60dを有する。上面60cは、第1領域50aとおおよそ平行となる面であり、第1領域50aから高さH3の位置にある。本実施形態では、第1配管50と第2配管52とが溶接されるときに、上面60cが第2配管52にある上面62c(図7参照)と対向して接することになる。下面60eは、上面60cの反対側にある面であり、上面60cから高さH4だけ離間している。ここで、高さH4は、高さH3よりも長い。第1側面60bは、第1領域50aに対しておおよそ垂直で、かつ、第1領域50aと接する面である。第2側面60dは、第1側面60bの反対側にある面であり、第1領域50aに対しておおよそ垂直であるが、第1領域50aとは接しない。また、第2側面60dは、内周面50eとはおおよそ平行で、かつ、内周面50eから幅W2だけ離れた位置にある。ここで、リップ60aは、上記のとおり、第1領域50aよりも第1配管50の内側にある形状に加工される。つまり、第1側面60bは、内周面50eの直径とほぼ同一寸法である。また、上面60cと下面60eとは、第1配管50の軸方向に沿った投影視では、ほぼ同一形状である。
本実施形態におけるリップ加工工程では、上面60c、下面60e、第1側面60bおよび第2側面60dのすべてが切削により平坦化される。つまり、これら面は、切削前には肉盛り部60の内部にある。また、リップ加工工程では、肉盛り部60のうち、第1領域50aと連続して第1側面60bに接する面、および、内周面50eと連続して下面60eに接する面も、併せて平坦化される。
次に、本実施形態に係るリップ形成方法を用いて形成されたリップ60aを有する第1配管50と、同じく本実施形態に係るリップ形成方法を用いて形成されたリップ62aを有する第2配管52とを接合する溶接方法について説明する。
図7~11は、本実施形態に係る溶接方法を説明する図である。本実施形態に係る溶接方法は、リップ形成工程と、位置決め工程と、第1溶接工程と、第2溶接工程とを含む。
リップ形成工程は、上記のリップ形成方法により、第1配管50にリップ60aを形成する工程、および、第2配管52にリップ62aを形成する工程である。
図7は、位置決め工程を説明する図である。図7(a)は、位置決め工程により位置決めされた第1配管50および第2配管52を示す一部側面図である。図7(b)は、位置決め工程により位置決めされた第1配管50および第2配管52を示す一部断面図である。
位置決め工程は、リップ形成工程の後に、縦継ぎ溶接時の位置として、リップ60aを含む第1配管50からなる一方の被溶接対象物に対して、リップ62aを含む第2配管52からなる他方の被溶接対象物を位置決めする工程である。本実施形態では、具体的には、位置決め工程により、第1配管50に形成されたリップ60aと、第2配管52に形成されたリップ62aとが互いに向かい合って接する。
このとき、本実施形態によれば、図7(b)に示すように、2つの隙間が形成される。まず、第1配管50の第1領域50aと第2配管52の第1領域52aとの間には、第1隙間G2が形成される。第1隙間G2の寸法は、図6(b)に示すリップ60aの高さH3、同時に第2配管52のリップ62aの高さH3に依存する。なお、図7(b)では、理解のしやすさのために、第1隙間G2の間隔が誇張して描画されており、実際には、微小な隙間であってもよい。
また、第1配管50の第2領域50bと第2配管52の第2領域52bとの間には、第2隙間G3が形成される。第2隙間G3の寸法は、リップ60aおよびリップ62aの高さH3に加えて、図4(b)に示す第1領域50aと第2領域50bとの高さ差H2に依存する。なお、図7(b)では、第2隙間G3の間隔についても、誇張して描画されている。
図8は、第1溶接工程の原理を説明する図である。図9は、第1溶接工程を説明する図であり、第1配管50と第2配管52との溶接部の中間位置で切断した、第1配管50を示す断面図である。図9(a)は、第1溶接工程を実施している途中の状態にある図である。図9(b)は、第1溶接工程が終了した後の図である。
第1溶接工程は、位置決め工程の後に、リップ60aおよびリップ62aを溶融させながら溶接し、2つの被溶接対象物の一部を縦継ぎ溶接する工程である。ここで、第1溶接工程にて溶接を行う溶接装置は、第1実施形態における溶接工程で用いられるような、フィラーの送給を要しない溶接装置であってもよい。以下、一例として、第1溶接工程では、フィラーの送給を要しないレーザ溶接装置が用いられるものとする。
第1溶接工程では、レーザ溶接装置は、不図示であるが、第1配管50または第2配管52の外周側にある。そして、レーザ溶接装置は、図8に示すように、第2隙間G3で規定される第2領域50bと第2領域52bとで挟まれた空間領域を通じて、第1配管50または第2配管52の外周側から内周側に向けてレーザ光Lを照射する。外周側から内周側に向けて照射されたレーザ光Lは、溶接位置にあるリップ60aおよびリップ62aに到達し、リップ60aおよびリップ62aが溶融することで、溶接部には溶接金属70が形成される。
ここで、第1領域50aと第1領域52aとの間には第1隙間G2が形成されているので、溶融したリップ60aおよびリップ62aは、図8に示すように、溶接金属70の一部として第1配管50および第2配管52の反対側にまで到達しやすくなる。ここで、第1配管50および第2配管52の反対側とは、溶接時に熱源が照射される側の反対側を意味する。具体的には、第1配管50では、内周面50eとは反対側の外周面50fであり、第2配管52では、内周面52eとは反対側の外周面52fである。つまり、この場合の溶接部では、内周面50eおよび内周面52e、ならびに、反対側である外周面50fおよび外周面52fの双方の側に、溶接金属70の余盛が形成されることになる。すなわち、溶接部が減肉状態となることを予め抑えることができる。
また、第2隙間G3は、本実施形態の例によるレーザ光Lなどの熱源が、第1配管50および第2配管52の外周側から内周側の溶接位置にあるリップ60aおよびリップ62aに到達し得る程度の幅を有する。したがって、第2隙間G3の幅は、例えば、第1配管50等の大きさや、採用される溶接装置の熱源の性質などにより適宜設定される。一例として、第1配管50および第2配管52が、ともに直径30~60mm程度の配管であり、レーザ溶接により互いに溶接される場合には、第2隙間G3は、おおよそ0.1~10mmの範囲にあり、例えば3mm程度に設定されてもよい。
第1溶接工程では、図9(a)に示すように、リップ60aの延伸方向に沿って、第1段差面50cから第2段差面50dに向かって徐々に溶接が進行し、溶接部には溶接金属70が形成されていく。溶接工程の終了により、2つの被溶接対象物、すなわち、第1配管50の第1領域50aと第2配管52の第1領域52aとの接合が完了する。第1溶接工程が終了した段階では、図9(b)に示すように、第1領域50aと第2配管52側の第1領域52aとで挟まれた部分の全体は、溶接金属70で接合され、互いに一体化する。
また、第1溶接工程の間、第2領域50bと第2配管52側の第2領域52bとで挟まれた空間領域の周方向の範囲Rが、レーザ光L等の熱源の移動範囲となる。範囲Rは、溶接装置自体の機構上の制限や、被溶接対象物の外周近傍に干渉するような部材がある場合などの種々の要因を考慮して適宜設定される。つまり、第1配管50における第1段差面50cおよび第2段差面50dの位置、ならびに、第2配管52における第1段差面52cおよび第2段差面52dの位置は、上記のような要因を考慮して規定された範囲Rに基づいて設定される。
図10は、第2溶接工程の原理を説明する図である。図11は、第2溶接工程を説明する図であり、第1配管50と第2配管52との溶接部の中間位置で切断した、第1配管50を示す断面図である。図11(a)は、第2溶接工程を実施している途中の状態にある図である。図11(b)は、第2溶接工程が終了した後の図である。
第2溶接工程は、第1溶接工程の後に、リップが形成されていない第2領域50bと、リップが形成されていない第2領域52bとで挟まれた空間領域を、第1配管50または第2配管52の外周側から肉盛り溶接することで埋める工程である。ここで、第2溶接工程にて溶接を行う溶接装置は、リップ形成工程の肉盛り工程で用いられるような肉盛り溶接を行う溶接装置であってよい。以下、一例として、第2溶接工程では、金属積層溶接装置が用いられるものとする。
第2溶接工程では、金属積層溶接装置は、不図示であるが、第1溶接工程で用いられたレーザ溶接装置と入れ替わり、第1配管50または第2配管52の外周側にある。そして、金属積層溶接装置は、図10に示すように、第1配管50または第2配管52の外周側から、第2隙間G3で規定される第2領域50bと第2領域52bとで挟まれた空間領域を肉盛り部72で埋める。
ここで、第2領域50bと第2領域52bとで挟まれた空間領域は、直接的に肉盛り部72で埋められるので、当該空間領域に形成される溶接部は、減肉状態になりにくい。また、第2隙間G3が比較的大きく設定されている場合でも、金属積層溶接装置は、図10に示すように、レーザ光Lを第1配管50および第2配管52の軸方向に沿って適宜移動させることで、第2隙間G3で規定される空間領域を密に埋めることができる。
第2溶接工程では、図11(a)に示すように、第1配管50の周方向に沿って、第2段差面50dから第1段差面50cに向かって徐々に溶接が進行し、溶接部には肉盛り部72が形成されていく。溶接工程の終了により、2つの被溶接対象物、すなわち、第2領域50bと第2配管52の第2領域52bとの接合が完了する。第2溶接工程が終了した段階では、図11(b)に示すように、第2領域50bと第2配管52側の第2領域52bとで挟まれた部分の全体は、肉盛り部72で接合され、互いに一体化する。そして、第2溶接工程の終了により、第1配管50と第2配管52との接合が完了する。
なお、本実施形態に係るリップ形成方法におけるリップ60aやリップ62aの材質や大きさについては、第1実施形態に係るリップ形成方法に関して説明した、リップ20aの材質や大きさと同様に設定することができる。
また、リップ加工工程で形成されるリップ60aやリップ62aの形状は、本実施形態においても、図6(b)に示すような周方向に沿った四面のすべてが切削されたものに限定されない。
図12は、本実施形態に係るリップ形成方法でのリップ加工工程の他の例を示す図である。例えば、リップ加工をより単純化させるために、リップ60aにおいて切削される面を減らし、肉盛り部60の一部がそのままの形で残存してもよい場合もあり得る。図12(a)では、第1側面60bのみが切削される一面加工が例示されている。図12(b)では、第1側面60bおよび上面60cが切削される二面加工が例示されている。また、図12(c)では、第1側面60b、上面60cおよび第2側面60dが切削される三面加工が例示されている。
次に、本実施形態に係るリップ形成方法および溶接方法による効果について説明する。
まず、本実施形態に係るリップ形成方法は、互いに接合される2つの被溶接対象物の双方の母材に、溶接時に溶融されるリップ60a(またはリップ62a)を形成する。また、リップ形成方法は、母材に肉盛り溶接により肉盛り部60を形成する肉盛り工程と、肉盛り工程で形成された肉盛り部60を切削してリップ60a(またはリップ62a)の形状に加工するリップ加工工程とを含む。
ここで、本実施形態では、2つの母材は、管状部材であり、例えば、第1配管50と第2配管52とに相当する。また、本実施形態では、2つの被溶接対象物が互いに縦継ぎ溶接により接合される場合に相当する。この場合、肉盛り工程では、一方の被溶接対象物の母材である第1配管50に肉盛り部60が形成され、他方の被溶接対象物の母材である第2配管52に不図示の肉盛り部が形成される。
本実施形態によれば、母材の形状が管状であっても、第1実施形態に係るリップ形成方法と同様に、継手性能を向上させるのに有利なリップ形成方法を提供することができる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法における肉盛り工程では、肉盛り部60は、母材の互いに連続する2つの面の双方に接するように形成されてもよい。特に本実施形態では、第1配管50を例とすれば、2つの面は、2つの母材が互いに対向する端面の一部、すなわち、第1領域50aと、内周面50eの一部とであってもよい。
本実施形態によれば、母材の形状が管状であっても、以後のリップ加工工程において形成されるリップ60aの形成位置に合う場所に肉盛り部60が形成されることになる。したがって、肉盛り部60を形成させるための材料の節約や、肉盛り工程に要する溶接時間の削減などに有利となる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法におけるリップ加工工程では、第1配管50を例とすれば、リップ60aは、端面に相当する第1領域50aよりも第1配管50の内側にある形状に加工されてもよい。
本実施形態によれば、2つの被溶接対象物が互いに溶接される溶接部にてリップが適切に溶融されやすくなり、また、第1隙間G2を所望の幅に設定しやすくなるので、継手性能を向上させるのにより有利となる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法では、第1配管50を例とすれば、母材である第1配管50の端面に、肉盛り部60が形成される第1領域50aと、肉盛り部が形成されない第2領域50bとを設定する。この場合、リップ形成方法は、肉盛り部60が形成される第1領域50aが高位で、肉盛り部が形成されない第2領域50bが低位となるように段差を形成する段差形成工程を含んでもよい。
本実施形態によれば、第1溶接工程において、溶接装置がレーザ光Lを通過させる、第2隙間G3で規定される第2領域50bと第2領域52bとで挟まれた空間領域を確実に形成することができる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法では、段差形成工程は、肉盛り工程よりも前に行われてもよい。このとき、段差は、第1配管50を例とすれば、肉盛り部が形成されない第2領域50bを切り欠くことで形成されてもよい。
本実施形態によれば、第1配管50や第2配管52に、例えば切削により容易に第2領域50bや第2領域52bを形成することができる。
また、本実施形態に係るリップ形成方法では、段差形成工程は、肉盛り工程と併せて行われてもよい。このとき、段差は、第1配管50を例とすれば、肉盛り部60が形成される領域にさらなる肉盛り溶接で形成された平面肉盛り部であってもよい。
図13は、第1配管50を例として、本実施形態に係るリップ形成方法の他の例を説明する図である。図13(a)は、肉盛り工程の他の例を説明する図である。図13(b)は、リップ加工工程の他の例を説明する図である。
まず、図13(a)に示すように、この肉盛り工程では、上記説明した肉盛り部60の形成に併せて、平面肉盛り部60fが形成される。平面肉盛り部60fは、上記説明でいう第1領域50aとなる部位である。次に、図13(b)に示すように、リップ加工工程では、上記説明したリップ60aの加工に加えて、平面肉盛り部60fの平坦化が行われる。これにより、第1配管50の端部には、平面肉盛り部が形成されていない第2領域50bよりも高さH3分高位となる第1領域50aが形成される。
本実施形態によれば、段差が切り欠きにより形成される場合に比べて、溶接部の肉盛り量が増える。したがって、2つの被溶接対象物を互いに溶接するときに、溶接部の成分を大きく変化させることができるので、継手性能をより向上させるのに有利となる。
次に、本実施形態に係る溶接方法は、母材が管状部材である2つの被溶接対象物を互いに接合する。溶接方法は、2つの被溶接対象物の各々の母材に、上記のリップ形成方法によりリップを形成するリップ形成工程を含む。溶接方法は、一方の母材に形成されたリップ60aと他方の母材に形成されたリップ62aとが互いに向かい合って接するように、一方の被溶接対象物に対して他方の被溶接対象物を位置決めする位置決め工程を含む。溶接方法は、位置決め工程の後に、一方の母材の第2領域50bと、他方の母材の第2領域52bとで挟まれた空間領域を通じて、母材の外周側から内周側に向けて熱源を照射し、リップ60aおよびリップ62aを溶融させながら溶接する第1溶接工程を含む。また、溶接方法は、第1溶接工程の後に、一方の母材の第2領域50bと、他方の母材の第2領域52bとで挟まれた空間領域を、母材の外周側から肉盛り溶接することで埋める第2溶接工程を含む。
本実施形態に係る溶接方法によれば、図9および図11を用いて説明したとおり、第1溶接工程において熱源が照射される方向と、第2溶接工程において熱源が照射される方向とが、ほぼ同じである。つまり、範囲Rとは水平方向で反対となる側からは、溶接作業がなされることはない。したがって、例えば、範囲Rとは水平方向で反対側となる場所が、作業者が入りづらい場所であったり、溶接装置を搬入しづらい場所であったりする場合でも、2つの被溶接対象物を互いに溶接して接合することができる。
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、および請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。