JP7433217B2 - Rnaウイルスの処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、RNAウイルスの処理方法および該処理液を用いた核酸検出方法に関する。本発明は、食品衛生検査、環境検査、臨床診断等に利用できる。
核酸増幅法を利用した検査の対象となる検体は、目的に応じて様々である。感染症原因菌の検出であれば、原因菌が存在しうる検体すなわち、尿、喀痰、糞便、血液、鼻腔液、膣分泌液などである。食品衛生検査であれば食品、あるいは食品取扱者から採取された糞便や尿、環境衛生検査であれば土壌や河川水、雨水、海水などの環境水、製造設備等の拭き取り物などである。特に特徴的な症状が発生するまでの潜伏期間がある微生物が原因の食中毒については被害拡大防止のために迅速な検査法が求められており、その場合の検体としては糞便、製造設備等の拭き取り物などになる。
ところが検体によっては核酸以外の物質も多量に含んでおり、特に酵素を利用した核酸増幅反応を効率的に行うには通常は検体中の核酸の分離精製が必要とされている。前記核酸の分離精製には様々な手法があるが、基本的には核酸と他の物質を固体相と液体相に分けて固液分離する工程から構成される。例えばエタノール沈殿で核酸を固体相とし遠心分離で分離する方法、固相(例えばビーズ)上の核酸に標的核酸をハイブリダイズし、遠心分離や磁性化体で分離する方法がある。しかし、検体中の成分の分離をともなうこれらの精製法は、操作が煩雑で、かつ時間を要し、操作中に分解やコンタミネーションを生じる危険性がある。また、検体中の核酸含量が少ない場合には、増幅反応に必要な量を回収することができない場合もある。さらに核酸増幅法に要する時間は長くても数時間ほどであるが、このサンプル核酸調製に時間を要すると結果を得るまでの迅速性が失われることにもなる。したがって、検体を、別の容器への分離操作をともなう精製工程を経ることなく反応液へ持込み、標的核酸を増幅する方法が求められていた。
このような方法として、例えば、特許文献1では糞便の懸濁上清液にアルカリ含有液を添加し加熱処理したサンプルを反応液に直接添加し核酸増幅反応を実施する方法が開示されている。また特許文献2では糞便の懸濁上清液に対しペクチナーゼ処理を行い加熱処理したサンプルを反応液に直接添加し核酸増幅反応を実施する方法が開示されている。
特許文献1、2の実施例及び非特許文献1、2では検体中のRNAを検出するため核酸増幅法として逆転写PCR(RT-PCR)が実施されている。しかし上記方法のRNAサンプル調製ではいずれも逆転写酵素を含まない溶液で加熱処理が行われ、その後、該処理液を用いてcDNA合成が行われている。また特許文献2には、加熱処理によるRNAの加水分解の危険性が記載されているものの、加熱処理の必要性が記載されている。また、このような従来の方法では、いずれの方法においても核酸抽出及び反応阻害物失活のために加熱処理が施されているが、通常は加熱処理後の試料溶液に逆転写酵素が添加される。ここで発生する反応液の開閉や試薬の添加といった操作は非常に煩雑であり、容器を開閉することでエアロゾル中にふくまれるRNAが飛散し、サンプル間のコンタミネーションを起こすリスクも高い。
また、逆転写PCR(RT-PCR)反応液中で直接、検体中のRNAを検出するための核酸増幅法として、例えば、特許文献3ではRT-PCR緩衝液中で真核細胞を加熱することで細胞を溶解し、核酸増幅する方法が開示されている。特許文献3の実施例では少量かつ、比較的容易にRNAが溶出可能と考えられる培養細胞を用いてcDNAの合成及び増幅が行われており、特許文献3には、カプシドを持つウイルスや厚いペプチドグリカンを持つ原核生物など強固な外層構造に保護されているRNAについての記載はない。
さらに、特許文献4では、試料からのウイルスRNAの精製や試料の熱処理を行うことなく、逆転写酵素および耐熱性DNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液中に試料を加えることを特徴とする、試料のRNAウイルス検出方法が開示されている。特許文献4の方法ではウイルスからRNAを溶出するための熱処理を行わないが、実施例ではRT-PCR反応液中に第4級アンモニウム塩等の添加剤が含まれており、該添加剤がRNAの溶出に関与していると考えられる。
WO2007/052765 特開2015-119656 WO2012/045668 特開2017-131164
東洋紡株式会社製 製品Code No.FIK-253 取扱説明書 株式会社島津製作所製 製品Code No.PN 241-09500-91 取扱説明書
本発明の目的は、RNAウイルスを含む可能性のある試料からRNAを抽出する工程を経ることなく、耐熱性逆転写酵素反応液を調製して核酸合成を可能にすることである。
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究を行った結果、試料中のRNAウイルスの検出方法において、RNAの精製や事前の熱処理を行っていない試料と耐熱性逆転写酵素を混合して逆転写反応液を調製し、逆転写反応においてRNAの溶出とcDNA合成を連続して行うことで、容器を開閉する操作の煩雑さや、エアロゾル中にふくまれるRNAが飛散し、サンプル間のコンタミネーションを起こすリスクを解消する核酸合成方法を開発するに至った。さらに本発明者らは、DNA依存性DNA合成活性を有する耐熱性逆転写酵素を含むRT-PCR反応液に試料を直接添加し、RNAの溶出とcDNA合成、及び核酸増幅反応を連続して行うことで、より効率よくウイルスRNAを検出可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
代表的な本願発明は、以下の通りである。
[1] 下記工程を含む、RNAウイルスの処理方法;
(a)RNAウイルスを含む可能性のある試料を用意する工程、
(b)工程(a)の試料と耐熱性逆転写酵素を含む逆転写反応液を調製する工程、
(c)工程(b)で得られた反応液を加熱する工程。
[2] 逆転写反応液がさらにPCR反応に必要な試薬を含有することを特徴とする[1]記載の方法。
[3] 逆転写反応液が界面活性剤を含むことを特徴とする[1]または[2]記載の処理方法。
[4] 耐熱性逆転写酵素が、40℃以上で逆転写活性を示す逆転写酵素である[1]~[3]のいずれか一項に記載の処理方法。
[5] 耐熱性逆転写酵素がDNA依存性のDNA合成活性を有する酵素である[1]~[4]のいずれか一項に記載の処理方法。
[6] 前記工程(c)の加熱の時間が15分以下であることを特徴とする[1]~[5]のいずれか一項に記載の処理方法。
[7] 前記工程(c)の加熱の時間が3分以下であることを特徴とする[6]記載の処理方法。
[8] 前記工程(c)の加熱の温度が、70℃以上、100℃未満であること特徴とする[7]記載の処理方法。
[9] RNAウイルスを含む可能性のある試料が糞便、または糞便懸濁液もしくはその上清であることを特徴とする、[1]~[8]のいずれか一項に記載の処理方法。
[10] 糞便懸濁液上清が、糞便を緩衝液、滅菌水、もしくは生理食塩水に懸濁して調製された上清である、[9]記載の処理方法。
[11]RNAウイルスがカリシウイルス科ウイルスである請求項1~10いずれか一項に記載の処理方法。
[12] RNAウイルスがノロウイルスである[1]~[10]のいずれか一項に記載の処理方法。
[13] 下記工程を含む、cDNAの合成方法;
(a)RNAウイルスを含む可能性のある試料を用意する工程、
(b)工程(a)の試料と耐熱性逆転写酵素を含む逆転写反応液を調製する工程、
(c)工程(b)で得られた反応液を加熱する工程、
(d)工程(c)で得られた反応液をさらに耐熱性逆転写酵素が逆転写酵素活性を示す条件で反応させる工程。
[14] 下記工程を含む、核酸増幅方法;
(a)RNAウイルスを含む可能性のある試料を用意する工程、
(b)工程(a)の試料と耐熱性逆転写酵素を含む逆転写反応液を調製する工程、
(c)工程(b)で得られた反応液を加熱する工程、
(d)工程(c)で得られた反応液をさらに耐熱性逆転写酵素が逆転写酵素活性を示す条件で反応させる工程、
(e)工程(d)で得られた反応液をさらに核酸増幅条件で反応させる工程。
[15] 工程(e)における核酸増幅がPCRであることを特徴とする[14]記載の核酸増幅方法。
[16] 耐熱性逆転写酵素がさらに耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有することを特徴とする[14]または[15]記載の核酸増幅方法。
[17] 工程(a)~(e)の反応が同一容器内で行われる[14]~[16]のいずれか一項に記載の核酸増幅方法。
[18]
工程(a)~(d)の反応が同一容器内で行われる[13]に記載のcDNAの合成方法。
[19] 少なくとも、以下の試薬を含むことを特徴とする[1]~[12]のいずれか一項に記載のRNAの処理方法を実施するためのキット。
耐熱性逆転写酵素、
デオキシリボヌクレオチド類、
緩衝成分。
本発明によって、試料からウイルスRNAの単離や精製を行う工程を設けることなく、試料を逆転写反応液に添加するだけで、試料中のRNAウイルスのRNAからcDNAを合成することが出来る。また、核酸増幅反応に先立ち核酸を分離精製するための時間・コストを削減することができる。さらに核酸を分離精製する際に生じる可能性のあるリスク、すなわち試料ロスやクロスコンタミネーションの危険性を低減することができる。特に糞便に代表される生体由来物質を試料とする多数の検体を処理するような検査において、その効果は顕著となる。
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説する。
(1)本発明のRNAウイルスの処理方法
本発明の処理方法を適用できる試料としては、RNAウイルスを含有する可能性のある試料であれば特に限定はないが、例えば、生体から採取された検体(例えば組織、組織片、血液等)、生体排出検体、環境中から採取された検体に由来する試料が挙げられる。前記生体排出検体には糞便、尿、吐瀉物、鼻汁、鼻汁塗沫、唾液、唾液塗沫等が含まれ、これらはそのまま試料として本発明に適用することができる。さらにこれらの生体排出検体を水(滅菌水等)、生理食塩水、緩衝液、有機溶媒、液体培地、またはゲル培地(例えばキャリブレア培地)に懸濁したもの、前記の懸濁液から調製した上清など、何らかの処理をしたものも試料として本発明の方法に適用することができる。前記生体としては、ヒト、ペット、家畜、野性動物、昆虫、その他あらゆる動物が挙げられる。腸内細菌、腸管上皮細胞、食物由来物質などから構成されている糞便は、本発明の検体の代表的なものである。また、生体排出検体は環境から採取されたものであってもよい。
前記環境には、検出することが望まれるRNAウイルスが存在する可能性がある、ありとあらゆる場所が含まれるが、自然環境に限定されるものではない。特に製造施設や調理施設のような施設自体、施設中の水、施設からの排水や、当該施設の備品等、RNAウイルスが存在しうるあらゆる物の表面が例示される。これら環境からの検体の採取には、拭き取り操作や、その他の公知方法などが使用される。通常、採取物を適切な溶液、例えば水(滅菌水等)、生理食塩水、緩衝液等に懸濁したものや、懸濁液より遠心分離等で回収した上清と沈殿物等いずれもが本発明の方法に適用される。
本発明の検出方法で検出対象とするRNAウイルスとしては、いずれであってもよいが、例えば非エンベロープ型RNAウイルスが挙げられる。非エンベロープ型RNAウイルスとしては、例えばカリシウイルス科に属するウイルス(ノロウイルス(NoV)、サポウイルス(SV)、ネコカリシウイルス(FCV)等)やレオウイルス科に属するウイルス(ロタウイルス(Rota))、ピコルナウイルス科に属するウイルス(エコーウイルス(E)、エンテロウイルス(EV))等が挙げられる。なお、上記に挙げたネコカリシウイルス(FCV)は、容易に培養できないヒトノロウイルス(HuNoV)に代わって、消毒剤や洗浄剤の評価等に広く用いられている代替ウイルスである。
本発明の一つの態様としては、RNAウイルスを含む可能性のある試料と耐熱性逆転写酵素を混合し、逆転写反応液を調製する工程が含まれる。ここで、前記の逆転写反応液とは、耐熱性逆転写酵素ならびに逆転写反応に必要なその他の要素を含む溶液を言う。
本発明の方法に使用される耐熱性逆転写酵素とは、本発明を特に限定するものではないが、40℃以上で逆転写活性を示す酵素、好ましくは50℃以上で逆転写活性を示す酵素、より好ましくは60℃以上で逆転写活性を示す酵素、さらに好ましくは65℃以上で逆転写活性を示す酵素を言う。例えば、MMLV、HIV、RAV2、EIAV等のウイルス由来逆転写酵素の耐熱性変異体が例示される。
本発明を特に限定するものではないが、本発明に好適な耐熱性逆転写酵素としては、好熱菌や超耐熱性菌由来の逆転写酵素や逆転写活性を有しDNA依存性のDNA合成活性を有するDNAポリメラーゼが好適に使用できる。特に限定されないが、例えばサーマス サーモフィルス(Thermus thermophilus)、サーマス アクアティカス(T. aquaticus)、バシルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バシルス カルドテナクス(B. caldotenax)、サーマス スピーシーズZ05(T. species Z05)、等のDNAポリメラーゼ、ジオバシルス ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)のtrt遺伝子産物[Appl. Env. Microbiol.第70巻、p7140-7147(2004)]あるいはそれらの変異体が例示される。
また、逆転写反応に必要な要素としては、検出すべきRNAに相補的な配列を有するcDNA合成用プライマー、塩類、デオキシリボヌクレオチド類、及び緩衝成分が挙げられる。これらの要素を耐熱性逆転写酵素とともに試料に添加、混合し、逆転写反応液が調製される。上記の塩類にはMgClやKClなどが用いられるが、適宜、他の塩類を追加するか、あるいは他の塩類に変更しても良い。前記の緩衝成分は、反応溶液の水素イオン濃度(pH)の変動を和らげる作用を持つ化合物又は混合物をいう。一般に弱酸とその塩、あるいは弱塩基とその塩の混合溶液は強い緩衝作用を持つので、適切なpHを維持する目的で広く用いられている。本発明には生化学分野で公知の、各種の反応緩衝剤を使用することができ、逆転写反応や核酸増幅反応が実施される通常の範囲に設定されるのが適当である。
該逆転写反応液はさらに界面活性剤を含んでいてもよく、界面活性剤を添加するとさらに好適な結果が得られる。当該界面活性剤には特に限定はなく、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性あるいは両イオン性の界面活性剤を単独または組み合わせて使用してもよい。前記界面活性剤としては、特に限定はないが、Triton(登録商標) X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)、Tween(登録商標) 20(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate)、及びNonidet(登録商標) P-40(Octylphenyl-polyethylene glycol)等の非イオン性界面活性剤、poly(ethylene glycol)4-nonylphenyl 3-sulfopropyl ether(PNSE)等の陰イオン性界面活性剤、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム等の陽イオン性界面活性剤、及びコカミドプロピルベタイン等の両性界面活性剤が例示される、そのうちTriton(登録商標) X-100、Tween(登録商標) 20、Nonidet(登録商標) P-40、及びpoly(ethylene glycol)4-nonylphenyl 3-sulfopropyl etherが好適に例示される。界面活性剤は、細胞膜を分解するためあるいは細胞壁やカプシドタンパク質構造を軟弱化するため、本処理方法は細胞や細菌のRNA溶出にも好適に使用できると考えられる。さらに反応性改善などを目的として逆転写反応液や核酸増幅反応液に添加される公知の物質を包含していても良い。反応液に添加する物質としては、ウシ血清アルブミン(BSA)のようなタンパク質、ベタイン、ポリアニオン性の高分子物質等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
また別の態様として、該逆転写反応液はさらに、標的核酸増幅に必要な試薬を含んでいてもよい。後述するように、RNAウイルスの処理、逆転写反応および標的核酸増幅までをワンステップで実施する場合は、このような逆転写反応液を用いる。標的核酸増幅に必要な試薬として、例えば、限定するものではないが、核酸増幅用プライマー対、耐熱性DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチド類(dNTP)等が挙げられる。核酸増幅用プライマー対の一方はcDNA合成用プライマーと共通であってもよい。また、耐熱性DNAポリメラーゼは、耐熱性の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼであってもよい。本態様における逆転写反応液の組成は、RNAウイルスの処理、逆転写反応および標的核酸増幅のそれぞれが適切に行われるように調整されることは言うまでもない。
本発明のRNAウイルスの処理方法においては、上記のようにRNAウイルスを含有する可能性のある試料と耐熱性逆転写酵素を含む逆転写反応液を高温で反応させる。当該反応における保持温度は、65℃以上、100℃未満であり、好ましくは70℃以上、100℃未満、次に好ましいのは75℃から99℃、より好ましくは80℃から99℃、さらに好ましくは85℃から99℃、特に好ましくは90℃から99℃の範囲である。好適な保持時間は30分以下であり、好ましくは15分以下、より好ましくは5分以下、さらに好ましくは3分以下、特に好ましくは0秒~1分である。なお、保持時間0秒とは、意図した温度に到達すると同時に加熱を中止することを言う。この処理により、試料にRNAウイルスが含まれる場合、該RNAウイルスからRNAが溶出されると考えられる。溶出されたRNAは即時逆転写酵素と接触し、逆転写反応が開始されることからRNAの分解は最小限に止められると考えられる。なお、該保持温度への昇温は、逆転写反応液の調製後すぐに実施すればよく、逆転写反応液調製後に保温工程などの他の工程を必要としない。なお、真核生物細胞や細菌などのRNA溶出にも、このような耐熱性逆転写酵素を含む逆転写反応液中での加熱処理は、好適に使用できると考えられる。特に細胞壁を持たない真核細胞のRNA溶出には、より好適に使用できると考えられる。
(2)本発明のcDNAの合成方法
本発明の方法において、上記(1)のRNAウイルスの処理方法を行った反応液はそのまま、試料中のRNAウイルスが有しているRNAに相補的なDNAを合成するための逆転写反応に供することができる。前記の逆転写反応における反応温度は、耐熱性逆転写酵素が活性を示す温度であれば特に限定はない。なお、RNAの二次構造を破壊することを考慮すると、35℃以上、100℃未満であり、好ましくは40℃から90℃、より好ましくは45℃から80℃、さらに好ましくは50℃から70℃である。例えば、Tth DNAポリメラーゼの逆転写活性を利用する場合は、至適温度の60℃を好適に利用できる。また、別態様としては、70℃~89℃まで反応溶液を昇温させる時間を利用して当該逆転写反応を行ってもよい。なお、cDNA合成用プライマーがアニーリング可能な温度範囲で、反応温度を出来るだけ高温に維持すれば、cDNA合成工程に掛かる時間をより短縮することが出来る。逆転写反応の時間は、合成されるcDNAの鎖長等を考慮して適宜設定することができる。
(3)本発明の標的核酸増幅方法
本発明の方法においては、上記(2)の逆転写反応に続いてcDNAの増幅反応を組み合わせることができる。核酸増幅法は公知の方法であれば特に限定はなく、例えば、Polymerase Chain Reaction (PCR)、Strand Displacement Amplification (SDA)、Multiple Displacement Amplification (MDA)、Rolling-Circle Amplification (RCA)、Loop-Mediated Isothermal Amplification (LAMP)、Smart Amplification Process (SmartAmp)、Helicase-Dependent Amplification (HDA)、Ligase Chain Reaction (LCR)などが例示される。これらの核酸増幅法のうち、例えばPCRと組み合わせる場合においては、同一容器内、同一反応溶液中でRNAウイルスからのRNA溶出処理、逆転写反応ならびに標的核酸の増幅反応を連続して行う、いわゆる1ステップのRT-PCRが実施できる。前記1ステップのRT-PCRの場合、RNAウイルスを含有する可能性のある試料を含むRT-PCR反応液が調製された後、閉鎖されたままの同一容器中で、高温逆転写反応ならびに核酸増幅反応が連続して実施される。このRT-PCR反応液は耐熱性逆転写酵素と耐熱性DNAポリメラーゼを含むものが使用される。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、PCRに使用可能な各種のポリメラーゼ、例えばポルI型ポリメラーゼ、α型ポリメラーゼやそれらの混合物が例示される。本発明の一つの態様として、前記RT-PCR反応液は耐熱性の逆転写酵素活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼを使用することができる。逆転写酵素活性とDNA依存性DNA合成活性を併せ持つ酵素としてはポルI型の耐熱性DNAポリメラーゼが好ましく、例えばサーマス サーモフィルス(Thermus thermophilus)、サーマス アクアティカス(T. aquaticus)、バシルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バシルス カルドテナクス(B. caldotenax)、サーマス スピーシーズZ05(T. species Z05)、等のDNAポリメラーゼ、あるいはそれらの変異体を挙げることができる。
本発明の標的核酸増幅方法に使用されるRT-PCR反応液としては、cDNAの標的領域を増幅するためのプライマー対をさらに含んでいてもよい。また、当該標的核酸の増幅に使用されるプライマーの一方が、前工程の逆転写反応おける逆転写反応用プライマーと共用であってもよい。さらに、当該標的核酸の領域が複数あり、そのために複数種のプライマー対を含んでいてもよい。
なお、前記のRT-PCR反応溶液は、反応性改善などを目的として逆転写反応液や核酸増幅反応液に添加される公知の物質を包含していても良い。反応液に添加する物質としては、上記(1)で記載したウシ血清アルブミン(BSA)のようなタンパク質、各種界面活性剤、ベタイン、酸性高分子等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また本発明の方法においてdNTPは通常、dATP、dGTP、dCTP、dTTPの4種が用いられるが、DNA増幅産物が他の核酸増幅反応の鋳型となる汚染を防止する目的でさらにdUTPを反応液に添加しても良いし、dTTPをdUTPに置き換えてもよい。この反応で得られた核酸増幅物には、dUTPが取り込まれることになり、ウラシル含有DNAの分解活性を有するUracil-N-glycosyrase(UNG)を次の核酸増幅反応前に作用させることで、前記核酸増幅物を分解することができる。こうして、先に実施された反応で得られた増幅物が後の反応に混入しておこる汚染を防止することができる。
上記の標的核酸の増幅方法において、得られた増幅DNA産物をさらに、電気泳動法、融解曲線法、各種プローブ法(Qプローブ、スコーピオンプローブ、ハイブリプローブなど)で検出、識別することができる。増幅産物のコンタミネーション防止の観点から特にリアルタイム検出方法が好適であり、特に限定はされないが温度昇降機能と蛍光測定機能を備えた機器であれば、TaqMan(登録商標)プローブ、Cycleave(商標)プローブなどの蛍光標識と消光標識を有するプローブ、あるいはSYBR(登録商標)Green I、SYTO-60、SYTO-62、POPO-3、TOTO-3、BOBO-3、TO-PRO-3、YO-PRO-1、SYTOX OrangeSYBR(登録商標)、TB Green(登録商標)等のインターカレーティング色素などを用いることにより、反応進行中に増幅DNA産物を検出識別することができる。本発明の標的核酸の増幅方法に使用されるRT-PCR反応液に前記の標的核酸検出用の要素を添加しておくことにより、本発明の効果を損なうことなく、簡便に標的核酸由来の増幅産物を検出することができる。
(4)本発明のキット
本発明は、前記の本発明の標的核酸の増幅方法に使用されるキットを提供する。本発明のキットは、試料を含む逆転写反応液の加熱と、耐熱性逆転写酵素によるcDNA合成と、得られたcDNA由来の核酸の増幅とを連続して実施するための反応液を調製するために必要な成分をコンポーネントとして含有する。さらに、標的核酸検出用として、リアルタイム検出用のプローブやインタカレーターを含んでいてもよい。特に限定はされないが、本発明のキットは、例えば、緩衝成分、耐熱性逆転写酵素、dNTPやdUTPなどのデオキシリボヌクレオチド類を含む。さらに界面活性剤、塩類、逆転写反応用プライマー等を含んでもよい。また別態様としては例えばone-step緩衝成分、耐熱性逆転写酵素、耐熱性DNAポリメラーゼ、界面活性剤、塩類、dNTPやdUTPなどのデオキシリボヌクレオチド類を含むプレミックス反応液を含むキットが例示される。さらに好適な態様としては、前記の各成分に加えて逆転写反応用プライマー、少なくとも1種類の標的核酸増幅用プライマー対を含有し、試料を添加するのみでRT-PCR反応液の調製が可能なオールインワン組成物が例示される。本発明のキットは、耐熱性逆転写酵素と耐熱性DNAポリメラーゼの組合せに代えて、逆転写酵素活性とDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する耐熱性酵素を含有してもよい。
以下実施例をもって本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
参考例1. ノロウイルスモデル系での検討
ノロウイルスNATtrol Norovirus GI Positive Control (6 x 0.125mL)(ZeptoMetrix社製)をモデルとして以下の熱処理検討に使用した。即ち、前記ノロウイルスを生理食塩水で10倍希釈し、調製したウイルス溶液を65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃の各温度で3分間処理した。当該加熱処理液をRNAサンプルとした。RT-PCRは、RR296A TaKaRaノロウイルスGI/GII検出キット(高速検出用)(タカラバイオ社製)のキットを使用し説明書の記載に従い、最終容量25μL反応液で行った。RT-PCR条件は、42℃ 5min、94℃ 30sec処理後、94℃ 5sec-56℃ 30secを1サイクルとする5サイクル、90℃ 5sec-56℃ 30secを1サイクルとする40サイクル反応で行った。なお、核酸増幅装置は、TP900 ThermalCycler Dice(登録商標)RealTimeSystemII(タカラバイオ社製)を用いた。その結果を表1に示す。
Figure 0007433217000001
表1に示すように、いずれの条件でも増幅物は検出され、特に70℃以上の加熱条件でRT-PCRに十分なRNAが得られることを確認した。したがって、逆転写酵素の耐熱性が70℃以上であれば、逆転写反応液中でRNAウイルスを破壊し、反応容器の開封を必要としない逆転写反応を好適に実施できることが示唆された。
参考例2. 糞便sampleでの検討
従来法でノロウイルスGIが検出されたヒト糞便について検討した。即ち、前記糞便をPBSに約10%(w/v)になるよう懸濁し、遠心によって得られた上清を調製した。当該ウイルス溶液を参考例1記載の方法でRT-PCRを行った。その結果を表2に示す。
Figure 0007433217000002
表2に示すように、いずれの条件でも増幅物は検出され、特に70℃以上の加熱条件でRT-PCRに十分なRNAが得られることを確認した。したがって、参考例1と同様に、逆転写酵素の耐熱性が70℃以上であれば、逆転写反応液中でRNAウイルスを破壊し、反応容器の開封を必要としない逆転写反応を好適に実施できることが示唆された。
実施例1. One-Tube反応系での検討
参考例1で調製したウイルス溶液を用いて、逆転写反応及びDNA増幅反応に必要な試薬をすべて含む溶液中での目的遺伝子増幅について検討した。即ち、反応液容量の1/25容量の前記ウイルス溶液、R510A TaKaRa Tth(宝日医生物技術社製)に添付の5×RT-PCR緩衝液、最終濃度2.5mMの酢酸マンガン、最終濃度が各0.0004mMの配列表の配列番号1及び2記載の塩基配列を有するノロウイルスG1遺伝子増幅用プライマー対、最終濃度0.0002mMの配列表の配列番号3及び4記載の塩基配列を有するG1遺伝子検出用プローブ、終濃度0.3mMのdNTP、5UのTth DNAポリメラーゼ(宝日医生物技術社製)、2.5UのTaq抗体(タカラバイオ社製)並びに各種濃度の界面活性剤を含む全量25μLの反応液を調製した。前記界面活性剤は、Tween(登録商標) 20、Triton(登録商標表) X-100、Nonidet(登録商標) P-40、poly(ethylene glycol)4-nonylphenyl 3-sulfopropyl etherから選択した。対照として界面活性剤なしのものも調製した。また、各種界面活性剤の最終濃度は、0.02、0.2、2、4、6、8、10%(V/V)を設定した。RT-PCR条件は、90℃ 3min、58℃ 30min、95℃ 30secの連続温度処理後、反応容器の蓋を開けることなく、95℃ 5sec-56℃ 30secを1サイクルとする5サイクル反応、さらに90℃ 5sec-56℃ 30secを1サイクルとする40サイクル反応を行った。なお、核酸増幅装置は、参考例1と同じ装置を用いた。その結果、界面活性剤を使用しない場合であっても標的核酸は増幅したが、いずれの界面活性剤を使用した場合においても、界面活性剤を使用しない場合に比較してCt値が小さくなることが確認できた。また界面活性剤の種類に関わらず、最終濃度が2%(V/V)以上でCt値が4以上小さくなることが確認できた。このことは、本発明のRNAウイルスの処理方法を用いることにより、One-Tube内にある逆転写反応及びDNA増幅反応に必要な試薬をすべて含む溶液にRNAウイルスを含む懸濁液上清を添加するだけで、逆転写反応さらにDNA増幅反応を連続して同一容器内で行うことが可能であること、また本発明の方法に界面活性剤を組み合わせることにより最大16倍感度が上昇することが確認できた。
実施例2. 糞便検体を用いたOne-Tube反応系の検討
逆転写反応及びDNA増幅反応に必要な試薬をすべて含む溶液中で実検体のノロウイルス検出を検討した。即ち、インフォームドコンセントの得られた被験者より採取された ノロウイルス陽性の糞便検体を約10%(w/v)となるようPBSに懸濁した後、15,000rpmにて5分間遠心処理を行った。こうして得られた上清1μLを以下の反応に使用した。
本実施例においては、市販のTth DNAポリメラーゼ(宝日医生物技術社製)及び日本特許第3844975号公報の記載のTth DNAポリメラーゼ変異体を使用した。当該変異体は、逆転写酵素活性の効率が高いと報告されているものであり、Taq DNAポリメラーゼ(Genbank Acc.No.BAA06775.1)記載のアミノ酸配列の681位が、Genbank Acc. No.WP_011228405記載のアミノ酸配列に基づくTth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列では683位に相当することから、前記アミノ酸配列の683位のグルタミン酸をリシンに置換変異したTth DNAポリメラーゼ変異体(E683K)を調製した。常法に従い、当該アミノ酸配列中の特定の部位に変異を導入した配列の人工遺伝子を化学的に合成した。得られた人工遺伝子は、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(タカラバイオUSA社製)を用いて、プラスミドpET6xHN-N(タカラバイオUSA社製)に導入した。
次に、当該プラスミドで大腸菌を形質転換し、常法に従い、種培養、本培養を行った。培養終了後菌体を採取し、菌体破砕後、粗酵素液を調製した。得られた粗酵素液をTth DNAポリメラーゼ変異体粗精製溶液として、以下の試験に使用した。
使用したプライマー対は、厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 監視安全課より通知された「ノロウイルスの検出法について」(平成15年11月5日付け食安監発第1105001号別添 最終改正:平成25年10月22日付け食安監発1022第1号)(以下「公定法」と記載する)に記載されたものと同じ塩基配列のGI検出用およびGII検出用プライマーである。
前記糞便上清液1μL、5×RT-PCR緩衝液(終濃度50mM トリシン緩衝液(pH8.15)、終濃度50mM 酢酸カリウム、終濃度8%グリセロール、終濃度1%のDMSO、終濃度2.5mM 酢酸マンガン、終濃度0.1% BSA)、公定法で定められた終濃度0.2μMのGIプライマー対あるいはGIIプライマー対、終濃度0.2μMのGI検出用プローブあるいはGII検出用プローブ、終濃度0.3mMのdNTP、前述のTth DNAポリメラーゼあるいはTth DNAポリメラーゼ変異体5U、終濃度4%のpoly(ethylene glycol)4-nonylphenyl 3-sulfopropyl ether並びに2.5UのTaq抗体(タカラバイオ社製)を含む最終容量25μLの反応液を調製した。RT-PCR条件は、Tth DNAポリメラーゼの場合は、90℃ 3分、58℃ 5分あるいは30分、95℃ 30秒間処理した後、95℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする5サイクル反応、連続して90℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする40サイクル反応に設定した。Tth DNAポリメラーゼ変異体の場合は、90℃ 3分、58℃ 5分、95℃ 30秒間処理した後、95℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする5サイクル反応、連続して90℃ 5秒、56℃ 30秒を1サイクルとする40サイクル反応に設定した。サーマルサイクラーは、TP990 ThermalCycler Dice(登録商標)RealTime SystemIII(タカラバイオ社製)を用いて、リアルタイムPCRを行い、Ct値を測定した。
上記検討の結果、糞便検体中のノロウイルスGI並びにGII検出について、Tth DNAポリメラーゼは、逆転写反応が58℃ 30分の場合のみ検出することができた。一方、逆転写酵素活性の効率が高いと報告されているTth DNAポリメラーゼ変異体(E683K)は、逆転写反応が58℃ 5分であっても検出できた。このことから、本発明のRNAウイルスの処理方法は、糞便検体でも利用可能であること、さらに通常のRT-PCR法並びに逆転写反応時間の短いRT-PCR法のいずれにおいても利用可能であることが確認できた。
実施例3. 低濃度の界面活性剤の効果についての確認
界面活性剤が溶液中に大量に存在すると、泡立ちのリスクが発生する場合がある。特に自動分注機器を使用した大量処理の場合には、分注誤差の可能性があるため、実施例1で確認した界面活性剤添加による効果についてさらに低濃度で効果が得られるかどうかを参考例1で調製したウイルス溶液を用いて追加検証した。Nonidet(登録商標) P-40を用いて検証を行った。実施例1と同様に、界面活性剤無しのものと、界面活性剤の終濃度が0.02、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8%(V/V)の反応液を調製した。界面活性剤の濃度以外のPCR反応組成は実施例1と同様である。RT-PCR条件は、90℃ 3分、58℃ 30分、95℃ 30秒の連続温度処理後、反応容器の蓋を開けることなく、95℃ 5秒-56℃ 30秒を1サイクルとする5サイクル反応、さらに90℃ 5秒-56℃ 30秒を1サイクルとする40サイクル反応を行った。なお、核酸増幅装置は、実施例2で使用したものと同じ装置を用いて、リアルタイムPCRを行い、Ct値を測定した。その結果を表3-1及び表3-2に示す。
Figure 0007433217000003
Figure 0007433217000004
表3-1及び表3-2に示すように、いずれの濃度の界面活性剤を添加した場合においても、界面活性剤を使用しない場合に比較してCt値が小さくなることが確認できた。また界面活性剤の終濃度が、0.2%(V/V)以上でCT値が2.5以上小さくなることが確認できた。このことは、本発明において界面活性剤の添加量を減らすことで、泡立ちのリスクを抑え、自動分注機器などを利用した、検査システムのオートメーション化を行う際にも分注誤差の回避に役立つことが示された。
実施例4. 本発明の効果の確認
本発明における高温逆転写反応の効果を確認するために、参考例1で調製したウイルス溶液と逆転写反応及びDNA増幅反応に必要な試薬をすべて含む溶液中での目的遺伝子増幅について検討した。即ち、前記ウイルス溶液1μL、R510A TaKaRa Tthのコンポーネントに含まれる、5×Tth RT-PCR緩衝液(宝日医生物技術社製)、最終濃度2.5mMの酢酸マンガン、終濃度0.3mMのdNTP、終濃度0.2U/μLのrTth DNA Polymerase(TTH-301 rTth DNA Polymerase 東洋紡社製)、プライマーおよびプローブとして、RR298A TaKaRaノロウイルスGI/GII検出キットVer.3のコンポーネントに含まれるNV Primer/Probe Mix7(タカラバイオ社製)を8μL添加し、最終容量25μLの反応液Aを調製した。また、別に、前記ウイルス溶液1μL、R510A TaKaRa Tthのコンポーネントに含まれる、5×Tth RT-PCR緩衝液(宝日医生物技術社製)、最終濃度2.5mMの酢酸マンガン、終濃度0.3mMのdNTP、終濃度0.2U/μLのrTth DNA Polymerase(TTH-301 rTth DNA Polymerase 東洋紡社製)、プライマーおよびプローブとして、RR298A TaKaRaノロウイルスGI/GII検出キットVer.3のコンポーネントに含まれるNV Primer/Probe Mix7(タカラバイオ社製)8μLと、さらに添加剤として、終濃度4%の1,3プロパンジオールと終濃度0.3MのL-カルニチンを含む最終容量25μLの反応液Bを調製した。さらに、対照として、前記反応液AおよびBにおいて前記ウイルス溶液の代わりに、ノロウイルス合成RNA溶液を添加した反応液CおよびDを調製した。該ノロウイルス合成RNA溶液は、MicrobiologicsTMHelix EliteTMNorovirus GII.4合成RNA(Microbiologics社製)凍結乾燥品に付属しているHOで溶解して作成した10×8乗コピーのストック溶液をさらにHOで10倍希釈した10×7乗コピーのRNA溶液であった。なお、それぞれの条件にウイルス溶液及びノロウイルス合成RNA溶液はN=3で調製した。
反応液A~Dを高温加熱工程なしの通常のRT-PCRを行った。また別に、反応液Aを高温逆転写後、PCRを行った。RT-PCR条件は、高温逆転写反応の場合、90℃ 3分、50℃で30分の逆転写後、95℃ 30秒の熱変性、95℃ 5秒、56℃ 60秒を1サイクルとする5サイクル反応、連続して90℃ 5秒、56℃ 60秒を1サイクルとする40サイクル反応に設定した。通常のRT-PCRの場合には、高温逆転写反応の90℃ 3分の工程を省略し、50℃で30分の逆転写後、前記と同じPCR条件で実施した。
核酸増幅装置は、実施例2で使用したものと同じ装置を用いて、リアルタイムPCRを行い、Ct値を測定した。その結果を表4に示す。
Figure 0007433217000005
表4に示すように、RNAウイルスを含む試料を前処理(加熱)なしで高温逆転写した場合、増幅物は検出された。一方、RNAウイルスを含む試料を前処理(加熱)なしで通常の逆転写反応を行った場合は、添加剤を加えても増幅物は検出されなかった。一方、ウイルス溶液の代わりに合成RNAを含む反応液CおよびDを用いた前処理(加熱)なしで通常の逆転写反応を行った場合で増幅物が検出された。即ち、RNAウイルスを含む試料を高温保持しない場合は、ウイルスを検出できないと結論付けられた。以上の結果から、本発明は、RT-PCR反応液中で試料を高温保持することにより、RNAウイルスのカプシドから高効率的でRNAを溶出させることが可能であり、反応容器の開封を必要としない逆転写反応を好適に実施出来ることが明らかとなった。
本発明は、食品衛生検査、環境検査、臨床診断等に用いられる。
SEQ ID No:1 ; PCR forward Primer COG1F.
SEQ ID No:2 ; PCR Reverse Primer COG1R.
SEQ ID No:3 ; Probe RING1-TP(a). 5’-end is labeled Cy5 and 3’-end is labeled BHQ3.
SEQ ID No:4 ; Probe RING1-TP(b). 5’-end is labeled Cy5 and 3’-end is labeled BHQ3.

Claims (13)

  1. 下記工程を含む、非エンベロープ型RNAウイルスが有しているRNAに相補的なcDNAの合成方法;
    (a)非エンベロープ型RNAウイルスを含む可能性のある試料を用意する工程であって、前記試料が、糞便を緩衝液、滅菌水、もしくは生理食塩水に懸濁して調製された、未処理の上清である、工程、
    (b)工程(a)の試料と、DNA依存性のDNA合成活性を有する耐熱性逆転写酵素を含む逆転写反応液を調製する工程であって、前記耐熱性逆転写酵素がポルI型の耐熱性DNAポリメラーゼである、工程、
    (c)工程(b)で得られた反応液を75℃~99℃で加熱する工程、および
    (d)工程(c)で得られた反応液をさらに50℃~70℃で反応させる工程。
  2. 工程(b)~(d)の反応が同一容器内で行われる請求項1に記載の方法。
  3. さらに、
    (e)工程(d)で得られた反応液をさらに核酸増幅条件で反応させる工程
    を含む、請求項1記載の方法。
  4. 工程(e)における核酸増幅がPCRであることを特徴とする請求項3記載の方法。
  5. 工程(b)~(e)の反応が同一容器内で行われる請求項3記載の方法。
  6. ポルI型の耐熱性DNAポリメラーゼがTth DNAポリメラーゼまたはその変異体である、請求項1記載の方法。
  7. 逆転写反応液が界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
  8. 前記工程(c)の加熱の時間が15分以下であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  9. 前記工程(c)の加熱の時間が3分以下であることを特徴とする請求項8記載の方法。
  10. 前記試料が、糞便を緩衝液、滅菌水、もしくは生理食塩水に懸濁して調製された、熱処理を行っていない上清である、請求項1記載の方法。
  11. RNAウイルスがカリシウイルス科ウイルスである請求項1記載の方法。
  12. RNAウイルスがノロウイルスである請求項1記載の方法。
  13. 少なくとも、以下の試薬を含むことを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載のcDNAの合成方法を実施するためのキット
    DNA依存性のDNA合成活性を有する耐熱性逆転写酵素であって、ポルI型の耐熱性DNAポリメラーゼ、
    デオキシリボヌクレオチド類、
    緩衝成分。
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