JP7433116B2 - 射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物及びそれを用いた射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体 - Google Patents

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Description

本発明は、射出発泡成形体の製造に好適な射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物、及び、それを用いた自動車内外装用部品などの用途に好適な射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体に関する。
ポリプロピレン樹脂は、成形性、物性バランス、リサイクル特性やコストパフォーマンスに優れるので、例えば日用品、住宅分野、家電分野、自動車部品など種々の分野で広く用いられている。
近年、自動車部品は軽量化が強く要請されており、特に内装部品においては発泡成形体の使用が増加している。ただし自動車内外装用部品には、さらなる軽量化と機械的特性の向上が求められている。したがって、より発泡倍率が高く、しかも機械的特性に優れた射出発泡成形体の提案がなされている。
特許文献1には、高分子量成分含有インパクトポリプロピレンと、ゴム成分と、無機フィラーとからなり、高分子量成分含有インパクトポリプロピレンが135℃、テトラリン中での極限粘度[η]が13.5~20.0dl/gのプロピレン重合体成分を含む発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。そして、この樹脂組成物は射出発泡成形に適し、流動性と溶融張力のバランスに優れ、高倍率の発泡成形を達成できると説明されている。
特許文献2には、直鎖状プロピレン・エチレンブロック共重合体及びプロピレン系重合体からなるポリプロピレン系樹脂と、発泡剤とを含有する直鎖状ポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。そして、この樹脂組成物は、表面外観、射出発泡成形性及び剛性などの物性に優れ、大幅な軽量化が可能であると説明されている。
国際公開第2010/050509号 特開2010‐144133号公報
発泡成形体の軽量化を目的とした場合、例えばコアバック射出発泡成形では発泡前の樹脂材の初期厚みは薄い方が好ましく、また発泡倍率は高い方が好ましい。ただし、高い発泡倍率で発泡成形する場合は、セル形状が悪化したり、ヒケやアバタ等により外観不良が生じる場合がある。
本発明者らは以上のような課題に着目し、発泡倍率、セル形状の安定性及び外観についてさらに改善しようと考えた。すなわち本発明の目的は、比較的高い発泡倍率で、セル形状の安定性及び外観に優れた発泡成形体を製造しうる射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物及びそれを用いた射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の各成分からなる組成物が非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]ASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が30~200g/10minであり、23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部の135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が0.8~3.0dl/gであるインパクトポリプロピレン(A)30~96質量部、
135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が6~10dl/gであるホモポリプロピレン(B)1~10質量部、
ASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が200~1000g/10minであるホモポリプロピレン(C)3~29質量部
α-オレフィンエラストマー(D)0~30質量部、及び
無機フィラー(E)0~30質量部
[成分(A)~(E)の合計量100質量部]
を含んでなる射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
[2]インパクトポリプロピレン(A)の23℃におけるn-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体部の135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が1.0~10dl/gである[1]に記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
[3]インパクトポリプロピレン(A)中の23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部の含有量が70~97質量%であり、23℃におけるn-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体部の含有量が3~30質量%である[1]又は[2]に記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
[4]α-オレフィンエラストマー(D)がエチレン系エラストマーである[1]~[3]の何れかに記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
[5]無機フィラー(E)がタルクである[1]~[4]の何れかに記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
[6][1]~[5]の何れかに記載の樹脂組成物[成分(A)~(E)の合計量100質量部]に対して、無機又は有機系の化学発泡剤である発泡剤(F)0.1~10質量部を添加し、射出発泡成形してなる射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体。
[7]発泡前の初期投入肉厚が1.0~2.0mmであり、発泡倍率が1.5倍以上である[6]に記載の射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体。
本発明によれば、比較的高い発泡倍率で、セル形状の安定性及び外観に優れた発泡成形体を製造しうる射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物及びそれを用いた射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体を提供できる。
本発明においては、特定のMFRのインパクトポリプロピレン(A)に対して、特定の極限粘度[η](すなわちゲル化しない範囲で十分に高分子量)のホモポリプロピレン(B)と特定のMFRの高流動性ホモポリプロピレン(C)とを特定の比率で併せて添加することにより、良好な発泡性と優れた外観とをバランス良く実現できる。
特に本発明によれば、後述する実施例に記載のとおり、発泡前の板厚を薄く、発泡倍率を高くした場合でも、気泡の平均セル径が200μm以下であり、かつ各セル径が小さく揃っており、しかもヒケやアバタ等による外観不良の発生が抑制された発泡成形体を得ることができる。
以上のような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、セル形状に関しては、例えば、ホモポリプロピレン(B)を適量添加することにより、樹脂組成物の溶融張力が高く保たれ、その結果としてセル形状が安定すると考えられる。
ヒケの発生抑制に関しては、例えば、ホモポリプロピレン(B)を適量添加することにより、発泡は過度に抑制されず、かつ破泡が抑制され、樹脂と金型との間に存在してヒケの原因となるガスの発生が抑制され、しかもホモポリプロピレン(C)を適量添加することにより、高流動性が保たれ、かつ成形体全体の粘度が低く保たれ、発泡時の内圧が有効に生かされ、その結果としてヒケの発生が抑制されると考えられる。
アバタの発生抑制に関しては、例えば、ホモポリプロピレン(B)を適量添加することにより、破泡が抑制され、樹脂と金型との間に存在してヒケの原因となるガスの発生が抑制され、その結果としてアバタの発生が抑制されると考えられる。
したがって本発明によれば、例えばコアバック射出発泡成形において、発泡前の樹脂材の初期厚みは薄くして、しかも高い発泡倍率で良好に成形することが可能となり、発泡成形体の軽量化に非常に有利である。
<インパクトポリプロピレン(A)>
本発明に用いるインパクトポリプロピレン(A)は、ASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が30~200g/10minであり、23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部の135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が0.8~3.0dl/gであるインパクトポリプロピレンである。
インパクトポリプロピレン(A)は、23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部を含む。また好ましくは、23℃におけるn-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体部も含む。n-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部の含有量は、好ましくは70~97質量%、より好ましくは73~95質量%である。n-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体部の含有量は、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~27質量%である。
23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部の極限粘度[η]は0.8~3.0dl/gであり、好ましくは0.8~2.0dl/gである。
23℃におけるn-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体部の極限粘度[η]は、好ましくは1.0~10dl/g、より好ましくは3.0~8.0dl/g、特に好ましくは5.0~7.5である。また、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量は、好ましくは20~50質量%、より好ましくは25~40質量%である。
インパクトポリプロピレン(A)のMFRは、30~200g/10minであり、好ましくは30~150g/10minである。
インパクトポリプロピレン(A)中の23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)に含まれるプロピレン単独重合体部は、立体規則性に優れることが好ましく、たとえば、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が、好ましくは95.0%以上、より好ましくは97.0%以上であることが望ましい。プロピレン単独重合体部が、このように高いアイソタクチックペンタッド分率を有していると、樹脂の結晶性が高く、剛性の高い発泡成形体を製造することができる。アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)は、13C-NMRを使用して測定される値であって、ポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示しており、プロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。具体的には、13C-NMRスペクトルで観測されるメチル炭素領域の全吸収ピーク中に占めるmmmmピークの分率として算出される値である。
インパクトポリプロピレン(A)中には、分岐状オレフィン重合体が、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下の割合で含有されていてもよい。分岐状オレフィン重合体は、インパクトポリプロピレン(A)の核剤として作用するため、プロピレン単独重合体部のアイソタクチックペンタッド分率を高め、成形性を向上させることができる。そのような分岐状オレフィン重合体としては、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテンなどの分岐状オレフィンの単独重合体またはそれを含む共重合体を使用することができる。これらの中では、3-メチル-1-ブテンが好ましい。
インパクトポリプロピレン(A)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を用いる場合には、その合計であるインパクトポリプロピレン(A)が上記各範囲を満たすことが好ましい。
<ホモポリプロピレン(B)>
本発明に用いるホモポリプロピレン(B)は、135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が6~10dl/gであるホモポリプロピレンである。
ホモポリプロピレン(B)のASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1~5g/10min、より好ましくは2~5g/10minである。
ホモポリプロピレン(B)の135℃のテトラリン中での極限粘度[η]は6~10dl/gである。この極限粘度[η]が6dl/g未満であると、得られる発泡成形体の気泡が十分に微細化しない場合がある。一方、この極限粘度[η]が10dl/gを超えると、得られる発泡成形体の気泡のセル径が小さくなり過ぎ、発泡不良による成形品表面のへこみが発生し易い。この極限粘度[η]は、好ましくは7~9dl/gである。
<ホモポリプロピレン(C)>
本発明に用いるホモポリプロピレン(C)は、ASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が200~1000g/10minであるホモポリプロピレンである。
ホモポリプロピレン(C)のASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は、200~1000g/10minである。このMFRが200g/10min未満であると、射出成形時の樹脂の流動長が長い場合にショートショットや末端での発泡不良が生じ易く、かつ発泡成形体の表層が柔らかくなって表面にディンプルが生じる場合がある。一方、このMFRが1000g/10minを超えると、ガス抜けや破泡などの発泡不良が生じる恐れがある。このMFRは、好ましくは300~700g/10minである。
<α-オレフィンエラストマー(D)>
本発明に用いるα-オレフィンエラストマー(D)は、α-オレフィンを主成分として構成されるエラストマーである。その種類は特に限定されないが、エチレン系エラストマーが好ましく、エチレンと、炭素原子数3~10のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。エチレンと共重合する炭素原子数3~10のα-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンが挙げられる。これらα-オレフィンは2種以上を併用しても良い。中でも、1-ブテン及び1-オクテンが特に好ましい。
α-オレフィンエラストマー(D)のASTM D-1238により190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.5~40g/10min、より好ましくは0.5~20g/10min、特に好ましくは0.5~10g/10minである。
α-オレフィンエラストマー(D)の密度は、好ましくは0.850.90g/cm、より好ましくは0.85~0.88g/cmである。
<無機フィラー(E)>
本発明に用いる無機フィラー(E)の種類は特に限定されないが、例えば、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭酸マグネシウム、マイカ、カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、チタンホワイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを使用できる。これらは無機フィラーは2種以上を併用しても良い。中でも、タルクが特に好ましい。
<その他の成分>
本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物は、その目的を損なわない範囲で、必要に応じて各種添加剤を含有してもよい。添加剤の具体例としては、核剤、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、架橋剤、流れ性改良剤(過酸化物など)、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックスが挙げられる。
<射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物>
本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物は、以上説明したインパクトポリプロピレン(A)、ホモポリプロピレン(B)及びホモポリプロピレン(C)を含み、必要に応じてα-オレフィンエラストマー(D)及び無機フィラー(E)を含み、さらにその他の成分を含んでいても良い樹脂組成物である。成分(A)~(E)の合計量100質量部を基準として、各成分(A)~(E)の含有量は以下の通りである。
インパクトポリプロピレン(A)の含有量は30~96質量部であり、好ましくは30~50質量部である、
ホモポリプロピレン(B)の含有量は1~10質量部である。この含有量が1質量部未満であると、発泡成形体のセルが破泡し易く、発泡不良によるへこみや物性のバラつきが発生し易い。一方、この含有量が10質量部を超えると、発泡成形体の表面に筋状の不具合やアバタが発生し易い。この含有量は、好ましくは1~7質量部である、
ホモポリプロピレン(C)の含有量は3~29質量部である。この含有量が3質量部未満であると、射出成形時の樹脂の流動長が長い場合にショートショットや末端での発泡不良が生じ易く、かつ発泡成形体の表層が柔らかくなって表面にディンプルが生じる場合がある。一方、この含有量が29質量部を超えると、ガス抜けや破泡などの発泡不良が生じる恐れがある。好ましくは5~20質量部である、
α-オレフィンエラストマー(D)の含有量は、好ましくは0~30質量部、より好ましくは1~30質量部、特に好ましくは10~30質量部、最も好ましくは15~25質量部である。
無機フィラー(E)の含有量は、より好ましくは1~30質量部、特に好ましくは10~30質量部、最も好ましくは15~25質量部である。
以上説明した本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物は、発泡剤を添加して、射出発泡成形用途に用いる組成物である。
<射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体>
本発明の射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体は、以上説明した射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物に対して、無機又は有機系の化学発泡剤である発泡剤(F)0.1~10質量部を添加し、射出発泡成形してなる成形体である。
発泡剤(F)は無機又は有機系の発泡剤であれば良く、その種類は特に限定されない。無機系発泡剤の具体例としては、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウムが挙げられる。有機系発泡剤の具体例としては、N,N’-ジニトロソテレフタルアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のN-ニトロソ化合物:アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ化合物:ベンゼンスルフォニルヒドラジド、トルエンスルフォニルヒドラジド、p,p'-オキシビス(ベンゼンスルフェニルヒドラジド)、ジフェニルスルフォン-3,3’-ジスルフォニルヒドラジド等のスルフォニルヒドラジド化合物;カルシウムアジド、4,4’-ジフェニルジスルフォニルアジド、p-トルエンスルフォニルアジド等のアジド化合物が挙げられる。発泡剤(F)は2種以上を併用しても良い。また発泡剤(F)は、樹脂組成物に予め配合しても良いし、射出成形する際にシリンダーの途中から注入しても良い。
発泡剤の添加量は、射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物[成分(A)~(E)の合計量100質量部]に対して、通常0.1~10重量部、好ましくは0.4~5.0重量部、より好ましくは0.7~3.0重量部である。
本発明の射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体において、発泡前の初期投入肉厚は、好ましくは1.0~2.0mmであり、より好ましくは1.0~1.8mmである。また、発泡倍率は、好ましくは1.5倍以上であり、より好ましくは1.5~3.0倍である。ここで「発泡前の初期投入肉厚」とは、射出金型に投入する発泡前の樹脂材の厚みを意味する。また「発泡倍率」とは、後述する実施例に記載のとおり、発泡前の板厚(t)と、発泡後の板厚(t)の板厚比(t/t)を意味する。
射出発泡成形は、例えば、可塑化樹脂組成物を射出成形機から金型のキャビティへ射出充填し、その後キャビティの容積を増大させて可塑化樹脂組成物を発泡させて発泡成形体を製造することにより行う。
射出発泡成形に用いる成形金型は、例えば、固定型と可動型とから構成され、これらは可塑化樹脂組成物の射出充填時には型締状態にあることが好ましい。また、キャビティの容積は、可動型を後退(コアバック)させてキャビティを拡開させることにより増大させることができ、特に射出充填後、適度な時間を置いて増大させることが好ましい。コアバック時のコア移動速度は、成形体の厚み、樹脂の種類、発泡剤の種類、金型温度、樹脂温度により適宜決定すれば良い。
射出する樹脂の温度及び金型温度は、成形体の厚み、樹脂の種類、発泡剤の種類・添加量などにより異なるが、ポリプロピレン系樹脂の成形に通常用いられる温度で充分であり、製品厚みが薄いもの、発泡倍率が高いものを得る場合は、通常の金型温度より高めに設定すると良い。具体的には、例えば、射出する樹脂の温度は、通常170~250℃、好ましくは180~220℃である。固定型及び可動型の金型温度は、通常10~100℃、好ましくは30~80℃である。金型内圧力は、通常5~50MPa、好ましくは10~30MPaである。射出圧力は、通常10~250MPa、好ましくは12~200MPaである。
キャビティに一度に樹脂組成物を充填した後、発泡させることにより、金型と接する部分の樹脂が内部の樹脂に比べて早く固化して成形品表面に未発泡のソリッドスキン層が形成し、中心に発泡層を有する射出発泡成形体が得られる。射出発泡成形体は、成形品表面に未発泡のソリッドスキン層を有するため、固い製品形状を得、維持することができ、高剛性の成形体を得ることができる。また、成形体内部の発泡層のセル形状、セル密度、発泡倍率に多少の分布が発生しても、スキン層の平滑性と剛性により外観が良好な成形体が得られる。このソリッドスキン層の厚みは特に限定されないが、好ましくは0.1~0.5mm、より好ましくは0.3~0.5mmである。中心発泡層の厚みは、好ましくは2~4mm、より好ましくは1.8~3.5mmである。
本発明の射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体は、例えば、自動車内外装用部品、ダンボールなどの代替え品、電器製品、建材等の各種用途に好適に用いることができ、特に自動車内装用部品及び自動車外装用部品の用途に好適である。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例及び比較例で使用した各成分の組成や物性は、以下の方法により測定した。
(1)23℃におけるn-デカン可溶部及び不溶部の量
ガラス製の測定容器にサンプル3g(10-4gの単位まで測定した。また、この質量を、下式においてb(g)と表した。)、デカン500ml、及びデカンに可溶な耐熱安定剤を少量装入し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間で150℃に昇温してプロピレン系ブロック共重合体を溶解させ、150℃で2時間保持した後、8時間かけて23℃まで徐冷した。得られたプロピレン系ブロック共重合体の析出物を含む液を、磐田ガラス社製25G-4規格のグラスフィルターで減圧ろ過した。ろ液の100mlを採取し、これを減圧乾燥してデカン可溶成分の一部を得て、この質量を10-4gの単位まで測定した(この質量を、下式においてa(g)と表した)。この操作の後、デカン可溶成分量を下記式によって決定した。
室温n-デカン可溶成分(Dsol)含有率=100×(500×a)/(100×b)
室温n-デカン不溶成分(Dinsol)含有率=100-100×(500×a)/(100×b)
(2)23℃におけるデカン可溶部のエチレン含量
13C-NMRの測定に基づき下記のようにして測定・算出し決定した。サンプルは、前記のn-デカン可溶成分量を求めた際に得られたデカン可溶成分を用いた。この可溶成分を試料として、下記条件にて13C-NMRの測定を行った。
13C-NMR測定条件
測定装置:日本電子製LA400型核磁気共鳴装置
測定モード:BCM(Bilevel Complete decoupling)
観測周波数:100.4MHz
観測範囲:17006.8Hz
パルス幅:C核45°(7.8μ秒)
パルス繰り返し時間:5秒
試料管:5mmφ
試料管回転数:12Hz
積算回数:20000回
測定温度:125℃
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン:0.35ml/重ベンゼン:0.2ml
試料量:約40mg
測定で得られたスペクトルより、下記文献(1)に準じて、モノマー連鎖分布(トリアッド(3連子)分布)の比率を決定し、プロピレン系重合体のデカン可溶部中のエチレンに由来する構成単位のモル分率(mol%)(以下E(mol%)と記す)及びプロピレンに由来する構成単位のモル分率(mol%)(以下P(mol%)と記す)を算出した。求められたE(mol%)及びP(mol%)から下記(式1)に従い質量%に換算しプロピレン系重合体のDsol中のエチレンに由来する構成単位の質量(質量%)(以下E(質量%)と記す)を算出した。
文献(1):Kakugo,M.; Naito,Y.; Mizunuma,K.; Miyatake,T., Carbon-13 NMR determination of monomer sequence distribution in ethylene-propylene copolymers prepared with delta-titanium trichloride-diethylaluminum chloride. Macromolecules 1982, 15, (4), 1150-1152
E (wt%)=E(mol%)×28×100/[P(mol%)×42+E(mol%)×28]・・・(式1)
(2)極限粘度[η]
極限粘度[η]は、135℃のテトラリン中で常法に従い測定した。
(3)メルトフローレート(MFR)
ASTM D-1238に準じ、230℃、荷重2.16kgの条件、または、190℃、荷重2.16kgの条件(α-オレフィンエラストマー(D)の場合)で測定した。
(4)α-オレフィンエラストマー(D)の密度
α-オレフィンエラストマー(D)の密度は、ISO-1183(JIS K7112)に準じて測定した。
実施例及び比較例で使用した各成分は、以下の通りである。
[インパクトポリプロピレン(A)]
「A-1」:インパクトポリプロピレン
MFR(230℃、2.16kg):60g/10min
プロピレン単独重合体部の極限粘度[η]:1.2dl/g
プロピレン・エチレン共重合体部の含有量:14.4質量%
プロピレン・エチレン共重合体の極限粘度:5.7dl/g
プロピレン・エチレン共重合体のエチレン含量:30質量%
「A-2」:インパクトポリプロピレン
MFR(230℃、2.16kg):80g/10min
プロピレン単独重合体部の極限粘度[η]:1.2dl/g
プロピレン・エチレン共重合体の含有量:10.0質量%
プロピレン・エチレン共重合体の極限粘度:7.0dl/g
プロピレン・エチレン共重合体のエチレン含量:30質量%
「A-3」:インパクトポリプロピレン
MFR(230℃、2.16kg):110g/10min
プロピレン単独重合体部の極限粘度[η]:1.2dl/g
プロピレン・エチレン共重合体の含有量:12.0質量%
プロピレン・エチレン共重合体の極限粘度:4.0dl/g
プロピレン・エチレン共重合体のエチレン含量:24質量%
[ホモポリプロピレン(B)]
「B-1」:ホモポリプロピレン
(株式会社プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロVP103W)
MFR(230℃、2.16kg):3g/10min
極限粘度[η]:8.1dl/g
「B-2」:ホモポリプロピレン
MFR(230℃、2.16kg):7g/10min
極限粘度[η]:3.5dl/g
[ホモポリプロピレン(C)]
「C-1」:ホモポリプロピレン
(株式会社プライムポリマー製、商品名:H-50000)
MFR(230℃、2.16kg):500g/10min
[α-オレフィンエラストマー(D)]
「D-1」:エチレン系エラストマー(エチレン・1-デセン共重合体)
MFR(190℃、2.16kg):2g/10min
密度:0.87g/cm
「D-2」:エチレン系エラストマー(エチレン・1-ブテン共重合体)
MFR(190℃、2.16kg):35g/10min
密度:0.87g/cm
[無機フィラー(E)]
「JM209」:微粉末タルク(浅田製粉株式会社製、商品名:JM209)
平均粒径:4.1μm
[発泡剤(F)]
「N系」:窒素系発泡剤(永和化成工業株式会社製、商品名:ポリスレンEE206)
「CO系」:重炭酸ナトリウム・クエン酸ナトリウム系の無機発泡剤(永和化成工業株式会社製、商品名ポリスレンEE25C、当該発泡剤濃度が30質量%となるように低密度ポリエチレンに練りこんだ発泡剤マスターバッチ)
<実施例1~4、比較例1~4>
インパクトポリプロピレン(A)、ホモポリプロピレン(B)、ホモポリプロピレン(C)、α-オレフィンエラストマー(D)及び無機フィラー(E)を表1に示す量(質量部)で混合し、造粒して射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物に、発泡剤(F)を含む発泡剤マスターバッチをドライブレンドした(発泡剤(F)自体の量を表1に示す量(質量部))。そして以下の条件で射出発泡成形し、発泡成形体を得た。
[射出発泡成形方法]
・射出成形機:宇部興産機械(株)製、MD350S-III型(型締め力350t)
・金型
キャビティサイズ:縦400mm、横200mm、厚さ1.2mm
ゲート:キャビティ中央1点ダイレクトゲート
射出温度:210℃又は190℃
金型表面温度:45℃
射出時間:1.0s(射出開始から溶融樹脂を射出し終わるまでの時間)
・発泡成形条件
発泡工程終了後の成形型クリアランス:3.0mm
コアバック速度:20mm/s
樹脂充填後の発泡開始遅延時間:0~1s
射出時金型キャビティクリアランス(L0):1.2mm
以上のようにして得た発泡成形体を、以下の方法で評価した。なお各評価は、射出温度210℃の条件で成形して得た発泡成形体と、射出温度190℃の条件で成形して得た発泡成形体の各々に対して実施した。その結果を表1に示す。
(1)発泡倍率
発泡前の板厚をt=1.2mmとし、発泡後の板厚をtとし、板厚比t/tを発泡倍率として、2.5倍以上の発泡倍率が達成したか否かについて、以下の基準で評価した。
「A」:発泡後の成形体の板厚tが3.0mm以上であり、2.5倍以上の発泡倍率を達成できた。
「B」:発泡後の成形体の板厚tが3.0mm未満であり、2.5倍以上の発泡倍率が達成できなかった。
(2)発泡不良
発泡後の成形体の表面を目視で観察し、ヒケの有無を以下の基準で評価した。
「A」:目視でヒケが認められなかった。
「B」:目視でヒケが認められた。
(3)セル形状
発泡後の成形体の断面の気泡を目視で観察し、セル形状を以下の基準で評価した。
「A」:破泡の無い独立気泡のみが認められた。
「B」:わずかに破泡による連続気泡が認められた。
「C」:破泡による連続気泡で発泡層に亀裂が認められた。
(4)セル形状2
発泡後の成形体の断面の目視で観察される気泡から平均セル径を計測し、以下の基準で評価した。
「A」:気泡の平均セル径が200μm以下であり、かつ目視で、各セル径が小さく揃っていることが認められた。
「B」:気泡の平均セル径が200μm以下であり、ただし目視で、各セル径は小さく揃っているとは認められなかった。
「C」:気泡の平均径が200μmを超えていた。
(5)アバタ外観
発泡後の成形体を目視で観察し、アバタの有無を以下の基準で評価した。
「A」:目視でアバタが認められなかった。
「B」:目視でアバタが認められた。
Figure 0007433116000001
表1に示すように、実施例1~4においては、発泡前の初期投入肉厚を1.2mm、発泡倍率を2.5倍以上にした場合、窒素系発泡剤を用いて射出温度210℃及び190℃の何れの条件でも良好な発泡成形が可能であり、成形体の外観も良好であった。
なお一般に、窒素系発泡剤を用いると良好な発泡性と良好な外観を得るのは比較的難しいことが知られている。したがって、実施例1~4においては窒素系発泡剤を用いても良好な結果が得られたことから、本発明の効果の顕著性も理解できる。
比較例1~4は極限粘度[η]が3.5dl/gと低いホモポリプロピレン(B-2)を使用した例であり、発泡成形体にアバタが認められた。比較例1~4ではホモポリプロピレン(B-2)の粘度が低いので、ガスが系外へ出易く、アバタが発生したものと考えられる。
さらに比較例1~4の「セル形状2」の評価結果から、射出温度210℃の条件で得た発泡成形体は気泡の平均セル径は200μm以下であったが、各セル径は小さく揃っているとは認められず、射出温度190℃の条件で得た発泡成形体は気泡の平均セル径が200μmを超えていたことが分かる。比較例1~4ではホモポリプロピレン(B-2)の粘度が低いので、気泡が膨らむのを抑制できず、大きなセル径の気泡が混在したり、平均セル径が大きくなったものと考えられる。
比較例1~4のうち、特に比較例3及び4は窒素系発泡剤を用いて発泡成形した例であり、発泡成形体にヒケが認められた。比較例3及び4では窒素系発泡剤を用い、かつホモポリプロピレン(B-2)の粘度が低いので、ガスが系外へ出易く、ヒケが発生したものと考えられる。
さらに比較例3及び4の「セル形状」の評価結果から、射出温度190℃の条件で得た発泡成形体にはわずかに破泡による連続気泡が認められたことが分かる。比較例3及び4では窒素系発泡剤を用い、かつホモポリプロピレン(B-2)の粘度が低いので、気泡が膨らむのを抑制できず、破泡による連続気泡が生じたものと考えられる。
本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物は、発泡成形、特に射出発泡成形に好適に用いることができる。この樹脂組成物を用いた本発明の射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体は、例えば、自動車内外装用部品、ダンボールなどの代替え品、電器製品、建材等の各種用途に好適に用いることができ、特に自動車内装用部品及び自動車外装用部品の用途に好適である。

Claims (7)

  1. ASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が30~200g/10minであり、23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部の135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が0.8~3.0dl/gであるインパクトポリプロピレン(A)30~96質量部、
    135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が6~10dl/gであるホモポリプロピレン(B)1~10質量部、
    ASTM D-1238により230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が200~1000g/10minであるホモポリプロピレン(C)3~29質量部
    α-オレフィンエラストマー(D)0~30質量部、及び
    無機フィラー(E)0~30質量部
    [成分(A)~(E)の合計量100質量部]
    を含んでなる射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
  2. インパクトポリプロピレン(A)の23℃におけるn-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体部の135℃のテトラリン中での極限粘度[η]が1.0~10dl/gである請求項1に記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
  3. インパクトポリプロピレン(A)中の23℃におけるn-デカン不溶部(Dinsol)として特定されるプロピレン単独重合体部の含有量が70~97質量%であり、23℃におけるn-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体部の含有量が3~30質量%である請求項1又は2に記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
  4. α-オレフィンエラストマー(D)がエチレン系エラストマーである請求項1~3の何れかに記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
  5. 無機フィラー(E)がタルクである請求項1~4の何れかに記載の射出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
  6. 請求項1~5の何れかに記載の樹脂組成物[成分(A)~(E)の合計量100質量部]に対して、無機又は有機系の化学発泡剤である発泡剤(F)0.1~10質量部を添加し、射出発泡成形してなる射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体。
  7. 発泡前の初期投入肉厚が1.0~2.0mmであり、発泡倍率が1.5倍以上である請求項6に記載の射出発泡ポリプロピレン樹脂組成物成形体。
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