JP7419586B1 - 免震構造用すべり支承 - Google Patents

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Abstract

【課題】免震構造用すべり支承において、弾性すべり支承よりも応答加速度抑制効果の高い剛すべり支承を実現する。【解決手段】上部構造体側に固定される上側第1すべり板、下部構造体側に固定されるスライダーの上面に掘込み部を設けて下側第2すべり板を配置し、その周囲には外周突起縁を備える。すべり材は、第2すべり板の上に配置され、すべり材周囲には外周突起縁までに隙間eを有しており、すべり材下面は外周突起縁までの隙間空間内においてすべり可能である。すべり材上面の第1すべり板側の上面すべり距離には制限はない。第1すべり板・第2すべり板・すべり材共に表面は平坦であり、上側第1すべり板とすべり材上面で決定される摩擦係数をμ1、下側第2すべり板とすべり材下面で決定される摩擦係数をμ2とするとき、摩擦係数をμ2<μ1に設定している。【選択図】図3

Description

本発明は、免震構造用すべり支承に関する。
地震に対する安全性を高める建物の構造方式として、免震構造がある。免震構造建物は、基礎等の下部構造体、目的とする建物である上部構造体、下部構造体及び上部構造体の間に設けられる免震層の3部分より構成される。
免震層には、上部構造体の重量を支えながら水平変形するアイソレータ(免震支承)と重量は支持しないが地震時の振動エネルギー(地震入力エネルギー)の吸収を目的とするダンパーで構成される。アイソレータには各種の積層ゴム支承、すべり支承、転がり支承等が知られている。
すべり支承には、すべり材を取り付ける支持部材本体(これを「スライダー」と呼ぶ)に比較的薄い積層ゴム体を利用する「弾性すべり支承」(特許文献1)および薄いゴム単層を用いる「弾性すべり支承」(特許文献2)、積層ゴム体を用いない「剛すべり支承」(特許文献3)等が知られている。
本発明すべり支承の前提となる先行技術としてのすべり支承の代表例として以下の5例を提示する。
特許文献1:弾性すべり支承の基本型の例
特許文献2:弾性すべり支承の簡易型の例
特許文献3:剛すべり支承の基本型の例
特許文献4:すべり板の表面仕上げをエリア別に変えて、応答変位に応じてすべり摩擦係数を変えようとする提案
特許文献5:支持点傾斜の影響を受けないすべり支承
剛すべり支承と弾性すべり支承との相違は、すべりが発生する前における初期剛性の違いにある。
剛すべり支承の初期剛性は非常に高いので、すべりが発生するまでの変位は非常に小さい。これに対して、「弾性すべり支承は、すべりが発生するまでにスライダー本体の積層ゴム部分が水平変形を生じるので、すべり発生への移行が緩やかであり、その結果すべり発生時に上部建物に生じる衝撃が小さく、建物の応答加速度上は弾性すべり支承が剛すべり支承よりも有利である」と一般的には理解されている。
すべり支承のすべり摩擦係数のレベルは、一般にA:高摩擦すべり、B:中摩擦すべり、C:低摩擦すべりの3タイプが知られており、高摩擦タイプはすべり摩擦係数が10%前後(0.08~0.014)、中摩擦タイプは3%~6%程度(0.03~0.06)、低摩擦タイプは1%(0.01)前後のものが実用化されている。
すべり支承の摩擦係数は、装置毎に一定の値であるのが基本であるが、すべり板の表面処理を領域に分けることにより、すべり変位量に応じて摩擦係数が変化するすべり支承(特許文献4)も提案されている。
これは地震動が弱い場合にはすべり抵抗力が小さく上部建物の揺れ(応答加速度)を小さく抑え、強い地震動ですべり変位が大きくなるとすべり摩擦係数を高めてすべり変位量を制限しようとする考えである。
しかし、この方式では、免震装置としての摩擦係数は、すべり材が接触している面積のすべり板の表面処理に依存するため、すべり材が当初に接触している低摩擦領域から高摩擦領域への完全移行にはすべり材直径分以上のすべり変位が必要であり、厳しい地震動入力に対して高摩擦抵抗への移行は間に合わず、応答変位の抑制に対する効果は定量的には充分でないと言わざるを得ない。しかも、1装置当たり数百トン以上の荷重を支える一般的なすべり支承のすべり材直径は、大地震時の応答変位よりも大きい場合が殆どであるので、高摩擦抵抗領域への完全移行は実際には成立しないことになる。
一般に免震装置は、地盤側基礎と上部構造体間の水平相対変位に対してその水平抵抗力を制御するものである。どのような免震装置も、上下構造体間で水平せん断変形することを前提としており、もし装置下基礎側の支持点が傾斜すると、装置の水平方向性能はその影響を受ける。
免震装置が安定した水平性能を発揮するためには、積層ゴムでは支持点傾斜角が1/100(rad)以下に抑制されていることが必要とされており、積層ゴム部のゴム層高さが薄い弾性すべり支承では地震時傾斜角を1/200(rad)以下に制限する必要がある。
この地盤側支持点の地震時傾斜角の影響を受けずに安定したすべり性能を発揮できるすべり支承として、鉛直軸に対して360°全方向の支持点傾斜角を吸収できるピン支点をすべり支承内に内蔵した「回転機構付きすべり支承」(特許文献5)が実現されている。
特開2005-54447号公報 特開2003-56203号公報 特開2003-301625号公報 特開2021-156390号公報 特願2022-004692号公報
免震構造用すべり支承の優劣に関しては、上部構造体建物の地震応答加速度抑制効果の観点から、一般的には剛すべり支承よりも弾性すべり支承が優れていると理解されているが、弾性すべり支承、剛すべり支承それぞれに長所と短所および課題を有している。
本発明は、これまでの剛すべり支承の弱点を克服した「弾性すべり支承よりも優れた剛すべり支承」の実現を目差すものである。
弾性すべり支承はすべり発生前の初期剛性が低いために、剛すべり支承よりも地震時応答加速度が良くなる長所がある。
逆に弾性すべり支承には、暴風時における建物振動の発生という居住性上の課題が存在する。その居住性対策、振動発生防止を目的として、すべり抵抗力を風荷重以上に高めて風荷重によるすべり変位が発生しないように設計した場合でも、その初期剛性が低いために、風荷重によって積層ゴム体部分に変形が発生する。強い風荷重に釣り合う抵抗力が生じる為には初期剛性が低いために大きな変形が生じる必要があるので、建物が風荷重で振動し、居住者が不快感や大きな不安感を感じるという居住性上の問題が発生しやすい。
また長周期・長時間地震動においては、地震動の継続時間の大半を占める弱い地震動に対して、剛すべり支承ではすべりが生じず何の問題も発生しないのに対して、弾性すべり支承では弱い地震動でも変形が発生し、且つ積層ゴム体の変形領域ではすべりによるエネルギー吸収が行われないため、弱い地震動に対する共振現象が発生し、長時間にわたり揺れが継続する所謂「長周期構造物問題」が生じるという課題がある。
この弾性すべり支承と剛すべり支承の違いは、弾性すべり支承における積層ゴム体の変形性能にある。一般的には積層ゴム体のゴム層を高くするほど地震時応答性能(加速度抑制効果)は改善されると理解されているが、逆に風荷重による変形や振動問題は、積層ゴム体のゴム層を高くして変形性能を高めるほど大きくなり、また地震時応答変位も大きくなって長周期地震動による振動継続時間問題も大きくなるという一長一短の課題を抱えている。
更に弾性すべり支承は、杭頭(支持点)傾斜問題に対して、すべり摩擦係数や鉛直剛性が支持点傾斜によって大きく変化するという問題点も有している。弾性すべり支承に正常なすべり性能を発揮させるためには支持点(杭頭)傾斜角を1/200(rad)以下に抑える必要があり、その為に杭頭を剛強な地中梁で拘束するには大きな経済的負担が発生するという問題を抱えている。
一方、剛すべり支承は、すべり発生前の初期剛性が高いために、地震時応答において上部建物の高次モードが励起されやすく、上部構造建物の「地震時応答加速度が高くなりやすい」という弱点を有している。
剛すべり支承としては、これが克服すべき唯一の課題であるとも言えるが、同時にこの課題は容易には解決できず、「剛すべり支承の宿命とも言える難しい課題である」というのがこれまでの一般的理解である。
以上の剛すべり支承と弾性すべり支承両者の長所短所、問題点・課題を踏まえた上で、理想のすべり支承としてのあるべき姿の一解決策として、剛すべり支承において「高い初期剛性に起因する上部構造建物への地震応答加速度が高くなる」という欠点を、「弾性すべり支承の積層ゴム体を用いることなく、ゴム層変形による低い初期剛性とは異なる方法で解決できる剛すべり支承」の開発・実現を本発明の主たる課題、開発目標とする。
また同時に、支持点傾斜により鉛直剛性およびすべり摩擦係数が変化するという弾性すべり支承の弱点を有しないすべり支承の実現も本発明すべり支承の課題とする。
以上の課題を要約すると、本発明は、杭頭傾斜・支持点傾斜による免震装置性能の影響を受けない剛すべり支承であり、且つ高い初期剛性に起因する上部構造建物の地震時応答加速度が高くなるという問題が生じず、「弾性すべり支承以上に地震応答性能の優れた剛すべり支承を実現する」ことを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、以下の構成は上記の課題を解決し、目的を達成するための手段である。
〈構成1〉
上部構造体に固定される上側第1すべり板と、下部構造体に固定される下部スライダーと、両者の間に配置されるすべり材で構成されるすべり支承であり、
前記下部スライダーは、上側凸部材と下側凹部材の2部材を組合せて構成されており、
前記上側凸部材の下端には、曲率半径r1の凸球面が備えられており、
前記下側凹部材は、平面中央に凹型窪みを備えたすり鉢形状となっており、
前記凹型窪みの平面中央最深部上面は、曲率半径R2の凹球面となっており、
前記凸球面の曲率半径r1よりも前記凹球面の曲率半径R2が大きく、
前記上側凸部材が、前記凹型窪み内に上から挿入されており、
前記上側凸部材の側面周囲には前記凹型窪みの側壁との間に隙間空間Vが設けられ、
前記凸球面と前記凹球面が両者の球面中心部で点接触している構成となっており、
前記上側凸部材の上端に、彫込部を設けて外周突起縁を構成しており、前記彫込部内に下側第2すべり板が挿入されており、前記下側第2すべり板の上側に前記すべり材が配置されており、
前記上側第1すべり板および前記下側第2すべり板の表面は共に平坦面であり、
前記すべり材は、上面および下面の両面がすべり面処理されて、前記上側第1すべり板と前記下側第2すべり板に直接接触しており、
前記下側第2すべり板および前記外周突起縁の内側の平面寸法が、前記すべり材の平面寸法に対して、全外周に渡ってeだけ大きく設定されており、
且つ下面すべり(前記すべり材の下面と前記下側第2すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ2が、上面すべり(前記すべり材の上面と前記上側第1すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ1よりも小さく(μ2<μ1)設定されていること
を特徴とするすべり支承。
〈構成2〉
構成1に記載のすべり支承において、
前記上側第1すべり板と前記すべり材の上面の組合せで決定されるすべり摩擦係数をμ1とし、
前記下側第2すべり板と前記すべり材の下面の組合せで決定されるすべり摩擦係数をμ2とした場合に、
すべり摩擦係数の大きさをμ2<μ1の関係にしていること
を特徴とするすべり支承。
〈構成3〉
構成2に記載のすべり支承において、
前記下部スライダーの上面に深さdの彫込み部を設けることにより前記外周突起縁を構成しており、
その掘り込み部内に前記下側第2すべり板が挿入配置されていること
を特徴とするすべり支承。
〈構成4〉
構成3に記載のすべり支承において、
前記下部スライダーが、上側凸部材と下側凹部材の2部材を組合せて構成されており、
前記上側凸部材の上端には、前記彫込み部、前記第二すべり板および前記すべり材が備えられており、
且つ前記上側凸部材の下端には、曲率半径r1の凸球面が備えられており、
前記下側凹部材は、平面中央に凹型窪みを備えたすり鉢形状となっており、
前記凹型窪みの平面中央最深部上面は、曲率半径R2の凹球面となっており、
前記凸球面の曲率半径r1よりも前記凹球面の曲率半径R2が大きく、
前記上側凸部材が、前記凹型窪み内に上から挿入されており、
前記上側凸部材の側面周囲には前記凹型窪みの側壁との間に隙間空間Vが設けられ、
前記凸球面と前記凹球面が両者の球面中心部で点接触していること
を特徴とするすべり支承。
〈構成5〉
構成4に記載のすべり支承において、
前記すべり材は、均一な厚さtの平板形状であり、
前記すべり材が前記外周突起縁上面より突出している高さが、前記すべり材の厚さtの1/10以上、且つ3/10以下であること
を特徴とするすべり支承。
〈構成6〉
構成5に記載のすべり支承において、
前記上側凸部材の上面に設けられた前記第二すべり板の上側で、且つ前記すべり材の外周部の幅eの隙間ゾーンに、
前記すべり材の水平移動に伴って圧縮されると前記すべり材を押し返し元の形状に復元しようとする圧縮バネ部材を配置していること
を特徴とするすべり支承。
〈構成7〉
構成6に記載のすべり支承において、
前記圧縮バネ部材が、ゴム材料で成形されたリング形状もしくはゴム平板であること
を特徴とするすべり支承。
〈構成8〉
構成4に記載のすべり支承において、
前記上側凸部材および前記下側凹部材で構成される前記下部スライダーが、鋳鉄もしくは鋳鋼により鋳造されていること
を特徴とするすべり支承。
〈構成9〉
上部構造体に固定される上側第1すべり板と、下部構造体に固定される下部スライダーと、両者の間に配置されるすべり材で構成されるすべり支承であり、
前記下部スライダーが、積層ゴム体で構成されており、
前記積層ゴム体の上部に下側第2すべり板および外周突起縁を備えた上部フランジ鋼板を備えており、
前記下側第2すべり板の上側に前記すべり材が配置されており、
且つ前記積層ゴム体の下部に前記下部構造体に固定するための下部フランジ鋼板を備えている構成となっており、
前記上側第1すべり板および前記下側第2すべり板の表面は共に平坦面であり、
前記すべり材は、上面および下面の両面がすべり面処理されて、前記上側第1すべり板と前記下側第2すべり板に直接接触しており、
前記下側第2すべり板および前記外周突起縁の内側の平面寸法が、前記すべり材の平面寸法に対して、全外周に渡ってeだけ大きく設定されており、
且つ下面すべり(前記すべり材の下面と前記下側第2すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ2が、上面すべり(前記すべり材の上面と前記上側第1すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ1よりも小さく(μ2<μ1)設定されていること
を特徴とするすべり支承。
〈構成10〉
構成1乃至9のいずれかに記載のすべり支承において、
全体構成を上下逆転させており、
前記上側第1すべり板が前記下部構造体に固定されており、
前記下部スライダーが前記上部構造体に固定されていること
を特徴とするすべり支承。
(効果1:支持点傾斜の影響を吸収可能である)
本発明では、まず杭頭傾斜、支持点傾斜の影響を受けないすべり支承を実現するために、特許文献5のスライダーの基本構成を採用する。
即ち、下部構造体に固定されているスライダーが上側凸部材と下側凹部材の2部材に分割されており、両者は接触球面の中心で点接触している。
また両球面の曲率半径がr1≪R2と大きく異なっているので、下部構造体に固定されている下側凹部材が杭頭傾斜あるいは支持地盤側基礎の傾斜等によって傾斜した場合でも、上側凸部材の鉛直軸は角度不変である。
この時、本発明装置スライダーの球面接触部では、凹凸両部材の接触点が僅かに移動する。即ち、基礎側支持点に固定されている下側凹部材は支持点と同じ傾斜角を生じるが、上側凸部材の鉛直軸角度は鉛直軸を保ったまま不変であり、下側凹部材との相対的角度が変わることにより支持点傾斜角を吸収できる。
即ち、下側凹部材の傾斜角を両者の接触部において吸収することができるので、上側凸部材は下側凹部材の傾斜の影響を受けず、傾斜が生じない。従ってその結果、上側凸部材の上面にあるすべり面は支持点傾斜の影響を受けず、すべり材のすべり面は常に全面接触条件を維持できるだけでなく、接触面全体において均一の接触圧力を保持することができる。
その結果、杭頭部の支持点に傾斜が発生した場合でも、本すべり支承ではすべり材の接触条件、即ち接触面圧の分布に変化が生じないので、すべり摩擦係数は変化せず、安定したすべり性能を発揮することができる。
この効果は、少なくとも支持点傾斜角1/20(rad)までは、この支持点傾斜によってすべり性能が変化しないことが、実物性能実験によって確認されている。
ついでに弾性すべり支承における支持点傾斜の影響について説明する。弾性すべり支承において基礎側の支持点に傾斜が生じると、弾性すべり支承上部のすべり板もしくは上部構造体側に傾斜が生じないかぎり、積層ゴム体は基礎側傾斜によって断面形状が斜めに変形することを強制される。積層ゴム体の断面形状を側面からみた場合、支持点傾斜がない初期状態では水平平行の長方形断面形状であったものが、支持点傾斜によって、傾斜の上方側では断面厚さが圧縮されて小さくなり、傾斜下方の断面厚さが大きい台形形状になり、傾斜角が大きい場合には下方側には隙間さえ発生することになる。
この結果、支持点傾斜が発生した場合、弾性すべり支承ではすべり材の接触面圧に偏りが生じて接触面圧が不均一になる。支持点の傾斜角が僅か1/200(rad)程度になるだけで、接触面の半分程度が浮き上がり状態になることが実物実験により確認されている。
この時の支持荷重は残り半分程度の接触面積で支えられており、その部分の面圧は平均でも2倍以上、端部では非情に高い面圧が発生していることになる。この結果として、支持点傾斜が発生すると、弾性すべり支承では、面圧依存性の効果によってすべり摩擦係数が低下することになるのである。
(効果2:免震層ピットの杭頭地中梁を省略可能である)
上記のとおり、本発明のすべり支承の性能は支持点傾斜の影響を受けないので、杭基礎建物の場合、地震時に発生する杭頭傾斜角を許容できることになり、杭頭の回転変形を拘束する必要がない。
従って、本発明のすべり支承を用いれば杭頭を繋ぐ地中梁は不要となり、杭頭地中梁を省略することができる。その結果、免震層ピットの耐圧盤構成が大きく簡略化・合理化され、免震ピット基礎躯体の構造部材量が大幅に削減される。
近年では、平面寸法が200メートル×300メートルといった建物平面の非常に大きな物流倉庫等が建設される場合がある。柱スパンはXY両方向共に10メートル程度であるので、平面全体に渡って10メートル間隔でXY両方向に配置される杭頭地中梁を省略できる経済的メリット、コストダウン効果は非常に大きなものになる。
(効果3:杭の耐震安全性が向上し、杭の経済設計が可能である)
更に、杭頭地中梁を設けない場合、杭頭部に地中梁の曲げ戻し効果が作用しないので地震時杭頭曲げ応力が発生しない。また杭に作用する鉛直荷重Pの作用位置はすべり変位によっても移動しないので、水平すべり変位δに伴うPδモーメントが杭には作用しない。その結果、杭体自体の地震時安全性が大きく向上すると共に、杭体の経済設計が可能となる。
(効果4:免震層ピットおよび擁壁の経済設計が可能である)
杭頭地中梁が不要になり、免震層ピットの耐圧盤レベルを浅くできる結果、免震層ピットを構築する際の掘削土量も大きく削減されることになる。その結果掘削深さが浅くなり擁壁に作用する土圧が減少するために免震層ピット外周部の擁壁断面も削減可能になる。
以上のとおり、本発明すべり支承を採用すると、免震ピット基礎躯体の建設コストを大きく低減できる効果があり、免震構造建物における免震層以下の基礎構造体全体の合理化が実現でき、コスト削減が実現できるという大きな経済効果が発生する。
(効果5:2段すべりにより、弾性すべり支承以上に優れた応答加速度抑制効果が発揮される)
次に、本発明の中心課題である剛すべり支承における免震性能の改善方法、即ち上部建物の地震時応答加速度抑制効果の改善方法とその効果について説明する。
本発明では、構成1および構成3に示したとおり、スライダーの上側凸部材の上面にすべり材を配置する深さdの彫込み部を設け、その彫込み部の平面形状をすべり材の平面形状の全外周の外側にeだけ大きくしており、且つ彫込み部の底面全面に下側第2すべり板を挿入配置し、その第2すべり板の上にすべり材を配置している。
即ち、本発明では、すべり材の上面および下面の両面がすべる「上下両面すべり」として構成しており、構成2に示すとおり、すべり材上側の上部第1すべり板とすべり材上面の組合せで決定されるすべり摩擦係数をμ1とし、すべり材下側の下側第2すべり板とすべり材下面の組合せで決定されるすべり摩擦係数をμ2とした場合に、すべり摩擦係数の大きさをμ2<μ1の関係に設定している。
この構成において、本発明のすべり支承に地震動が作用した場合の挙動は以下となる。
先ず、初期条件としてすべり材は彫込部の中央に存在し、彫込部外周にある外周突起縁の内側側壁がすべり材から外側eの位置に存在しているとして説明する。先ず地震動の作用により、摩擦係数が低いすべり材下面でのすべり(以後「下面すべり」と呼ぶ。すべり摩擦係数はμ2)が発生する。下面すべりの変位がeに達すると、すべり材は彫込部外周部の側壁に接触しこれ以上の下面すべりが制限されるため、それ以後はすべり材上面の摩擦係数が高い(μ1)側でのすべり(以後「上面すべり」と呼ぶ)が発生する。
地震動により振動方向が逆転すると、再び摩擦係数が低い下面すべりが先ず発生し、この時はすべり変位が2eで反対側の彫込部の側壁に接触し、ここで下面すべりが制限され、以後上面すべりに移行する。
以上の本発明すべり支承の復元力特性(すべり摩擦係数μ-すべり変位d関係)は、図5に示す「2段型復元力特性」の形状になる。
この2段型復元力特性による上部構造建物の地震応答特性は、実施例で後述するとおり、弾性すべり支承の応答特性以上に滑らかな加速度応答性能を示し、加速度抑制効果以外の上部建物に発生する応答層せんだん力は応答変位等の面でも優れた免震性能を示すことが確認されている。
これまで一般的には、弾性すべり支承が剛すべり支承よりも上部構造物の加速度応答特性が良くなる原因は、すべり支承の復元力特性における1次剛性(初期剛性)の大きさに依存する(弾性すべり支承の1次剛性が小さいため)と理解されてきたが、本発明は、この「すべり支承の加速度応答は復元力特性の1次剛性に支配される」というこれまでの一般的理解は厳密には正しくないことを明らかにした。
加速度は速度の時間的変化の大きさである。構造物における応答加速度は、復元力特性の剛性に支配されているのではなく、「構造物に作用する力の時間的変化の程度(大きさ)に支配される」というのが正しい理解である。
即ち、復元力特性の初期剛性が低い場合は、初期剛性が高い場合よりも抵抗力の変化に要する時間がより長くかかるから加速度応答が良く(低く)なっているのであり、「剛性が低いこと自体が加速度改善の直接的原因ではない」ことを本発明が明らかにしたのである。
従って、加速度応答を改善する方法としては積層ゴム体を採用してその変形を利用して水平剛性を低くするだけが唯一の解決策ではなく、「すべり抵抗力が変化する復元力特性の折り返し点において要する変化時間を長くする」ことができれば、加速度応答特性を改善できるのである。これが本発明の着眼点の重要な物理的原理である。
(応答加速度抑制効果が発現する原理説明)
具体的に説明すると、本発明ではすべり変位の折り返し点(折り返し直後)において、まず摩擦係数の低い下面すべり(摩擦係数μ2)を発生させ、その下面のすべり変位が拘束された段階で摩擦係数の高い上面すべり(摩擦係数μ1)に移行するという2段階のすべり特性(以下「2段すべり」と命名する)を付与することによって加速度応答特性の改善を実現しているのである。
即ち、摩擦係数μ1での上面すべりからすべり変位方向が逆転して逆方向の上面すべり摩擦係数μ1に移行する途中において、摩擦係数μ2の低い下面すべりを介在させることにより、上面すべり(μ1)から逆方向上面すべり(μ1)への移行時間を弾性すべり支承以上に長く確保する効果を実現しているのである。
更に、この応答加速度抑制効果、換言すれば折返し点に要する時間変化の調整は、下面すべりのすべり変位距離e(もしくは2e)の設定の大小によって自由に調整することができるという性能調整の自由度も有している。
(効果6:免震効果発現の地震動の入力レベルを調整できる)
また本発明では、下面すべりの摩擦係数μ2の設定により、免震効果発現の地震動に対する入力レベルを任意に調節、設定することが可能となる。例えば、μ2=0.01程度に設定すれば、10ガル程度の慣性力ですべりが発生するので、従来震度4~5程度でないと免震効果を発揮できなかったすべり支承を、震度2~3レベルでも免震効果を発揮させることが可能である。
(効果7:免震効果を上げながら大地震時の応答変位も抑制可能である)
更に、従来のすべり支承において、すべり摩擦係数0.01程度の低摩擦すべり支承とした場合、エネルギー吸収性能が低い為に、これだけでは大地震時の応答変形が過大になり、別途何らかのエネルギー吸収装置としてのダンパー(減衰装置)を付加する必要があるが、本発明すべり支承では低い摩擦係数μ2でのすべり変位は下面すべりが可能な2e以下の範囲に制限されており、すぐに本来の摩擦係数μ1に移行するので、大地震に対する応答変位が大きく増加する恐れがなく、別途追加ダンパーを付加する必要がないという効果も有している。
(効果8:すべり摩擦係数を変化させる文献4の問題点を解決している)
本発明のすべり支承は、すべり摩擦係数を僅かなすべり変位内で変化させる特性、即ち「低い摩擦係数μ2から高い摩擦係数μ1へすべり変位2eで移行させる」特性を実現している。これは、段落(0007)および段落(0008)で指摘した特許文献4によるすべり板の表面処理を領域に分けてすべり摩擦係数を変化させる方式の問題点、即ち「すべり摩擦係数の変化にはすべり材の直径寸法以上の大きなすべり変位を必要とし、摩擦係数の変化が応答変位の抑制に間に合わない」という課題を解決している。
(効果9:地震終了後における残留変位量が小さくなる)
詳細は、実施例(図14)において後述するが、下面すべりの摩擦係数が低いことにより、地震終了時における残留変位量が剛すべり支承や弾性すべり支承に較べて小さくなる。特にこの効果は入力地震動レベルが低い場合に顕著に現れる傾向がある。
以上の本発明が実現している効果をまとめると以下のとおりである。
1)本装置の基礎・支持点の地震時傾斜角の影響を受けず、常に安定したすべり性能を発揮できる。
2)杭基礎の耐震安全性を向上させ、杭および免震ピットの基礎・耐圧盤・擁壁等を経済設計できる。
3)地震応答性能において、従来の剛すべり支承および弾性すべり支承の両者よりも優れた免震応答性能を実現できる。
4)応答加速度抑制効果を下すべり距離e(もしくは2e)によって自由に調整できる。
5)免震性能(応答加速度抑制効果)を発現させる地震動レベルを下すべりの摩擦係数(μ2)の設定によって自由に調整できる。
6)高い免震性能(応答加速度抑制効果)を発揮させても応答変位が過大にならず、減衰装置(ダンパー)を別途付加する必要が生じない。
7)低い摩擦係数μ2から高い摩擦係数μ1への変化・切り替えが極めて短いすべり距離において確実に行え、A)優れた免震効果の発現、およびB)強い地震動に対する安全性確保、の両者を両立できる。
8)地震動終了後における残留変位値を剛すべり支承および弾性すべり支承の両者よりも小さく抑制することができる。
本発明すべり支承における両面すべり(2段すべり)の基本構成を示す説明図であり、 (1)は、基本構成の断面図(スライダーの内部構成は不問としている)、 (2)は、すべり材を上から見下げた平面図で、すべり材平面が円形の場合、である。 本発明すべり支承における両面すべり(2段すべり)の基本構成を示す説明図であり、 (1)は、基本構成の断面図(スライダーの内部構成は不問としている)、 (2)は、すべり材を上から見下げた平面図で、すべり材平面が矩形の場合、である。 本発明すべり支承において、スライダーを凸部材と凹部材の組合せ構成とした場合の説明図であり、 (1)は、断面構成図、 (2)は、すべり材を上から見下げた平面図、である。 凹凸両部材で構成されるスライダーの説明図であり、 (1)は、スライダーの凹凸両部材の断面形状図、 (2)は、スライダーの凹凸両部材の力学的概念を示す力学モデル図である。 本発明の両面すべり(2段すべり)により発揮されるすべり支承としての復元力特性図であり、 縦軸は摩擦係数、横軸はすべり変位の履歴ループ形状図である。 本発明の両面すべり支承(2段すべり支承)と復元材としての積層ゴムの組合せとして免震層を構成した場合の免震層全体としての復元力特性の形状図である。 本発明すべり支承に用いるすべり材材料の圧縮強度特性 本発明におけるすべり材部の配置構成例であり、 (1)は、すべり材と周囲クリアランスの位置関係を示す平面図、 (2)は、すべり材の周囲クリアランス部に配置される圧縮ばね要素の配置例 スライダー本体を積層ゴム体で構成した場合の本発明すべり支承であり、 (1)は、断面構成図、 (2)は、縦軸が摩擦係数、横軸がすべり変位の履歴ループ形状図である。 すべり支承3システム:(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承(本発明))の地震応答性能の比較-1 (その1)すべり支承3システムの設計用復元力特性(左側)と減衰性能(右側) すべり支承3システム:(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承(本発明))の地震応答性能の比較-2 (その2)3システムの最大応答の比較図 すべり支承3システム:(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承(本発明))の地震応答性能の比較-3 (その3)3システムの最大応答値一覧表 すべり支承3システム:(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承(本発明))の地震応答性能の比較-4 (その4)3システムの最大応答値の相対比率表(剛すべり支承を基準とした値) すべり支承3システム:(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承(本発明))の地震応答性能の比較-5 (その5)3システムの地震終了後における残留変位値の比較一覧表
(図1:本発明すべり支承の基本構成図1)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1(1)の全体構成断面図に示すとおり、本発明装置は、上部構造体側の上部基礎10と、下部構造体側の下部基礎20との間に設置されるすべり支承である。
図1(2)は、本発明装置のすべり材3(円形の場合)を上から見下ろした平面図であり、すべり材3の周囲にはクリアランス部30(寸法e)が確保されており、その外側に外周突起縁50が存在する。
すべり材3は、下側第2すべり板4の上に配置されており、外周突起縁50の内壁に接触するまでクリアランス部30において摩擦係数μ2で滑動することができる。外周突起縁50に接触したすべり材3が逆方向にすべる場合の摩擦係数μ2の下面すべり距離は2eとなる。
すべり材3の上面側の摩擦係数μ1と下面側の摩擦係数μ2は、μ2<μ1に設定されているので、本すべり支承に水平力が作用すると、先ず摩擦係数が低い下面側(摩擦係数μ2)での下面すべりが発生し、すべり材3が周囲の外周突起縁50の内側面に接触すると下面側のすべり変位はそこで拘束されて、これ以上の下側すべりは制限される。水平力が上面側の摩擦力を越えると上面側(摩擦係数μ1)での上面すべりが発生することになる。
次に地震動が逆転して水平力の作用方向が逆向きになると、再び下面側(摩擦係数μ2)のすべりが発生し、そのすべり変位が2eになるとすべり材が反対側の外周突起縁50の内側面に接触して下面すべりはストップし、その後は摩擦係数μ1の上面すべりに移行する。
以上、本発明のすべり支承では、「先ず下面すべりが発生し、そのすべり変位が外周突起縁で制限されると上面すべりに移行し、逆転すると再び下面すべりが発生したあと上面すべりに移行する」という2段階の摩擦係数での交互のすべり運動が生じるというのが本発明装置のすべり運動の基本メカニズムである。その復元力特性が図5に示されている。
(図2:本発明すべり支承の基本構成図2)
図2は、すべり材3の平面形状を矩形とした場合であり、その構成および動作の仕方は図1と同様である。すべり材の平面形状を矩形とした場合は、円形の場合に較べて、同じ外形寸法でもすべり材面積が大きくなるので、すべり材の接触面圧が同じでも円形よりも支持荷重を大きくできるメリットがある。同一面圧、同一外形寸法での支持荷重は、正方形平面は円形平面の1.27(=4/π)倍となる。
(図3:スライダーを凹凸両部材で構成した本発明すべり支承)
図3は、スライダー構成として段落(0030)から段落(0032)で説明した効果を有する凸部材、凹部材で構成されるスライダーを採用し、且つすべり材の上下両面をすべり面とした両面すべり方式とした場合であり、図3(1)が断面構成を、図3(2)がすべり材3を上から見下ろした平面図を示している。
すべり材3は、凸部材の外周突起縁60の内側において摩擦係数μ2(下面すべり)ですべることができ、すべり材3が外周突起縁60に接触すると下面すべりは拘束され、その後は摩擦係数μ1の上面すべりに移行する。
(図4:凹凸両部材によるスライダー構成と力学モデル)
図4は、凹凸両部材で構成されるスライダーの構成と力学的原理の説明図であり、図4(1)は、図3に示したスライダーの凹凸両部材の断面構成図と接触球面の曲率半径の説明図、図4(2)は、その断面構成に対応したスライダーの力学モデル図である。
図3(1)および図4(1)、に示すとおり、スライダーは凹凸2部材に分離されており、上側凸部材の接触球面は曲率半径r1の凸球面、下側凹部材の接触球面は曲率半径R2の凹球面となっており、両者は接触球面の中央位置67で点接触している。
両者の曲率半径はr1≪R2の関係に設定されている。これによって、凹凸両部材は、接触点においてすべりを生じる必要がなく、下側基礎(凹部材側)の地震時傾斜角に応じて、両者の相対的角度が変化する。この時接触点67が僅かに回転移動するだけで基礎側の傾きに容易に追従可能であり、凹凸両部材は接触球面の中心において容易に傾斜変形することができるので、この接触点は図4(2)に示すように「ほぼ完全ピン」の接合条件が成立しているとみなすことができる。この時、凸部材の軸剛性は支持荷重に対して充分な剛性を有する剛体を構成しており、且つその上面が平坦な受け皿形状となっている部分にすべり材3が配置されている。
この構成において下側基礎躯体20に一体化されている凹部材7に傾斜が生じると、下側凹部材7の上面の凹球面にも傾斜が生じるが、この凹球面に対して上側凸部材はピン支点として接触しているので、凹球面の傾斜の影響は受けず、上側凸部材6は鉛直軸を保った直立状態を維持することができる。
従って、本発明のすべり支承では、下部構造体側20(杭頭)に傾斜が発生しても、その影響を受けず、上側凸部材6の上面に配置されているすべり材3は、常に全面接触条件を維持すると共に、その接触面圧分布が均一で基礎側傾斜によって接触面圧分布が変化しない。
その結果、本すべり支承では、支持点傾斜を受けてもすべり摩擦係数は変化せず、また装置の鉛直剛性も変化しない。これは実大装置を用いた接触面圧確認実験によって確認されている。
以上のとおり、本発明すべり支承のすべり材は常に均一な接触面圧が維持され、すべり性能は凹部材下の基礎支持点の傾斜の影響を全く受けない構成となっている。この構成によって、本発明のすべり支承は常に安定したすべり性能を発揮することが担保されている。
ここで、凹凸両部材の接触球面の曲率半径r1、R2に関してr1≪R2の関係について補足する。このスライダー構成では、両者の曲率半径が大きく異なっていること(例えばR2/r1≧2)が非常に重要であり、これによって接触部のピン接合条件が成立する。
その結果、両部材の傾斜角を吸収するために接触部においてすべり変位を生じる必要はなく、接触点の傾斜(=回転運動)によって両部材の傾斜角を吸収することが可能となる。
両者の曲率半径が近接している従来の一般的球座では、傾斜角を吸収するには両部材間の接触面での相対的すべり運動が必要となり、そのすべり運動には大きな鉛直支持荷重によるすべり摩擦力に打ち勝つ必要があるので、従来の一般的球座は実際には容易には回転できないという問題を抱えている。
これに対して本装置では凹凸両部材がすべる必要はなく、両部材の相対運動は相対的傾斜・回転運動であるので、傾斜角を容易に吸収することができる。この時、接触点位置がわずかに移動すればよいだけである。
(図5:本すべり支承の復元力特性図)
段落(0037)からび段落(0038)で説明した本発明装置のすべり運動の基本メカニズム、即ち上下両面すべりによって実現される本発明装置の「2段すべり」の復元力特性の形状を示したものが図5である。
下面すべりの摩擦係数μ2のすべり距離はすべり材が下部スライダーの平面中央に位置する場合はeとなるが、一旦すべり材が外周突起縁60(もしくは50)に接触した後は2eとなる。
本発明装置における実際のすべり摩擦係数としては、例えばμ2≒0.01程度、μ1≒0.03~0.04程度に設定される。
従来型のすべり支承では、摩擦係数は一定であり、すべり摩擦係数が中摩擦ないし高摩擦のすべり支承では、すべり抵抗力が高いために上部建物の応答加速度が高くなる。
逆に応答加速度を下げる為に摩擦係数が0.01程度の低摩擦すべり支承を採用すると、減衰性能(エネルギー吸収性能)が低い為に応答変位が過大になる。そのため、応答変位を適切な範囲に抑制するためには、別途エネルギー吸収を補う減衰装置(油圧ダンパーや鋼材履歴ダンパー等)を追加設置する必要が生じる。
これに対して本発明のすべり支承では、すべり始めの摩擦係数はμ2≒0.01程度の低摩擦であるため、地震の作用に対して低い抵抗力で円滑にすべりはじめるので上部建物の応答加速度が低く抑制されるが、すべり変位2e程度ですぐに摩擦係数がより高い(3倍程度の)μ1≒0.03(~0.04)に移行するため、応答変位も適切な領域に抑制される。
即ち、本発明のすべり支承では、上部建物の応答加速度を良好に抑制可能であると同時に、且つ本装置だけで応答変位も適切なレベルに抑制可能であるという特長・メリットを実現している。
(図6:建物全体としての免震層の復元力特性図)
免震装置として、本発明のすべり支承と復元装置としての積層ゴム支承(水平弾性バネ材)を採用し、その組合せよるハイブリッド免震方式として免震層を構成した場合の建物全体の免震層の復元力特性の形状を示したものが図6である。
即ち、図5の復元力特性と復元材としての積層ゴムの水平バネKrの合成となり、図5の復元力特性が積層ゴムの水平バネKrだけ傾いた特性となる。
図6に示されているとおり、すべり変位の折り返し点における復元力特性は、下面すべりの摩擦係数μ2時の抵抗力が復元装置の抵抗力との合成により殆どゼロに近い極めて低い抵抗力になるため、すべり反転時におけるすべり始めは極めてスムーズな挙動になり、極めて良好なすべり特性を発揮することが期待できる。
また本発明すべり支承と積層ゴムの組合せによる本免震システムでは、支点反力(支持荷重)等に関係なく積層ゴムの使用数量を任意に決定できるので、復元力による免震周期をかなり自由に設定、調整することが可能であることも大きな特徴である。
図7は、構成5に示したすべり材上端が外周突起縁の上面より突出している高さの妥当性を示す根拠である。
即ち、本発明すべり支承ではすべり材が上下両面ですべり変位を起こすが、すべり材の側面がスライダー上端の外周部に存在する外周突起縁の内側壁面に接触することによって下面すべりの変位が制限される。この時、すべり材側面にはすべり変位を拘束する水平力が作用する。この水平力は上面のすべり摩擦力に等しい力となる。この水平力をすべり材側面の接触圧力で拘束するために、すべり材が側面に接触する高さはできるだけ大きい方が好ましい。
一方、すべり材上面が外周突起縁の上面より出る高さがあまりに小さいと、支持荷重における地震時変動軸力によりすべり材上面高さが周囲の外周突起縁の上面高さと同じレベル以下になると、外周突起縁の上面が上部の第一すべり板に接触することになるので、すべり性能に悪影響が発生する。
従って、すべり材上面の突出高さは、地震時の変動軸力を考慮しても外周突起縁の上面以下になる恐れがなく、且つできるだけ外周突起縁の深さに対して深く設置されていることが望ましいことになる。
(図7:すべり材材料の圧縮強度特性)
図7は、構成5に示したすべり材上端が外周突起縁の上面より突出している高さの妥当性を示す根拠であり、すべり材に採用している材料(高分子材料)の圧縮強度試験結果(5試験データの重ね書き)を示している。
圧縮応力度(圧縮面圧)σとそれに対応する圧縮歪度εは以下の関係となっている。
1)σ1は、すべり材に作用する長期作用面圧の上限値(=長期許容面圧)
σ1=20MPaとすると、その時の圧縮歪度はε1≒1.2%
2)σ2は、地震時において瞬間的に作用し得る短期面圧の上限値、
σ2=40MPaとすると、その時の圧縮歪度はε2≒2.3%
3)σ3は、この材料の設計上の限界強度1(安全側の設定値)
σ3=80MPaとすると、その時の圧縮歪度はε3≒5.8%
4)σ4は、この材料の設計上の限界強度2(一般的値)
σ4=100MPaとすると、その時の圧縮歪度はε4≒11.0~11.3%
5)σ5は、この材料の実質的な限界強度
σ5=120MPaとすると、その時の圧縮歪度はε5≒18.0~18.3%
本すべり材は、長期作用面圧としては最大値σ1(20MPa)以下の面圧で使用されるものとしている。地震時の作用面圧は瞬間的には最大値σ2(40MPa)に達する可能性があるが、これは瞬間的に変動する値であり、地震時においても常時作用している平均面圧はσ1以下である。
すべり材が外周突起縁の内壁に接触している水平力FHは、すべり材が円形平面(直径D)の場合、FH=πD2・σ1・μ1/4 であるので、円形すべり材が接触している外周突起縁の内側側面から受ける圧縮応力度σHは、接触部有効範囲をすべり材の中心角90度の範囲内とし、すべり材の接触部高さをHとすると、接触面積AH=π・D・H/4であるので、σH=FH/AH=D・σ1・μ1/H となる。
ここで、すべり材側面の受ける圧縮応力度の許容限界をσ3~σ5と設定すると、
すべり材直径Dとしては、
側面圧縮応力度σ3(80MPa)の場合 D≦121H(mmφ)
側面圧縮応力度σ4(100MPa)の場合 D≦151H(mmφ)
側面圧縮応力度σ5(120MPa)の場合 D≦181H(mmφ)
となり、すべり材材料の圧縮強度限界値に応じて上記のすべり材直径Dを許容できることになる。
今ここで、すべり材直径の最大値を900mmφとし、側面の圧縮応力度を最も安全側のσ3(80MPa)で抑えるものとすると、すべり材の側面接触部の高さHはH≧7.4mm、側面圧縮応力度σ4(100MPa)とするとH≧6.0mmとなる。
従って、すべり材の厚さtをt=10mmとすると、外周突起縁の上端より突出する高さのすべり材厚さに対する比率は、σ3(80MPa)制限で2.6/10以下、σ4(100MPa)制限で4/10以下となる。
一方、すべり材厚さは、すべり材が支持する鉛直荷重で圧縮変形するので、その鉛直荷重の最大荷重作用時においても外周突起縁の上端が上側第1すべり板に接触しないことが必要である。
図7によれば、地震時の最大圧縮応力度でσ2=40MPa作用時の圧縮歪度はε2≒2.3%であるので、厚さt=10mmのすべり材の圧縮変形量は0.23mm程度となる。
一方、本すべり材量の圧縮クリープ特性試験結果によれば、面圧20MPa、温度摂氏20度での60年後のクリープ歪度は0.73%と予測されているので、これに安全余裕を見て圧縮クリープ量を1%とみなすことにする。
地震時の最大圧縮面圧σ2=40MPa作用時の変形量と耐用期間中のクリープ変形量の合計は3.3%になるので、これに更に余裕をみて、耐用期間中の最大圧縮歪度を5%と想定する。
厚さt=10mmのすべり材において歪度5%の圧縮変形量は0.5mmであるので、これに更に余裕を見て外周突起縁の上端からのすべり材上面の突出高さとして1mm(すべり材厚さの1/10)以上を確保すれば十分な余裕があると判断できる。
以上のとおり、
1)すべり材の圧縮変形により外周突起縁の上端が上側第1すべり板に接触しないことを担保する条件として、すべり材厚さの1/10以上が外周突起縁上面より突出していることとし、
2)すべり材が外周突起縁の内側側壁面に接触する時のすべり材の側面強度を確保する観点から、すべり材側面が外周突起縁高さより突出する高さをすべり材厚さの3/10乃至4/10以下に制限する条件が生まれる。
これらの二観点より、構成5では、すべり材が外周突起縁上面より突出している高さをすべり材厚さtの1/10以上、且つ3/10以下に制限しているのである。
(図8:すべり材周囲における圧縮ばねの配置例)
図8(1)はすべり材3とその周囲のクリアランス部30、その外側の外周突起縁60の構成、位置関係を示したものであり、図8(2)は、構成6および構成7に示したクリアランス部30に圧縮ばね要素31を配置する場合の一例を示している。
この圧縮ばね要素31は、すべり材3が外周突起縁60に接近すると圧縮されてその抵抗力をすべり材への反力として与えることにより、すべり材3の外周突起縁60への接触速度を制限し、接触時の衝撃を緩和する効果を生み出すものである。
これは、図5、図6において、下すべりがすべり摩擦係数μ2ですべった後、すべり材3が外周突起縁60に接触する際の摩擦係数の変化が緩やかなカーブを描いていることに対応している。
本発明のすべり支承では、すべり始めの摩擦係数μ2が低い値ですべり始めることに加えて、摩擦係数の変化の仕方が緩やかであり、急激な変化を避けるメカニズムを導入することにより、上部建物の応答加速度の抑制効果が更に高まるように配慮されている。
(図9:スライダーを積層ゴム体で構成する場合の構成断面と復元力特性図)
図9(1)は、構成9に示すスライダー本体に積層ゴム体を採用した場合の断面構成図であり、図9(2)はこの場合の復元力特性図を示している。
積層ゴム体にすべり機構を組み合わせた一般的な弾性すべり支承の復元力特性は、積層ゴム体の変形による1次剛性の傾きとすべり変位部を組み合わせた単純なバイリニアループとなるが、弾性すべり支承に本発明の両面すべり機構を組合せた場合には、図8(2)に示されるとおり、初期剛性(1次剛性)部分に下すべり(摩擦係数μ2)による階段状履歴が付加されるので、ここでのすべり時間が追加されるため、弾性すべり支承よりも更に大きな応答加速度抑制効果が発揮されることになる。
図10から図14は、本発明の2段すべり支承が優れた免震効果を発揮することを確認した地震応答解析結果の検討例である。
検討方針としては、同一の対象建物に対して、3通りの免震システムを適用した場合に対して同一入力による地震応答解析を行い、その応答解析結果により免震システムの優劣を比較するものとする。
3通りの免震システムは、共に復元材としての積層ゴムNRとすべり支承との組合せ方式とし、すべり支承だけを(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承(本発明)の3とおりとする。
適用建物は4階建ての免震建物とし、重量、剛性、装置採用数も全て同一条件としている。
各すべり支承の摩擦係数は(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承共に共通のμ1=0.033とし、(C)2段すべり支承ではμ1=0.033とし、下面すべりのすべり摩擦係数はμ1の1/2以下のμ2=0.015としている。
時刻歴地震応答解析の入力地震動は、全システム共通の一般的な告示波(八戸位相)を採用し、地震動の強さはレベル1(稀な地震動)およびレベル2(極めて稀な地震動)の2段階としている。
(図10:免震構造3システムの応答性能比較用の復元力特性図)
図10は、検討対象とした免震建物の免震層構成の復元力特性を示したもので、上から順に、(A)NR+剛すべり支承、(B)NR+弾性すべり支承、(C)NR+2段すべり支承(本発明)の3種類としている。
図の左側が設計用復元力特性、図の右側はその設計用復元力特性に対応する免震層の減衰性能(等価粘性減衰定数)を示している。
尚、NRは、天然ゴム系積層ゴムであり、各建物共通の仕様と復元力特性としている。
(図11:免震構造3システムの最大応答値の比較図)
(図12:免震構造3システムの最大応答値の数値一覧表)
図11は、時刻歴地震応答解析結果において、免震システム3種類の最大応答値を比較して図示したものであり、左側がレベル1入力時、右側がレベル2入力時の結果である。
図の上から順に、最大応答加速度、最大応答変位、最大応答層せん断力、最大応答層せん断力係数を示している。
また図12は、図11のグラフ上にプロットされた点の数値一覧表である。
先ず図11・図12において、最大応答加速度を見ると、(A)剛すべり支承の応答加速度が最も大きく、これに対して(B)弾性すべり支承と(C)2段すべり支承は大きく改善されている。
(B)弾性すべり支承と(C)2段すべり支承は概ね同等程度であり、最大応答加速度だけでは優劣は見分けがたい。図12の加速度数値を見ても、階によって大小関係が入れ替わっており、最大応答加速度は概ね同程度と言うのが妥当と思われる。
各階にはその応答加速度に対応した地震慣性力が発生している。ある対象層より上階の地震慣性力の累積和が対象層の層せん断力であり、各層の累積支持重量に対する層せん断力の比率が層せん断力係数である。
最大応答層せん断力に注目すると、最大応答加速度では明確でなかった応答性能の優劣がより明確に表れている。まず(A)剛すべり支承の応答層せん断力が最も大きく、特に上層階の応答が大きいのは層せん断力係数によく表れており、これは最大応答加速度の応答性状と同様である。
最大応答層せん断力では、(B)弾性すべり支承と(C)2段すべり支承との相違が明確に表れており、(C)2段すべり支承の応答層せん断力は(B)弾性すべり支承よりもかなり小さくなり、応答性能が改善されている。
即ち、「(C)2段すべり支承は、(B)弾性すべり支承よりも優れた免震効果・応答抑制効果を発揮する」と言うことができる。
また2段すべり支承の応答結果はレベル1、レベル2共に優れた特性を示しているが、あえてその相違に着目すると、レベル1入力の方がレベル2入力時よりもより効果が大きい傾向が認められ、2段すべり支承の応答抑制効果は入力地震動レベルが低い場合、即ち弱い地震動入力の場合が相対的にはより顕著に効果が現れることを示唆している。
また応答層せん断力の分布形状に着目すると、この3種類の免震システムでは、免震層の応答層せん断力には大きな相違がないにも拘わらず、第2層の層せん断力を最大として第1層から第3層の上部建物の層せん断力が免震層よりも大きくなっている。これは、2次モード以上の高次モードが(A)剛すべり支承、(B)弾性すべり支承の順で強く励起されており、(C)2段すべり支承では高次モードが励起されにくく、上部建物にとって優しい地震応答特性を示すことが確認できる。
次に図11の最大応答変位に着目すると、レベル1、レベル2入力共に、(B)弾性すべり支承の応答変位が最も大きくなっており、(C)2段すべり支承は(A)剛すべり支承とほぼ同程度の応答変位に収まっている。
以上の上部建物の応答加速度、応答層せん断力、免震層の最大応答変位に関する応答特性を複合してまとめると、本発明の(C)2段すべり支承は、「上部建物に対しては応答加速度・層せん断力共に(B)弾性すべり支承と同等以上に良い応答を示しながら、且つ免震層の最大応答変位は(A)剛すべり支承と同程度に抑制可能である」という耐震安全性上非常に有利な応答特性を示す(耐震安全性能が高い)ことが示されている。
この優れた特性、即ち「(イ)応答加速度抑制効果を上げながら、且つ(ロ)応答変位が小さいことの両立」は、どこから生まれるのか。これが本発明の最も重要なキーポイントであるが、その秘密は図10の各免震システムの復元力特性に示されている。
先ず(イ)の特性について説明すると、上部建物の加速度応答特性を改善する為に、(A)剛すべり支承の高い初期剛性に対して、(B)弾性すべり支承では初期剛性を下げることによって急激な剛性変化を回避し、履歴ループの折れ曲り点、即ち応答変位の逆転時における所要時間を剛すべり支承よりも長く確保することによって上部建物の加速度応答特性を改善している。
この効果は、従来は加速度応答は初期剛性に依存すると理解されていたが、初期剛性への依存ではなく、正しくは応答変位の逆転時における所要時間に依存していることが正しい理解であり、これは段落(0039)から段落(0041)において前述したとおりである。
次に、(ロ)の「応答変位を(B)弾性すべり支承よりも小さく抑制できること」の秘密を説明すると、図10の復元力特性の履歴ループにおいて、応答変位折り返し点(変位逆転点)からある変位までの履歴ループ面積という観点で評価する時、(A)剛すべり支承の履歴ループ面積が3システムの中で最も大きくなっている。
このループ面積は地震応答時におけるエネルギー吸収性能を表しており、ループ面積最大(=エネルギー吸収性能最大)の(A)剛すべり支承が図11において最大応答変位が最小となっているのである。
この(A)剛すべり支承の履歴ループに対して、(B)弾性すべり支承は、初期剛性が低下している、即ち図10において初期剛性が斜めに傾いている為に、折り返し点からのループ面積が剛すべり支承よりも小さくなっており、そのエネルギー吸収性能の低下の為に最大応答変位が大きくなっている。弾性すべり支承では、応答加速度抑制効果を高める為には初期剛性を低下させる必要があるが、初期剛性を低下させるほど履歴ループのエネルギー吸収性能が低下するので応答変位が増大するという逆効果が発生する宿命を背負っている。
これに対して本発明の(C)2段すべり支承では、応答加速度の抑制は2段すべりによる時間効果で達成しており、履歴ループ面積は変位逆転時の剛性の前半は(A)剛すべり支承とほぼ同じであり、2段すべり変位点付近での面積減少分は(B)弾性すべり支承の面積減少分よりも小さくなっているために、最大応答変位は(B)弾性すべり支承よりも小さく収まり、(A)剛すべり支承とほぼ同等乃至は若干大きくなる程度に抑制できているのである。
(図13:免震構造3システムの最大応答値-相対比較表)
図13は、図12に示した最大応答値の数値(絶対値)一覧を、(A)剛すべり支承を基準値1.0とした場合の(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承の相対的比率の数値で示したものである。
これは、段落(0071)から段落(0074)に示した内容を数値的により分かりやすく示したものであるが、その要点を以下に再確認する。
まず最大応答加速度は、(B)弾性すべり支承、(C)2段すべり支承は概ね同程度の効果であるが、レベル2入力で剛すべりの60%程度、レベル1入力で50%程度に抑制されており、入力レベルが低い(地震動が弱い)レベル1においては(B)弾性すべり支承よりも(C)2段すべり支承の方が効果が高いことが示されている。
(B)弾性すべり支承よりも(C)2段すべり支承の方が応答抑制効果が高いことは、最大応答層せん断力および最大応答層せん断力係数においてより明確に示されている。
また各層の最大応答層間変位でも、レベル1、レベル2入力共に、(B)弾性すべり支承よりも(C)2段すべり支承の応答が小さく、耐震安全性能が優れていることが示されている。
また免震層の最大応答変位に着目すると、(C)2段すべり支承の最大変位は(B)弾性すべり支承よりも格段に小さく、(A)剛すべり支承の応答変位とほぼ同等レベルにまで抑制されている。
(図14:免震構造3システムの残留変位量の比較表)
図14は、レベル1入力として8波、レベル2として6波の異なる入力地震動に対する地震応答解析を行い、入力地震動の継続時間終了後(解析終了後)における残留変位量の値を一覧表として示したものである。
この結果を見れば分かるとおり、地震終了後の残留変位は、(B)弾性すべり支承が最も大きく、次に(A)剛すべり支承が大きく、(C)2段すべり支承の残留変位が最も小さくなっている。
特に地震動が弱いレベル1入力では、本発明の(C)2段すべり支承の残留変位が格段に小さくなっている。これは、地震動終了時近くの地震動が弱くなっている時点においても、2段すべり支承の下すべり面が低い摩擦係数μ2ゾーンでのすべり変位が可能であるので、復元材の原位置へ復帰しようとする復元力によって、原位置へ近づく効果が発揮され、残留変位が小さくなる効果が発揮されると理解することができる。
地震動終了時点における残留変位が小さくなることは、本発明の2段すべり支承の有する際立った特長である。
尚、図14に示したレベル1入力8波、レベル2入力6波、計14波の入力地震動に対する地震応答解析の結果は、図11および段落(0071)から段落(0075)に示した解析結果と全て符合するものである。
これらの応答解析結果を全て示すことはあまりに煩雑となるので、図11から図13は、免震システム3種類の相違を分かりやすく示す方法として、これら全地震動の中から標準的な地震動として告示波1波(八戸位相 KKAW-HACHI-NS)を選択して図化・表現したものである。
10:本発明装置の上部に位置する上部構造体側の上部基礎躯体
20:本発明装置の下部に位置する下部構造体側の下部基礎躯体
2 :上側第1すべり板
21:上側第1すべり板を構成する表面すべり板
22:上側第1すべり板を構成する裏板
23:上側第1すべり板を上部躯体1に接合するスタッドボルト
3 :すべり材(上下両面すべり材)
30:すべり材外周のクリアランス部
31:すべり材外周のクリアランス部に配置される圧縮ばね要素
4 :下側第2すべり板
5 :スライダー
(基本構成は、すべり材+外周突起縁+上側フランジ+本体+下側フランジ)
50:スライダーの外周突起縁
51:スライダーの上側フランジ
52:スライダー本体
53:スライダーの下側フランジ
55:スライダー本体を積層ゴム体で構成したスライダー
6 :スライダーの上側凸部材
60:スライダー上側凸部材の外周突起縁
61:上側凸部材の上側フランジ
62:上側凸部材の上面彫込部の上底面
63:上側凸部材の下側先端の凸球面
67:上側凸部材と下側凹部材の球面中央の接触点(ピン支点)
7 :スライダーの下側凹部材
71:下側凹部材の上端外周フランジ
72:下側凹部材の外側リブ
73:下側凹部材のすり鉢形状底部上面の凹球面
74:下側凹部材のすり鉢形状底部の周囲の側面における膨らみ部分
8 :スライダーの上側凸部材と下側凹部材間における隙間空間Vであり、発泡材の充填エリアおよび充填発泡材

Claims (7)

  1. 上部構造体に固定される上側第1すべり板と、下部構造体に固定される下部スライダーと、両者の間に配置されるすべり材で構成されるすべり支承であり、
    前記下部スライダーは、上側凸部材と下側凹部材の2部材を組合せて構成されており、
    前記上側凸部材の下端には、曲率半径r1の凸球面が備えられており、
    前記下側凹部材は、平面中央に凹型窪みを備えたすり鉢形状となっており、
    前記凹型窪みの平面中央最深部上面は、曲率半径R2の凹球面となっており、
    前記凸球面の曲率半径r1よりも前記凹球面の曲率半径R2が大きく、
    前記上側凸部材が、前記凹型窪み内に上から挿入されており、
    前記上側凸部材の側面周囲には前記凹型窪みの側壁との間に隙間空間Vが設けられ、
    前記凸球面と前記凹球面が両者の球面中心部で点接触している構成となっており、
    前記上側凸部材の上端に、彫込部を設けて外周突起縁を構成しており、前記彫込部内に下側第2すべり板が挿入されており、前記下側第2すべり板の上側に前記すべり材が配置されており、
    前記上側第1すべり板および前記下側第2すべり板の表面は共に平坦面であり、
    前記すべり材は、上面および下面の両面がすべり面処理されて、前記上側第1すべり板と前記下側第2すべり板に直接接触しており、
    前記下側第2すべり板および前記外周突起縁の内側の平面寸法が、前記すべり材の平面寸法に対して、全外周に渡ってeだけ大きく設定されており、
    且つ下面すべり(前記すべり材の下面と前記下側第2すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ2が、上面すべり(前記すべり材の上面と前記上側第1すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ1よりも小さく(μ2<μ1)設定されていること
    を特徴とするすべり支承。
  2. 請求項1に記載のすべり支承において、
    前記上側凸部材および前記下側凹部材で構成される前記下部スライダーが、鋳鉄もしくは鋳鋼により鋳造されていること
    を特徴とするすべり支承。
  3. 請求項1に記載のすべり支承において、
    前記すべり材は、均一な厚さtの平板形状であり、
    前記すべり材が前記外周突起縁の上面より突出している高さが、前記すべり材の厚さtの1/10以上、且つ3/10以下であること
    を特徴とするすべり支承。
  4. 請求項2に記載のすべり支承において、
    前記すべり材は、均一な厚さtの平板形状であり、
    前記すべり材が前記外周突起縁の上面より突出している高さが、前記すべり材の厚さtの1/10以上、且つ3/10以下であること
    を特徴とするすべり支承。
  5. 請求項1、2、3または4に記載のすべり支承において、
    前記下側第2すべり板の上側で、且つ前記すべり材の外周部の幅eの隙間ゾーンに、
    前記すべり材の水平移動に伴って圧縮されると前記すべり材を押し返し元の形状に復元しようとする圧縮バネ部材を配置していること
    を特徴とするすべり支承。
  6. 請求項5に記載のすべり支承において、
    前記圧縮バネ部材が、ゴム材料で成形されたリング形状もしくはゴム平板であること
    を特徴とするすべり支承。
  7. 上部構造体に固定される上側第1すべり板と、下部構造体に固定される下部スライダーと、両者の間に配置されるすべり材で構成されるすべり支承であり、
    前記下部スライダーが、積層ゴム体で構成されており、
    前記積層ゴム体の上部に下側第2すべり板および外周突起縁を備えた上部フランジ鋼板を備えており、
    前記下側第2すべり板の上側に前記すべり材が配置されており、
    且つ前記積層ゴム体の下部に前記下部構造体に固定するための下部フランジ鋼板を備えている構成となっており、
    前記上側第1すべり板および前記下側第2すべり板の表面は共に平坦面であり、
    前記すべり材は、上面および下面の両面がすべり面処理されて、前記上側第1すべり板と前記下側第2すべり板に直接接触しており、
    前記下側第2すべり板および前記外周突起縁の内側の平面寸法が、前記すべり材の平面寸法に対して、全外周に渡ってeだけ大きく設定されており、
    且つ下面すべり(前記すべり材の下面と前記下側第2すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ2が、上面すべり(前記すべり材の上面と前記上側第1すべり板との間のすべり)の摩擦係数μ1よりも小さく(μ2<μ1)設定されていること
    を特徴とするすべり支承。
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