JP7404899B2 - 複合成形体 - Google Patents

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本発明は、炭素繊維複合樹脂を含有する複合成形体およびその利用に関する。
熱可塑性炭素繊維複合樹脂(CFRTP)はアルミ合金等の金属に代替し得る剛性を有し、また炭素繊維を含むために軽量であることから、航空機および自動車の構造材料、スポーツ用品などに使用されている。CFRTPは、熱可塑性であるため射出成形器で成形できる。そのため、CFRTPは、従来の熱硬化性炭素繊維複合樹脂と比較して、生産性の向上、形状自由度の向上が実現できる。
CFRTPは一般的に炭素繊維に起因して黒色である。透明性が要求される用途にCFRTPを適用する場合は、CFRTPと透明材料とを接合させることが要求される。また、CFRTPは汎用プラスチックと比較して高価である。そのため、強度とコストとのバランスをとるためにCFRTPと汎用プラスチックとを部分的に使い分ける場合がある。この場合、CFRTPと汎用プラスチックとを接合させることが要求される。しかしながら、CFRTPは一般に他の樹脂材料との接合性に乏しい。CFRTPは一般的な成形接合、レーザ接合、超音波接合および熱プレス接合などの方法では、所望される接合強度が発現し難い。
他の接合方法として、接着剤を用いる方法または樹脂にカーラーを嵌め込んでネジ止めを行う方法等が挙げられる。しかしながら、これらの方法は生産性および形状自由度が損なわれる場合があるため、実用性に乏しい。加えて、接着剤は繰り返しの冷熱衝撃が印加される環境下での接合保持、および薬品または油などに曝露される環境下での接合保持において、接着剤自体の耐性に問題がある場合が多い。
ところで、特許文献1にはレーザの照射によって形成された溝を有する樹脂成型品と、前記樹脂成型品の前記溝を有する面上に一体化された他の材料とを備える複合成形品が開示されている。前記溝内部の少なくとも表面側において、溝の側面より対向する側面の方向に繊維状無機充填剤の端部が突出していて露出されている。
国際公開第2015/146767号
特許文献1のように繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品にレーザを照射して樹脂の一部を除去すると、溝が形成される。そのため前記繊維状無機充填剤の端部を、溝の両側面より同軸線上に対向して、突出して露出させることができる。特許文献1では、これにより繊維状無機充填剤がアンカーの役割を果たし、複合成形品の強度を高めることができるとされている。
しかしながら、特許文献1のような溝は、露出される繊維状無機充填剤の量が比較的少ない。それゆえ、アンカー効果が不十分であり、接合強度の観点から改善の余地がある。
したがって、本件発明者は、従来の方法では、他の樹脂との接合性に乏しい熱可塑性炭素繊維複合樹脂を用いた場合、所望の接合強度を発現することが困難であることを見出した。
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は高い接合強度を示す複合成形体を提供することである。
本発明は上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
すなわち、本発明の一側面に係る複合成形体は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み、独立した穿孔が設けられ、前記穿孔内には炭素繊維の端部が突出している第一部材と、前記穿孔に嵌合し、かつ前記炭素繊維の端部を介して第一部材と接合された、樹脂を含む第二部材と、を備える。
上記構成では、第二部材を構成する樹脂が、第一部材の穿孔内に突出した炭素繊維の端部を取り込んだ状態で、穿孔内に充填されている。これにより、炭素繊維がアンカーの役割を果たし、第一部材と第二部材を強固に接合することができる。また、穿孔が独立している、すなわち穿孔が重畳していないことにより、穿孔が重畳している場合に比べて第二部材に取り込まれる炭素繊維の数が増加する。そのため、より強固なアンカー効果が得られる。これにより、高い強度を有する複合成形体を得られる。
上記一側面に係る複合成形体において、前記炭素繊維は、解繊された状態で前記熱可塑性樹脂中に分散されていてもよい。当該構成によれば、穿孔の深さ方向へレーザが到達しやすいため、炭素繊維を露出させやすい。したがって、炭素繊維を突出させやすく、接合強度が向上するという効果を奏する。
「解繊された状態」とは、凝集した束ではなく、単独で存在する炭素繊維が含まれる状態を意味する。必ずしも全ての炭素繊維が単独で存在していなくてもよい。単独で存在する炭素繊維の割合は、後述の解繊率として規定され得る。
上記一側面に係る複合成形体において、炭素繊維の下記式から導かれる解繊率は50%以上であってもよい。当該構成により、炭素繊維の束によるレーザ光の遮蔽が生じにくく、穿孔の深さ方向において炭素繊維を突出させやすい。
解繊率(%)=(単独で存在する炭素繊維の本数)/(炭素繊維の総本数)×100
本発明の一側面に係る電子部品は、前記複合成形体を備える。
本発明の一態様によれば、高い接合強度を有する複合成形体を提供することができる。
図1は、実施形態に係る複合成形体の断面の一例を模式的に例示する。 図2は、実施形態に係る第一部材の断面の一例を模式的に例示する。 図3は、実施形態に係る穿孔の配置の一例を模式的に例示する。 図4は、実施形態に係る穿孔の配置の一例を模式的に例示する。 図5は、実施形態に係る穿孔の配置の一例を模式的に例示する。 図6は、実施例における複合成形体の形状と引張試験の方法とを模式的に表す。 図7は、比較例の第一部材の断面を模式的に表す。
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。
§1適用例
まず、図1を用いて本発明の一態様に係る複合成形体の概要を説明する。図1は、一態様に係る複合成形体の断面の一例を模式的に例示する。
図1では、炭素繊維3と熱可塑性樹脂とを含み、独立した穿孔が設けられ、前記穿孔内には炭素繊維3の端部が突出している第一部材1と、前記穿孔に嵌合し、かつ前記炭素繊維3の端部を介して第一部材1と接合された、樹脂を含む第二部材2と、を備える複合成形体が例示されている。なお、図1では穿孔の深さ方向に平行な断面が示されている。
第二部材2は、第一部材1に形成された穿孔内に突出した炭素繊維3の端部を介して第一部材1と接合しているため、物理的に強固なアンカー効果が得られる。また、穿孔が独立していることにより、穿孔が重畳している場合と比較して、炭素繊維が突出している領域の面積が増加する。そのため、接合に寄与する穿孔内に突出した炭素繊維の量を最大化することができる。その結果、高い接合強度を示す複合成形体を提供することができる。
§2構成例
<第一部材>
第一部材は、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含み、独立した穿孔が設けられ、前記穿孔内には炭素繊維の端部が突出している。第一部材は、炭素繊維複合樹脂を含むとも言える。
前記熱可塑性樹脂の一例としては、PVC(ポリ塩化ビニル)、PS(ポリスチレン)、AS(アクリロニトリル・スチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PA6(ポリアミド6)、PA66(ポリアミド66)、POM(ポリアセタール)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PSF(ポリサルホン)、PAR(ポリアリレート)、PEI(ポリエーテルイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PES(ポリエーテルサルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、LCP(液晶ポリマー)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、および、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)が挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、TPE(熱可塑性エラストマ)であってもよく、TPEの一例としては、TPO(オレフィン系)、TPS(スチレン系)、TPEE(エステル系)、TPU(ウレタン系)、TPA(ナイロン系)、および、TPVC(塩化ビニル系)が挙げられる。材料強度の観点から、上記の中でも結晶性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
前記第一部材は、上述の効果を損なわない範囲で、必要に応じて前記熱可塑性樹脂と前記炭素繊維以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の一例としては、前記炭素繊維と前記熱可塑性樹脂との親和性を高めるためのサイジング剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、結晶核材、可塑剤、染料、顔料、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
前記第一部材の材料強度を向上させる目的で、結晶核材として、層状ケイ酸塩を用いることが好ましい。層状ケイ酸塩は、Siを4個の酸素が囲んだ四面体が、3つの頂点を隣の四面体と共有することにより、2次元的に拡がった構造単位(四面体シート)を形成している層状構造をもったケイ酸塩の一群である。また、Siの一部がAlに置換されていてもよい。前記ケイ酸塩の一例としては、マイカ、雲母、タルク、カオリン、モンモリロナイト等が挙げられる。また、Siに加えてMg、Alなどを6個の酸素またはOHが囲んだ八面体の2次元的なつながりである八面体シートも結晶核剤となる。前記八面体シートは層面に平行な劈開が完全であり、一般に板状又は薄片状の形態である。前記八面体シートは化学的には、Si以外にAl、Mg、Fe、アルカリなどを含有する含水ケイ酸塩である。いずれも市販品を利用することができる。
<炭素繊維>
炭素繊維は第一部材に強度を付与する充填剤である。炭素繊維は、例えば有機高分子繊維を800℃以上、3000℃以下の段階的加熱処理により繊維形状を保ったまま炭化させるか、または紡糸したピッチを熱処理することによって得られる。有機高分子繊維の一例としては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系が挙げられる。また、炭素繊維は市販品を用いてもよい。炭素繊維は、新品材でもよく、再生材でもよい。再生材としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から、樹脂成分を分離し、炭素繊維を回収する熱分解法、または化学溶解法、もしくは超臨界流体法で再生された炭素繊維を用いてもよい。
なお、特許文献1では繊維状無機充填剤としてガラス繊維を用いている。しかしながらその場合、レーザ照射を行った際にガラス繊維によるレーザの拡散が起こるため、樹脂の除去が不十分である。一方、拡散を考慮してレーザの出力を上昇させると、前記樹脂への熱ダメージにより接合強度が低下し得る。また、ガラス繊維は炭素繊維と比べてレーザ吸収性が極めて低いため、炭素繊維と比べて穿孔内に露出しづらい。
炭素繊維はレーザ吸収率が極めて高く、レーザエネルギーを効率よく熱変換できる。そのため、樹脂を昇華させるには必要最小限のレーザエネルギーで済み、レーザ非加工部の樹脂に対して熱ダメージを残し難い。また、炭素繊維は、耐熱性が極めて高いため、樹脂が昇華するようなレーザ照射でも炭素繊維にはダメージは発生しない。
前記炭素繊維は前記熱可塑性樹脂に応じて、適宜選択することができる。以下に限定されないが、炭素繊維の一例としては、SIGRAFIL C C6-4.0/240-T190(SGLカーボン製)、SIGRAFIL C C6-4.0/240-T130(SGLカーボン製)、HT C413(東邦テナックス製)、IM C702(東邦テナックス製)、TR06NE(三菱レーヨン製)、MR06NE(三菱レーヨン製)等が挙げられる。
前記第一部材中の、前記熱可塑性樹脂と前記炭素繊維との重量比(炭素繊維:熱可塑性樹脂)は、好ましくは10:90~60:40であり、より好ましくは20:80~40:60である。炭素繊維の比率が10重量%以上であれば、前記複合樹脂の機械強度が向上する。炭素繊維の比率が60重量%以下であれば、溶融混錬工程で炭素繊維と熱可塑性樹脂との混合ムラが小さくなるため、前記複合樹脂の機械強度が向上する。また、レーザによる穿孔形成時に炭素繊維によるレーザ光の遮蔽が生じにくいため、穿孔の深さ方向において炭素繊維を突出させやすい。
前記炭素繊維の繊維長は、特に制限されるものではないが、熱可塑性樹脂中への分散性の観点からは、50mm以下が好ましく、前記複合樹脂の機械強度(引張強度または曲げ強度)の観点からは0.1mm以上が好ましい。なお、炭素繊維の繊維長は一定である必要はなく、バラつきがあってもよい。その場合、前記記載の好ましい範囲外の繊維長を有する炭素繊維が含まれていてもよい。
炭素繊維は一般に十分に解繊されていない。また、炭素繊維はレーザ吸収性が極めて高い。炭素繊維が束になった状態で分散している場合、レーザが遮蔽されるため、穿孔の深さ方向にレーザが到達しにくい。したがって、熱可塑性樹脂と炭素繊維を複合化する場合、炭素繊維は解繊された状態で熱可塑性樹脂内に分散されることが好ましい。炭素繊維を解繊することにより、十分な深さの穿孔を得るとともに、深さ方向にわたって炭素繊維を突出させることができる。
前記炭素繊維の解繊率は下記式から求められ、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上である。解繊率が50%以上であると、レーザ光が遮光されにくいため、穿孔の深さ方向において、熱可塑性樹脂を除去し、炭素繊維を突出させやすい。
解繊率(%)=(単独で存在する炭素繊維の本数)/(炭素繊維の本数)×100
解繊率の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
<穿孔>
図2は、実施形態に係る第一部材の断面の一例を模式的に例示する。図2に示すように、第一部材1は、互いに独立している穿孔を備えている。つまり、穿孔が形成された表面に垂直な方向から見た場合に、穿孔の開口部が重畳しておらず、穿孔同士の境界線が明確である。よって、前記穿孔は、連続する溝とは異なる。穿孔が独立していれば、レーザ加工時に炭素繊維3が剥がれ落ちることなく、第二部材に取り込まれる炭素繊維3の量を最大化できる。したがって、接合強度が向上する。
前記穿孔の開口径は30μm以上、150μm以下であることが好ましい。開口径が30μm以上であれば、後述の接合工程で、第二部材との接合形成を容易にできる。また開口径が150μm以下であれば、突出して存在する炭素繊維の割合が増加するため、第二部材との一体化による接合強度の向上が実現しやすい。
前記穿孔の深さは10μm以上であることが好ましい。深さが10μm以上であると、穿孔における接合力が向上し、その結果、全体の接合強度が向上する。
穿孔の配置間隔は、所定の穿孔の中心と隣接する穿孔の中心との距離が200μm以下であることが好ましい。配置間隔が200μm以下であれば、接合部における単位面積あたりの穿孔の数が増加して、接合強度が向上する。なお、間隔の下限は穿孔が独立して存在するための中心間距離とすることができる。
穿孔の配置パターンは特に限定されない。図3~5は、実施形態に係る穿孔の配置の一例を模式的に例示する。例えば図3に示すように千鳥格子様の配置にしてもよい。図4に示すように格子状配置にしてもよいし、図5に示すように開口径が異なる穿孔を配置してもよい。また、各穿孔の配置パターンを部分的に使い分けてもよい。すなわち、例えば図3に示す配置と図4に示す配置とが併存してもよい。
<第二部材>
第二部材は、熱可塑性樹脂であり、第一部材の説明にて例示した熱可塑性樹脂から、用途適性、接合手段に応じて適宜選択して用いてもよい。好ましくはPMMA樹脂またはPC樹脂などのレーザ透過性樹脂が用いられる。なお、レーザ透過性樹脂としては、例えば808nmの半導体レーザの透過率が30%/mm以上である樹脂などが好ましい。
また、前記第二部材には前記第一部材に用いることができる添加剤が配合されていてもよい。加えて、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、アルミナ繊維および/または金属繊維等が配合されていてもよい。
<複合成形体の製造方法>
前記複合成形体は、例えば前記第一部材と前記第二部材とを接合する工程を含む製造方法によって得られる。
第一部材は、例えば以下のように作製される。まず、熱可塑性樹脂に炭素繊維を添加して混練する。ここで、せん断条件下で混練することにより、炭素繊維が解繊された状態で分散させることができる。通常の二軸押出機を用いてもよいが、好ましくは内部帰還型スクリューを有する高せん断加工機を用いて混練する。
内部帰還型スクリューはシリンダ内に設けられる。以下の1、2が繰り返されることにより、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む溶融樹脂組成物が混練される。
1.スクリューの回転によって溶融樹脂組成物がシリンダの前部に押し出される。
2.スクリューの軸方向に設けられた通路を通って前記溶融樹脂組成物がシリンダの後部に戻る。
これにより、溶融樹脂組成物の内部に強いせん断流動場および伸長場が発生するため、炭素繊維の解繊が促進される。内部帰還型スクリューの回転数は200rpm以上、3000rpm以下であることが好ましい。また、せん断速度は300/s以上、4500/s以下であることが好ましい。溶融樹脂組成物を循環させる時間は、10秒以上、8分以下であることが好ましい。
その後、得られた溶融樹脂組成物を成形することで、第一部材を得られる。成形には一般の射出成形方法を用いることができる。
第一部材の穿孔は、例えば加工用のレーザによって形成される。パルス発振が可能なレーザが好ましく、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、YVOレーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザなどが選択できる。波長の観点から、ファイバレーザ、YAGレーザ、YAGレーザの第2高調波、YVOレーザ、または半導体レーザが好ましい。レーザの1パルスが複数のサブパルスで構成されているため、より好ましくはファイバレーザである。ファイバレーザはまた、エネルギーを深さ方向に集中させやすいため、穿孔を形成しつつ炭素繊維を突出させやすい。好ましいレーザを照射する機器としては、以下に限定されないが、例えばファイバーレーザーマーカーMX-Z2000シリーズ(オムロン製)が挙げられる。
また、前記ファイバーレーザーマーカーの加工条件としては、サブパルスの1周期が15ns以下であることが好ましい。サブパルスの1周期が15ns以下であれば、穿孔の深さ方向にエネルギーを集中させやすい。なお、サブパルスの1周期とは、サブパルスの1回分の照射時間と、当該サブパルスの照射が終了されてから次のサブパルスの照射が開始されるまでの時間との合計時間である。また、サブパルス数(パルス分割数)は、2以上、50以下であることが好ましい。サブパルス数が50以下であれば、穿孔を形成しやすく、炭素繊維を突出させやすい。
第一部材と、第二部材とを接合する方法としては、レーザ接合、射出成形接合、超音波溶着、熱プレス溶着等が挙げられる。
レーザ接合は、例えば以下のように行われる。まず吸収材として第一部材と、透過材として第二部材とを合わせた複合体に、第二部材側からレーザを照射すること。これにより、レーザ光を吸収して第一部材が発熱し、溶融する。次に前記第一部材の溶融熱によって第二部材が溶融し、第一部材と混ざりあう。その後、レーザ照射を停止すると、冷却されて凝固することで樹脂同士が接合した複合成形体が得られる。接合の際、0.2~0.5MPaの圧力で押圧してもよい。
なお、レーザ接合を行う際、より強い押圧を可能にする目的で、レーザ接合予定部位を、周囲より凸に形成してもよい。凸部の高さは0.3mm~1.5mmが好ましく、高さはレーザ接合時に沈み込むことを考慮して決定することが好ましい。また、複合成形体では外観意匠の観点から、凸部が見えないことが好ましい。前記凸部を形成することで、レーザ接合性が向上し、接合強度の向上が期待できる。
射出成形接合は、例えば電動射出成形機を用いて行われる。具体的には、第一部材を前記成形機に設置した金型内にインサートし、当該金型内に溶融した樹脂を充填することにより、第二部材を成形し、複合成形体を得られる。
超音波溶着は、第一部材と第二部材とを接合部を介して重ね合わせ、超音波溶着用の機器に設置することにより行われる。超音波溶着用のホーンを介して超音波溶着させ、複合成形体を得る。
熱プレス接着は、第一部材と第二部材とを接合部を介して重ね合わせ、熱プレス用の機器、あるいは金型に設置することにより行われる。第二部材側から熱と圧力をかけて接合させ、複合成形体を得る。
<複合成形体の利用>
前記複合成形体は、例えば電子部品に利用することができる。
一般的に光電センサなどの電子部品には、筐体に炭素繊維複合樹脂製の第一部材を好適に用いることができる。前記光電センサなどでは、投受光面に透明部材が使用され得る。当該透明部材として前記第二部材を適用できる。当該透明部材は前記筐体に接合され得る。この接合に、前記複合成形体の技術を利用できる。
したがって、前記複合成形体を用いることで、軽量かつ接合強度の高い電子部品が提供され得る。
また他の電子部品の例としては、電子機器、車載部品等が挙げられる。
電子機器としては例えば、フォトマイクロセンサ、セーフティライトカーテン、非接触安全スイッチ等が挙げられる。
車載部品としては例えば、ドライブレコーダーモジュール、3D-LIDARモジュール等が挙げられる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔炭素繊維の解繊率の評価〕
第一部材に用いた炭素繊維複合樹脂を、炭素繊維を含まない同種の熱可塑性樹脂とともに溶融混錬することにより10倍~30倍に希釈した。具体的には、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、前記炭素繊維複合樹脂および熱可塑性樹脂の混合物を熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱しながら、回転速度を数十rpm程度に設定して混錬することで希釈した。回転速度をこのように制御することにより、樹脂に対するせん断応力を抑制し、炭素繊維の解繊状態が変化しないようにした。希釈した樹脂から、加熱プレス機を用いて、サイズ50mm×50mm、厚み約0.2mmのシートサンプルを作製した。前記シートサンプルの任意の3点をΦ5mmの視野にて光学顕微鏡で観察し、単独で存在する炭素繊維の本数および2本以上の束で存在する炭素繊維の本数を数えた。そして、上述の式から解繊率を求めた。解繊率は、前記3点から得られた平均値として表した。なお、前記平均値は1の位を四捨五入して、10%ごとで表した。
〔接合強度の評価〕
図6は、実施例における複合成形体の形状と引張試験の方法とを模式的に表す。電気機械式万能試験機5900(インストロン製)を用いて、複合成形体をせん断方向(図6に示す矢印方向)に引っ張った。これにより、接合強度を測定するとともに、破壊モードを記録した。破壊モードは接合部が破損したときは「接合界面破壊」、第二部材が破損したときは「PMMA破断」あるいは「PBT破断」とした。引張条件はチャック間距離100mm、せん断方向(水平方向)に引張速度5mm/minとした。得られた荷重(N)を、接合部の面積(25mm×10mm)で除することにより、接合強度(N/mm=MPa)を求めた。接合強度の数値は、5回の試験から得られた平均値として表した。
〔実施例1〕
熱可塑性樹脂として、PPS樹脂を用い、これに炭素繊維をPPS樹脂:炭素繊維=70:30(重量比)となるように添加した。全自動高せん断成形装置(NHSS2-28、ニイガタマシンテクノ製)を用いて高せん断加工を行った。前記装置は、可塑化部と高せん断加工部を備えている。
まず、可塑化部にPPS樹脂(PPS.MA-505、DIC製)および炭素繊維(SIGRAFIL C C6-4.0/240-T190、SGLカーボン製)を添加した。当該可塑化部にて、シングルスクリューによって、PPS樹脂と炭素繊維とを溶融混錬し、樹脂組成物を得た。溶融混錬の条件は、シリンダ温度290℃、スクリュー回転は20rpmとした。
得られた樹脂組成物を、バルブゲートを介して高せん断加工部に供給した。前記樹脂組成物を内部帰還型スクリューによって循環させることにより、解繊した炭素繊維が熱可塑性樹脂中に分散している、炭素繊維複合樹脂を得た。高せん断加工部では、シリンダ温度320℃、スクリュー回転数1200rpm、滞留時間約75secとした。
得られた炭素繊維複合樹脂を、一般の射出成形手法に準じて100mm×25mm×厚み2.0mmの成形体とした。当該成形体の端部から5mmの接合予定部位に、ファイバレーザを照射して図2に示すような穿孔を設けることにより、第一部材を得た。レーザの照射条件は以下の通りである;波長:1062nm、サブパルス数:20、走査速度:650mm/sec、照射間隔:65μm、発振モード:パルス発振(周波数10kHz)、出力:3.8W、走査回数:20回。穿孔の配置は図3に示す千鳥格子型を選択した。
PMMA(アクリライト、三菱レイヨン製)をキャスト成形によって成形し、第二部材を得た。第一部材に、第二部材を図6に示すように重ね合わせ、接合用の治具に設置した。接合用レーザに対して透明性を有するガラス板を介して第二部材側から接合予定部を押圧した。この状態で第二部材側から接合用レーザを照射して接合し、複合成形体を得た。レーザ接合の条件は以下の通りである;レーザ:半導体レーザ(波長808nm)、出力:1W、走査速度:1mm/sec、走査回数:2回、発振モード:連続発振、焦点径:4mm、密着圧力0.2MPa、走査回数:2回。
〔実施例2〕
高せん断加工条件をスクリュー回転数900rpm、滞留時間約30secとして、炭素繊維の解繊率を変えたこと以外は実施例1と同様に複合成形体を作製した。
〔比較例1〕
図7は、比較例の第一部材の断面を模式的に表す。図7に示すように隣接した穿孔が重畳した非独立の穿孔、すなわち溝を設けるために、穿孔形成のためのレーザ照射条件を変更したこと以外は実施例2と同様に複合成形体を作製した。穿孔形成のためのレーザ照射条件は以下の通りである;波長:1062nm、サブパルス数:20、走査速度:200mm/sec、照射間隔:20μm、発振モード:パルス発振(周波数10kHz)、出力:3.8W、走査回数:20回。
〔実施例3〕
第一部材のPPS樹脂の代わりにPBT樹脂(ノバデュラン5010G30、三菱エンジニアリングプラスチックス製)を用いたこと、炭素繊維としてSIGRAFIL C C6-4.0/240-T130(SGLカーボン製)を用いたこと以外は実施例1と同様に複合成形体を作製した。なお、高せん断加工において、可塑化部のシリンダ温度を250℃、高せん断加工部のシリンダ温度を260℃、スクリュー回転数600rpm、滞留時間約45secに変更した。
〔実施例4〕
高せん断加工条件をスクリュー回転数300rpm、滞留時間約30secとして、炭素繊維の解繊率を変えたこと以外は実施例3と同様に複合成形体を作製した。
〔比較例2〕
穿孔形成のためのレーザ照射条件を変更したこと以外は実施例4と同様に複合成形体を作製した。穿孔形成のためのレーザ照射条件は比較例1と同様にした。
実施例1~4および比較例1~2の試験結果を表1に示す。
Figure 0007404899000001
表1より、穿孔が独立している実施例1および2は、隣接した穿孔が重畳した比較例1と比較して、より強い接合を示すことが分かった。実施例3および4と比較例2との間にも同様の傾向が見られた。
〔実施例5〕
レーザ接合の代わりに射出成形接合を用いたこと以外は実施例1と同様に複合成形体を作製した。射出成形接合には、電動射出成形機(JSW社製)を用いた。第二部材の熱可塑性樹脂としてPBT樹脂(ノバデュラン5010G30、三菱エンジニアリングプラスチックス製)を用いた。第一部材を、前記電動射出成形機に設置した金型内にインサートし、前記PBT樹脂を成形して複合成形体を得た。射出成形条件は以下の通りである。シリンダ温度:270℃、金型温度:80℃、射出速度:60~100mm/sec、射出圧力:60~100MPa、保圧:60~80MPa。
〔実施例6〕
高せん断加工条件を実施例2と同様とし、それ以外は実施例5と同様にして、複合成形体を作製した。
〔比較例3〕
穿孔形成のためのレーザ照射条件を変更したこと以外は実施例6と同様に複合成形体を作製した。穿孔形成のためのレーザ照射条件は比較例1と同様にした。
〔実施例7〕
第一部材のPPS樹脂の代わりにPBT樹脂(ノバデュラン5010G30、三菱エンジニアリングプラスチックス製)を用いたこと、炭素繊維としてSIGRAFIL C C6-4.0/240-T130(SGLカーボン製)を用いたこと以外は実施例5と同様に複合成形体を作製した。なお、高せん断加工において、可塑化部のシリンダ温度を250℃、高せん断加工部のシリンダ温度を260℃、スクリュー回転数600rpm、滞留時間約45secに変更した。
〔実施例8〕
高せん断加工条件をスクリュー回転数300rpm、滞留時間約30secとして、炭素繊維の解繊率を変えたこと以外は実施例7と同様に複合成形体を作製した。
〔比較例4〕
穿孔形成のためのレーザ照射条件を変更したこと以外は実施例7と同様に複合成形体を作製した。穿孔形成のためのレーザ照射条件は比較例1と同様にした。
Figure 0007404899000002
表2より、穿孔が独立している実施例5および6は、隣接した穿孔が重畳した比較例3と比較して、より強い接合を示すことが分かった。実施例7および8と比較例4との間にも同様の傾向が見られた。
1 第一部材
2 第二部材
3 炭素繊維

Claims (2)

  1. 炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み、独立した穿孔が設けられ、前記穿孔内には炭素繊維の端部が突出している第一部材と、
    前記穿孔に嵌合し、かつ前記炭素繊維の端部を介して前記第一部材と接合された、樹脂を含む第二部材と、を備え、
    前記炭素繊維は、解繊された状態で前記熱可塑性樹脂中に分散しており、
    前記炭素繊維の下記式から導かれる解繊率は、50%以上である、複合成形体。
    解繊率(%)=(単独で存在する炭素繊維の本数)/(炭素繊維の総本数)×100
  2. 請求項1に記載の複合成形体を含む電子部品。
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