JP7389323B2 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

無方向性電磁鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、磁気特性に優れかつ高強度の無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、エアコンのコンプレッサーモータ、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車に搭載される駆動モータなど、高いエネルギー効率と小型・高出力化とを同時に要求される電気機器の鉄心の素材に好適な無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
近年の地球環境問題の高まりから、電気機器においては小型、高出力、高エネルギー効率が要求され、鉄心材料である無方向性電磁鋼板には低鉄損と高磁束密度の高位両立が強く求められている。
特にハイブリッド自動車や電気自動車等の駆動モータでは、小型化に伴うトルク低下を補償するために、回転数を増加させる手段が取られている。そして、回転数を増加させると、鋼板に印加される磁場の周波数が増加し鉄損が増加するため、鉄心材料である無方向性電磁鋼板には、高い周波数における鉄損(高周波鉄損)を低減することが求められている。また、回転数を増加させるために、高速回転でも変形や疲労破壊しない強度が求められている。さらに、ハイブリッド自動車や電気自動車等の駆動モータの効率を高めるためには、駆動モータの十分な冷却が必要とされる。
高周波鉄損を低減する手段としては、板厚の薄手化、SiやAlなどの合金元素含有量の増加による高比抵抗化、SbやSnなどの添加による集合組織制御、および鋼板の高純度化などが採用されてきた。しかしながら、鉄損を低減するために、SbやSnを母鋼板に添加すると、打ち抜きや加工による歪を除去する目的で歪取焼純を行った後に母鋼板の被膜密着性が低下することがある。この結果、母鋼板表面から絶縁被膜が剥離して駆動モータの冷却に用いる冷媒に混入することによって、冷却性能を劣化させることがある。
これに対し、特許文献1には、絶縁被膜の密着性を高めるには、絶縁被膜下のサブスケール量を酸素目付量で1.3g/m以下とし、かつ絶縁被膜の目付量を、絶縁被膜の種類が無機または有機無機複合被膜の場合は0.1~4.0g/m、有機被膜の場合は0.1~12g/mとすることが有効であることが開示されている。
また、特許文献2には、微量のSbやSnを含有して磁気特性を向上した無方向性電磁鋼板における被膜密着性を改善するためには、母鋼板表面におけるSbおよびSnの濃度、Sb+1/2Snを20wt%以下に抑制することが有効であることが開示されている。これにより、母鋼板表面から絶縁被膜が剥離して冷媒に混入し、冷却性能を劣化させることを回避している。
さらに、特許文献3には、SbおよびSnと共にCuおよびNiを母鋼板表面に偏析させれば、母鋼板表面に偏析したSbおよびSnによる絶縁被膜の密着性の低下作用を打ち消して、母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性をより優れたものとする技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1および2に記載の無方向性電磁鋼板では、ハイブリッド自動車や電気自動車等の駆動モータの長期運転時において、母鋼板表面から絶縁被膜が剥離することを回避するのに十分な程度には、被膜密着性が優れたものではなかった。このため、ハイブリッド自動車や電気自動車等の駆動モータの長期運転時には、母鋼板表面から絶縁被膜が剥離して冷媒に混入し、冷却性能を劣化させるといった問題が依然として生じるおそれがある。
また、特許文献4では、母鋼板表面にAlの濃化層を形成させ、かつ、母鋼板最表面のSbおよびSnの含有量が母鋼板中のSi含有量と[Sb]+1/2[Sn]≦40/[Si]を満足するようにすることにより、歪取焼純時の酸化による耐食性の劣化を抑制でき、歪取焼純後の耐食性および磁気特性の双方に優れた無方向性電磁鋼板を提供している。これにより、母鋼板での錆の発生を回避するとしているが、被膜の密着性については効果が十分ではない。
特開2001-279400号公報 特開平8-291375号公報 特開2017-82276号公報 特開2003-293101号公報
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高周波鉄損を低減するためにSbやSnを母鋼板に添加するのに際して、SbおよびSnが母鋼板表面に偏析して母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性を低下する作用を無害化することによって、ハイブリッド自動車や電気自動車等の駆動モータの長期運転時において、母鋼板表面から絶縁被膜が剥離することを回避するのに十分な程度に、被膜密着性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、SbおよびSnを母鋼板表面に偏析させた場合において、母鋼板表面での酸化物の被覆状態による絶縁被膜の密着性の変化について鋭意研究を行った。その結果、母鋼板表面にAl系酸化物を所定の被覆率で存在させれば、母鋼板表面に偏析したSbおよびSnによる絶縁被膜の密着性の低下作用を打ち消して、母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性をより優れたものにできることを見出した。本発明はこれらの知見を元になされたものであり、その要旨は、以下の通りである。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.004%以下、Si:2.0%以上4.0%以下、Al:0.20以上3.00%以下、Mn:0.05%以上4.00%以下、S:0.005%以下、N:0.004%以下、P:0.20%以下、ならびにSnおよびSbのうち少なくとも1種:合計で0.001%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不純物よりなる化学組成を有する母鋼板と、上記母鋼板の表面に形成された絶縁被膜と、を有する無方向性電磁鋼板であって、上記母鋼板の上記絶縁被膜側の表面にAl系酸化物が存在し、上記母鋼板の表面における上記Al系酸化物の被覆率が30%以上95%以下である、無方向性電磁鋼板を提供する。
また、本発明は、上述の無方向性電磁鋼板を製造する無方向性電磁鋼板の製造方法であって、上述の化学組成を有するスラブを、加熱炉で1000℃以上1250℃以下の温度に加熱するスラブ加熱工程と、上記加熱後のスラブに熱間圧延を施し、最終圧延パス後に水冷して650℃以下の温度でコイル状に巻き取る熱間圧延工程と、上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に熱延板焼鈍および酸洗を施す熱延板焼鈍・酸洗工程と、上記熱延板焼鈍・酸洗工程により得られた熱延焼鈍板に冷間圧延を施す冷間圧延工程と、上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、上記仕上げ焼鈍工程により得られた鋼板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、を有し、上記仕上げ焼鈍工程では、最初に900℃に到達する前の500℃以上900℃以下の温度域における雰囲気は、水蒸気(HO)と水素(H)との分圧比P(HO)/P(H)を0.002以上0.100以下とし、上記温度域における滞留時間は40秒以下とする、無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
本発明によれば、ハイブリッド自動車や電気自動車等の駆動モータの長期運転時において、母鋼板表面から絶縁被膜が剥離することを回避するのに十分な程度に、被膜密着性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することができる。本発明により得られる無方向性電磁鋼板は、電気機器の小型、高出力、高エネルギー効率化に極めて効果的であり、その工業的価値は極めて高い。
EPMAによる元素マッピング像の例を示す図である。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
A.無方向性電磁鋼板
以下、本発明の無方向性電磁鋼板における各構成について説明する。
1.母鋼板
a.化学組成
まず、本発明の無方向性電磁鋼板における母鋼板の化学組成の限定理由について説明する。以下において、各成分の含有量は質量%での値である。
(1)C
Cは、不純物として含有され、含有量が0.004%を超えると微細な炭化物が析出して鉄損の増加が著しくなる。したがって、C含有量は0.004%以下とする。また、この観点から、C含有量は好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.002%以下とする。
(2)Si
Siは、比抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減のために含有させる。また、鋼板の強度を向上させるのにも有効である。しかしながら、Siを過剰に含有させると飽和磁束密度を減少させ、鋼の脆化および仕上げ焼鈍温度の上昇を招き、さらにはコストを増加させる。これらの観点から、Si含有量は2.0%以上4.0%以下とする。また、これらの観点から、Si含有量は好ましくは2.5%以上、より好ましくは3.0%以上とし、Si含有量は好ましくは3.5%以下とする。
(3)Al
Alは、Siと同様に比抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減のために含有させる。また、本発明は母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性をAl系酸化物を活用して向上させるため、Alは本発明において必須の元素である。絶縁被膜の密着性を向上させるために、Al含有量は0.20%以上とする。Al含有量は好ましくは0.6%以上、さらに好ましくは0.9%以上、さらに好ましくは1.4%以上とする。しかしながら、Alを過剰に含有させると母鋼板表面でのAl系酸化物の被覆率が過剰となり絶縁被膜の密着性を低下させるばかりか飽和磁束密度を減少させることになり、磁束密度の点から不利となる。これらの観点から、Al含有量は3.00%以下とする。
(4)Mn
Mnは、Si、Alと同様に比抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減のために含有させる。しかしながら、Mnを過剰に含有させると飽和磁束密度を減少させることになり、磁束密度の点から不利となる。これらの観点から、Mn含有量は0.05%以上4.00%以下とする。また、これらの観点から、Mn含有量は好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下とする。
(5)S
Sは、その含有量が0.005%を超えるとMnSなどの硫化物が多数析出して鉄損の増加が著しくなる。したがって、S含有量は0.005%以下とする。また、これらの観点から、S含有量は好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.002%以下とする。
(6)N
Nは、その含有量が0.004%を超えると窒化物の増加により鉄損の増加が著しくなる。したがって、N含有量は0.004%以下とする。
(7)P
Pは、Siと同様に鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。ただし、過剰に含有させると鋼の脆化を招く。この観点から、P含有量は0.20%以下とする。Pは、母鋼板表面に偏析する時に偏析サイトがSnおよびSbと競合するため、Pを母鋼板表面に偏析させることにより、SnおよびSbの母鋼板表面への偏析を抑制して、母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性の低下を抑制する効果が得られる。このため、母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性を向上させるために、Pが母鋼板表面に偏析するようにPを含有させることが好ましい。この観点から、P含有量は0.05%以上0.20%以下とすることが好ましい。
(8)SnおよびSb
SnおよびSbは、電磁鋼板の集合組織を改善し鉄損を低減する効果があるので、SnおよびSbの少なくとも1種を含有させる。また、水素を含む窒素雰囲気中で高温に加熱されるとき、鋼の表面からの窒素の侵入を防止し、AlNが形成されるのを抑止することによる鉄損低減効果もある。なお、SnまたはSbを含有させると、母鋼板表面に偏析して濃化することにより、母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性を低下させるものの、後述のAl系酸化物の作用によって、被膜密着性の低下が抑制される効果が得られる。しかしながら、SnまたはSbを過剰に含有させると、後述のAl系酸化物による被膜密着性の低下を抑制する作用にもかかわらず、被膜密着性の低下を免れることはできない。また、SnまたはSbを過剰に含有させると結晶粒成長を阻害することになる。これらの観点から、SnおよびSbの合計含有量は0.001%以上0.200%以下とする。また、これらの観点から、合計含有量は好ましくは0.003%以上とし、さらに好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.030%以上とする。また、合計含有量は好ましくは0.100%以下とする。
(9)Ca、Mg、およびREM
Ca、Mg、およびREMは、介在物の形態制御に有効な元素であり、結晶粒の成長を促進する作用を通じて鉄損低減に有効に作用する。したがって、Ca、Mg、およびREMからなる群から選択される少なくとも1種が、Feの一部に代えて含有されていてもよい。しかしながら、いずれの元素もその含有量を0.01%超としても、上記作用による効果は飽和してコスト的に不利になる。したがって、Ca含有量は0.01%以下、Mg含有量は0.01%以下、REM含有量は0.01%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Ca含有量は0.005%以下、Mg含有量は0.005%以下、REM含有量は0.005%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには、いずれかの元素の含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
ここで、REMとは、Sc、Y、およびランタノイドの合計17元素の総称である。REMとしては、合計17元素のうちの1種または2種以上の元素を含んでいればよい。REMの含有量はこれら元素の合計含有量を指す。
(10)Cu、CrおよびNi
Cu、CrおよびNiは、SnおよびSbと共に母鋼板表面に偏析して濃化することにより、表面に偏析したSnおよびSbによる被膜密着性低下を打ち消す作用を有する。したがって、Cu、CrおよびNiの少なくとも1種が、Feの一部に代えて含有されていてもよい。しかしながら、Cu、Cr、Niの添加は合金コストの上昇を招くため、Cu含有量、Cr含有量およびNi含有量はそれぞれ1.0%以下とすることが好ましい。上記作用による効果を得るには、Cu、CrおよびNiの少なくとも1種を合計で0.02%以上含有させることが好ましい。
(11)残部
残部はFeおよび不純物である。不純物のうち粒成長性に悪影響を及ぼすTi、V、Nb、Zr、およびSeは極力低減することが望ましく、それぞれの含有量は0.008%以下とすることが好ましい。また、Bを0.0010%以下含有してもよい。
ここで、母鋼板の化学組成は、無方向性電磁鋼板において絶縁被膜を除去し、絶縁被膜が除去された鋼板を母鋼板とし、この母鋼板について測定を実施する。絶縁被膜の除去方法については、後述する。
b.Al系酸化物
本発明においては、母鋼板の絶縁被膜側の表面、すなわち母鋼板と絶縁被膜との界面にAl系酸化物が存在し、母鋼板の表面におけるAl系酸化物の被覆率が30%以上95%以下であることを特徴とする。母鋼板の絶縁被膜側の表面にAl系酸化物が所定の被覆率で存在することによって、Snおよび/またはSbによる絶縁被膜の密着性低下を抑制することができる理由については明らかではないが、次のように考えられる。すなわち、母鋼板において、被膜密着性低下の原因となるSnおよび/またはSbはAl系酸化物よりも内層に偏析するため、Al系酸化物が母鋼板表面に所定の被覆率で存在すると、Snおよび/またはSbの母鋼板表面への偏析を抑制することができ、Sbおよび/またはSnが母鋼板表面に偏析して母鋼板表面に形成される絶縁被膜の密着性を低下する作用を実質的に無害化することができるためと考えられる。なお、母鋼板表面に形成される酸化物について、母鋼板の化学組成や酸化性雰囲気や温度などの酸化条件にもよるが、無方向性電磁鋼板においては、Al、Mn、Si、Crなどの酸化物が形成されることが知られている。このうち、Al系酸化物は、他の酸化物、例えばSi系酸化物よりも、母鋼板との結晶格子の整合性が低いために、偏析元素がAl系酸化物と母鋼板との界面にトラップされやすい。その結果、Al系酸化物が母鋼板表面に所定の被覆率で存在することにより、絶縁被膜と母鋼板との界面へのSn、Sbの偏析を抑制することができると推察される。
ここで、Al系酸化物については、被膜密着性の劣化を回避するため形成を回避すべきとする文献もある。一方、本発明においては、Al系酸化物は被膜密着性の確保にとって有効に作用する。この差は明確ではないが、以下のように考えられる。すなわち、従来では、鋼板の酸化が鋼板表面の全面で進行するため、鋼板が膜状のAl系酸化物で覆われてしまい、鋼板内部への酸素供給が遮断される状況になっていたと思料される。この状況では、鋼板の表層域に存在していた内部酸化物が還元されて分解し、その分解過程で鋼板の表層域にボイドが形成される。そして、このボイドが被膜剥離の起点となり、被膜密着性を低下させていたと推量される。これに対し、本発明においては、鋼板の化学組成および熱処理条件等により鋼板表面の酸化が全面で進行しない状況に保たれ、鋼板表面のAl系酸化物の被覆率が適度な範囲で制御されている。このため、鋼板の表層域でのボイド形成が抑制され、さらにAl系酸化物による被覆の不均一さが絶縁被膜と鋼板との界面構造を複雑化させ、被膜密着性の確保に有利に作用するようになったと考えられる。
母鋼板の表面におけるAl系酸化物の被覆率は、30%以上95%以下であり、好ましくは40%以上90%以下、より好ましくは50%以上80%以下である。上記被覆率が高いほど、Sn、Sbのトラップサイトが増加して表面偏析を抑制することができる。一方、上記被覆率が高いほど被膜密着性が向上するが、上記被覆率が高すぎるとAl系酸化物が厚くなるため、力学的な効果でAl系酸化物と母鋼板との界面での剥離が生じるおそれがある。そのため、上記被覆率は上記範囲内であることが好ましい。
本発明においては、上記の母鋼板の表面におけるAl系酸化物の被覆率は、無方向性電磁鋼板において絶縁被膜を除去し、絶縁被膜が除去された鋼板を母鋼板とし、この母鋼板について測定を実施する。具体的には、上記の母鋼板の表面におけるAl系酸化物の被覆率は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用い、母鋼板表面に対してAlおよびOについてマッピング分析を行うことにより求める。代表的な試験条件としては、加速電圧15kV、照射電流100nA、照射時間50ms、観察視野200μm×200μm、分割数400×400とする。ここで、EPMA測定より求められたAl濃度5%以上かつO濃度5%以上の領域をAl系酸化物による被覆領域と定義する。上記の方法によりFe、Si、Al、Oの分布を測定した例を図1に示す。図1に示す例では、母鋼板の表面におけるAl系酸化物の被覆率は90%である。
また、絶縁被膜は、次の方法によって除去する。すなわち、絶縁被膜を有する無方向性電磁鋼板を、NaOH:10質量%、HO:90質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で5分間、浸漬する。
2.絶縁被膜
本発明の無方向性電磁鋼板は、鉄心における鋼板積層間での絶縁を図るために母鋼板表面に形成される絶縁被膜をさらに有する。
母鋼板表面に形成される絶縁被膜は、鉄心における鋼板積層間での絶縁を図るために膜厚を確保する必要があるが、厚過ぎると被膜密着性が低下し剥がれ易くなる。これらの観点から、絶縁被膜の膜厚は0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。絶縁被膜の膜厚が厚すぎると被膜密着性が低下するのは、電磁鋼板をモータ鉄心に打ち抜き加工後に歪取り焼鈍する際、絶縁被膜に含まれる酸素が母鋼板表面と反応して新たな酸化被膜を形成することが原因であると推定される。
3.板厚
本発明は、本質的に高周波の低鉄損を達成することを前提としている。そのため、無方向性電磁鋼板の板厚は0.30mm以下とすることが好ましい。一方、過度の薄手化は平坦度劣化による極端な占積率低下や鉄心の生産性低下を招く場合があるので、無方向性電磁鋼板の板厚は0.10mm以上とすることが好ましい。
4.製造方法
本発明の無方向性電磁鋼板は、後述する無方向性電磁鋼板の製造方法により製造することが好適である。
B.無方向性電磁鋼板の製造方法
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
本発明を特定するために必要な工程の条件は、スラブ加熱工程、熱間圧延工程および仕上げ焼鈍工程に関するものである。これら以外の工程の条件についての以下の説明は、一般的な条件を参考までに示したものであり、その条件を充足しなかったとしても、本発明の効果を得ることは可能である。
1.スラブ加熱工程
スラブ加熱工程においては、上述の化学組成を有するスラブを、加熱炉で1000℃以上1250℃以下の温度に加熱する。加熱温度が1000℃未満では、スラブ表面のスケール生成が不十分であり鋼板の表面性状が劣化し、冷延工程で破断の原因になるおそれがある。また、加熱温度が1250℃を超えると、スラブ中の硫化物が固溶し熱延中に微細析出して鉄損を劣化させるおそれがある。加熱温度は1050℃以上1200℃以下とすることが好ましい。
2.熱間圧延工程
熱間圧延工程においては、上記加熱後のスラブに熱間圧延を施し、最終圧延パス後に水冷して650℃以下の温度でコイル状に巻き取る。
本発明において、ここで規定する温度は熱間圧延後の鋼板の表面温度を意味し、熱間圧延後の鋼板の表面温度とは、接触式の温度計あるいは放射温度計によって測定した温度を意味する。
最終圧延パス後にコイル状に巻き取る温度が650℃を超えると、母鋼板表面におけるスケール層が厚くなるとともに内部酸化が起こり磁気特性劣化の原因となるおそれがある。さらに、スケール除去のために酸洗を強化すると大量の酸化物として母鋼板表層からAlが除去されるため母鋼板表層のAl濃度低下を生じ、後述する仕上げ焼鈍工程におけるAl系酸化物の形成を阻害する要因にもなる。
また、これ以外の熱間圧延工程の条件は、特に限定されるものではない。
3.熱延板焼鈍・酸洗工程
熱延板焼鈍・酸洗工程においては、上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に熱延板焼鈍および酸洗を施す。酸洗および熱延板焼鈍は順不同であり、酸洗後に熱延板焼鈍を施してもよく、熱延板焼鈍後に酸洗を施してもよい。
熱延板焼鈍の条件は、特に限定されるものではないが、熱延板焼鈍を施す際には、上記熱延鋼板を700℃以上1100℃以下の温度域に1分以上24時間以下保持することが好ましい。上記熱延板焼鈍温度が上記範囲を下回ると、熱延鋼板に蓄積された歪みが開放されず後工程の冷間圧延で破断する可能性が高まるからであり、上記熱延板焼鈍時間が上記範囲を下回ると、同様の理由により冷間圧延で破断する可能性が高まるからである。また、上記熱延板焼鈍温度が上記範囲を超えると設備への付加が大きくなり、上記熱延板焼鈍時間が上記範囲を超えると生産性の劣化を招くからである。
また、焼鈍雰囲気は母鋼板表面におけるスケール成長を抑制する観点から水素を含むことが好ましく、水素濃度を10体積%以上とすることがより好ましい。さらに、焼鈍雰囲気はコスト面から主要ガスとして窒素を含むことが好ましい。
熱延板焼鈍の方式は連続焼鈍式でもバッチ焼鈍式でもよい。熱延板焼鈍条件は、必要とされる磁気特性や生産効率に応じて焼鈍後の母鋼板における結晶組織を制御するために調整することが好ましい。例えば、磁束密度を向上させるためには、焼鈍後の母鋼板における結晶粒径が40μm以上となるように焼鈍温度および焼鈍時間を調節することが好ましい。
一方、酸洗の条件は、特に限定されるものではなく、例えば、酸洗液の主成分を塩酸、温度を80℃以上とすることができる。
4.冷間圧延工程
冷間圧延工程においては、上記熱延板焼鈍・酸洗工程により得られた熱延焼鈍板に冷間圧延を施す。冷延圧下率等の冷間圧延条件は、特に限定されるものではなく、通常の条件でよい。例えば、冷延圧下率は70%以上とすることができる。
5.仕上げ焼鈍工程
仕上げ焼鈍工程においては、上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施して、鋼板表面にAl系酸化物を形成する。仕上げ焼鈍工程においては、最初に900℃に到達する前の500℃以上900℃以下の温度域における雰囲気および滞留時間を制御することにより、Al系酸化物を適切な形態で母鋼板表面に形成させることができる。
上記温度域における雰囲気は、水蒸気(HO)と水素(H)との分圧比、P(HO)/P(H)を0.002以上0.100以下とすることが好ましい。P(HO)/P(H)が0.002未満では還元性雰囲気となりAl系酸化物が形成されにくくなる場合がある。P(HO)/P(H)は、好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上とする。一方、P(HO)/P(H)が0.100を超えると、内部酸化が進み磁気特性を劣化させるおそれがある。
上記温度域における滞留時間は、40秒以下とすることが好ましい。滞留時間が40秒を超えると、内部酸化が進み磁気特性が劣化するおそれがある。滞留時間は、好ましくは20秒以下、さらに好ましくは10秒以下とする。滞留時間が短いと、上記雰囲気にもよるが十分なAl系酸化物の形成が困難となるため、滞留時間は上記雰囲気を考慮して適宜調整する。ただし、このような調整は、日常的に鋼板の表面酸化状態を管理した熱処理を実施している当業者であれば困難なことではない。
ここで、鋼板の表面にAl系酸化物を形成するだけであれば、例えば900℃を超える温度域で雰囲気および滞留時間を調整することでも実行可能である。そしてそのような調整は前述のとおり当業者であれば比較的容易でもある。しかし、900℃以上の温度域になると、鋼中での酸素の拡散速度が速くなることなどから、適切な形態での酸化物の形成の制御が困難になる。特に本発明においては、高温保持中に生じるSnおよびSbの表面偏析との兼ね合いで酸化物の成長および形態を制御する必要があるため、Al系酸化物は仕上げ焼鈍工程において最初に900℃に到達する前の500℃以上900℃以下の温度域で形成しておき、その後900℃以上に昇温する場合、900℃以上の温度域ではAl系酸化物の形成を抑制する雰囲気とすることが好ましい。具体的には900℃以上の温度域では、雰囲気についてP(HO)/P(H)を0.002未満とすることが好ましい。
さらに、仕上げ焼鈍の冷却過程でも鋼板表面の酸化物の形成を制御することは可能ではあるが、本発明は高温保持中に生じるSnおよびSbの表面偏析との兼ね合いで酸化物の成長および形態を制御するものであるから、発明の効果を得るには、仕上げ焼鈍工程において最初に高温領域に達する前、具体的には900℃に達する前の過程で酸化物の形成を制御しておくことが好ましい。
また、900℃超の温度域について、最高到達温度および滞留時間は、鋼板組織の再結晶および粒成長を通じた目的の磁気特性を考慮して適宜決定すればよい。一般的な条件としては、最高到達温度は950℃以上1200℃以下、滞留時間は10秒以上300秒以下とすることができる。
なお、上記の500℃以上900℃以下の温度域における雰囲気および滞留時間は、本発明の磁気特性および被膜密着性に優れる無方向性電磁鋼板を製造するのに好ましい条件である。当然ではあるが、鋼板表面でのAl系酸化物の形成挙動は、鋼板の化学組成、特にAl含有量の影響を受けることはもちろん、酸化物形成で競合する元素、例えばSi、Mn、Crなど、さらには鋼板表面に偏析する傾向があるSn、Sb、Cu、Ni、P、B、Sなどの影響を受ける。このため、たとえ上記温度域における雰囲気および滞留時間の好ましい条件から外れる条件であっても、本発明で規定する母鋼板表面におけるAl系酸化物の被覆率を満たすように仕上げ焼鈍が施されるものは、本発明の範囲に含まれるものとする。鋼板の化学組成によって多少の調整が必要となるが、上記温度域における雰囲気および滞留時間の好ましい条件を参考にし、必要に応じて数度の試行により鋼板表面へのAl系酸化物の形成を適切に制御することは、日常的に鋼板の表面酸化状態を管理した熱処理を実施している当業者であれば困難なことではない。
6.絶縁被膜形成工程
絶縁被膜形成工程においては、上記仕上げ焼鈍工程により得られた鋼板の表面に絶縁被膜を形成する。絶縁被膜は、上記仕上げ焼鈍工程により得られた鋼板表面にコーティング液を塗布し、焼き付けることによって形成することができる。絶縁被膜形成条件およびコーティング液は、通常通りでよい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
(無方向性電磁鋼板の作製)
表1に示す試料No.A01~A19の化学組成を有する鋼を真空溶解し、25kgインゴットに鋳造して1150℃に加熱後、40mm厚の鋼片に鍛造した。次に、鋼片を、加熱炉で1150℃に加熱し、熱間圧延によって2.0mmの板厚に仕上げた。熱間圧延は表面温度にして850℃の熱間圧延終了温度で終了した。次に、熱間圧延後の鋼板を水冷して表面温度にして650℃に1時間保持した後、空冷した。次に、空冷後の鋼板を、窒素雰囲気中において950℃に30秒間保持して均熱する熱延板焼純を施してから、大気中で放冷した。次に、熱延板焼純後の鋼板を酸洗後に、冷間圧延によって0.25mmの板厚に仕上げた。次に、冷間圧延後の鋼板を脱脂後、窒素・水素混合雰囲気中において、1000℃に30秒間保持する仕上げ焼純を施した。この際、加熱過程における500℃以上900℃以下の温度域については、雰囲気のP(HO)/P(H)と滞留時間を表1に示すように調整することで、Al系酸化物の形態を制御した。なお、900℃に到達した以降の雰囲気のP(HO)/P(H)は0.002未満とした。次に、仕上げ焼純後の鋼板表面に有機無機複合系のコーティング液を塗布し、焼き付けることによって、0.5μm厚の絶縁被膜を形成した。
(母鋼板表面におけるAl系酸化物の被覆率)
上記のように得られた無方向性電磁鋼板について、上述の方法によって絶縁被膜を除去した後、母鋼板表面におけるAl系酸化物の被覆率を計測した。結果を下記表1に示す。
(被膜密着性)
上記のように得られた無方向性電磁鋼板について、被膜密着性を評価した。まず、上記のように得られた無方向性電磁鋼板における母鋼板表面に形成された絶縁被膜に対して、1回目の剥離試験を行った。1回目の剥離試験では、直径10mmのステンレス棒に巻き付けように180度曲げ、さらに曲げ戻した母鋼板表面(曲げ時に内側の面)にセロハンテープを貼り剥離した後に、絶縁被膜の剥離の有無を目視で評価し、絶縁被膜が剥離した面積の割合を剥離率[%]として測定した。さらに、1回目の剥離試験の結果、絶縁被膜の剥離が無かった無方向性電磁鋼板に対しては、窒素雰囲気中において600℃に2時間保持する熱処理後に2回目の剥離試験を行った。2回目の剥離試験でも、直径10mmのステンレス棒に巻き付けように180度曲げ、さらに曲げ戻した母鋼板表面(曲げ時に内側の面)にセロハンテープを貼り剥離した後に、絶縁被膜の剥離の有無を目視で評価した。さらに、2回目の剥離試験の結果、絶縁被膜の剥離が無かった無方向性電磁鋼板に対しては、窒素雰囲気中において600℃に2時間保持する熱処理後に3回目の剥離試験を行った。3回目の剥離試験でも、直径10mmのステンレス棒に巻き付けように180度曲げ、さらに曲げ戻した母鋼板表面(曲げ時に内側の面)にセロハンテープを貼り剥離した後に、絶縁被膜の剥離の有無を目視で評価した。これにより、母鋼板表面に形成された絶縁被膜の被膜密着性を評価した。結果を下記表1に示す。母鋼板表面に形成された絶縁被膜の被膜密着性の評価基準は、以下の通りである。
2:3回目の剥離試験でも剥離無し
1:2回目の剥離試験では剥離無しで3回目の剥離試験では剥離有り
0:1回目の剥離試験では剥離無しで2回目の剥離試験では剥離有り
-1:1回目の剥離試験での剥離率10%以下
-2:1回目の剥離試験での剥離率10%超20%以下
-3:1回目の剥離試験での剥離率20%超30%以下
-4:1回目の剥離試験での剥離率30%超40%以下
-5:1回目の剥離試験での剥離率40%超
(強度および磁気特性)
上記のように得られた無方向性電磁鋼板からJIS5号引張試験片を採取し、引張試験を行って降伏応力(YS)[MPa]を評価した。さらに、上記のように得られた無方向性電磁鋼板から55mm角の単板試験片を打ち抜き、単板磁気測定器を用いて、鉄損W10/400[W/kg](400Hzにて最大磁束密度1.0Tに交番励磁した場合の圧延方向の鉄損と圧延直角方向の鉄損の平均値)を測定した。結果を下記表1に示す。
(評価)
鋼板成分が実質同一である試料No.A01~A05では、Al系酸化物が実質的に形成されていない試料No.A01、Al系酸化物が形成されても被覆率が低い試料No.A02、被覆率が過剰な試料No.A05に対し、Al系酸化物が適切に形成されている試料No.A03、A04の被膜密着性が良好であった。
また、母鋼板の表面改質のためにさらにCuおよびNiを活用した試料No.A06~A10において、Al系酸化物の効果を確認した。試料No.A06およびA07はAl酸化膜の形成が不十分ではあるが、CuおよびNiの効果により被膜密着性は良好であった。試料No.A06については特性が劣るものではないので、本実施例では参考例とした。試料No.A07は試料No.A06にAl系酸化物を形成したものであるが、被覆率が不足しており、試料No.A06と比較して効果が現れていないため比較例とした。これらに対し試料No.A08、A09を比較すると、Al系酸化物によりさらなる被膜密着性改善の効果が現れていることを確認できた。なお、Al系酸化物が過剰である試料No.A10の被膜密着性は試料No.A06およびA07よりも劣るものとなっており、過剰なAl系酸化物は密着性を顕著に劣化させることが示唆された。
また、試料No.A11~A19は、Al含有量が高い試料No.A01~A10と比較してAl含有量が低い鋼種において同様の検討を行ったものである。試料No.A01~A10と同様の効果を確認できた。
なお、試料No.A15は、仕上げ焼鈍条件は上述の好ましい条件ではあるが、鋼板のAl含有量が低いためAl系酸化物の被覆率が十分ではなかった。試料No.A15は、CuおよびNiの効果により被膜密着性を確保していると判断でき、上記試料No.A06と同様、本実施例では参考例とした。一方、試料No.A17は仕上げ焼鈍条件の滞留時間が上述の好ましい条件を外れる条件で製造されているが、鋼板のAl含有量が低くAl系酸化物の形成が抑制気味となるため、結果的に鋼板表面でのAl系酸化物の被覆率は本発明の範囲内に留まり被膜密着性向上効果が発揮された。
[実施例2]
下記表2に示す化学組成を有する試料No.B01~D08の鋼を真空溶解し、40mm厚の鋼片に鋳造して1150℃に加熱後、熱間圧延によって2.0mmの板厚に仕上げた。熱間圧延は表面温度にして850℃の熱間圧延終了温度で終了した。次に、熱間圧延後の鋼板を水冷して表面温度にして650℃に1時間保持した後、空冷した。次に、空冷後の鋼板を、窒素雰囲気中において1000℃に30秒間保持して均熱する熱延板焼純を施してから、大気中で放冷した。次に、熱延板焼純後の鋼板を酸洗後に、冷間圧延によって0.20mmの板厚に仕上げた。次に、冷間圧延後の鋼板を脱脂後、仕上げ焼純を施した。この際、加熱過程における500℃以上900℃以下の温度域については、雰囲気のP(HO)/P(H)は0.03、滞留時間は40秒で固定条件とした。本実施例においては、主として鋼板成分、特にAl含有量により、Al系酸化物の形態を制御した。なお、900℃に到達した以降の雰囲気のP(HO)/P(H)は0.002未満とした。次に、仕上げ焼純後の鋼板表面に有機無機複合系のコーティング液を塗布し、焼き付けることによって、0.3μm厚の絶縁被膜を形成した。
(母鋼板表面におけるAl系酸化物の被覆率)
上記のように得られた無方向性電磁鋼板について、実施例1と同様に、母鋼板表面におけるAl系酸化物の被覆率を計測した。結果を下記表2に示す。
(被膜密着性)
上記のように得られた無方向性電磁鋼板について、実施例1と同様に、被膜密着性を評価した。結果を下記表2に示す。
(強度および磁気特性)
上記のように得られた無方向性電磁鋼板について、実施例1と同様に、降伏応力(YS)および鉄損W10/400を測定した。結果を下記表2に示す。
(評価)
Al以外の鋼板成分を実質同一とし、Al含有量を変化させた試料No.B01~B06およびB07~B10では、Al系酸化物が実質的に形成されていない試料No.B01、B07、Al系酸化物が形成されても被覆率が低い試料No.B02、被覆率が過剰な試料No.B06、B10に対し、Al系酸化物が適切に形成されている試料No.B03~B05、B08、B09の被膜密着性が良好であった。
試料No.C01~C11は同一のAl含有量の鋼板において、SnおよびSbの含有量に応じたAl系酸化物の効果を確認した例である。Al系酸化物が適切に形成された試料No.C02~C04、C06、C07、C09~C11は、本発明が規定する範囲でSnおよびSbを含有する鋼板において良好な被膜密着性を示すことを確認できた。試料No.C01はSnおよびSbを含有しないので被膜密着性はそれほど悪いわけではないが、Al系酸化物を形成しているにも関わらず被膜密着性が特に好ましいものにもなってはいなかった。また、試料No.C05、C08はSnおよびSbを過剰に含有しているため、本発明のAl系酸化物を適用しても十分な被膜密着性を得ることはできなった。
また、試料No.D02、D03およびD05~D08は、それぞれ試料No.B02、B03およびB05~B08の鋼板化学組成をベースとして、それぞれに母鋼板の表面改質のためにCuおよびNiをさらに含有させたものである。試料No.B系列の被膜密着性と試料No.D系列の被膜密着性を比較すると、Al系酸化物が適正範囲で形成される場合のみ、CuおよびNiによる被膜密着性確保効果の上に、Al系酸化物による被膜密着性向上効果が重畳された。
なお、表1および表2の全体を比較することで、本発明のAl系酸化物による被膜密着性向上効果は、SnまたはSbを単独で含有する鋼板よりも、SnおよびSbを同時添加した鋼板においてより顕著な効果が現れることを確認できた。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.004%以下、Si:2.0%以上4.0%以下、Al:0.20以上3.00%以下、Mn:0.05%以上4.00%以下、S:0.005%以下、N:0.004%以下、P:0.20%以下、ならびにSnおよびSbのうち少なくとも1種:合計で0.001%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不純物よりなる化学組成を有する母鋼板と、前記母鋼板の表面に形成された絶縁被膜と、を有する無方向性電磁鋼板であって、
    前記母鋼板の前記絶縁被膜側の表面にAl系酸化物が存在し、
    前記母鋼板の表面における前記Al系酸化物の被覆率が30%以上95%以下である、無方向性電磁鋼板。
  2. 請求項1に記載の無方向性電磁鋼板を製造する無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    請求項1に記載の化学組成を有するスラブを、加熱炉で1000℃以上1250℃以下の温度に加熱するスラブ加熱工程と、
    前記加熱後のスラブに熱間圧延を施し、最終圧延パス後に水冷して650℃以下の温度でコイル状に巻き取る熱間圧延工程と、
    前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に熱延板焼鈍および酸洗を施す熱延板焼鈍・酸洗工程と、
    前記熱延板焼鈍・酸洗工程により得られた熱延焼鈍板に冷間圧延を施す冷間圧延工程と、
    前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、
    前記仕上げ焼鈍工程により得られた鋼板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、を有し、
    前記仕上げ焼鈍工程では、最初に900℃に到達する前の500℃以上900℃以下の温度域における雰囲気は、水蒸気(HO)と水素(H)との分圧比P(HO)/P(H)を0.002以上0.100以下とし、前記温度域における滞留時間は40秒以下とし、900℃以上の温度域における雰囲気は、水蒸気(H O)と水素(H )との分圧比P(H O)/P(H )を0.002未満とする、無方向性電磁鋼板の製造方法。
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