以下、図面を参照しながら、一実施形態に係るインクジェットプリンタについて説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。以下の説明では、インクジェットプリンタを正面から見たときに、インクジェットプリンタから遠ざかる方を前方、インクジェットプリンタに近づく方を後方とする。また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を表している。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、インクジェットプリンタの設置態様等を限定するものではない。
(第1実施形態)
図1は、一実施形態に係る大判のインクジェットプリンタ(以下、「プリンタ」とする。)10の正面図である。プリンタ10は、ロール状の記録媒体5を前後方向に移動させるとともに、左右方向に移動するキャリッジ20に搭載されたインクヘッド50からインクを吐出することによって、記録媒体5上に画像を印刷する。
記録媒体5は、画像が印刷される対象物である。記録媒体5は特に限定されない。記録媒体5は、例えば、普通紙やインクジェット用印刷紙等の紙類であってもよいし、樹脂製やガラス製などの透明なシートであってもよい。金属製やゴム製等のシートであってもよい。また、布帛であってもよい。
図1に示すように、プリンタ10は、キャリッジ20と、キャリッジ移動装置30と、搬送装置40と、インクヘッド50と、キャッピング装置90と、制御装置100とを備えている。
キャリッジ移動装置30は、ガイドレール31と、ベルト32と、左右のプーリ33aおよび33bと、キャリッジモータ34とを備えている。ガイドレール31には、キャリッジ20が摺動自在に係合している。ガイドレール31は、左右方向に延びている。ガイドレール31は、キャリッジ20の左右方向への移動をガイドする。ベルト32は、キャリッジ20に固定されている。ベルト32は、無端状のベルトである。ベルト32は、ガイドレール31の右側に設けられたプーリ33aおよび左側に設けられたプーリ33bに巻き掛けられている。右側のプーリ33aにはキャリッジモータ34が取り付けられている。キャリッジモータ34は、制御装置100と電気的に接続されている。キャリッジモータ34は、制御装置100によって制御される。キャリッジモータ34が駆動するとプーリ33aが回転し、ベルト32が走行する。それにより、キャリッジ20がガイドレール31に沿って左右方向に移動する。
キャリッジ20の下方には、プラテン12が配置されている。プラテン12は、左右方向に延びている。プラテン12には記録媒体5が載置される。プラテン12上の記録媒体5は、搬送装置40によって前後方向に移動される。搬送装置40は、ピンチローラ41と、グリットローラ42と、フィードモータ43とを備えている。ピンチローラ41はプラテン12の上方に設けられ、記録媒体5を上から押下する。ピンチローラ41は、キャリッジ20より後方に配置されている。プラテン12には、グリットローラ42が設けられている。グリットローラ42は、ピンチローラ41の下方に配置されている。グリットローラ42は、ピンチローラ41と対向する位置に設けられている。グリットローラ42は、フィードモータ43に連結されている。グリットローラ42は、フィードモータ43の駆動力を受けて回転可能に形成されている。フィードモータ43は、制御装置100と電気的に接続されている。フィードモータ43は、制御装置100によって制御される。ピンチローラ41とグリットローラ42との間に記録媒体5が挟まれた状態でグリットローラ42が回転すると、記録媒体5は前後方向に搬送される。
図2は、キャリッジ20の下面の構成を模式的に示す平面図である。図2に示すように、キャリッジ20の下面には、複数のインクヘッド50が設けられている。インクヘッド50は、インクを吐出する部材である。複数のインクヘッド50は、キャリッジ20において左右方向に並んで配置されている。複数のインクヘッド50の下面には、それぞれ、複数のノズル51が形成されている。ノズル51は、インクが吐出される微細な孔である。インクヘッド50の下面は、それぞれ、複数のノズル51が形成されたノズル面50aを構成している。ノズル面50aにおいて、複数のノズル51は前後方向に並んでノズル列を形成している。ここでは、ノズル列は、1つのインクヘッド50につき2列形成されている。ただし、インクヘッド50およびノズル51の配置は上記したものに限定されるわけではない。
図3は、ノズル51周辺の部分断面図である。図3に示すように、ノズル51の近傍には、ケース52と、振動板53と、アクチュエータ54とが設けられている。ケース52は、中空に形成されている。ケース52は、ここでは、上下に配置された2つの部分に仕切られている。ケース52の上方の部分と下方の部分との間には、開口52aが設けられている。ケース52の開口52aよりも下方の部分は、圧力室52bを構成している。ノズル51は、圧力室52bの下壁を上下方向に貫通している。圧力室52bには、インクが収容されている。インク吐出時には、圧力室52bに収容されているインクがノズル51から吐出される。
振動板53は、開口52aを塞ぐように取り付けられている。振動板53はケース52とともに、圧力室52bを区画している。振動板53は、圧力室52bの内側および外側に弾性変形可能な部材である。振動板53は、圧力室52bの容積を増加および減少させるように変形可能に構成されている。振動板53は、典型的には樹脂フィルムである。
圧力室52bの側壁には、インクが流入するインク流入口52cが形成されている。ただし、インク流入口52cは圧力室52bとつながっていればよく、インク流入口52cの位置は何ら限定されない。圧力室52bには、インク流入口52cを通じてインクが供給される。
振動板53の圧力室52bと反対側の面には、アクチュエータ54が当接している。アクチュエータ54は、振動板53を介して、圧力室52bの体積を増減させるように駆動する。これにより、圧力室52bの体積が変化し、圧力室52bの体積の変化によってノズル51からインクが吐出される。アクチュエータ54は、例えば、圧電材料と導電層とが交互に積層された積層体の圧電素子である。アクチュエータ54は、制御装置100に電気的に接続され、制御装置100によって制御されている。アクチュエータ54は、制御装置100からの駆動信号を受けると膨張または収縮し、振動板53を圧力室52bの外側または内側に弾性変形させる。
図1に示すように、インクはインク供給システムSSによってインクヘッド50に供給される。図4は、インク供給システムSSの構成を示す模式図である。インク供給システムSSは、インクヘッド50にインクを供給するシステムである。ここでは、インク供給システムSSは、ノズル列ごとに設けられている。図4に示すように、インク供給システムSSは、インクカートリッジ60と、インク流路61と、送液ポンプ70と、ダンパ80とを備えている。
インクカートリッジ60は、インクが収容されたインク容器の一例である。1つのインクカートリッジ60には、例えば、プロセスカラーインクおよび特色インクのうちの1つのインクが貯留されている。インクの材料は何ら限定されず、従来からインクジェットプリンタのインクの材料として用いられている各種の材料を使用することができる。上記インクは、例えば、ソルベント系(溶剤系)顔料インクや水性顔料インクであってもよい。あるいは、水性染料インクや、紫外線を受けて硬化する紫外線硬化型顔料インク等であってもよい。
複数のインクカートリッジ60にそれぞれ収容された複数のインクには、比較的粘度の高いインクと、比較的粘度の低いインクとが含まれる場合がある。以下、比較的粘度の高いインクを高粘度インク、比較的粘度の低いインクを低粘度インクとも呼ぶ。低粘度インクの粘度は、高粘度インクの粘度よりも小さい。なお、複数のインクカートリッジ60に収容された複数のインクは全て低粘度インクである場合もあり、全て高粘度インクである場合もある。さらには、プリンタ10の使用途中で低粘度インクから高粘度インクへ、または高粘度インクから低粘度インクへとインクが変更される場合もあり得る。
インク流路61は、インクカートリッジ60とインクヘッド50とを接続している。インクは、インク流路61を通ってインクカートリッジ60からインクヘッド50に供給される。インク流路61の材質は限定されないが、例えば、可撓性のチューブによって構成されている。
送液ポンプ70は、インク流路61に設けられている。送液ポンプ70は、駆動時にはインクカートリッジ60からインクヘッド50に向かう方向にインクを送るように構成されている。送液ポンプ70は、ここでは、チューブポンプである。ただし、送液ポンプ70の種類は限定されず、例えば、ダイヤフラムポンプなどであってもよい。送液ポンプ70は、制御装置100に電気的に接続され、制御装置100によって制御されている。図5は、送液ポンプ70の内部を模式的に示す断面図である。図5に示すように、送液ポンプ70は、内部流路71と、一対のローラ72と、アーム73と、モータ74とを備えている。
内部流路71は、可撓性のチューブで構成されている。内部流路71は、インクがその中を通る部材である。内部流路71は、少なくとも一部が円弧状に形成されている。内部流路71の上流側端部71aは、インク流路61のうち送液ポンプ70よりも上流側(インクカートリッジ60側)の部分に接続されている。内部流路71の下流側端部71bは、インク流路61のうち送液ポンプ70よりも下流側(インクヘッド50側)の部分に接続されている。
送液ポンプ70は、一対のローラ72で内部流路71をしごくことによってインクを送出する。一対のローラ72は、内部流路71を押圧する押圧体の一例である。図5に示すように、一対のローラ72は、それぞれアーム73の両端に配置されている。アーム73は、回転軸73aと、一対のローラ72を支持する支持部73bとを有している。アーム73は、一対のローラ72が内部流路71の円弧状の部分に沿って移動するように回転軸73a周りに回転する。アーム73が回転軸73a周りに回転すると、一対のローラ72もアーム73の回転軸73aの周りを公転する。一対のローラ72は、この公転により内部流路71をしごく。それにより、インクが送出される。
モータ74は、アーム73に接続され、アーム73を回転させる。本実施形態では、モータ74は、ステッピングモータである。モータ74は、1つのパルスが入力されると、例えば、1600分の1回転するように構成されている。そこで、モータ74は、100のパルスが入力されると、16分の1回転する。詳しくは後述するが、本実施形態では、制御装置100は、送液ポンプ70を1回の駆動につき16分の1回転の整数倍だけ駆動させる。なお、送液ポンプ70の構成は上記したものには限定されない。例えば、送液ポンプ70は、サーボモータを備えていてもよく、サーボモータからの出力を受信することによって回転位置を把握してもよい。
図5から理解されるように、送液ポンプ70の16分の1回転当たりのインク供給量は、予め決まっている。送液ポンプ70が16分の1回転だけ駆動されると、内部流路71のうちの16分の360度分に充填されているインクが送液ポンプ70の外部に押し出される。同様に、例えば、送液ポンプ70が8分の1回転だけ駆動されると、内部流路71のうちの8分の360度分に充填されているインクが送液ポンプ70の外部に押し出される。
なお、送液ポンプ70によりインク流路61内を送られるインクの速度は、インクが低粘度インクである場合の方が高粘度インクである場合よりも速い。言い換えれば、低粘度インクは、同一条件の下では高粘度インクよりも時間当たりにインク流路61内を送られる量が大きい。送液ポンプ70の16分の1回転当たりのインク供給量は一定であるが、送られたインクの速度は、例えばインクの種類によって異なり得る。
ダンパ80は、インク流路61、より詳しくは、送液ポンプ70とインクヘッド50との間に設けられている。ダンパ80は、インクが一時的に貯留される貯留室を備え、インクの圧力変動を緩和している。また、ダンパ80には、貯留室内のインクの量を検出する検出装置が設けられ、制御装置100は、検出装置が検出する貯留室内のインクの量に基づいて送液ポンプ70の動作を制御している。
図6Aおよび図6Bは、ダンパ80の構成を模式的に示した断面図である。そのうち、図6Aは、ダンパ80の内部の圧力が所定の圧力よりも小さい状態を示している。図6Bは、ダンパ80の内部の圧力が所定の圧力以上の状態を示している。図6Aおよび図6Bに示すように、ダンパ80は、ダンパ本体81と、ダンパ膜82と、内部バネ83と、押圧部材84と、支持バネ85と、フィラー86と、センサ87とを備えている。
ダンパ本体81は中空に形成されている。貯留室81aは、ダンパ本体81の内部に構成されている。貯留室81aには、図示しない流入口と流出口とが形成されている。インクは、流入口を通って貯留室81aに流入し、流出口を通って貯留室81aから流出する。貯留室81aには、インクが一時的に貯留される。
ダンパ本体81には、開口81bが形成されている。ダンパ膜82は、開口81bを覆うように設けられている。貯留室81aは、ダンパ本体81とダンパ膜82とによって区画されている。ダンパ膜82は、例えば、可撓性を有する樹脂製のフィルムによって構成されている。ダンパ膜82は、貯留室81a内の圧力に反応して、貯留室81aの内側および外側に変形可能である。ダンパ膜82は、貯留室81aの内側および外側にそれぞれ撓むことができる程度の張力で取り付けられている。
図6Aおよび図6Bに示すように、貯留室81aの内部には、内部バネ83が設けられている。内部バネ83は、ダンパ膜82の貯留室81a側の面に接触している。内部バネ83は、圧縮された状態で貯留室81aに配置されている。内部バネ83は、ダンパ膜82に向かって弾性力を付与している。
押圧部材84は、ダンパ膜82の貯留室81aとは反対側の面に設けられている。押圧部材84は、内部バネ83に支持されており、ダンパ膜82の撓みとともに、貯留室81aの内側および外側に移動可能である。
フィラー86は、ダンパ本体81の外側に配置されている。フィラー86は、支持バネ85を介してダンパ本体81に支持されている。図6Aおよび図6Bに示すように、フィラー86は、略コの字状に形成されている。フィラー86は、接触部86aと、支持部86bと、被検出部86cとを有している。接触部86aは、伸長方向の中心付近で押圧部材84に対向している。支持部86bは、接触部86aの支持バネ85側の端部から、接触部86aに垂直に延びている。被検出部86cは、接触部86aのセンサ87側の端部から、接触部86aに垂直に延びている。接触部86aには、貯留室81a内部の圧力により押圧部材84が接触し、または離間する。支持部86bは、支持バネ85に支持されている。被検出部86cは、センサ87によって検出される部位である。
図6Aおよび図6Bに示すように、センサ87は、一対の検出部87aと87bとを有し、検出部87aと87bとの間にフィラー86の被検出部86cが位置しているかどうかを検出している。センサ87は、ここでは、非接触式のセンサである。図6Aに示すように、貯留室81aの圧力が所定の圧力を下回っているとき、フィラー86の被検出部86cは検出部87aと87bとの間に位置している。このとき、センサ87は、信号を発するように設定されている。図6Bに示すように、貯留室81aの圧力が大きくなるにしたがって、ダンパ膜82が貯留室81aの外側に撓む。このとき、押圧部材84によって、フィラー86が貯留室81aの外側に押される。それにより、フィラー86は、支持バネ85を軸に回転する。そして、貯留室81aの圧力が所定の圧力より大きくなったとき、フィラー86の被検出部86cは、検出部87aと87bとの間から外れた位置に移動する。このとき、センサ87は、信号を停止するように設定されている。センサ87は、制御装置100に接続されている。制御装置100は、センサ87からの信号を受信している。
ダンパ80のダンパ膜82、内部バネ83、押圧部材84、支持バネ85、フィラー86、およびセンサ87は、貯留室81a内のインクの量を検出する検出装置SDとして機能している。検出装置SDは、貯留室81a内のインクの量を検出するとともに、検出されたインクの量が所定の量を下回った場合には信号を送信するように構成されている。検出装置SDは、ここでは、貯留室81a内のインクの圧力が所定の圧力を下回っているかどうかを検出することによって、貯留室81a内のインクの量が所定の量を下回っているかどうかを検出する。
なお、本実施形態では、検出装置SDは、貯留室81a内のインクの量が所定の量を下回った場合に制御装置100に信号を送信するように設定されているが、検出装置SDの信号発信動作はこれと逆動作であってもよい。「検出装置SDは、貯留室81a内のインクの量が所定の量を下回った場合に信号を送信する」とは、貯留室81a内のインクの量が所定の量を上回っている状態と下回っている状態との間で信号発信動作が切り替わることを意味する。また、本実施形態では、検出装置SDは、貯留室81a内の圧力を検出することによって貯留室81a内のインクの量を検出しているが、例えば、インクの液面高さ等を検出してもよい。さらに、本実施形態では、検出装置SDは、貯留室81a内のインクの量が所定の量を上回っているか、下回っているかを検出するように構成されていたが、例えば、インク量を連続的に測定できてもよい。その場合、検出装置SDは、例えば、貯留室81a内のインクの圧力を連続的に測定できる圧力センサを備えていてもよい。
制御装置100は、センサ87から信号を受け取ると、送液ポンプ70を駆動させる。送液ポンプ70の駆動により貯留室81a内の圧力が所定の圧力以上になると、センサ87は、信号を停止する。制御装置100は、センサ87からの信号が途切れると、送液ポンプ70を停止させる。
図1に示すように、キャリッジ20の可動範囲の右端には、ホームポジションP1が設定されている。ホームポジションP1は、印刷待機時などにキャリッジ20が配置される位置である。ホームポジションP1におけるキャリッジ20の下方には、キャッピング装置90が配置されている。図1に示すように、キャッピング装置90は、キャップ91と、キャップ移動装置92と、吸引ポンプ93とを備えている。
キャップ91は、インクヘッド50に装着可能に構成されている。キャップ91は、インクヘッド50と同数設けられている。1つのインクヘッド50には1つのキャップ91が装着される。キャップ91は、上面が開口した容器状の形状を有している。キャップ91は、ゴム等によって形成されている。インクヘッド50への装着時、キャップ91の上縁がインクヘッド50のノズル面50aに密着される。
複数のキャップ91は、1つのキャップ移動装置92によって支持されている。キャップ移動装置92は、複数のキャップ91をインクヘッド50のノズル面50aに装着し、または離間させる。キャップ移動装置92は、キャップ91を下方から支持して上下方向に移動させる。それにより、キャップ91は、インクヘッド50に装着され、また離間される。キャップ移動装置92は、例えば、図示しない駆動モータを備えている。キャップ移動装置92は、制御装置100に電気的に接続され、制御装置100によって制御されている。なお、本実施形態では、キャップ移動装置92は、キャップ91を上下方向に移動させてインクヘッド50に装着したが、例えば、斜めにスライドさせて装着するように構成されていてもよい。
図1に示すように、吸引ポンプ93は、複数のキャップ91に接続されている。吸引ポンプ93は、インクヘッド50に装着されている状態のキャップ91内を減圧する。吸引ポンプ93は、これによりインクヘッド50からインクを吸引する。吸引ポンプ93は、例えば、減圧ポンプである。吸引ポンプ93は、制御装置100に電気的に接続され、制御装置100によって制御されている。
吸引ポンプ93によって時間当たりに吸引されるインクの量は、吸引ポンプ93の設定によって変化する。吸引ポンプ93の時間当たりの吸引量を大きく設定する(例えば、吸引ポンプ93のモータの回転速度を大きく設定する)と、時間当たりに吸引されるインクの量は増加する。吸引ポンプ93の時間当たりの吸引量を小さく設定する(例えば、吸引ポンプ93のモータの回転速度を小さく設定する)と、時間当たりに吸引されるインクの量は減少する。また、同じ設定であっても、吸引ポンプ93の個体差や経年変化などにより吸引ポンプ93によって時間当たりに吸引されるインクの量が変わることもあり得る。
吸引ポンプ93によって時間当たりに吸引されるインクの量は、インクヘッド50の構成およびインクの粘度によっても変化する。吸引ポンプの時間当たりの吸引量、インクヘッドの構成などの条件が同じであれば、吸引ポンプ93の駆動によって時間当たりにインクヘッド50から吸引される低粘度インクの量は、吸引ポンプ93の駆動によって時間当たりにインクヘッド50から吸引される高粘度インクの量よりも多い。
図1に示すように、プリンタ10の右端部には、操作パネル200が設けられている。操作パネル200には、機器状態を表示する表示部と、ユーザーによって操作される入力キー等が設けられている。
操作パネル200は、制御装置100と接続されている。図7は、本実施形態に係るプリンタ10のブロック図である。図7に示すように、制御装置100は、キャリッジモータ34と、フィードモータ43と、インクヘッド50のアクチュエータ54と、送液ポンプ70のモータ74と、キャップ移動装置92と、吸引ポンプ93と、操作パネル200とにそれぞれ電気的に接続されており、それらを制御可能に構成されている。また、制御装置100は、検出装置SDのセンサ87に電気的に接続され、検出装置SDのセンサ87からの信号を受信している。
制御装置100の構成は特に限定されない。制御装置100は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェア構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器から印刷データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置とを備えている。なお、制御装置100は必ずしもプリンタ10の内部に設けられている必要はなく、例えば、プリンタ10の外部に設置され、有線または無線を介してプリンタ10と通信可能に接続されたコンピュータ等であってもよい。
図7に示すように、制御装置100は、印刷制御部110と、キャッピング制御部120と、減圧制御部130と、供給制御部140と、を備えている。供給制御部140は、複数のインク供給システムSSのうちの1つのインク供給システムSSの動作を制御している。制御装置100は、他のインク供給システムSSの動作を制御する他の供給制御部を備えていてもよいが、ここでは図示および説明を省略する。また、制御装置100は、上記した以外の処理部を備えていてもよいが、ここでは図示および説明を省略する。
印刷制御部110は、プリンタ10の印刷動作を制御する。印刷制御部110は、キャリッジモータ34を駆動させてキャリッジ20を左右方向に移動させながら、インクヘッド50からインクを吐出させることにより、記録媒体5の一部に画像を印刷する。印刷制御部110は、さらに、フィードモータ43を駆動させて記録媒体5を前後方向に移動させることによって記録媒体5上の印刷位置を移動させる。これらの動作により、記録媒体5上に画像が印刷される。
キャッピング制御部120は、キャップ移動装置92を制御してキャップ91をインクヘッド50に装着する。非印刷時にキャリッジ20がホームポジションP1に位置付けられたときには、キャッピング制御部120は、基本的にキャップ91をインクヘッド50に装着するように設定されている。
減圧制御部130は、キャップ91がインクヘッド50に装着された状態で吸引ポンプ93を制御してキャップ91内を減圧させる。かかるインク吸引は、定期的に、または適時に行われる。図7に示すように、本実施形態に係る減圧制御部130は、第1減圧制御部131と、第2減圧制御部132とを備えている。第1減圧制御部131は、高速吸引モードに対応している。第2減圧制御部132は、通常クリーニングモードに対応している。高速吸引モードは、通常クリーニングモードよりもインク吸引の時間を短縮するためのモードである。第1減圧制御部131は、第1吸引速度でインクを吸引するように設定されている。第2減圧制御部132は、第1吸引速度よりも小さい第2吸引速度でインクを吸引するように設定されている。第1吸引速度および第2吸引速度は、例えば、時間当たりに吸引可能な空気の体積、例えば[ml/s]で表される。
供給制御部140は、インクヘッド50へのインクの供給を制御している。図7に示すように、供給制御部140は、受信部141と、第1供給制御部142と、第1記憶部143と、第2記憶部144と、測定部145と、演算部146と、設定部147と、を備えている。第1供給制御部142、第1記憶部143、第2記憶部144、測定部145、演算部146、および設定部147は、高速吸引モード時のインク供給に関係する。また、供給制御部140は、第2供給制御部148を備えている。ここでは、第2供給制御部148は、高速吸引モード時以外、例えば、通常クリーニング時、フラッシング時、印刷時などにおけるインク供給を制御する。
受信部141は、検出装置SDが発信する信号を受信するように構成されている。受信部141は、ダンパ80の貯留室81a内のインクの圧力が所定値を下回ったときに信号を受信する。
第1供給制御部142は、第1減圧制御部131の制御によって吸引ポンプ93が高速吸引モードでキャップ91内を減圧している状態において受信部141が信号を受信した場合に、送液ポンプ70にインクを供給させるように設定されている。第1供給制御部142は、送液ポンプ70を制御して1回につき設定された量だけインクを供給させる。以下では適宜、第1供給制御部142の制御により送液ポンプ70が1回の駆動で供給するインクの量を第1供給量Q1と呼ぶ。なお、詳しくは後述するが、第1供給量Q1は他の条件に合わせて調整される量である。第1供給制御部142は、センサ87からの信号が途切れた場合には、送液ポンプ70を停止させる。これにより、第1供給制御部142は、インクヘッド50から排出された量に対応する量のインクをインクヘッド50に供給している。
第1記憶部143には、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量と送液ポンプ70が1回につき供給するインクの量との間の対応関係を定めた対応テーブルが記憶されている。この対応テーブルは、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量よりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなるように構成されている。対応テーブルの詳細については後述する。
第2記憶部144には、送液ポンプ70が1回につき所定の基準供給量(以下、基準供給量Qs)だけインクを供給する場合における時間当たりのインク排出量と送液ポンプ70がインクを供給する時間間隔との間の対応関係が記憶されている。以下、送液ポンプ70がインクを供給する時間間隔を「供給インターバル」とも呼ぶ。基準供給量Qsは一定であるため、時間当たりのインクヘッド50からのインク排出量が多いと、供給インターバルは短くなる。逆に、時間当たりのインクヘッド50からのインク排出量が少ないと、供給インターバルは長くなる。ここでは、第2記憶部144には、時間当たりのインク排出量と供給インターバルとの間の対応関係を表す関係式が記憶されている。この対応関係の詳細については後述する。
測定部145は、送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給している状態において送液ポンプ70がインクを供給する供給インターバルを測定するように設定されている。測定部145が供給インターバルを測定しているときのインク排出モードは限定されないが、本実施形態では高速吸引モードである。本実施形態では、測定部145は、吸引ポンプ93が高速吸引モードで駆動され、かつ、送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給している状態において供給インターバルを測定する。
測定部145による供給インターバルの測定は、例えば、プリンタ10の製造工程において第1供給量Q1を設定する際に行われる。ただし、測定部145による供給インターバルの測定は、さらにプリンタ10の製造後にも行われてもよい。例えば、測定部145による供給インターバルの測定は、プリンタ10の製造後に、第1供給量Q1を定期的または適時に自動調整する際に行われてもよい。または、測定部145による供給インターバルの測定は、例えば、プリンタ10の製造後に、ユーザーの指示に基づいて行われてもよい。制御装置100は、測定部145による供給インターバルの測定を指令する制御部や、そのためのインターフェイスを備えていてもよい。
演算部146は、第2記憶部144に記憶された対応関係と測定部145によって測定された供給インターバルとに基づいて時間当たりのインク排出量を求めるように設定されている。第2記憶部144に記憶された対応関係は時間当たりのインク排出量と供給インターバルとの間の対応関係であり、供給インターバルが測定されれば、時間当たりのインク排出量が得られる。この演算の詳細については後述する。
設定部147は、演算部146によって求められたインク排出量と第1記憶部143に記憶された対応テーブルとに基づいて第1供給量Q1を設定するように構成されている。本実施形態では、設定部147は、第1供給量Q1に対応するローラ72の回転角である第1回転角を設定する。第1供給制御部142は、1回につき、設定部147で設定された第1供給量Q1だけ送液ポンプ70にインクを供給させる。詳しくは、第1供給制御部142は、送液ポンプ70のモータ74を制御して、1回につき第1回転角だけアーム73を回転させるように設定されている。第1回転角は、1回転を予め定められた自然数(ここでは、16)で等分した回転角(ここでは、16分の360度、以下では単位回転角とも言う)の自然数倍に設定される。
上記のように、設定部147によりインクの供給量として設定される物理量は、インクの供給量と等価な他の物理量であってもよい。ここでの「送液ポンプ70のインク供給量」は、送液ポンプ70のインク供給量(体積または重さ)と等価計算可能な他の物理量を含むものである。
第2供給制御部148は、高速吸引モード時以外、例えば、通常クリーニング時、フラッシング時、印刷時などにおけるインク供給を制御する。第2供給制御部148は、高速吸引モード時以外の状態において受信部141が信号を受信した場合に、送液ポンプ70にインクを供給させるように設定されている。第1供給制御部142は、送液ポンプ70を制御して1回につき予め定められた量だけインクを供給させる。以下では適宜、第2供給制御部148の制御により送液ポンプ70が1回の駆動で供給するインクの量を第2供給量Q2と呼ぶ。第2供給量Q2は、ここでは、使用するインクの粘度やプリンタの個体差などに応じて調整されない量である。第2供給量Q2は固定されている。第2供給量Q2は、ここでは、基準供給量Qsと同じ量である。ただし、第2供給量Q2は、基準供給量Qsよりも大きくてもよく、小さくてもよい。また、通常クリーニング時、フラッシング時、印刷時などの状況によりインク供給量は異なっていてもよい。なお、第2供給量Q2はここでは調整されないが、第1供給量Q1と同様に、使用するインクの粘度やプリンタの個体差などに応じて調整されてもよい。
以下では、第1供給量Q1の設定方法について説明する。前述したように、本実施形態では、送液ポンプ70の1回の駆動による回転角は、1回転を予め定められた自然数M(ここでは、M=16)で等分した単位回転角(ここでは、16分の360度)の自然数N倍に設定されている。Nは、ここでは、M以下の自然数である。ただし、Nの方がMよりも大きくてもよい。すなわち、送液ポンプ70の1回の駆動による回転角は、1回転よりも大きく設定されてもよい。
以下ではさらに、M/Nを分割数Aと呼ぶことにする。分割数Aは、送液ポンプ70を1回駆動させたときの回転角と1回転(360度)との比に等しい。なお、分割数Aは、必ずしも自然数となる必要はない。例えば、仮にN=3であった場合、A=16/3である。また、分割数Aは、1以上でなければならないわけではない。
送液ポンプ70が1回の駆動で回転する回転角は、1回転を分割数Aで除した回転角である。送液ポンプ70が1回転することによって供給されるインクの量をQaとすると、送液ポンプ70が1回の駆動で供給するインク量Qは、Q=Qa/Aである。QaおよびQの単位は、例えば、[ml]である。
インクが時間当たり排出量Bだけインクヘッド50から排出され、送液ポンプ70が1回につき量Q(Q=Qa/A)だけインクを供給する状況では、検出装置SDが信号を発する時間間隔、すなわち供給インターバルTは、T=Q/Bである。Tの単位は、例えば、[s]である。上記式から、Q=BTであるので、
BT=Qa/A
が成立する。この式は、時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70の供給インターバルTとの間の対応関係を表す関係式である。本実施形態では、第2記憶部144には、送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給する場合における時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70の供給インターバルTとの間の関係式が記憶されている。すなわち、第2記憶部144には、Qa/A(=Q)が基準供給量Qsに等しい場合の上記関係式
BT=Qs
が記憶されている。従って、測定により送液ポンプ70の供給インターバルTが判明すれば、演算部146は、時間当たりのインク排出量Bを求めることができる。すなわち、B=Qs/Tである。
なお、時間当たりのインク排出量Bは、インクヘッド50の直上のインク流量に等しい。また、時間当たりのインク排出量Bは、吸引ポンプ93の時間当たりの吸引能力から、インクヘッド50の流路抵抗によるインク流量の低下量を減じた流量に等しい。
一方、送液ポンプ70による時間当たりのインクの供給量Cは、次のようにして算出される。
アーム73を連続回転させる場合の時間当たりの送液ポンプ70のインク供給量をC1とする。インク供給量C1の単位は、例えば、[ml/s]である。インク供給量C1は、連続運転させる場合の送液ポンプ70の送液能力である。ここで、モータ74の1回の加減速に係る時間当たりの送液ポンプ70のインク供給量の低下量をC2とする。低下量C2の単位も、例えば、[ml/s]である。さらに、低下量C2に分割数Aを乗じた量をC3とする。C3の単位も、例えば、[ml/s]である。例えば、1秒間に送液ポンプ70が2回転するとした場合、C1は送液ポンプ70の2回転相当分、すなわちC1=2Qaである。仮にC2がC1の2%であった場合、C2は送液ポンプ70の25分の1回転相当(2%×2回転=4%)である。ここで、分割数Aが16であるとすると、C3は、送液ポンプ70の25分の16回転相当である。送液ポンプ70による時間当たりのインクの供給量Cは、連続運転させた場合の時間当たりの送液ポンプ70のインク供給量C1からC3を減じた量である。
このように、送液ポンプ70の間欠的な駆動によるインク供給では、送液ポンプ70を駆動および停止するたびにインク供給に係るロスが発生する。これは、送液ポンプ70のモータ74が駆動を開始して加速しているとき、およびモータ74が減速して停止するときのモータ74の速度が定常駆動時よりも遅いことに起因する。
上記したアーム73を連続回転させる場合の時間当たりの送液ポンプ70のインク供給量C1、モータ74の1回の加減速に係る時間当たりの送液ポンプ70のインク供給量の低下量C2は、例えば実測により求められる。ただし、インク供給量C1およびインク供給量の低下量C2の求め方は実測には限定されない。例えば、インク供給量C1およびインク供給量の低下量C2は、送液ポンプ70の仕様から求められてもよい。なお、インク供給量の低下量C2は、モータ74の1回の加速に係る時間当たりの送液ポンプ70のインク供給量の低下量と、モータ74の1回の減速に係る時間当たりの送液ポンプ70のインク供給量の低下量とを加算したものである。
以下、第1供給量Q1を設定するプロセスについて説明する。図8は、第1供給量Q1の設定のプロセスの一例を示すフローチャートである。図8に示すように、第1供給量Q1を設定するプロセスのステップS01では、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量Bと送液ポンプ70が1回につき供給するインクの量との間の対応関係を定めた対応テーブルが作成される。
対応テーブルは、時間当たりのインク排出量Bを入力すれば、第1送液量Q1(または第1回転角、または分割数A、または分割数Aの分母N)が得られるように構成されている。この対応テーブルは、少なくとも、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量Bよりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなるように構成されていればよい。対応テーブルは、連続駆動させた場合の送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量C1と、送液ポンプ70の1回の駆動および停止に係る時間当たりのインク供給量の低下量C2とに基づき、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量Bよりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなるように分割数A(=M/N)の分母Nを定めている。これにより、時間当たりのインク排出量Bよりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなる。
送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が時間当たりのインク排出量Bを下回り、ダンパ80へのインクの供給不足が発生すると、例えば、ノズル51内が過剰な負圧になり、インクのメニスカスが壊れる等の不具合が発生するおそれがある。そのため、時間当たりのインク排出量Bが大きい場合には、送液ポンプ70の1回当たりのインク供給量(第1供給量Q1)を大きくして、送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量を大きくする必要がある。時間当たりのインク排出量Bが小さい場合には、送液ポンプ70の1回当たりのインク供給量(第1供給量Q1)を大きくするとインク圧の変動が大きくなるおそれがあるため、第1供給量Q1を小さく設定してもよい。
対応テーブルの構成は、時間当たりのインク排出量Bよりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなる限りで限定されない。しかし、対応テーブルは、さらに、上記を満たすうちで送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が最も少なくなるように構成されていてもよい。言い換えれば、分割数A(=M/N)の分母を構成するNは、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量よりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなる自然数の中で最も小さい自然数に設定されていてもよい。このように構成された対応テーブルによれば、送液ポンプ70の1回の駆動に係るインク量が、インクの供給が不足しないと推定される範囲で最も小さく設定される。そこで、インクの供給過剰によるインク圧の変動を抑制することができる。
このようにして作成された対応テーブルに高速吸引時にインクヘッド50から時間当たりに排出されるインク排出量B(以下、インク排出量B1)を入力すれば、高速吸引時の分割数A(以下、分割数A1)および第1供給量Q1が得られる。対応テーブルは、例えば、時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70の1回のインク供給量とのマトリクスに構成されているとよい。
ステップS02では、時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70がインクを供給する供給インターバルTとの間の対応関係を、送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給する場合について求める。この対応関係は、前述したように関係式BT=Qsで表される。高速吸引時であって1回のインク供給量がQsの状況において実測した供給インターバルT(以下、供給インターバルT1)を上記関係式に入力することにより、高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1を得ることができる。
なお、ステップS01およびS02は、少なくとも最初の1回の実施において行われればよく、実施のたびに行われる必要はない。例えば、最初の1回の実施により作成された対応テーブルおよび対応関係を表す関係式は、制御装置100に記憶させればよい。本実施形態に係るプリンタ10の第1供給量Q1の設定方法は、少なくとも最初の1回の実施においてステップS01およびS02が行われ、ステップS01およびS02が実施のたびには行われない方法も含むものである。また、ステップS01とステップS02とは順番が逆でもよい。
続くステップS03では、高速吸引モードでインクが吸引され、かつ、送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給している状態において、送液ポンプ70の供給インターバルT1が測定される。なお、供給インターバルは複数回測定されてもよい。その場合、供給インターバルT1は、例えば複数の測定値の平均値や中央値などに設定されるとよい。
高速吸引時の時間当たりインク排出量B1は、例えばインクの粘度や吸引ポンプ93の能力の個体差などによって異なる可能性がある。詳しくは、高速吸引時の時間当たりのインク排出量B1は、インクの粘度が高いと小さくなり、インクの粘度が低いと大きくなる。また、高速吸引時の時間当たりのインク排出量B1は、吸引ポンプ93の吸引量が小さいと小さくなり、吸引ポンプ93の吸引量が大きいと大きくなる。
ステップS04では、ステップS02で求められた対応関係とステップS03で測定された供給インターバルT1とに基づいて、高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1が求められる。
ステップS05では、ステップS04で求められた高速吸引時の時間当たりのインク排出量B1と、ステップS01で作成された対応テーブルとに基づいて送液ポンプ70が1回につき供給するインクの量、すなわち第1供給量Q1が決定される。より具体的には、第1回転角、または高速吸引時の分割数A1が決定される。分割数A1は、A1=Qa/Q1である。第1回転角は、360度を分割数A1で除した角度である。Nは、N=M/A1である。ここでは、M=16なので、N=16/A1である。
本願発明者がシミュレーションした一例によれば、基準として想定したインク粘度、吸引ポンプ93の吸引能力、および送液ポンプ70の仕様の下では、高速吸引時の好適な分割数A1は「8」であった。それに対し、インクの粘度が低い場合を想定し、流路抵抗によるインク排出量の低下が小さい(具体的には、基準の0.9倍)ものとして計算を行うと、高速吸引時の好適な分割数A1は「2」であった。インクの粘度が高い場合を想定し、流路抵抗によるインク排出量の低下が大きい(具体的には、基準の1.1倍)ものとして計算を行うと、高速吸引時の好適な分割数A1は「14」であった。同様に、吸引ポンプ93の能力が高い(具体的には、基準の1.1倍)場合を想定して計算を行うと、高速吸引時の好適な分割数A1は「1」であった。吸引ポンプ93の能力が低い(具体的には、基準の0.9倍)場合を想定して計算を行うと、高速吸引時の好適な分割数A1は「16」であった。このように、インク粘度、吸引ポンプ93の吸引能力が少し変化しただけでも適切な分割数A1が大きく変わる場合もあり得る。なお、当然ながら上記はシミュレーションによって得られた結果の一例に過ぎず、分割数A1はこれには限定されない。
このように、本実施形態に係るプリンタ10は、送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給する場合における時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70がインクを供給する供給インターバルTとの間の対応関係と測定された供給インターバルT1とに基づいて、時間当たりのインク排出量B1を求める。さらに、プリンタ10は、求められたインク排出量B1と、時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70が1回につき供給するインクの量との間の対応関係を定めた対応テーブルとに基づいて第1供給量Q1を設定する。かかるプリンタ10によれば、送液ポンプ70の1回のインク供給量を実際のインク排出速度に合わせて好適に設定することができる。これにより、インクの供給不足、および、インクの供給過剰によるインク圧の変動をともに抑制することができる。
本実施形態に係るプリンタ10は、吸引ポンプ93がキャップ91内を減圧しているとき(さらに詳しくは、高速吸引時)に送液ポンプ70が1回につき供給するインクの量を供給インターバルT1の実測に基づいて設定する。インク吸引は例えば印刷などに比べて時間当たりのインク排出量が多い。そのため、従来の構成では、インク吸引中には、インクの供給不足およびインク圧の変動のいずれかが起こりやすかった。本実施形態に係るプリンタ10は、特にこのインク吸引中の不具合を抑制している。
本実施形態では、第1記憶部143に記憶された対応テーブルは、時間当たりにインクヘッドから排出されるインク排出量Bよりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなるように構成されている。これにより、少なくともインクの供給不足のおそれが低減される。
具体的には、対応テーブルは、連続駆動させた場合の送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量C1と、送液ポンプ70の1回の駆動および停止に係る時間当たりのインク供給量の低下量C2とに基づき、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量よりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量が多くなるように、分割数A(=M/N)の分母である自然数Nを定めている。このようにNを設定することにより、時間当たりにインクヘッド50から排出されるインク排出量Bよりも送液ポンプ70の時間当たりのインク供給量を多くすることができる。
なお、送液ポンプ70の分割数A(=M/N)の分母を構成する自然数Nは、時間当たりのインク排出量Bよりも送液ポンプ70が時間当たりに供給するインクの量が多くなる自然数の中で最も小さい自然数に設定されていてもよい。これにより、インクの供給過剰によるインク圧の変動を抑制することができる。ただし、例えばインクの供給不足を抑制することを重視する場合には、Nは、上記した最小の自然数よりも大きい自然数に設定されてもよい。
(第2実施形態)
第2実施形態では、高速吸引中に測定された供給インターバルではなく、通常クリーニングにおいて測定された供給インターバルに基づいて、第1供給量、すなわち高速吸引モードにおける送液ポンプの1回のインク供給量が設定される。以下の第2実施形態の説明では、第1実施形態と同じ機能を奏する部材には第1実施形態と同じ符号を使用する。また、重複する説明は省略または簡略化する。なお、第1供給量の設定は、高速吸引中に測定された供給インターバル、および通常クリーニングにおいて測定された供給インターバルのいずれか一方または両方に基づいてできてもよい。
本実施形態では、通常クリーニング中であって送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給している状態において供給インターバルTが測定される。通常クリーニングでは、高速吸引よりも吸引ポンプ93の時間当たりの吸引量が小さく設定されている。以下に示すように、ここに開示する技術は、設定対象のインク排出モード(ここでは、高速吸引モード)におけるインク排出量とは異なるインク排出量のとき(ここでは、通常クリーニング時)に供給インターバルTを測定することによっても実施され得る。
図9は、本実施形態に係る第1供給量Q1の設定プロセスの一例を示すフローチャートである。図9に示すように、本実施形態では、ステップS11において、基準条件が設定される。基準条件では、通常クリーニング時における送液ポンプ70の分割数A、分割数Aに基づく送液ポンプ70による時間当たりのインク供給量C、時間当たりのインク排出量Bの基準値が設定され、それらに基づいて供給インターバルTの基準値が計算される。基準条件における送液ポンプ70の1回のインク供給量は、基準供給量Qsである。なお、以下では適宜、基準条件における時間当たりのインク排出量Bを基準排出量Bsと呼び、基準条件における供給インターバルTを基準インターバルTsと呼ぶこととする。
図9のステップS12およびステップS13は、それぞれ、図8のステップS01およびステップS02と同じである。ステップS12では、時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70が1回につき供給するインクの量との間の対応関係を定めた対応テーブルが準備される。ステップS13では、送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給する場合における時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70の供給インターバルTとの間の対応関係を表す関係式が準備される。
ステップS14では、高速吸引時における時間当たりのインク排出量Bの基準値(以下、高速吸引時基準排出量Bssと呼ぶ)が設定される。なお、ステップS14の順番は、ステップS11と後述するステップS17との間であれば、プロセスのどこであってもよい。高速吸引時基準排出量Bssは、基準条件を満たすようなインクおよびプリンタによって高速吸引が行われた場合の時間当たりのインク排出量Bである。高速吸引時基準排出量Bssは、例えば、実測により得られる。
ステップS15では、通常クリーニング中であって送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給している状態において、送液ポンプ70の供給インターバルT11が測定される。
ステップS16およびS17では、通常クリーニング時における時間当たりのインク排出量B11から高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1を算出する。この方法は限定されないが、ここではまず、ステップS16において、時間当たりのインク排出量Bと供給インターバルTとの間の対応関係とステップS15で測定された供給インターバルT11とに基づいて、通常クリーニング時における時間当たりのインク排出量B11が求められる。
ステップS17では、ステップS16で得られた通常クリーニング時における時間当たりのインク排出量B11を基準排出量Bsで除した値(測定に基づくインク排出量B11と基準排出量Bsとの比)を高速吸引時基準排出量Bssに乗算する計算を行う。例えば、ステップS16で得られた通常クリーニング時における時間当たりのインク排出量B11を基準排出量Bsで除した値が1.1であった場合には、高速吸引時基準排出量Bssを1.1倍する。これを高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1の推定値とする。本実施形態のステップS16およびS17は、第1実施形態のステップS04に相当する。ステップS16およびS17により、高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1が得られる。ステップS18は、第1実施形態のステップS05と同様である。
なお、高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1を得るステップは、上記したステップS16およびS17には限定されない。例えば、高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1は、測定された供給インターバルT11と基準インターバルTsとの比から算出されてもよい。時間当たりのインク排出量Bと供給インターバルTとは反比例の関係にある。よって、例えば、測定された供給インターバルT11を基準インターバルTsで除した値が0.9であるとすると、高速吸引時における時間当たりのインク排出量B1の推定値は、高速吸引時基準排出量Bssを0.9で除した値である。
このように、「送液ポンプ70が1回につき基準供給量Qsだけインクを供給する場合における時間当たりのインク排出量Bと送液ポンプ70の供給インターバルTとの間の対応関係と、測定された供給インターバルTとに基づいて時間当たりのインク排出量Bを求める」ことには、設定対象のインク排出モードにおけるインク排出量とは異なるインク排出量のときの供給インターバルTに基づいて、設定対象のインク排出モードにおける時間当たりのインク排出量を推定することが含まれる。
なお、実際には、例えば、ステップS15で測定された供給インターバルT11を入力すると高速吸引時における分割数A1が得られる対応テーブルが使用されてもよい。対応テーブル等がどのような形式に構成されているかにかかわらず、実質的に同じ演算、推定、紐付け等がなされている技術は、ここに開示する技術に含まれる。
例えば図9に示したようなプロセスは、プリンタ10によって自動または半自動で行われてもよい。その場合には、プリンタ10は、基準条件を記憶する記憶部、高速吸引時基準排出量Bss等の高速吸引時の基準条件を記憶する記憶部などを備えているとよい。
以上、好適ないくつかの実施形態について説明した。しかし、上記した実施形態は例示に過ぎず、ここに開示する技術は他の種々の形態で実施することができる。
例えば、上記実施形態では、送液ポンプ70の1回のインク供給量の演算は、プリンタ10の制御装置100によって行われた。しかし、かかる演算はプリンタの外部で行われてもよい。その場合、例えば、プリンタの外部で行われた演算により得られた分割数または回転角がプリンタに入力されるとよい。供給インターバルの測定もプリンタの外部の機器によって行われてもよい。
上記実施形態では、送液ポンプ70の1回のインク供給量の設定は、高速吸引モードに対して行われ、他の場合には送液ポンプ70の1回のインク供給量は固定されていた。しかし、送液ポンプ70の1回のインク供給量の設定は、高速吸引モード以外の場合に対しても行われてもよい。また、送液ポンプ70の1回のインク供給量の設定は、高速吸引モードに対して行われず、他の場合に対して行われてもよい。
上記実施形態の説明では、1つのインク供給システムSSについて説明したが、プリンタが複数のインク供給システムを備える場合には、それぞれのインク供給システムについてここに開示する技術を適用することが可能である。その場合、設定される1回のインク供給量が、結果として、複数のインク供給システムの一部または全部に関して異なってもよい。
本実施形態では、送液ポンプ70はチューブポンプであったが、チューブポンプには限定されない。送液ポンプは、例えば、ダイヤフラムポンプやシリンジポンプ等であってもよい。送液ポンプの種類は、特に限定されない。
インク供給システムの構成は、上記したものに限定されない。インク供給システムには、適宜他の部材、例えば、バルブや循環流路などが追加されてもよく、一部の部材が削除されてもよい。
その他、インクジェットプリンタの構成については、特に言及がない限りにおいて限定されない。例えば、ここに開示する技術は、フラットベッドタイプのインクジェットプリンタなどに対しても利用できる。また、例えば、カッティングヘッド付きインクジェットプリンタなどのように、その一部にインクジェットプリンタが組み込まれた装置にも利用できる。