JP7364825B2 - 培養容器及び培養方法 - Google Patents

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Description

本発明の一態様は、培養容器又は培養方法に関する。
細胞、組織、又は器官(以下、細胞等ともいう)は、生育に適した条件下でなければ培養できないため、適切な栄養を含む培地と共にディッシュやプレート、フラスコ等の培養容器に入れ、さらに培養容器は温度、湿度、ガス濃度を所定の水準に保つことができるインキュベーター内に静置することが必要である。さらに、上記の培養を効率的に実現するためには、充分かつ適正な酸素供給が行われなければならない。
一般的に、低酸素状態での細胞等の培養は、細胞死を誘導等するため、好ましくないと考えられている。そこで、細胞等への酸素供給を促進するために、酸素透過度の高い樹脂材料を用いた培養容器が開発されてきた。例えば、非特許文献1は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を培養容器底面に用いて、酸素消費速度の大きい肝細胞の培養を行うと、市販のポリスチレン製プレートにおいてみられる酸素欠乏状態が解消され、肝細胞の高度な自己組織化現象が観察されたことを報告している。また、特許文献1には、4-メチル-1-ペンテン重合体を含む、酸素供給性に優れる、細胞、組織、又は器官の培養材が開示されている。
しかし、意外にも、酸素透過性膜上で肝細胞を培養する肝細胞の培養方法においては、低酸素濃度の環境下で培養することにより、薬物輸送機能を効率良く形成することが可能であること、さらに、該薬物輸送機能を長期間維持することが可能な肝組織を簡便に作製できること等が明らかになってきた(特許文献2)。
国際公開第2020/256079号 特開2014-223061号公報
酒井康行、"肝培養における酸素供給の改善"、[online]、肝細胞研究会、[令和3年8月26日検索]、インターネット<http://hepato.umin.jp/kouryu/kouryu28.html>
本発明者らは、細胞等の培養初期に酸素供給を少なくすると、細胞接着性がより良好になるのではないかと考えた。そして、培養途中から充分に酸素供給を行うことで、細胞の機能が正常に維持されると考えた。そこで、本発明の一態様は、細胞等が培養容器に接着しやすく、細胞等の機能を正常に維持できる培養容器、又は培養方法を提供する。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の態様は、例えば以下の〔1〕~〔7〕に関する。
〔1〕 細胞、組織、又は器官を培地中で培養する培養容器であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部が、下記要件(1)及び(2)を満たす酸素透過層(I-a)と、下記要件(3)及び(4)を満たすガスバリア層(II-a)との積層領域を有し、前記ガスバリア層(II-a)が前記酸素透過層(I-a)の下面に設けられ、前記ガスバリア層(II-a)が前記酸素透過層(I-a)から培養中に着脱可能である、培養容器。
(1)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(I-a)が20000~60000cm3/(m2×24h×atm)である
(2)JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である
(3)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(II-a)が3000cm3/(m2×24h×atm)以下である
(4)JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である
〔2〕 前記酸素透過層(I-a)の水接触角が、30~120°である、〔1〕に記載の培養容器。
〔3〕 前記酸素透過層(I-a)が、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の培養容器。
〔4〕 前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)が、4-メチル-1-ペンテン単独重合体(x1)並びに、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体(x2)から選択される少なくとも1種の重合体である、〔3〕に記載の培養容器。
〔5〕 培養面に、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料がコーティングされた、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の培養容器。
〔6〕 前記ガスバリア層(II-a)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の培養容器。
〔7〕 細胞、組織、又は器官の培養方法であって、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官を培養する工程(A-a)、前記ガスバリア層(II-a)を前記酸素透過層(I-a)から取り外す工程(B-a)、及び前記工程(B-a)で得られた培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官をさらに培養する工程(C-a)、を含む、培養方法。
本発明の態様は、例えば以下の〔i〕~〔xiii〕にも関する。
〔i〕 細胞、組織、又は器官を培養する培養容器であって、前記培養容器が、底面部材と、側壁部材とを有し、前記底面部材と前記側壁部材とが接合することで少なくとも一つの培養空間が形成され、前記底面部材の少なくとも一部が、少なくとも酸素透過層(I-b)と、ガスバリア層(II-b)とを有し、前記ガスバリア層(II-b)が、前記酸素透過層(I-b)の下に、前記酸素透過層(I-b)から着脱可能に重ねられ、前記ガスバリア層(II-b)が、下記要件(5)を満たし、前記酸素透過層(I-b)が、下記要件(6)を満たす、培養容器。
(5)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(II-b)が3000cm3/(m2×24h×atm)以下である
(6)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(I-b)が前記P(II-b)の6.0倍以上である
〔ii〕 前記ガスバリア層(II-b)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ、下記要件(7)または(8)を満たす、〔i〕に記載の培養容器。
(7)ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種と、粘着剤との混合物を含む
(8)ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含む層と、粘着剤を含む層と、を有する
〔iii〕 下記方法で測定される、前記ガスバリア層(II-b)の前記酸素透過層(I-b)に対する剥離強度が、0.01~0.20N/25mmである、〔i〕又は〔ii〕に記載の培養容器。
[幅25mmのガスバリア層(II-b)を酸素透過層(I-b)に貼付した後、剥離試験機を用いて、ガスバリア層(II-b)を酸素透過層(I-b)から剥離角度180°で10mm/分の速度で剥離する試験を行う。]
〔iv〕 前記酸素透過層(I-b)が、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む、〔i〕~〔iii〕のいずれかに記載の培養容器。
〔v〕 前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)が、4-メチル-1-ペンテン単独重合体(x1)並びに、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体(x2)から選択される少なくとも1種の重合体である、〔iv〕に記載の培養容器。
〔vi〕 前記P(I-b)が、20000~60000cm3/(m2×24h×atm)である、〔i〕~〔v〕のいずれかに記載の培養容器。
〔vii〕 前記底面部材の、前記酸素透過層(I-b)と前記ガスバリア層(II-b)とを有する領域の、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である、〔i〕~〔vi〕のいずれかに記載の培養容器。
〔viii〕 前記酸素透過層(I-b)の、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である、〔i〕~〔vii〕のいずれかに記載の培養容器。
〔ix〕 前記ガスバリア層(II-b)の、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である、〔i〕~〔viii〕のいずれかに記載の培養容器。
〔x〕 前記酸素透過層(I-b)の水接触角が、30~120°である、〔i〕~〔ix〕のいずれかに記載の培養容器。
〔xi〕 前記底面部材の培養面に、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料がコーティングされた、〔i〕~〔x〕のいずれかに記載の培養容器。
〔xii〕 細胞、組織、又は器官の培養方法であって、〔i〕~〔xi〕のいずれかに記載の培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官を培養する工程(A-b)、前記ガスバリア層(II-b)を前記酸素透過層(I-b)から取り外す工程(B-b)、及び前記工程(B-b)で得られた培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官をさらに培養する工程(C-b)、を含む、培養方法。
〔xiii〕 〔i〕~〔xii〕のいずれかに記載の培養容器の製造方法であって、前記方法が、前記側壁部材に、前記底面部材を貼付する工程を含む、培養容器の製造方法。
本発明の一態様によれば、細胞等が培養容器に接着しやすく、細胞等の機能を正常に維持できる培養容器、及び培養方法を提供することができる。
図1は、培養容器の断面の概念図である。図1左は培養面がガスバリア層(II)を有する状態、図1右はガスバリア層(II)を酸素透過層(I)から取り外した状態の概念図である。 図2は、実施例1におけるヒト凍結肝細胞の培養24時間後での形態を観察した写真である。 図3は、比較例2におけるヒト凍結肝細胞の培養24時間後での形態を観察した写真である。
次に本発明について具体的に説明する。
なお、数値範囲に関する「A~B」との記載は、特に断りがなければ、A以上B以下であることを表す。例えば、「1~5%」との記載は、1%以上5%以下を意味する。
本発明の一態様は、細胞、組織、又は器官を培地中で培養する培養容器であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部が、
下記要件(1)及び(2)を満たす酸素透過層(I-a)と、
下記要件(3)及び(4)を満たすガスバリア層(II-a)との積層領域を有し、
前記ガスバリア層(II-a)が前記酸素透過層(I-a)の下面に設けられ、
前記ガスバリア層(II-a)が前記酸素透過層(I-a)から培養中に着脱可能である、培養容器である。この培養容器を培養容器(α)と称する。
(1)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(I-a)が20000~60000cm3/(m2×24h×atm)である
(2)JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である
(3)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(II-a)が3000cm3/(m2×24h×atm)以下である
(4)JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である
また、本発明の別の一態様は、
細胞、組織、又は器官を培養する培養容器であって、前記培養容器が、底面部材と、側壁部材とを有し、
前記底面部材と前記側壁部材とが接合することで少なくとも一つの培養空間が形成され、
前記底面部材の少なくとも一部が、少なくとも酸素透過層(I-b)と、ガスバリア層(II-b)とを有し、
前記ガスバリア層(II-b)が、前記酸素透過層(I-b)の下に、前記酸素透過層(I-b)から着脱可能に重ねられ、
前記ガスバリア層(II-b)が、下記要件(5)を満たし、
前記酸素透過層(I-b)が、下記要件(6)を満たす、培養容器である。この培養容器を、培養容器(β)と称する。
(5)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(II-b)が3000cm3/(m2×24h×atm)以下である
(6)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(I-b)が前記P(II-b)の6.0倍以上である。
<細胞、組織、又は器官>
本明細書において、細胞、組織、又は器官は、単に「細胞等」とも称する。細胞等の由来は、特に限定されず、動物、植物、昆虫、菌、原生生物、細菌などあらゆる生物であってよいが、動物、又は植物が好ましく、動物がさらに好ましく、特に哺乳動物が好ましい。本発明の一態様である培養容器は、細胞等の接着性に優れるので、細胞等は接着性のものであることが好ましい。培養容器の培養面での培養に適することから、細胞等は細胞であることが好ましい。本発明の一態様において、細胞等は、好気性であると好ましく、嫌気性のものを含まないことがより好ましい。
本発明の一態様における組織とは、類似の細胞が集って同じような働きをするものの意味である。前記組織は、特に限定されず、例えば、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等が挙げられる。酸素要求性が高いことから、前記組織は、肝小葉、心筋組織、神経組織、又は骨格筋組織であることが好ましく、肝小葉がさらに好ましい。
本発明の一態様における器官とは、前記組織が集って目的をもった共同の仕事をするものの意味である。前記器官は、特に限定されず、例えば肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、胆嚢、食道、胃、皮膚、脳などである。酸素要求性が高いことから、前記器官は、皮膚、腎臓、肝臓、心臓、脳であることが好ましく、肝臓がさらに好ましい。
本発明の一態様における細胞は、特に限定されないが、好ましくは動物細胞である。
細胞は、浮遊性細胞であってもよく、接着性細胞であってもよいが、好ましくは接着性細胞である。
細胞は、2次元で培養される細胞であってもよいし、3次元で培養される細胞であってもよく、細胞を培養して得られるスフェロイドを含む。細胞は、初代培養細胞あるいは株化継代された細胞のいずれであってもよいが、好ましくは初代培養細胞である。細胞は、凍結又は再凍結したものを用いてもよい。
動物細胞としては、正常細胞、がん細胞、及びハイブリドーマ等の融合細胞等が使用でき、遺伝子導入等の人工的処理がされた細胞であってもよい。動物細胞としては、例えば、未分化の多能性幹細胞、分化の過程にある多能性幹細胞、多能性幹細胞由来の分化細胞、多能性幹細胞、及び体性幹細胞、ならびに動物の組織に由来する分化細胞を用いることができる。
前記動物細胞の由来は、いずれの動物であってもよいが、哺乳動物が好ましく、特に、ヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ブタ、ミニブタ、ウサギ、ハムスター、ラット、又はマウスの細胞が好ましく、ヒト、ラット、マウス、又はウシの細胞がより好ましい。
皮膚、腎臓、肝臓、脳、神経組織、心筋組織、骨格筋組織、がん幹細胞、がん細胞などは酸素要求性が高く、それらを構成する細胞もまた、酸素要求性の高い細胞であることから、本発明の一態様における細胞は、好ましくは皮膚、腎臓、肝臓、脳、神経組織、心筋組織、又は骨格筋組織を構成する細胞、もしくはがん細胞であり、より好ましくは肝細胞、腎細胞、心筋細胞、神経細胞であり、さらに好ましくは肝細胞である。
前記細胞は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、細胞は、幹細胞または前駆細胞を含んでもよく、除いてもよい。細胞は、上皮系幹細胞または前駆細胞を除いてもよく、含んでいてもよい。
本発明の一態様における肝細胞は、肝実質細胞(Hepatocyte)を始め、肝臓中の細胞であればいかなる細胞であってもよく、具体的には血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、血球細胞、肝単核細胞、肝マクロファージ(クッパー細胞を含む)、肝星状細胞、肝内胆管上皮細胞等を含む。前記肝細胞は、例えば20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上の肝実質細胞が含まれる細胞集団である。
前記肝細胞は、初代培養細胞でも、株化継代細胞でもよいが、肝細胞としては初代培養細胞を用いることが好ましい。株化継代細胞の種類は特に制限されないが、例えば、SSP-25、RBE、HepG2、TGBC50TKB、HuH-6、HuH-7、ETK-1、Het-1A、PLC/PRF/5、Hep3B、SK-HEP-1、C3A、THLE-2、THLE-3、HepG2/2.2.1、SNU-398、SNU-449、SNU-182、SNU-475、SNU-387、SNU-423、FL62891、DMS153等が挙げられる。
前記肝細胞は、肝細胞以外の他の細胞種が含まれる細胞集団であってもよく、例えば20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上の肝細胞が含まれる細胞集団である。
細胞等の機能とは、細胞の増殖、修復、代謝、細胞間の情報交換等の基本的な機能の他、それぞれの細胞等の種類に応じた機能を含む。それぞれの細胞等の種類に応じた機能とは、例えば、肝細胞であれば、糖質の調整、脂肪合成、タンパク質代謝、アルコール代謝、アンモニア代謝、コレステロールの代謝、薬物代謝、胆汁分泌等である。これらの機能は公知の方法により測定することができ、この測定値を細胞等の機能を示す値として用いることができる。肝細胞の機能は、代謝活性値を用いて評価することが好ましく、CYP1A2による代謝活性値を用いて評価することがより好ましい。
細胞等を播種した48時間後の、細胞等の機能を示す値が、細胞等を播種した24時間後の測定値に対して、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上であると、細胞等の機能が正常に維持されているということができる。
<培養>
本発明の一態様において、培養とは、細胞等を増殖、維持させることだけでなく、細胞等の播種、継代、分化誘導、自己組織化誘導等のプロセスも含む広い意味で用いる。培養に用いる培地等は制限されず、細胞等の特性に応じた培地を選択すればよい。
細胞等の培養は、2次元(細胞が自発的に重層化する場合を含む)培養でも、3次元培養でもよい。本発明の一態様である培養容器は、酸素供給量を培養中に変化させて、細胞等の状態に合わせて好適な酸素環境で培養することができるため、2次元培養だけでなく、立体的に細胞が積み重なっている3次元培養においても、細胞が増殖、分化し、さらに細胞の高度な自己組織化現象も起きやすい。
3次元培養とは、意図的に細胞を立体的に培養することであり、足場材の中で細胞を培養するScaffold型と、塊(スフェロイド)として浮遊状態で細胞を培養するScaffold-free型のどちらであってもよいが、Scaffold型が好ましい。Scaffold型の場合、細胞を効率よく培養できることから足場材としては、MatrigelTM、コラーゲンゲル、ラミニン、アルギン酸ヒドロゲル、ビトリゲルが好ましい。
培養に用いる培地等は制限されないが、細胞を効率的に培養するため、細胞は、血清(例えば、ウシ胎児血清)の存在下で培養することが好ましい。
本発明の一態様である培養容器を用いて、培養を行う際の細胞播種密度としては、細胞が増殖及び分化できれば特に制限されないが、好ましくは0.1×105cells/cm2~10.0×105cells/cm2であり、より好ましくは0.3×105cells/cm2~5.0×105cells/cm2であり、さらに好ましくは0.5×105cells/cm2~3.0×105cells/cm2である。
細胞播種密度が上記の範囲であると、上記範囲外の場合と比べて、細胞が容器に良好に接着し、細胞の正常な機能が維持されやすい。
<培養容器>
培養容器(α)において、培養容器とは、細胞、組織、又は器官を培地中で培養するために用いられる容器全てを意味する。培地中で培養するとは、細胞等の少なくとも一部が、培地に浸漬されて培養されるという意味であり、細胞等の全体が培地に浸漬されていなくてもよい。
培養容器(β)において、培養容器とは、細胞、組織、又は器官を培養するために用いられる容器全てを意味する。該培養は、培地中で行ってもよい。
培養容器としては、公知の各種の培養容器を用いることができ、形状や大きさは特に制限されない。培養容器としては、例えば、ディッシュ、フラスコ、プレート、ボトル、バッグ、チューブ等が挙げられる。前記培養容器は通常、インキュベーター、大量培養装置、又は灌流培養装置などの装置内で用いられる。
培養容器は、好ましくは、ディッシュ、フラスコ、又はプレートであり、より好ましくは、少なくとも1つのウェルを有するプレートである。
培養容器は、少なくとも1つのウェルを有する培養容器であることが好ましく、少なくとも1つのウェルを有するプレートであることがさらに好ましく、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェル等の複数のウェルを有するプレートであることがさらに好ましい。一般にウェルのようなくぼみ形状を底面に有する培養容器は、底面の複雑な形状を安定させるために底面を厚くする必要があり、細胞等への酸素供給が充分に行われ難い。培養容器(α)のように、底面が酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域を有すると、1ウェル、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェル等の複数のウェルを有するプレートであっても、形状が安定しており、細胞等への酸素供給量も調節しやすい。培養容器(β)のように、底面部材の少なくとも一部が、少なくとも酸素透過層(I-b)と、ガスバリア層(II-b)とを有し、前記ガスバリア層(II-b)が前記酸素透過層(I-b)の下に重ねられている場合も、同様に、複数のウェルを有するプレートであっても、形状が安定しており、細胞等への酸素供給量も調節しやすい。
培養容器(β)は、底面部材と、側壁部材とを有し、前記底面部材と前記側壁部材とが接合することで少なくとも一つの培養空間が形成されている。この場合、底面部材は、前記側壁部材と接合することで、培養容器の底面を構成する。なお、培養空間とは、細胞等を培養するために制限された空間であり、言い換えれば、該空間内で培養される細胞等が自在に移動することが可能な空間である。
底面部材と、側壁部材とは、培養空間内の細胞等または培地が漏れ出さないように接合している。接合は、機械的接合、材料的接合、接着接合のいずれであってもよいが、所望の材料からなる、底面部材と側壁部材の組み合わせが容易であることから、接着接合が好ましい。
培養容器(β)が、少なくとも1つのウェルを有する培養容器である場合、培養容器は、例えば、底面部材と、ウェル側壁部材とを有し、前記底面部材と前記ウェル側壁部材とが接合することで少なくとも一つのウェルが形成されていてもよい。この場合、底面部材は、前記ウェル側壁部材と接合することで、ウェルの底面を構成する。
培養容器は、培地を保持あるいは貯留するため、底面が培養面を含む培養容器であることが好ましい。
ここで培養面とは、培養容器を構成する部分のうち、細胞等を培養する際に、培地及び/又は細胞等が接触している部分、若しくは培地及び/又は細胞等が接触する予定の部分を意味する。例えば、培養容器がディッシュ、フラスコ又はプレートの場合、通常、底面部分が培養面を含み、該培養面の上側、すなわち、培養容器の内側に培地及び/又は細胞等が接触する。
培養容器の底面の形状は特に制限されず、平底(F底)、丸底(U底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジ等が挙げられる。丸底(U底)、平底(F底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジ等に加工する場合には、一般の射出成形やプレス成形で一度に加工してもよいし、フィルム又はシートを作製しておき、真空成形や圧空成形などで2次加工を行い作製することも可能である。底面の形状は培養の目的に応じて選択されるが、細胞等を2次元培養する際には、平底(F底)であることが通常は望ましく、3次元培養する際には丸底(U底)又は円錐底(V底)であることが通常は望ましい。
培養容器は、少なくともその培養面、好ましくはその培養面の培地及び/又は細胞等が接触する側を天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料でコーティングしてもよい。コーティングは公知の方法により行うことができる。
コーティングされた培養容器は、細胞等の接着性、増殖性がより優れる。これは、培養面にコーティングされている天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料が、細胞等の足場となるためと考えられる。したがって、細胞等を接着させて培養する際には、培養容器は、培養面に、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料がコーティングされていることが好ましく、培養面の培地及び/又は細胞等が接触する側が、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料によりコーティングされていることがより好ましい。
前記天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料は特に制限されないが、天然高分子材料として、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等のグリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲン、オステオポンチン、テネイシン、ビトロネクチン、トロンボスポンジン、アガロース、エラスチン、ケラチン、キトサン、フィブリン、フィブロイン、糖類;合成高分子材料として、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、合成ペプチド類、合成タンパク質類、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリエチレンイミン;無機材料として、β-リン酸三カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
また、前記天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料としては、従来の細胞外マトリックス成分等のハイドロゲルをガラス化した後に再水和して得られるビトリゲルなども挙げられる。例えば、細胞外マトリックス成分の一つであるコラーゲンから作製された高密度のコラーゲン繊維網で構成されるコラーゲンビトリゲルも挙げられる。
細胞等の接着性又は増殖性を向上させる、細胞等の機能をより長期に維持させる、などの観点から、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ポリリジン等のタンパク質、又はペプチドによるコーティングが好ましく、ラミニン、コラーゲン又はポリリジンによるコーティング処理がより好ましく、コラーゲンによるコーティング処理がさらに好ましい。これらのコーティングは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
培養容器は、スフェロイドの形成や細胞等の足場機能向上のため、培養面、好ましくは培養面の培地及び/又は細胞等が接触する側に微細加工が行われていてもよい。微細加工を施す方法として、切削加工、光リソグラフィ法、電子線直接描画法、粒子線ビーム加工法、走査プローブ加工法等、微粒子の自己組織化、又はこれらの手法によって形成されたマスタからのナノインプリント法、キャスト法、射出成形法に代表される成形加工法、めっき法等から適切に選択することができる。微細加工の形状は特に限定されるものではないが、溝の部分から山の部分までの高さが20nmから500μmであると好ましい。また、表面に微細加工がなされていない場合に比べ培養容器の最薄部の厚さを20μm迄薄くすることが可能である。
微細加工を行った培養容器は、マイクロ流路デバイス(マイクロ流路チップとも言う)として用いてもよい。マイクロ流路デバイスは、培養容器の培養面に微細加工を施して微小流路や反応容器を作製し、バイオ研究や化学工学へ応用するためのデバイスの総称である。例えば、microTAS(micro Total Analysis Systems)やLab on a Chipなどと呼ばれる装置が挙げられ、次世代の培養装置としての適用が進められている。
培養容器は、少なくともその培養面、好ましくはその培養面の培地及び/又は細胞等が接触する側に表面改質処理を行うことが好ましい。
表面改質処理に用いる方法は特に限定されないが、例えばコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線処理等の親水化処理、エステル化、シリル化、フッ化等の疎水化処理、表面グラフト重合、化学蒸着、エッチング、又は、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン基、チオール基、カルボキシル基等の特定の官能基付加、シランカップリング、チタンカップリング、ジルコニウムカップリング等の特定の官能基による処理、酸化剤等による表面粗化、ラビングやサンドブラスト等の物理的処理等が挙げられる。これらの表面改質処理は、単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
培養容器は、少なくともその培養面、好ましくはその培養面の培地及び/又は細胞等が接触する側を親水化処理することが好ましく、コロナ処理、又はプラズマ処理することがより好ましい。培養容器の表面を親水化処理することで、前記培養容器の表面の濡れ性が上がり、培養容器と細胞等との密着性が良くなり、培養容器の表面で細胞等が均一に増殖できる。また、培養容器の表面を親水化処理することで、培養容器の培養面上に天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料をコーティングしやすくなる。特に、培養容器の培養面上に均一に天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料を積載し、密着させやすくなり、また、積載処理後においても、生理食塩水による洗浄や、細胞培養の環境において、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料が剥がれず、安定な初期状態を保って細胞培養に用いることができる。
プラズマ処理を行う場合には、同伴させるガスとして、窒素、水素、ヘリウム、酸素、アルゴンなどが用いられ、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴンから選択される少なくとも一種のガスが選ばれる。
培養容器は、コンタミネーション防止のために、消毒又は滅菌処理を施してもよい。消毒又は滅菌処理の方法としては、特に制限されず、流通蒸気法、煮沸法、間歇法、紫外線法等の物理的消毒法、オゾン等の気体、エタノール等の消毒薬を用いる化学的消毒法;高圧蒸気法、乾熱法等の加熱滅菌法;ガンマ線法、電子線法、高周波法等の照射滅菌法;酸化エチレンガス法、過酸化水素ガスプラズマ法等のガス滅菌法等が挙げられる。中でも操作が簡便で、充分に滅菌が行えることから、エタノール消毒法、高圧蒸気滅菌法、ガンマ線滅菌法、電子線滅菌法、又は酸化エチレンガス滅菌法が好ましい。これらの消毒又は滅菌処理は、1種単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
<酸素透過層(I)>
以下で説明する、酸素透過層(I-a)及び酸素透過層(I-b)を総称して、酸素透過層(I)ともいう。
<酸素透過層(I-a)>
酸素透過層(I-a)は、下記要件(1)及び(2)を満たす層である。
(1)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(I-a)が20000~60000cm3/(m2×24h×atm)である
(2)JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である
[要件(1)]
酸素透過度P(I-a)は、具体的には以下の方法で測定できる。
酸素透過層(I-a)から測定サンプルを作製し、差圧式ガス透過率測定法により、温度23℃、湿度0%での酸素透過係数[cm3×mm/(m2×24h×atm)]を測定する。測定に用いる機器は差圧式ガス透過率測定法を用いたものであれば特に制限されないが、例えば株式会社東洋精機製作所製の差圧式ガス透過率測定装置MT-C3が挙げられる。測定サンプルは、酸素透過層(I-a)から厚さ50μmの90×90mmの試験片を切り出して作製し、測定部径は70mm(透過面積は38.46cm2)とすると好ましい。酸素透過度が大きいため、予めサンプルにアルミニウムマスクを施し、実透過面積を5.0cm2とすることがより好ましい。測定サンプルは、微細加工、表面改質処理を行ったものでもよいし、行っていないものでもよいが、何も処理を行っていないものが好ましい。酸素透過係数をフィルムの厚さ(μm)で除した値を酸素透過度[cm3/(m2×24h×atm)]とする。
酸素透過層(I-a)の酸素透過度P(I-a)は、好ましくは20000~50000cm3/(m2×24h×atm)、より好ましくは25000~45000cm3/(m2×24h×atm)、さらに好ましくは30000~40000cm3/(m2×24h×atm)である。酸素透過度P(I-a)が前記範囲にあるということは、酸素透過層(I-a)は酸素透過性に優れるといえる。
酸素透過層(I-a)の酸素透過度P(I-a)が上記下限よりも小さいと培地中の酸素濃度が低くなり、細胞等は充分に増殖及び分化しない。一方で、酸素透過度P(I-a)が上記上限よりも大きいと培地中の酸素濃度が高くなりすぎ、酸素ストレスにより細胞機能が低下する。酸素透過度P(I-a)が上記上下限の範囲である場合、細胞等は培養期間に応じて効率良く増殖及び分化し、細胞機能を維持することができる。
酸素透過層(I-a)の酸素透過度P(I-a)は、例えば、酸素透過層(I-a)の厚さ、又は酸素透過層(I-a)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
[要件(2)]
全光線透過率は、具体的には以下の方法で測定できる。
酸素透過層(I-a)から作製した試験片を使用して、JIS K 7361-1に準拠して、(株)村上色彩技術研究所製のヘイズ透過率計HM-150(D65光源)を用い、全透過光量を測定し、下記式にて全光線透過率を求める。
全光線透過率(%)=100×(全透過光量)/(入射光量)
酸素透過層(I-a)の全光線透過率は、好ましくは90.0%以上、より好ましくは92.0%以上である。全光線透過率の上限は特にないが、通常99.9%である。全光線透過率が前記範囲にあるということは、酸素透過層(I-a)が透明性に優れるといえる。
酸素透過層(I-a)の全光線透過率が上記範囲よりも小さいと、酸素透過層(I-a)の透明性が低く、培養容器中の細胞等を観察しにくい。全光線透過率が上記上下限の範囲である場合、酸素透過層(I-a)は透明性に優れるため、肉眼でも顕微鏡下においても細胞等を観察しやすい。
酸素透過層(I-a)の全光線透過率は、例えば、酸素透過層(I-a)の厚さ、又は酸素透過層(I-a)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
<酸素透過層(I-b)>
酸素透過層(I-b)は、下記要件(6)を満たす層である。
[要件(6)]
温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(I-b)が、後述するP(II-b)の6.0倍以上である
[酸素透過度P(I-b)]
酸素透過度P(I-b)は、酸素透過度P(I-a)と同様の方法及び好適態様で測定できる。
酸素透過層(I-b)の酸素透過度P(I-b)は、好ましくは20000~60000cm3/(m2×24h×atm)、より好ましくは20000~50000cm3/(m2×24h×atm)、さらに好ましくは25000~45000cm3/(m2×24h×atm)、特に好ましくは30000~40000cm3/(m2×24h×atm)である。酸素透過度P(I-b)が前記範囲にあるということは、酸素透過層(I-b)は酸素透過性に優れるといえる。
酸素透過層(I-b)の酸素透過度P(I-b)が、後述するガスバリア層(II-b)の酸素透過度P(II-b)の6.0倍未満であると培地中の酸素濃度が低くなり、細胞等は充分に増殖及び分化しない。一方で、酸素透過度P(I-b)が60000cm3/(m2×24h×atm)以下であると培地中の酸素濃度が高くなりすぎることを防ぐことができ、酸素ストレスによる細胞機能の低下を抑制しやすい。酸素透過度P(I-b)が上記上下限の範囲である場合、細胞等は培養期間に応じて効率良く増殖及び分化し、細胞機能を維持することができる。
酸素透過層(I-b)の酸素透過度P(I-b)は、例えば、酸素透過層(I-b)の厚さ、又は酸素透過層(I-b)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
[酸素透過層(I-b)の全光線透過率]
酸素透過層(I-b)の全光線透過率は、酸素透過層(I-a)と同様の方法で測定できる。
酸素透過層(I-b)の全光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは90.0%以上、さらに好ましくは92.0%以上である。全光線透過率の上限は特にないが、通常99.9%である。全光線透過率が前記範囲にあるということは、酸素透過層(I-b)が透明性に優れるといえる。
酸素透過層(I-b)の全光線透過率が上記範囲よりも小さいと、酸素透過層(I-b)の透明性が低く、培養容器中の細胞等を観察しにくい。全光線透過率が上記上下限の範囲である場合、酸素透過層(I-b)は透明性に優れるため、肉眼でも顕微鏡下においても細胞等を観察しやすい。
酸素透過層(I-b)の全光線透過率は、例えば、酸素透過層(I-b)の厚さ、又は酸素透過層(I-b)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
酸素透過層(I)の上面には、通常、培地及び/又は細胞等が接触する。
酸素透過層(I)の水接触角は、好ましくは30°以上、より好ましくは35°以上、さらに好ましくは40°以上、特に好ましくは45°以上であり、好ましくは120°以下、より好ましくは110°以下、さらに好ましくは100°以下、特に好ましくは84°以下、最も好ましくは70°以下である。
酸素透過層(I)の水接触角を上記範囲に調整することで、例えば細胞等が酸素透過層(I)に接着しやすくなり、酸素透過層(I)上で細胞等が均一に増殖しやすい。また、酸素透過層(I)上に均一に天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料をコーティングし、密着させやすくなり、また、コーティング後においても、生理食塩水による洗浄や、細胞培養の環境において、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料が剥がれず、安定な初期状態を保って細胞培養に用いることができる。
水接触角の測定方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができるが、好ましくは静滴法である。水接触角は、例えば、日本工業規格JIS-R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準じて、25±5℃、50±10%の恒温恒湿条件下で水滴の形状を球形とみなせる4μL以下の容量の水滴を、測定サンプルの表面に滴下し、静滴法により、測定サンプル表面に水滴が接触した直後から1分以内の測定サンプルと水滴の接触界面の角度を計測する方法で測定することができる。
酸素透過層(I)の水接触角は、例えば、酸素透過層(I)を構成する材料、酸素透過層(I)の表面改質処理条件等を調整することにより、調整することができる。
酸素透過層(I-a)を構成する材料は、要件(1)及び(2)を満たす酸素透過層(I-a)を形成可能なものであれば特に制限されない。
酸素透過層(I-b)を構成する材料は、要件(6)を満たす酸素透過層(I-b)を形成可能なものであれば特に制限されない。
酸素透過層(I)を構成する材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸素透過層(I)を構成する材料は、成形加工性、透明性、形状安定性、軽量性、薬剤低収着性、自家蛍光、放射線耐性などの観点から、適切な材料を選択できる。このような観点から、ポリオレフィン系樹脂又はフッ素系樹脂、より好ましくはポリオレフィン系樹脂を選択することにより、本発明の一態様である培養容器は、細胞等を効率よく培養し、細胞等の形態を観察しやすく、また創薬スクリーニング用途や診断用途で使用しやすくなる。
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ジクロロジフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレンコポリマー、パーフルオロアルキルビニルエーテルポリマー、パーフルオロアルキルビニルエステルポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等が挙げられる。
酸素透過層(I)として用いることができるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンの単独重合体又は共重合体;高圧法低密度ポリエチレン;直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE);高密度ポリエチレン;ポリプロピレン(プロピレンの単独重合体);プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとの共重合体;エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA);アイオノマー樹脂;フッ素含有環状オレフィン重合体等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、成形加工性、透明性、形状安定性、軽量性、薬剤低収着性、自家蛍光などのバランスに優れる点から好ましく、その中でも、後述する4-メチル-1-ペンテン重合体(X)が好ましい。すなわち、酸素透過層(I)は、好ましくは4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む。
[4-メチル-1-ペンテン重合体(X)]
本発明の一態様においては、4-メチル-1-ペンテン単独重合体、及び4-メチル-1-ペンテンと他のモノマーとの共重合体を総称して「4-メチル-1-ペンテン重合体(X)」と称する。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)の一例である、4-メチル-1-ペンテンと、他のモノマーとの共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。4-メチル-1-ペンテンと、他のモノマーとの共重合体としては、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体が、強度が高く、酸素透過層(I)として用いても破れにくく割れにくく、撓みも少ないため好ましい。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)としては、4-メチル-1-ペンテン単独重合体並びに、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体から選択される少なくとも1種の重合体であることが好ましく、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体であることがより好ましい。
前記オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。前記オレフィンは、酸素透過層(I)に必要な物性に応じて適宜選択することができる。例えば、前記オレフィンとしては、適度な酸素透過性と、優れた剛性という観点からは、炭素数8~18のα-オレフィンが好ましく、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン及び1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。オレフィンの炭素数が上記範囲にあると、重合体の加工性がより良好になり、クラックや端部の割れによる酸素透過層(I)の外観不良が生じにくくなる傾向にある。また、酸素透過層(I)の不良品発生率が低くなる。
前記オレフィンは、1種又は2種以上を用いることができる。材料の強度の観点から、炭素数は2以上が好ましく、炭素数10以上がより好ましい。異なる2種以上のα-オレフィンを組み合わせる場合には、1-テトラデセン及び1-ヘキサデセンから選ばれる少なくとも1種と、1-ヘプタデセン及び1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種とを組み合わせることが特に好ましい。
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは60~100モル%、より好ましくは80~99.5モル%、さらに好ましくは85~98モル%である。
また、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)が、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体である場合は、その共重合体におけるエチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは0~40モル%、より好ましくは0.5~20モル%、さらに好ましくは2~15モル%である。なお、これら構成単位の含有量は、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)中の全繰返し構成単位量を100モル%とする。構成単位の含有量が上記範囲内にあると、加工性に優れ均質な培養面が得られ、またフィルムの靭性と強度のバランスが良いため、撓みも少なくなる。
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位及び前記エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位以外の構成単位(以下「その他の構成単位」ともいう)を有してもよい。その他の構成単位の含有量は、例えば0~10.0モル%である。前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)がその他の構成単位を有する場合、その他の構成単位は、1種でも2種以上であってもよい。
その他の構成単位を導くモノマーとしては、例えば、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィンが挙げられる。環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン及びハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落[0035]~[0041]に記載の化合物を用いることができる。
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)としては市販品を使用することもできる。具体的には、三井化学(株)製のTPX MX001、MX002、MX004、MX0020、MX021、MX321、RT18、RT31又はDX845(いずれも商標)などが挙げられる。また、その他のメーカー製でも上記の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(X)であれば、好ましく使用できる。これらの市販品は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて使用することもできる。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は、通常、融点が200℃~240℃であり耐熱性が高い。また加水分解を起こさず、耐水性、耐沸水性、耐スチーム性が優れているため、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む酸素透過層(I)は高圧蒸気滅菌処理が可能である。4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は、可視光線透過率が高く(通常90%以上)、自家蛍光を発しない特徴を有するので、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む酸素透過層(I)から形成される培養容器は培養細胞の観察がしやすい。さらに、ほとんどの薬品に優れた耐薬品性を示し、薬剤を収着しにくいため、細胞等を維持するための薬剤の効果を妨げず、また、創薬スクリーニング用途や診断用途にも好適に用いられる。4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は、強度が高いため、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む酸素透過層(I)から形成される培養容器は、割れにくく、撓みも少ない。4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は、ヒートシールが可能であり、自材同士の熱融着のみならず他の材料との熱接着も容易である。また、熱成形が可能であるため、任意の形状の培養容器に成形することが容易であり、例えばインプリント法やインサート法を用いた成形も容易である。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)の、標準ポリスチレンを基準物質としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10000~2000000、より好ましくは20000~1000000、さらに好ましくは30000~500000である。ここで、GPC測定の際の試料濃度は、例えば1.0~5.0mg/mLとすることができる。また、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~30、より好ましくは1.1~25、さらに好ましくは1.1~20である。GPCで用いられる溶剤は、オルトジクロロベンゼンが好ましい。また、測定条件の一例としては、後述する実施例に示した条件が挙げられるが、該測定条件に限定されるものではない。
重量平均分子量(Mw)を上記上限以下とすることにより、後述する4-メチル-1-ペンテン重合体(X)の成形法において、溶融成形で作製したフィルムは、ゲル等の不具合の発生を抑制しやすく、表面が均一な製膜をしやすくなる。また、溶液キャスト法で作製する際は溶剤への溶解性をより良好にし、フィルムのゲル等の不具合を抑制しやすく、表面均一な製膜がしやすくなる。
また、重量平均分子量(Mw)を上記下限以上とすることにより、培養容器は強度が充分となる傾向にある。さらに、分子量分布を上記の範囲内とすることで、作製した培養容器表面のベタツキを抑えやすく、培養容器の靭性も充分となる傾向にあり、成形時の曲げや裁断時のクラックの発生などを抑制しやすくなる。
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)として、2種以上を用いた場合には、それぞれの、Mw及びMw/Mnが、上記範囲にあればよい。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は、酸素透過係数が1000~3000cm3×mm/(m2×24h×atm)であることが好ましく、1000~2500cm3×mm/(m2×24h×atm)であるとより好ましい。酸素透過係数が前記範囲にあると、酸素透過性に優れるので、細胞等は良好な形態を保ち、培養期間に応じて効率良く増殖しやすい。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)は以上のような優れた特性を有しているので、少なくとも培養面が4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む酸素透過層(I)を有する培養容器は、培養に悪い影響を与えることも無く、また形状安定性、透明性、成形加工性、酸素透過性が良好で、滅菌処理を行うことができ、細胞等を培養するために用いる培養容器として非常に優れている。
[4-メチル-1-ペンテン重合体(X)の製造方法]
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を製造する方法は、4-メチル-1-ペンテン、オレフィン、その他のモノマーを重合させられれば、いずれの方法であってもよい。また、分子量や分子量分布を制御するために連鎖移動剤、例えば水素を共存させてもよい。製造に用いる機器も制限されない。重合法は公知の方法でもよく、気相法、スラリー法、溶液法、バルク法であってもよい。好ましくはスラリー法、溶液法である。また、重合法は単段重合法、又は二段等の多段重合法で、分子量の異なる複数の重合体を重合系中にブレンドする方法であってもよい。単段、多段重合法の何れであっても、連鎖移動剤として水素を用いる場合には、一括投入しても、分割投入、例えば重合初期、中期、終期に投入してもよい。重合は常温で行ってもよく、必要に応じて加温してもよいが、重合の効率の観点から、20℃~80℃で行うことが好ましく、40℃~60℃で行うことがより好ましい。製造に用いる触媒も制限されないが、重合の効率の観点から、例えば国際公開公報2006/054613に記載される固体状チタン触媒成分(I)や、国際公開公報2014/050817に記載される遷移金属化合物(A)を含有するオレフィン重合用触媒(メタロセン触媒)を用いることが好ましい。
なお、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む酸素透過層(I)が、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む組成物からなる場合には、組成物100質量%中に、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)が、好ましくは90質量%以上100質量%未満であり、より好ましくは95質量%以上100質量%未満であり、特に好ましくは99質量%以上100質量%未満である。4-メチル-1-ペンテン重合体(X)以外の成分を多量に含むと、酸素透過性の低下のみならず、透明性の低下や強度の低下を招く。
4-メチル-1-ペンテン重合体(X)以外の成分としては、耐熱安定化剤、耐光安定化剤、加工助剤、可塑剤、酸化防止剤、滑剤、消泡剤、アンチブロック剤、着色剤、改質剤、抗菌剤、抗黴剤、防曇剤などの添加剤が挙げられる。
酸素透過層(I)は、1層の層のみを含む単層構造でも、2層以上の層を含む多層構造であってもよい。
また、酸素透過層(I)が多層構造である場合、各層の構成材料及び厚さは同一であってもよく、異なっていてもよい。
酸素透過層(I-a)の厚さは、温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度が20000~60000cm3/(m2×24h×atm)である限り、特に制限されないが、好ましくは20~500μm、より好ましくは25~500μm、さらに好ましくは30~200μmである。
酸素透過層(I-b)の厚さは、要件(6)を満たす限り、特に制限されないが、好ましくは20~500μm、より好ましくは25~500μm、さらに好ましくは30~200μmである。
なお、厚さとは、酸素透過層(I)が多層構造である場合には、各層の厚さの合計をいうものである。
酸素透過層(I)の厚さが前記範囲内であると、強度に優れる。特に、培養容器が有するウェル数が少なく穴径が大きい場合にも撓みが生じにくい。また、コロナ処理等を施す際に破けにくい。
<ガスバリア層(II)>
以下で説明する、ガスバリア層(II-a)及びガスバリア層(II-b)を総称して、ガスバリア層(II)ともいう。
<ガスバリア層(II-a)>
ガスバリア層(II-a)は、下記要件(3)及び(4)を満たす層である。
(3)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(II-a)が3000cm3/(m2×24h×atm)以下である
(4)JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である
[要件(3)]
酸素透過度P(II-a)は、酸素透過層(I-a)と同様の方法で測定することができる。
ガスバリア層(II-a)の酸素透過度P(II-a)は、好ましくは、1cm3/(m2×24h×atm)より大きく3000cm3/(m2×24h×atm)以下、より好ましくは1cm3/(m2×24h×atm)より大きく1000cm3/(m2×24h×atm)以下、さらに好ましくは1cm3/(m2×24h×atm)より大きく500cm3/(m2×24h×atm)以下、特に好ましくは1cm3/(m2×24h×atm)より大きく300cm3/(m2×24h×atm)以下である。
酸素透過度P(II-a)が前記範囲にあるということは、ガスバリア層(II-a)はガスバリア性に優れるといえる。
ガスバリア層(II-a)の酸素透過度P(II-a)が大きすぎると、細胞等を播種した直後の培地中の酸素濃度が高くなりすぎ、細胞等の接着性が悪くなる。ガスバリア層(II-a)の酸素透過度P(II-a)が低すぎる場合も、細胞等の接着性が悪くなり、その後の培養においても細胞機能が維持されない傾向にある。酸素透過度P(II-a)が上記上下限の範囲である場合、細胞等は培養容器に良好に接着する。
ガスバリア層(II-a)の酸素透過度P(II-a)は、例えば、ガスバリア層(II-a)の厚さ、又はガスバリア層(II-a)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
[要件(4)]
全光線透過率は、酸素透過層(I-a)と同様の方法で測定することができる。
ガスバリア層(II-a)の全光線透過率は、好ましくは85.0%以上、より好ましくは90.0%以上である。全光線透過率の上限は特にないが、通常99.9%である。全光線透過率が前記範囲にあるということは、ガスバリア層(II-a)が透明性に優れるといえる。
全光線透過率が小さすぎると、ガスバリア層(II-a)の透明性が低く、培養容器中の細胞等を観察しにくい。全光線透過率が上記上下限の範囲である場合、ガスバリア層(II)は透明性に優れるため、肉眼でも顕微鏡下においても細胞等を観察しやすい。
ガスバリア層(II-a)の全光線透過率は、例えば、ガスバリア層(II-a)の厚さ、又はガスバリア層(II-a)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
<ガスバリア層(II-b)>
ガスバリア層(II-b)は、下記要件(5)を満たす層である。
[要件(5)]
温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(II-b)が3000cm3/(m2×24h×atm)以下である
[酸素透過度P(II-b)]
酸素透過度P(II-b)は、酸素透過度P(I-a)と同様の方法及び好適態様で測定することができる。
ガスバリア層(II-b)の酸素透過度P(II-b)の好適な範囲及び調整方法は、ガスバリア層(II-a)と同様である。
[ガスバリア層(II-b)の全光線透過率]
ガスバリア層(II-b)の全光線透過率は、酸素透過層(I-a)と同様の方法で測定することができる。
ガスバリア層(II-b)の全光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上である。全光線透過率の上限は特にないが、通常99.9%である。全光線透過率が前記範囲にあるということは、ガスバリア層(II-b)が透明性に優れるといえる。
全光線透過率が小さすぎると、ガスバリア層(II-b)の透明性が低く、培養容器中の細胞等を観察しにくい。全光線透過率が上記上下限の範囲である場合、ガスバリア層(II-b)は透明性に優れるため、肉眼でも顕微鏡下においても細胞等を観察しやすい。
ガスバリア層(II-b)の全光線透過率は、例えば、ガスバリア層(II-b)の厚さ、又はガスバリア層(II-b)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
ガスバリア層(II-a)を構成する材料は、要件(3)及び(4)を満たすガスバリア層(II-a)を形成可能なものであれば特に制限されない。
ガスバリア層(II-a)を構成する材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、エチレン-ビニルアルコールコポリマー(EVOH)、ポリグリコール酸、芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)を挙げることができ、これらの中から成形加工性、透明性、形状安定性、軽量性、薬剤低収着性、自家蛍光、放射線耐性などの観点から、適切な材料を選択できる。このような観点から、ポリエチレンテレフタレートを選択することにより、本発明の一態様である培養容器は、細胞等を効率よく培養し、細胞等の形態を観察しやすく、また創薬スクリーニング用途や診断用途で使用しやすくなる。すなわち、ガスバリア層(II-a)は、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。
ガスバリア層(II-a)を構成する材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ガスバリア層(II-b)を構成する材料は、要件(5)を満たすガスバリア層(II-b)を形成可能なものであれば特に制限されない。
ガスバリア層(II-b)を構成する材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、エチレン-ビニルアルコールコポリマー(EVOH)、ポリグリコール酸、芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリオレフィンを挙げることができ、これらの中から成形加工性、透明性、形状安定性、軽量性、薬剤低収着性、自家蛍光、放射線耐性などの観点から、適切な材料を選択できる。このような観点から、ポリエチレンテレフタレートまたはポリオレフィンを選択することにより、本発明の一態様である培養容器は、細胞等を効率よく培養し、細胞等の形態を観察しやすく、また創薬スクリーニング用途や診断用途で使用しやすくなる。すなわち、ガスバリア層(II-b)は、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。
ガスバリア層(II-b)を構成する材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ガスバリア層(II-a)は、無延伸フィルムであってもよく、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルム等の延伸フィルムであってもよい。このようなフィルムとしては、より具体的には、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム等の単層又は多層の延伸フィルム、エチレン-ビニルアルコールコポリマー(EVOH)、ポリグリコール酸、芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等からなるフィルム、各種ポリ塩化ビニリデンコートフィルム等を挙げることができる。
ガスバリア層(II-b)は、無延伸フィルムであってもよく、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルム等の延伸フィルムであってもよい。このようなフィルムとしては、より具体的には、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム等の単層又は多層の延伸フィルム、エチレン-ビニルアルコールコポリマー(EVOH)、ポリグリコール酸、芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等からなるフィルム、各種ポリ塩化ビニリデンコートフィルム、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などを含むポリオレフィンフィルム等を挙げることができる。
[ポリエチレンテレフタレート]
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つと、エチレングリコール及びそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つとを重縮合することによって得られる重合体である。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルなどが挙げられる。エチレングリコールのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステルなどが挙げられる。
ポリエチレンテレフタレートは、本発明で得られる効果を阻害しなければ、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つとともに、他のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つを共重合したものであってもよいし、エチレングリコール及びそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つとともに、他のジオール及びそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つを共重合したものであってもよい。共重合成分として用いられるジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体としては、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸やこれらのアルキルエステルなどが挙げられる。また、共重合成分として用いられるジオール及びそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、分子量400~6000のポリエチレングリコールやポリ1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの長鎖グリコールやこれらの脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらの共重合成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの共重合成分は、ポリエチレンテレフタレートを形成する原料の20質量%以下が好ましい。
ポリエチレンテレフタレートの種類は、本発明で得られる効果を阻害しなければ特に制限されないが、機械強度や成形性の観点から、結晶性ポリエチレンテレフタレート(C-PET)が好ましい。
ポリエチレンテレフタレートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
[ポリオレフィン]
ガスバリア層(II-b)を構成する材料として用いることができるポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンの単独重合体又は共重合体;高圧法低密度ポリエチレン;直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE);高密度ポリエチレン;ポリプロピレン(プロピレンの単独重合体);プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとの共重合体;エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA);アイオノマー樹脂;フッ素含有環状オレフィン重合体等が挙げられる。なかでも、プロピレンの単独重合体又は共重合体が好ましい。すなわち、ガスバリア層(II-b)は、好ましくはプロピレンの単独重合体又は共重合体を含み、より好ましくはポリプロピレン(プロピレンの単独重合体)を含む。
前記プロピレンの共重合体におけるプロピレンに由来する構成単位以外の構成単位は、特に制限されないが、エチレン及び炭素数4~20のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンとすることができる。前記オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。前記オレフィンは、ガスバリア層(II-b)に必要な物性に応じて適宜選択することができる。
フィルム状のポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリオレフィンをガスバリア層(II)として用いる場合、フィルム状のポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリオレフィンは、延伸してもしていなくてもよい。フィルム状のポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリオレフィンは、延伸すると結晶配向されるので、機械特性の観点から好ましい。延伸方法は二軸延伸が好ましい。
なお、ポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリオレフィンを含む、ガスバリア層(II)が、ポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリオレフィンを含む組成物からなる場合には、組成物100質量%中に、ポリエチレンテレフタレートおよびポリオレフィンが、好ましくは90質量%以上100質量%未満であり、より好ましくは95質量%以上100質量%未満であり、特に好ましくは99質量%以上100質量%未満である。ポリエチレンテレフタレートおよびポリオレフィン以外の成分を多量に含むと、酸素透過性の上昇のみならず、透明性の低下や強度の低下を招く。
ポリエチレンテレフタレートおよびポリオレフィン以外の成分としては、耐熱安定化剤、耐光安定化剤、加工助剤、可塑剤、酸化防止剤、滑剤、消泡剤、アンチブロック剤、着色剤、改質剤、抗菌剤、抗黴剤、防曇剤、接着剤などの添加剤が挙げられる。
ガスバリア層(II)は、1層の層のみを含む単層構造でも、2層以上の層を含む多層構造であってもよい。
また、ガスバリア層(II)が多層構造である場合、各層の構成材料及び厚さは同一であってもよく、異なっていてもよい。
ガスバリア層(II)が多層である場合、そのうち1層が無機酸化物から構成される蒸着膜層であってもよい。これにより、ガスバリア層(II)のガスバリア性をさらに向上できる。無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化珪素(シリカ)、酸化マグシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ホウ素、酸化ハフニウム、酸化バリウム、酸化炭化珪素(炭素含有酸化珪素)などを挙げることができる。
ガスバリア層(II)の厚さは、温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度が3000cm3/(m2×24h×atm)以下である限り、特に制限されないが、好ましくは20~500μm、より好ましくは25~500μm、さらに好ましくは30~200μmである。なお、厚さとは、ガスバリア層(II)が多層構造である場合には、各層の厚さの合計をいうものである。
ガスバリア層(II)の厚さが前記範囲内であると、強度に優れる。特に、培養容器が有するウェル数が少なく穴径が大きい場合にも撓みが生じにくい。また、ガスバリア層(II)を酸素透過性(I)から着脱する際に、ハンドリング性が良く破けにくい。
ガスバリア層(II-b)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ、下記要件(7)または(8)を満たすことが好ましい。
(7)ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種と、粘着剤との混合物を含む
(8)ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含む層と、粘着剤を含む層と、を有する
[要件(7)]
ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種と、粘着剤との混合物を含むとは、ガスバリア層(II-b)の1層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種と、粘着剤との組成物から構成されることを意味する。
該組成物中におけるポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種の含有量は特に制限されない。
該組成物中における粘着剤の含有量は特に制限されない。
ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種と、粘着剤との質量比は、特に制限されない。
粘着剤については後述する。
[要件(8)]
ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含む層と、粘着剤を含む層と、を有するとは、ガスバリア層(II-b)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含む層と、粘着剤を含む層との少なくとも2層を有することを意味する。
ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含む層の厚さは特に制限されないが、好ましくは10~500μm、より好ましくは50~100μmである。
粘着剤を含む層の厚さは特に制限されないが、好ましくは1~100μm、より好ましくは5~20μmである。
ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含む層と、粘着剤を含む層の厚さの比は特に制限されないが、好ましくは500:1~10:100、より好ましくは100:5~50:20である。
粘着剤については後述する。
<酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域>
培養容器(α)は、培養容器の培養面の少なくとも一部が、要件(1)及び(2)を満たす酸素透過層(I-a)と、要件(3)及び(4)を満たすガスバリア層(II-a)との積層領域を有する。
培養容器(α)は、ガスバリア層(II-a)を有するので、容器内部への酸素透過が抑制されたものである。ガスバリア層(II-a)を酸素透過層(I-a)から取り外すことにより酸素透過層(I-a)を露出させると、培養容器(α)は、容器内部へ充分に酸素が透過するものとなる。
本発明の一態様である培養容器断面の概念図を図1に示す。図1左は培養面にガスバリア層(II)を有する状態、図1右はガスバリア層(II)を酸素透過層(I)から取り外した状態を示す。
培養容器(α)における「培養面の少なくとも一部が、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域を有する」とは、培養面の少なくとも一部の領域が酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域であることを意味し、培養面の全ての領域が酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域であってもよいし、培養面の一部の領域のみが酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域であってもよい。
培養面の一部の領域のみが酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域である場合、培養面の前記積層領域以外の領域は、酸素透過層(I-a)で構成される領域を有することが好ましく、培養面の前記積層領域以外の全ての領域は、酸素透過層(I-a)で構成される領域であることがより好ましい。
培養容器(α)が、例えばディッシュ、フラスコ又はプレートの場合、通常、底面が培養面を含むので、これらの底面、側面、上面のうち、少なくとも底面の一部又は全部は、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域を有する。少なくとも底面の一部又は全部が酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域を有すると、前記積層領域を介して培地中に供給される酸素を調節しやすい。
培養容器(α)は、培養面全体が酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域を有することが好ましい。すなわち、培養容器(α)が、例えばディッシュ、フラスコ又はプレートの場合、底面が培養面を含むので、これらの底面、側面、上面のうち、底面の全部が酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域を有することが好ましい。
培養面の領域に対する、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域の割合は、特に制限されないが、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。培養面の領域に対する、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域の割合が前記範囲内にあると、細胞等への酸素供給量をより調節しやすい。
培養容器(α)において、ガスバリア層(II-a)は、酸素透過層(I-a)の下面に設けられる。すなわち、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域は、培養容器(α)の内部側から、酸素透過層(I-a)、ガスバリア層(II-a)の順で積層されている。
酸素透過層(I-a)の領域と、ガスバリア層(II-a)の領域は同じ大きさであってもよいし、どちらかがより大きくてもよいが、酸素供給量を調節しやすく、またガスバリア層(II-a)を着脱しやすいことから、ガスバリア層(II-a)の領域は、酸素透過層(I-a)の領域以上であることが好ましい。
酸素供給量を調節しやすく、またガスバリア層(II-a)を着脱しやすいことから、ガスバリア層(II-a)の領域は、培養面の面積より大きいことが好ましく、ガスバリア層(II-a)を培養容器の底面全体に設けることがより好ましい。例えば、培養容器がウェルを有するプレートである場合、ガスバリア層(II-a)の領域は、各ウェルの底面積の合計よりも大きいことが好ましく、ガスバリア層(II-a)をプレートの底面全体に設けることが好ましい。
培養容器(α)の培養面以外の部材を構成する材料は特に制限されず、公知の材料を用いることができる。かかる材料としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、熱硬化性樹脂、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ガラス等が挙げられる。
培養容器(α)の培養面の、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域以外の部材を構成する材料も特に制限されず、公知の材料を用いることができる。かかる材料としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、熱硬化性樹脂、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ガラス等が挙げられる。培養容器(α)の培養面の、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)と積層領域以外の部材を構成する材料は、酸素透過層(I-a)を構成する材料と同じであることが好ましい。
酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との積層領域は、必要に応じてその他の層を有してもよい。その他の層としては、例えば、酸素透過層(I-a)とガスバリア層(II-a)との間に形成された接着層が挙げられる。
<酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)>
培養容器(β)は、前記底面部材の少なくとも一部が、少なくとも酸素透過層(I-b)と、ガスバリア層(II-b)とを有し、前記ガスバリア層(II-b)が前記酸素透過層(I-b)の下に設けられている。
培養容器(β)は、ガスバリア層(II-b)を有するので、容器内部への酸素透過が抑制されたものである。ガスバリア層(II-b)を酸素透過層(I-b)から取り外すことにより酸素透過層(I-b)を露出させると、培養容器(β)は、容器内部へ充分に酸素が透過するものとなる。
培養容器(β)における「前記底面部材の少なくとも一部が、少なくとも酸素透過層(I-b)と、ガスバリア層(II-b)とを有する」とは、底面部材の少なくとも一部の領域が酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)との両方の層を有する領域であることを意味し、底面部材の全ての領域が酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域であってもよいし、底面部材の一部の領域のみが酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域であってもよい。
底面部材の一部の領域のみが、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域である場合、底面部材における、該両方の層を有する領域以外の領域は、酸素透過層(b)で構成される領域であることが好ましく、底面部材における該両方の層を有する領域以外の全ての領域は、酸素透過層(I-b)で構成される領域であることがより好ましい。
培養容器(β)が、例えばディッシュ、フラスコ又はプレートの場合、通常、底面が培養面を含むので、培養面の少なくとも一部は、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域である。培養面の少なくとも一部が、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域であると、該領域を介して培地中に供給される酸素を調節しやすい。
培養容器(β)は、培養面全体が酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域であることが好ましい。
培養面の領域に対する、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域の割合は、特に制限されないが、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。培養面の領域に対する、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域の割合が前記範囲内にあると、細胞等への酸素供給量をより調節しやすい。
培養容器(β)において、ガスバリア層(II-b)は、酸素透過層(I-b)の下に重ねられる。すなわち、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)は、培養容器(β)の内部側から、酸素透過層(I-b)、ガスバリア層(II-b)の順で重ねられている。
ガスバリア層(II-b)は、酸素透過層(I-b)の下に直接重ねられてもよいし、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)との間に、他の層(例えば金属蒸着層、上記接着層など)が含まれていてもよい。該他の層は、培養容器(β)の内部側から、酸素透過層(I-b)、ガスバリア層(II-b)、他の層の順で重ねられていてもよい。
酸素透過層(I-b)の領域と、ガスバリア層(II-b)の領域は同じ大きさであってもよいし、どちらかがより大きくてもよいが、酸素供給量を調節しやすく、またガスバリア層(II-b)を着脱しやすいことから、ガスバリア層(II-b)の領域は、酸素透過層(I-b)の領域以上であることが好ましい。
酸素供給量を調節しやすく、またガスバリア層(II-b)を着脱しやすいことから、ガスバリア層(II-b)の領域は、培養面の面積より大きいことが好ましく、ガスバリア層(II-b)を培養容器の底面全体に設けることがより好ましい。例えば、培養容器がウェルを有するプレートである場合、ガスバリア層(II-b)の領域は、各ウェルの底面積の合計よりも大きいことが好ましく、ガスバリア層(II-b)をプレートの底面全体に設けることが好ましい。
培養容器(β)の底面部材以外の部材(例えば側壁部材)を構成する材料は特に制限されず、公知の材料を用いることができる。かかる材料としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、熱硬化性樹脂、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ガラス等が挙げられる。
培養容器(β)の底面部材の、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域以外の領域を構成する材料も特に制限されず、公知の材料を用いることができる。かかる材料としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、熱硬化性樹脂、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ガラス等が挙げられる。培養容器(β)の底面部材の、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域以外の領域を構成する材料は、酸素透過層(I-b)を構成する材料と同じであることが好ましい。
培養容器(β)の底面部材の、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域の全光線透過率は、好ましくは70.0%以上、より好ましくは90.0%以上、さらに好ましくは92.0%以上である。全光線透過率の上限は特にないが、通常99.9%である。全光線透過率が前記範囲にあるということは、底面部材が透明性に優れるといえる。
培養容器(β)の底面部材の、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)と領域の全光線透過率が上記上下限の範囲である場合、底面部材は透明性に優れるため、肉眼でも顕微鏡下においても細胞等を観察しやすい。
培養容器(β)の底面部材の、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)とを有する領域の全光線透過率は、例えば、酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)の厚さ、又は酸素透過層(I-b)とガスバリア層(II-b)を構成する材料等を調整することにより、調整することができる。
<接着層>
前記接着層を構成する接着材料は、所望の接着性を有する接着層を形成可能なものであれば特に制限されないが、細胞培養、医療用途等で用いられる器具の接着層の形成に一般的に用いられるものを用いることができる。
前記接着材料は、例えば、粘着剤を用いることができる。前記粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、エポキシ系粘着剤及びシリコーン系粘着剤等が挙げられる。
また、前記接着材料は、例えば、従来から知られたシーラント樹脂を使用できる。前記シーラント樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、酸変性ポリプロピレン、プロピレンの共重合体、エチレン-ビニルアセテート共重合体、ポリプロピレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びそれらの金属架橋物であるアイオノマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができ、なかでも低温シール性の観点からポリオレフィン系樹脂が好ましく、安価であることからポリエチレンが特に好ましい。
前記接着材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記接着層の厚さは、所望の接着性を有するものとすることができれば良く、構成材料等に応じて適宜設定することができる。
前記接着層の厚さは、0.1μm~200μmの範囲内とすることができ、好ましくは5μm~100μm、より好ましくは10μm~60μm、特に好ましくは15μm~40μmの範囲内である。この範囲内であると、接着層を加工性やヒートシール性に優れたものとすることができる。
<培養容器の製造方法>
培養容器(α)又は培養容器(β)の製造方法は、特に制限されず、製造に用いる機器も制限されない。
培養容器(α)の全ての部材が酸素透過層(I-a)を構成する材料から形成される場合には、例えば、酸素透過層(I-a)を構成する材料を含むフィルム又はシートを形成し、必要に応じてそのフィルム又はシートを成形して所望の形状とした後、ガスバリア層(II-a)を積層して、培養容器(α)を作製することができる。また、培養容器(α)は、酸素透過層(I-a)を構成する材料を、押出成形、溶液キャスト成形、射出成形、ブロー成形等の方法により、直接成形した後、ガスバリア層(II-a)を積層することによっても得られる。
また、培養容器(α)又は培養容器(β)の一部の部材が酸素透過層(I)を構成する材料から形成される場合には、例えば、酸素透過層(I)を構成する材料を含むフィルム又はシートと、その他の部材とを、適宜接合させた接合部材を得た後、該接合部材にガスバリア層(II)を積層又は貼付して、培養容器(α)又は培養容器(β)を得ることができる。接合する方法としては特に制限はなく酸素透過層(I)を構成する材料を含む部材と、その他の部材とを融接してもよく、接着剤や粘着剤を介して密着させてもよい。
また、酸素透過層(I)を構成する材料を含むフィルム又はシート、及びガスバリア層(II)を構成する材料を含むフィルム又はシートを形成した後、該2つのフィルム又はシートを積層したフィルム又はシートを形成し、該積層フィルム又はシートと、その他の部材とを、適宜接合して培養容器(α)又は培養容器(β)を得ることができる。
培養容器(β)において、底面部材及び側壁部材が酸素透過層(I-b)を構成する材料を含む場合は、例えば、酸素透過層(I-b)を構成する材料を含むフィルム又はシートを形成し、必要に応じてそのフィルム又はシートを成形して所望の形状とした後、ガスバリア層(II-b)を貼付して、培養容器(β)を作製することができる。また、培養容器(β)は、酸素透過層(I-b)を構成する材料を用いて、押出成形、溶液キャスト成形、射出成形、ブロー成形等の方法により、所望の形状に直接成形した後、ガスバリア層(II-b)を貼付することによっても得られる。
培養容器(β)の製造方法は、側壁部材に、底面部材を貼付する工程を含んでもよい。例えば、培養容器(β)は、側壁部材に、酸素透過層(I-b)を構成する材料を含むフィルム又はシートを貼付することで底面部材と側壁部材とを接合した後、該フィルム又はシートの下に、ガスバリア層(II-b)を構成する材料を含むフィルム又はシートをさらに貼付することで製造することができる。また、培養容器(β)は、酸素透過層(I-b)を構成する材料を含むフィルム又はシートの下に、予め、ガスバリア層(II-b)を構成する材料を含むフィルム又はシートを貼付しておき、該貼付された2つのフィルム又はシートを側壁部材に貼付することで底面部材と側壁部材とを接合して製造することができる。
前記フィルム又はシートを形成する方法としては、具体的には、例えば、通常のインフレーション法、T-ダイ押出法などが採用される。製造は通常加温して行う。T-ダイ押出法を採用する場合、押出温度は100℃~400℃が好ましく、200℃~300℃が特に好ましい。また、ロール温度は45℃~75℃が好ましく、55℃~65℃が特に好ましい。
また、前記フィルム又はシートは材料を溶剤に溶解し、樹脂や金属上に流し、レベリングしながらゆっくりと乾かしフィルム化(シート化)する溶液キャスト法で製造してもよい。用いられる溶剤は特に制限ないが、シクロヘキサン、ヘキサン、デカン、トルエンなどの炭化水素溶剤を用いてもよい。また、溶剤は、材料の溶解性や乾燥効率を考慮して2種類以上を混合してもよい。テーブルコート、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ロールコート、カーテンフローコートなどの方法でポリマー溶液を塗布し、乾燥、剥離することでフィルム又はシートに加工することができる。
<培養中に着脱可能>
培養中とは、細胞等を培養する期間中の任意のタイミングとの意味である。
着脱可能とは、培養容器の使用者の通常の力で、取り付け及び取外しができるとの意味である。
ガスバリア層(II-a)を酸素透過層(I-a)に着脱可能に積層する方法、又はガスバリア層(II-b)を前記酸素透過層(I-b)の下に、前記酸素透過層(I-b)から着脱可能に重ねる方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、磁力による固定、接着による固定、機械的係合、弾力性を有するバネ部材による挟持、又はネジ部材による緊締等の方法が挙げられる。これらの中でも、ガスバリア層(II)が酸素透過層(I)に安定的に積層され又は重ねられ、また取り付け及び取り外しが容易であることから、接着による固定が好ましい。
ガスバリア層(II)は、酸素透過層(I)に積層した又は重ねられた領域の90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上を酸素透過層(I)から取り外せることが好ましい。酸素透過層(I)に積層した又は重ねられたガスバリア層(II)の領域に対する、取り外せるガスバリア層(II)の領域の割合が前記範囲内にあると、細胞等に供給される酸素の量をより調節しやすい。なお、ガスバリア層(II)の酸素透過層(I)からの取り外しは、一度に行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよく、酸素透過層(I)に積層した又は重ねられたガスバリア層(II)の領域に対する、取り外せるガスバリア層(II)の領域は、複数回の取り外しを積算した数値である。
ガスバリア層(II)を酸素透過層(I)から取り外すタイミングは、細胞等の種類や培養条件によって、適切なタイミングを決定すればよく、特に制限されないが、通常、細胞等を播種した後、細胞等が培養容器に接着したことを顕微鏡で確認した後、又は細胞等が培養容器に接着すると予想されるタイミングである。
ガスバリア層(II)は、酸素透過層(I)から取り外した後、再度酸素透過層(I)の下面に取り付けてもよい。
ガスバリア層(II-b)は、その領域の全部を酸素透過層(I-b)から取り外してもよいし、ガスバリア層(II-b)の領域の一部のみを酸素透過層(I-b)から取り外してもよい。すなわち、ガスバリア層(II-b)の領域の一部または全部が、酸素透過層(I-b)から着脱可能であってもよい。
ガスバリア層(II-b)の領域の一部のみを酸素透過層(I-b)から取り外しできる態様としては、例えば、培養容器が少なくとも1つのウェルを有するプレートである場合、各ウェルに対応する格子状の切れ目を予めガスバリア層(II-b)に入れておき、細胞に十分な酸素を供給したいウェルに対応するガスバリア層(II-b)のみを取り外すことが挙げられる。また、培養容器が少なくとも1つのウェルを有するプレートである場合、ガスバリア層(II-b)の領域の一部(例えば、1/4、1/3、1/2)、すなわち、プレートが有するウェルのうちの一部(例えば、1/4、1/3、1/2)の数のウェルに対応する領域だけを取り外して、該一部の数のウェルにおいて酸素透過層(I-b)を露出させる態様、ガスバリア層(II-b)の各ウェルに対応する領域の一部(例えば、1/4、1/3、1/2)だけを取り外して、該各ウェルの酸素透過層(I-b)の領域の一部(例えば、1/4、1/3、1/2)を露出させる態様も挙げられる。
[剥離強度]
ガスバリア層(II-b)の酸素透過層(I-b)に対する剥離強度は、0.01~0.20N/25mmであることが好ましく、より好ましくは0.02~0.15N/25mmである。剥離強度が上記下限値以上であると、意図しない剥離、例えば、ガスバリア層(II-b)が自重で酸素透過層(I-b)から剥離してしまうことを防ぐことができる。一方、剥離強度が上記上限値以下であると、剥離時の衝撃による細胞等への損傷、例えば、剥離音による振動又は培養容器を持つ手の振動により生じる細胞等への損傷を防ぐことができる。
剥離強度は、具体的には以下の方法で測定できる。
ガスバリア層(II-b)から作製した、幅25mmの試験片の剥離強度を測定する面を下向きにして、酸素透過層(I-b)の上面に貼付し、2kgローラーを1往復させる。これを23℃、RH50%の環境下に30分間保持した後、剥離試験機を用い、JIS Z 0237に準拠して、23℃、RH50%の環境下、剥離角度180°、引張速度10mm/分の条件にて、剥離強度[N/25mm]を測定する。剥離試験機としては、例えば、株式会社東洋精機製作所製、ストログラフE-Sを用いることができる。試験を3回行い、その平均値を算出する。
<細胞、組織、又は器官の培養方法>
本発明の一態様である、細胞、組織、又は器官の培養方法は、
培養容器(α)を用いて、細胞、組織、又は器官を培養する工程(A-a)、
前記ガスバリア層(II-a)を前記酸素透過層(I-a)から取り外す工程(B-a)、及び
前記工程(B-a)で得られた培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官をさらに培養する工程(C-a)を含む。
本発明の別の一態様である、細胞、組織、又は器官の培養方法は、
培養容器(β)を用いて、細胞、組織、又は器官を培養する工程(A-b)、
前記ガスバリア層(II-b)を前記酸素透過層(I-b)から取り外す工程(B-b)、及び
前記工程(B-b)で得られた培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官をさらに培養する工程(C-b)を含む。
工程(A-a)又は工程(A-b)は、培養容器(α)又は培養容器(β)を用いて、細胞、組織、又は器官を培養する工程である。
培養容器(α)又は培養容器(β)は、前記酸素透過層(I)の水接触角が、30~120°であることが好ましい。
培養容器(α)又は培養容器(β)は、前記酸素透過層(I)が、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含むことが好ましい。
培養容器(α)又は培養容器(β)は、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)が、4-メチル-1-ペンテン単独重合体(x1)並びに、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体(x2)から選択される少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
培養容器(α)又は培養容器(β)は、培養面、好ましくは培養面の培地及び/又は細胞等が接触する側に、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料がコーティングされていることが好ましい。
培養容器(α)又は培養容器(β)は、前記ガスバリア層(II)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含むことが好ましい。
細胞等を培地中で培養する方法は特に制限されず、公知のプロトコルに従って行えばよく、市販の培地や培養キットを用いてもよい。
培養に用いる培地は、細胞等が増殖できる培地であれば特に制限されず、使用細胞種に合わせて適宜選択すればよい。
培養に用いる培地の量及び培地交換の頻度は特に制限されない。培養温度は特に制限されないが、通常は25~40℃程度で行う。
工程(A-a)又は工程(A-b)における培養期間は特に制限されず、細胞等が培養容器に充分に接着するまで培養すればよい。培養期間は、好ましくは12~48時間であり、より好ましくは18~36時間であり、さらに好ましくは20~30時間である。
工程(A-a)又は工程(A-b)では、酸素供給の少ない状態で初期の培養を行うので、接着性がより良好になりやすい。
工程(B-a)又は工程(B-b)は、前記ガスバリア層(II)を前記酸素透過層(I)から取り外す工程である。
培養容器(α)は、ガスバリア層(II)を有するので、容器内部への酸素透過が抑制されたものであるが、ガスバリア層(II)を酸素透過層(I)から取り外すことにより酸素透過層が露出されるので、培養容器(α)又は培養容器(β)は、容器内部へ充分に酸素が透過するものとなる。
前記ガスバリア層(II)を酸素透過層(I)から取り外す方法は特に制限されず、ガスバリア層(II)を酸素透過層(I)に固定した方法に応じて適した方法を用いればよい。
工程(B-a)又は工程(B-b)を行うタイミングは特に制限されないが、細胞等が培養容器に充分に接着した後に行うことが好ましい。工程(B-a)又は工程(B-b)は、細胞等を播種した後、好ましくは12~48時間後、より好ましくは18~36時間後、さらに好ましくは20~30時間後に行うことが好ましい。
工程(C-a)又は工程(C-b)は、前記工程(B-a)又は工程(B-b)で得られた培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官をさらに培養する工程である。
細胞等を培地中で培養する方法は特に制限されず、工程(A-a)又は工程(A-b)に準じて行うことができる。培養に用いる培地、培養に用いる培地の量及び培地交換の頻度は、工程(A-a)又は工程(A-b)と同じであってもよいし、異なってもよい。
工程(C-a)又は工程(C-b)における培養期間は特に制限されず、細胞等が増殖し、所望の細胞数に達するまで培養すればよい。培養期間は、好ましくは12~48時間であり、より好ましくは18~36時間であり、さらに好ましくは20~30時間である。
工程(C-a)又は工程(C-b)では、充分に酸素供給される状態で細胞等を培養するので、細胞等の機能が正常に維持されやすい。
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(方法)
[材料]
TPXフィルム:4-メチル-1-ペンテン重合体フィルム(厚さ50μm、三井化学東セロ株式会社製、商品名:オピュランX-88B)
PETフィルム1:PETと粘着剤の混合物からなる市販のPETフィルム(厚さ80μm、ビーエム機器株式会社製、商品名:qPCRプレートシール(ABI、圧着タイプ)
PETフィルム2:基材層(PET層、厚さ75μm)、及び、粘着剤層(厚さ10μm)からなる市販のPETフィルム(日榮新化株式会社、商品名:PET75-H270(10))
PPフィルム:基材層(PET層、厚さ60μm)、及び粘着剤層(厚さ10μm)からなる市販のPPフィルム(日榮新化株式会社、商品名:PP60-H270(10))
PDMS容器:底面が、厚さ350μmのPDMS(ジメチルポリシロキサン)フィルムで構成される市販の96ウェル培養容器(製品名G-plate、VECELL社製型番V96WGPB-10)
PS容器:PS(ポリスチレン)製の底面の厚さが1000μmである市販の24ウェルPS培養容器(コーニング社製)
[材料の物性測定]
上述のTPXフィルム、PETフィルム1~2、PPフィルム、PDMS容器及びPS容器を測定サンプルとして、以下で詳述する方法により、酸素透過度、及び全光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
[酸素透過度の測定]
測定サンプルについて、株式会社東洋精機製作所製差圧式ガス透過率測定装置MT-C3を用いて温度23℃、湿度0%の環境下にて酸素透過係数を測定した。測定部径は70mm(透過面積は38.46cm2)とした。酸素透過係数が大きいことが予想されたため、予めサンプルにアルミニウムマスクを施し、実透過面積を5.0cm2とした。
測定した酸素透過係数[cm3×mm/(m2×24h×atm)]の値をフィルム(又は培養容器底面)の厚さ(μm)で除して、酸素透過度[cm3/(m2×24h×atm)]を算出した。
[全光線透過率の測定]
測定サンプルについて、ヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業社製)を用い、JIS K 7361-1に準拠して全光線透過率を測定した。
[水接触角の測定]
水接触角の測定は、日本工業規格JIS-R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準じて行った。25±5℃、50±10%の恒温恒湿条件下で水滴の形状を球形とみなせる4μL以下の容量の水滴を、測定サンプルの表面に滴下し、静滴法により、測定サンプル表面に水滴が接触した直後から1分以内の測定サンプルと水滴の接触界面の角度を測定した。
[コラーゲンコート溶液の調製]
0.1Mの塩酸溶液(容量分析用、富士フイルム和光純薬株式会社製)を注射用水(日本薬局方、大塚製薬株式会社製)で100倍希釈し、0.001Mの塩酸溶液を調製してろ過滅菌をした。3mg/mLのコラーゲン溶液(セルマトリックスTypeI-P、ブタ腱由来、新田ゼラチン株式会社製)を0.001Mの塩酸溶液で6倍希釈し、0.5mg/mLのコラーゲン溶液を調製した。
[ラット初代凍結肝細胞の培養]
ラット初代凍結肝細胞(Hepatocyte)を含む細胞懸濁液を入れた遠沈管(50mL)に培地(A)を加えた。培地(A)は、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS、富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.5mL、注射用水(扶桑薬品工業株式会社製)で3.0g/mLに希釈したL-プロリン(培養用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を0.15mL、エタノール(分子生物学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)で1×10-3Mに希釈したデキサメタゾン(生化学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を1.5μL、エタノールで36mMに希釈したハイドロコルチゾン(培養用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を21μL、注射用水で1.0mg/mLに希釈したBSA溶液を用いて、さらに20μg/mLに希釈した上皮成長因子(Epidermal growth factor、EGF、細胞生物学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を15μL、インスリン溶液(10mg/mL in HEPESS、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を8.7μL、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(5000units/mLペニシリン、5000μg/mLストレプトマイシン含有、培養用、富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.3mL、D-MEM培地(4500mg/mL D-グルコース、584mg/mL L-グルタミン、15mg/mLフェノールレッド、110mg/mLピルビン酸ナトリウム、3700mg/mL炭酸水素ナトリウム含有、培養用、富士フイルム和光純薬株式会社製)を13mL加えて調製した。細胞密度の調整は、ラット初代凍結肝細胞を含む細胞懸濁液の細胞数を調整する方法で実施し、1.0×105cells/cm2の細胞密度で培養した。
[培地中の酸素濃度の測定]
細胞播種の24時間後、培養容器の培地を除去した後、新たに培地(A)を0.5mL添加し、蛍光式の酸素センサー(FireSting酸素モニター、株式会社ビー エー エス社製)を用いて培地中の酸素分圧(hPa)を測定した。測定は、加湿インキュベーター中で実施し、センサーをジャッキで培養容器底面から80μmの高さに設置し、1時間測定した。測定開始から1時間後の培地中の酸素分圧(hPa)を、1013hPa(大気1気圧)で除して100をかけた値(%)を算出し、培地中の酸素濃度とした。代表的な3ウェルで測定し、平均値を算出した。
[代謝活性値の測定]
細胞播種24時間後、又は48時間後の培養容器中の培地を除去した後、培地で希釈したLuciferin-CEEを添加して、さらに3時間培養した。培養後の細胞をLuciferin-CEEを含む培地を同伴して96ウェルプレートに移した後、Luciferin Detection RegentとReconstitution Bufferの混合液を添加して、室温で遮光して1時間反応させた。1時間後、ルミノメーターで発光量(Relative Light Unit、RLU)を測定した。
蛋白量は、培地で希釈したLuciferin-CEE溶液を除去後、PBS(-)を培地200μL添加した後、セルスクレーパーを用いてエッペンチューブに細胞を回収し、遠心した(4℃、22000×g、10分間)。その後、上澄みを除去し、0.1M水酸化ナトリウム溶液を100μL添加した後、PierceTMBCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を使用して蛋白量を測定した。波長450nmの吸光度をプレートリーダー(SPECTRA max PLUS384、Molecular Devices社製)で測定した。
ルミノメーターで得られたLuciferin-CEE溶液の代謝活性量(pmol/L)をP450-GloTM CYP1A1 Assay kit(Promega社製)を使用して測定し、吸光度から得られたタンパク量及びLuciferin-CEE溶液の反応時間で除することにより、代謝活性値(pmol/min/mg protein)を算出した。代表的な3ウェルで測定し、平均値を算出した。
代謝活性維持率は以下の式により算出した。
代謝活性維持率(%)=播種48時間後の代謝活性値/播種24時間後の代謝活性値×100
[ヒト初代凍結肝細胞の培養]
ヒト初代凍結肝細胞(Hepatocyte)を含む細胞懸濁液を入れた遠沈管(50mL)に培地(B)を加えた。培地(B)は、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS、富士フイルム和光純薬株式会社製)を2.5mL、Antibiotic-Antimycotic(10000units/mLペニシリン、10000μg/mLストレプトマイシン、25μg/mLアンホテリシンB含有、GibcoTM)を2.5mL、エタノール(分子生物学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)で1×10-3Mに希釈したデキサメタゾン(生化学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を0.05mL、インスリン溶液(10mg/mL in HEPESS、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を0.02mL、GlutaMAX溶液(GibcoTM)を0.5mL、HEPES buffer solution(生化学用緩衝剤、同仁化学株式会社製)を0.75mL、注射用水で100mMに調製したL-アスコルビン酸2-リン酸エステル三ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.05mL、注射用水で1.0mg/mLに希釈したBSA溶液を用いて、さらに20μg/mLに希釈した上皮成長因子(Epidermal growth factor、EGF、細胞生物学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を0.5mL、William’s E Medium(2000mg/mL D-グルコース、10mg/mLフェノールレッド、25mg/mLピルビン酸ナトリウム、2200mg/mL炭酸水素ナトリウム含有、培養用、Giboco)を43.13mL加えて調製した。細胞密度の調整は、ラット初代凍結肝細胞を含む細胞懸濁液の細胞数を調整する方法と同様に実施し、1.0×105cells/cm2の細胞密度で培養した。
細胞播種5時間後、培地(C)に交換し、19時間培養した。培地(C)は、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS、富士フイルム和光純薬株式会社製)を2.5mL、Antibiotic-Antimycotic(10000units/mLペニシリン、10000μg/mLストレプトマイシン、25μg/mLアンホテリシンB含有、GibcoTM)を1.25mL、エタノール(分子生物学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)で1×10-3Mに希釈したデキサメタゾン(生化学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を0.005mL、GlutaMAX溶液(GibcoTM)を0.5mL、HEPES buffer solution(生化学用緩衝剤、同仁化学株式会社製)を0.75mL、ITS premix(コーニング社製)0.5mL、注射用水で100mMに調製したL-アスコルビン酸2-リン酸エステル三ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.05mLを、注射用水で1.0mg/mLに希釈したBSA溶液を用いて、さらに20μg/mLに希釈した上皮成長因子(Epidermal growth factor、EGF、細胞生物学用、富士フイルム和光純薬株式会社製)溶液を0.5mL、HepExtended Supplement(GibcoTM)を1.0mL、William’s E Medium(2000mg/mL D-グルコース、10mg/mLフェノールレッド、25mg/mLピルビン酸ナトリウム、2200mg/mL炭酸水素ナトリウム含有、培養用、GibcoTM)を42.945mL加えて調製した。
[細胞接着性の評価]
培養容器にヒト初代凍結肝細胞の細胞懸濁液を0.5mL添加し、細胞密度が1×105cells/cm2となるように播種し、37℃、5%CO2下でインキュベートし、24時間培養後の状態を顕微鏡下で観察し、以下の基準で評価した。また、顕微鏡下で写真撮影を行った。
AA:肝細胞が培養面に接着し、伸展している状態が観察される。
BB:肝細胞が培養面に接着しているが丸くなり伸展していないか、もしくは一部に剥離した状態が観察される。
[剥離性の評価]
培養容器底面を構成するフィルムに接着させたフィルム(PETフィルム1、2、PPフィルムのいずれか)をフィルム縁部から剥離した。培養容器底面を構成するフィルム及び剥離したフィルム(PETフィルム1、2、PPフィルムのいずれか)の破れの有無等を確認し、以下基準で評価した。
AA:培養容器底面を構成するフィルム及び剥離したフィルム(PETフィルム1、2、PPフィルムのいずれか)の破れがなく、培養容器底面を構成するフィルムの撓みも確認されず、剥離性が良好であった。
BB:培養容器底面を構成するフィルム及び/又は剥離したフィルム(PETフィルム1、2、PPフィルムのいずれか)の破れがあるか、培養容器底面を構成するフィルムが撓み、剥離性が不良であった。
[剥離強度の評価]
25mm×150mmに切り取ったフィルム(PETフィルム1、2、PPフィルムのいずれか)の剥離紙を剥離して、剥離した面を、50mm×150mmに切り取ったTPXフィルム、又はPDMSフィルム上面に貼付し、2kgローラーを1往復させた。これを23℃、RH50%の環境下に30分間保持した後、剥離試験機(株式会社東洋精機製作所製、ストログラフE-S)を用い、JIS Z 0237に準拠して、23℃、RH50%の環境下、剥離角度180°、引張速度10mm/分の条件にて、剥離強度[N/25mm]を測定した。試験は3回行い、その平均値を算出した。
〔実施例1〕
TPXフィルムに対し、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学工業製)を用いて、チャンバー内を窒素の気流で満たし、プラズマ処理した(処理速度2m/min、出力4.5kW、2往復)。
前記プラズマ処理したTPXフィルムを8cm×12cmサイズにカットし、ウェル底無しPS製24ウェル容器枠に、医療用粘着剤(スリーエム製)を介して密着させ、培養プレートの底面が、TPXフィルムで構成される24ウェル培養プレートを作製した。
上記培養プレート底面のTPXフィルムに対して、容器枠とは逆側に、PETフィルム1を圧着ゴムローラー(ローラー幅:45mm、ローラー質量2kg)を2往復させ、一定圧で圧着して、培養プレートの底面が、TPXフィルムとPETフィルム1との積層体で構成される24ウェル培養プレートを作製した。すなわち、PETフィルム1の剥離紙を剥離した面を、培養プレート底面を構成するTPXフィルムの下面に接着した。
その後、上記24ウェル培養プレートを耐ガンマ線袋に梱包して10kGyのガンマ線を照射し滅菌した。
上記で作製した24ウェル培養プレートの各ウェルに、0.5mg/mLのコラーゲン溶液を0.5mL添加した後、余分なコラーゲン溶液を除去した。室温で30~60分間静置した後、ダルベッコPBS(-)で洗浄して、一晩、室温で乾燥させた。このコラーゲンコート済みPETフィルム1貼付24ウェル培養プレート(培養容器(1)とも呼ぶ)を5個準備した。これをそれぞれ培養容器(1)A、B、C、D、Eとした。その後、培養容器(1)の水接触角を測定した。結果を表1に示す。
上記で作製したA~Eの培養容器(1)のうち、A~Dに、ラット初代凍結肝細胞を含む培地(0.5mL)をマイクロピペットで添加し、1.0×105cells/cm2の細胞密度で播種し、37℃、5%CO2下で培養を開始した。
細胞播種から24時間後、インキュベーターから培養容器A~Dを取り出した。
培養容器(1)A、Bは、底面のPETフィルムを剥離した後、インキュベーターに戻して、さらに24時間培養を行った。
培養容器(1)Cでは、培地中の溶存酸素濃度を測定した。
培養容器(1)Dでは、肝細胞の正常な機能の指標として、代謝活性値を測定した。
細胞播種から48時間後、PETフィルム1を剥離した培養容器(1)Aをインキュベーターから取り出し、溶存酸素濃度の測定を行った。
細胞播種から48時間後、PETフィルム1を剥離した培養容器(1)Bをインキュベーターから取り出し、代謝活性値の測定を行った。
結果を表1に示す。
上記で作製した培養容器(1)Eに、ヒト初代凍結肝細胞を含む培地(0.5mL)をマイクロピペットで添加し、1.0×105cells/cm2の細胞密度で播種し、37℃、5%CO2下で培養を開始した。
播種24時間後に培養容器(1)Eをインキュベーターから取り出し、底面のPETフィルム1を剥離して、剥離性の評価及び細胞接着性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
[実施例2]
培養容器(1)の底面のPETフィルム1をPPフィルムに変更したこと、及び、TPXフィルムへの表面処理をテーブル型コロナ処理装置(春日電機製)を用いたコロナ処理(処理速度3m/min、出力0.5kW、2往復)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてラット凍結肝細胞およびヒト凍結肝細胞の培養及び評価を実施したものを実施例2とした。結果を表1に示す。
[実施例3]
培養容器(1)の底面のPETフィルム1をPETフィルム2に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてラット凍結肝細胞およびヒト凍結肝細胞の培養及び評価を実施したものを実施例3とした。結果を表1に示す。
[実施例4]
PDMS容器の底面を構成するPDMSフィルムに対して、PETフィルム2を圧着ゴムローラー(ローラー幅:45mm、ローラー質量2kg)を2往復させ、一定圧で圧着して、培養プレートの底面が、PDMSフィルムとPETフィルム2との積層体で構成される96ウェル培養プレートを作製し、各ウェルに、0.5mg/mLのコラーゲン溶液を0.1mL添加した後、余分なコラーゲン溶液を除去した。室温で30~60分間静置した後、ダルベッコPBS(-)で洗浄して、一晩、室温で乾燥させた。実施例1と同様にしてラット凍結肝細胞およびヒト凍結肝細胞の培養及び評価を実施したものを実施例4とした。結果を表1に示す。
[参考例1]
培養容器(1)の底面のPETフィルム1を剥離しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてラット凍結肝細胞の培養及び評価を実施したものを参考例1とした。結果を表2に示す。ヒト凍結肝細胞の培養及び評価は行わなかった。
[比較例1]
比較例1では、培養プレートの底面がTPXフィルムとPETフィルム1との積層体で構成される24ウェル培養プレートの代わりに、市販の24ウェルPS培養容器(PS)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてラット凍結肝細胞の培養及び評価を実施した。結果を表2に示す。ヒト凍結肝細胞の培養及び評価は行わなかった。
[比較例2]
比較例2では、培養プレートの底面が、TPXフィルムで構成される24ウェル培養プレートを用い、PETフィルム1を貼付しなかったこと以外は実施例1と同様にしてラット凍結肝細胞及びヒト凍結肝細胞の培養及び評価を実施した。結果を表2及び図3に示す。
Figure 0007364825000001
Figure 0007364825000002
(結果)
実施例1~4はいずれも、播種24時間後における細胞接着性が良好であった。また、代謝活性維持率も良好で、播種24時間後から播種48時間後にかけて起こる、細胞の代謝活性の低下を抑制できた。実施例1~4の培養容器は、肝細胞を良好に接着させ、肝細胞の正常な機能を維持できるものであることが明らかになった。
参考例1は、代謝活性維持率が低く、播種24時間後から播種48時間後にかけて、細胞の代謝活性が低下していた。酸素透過度の低いPETフィルムを培養中に剥離せず、貼付したままであり、播種24時間後から播種48時間後にかけて、細胞への酸素供給が不充分であったためと考えられる。
比較例1は、代謝活性維持率が低く、播種24時間後から播種48時間後にかけて、細胞の代謝活性が低下していた。培養容器の底面が酸素透過度の低いPSで構成されており、播種24時間後から播種48時間後にかけて、細胞への酸素供給が不充分であったためと考えられる。
比較例2は、代謝活性維持率は良好であり、播種24時間後から播種48時間後にかけて起こる、細胞の代謝活性の低下を抑制できた。しかし、播種24時間後において、細胞が培養容器に接着せず、剥離していた。培養容器の底面が酸素透過度の高いTPXフィルムのみで構成されており、播種直後から播種24時間後にかけて、細胞への酸素供給が過剰であったためと考えられる。
<参照による援用>
この出願は、2021年11月9日に日本国特許庁に出願された特願2021-182633号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。

Claims (12)

  1. 細胞、組織、又は器官を培養する培養容器であって、
    前記培養容器が、底面部材と、側壁部材とを有し、
    前記底面部材と前記側壁部材とが接合することで少なくとも一つの培養空間が形成され、
    前記底面部材の少なくとも一部が、少なくとも酸素透過層(I-b)と、ガスバリア層(II-b)とを有し、
    前記ガスバリア層(II-b)が、前記酸素透過層(I-b)の下に、前記酸素透過層(I-b)から着脱可能に重ねられ、
    前記ガスバリア層(II-b)が、下記要件(5)を満たし、
    前記酸素透過層(I-b)が、下記要件(6)を満たす、
    培養容器であって、
    前記底面部材の領域の80%以上が前記酸素透過層(I-b)と前記ガスバリア層(II-b)とを有する領域であり、
    前記ガスバリア層(II-b)の領域の少なくとも一部が前記酸素透過層(I-b)から培養中に取り外されるものであり、
    下記方法で測定される、前記ガスバリア層(II-b)の前記酸素透過層(I-b)に対する剥離強度が、0.01~0.20N/25mmである、
    培養容器。
    (5)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(II-b)が3000cm/(m×24h×atm)以下である
    (6)温度23℃、湿度0%の時の酸素透過度P(I-b)が前記P(II-b)の6.0倍以上である
    [幅25mmのガスバリア層(II-b)を酸素透過層(I-b)に貼付した後、剥離試験機を用いて、ガスバリア層(II-b)を酸素透過層(I-b)から剥離角度180°で10mm/分の速度で剥離する試験を行う。]
  2. 前記ガスバリア層(II-b)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ、下記要件(7)または(8)を満たす、請求項1に記載の培養容器。
    (7)ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種と、粘着剤との混合物を含む
    (8)ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種を含む層と、粘着剤を含む層と、を有する
  3. 前記酸素透過層(I-b)が、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む、請求項1又は2に記載の培養容器。
  4. 前記4-メチル-1-ペンテン重合体(X)が、4-メチル-1-ペンテン単独重合体(x1)並びに、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体(x2)から選択される少なくとも1種の重合体である、請求項に記載の培養容器。
  5. 前記P(I-b)が、20000~60000cm/(m×24h×atm)である、請求項1又は2に記載の培養容器。
  6. 前記底面部材の、前記酸素透過層(I-b)と前記ガスバリア層(II-b)とを有する領域の、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である、請求項1又は2に記載の培養容器。
  7. 前記酸素透過層(I-b)の、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である、請求項1又は2に記載の培養容器。
  8. 前記ガスバリア層(II-b)の、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が70%以上である、請求項1又は2に記載の培養容器。
  9. 前記酸素透過層(I-b)の水接触角が、30~120°である、請求項1または2に記載の培養容器。
  10. 前記底面部材の培養面に、天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料がコーティングされた、請求項1または2に記載の培養容器。
  11. 細胞、組織、又は器官の培養方法であって、
    請求項1または2に記載の培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官を培養する工程(A-b)、
    培養中に前記ガスバリア層(II-b)を前記酸素透過層(I-b)から取り外す工程(B-b)、及び
    前記工程(B-b)で得られた培養容器を用いて、細胞、組織、又は器官をさらに培養する工程(C-b)、
    を含む、培養方法。
  12. 請求項1または2に記載の培養容器の製造方法であって、
    前記方法が、
    前記側壁部材に、前記底面部材を貼付する工程を含む、培養容器の製造方法。
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