JP7360887B2 - 振動解析装置及び振動測定システム - Google Patents
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Description
本発明は、振動解析装置及び振動測定システムに関し、特に、測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置、及びそれを備える振動測定システムに関する。
特開2016-24007号公報(特許文献1)は、転がり軸受等の診断システムを開示する。この診断システムでは、情報端末器は、振動センサにより測定された加速度データを取り込んでサーバへ送信する。サーバは、加速度データから転がり軸受等の異常を診断し、診断結果を情報端末器へ返送する。そして、情報端末器は、サーバから返送された診断結果を表示する(特許文献1参照)。
また、米国特許第7587299号明細書(特許文献2)は、機械設備に用いられる軸受の異常診断方法を開示する。この異常診断方法では、軸受の異常によって生じる周波数成分のみが抽出される。具体的には、内輪欠陥成分、外輪欠陥成分、転動体欠陥成分、及び保持器成分の周波数が抽出される。これらの周波数成分は、内輪回転速度、転動体直径、ピッチ円直径、転動体数、及び接触角に基づいて計算される。そして、抽出された周波数成分の大きさに基づいて異常診断が行なわれる(特許文献2参照)。
特許文献1に記載の診断システムでは、サーバにおいて診断が行なわれ、サーバから返送された診断結果が情報端末器に表示されるので、ユーザは、情報端末器で診断結果を確認することができる。一方、診断結果を情報端末器にどのように表示するかについては、特許文献1では特に検討されていない。情報端末器を利用するユーザに診断結果を分かりやすく表示することは、このような診断システムの利便性向上に資する。
特許文献2に記載の異常診断方法は、軸受の異常によって生じる周波数成分のみ(内輪欠陥成分、外輪欠陥成分、転動体欠陥成分、及び保持器成分)について異常診断を行なうものであるため、ミスアライメントや軸のアンバランス等その他の異常については、診断は行なわれない。ユーザによっては、軸受の異常によって生じる特定の周波数成分ではなく、ユーザが注視したい周波数帯域についての診断を希望することも想定される。
それゆえに、本発明の目的は、測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置において、振動解析の結果を分かりやすく表示することである。
また、本発明の他の目的は、測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置において、ユーザが注視したい周波数帯域についての診断結果を提供可能とすることである。
本発明のある局面に従う振動解析装置は、測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置であって、設定部と、分析部と、処理部と、判定部と、表示部とを備える。設定部は、回転体に関する情報、及び回転体の振動状態を診断するための判定基準値を設定する。分析部は、測定器から受信した測定データの周波数分析を実行する。処理部は、周波数分析により得られる周波数スペクトルにおいてピーク値の大きい方から所定数のピークについて、回転体に関する情報に基づいて部位を特定する。判定部は、所定数のピークについて、ピーク値及び判定基準値に基づいて振動状態を判定する。表示部は、所定数のピークについて、ピーク値、部位、及び判定部の判定結果を表示する。
この振動解析装置においては、周波数分析により得られる周波数スペクトルにおいてピーク値の大きい方から所定数のピークについて、ピーク値、部位、及び判定部の判定結果が表示される。これにより、ユーザは、注視すべきポイントを表示結果から探したり、周波数スペクトルのグラフから値を読み取ったりする必要はなく、振動の大きいピークについて、振動の大きさ、部位、当該部位の振動状態(たとえば、危険レベル、注意レベル、良好レベル等)を容易に把握することができる。
好ましくは、所定数は、振動解析装置を利用するユーザにより設定される。
また、本発明の他の局面に従う振動解析装置は、測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置であって、設定部と、分析部と、判定部とを備える。設定部は、回転体に関する情報、振動解析を行なう複数の周波数帯域、及び複数の周波数帯域に対応して設けられる複数の判定基準値を設定する。分析部は、測定器から受信した測定データの周波数分析を実行する。判定部は、複数の周波数帯域の各々において、周波数分析により得られる周波数スペクトルのピーク値と、当該周波数帯域に対応する判定基準値とに基づいて、当該周波数帯域における振動状態を判定する。
この振動解析装置においては、振動状態を診断するための判定基準値が周波数帯域毎に設定され、各周波数帯域において、周波数スペクトルのピーク値と、当該周波数帯域に対応する判定基準値とに基づいて、当該周波数帯域における振動状態が判定される。これにより、軸受の異常(内輪、外輪、転動体、保持器の欠陥)によって生じる特定の周波数成分ではなく、設定された周波数帯域毎に、適切な判定基準値に基づいて診断が行なわれる。したがって、この振動解析装置によれば、ユーザが注視したい周波数帯域についての診断結果を提供することができる。
好ましくは、複数の周波数帯域は、振動解析装置を利用するユーザにより設定される。
好ましくは、回転体は、軸受である。
好ましくは、回転体に関する情報は、(i)軸受の回転速度又は回転周波数と、(ii)軸受の諸元、又は軸受のBPFI(Ball Pass Frequency of Inner ring、内輪通過周波数)、BPFO(Ball Pass Frequency of Outer ring、外輪通過周波数)、及びBSF(Ball Spin Frequency、転動体回転周波数)の算出に用いられる回転周波数の係数とを含む。
好ましくは、振動解析装置は、測定器と無線通信を行なう通信部をさらに備える。
また、本発明の振動測定システムは、測定対象である回転体の振動を測定する測定器と、測定器から測定データを受信して振動解析を行なう上記の振動解析装置とを備える。
本発明によれば、測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置において、振動解析の結果を分かりやすく表示することができる。
また、本発明によれば、測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置において、ユーザが注視したい周波数帯域についての診断結果を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に従う振動測定システムを示す図である。図1を参照して、振動測定システム10は、測定器20と、携帯情報端末30とを備える。
図1は、本発明の実施の形態1に従う振動測定システムを示す図である。図1を参照して、振動測定システム10は、測定器20と、携帯情報端末30とを備える。
測定器20は、測定対象である転がり軸受15に生じる振動を測定するための機器であり、振動を検出するための加速度センサ(図示せず)を含んで構成される。測定器20は、携帯情報端末30と無線通信可能に構成されており、携帯情報端末30から測定開始信号を受信すると、転がり軸受15に生じる振動を加速度センサによって検出する。そして、測定器20は、加速度センサにより検出された加速度データを携帯情報端末30へ送信する。
携帯情報端末30は、本発明における「振動解析装置」であり、測定器20から測定データ(振動の加速度データ)を受信して、転がり軸受15に生じている振動の解析を行なう。携帯情報端末30は、振動測定システム10を利用するユーザが利用可能な端末であり、たとえばスマートフォンやタブレット等である。携帯情報端末30上で動作するアプリケーションソフトによって、携帯情報端末30を「振動解析装置」として用いることができる。
図2は、測定器20の構成を示す図である。図2を参照して、測定器20は、加速度センサ102と、アンチエイリアシングフィルタ104と、A/D変換器106と、マイクロコンピュータ108と、メモリ110と、通信モジュール112とを含む。
加速度センサ102は、測定対象である転がり軸受15(図1)を内蔵するハウジング等に取り付けられ、転がり軸受15に生じる振動の加速度を検出して出力する。アンチエイリアシングフィルタ104は、A/D変換器106におけるA/D変換時に発生するエイリアシング誤差を抑制するためのローパスフィルタである。A/D変換器106は、アンチエイリアシングフィルタ104を通過した測定信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。
マイクロコンピュータ108は、A/D変換器106によりデジタル信号に変換された加速度データを受け、メモリ110へ出力する。そして、所定量のデータがメモリ110に蓄積されると、マイクロコンピュータ108は、蓄積されたデータをメモリ110から読み出して、測定器20による測定データとして通信モジュール112により携帯情報端末30へ送信する。
メモリ110は、A/D変換器106によりデジタル信号に変換された加速度データをマイクロコンピュータ108から受けて一時的に記憶する。通信モジュール112は、測定器20が携帯情報端末30と無線通信を行なうための無線モジュールである。
図3は、携帯情報端末30の構成を示す図である。図3を参照して、携帯情報端末30は、設定部202と、通信部204と、分析部206と、データベース(DB)部208と、判定部210と、表示部212と、中央処理部214とを含む。
設定部202は、測定対象である転がり軸受15(図1)に関する情報を設定する。本実施の形態1では、設定される情報は、携帯情報端末30の画面からユーザにより入力されるものとするが、予めDB部208に記憶しておいて、振動測定システム10による振動測定の開始時にDB部208から読み出してもよい。転がり軸受15に関する情報は、転がり軸受15の軸受型番、測定器20による測定時の転がり軸受15の回転速度又は回転周波数等である。
なお、本実施の形態1では、振動測定システム10により振動測定可能な各種軸受の諸元データが軸受型番に対応付けられてDB部208に予め格納されている。そして、設定部202により設定される軸受型番の軸受の諸元データがDB部208から読み出されるものとしているが、設定部202により、転がり軸受15に関する情報として、転がり軸受15の諸元データを直接設定してもよい。
また、設定部202は、判定部210において測定対象である転がり軸受15の振動状態を判定するための判定基準値をさらに設定する。この判定基準値についても、本実施の形態1では、携帯情報端末30の画面からユーザにより入力されるものとするが、予めDB部208に記憶しておいて、振動測定システム10による振動測定の開始時にDB部208から読み出してもよい。
通信部204は、携帯情報端末30が測定器20と無線通信を行なうためのユニットであり、無線モジュールによって構成される。通信部204は、中央処理部214からの指示に従って、振動測定システム10による振動測定の開始時に測定開始信号を測定器20へ送信する。また、通信部204は、測定器20から送信されてくる測定データ(加速度データ)を受信する。
分析部206は、通信部204により受信した測定データ(加速度データ)の周波数分析を実行する。一例として、分析部206は、通信部204により受信した時系列の加速度データに対して高速フーリエ変換(FFT)処理を行ない、測定データ(加速度データ)の周波数スペクトルを生成する。
DB部208は、この振動測定システム10により振動測定可能な各種軸受の諸元データを軸受型番に対応付けて記憶している。本実施の形態1では、諸元データは、以下の式(1)~(3)に示すBPFI(内輪通過周波数)、BPFO(外輪通過周波数)、BSF(転動体回転周波数)を算出可能なデータを少なくとも含む。
ここで、Dは軸受のピッチ円直径、dは転動体の直径、αは転動体の接触角、Zは転動体の数を示す。なお、f0は内輪軸の回転周波数を示し、設定部202により設定されるか、設定部202により回転速度が設定される場合には、その回転速度から算出される。
DB部208は、少なくとも、上記のピッチ円直径D、転動体の直径d、転動体の接触角α、転動体の数Zの諸元データを軸受型番に対応付けて記憶している。なお、これらの諸元データに代えて、BPFI、BPFO、BSFをそれぞれ算出するための、回転周波数f0の係数Cin,Cout,CrolをDB部208に記憶しておいてもよい。係数Cin,Cout,Crolは、以下の式(4)~(6)によって示される。
中央処理部214は、設定部202により設定された、転がり軸受15に関する情報に基づいて、測定時における転がり軸受15のBPFI、BPFO、BSFを算出する。具体的には、中央処理部214は、設定部202により設定された軸受型番に対応する軸受の諸元データをDB部208から読み出し、読み出された諸元データと、設定部202により設定された回転速度(又は回転周波数)とから、上記の式(1)~(3)を用いてBPFI、BPFO、BSFを算出する。
また、中央処理部214は、分析部206により得られる加速度データの周波数スペクトルにおけるピークについて、ピーク毎に部位を特定する。より詳しくは、ピークの周波数(以下「ピーク周波数」と称する。)がBPFI及びその高次成分と一致するピークについては、内輪に欠陥が生じているものと特定される。また、ピーク周波数がBPFO及びその高次成分と一致するピークについては、外輪に欠陥が生じているものと特定され、ピーク周波数がBSF及びその高次成分と一致するピークについては、転動体に欠陥が生じているものと特定される。
また、ピーク周波数が軸の回転周波数及びその高次成分と一致するピークについては、軸のアンバランスが生じているものと特定され、ピーク周波数が回転周波数の2倍の周波数及びその高次成分と一致するピークについては、ミスアライメントが生じているものと特定される。このように、本実施の形態1では、ピークに対応する部位について、BPFI、BPFO、BSFに対応する軸受の部位(内輪、外輪、転動体)だけでなく、軸のアンバランスやミスアライメント等の軸受そのもの以外の部位も特定される。
判定部210は、ピーク周波数のピーク値(加速度)、及び設定部202により設定された判定基準値に基づいて、ピーク毎に振動状態を判定する。たとえば、判定部210は、ピーク値が判定基準値を超えるピークについては「危険」と判定する。また、判定部210は、たとえば、ピーク値が判定基準値よりも低いけれども判定基準値の8割を超えるピークについては「注意」と判定し、ピーク値が判定基準値の8割よりも低いピークについては「良好」と判定する。
表示部212は、ピーク値の上位10位のピークについて、ピーク値、部位、及び判定部210の判定結果(「危険」「注意」「良好」等)を携帯情報端末30の画面に表示する。なお、表示されるピークの数は、10個に限られるものではなく、その他の数でもよいし、デフォルトで10としつつ、携帯情報端末30の画面からユーザが設定可能としてもよい。
なお、この実施の形態1では、表示部212により表示されるピーク数に従って、中央処理部214は、ピーク値の上位10位のピークについて部位を特定し、判定部210は、ピーク値の上位10位のピークについて振動状態を判定するものとするが、中央処理部214は、特定される全てのピークについて部位を特定してもよく、判定部210は、特定される全てのピークについて振動状態を判定してもよい。
図4は、表示部212による表示例を示す図である。この図4には、表示部212による表示情報が表示された携帯情報端末30の画面が示されている。
図4を参照して、この例では、ピーク値の上位10位のピークについて、ピーク値(加速度)、ピーク周波数、判定部210の判定結果、部位(損傷箇所)が、ピーク値(加速度)の大きい順(a1>a2>・・・>a10)に表示される。なお、表示されるピークについては、高次成分のピークも含まれている(「回転2次」「外輪2次」等)。
なお、この例では、ピーク値の大きい順に表示されているが、周波数の小さい順(f1<f2<・・・<f10)に表示する等してもよい。また、判定結果に応じて色分け表示(たとえば、「危険」は赤色、「注意」は黄色、「良好」は緑色)する等してもよい。
図5は、設定部202により設定される情報の一例を示す図である。設定部202により設定される情報は、携帯情報端末30の画面からユーザが入力可能であり、この図5には、当該情報をユーザが入力するための携帯情報端末30の画面が示されている。
図5を参照して、入力部310からは、測定対象である転がり軸受15(図1)の軸受型番を入力することができる。
入力部320からは、測定時の軸の回転速度(min-1)を入力することができる。なお、この振動測定システム10では、測定器20による測定時の軸の回転速度を検出するセンサは設けられていないため、測定に際し回転速度の情報を入手して入力部320から入力する必要があるが、回転速度センサが付属している場合には、入力部320は不要である。また、入力部320において、測定時の軸の回転速度に代えて、測定時の軸の回転周波数を入力するようにしてもよい。
入力部330からは、判定部210において用いられる判定基準値(加速度)を入力することができる。なお、本実施の形態1では、判定基準値は、ピーク周波数に拘わらず一律の値としている。
入力部340からは、表示部212により表示されるピーク値上位の表示点数を入力することができる。この入力値に従って、表示部212により表示されるピークの数が設定される。なお、入力部340からの入力がない場合は、デフォルト値(たとえば10)が設定される。
図6は、測定器20における処理の手順の一例を示すフローチャートである。図6とともに図2を参照して、測定器20の電源がオンされると、マイクロコンピュータ108は、所定の初期化処理を実行する(ステップS10)。初期化処理では、たとえば、通信モジュール112と携帯情報端末30との間の通信確立や、メモリ110のデータクリア等が行なわれる。
次いで、マイクロコンピュータ108は、携帯情報端末30から測定開始信号を受信したか否かを判定する(ステップS20)。そして、測定開始信号が受信されると(ステップS20においてYES)、マイクロコンピュータ108は、アンチエイリアシングフィルタ104を通過し、かつ、A/D変換器106によりデジタル変換された加速度センサ102の出力をA/D変換器106から読み込む(ステップS30)。
マイクロコンピュータ108は、A/D変換器106から読み込んだデータをメモリ110に一時的に保存する(ステップS40)。そして、マイクロコンピュータ108は、取得されたデータが所定数に達したか否かを判定し(ステップS50)、取得データが所定数に達していなければ(ステップS50においてNO)、ステップS30,S40の処理を繰り返す。
ステップS50において取得データが所定数に達したと判定されると(ステップS50においてYES)、マイクロコンピュータ108は、取得データをメモリ110から読み出して、通信モジュール112により携帯情報端末30へデータを送信する(ステップS60)。
次いで、マイクロコンピュータ108は、測定を終了する終了操作がユーザにより行なわれたか否かを判定する(ステップS70)。なお、終了操作は、携帯情報端末30において行なわれ、たとえば、携帯情報端末30から測定終了信号を受信すると、終了操作が行なわれたものと判定される。
終了操作が行なわれていないと判定されたときは(ステップS70においてNO)、ステップS20へ処理が戻される。一方、終了操作が行なわれたと判定されると(ステップS70においてYES)、エンドへ処理が移行して、測定器20における一連の処理が終了する。
図7は、携帯情報端末30における処理の手順の一例を示すフローチャートである。図7とともに図3を参照して、測定器20を用いた振動測定を行なうためのアプリケーションソフトが携帯情報端末30上で起動され、当該アプリケーションソフトにおいて測定の開始が指示されると、中央処理部214は、所定の初期化処理を実行する(ステップS110)。初期化処理では、たとえば、通信部204と測定器20との間の通信確立や、所定のリセット処理等が行なわれる。
次いで、中央処理部214からの指示に従って、設定部202により、測定対象である転がり軸受15の軸受型番、測定時の回転速度(又は回転周波数)、測定データに基づいて振動状態を判定するための判定基準値等が設定される(ステップS115)。上記の各設定値は、携帯情報端末30の画面からユーザにより入力される。
次いで、中央処理部214は、設定された軸受型番に対応する軸受の諸元データをDB部208から読み出し、その諸元データと、設定された回転速度から算出される回転周波数とから、上記の式(1)~(3)を用いて、測定対象の転がり軸受15のBPFI、BPFO、BSFを算出する(ステップS120)。その後、中央処理部214は、通信部204を通じて測定器20へ測定開始信号を送信する(ステップS125)。
測定開始信号が測定器20へ送信されると、中央処理部214は、測定器20から測定データ(加速度データ)を受信したか否かを判定する(ステップS130)。そして、測定器20から測定データが受信されると(ステップS130においてYES)、中央処理部214は、受信された測定データをメモリ(図示せず)に保存する(ステップS135)。
次いで、中央処理部214は、測定器20から受信した測定データが所定数に達したか否かを判定し(ステップS140)、データが所定数に達していなければ(ステップS140においてNO)、ステップS130,S135の処理を繰り返す。
ステップS140においてデータが所定数に達したと判定されると(ステップS140においてYES)、中央処理部214は、メモリからデータを読み出して、分析部206により、測定器20により測定されたデータ(加速度データ)の周波数分析を実行する(ステップS145)。具体的には、測定器20により測定された時系列の加速度データに対して高速フーリエ変換(FFT)処理が行なわれ、測定された加速度データの周波数スペクトルが得られる。
次いで、中央処理部214は、得られた周波数スペクトルにおけるピークについて、ピーク値の上位10位を抽出し、その抽出された上位10位のピークについて、ピーク周波数に対応する部位を特定する。具体的には、中央処理部214は、抽出されたピークの各々について、ピーク周波数が、BPFI、BPFO、BSF、及びそれらの高次成分のいずれと一致するか、或いは、軸の回転周波数、その2倍の周波数、及びそれらの高次成分のいずれと一致するかによって、当該ピークが、内輪、外輪、転動体、軸のアンバランス、ミスアライメント等のいずれの欠陥によるものかを特定する。そして、中央処理部214は、特定された各部位について、判定部210により、設定された判定基準値に基づいて、各部位の振動状態を判定する(ステップS150)。
たとえば、判定部210は、ピーク値が判定基準値を超えるピークについては「危険」と判定する。また、判定部210は、ピーク値が判定基準値よりも低いけれども判定基準値の8割を超えるピークについては「注意」と判定し、ピーク値が判定基準値の8割よりも低いピークについては「良好」と判定する。
そして、中央処理部214は、表示部212により、ピーク値の上位10位の各ピークについて、ステップS150の判定結果、ピーク値、ピーク周波数、及び部位を、周波数スペクトルの波形とともに携帯情報端末30の画面に表示する(ステップS155)。
次いで、中央処理部214は、測定を終了する終了操作がユーザにより行なわれたか否かを判定する(ステップS160)。終了操作が行なわれていないと判定されたときは(ステップS160においてNO)、ステップS115へ処理が戻される。一方、終了操作が行なわれたと判定されると(ステップS160においてYES)、エンドへ処理が移行して、携帯情報端末30における一連の処理が終了する。
以上のように、この実施の形態1では、測定データの周波数スペクトルにおいてピーク値の上位10位のピークについて、ピーク値(加速度)、ピーク周波数、振動状態の判定結果(「危険」「注意」「良好」等)、部位(損傷箇所)等が携帯情報端末30の画面に表示される。これにより、ユーザは、振動の大きいピークについて、その大きさ、部位、当該部位の振動状態を容易に把握することができる。
また、この実施の形態1によれば、表示されるピークの数をユーザが設定可能であるので、ユーザの希望に沿った表示を実現することができる。また、測定器20と携帯情報端末30とは、無線により通信が行なわれるので、ユーザは、測定器20を測定対象に設置しさえすれば、無線通信が可能な範囲で場所を選ばずに振動解析結果を確認することができる。
[実施の形態2]
実施の形態1では、振動状態(「危険」「注意」「良好」等)を判定するための判定基準値は、周波数に拘わらず一律に設定されるものとしたが、この実施の形態2では、周波数帯域毎に判定基準値が設定される。これにより、設定された周波数帯域毎に、適切な判定基準値に基づいて診断が行なわれるとともに、ユーザが注視したい周波数帯域についての診断を提供することができる。
実施の形態1では、振動状態(「危険」「注意」「良好」等)を判定するための判定基準値は、周波数に拘わらず一律に設定されるものとしたが、この実施の形態2では、周波数帯域毎に判定基準値が設定される。これにより、設定された周波数帯域毎に、適切な判定基準値に基づいて診断が行なわれるとともに、ユーザが注視したい周波数帯域についての診断を提供することができる。
この実施の形態2に従う振動測定システムの全体構成は、図1から図3に示した実施の形態1と同様である。
図8は、実施の形態2における判定基準値の一例を示す図である。図8において、横軸は周波数を示し、縦軸は加速度(振動)を示す。図8を参照して、波形は、分析部206により実行された周波数分析の結果の一例である。
判定基準値Tai(i=1~10)は、それぞれ周波数帯域Δfi(i=1~10)毎に設定される。この例では、周波数0から一定の幅で10の周波数帯域が設定され、周波数帯域毎に判定基準値が設定されているが、周波数帯域の数は10に限定されるものではなく、また、各周波数帯域の幅も必ずしも一定でなくてもよい。
周波数帯域Δfiの決定方法は、たとえば、各周波数帯域の幅を一定として、周波数帯域の幅及び数を設定するようにしてもよいし、周波数帯域の数を一定として、解析を行なう周波数の上限を設定するようにしてもよい。
そして、設定された周波数帯域毎に判定基準値を設定することにより、ユーザが注視したい周波数帯域について、適切な診断結果をユーザに提供することが可能となる。
図9は、実施の形態2において設定部202により設定される情報の一例を示す図である。実施の形態2においても、設定部202により設定される情報は、携帯情報端末30の画面からユーザが入力可能であり、この図9には、当該情報をユーザが入力するための携帯情報端末30の画面が示されている。
図9を参照して、入力部410からは、測定対象である転がり軸受15(図1)の軸受型番を入力することができる。入力部420からは、測定時の軸の回転速度(min-1)を入力することができる。なお、入力部420において、測定時の軸の回転速度に代えて、測定時の軸の回転周波数を入力するようにしてもよい。
入力部430からは、周波数帯域毎に設定される判定基準値に基づいて行なわれる振動状態の判定について、各周波数帯域の幅を一定とする場合に、その周波数帯域の幅を入力することができる。また、入力部440からは、周波数帯域の数を一定とする場合に、解析を行なう周波数の上限を入力することができる。ユーザは、入力部430,440のいずれか一方を入力すればよく、仮に入力部430,440の双方から入力があった場合には、予め定められた一方(たとえば入力部430)の値が採用される。
入力部450からは、周波数帯域の数を入力することができる。入力部430からの入力によって周波数帯域幅が設定されている場合には、その周波数帯域幅を有する周波数帯域が、入力部450から入力された数だけ設定される。入力部440からの入力によって上限周波数が設定されている場合には、その上限周波数を、入力部450から入力された数で除算することによって、入力部450から入力された数の周波数帯域が設定される。
入力部460からは、周波数帯域毎に判定基準値を設定することができる。入力部460には、入力部430から入力された周波数帯域幅、又は入力部440から入力された上限周波数と、入力部450から入力された周波数帯域数とから設定される各周波数帯域が表示され、周波数帯域毎に判定基準値が示される。入力部460に示されている判定基準値は、入力機器(マウス或いはタッチパネル等)を用いて上下に移動可能である。ユーザは、入力部460において、入力機器を用いて周波数帯域毎に判定基準値を設定することができる。
図10は、実施の形態2の携帯情報端末30における処理の手順の一例を示すフローチャートである。図10とともに図3を参照して、実施の形態2においても、測定器20を用いた振動測定を行なうためのアプリケーションソフトが携帯情報端末30上で起動され、当該アプリケーションソフトにおいて測定の開始が指示されると、中央処理部214は、所定の初期化処理を実行する(ステップS210)。この初期化処理は、図7のステップS110で実行される処理と同じである。
次いで、中央処理部214からの指示に従って、設定部202により、測定対象である転がり軸受15の軸受型番、測定時の回転速度(又は回転周波数)等が設定される(ステップS215)。これらの設定値は、携帯情報端末30の画面からユーザにより入力される。
さらに、設定部202により、周波数帯域毎に判定基準値が設定される(ステップS220)。図9で説明したように、入力部430~450からの入力値に基づいて各周波数帯域が設定され、入力部460からの入力に基づいて周波数帯域毎の判定基準値が設定される。
ステップS220において周波数帯域毎に判定基準値が設定されると、ステップS225へ処理が移行される。ステップS225~S250の処理は、図7のステップS120~S145の処理と同じであるため、説明を繰り返さない。
ステップS250において、測定器20により測定されたデータ(加速度データ)の周波数分析が実行されると、中央処理部214は、判定部210により、ステップS220において設定された周波数帯域毎の判定基準値に基づいて、周波数帯域毎の転がり軸受15の振動状態を判定する(ステップS255)。
たとえば、周波数帯域毎に、ピーク値が判定基準値を超えるピークが存在する場合には「危険」と判定される。また、周波数帯域毎に、ピーク値が判定基準値を超えるピークはないけれども判定基準値の8割を超えるピークが存在する場合には「注意」と判定され、ピーク値が判定基準値の8割を超えるピークが存在しない場合には「良好」と判定される。
次いで、中央処理部214は、ピーク値が判定基準値を超えるピークについて、当該ピークに対応する部位を特定する(ステップS260)。具体的には、中央処理部214は、ピーク値が判定基準値を超える各ピークについて、ピーク周波数が、BPFI、BPFO、BSF、及びそれらの高次成分のいずれと一致するか、或いは、軸の回転周波数、その2倍の周波数、及びそれらの高次成分のいずれと一致するかによって、当該ピークが、内輪、外輪、転動体、軸のアンバランス、ミスアライメント等のいずれの欠陥によるものかを特定する。
そして、中央処理部214は、表示部212により、ピーク値が判定基準値を超える各ピークについて、ステップS255の判定結果、ピーク値、ピーク周波数、及び部位を、周波数スペクトルの波形とともに携帯情報端末30の画面に表示する(ステップS265)。
次いで、中央処理部214は、測定を終了する終了操作がユーザにより行なわれたか否かを判定する(ステップS270)。終了操作が行なわれていないと判定されたときは(ステップS270においてNO)、ステップS215へ処理が戻される。一方、終了操作が行なわれたと判定されると(ステップS270においてYES)、エンドへ処理が移行して、携帯情報端末30における一連の処理が終了する。
以上のように、この実施の形態2では、周波数帯域毎に判定基準値が設定され、各周波数帯域において、周波数スペクトルのピーク値と判定基準値とに基づいて振動状態が判定される。これにより、軸受の異常(内輪、外輪、転動体、保持器の欠陥)によって生じる特定の周波数成分ではなく、設定された周波数帯域毎に、適切な判定基準値に基づいて診断が行なわれる。したがって、この実施の形態2によれば、ユーザが注視したい周波数帯域についての診断結果を提供することができる。
また、この実施の形態2によっても、測定器20と携帯情報端末30とは、無線により通信が行なわれるので、ユーザは、測定器20を測定対象に設置しさえすれば、無線通信が可能な範囲で場所を選ばずに振動解析結果を確認することができる。
なお、上記の各実施の形態1,2では、測定器20と携帯情報端末30とは、無線により通信が行なわれるものとしたが、図11に示されるように、測定器20と携帯情報端末30とを通信線40で接続し、通信線40を通じて測定器20と携帯情報端末30との間で通信を行なってもよい。
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
10 振動測定システム、15 測定対象(転がり軸受)、20 測定器、30 携帯情報端末、40 通信線、102 加速度センサ、104 アンチエイリアシングフィルタ、106 A/D変換器、108 マイクロコンピュータ、110 メモリ、112 通信モジュール、202 設定部、204 通信部、206 分析部、208 DB部、210 判定部、212 表示部、214 中央処理部、310~340,410~460 入力部。
Claims (8)
- 測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置であって、
前記回転体に関する情報、及び前記回転体の振動状態を診断するための判定基準値を設定する設定部と、
前記測定器から受信した測定データの周波数分析を実行する分析部と、
前記周波数分析により得られる周波数スペクトルにおいてピーク値の大きい方から所定数のピークについて、前記回転体に関する情報に基づいて部位を特定する処理部と、
前記所定数のピークについて、ピーク値及び前記判定基準値に基づいて振動状態を判定する判定部と、
前記所定数のピークについて、前記ピーク値、前記部位、及び前記判定部の判定結果を表示する表示部とを備える振動解析装置。 - 前記所定数は、前記振動解析装置を利用するユーザにより設定される、請求項1に記載の振動解析装置。
- 測定対象である回転体の振動を測定する測定器から測定データを受信して振動解析を行なう振動解析装置であって、
前記回転体に関する情報、振動解析を行なう複数の周波数帯域、及び前記複数の周波数帯域に対応して設けられる複数の判定基準値を設定する設定部と、
前記測定器から受信した測定データの周波数分析を実行する分析部と、
前記複数の周波数帯域の各々において、前記周波数分析により得られる周波数スペクトルのピーク値と、当該周波数帯域に対応する判定基準値とに基づいて、当該周波数帯域における振動状態を判定する判定部とを備える振動解析装置。 - 前記複数の周波数帯域は、前記振動解析装置を利用するユーザにより設定される、請求項3に記載の振動解析装置。
- 前記回転体は、軸受である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の振動解析装置。
- 前記回転体に関する情報は、
前記軸受の回転速度又は回転周波数と、
前記軸受の諸元、又は前記軸受のBPFI、BPFO及びBSFの算出に用いられる前記回転周波数の係数とを含む、請求項5に記載の振動解析装置。 - 前記測定器と無線通信を行なう通信部をさらに備える、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の振動解析装置。
- 測定対象である回転体の振動を測定する測定器と、
前記測定器から測定データを受信して振動解析を行なう、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の振動解析装置とを備える振動測定システム。
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