JP7360689B2 - 熱可塑性樹脂部材の接合方法及び接合部構造 - Google Patents

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本発明は、熱可塑性樹脂部材の接合方法及び接合部構造に関し、特に熱可塑性樹脂から成るロッドとソケットを熱溶着により高い付着力で接合する熱可塑性樹脂部材の接合方法及び接合部構造に関する。
炭素繊維複合材料(Carbon Fiber Reinforced Plastics : CFRP)をロッドに成形してプレストレストコンクリート(Prestressed Concrete : PC)のプレテンション材に使用したり(特許文献1)、建築物の耐震補強材として使用したりする(特許文献2)ことが知られている。この場合、ロッドの末端を安定且つ強固に把持する必要があるため、把持用の中空部材(以下、「ソケット」という。)を取り付けることが多い。
CFRPのうち特に母材に熱可塑性樹脂を用いたものはCarbon Fiber Reinforced Thermo Plastics : CFRTPと呼ばれ、常温保管が可能、量産性に優れる、後加工が容易、リサイクルが可能、製造コストが比較的安いといった利点があることから今後様々な分野での利用が期待されている。
特許文献1には複数のCFRPの素線を撚り合わせて成る線条体の末端部分に、最末端に向かって拡径するくさびを固定し、このくさびをソケットの内部に固定する技術が開示されている。この技術ではくさびを固定する作業に手間がかかるという問題がある。
特許文献2にはソケットの中空部にCFRPのロッドを挿入して両者を接着剤で接合する技術が開示されている。この技術では接着剤がくさびの中空部の内周面全体に行き亘っているかどうか分かり辛く、接着不良が生じるおそれがある。
特許文献3及び4には熱可塑性樹脂から成るロッドの末端にソケットを挿入した状態で、ソケットをロッドに対して相対的に軸回りに回転させることでロッドとソケットとの接触面に摩擦熱を生じさせて両者を溶着する技術が開示されている。摩擦熱を利用してソケットをロッドに固定する方法は上記特許文献1及び2の技術と比較して実施が容易という利点がある。
特許第5913085号公報 特開2017-201090号公報 特開2001-301038号公報 特表平6-508305号公報
しかし、上記特許文献3及び4のような熱可塑性樹脂から成るロッドの末端に摩擦熱を利用してソケットを溶着する技術は以下のような問題がある。
ロッドとして複数本の素線を束ねたり撚り合わせたりして成る構造体を用いることがある。複数本の素線から成る構造体には1本の芯線の周囲を複数本の素線で取り囲んで撚り合わせたストランド構造体も含まれる。このような複数本の素線から成る構造体の末端にソケットを挿入した場合、その断面を見ると、各素線の表面の一部とソケットの内面とがほぼ点接触した状態になっている。したがって、ソケットを回転させた際に摩擦熱が生じるのは点接触している箇所だけになり、溶着面積が小さいため充分な付着強度を得られないおそれがある。
本発明は、上記のような問題を考慮して、熱可塑性樹脂から成るロッドとソケットを熱溶着により高い付着力で接合する熱可塑性樹脂部材の接合方法及び接合部構造を提供することを課題とする。
本発明の熱可塑性樹脂部材の接合方法は、母材に熱可塑性樹脂を含んで成るロッドと、母材に熱可塑性樹脂を含んで成り内部に中空部を備えるソケットを用いた熱可塑性樹脂部材の接合方法において、前記ロッドが複数本の素線から成る構造体であり、前記ロッドを前記中空部に挿入するステップと、加熱により前記ロッドの外面及び前記中空部の内面の温度を融点以上に上げると共に加圧により前記ロッドの外面に対して前記中空部の内面を押し付けるステップと、前記加圧を継続した状態で前記ロッドの外面及び前記中空部の内面の温度を融点未満に下げるステップを少なくとも備えることを特徴とする。
また、前記ロッドと前記ソケットの少なくとも一方が強化繊維を含んで成り、前記強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及び樹脂繊維のうち少なくとも1種の繊維であることを特徴とする。
本発明の熱可塑性樹脂部材の接合部構造は、母材に熱可塑性樹脂を含んで成るロッドと、母材に熱可塑性樹脂を含んで成り内部に中空部を備えるソケットを用いた熱可塑性樹脂部材の接合部構造において、
前記ロッドが複数本の素線から成る構造体であり、前記ロッドの外面と前記ソケットの内面との接触箇所に前記熱可塑性樹脂が熱溶融して成る分子結合層を備えることを特徴とする。



本発明ではロッドをソケットの中空部に挿入した状態で加熱と加圧を行う。加熱によりロッドの外面と中空部の内面を溶融させた状態で、加圧により溶融部分をロッド側に押し込むので、溶融部分がロッドの外面全体及び中空部の内面全体に拡がって分子結合層を形成する。溶着面積が大きくなるので充分な付着強度を得られる。
特に、複数本の素線から成るロッドを使用する場合、加圧により溶融部分が素線間の隙間に入り込むので付着強度を更に高めることができる。
熱可塑性樹脂に強化繊維を含有させることでロッドやソケットの強度を高めることができる。
ロッドの外形を示す斜視図(a)、ロッドの断面形状を示す図(b)、ロッドを複数本の素線で構成した場合の一例を示す断面図(c)及びストランド構造体を示す断面図(d) ソケットの外形を示す斜視図(a)、ロッドを中空部に挿入した状態を示す斜視図(b)、中空部の断面形状の例を示す図(c)、ソケットを複数の小片で構成した場合の一例を示す断面図(d)、ソケットの長手方向に沿った断面図(e)及び(f) 熱可塑性樹脂部材の接合方法を示す断面図(a)~(d) 実施例1においてロッド及びソケットに熱電対を配置した状態を示す断面図(a)、加熱・加圧と時間変化を示すグラフ(b) 試験体の仕様を示す表 試験結果を示す表 破壊モードを示す写真(a)及び(b) 実施例2における試験体の仕様と試験結果を示す表 試験後のロッド及びソケットを示す写真(a)~(c)
本発明の熱可塑性樹脂部材の接合方法について説明する。
熱可塑性樹脂部材の接合方法は少なくとも以下のステップ1~3を含む。
ステップ1:ロッドを中空部に挿入する。
ステップ2:加熱によりロッドの外面及び中空部の内面の温度を融点以上に上げると共に加圧によりロッドの外面に対して中空部の内面を押し付ける。
ステップ3:加圧を継続した状態でロッドの外面及び中空部の内面の温度を融点未満に下げる。
熱可塑性樹脂部材とは母材に熱可塑性樹脂を含んで成るロッドとソケットの2つの部材を指す。
図1(a)に示すようにロッド10は棒状の部材であり、その長さは特に限定されない。図1(b)に示すようにロッド10の断面形状も特に限定されず、円形、楕円形、多角形であってもよい。更に、ロッド10は熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂に強化繊維を含有させたものから成る小径の素線11を複数本束ねた構造体や、撚り合わせた構造体(図1(c))であってもよい。また、1本の芯線12の周囲を複数本の素線11で取り囲んで撚り合わせたストランド構造体(図1(d))であってもよい。
図2(a)に示すようにソケット20は中空部21を備えており、図2(b)に示すように中空部21にロッド20が挿入される。中空部21の断面形状はロッド10の断面形状に合わせて選択すればよく、図2(c)に示すように円形、楕円形、多角形であってもよい。ソケット20の断面形状の外形は円形に限定されず適宜選択すればよい。また、図2(d)に示すようにソケット20は複数の小片20a,20bに分割されていてもよい。この場合、複数の小片20a,20bを組み合わせた状態で中空部21が形成されればよい。図2(e)に示すように中空部21は両端部が開口していてもよく、図2(f)に示すように一方の端部だけが開口していてもよい。
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドなどが好適に使用される。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂,MMA樹脂(メチルメタクリレート樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これら熱可塑性樹脂を単独で又は二種以上を混合して使用すればよい。
また、熱可塑性樹脂に強化繊維を含有させてもよい。強化繊維としては炭素繊維、ガラス繊維及び樹脂繊維が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を混合して使用すればよい。各熱可塑性樹脂部材中の強化繊維の量は50~80質量%が好ましいが、熱可塑性樹脂部材の用途や形態によって適宜変更すればよい。
ロッド及びソケットの製造方法は周知の技術を使用すればよい。熱可塑性樹脂に強化繊維を含有させる場合には両者を溶融混練してもよいし、プリプレグに成形してよい。強化繊維は糸のまま使用してもよく、クロス加工やチョップ加工して使用してもよい。
図3(a)はステップ1でロッド10を中空部21に挿入した状態の断面図である。ソケット20は断面の外形が縦長の楕円形になっている。ロッド10として上記ストランドロッド構造体を使用している。各素線11の表面の一部が中空部21の内面に接触しているのが好ましいが、離れていてもよい。
図3(b)はステップ2で加熱によりロッド10の外面及び中空部21の内面の温度を融点以上に上げた状態を示している。ロッド10の外面と中空部21の内面が熱溶融により柔らかい状態になっている。
図3(c)は同じくステップ2で加圧(図中の矢印100参照)によりロッド10の外面に対して中空部21の内面を押し付けた状態を示している。ソケット20の断面の外形が加圧によりほぼ円形に変形している。まず加熱を開始してロッド10の外面と中空部21の内面を融点以上に上げておき、加熱を継続することで温度を維持した状態で加圧を行えばよい。しかし、加熱と加圧を同時に開始したり、或いはまず加圧を開始してその後加熱したりすることにしてもよい。加熱及び加圧の装置として周知のホットプレス機を使用すればよい。加熱及び加圧によりロッド10の外面の熱溶融した部分と中空部21の内面の熱溶融した部分とが混ざり合った状態になっている。
図3(d)はステップ3で加圧を継続した状態でロッド10の外面及び中空部21の内面の温度を融点未満に下げた状態を示している。加圧を継続しながら温度降下させることでロッド10の外面の熱溶融した部分と中空部21の内面の熱溶融した部分とが混ざり合った状態のまま硬化し、これにより分子結合層30が形成される。
本発明の熱可塑性樹脂部材の接合方法の実施例1を示す。
[ロッド及びソケットの概要]
ロッドはCABKOMA CFRTP ストランドロッド NH2447N×7(小松マテーレ製,補強繊維:炭素繊維,母材:熱可塑性エポキシ樹脂,被覆材無し)を使用した。
ソケットもCABKOMA CFRTP KBチップ(小松マテーレ製,熱可塑性樹脂含侵CFトウ)を使用した。ソケットはプレス成型した板材から切出したものを使用した。ロッドとソケットが上手く溶着するようにソケットを楕円で切り出した。ロッドは断面の公称直径が9mmであるものの、複数本の素線を撚った撚り線であり、計測位置によって微妙に寸法が変化する。したがってソケットの楕円の平面中心に直径9.5mm貫通孔を設けて中空部とした。
[熱溶着による定着部の製造]
ソケット及びロッドの熱溶着は油圧式ホットプレス機を用いた。油圧式ホットプレス機に直径20mm,長さが50mmの貫通孔を有するセパレートタイプの金型を設置し、ロッドの表面温度が融点以上の目標温度に達するまで加熱を行った。図4(a)に示すように温度管理はソケット20の表面及びロッド10の表面に設置した熱電対200,201によりリアルタイムで確認した。また、ロッド10の長さ方向に熱が伝達することが懸念されるため、加熱部から100mmの位置のロッド10の表面にも熱電対202を設置して熱伝達の影響がないことを確認した。
図4(b)のグラフに示すように加熱開始後約15分でソケットの表面温度が融点以上の目標温度に到達し(符号200)、約2分後にロッドの表面が融点以上の目標温度に到達した(符号201)。目標温度到達直後、油圧プレスにより加圧して約3分間ホールドを行い、その後、エアーで冷却してロッドの表面温度が融点未満である80℃未満になったところで加圧を終了した。
上記手順により試験体4体を製作した(図5)。試験体パラメータはそれぞれ加圧温度、ソケットの繊維方向及び楕円寸法である。繊維方向は90がロッドの繊維方向に対してソケットの繊維方向が直交方向となる場合で0がロッドの繊維方向と同方向をそれぞれ示す。カッコ内数値は加圧後の寸法を示す。
[万能試験機による引張試験]
引張試験は万能試験機を用いて行い、各試験体の自由端側を鋼管パイプ内に差し込み、セメント系の定着用膨張材で固定し、試験機のチャック部で固定した。試験方法はJIS A 1192に準拠した。載荷力は万能試験機に内蔵されているロードセルを用いて計測し、変位はチャック部の滑りや撚り線が締まる挙動などが想定されることから、ロッドの頂部の変位を計測し、ソケットからロッドが抜け出すタイミングを計測することでその時点の最大試験力を最大付着力の算出に用いた。最大付着力の算出に用いる付着面積はロッドの断面の外周長さに加圧後のソケットの長さを乗じた値とした。
図6の表に試験結果を示す。最大付着力の算出に用いる付着面積はロッドが7本撚りのため、外周部に配置されている6本の素線(半径r=1.5mm)の円周長さの半分が接触すると考えて外周長さを計算し、加圧後ソケットの長さを乗じた値とした。
図7(a),(b)は破壊モードの写真であり図7(a)はロッド抜け、図7(b)はソケット破壊を示している。
[まとめ]
本実施例で得られた知見は以下の通りである.
(1) 最大付着力は試験体No.3,No.2,No.4,No.1の順に高い結果となり、試験体No.1はロッドの抜けによるモード、その他試験体はソケットが破壊するモードによって付着力がそれぞれ決定した。
(2) 試験体パラメータにおいてソケットの繊維方向が付着力に与える影響が最も顕著であった。これは、熱溶着プロセスの加圧時において繊維方向90(No.1)のものは樹脂が金型外に流出する挙動が顕著となり、繊維方向0(No.2~4)の圧力と比較して高い圧力が試験体に生じなかったためであると推察する。
(3) 試験体No.2と試験体No.4の引張試験結果より、ソケットの楕円高さが高くなるほど、ソケット―ロッド間の最大付着力が向上した。また、試験体No.2と試験体No.3の引張試験結果より、目標温度5度の影響による顕著な違いは見受けられなかった。
本発明の熱可塑性樹脂部材の接合方法の実施例2を示す。
図8の表に示す通り、実施例1と比較して、熱溶着温度による影響を確認するために、一部の試験体において加圧時の温度を180℃に上げてホットプレスを実施して、作成した試験体の引き抜き試験を行った。
図9(a)は引き抜き試験後の破壊モードの写真であり、図9(b),(c)はそれぞれセクションA,Bのデジタル顕微鏡による拡大写真である。セクションAは熱溶着域外のロッド表面状態、セクションBは熱溶着域の表面状態を示しており、セクションBにおいて引き抜き試験によってロッド表面の樹脂が剥がれていることが確認された。 引き抜き試験後の接着強度と表面状態を鑑みて、ロッドとソケットがホットプレスにより熱溶着されていることが推測された。
[まとめ]
本実施例で得られた知見は以下の通りである.
(1) 試験体No.2, No.4, No.1, No.3の順に付着力が高かった。全ての試験体の付着力は18MPa以上であった。
(2) 加熱温度120℃と180℃では付着力への影響が小さいことが確認された。これはホットプレス機の加熱設定温度を熱可塑性樹脂(エポキシ樹脂)のTg以上にしたためである。
(3) ソケットの形状は付着力に影響を与えると考えられる。
(4) ホットプレス機による加熱・加圧の際に柔らかくなったソケットがその長手方向(軸方向)に流れる現象を抑制するべくソケットの両端部近傍に流れ止め用の蓋を設けた。これによりソケット及びロッドに対して効果的に加圧することができ、実施例1と比較して付着力の向上に寄与したと推測できる。
本発明は、熱可塑性樹脂から成るロッドとソケットを熱溶着により高い付着力で接合する熱可塑性樹脂部材の接合方法及び接合部構造であり、産業上の利用可能性を有する。
10 ロッド
11 素線
12 芯線
20 ソケット
20a.20b 小片
21 中空部
30 分子結合層
100 加圧方向を示す矢印
200~202 熱電対

Claims (3)

  1. 母材に熱可塑性樹脂を含んで成るロッドと、母材に熱可塑性樹脂を含んで成り内部に中空部を備えるソケットを用いた熱可塑性樹脂部材の接合方法において、
    前記ロッドが複数本の素線から成る構造体であり、
    前記ロッドを前記中空部に挿入するステップと、
    加熱により前記ロッドの外面及び前記中空部の内面の温度を融点以上に上げると共に加圧により前記ロッドの外面に対して前記中空部の内面を押し付けるステップと、
    前記加圧を継続した状態で前記ロッドの外面及び前記中空部の内面の温度を融点未満に下げるステップを少なくとも備えることを特徴とする熱可塑性樹脂部材の接合方法。
  2. 前記ロッドと前記ソケットの少なくとも一方が強化繊維を含んで成り、前記強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及び樹脂繊維のうち少なくとも1種の繊維であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂部材の接合方法。
  3. 母材に熱可塑性樹脂を含んで成るロッドと、母材に熱可塑性樹脂を含んで成り内部に中空部を備えるソケットを用いた熱可塑性樹脂部材の接合部構造において、
    前記ロッドが複数本の素線から成る構造体であり、
    前記ロッドの外面と前記ソケットの内面との接触箇所に前記熱可塑性樹脂が熱溶融して成る分子結合層を備えることを特徴とする熱可塑性樹脂部材の接合部構造。
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