以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.内燃機関のEGRシステム>
まず、本発明の実施形態に係る排気再循環制御装置(EGR制御装置)を適用可能な内燃機関のEGRシステムの構成例について説明する。
図1は、EGRシステム10を備えた内燃機関11の吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す。本実施形態において、EGRシステム10を備えた内燃機関11は車両に搭載される。ただし、EGRシステム10を備えた内燃機関11は、車両に搭載されるものに限られない。内燃機関11は、例えば自己着火式の内燃機関であるディーゼルエンジンである。内燃機関11は、例えば4つの気筒を備える。各気筒には、筒内に燃料を直接噴射する図示しない燃料噴射弁が備えられる。各気筒は、吸気ポート及び排気ポートを介してインテークマニホールド14及びエキゾーストマニホールド22に連通する。
インテークマニホールド14には吸気通路15が接続される。吸気通路15には、エキゾーストマニホールド22内の排気の一部を吸気通路15に還流させるためのEGR通路31が接続される。EGR通路31の合流位置よりも上流側の吸気通路15には、吸気の流入量を調節するための吸気スロットル弁16が備えられる。吸気スロットル弁16は、ステッピングモータ等のアクチュエータ17により駆動される。アクチュエータ17は、EGR制御装置50により制御される。
吸気スロットル弁16よりも上流側の吸気通路15には、吸気を冷却するためのインタークーラー18が備えられる。インタークーラー18よりも上流側の吸気通路15には、過給機70のコンプレッサ71が備えられる。コンプレッサ71よりも上流側の吸気通路15には、吸気通路15に流入する空気量を測定するエアフローメータ13が備えられる。
インテークマニホールド14には吸気圧を測定するための吸気圧センサ27が備えられる。吸気圧センサ27のセンサ信号は、EGR制御装置50に送信される。吸気圧センサ27は、吸気スロットル弁16よりも下流側の吸気通路15のいずれかの位置に備えられてもよい。
エキゾーストマニホールド22には排気通路21が接続される。排気通路21には、上述したEGR通路31が接続される。排気通路21には、過給機70のタービン73が備えられる。エキゾーストマニホールド22とタービン73との間の排気通路21には、空燃比センサ25が備えられる。空燃比センサ25のセンサ信号は、EGR制御装置50に送信される。空燃比センサ25は、エキゾーストマニホールド22に備えられてもよい。
タービン73よりも下流側の排気通路21には、排気を浄化するための排気浄化装置26が備えられる。排気浄化装置26は、例えば、排気中の微粒子物質を捕集するパティキュレートフィルタや、排気中のNOXを浄化するための触媒等を備える。
EGR通路31には、開口面積を調節可能なEGRバルブ33が備えられる。EGRバルブ33は、EGRバルブ33の開口面積を調節することにより、EGR通路31を介して排気通路21から吸気通路15に還流させるEGRガスの流量を調節する。EGRバルブ33は、ステッピングモータ等のアクチュエータ34により駆動される。アクチュエータ34は、EGR制御装置50により制御される。本実施形態において、EGRバルブ33は、ステッピングモータにより駆動され、EGR制御装置50により設定される駆動量としてステップ数に応じて弁体のリフト量が調節されて開口面積が変化する。
EGR通路31における、EGRバルブ33よりも上流側(排気通路21側)には、EGRガスを冷却するためのEGRクーラ35が備えられる。EGRクーラ35とEGRバルブ33との間のEGR通路31には、EGRガス圧センサ37及びEGRガス温度センサ38が備えられる。EGRガス圧センサ37は、EGRバルブ33の上流側の圧力を測定する。EGRガス温度センサ38は、EGRバルブ33の上流側でEGRガスの温度を測定する。EGRガス圧センサ37及びEGRガス温度センサ38のセンサ信号は、EGR制御装置50に送信される。EGRガス圧センサ37は、EGRクーラ35よりも上流側に備えられてもよい。
EGR制御装置50の一部又は全部は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等の一つ又は複数のプロセッサを備える。また、EGR制御装置50の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。EGR制御装置50には、大気圧センサ41のセンサ信号も入力される。EGR制御装置50は、互いに通信可能な複数の制御装置により構成されてもよい。
EGRシステム10では、差圧が生じたときに、高圧側から低圧側へとEGRガスが流れるメカニズムを利用しており、少なくともEGRバルブ33の前後の差圧と、EGRバルブ33の開口面積とによりEGRガスの流量特性が変化し得る。また、排気は、圧縮性の流体であるとともに高温の気体であることから、周囲との温度差によって冷却されて体積又は密度が変化しやすい。このため、EGRガスの流量特性は、排気温度によっても変化し得る。
<2.排気再循環制御装置>
内燃機関11のEGRシステム10には、EGRシステム10を制御するEGR制御装置50が備えられる。本実施形態に係るEGR制御装置50は、内燃機関11の制御も実行可能に構成される。
図2は、本実施形態に係るEGR制御装置50の構成のうち、EGRバルブ33の駆動量の学習制御に関連する部分の機能構成を示すブロック図である。EGR制御装置50は、CPU又はMPU等のプロセッサからなる制御部60と、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子を含む記憶部55とを備える。記憶部55には、制御プログラムや各種制御に用いる情報、演算結果等が記憶される。
制御部60は、スロットル制御部61、可変バルブタイミング機構(VVT:Variable Valve Timing)制御部63、EGR制御部65及び学習制御部67を備える。これらの各部は、具体的には、プロセッサによるプログラムの実行によって実現される機能である。また、EGR制御装置50は、エアフローメータ13、大気圧センサ41、吸気圧センサ27、EGRガス圧センサ37、EGRガス温度センサ38及び空燃比センサ25のセンサ信号を読み取り可能になっている。
EGR制御装置50は、大気圧センサ41のセンサ信号に基づき、大気圧Paを検出する。EGR制御装置50は、吸気圧センサ27のセンサ信号に基づき、内燃機関11の吸気圧を検出する。吸気圧は、EGRバルブ33よりも下流側の圧力である下流側圧力Pdに相当する。EGR制御装置50は、EGRガス圧センサ37のセンサ信号に基づき、EGRバルブ33よりも上流側の圧力である上流側圧力Puを検出する。EGR制御装置50は、EGRガス温度センサ38のセンサ信号に基づき、EGRガスの温度Tegrを検出する。
なお、本実施形態では、ステッピングモータにより駆動され、ステップ数がゼロのときにEGRバルブ33が閉じられ、ステップ数の増大に伴って弁体のリフト量が増大し開口面積が増大する形式のEGRバルブ33が用いられる。以下の説明において、EGRバルブ33の駆動量とは、ステップ数を意味する。
(2-1.スロットル制御部)
制御部60のスロットル制御部61は、吸気スロットル弁16のアクチュエータ17を駆動することによりスロットル開度を制御し、内燃機関11の吸気量を調節する。例えば、スロットル制御部61は、内燃機関11の回転数及びアクセル開度に基づいてアクチュエータ17の駆動量を制御する。また、スロットル制御部61は、学習制御の実行時には、吸気スロットル弁16の開度を所定の開度に固定する。
(2-2.VVT制御部)
制御部60のVVT制御部63は、内燃機関11の可変バルブタイミング機構(VVT)を制御することにより吸気バルブ及び排気バルブの開閉時期を調節する。具体的に、VVT制御部63は、吸気バルブあるはい排気バルブを開閉するカムが固定された吸気カムシャフトあるいは排気カムシャフトの位相を進角又は遅角方向に変化させて、吸気バルブ及び排気バルブの開閉時期を調節する。また、VVT制御部63は、学習制御の実行時には、可変バルブタイミング機構を所定の位置に固定する。
(2-3.EGR制御部)
EGR制御部65は、内燃機関11に導入される吸気中の酸素濃度が目標値となるように、EGRバルブ33のアクチュエータ34を駆動することによりEGRバルブ33の開口面積を制御し、EGRガスの流量を調節する。EGR制御部65は、EGRバルブ33の上流側圧力Pu及び下流側圧力Pdと、要求されるEGRガスの流量とに基づいてEGRバルブ33の駆動量を設定してアクチュエータ34を駆動する。
EGR制御部65は、EGRバルブ33の上流側圧力Pu及び下流側圧力Pdと、要求されるEGRガスの流量とに対してあらかじめ設定された基本駆動量を、学習制御部67により実行される学習制御の結果求められる補正係数K及び補正量N(Sn)を用いて補正して、EGRバルブ33の駆動量を設定する。基本駆動量は、EGRバルブ33の基準品(中央品)の駆動量と当該基準品を通過するEGRガスの流量との関係を示す基本流量特性に基づいて設定されている。
本実施形態において、EGR制御部65は、アクチュエータ34としてのステッピングモータの駆動量(ステップ数)を設定してアクチュエータ34を駆動し、EGRバルブ33の開口面積を制御する。また、EGR制御部65は、学習制御の実行時には、EGRバルブ33の駆動量(ステップ数)を、個体差学習あるいは劣化学習の学習点に設定する。
(2-4.学習制御部)
学習制御部67は、EGRバルブ33の上流側圧力Puから下流側圧力Pdを引いた値である差圧ΔPを基準差圧ΔP0と比較することによりEGRバルブ33の駆動量の補正量を学習する。ここで、基準差圧ΔP0とは、EGRバルブ33の基準品を基本流量特性に基づく基本駆動量にしたがって操作した場合に得られる差圧である。基本駆動量は、EGRバルブ33の流路が開き始める駆動量であるゼロ点駆動量よりも所定量大きい駆動量として設定されている。つまり、学習制御部67は、基準差圧ΔP0に対する実測される差圧ΔPのばらつきをEGRガスの流量のばらつきとして学習し、差圧ΔPのばらつきを抑制するための補正量を学習する。本実施形態において、学習制御部67は、補正量を学習する駆動量を車両のドライビングサイクルごとに変更し、それぞれの駆動量についての補正量を学習する。
その際に、学習制御部67は、ドライビングサイクルごとに、EGRバルブ33の流路が開き始める駆動量であるゼロ点駆動量を学習した後、補正量を学習する制御を開始する。本実施形態において、学習制御部67は、EGRバルブ33の上流側圧力Puと下流側圧力Pdとの差圧ΔPを検出しながら、EGRバルブ33が閉じた状態から開いた状態に切り替わるように駆動量を段階的に変化させてゼロ点駆動量を学習する。ゼロ点駆動量の学習は、車両のイグニッションスイッチがオンにされた後、補正量の学習制御を開始する前に実行される。学習制御部67は、ゼロ点駆動量の学習を完了したときに、例えば完了フラグを立てる等によりゼロ点駆動量の学習の完了を記録し、それぞれのドライビングサイクルの間に一回のみ実行されるようにする。
EGRバルブ33が閉じた状態から開いた状態へと切り替わる際に、差圧は上昇する。この事象を利用して、学習制御部67は、例えば、基準品を用いてあらかじめ設定された基本流量特性においてEGRガスの流量が増大し始める位置の駆動量よりも数ステップ小さい値から段階的に大きくなるようにEGRバルブ33の駆動量を順次設定する。そして、学習制御部67は、例えば、差圧があらかじめ設定された閾値を超えたときの駆動量の一つ前の駆動量をゼロ点駆動量として学習する。閾値は、誤差や外乱による差圧の振動を排除できるような適切な値に設定される。あるいは、学習制御部67は、複数の駆動量での差圧の値を時間微分することにより差圧が上昇し始めた駆動量を求め、当該駆動量の一つ前の駆動量をゼロ点駆動量として学習してもよい。
一つ前の駆動量をゼロ点駆動量とするのは、EGRバルブ33の駆動量の変化から差圧が変化するまでの時間差を考慮したものであり、いずれの駆動量をゼロ点駆動量とするかは、システムの特性や学習時の条件に応じて適宜設定されてもよい。このことから、ゼロ点駆動量を学習する際のEGRバルブ33の駆動量の変更は、例えば、EGR制御装置50の制御部60の分解能による最小の時間間隔で行われることが好ましい。これにより、学習されるゼロ点駆動量の精度を高めることができる。
ゼロ点駆動量を学習した後、学習制御部67は、補正量の学習制御として、EGRバルブ33ごとの個体差によるばらつき(以下、「個体差ばらつき」ともいう。)を抑制するための補正係数Kと、デポジットの付着等の劣化によるばらつき(以下、「劣化ばらつき」ともいう。)を抑制するための補正量N(Sn)とを学習する。このうち、個体差ばらつきは、少なくとも、EGRバルブ33の使用開始の初期や、同一のEGRバルブ33の駆動量に対してEGRガスの流量が急激に変化したときなどに学習すればよい。
図3は、EGRバルブの個体差ばらつきを説明するための図であり、3つのEGRバルブの使用開始時の駆動量に対する流量特性を示している。図3に示すように、EGRバルブの流量のばらつきは、EGRバルブが開き始めるステップ数に依存する。つまり、EGRバルブの全駆動範囲における流量のずれは、開き始めの駆動量のずれに依存する。このため、個体差ばらつきは、例えば2点の駆動量での流量を把握することにより学習することができる。
これに対して、劣化ばらつきは、EGRバルブ33の使用環境によって変動するために、所定の頻度で学習することが望ましい。特に、劣化ばらつきは、EGRバルブ33の駆動量ごとに異なり得るため、学習制御部67は、それぞれの駆動量について学習制御を行って補正量N(Sn)を学習する。
図4は、EGRバルブの劣化ばらつきを説明するための図であり、1つのEGRバルブの駆動量に対する流量低下率を車両の走行距離ごとに示している。図4に示すように、同じEGRバルブであっても、車両の走行距離が大きくなるにつれてEGRガスの流量低下率が増大する。それぞれの駆動量における流量低下率は、概ね車両の走行距離に比例して増大するものの、EGRバルブの駆動量ごとに流量低下率が異なる。このため、劣化ばらつきは、それぞれの駆動量について学習することが望ましい。
ここで、本実施形態において、学習制御部67は、EGRバルブ33の上流側圧力Puと下流側圧力Pdとの差圧ΔPに基づいて、EGRガスの流量のばらつきを学習する。具体的に説明すると、EGRバルブ33を通過するEGRガスの流量は、公知のオリフィスモデルにより下記式(1)で表すことができる。
Q:流量(L/秒)
α:流量係数(-)
A:開口面積(m
2)
ΔP:差圧(kPa)
ρ:ガス密度(kg/m
3)
ある駆動量でEGRバルブを駆動する場合のEGRガスの流量のばらつきは、EGRバルブの開口面積の変化(ばらつき)によるものであるため、当該開口面積のばらつきは流量のばらつきに基づいて学習することができる。そこで、固有値である流量係数αと同様に、ある駆動量でのEGRバルブの開口面積Aを固定値と仮定する。そして、EGRバルブの新品の基準品(中央品)を用いて、内燃機関11の回転数Ne及び開口面積Aに対応する差圧ΔP1を測定するとともに、測定時のEGRガス温度Tegrや大気圧Paをもとにガス密度ρ’を求めることにより、新品の基準品の流量基準値Q1を得ることができる。
一方、EGRバルブの個体差ばらつきや劣化ばらつきを反映した流量Q2は、学習制御実行時に測定される差圧ΔP2とガス密度ρ’、駆動量(開口面積A)に基づき得ることができる。
上記式(2)及び(3)より、EGRバルブ33の新品の基準品の流量Q1に対する個体差ばらつきや劣化ばらつきを反映した流量Q2の変化率nは、下記式(4)で示すように、差圧ΔPで表すことができる。
このように、学習制御部67は、EGRバルブ33の駆動量ごとにEGRバルブ33の上流側圧力Puと下流側圧力Pdとの差圧ΔPのばらつきをEGRガスの流量のばらつきとして学習する。本実施形態において、学習制御部67は、ゼロ点駆動量を学習した後に個体差ばらつき及び劣化ばらつきを学習するように構成されているために、EGRバルブ33の開き始めの位置の近傍においてもEGRバルブ33のゼロ点駆動量よりも大きい駆動量に設定して個体差ばらつき及び劣化ばらつきを学習することができる。このため、EGRバルブ33が開いていないにもかかわらず開いているものとして補正量を誤学習することを抑制することができる。
また、差圧ΔPを用いてEGRバルブ33のばらつきによる補正係数K及び補正量N(Sn)を学習するにあたり、EGRバルブ33の開口面積の違いによる差圧ΔPの感度が高い状態で学習制御を実行することが好ましい。このため、学習制御部67は、排気圧力が変動しにくい内燃機関11の燃料噴射停止状態で学習制御を実行することが好ましい。
また、内燃機関11の燃料噴射停止状態において、内燃機関11の回転数が大きいと吸気圧が低下し、同一の流量において負圧が大きくなって流量変化が現れにくくなることから、内燃機関11の回転数が小さい状態で学習制御を実行することが好ましい。ただし、内燃機関11の回転数が小さすぎると、吸気圧が高くなって差圧ΔPが小さくなるために流量変化が表れにくくなる。このため、学習制御部67は、内燃機関11が燃料噴射停止状態で駆動した状態で、内燃機関11の回転数が1,100~1,300rpmの範囲内で学習制御を実行することが好ましい。
また、誤学習を抑制するには、それぞれの駆動量において発生する差圧ΔPのばらつきを小さくすることが望ましい。本実施形態では、吸気圧が下流側圧力Pdとして用いられるが、吸気圧は、吸気スロットル弁16の開度の変化に対して感度が高い。したがって、学習制御部67は、内燃機関11の吸気スロットル弁16の開度が所定の値に固定された状態で、学習制御を実行してもよい。同様に、それぞれの駆動量において発生する差圧ΔPのばらつきを小さくするため、学習制御部67は、可変バルブタイミング機構が所定の位置に固定された状態で、学習制御を実行してもよい。
これらの個体差ばらつき及び劣化ばらつきの誤学習を抑制するための条件は、ゼロ点駆動量を学習する際にも適用される。これにより、学習されるEGRバルブ33のゼロ点駆動量の精度が高められ、EGRバルブ33の学習制御の精度を高めることができる。
なお、以下の説明において、車両の走行中に、内燃機関11の燃料噴射停止状態で、内燃機関11の回転数が1,200rpm前後で、かつ、吸気スロットル弁16の開度及び可変バルブタイミング機構の位置を固定した状態を、「学習許可状態」という場合がある。
学習制御部67は、EGRバルブの使用開始時及び流量急変時に、所定の2点の駆動量(ステップ)で上記学習制御を実行し、個体差ばらつきを補正するために全駆動範囲における駆動量の演算に用いる補正係数Kを学習する。また、学習制御部67は、補正係数Kを学習した後に、劣化ばらつきを補正するための補正量N(Sn)を駆動量Snごとに学習する。学習制御部67は、これらの補正係数K及び補正量N(Sn)の学習を、EGRバルブ33のゼロ点駆動量の学習が完了した状態で実行するように構成される。
以下、ゼロ点駆動量の学習、個体差ばらつきの学習(個体差学習)及び劣化ばらつきの学習(劣化学習)の一例を説明する。
(ゼロ点駆動量の学習)
図5は、ゼロ点駆動量を学習する方法を説明するための図であり、EGRバルブ33の駆動量を段階的に大きくした場合の差圧の変化を示している。上述のとおり、学習制御部67は、基準品を用いてあらかじめ設定された基本流量特性においてEGRガスの流量が増大し始める位置の駆動量よりも数ステップ小さい値から段階的に大きくなるようにEGRバルブ33の駆動量Ss1,Ss2,Ss3・・・Ss7を順次設定する。そして、学習制御部67は、例えば、差圧があらかじめ設定された閾値ΔPxを超えたときの駆動量Ss5の一つ前の駆動量Ss4をゼロ点駆動量として学習する。あるいは、学習制御部67は、複数の駆動量Ss1,Ss2,Ss3・・・Ss7での差圧の値を時間微分することにより差圧が上昇し始めた駆動量Ss5を求め、当該駆動量Ss5の一つ前の駆動量Ss4をゼロ点駆動量として学習してもよい。
(個体差学習)
図6~図9を参照して、個体差ばらつきを補正するための補正係数Kの学習制御について説明する。図6は、個体差学習を実行する際に設定されるEGRバルブ33の駆動量(学習駆動量)Snの設定例を示す。図7は、学習許可状態において、EGRバルブ33の駆動量Snを所定のステップSa,Sbに設定した場合に測定される実差圧ΔPactと、新品の基準品を用いた場合に生じる基準差圧ΔP0とを示す。
上述のとおり、個体差ばらつきによりEGRバルブ33の全駆動範囲に生じる流量のずれは開き始めの駆動量Snのずれに依存するため、少なくとも2点のステップで流量特性を把握できれば、個体差ばらつきを補正するための補正係数Kを求めることができる。学習制御部67は、個体差学習の実行時に、EGRバルブ33の駆動量Snを、例えば、基準品が開口し始めるステップSaと、プラスマイナス1ステップでの差圧差の感度が高いステップSbとに設定する(図6を参照)。このような差圧差の感度が高い駆動量Sa,Sbを学習点とすることにより、1ドライビングサイクルで個体差ばらつきを学習する確実性を向上させることができる。なお、学習点とされる駆動量Sa,Sbは、個体差学習の実行時点で学習済みのゼロ点駆動量に対する相対量として設定されてもよい。
図7に示すように、学習制御部67は、それぞれ設定されたステップSa,Sbにおいて測定される実差圧ΔPactから基準差圧ΔP0を引いた差圧差D(=ΔPact-ΔP0)を求める。この差圧差Dが負の値で、あらかじめ設定した下限値Dmin(例えば-2kPa)以下の場合、ステップ数を1ステップ減算(Sx-1,Sy-1)する。一方、差圧差Dが正の値で、あらかじめ設定した上限値Dmax(例えば2kPa)以上の場合、ステップ数を1ステップ加算(Sx+1,Sy+1)する。
ステップ数を加算又は減算して実差圧ΔPact’を測定し、求められた差圧差D’(=ΔPact’-ΔP0)の絶対値|D’|が、補正前の差圧差Dの絶対値|D|よりも小さくなった場合に、学習制御部67は、加減算したステップ数Nを反映して補正量N(Sa),N(Sb)を学習する。
このとき学習された補正量N(Sa),N(Sb)は、設定されたステップSa,Sbにおける補正量であるため、学習制御部67は、当該ステップSa,Sbにおける補正量N(Sa),N(Sb)をもとに、全駆動範囲の駆動量を補正するための補正係数Kを求める。
図8は、学習された補正量N(Sa),N(Sb)に応じて求められる補正係数Kの例を示す。補正量N(Sa),N(Sb)が正の値で大きくなるほど、つまり、実差圧ΔPactと基準差圧ΔP0との差圧差Dが正の値で大きくなるほど、補正係数Kは1未満の小さい値となる。一方、補正量N(Sa),N(Sb)が負の値で大きくなるほど、つまり、実差圧ΔPactと基準差圧ΔP0との差圧差Dが負の値で大きくなるほど、補正係数Kは1以上の大きい値となる。学習制御部67は、例えばあらかじめ設定されたマップ情報を参照して、補正量N(Sa),N(Sb)のそれぞれについて補正係数Kを求めてもよい。
求められた2つの補正係数K(Ka,Kb)は、EGRバルブ33の駆動量Snに応じて選択的に用いられてよい。EGRバルブ33は、低流量側、つまり駆動量Snが小さい領域と、高流量側、つまり駆動量Snが大きい領域とで、個体差のばらつき度合いが異なる。このため、例えば、ステップSaとステップSbとの間の所定の駆動量Snを流量管理点として設定し、当該流量管理点よりも小さいステップSa側の駆動量Snの場合には補正量N(Sa)に対応する補正係数Kaが用いられ、流量管理点よりも大きいステップSb側の駆動量Snの場合には補正量N(Sb)に対応する補正係数Kbが用いられてもよい。その際に、補正量N(Sa),N(Sb)の大きさに応じて、補正係数Ka,Kbに重み付けをしてもよい。
図9は、EGRバルブ33の中央品、流量上限品及び流量下限品それぞれの流量特性を示す。図9に示すように、個体差ばらつきは、全駆動範囲において所定の補正係数Kを中央品の流量特性(基本流量特性)に基づいて設定された基本駆動量に乗じることにより抑制することができる。例えば流量下限品のEGRガス流量は、1未満の補正係数Kを基本駆動量に乗じることにより中央品のEGRガス流量に近似させることができる。一方、流量上限品のEGRガス流量は1を超える補正係数Kを基本駆動量に乗じることにより中央品のEGRガス流量に近似させることができる。
(劣化学習)
図10~図11を参照して、劣化ばらつきを補正するための補正量N(Sn)の学習制御について説明する。上述のとおり、劣化ばらつきによるEGRガスの流量のずれは、駆動量Snごとに異なり得る。学習制御部67は、劣化学習を実行するにあたり、車両のイグニッションスイッチがオンにされてからオフになるまでの1ドライビングサイクルごとに設定する駆動量Snを変更し、それぞれの駆動量Snについて補正量N(Sn)を学習する。
車両の走行中に、内燃機関11の燃料噴射停止状態で、内燃機関11の回転数が1,200rpm前後で、かつ、吸気スロットル弁16の開度及び可変バルブタイミング機構の位置を固定した学習許可状態となる期間は比較的短いことから、学習制御部67は、1ドライビングサイクルごとに所定数の駆動量Snについての学習制御を実行するようになっている。なお、設定される駆動量(学習駆動量)Snは、劣化学習の実行時点で学習済みのゼロ点駆動量に対する相対量として設定されてもよい。
学習制御部67は、個体差学習と同様に、それぞれ設定されたステップSnにおいて測定される実差圧ΔPactから基準差圧ΔP0を引いた差圧差D(=ΔPact-ΔP0)を求める(図7を参照)。この差圧差Dが負の値で、あらかじめ設定した下限値Dmin(例えば-2kPa)以下の場合、ステップ数を1ステップ減算(Sn-1)する。一方、差圧差Dが正の値で、あらかじめ設定した上限値Dmax(例えば2kPa)以上の場合、ステップ数を1ステップ加算(Sn+1)する。ステップ数を加算又は減算して測定される実差圧ΔPact’から基準差圧ΔP0を引いた差圧差D’(=ΔPact’-ΔP0)の絶対値|D’|が、補正前の差圧差Dの絶対値|D|よりも小さくなった場合に、学習制御部67は、加減算したステップ数Nを反映させて補正量N(Sn)を学習する。
図10は、1ドライビングサイクルごとに異なる値に設定される学習対象の駆動量(学習駆動量)Snの設定例を示す。図10に示した例では、1ドライビングサイクルあたり、2つの学習点の駆動量Snが設定される。学習制御部67は、1ドライビングサイクル目にステップSc及びステップSeについての補正量N(Sc),N(Se)を学習し、次のドライビングサイクルにステップSd及びステップSfについての補正量N(Sd),N(Sf)を学習し、さらに次のドライビングサイクルにステップSg及びステップShについての補正量N(Sg),N(Sh)を学習する。
以降も、ドライビングサイクルごとに駆動量Snを変更しながら補正量N(Sn)の学習を続け、すべての学習点についての補正量N(Sn)の学習が完了した場合、1ドライビングサイクル目の学習点に戻って補正量N(Sn)の学習を継続する。あるいは、すべての学習点についての補正量N(Sn)の学習が完了した場合、次のドライビングサイクルが開始されるまでは劣化学習を停止させてもよい。
本実施形態において、1ドライビングサイクルごとに補正量N(Sn)が1ステップずつ加算又は減算され、あるいは、現状維持とされる。劣化学習は、個体差学習とは異なり、1ステップごとの差圧の感度が低い領域においても学習を行う必要があることから、加減算されるステップ数は、駆動量Snにかかわらず1ステップずつに設定されている。そして、それぞれの駆動量Snについての補正量N(Sn)が繰り返されることにより、学習精度が高められるようになっている。これにより、1ドライビングサイクルにおいて、少ない学習許可状態の中で複数点での学習を可能にしつつ、補正量N(Sn)の学習精度を高めることができる。
図11は、駆動量Snごとに学習される補正量N(Sn)の例を示す。それぞれの駆動量Sc~Shについて、学習制御の実行ごとに補正量N(Sn)がプラスマイナス1ステップずつ加減算され、これが繰り返されることにより、それぞれの駆動量Sc~Shについて異なる補正量N(Sn)が学習される。特に、本実施形態においては、各ドライビングサイクルにおいてゼロ点駆動量が学習された後に補正量N(Sn)が学習されるように構成されている。このため、EGRバルブ33のゼロ点駆動量以上の駆動量の補正量(Sn)が学習され、基本流量特性におけるゼロ点駆動量と実際のゼロ点駆動量とのずれによってゼロ点駆動量付近において補正量N(Sn)が誤学習されることを抑制することができる。
学習制御部67により学習された個体差ばらつきを抑制するための補正係数K及び劣化ばらつきを抑制するための補正量N(Sn)は、EGR制御部65によるEGRバルブ33の駆動量Snの設定に用いられる。
<3.排気再循環制御装置の動作例>
ここまで、EGR制御装置50の構成例を説明した。以下、図12~図18を参照して、EGR制御装置50の動作例を説明する。
図12は、EGRバルブ33の駆動量Snの学習制御の一例を示すフローチャートである。まず、学習制御部67は、車両のイグニッションスイッチがオンに切り替わったことを検出すると(ステップS1)、ゼロ点駆動量の学習処理を実行する(ステップS3)。
図13は、ゼロ点駆動量の学習処理の一例を示すフローチャートである。
学習制御部67は、車両が減速による燃料噴射停止状態になったことを検知すると(ステップS5)、吸気スロットル弁16を所定の開度で固定するとともに、可変バルブタイミング機構を所定の位置で固定する(ステップS6)。これにより、学習許可状態となる。
次いで、学習制御部67は、EGRバルブ33が閉じた状態から開いた状態に切り替わるように駆動量を段階的に大きく設定する(ステップS7)。例えば、学習制御部67は、基本流量特性におけるゼロ点駆動量を基準として、当該ゼロ点駆動量より数ステップ小さい駆動量を、設定する駆動量の開始位置とする。あるいは、前回のドライビングサイクルで学習したゼロ点駆動量がある場合、当該ゼロ点駆動量より数ステップ小さい駆動量を、設定する駆動量の開始位置としてもよい。
次いで、学習制御部67は、駆動量を変化させたことに伴って、差圧ΔPが上昇したか否かを判別する(ステップS8)。例えば、学習制御部67は、検出される差圧ΔPが、あらかじめ設定した閾値ΔPxを超えたか否かを判別してもよい。差圧ΔPが上昇していない場合(S8/No)、学習制御部67は、ステップS7に戻り、さらに駆動量を段階的に大きく変化させて、差圧ΔPの上昇の有無を判別する。一方、差圧ΔPが上昇した場合(S8/Yes)、学習制御部67は、差圧ΔPが上昇したときの駆動量に基づいてゼロ点駆動量を設定する(ステップS9)。例えば、学習制御部67は、EGRバルブ33の駆動量の設定から差圧ΔPが変化するまでの時間差を考慮して、差圧ΔPが上昇した駆動量の一つ前に設定した駆動量をゼロ点駆動量としてもよい。
図12に戻り、ゼロ点駆動量の学習処理が完了した後、学習制御部67は、EGRバルブ33の初回の個体差学習が完了しているか否かを判別する(ステップS11)。ステップS11では、車両の組立後の最初の個体差学習が完了しているか否かが判別される。初回の個体差学習が完了していない場合(S11/No)、学習制御部67は、個体差学習を実行する(ステップS17)。一方、初回の個体差学習が完了している場合(S11/Yes)、学習制御部67は、EGRガスの流量チェックを行う(ステップS13)。
流量チェックは、EGRバルブ33が交換されたり、付着していたデポジットが剥がれ落ちたりする等によって、EGRバルブ33の流量特性が変化したか否かを確認することである。例えば、学習制御部67は、車両の走行中において、任意の一つ又は複数点のEGRバルブ33の駆動量Snに対するEGRガスの流量変化率nを上記式(4)により求め、流量変化率nが所定範囲を超える場合に流量特性が変化したと判定してもよい。流量チェックの誤判定を抑制するには、個体差学習や劣化学習と同様に、所定の学習許可状態において流量チェックが行われることが好ましい。
学習制御部67は、流量チェックの結果、流量特性が変化したか否かを判別する(ステップS15)。流量特性が変化したと判定される場合(S15/Yes)、学習制御部67は、個体差学習を実行する(ステップS17)。初回の個体差学習の実行時(S11/Noの場合)及びEGRバルブ33の流量特性が変化した場合(S15/Yesの場合)に、学習制御部67は、個体差学習を実行する。
図14は、個体差学習処理の一例を示すフローチャートである。
学習制御部67は、車両が減速による燃料噴射停止状態になったことを検知すると(ステップS31)、吸気スロットル弁16を所定の開度で固定するとともに、可変バルブタイミング機構を所定の位置で固定する(ステップS33)。これにより、学習許可状態となる。
次いで、学習制御部67は、補正量が仮設定されているか否かを判別する(ステップS35)。補正量が仮設定されていない場合(S35/No)、学習制御部67は、EGRバルブ33の補正量N(Sn)を学習する駆動量Snを設定する(ステップS37)。ここで設定される駆動量Snは、個体差学習の実行時点で学習済みのゼロ点駆動量よりも大きい値に設定される。本実施形態では、1ドライビングサイクル当たり2点の駆動量Sa,Sbについて補正量N(Sn)の学習が行われる。次いで、学習制御部67は、設定された駆動量Sa,SbにしたがってEGRバルブ33を2段階に駆動させて、それぞれの駆動量Sa,Sbについて差圧差Da,Dbを算出する(ステップS39)。
図15は、差圧差Dを算出する処理の一例を示すフローチャートである。
学習制御部67は、設定された駆動量Sa,Sbにしたがって、EGRバルブ33を2段階に駆動させる(ステップS71)。このとき、すでに補正係数K及び補正量N(Sn)が設定されている場合には、補正係数K及び補正量N(Sn)を用いて駆動量Sa,Sbを補正してEGRバルブ33を駆動させる。EGRバルブ33の上流側圧力Puと下流側圧力Pdとの差圧ΔPを安定させるため、EGR制御部65は、それぞれの駆動量Sa,Sbを例えば1.5~2.0秒程度維持する。
次いで、学習制御部67は、あらかじめ記憶された基準品のデータを参照して、それぞれの駆動量Sa,Sbについての基準差圧ΔP0nを読み込む(ステップS73)。次いで、学習制御部67は、各種センサ信号に基づいて、EGRガス温度Tegr、大気圧Pa、上流側圧力Pu及び下流側圧力Pdを取得する(ステップS75)。
次いで、学習制御部67は、それぞれの駆動量Sa,Sbについて、上流側圧力Puから下流側圧力Pdを引くことにより実差圧ΔPactnを算出する(ステップS77)。次いで、学習制御部67は、それぞれの駆動量Sa,Sbについて、実差圧ΔPactnから基準差圧ΔP0nを引いて差圧差Dnを算出する(ステップS79)。
図14に戻り、ステップS39で、それぞれの駆動量Sa,Sbについての差圧差Dnが算出された後、学習制御部67は、それぞれの駆動量Sa,Sbについて、差圧差Dnに基づいて補正量を仮設定する(ステップS41)。
図16は、補正量の仮設定処理の一例を示すフローチャートである。
学習制御部67は、それぞれの駆動量Sa,Sbについて、差圧差Dn(=ΔPactn-ΔP0n)が負の値で、あらかじめ設定された下限値Dmin(例えば-2kPa)未満であるか否かを判別する(ステップS91)。差圧差Dnが下限値Dmin未満である場合(S91/Yes)、学習制御部67は、1ステップマイナスして補正量を仮設定する(ステップS95)。本実施形態において、仮設定される補正量は、駆動量Snにかかわらずあらかじめ一定量(1ステップずつ)で設定されている。
一方、差圧差Dnが下限値Dmin未満でない場合(S91/No)、学習制御部67は、それぞれの駆動量Sa,Sbについて、差圧差Dn(=ΔPactn-ΔP0n)が正の値で、あらかじめ設定された上限値Dmax(例えば+2kPa)を超えるか否かを判別する(ステップS93)。差圧差Dnが上限値Dmaxを超える場合(S93/Yes)、学習制御部67は、1ステッププラスして補正量を仮設定する(ステップS97)。差圧差Dnが下限値Dmin未満でなく、かつ、上限値Dmaxを超えない場合(S93/No)、学習制御部67は、補正量を仮設定せずに終了する(ステップS99)。
図14に戻り、ステップS41において、補正量の仮設定処理が行われた後は、再びステップS31に戻る。補正量が仮設定された状態では、上記のステップS35において肯定判定され(S35/Yes)、学習制御部67は、仮設定された補正量を反映して駆動量Sa,Sbを補正しつつEGRバルブ33を2段階に駆動させて、それぞれの駆動量Sa,Sbについて差圧差Da’,Db’を算出する(ステップS43)。差圧差Da’,Db’の算出処理は、図15に示すフローチャートに沿って行われる。次いで、学習制御部67は、補正量N(Sn)の確定処理を行う(ステップS45)。
図17は、補正量N(Sn)の確定処理を示すフローチャートである。学習制御部67は、それぞれの駆動量Sa,Sbについて、仮設定された補正量を反映した場合の差圧差Dn’の絶対値|D’|が、反映前の差圧差Dの絶対値|D|よりも小さくなったか否かを判別する(ステップS101)。絶対値|Dn’|が絶対値|D|未満である場合(S101/Yes)、学習制御部67は、仮設定された補正量(プラスマイナス1ステップ)を反映して補正量N(Sn)を更新する(ステップS103)。一方、絶対値|Dn’|が絶対値|D|以上である場合(S101/No)、学習制御部67は、仮設定された補正量(プラスマイナス1ステップ)を反映せずに補正量N(Sn)を維持する(ステップS105)。
図14に戻り、ステップS45において、補正量N(Sn)が確定された後、学習制御部67は、例えば、図8に示すようなマップデータを参照して、補正量N(Sn)に基づいて、個体差ばらつきを抑制するための補正係数Kを設定する(ステップS47)。これにより、個体差学習処理が終了する。
図12に戻り、ステップS17において個体差学習が実行され、個体差ばらつきを抑制するための補正係数Kが求められると、学習制御部67は、リーン燃焼を許可する(ステップS19)。これにより、内燃機関11のリーン燃焼が実行可能となって、リーン燃焼の安定性が向上する。学習制御部67は、リーン燃焼を許可した後、ステップS13に戻って流量チェックを行う。
ステップS15において、流量チェックの結果として流量特性が変化していない場合(S15/No)、学習制御部67は、リーン燃焼を許可し、あるいは、許可を維持する(ステップS21)。次いで、学習制御部67は、劣化学習を実行する(ステップS23)。
図18は、劣化学習処理の一例を示すフローチャートである。劣化学習処理は、基本的には図14に示した個体差学習処理と同様に行われる。ただし、図18に示すフローチャートにおけるステップS38で設定される2点の駆動量Sx,Syは、ドライビングサイクルごとに変更し(図10を参照)、それぞれの駆動量Snについて補正量N(Sn)を学習する。また、それぞれの駆動量Snにすでに学習済みの補正量N(Sn)が存在する場合には、駆動量Snに学習済みの補正量N(Sn)を反映させた状態で学習を行う。ただし、駆動量Snは、劣化学習の実行時点で学習済みのゼロ点駆動量よりも大きい値に設定される。そして、劣化学習処理では、ステップS45において、それぞれの駆動量Snごとに補正量N(Sn)が設定され、記憶される。これにより、劣化学習処理が終了する。
図12に戻り、劣化学習処理が行われた後、学習制御部67は、劣化学習において補正量N(Sn)が更新されたか否かを判別する(ステップS25)。補正量N(Sn)が更新されなかった場合(S25/No)、つまり、仮設定された補正量を反映した場合の差圧差Dn’の絶対値|D’|が、反映前の差圧差Dの絶対値|D|よりも小さくならなかった場合、学習制御部67は、ステップS13に戻って流量チェックを行う。一方、補正量N(Sn)が更新された場合(S25/Yes)、つまり、絶対値|D’|が絶対値|D|よりも小さくなった場合、学習制御部67は、今回のドライビングサイクルにおける学習制御を終了する。
以上説明したように、本実施形態に係るEGR制御装置50は、EGRバルブ33の上流側圧力Puと下流側圧力Pdとの差圧ΔPのばらつきに基づいて、個体差ばらつき及び劣化ばらつきを学習する。EGR制御装置50は、劣化ばらつきを学習する際に、ドライビングサイクルごとに学習する駆動量Snを変更し、それぞれの駆動量Snについて補正量N(Sn)を学習する。このため、駆動量Snごとに異なり得る、デポジット付着等による劣化ばらつきを抑制するための補正量N(Sn)が学習され、EGRガスの流量を精度よく制御することができる。これにより、例えば、高精度の空燃比の制御が要求されるリーン燃焼時においても、空燃比を精度よく制御することができる。
また、EGR制御装置50は、各ドライビングサイクルにおいて、まず、EGRバルブ33のゼロ点駆動量を学習した後に、個体差ばらつきあるいは劣化ばらつきの学習を開始する。このため、例えば、デポジット等の付着によってEGRバルブ33が開き始める位置がずれている場合であってもゼロ点駆動量を基準に駆動量を設定して個体差ばらつきあるいは劣化ばらつきを学習することができる。このため、特に、EGRバルブ33の開き始めの位置付近における補正量の誤学習を抑制することができ、EGRガスの流量を精度よく制御することができる。
また、EGR制御装置50は、ドライビングサイクルごとに補正量N(Sn)を学習する駆動量Snを変更する。このため、1ドライビングサイクル中に、発生する差圧ΔPのばらつきを抑制可能となる所定の学習許可状態となる期間が短時間に限られるとしても、それぞれの駆動量Snについての補正量N(Sn)の学習を行える確実性が向上する。
また、EGR制御装置50は、駆動量Snにかかわらず、1ドライビングサイクルにおいては1ステップずつ加算又は減算しながら補正量N(Sn)を更新しつつ、次回のドライビングサイクル以降も補正量N(Sn)の更新を繰り返す。このため、1ドライビングサイクル中に所定の学習許可状態となる期間が短時間に限られるとしても、それぞれの駆動量Snについての補正量N(Sn)の学習精度を高めることができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、高圧EGRシステムのEGRバルブ33の学習制御を例に採って説明したが、本発明はかかる例に限定されない。学習制御を行うEGRバルブは、過給機70のタービン73よりも下流側の排気通路から、過給機70のコンプレッサ71よりも上流側の吸気通路に排気を循環させる低圧EGRシステムのEGRバルブであってもよい。