石炭を乾留し工業的に使用可能なコークスを製造する装置として、室炉式コークス炉がある。図12に典型的なコークス炉の鳥観図を示した。図12のように、コークス炉は炭化室1と燃焼室2とが炉団長方向Bに交互に配置された構造を有している。燃焼室2は炉長方向Aに配列されたフリュー3からなり、炭化室1と燃焼室2との隔壁及びフリュー3同士の隔壁はいずれも煉瓦積み構造で形成される。隣接するフリュー3同士の隔壁をビンダー壁12と呼び、炭化室1とフリュー3との隔壁をロイファー壁13と呼ぶ。通常、炭化室1は炉高方向Cに4~7.5m余、炉団長方向Bに300~550mm、炉長方向Aに13~17m程度の長さを有している。
室炉式コークス炉に用いられる耐火物としては、高温領域で機械的強度が大きく、かつ体積変化が少なく、熱伝導性が比較的良好であるとともに、材料が安価で大量に入手できる等の理由から、その多くが珪石煉瓦で構築されている。室炉式コークス炉の稼働中の温度は、コークス炉ガス、高炉ガスの単独または混合ガスを燃料ガスとして燃焼させることによって、最も高い燃焼室で1100~1300℃程度に、また、炭化室の石炭への熱伝達表面では約1000℃程度となっている。
図13に典型的な炉壁の平面構造を示す。図13のようにビンダー壁12及びロイファー壁13は複数種の耐火物ブロックを組み合わせることで構成されている。これら耐火物ブロックは上述のように珪石煉瓦で構成される。珪石煉瓦は原料の珪石を焼成して製造する焼成煉瓦であり、これにより形成される珪石煉瓦の炉高方向Cは100~150mm程度である。炉長方向A及び炉団長方向Bの長さはフリュー3の形状から定まる。硅石煉瓦1個あたりの質量は20kg弱である。また、煉瓦と煉瓦との合わせ面を目地4と称し、各目地4には図14に示すように凹凸ダボ21が形成されている。このような凹凸ダボ21に珪石煉瓦と同材質のモルタルを敷設することで、煉瓦構造強度を上げるとともに、ガスシール性を高めることができる。
図15に典型的な炭化室1の窯口の構成を記載する。この窯口はプッシャーサイド10、コークスサイド11共に同様な構造である。燃焼室2の炉長方向両端には、垂直な状態のバックステー8が配置され、対向するバックステー8の上下2カ所にクロスタイロッドを通し、両端からスプリング等の締め込む機構によって所定荷重で締め付け、バックステー8を介して燃焼室煉瓦を締め付けている。燃焼室2の炉長方向端部の煉瓦(端部フリュー3a)とバックステー8との間には保護板6及びドアフレーム7が配置されている。また、炭化室1は通常炉蓋9によって閉鎖されている。炭化室1に装入した石炭の乾留が完了してコークスができあがると、炉蓋9を取り外して窯口を開放し、プッシャーサイドの窯口から押出機の押出装置で、コークサイドの窯口からコークスを押し出す。コークスを押し出す際の押出抵抗を抑制するために、炭化室1の窯幅30はプッシャーサイド10からコークスサイド11にかけて広がっている。したがって燃焼室2の炉団長方向Bの長さは、プッシャーサイド10の方がコークスサイド11より広い構造となっている。この炉団長方向Bの長さが炉長方向Aの位置によって変化する構造は水平テーパと称されている。
炭化室1と燃焼室2との窯口を構成する煉瓦は、炉蓋の開放のたびに温度が低下し、これに伴って煉瓦が損傷しやすく、損傷が進行すると積み替えによる補修が行われている。従来の珪石煉瓦の大きさでは、積み替えに際して取り込み回数が多くなり施工効率が良くなかった。そこで珪石煉瓦にかえて、耐火物ブロックを大型化し積み替える事で施工効率を改善する情報が考案されている。
特許文献1には、コークス炉燃焼室の補修用耐火物を大型化し、補修に際してバックステーなどの金物を撤去する必要がなく、築炉工事の施工効率を改善することのできる、コークス炉燃焼室用L字型耐火物ブロックが開示されている。またブロックの高さが200mm以上500mm以下であることが記載されている。
特許文献2には、燃焼室の上部に位置する水平焔道の下部を形成する下ブロックと、水平焔道の上部を形成する上ブロックとからなり、下ブロックが長さ1300~2300mm、幅600~1200mm、高さ310~480mm、厚さ150~210mmのU字形状を呈し、かつ、底床部にコークス炉の燃焼室に連通してガスの通路となるガス流通孔を有し、上ブロックが長さ1300~2300mm、幅600~1200mm、高さ400~800mm、厚さ150~210mmの逆U字形状を呈し、かつ、天井部に点検孔を有する成形ブロックが開示されている。
特許文献3には燃焼室、さらには蓄熱室、さらにはソールフリューを構成する耐火物の90%(質量比)以上について、大型プレキャスト耐火物ブロックを用いて築炉することを特徴とする室炉式コークス炉の築炉方法及び室炉式コークス炉の耐火物構造が開示されている。燃焼室の耐火物ブロックは、炭化室の高さの1/20以上、長さ(炉長方向)が燃焼室の1フリュー以上、幅(炉団長方向)が燃焼室の幅に等しい耐火物ブロックが開示されている。通常燃焼室の寸法は、高さ4~7.5m余であるので、耐火物ブロックの寸法におきかえると、高さは200~375mm以上であると考えられる。また大型プレキャスト耐火物ブロックの大きさは、製造コスト、ハンドリングの容易さの観点から、高さ750mm以下、幅(炉団長方向)1000mm以下、長さ(炉長方向)2000mm以下であると好ましいと記載されている。さらに特許文献3の図3には、石炭膨張圧と大型ブロックの高さの関係が記載されており、耐火物ブロックの高さを大きくすると、変位量が小さくなる事が記載されている。
コークス炉燃焼室2の補修用耐火物を大型化でき、補修に際してバックステーなどの金物を撤去する必要がなく、築炉工事の施工効率を改善することのできるコークス炉燃焼室用耐火物ブロック11を提供する。 特許文献4、5には大型の耐火物ブロックを吊り上げる装置が記載されており、特許文献4は吊りピン方式、特許文献5はトング方式の装置が開示されている。
上述の文献はいずれも、大型の耐火物ブロックを用いる事で、積み替えの際の取り込み回数を低減することができ、築炉工事の施工効率を改善できる方法である。耐火物ブロックの大きさについて、幅は燃焼室の幅に準ずるのでその大きさに制限が生ずるが、長さ、高さには制限はない。しかしながら、特許文献3に記載されているように、製造コスト、ハンドリングの容易さ、積み替え時の安全性の観点で耐火物ブロックの大型化が制限されている。
一般的に、大型の耐火物ブロックは所定の装置により吊り上げて、コークス炉に取り込まれる。大型の耐火物ブロックを吊り上げる方法としては、大型コンクリート等に用いる吊りベルト(スリング)が多く用いられている。また、特許文献5に記載されている挟持装置(クランプ)や特許文献4に記載されている吊りプラグ(吊りピン)を使用する方法が開示されている。
大型ブロックの吊り上げは安全性を確保する観点から重要な作業となる。コークス炉は高温で硫化水素等を含む酸性の石炭ガスが発生するので、コンクリートブロックのように内部に吊り上げ用のピン(ネジ)を埋め込む事ができない。同様に強度をあげるために、耐火物ブロックの内部に補強用の鉄筋等も施工できないので、耐火物ブロックそのものの強度は大きくない。したがってクランプ方式や吊りピン方式が多く採用されている。
一方で、耐火物ブロック内部に亀裂などが存在した場合には、耐火物ブロックが吊り上げ途中で崩落する危険が大きいので、安全上の配慮が必要となる。クランプを使用する場合は、耐火物ブロックを上部から挟み込むが、耐火物ブロックの高さが増加すると、挟み込む装置の下部の長さが(高さ)が増加し、クランプ取付け部より下でブロックが崩壊した場合、落下を防止する手段がない。クランプの挟持部をブロック上部から下部にかけて設置する方法もあるが、作業スペースが限定されるコークス炉では、吊り装置が大きくなったり、吊り上げるレッカー等が大型化すると、ブロックを取り込む作業が出来なきなるので、必ずしも効率的ではなくなる。同様に吊りプラグ方式も、ブロック上部に孔を設けて吊り上げるので、吊りプラグの下部の破損には対応できない。このような観点から、特許文献1~3に記載されているように、ブロック高さを制限している。
特許文献1に記載のようなL字型の耐火物ブロックは、バックステーを撤去しないで炭化室の正面から搬入するので、バックステー間の距離に耐火物ブロックの高さが制限される。また、耐火物ブロックを炭化室内に搬入した後、耐火物ブロックを垂直にしてからブロックを積む必要がある。このような作業は人力での積み上げは安全上も含めて問題があるので、炭化室内に搬入した後の作業は、先述したクランプ等の吊り上げ冶具を用いる事となる。このためブロックを積み上げるフリュー上部に、吊り冶具用の装置の設置が伴う事となる。このような事からブロックの高さを200mm以上500mm以下と制限している。
特許文献2に記載のU字型ブロックは、フリュー上部に位置する水平焔道と呼ばれる箇所に限定された耐火物ブロックである。本ブロックを当該場所に搬入する具体的な方法は、特許文献2に記載されていないが、水平焔道とその上部の炉頂部とよばれる耐火物も解体して、その上部より吊り込む事となると考えられる。耐火物ブロックの炉長方向の長さは1300~2300mmであり、一般的なコークス炉の大きさでは4フリュー程度の範囲と推定される。このような大きさのブロックを吊り上げるには、クランプであれば炉長方向に2カ所以上取り付ける必要があると考えられ、ブロックと吊り上げ装置の大きさも考慮すると作業領域は拡大する。従ってブロックの大きさ以上に耐火物の解体が必要となり、耐火物ブロック周辺の耐火物の積み方が非常に難しくなる。水平焔道の場合は、フリュー上部なので比較的大型のブロックを積み込みやすいが、フリュー下部では前述のように作業性がさらに悪化する可能性があるので、この規模の大きさの耐火物ブロックは、必ずしも適当な大きさではない。
特許文献3には、大型ブロックを用いて、コークス炉の下部から上部までを築炉する技術が記載されている。このブロックの長さも特許文献2と略同様のものであるが、燃焼室の耐火物の90%以上についてブロックを用いるもので、これは新しくコークス炉を築炉する事を念頭にしており、老朽化した燃焼室の10%程度の部分的な煉瓦の積替を行うには、特許文献2に記載した課題を解決する必要がある。
これに対し、スリング方式は図16に記載するように耐火物ブロック53の下部にスリング52を通すので、上述のような危険を防止できる。しかしながら、コークス炉の耐火物ブロック53とのつなぎ部にはモルタル等の接合材が使用されるので、スリング52があるとモルタルが塗布できないことや、ガスシールのための凹凸ダボ56においてスリング52が邪魔をして当該凹凸ダボ56が噛み込まず所定の位置にブロックがセットできないこと、スリング52が抜けないこと等の様々な障害が発生する。
そこで本発明の目的は、上記実情を鑑み、燃焼室の補修用耐火物の大型化に際し、特に炉高方向の長さを大幅に増加させて、築炉工事の施工効率を改善することのできる耐火物ブロック及びその設置方法を提供することである。
上記問題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、炉高方向の長さを大幅に増加させた耐火物ブロックにおいて、炉高方向の一方側の面に孔を形成し、ロイファー壁に炉団長方向に平行な1対の貫通孔を形成し、当該孔に吊り治具を配置し、当該貫通孔に吊り部材を挿入し、吊り治具及び吊り部材を用いて耐火物ブロックを吊り上げることで、安定に吊り上げることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。以下に本発明を説明する。
上記課題を解決するための本発明の1つの態様は、炭化室と燃焼室とが炉団長方向に交互に配列され、燃焼室は炉長方向に配列された複数のフリューからなるコークス炉の燃焼室を形成するための耐火物ブロックであって、耐火物ブロックは隣り合うフリューを仕切るためのビンダー壁と、フリュー及び炭化室を仕切るための一対のロイファー壁とを有し、ロイファー壁はビンダー壁の両端から炉長方向に突出するように形成されており、耐火物ブロックはビンダー壁とロイファー壁とが一体に形成されたコの字状であり、耐火物ブロックの炉高方向の長さが1000mm以上7000mm以下であり、耐火物ブロックは炉高方向の一方側の面に孔が少なくとも1つ形成されており、該孔は耐火物ブロックの重心と一方側の面との交点となる位置、交点に対して点対称となる位置、又はその両方の位置に形成されており、ロイファー壁は炉団長方向に平行な1対の貫通孔が少なくとも1組形成されており、該貫通孔はロイファー壁の炉高方向の長さを100%としたとき炉高方向の他方側から10%までの範囲に形成されている、耐火物ブロックである。
上記耐火物ブロックは、炉団長方向の長さが炉長方向のビンダー壁側に向かって狭まる、あるいは広がるように変化する水平テーパを有していても良い。また、炉団長方向の長さが炉高方向の上記一方側に向かって狭まるように変化する垂直テーパを有していても良い。さらに、耐火物ブロックの炉長方向の長さは、燃焼室のフリューピッチに準ずる長さとしてもよい。
また、上記課題を解決するための本発明の1つの態様は、上記耐火物ブロックをコークス炉に設置する方法であって、上記孔に耐火物ブロックを吊り上げるための吊り冶具を配置する工程と、1対の上記貫通孔に耐火物ブロックを吊り上げるための吊り部材を挿入する工程と、吊り治具及び吊り部材を用いて耐火物ブロックを吊り上げ、該耐火物ブロックをコークス炉に設置する工程と、を備える、耐火物ブロックの設置方法である。
本発明の耐火物ブロックによれば、大型化を高さ方向に特化することで、築炉工事の大幅な効率を改善することができる。また、耐火物ブロックの形状をロイファー壁とビンダー壁と一体化したコの字状とすることで、目地部を少なくすることができ、燃焼室壁部の変位を低減し、耐火物の損傷を回避することができる。
また、本発明の耐火物ブロックの設置方法によれば、本発明の耐火物ブロックを安定して吊り上げることができるため、当該耐火物ブックの積み作業中の作業員の安全を確保できる。
[耐火物ブロック100]
本発明の耐火物ブロックについて、一実施形態である耐火物ブロック100を用いて説明する。
本実施形態の耐火物ブロック100は、炭化室と燃焼室とが炉団長方向Bに交互に配列され、燃焼室は炉長方向Aに配列された複数のフリューからなるコークス炉の燃焼室を形成するためのものである。上述した通り、コークス炉は経年劣化、特に窯口を形成する燃焼室端部は炉蓋の開閉による温度変化によって劣化が顕著であるため、耐火物ブロックの積み替えが必要になる。耐火物ブロック100はこのようなコークス炉熱間積替え用耐火物に使用されるものであり、後述するように炉高方向Cの長さを1000mm以上とすることにより、築炉工事(ブロック積み施工)期間の大幅な短縮化を実現するものである。
図1に耐火物ブロック100の概略的な平面図、側面図、正面図を示した。図1の通り、耐火物ブロック100は、ビンダー壁110と1対のロイファー壁120とを有し、ロイファー壁120はビンダー壁110の両端から炉長方向Aの一方側に突出するように形成されている。
図2に、窯口部の2カ所のフリューに2個の耐火物ブロック100(100a、100b)を組合せた模式図を示した。耐火物ブロック100aは炉長方向Aの端部に用いられ、耐火物ブロック100bは端部より内部に用いられている。図2の通り、ビンダー壁110は、耐火物ブロック100が燃焼室に積み込まれフリューを形成した際に、隣り合うフリューを仕切るための隔壁となる。ロイファー壁120は、耐火物ブロック100が燃焼室に積み込まれフリューを形成した際に、フリュー及び炭化室を仕切るための隔壁となる。なお、図2のように耐火物ブロック100を組み合わせることで、炉長方向Aに所望の数のフリューを形成し、燃焼室とすることが可能である。
耐火物ブロック100の形状は、ビンダー壁110とロイファー壁120とが一体に形成されたコの字状である。このような形状とすることにより、フリューの目地を少なくすることができ、燃焼室壁部の変位を低減し、耐火物の損傷を回避することができる。
耐火物ブロック100の炉高方向Cの長さは1000mm以上7000mm以下である。炉高方向Cの長さは1000mm以上である耐火物ブロック100は、一般的な耐火物ブロックよりも大型であるため、築炉工事の大幅な効率を改善することができる。一方で、耐火物ブロック100は炉高方向Cの長さを7000mm以下とした理由は、長さが7000mmを超えると耐火物ブロック100を吊り上げた時の安定性が低下し、コークス炉への積み込みが困難になる虞があるためである。
耐火物ブロック100の炉団長方向Bの長さは、耐火物ブロック100を積み込む燃焼室(フリュー)の炉団長方向Bの長さに準ずる長さとなる。例えば、耐火物ブロック100の炉団長方向Bの長さは900mm以上980mm以下の範囲とする。
耐火物ブロック100の炉長方向Aの長さは、耐火物ブロック100を積み込む燃焼室(フリュー)のフリューピッチに準ずる長さとなる。例えば、耐火物ブロック100の炉長方向Aの長さは650mm以上720mm以下とする。
耐火物ブロック100は、炉団長方向Bの長さが炉長方向Aのビンダー壁110側に向かって狭まる、あるいは広がるように変化する水平テーパを有していても良い。ここで、一般的には、ビンダー壁110側に向かって狭まる水平テーパを有する耐火物ブロックはコークスサイド11に配置されるものであり、ビンダー壁110側に向かって広がる水平テーパを有する耐火物ブロックはプッシャーサイド10に配置されるものである。
例えば、図2の紙面右側がコークスサイドの場合、耐火物ブロック100bの炉団長方向Bの長さはビンダー壁110側(100a側)に向かって短くなっており、耐火物ブロック100aの炉団長方向Bの長さはビンダー壁側に向かってさらに短くなるように形成されている。このような水平テーパは1つの耐火物ブロック毎に2mm程度の変化になるように形成される。耐火物ブロック100は水平テーパを備えることにより、炭化室において製造されるコークスをプッシャーサイドからコークスサイドに押し出す際に、炭化室がプッシャーサイドからコークスサイドに向かって幅(炉団長方向Bの長さ)が広くなるため、押し出し機と炉壁との摩擦、衝突等が低減され、当該押し出しが容易になる。
また、耐火物ブロック100は、炉団長方向Bの長さが炉高方向Cの一方側(孔130を備える面側)に向かって狭まるように変化する垂直テーパを有しても良い。後述の図3において、紙面上側を一方側(上面側)とし、紙面下側を他方側(下面側)とした場合、耐火物ブロック100の幅(炉団長方向Bの長さ)は、下面側から上面側に向かって狭くなるように形成されている。このような垂直テーパは1つの耐火物ブロック毎に2mm程度の変化になるように形成される。耐火物ブロック100は垂直テーパを備えることにより、炭化室に石炭を装炭する際に、炭化室が下面側から上面側に向かって幅(炉団長方向Bの長さ)が広くなるため、当該石炭の装炭が容易になる。
なお、特許文献1では2つの耐火物ブロックの合わせ面の目地において、モルタル層の厚さを順次変化させることによって水平テーパを実現しているが、本実施形態の耐火物ブロック100は、耐火物ブロックそのものに水平テーパ、垂直テーパを有する形態としている点で異なっている。
耐火物ブロック100は炉高方向Cの一方側の面(上面)に孔130が少なくとも1つ形成されており、該孔130は耐火物ブロック100の重心と一方側の面との交点Oとなる位置、交点Oに対して点対称となる位置、又はその両方の位置に形成されている。図3に、耐火物ブロック100の概略的な平面図及び正面図であって、耐火物ブロック100の一方側の面(上面)に設けられる孔130に着目した図である。図3では、耐火物ブロック100は4つの孔130が形成されており、それぞれ交点Oに対して点対称となる位置に配置されている。孔130は耐火物ブロック100を吊り上げるための吊り治具を配置するための孔である。そのため、孔130は耐火物ブロック100を吊り上げる際に、耐火物ブロック100のバランスが安定する位置に設けられている。孔130の形状は吊り治具の形状に応じて形成される。例えば、円筒形に形成される。
耐火物ブロック100のロイファー壁120は炉団長方向Bに平行な1対の貫通孔140が少なくとも1組形成されている。図4に耐火物ブロック100の概略的な側面図であって、炉高方向Cの他方側(下面側)に着目した図を示した。図4の通り、ロイファー壁120は1対の貫通孔140を2組備えている。貫通孔140は耐火物ブロック100(ロイファー壁120)の炉高方向Cの長さを100%としたとき、炉高方向Cの他方側から10%までの範囲に形成されている。これは、貫通孔140全体が上記の範囲に形成されていることを意味する。貫通孔140は耐火物ブロック100を吊り上げるための吊り部材を挿入するための孔である。そのため、貫通孔140の炉長方向Aの位置は耐火物ブロック100を吊り上げる際に、耐火物ブロック100のバランスが安定する位置に設けられている。貫通孔140の位置はロイファー壁120の下面側であるほど良いが、貫通孔140が下面に非常に近い箇所に形成されると、当該部分の耐久性が損なわれる虞がある。そのため、貫通孔140は下面側から5%以上の位置に形成されることが好ましい。貫通孔の形状は、吊り部材を挿入し、耐火物ブロックを吊り上げることができれば特に限定されない。後述の図4の貫通孔140aのように、耐火物ブロックを設置後に内部のモルタルを掃除できるような形状としてもよい。
図4の貫通孔140はロイファー壁120に2組形成されている。ここで図4の紙面左側の貫通孔を140aとし、紙面右側の貫通孔を140bとする。このように、貫通孔140を2組以上形成する場合は、耐火物ブロック100を吊り部材によって吊り上げる際に、耐火物ブロック100のバランスが安定する位置に形成する。ここで、貫通孔140aは貫通孔15に比べて大きく形成されている。これは、耐火物ブロック100を接合した後に、目地からはみ出した内部のモルタルを掃除するためである。これらの貫通孔140は、耐火物ブロック100がコークス炉内に設置され、当該設置部および近傍の掃除が完了したのち、閉塞部材により閉塞される。図5に貫通孔140aを閉塞するための閉塞部材150a及び貫通孔140bを閉塞するための閉塞部材150bの概略的な側面図及び平面図を示した。
耐火物ブロック100は、主成分を溶融珪石とする又は溶融珪石からなることが好ましい。「主成分を溶融珪石とする」とは、溶融珪石が耐火物ブロック100に50重量%以上含有されていることを言い、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは溶融珪石からなることである。溶融珪石は非晶質であり、常温から1000℃まではほとんど熱膨張しない。そのため主成分を溶融珪石にすることで、補修完了後の昇温速度を急激に上昇することが可能となり、珪石煉瓦にくらべ工期の短縮がはかられる。なお、従来の補修で使用される珪石煉瓦は常温から600℃まで熱膨張が大きく、補修完了後は緩やかな昇温を行う必要があり、5~8日の期間が必要となる。
以上、耐火物ブロック100について説明した。このような耐火物ブロック100の製造方法は特に限定されないが、例えばコの字状の開口部を有した型枠に水を加えた溶融珪石を混錬して流し込みことによって製造することができる。
[耐火物ブロックの設置方法]
次に本発明の耐火物ブロックの設置方法について、一実施形態である耐火物ブロック100の設置方法200(以下、「設置方法200」ということがある。)を用いて説明する。
設置方法200は、耐火物ブロック100をコークス炉に設置する方法である。図6に耐火物ブロック100の設置方法200のフローチャートを示した。図6の通り、設置方法200は、吊り治具配置工程S210と、吊り部材挿入工程S220と、設置工程S230とを備えている。ここで、図6では吊り治具配置工程S210の後に、吊り部材挿入工程S220を行っているが、これらの順番は任意であり、吊り部材挿入工程S220の後に、吊り治具配置工程S210を行っても良い。
(吊り部材配置工程S210)
吊り部材配置工程S210は、耐火物ブロック100の上面に形成されている孔130に、耐火物ブロック100を吊り上げるための吊り冶具を配置する工程である。配置された吊り治具は、耐火物ブロックを吊り上げた際に外れないように耐火物ブロック100に固定される。吊り治具とは、例えば吊りプラグを備えた吊り金具等である。
図7に耐火物ブロック100に吊り込み装置300を設置した概略図を示した。紙面左側が側面図であり、紙面右側が正面図である。図7では、耐火物ブロック100の上部に吊り金具310が設置されている。吊り金具310はレッカー等によってワイヤー311で吊られている。また、耐火物ブロック100は上面に形成された孔130に吊りプラグ312を挿入して固定することにより、耐火物ブロック100を吊り金具310に固定している。
(吊り部材挿入工程S220)
吊り部材挿入工程S220は、1対の貫通孔140に耐火物ブロック100を吊り上げるための吊り部材を挿入する工程である。吊り部材とは、スリングやクランプである。図7では吊り部材としてスリング320を用いている。
図7の通り、スリング320を耐火物ブロック100のロイファー壁120に設けた1対の貫通孔140a、140bにそれぞれ挿入する。挿入されたスリング320は吊り金具310に固定される。また、スリング320のロイファー壁120に接触している面には、スリング320が外れること及び耐火物ブロック100が崩落することを防止するために、スリング固定ベルト321が所定の箇所に複数取り付けられている。なお、吊りプラグ312、スリング320を均等に引っ張るには、チェーンブロックのような冶具(不図示)が必要となる。
(設置工程S230)
設置工程S230は、吊り治具及び吊り部材を用いて耐火物ブロック100を吊り上げ、該耐火物ブロック100をコークス炉に設置する工程である。
耐火物ブロック100を吊り上げコークス炉に設置する際には、積替の対象となる燃焼室、炭化室の上部(炉頂部)を解体して撤去し、上部が開放された状態で行うことが好ましい。耐火物ブロック100を吊り上げ、コークス炉内の所定の位置に設置する状況の模式を図8に示した。図8のように、耐火物ブロック100をコークス炉内に取り込む際、作業員は炉外の作業足場で耐火物ブロック100のスリング固定ベルト321にあらかじめ取り付けておいたロープで、耐火物ブロック100を所定の位置に誘導してもよい。耐火物ブロック100を所定の位置に取付けた後、作業員は炭化室内の足場上で上部の吊りプラグ312を外し、耐火物ブロック100の傾き等の微調整を行う。この時、スリング320はまだ取り外さず、耐火物ブロック100の倒れを防止する役目を行う。耐火物ブロック100の調整を終えた後に、スリング固定ベルト321とスリング320とを外し、作業が終了となる。この手順を順次繰り返して、耐火物ブロック100の設置を行う。ここで、設置工程S230の前に設置する耐火物ブロック100の周辺に存在する目地にモルタルを敷設しておくことが好ましい。
図9に耐火物ブロック100を炉高方向Cに2段、炉長方向Aにフリュー2個分、炉団長方向Bに4列分の合計16個設置した概略図を示す。図9の紙面左側は側面図であり、紙面右側は正面図である。このような設置方法を採用することにより、耐火物ブロック100の寸法は、バックステーの間の空間を通過できる範囲に限定されないこととなる。
以上、耐火物ブロック100の設置方法200について説明した。設置方法200によれば、耐火物ブロック100を安定して吊り上げることができる。そのため、耐火物ブック100の積み作業中の作業員の安全を確保できる。
以下、実施例に基づいて本発明の耐火物ブロック及びその設置方法について説明する。
上記した耐火物ブロックの設置方法に倣って、図10に示すように窯口から2フリュー分を3列に亘って積み替えた。ここで、比較例では従来の耐火物ブロックのみを用いた。実施例では本発明に係る耐火物ブロック1つと従来の耐火物ブロックとを用いた。本発明に係る耐火物ブロックはフリューの最下段に配置することとした。従来の耐火物ブロックの高さは500mmである。本発明に係る耐火物ブロックの高さ(炉長方向の長さ)は2500mmであり、従来の耐火物ブロックの5つ分の高さである。図10の通り、従来の耐火物ブロックを用いた場合は、炉高方向に18段積み上げる必要がある。
実施例及び比較例について施工日数を比較した。結果を図11に示した。ここで、図11の横軸は積み替えた耐火物ブロックの個数(段数は従来の耐火物ブロックを基準)であり、縦軸は所要日数である。図11に示すように、比較例の施工日数(■)にくらべ、実施例の施工日数(◆)は3日短縮された。この結果から、本発明に係る耐火物ブロックを用いることにより、施工期間の大幅な短縮が可能であると考えられる。また、本発明に係る耐火物ブロックのみを用いてフリューの積み替えを行った場合、さらなる施工日数の短縮が期待できると考えられる。