以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.コークス炉の全体構成]
まず、図1、図2を参照して、室炉式コークス炉の全体構成について説明する。図1は、室炉式コークス炉1の炉長方向Xの縦断面図であり、図2は、室炉式コークス炉1の炉団長方向Yの縦断面図である。
図1及び図2に示すように、室炉式コークス炉1(以下、単に「コークス炉1」という。)は、炉本体下部に設けられるソールフリュー2と、該ソールフリュー2の上部に設けられる蓄熱室3と、該蓄熱室3の上部に設けられる炭化室4及び燃焼室5(炭化室4及び燃焼室5を合わせて炉本体と称する。)と、該炭化室4及び燃焼室5の上部に設けられる炉頂部10とを備える。また、図示はしないが、コークス炉1は、炉頂部10上に炉団長方向Yに走行可能に配置されて各炭化室4に石炭を装入する装入車や、各炭化室4からコークスを押し出すための押出機なども備えている。
炭化室4及び燃焼室5は、炉長方向Xに延びる縦長の略直方体状の空間であり、かかる炭化室4と燃焼室5は、炉団長方向Yに交互に設けられる。炭化室4は、石炭を乾留してコークスを生成するための空間である。炭化室4の上部の炉頂部10には、炉長方向Xに所定間隔で複数の装入口11が形成されるとともに、端部に1つの上昇管13が形成される。不図示の装入車により装入口11から炭化室4内に石炭が装入される。燃焼室5は、燃料ガスを燃焼させるための空間である。該燃焼室5の熱が炭化室4に伝わることで、炭化室4内で石炭が乾留される。この燃焼室5の上部の炉頂部10には、炉長方向Xに所定間隔で複数のフリュー孔12が形成されている。該フリュー孔12は、フリュー孔部位40の各段に形成された小さな孔からなり、燃焼室5に連通しており、最上段にはフリュー孔蓋が設置される。かかるフリュー孔12を設けることで、燃焼室5の燃焼状態を、炉頂から目視で観察することができるようになる。
上記ソールフリュー2、蓄熱室3、炭化室4、燃焼室5及び炉頂部10は、コークス炉1の炉本体を構成し、当該炉本体は、数百〜千数百にも及ぶ異形状の煉瓦を、高さ方向に例えば100段程度も組み合わせた複雑な構造を有する。このため、従来のコークス炉1の築造方法では、複数の作業員が人手で各段の煉瓦を積み上げていく方式を採用しており、この結果、炉本体耐火物の築造工期が長期化する(例えば数ヶ月から1年以上)という問題があった。
本発明は、かかる複雑な構造を有するコークス炉1の炉頂部10に着目し、該炉頂部10の耐火物構造の築造工期の短縮を可能とする、炉頂部10の耐火物積み構造とその築造方法を提供するものである。コークス炉1の炉本体耐火物のうち炉頂部10を対象とした理由は、次の通りである。
第1に、炉頂部10の施工体厚み(つまり、炉頂部10の上下方向Zの高さ)は、例えば1m強程度であるにも関わらず、装入口11やフリュー孔12等を形成するために多種類の煉瓦を複雑に積み上げる必要があり、他の部分と比べて多くの築造工期を要するからである。第2に、炉頂部10を構成する3つの部位(後述する装入口部位、フリュー孔部位、中埋部位)の間に膨張代を設置することなどにより、これら3つの部位の相互干渉が少ないので、築造工期の短縮に取り組みやすいからである。第3に、炉頂部10の煉瓦間へのモルタル充填、一部積み替えなど、炉本体の乾燥・昇温後であっても、炉頂部10の不具合箇所を補修し易いからである。
以下では、かかる炉頂部10の構造及び築造方法について詳細に説明する。
[2.コークス炉の炉頂部の構造]
次に、本発明の好適な実施の形態に係るコークス炉の炉頂部の構造について詳述する。以下では、まず、従来の炉頂部10の構造について説明した上で、本発明の実施形態に係るコークス炉の炉頂部100の構造について詳述することとする。
[2.1.従来の炉頂部の構造]
まず、図1〜図3を参照して、従来のコークス炉の炉頂部構造について説明する。図3は、従来のコークス炉1の炉頂部10の構造を示す縦断面図である。図3では、炭化室4の上部にある炉頂部10の構造を炉団長方向Yから見た状態を示している。
図1〜図3に示すように、炉頂部10は、主に、装入口部位20、中埋部位30及びフリュー孔部位40の3つの部位から構成される。このうち、装入口部位20及び中埋部位30は、炭化室4の上部に位置する部分であり、フリュー孔部位40は、燃焼室5の上部に位置する部分である。
装入口部位20は、図1、図3に示すように、炉頂部10のうち、炭化室4の上部に装入口11を形成するための耐火物部分である。装入口部位20の中央には略テーパ状の中空空間(即ち、装入口11)が形成されている。この装入口部位20は、炭化室4の上部に炉長方向Xに沿って所定間隔で設けられる。図1の例では、1つの炭化室4につき5つの装入口11が設けられているので、炉頂部10にも5つの装入口部位20が設置される。従来の装入口部位20は、人力で多数の異形状の装入口煉瓦22を積み上げて築造される。装入口煉瓦22としては、比較的高強度の粘土煉瓦を用いることが一般的である。なお、装入口部位20の装入口11の上端には、当該装入口11を塞ぐ装入口蓋14が設置される。
中埋部位30は、図1、図3に示すように、炉頂部10のうち、炭化室4の上部において炉長方向Xに所定間隔で配置される複数の装入口部位20の間の空間を埋めるための耐火物部分である。従来の中埋部位30も、人力で多数の中埋煉瓦32を積み上げて築造される。中埋部位30を構成する中埋煉瓦32としては、例えば、中埋部位30の下部側は粘土煉瓦、上部側は断熱煉瓦を用いることが一般的であるが、中埋部位30の最下段を構成する煉瓦31(炭化室4の天井煉瓦)のみは、高耐熱煉瓦、例えば珪石煉瓦が用いられている。
フリュー孔部位40は、図2に示すように、炉頂部10のうち燃焼室5の上部に配置される耐火物部分であり、該フリュー孔部位40により、燃焼室5の上部に複数のフリュー孔12が形成される。従来のフリュー孔部位40も、人力で多数のフリュー孔煉瓦42を積み上げて築造される。フリュー孔部位40を構成するフリュー孔煉瓦42としては、例えば、粘土煉瓦を用いることが一般的である。なお、上記フリュー孔部位40と装入口部位20との間、及びフリュー孔部位40と中埋部位30との間に、所定の膨張代を確保するようにして、各部位の煉瓦が積み上げられる。
以上、従来の炉頂部10の構造について説明した。従来の炉頂部10の築造方法では、装入口部位20、中埋部位30及びフリュー孔部位40のいずれについても、人力で多数の煉瓦を積み上げて築造していたため、築造工期が増大するという問題があった。
[2.2.本実施形態に係る炉頂部の構造]
次に、図4、図5を参照して、本発明の第1の実施形態に係るコークス炉の炉頂部構造について説明する。図4は、本実施形態に係るコークス炉の炉頂部100の構造を示す縦断面図である。図5は、本実施形態に係るコークス炉の炉頂部100の最下段の煉瓦構造を示す斜視図である。
図4に示すように、本実施形態に係る炉頂部100は、装入口部位20を構成する装入口ブロック体25と、中埋部位30を構成するプレキャストブロック35と、フリュー孔部位40を構成する複数のフリュー孔煉瓦42(図5参照。)と、これら各部位の隙間に充填される充填材の一例である耐火キャスタブル50とからなる。
このように、本実施形態に係る炉頂部構造では、フリュー孔部位40は従来と同様にフリュー孔煉瓦42を積み上げた構造であるが、装入口部位20及び中埋部位30の構造が大きく異なる。装入口部位20については、炉頂部100の築造前に予め、複数の大型の装入口煉瓦22を相互に接着し、一体化された装入口ブロック体25を製造しておく。そして、炉頂部100の築造時に、当該装入口ブロック体25を炉頂部100の装入口部位20に設置する。このように、装入口部位20については、複数の装入口煉瓦22を一体化した大型ブロック化が図られている。また、中埋部位30については、炉頂部100の築造前に予め、上下2段の大型のプレキャストブロック35を成形しておく。このプレキャストブロック35の上側部分を断熱質プレキャストブロック33、下側部分を耐火粘土質プレキャストブロック34で構成する。そして、炉頂部100の築造時に、当該プレキャストブロック35を中埋部位30に設置する。さらに、上記中埋部位30のプレキャストブロック35の周囲に形成される隙間には、冷間又は熱間にて、充填材としてセルフフロータイプの耐火キャスタブル50を充填する。以下に、本実施形態に係る炉頂部100の各部の構造について詳述する。
(1)炉頂部の最下段の煉瓦構造
まず、図5を参照して、炉頂部100の最下段の煉瓦構造について説明する。図5に示すように、コークス炉の炉本体の天井煉瓦41は、当該炉本体の最上段を構成する煉瓦であり、例えば高耐熱性及び高耐久性を有する珪石煉瓦で構成され、炭化室4の一部及び燃焼室5の上部開口部を覆うように築造されている。このうち、燃焼室5の上部に位置する天井煉瓦41の上部に、フリュー孔部位40の最下段のフリュー孔煉瓦42が、炉長方向Xに直線状に設置される。各フリュー孔煉瓦42には、上下方向Zにフリュー孔12が貫通形成されている。
また、炭化室4の上部開口部は、中埋部位30の最下段の煉瓦31(以下、最下段中埋煉瓦31という。)と、装入口部位20の最下段の煉瓦21(以下、最下段装入口煉瓦21という。)とによって覆われている。これら、最下段中埋煉瓦31及び最下段装入口煉瓦21は、炭化室4の天井煉瓦を構成する。最下段装入口煉瓦21は、例えば粘土煉瓦で構成され、装入口11の設置位置に配置される。一方、最下段中埋煉瓦31は、例えば、珪石煉瓦又は粘土煉瓦で構成され、装入口11が無い中埋部位30に配置されて中埋部位30の最下段を構成する。これら最下段装入口煉瓦21の群と最下段中埋煉瓦31の群は、炉長方向Xに交互に配置される。
また、最下段装入口煉瓦21のうち、フリュー孔煉瓦42と対向する一部の煉瓦21Aには、モルタル注入孔23が上下方向Zに貫通形成されている。このモルタル注入孔23は、炉頂部100の底部から上部まで貫通して設けられる。さらに、最下段装入口煉瓦21及び最下段中埋煉瓦31のうち、フリュー孔煉瓦42と対向する全ての煉瓦21、31には、切り欠き状のモルタル流通溝24が炉長方向Xに沿って形成されている。このモルタル流通溝24は、当該煉瓦21、31のコーナー部(炉本体の天井煉瓦41及びフリュー孔煉瓦42の双方と対向するコーナー部)に形成され、炉長方向Xに連通している。そして、上記モルタル注入孔23とモルタル流通溝24は、相互に連通しており、モルタルの流通路を構成する。
炉頂部100の炉頂面から注入されたモルタルは、モルタル注入孔23を通って上下方向Zに移動し、炉頂部100の最下段に達した後に、モルタル流通溝24を通って炉長方向Xにも移動し、モルタル流通溝24内に充填される。この結果、炉頂部10の最下段の煉瓦(例えば、最下段装入口煉瓦21及び最下段中埋煉瓦31)と、炉本体の天井煉瓦41との境目に生じた隙間に、モルタルが充填されて閉塞される。
かかるモルタルは、主として、炉本体の昇温に伴う熱膨張差により、珪石れんがと粘土れんがの境目で既存のモルタルが縁切れして生じた隙間に注入される。従って、粘土煉瓦である最下段装入口煉瓦21と、珪石煉瓦である炉本体の天井煉瓦41との間に最も注入される。ただし、一部のモルタルは、珪石れんが同士の間に生じた隙間、例えば、最下段中埋煉瓦31(珪石煉瓦)とる炉本体の天井煉瓦41(珪石煉瓦)との間に生じた隙間にも注入される。このようにモルタルを充填することにより、炉頂部10の最下段煉瓦と炉本体の天井煉瓦41との隙間を閉塞できるので、炭化室4から燃焼室5へのガス漏れを防止できる。
また、図5に示すように、炉長方向Xに沿って配列される装入口部位20及び中埋部位30は、炉団長方向Yの両側からフリュー孔部位40で挟み込まれた状態となる。この際、フリュー孔部位40の最下段のフリュー孔煉瓦42と、装入口部位20及び中埋部位30の最下段煉瓦21、31との間には、成形モルタルシート26が設置される。成形モルタルシート26は、モルタルを成形した平板状の耐火物であり、最下段煉瓦21、31の外側(フリュー孔部位40側)の側面に固着されている。成形モルタルシート26の炉団長方向Yの厚みは、装入口部位20とフリュー孔部位40との間の目地(膨張代)の厚みに相当する。
かかる成形モルタルシート26は、装入口部位20の装入口ブロック体25と最下段煉瓦21、31との間からのモルタルの滲み出しを防ぐ壁体として機能する。後述するように最下段煉瓦21、31上に装入口ブロック体25を設置するときには、両者間の目地部として、最下段煉瓦21、31の上面にモルタルが塗布される。この際、最下段煉瓦21、31上に載置された装入口ブロック体25の自重で当該モルタルが外側に滲み出て、装入口部位20とフリュー孔部位40の間の狭い隙間(膨張代)に入り込む可能性がある。そこで、最下段煉瓦21、31の上面から突出するように成形モルタルシート26を最下段煉瓦21、31の外側に予め固着しておき、当該成形モルタルシート26の内側の最下段煉瓦21、31の上面にモルタルを塗布する。かかる構成により、装入口ブロック体25の設置時に、装入口ブロック体25の下面と最下段煉瓦21、31の上面との間から、モルタルが外側の膨張代に滲み出することを防止でき、施工性が向上する。
(2)装入口部位
次に、図4を参照して、装入口部位20に設置される装入口ブロック体25について説明する。
装入口部位20は、装入口11から装入される石炭と接触するため、耐摩耗性を有する耐火物で築造する必要がある。このため、耐久性の面で、装入口部位20にプレキャストブロックを適用することは困難である。そこで、本実施形態では、装入口部位20の耐火物の材質を、従来と同様に、高強度の耐火粘土質とするべく、複数の装入口煉瓦22を相互に接着して一体化された装入口ブロック体25を用いて、装入口部位20の耐火物を構成する。装入口煉瓦22は、例えば粘土煉瓦で構成されるが、ある程度の強度と耐摩耗性を確保可能であれば、他の種類の耐火煉瓦(例えば、アルミナ煉瓦、珪石煉瓦)であってもよい。
なお、図5で示した装入口部位20の最下段を構成する最下段装入口煉瓦21(いわゆるエンマ煉瓦)は、装入口ブロック体25を構成する装入口煉瓦22に含まれず、装入口ブロック体25として一体化されていない。この理由は次の通りである。
炉頂部100を築造する際には、作業員の落下防止等の安全確保の観点から、まず、図5に示すように、炉頂部100の最下段を構成する煉瓦21、31により炭化室4上部の開口部を塞いでから、当該最下段の煉瓦21、31上に装入口部位20及び中埋部位30の耐火物を築造することが好ましい。そこで、本実施形態に係る装入口ブロック体25は、最下段装入口煉瓦21よりも上段に位置する複数の装入口煉瓦22を一体化したものとし、最下段を構成する煉瓦21(エンマ煉瓦)については、装入口ブロック体25として一体化せずに、個別に築造することとした。同様に、中埋部位30の最下段を構成する最下段中埋煉瓦31(即ち、炭化室4の天井煉瓦)についても、後述するプレキャストブロック35で構成せずに、個別に築造することとした。
ここで、図6A、図6B、及び図7を参照して、装入口ブロック体25の構造及び製造方法について説明する。図6Aは、本実施形態に係る装入口ブロック体25を炉団長方向Yから見た側面図であり、図6Bは、本実施形態に係る装入口ブロック体25を炉長方向Xから見た正面図である。図7は、本実施形態に係る装入口ブロック体25と最下段装入口煉瓦21との接合箇所を示す側面図及び拡大断面図である。
図6A及び図6Bに示すように、装入口ブロック体25は、複数の装入口煉瓦22を炉長方向X、炉団長方向Y及び上下方向Zに相互に接合して構成される。装入口ブロック体25の内部には、側面視で下部に向かうほど拡張するような台形状の装入口11が上下方向Zに貫通形成されている。本実施形態では、装入口ブロック体25の側面形状が台形となり、正面形状が縦長の長方形となるように装入口煉瓦22を組み合わせて、装入口ブロック体25を形成している。このように、本実施形態に係る装入口ブロック体25は、装入口11の形状に合わせて、炉団長方向Yから見た側面視で上辺の長さL1よりも下辺の長さL2(以下、それぞれ上辺長L1、下辺長L2という。)が長い台形状の側面を有する。このような台形状の側面を有する装入口ブロック体25を用いることにより、複数の装入口煉瓦22を接合して装入口ブロック体25を製造するときに、安定した形状の装入口ブロック体25を容易かつ短時間で製造できる。さらに、装入口ブロック体25を吊り上げて運搬する時に、装入口煉瓦22、22間の縦目地27の目地切れ、目地ズレ、撓みの発生を抑制して、装入口ブロック体25を運搬及び据え置きしやすくなる。しかし、装入口ブロック体25の形状は、図6A及び図6Bに示す例に限定されず、装入口11や装入口部位20の形状・寸法等に応じて任意の形状にしてもよい。
なお、1つの装入口部位20に設置される装入口ブロック体25の高さや分割数は、装入口部位20への装入口ブロック体25の設置作業全体の作業性や、クレーンの使用頻度などを考慮して決定される。例えば、図6A及び図6Bに示すように、1つの装入口部位20に設置される装入口ブロック体25を、1つのブロック体で構成し、当該ブロック体の高さを、装入口部位20の上下方向Zの高さと同一にしてもよい。或いは、1つの装入口部位20に設置される装入口ブロック体25を、上下2つのブロック体で構成し、当該各ブロック体の高さを、装入口部位20の高さの1/2にしてもよい。
装入口ブロック体25を製造するときには、まず、定盤などの平坦な板上にて、複数の装入口煉瓦22、22を、通常使用している耐火モルタルで相互に接着・固定する。この際、組立図面寸法となるように、装入口煉瓦22、22間の縦目地27の目地幅を調整しながら、装入口ブロック体25を組み立てる。また、上下に隣接する縦目地27、27が、通し目地とならず、左右方向にずれるかわし目地となるように、各装入口煉瓦22の形状・寸法や配置が調整される。
その後、装入口ブロック体25の最下段若しくはその一段上の装入口煉瓦22に吊上げ金具28を接着剤(例えば、汎用的なエポキシ樹脂タイプの高強度接着剤)で固定する。吊上げ金具28は、クレーン等で装入口ブロック体25を吊り下げて、炉頂部100の所定位置まで運搬するために用いられる。装入口ブロック体25に対する作業員の寄り付きを考慮して、吊上げ金具28は、装入口ブロック体25の炉団長方向Y両側の側面に設置される。なお、装入口ブロック体25を炉頂部100の所定位置にブロックを設置した後、吊上げ金具28を火炎で炙れば、接着剤が軟化して、吊上げ金具28を容易に装入口ブロック体25から除去することができる。
さらに、装入口ブロック体25の下段部分(例えば下2段)を構成する装入口煉瓦22の縦目地27に、薄く強靭な補強シート29を、接着剤(例えば、エポキシ樹脂タイプの高強度接着剤)等で貼り付ける。この縦目地27用の補強シート29は、装入口ブロック体25の吊り上げ・運搬時に、装入口煉瓦22、22間の縦目地27の目地切れ、目地ズレ、撓みの発生を抑制する機能を有する。吊り高さ位置、吊り上げ時の変形抑制を加味し、炉団長方向Y及び炉長方向Xの両方の側面において、2段分の装入口煉瓦22の縦目地27に貼り合わせることが好ましい。
また、補強シート29は、所定温度(例えば、600〜700℃)以上の高温酸化雰囲気で劣化・消失する材質からなり、例えば、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、FRP(繊維強化プラスチック)などが相応しい。これにより、炉頂部100に装入口ブロック体25を設置した後に、コークス炉1の炉本体を上記所定温度にまで昇温させたときに、装入口ブロック体25に貼り付けられている補強シート29が、劣化・消失する。従って、昇温後には、当該補強シート29により、装入口部位20と中埋部位30又はフリュー孔部位40との間の隙間を閉塞することがないので、後述するモルタルや充填材の流動を阻害しないようにできる。この補強シート29は、例えば10mm厚み程度で十分であり、高温酸化雰囲気で焼失するので、装入口ブロック体25に貼り合わせた状態でそのまま、炉頂部100に設置して放置すればよい。
また、炉頂部100の装入口部位20の所定位置に装入口ブロック体25を設置するために、図7に示すように、最下段装入口煉瓦21と装入口ブロック体25とを、位置決めピン210を用いて嵌合させる構造にしてもよい。このために、最下段装入口煉瓦21の上面には、位置決めピン210を取り付けるためのピン孔212が形成され、装入口ブロック体25の最下段の装入口煉瓦22の下面にも、位置決めピン210に嵌め込むためのピン孔222が形成されている。かかる位置決めピン210を用いた嵌合構造により、最下段装入口煉瓦21上の所定位置に装入口ブロック体25を正確に設置することができる。
(3)中埋部位
次に、図4を参照して、中埋部位30に設置されるプレキャストブロック35について説明する。
従来、複数の中埋煉瓦32で築造されていた中埋部位30は、作業員が作業可能な炉頂デッキの温度レベル(例えば常温前後)を確保でき、座屈しない程度の強度を有していれば、特に支障が無い。このため、機能的には、中埋部位30の耐火物を、従来の中埋煉瓦32からプレキャストブロックに代替することが可能である。
そこで、本実施形態では、築造工期の短縮を図るため、中埋部位30の耐火物として、従来のような多数の中埋煉瓦32に代えて、大型のプレキャストブロック35を使用する。プレキャストブロック35は、キャスタブル耐火物を型枠に流し込み、乾燥又は焼成処理した定形耐火物であり、煉瓦では成形困難な形状や大型一体形状に使用されるものであり、任意の形状の成形が容易であり、その成形時間も短い。
そして、炉頂部100の施工前に予め大型のプレキャストブロック35を製造しておき、炉頂部100の施工時に、外部からプレキャストブロック35を運搬して中埋部位30に設置する。かかるプレキャストブロック35の設置作業は、従来のような多数の中埋煉瓦32の築造作業に比べて大幅に短いという利点がある。ただし、上記のように炉頂デッキ上の温度レベルを適切な温度に維持し、かつ中埋部位30の座屈を防止するためには、中埋部位30のプレキャストブロック35は、ある程度の強度と断熱性能の双方を兼備する必要がある。
このため、本実施形態に係るプレキャストブロック35は、中埋部位30の上部側に配置される断熱質プレキャストブロック33と、中埋部位30の下部側に配置される耐火粘土質プレキャストブロック34とから構成される。断熱質プレキャストブロック33は、断熱質のキャスタブル耐火物材料からなるプレキャストブロックであり、強度は若干劣るものの、断熱性に優れる。この断熱質プレキャストブロック33を中埋部位30の上部側に配置することで、高温の炉本体からの熱を遮断して、炉頂デッキの温度環境を作業員が作業可能な温度レベルに維持できる。また、耐火粘土質プレキャストブロック34は、耐火粘土質のキャスタブル耐火物材料からなるプレキャストブロックであり、高耐火性及び高強度を有する。この耐火粘土質プレキャストブロック34を中埋部位30の下部側に配置することで、中埋部位30の重量を支持して、中埋部位30の座屈・破損等を防止できる。
上記の断熱質プレキャストブロック33の材料と施工厚みは、従来の中埋部位30の上側部分を構成する中埋煉瓦32(断熱煉瓦)の熱伝導性と煉瓦積み厚み等を考慮して決定される。また、耐火粘土質プレキャストブロック34の材料と施工厚みは、従来の中埋部位30の下側部分を構成する中埋煉瓦32(粘土煉瓦)の強度と煉瓦積み厚み等を考慮して決定される。
具体的には、断熱質プレキャストブロック33は、表1に示すように、B2クラスの断熱煉瓦に相当する品質レベルを有するものを使用すればよい。また、耐火粘土質プレキャストブロック34は、表2に示すように、JISの品質規格の第3種の粘土煉瓦(N3)に相当する品質レベルを有するものを使用すればよい。
断熱煉瓦は、耐火煉瓦(例えば粘土煉瓦)よりも強度が低いが、熱伝導率が低いので、中埋部位30の上側に配置される断熱用の耐火物として有用である。一方、耐火煉瓦(例えば粘土煉瓦)は、断熱煉瓦よりも強度が高く、気孔率が低いので、中埋部位30の下側に配置される構造支持用の耐火物として有用である。そこで、本実施形態では、中埋部位30の上側部分に断熱質プレキャストブロック33を配置し、下側部分に耐火粘土質プレキャストブロック34を配置することで、中埋部位30の断熱性能と強度面の双方の要求を満足させている。
また、プレキャストブロック35のブロック割と、各ブロックの形状・寸法は、中埋部位30の全体形状を踏まえ、プレキャストブロック35を乾燥させるための乾燥炉の大きさや、乾燥のし易さ、搬送のし易さ、設置のし易さ、モルタル注入口の確保などを考慮して、決定される。
例えば、図4の左側の中埋部位30に設置されるプレキャストブロック35は、上下2分割、左右2分割されており、上側の2個の断熱質プレキャストブロック33と下側の2個の耐火粘土質プレキャストブロック34から構成されている。このように、炉頂面に別途特別な設備が存在しない場合には、中埋部位30の上部側に断熱質プレキャストブロック33を、下部側に耐火粘土質プレキャストブロック34を配置することが、断熱性能及び強度面の観点から効率的である。
一方、図4の中央の中埋部位30に設置されるプレキャストブロック35は、上下2分割されているが、下側部分の耐火粘土質プレキャストブロック34が部分的に上側に突出して、炉頂面に至る突出部34Aが形成されている。このため、当該耐火粘土質プレキャストブロック34の突出部34Aにより、上側部分の断熱質プレキャストブロック33が左右に分断されている。この理由は、当該中央の中埋部位30上には、炉団長方向Yに延びる装入車の軌条15が設置されており、当該軌条15周辺の中埋部位30の強度を高めるためである。
断熱質プレキャストブロック33は、耐火粘土質プレキャストブロック34よりも低強度であるので、軌条15を通じて伝達される装入車の荷重を支えきれない恐れがある。そこで、本実施形態では、基本的には、中埋部位30の上部側には、断熱性に優れた断熱質プレキャストブロック33を配置するが、当該中埋部位30の上部側のうち装入車の軌条15の周辺部分には、強度面を優先して、断熱質プレキャストブロック33に代えて耐火粘土質プレキャストブロック34を部分的に配置する。これにより、炉頂面に設けられる装入車等の各種付帯設備の荷重により、中埋部位30が部分的に破損することを防止できる。
ここで、図8A及び図8Bを参照して、プレキャストブロック35の搬送方法について説明する。図8Aは、本実施形態に係るプレキャストブロック35の炉長方向Xの縦断面図であり、図8Bは、本実施形態に係るプレキャストブロック35の炉団長方向Yの縦断面図(b)である。
プレキャストブロック35を吊り下げて搬送する際には、搬送の安定性の観点から、少なくとも2箇所に吊り下げ治具を設置することが好ましい。高強度の耐火粘土質プレキャストブロック34を搬送する場合には、吊り下げピンを耐火粘土質プレキャストブロック34に直接的に埋設したとしても、ピン設置個所が破壊することなく、耐火粘土質プレキャストブロック34を搬送可能である。従って、図8A及び図8Bに示すようなスタッド36付きの吊り下げピン37は不要である。そこで、スタッド36の無い通常の吊り下げピンを耐火粘土質プレキャストブロック34に上面側からねじ込んで固定し、当該通常の吊り下げピンで耐火粘土質プレキャストブロック34を吊り下げて中埋部位30まで搬送すればよい。そして、耐火粘土質プレキャストブロック34を中埋部位30に据付けた後には、上記通常の吊り下げピンを耐火粘土質プレキャストブロック34から取り外せばよい。
一方、低強度の断熱質プレキャストブロック33を上記通常の吊り下げピン等を用いて搬送する場合には、ピン設置個所が破壊して、当該吊り下げピンが抜けるおそれがある。そこで、図8A及び図8Bに示すように、スタッド36付きの吊り下げピン37を用いて、低強度の断熱質プレキャストブロック33を搬送することが好ましい。このスタッド36付きの吊り下げピン37は、例えば、上記通常の吊り下げピンに複数のスタッド36を溶接して製造される。そして、断熱質プレキャストブロック33の製造時に、複数のスタッド36付きの吊り下げピン37を断熱質プレキャストブロック33の上部側に埋め込み、当該スタッド36付きの吊り下げピン37を用いて、断熱質プレキャストブロック33を吊り下げて中埋部位30まで搬送して据え付ければよい。かかるスタッド36付きの吊り下げピン37を用いることにより、低強度の断熱質プレキャストブロック33の搬送時に、当該吊り下げピン37の設置個所の破壊を防止でき、断熱質プレキャストブロック33を安定的に搬送可能となる。
また、図8Aに示すように、プレキャストブロック35は、台形状の側面を有する装入口ブロック体25の形状に対応して、炉団長方向Yから見た側面視で上辺の長さL3よりも下辺の長さL4(以下、それぞれ上辺長L3、下辺長L4という。)が短い逆台形状の側面を有する。このような逆台形状の側面を有するプレキャストブロック35を用いることにより、台形状の側面を有する複数の装入口ブロック体25の間の中埋部位30のスペースを、できるだけ隙間なく好適に埋めることができる。また、上記のようにプレキャストブロックは成形性が高いので、煉瓦では成形困難な逆台形状のプレキャストブロック35であっても、比較的に容易かつ短時間で成形可能である。さらに、プレキャストブロック35の上面側に吊り下げピン37などを設置して、上面側を吊り下げるようにして運搬できる。従って、フリュー孔部位40及び装入口部位20を築造した後に、プレキャストブロック35をクレーン等で上面側から吊り下げて運搬し、炉団長方向Yの両側のフリュー孔部位40の間の狭い中埋部位30のスペースに、該プレキャストブロック35を好適に設置できる。
(4)フリュー孔部位
次に、図2、図5を参照して、フリュー孔部位40の構造について説明する。
フリュー孔部位40は、図2、図5に示したように、燃焼室5の上部に炉長方向Xに沿って設けられる。このフリュー孔部位40は、従来と同様に、冷間で複数のフリュー孔煉瓦42を人力若しくは機械により積み上げて築造される。フリュー孔煉瓦42は、上下方向Zにフリュー孔12が貫通形成された煉瓦であり、複数のフリュー孔煉瓦42は、燃焼室5の上部に炉長方向Xに沿って直線状に並設される。図5では、フリュー孔部位40の最下段を構成するフリュー孔煉瓦42のみを示しているが、この最下段のフリュー孔煉瓦42の上側に複数段のフリュー孔煉瓦42が積み上げられる。
また、フリュー孔部位40を構成するフリュー孔煉瓦42と装入口部位20の装入口ブロック体25との間、及び、当該フリュー孔煉瓦42と中埋部位30のプレキャストブロック35との間には、炉団長方向Yに例えば10mm程度の厚みの膨張代が、炉長方向Xに沿って設けられる。これにより、コークス炉1の炉本体を高温(例えば600〜700℃)に昇温したときに、当該膨張代が、装入口部位20、プレキャストブロック35及びフリュー孔煉瓦42の炉団長方向Yの膨張を吸収でき、各煉瓦の破損を防止できる。
(5)隙間部位
次に、図4、図5を参照して、上記中埋部位30と装入口部位20及びフリュー孔部位40との隙間に充填される充填材(耐火キャスタブル50)について説明する。
本実施形態では、上記のように設置された中埋部位30のプレキャストブロック35の周囲の隙間に注入される充填材として、耐火キャスタブル50を用いる。耐火キャスタブル50は、耐火骨材に耐火性セメントや添加剤を配合した粉末に、水等の液体を混合した個液混合体であり、半流動性を有する。かかる耐火キャスタブル50は、コークス炉1の炉本体を所定温度まで昇温・乾燥させた後に、上記炉頂部100の各部の隙間に充填施工され、当該炉本体の熱により脱水して固化する。
このように熱間で充填施工される耐火キャスタブル50は、自己流動性(セルフフロー)を有する粘土質の耐火キャスタブルであることが好ましい。特に、耐火キャスタブル50は、常温のセルフフロー値(テーブル上に拡がった直径で表される流動性の評価値)が260mm以上で、700℃程度の熱間でも流動性を有するとともに、上記隙間への充填施工後に含有水分が均一に抜ける性質を有し、20〜80mmの範囲の幅の隙間に対して緻密に充填可能な材料であることが好ましい。
粘土質の耐火キャスタブルが好ましい理由は、装入口部位20の装入口煉瓦22(粘土質煉瓦)、及び中埋部位30の下段の耐火粘土質プレキャストブロック34の材質と、耐火キャスタブル50の材質とを合わせることにより、装入口煉瓦22及び耐火粘土質プレキャストブロック34の熱膨張挙動に耐火キャスタブル50を追従させるためである。また、耐火キャスタブル50が充填される隙間の幅を20mm以上とした理由は、如何なる耐火キャスタブルも20mm未満の幅の隙間に充填されるときには、充填施工中に一気に脱水が進み、流動性が得られず、発泡挙動を呈するので、均一緻密な耐火物組織を形成することが困難であるからである。一方、上記隙間の幅を80mm以下とした理由は、隙間の幅が80mmより大きいと、耐火キャスタブル50の使用量が多くなり、充填施工の作業負荷が大きくなり過ぎるからである。また、隙間の幅が80mmより大きいと、中埋部位30に大型のプレキャストブロック35を設置した後に、炉頂部100を築造する作業員が当該隙間に躓いて転倒し、怪我をする恐れがあり、また、炉本体の昇温・乾燥中に隙間を通じた輻射熱が作業員に影響する恐れもある。このため、作業員の安全面に配慮して、隙間の幅を80mm以下とした。
上記耐火キャスタブル50は、装入口部位20、中埋部位30、フリュー孔部位40の耐火物の隙間に充填される。ここで、耐火キャスタブル50が充填される隙間は、(a)装入口ブロック体25(装入口部位20)とプレキャストブロック35(中埋部位30)との隙間、(b)プレキャストブロック35(中埋部位30)とフリュー孔煉瓦42(フリュー孔部位40)との隙間、(c)プレキャストブロック35を構成する断熱質プレキャストブロック33と耐火粘土質プレキャストブロック34との隙間などを含む。中埋部位30をプレキャストブロック35で構成した場合、従来の中埋煉瓦32を積み上げて築造する場合よりも、中埋部位30とその周辺部位との間の隙間が大きくなる。そこで、中埋部位30のプレキャストブロック35の周囲の隙間に耐火キャスタブル50を充填することで、当該隙間を好適に閉塞できるので、炭化室4から燃焼室5へのガス漏れを防止できる。
なお、本実施形態では、(d)装入口ブロック体25(装入口部位20)とフリュー孔煉瓦42(フリュー孔部位40)との隙間には、従来の築造方法でも使用されているモルタルが充填される。しかし、当該(d)隙間に対しても、モルタルに代えて耐火キャスタブル50を充填してもよい。
[3.コークス炉の炉頂部の築造方法]
次に、本実施形態に係るコークス炉の炉頂部の築造方法について詳述する。以下では、まず、図9を参照して従来の炉頂部10の築造方法について説明した上で、図10を参照して本実施形態に係るコークス炉の炉頂部100の築造方法について詳述することとする。
[3.1.従来の築造方法]
まず、図9A〜図9Iを参照して、従来のコークス炉1の炉頂部10(図3参照。)の築造方法について説明する。図9A〜図9Iは、従来の炉頂部10の築造方法を示す工程図である。
従来の炉頂部10の築造方法では、まず、図9A及び図9Bに示すように、作業員の転落防止の観点から、炉頂部10の最下段の煉瓦42、21、31を築造して、炭化室4の上部空間を閉塞する。具体的には、図9Aに示すように、炉本体の天井煉瓦41上のフリュー孔部位40に最下段のフリュー孔煉瓦42を築造する。次いで、図9Bに示すように、炭化室4上部の装入口部位20及び中埋部位30に、最下段装入口煉瓦21、最下段中埋煉瓦31(炭化室天井煉瓦)を築造する。
その後、築造精度の確保の観点から、図9C〜図9Eに示すように、フリュー孔部位40、装入口部位20及び中埋部位30の下半分の煉瓦42、22、32を築造した後に、図9F〜図9Hに示すように、フリュー孔部位40、装入口部位20及び中埋部位30の上半分の煉瓦42、22、32を築造する。
具体的には、まず、図9Cに示すように、フリュー孔部位40の下半分の段数(例えば4段程度)のフリュー孔煉瓦42を一段ずつ築造する。次いで、図9Dに示すように、装入口部位20の下半分の段数(例えば4段程度)の装入口煉瓦22を一段ずつ築造する。さらに、図9Eに示すように、中埋部位30の下半分の中埋煉瓦32(粘土煉瓦32A)を築造する。
その後、図9Fに示すように、上記フリュー孔部位40の下半分に積み上げられたフリュー孔煉瓦42の上に、フリュー孔部位40の上半分の段数(例えば4段程度)のフリュー孔煉瓦42を一段ずつ築造する。次いで、図9Gに示すように、上記装入口部位20の下半分に積み上げられた装入口煉瓦22の上に、装入口部位20の上半分の段数(例えば4段程度)の装入口煉瓦22を一段ずつ築造する。さらに、図9Hに示すように、上記中埋部位30の下半分に積み上げられた中埋煉瓦32(粘土煉瓦32A)の上に、中埋部位30の上半分の中埋煉瓦32(矩形の粘土煉瓦32A(標準形状)、矩形の断熱煉瓦32B(標準形状)、赤煉瓦32C(標準形状)、異形の粘土煉瓦32D))を築造する。
上記の図9C〜図9Hのように、フリュー孔部位40、装入口部位20及び中埋部位30を上下方向に複数の部分に区分して築造することで、炉頂部10の築造精度は向上するが、各部分において異種の煉瓦を1段ずつ積み上げるため、築造工期が増大するという短所がある。以上までの工程で、冷間での炉頂部10の耐火物煉瓦の主要部分の築造が完了する。
次いで、コークス炉1の炉本体の昇温・乾燥作業を開始する。そして、当該昇温工程の途中に炉本体が適切な温度(例えば600〜700℃)まで上昇したときに、熱間でモルタルが充填施工される。モルタルは、中埋部位30の側面及び最下段装入口煉瓦21に形成されたモルタル注入孔23(図9H参照。)を通じて注入され、炉頂部10の最下段に到達した後に、最下段装入口煉瓦21及び最下段中埋煉瓦31のコーナー部に形成されたモルタル流通溝24を通じて炉長方向Xに流動し、モルタル流通溝24内に充填される。この結果、上記昇温された炉本体の高温の熱で、モルタル注入孔23及びモルタル流通溝24内のモルタルが固化する。これにより、コークス炉1の炉本体の昇温及び乾燥により、炉本体の天井煉瓦41及びフリュー孔煉瓦42と、炉頂部10の最下段煉瓦(最下段装入口煉瓦21及び最下段中埋煉瓦31)との境目で既設のモルタルが縁切れして生じた隙間を密閉することができる。従って、炭化室4と燃焼室5の間のガス漏れを防止できる。
次いで、コークス炉1の炉本体をレギュラー加熱に切り替えた後に、図9Iに示すように、炉頂部10の最上面の表面煉瓦60、軌条15の基台ブロック61を設置するとともに、各装入口11の上端を塞ぐ装入口蓋14と、各フリュー孔12の上端を塞ぐフリュー孔蓋16が取り付けられる。
以上、従来のコークス炉の炉頂部10の築造方法について説明した。かかる築造方法によれば、炉頂部10の装入口部位20、中埋部位30及びフリュー孔部位40を構成する全ての煉瓦を一段ずつ手作業で積み上げていく必要があるので、築造工期が長期化するという問題がある。
[3.2.本実施形態に係る築造方法]
次に、図10A〜図10Fを参照して、本実施形態に係るコークス炉1の炉頂部100(図4参照。)の築造方法について説明する。図10A〜図10Fは、本実施形態に係る炉頂部100の築造方法を示す工程図である。
(A)装入口ブロック体25及びプレキャストブロック35の製造工程
本実施形態に係る炉頂部100の築造方法では、まず、コークス炉1の炉頂部100の築造前に予め、コークス炉1の建設予定地とは別の場所(例えば工場)で、上記の装入口ブロック体25及びプレキャストブロック35を製造しておく。装入口ブロック体25の製造については、図6A及び図6Bに示したように、複数の装入口煉瓦22を縦横及び上下方向に相互に接合することで、装入口ブロック体25が製造される。なお、装入口ブロック体25の縦目地27の調整や、装入口ブロック体25に対する吊上げ金具28及び補強シート29の設置については、上述した通りである。
また、プレキャストブロック35の製造については、上述したように、断熱質又は粘土質のキャスタブル耐火物を型枠に流し込み、乾燥又は焼成処理することで、中埋部位30に合わせた所定形状の断熱質プレキャストブロック33、耐火粘土質プレキャストブロック34がそれぞれ成形される。なお、断熱質プレキャストブロック33、耐火粘土質プレキャストブロック34に対する吊り下げピン37等の設置については、上述した通りである。
製造された装入口ブロック体25及びプレキャストブロック35は、コークス炉1の建設予定地まで運搬された後に、クレーン等で吊り下げられて炉頂部100に搬送される。上記のようにして、炉頂部100の築造前に予め、装入口部位20に合わせた複数の装入口ブロック体25と、中埋部位30に合わせた複数のプレキャストブロック35を製造しておくことで、後述する装入口部位20と中埋部位30の築造工期を大幅に短縮できる。
その後、コークス炉1の建設予定地において、コークス炉1の炉本体を昇温させることなく冷間で、炉頂部100の耐火物の築造を開始する。
(B)最下段煉瓦の設置工程
まず、図10A及び図10Bに示すように、炉頂部100の最下段を構成する複数の煉瓦42、21、31を炭化室4及び燃焼室5の上部に設置する。これは、炉頂部100の築造の初期段階で炉頂部100の最下段の煉瓦42、21、31を設置し、炭化室4の上部空間を閉塞しておくことで、作業員の転落を防止するためである。この炉頂部100の最下段の煉瓦42、21、31の築造手順は、上記従来の炉頂部10の築造方法(図9A及び図9B参照。)と略同一であるので、詳細説明は省略する。
(C)フリュー孔部位の築造工程
次いで、図10Cに示すように、各燃焼室5の上部のフリュー孔部位40において、複数のフリュー孔煉瓦42を上下方向Zに炉頂部100の厚みの分だけ積み上げて、炉頂部100の下段から最上段までの全ての段数のフリュー孔煉瓦42を築造する。従来のフリュー孔部位40の築造方法では、2段階に分けてフリュー孔煉瓦42を積み上げていたが(図9C、図9F参照。)、本実施形態では、1段階で全てのフリュー孔煉瓦42を積み上げる(図10C参照。)。これにより、フリュー孔煉瓦42の積み上げ作業に要する作業時間を短縮できる。また、積み上げられる複数のフリュー孔煉瓦42は、概ね一定形状であるので、全てのフリュー孔煉瓦42を1段階で積み上げても、フリュー孔部位40の築造精度が低下しない。
なお、本実施形態に係るフリュー孔部位40は、上記のように複数のフリュー孔煉瓦42を積み上げて築造されるが、かかる例に限定されない。例えば、上記装入口部位20の装入口ブロック体25と同様に、複数のフリュー孔煉瓦42を接合したフリュー孔ブロック体を予め製造しておき、当該フリュー孔ブロック体をクレーン等で吊上げて運搬して、フリュー孔部位40に設置してもよい。
(D)装入口部位への装入口ブロック体の設置工程
次いで、図10Dに示すように、炉頂部100の複数の装入口部位20に装入口ブロック体25をそれぞれ設置する。具体的には、炉頂部100の装入口部位20の最下段装入口煉瓦21の上面にモルタルを塗布した後に、当該最下段装入口煉瓦21上に、上記で予め製造された装入口ブロック体25を設置する。例えば、コークス炉1の仮設上屋に設置されたクレーンを利用して、装入口ブロック体25を吊り下げ、モルタルが塗布された最下段装入口煉瓦21上の所定位置に高精度で降下して、据え付ける。
この際、フリュー孔部位40と装入口部位20の隙間(膨張代)は、例えば10mm程度の僅かな幅しかないので、装入口ブロック体25の降下作業時に、装入口ブロック体25がフリュー孔部位40のフリュー孔煉瓦42に衝突しないように注意する必要がある。
また、最下段装入口煉瓦21上の所定位置に装入口ブロック体25を正確に設置するために、上記図7に示したように、最下段装入口煉瓦21の上面のピン孔212に位置決めピン210を立設し、装入口ブロック体25の下面に、当該位置決めピン210に嵌合するピン孔222を形成しておくことが好ましい。これにより、当該位置決めピン210により、装入口ブロック体25を最下段装入口煉瓦21上の所定位置にガイドして、正確に位置決めすることができる。
また、装入口ブロック体25の据付け時には、装入口ブロック体25の自重により、上記モルタルが外側に滲み出て、装入口部位20とフリュー孔部位40の間の狭い隙間(膨張代)の隙間に入り込むと、当該滲み出たモルタルの清掃作業が必要となり、その作業負荷は大きい。そこで、かかるモルタルの滲み出しを防止するために、上記図5に示したように、最下段煉瓦21、31の外側に成形モルタルシート26を予め固着しておき、成形モルタルシート26の内側の最下段煉瓦21、31の上面にモルタルを塗布することが有効である。これにより、上記モルタルが装入口ブロック体25の外側の膨張代に滲み出すことを防止できる。
以上のように、本実施形態では、装入口部位20の形状に応じて事前に製造された装入口ブロック体25を、機械を利用して装入口部位20に設置する。これにより、従来の築造方法のように装入口部位20に多数の装入口煉瓦22を人力で1段ずつ積み上げる場合と比べて、装入口部位20の築造工期を大幅に短縮できる。
(E)中埋部位へのプレキャストブロックの設置工程
次いで、図10Eに示すように、炉頂部100の複数の中埋部位30にプレキャストブロック35をそれぞれ設置する。具体的には、まず、中埋部位30の下側部分を構成する耐火粘土質プレキャストブロック34の設置位置に対応する最下段中埋煉瓦31の上面にモルタルを塗布しておく。次いで、上記クレーンを用いて、耐火粘土質プレキャストブロック34を、上記スタッド36の無い通常の吊り下げピンを用いて2箇所で吊り下げ、中埋部位30の下部側空間に据え付ける。その後、耐火粘土質プレキャストブロック34から通常の吊り下げピンを撤去する。次いで、先に据え付けた耐火粘土質プレキャストブロック34の上面にモルタルを塗布する。その後、上記クレーンを用いて、中埋部位30の上側部分を構成する断熱質プレキャストブロック33を、スタッド36付きの吊り下げピン37(図8A及び図8B参照。)を用いて2箇所で吊り下げ、先に設置された耐火粘土質プレキャストブロック34上に据え付ける。
このように、本実施形態では、中埋部位30の形状に合わせて事前に成形されたプレキャストブロック35を、機械を利用して中埋部位30に設置する。これにより、従来の築造方法のように中埋部位30に多数の中埋煉瓦32を人力で1段ずつ積み上げる場合と比べて、中埋部位30の築造工期を大幅に短縮できる。
さらに、プレキャストブロック35を抱え込むような吊り具を用いずとも、例えば、プレキャストブロック35の上面に埋め込んだ吊り下げピン37等を用いて、上面側からプレキャストブロック35を吊り下げて運搬できる。従って、予め製造したプレキャストブロック35を好適に運搬して、炉団長方向Yの両側に積み上げられたフリュー孔部位40のフリュー孔煉瓦42の壁の間の狭い中埋部位のスペースに、プレキャストブロック35を好適に設置できる。
(F)炉本体の昇温・乾燥工程
次いで、炉蓋(例えば装入口蓋14、フリュー孔蓋16)や上昇管13などの設置作業や、関連機械工事を行った後、コークス炉1の炉本体の昇温・乾燥作業を開始する。炉本体を昇温することで、炉本体を構成する耐火物が乾燥する。当該炉本体の昇温工程の途中に、炉本体が適切な温度(例えば600〜700℃)まで上昇したときに熱間で、モルタルの充填工程と、耐火キャスタブル50の充填工程が行われる。
(G)モルタルの充填工程
上記の炉本体の昇温・乾燥工程の開始後、コークス炉1の稼働開始の石炭装入までの間に、スタートアップ工事と呼ばれる作業が実行される。この作業の一つに、モルタル充填作業がある。このモルタル充填作業は、炉本体を構成する異種煉瓦間の膨張差により、煉瓦とモルタルとの縁切れが発生した目地の箇所に、熱間でモルタルを充填注入し、目地の修復を図るものである。
硅石煉瓦の熱膨張率は、600〜700℃以上ではほぼ一定(例えば約1.2%)となる。一方、粘土煉瓦の熱膨張率は、硅石煉瓦の熱膨張率よりも低く、当該温度範囲では一定とならず、温度上昇時に応じて粘土煉瓦の熱膨張率も上昇する。従って、上記温度範囲以下では、硅石煉瓦と粘土煉瓦の間に熱膨張差が生じ、上記目地切れが生じうる。
そこで、上記炉本体の昇温工程中に、珪石煉瓦が所定温度(600〜700℃)まで加熱されて、珪石煉瓦の熱膨張大きさがほぼ一定に達した時点で、熱間でモルタル充填作業が行われる。このモルタルの充填作業では、上記従来のモルタル充填作業と同様に、炉頂部100の炉頂面からモルタルを注入し、中埋部位30の側面及び最下段装入口煉瓦21に形成されたモルタル注入孔23を通じてモルタルを充填する。
モルタルとしては、最大粒度100μmオーダーで、流動性に優れた粘土質のモルタルが使用される。従来の築造方法では、熱間でモルタルを注入し、炉頂部10の上面までモルタルを注入してモルタル押し上げを行っていた。本実施形態では、同様に熱間でモルタルを注入し、木枠などでモルタルの流出を防ぎながら、フリュー孔部位40と装入口部位20の間の膨張代の残隙間については、モルタル押し上げを行う。これに対し、フリュー孔部位40と中埋部位30の隙間、及び装入口部位20と中埋部位30の隙間については、モルタルに代えて、上記耐火キャスタブル50を充填施工する。
(H)耐火キャスタブル(充填材)の充填工程
図10Fに示すように、上記炉本体の昇温工程の途中に熱間で、中埋部位30とフリュー孔部位40の隙間、及び装入口部位20と中埋部位30の隙間に耐火キャスタブル50を充填する。具体的には、上記モルタル充填工程において、上記モルタル注入孔23からモルタルが溢れ出てきた時点でモルタルの注入を中止する。その後、上記昇温された炉本体温度(例えば700℃)の熱間で、炉頂面から上記耐火キャスタブル50を中埋部位30の周囲に生じている隙間に充填施工する。これにより、中埋部位30とフリュー孔部位40の間、及び装入口部位20と中埋部位30の間に生じていた隙間を全て、耐火キャスタブル50で埋める。
この結果、充填された耐火キャスタブル50が、昇温された炉本体の熱により脱水され、当該脱水に伴い、容積が収縮し、耐火物の組織体が緻密化しながら硬化し、強度を発現する。耐火キャスタブル50は、モルタルよりも、流動性に優れ、施工性が良い。そのため、耐火キャスタブル50の充填施工は、モルタルの充填施工よりも、作業効率が高く、広い範囲を一度に充填施工できる。
また、本実施形態では、上記のようにコークス炉1の炉本体を所定温度まで昇温・乾燥させた後、さらにモルタルを充填した後に、熱間で耐火キャスタブル50を充填するが、かかる例に限定されない。例えば、炉本体を昇温・乾燥させた後、モルタルの充填前に、熱間で耐火キャスタブル50を充填してもよい。或いは、上記装入口ブロック体25及びプレキャストブロック35等を設置した後、炉本体を昇温・乾燥させる前に、冷間で耐火キャスタブル50を充填してもよい。
上記までの工程で、炉頂部10の築造が完了する。その後、コークス炉1の炉本体は、通常の操業温度での加熱に切り替えられ、コークス炉1の通常操業が開始される。珪石れんがの熱膨張がほぼ一定となる温度や、COGが自然着火する温度を加味して、炉本体の温度が例えば800〜900℃となったときに、レギューラー・ヒーティングに切り替え、例えば1100℃程度の炉温でコークス炉1の通常操業を行う。この通常操業時には、炉頂部100の装入口部位20の装入口11から炭化室4内に石炭が装入されて、燃焼室5の発熱により炭化室4内で石炭が乾留して、コークスが製造される。
以上、本実施形態に係るコークス炉1の炉頂部100の築造方法について説明した。本実施形態に係る築造方法によれば、事前に一体化された装入口ブロック体25を装入口部位20に設置することで、装入口部位20の築造期間を大幅に短縮できる。また、事前に成形された大型のプレキャストブロック35を中埋部位30に設置することで、中埋部位30の築造期間も大幅に短縮できる。さらに、フリュー孔部位40を構成するフリュー孔煉瓦42の大半を、フリュー孔部位40の下段部から最上段まで1段階で積み上げることにより、フリュー孔煉瓦42の築造期間も短縮できる。加えて、上記のように築造されたプレキャストブロック35の周囲の隙間に、耐火キャスタブル50を充填することで、炭化室4と燃焼室5との間のガス漏れを防止できる。
さらに、本実施形態によれば、プレキャストブロック35は、成形の自由度が高いので、例えば、台形状の側面を有する装入口ブロック体25の間の中埋部位30のスペースを埋めるために、逆台形状の側面を有するプレキャストブロック35を、比較的容易に事前成形できる。さらに、プレキャストブロック35の上面に埋め込んだ吊り下げピン37等を用いて、上面側からプレキャストブロック35を吊り下げて運搬できる。従って、プレキャストブロック35を、炉団長方向Yの両側のフリュー孔部位40の間の狭い隙間であって、装入口ブロック体25の炉長方向の間の中埋部位30のスペースに、フリュー孔部位40や装入口部位20の耐火物に干渉することなく、好適に設置できる。このように、室炉式コークス炉1の炉頂部100の部位ごとに適切な構成部材(装入口ブロック体25、プレキャストブロック35、フリュー孔煉瓦42、耐火キャスタブル50)を用いることにより、当該炉頂部100の構成部材の事前成形、運搬及び設置を好適に実現でき、かつ、当該炉頂部100を短期間で築造できる
以上のように本実施形態によれば、炉頂部の築造工期を従来工法と比べて大幅に短縮できる。また、コークス炉1を新設する場合には、その分の築造工事費用を削減できる。さらに、既存のコークス炉1の炉頂部100の煉瓦積み替え時には、築造工事費用の削減に加え、休止炉期間中に購入するコークスの手配量を削減することもできる。
[4.他の実施形態に係る炉頂部の構造]
次に、図11を参照して、本発明の他の実施形態にかかる炉頂部の構造について説明する。図11は、本発明の第2の実施形態に係るコークス炉1の炉頂部200の構造を示す縦断面図である。
上記第1の実施形態では、炉頂部100の全ての中埋部位30にプレキャストブロック35を設置していた(図4参照。)。これに対し、第2の実施形態では、図11に示すように、炉頂部200の複数の中埋部位30のうち一部の中埋部位30にのみ、上記プレキャストブロック35が設置され、他の中埋部位30には、従来の中埋煉瓦32が築造されている。
このように一部の中埋部位30にのみプレキャストブロック35を設置しても、中埋部位30の築造工期を短縮することが可能である。また、装入口部位20には装入口ブロック体25が設置されるので、装入口部位20の築造工期を大幅に短縮することができる。この結果、第2の実施形態に係る炉頂部200の構造によれば、従来の炉頂部10の構造と比べて、炉頂部200全体の築造工期を大幅に短縮することが可能である。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本発明により炉頂部の築造工期を短縮できることを確認するための例示に過ぎず、本発明の炉頂部構造及び築造方法は以下の実施例に限定されるものではない。
以下では、比較例として、従来の築造方法により炉頂部10を築造した場合(図3参照。)と、本発明の実施例1、2として、上記第1、第2の実施形態に係る築造方法により炉頂部100、200を築造した場合(図3、図11参照。)について、築造工期を比較する。いずれの場合も、炉団長:約90m、炉頂高さ:14m弱、門数:60門のコークス炉1の炉頂部を築造した。
(1)比較例(従来の築造方法)
比較例では、図3に示したように、従来の築造方法により炉頂部10を築造した。具体的には、高い技能を有する築炉工が、フリュー孔煉瓦42、装入口煉瓦22、中埋煉瓦32を1段ずつ積み上げて、炉頂部10のフリュー孔部位40、装入口部位20、中埋部位30の耐火物構造を築造した。その後、コークス炉1の本体の乾燥・昇温工程の途中で、スタートアップ工事の一つとして行われるモルタル充填工程において、モルタル押し上げを行い、フリュー孔部位40、装入口部位20、中埋部位30の間に発生していた隙間をモルタルで充填施工した。
(2)実施例1(第1の実施形態の築造方法)
一方、実施例1では、図4に示したように、上記第1の実施形態に係る築造方法により、炉頂部100を築造した。具体的には、まず、装入口部位20の耐火物として、複数の装入口煉瓦22を接着した装入口ブロック体25を、炉頂部100の築造前に予め組み立てた。また、中埋部位30の耐火物として、断熱質プレキャストブロック33と耐火粘土質プレキャストブロック34からなる2分割×2段のプレキャストブロック35を、炉頂部100の築造前に予め成形、乾燥させた。断熱質プレキャストブロック33は、従来の断熱煉瓦の熱伝導性に合わせたキャスタブル耐火物材料を用いて、当該断熱煉瓦の全体厚みに合わせた形状に成形した。また、耐火粘土質プレキャストブロック34は、従来の粘土煉瓦の材料強度に合わせたキャスタブル耐火物材料を、当該粘土煉瓦の全体厚みに合わせた形状に成形した。
次いで、炉頂部100の築造を開始し、まず、フリュー孔部位40の全ての段のフリュー孔煉瓦42を作業員により積み上げて、フリュー孔部位40を築造した。次いで、装入口部位20に装入口ブロック体25を設置した。詳細には、まず、コークス炉1の仮設上屋のクレーンにチェーンブロックを取り付け、次いで、当該クレーンより装入口ブロック体25を吊り下げて、炉頂部100の装入口部位20の所定の据付位置の上方まで搬送した。そして、上記築造されたフリュー孔部位40のフリュー孔煉瓦42と接触する位置まで、装入口ブロック体25を降下させた後、チェーンブロックによりフリュー孔煉瓦42との衝突を避けながら、装入口ブロック体25をゆっくりと降下させ、上記所定の据付位置に据え付けた。
次いで、中埋部位30にプレキャストブロック35を設置した。詳細には、まず、上記事前に成形した耐火粘土質プレキャストブロック34を、クレーンで2点吊りして、全ての中埋部位30に設置した。さらに、上記事前に成形した断熱質プレキャストブロック33を、クレーンで2点吊りして、上記設置された耐火粘土質プレキャストブロック34の上に据え付けた。
その後、コークス炉1の本体の乾燥・昇温工程を開始し、当該工程で行うスタートアップ工事の一つであるモルタル充填作業を行った。次いで、当該モルタル充填作業が完了した後に、炉本体温度700℃の熱間にて、上記中埋部位30のプレキャストブロック35周囲に生じた隙間に、充填材として、フリーフローの耐火キャスタブル50を充填した。
この耐火キャスタブル50としては、Al2O3含有量40%で、ケイ酸ソーダを含み、フリーフロー値270mmである粘土質の耐火キャスタブルを用いた。当該耐火キャスタブル50をトロ箱に入れ、中埋部位30のプレキャストブロック35の周囲に生じた最小30mm、最大70mm幅の隙間に、プレキャストブロック35の上面まで一気に流し込み、耐火キャスタブル50の脱水が終了するまで放置した。さらに、当該脱水に伴って耐火キャスタブル50の上面位置が低下した後に、耐火キャスタブル50を更に注ぎ足し、耐火キャスタブル50の表層を化粧して、プレキャストブロック35の上面と高さレベルを合わせた。
(3)実施例2(第2の実施形態の築造方法)
実施例2では、図11に示したように、上記第2の実施形態に係る築造方法により、炉頂部200を築造した。この実施例2では、上記実施例1と同様な築造方法により、装入口部位20に装入口ブロック体25を設置し、全ての中埋部位30のうち半数には、大型のプレキャストブロック35を設置したが、残りの半数の中埋部位30に関しては、比較例(従来の築造方法)と同様に、中埋煉瓦32(粘土質と断熱質の標準煉瓦)を1段ずつ積み上げて築造した。このような半数の中埋部位30へのプレキャストブロック35の設置作業と、残り半数の中埋部位30の煉瓦築造作業とを、同時並行で行った。また、モルタル充填作業と、プレキャストブロック35の周囲の隙間への耐火キャスタブル50の充填作業は、上記実施例1と同様に、コークス炉1の炉本体の乾燥・昇温工程の途中で行った。
(4)評価
上記実施例1〜2の炉頂部構造及び築造方法を採用することにより、炉団長:約90m、炉頂高さ:14m弱、門数:60門のコークス炉1の建設において、炉頂部の築造工期を、比較例(従来の築造方法)と比べて大幅に短縮できた。具体的には、実施例1では、装入口部位20及び中埋部位30の築造作業の機械化・省力化により、炉頂部100の築造工期を比較例より10日間も短縮できた。また、実施例2では、上記実施例1と同様な築造作業の機械化・省力化に加え、大型のプレキャストブロック35を半数の中埋部位30に設置する作業と、他の半数の中埋部位30で煉瓦積みする作業とを同時並行で行ったため、物流に使用するクレーンの待ち時間が短縮され、炉頂部200の築造工期を比較例より12日間も短縮できた。
さらに、実施例1〜2によれば、モルタル又は耐火キャスタブル50により各部位の隙間を閉塞しているため、炉頂部からの黒煙洩れも無く、コークス炉1を好適に稼働開始させることができた。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。