以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
<1.トンネル掘削機の全体構成>
まず、図1~図3を参照して、本発明の一実施形態に係るトンネル掘削機1の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係るトンネル掘削機1を示す概略断面図である。図2、図3はそれぞれ、本実施形態に係るカッタヘッド11の一例を示す前面図、斜視図である。
なお、以下の説明では、トンネル掘削機1の進行方向(切羽に向かうトンネル延伸方向)を前方または前面側と称し、当該進行方向の逆方向(坑口に向かうトンネル延伸方向)を後方または背面側と称する場合もある。また、円筒形状を有するトンネル掘削機1の軸方向、径方向、周方向をそれぞれ、単に軸方向、径方向、周方向と称する場合もある。なお、トンネル掘削機1の軸方向は、トンネル掘削機1の進行方向(前方)と一致する。
本実施形態に係るトンネル掘削機1は、例えば、土砂層を含む地山を掘削可能な泥土圧式のシールド掘削機である。図1に示すように、本実施形態に係るトンネル掘削機1は、円筒状の掘削機本体10と、円盤状のカッタヘッド11と、カッタヘッド11の後方に配置される隔壁12と、カッタ中央軸13とを備える。
カッタヘッド11は、掘削機本体10の前端に設けられる略円盤状の回転体である。カッタヘッド11の中心部には、カッタ中央軸13の前端が嵌入されており、カッタヘッド11は、カッタ中央軸13を中心に回転可能に軸支されている。
図1~図3に示すように、カッタヘッド11は、外周リング31と、内周リング32と、カッタスポーク33と、センターカッタ34と、カッタビット35と、土砂通過部36と、補助カッタスポーク37とを有する。
このうち、外周リング31は、カッタヘッド11の外周部を形成しており、内周リング32は、外周リング31よりもカッタ径方向内側に配置されている。また、複数のカッタスポーク33は、カッタヘッド11の前面において、カッタ中央軸13を中心として放射状に配置されている。カッタヘッド11の前面の中心部には、センターカッタ34が装着されている。さらに、カッタスポーク33の前面33aには、多数のカッタビット35が装着されている。
そして、カッタヘッド11には、上記外周リング31、内周リング32、複数のカッタスポーク33および複数の補助カッタスポーク37等を含む複数の構成部材の間に、複数の土砂通過部36が形成されている。土砂通過部36は、周方向に間隔を空けて放射状に配置された複数のカッタスポーク33等を含む複数の構成部材の間に形成される隙間(開口部)である。かかる土砂通過部36は、カッタヘッド11によって切羽の地山を掘削した際に発生する掘削土砂を、掘削機本体10内(後述するチャンバ17内)に取り込むための掘削土砂取込口として機能する。
図2、図3に示すように、カッタヘッド11の前面に例えば6本のカッタスポーク33が放射状に配置されている。また、カッタヘッド11の外周部においては、相隣接するカッタスポーク33の間に、補助カッタスポーク37も配置されている。これらのカッタスポーク33および補助カッタスポーク37は、例えば、中空断面構造を有する四角筒状の構造体であり、カッタヘッド11の回転中心(カッタ中央軸13)を中心として、放射状に配置されている。具体的には、カッタスポーク33は、カッタヘッド11の中心部から外周部まで、径方向に延在すると共に、当該カッタヘッド11の周方向において等間隔で配置されている。一方、補助カッタスポーク37は、カッタヘッド11の径方向の中間部から外周部まで、径方向に延在すると共に、当該カッタヘッド11の周方向において等間隔で配置されている。そして、カッタスポーク33と補助カッタスポーク37とは、周方向において交互に配置されている。
カッタスポーク33の前面33aには、複数のカッタビット35(以下、「ビット35」と略称する場合もある。)が装着されている。以下では、カッタスポーク33に装着されるビット35について詳細に説明するが、補助カッタスポーク37の前面37aにも同様のビット35が装着されている。
カッタビット35は、例えば、先行ビット35Aと、ティースビット35Bを含む。また、他のカッタビットとして、摩耗検知ビット(超音波式、多段式、油圧式等)、シェルビットなどが含まれてもよい。
先行ビット35Aは、カッタスポーク33の前面33aに設けられ、切羽前方に向けて突出するビットである。複数の先行ビット35Aが、カッタスポーク33の前面33aの所定の径方向位置に装着される。図2、図3の例では、カッタスポーク33の前面33aに、複数の先行ビット35Aが配列されているが、先行ビット35Aの配列や配置は適宜変更してもよい。先行ビット35Aは、切羽の地山をほぐしたり、地山に切れ目を入れたりして、ティースビット35Bよりも先行して地山を掘削することにより、ティースビット35Bの掘削負荷を低減するためのものである。先行ビット35Aは、例えば、支障物切削用の特殊先行ビットであってもよい。
先行ビット35Aの刃先位置がティースビット35Bの刃先位置よりも切羽前端側(トンネル前方側)に位置するように、先行ビット35Aがカッタスポーク33に取り付けられている。このため、図1に示すように、本実施形態では、先行ビット35Aは、切羽最前端位置である切羽掘削面2を形成するビットとして配置されている。切羽掘削面2は、カッタヘッド11の複数のビット35により掘削される切羽のうち、ビット35の先端部(刃先位置)により掘削される切羽最前端位置に配置される掘削面である。本実施形態に係る切羽掘削面2は、カッタヘッド11の前面に突設された複数のビット35のうち、複数の先行ビット35Aの先端部(刃先位置)により掘削される略円板形の掘削面を意味する。
また、カッタスポーク33の前面33aの幅方向両側部には、左右一対を1組として、複数組のティースビット35B、35Bが装着されている。ティースビット35Bは、主に地山の掘削を行うカッタビット(メインビット)である。ティースビット35Bは、当該掘削によって発生した掘削土砂を土砂通過部36から取り込むように誘導する機能も有する。カッタヘッド11の正逆2方向の回転による掘削を可能とするため、左右一対のティースビット35B、35Bが、カッタスポーク33の幅方向の両側部において径方向同位置に取り付けられる。
センターカッタ34(図1参照。)は、カッタヘッド11の回転中心付近の切羽を掘削するカッタビットである。センターカッタ34は、先行ビット35Aおよびティースビット35Bによる掘削よりも先行して、切羽中心部を掘削する。
カッタヘッド11の中央部(回転中心部)には、円板状の面板39が設置される。この面板39は、カッタヘッド11の径方向の中心部に形成された中空空間38を塞ぐように配置される。図1に示すように、トンネル掘削機1の径方向の中央部には、掘削機本体10の後方からカッタ中央軸13(センターシャフト)を通じてカッタヘッド11の中心部まで、各種の配管や配線を挿通するスペースが設けられている。カッタヘッド11の中心部の中空空間38は、当該スペースの一部を構成している。上記カッタ中央軸13(センターシャフト)を通じて延長されてきた複数の配管や配線は、カッタヘッド11の中空空間38の位置で分岐して、放射状に延びる各カッタスポーク33内に挿通される。
図1に戻り、トンネル掘削機1の各部の説明を続ける。図1に示すように、掘削機本体10におけるカッタヘッド11よりも後方には、隔壁12が配置されている。隔壁12は、トンネル延伸方向に対して垂直に配置される円板状の壁体であり、隔壁12の外周縁は掘削機本体10の内周面10aに取り付けられる。カッタヘッド11と隔壁12は、トンネル延伸方向に所定間隔を空けて配置される。隔壁12の後方には、トンネル掘削機1の各種設備が配置されており、隔壁12は、切羽で生じる掘削土砂から当該設備を隔離する。隔壁12の下部には、掘削土砂を排出するための開口部である排出口12aが形成されている。
隔壁12の中心部には、カッタ中央軸13が回転可能に支持されている。さらに、隔壁12には、リング状の回転リング14が、カッタ中央軸13を中心として回転可能に支持されている。回転リング14の前部には、複数の連結ビーム15が周方向に所定の間隔で設けられている。複数の連結ビーム15は、カッタヘッド11と回転リング14を連結する。連結ビーム15の前端は、カッタヘッド11の内周リング32とカッタスポーク33との接続部に連結されている。一方、回転リング14の後部には、外歯式のリングギヤ14aが設けられている。さらに、隔壁12の後方にはカッタ旋回用モータ16が設けられている。このカッタ旋回用モータ16の駆動ギヤ16aは、回転リング14のリングギヤ14aと噛み合っている。
カッタ旋回用モータ16を駆動させることにより、その駆動ギヤ16aの回転がリングギヤ14aから回転リング14および連結ビーム15に伝達される。これにより、カッタヘッド11を、カッタ中央軸13を中心として回転させることができる。この結果、回転するカッタヘッド11の前面を切羽の地山に押し付けて、地山を掘削することができる。
カッタヘッド11と隔壁12との間には、チャンバ17が画成されている。チャンバ17は、カッタヘッド11の背面と、隔壁12の前面と、掘削機本体10の内周面10aとにより区画された、略円柱状の空間である。カッタヘッド11による地山掘削に伴って発生する掘削土砂は、カッタヘッド11に形成された土砂通過部36(掘削土砂取込口)を通じて、チャンバ17内に取り込まれる。チャンバ17は、掘削土砂を一時的に蓄えるための空間(室)として機能する。チャンバ17内に取り込まれた掘削土砂は、隔壁12の下部にある排出口12aを通じて、チャンバ17から後述のスクリューコンベヤ20内に排出される。
また、掘削機本体10の隔壁12よりも後方側には、ビーム18が設けられる。ビーム18の両端は、掘削機本体10の内周面10aに取り付けられる。ビーム18の背面には、エレクタ装置(図示せず。)が設けられる。エレクタ装置は、掘削機本体10の軸方向、径方向および周方向(すなわち、トンネル延伸方向、径方向および周方向)に移動可能に設けられる。かかるエレクタ装置は、覆工部材であるセグメントSを把持可能であり、把持したセグメントSをトンネルTの内壁面(坑壁)に沿って組み立てる。
セグメントSは、掘削されたトンネルTの内壁面に沿った湾曲形状を有する環片である。上記エレクタ装置を駆動させることにより、複数のセグメントSをトンネル周方向に沿ってリング状に組み立てることができる。これにより、トンネルTの内壁面が複数のセグメントSにより覆工され、内壁面の崩落を防止できる。
さらに、掘削機本体10内には、複数の推進ジャッキ19が、内周面10aに沿って、トンネル延伸方向に延びるよう設けられる。複数の推進ジャッキ19は、内周面10aの周方向に所定の間隔で並設される。これらの推進ジャッキ19は、トンネル延伸方向に伸縮可能な駆動ロッド19aを有している。この駆動ロッド19aの先端は、既設のセグメントSの前端面と対向している。
かかる推進ジャッキ19の駆動ロッド19aを、後方に向けて伸長し、セグメントSを押圧することにより、掘削機本体10に推進反力を付与することができる。すなわち、推進ジャッキ19がセグメントSを押圧したときに発生する推進反力によって、掘削機本体10は前進可能である。
また、掘削機本体10内における隔壁12の後方側には、スクリューコンベヤ20が設けられる。スクリューコンベヤ20は、スクリュー羽根21と、筒体22と、土砂排出口23と、駆動部25とを備える。スクリューコンベヤ20の筒体22は、掘削機本体10内において、後方側に向かうにつれて上方に位置するように、傾斜して配置される。スクリューコンベヤ20の筒体22の前端の開口部は、上記隔壁12の排出口12aに接続されている。これにより、スクリューコンベヤ20の筒体22の内部空間は、隔壁12の排出口12aを通じてチャンバ17と連通する。筒体22の内部には、スクリュー羽根21が回転可能に設けられている。筒体22の後部の周面下部側には、土砂排出口23が設けられる。土砂排出口23は、スクリュー羽根21により筒体22内の後方側に運搬された掘削土砂を筒体22の外部に排出する開口部である。筒体22の後端には、スクリュー羽根21を回転駆動させるための駆動部25が設置されている。駆動部25によりスクリュー羽根21を回転駆動させることで、チャンバ17内に蓄えられた掘削土砂をスクリューコンベヤ20内に取り込んで、掘削機本体10の後方に向けて運搬し、土砂排出口23から排出することができる。
<2.土砂通過部の閉塞>
次に、図2~図5を参照して、カッタヘッド11の中心部において土砂通過部36が掘削土砂で閉塞する問題について、より詳細に説明する。図4、図5はそれぞれ、本実施形態に係る土砂通過部36の一部が掘削土砂の固着物3で閉塞した状態を示す前面図、斜視図である。
本実施形態に係るトンネル掘削機1を用いた泥土圧式シールド工法は、カッタヘッド11により掘削した掘削土砂を切羽掘削面2と隔壁12の間に充満させ、必要に応じて加泥材、気泡材等の添加材を注入、混合して改良土の泥土とし、その土圧により切羽の安定を図りながら掘進し、掘削土砂をスクリューコンベヤ20で排土する工法である。ここで、切羽の安定に必要な土圧を保持し、トンネル掘削機1の掘進量に応じて適切な土量の泥土を排出するためには、チャンバ17内に充満した泥土が適正な流動性を有することと、地下水に対する止水性を有することが求められる。このために、切羽周辺の掘削土砂やチャンバ17内の掘削土砂に、加泥材、気泡材等の掘進用添加材を注入し、チャンバ17内に設けられた攪拌翼(図示せず。)等により掘削土砂と添加材とを混練して、改良土の泥土にする。
このように本実施形態に係るトンネル掘削機1では、カッタヘッド11の前面側のカッタビット35で切羽の地山を切削しながら、当該切削により生じた掘削土砂に添加材を注入して混錬し、カッタヘッド11の背面側のチャンバ17内に取り込むことによって、トンネルの掘削が進行する。このとき、カッタヘッド11の前面側の掘削土砂は、カッタヘッド11を前後方向(軸方向)に貫通する土砂通過部36を通過して、カッタヘッド11の背面側のチャンバ17内に取り込まれる。
土砂通過部36は、カッタヘッド11を構成する複数の構成部材の間に形成される隙間(開口部)である。カッタヘッド11の複数の構成部材は、具体的には、図2、図3に示すように、複数のカッタスポーク33、複数の補助カッタスポーク37、外周リング31、内周リング32、およびカッタ中央軸13(センターシャフト)等を含み、土砂通過部36は、これら複数の構成部材の間に形成される隙間である。土砂通過部36は、これらのカッタヘッド11の構成部材で囲まれた正面形状を有し、例えば、略扇形、または円環を径方向に切った形状を有する。
従来の泥土圧式シールド掘削機では、掘削土砂がカッタヘッド11の土砂通過部36で滞留・固結して、土砂通過部36を閉塞してしまう場合があり、土砂通過部36を通じて掘削土砂をチャンバ17内に円滑に取り込んで排出することができないという問題が生じていた。特に、カッタヘッド11の中央部周辺の土砂通過部36では、この問題が顕著であった。
即ち、図1に示したように、トンネル掘削機1の中央部は、掘削機本体10の後方からカッタ中央軸13(センターシャフト)を通じてカッタヘッド11まで各種の配管や配線を通し、各カッタスポーク33に分岐させるためのスペースが必要になる。このため、図1~図3に示すように、カッタヘッド11の中央部には、当該スペースを構成する中空空間38と、その前方を覆う円板状の面板39(塞ぎ板)とが設けられている。したがって、カッタヘッド11の中央部には土砂通過部36を設けることができない。しかも、カッタヘッド11の中央部には、放射状に配置される複数のカッタスポーク33が寄せ集まって結合している。
このため、カッタヘッド11の中央部周辺では、外周部よりも土砂通過部36の断面積(開口面積)が小さくなっている。したがって、カッタヘッド11の中央部周辺において、断面積が小さい土砂通過部36で、面板39の部分の掘削土砂も含めて掘削土砂を通過させなければならず、掘削土砂の通過条件が悪い。加えて、カッタヘッド11の中央部では外周部よりもカッタヘッド11の回転速度が遅くなるため、この部分の掘削土砂の撹拌・混練の観点でも、カッタヘッド11の中央部周辺の土砂通過部36は不利な条件となっている。この結果、図4、図5に示すように、カッタヘッド11の中央部周辺の土砂通過部36において、掘削土砂が滞留、固着しやすくなり、掘削土砂の固着物3により当該土砂通過部36が閉塞しやすいという問題があった。
さらに、近年では、トンネル掘削機1の大口径化や長距離施工・高速施工等に伴い、カッタビット35の設置数が増加したり、特殊ビットやその交換機構等を装備したりする必要がある。このため、カッタスポーク33の面積を大きくする必要があり、カッタスポーク33が大型化する。また、注入孔や各種装置(カッタ摩耗検出装置、コピーカッタ等)の設置数が増加する傾向にあり、これにより、カッタヘッド11の中央部において各カッタスポーク33に分岐される配管や配線の数が多くなり、当該中央部の面板39の直径が大きくなっている。この結果、カッタヘッド11の中央部で生じた掘削土砂は、当該中央部にある大径の面板39の周辺に流動して、その周辺の土砂通過部36から取り込まれることになる。よって、当該中央部周辺の土砂通過部36に対して掘削土砂が集中するので、前述した中央部周辺の土砂通過部36における掘削土砂の通過条件が益々良くない方向に作用し、当該土砂通過部36において掘削土砂がさらに滞留、固着しやすくなる。
ここで、前述のように特殊ビットやその交換機構等を装備するために、カッタスポーク33の面積、即ち、幅方向の寸法(図3に示す幅W)が大型化する。また、当該交換機構の構造体や、前述の配管、配線等を収納するために、カッタスポーク33の前後方向の寸法(図3に示す軸方向の長さL)も大きくなる傾向にある。この結果、隣接する複数のカッタスポーク33間の隙間である土砂通過部36の断面積(開口面積)が小さくなり、かつ、当該小さい開口面積の土砂通過部36を掘削土砂が前後方向(軸方向)に通過する距離も長くなる。したがって、カッタスポーク33の大型化も、掘削土砂の固着物3による土砂通過部36の閉塞の発生を助長する原因になっていた。
以上のような理由から、従来では、相隣接する複数のカッタスポーク33などの構成部材の隙間に形成される土砂通過部36が掘削土砂により閉塞してしまい、掘削土砂の円滑な取り込み、排土が阻害されるという問題が生じていた。この閉塞の問題は、特に、カッタヘッド11の中央部周辺における土砂通過部36で、より顕著であった。
図4および図5は、カッタヘッド11の中央部周辺における土砂通過部36の特定領域4が、掘削土砂の固着物3により閉塞した状態を示している。ここで、土砂通過部36の特定領域4とは、カッタヘッド11の前面に形成される土砂通過部36のうち、他の領域よりも掘削土砂の固着物3により閉塞しやすい領域を指す。
この特定領域4は、例えば、カッタヘッド11の前面視において、カッタヘッド11の中央部周辺の領域である。より具体的には、図4、図5に示すように、特定領域4は、カッタヘッド11の中心部周辺(中央部の面板39の周辺)において複数のカッタスポーク33が寄せ集まって結合することにより、相隣接する複数のカッタスポーク33間の土砂通過部36が楔状に狭くなっている領域(狭窄部の領域)である。
かかる楔状の狭窄部からなる特定領域4には、上述した理由により、掘削土砂が滞留して付着、固結しやすく、掘削土砂の固着物3が詰まりやすい。しかも、狭い特定領域4に詰まった固着物3は、掘削中の掘削土砂の流動に伴って自然に離脱しにくい。また、狭い特定領域4に詰まった固着物3に対して液体等を噴射したとしても、特定領域4から固着物3を除去することは困難である。
この点、上記特許文献1、2に記載の従来技術は、チャンバの内壁に付着した掘削土砂や、カッタヘッド前面の切削ビットやカッタ面板に付着した掘削土砂に対して、注入液を噴射して洗浄するものである。この特許文献1、2に記載の注入液の噴射による洗浄方法を、上記のカッタヘッド11の土砂通過部36に適用して、土砂通過部36に固着した掘削土砂を洗浄する手法が考えられる。しかしながら、かかる従来の洗浄方法は、噴射される注入液の液圧のみに依存して洗浄する方法であるため、土砂通過部36に対して掘削土砂の固着物3が強固に固着した場合には、洗浄能力不足となり、固着物3を適切に除去することが困難であるという問題がある。また、土砂通過部36に対する掘削土砂の固着を予防するために、添加材を含む注入液を、掘削土砂が固着して閉塞を起こす可能性の高い土砂通過部36に対して継続的に噴射する方法も考えられる。しかしながら、かかる方法では、閉塞を起こす可能性の高い土砂通過部36という一部分に対して添加材を過剰に注入することになり、掘削土砂に対する添加材の混合の均一性が阻害されてしまうので、現実的ではない。
このような事情から、従来では、カッタスポーク33などの構成部材の隙間である土砂通過部36の特定領域4に対する掘削土砂の滞留、固着を、より確実に抑制でき、掘削土砂の固着物3により特定領域4が閉塞した場合には、当該固着物3をより確実に除去することが可能な方法が希求されていた。かかる事情に鑑み、本願発明者は、鋭意努力して、次項で説明する移動機構を用いて、土砂通過部36の特定領域4から掘削土砂の固着物3を強制的に移動させて、掘削土砂の滞留、固着を抑制、解消する方法を見出した。
<3.移動機構の概要>
次に、本実施形態に係るトンネル掘削機1のカッタヘッド11に設けられる移動機構の概要について説明する。
上述した土砂通過部36の閉塞の問題を解決するため、本実施形態によれば、カッタスポーク33の側面33bに、掘削土砂の滞留、固着を解消するための移動機構が設けられる。そして、カッタスポーク33間の土砂通過部36の少なくとも一部(例えば特定領域4)に掘削土砂の固着物3が滞留して、土砂通過部36の通過領域が狭くなり、その排土機能が低下したときに、土砂通過部36内で移動機構を機械的に動作させる。これにより、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3を強制的に移動させて、土砂通過部36から除去することができる。したがって、土砂通過部36における掘削土砂の滞留、固着を抑制し、掘削土砂の固着物3による土砂通過部36の閉塞を確実に解除できる。よって、カッタヘッド11の前面側から土砂通過部36を通じて背面側のチャンバ17まで、掘削土砂を円滑に移動させて、効率良く排出することができる。
特に、土砂通過部36のうち、カッタヘッド11の中央部付近に位置する特定領域4では、狭い空間に対して掘削土砂が滞留、固着しやすい。このため、土砂通過部36の特定領域4が閉塞しやすく、掘削土砂の固着物3が除去されにくい(図4、図5参照。)。
そこで、本実施形態では、カッタスポーク33において、土砂通過部36の特定領域4に隣接する位置に、移動機構を設ける。そして、土砂通過部36の特定領域4内で移動機構を機械的に動作させることによって、当該狭い特定領域4に詰まった掘削土砂の固着物3に対し、機械的に押し出す力を付与する。これにより、固着物3を強制的に移動させて、カッタスポーク33の側面33bに対する固着物3の固着を外すことができる。この結果、特定領域4に詰まった固着物3を確実に除去して、土砂通過部36から排出することができる。
以上のように、本実施形態によれば、移動機構の機械的動作により、土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を強制的に移動させる動作を行う。以下では、当該動作を「強制移動動作」と称する。かかる強制移動動作により、土砂通過部36における掘削土砂の固着物3の滞留、固着を抑制、解消して、掘削土砂の固着物3による土砂通過部36の閉塞を防止できる。また、土砂通過部36が閉塞し始めたとき、または閉塞してしまったときに、当該閉塞を素早く解消できる。よって、土砂通過部36を通じてチャンバ17に掘削土砂を円滑に排出して効率的に排土でき、ひいてはトンネル掘削をスムーズかつ効率的に実施できる。
また、本実施形態に係る移動機構は、土砂通過部36に隣接するカッタスポーク33の内部もしくは側面33bに設けられた収納スペースに、収納可能に設けられる。そして、移動機構による強制移動動作を行わない通常時には、移動機構はカッタスポーク33に収納される。一方、強制移動動作を行う時には、移動機構はカッタスポーク33から土砂通過部36に進出して機械的に動作して、土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を強制的に移動させる。
かかる構成により、強制移動動作を行わない通常時には、移動機構をカッタスポーク33に収納して、土砂通過部36に突出しない退避位置に配置できる。よって、土砂通過部36を通過する掘削土砂の流動を、移動機構によって妨げないようにすることができ、土砂通過部36を通じて掘削土砂を円滑に排土できる。一方、強制移動動作を行うときには、移動機構を土砂通過部36に進出させて突出位置に配置し、土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を機械的に除去することができる。
以上、本実施形態に係る移動機構の概要について説明した。以下では、移動機構の複数の具体例について詳述する。
<4.第1の実施形態に係る移動機構>
まず、図6~図10を参照して、本発明の第1の実施形態に係る移動機構50について説明する。
図6は、第1の実施形態に係る移動機構50の通常状態(後退状態)を模式的に示す断面図である。図7は、第1の実施形態に係る移動機構50の突出状態(前進状態)を模式的に示す断面図である。図8は、第1の実施形態に係る移動機構50の進退部材52がカッタスポーク33の側面33bから前進/後退する状態を示す部分拡大斜視図である。図9、図10は、第1の実施形態に係る移動機構50の進退部材52の突出状態(前進状態)を、カッタヘッド11の前面側と背面側からそれぞれ示す部分拡大斜視図である。
図6、図7に示すように、第1の実施形態に係る移動機構50は、カッタスポーク33の内部に設けられ、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて進退可能な進退部材52を備える。移動機構50は、例えば、左右一対の進退部材52と、Oリング53と、進退部材52を進退動作(前進/後退動作)させるジャッキ54とを備える。移動機構50は、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて進退部材52を前進動作させることにより、掘削土砂の固着物3を土砂通過部36から強制的に押し出して、土砂通過部36における掘削土砂の滞留を抑制、解消して、土砂通過部36の閉塞を防止、解除する。
移動機構50は、例えば、進退部材52とジャッキ54との組合せのような伸縮機構で構成することができる。伸縮機構は、特定方向に伸縮することにより、当該特定方向に直線的に進退可能な進退部材として機能する。例えば、伸縮機構は、土砂通過部36に面したカッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて直線的に伸縮可能に設けられる。
進退部材52は、土砂通過部36に面したカッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて直線的に進退可能(前進および後退可能)に設けられる。進退部材52は、例えば、金属製のボックス部材から構成され、カッタスポーク33内に収容可能な形状及び大きさを有する。カッタスポーク33の側面33bには、進退部材52を出入りさせるための開口33cが形成されている。カッタスポーク33内に配置された進退部材52は、カッタスポーク33の側面33bの開口33cを通じて、土砂通過部36に向けて進退可能である。当該開口33cにおいてカッタスポーク33の側面33bと進退部材52との隙間には、Oリング53が介在している。このOリング53により、当該隙間をシールして、当該隙間からカッタスポーク33内に掘削土砂が侵入することを防止できる。なお、ボックス状の進退部材52の角部を面取りして、丸みを帯びた形状とすれば、Oリング53が進退部材52の外周に密着しやすくなるため、Oリング53によるシール性を向上できる。
進退部材52の当接面52aは、進退部材52の進退方向の前面であって、土砂通過部36を閉塞する掘削土砂の固着物3に対して当接する面である。本実施形態では、この当接面52aは、図6に示すようにカッタヘッド11の前面側(図6の上側)から背面側(図6の下側)に向けて下るように傾斜した傾斜面になっている。なお、図示の例の傾斜面は、傾斜した平面であるが、上記と同様な傾斜方向であれば、傾斜面は、傾斜した曲面であってもよい。
このように、進退部材52の当接面52aを傾斜面にすることによって、図7に示すように進退部材52を土砂通過部36に向けて前進、突出させたときに、傾斜面からなる当接面52aにより固着物3をカッタヘッド11の背面側(図7の下側)に押し出すことができる。よって、進退部材52の前進動作により、土砂通過部36を閉塞する固着物3をカッタヘッド11の背面側に強制的に押し出して除去できる。
ジャッキ54は、進退部材52を土砂通過部36に向けて進退動作させる駆動力を発生する駆動部の一例である。ジャッキ54のロッド56は、進退部材52の底面に接続されている。ジャッキ54のロッド56を伸縮させることにより、進退部材52を特定方向に直線的に進退させることができる。
なお、図6、図7の例では、1つのジャッキ54に対して左右一対の進退部材52、52が設けられている。これにより、1つのカッタスポーク33の左右両側面33b、33bから、左右両側の土砂通過部36、36に向けて2つの進退部材52、52を進退動作させることができるので、左右両側の土砂通過部36、36における掘削土砂の滞留、固着を効率的に解消できるようになる。しかし、かかる例に限定されず、1つのジャッキ54に対して1つの進退部材52だけを設けてもよく、例えば図8~図10に示すように、1つのカッタスポーク33の左右いずれか一方の側面33bのみから土砂通過部36に向けて1つの進退部材52を進退させるように構成してもよい。
以上のように、第1の実施形態に係る移動機構50によれば、カッタスポーク33の側面33bの開口33cから、当該側面33bに面した土砂通過部36に向けて、進退部材52を出し入れして、土砂通過部36において進退部材52を進退動作させる。これにより、土砂通過部36を閉塞する掘削土砂の固着物3を強制的に移動させて除去することができる。特に、カッタスポーク33の側面33bから進退部材52を前進させることにより、当該側面33bに対して固着している固着物3の縁を切り、当該固着物3を側面33bから離脱させるように移動させて、土砂通過部36から除去することができる。
ここで、図6~図10を参照して、通常時(強制移動動作を行わない時)と強制移動動作時の移動機構50の動作について、より詳細に説明する。
土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留していないとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞していないときには、移動機構50は、進退部材52を進退させる強制移動動作を行わない。強制移動動作を行わない通常時には、土砂通過部36を通じた通常の排土処理が行われる。かかる通常時には、移動機構50の進退部材52は、後退して退避位置に配置され、土砂通過部36に隣接するカッタスポーク33内の収納スペースに収納されている。これにより、進退部材52は土砂通過部36に突出していないので、土砂通過部36を通じた掘削土砂の流動が、進退部材52により妨げられることがない。したがって、カッタヘッド11の前面側の掘削土砂は、土砂通過部36を円滑に通過してカッタヘッド11の背面側に流動し、効率的に排出される。
一方、土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留しているとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞したときには、移動機構50により強制移動動作が行われる。この強制移動動作を行う時には、図7に示すように、移動機構50の進退部材52は、ジャッキ54により土砂通過部36に向けて前進して、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に進出する。これにより、図7~図10に示すように、進退部材52はカッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて突出して、当該土砂通過部36を閉塞している固着物3に対して当接および押圧する。このとき、進退部材52の当接面52aは傾斜面となっているので、固着物3は当接面52aによりカッタヘッド11の背面側に向けて押圧される。この結果、固着物3はカッタヘッド11の背面側に強制的に押し出されて、カッタヘッド11の背面側のチャンバ17に排出される。このようにして、進退部材52の進退動作によって、土砂通過部36における掘削土砂の滞留、固着が解消され、掘削土砂の固着物3による土砂通過部36の閉塞が解除される。
以上のように、第1の実施形態によれば、土砂通過部36において進退部材52を進退動作させることにより、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3の縁を切り、当該固着物3を強制的に押し出して除去できる。特に、土砂通過部36のうちカッタヘッド11の中央部付近の特定領域4(図4、図5)が掘削土砂の固着物3により閉塞している場合であっても、本実施形態に進退部材52の進退動作により、特定領域4の固着物3を確実に除去して、閉塞を解除することができる。
なお、本実施形態では、ボックス状の進退部材52を用いて土砂通過部36における掘削土砂の滞留を解消する例について説明したが、本発明は、かかる例に限定されない。進退部材としては、土砂通過部36内で機械的に進退動作可能な部材であれば、進退部材52のようなボックス部材以外にも、例えば、ブロック状、板状、棒状、螺旋状、錘状、球状など任意の形状の部材を用いることができる。また、ジャッキ自体を進退部材としてカッタスポーク33に設置して、ジャッキのロッドをカッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて伸縮させて、固着物3を除去してもよい。
また、上記では、強制移動動作時に、進退部材52を土砂通過部36に向けて前進させることにより、進退部材52で固着物3を押圧して強制的に移動させ、土砂通過部36における掘削土砂の滞留を解消する例について説明したが、本発明は、かかる例に限定されない。例えば、通常時には、進退部材52を前進させて土砂通過部36に突出した状態としておき、土砂通過部36に固着物3が滞留したときに、当該突出した状態の進退部材52を後退させてカッタスポーク33内に退避させることにより、固着物3の縁を切って土砂通過部36から固着物3を脱落させて、滞留を解消してもよい。
また、上記では、進退部材52の進退方向は、カッタヘッド11の軸方向(前後方向)に対して垂直な方向であったが、本発明は、かかる例に限定されない。進退部材52の進退方向は、土砂通過部36に向けて直線的に進退可能な方向であればよく、例えば、カッタヘッド11の軸方向(前後方向)に対して傾斜した方向であってもよい。
<5.第2の実施形態に係る移動機構>
次に、図11~図15を参照して、本発明の第2の実施形態に係る移動機構60について説明する。
図11は、第2の実施形態に係る移動機構60を模式的に示す斜視図である。図12は、第2の実施形態に係る移動機構60の内部構造を模式的に示す透過斜視図である。図13は、第2の実施形態に係る移動機構60の断面構造を模式的に示す斜視図である。図14は、第2の実施形態に係る移動機構60の断面構造の変更例を模式的に示す斜視図である。図15は、第2の実施形態に係る移動機構60の回転動作を模式的に示す前面図である。なお、図11~図15では、説明の便宜上、カッタヘッド11を構成する一部のカッタスポーク33や移動機構60の要部のみを示し、他のカッタスポーク33やカッタビット35等の他の構成要素の図示は省略してある。
図11~図15に示すように、第2の実施形態に係る移動機構60は、土砂通過部36の特定領域4に隣接するカッタスポーク33に設けられる。移動機構60は、回転軸62と、収納部63と、回転羽根64と、ブッシュ66と、シール部68と、回転駆動部(図示せず。)とを備える。
通常時には、移動機構60は、図11の下側のカッタスポーク33に示すように、回転羽根64を回転させずに静止させ、回転羽根64をカッタスポーク33の収納部63内に収納しておく。一方、強制移動動作時には、図11の上側のカッタスポーク33に示すように、移動機構60は、土砂通過部36の特定領域4において回転羽根64を回転動作させる。これにより、図15に示すように、土砂通過部36の特定領域4に滞留する掘削土砂の固着物3を、例えば、カッタヘッド11の径方向外側に強制的に押しのけて、当該特定領域4における掘削土砂の滞留を抑制、解消して、土砂通過部36の閉塞を防止、解除する。
回転軸62は、回転羽根64の中央部を軸支する。回転軸62は、カッタスポーク33の幅方向の中心に設けられ、カッタヘッド11の軸方向(前後方向)に延びるように配置される。回転軸62を中心に回転羽根64を回転させることにより、回転羽根64は、カッタヘッド11の前面に対して平行な平面内で回転する。
回転羽根64は、回転軸62を中心として回転可能に設けられる長尺板状の回転部材である。回転軸62は回転羽根64の長手方向の中心部を軸支する。回転羽根64は、不図示の回転駆動部により回転軸62を中心に回転可能に設けられる。回転駆動部は、回転羽根64を回転させる駆動力を発生する。回転駆動部としては、例えば、電動モータ等のアクチュエータ駆動装置、またはラック&ピニオン機構など、公知の駆動装置を用いればよい。
カッタスポーク33には、回転羽根64を収納するためのスリット状の中空空間である収納部63が形成されている。収納部63は、カッタスポーク33の側面33bに貫通形成されている。回転羽根64は、この収納部63内に収まるような形状及び大きさを有する。回転羽根64は、収納部63内に収納可能な状態で回転軸62により軸支されている。回転羽根64の長手方向とカッタスポーク33の長手方向とがほぼ一致する場合には、回転羽根64は、カッタスポーク33の収納部63内に収納される。一方、回転羽根64が回転して、回転羽根64の長手方向とカッタスポーク33の長手方向とがずれる場合には、回転羽根64の両端部は、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて突出した状態となる。このように、回転羽根64は、カッタスポーク33内に収納可能、かつ、カッタスポーク33の側面33bに面した土砂通過部36内で回転動作可能に設けられる。
図12~図14に示すように、回転軸62の外周に環状のブッシュ66(すべり軸受け)が設置されており、カッタスポーク33に対して回転羽根64が円滑に回転できるようになっている。さらに、ブッシュ66の外周側には、リング状のシール部68が設置されている。このシール部68により、回転する回転羽根64とカッタスポーク33との隙間をシールして、当該隙間から掘削土砂がカッタスポーク33内に侵入することを防止できる。
また、回転軸62と回転羽根64は、一体構成されてもよいし(図13参照。)、別体に構成されてもよい(図14参照。)。図13に示すように、回転軸62と回転羽根64を一体構成すれば、回転軸62とカッタスポーク33との間にブッシュ66を介在させて、カッタスポーク33に対して回転軸62および回転羽根64を一体的に回転させる構造を採用できる。これにより、回転羽根64に対して回転駆動力を伝達しやすくなり、カッタスポーク33に回転羽根64の回転機構を設置しやすいという利点がある。一方、図14に示すように、回転軸62と回転羽根64とを別体に構成すれば、カッタスポーク33に回転軸62を固定し、かつ、回転軸62と回転羽根64との間にブッシュ66を介在させて、回転軸62を回転させずに回転羽根64だけを回転させる構造を採用できる。これにより、回転軸62とカッタスポーク33を構造的に一体化できるので、カッタスポーク33の強度面で有利であるという利点がある。
以上のように、第2の実施形態に係る移動機構60によれば、回転羽根64は、カッタスポーク33に配置される回転軸62を中心に回転可能に設けられる。かかる構成により、図15に示すように、カッタスポーク33の側面33bに面した土砂通過部36において、回転羽根64を回転動作させることができる。これにより、土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を、回転羽根64の回転方向に強制的に移動させて除去することができる。特に、カッタスポーク33の側面33bから、回転する回転羽根64の端部を突出させることにより、当該側面33bに対して固着している固着物3の縁を切り、当該固着物3を側面33bから離脱させて、土砂通過部36から除去することができる。
ここで、通常時(強制移動動作を行わない時)と強制移動動作時の移動機構60の動作について、より詳細に説明する。
土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留していないとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞していないときには、移動機構60の回転羽根64を回転させる強制移動動作を行わず、土砂通過部36を通じた通常の排土処理が行われる。強制移動動作を行わない通常時には、回転羽根64は、回転動作せずに、カッタスポーク33の収納部63内に収納され、退避位置に配置される。これにより、回転羽根64は土砂通過部36に突出していないので、土砂通過部36を通じた掘削土砂の流動が、回転羽根64により妨げられることがない。
一方、土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留しているとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞したときには、移動機構60により強制移動動作が行われる。強制移動動作を行う時には、図15に示すように、移動機構60の回転羽根64は、回転動作して、カッタスポーク33の側面33bから突出して土砂通過部36に進入する。かかる回転動作により、回転羽根64は、カッタヘッド11の中央部付近で土砂通過部36の特定領域4を閉塞している固着物3に当接して、回転方向に押し出す。この結果、当該固着物3は、例えば、カッタヘッド11の径方向外側に向けて強制的に押しのけられて、特定領域4から脱離し、カッタヘッド11の背面側のチャンバ17に排出される。このようにして、土砂通過部36における回転羽根64の回転動作によって、土砂通過部36における掘削土砂の滞留、固着が解消され、掘削土砂の固着物3による土砂通過部36の閉塞が解除される。
以上のように、第2の実施形態によれば、土砂通過部36において回転羽根64(回転部材)を回転動作させることにより、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3の縁を切り、当該固着物3を例えばカッタヘッド11の径方向外側に強制的に押し出して除去できる。特に、土砂通過部36のうちカッタヘッド11の中央部付近の特定領域4が掘削土砂の固着物3により閉塞している場合であっても、本実施形態に回転羽根64の回転動作により、特定領域4の固着物3を確実に除去して、閉塞を解除することができる。
なお、上記では、回転羽根64の回転軸62がカッタヘッド11の軸方向(前後方向)に延びる例について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されず、回転羽根の回転軸の方向は、土砂通過部36内で回転羽根を回転させることが可能な方向であれば、任意の方向であってよく、例えば、カッタヘッド11の径方向(カッタスポーク33の長手方向)であってもよい。
また、上記では、回転羽根64の回転軸62の方向がカッタヘッド11の軸方向(前後方向)であり、かつ、回転羽根64が掘削土砂の固着物3を押しのける方向が、カッタヘッド11の径方向外側である例について説明した。これにより、カッタヘッド11の中央部周辺の特定領域4から固着物3を好適に除去できる。しかし、本発明の回転羽根が掘削土砂の固着物3を押しのける方向は、かかる例に限定されず、例えば、カッタヘッド11の径方向内側、またはカッタヘッド11の軸方向(前後方向)など、他の任意の方向であってもよい。例えば、回転羽根の回転軸の方向をカッタヘッド11の径方向にすることによって、回転羽根が固着物3を押しのける方向を、カッタヘッド11の軸方向(前後方向)にすることができる。かかる構成であっても、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3を好適に除去することができる。
<6.第3の実施形態に係る移動機構>
次に、図16~図18を参照して、本発明の第3の実施形態に係る移動機構70について説明する。
図16は、第3の実施形態に係る移動機構70の通常状態を模式的に示す斜視図である。図17は、第3の実施形態に係る移動機構70の回動状態を模式的に示す斜視図である。図18は、第3の実施形態に係る移動機構70の回動動作を模式的に示す前面図である。なお、図16~図18では、説明の便宜上、カッタヘッド11を構成する一部のカッタスポーク33や移動機構70の要部のみを示し、他のカッタスポーク33やカッタビット35等の他の構成要素の図示は省略してある。
図16~図18に示すように、第3の実施形態に係る移動機構70は、土砂通過部36の特定領域4に隣接するカッタスポーク33に設けられる。移動機構70は、回動軸72と、収納部73と、押出板74と、回動駆動部(図示せず。)とを備える。
図16に示す通常時には、移動機構70は、カッタスポーク33の側面33bに陥没形成された収納部73に押出板74を収納しておく。一方、図17に示す強制移動動作時には、移動機構70は、土砂通過部36の特定領域4において押出板74を、例えば、径方向外側に向けて回動させる。これにより、図18に示すように、土砂通過部36の特定領域4に滞留する掘削土砂の固着物3を、例えば、カッタヘッド11の径方向外側に強制的に押しのけて、当該特定領域4における掘削土砂の滞留を抑制、解消して、土砂通過部36の閉塞を防止、解除する。
回動軸72は、押出板74の長手方向の一端部を軸支する。回動軸72は、カッタスポーク33の側面33bにおいて、カッタヘッド11の軸方向(前後方向)に延びるように配置される。回動軸72を中心に押出板74を回動させることにより、押出板74は、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に張り出すように回動することになる。なお、回動軸72の設置位置は、カッタスポーク33の側面33bの例に限定されず、例えば、カッタスポーク33の内部等であってもよい。
押出板74は、押出部材の一例である。押出板74は、例えば、回動軸72を中心として回動可能に設けられる板状の回動部材(フラッパー)である。なお、押出部材は、押出板74のような板状の部材に限定されず、例えば、棒状、ブロック状など、板状以外の部材であってもよい。押出板74は、不図示の回動駆動部により回動軸72を中心に回動可能に設けられる。回動駆動部は、押出板74を回動させる駆動力を発生する。回動駆動部としては、例えば、押出板74の長手方向の中間部付近を回動方向に押し出すジャッキを用いてもよいし、あるいは、押出板74の基部(回動軸72の周辺部分)に対して回動駆動力を伝達する駆動機構を用いてもよい。前者のように押出板74の中間部付近を押し出すジャッキを用いれば、ジャッキのストロークや発生トルクを低減できるとともに、押出板74の強度不足を補償できる。
カッタスポーク33の側面33bには、押出板74を収納するための凹部である収納部73が陥没形成されている。押出板74は、この収納部73内に収まるような形状及び大きさを有する。押出板74は、収納部73内に収納可能な状態で回動軸72により軸支されている。押出板74の長手方向の両端部のうち、カッタヘッド11の中央部から遠い方の一端部が回動軸72により軸支されており、カッタヘッド11の中央部に近い方の他端部は、自由端となっている。押出板74の他端部をカッタスポーク33の側面33bに近づける方向に回動させれば、図16に示すように、押出板74は、カッタスポーク33の側面33bの収納部73内に収納される。一方、押出板74の他端部をカッタスポーク33の側面33bから遠ざける方向に回動させれば、図17に示すように、押出板74は、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて張り出した状態となる。このように、押出板74は、カッタスポーク33の側面33bの収納部73内に収納可能、かつ、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36に向けて張り出すように回動可能に設けられる。
以上のように、第3の実施形態に係る移動機構70によれば、押出板74は、カッタスポーク33の側面33bに配置される回動軸72を中心に回動可能に設けられる。かかる構成により、図18に示すように、カッタスポーク33の側面33bに面した土砂通過部36において、押出板74を回動動作させることができる。これにより、土砂通過部36を閉塞する掘削土砂の固着物3を、押出板74の回動方向に強制的に移動させて除去することができる。特に、カッタスポーク33の側面33bから押出板74を張り出させることにより、当該側面33bに対して固着している固着物3の縁を切り、当該固着物3を側面33bから離脱させて、土砂通過部36から除去することができる。
ここで、通常時(強制移動動作を行わない時)と強制移動動作時の移動機構70の動作について、より詳細に説明する。
土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留していないとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞していないときには、移動機構70の押出板74を回動させる強制移動動作を行わず、土砂通過部36を通じた通常の排土処理が行われる。強制移動動作を行わない通常時には、押出板74は、カッタスポーク33の収納部73内に収納される。これにより、押出板74は土砂通過部36に張り出していないので、土砂通過部36を通じた掘削土砂の流動が、押出板74により妨げられることがない。
一方、土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留しているとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞したときには、移動機構70により強制移動動作が行われる。強制移動動作を行う時には、図18に示すように、移動機構70の押出板74は、例えば、土砂通過部36において径方向外側に向けて回動して、カッタスポーク33の側面33bから土砂通過部36の特定領域4に張り出す。かかる回動動作により、押出板74は、カッタヘッド11の中央部付近で土砂通過部36の特定領域4を閉塞している固着物3に当接して、回動方向に押し出す。この結果、当該固着物3は、例えば、カッタヘッド11の径方向外側に向けて強制的に押しのけられて、特定領域4から脱離し、カッタヘッド11の背面側のチャンバ17に排出される。このようにして、土砂通過部36における押出板74の回動動作によって、土砂通過部36における掘削土砂の滞留、固着が解消され、掘削土砂の固着物3による土砂通過部36の閉塞が解除される。
以上のように、第3の実施形態によれば、土砂通過部36において押出板74(回動部材)を回動動作させることにより、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3の縁を切り、当該固着物3をカッタヘッド11の例えば径方向外側に強制的に押し出して除去できる。特に、土砂通過部36のうちカッタヘッド11の中央部付近の特定領域4が掘削土砂の固着物3により閉塞している場合であっても、本実施形態に押出板74の回動動作により、特定領域4の固着物3を確実に除去して、閉塞を解除することができる。
なお、上記では、押出板74(押出部材の一例)の回動軸72がカッタヘッド11の軸方向(前後方向)に延びる例について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されず、押出部材の回動軸の方向は、土砂通過部36内で押出部材を回動させることが可能な方向であれば、任意の方向であってよく、例えば、カッタヘッド11の径方向(カッタスポーク33の長手方向)であってもよい。また、押出部材の回動軸の設置位置は、カッタスポーク33の側面33bの例に限定されず、例えば、カッタスポーク33の内部等であってもよい。
また、上記では、押出板74の回動軸72の方向がカッタヘッド11の軸方向(前後方向)であり、かつ、押出板74が掘削土砂の固着物3を押しのける方向が、カッタヘッド11の径方向外側である例について説明した。これにより、カッタヘッド11の中央部周辺の特定領域4から固着物3を好適に除去できる。しかし、本発明の押出部材が掘削土砂の固着物3を押しのける方向は、かかる例に限定されず、例えば、カッタヘッド11の径方向内側、またはカッタヘッド11の軸方向(前後方向)など、他の任意の方向であってもよい。例えば、押出部材の回動軸の方向をカッタヘッド11の径方向にすることによって、押出部材が固着物3を押しのける方向を、カッタヘッド11の軸方向(前後方向)にすることができる。かかる構成であっても、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3を好適に除去することができる。
<7.第4の実施形態に係る移動機構>
次に、図19~図21を参照して、本発明の第4の実施形態に係る移動機構80について説明する。
図19は、第4の実施形態に係る移動機構80の通常状態を模式的に示す斜視図である。図20は、第4の実施形態に係る移動機構80の回転状態を模式的に示す斜視図である。図21は、第4の実施形態に係る移動機構80の回転動作を模式的に示す側面図である。なお、図19~図21では、説明の便宜上、カッタヘッド11を構成する一部のカッタスポーク33や移動機構80の要部のみを示し、他のカッタスポーク33やカッタビット35等の他の構成要素の図示は省略してある。
図19~図21に示すように、第4の実施形態に係る移動機構80は、土砂通過部36の特定領域4に隣接するカッタスポーク33に設けられる。移動機構80は、撹拌翼82と、回転軸83と、回転部84と、回転駆動部86とを備える。
撹拌翼82は、通常時に、カッタヘッド11の背面側のチャンバ17内で、掘削土砂を撹拌するために用いられる、例えば円柱状の翼部材である。図19に示すように、撹拌翼82は、カッタスポーク33の背面33d側に取り付けられ、カッタスポーク33の背面33dから後方(チャンバ17方向)に向けて突出するように配置される。撹拌翼82は、通常時には、カッタヘッド11の回転に伴ってチャンバ17内で回転し、チャンバ17内に存在する掘削土砂を撹拌する。
回転軸83は、カッタスポーク33の長手方向(即ち、カッタヘッド11の径方向)に延びる。回転部84は、カッタスポーク33のうち撹拌翼82が取り付けられる部分であり、回転軸83を中心に撹拌翼82とともに回転する部分である。カッタスポーク33のうち回転部84以外の部分は、回転軸83を中心に回転しない固定部となる。
回転駆動部86は、カッタスポーク33のうち撹拌翼82が取り付けられた部分(回転部84)を、回転軸83を中心に回転させる。回転駆動部86は、例えば、電動モータ等のアクチュエータ駆動装置で構成される。回転駆動部86は、カッタスポーク33のうち撹拌翼82が取り付けられた回転部84を固定部に対して相対的に回転させる。これにより、図19に示す通常時にはカッタスポーク33の背面33dに向けて突出している撹拌翼82が、図20に示すようにカッタスポーク33の側面33bに向けて突出するように回転動作する。
以上のように、第4の実施形態に係る移動機構80は、カッタスポーク33の側面33bに面した土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を強制的に移動させるために、カッタスポーク33の背面33dに設けられた既存の撹拌翼82を利用する。移動機構80は、通常時にはカッタスポーク33の背面33d側に向けて突出している撹拌翼82(図19参照。)を、カッタスポーク33ごと回転させて、カッタスポーク33の側面33b側に向ける(図20、図21参照。)。このように移動機構80は、カッタスポーク33のうち撹拌翼82が取り付けられた回転部84を、回転軸83を中心に回転させる。これにより、カッタスポーク33の側面33bに面する土砂通過部36において、撹拌翼82を機械的に回転動作させる。かかる撹拌翼82の回転動作により、図21に示すように、カッタスポーク33の側面33b側の土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を、カッタヘッド11の前面側もしくは背面側に押しのけて除去することができる。
ここで、通常時(強制移動動作を行わない時)と強制移動動作時の移動機構80の動作について、より詳細に説明する。
土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留していないとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞していないときには、移動機構80の撹拌翼82を回転させる強制移動動作を行わず、土砂通過部36を通じた通常の排土処理が行われる。強制移動動作を行わない通常時には、撹拌翼82は、図19に示すようにカッタスポーク33の背面33d側に突出しており、土砂通過部36に向けて突出していないので、土砂通過部36を通じた掘削土砂の流動が、撹拌翼82により妨げられることがない。
一方、土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留しているとき、特に、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞したときには、移動機構80により強制移動動作が行われる。強制移動動作を行う時には、図20、図21に示すように、移動機構80の撹拌翼82を回転部84とともに回転させて、土砂通過部36の特定領域4で回転動作させる。かかる回転動作により、撹拌翼82は、土砂通過部36の特定領域4を閉塞している固着物3に当接して、回転方向に押し出す。この結果、当該固着物3はカッタヘッド11の前面または背面側に向けて強制的に押しのけられて、特定領域4から脱離して排出される。このようにして、土砂通過部36における撹拌翼82の回転動作によって、土砂通過部36における掘削土砂の滞留、固着が解消され、掘削土砂の固着物3による土砂通過部36の閉塞が解除される。
以上のように、第4の実施形態によれば、土砂通過部36において撹拌翼82を回転動作させることにより、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3の縁を切り、当該固着物3をカッタヘッド11の背面側または前面側に強制的に押し出して除去できる。特に、土砂通過部36のうちカッタヘッド11の中央部付近の特定領域4が掘削土砂の固着物3により閉塞している場合であっても、本実施形態に係る撹拌翼82の回転動作により、特定領域4の固着物3を確実に除去して、閉塞を解除することができる。
なお、上記では、カッタスポーク33の断面全体を撹拌翼82とともに回転させる例について説明したが、かかる例に限定されない。例えば、カッタスポーク33の前面側の部分とカッタビット35を回転させずに、カッタスポーク33の背面側の部分と撹拌翼82を部分的に回転させてもよい。カッタビット35は地山に接している部分であるため、図20、21に示したようにカッタスポーク33の断面全体を回転させる構成を採用した場合には、カッタビット35が切削していない地山に入り込まないと、回転できない可能性がある。これに対し、カッタビット35を回転させずに、カッタスポーク33の背面側の部分と撹拌翼82を部分的に回転させる構成を採用すれば、当該可能性を回避できるというメリットがある。
また、上記では、撹拌翼82の回転軸83がカッタスポーク33の長手方向(即ち、カッタヘッド11の径方向)に延びる例について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されず、撹拌翼の回転軸の方向は、土砂通過部36内で撹拌翼を回転させることが可能な方向であれば、任意の方向であってよく、例えば、カッタヘッド11の周方向(接線方向)であってもよい。撹拌翼の回転軸の方向がカッタヘッド11の周方向(接線方向)である場合でも、当該回転軸を中心として撹拌翼をカッタスポークの一部とともに回転させることによって、土砂通過部36に滞留している掘削土砂の固着物3を、撹拌翼によりカッタヘッド11の軸方向(前後方向)に押しのけて、好適に除去することができる。
<8.トンネル掘削機によるトンネル施工方法>
以上、本実施形態に係るトンネル掘削機1の構成について詳述した。次に、本実施形態に係るトンネル掘削機1を用いたトンネル施工方法と、トンネル掘削機1の動作について説明する。
本実施形態に係るトンネル掘削機1を用いてトンネル構造体を施工する場合、図1に示すように、まず、カッタヘッド11を回転させながら、複数の推進ジャッキ19を伸長させて既設のセグメントSに押し付ける。これにより、掘削機本体10がその既設のセグメントSから推進反力を得て前進すると共に、回転するカッタヘッド11によりトンネル掘削機1の前方の切羽の地山が掘削されて、トンネルTの掘削が進行する。
このカッタヘッド11による掘削時には、多数のカッタビット35の先端部は切羽最前端位置である切羽掘削面2に配置され、当該カッタビット35は切羽掘削面2に沿って周回しながら、当該切羽掘削面2の地山を切削する。
かかる掘削時には、添加材(加泥材または気泡材)、水等を含む注入液が、供給機構(図示せず。)によりカッタヘッド11まで供給されている。当該注入液は、カッタヘッド11に設けられた注入孔(図示せず。)を通じて、掘削土砂に注入される。これにより、切羽とカッタヘッド11前面との間の領域で、注入液に含まれる添加材の作用により掘削土砂が改良土となり、当該掘削土砂の塑性流動性や固着防止性、止水性などが向上する。
上記掘削によって発生した掘削土砂は、カッタヘッド11の開口部である土砂通過部36を通じてチャンバ17内に取り込まれて蓄積される。チャンバ17は、蓄積された掘削土砂によって所定の内圧に維持される。そして、チャンバ17内に蓄積された掘削土砂は、隔壁12の下部の排出口12aを通じて、スクリューコンベヤ20の筒体22の先端部内に移動する。そして、掘削土砂は、駆動部25により回転するスクリュー羽根21によって、スクリューコンベヤ20の筒体22内を後方側に向けて運搬されて、後部側の土砂排出口から排出される。
また、上記のような掘削および排土動作と同時に、収縮させた推進ジャッキ19の後方側において、エレクタ装置によって、セグメントSがトンネルTの内壁面に沿ってリング状に順次組み立てられる。
以上のようにして、トンネル掘削機1は、カッタヘッド11の掘削量に見合う土砂量を、スクリューコンベヤ20によって円滑に排出して、チャンバ17内を常に掘削土砂によって充満させることにより、切羽の安定化を図りつつ、トンネルTを連続的に掘削する。これと同時に、推進ジャッキ19の伸長によって、既設のセグメントSから推進反力を得て掘進しながら、推進ジャッキ19の後方側において、新設のセグメントSが組み立てられる。
ところで、上記のような掘削途中に、カッタヘッド11の土砂通過部36に掘削土砂の固着物3が滞留し、極端な場合には、土砂通過部36の一部(特に、カッタヘッド11の中央部付近の特定領域4)が固着物3により閉塞する場合がある。かかる場合には、上述した移動機構50、60、70、80等を用いて、土砂通過部36に滞留、固着している掘削土砂の固着物3を強制的に移動させる強制移動動作が実行される。かかる強制移動動作は、カッタヘッド11の回転動作、即ちトンネル掘削動作を一時的に停止した状態で、行われることが好ましい。この理由は、カッタヘッド11の回転動作と同時に強制移動動作を行うと、これら複数動作の制御を同時に行うことになり、制御が複雑になるので、これを避けるためである。また、カッタヘッド11の回転停止時は、一般的に、掘削を停止して、エレクタ装置によりセグメントSの組立を行う時間帯となるが、この時間帯に強制移動動作を行って、土砂通過部36に対する掘削土砂の固着を解消できれば、その後の掘削時における掘削土砂の排土を円滑に実行でき、掘削作業の効率化を図ることも期待できる。
このような強制移動動作を定期的または不定期に実施することで、カッタヘッド11の土砂通過部36において掘削土砂が滞留、固着することを抑制できる。よって、土砂通過部36が掘削土砂の固着物3により閉塞することを抑制でき、土砂通過部36を通じてチャンバ17内に掘削土砂を円滑に取り込んで、効率良く排出可能にすることができる。
<9.まとめ>
以上、本実施形態に係るトンネル掘削機1と、当該トンネル掘削機1を用いたトンネル施工方法について詳述した。
本実施形態によれば、カッタヘッド11の土砂通過部36に隣接するカッタスポーク33に移動機構(上記各実施形態に係る移動機構50、60、70、80等)を設ける。そして、カッタヘッド11の土砂通過部36の少なくとも一部(例えば特定領域4)に掘削土砂の固着物3が滞留して、土砂通過部36の通過領域が狭くなり、その排土機能が低下したときに、土砂通過部36内で移動機構を機械的に動作させる。これにより、土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を強制的に移動させて、土砂通過部36から除去することができる。したがって、カッタヘッド11の土砂通過部36における掘削土砂の滞留、固着を抑制して、土砂通過部36の閉塞を防止できる。また、土砂通過部36に対して掘削土砂が滞留、固着して、土砂通過部36が部分的に閉塞し始めた場合や、土砂通過部36の全体が閉塞してしまった場合には、土砂通過部36に対する掘削土砂の滞留、固着を解消して、土砂通過部36の閉塞を解除できる。よって、カッタヘッド11の前面側から土砂通過部36を通じて背面側へ掘削土砂を円滑に移動させて、掘削土砂を効率良く排出することができる。
また、本実施形態によれば、移動機構は、土砂通過部36に隣接するカッタスポーク33に設けられた収納スペース(例えば、上述した収納部63、73等)に収容可能、かつ、土砂通過部36において機械的に動作可能に設けられる。そして、強制移動動作を行わない通常時には、移動機構はカッタスポーク33に収納される。一方、強制移動動作を行う時には、移動機構はカッタスポーク33から土砂通過部36に進出して機械的に動作して、土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を強制的に移動させる。これにより、強制移動動作を行わない通常時には、移動機構を収納して、土砂通過部36を通過する掘削土砂の流動を、移動機構によって妨げないようにすることができ、土砂通過部36を通じて掘削土砂を円滑に排土できる。一方、強制移動動作を行うときには、移動機構を土砂通過部36に進出させて、土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を除去することができる。
また、本実施形態によれば、土砂通過部36のうち、他の領域よりも掘削土砂の固着物3が滞留しやすい特定領域4が存在する場合、当該特定領域4に対応する位置に移動機構が設けられる。この特定領域4は、例えば、カッタヘッド11の中央部において複数のカッタスポーク33が寄せ集まることにより、土砂通過部36が楔状に狭くなっている領域などである。かかる特定領域4に隣接する位置に移動機構を設け、特定領域4内で移動機構を機械的に動作させる。これによって、当該狭い特定領域4に詰まった掘削土砂の固着物3を強制的に移動させて確実に除去し、土砂通過部36から排出することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、トンネル掘削機1が泥土圧式シールド掘削機であり、土砂通過部36が複数のカッタスポーク33の隙間である例について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されず、泥水式シールド掘削機にも適用可能である。この場合、カッタヘッドの土砂通過部は、泥水式シールド掘削機のカッタヘッド前面に形成されたスリットなどであってもよい。
詳細には、トンネル掘削機が泥水式シールド掘削機である場合、地山(切羽)の保持は泥水圧力で行うものの、地山(切羽)の崩落防止のために、カッタヘッドのカッタスポーク間にカッタ面板を用いることが一般的である。このため、泥水式シールド掘削機では、カッタヘッド前面は、複数のカッタスポークと、周方向に相隣接するカッタスポークの隙間を塞ぐカッタ面板とから構成される。この場合、カッタスポークとカッタ面板の隙間、隣接するカッタ面板同士の隙間、またはカッタ面板の貫通穴として形成された複数のスリットなどが土砂通過部となり、当該スリットなどからチャンバ内に掘削土砂が取り込まれる。また、泥水式シールド掘削機では、施工の長距離化に伴い、泥水式シールド工法に適していない地盤条件の掘削も強いられる場合がある。この場合、カッタヘッドの面板のスリットなどは、掘削土砂の取り込み幅が限られているので、掘削土砂による閉塞を起こしやすい。
そこで、かかるスリットなど(土砂通過部)に隣接する位置(例えば、カッタスポークまたはカッタ面板の背面側など)に移動機構を設け、例えば、スリットに掘削土砂が滞留して排出機能が低下したときに、当該スリット内で移動機構の可動部材を機械的に動作させることが好ましい。これにより、スリットに滞留、固着している掘削土砂の固着物を強制的に移動させて除去し、スリットの閉塞を防止、解除できるので、当該スリットを通じて掘削土砂を円滑に排出できるようになる。
また、上記実施形態では、カッタヘッドの構成部材であるカッタスポーク33および補助カッタスポーク37は、例えば、中空断面構造を有する四角筒状の構造体(中空部材)で構成されていたが、本発明は、かかる例に限定されない。カッタスポークおよび補助カッタスポークは、中空部材でなくてもよく、例えば、中実部材(中実の丸材、その他のブロック材など)で構成されてもよい。
また、上記実施形態では、移動機構は、土砂通過部36に面したカッタスポーク33に設置されたが、本発明の移動機構の設置位置は、かかる例に限定されない。移動機構は、土砂通過部36において機械的に動作可能な設置位置であれば、例えば、土砂通過部36に面した補助カッタスポーク37、内周リング32、外周リング31またはカッタ中央軸13(センターシャフト)など、カッタヘッド11の構成部材における任意の位置に設置されてもよい。
例えば、移動機構は、補助カッタスポーク37の内周側の端部に設置されてもよい。この場合、移動機構の可動部材(例えば、上記実施形態の進退部材52)を、補助カッタスポーク37の内周側の端面から土砂通過部36に向けて、カッタヘッド11の径方向に進退させるように構成してもよい。また、補助カッタスポーク37の内周側の端部に設置された移動機構の可動部材(例えば、上記実施形態の回転羽根64、押出部材(押出板74)、撹拌翼82など)を、カッタヘッド11の周方向(接線方向)に延びる回転軸若しくは回動軸を中心として回転若しくは回動させるように構成してもよい。これら構成によっても、補助カッタスポーク37の内周側の端部に面した土砂通過部36に滞留する掘削土砂の固着物3を、強制的に移動させることが可能である。このように、上記実施形態で説明したカッタスポーク33だけでなく補助カッタスポーク37も、本発明の移動機構が設けられるカッタヘッド11の構成部材に含まれる。
また、上記本実施形態では、図4、図5に示したように、土砂通過部36の特定領域4が、カッタヘッド11の中央部周辺において土砂通過部36が楔状に狭くなっている領域である例について説明したが、本発明は、かかる例に限定されない。本発明の特定領域は、土砂通過部のうち、他の領域よりも掘削土砂の固着物により閉塞しやすい領域であれば、任意の領域であってよく、例えば、カッタスポーク33と補助カッタスポーク37と内周リング32などの交差部において、構造体が密集して、土砂通過部が狭くなっている領域であってもよい。