以下、本発明の一実施形態に係る培養方法および培養装置について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
本実施形態に係る培養方法は、細胞を灌流培養する培養方法に関する。灌流培養では、細胞を培養している培養槽から細胞を含む培養液を抜き出して細胞分離処理し、この細胞分離処理で生じた細胞濃縮液を培養槽に返送することによって、目的の細胞を連続的に培養する。
培養対象の細胞は、特に制限されるものではない。培養対象の細胞は、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、微細藻類、ラン藻類、細菌、酵母、真菌、藻類、酵母等のいずれであってもよい。培養対象の細胞としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、マウス抗体等の各種の抗体や、各種の生理活性物質や、医薬品原料、化学原料、食品原料等として有用な各種の有用物質を産生する細胞が好ましく、抗体を産生する細胞が特に好ましい。また、培養対象としては、チャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster Ovary:CHO)細胞等の浮遊細胞が好ましい。
灌流培養中には、培養槽内の培養液の細胞密度が一定の範囲になるように、ブリーディングを行う。しかし、従来の灌流培養では、過剰に増殖した細胞が、培養槽から直接抜き取られている。ブリーディング液を培養槽から直接抜き取ると、培養液中に分泌された有用物質や、培養に必要な栄養についても、培養系外に大量に抜き取られてしまう。
このような場合、抜き取られた生産物や栄養が無駄になるし、これらを分離・回収するとしても、別の系統・処理が必要になりコストがかかる。また、新鮮培地の追加が必要になるため、培養槽内の栄養濃度の変動が大きくなり、培養環境が安定しなくなる虞もある。
そこで、本実施形態に係る培養方法では、灌流培養中に、細胞分離処理で生じた細胞濃縮液をブリーディング液として培養系外に排出する。なお、細胞分離処理は、培養液中に含まれる細胞と、細胞よりも小さい低分子等、例えば、細胞が産生した有用物質(生産物)、老廃物等とを、互いに分離する処理である。
灌流培養中に、細胞濃縮液をブリーディング液として培養系外に排出すると、細胞を培養している培養液の細胞密度を調整することができる。細胞濃縮液は、培養槽内の培養液よりも細胞密度が高い状態に濃縮されているため、細胞が産生した有用物質の排出量や、栄養の排出量が抑制される。
以下、灌流培養に用いる培養装置と共に、本実施形態に係る培養方法について具体的に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る培養装置の一例を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る培養装置100は、培養槽1と、培地供給配管6と、循環配管11(抜出配管11a,返送配管11b)と、細胞分離装置13と、分離液排出配管14と、ブリーディング液排出配管(排出配管)17と、逆洗液供給配管20と、抜出配管バルブ23と、返送配管バルブ24と、排出配管バルブ25と、これらに付随する機器等を備えている。
培養装置100は、細胞を灌流培養するための装置である。培養装置100は、培養槽1で培養されている細胞を培養液と共に細胞分離装置13に抜き出し、細胞分離装置13で細胞分離処理し、細胞分離処理で分離された細胞を培養槽1に返送する構成とされている。
培養装置100は、細胞分離処理を行う細胞分離装置13として、分離膜を用いた濾過(膜分離処理)を行う膜分離装置を備えている。図1に示す細胞分離装置13は、接線流濾過(TFF)方式の膜分離装置とされている。
培養槽1は、細胞を培養液中で培養するための槽である。培養槽1は、細胞の灌流培養に必要な各種の機器を備えることができる。図1において、培養槽1内には、通気用のスパージャ2や、機械攪拌用の攪拌機3や、培養槽1の細胞密度を計測するための挿入型の細胞密度計4が備えられている。但し、培養槽1には、通気装置、攪拌装置、培養環境や細胞量のモニタリング用のセンサとして、適宜の装置を備えることができる。
攪拌装置としては、細胞の浮遊、酸素の溶解、培養液の均一化等を促進する観点から、培養槽1の径方向、周方向および高さ方向のそれぞれに培養液を流動させることが可能な装置が好ましく用いられる。このような攪拌装置としては、攪拌翼を上下運動または三次元運動させる装置、培養槽を上下運動または三次元運動させる装置、複数の方向に多軸化された複数の攪拌軸を持つ装置、攪拌流の方向を転換するバッフルを備えた装置等が挙げられる。
培養槽1は、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属や、プラスチックや、ガラス等の適宜の材料で形成することができる。ステンレス鋼製の槽は、洗浄性や滅菌性に優れており、繰り返しの使用に適している。樹脂製の槽は、ディスポーザブル品としての使用に適しており、培養槽1の洗浄や滅菌が省略化される。
培養槽1は、可撓性の培養バックとして設けることもできる。可撓性の培養バックは、ディスポーザブル品としての使用が可能である。可撓性の培養バックは、例えば、エチレンビニルアセテート、エチレンビニルアルコール、低密度ポリエチレン、ポリアミド等の樹脂製の多層フィルムを用いて形成することができる。
図1に示すように、培養槽1には、培地供給配管6を介して、培地供給タンク7が接続されている。培地供給配管6には、培地供給ポンプ8が備えられている。培地供給タンク7は、灌流培養に必要な新鮮培地が用意される容器である。培地供給タンク7に用意された新鮮培地は、灌流培養中、培地供給ポンプ8によって培養槽1に供給される。
また、培養槽1には、酸素ガス供給配管9を介して、酸素ガス供給装置10が接続されている。酸素ガス供給装置10は、細胞の培養に必要な酸素ガスを供給する装置である。酸素ガスは、灌流培養中、酸素ガス供給装置10から培養槽1のスパージャ2に供給されて、培養液中に散気される。
また、培養槽1には、循環配管11を介して、細胞分離装置13が接続されている。循環配管11は、培養槽1から培養液を抜き出して細胞分離装置13に送り、細胞分離装置13で細胞が濃縮された培養液(細胞濃縮液)を細胞分離装置13から培養槽1に返送して、閉環状の循環系内で細胞を循環させる配管である。
循環配管11は、培養槽1から培養液を抜き出すための抜出配管11aと、細胞濃縮液を培養槽1に返送するための返送配管11bと、によって構成されている。循環配管11は、細胞分離装置13と共に、細胞を含む培養液を培養槽1に対して循環させる循環系を形成している。
抜出配管11aの一端は、培養槽1に接続している。抜出配管11aの他端は、細胞分離装置13の液入口に接続している。抜出配管11aには、培養液抜出ポンプ12と抜出配管バルブ23が、上流側から順に備えられている。
返送配管11bの一端は、細胞分離装置13の一次側の液出口に接続している。返送配管11bの他端は、培養槽1に接続している。返送配管11bには、返送配管バルブ24が備えられている。返送配管バルブ24としては、流量を調整可能な流量制御弁および全開と全閉を切り替える切換弁のいずれを用いることもできる。
灌流培養時、培養槽1には、細胞が懸濁している培養液が、所定の液量となるように張り込まれる。抜出配管バルブ23および返送配管バルブ24は、灌流培養中の通常時には、開放状態に制御される。培養槽1内の培養液は、培養液抜出ポンプ12によって細胞分離装置13に抜き出される。
細胞分離装置13は、培養槽1から抜き出された培養液を細胞分離処理して、培養液中に含まれる細胞と、細胞よりも小さい低分子等とを、互いに分離するために備えられている。図1において、細胞分離装置13としては、TFF方式の膜分離装置が備えられている。膜分離装置の分離膜としては、細胞の大きさよりも小さい膜孔径を持つ限外濾過膜が用いられる。
細胞分離装置13には、分離液排出配管14を介して、分離液タンク15が接続されている。分離液排出配管14には、分離液ポンプ16が備えられている。分離液タンク15は、細胞分離装置13において細胞から分離された低分子、例えば、細胞が産生した有用物質(生産物)、老廃物等を回収するための容器である。細胞分離装置13に流入した培養液は、灌流培養中、分離液ポンプ16によって分離膜を介して吸引される。分離膜の二次側が陰圧となり、分離膜の膜間に操作圧力が加えられる。
図2は、中空糸膜フィルタを備える膜分離装置を示す模式図である。
図2に示すように、細胞分離装置13としては、例えば、中空糸膜フィルタを備える内圧濾過方式の膜分離装置130を用いることができる。膜分離装置130は、ケーシング131と、複数の中空糸膜フィルタ132と、を備えている。
ケーシング131は、例えば、筒状に設けられて、一端側に入口側ヘッダ133、他端側に出口側ヘッダ134が取り付けられる。入口側ヘッダ133には、中空糸膜フィルタ132の一次側の液入口が設けられ、各中空糸膜フィルタ132の一端側が接続される。また、出口側ヘッダ134には、中空糸膜フィルタ132の一次側の液出口が設けられ、各中空糸膜フィルタ132の他端側が接続される。
中空糸膜フィルタ132の内空は、入口側ヘッダ133に設けられた一次側の液入口と、出口側ヘッダ134に設けられた一次側の液出口とに、それぞれ連通するように設けられる。入口側ヘッダ133には、抜出配管11aを接続することができる。また、出口側ヘッダ134には、返送配管11bを接続することができる。ケーシング131の他端側の内部の空間には、中空糸膜フィルタ132の二次側の液出口135が設けられる。この液出口135には、分離液排出配管14を接続することができる。
TFF方式の膜分離装置では、被処理液が、中空糸膜フィルタ132の内空に流入して長さ方向に沿って流れる。二次側の陰圧で膜間に所定の操作圧力が加えられると、中空糸膜フィルタ132の孔径よりも小さい物質は、一次側から二次側に透過してケーシング131の内部の空間から流出する。一方、中空糸膜フィルタ132の孔径よりも大きい物質は、一次側から二次側に透過せず、中空糸膜フィルタ132の内空を長さ方向に沿って流れて出口側ヘッダ134から流出する。
中空糸膜フィルタ132を備える内圧濾過方式の膜分離装置130によると、被処理液として流入する培養液中の細胞が、中空糸膜フィルタ132の内空を長さ方向に沿って流れるため、摩擦、衝突等によるせん断力で細胞が損傷されることが少なくなる。また、被処理液の流速を高くして膜分離処理を行うことができるため、細胞分離の速度的効率を高くすることができる。
このような細胞分離装置13によると、培養槽1から抜き出された培養液が細胞分離処理されて、目的の細胞が濃縮された培養液(細胞濃縮液)と、目的の細胞を実質的に含まず、有用物質、老廃物等の低分子を含む培養液(分離液)と、に分離される。分離膜の二次側に透過した分離液は、分離液排出配管14に流出して分離液タンク15に回収される。一方、分離膜を透過せず一次側に濃縮した細胞濃縮液は、返送管11bに流出する。
図1に示すように、細胞分離装置13には、逆洗液供給配管20を介して、逆洗液供給タンク21が接続されている。逆洗液供給配管20は、分離膜の二次側に逆洗液を供給するための配管である。逆洗液供給配管20は、例えば、細胞分離装置13の分離膜の二次側に設けられる洗浄液入口136(図2参照)に接続することができる。逆洗液供給配管20には、逆洗液供給ポンプ22が備えられている。逆洗液供給タンク21は、分離膜を逆洗するための逆洗液が用意される容器である。逆洗液供給タンク21に用意された逆洗液は、所定の時期に、逆洗液供給ポンプ22によって細胞分離装置13の分離膜の二次側に圧送される。
培養装置100において、循環系を構成する返送配管11bには、ブリーディング液排出配管17が接続されている。ブリーディング液排出配管17は、返送配管11bから分岐しており、ブリーディング液タンク18に接続している。ブリーディング液排出配管17には、排出配管バルブ25とブリーディング液ポンプ19が、上流側から順に備えられている。排出配管バルブ25としては、流量を調整可能な流量制御弁および全開と全閉を切り替える切換弁のいずれを用いることもできる。ブリーディング液排出配管17は、細胞分離装置13で生じた細胞濃縮液を循環系外に排出するためのブリーディング用の配管である。
細胞を含む培養液を培養槽1に対して循環させる循環系において、細胞分離装置13よりも後段にブリーディング液排出配管17を設けると、培養槽1に返送される細胞濃縮液をブリーディング液として循環系外に排出することができる。すなわち、灌流培養における細胞密度を一定の範囲に制御するにあたり、細胞が濃縮された細胞濃縮液を循環系外に排出して、培養槽1内の培養液の細胞密度を減少側に調整することができる。
細胞濃縮液は、培養槽1内の培養液と比較して、単位液量当たりの細胞量が多い高細胞密度の状態に濃縮されている。そのため、細胞濃縮液をブリーディング液とすると、培養槽1内の培養液を直接抜き取る場合と比較して、培養系外に抜き取るべき細胞量に対する、培養系外に抜き取られる培養液量の比率が、小さくなる。細胞が産生した有用物質の排出量や、栄養の排出量が抑制されるため、コストが抑制された安定的で効率的な灌流培養を行うことができる。
培養装置100においては、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出するブリーディング液(細胞濃縮液)の排出量を調節して、培養槽1内の培養液の細胞密度を調整することができる。例えば、培養槽1内の培養液の細胞密度が高くなりすぎると、細胞死や不要な分化等が起こるため、ブリーディング液の排出量を増加させて、培養槽1内の培養液の細胞密度を減少させることができる。
培養装置100においては、培養液等の液量や細胞量の収支に関して、以下の数式(1)~(2)が成り立つ。
F3=F0-F1-F2・・・(1)
V・(N-N0)=F2・Δt・N・F0/(F0-F1)・・・(2)
但し、数式中の各記号は、次のとおりである。Δtは、細胞の倍加時間よりも十分に短い時間であるものとする。
V:培養槽1に対する培養液の張込量[m3]
N:培養槽1の細胞密度[cells/m3]
N0:培養槽1の細胞密度の制御目標値[cells/m3]
F0:抜出配管11aの流量[m3/s]
F1:分離液排出配管14の流量[m3/s]
F2:ブリーディング液排出配管17の流量[m3/s]
F3:培地供給配管6の流量[m3/s]
Δt:ブリーディング液ポンプ19の運転時間[s]
細胞分離装置13における濃縮率は、F0/(F0-F1)で表されるため、濃縮による細胞密度の増分は、N・F0/(F0-F1)で表される。数式(2)で表されるとおり、この細胞密度の増分をブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出すると、培養槽1内の培養液の細胞密度は増加しなくなる。
F3は、細胞当たりの培地消費量(Cell Specific Perfusion Rate:CSPR)を用いると、F3=CSPR・N0・Vで表される。したがって、ブリーディング液ポンプ19の運転に必要な排出流量F2や運転時間Δtは、以下の数式(3)~(4)で表される。
F2=F0-F1-CSPR・N0・V・・・(3)
Δt=V・(N-N0)・(F0-F1)
/{(F0-F1-CSPR・N0・V)・N・F0}・・・(4)
また、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出すべきブリーディング液の排出量F2・Δtは、次の数式(5)で表される。
F2・Δt=V・(N-N0)・(F0-F1)/(N・F0)・・・(5)
一方、従来のように、ブリーディング液を培養槽1から直接抜き取る場合には、その抜取量をV1[m3]とすると、以下の数式(6)が成り立つ。
V・(N-N0)=V1・N・・・(6)
数式(5)の排出量F2・Δtと、数式(6)の抜取量V1とを比較すると、灌流培養における細胞密度を一定の範囲に制御するにあたり、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出すべきブリーディング液の排出量F2・Δtは、ブリーディング液を培養槽1から直接抜き取る場合と比較して、(F0-F1)/F0倍で小さくなることが分かる。
(F0-F1)/F0という倍率は、細胞分離装置13における濃縮率の逆数を表す。この倍率は、ブリーディング液排出配管17を通じてブリーディング液を排出した場合、培養槽1から直接抜き取る場合と比較して、排出流量F1に相当する流量分が削減されることを意味している。ブリーディング液排出配管17を使用すると、分離液排出配管14を通じて排出される分離液の流量分が、循環系内に留められることを意味する。
また、ブリーディング液の排出量F2・Δtは、(F0-F1)/F0倍で小さくなるため、F1を固定してF0を小さくしたり、F0を固定してF1を大きくしたりすると、更に小さい排出量になることが分かる(但し、F1<F0)。F0を小さくしたり、F1を大きくしたりすると、より少ないブリーディング液で培養液の細胞密度を下げることができるため、有用物質の排出量や栄養の排出量が、より抑制されることになる。
培養装置100において、制御装置5は、細胞密度計4によって計測される培養槽1の細胞密度の計測結果(N)と、現在の抜出配管11aの流量(F0)および現在の分離液排出配管14の流量(F1)とに基づいて、ブリーディング液排出配管17の流量(F2)、ブリーディング液ポンプ19の運転時間(Δt)、ブリーディング液の排出量(F2・Δt)を演算する機能を備えることができる。
また、制御装置5は、ブリーディング液排出配管17の流量(F2)、ブリーディング液ポンプ19の運転時間(Δt)、ブリーディング液の排出量(F2・Δt)等の演算結果を、表示装置に表示することができる。表示装置としては、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、ブラウン管等が挙げられる。このような表示を行うと、培養装置100の使用者によるブリーディングの手動操作や、ブリーディングの監視を行うことができる。
また、制御装置5は、培地供給ポンプ8、培養液抜出ポンプ12、分離液ポンプ16およびブリーディング液ポンプ19の出力や、抜出配管バルブ23、返送配管バルブ24および排出配管バルブ25の開度や、その他の送液系統・通気系統を制御する機能を備えることができる。ブリーディング液ポンプ19の出力、返送配管バルブ24および排出配管バルブ25の開度は、F2、Δt、F2・Δt等の演算結果に基づいて制御することができる。
培養装置100においては、灌流培養中、細胞分離装置13から流出した細胞濃縮液を、間欠的に循環系外に排出することもできるし、連続的に循環系外に排出することもできる。すなわち、返送配管バルブ24と排出配管バルブ25とを、交互に開閉させることもできるし、返送配管バルブ24と排出配管バルブ25との両方を、中間開度に維持することもできる。
間欠的なブリーディングを行う場合は、返送配管バルブ24を全閉に制御し、排出配管バルブ25を全開に制御する。返送配管バルブ24および排出配管バルブ25は、開閉のデューティー比を、所定のブリーディング液排出配管17の流量(F2)の下で、ブリーディング液排出配管17側が開放される開時間の合計が、ブリーディング液ポンプ19の運転時間(Δt)と略等しくなるように設定することができる。
間欠的なブリーディングは、灌流培養中、適宜の時間間隔で行うことができる。ブリーディングを行う際には、細胞分離装置13から流出した細胞濃縮液の実質的に略全部を、返送配管11bからブリーディング液排出配管17に流し、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出する。この間に、細胞分離処理は継続されるが、培養槽1への返送は中断される。間欠的なブリーディングによると、返送配管バルブ24や排出配管バルブ25の制御を容易に行うことができる。
一方、連続的なブリーディングを行う場合は、返送配管バルブ24および排出配管バルブ25を中間開度に制御する。ブリーディング液ポンプ19の運転時間(Δt)を細胞の倍加時間の範囲内で設定し、その下で、ブリーディング液排出配管17の流量(F2)を設定することができる。返送配管バルブ24および排出配管バルブ25のそれぞれの開度の設定や、ブリーディング液ポンプ19の出力の選定を行うことができる。
連続的なブリーディングを行う際には、細胞分離装置13から流出した細胞濃縮液の一部を、返送配管11bからブリーディング液排出配管17に分流し、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出する。この間に、細胞分離処理および培養槽1への返送は継続される。連続的なブリーディングによると、培養液の細胞密度の変動や、培養槽1内の培養環境の変動を小さくすることができる。
培養装置100は、循環系の収支に関して、ブリーディング液排出配管17を通じて排出されるブリーディング液の単位時間当たり平均排出量と、細胞分離装置13から培養槽1に返送される細胞濃縮液の単位時間当たり平均返送量と、細胞分離装置13から分離液排出配管14に抜き出される分離液の単位時間当たり平均抜出量との合計が、培養槽1から細胞分離装置13に抜き出される培養液の単位時間当たり平均抜出量と略等しくなるように運転される。
そのため、培養装置100の培地供給ポンプ8は、培地供給配管6を通じて供給される新鮮培地の単位時間当たり平均供給量が、培養槽1から細胞分離装置13に抜き出される培養液の単位時間当たり平均抜出量と、細胞分離装置13から培養槽1に返送される細胞濃縮液の単位時間当たり平均返送量との差分と略等しくなるように制御することができる。間欠的なブリーディングを行う場合、培地供給ポンプ8による新鮮培地の供給流量は、可変的に制御することもできる。
培養装置100においては、細胞分離装置13における濃縮率を、一定に制御してもよいし、可変的に制御してもよい。ブリーディング液の排出量F2・Δtは、濃縮率の逆数を意味する(F0-F1)/F0倍で小さくなるため、F0を小さくしたり、F1を大きくしたりすると、より少ないブリーディング液で培養槽1内の培養液の細胞密度を下げることができる。
このようなブリーディング液の排出量を減らす観点から、ブリーディング液(細胞濃縮液)を培養系外に排出するとき、細胞分離処理における細胞の濃縮率を高くする操作を行い、培養系外に排出される細胞濃縮液の細胞密度を高くすることもできる。例えば、間欠的なブリーディングを行う場合、返送配管バルブ24および排出配管バルブ25と同期するように、細胞分離処理における細胞の濃縮率を高くする操作を行うことができる。
細胞の濃縮率を高くする操作としては、例えば、培養槽1から抜き出す培養液の流量を小さくする操作、細胞分離処理に用いる分離膜の膜間差圧を高くする操作、複数の系統を備えた細胞分離装置13について使用系統を制限する操作等が挙げられる。これらの操作は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
培養槽1から抜き出す培養液の流量を小さくする操作としては、例えば、培養液抜出ポンプ12の流量を減少方向に調整する操作や、抜出配管バルブ23の開度を閉鎖方向に制御する操作を用いることができる。また、細胞分離処理に用いる分離膜の膜間差圧を高くする操作としては、例えば、分離液ポンプ16の流量を増加方向に調整する操作を用いることができる。
また、培養装置100においては、逆洗液供給配管20の系統を使用して、細胞分離装置13の分離膜を逆洗することができる。分離膜の逆洗は、灌流培養の開始前に行うこともできるし、灌流培養の終了後に行うこともできるし、灌流培養中に間欠的に行うこともできる。灌流培養中に行う場合、培養液抜出ポンプ12および分離液ポンプ16と、逆洗液供給ポンプ22とを、交互に稼働させて間欠的に逆洗を行う。
一般に、分離膜を用いた細胞分離処理では、宿主細胞由来タンパク質(Host Cell Protein:HCP)等のファウラントが、分離膜に付着し、処理の継続に伴って膜面上に堆積することがある。分離膜は、ファウラントによるゲル状物等で覆われるため、次第に膜間差圧が上昇し、最終的には破過に至り、分離能を喪失する。
これに対し、逆洗液供給配管20の系統を設けると、細胞分離処理に用いる分離膜を、培養系外から供給される逆洗液で間欠的に逆洗して、ファウラントを細胞濃縮液中に浮遊させることができる。細胞分離装置13の分離膜の二次側に逆洗液を圧送すると、逆洗液が分離膜の二次側から一次側に流れ、分離膜に付着しているファウラントが、細胞濃縮液側に剥離することになる。そのため、ファウラントを一次側の細胞濃縮液と共に細胞分離装置13から流出させることができる。
逆洗液としては、例えば、新鮮培地、緩衝液等を用いることができる。新鮮培地や緩衝液は、細胞や、HCP等の微粒子を含まず、培養環境に与える影響が小さい液体である。そのため、新鮮培地、緩衝液等を用いると、循環系内に新たなファウラントが導入されることが少なく、分離膜の逆洗に伴う膜間差圧の上昇が抑制される。また、分離膜の逆洗に伴う培養環境の変動が生じ難くなる。
細胞分離装置13の分離膜の逆洗は、間欠的なブリーディングと同時期に行うこともできるし、間欠的なブリーディングと異なる時期に行うこともできるし、連続的なブリーディングの間に間欠的に行うこともできる。分離膜の逆洗を、間欠的なブリーディングと同時期や、連続的なブリーディングの間に行うと、細胞濃縮液中に浮遊させたファウラントが、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出されるため、膜間差圧が上昇し難くなり、分離膜の使用寿命が長くなる。
細胞分離装置13の分離膜の逆洗は、例えば、分離膜の膜間差圧が、予め設定されている閾値を超えたときに行うことができる。分離膜のファウリングが進行すると、分離膜の膜孔の多くが閉塞し、逆洗を実行しても膜間差圧が下がらなくなる。このような場合、分離膜の交換が必要になるが、開放作業を伴う交換は、コンタミネーションの虞がある。そのため、分離膜の交換の頻度を少なくする観点からは、通常の膜間差圧の最大値のような通常の圧力範囲に近い小さい膜間差圧値を閾値とすることが好ましい。
分離膜の膜間差圧は、例えば、細胞分離装置13の出口に差圧計26を設定して計測することができる。分離膜の膜間差圧は、例えば、細胞分離装置13の入出口間の圧力差のような見かけ値や、培養液の流量、細胞濃縮液の流量、分離液の流量、静水圧等に基づいて解析される実効値として求めることもできる。
培養装置100においては、ブリーディング液排出配管17を通じて培養系外に排出された細胞濃縮液を、適宜の分離・精製処理に供して、細胞が産生した物質を回収することができる。分離・精製処理としては、半透膜分離処理または遠心分離処理が好ましく用いられる。半透膜分離処理としては、デッドエンドフロー濾過による全量濾過が特に好ましい。これらの分離・精製処理を用いると、細胞が濃縮された状態の細胞濃縮液から、不純物が少ない高純度の有用物質を効率的に回収することができる。
以上の培養装置100や、これを用いた培養方法によると、灌流培養中に、細胞分離処理で生じた細胞濃縮液を培養系外に排出して、培養槽内の培養液の細胞密度を調整することができる。そのため、増殖した過剰な細胞を培養槽から直接抜き取る場合と比較して、灌流培養中に培養系外に排出する細胞当たりのブリーディング液の排出量を抑制することができる。培養液の排出量が抑制されることによって、細胞が産生した有用物質の排出量や、栄養の排出量も抑制されるため、分離・回収に多大なコストをかける必要や、多量の新鮮培地を追加する必要が無くなる。例えば、ブリーディング液用の分離・回収設備を個別に設けなくとも、生産物の回収負荷や培地の無駄を削減することができる。そのため、このような分離・回収設備の簡略化が可能であるし、生産物や培地の逸失価値が分離・回収設備の運用コストを下回るような場合には、分離・回収設備の省略化も可能になる。すなわち、コストや新鮮培地の供給を抑制しつつ、培養環境や物質生産性を安定させることができるため、灌流培養を安定的且つ効率的に行うことができる。
また、以上の培養装置100や、これを用いた培養方法によると、循環系内のファウラントがブリーディングと共に系外に排出されるため、細胞分離処理に用いる分離膜の使用寿命を延ばすことができる。このようなファウラントを排出する作用は、細胞分離処理に用いる分離膜の二次側に逆洗液を供給することによって更に高められる。そのため、分離膜の交換コストや、交換作業に伴うコンタミネーションのリスクを低減することができる。細胞分離装置13は、TFF方式の膜分離装置とされているため、細胞分離処理と有用物質の回収を、脈動少なく連続的に行うことができる。
図3は、本発明の実施形態に係る培養装置の一例を示す模式図である。
図3に示すように、本実施形態に係る培養装置200は、前記の培養装置100と同様に、培養槽1と、培地供給配管6と、細胞分離装置13と、分離液排出配管14と、ブリーディング液排出配管(排出配管)17と、逆洗液供給配管20と、排出配管バルブ25と、これらに付随する機器等を備えている。
本実施形態に係る培養装置200が、前記の培養装置100と異なる点は、細胞分離装置13の方式が変更されている点である。培養装置200においては、循環配管11(抜出配管11a,返送配管11b)、培養液抜出ポンプ12、抜出配管バルブ23および返送配管バルブ24に代えて、往復配管29、ダイアフラムポンプ30、往復配管バルブ31が備えられている。
培養装置200は、細胞分離処理を行う細胞分離装置13として、分離膜を用いた濾過(膜分離処理)を行う膜分離装置を備えている。図3に示す細胞分離装置13は、交互接線流濾過(ATF)方式の膜分離装置とされている。
培養装置200において、培養槽1には、往復配管29を介して、細胞分離装置13が接続されている。往復配管29は、培養槽1から培養液を抜き出して細胞分離装置13に送り、細胞分離装置13で細胞が濃縮された培養液(細胞濃縮液)を細胞分離装置13から培養槽1に返送して、直線状の流路内の往復で細胞を循環させる配管である。往復配管29は、細胞分離装置13と共に、細胞を含む培養液を培養槽1に対して往復動で循環させる循環系を形成している。
往復配管29の一端は、培養槽1に接続している。往復配管29の他端は、細胞分離装置13の液入出口に接続している。往復配管29は、例えば、膜分離装置130の入口側ヘッダ133に接続される。往復配管29には、往復配管バルブ31が備えられている。往復配管バルブ31としては、流量を調整可能な流量制御弁および全開と全閉を切り替える切換弁のいずれを用いることもできる。
培養装置200の細胞分離装置13には、培養装置100と同様に、分離液排出配管14を介して、分離液タンク15が接続されている。また、培養装置200の細胞分離装置13には、培養装置100と同様に、逆洗液供給配管20を介して、逆洗液供給タンク21が接続されている。
培養装置200の細胞分離装置13は、培養装置100と同様に、培養槽1から抜き出された培養液を細胞分離処理して、培養液中に含まれる細胞と、細胞よりも小さい低分子等とを、互いに分離するために備えられている。図3において、細胞分離装置13としては、ATF方式の膜分離装置が備えられている。膜分離装置の分離膜としては、細胞の大きさよりも小さい膜孔径を持つ限外濾過膜が用いられる。
培養装置200の細胞分離装置13には、エアー駆動型のダイアフラムポンプ30が配管を介して接続されている。ダイアフラムポンプ30は、送液を駆動するチャンバ30aと、チャンバ30aに圧縮空気を供給するコンプレッサ30bと、を備えている。
チャンバ30aは、中空構造であり、その内部が、柔軟性を有するダイアフラムによって、被処理液室と、駆動流体室と、に区画されている。被処理液室は、細胞分離装置13の分離膜の一次側と連通している。被処理液室は、例えば、膜分離装置130の出口側ヘッダ134に配管等を介して接続される。駆動流体室は、コンプレッサ30bの流体出口と連通している。
ダイアフラムポンプ30では、駆動流体室内の圧縮空気が排気されると、ダイアフラムが変形して、駆動流体室の容積が縮小し、被処理液室の容積が拡張する。被処理液室の容積が拡張することにより、被処理液が吸引される。一方、駆動流体室内にコンプレッサ30bから圧縮空気が導入されると、ダイアフラムが変形して、駆動流体室の容積が拡張し、被処理液室の容積が縮小する。被処理液室の容積が縮小することにより、被処理液が吐出される。
灌流培養時、培養槽1には、細胞が懸濁している培養液が、所定の液量となるように張り込まれる。往復配管バルブ31は、灌流培養中の通常時には、開放状態に制御される。培養槽1内の培養液は、ダイアフラムポンプ30の吸引動作によって細胞分離装置13に抜き出される。細胞分離装置13に流入した培養液は、灌流培養中、分離液ポンプ16によって分離膜を介して吸引される。分離膜の二次側が陰圧とされて、分離膜の膜間に操作圧力が加えられる。
培養槽1から抜き出された培養液は、操作圧力が加えられることにより、細胞濃縮液と、分離液と、に分離される。分離膜の二次側に透過した分離液は、分離液排出配管14に流出して分離液タンク15に回収される。一方、分離膜を透過せず一次側に濃縮した細胞濃縮液は、ダイアフラムポンプ30の吐出動作によって往復配管29に流出する。吐出動作の間には、分離膜の二次側に透過した分離液の一部が一次側に移動して、分離膜に逆洗作用が加えられる。往復配管29に流出した細胞濃縮液は、灌流培養中の通常時には、培養槽1に戻される。
培養装置200において、循環系を構成する往復配管29には、ブリーディング液排出配管17が接続されている。ブリーディング液排出配管17は、往復配管29から分岐しており、ブリーディング液タンク18に接続している。ブリーディング液排出配管17には、培養装置100と同様に、排出配管バルブ25とブリーディング液ポンプ19が、上流側から順に備えられている。培養装置200の排出配管バルブ25としては、全開と全閉を切り替える切換弁が好ましく用いられる。
培養装置200のように、往復配管29にブリーディング液排出配管17を接続すると、培養槽1に返送される細胞濃縮液をブリーディング液として循環系外に排出することができる。すなわち、灌流培養における細胞密度を一定の範囲に制御するにあたり、細胞が濃縮された細胞濃縮液を循環系外に排出して、培養槽1内の培養液の細胞密度を減少側に調整することができる。
培養装置200においては、培養装置100と同様に、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出するブリーディング液(細胞濃縮液)の排出量を調節して、培養槽1内の培養液の細胞密度を調整することができる。また、制御装置5は、抜出配管11aの流量(F0)に代えて、往復配管29における単位時間当たりの平均流量を用いて、ブリーディング液排出配管17の流量(F2)、ブリーディング液ポンプ19の運転時間(Δt)、ブリーディング液の排出量(F2・Δt)を演算することができる。
培養装置200の制御装置5は、培地供給ポンプ8、分離液ポンプ16およびブリーディング液ポンプ19の出力や、ダイアフラムポンプ30の出力および動作や、排出配管バルブ25および往復配管バルブ31の開度や、その他の送液系統・通気系統を制御する機能を備えることができる。ブリーディング液ポンプ19の出力、排出配管バルブ25および往復配管バルブ31の開度は、F2、Δt、F2・Δt等の演算結果に基づいて制御することができる。
培養装置200においては、灌流培養中、細胞分離装置13から流出した細胞濃縮液を、間欠的に循環系外に排出することができる。すなわち、往復配管バルブ31と排出配管バルブ25とを、交互に開閉させることができる。排出配管バルブ25は、ダイアフラムポンプ30が吐出動作を行っている期間に開放され、ダイアフラムポンプ30が吸引動作を行っている期間に閉鎖される。
間欠的なブリーディングを行う場合は、往復配管バルブ31を全閉に制御し、排出配管バルブ25を全開に制御する。往復配管バルブ31および排出配管バルブ25は、開閉のデューティー比を、所定のブリーディング液排出配管17の流量(F2)の下で、ブリーディング液排出配管17側が開放される開時間の合計が、ブリーディング液ポンプ19の運転時間(Δt)と略等しくなるように設定することができる。
間欠的なブリーディングは、灌流培養中、適宜の時間間隔で行うことができる。ブリーディングを行う際には、細胞分離装置13から流出した細胞濃縮液の実質的に略全部を、往復配管29からブリーディング液排出配管17に流し、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出する。この間に、細胞分離処理は継続されるが、培養槽1への返送は中断される。
培養装置200は、循環系の収支に関して、培養装置100と同様に、ブリーディング液排出配管17を通じて排出されるブリーディング液の単位時間当たり平均排出量と、細胞分離装置13から培養槽1に返送される細胞濃縮液の単位時間当たり平均返送量と、細胞分離装置13から分離液排出配管14に抜き出される分離液の単位時間当たり平均抜出量との合計が、培養槽1から細胞分離装置13に抜き出される培養液の単位時間当たり平均抜出量と略等しくなるように運転される。
そのため、培養装置200の培地供給ポンプ8は、培養装置100と同様に、培地供給配管6を通じて供給される新鮮培地の単位時間当たり平均供給量が、培養槽1から細胞分離装置13に抜き出される培養液の単位時間当たり平均抜出量と、細胞分離装置13から培養槽1に返送される細胞濃縮液の単位時間当たり平均返送量との差分と略等しくなるように制御される。培地供給ポンプ8による新鮮培地の供給流量は、可変的に制御することもできる。
また、培養装置200においては、培養装置100と同様に、細胞分離装置13における濃縮率を、一定に制御してもよいし、可変的に制御してもよい。培養装置100と同様に、ブリーディング液(細胞濃縮液)を培養系外に排出するとき、細胞分離処理における細胞の濃縮率を高くする操作を行い、培養系外に排出される細胞濃縮液の細胞密度を高くすることもできる。
細胞の濃縮率を高くする操作としては、培養装置100と同様に、培養槽1から抜き出す培養液の流量を小さくする操作、細胞分離処理に用いる分離膜の膜間差圧を高くする操作、複数の系統を備えた細胞分離装置13について使用系統を制限する操作等が挙げられる。
培養槽1から抜き出す培養液の流量を小さくする操作としては、例えば、ダイアフラムポンプ30の単位時間当たりの平均吸引流量を減少方向に調整する操作や、ダイアフラムポンプ30の吸引動作中に往復配管バルブ31の開度を閉鎖方向に制御する操作を用いることができる。
また、培養装置200においては、培養装置100と同様に、逆洗液供給配管20の系統を使用して、細胞分離装置13の分離膜を逆洗することができる。分離膜の逆洗は、灌流培養の開始前に行うこともできるし、灌流培養の終了後に行うこともできるし、灌流培養中に間欠的に行うこともできる。灌流培養中に行う場合、ダイアフラムポンプ30および分離液ポンプ16と、逆洗液供給ポンプ22とを、交互に稼働させて間欠的に逆洗を行う。
細胞分離装置13の分離膜の逆洗は、間欠的なブリーディングと同時期に行うこともできるし、間欠的なブリーディングと異なる時期に行うこともできる。分離膜の逆洗を、間欠的なブリーディングと同時期に行うと、細胞濃縮液中に浮遊させたファウラントが、ブリーディング液排出配管17を通じて循環系外に排出されるため、膜間差圧が上昇し難くなり、分離膜の使用寿命が長くなる。
培養装置200においては、培養装置100と同様に、ブリーディング液排出配管17を通じて培養系外に排出された細胞濃縮液を、適宜の分離・精製処理に供して、細胞が産生した物質を回収することができる。分離・精製処理としては、半透膜分離処理または遠心分離処理が好ましく用いられる。半透膜分離処理としては、デッドエンドフロー濾過による全量濾過が特に好ましい。
以上の培養装置200や、これを用いた培養方法によると、前記の培養装置100や培養方法と同様に、灌流培養中に、細胞分離処理で生じた細胞濃縮液を培養系外に排出して、培養槽内の培養液の細胞密度を調整することができる。そのため、増殖した過剰な細胞を培養槽から直接抜き取る場合と比較して、灌流培養中に培養系外に排出する細胞当たりのブリーディング液の排出量を抑制することができる。コストや新鮮培地の供給を抑制しつつ、培養環境や物質生産性を安定させることができるため、灌流培養を安定的且つ効率的に行うことができる。
また、以上の培養装置200や、これを用いた培養方法によると、循環系内のファウラントがブリーディングと共に系外に排出されるため、細胞分離処理に用いる分離膜の使用寿命を延ばすことができる。このようなファウラントを排出する作用は、細胞分離処理に用いる分離膜の二次側に逆洗液を供給することによって更に高められる。そのため、分離膜の交換コストや、交換作業に伴うコンタミネーションのリスクを低減することができる。細胞分離装置13は、ATF方式の膜分離装置とされているため、循環系内に付着したファウラントを洗い流す作用が、TFF方式と比較して高くなる。
以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
例えば、前記の培養装置100,200は、培養槽、細胞分離装置等の形状・型式や、ポンプ、バルブ等の機器の型式・配置や、配管の接続等を、発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜の形態に変更することができる。例えば、ブリーディング液排出配管17を、細胞分離装置13に直結することもできる。また、逆洗液供給配管20を、細胞分離装置13の分離膜の二次側の適宜の位置に接続させることもできる。前記の培養装置100,200は、細胞分離装置13として、膜分離装置を備えているが、細胞分離処理は、重力沈降分離、遠心分離、音響分離等の他の原理に基づく装置で行うこともできる。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
<比較例1>
灌流培養中に、細胞を含む培養液を培養槽から直接抜き取る方法で培養を行った。
培養装置としては、図1に示すような循環系を備える培養装置を用いた。培養対象の細胞としては、CHO細胞を用いた。培養槽に対する培養液の張込量は、2Lとした。培養槽の細胞密度の制御目標値は、生細胞について、1.0×107cells/mLとした。培養槽から細胞分離装置への抜出流量・循環系内の循環流量は、40L/d(一日当たり培養槽の張込量の20倍量)とした。
灌流培養は、培養液を培養槽から直接抜き取る方法でブリーディングを行いながら、数日間にわたって継続した。培養したCHO細胞の細胞当たりの培地消費量(CSPR)は、1.0×10-10L/cells・dである。灌流率は、1.0v/v・dとなった。CHO細胞の倍加時間は、約2日であったため、約2日が経過する毎に、培養液を培養槽から直接抜き取り、培養系外に排出して、培養槽内の生細胞量を維持した。この間に培養系外に排出したブリーディング液の量は、1Lであった。
<実施例1>
灌流培養中に、細胞が分離・濃縮された細胞濃縮液を培養系外に排出する方法で培養を行った。
培養装置としては、図1に示すような循環系を備える培養装置を用いた。培養対象の細胞としては、CHO細胞を用いた。培養槽に対する培養液の張込量は、2Lとした。培養槽の細胞密度の制御目標値は、生細胞について、1.0×107cells/mLとした。培養槽から細胞分離装置への抜出流量・循環系内の循環流量は、40L/d(一日当たり培養槽の張込量の20倍量)とした。
灌流培養は、細胞濃縮液を培養系外に排出する方法でブリーディングを行いながら、数日間にわたって継続した。培養したCHO細胞の細胞当たりの培地消費量(CSPR)は、1.0×10-10L/cells・dである。灌流率は、1.0v/v・dとなった。CHO細胞の倍加時間は、約2日であったため、約2日が経過する毎に、循環系外に排出する細胞濃縮液の流量を37L/d、排出時間を0.6hとして、ブリーディングを行うと、培養槽内の生細胞量が維持された。この間に培養系外に排出したブリーディング液の量は、950mLであった。
以上のとおり、実施例1のブリーディング液の量は、比較例1に対して、5%低減する結果となった。