JP7329164B1 - 複合金属酸化合物 - Google Patents

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Abstract

本発明の複合金属酸化合物は、チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物であって、チタンの含有量をTiO2換算値で1(mol)と表したとき、モリブデンの含有量は、モル比MoO3換算値/TiO2換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta2O5換算値/TiO2換算値で0.01-0.5である。

Description

本発明は、複合金属酸化合物に関する。
酸化チタン(TiO)は、光が照射されることによって、電子が励起され、この電子が他の分子に結合してこれを還元し、またこの電子が励起された後の正電荷を持った正孔が分子から電子を奪って酸化する特性を利用した光触媒としての用途開発が進められている。
光触媒としての用途開発の一例として、特許文献1では、酸化チタン粉末に、焼結助剤として、Mo(モリブデン)やMoO(酸化モリブデン)が添加された光触媒が開示されている。
特開2001-170496号公報
しかしながら、特許文献1に開示された酸化チタンは、その粒子が緑色であることから、建材、塗装材に添加して使用した場合、緑色がかった色に着色されてしまうことが懸念されていた。特に、白色系の建材、塗装材には利用しにくく、粒子が白色である光触媒が求められていた。
本発明は、上記課題に鑑みて、粒子が白色であり、優れた光触媒性能を有する複合金属酸化合物を提供することである。
上記課題を解決するためになされた本発明の複合金属酸化合物は、チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物であって、チタンの含有量をTiO換算値で1(mol)と表したとき、モリブデンの含有量は、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であることを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物は、チタンの含有量をTiO換算値で1(mol)と表したとき、モリブデンの含有量が、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量が、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であると、粒子が白色であり、優れた光触媒性能を有する点で好ましい。なお、本明細書において「X-Y」(X、Yは任意の数字)と表現する場合、特段の説明がない限り「X以上/超、Y以下/未満」全ての組み合わせを意味する。
ここで、本発明の複合金属酸化合物中のチタンの含有量は、当該複合金属酸化合物を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、酸化チタン(TiO)換算のTi重量分率を測定して算出する。なお、本発明の複合金属酸化合物中のチタンは、必ずしもTiOの状態で存在するものではない。チタンの含有量を、TiO換算で示しているのは、慣例に基づくものである。
また、本発明の複合金属酸化合物中のモリブデンの含有量は、上述したチタンの含有量と同様に、ICP発光分析により、酸化モリブデン(MoO)換算のMo重量分率を測定して算出する。なお、本発明の複合金属酸化合物中のモリブデンは、必ずしもMoOの状態で存在するものではない。モリブデンの含有量を、MoO換算で示しているのは、慣例に基づくものである。
さらに、本発明の複合金属酸化合物中のタンタルの含有量は、上述したチタンの含有量と同様に、ICP発光分析により、酸化タンタル(Ta)換算のTa重量分率を測定して算出する。なお、本発明の複合金属酸化合物中のタンタルは、必ずしもTaの状態で存在するものではない。タンタルの含有量を、Ta換算で示しているのは、慣例に基づくものである。
上述したようにICP発光分析により算出されたチタン、モリブデン、及びタンタルの含有量は、チタンの含有量をTiO換算値で1(mol)と表したとき、モリブデンの含有量が、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量が、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であると好ましい。またモル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-5であるとより好ましい。さらに、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.1-0.5であるとさらに好ましい。上述したモル比MoO換算値/TiO換算値、及びモル比Ta換算値/TiO換算値の計算において、チタンは酸化物TiOを1モルとして計算し、モリブデンは酸化物MoOを1モルとして計算し、タンタルは酸化物Taを1モルとして計算するものであって、それぞれの酸化物として換算したモル比の値を示すものである。なお、本明細書で言及するチタン、モリブデン、及びタンタルは、特段の説明がない限り、それらの酸化物を含むものである。
また、本発明の複合金属酸化合物は、アモルファス、または/およびアナターゼ型の結晶構造を含むことを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物は、アモルファスの結晶構造を含むものであると、空孔率が高くなり、優れた光触媒性能を有する点で好ましい。また、本発明の複合金属酸化合物は、アナターゼ型の結晶構造を含むものであると、表面ポテンシャル障壁に強く依存する光励起キャリアの表面への移動速度が変化し、光励起キャリアの結晶表面に固有な寿命によるものと推測され、優れた光触媒性能を有する点で好ましい。
また、本発明の複合金属酸化合物が、ルチル型とアナターゼ型とが混在した結晶構造を含むものである場合、後述するXRDピークから算出される各結晶構造の合計モル比に対するアナターゼ型のモル比の比率を示すアナターゼ率が15%以上であると好ましく、30%以上であるとより好ましく、50%以上であるとさらに好ましく、60%以上であると特に好ましく、70%以上であるとより特に好ましく、80%以上であるとまた特に好ましく、90%以上であるとさらに特に好ましい。アナターゼ率が100%であると最も好ましい。
ここで、本発明の複合金属酸化合物の結晶構造は、後述するX線回折測定条件に従い、実施するX線回折測定によるX線回折パターンで、2θ=25°±1にシャープなXRDピークが見られれば、アナターゼ型の結晶構造であると、また2θ=27°±1(2θ=26°を除く)にシャープなXRDピークが見られれば、ルチル型の結晶構造であると判断する。一方、アナターゼ型の結晶構造を示すシャープなXRDピーク、及びルチル型の結晶構造を示すシャープなXRDピークの両方が見られず、2θ=20°~30°付近にブロードなXRDピークが見られる場合、本発明の複合金属酸化合物は、結晶構造をとらず、アモルファスであると判断する。
さらに、本発明の複合金属酸化合物における、アナターゼ型の結晶構造を示すXRDピークに対する、ルチル型の結晶構造を示すXRDピークの面積換算比、すなわちアナターゼ率(%)は、ASTM D 3720-90に準拠してX線回折測定を実施し、以下の式(1)により算出することができる。
Figure 0007329164000001
式(1)中のルチル型の結晶構造を示すXRDピークの面積(Ir)及びアナターゼ型の結晶構造を示すXRDピークの面積(Ia)は、X線回折スペクトルの該当回折線におけるベースラインから突出した部分の面積を示し、その算出方法は公知の方法でよく、例えば、コンピュータ計算、近似三角形化などを用いることができる。
また、ルチル型粉末の重量(Wr)は、ルチル型粉末の重量の測定値であり、アナターゼ型の重量(Wa)は、アナターゼ型の重量の測定値である。さらに、「K」は、実際の重量比とX線強度比との差分を数点プロットすることにより算出され、この差分を補正する定数である。
なお、アナターゼ型の結晶構造を示すXRDピークが見られるが、ルチル型の結晶構造を示すXRDピークが見られない場合、アナターゼ率は100%とする。また、ルチル型の結晶構造を示すXRDピークが見られるが、アナターゼ型の結晶構造を示すXRDピークが見られない場合、アナターゼ率は0%とする。さらに、本発明の複合金属酸化合物は、アナターゼ型の結晶構造を示すものとルチル型の結晶構造を示すものとを混合し、当該アナターゼ率を調製したものであってもよい。
さらに、本発明の複合金属酸化合物が、アモルファスとアナターゼ型とが混在した結晶構造を含むものである場合、上述したXRDピークから算出される各結晶構造の合計モル比に対するアモルファス及びアナターゼ型の合計モル比の比率を示すアモルファス及びアナターゼ型の合計の率が15%以上であると好ましく、30%以上であるとより好ましく、50%以上であるとさらに好ましく、60%以上であると特に好ましく、70%以上であるとより特に好ましく、80%以上であるとまた特に好ましく、90%以上であるとさらに特に好ましい。当該アモルファス及びアナターゼ型の合計の率が100%であると最も好ましい。
ここで、アモルファス及びアナターゼ型の合計の率は、当該複合金属酸化合物から採取したサンプルを、大気雰囲気下、400℃で3時間加熱することにより、アモルファスの結晶構造がアナターゼ型に変化させることができ、当該サンプルのアナターゼ率をいう。アモルファスの結晶構造を示すXRDピークはブロードニングであるから、厳密な強度比を算出することが不可能であることから、当該サンプルを加熱することにより、アモルファスをアナターゼ型に変化させることにより、アモルファス領域を特定することができる。例えば、アナターゼ率40%、且つアモルファスピークを検出した複合金属酸化合物において、当該複合金属酸化合物を、大気雰囲気下、400℃で3時間加熱し、3時間加熱した当該複合金属酸化合物のアナターゼ率が60%であれば、当該複合金属酸化合物のアモルファス及びアナターゼ型の合計の率は60%とする。
また、本発明の複合金属酸化合物は、L表色系におけるL値が80以上であることを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物は、L表色系におけるL値が80以上であると、見た目が白色に近い色となる点で好ましい。
ここで、L表色系を用いて測定されるL値は、明度を示すものである。L値が100に近いほど、色が白に近づいて薄くなることを示し、L値が0に近いほど、色が黒に近づいて濃くなることを示している。具体的には、当該L値は、色彩色差計(コニカミノルタ社製:CR-300)を用い、JIS Z 8722:2009に準拠して実施する。
また、本発明の複合金属酸化合物は、電子顕微鏡観察による一次粒子径の平均値が0.1nm以上50μm以下であることを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物粒子は、電子顕微鏡観察による一次粒子径の平均値が0.1nm以上50μm以下であると、粒子径が小径化することにより、光触媒性能が向上する点で好ましい。また、当該一次粒子径の平均値が1nm以上であるとより好ましく、20nm以上であるとさらに好ましい。当該一次粒子径の平均値が30μm以下であるとより好ましく、1μm以下であるとさらに好ましく、100nm以下であると特に好ましい。
ここで、電子顕微鏡観察による、本発明の複合金属酸化合物粒子の一次粒子径の平均値は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧1kVの条件下で、倍率2,500倍-200,000倍のSEM像を用いて、「JIS H 7804:2005 電子顕微鏡による金属触媒の粒子径測定方法」に準拠して、求めることができる。当該一次粒子径の算出法は、当該一次粒子の長径Llと当該一次粒子の短径Lsを測定することにより、計算粒子径dを式「d=(Ll+Ls)/2」から算出する。また、本発明の複合金属酸化合物粒子の一次粒子径の最大値が5nm以下である場合、走査電子顕微鏡(SEM)では正確に測定することが困難であるため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、加速電圧100kVの条件下で、倍率20,000倍-150,000,000倍のTEM像から求めてもよい。
また、本発明の複合金属酸化合物は、前記モル比MoO換算値/TiO換算値をXと表し、前記モル比Ta換算値/TiO換算値をYと表したとき、0.05≦X/Y≦400を満たすことを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物は、前記モル比MoO換算値/TiO換算値をXと表し、前記モル比Ta換算値/TiO換算値をYと表したとき、0.05≦X/Y≦400を満たすと、優れた光触媒性能を有する点で好ましく、0.05≦X/Y≦100を満たすとより好ましく、0.05≦X/Y≦50を満たすとさらに好ましく、0.1≦X/Y≦25を満たすと特に好ましく、0.25≦X/Y≦15を満たすとより特に好ましく、1≦X/Y≦15を満たすとさらに特に好ましい。
なお、本発明の複合金属酸化合物は、特段の説明がない限り、チタン酸化物粒子、モリブデン酸化物粒子、及びタンタル酸化物粒子を混合した混合物や、部分複合金属酸化合物粒子(その構成元素は、例えばTi-Mo-O+TaOや、Ti-Ta-O+MoOなどとして表される)と単一金属酸化合物粒子との混合物も包含する。
また、本発明の複合金属酸化合物膜は、上述した複合金属酸化合物を含有することを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物膜は、上述した複合金属酸化合物を含有する。本発明の複合金属酸化合物膜は、光触媒として建材や、塗装材に利用可能である。なお、本発明の複合金属酸化合物膜の製造方法は、後述する。
ここで、本発明の複合金属酸化合物から生成された複合金属酸化合物膜中の複合金属酸化合物結晶粒子の結晶構造は、以下の薄膜X線回折測定条件に従い、実施するX線回折測定によるX線回折パターンで、2θ=25°±1にシャープなXRDピークが見られた場合、アナターゼ型の結晶構造であると、また2θ=27°±1(2θ=26°を除く)にシャープなXRDピークが見られた場合、ルチル型の結晶構造であると判断する。
=薄膜X線回折測定条件=
・回折装置:X線回折装置SmartLab(株式会社リガク製)
・管電圧・管電流:40kV、30mA
・測定範囲:20~80(degree)
・測定ステップ:0.04deg
・測定スピード:5deg/min
・測定方法:汎用・中分解能PB/PSA(薄膜法)
*PB=Parallel Beam、PSA=Parallel Slit Analyzer
・X線解析ソフトウェア:PDXL2 Version2.9.1.0
さらに、本発明の複合金属酸化合物膜中の複合金属酸化合物結晶粒子のアナターゼ率(%)は、ASTM D 3720-90に準拠してX線回折測定を実施し、上記式(1)により算出することができる。
また、本発明の複合金属酸化合物分散液は、チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物分散液であって、チタンの含有量をTiO換算値で1と表したとき、モリブデンの含有量は、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であり、4級アンモニウム化合物を含有することを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物分散液は、チタンの含有量をTiO換算値で1と表したとき、モリブデンの含有量は、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であると、当該分散液中の粒子が白色であり、優れた光触媒性能を有する点で好ましい。また、当該分散液に4級アンモニウム化合物を含有することにより、当該分散液のゲル化が抑制される。さらに、4級アンモニウム化合物は、揮発性が高く、除去しやすく好適である。なお、本発明の複合金属酸化合物分散液中の複合金属酸化合物粒子は、結晶構造をとらない、アモルファスであるとして存在する。
本発明の複合金属酸化合物分散液は、チタン、モリブデン、及びタンタルの複合金属酸化合物の他に、4級アンモニウム化合物が含まれる。また、本発明に係る「4級アンモニウム化合物」は、本発明の複合金属酸化合物分散液中でそれがイオン化されたものを含む。後述する本発明の複合金属酸化合物分散液の製造方法中のチタン酸分散液の製造方法で詳しく説明するが、そのチタン酸分散液の製造工程において、硫酸チタニル水溶液を逆中和することにより得られたチタン含有沈殿物に、4級アンモニウム化合物を加え、混合することにより、本発明のチタン酸分散液が生成されることから、置換された4級アンモニウム化合物が陽イオンとして本発明のチタン分散液中に存在すると考えられる。そして、当該チタン酸分散液に、モリブデン酸分散液及びタンタル酸分散液を加えることにより、本発明の複合金属酸化合物分散液が得られるからである。
当該分散液中に含有される4級アンモニウム化合物は、例えば、アルキルイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。ここで、アルキルイミダゾリウムの具体例としては、1-メチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム、ピロリジウムの具体例としては、N-ブチル-ピリジニウム、N-エチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ブチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ヘキシル-4-(ジメチルアミノ)-ピリジニウム、N-メチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-1-メチルピロリジニウムなどが挙げられる。さらに、テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル-ジメチル-プロピルアンモニウムが挙げられる。なお、上述したカチオンと塩を形成するアニオンとしては、OH、Cl、Br、I、BF 、HSO などが挙げられる。
当該溶液中に存在する4級アンモニウム化合物濃度の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)などが挙げられ、またガス化した試料中のN分を熱伝導度計で定量する方法を併用してもよい。その他、ケルダール法による、イオンクロマトグラフィー法(IC)、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて定量することもできる。当該溶液中に存在する4級アンモニウム化合物濃度の測定方法は、液体クロマトグラフィー(LC)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)による測定が好ましく、難揮発性の4級アンモニウム化合物である場合、液体クロマトグラフィー(LC)による測定が特に好ましい。
また、本発明の複合金属酸化合物分散液は、前記4級アンモニウム化合物が水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)およびまたは水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であることを特徴とする。
4級アンモニウム化合物が水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)およびまたは水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であると、溶解性が高いだけではなく、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で好ましい。
また、本発明の複合金属酸化合物膜は、上述した複合金属酸化合物分散液に含まれる複合金属酸化合物を含有することを特徴とする。
本発明の複合金属酸化合物膜は、上述した複合金属酸化合物分散液に含まれる複合金属酸化合物を含有する。本発明の複合金属酸化合物膜は、光触媒として建材や、塗装材に利用可能である。なお、本発明の複合金属酸化合物膜中の複合金属酸化合物粒子は、後述する本発明の複合金属酸化合物膜の製造方法に応じて、アモルファス、または/およびアナターゼ型の結晶構造をとり得る。
本発明の複合金属酸化合物、複合金属酸化合物分散液、及び複合金属酸化合物膜は、モリブデン乃至モリブデン酸、および/または、タンタル乃至タンタル酸と複合化せず、残存したチタン乃至チタン酸、例えばMo-Ta-O+TiOや、その作用効果を阻害しない範囲で、添加物として、Nb、W、Si、Zr、Zn、Al、Y、V、La系(La、Ce、Nd、Eu、Gd、Dy、Yb)などの酸化物粉末を含有してもよい。上述した添加物の含有量は、本発明の複合金属酸化合物を100質量%としたとき、0.5質量%未満であるのが好ましく、0.1質量%未満であるのがより好ましく、0.01質量%未満であるとさらに好ましい。
さらに、本発明の複合金属酸化合物、複合金属酸化合物分散液、及び複合金属酸化合物膜は、その作用効果を阻害しない範囲で、チタン乃至チタン酸、モリブデン乃至モリブデン酸、タンタル乃至タンタル酸に由来する成分、及び、分散体に由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばNb、W、Si、Zr、Zn、Al、Y、V、La系(La、Ce、Nd、Eu、Gd、Dy、Yb)などが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。上述した他成分の含有量は、本発明の複合金属酸化合物を100質量%としたとき、5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、本発明の複合金属酸化合物、複合金属酸化合物分散液、及び複合金属酸化合物膜は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の合計含有量は、本発明の複合金属酸化合物を100質量%としたとき、1質量%未満であるのが好ましく、0.1質量%未満であるのがより好ましく、0.01質量%未満であるのがさらに好ましい。
上述した本発明の複合金属酸化合物分散液の製造方法について、以下説明する。
本発明の複合金属酸化合物分散液の製造方法は、チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物分散液の製造方法であって、4級アンモニウム化合物を含有するチタン酸分散液と、チタンの含有量をTiO換算値で1と表したとき、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20となるように調製したモリブデン酸分散液と、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5となるように調製したタンタル酸分散液と、を混合し、撹拌し、混合液を生成する工程を有することを特徴とする。
後述するように調製したチタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を、混合し、撹拌することにより、本発明の複合金属酸化合物分散液を生成することができる。
本発明の複合金属酸化合物分散液の製造方法としては、チタン酸分散液としてチタン酸水分散液を用いる第1実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法と、チタン酸分散液としてチタンアルコキシドを用いる第2実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法とが挙げられる。
先ず、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法について、以下説明する。
第1実施形態のチタン酸分散液の製造方法の一例として、チタン塩溶液とアンモニア水とを混合して中和反応液を生成し(以下、「チタン中和工程」という。)、当該中和反応液中に生じたチタン含有沈殿物を洗浄し(以下、「チタン洗浄工程」という。)、洗浄後のチタン含有沈殿物と4級アンモニウム塩と水とを混合し(以下、「チタン溶解工程」という。)、第1実施形態のチタン酸分散液を得る製造方法が挙げられる。
チタン塩溶液は、チタンが溶解している溶液であればよく、例えば硫酸チタニル水溶液、塩化チタニル水溶液、フッ化チタン水溶液などが挙げられる。
ここで、硫酸チタニル水溶液は、硫酸チタニルを熱水に溶解することにより得られる。当該硫酸チタニル水溶液は、チタンをTiO換算で8-15質量%含有するように調製すると好ましい。
(チタン中和工程)
チタン中和工程では、チタン塩溶液、例えば硫酸チタニル水溶液とアンモニア水とを混合して反応させることにより、中和反応液を生成することができる。ここで、硫酸チタニル水溶液を、アンモニア水に添加して反応させる、いわゆる逆中和を実施すると好ましい。
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%-40質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が25質量%であると、チタンが溶け残りにくくなり、チタン乃至チタン酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は5質量%以上であると好ましく、10質量%以上であるとより好ましく、15質量%以上であるとさらに好ましく、20質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、35質量%以下であるとより好ましく、40質量%以下であるとさらに好ましい。
逆中和の際、アンモニア水に添加する硫酸チタニル水溶液の添加量は、NH/TiOのモル比が1以上200以下とするのが好ましく、10以上100以下とするのがより好ましい。また、アンモニア水に添加する硫酸チタニル水溶液は、薄いアンモニア水に溶けるチタン酸化合物が生成する観点から、NH/SO 2-のモル比が1以上とするのが好ましく、5以上とするとより好ましく、10以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/SO 2-のモル比が50以下とするのが好ましく、40以下とするとより好ましく、30以下とするとさらに好ましい。
逆中和において、硫酸チタニル水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に硫酸チタニル水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の硫酸チタニル水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。
(チタン洗浄工程)
逆中和で得られた中和反応液中のチタン含有沈殿物のスラリーを洗浄することにより、不純物が除去され、チタン含有沈殿物が得られる。逆中和で得られたチタン含有沈殿物のスラリーには、不純物として、硫酸アンモニウムなどの硫酸化合物など、チタン乃至チタン酸化物の水和物乃至イオン及びアンモニア以外の不要な成分が存在するため、これらを除去することが好ましい。
洗浄方法、例えば硫酸化合物の除去方法は任意である。例えば、アンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法のほか、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、チタン洗浄工程は、常温で行えばよく、それぞれの温度調整は特に必要ない。
(チタン溶解工程)
そして、チタン洗浄工程で不純物が除去して得られたチタン含有沈殿物は、水などの分散媒を加えると共に、4級アンモニウム塩を加えて、必要に応じて撹拌して反応を促進させることにより、第1実施形態のチタン酸分散液を作成することができる。
ここで、4級アンモニウム塩の種類としては、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化メチルトリプロピルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウム、水酸化テトラヘキシルアンモニウム水酸化エチルトリメチルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、又は、水酸化(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムなどを挙げることができる。
4級アンモニウム塩の添加量は、上述したように、4級アンモニウム化合物の量が多ければ、チタン乃至チタン酸の水に対する溶解性を高めることができるから、前記溶解工程では、前記洗浄後のチタン含有沈殿物に含まれるチタン1モルに対して0.44モル以上の4級アンモニウム化合物を含む4級アンモニウム塩を混合するのが好ましい。他方、4級アンモニウム化合物が多過ぎると、成膜性の障害になったり、触媒作用を阻害したりするなどの不具合を生じる可能性がある観点から、上述したチタン溶解工程では、前記洗浄後のチタン含有沈殿物に含まれるチタンに1モル対して1.0モル以下の4級アンモニウム化合物を有する4級アンモニウム塩を混合するのが好ましい。
上述したチタン中和工程、チタン洗浄工程、及びチタン溶解工程は、常温で行えばよく、それぞれの温度調整は特に必要ない。
次に、モリブデン酸分散液の製造方法について、以下説明する。
モリブデン酸分散液の製造方法の一例として、酸性モリブデン水溶液をアンモニア水溶液に添加して中和反応液を生成し(以下、「モリブデン中和工程」という。)、当該中和反応液中に生じたモリブデン含有沈殿物を洗浄し(以下、「モリブデン洗浄工程」という。)、洗浄後のモリブデン含有沈殿物に有機窒素化合物を添加し(以下、「モリブデン溶解工程」という。)、モリブデン酸分散液を得る製造方法が挙げられる。
酸性モリブデン水溶液は、モリブデンが硫酸を含む酸性水溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られた硫酸モリブデン水溶液をいう。
ここで、硫酸モリブデン水溶液は、水(例えば純水)を加えてモリブデンをMoO換算で1-100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、モリブデン濃度がMoO換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいモリブデン酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、モリブデン濃度がMoO換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいモリブデン酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいモリブデン酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、硫酸モリブデン水溶液のpHは、モリブデン乃至モリブデン酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
(モリブデン中和工程)
モリブデン中和工程では、硫酸モリブデン水溶液をアンモニア水溶液に添加する際、いわゆる逆中和法では、硫酸モリブデン水溶液を10質量%-30質量%のアンモニア水溶液中に添加し、すなわち逆中和法により、モリブデン酸化合物水和物のスラリー、いわゆるモリブデン含有沈殿物のスラリーを得るのが好ましい。
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%-30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、モリブデンが溶け残りにくくなり、モリブデン乃至モリブデン酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
逆中和の際、アンモニア水に添加する硫酸モリブデン水溶液の添加量は、NH/MoOのモル比が0.1以上300以下とするのが好ましく、5以上200以下とするのがより好ましい。また、アンモニア水に添加する硫酸モリブデン水溶液は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるモリブデン酸化合物が生成する観点から、NH/SO 2-のモル比が3.0以上とするのが好ましく、10.0以上とするとより好ましく、20.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/SO 2-のモル比が200以下とするのが好ましく、150以下とするとより好ましく、100以下とするとさらに好ましい。
逆中和において、硫酸モリブデン水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に硫酸モリブデン水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の硫酸モリブデン水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。
(モリブデン洗浄工程)
モリブデン洗浄工程では、逆中和法により得られたモリブデン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去し、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿を生成する。逆中和法により得られたモリブデン含有沈殿物のスラリーには、不純物として、モリブデン乃至モリブデン酸化物と反応せず残った硫酸イオン、及び硫酸水素イオンの硫黄分が存在するため、これらを除去することが好ましい。
硫黄分の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、モリブデン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
具体的には、逆中和法により得られたモリブデン含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、モリブデン含有沈殿物のスラリーの導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿物が得られる。当該導電率は、モリブデン含有沈殿物のスラリーの液温を25℃に調整し、導電率計(アズワン社製:ASCON2)の測定部を当該沈殿物のスラリーの上澄み液に浸漬され、導電率の値が安定してから、その数値を読み取った。
硫黄分の除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンが硫黄分に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
(モリブデン溶解工程)
モリブデン溶解工程では、モリブデン含有沈殿をスラリー状としたモリブデン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加することにより、モリブデン酸分散液を生成する。ここで、モリブデン含有沈殿スラリーは、上述したように硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿を純水などで希釈し、スラリー状としたものである。なお、硫黄分が除去された、モリブデン含有沈殿スラリーのモリブデン濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、MoOを生成する。このように生成したMoOの重量を測定し、その重量から当該スラリーのモリブデン濃度を算出することができる。
そして、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を混合することにより、モリブデン酸分散液が得られる。
具体的には、最終的な混合物のモリブデン濃度がMoO換算で0.1-40質量%となるように、得られたモリブデン含有沈殿スラリーを、有機窒素化合物に加え、純水と混合し、当該混合物を撹拌しながら、液温を室温(25℃)に1時間保持することにより、モリブデン酸分散液が得られる。
モリブデン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、アミン、特に脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウム化合物であると好ましい。
ここで、脂肪族アミンは、溶解性の観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、脂肪族アミンは、メチルアミン、又はジメチルアミンであるとより好ましく、メチルアミンであると特に好ましい。
他方、4級アンモニウム化合物は、溶解性の観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム化合物濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム化合物濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、4級アンモニウム化合物は、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)や水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であるとより好ましい。
上述したモリブデン中和工程、モリブデン洗浄工程、及びモリブデン溶解工程は、常温で行えばよく、それぞれの温度調整は特に必要ない。
さらに、タンタル酸分散液の製造方法について、以下説明する。
タンタル酸分散液の製造方法の一例として、タンタル塩溶液をアミン水溶液に加えて一次反応液を生成し(以下、「タンタル一次中和工程」という。)、当該一次反応液をアンモニア水に加えて二次反応液を生成し(以下、「タンタル二次中和工程」という。)、当該二次反応液で生じたタンタル含有沈殿物を洗浄し(以下、「タンタル洗浄工程」という。)、洗浄後のタンタル含有沈殿物とアミンと水とを混合し(以下、「タンタル分散工程」という。)、タンタル酸分散液を得る製造方法を挙げることができる。また、後述するタンタル酸化合物を利用して、タンタル酸化合物とアミンと水とを混合してタンタル酸分散液を得ることも可能である。
出発物質であるタンタル塩溶液は、タンタルが溶解している溶液であればよい。例えばフッ化タンタル水溶液、塩化タンタル水溶液などを挙げることができる。
フッ化タンタル水溶液は、タンタル、タンタル酸化物又は水酸化タンタルを、フッ化水素酸水溶液などのフッ酸(HF)と反応させてフッ化タンタル(HTaF)とし、これを水に溶解して作製することができる。
このフッ化タンタル水溶液は、水(例えば純水)を加えて、タンタルをTa換算で1-100g/L含有するように調製するのが好ましい。この際、タンタル濃度が1g/L以上であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になるので、フッ化タンタル水溶液のタンタル濃度は、Ta換算で1g/L以上であるのがより好ましく、生産性を考えた場合、中でも10g/L以上、その中でも20g/L以上であるのがさらに好ましい。他方、タンタル濃度が100g/L以下であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になるので、より確実に水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるのがより好ましく、中でも80g/L以下、その中でも70g/L以下であるのがさらに好ましい。
フッ化タンタル水溶液のpHは、タンタル乃至タンタル酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であるのが好ましく、中でも1以下であるのがさらに好ましい。他方、塩化タンタル水溶液は、塩化タンタル(TaCl)を少量のメタノールに溶かし、さらに水を加えて作製することができる。
(タンタル一次中和工程)
タンタル塩溶液とアミン水溶液とを反応させた後(一次中和)、アンモニア水と反応させる処理(二次中和)を行うことが重要である。
タンタル塩溶液とアミン水溶液による一次中和だけで、アンモニア水による二次中和を実施しないと、沈殿物が生成しないか、或いは沈殿生成量が少なくなり、本タンタル酸分散液の収率が低くなりやすい。さらに、沈殿物が生成したとしても、そのまま洗浄工程に進んだ場合、一部溶解しないタンタル酸化合物水和物となってしまい、分散性の高いタンタル酸分散液を得ることはできない。
また、一次中和と二次中和の順番を逆にして、タンタル塩溶液とアンモニア水とを反応させた後、アミン水溶液と反応させた場合も、後の分散工程において、タンタル乃至タンタル酸を好適に水中に分散させることはできず、まして水溶液とすることはできない。
タンタル一次中和工程では、フッ化タンタル水溶液などのタンタル塩溶液を、アミン水溶液に加えて反応させる逆中和を実施するのが好ましい。フッ化タンタル水溶液などのタンタル塩溶液にアミン水溶液を添加する正中和では、後の分散工程において、タンタル乃至タンタル酸を好適に水に分散させることはできず、まして水溶液とことはできない。逆中和することによって、タンタル乃至タンタル酸の構造が水に溶けやすい構造になると推測している。
タンタル一次中和工程で用いるアミン水溶液のアミンとしては、アルキルアミンなどを好ましく例示することができる。
上記アルキルアミンとしては、アルキル基を1-3個有するものを好ましく使用可能である。アルキル基を2-3個有する場合、3個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また、異なるなるものを含んでいてもよい。アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1-6のものが好ましく、中でも4以下、その中でも3以下、さらにその中でも2以下のものが好ましい。
上記アルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミンなどを挙げることができる。
中でも、溶解性の点からは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンおよびジメチルエチルアミンが好ましく、中でもメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンがさらに好ましい。
タンタル一次中和において、分散性を高める観点から、前記タンタル塩溶液を、該タンタル塩溶液に含まれるフッ素とモル比で等量以上すなわち1以上のアミンを含有するアミン水溶液に加えることが好ましく、中でも1.2以上、その中でも1.4以上のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがさらに好ましい。
他方、廃液量が多くなる観点から、前記タンタル塩溶液を、該記タンタル塩溶液に含まれるフッ素とモル比で2以下のアミンを含有するアミン水溶液に加えることが好ましく、中でも1.8以下、その中でも1.6以下のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがさらに好ましい。
タンタル一次中和工程では、フッ化タンタル水溶液などのタンタル塩溶液を、アミン水溶液に加える際、1分以内に中和反応させるのが好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に前記タンタル塩溶液を加えるのではなく、例えば一気に投入するなど、1分以内の時間で投入して中和反応させるのが好ましい。この際、前記タンタル塩溶液の添加時間は、1分以内とするのが好ましく、中でも30秒以内、その中でも10秒以内とするのがさらに好ましい。
(タンタル二次中和工程)
タンタル二次中和では、タンタル一次中和工程で得た一次反応液を、アンモニア水に加えて二次反応液を得るようにするのが好ましい。一次反応液をアンモニア水に加えると、水中に沈殿物(「タンタル含有沈殿物」と称する)が生じることになる。
タンタル二次中和においても、本タンタル酸分散液の分散性をさらに向上させる観点から、タンタル一次中和工程で得た一次反応液を、アンモニア水に加えて反応させる逆中和を実施するのが好ましい。
この際、上記アンモニア水溶液は、本タンタル酸分散液の分散性を高める観点から、アンモニア濃度が10-30質量%であることが好ましい。中でも15質量%以上、中でも20質量%以上、その中でも25質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、中でも29質量%以下、その中でも28質量%以下であるのがさらに好ましい。
タンタル二次中和工程では、後のタンタル分散工程における分散性を高める観点から、前記一次反応液を、該一次反応液に含まれるフッ素に対してモル比で7.5以上のアンモニア、中でも8.0以上、その中でも8.5以上のアンモニアを含有するアンモニア水溶液に加えることがさらに好ましい。
他方、廃液量が多くなる観点から、前記一次反応液を、該一次反応液に含まれるフッ素に対してモル比で10.0以下のアンモニアを含有するアンモニア水に加えることが好ましく、中でも9.5以下、その中でも9.0以下の割合でアンモニアを含有するアンモニア水に加えることがさらに好ましい。
タンタル二次中和工程では、一次反応液をアンモニア水に加える際、1分以内に中和反応させるのが好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に一次反応液を加えるのではなく、例えば一気に投入するなど、1分以内の時間で投入して中和反応させるのが好ましい。この際、一次反応液の添加時間は、1分以内とするのが好ましく、中でも30秒以内、その中でも10秒以内とするのがさらに好ましい。
(タンタル洗浄工程)
タンタル二次中和で得られた二次反応液、中でもそのタンタル含有沈殿物には、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物など、タンタル乃至タンタル酸の水和物乃至イオン及びアミン以外の不要成分が水中に存在するため、当該不要成分を除去するのが好ましい。
洗浄方法、例えばフッ素化合物の除去方法は任意である。例えば、アンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法のほか、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。
(タンタル分散工程)
次に、タンタル洗浄工程で洗浄されて得たタンタル含有沈殿物、例えばフッ素除去して得られたタンタル含有沈殿物は、水などの分散媒を加えると共に、アミン、およびまたは、4級アンモニウム化合物を加えて、必要に応じて攪拌して反応を促進させることで、タンタル酸分散液を作製することができる。
添加するアミンの種類としては、一次中和で用いることができるアミンと同様である。
アミンの添加量は、上述したように、アミンの量が多ければ、タンタル乃至タンタル酸の水に対する分散性乃至溶解性を高めることができる一方、アミンの量が多過ぎると、製膜性の障害になったり、触媒作用を阻害したりするなどの不具合を生じる可能性がある観点から、上述のように調整するのが好ましい。
他方、4級アンモニウム化合物は、溶解性の観点から、タンタル含有沈殿物中の4級アンモニウム化合物濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、タンタル含有沈殿物中の4級アンモニウム化合物濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、4級アンモニウム化合物は、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)や水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であるとより好ましい。
タンタル一次中和工程、タンタル二次次中和工程、タンタル洗浄工程、及びタンタル分散工程は、常温で行えばよく、強制的に温度調整する必要は特にない。
上述した各製造工程を経て、得られた4級アンモニウムを含有するチタン酸分散液と、モリブデン酸分散液と、及びタンタル酸分散液とを、チタンの含有量をTiO換算値で1と表したとき、モリブデンの含有量をモル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20となるように調製したモリブデン酸分散液、タンタルの含有量をモル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5となるように調製したタンタル酸分散液とを混合した混合液を、液温を室温(25℃)で10分間撹拌することにより、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液が得られる。
また、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法は、前記混合液を生成する工程は、前記チタン酸分散液と、前記タンタル酸分散液とを混合し、撹拌した後、前記モリブデン酸分散液を加えて、撹拌し、混合液を生成することを特徴とする。
4級アンモニウム化合物を含有するチタン酸分散液と、モリブデン酸分散液と、及びタンタル酸分散液とを混合する際、4級アンモニウム化合物を含有するチタン酸分散液と、上述したように調製したタンタル酸分散液とを混合した中間混合液を、液温を室温(25℃)で10分間撹拌した後、中間混合液に、上述したように調製したモリブデン酸分散液を加えて、さらに液温を室温(25℃)で10分間撹拌することにより、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液が得られる。
チタン酸分散液に対し、タンタル酸分散液を加えた後、モリブデン酸分散液を加えることにより、チタンの一部とタンタルが固溶した後、残ったチタンとモリブデンとが固溶することによって、その粒子径が小さくなり、ゲル化しにくくなる点で好ましい。
次に、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法について、以下説明する。なお、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法と同じ製造方法については、説明を省略する。
第2実施形態のチタン酸分散液として用いられるチタンアルコキシド、例えばチタンテトライソプロキシドと、モリブデン酸分散液と、及びタンタル酸分散液とを、チタンの含有量をTiO換算値で1と表したとき、モリブデンの含有量をモル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20となるように調製したモリブデン酸分散液、タンタルの含有量をモル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5となるように調製したタンタル酸分散液とを混合した混合液を、オートグレーブにて、加熱温度25℃-400℃、加熱時間1時間-99時間、加圧圧力0.1MPa-40MPaで水熱合成することにより、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液が得られる。なお、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液は、半透明ゾル(懸濁溶液)である。
第2実施形態のチタン酸分散液として用いられるチタンアルコキシドは、チタンテトライソプロキシドの他には、チタンi-プロキシド、チタンn-ブトキシド、チタン2-エチルヘキソキシド、チタンtert-ブトキシド、チタンステアリルアルコキシド、テトライソプロポキシチタンが挙げられる。
チタンアルコキシドと混合する、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液は、それらの分散液中に4級アンモニウム化合物ではなく、比較的揮発性の高いアミンが含有されていると好ましい。チタンアルコキシドと混合する、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液中に、4級アンモニウム化合物が含有されていると、上述した水熱合成の際、モリブデンが溶解し、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液の組成が変化するからである。
水熱合成における加熱温度は、例えば180℃であると好ましく、加熱時間は12時間であると好ましく、加圧圧力は、飽和水蒸気圧以上であると好ましく、1.05MPaであるとより好ましい。
また、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法と同様に、チタンアルコキシドと、タンタル酸分散液とを混合し、撹拌した後、モリブデン酸分散液を加えて、撹拌し、混合液を生成した後、水熱合成を行なうことにより、チタンの一部とタンタルが固溶した後、残ったチタンとモリブデンとが固溶することによって、その粒子径が小さくなり、ゲル化しにくくなる点で好ましい。
次に、本発明の複合金属酸化合物膜の製造方法について、以下説明する。
本発明の複合金属酸化合物膜の製造方法は、上述した複合金属酸化合物分散液の製造方法により、生成された混合液を、基材上に塗布し、乾燥することにより、複合金属酸化合物膜を生成する工程と、を有することを特徴とする。
具体的には、第1、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法により得られた複合金属酸化合物分散液を、必要に応じて、例えば2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて基板上に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、第1、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液が塗布された基板を、静置炉内に載置し、室温(25℃)で3時間に亘って乾燥することにより、第1、第2実施形態の複合金属酸化合物膜が得られる。
また、第1、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液が塗布された基板を静置炉内に載置し、110℃に加熱し、6時間に亘って乾燥し、又は600℃に加熱し、3時間に亘って焼成してもよい。
さらに、本発明の複合金属酸化合物粉末の製造方法について、以下説明する。
本発明の複合金属酸化合物粉末の製造方法は、第1、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法により、生成された混合物を乾燥し、焼成することにより、複合金属酸化合物粉末を生成する工程を有することを特徴とする。
先ず、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法により得られた第1実施形態の複合金属酸化合物分散液を静置炉内に載置し、大気圧下において加熱温度約110℃で6時間乾燥することにより、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液中の水分を飛ばすことによって、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液に形成される複合金属酸化合物粉末の中間生成物(乾燥粉ともいう。)が得られる。また、第1実施形態の複合金属酸化合物分散液を、炉内気圧を0.01MPaに設定した真空乾燥炉内に載置し、110℃以上に加熱して6時間真空乾燥させてもよい。ここで、当該中間生成物の一部を採取し、X線回折測定を実施したところ、2θ=20°~30°付近にアモルファスを示すブロードなXRDピークが見られた。
次に、得られた複合金属酸化合物粉末の中間生成物を静置炉内に載置し、以下の加熱温度で加熱し、3時間に亘って焼成することにより、焼成粉、すなわち第1実施形態の複合金属酸化合物粉末が得られる。ここで、加熱温度が400℃超900℃以下である場合、第1実施形態の複合金属酸化合物粉末に含まれる複合金属酸化合物結晶粒子の結晶構造はアナターゼ型となり、可視光領域で、優れた光触媒性能を有する点で好ましい。また、加熱温度が400℃以下である場合、第1実施形態の複合金属酸化合物粉末は、結晶構造をとらず、アモルファスである。この場合、加熱温度を低く抑えることができ、製造コストを低減できる点で好ましい。また、焼成時間は、1時間-10時間が好ましい。焼成時間が1時間-10時間であると、複合金属酸化合物結晶粒子の成長に十分な時間であり、不要なコストを抑えることができるからである。さらに、焼成時間は、1.5時間-8時間がより好ましく、2時間-6時間がさらに好ましい。
また、焼成粉を粉砕したものを複合金属酸化合物粉末として用いてもよい。また、粉砕されるか否かに拘らず、焼成粉を篩などによって分級した得られた篩下(微粒側)を複合金属酸化合物粉末として用いてもよい。篩上(粗粒側)は再度粉砕し、分級して用いてもよい。なお、ナイロン、またはフッ素樹脂によりコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩を使用して粉砕と分級とを兼ねることも可能である。このように分級と粉砕とを兼ねることにより、焙焼後大き過ぎる複合金属酸化合物粒子が存在しても除去が可能である。具体的には、篩を用いて分級する場合、目開きが150μm-1,000μmのものを用いると好ましい。150μm-1,000μmであると、篩上の割合が多くなりすぎることがなく再粉砕を繰り返すことがなく、また篩下に再粉砕が必要な複合金属酸化合物粉末が分級されることがない。
このようにして得られた第1実施形態の複合金属酸化合物粉末を、溶媒として純水や、有機溶媒と混合し、撹拌することにより、複合金属酸化合物分散液を得ることができる。溶媒が純水である場合、複合金属酸化合物分散液は水分散液として、有機溶媒特有の臭気がなく、また/および、水分散液は、有機溶媒と比して、ゆっくりと揮発することにより、表面が滑らかな塗膜が形成されやすい点で好ましい。また、溶媒として用いられる有機溶媒は、例えばアルコール類、特にエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、またエタノールにメタノール、イソプロピルアルコールなどが混入されたものなどが挙げられる。
他方、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液の製造方法により得られた、生成された第2実施形態の複合金属酸化合物分散液を、遠心分離機(株式会社日立製作所製:himac CT 6E)を用いて、回転数300rpm-6,000rpm、回転時間1分間-99分間で遠心分離を実施することにより、沈殿ケーキが沈殿する。遠心分離機の回転数は4,000rpmであると好ましく、回転時間は20分間であると好ましい。
そして、沈殿した沈殿ケーキを回収し、静置炉に載置し、加熱温度25℃-600℃、加熱時間1分間-24時間で、当該沈殿ケーキを乾燥させ、乾燥した当該沈殿ケーキを粉砕することにより、第2実施形態の複合金属酸化合物粉末が得られる。ここで、第2実施形態の複合金属酸化合物粉末の一部を採取し、X線回折測定を実施したところ、2θ=25°±1にアナターゼ型を示すシャープなXRDピークが見られた。なお、当該沈殿ケーキを乾燥させる際、加熱温度は110℃であると好ましく、加熱時間は1時間であると好ましい。
このようにして得られた第2実施形態の複合金属酸化合物粉末を、溶媒として純水や、有機溶媒と混合し、撹拌することにより、複合金属酸化合物分散液を得ることができる。溶媒が純水である場合、第2実施形態の複合金属酸化合物分散液は水分散液として、有機溶媒特有の臭気がなく、また/および、水分散液は、有機溶媒と比して、ゆっくりと揮発することにより、表面が滑らかな塗膜が形成されやすい点で好ましい。また、溶媒として用いられる有機溶媒は、例えばアルコール類、特にエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、またエタノールにメタノール、イソプロピルアルコールなどが混入されたものなどが挙げられる。
なお、第2実施形態の複合金属酸化合物粉末の製造方法において、第1実施形態の複合金属酸化合物粉末の製造方法と同様に、乾燥した沈殿ケーキを粉砕した後、静置炉内に載置し、加熱温度600℃で加熱し、3時間に亘って焼成してもよい。
本発明の複合金属酸化合物は、粒子が白色であり、優れた光触媒性能を有する。
実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物の物性値及び測定結果の一覧表である。
以下、本発明に実施形態の複合金属酸化合物について、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
先ず、本発明に係る第1実施形態の複合金属酸化合物を、実施例1~18により説明する。
(実施例1)
実施例1に係る複合金属酸化合物は、後述するように調製したチタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合し得られた混合液を室温(25℃)で10分間撹拌した後、当該混合液を静置炉内に載置し、加熱温度約110℃で6時間大気乾燥することにより、当該混合液中の水分を飛ばすことにより得られた乾燥粉を、さらに加熱温度600℃で3時間大気乾燥させることにより得られた。
先ず、チタン酸分散液は、例えば、以下に記す工程により、得られた。
硫酸チタニル33.3g(テイカ社製、TiO濃度33.3質量%、硫酸濃度51.1質量%)をイオン交換水66.7gに加え、90℃以上で1時間静置して溶解させ、硫酸チタニル水溶液(チタン濃度(TiO換算)11質量%、硫酸17質量%、pH1以下)を得た。
この硫酸チタニル水溶液100gを、25質量%アンモニア水2,200g(硫酸チタニル水溶液中の硫酸1モルに対して18.9モルのアンモニア量)に、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、中和反応液(pH12)を得た。この中和反応液はチタン含有物のスラリー、言い換えるとチタン含有沈殿物のスラリーであった。
次に、この中和反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液の硫酸が100mg/L以下になるまで洗浄して、硫酸を除去したチタン含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
このチタン含有沈殿物の一部を、1,000℃で4時間焼成することでTiOを生成し、その質量からチタン含有沈殿物に含まれるTiO濃度を算出した。TiO濃度は11.0質量%だった。
そして、このチタン含有沈殿物45gと、水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%)5g(チタン含有沈殿物中のTi1モルに対して0.443モル)と混合し、ペイントシェイカーで24時間振り混ぜることにより、チタン酸水溶液を得た。
次に、モリブデン酸分散液は、例えば、以下に記す工程により、得られた。
三酸化モリブデン100gを55質量%硫酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を添加することによって、モリブデンをMoO換算で100g/L含有する硫酸モリブデン水溶液を得た。この硫酸モリブデン水溶液200mLを、アンモニア水(NH濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して(NH/MoOモル比=105.66、NH/SO 2-モル比=65.56)、反応液(pH11)を得た。この反応液はモリブデン酸化合物水和物のスラリー、言い換えればモリブデン含有沈殿物のスラリーであった。
次に、この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄して、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
さらに、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿を純水で希釈することにより、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿スラリーを得た。硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿スラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1,000℃で4時間焼成することでMoOを生成し、その重量から硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿スラリーに含まれるMoO濃度を算出した。
そして、純水で希釈した硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のモリブデン濃度がMoO換算で10質量%となるように、2質量%メチルアミンと純水とを混合し、この混合物を撹拌しながら、液温が室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、モリブデン酸水溶液を得た。
さらに、タンタル酸分散液は、例えば、以下に記す工程により、得られた。
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液を、アンモニア水(NH濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、この二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄して、フッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
このタンタル含有沈殿物の一部を、1,000℃で4時間焼成することでTaを生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa濃度を算出した。Ta濃度は38質量%だった。
このタンタル含有沈殿物11.8gに純水29.2mLと50質量%ジメチルアミンを9g添加し、液温を室温(25℃)で保持し、24時間撹拌することにより、タンタル酸分散液を得た。
上述したチタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を、チタン酸分散液をTiO換算で1molに対して、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.05molと、タンタル酸分散液をTa換算で0.05molとなるように調製した混合液を室温(25℃)で10分間撹拌した後、当該混合液を静置炉内に載置し、乾燥温度110℃で6時間大気乾燥することにより、当該混合液中の水分を飛ばすことにより得られた乾燥粉を、さらに焼成温度600℃で3時間焼成することにより、実施例1に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例1に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例2)
実施例2に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.01molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例2に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例3)
実施例3に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.25molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例3に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例4)
実施例4に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.5molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例4に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例5)
実施例5に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.75molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例5に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例6)
実施例6に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で1molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例6に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例7)
実施例7に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で5molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例7に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例8)
実施例8に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で10molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例8に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例9)
実施例9に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で20molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例9に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例10)
実施例10に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、タンタル酸分散液をTa換算で0.01molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例10に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例11)
実施例11に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、タンタル酸分散液をTa換算で0.1molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例11に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例11に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例12)
実施例12に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、タンタル酸分散液をTa換算で0.25molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例12に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例12に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例13)
実施例13に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、タンタル酸分散液をTa換算で0.5molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例13に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例13に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例14)
実施例14に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.1molと、タンタル酸分散液をTa換算で0.1molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例14に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例14に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(実施例15)
ルチル型のチタン酸化物粉末(富士フィルム和光純薬株式会社製:酸化チタン(IV、ルチル型に、上述したモリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を、チタン酸化物量をTiO換算で1molに対して、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.05molと、タンタル酸分散液をTa換算で0.05molとなるように調製した混合液を室温(25℃)で10分間撹拌した後、当該混合液を静置炉内に載置し、乾燥温度110℃で6時間大気乾燥することにより、当該混合液中の水分を飛ばすことにより得られた乾燥粉を、さらに焼成温度600℃で3時間焼成することにより、ルチル型の複合金属酸化合物を得た。
そして、アナターゼ型の実施例1に係る複合金属酸化合物と、同組成比となる当該ルチル型の複合金属酸化合物との重量比が81:19となるように採取し、室温化で混合することにより、2種混合粉末とし、実施例15に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例15に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型とルチル型が混合したものとなり、アナターゼ率は81%であった。
(実施例16)
アナターゼ型の実施例1に係る複合金属酸化合物と、実施例15と同様にして得られたルチル型の複合金属酸化合物との重量比が54:46となるように採取し、室温化で混合することにより、2種混合粉末とし、実施例16に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例16に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型とルチル型が混合したものとなり、アナターゼ率は54%であった。
(実施例17)
アナターゼ型の実施例1に係る複合金属酸化合物と、実施例15と同様にして得られたルチル型の複合金属酸化合物との重量比が15:85となるように採取し、室温化で混合することにより、2種混合粉末とし、実施例17に係る複合金属酸化合物を得た。また、実施例17に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型とルチル型が混合したものとなり、アナターゼ率は15%であった。
(実施例18)
実施例1と同様にして得られた乾燥粉を、その後焼成温度600℃で3時間の焼成を行わず、実施例18に係る複合金属酸化合物とした。また、実施例18に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アモルファスとなり、アナターゼ率は0%であった。
(比較例1)
比較例1に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、モリブデン酸分散液をMoO換算で0.001molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る複合金属酸化合物を得た。また、比較例1に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(比較例2)
比較例2に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、タンタル酸分散液をTa換算で0.001molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る複合金属酸化合物を得た。また、比較例2に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(比較例3)
比較例3に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、タンタル酸分散液をTa換算で1molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る複合金属酸化合物を得た。また、比較例3に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(比較例4)
比較例4に係る複合金属酸化合物は、チタン酸分散液、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を混合する際、タンタル酸分散液をTa換算で2molとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る複合金属酸化合物を得た。また、比較例4に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(比較例5)
比較例5に係る複合金属酸化合物は、モリブデン酸分散液を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係る複合金属酸化合物を得た。また、比較例5に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(比較例6)
比較例6に係る複合金属酸化合物は、タンタル酸分散液を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例6に係る複合金属酸化合物を得た。また、比較例6に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
(比較例7)
比較例7に係る複合金属酸化合物は、モリブデン酸分散液、及びタンタル酸分散液を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例7に係る複合金属酸化合物を得た。また、比較例7に係る複合金属酸化合物の結晶構造は、アナターゼ型となり、アナターゼ率は100%であった。
そして、実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物について、次のような物性を測定した。測定した物性値の測定方法は、以下の通りである。
〈元素分析〉
必要に応じて試料を希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、TiO換算のTi重量分率に加え、MoO換算のMo重量分率、Ta換算のTa重量分率を測定した。
〈粉末結晶構造(XRD)〉
実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物について、CuKα線を使用した粉末X線回折測定によるX線回折パターンで、2θ=25°±1にシャープなXRDピークが見られた場合、アナターゼ型の結晶構造であると、2θ=27°±1(2θ=26°は除く)にシャープなXRDピークが見られた場合、ルチル型の結晶構造であると判断した。
=粉末X線回折測定条件=
・回折装置:MiniFlex2(株式会社リガク製)
・X線管球:Cu
・管電圧・管電流:30kV、15mA
・スリット:DS-SS;1.25度、RS;0.3mm
・モノクロメータグラファイト
・測定間隔:0.01度
・計数方法:定時計数法
・X線解析ソフトウェア:PDXL2 Version2.9.1.0
さらに、実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物について、アナターゼ率(%)を、上記式(1)を用いて算出した。なお、アナターゼ型の結晶構造を示すXRDピークは見られるが、ルチル型の結晶構造を示すXRDピークが見られない場合、アナターゼ率を100%とした。
〈粒子径測定〉
実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物の一次粒子径の平均値の測定は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)(株式会社日立ハイテクサイセンス製:S-4800)にて撮影されたSEM像を解析して算出した。
具体的には、実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物のSEM像から無作為抽出した複数個の一次粒子径の平均値は、「JIS H 7804:2005 電子顕微鏡による金属触媒の粒子径測定方法」に準拠して、複数個の一次粒子毎に、当該一次粒子の長径Llと当該一次粒子の短径Lsを測定し、上記式「d=(Ll+Ls)/2」から算出した計算粒子径dを算出し、算出した計算粒子径dの平均値を一次粒子径の平均値とした。一次粒子径の平均値が100nm以下であれば「○○(Very Good)」と、一次粒子径の平均値が100nm超50μm以下であれば「○(Good)」と、一次粒子径の平均値が50μm超であれば「×(Bad)」と評価した。
〈光触媒性能評価試験(可視光下)〉
純粋100g中に富士フィルム和光純薬社製メチレンブルー3水和物10gと、実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物300mgを添加し作製したサンプル溶液を撹拌子により撹拌させながら、三永電機製作所社製Solar Simulatorの照射口にネックスフィルム社製U4-100CLを貼り、紫外線領域である400nm以下をカットしたXeライト(照度87,600ルクス)を60分間照射した。そして、メチレンブルー吸収ピーク665nmにおける光照射前後での吸光度減少率(%)を下記の式(2)により算出した。算出した吸光度減少率(%)が30%以上であれば「○○(Very Good)」と、吸光度減少率(%)が10%以上30%未満であれば「○(Good)」と、吸光度減少率(%)が10%未満であれば「×(Bad)」と評価した。
Figure 0007329164000002
〈光触媒性能評価試験(暗所下)〉
当該サンプル溶液は、光触媒性能評価試験(可視光下)と同様に作製し、暗室下で60分間撹拌した後、メチレンブルー吸収ピーク665nmにおける撹拌前後での吸光度減少率(%)を評価した。吸光度減少率(%)が10%以上であれば「○○(Very Good)」と、吸光度減少率(%)が5%以上10%未満であれば「○(Good)」と、吸光度減少率(%)が5%未満であれば「×(Bad)」と評価した。
〈L測定〉
実施例1~18、及び比較例1~7に係る複合金属酸化合物をPET製のフィルム上にバーコーターを用いて塗布し、形成した塗膜試料に対し、色彩色差計(コニカミノルタ社製:CR-300)を用い、JIS Z 8722:2009に準拠して、CIE1976(L)色空間におけるL値を求めた。また、L値が80以上であれば「○○(Very Good)」と、L値が70以上80未満であれば「○(Good)」と、L値が70未満であれば「×(Bad)」と評価した。
〈抗ウイルス試験〉
実施例1、実施例5、実施例7、及び比較例6に係る複合金属酸化合物を基材上に塗布し、塗膜を形成した試験片上に、試験ウイルス液150μlを滴下し、密着フィルムで覆い、保湿環境下25℃±3℃で、仕様書の通り暗所静置及び光照射を行った。各試験片の抗ウイルス性の有無を評価するため、塗膜を形成しない無加工試験片を作成した。紫外光、又は可視光を照射し(必要に応じて、シャープカットフィルタを使用した)、光照射時間は4時間とした。所定時間静置後、試験ウイルス液を5mlのPBSにより回収した。なお、試験ウイルスは、バクテリオファージQBを主成分とする保存ウイルス液をリン酸緩衝液(PBS)で、適当な濃度に希釈することにより(10倍以上)生成した。
回収したウイルス液からPBSを用いて10倍の希釈系列を作成し、予め96穴プレートに培養しておいた感染価測定用のMDCK細胞に、50μlのウイルス希釈液を加え、34℃、5%CO条件下で4-5日間培養した。培養後、Vital ToxGlo Assayキット(プロメガ社製)を用いた発光法により、それぞれのTCID50(50% Tissue Culture Infectious Dose:宿主細胞のうち半分がウイルスに感染した時のウイルス濃度)を測定した。
測定したTCID50の値から、下記の式(3)~(5)により、抗ウイルス活性値(V)を求めた。下記式(3)中のBは、明所での試験片のTCID50を示し、Cは、明所での無加工試験片のTCID50を示す。また、下記式(4)中のBは、暗所での試験片のTCID50を示し、Cは、暗所での無加工試験片のTCID50を示す。
Figure 0007329164000003
ΔVが2以上であれば、抗ウイルス性を有するとして、「○(Good)」と評価し、ΔVが2未満であれば、抗ウイルス性を有しないとして、「×(Bad)」と評価した。
上述した測定方法により、測定された物性値を図1に示す。実施例1~18に係る複合金属酸化合物は、チタンの含有量をTiO換算値で1(mol)と表したとき、モリブデンの含有量は、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であると、可視光下だけでなく、暗所下であっても光触媒性能に優れるものであった。
また、実施例1~14に係る複合金属酸化合物は、アナターゼ型の結晶構造であり、表面ポテンシャル障壁に強く依存する光励起キャリアの表面への移動速度が変化し、光励起キャリアの結晶表面に固有な寿命によるものと推測され、可視光下だけでなく、暗所下であっても光触媒性能に優れるものであった。実施例18に係る複合金属酸化合物は、アモルファスの結晶構造であり、空孔率が高くなり、可視光下、及び暗所下において光触媒性能に優れるものであった。さらに、実施例15~17に係る複合金属酸化合物は、アナターゼ型とルチル型とが混在した結晶構造であり、少なくともアナターゼ率が15%以上あれば、可視光下、及び暗所下において優れた光触媒性能を維持するものであった。
また、実施例1~9、11~13、15~18に係る複合金属酸化合物は、L表色系におけるL値が80以上であると、その粒子が白色であった。
また、実施例1、実施例5、実施例7に係る複合金属酸化合物は、抗ウイルス性を有するものであった。
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
本発明に係る複合金属酸化合物は、白色であり、優れた光触媒性能を有することから、光触媒として建材や、塗装材の用途に好適である。また、本発明に係る複合金属酸化合物は、光触媒性能に優れることから、従来よりも少量の複合金属酸化合物であっても同等の光触媒性能を発揮することができる。それにより、製造物自体や、それに伴う廃棄物の量を減らすことでき、製造時及び廃棄時の処分におけるエネルギーコストを削減することが可能となる。このように、天然資源の持続可能な管理及び効率的な利点、並びに脱炭素(カーボンニュートラル)化を達成することにつながる。さらに、本発明に係る複合金属酸化合物は、抗ウイルス性能を有していることから、伝染病や、感染症のリスクを減らすことができ、あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進することができる。

Claims (18)

  1. チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物であって、
    チタンの含有量をTiO換算値で1(mol)と表したとき、
    モリブデンの含有量は、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であり、
    表色系におけるL 値が80以上であることを特徴とする複合金属酸化合物。
  2. チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物であって、
    チタンの含有量をTiO 換算値で1(mol)と表したとき、
    モリブデンの含有量は、モル比MoO 換算値/TiO 換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta 換算値/TiO 換算値で0.01-0.5であり、
    電子顕微鏡観察による一次粒子径の平均値が0.1nm以上50μm以下であることを特徴とする複合金属酸化合物。
  3. チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物であって、
    チタンの含有量をTiO 換算値で1(mol)と表したとき、
    モリブデンの含有量は、モル比MoO 換算値/TiO 換算値で0.01-20であり、タンタルの含有量は、モル比Ta 換算値/TiO 換算値で0.01-0.5であり、
    表色系におけるL 値が80以上であると共に、電子顕微鏡観察による一次粒子径の平均値が0.1nm以上50μm以下であることを特徴とする複合金属酸化合物。
  4. アモルファス、または/およびアナターゼ型の結晶構造を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の複合金属酸化合物。
  5. 前記モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-5であることを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の複合金属酸化合物。
  6. 前記モル比Ta換算値/TiO換算値で0.1-0.5であることを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の複合金属酸化合物。
  7. 前記モル比MoO換算値/TiO換算値をXと表し、前記モル比Ta換算値/TiO換算値をYと表したとき、
    0.05≦X/Y≦400
    を満たすことを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の複合金属酸化合物。
  8. 前記モル比MoO 換算値/TiO 換算値をXと表し、前記モル比Ta 換算値/TiO 換算値をYと表したとき、
    0.05≦X/Y≦100
    を満たすことを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の複合金属酸化合物。
  9. 請求項1~の何れか1つに記載の複合金属酸化合物を含有することを特徴とする複合金属酸化合物膜。
  10. チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物分散液であって、
    チタンの含有量をTiO換算値で1と表したとき、
    モリブデンの含有量は、モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20であり、且つタンタルの含有量は、モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5であり、
    4級アンモニウム化合物を含有することを特徴とする複合金属酸化合物分散液。
  11. 前記4級アンモニウム化合物が水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)およびまたは水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であることを特徴とする請求項10に記載の複合金属酸化合物分散液。
  12. 請求項10、又は11に記載の複合金属酸化合物分散液に含まれる複合金属酸化合物を含有することを特徴とする複合金属酸化合物膜。
  13. チタン、モリブデン、及びタンタルを含む複合金属酸化合物分散液の製造方法であって、
    4級アンモニウム化合物を含有するチタン酸分散液と、
    チタンの含有量をTiO換算値で1と表したとき、
    モル比MoO換算値/TiO換算値で0.01-20となるように調製したモリブデン酸分散液と、
    モル比Ta換算値/TiO換算値で0.01-0.5となるように調製したタンタル酸分散液と、
    を混合し、撹拌し、混合液を生成する工程を有することを特徴とする複合金属酸化合物分散液の製造方法。
  14. 前記混合液を生成する工程は、前記チタン酸分散液と、前記タンタル酸分散液とを混合し、撹拌した後、前記モリブデン酸分散液を加えて、撹拌し、混合液を生成することを特徴とする請求項13に記載の複合金属酸化合物分散液の製造方法。
  15. 前記モリブデン酸分散液は、アミンおよびまたは4級アンモニウム化合物を含有し、前記タンタル酸分散液は、アミンおよびまたは4級アンモニウム化合物を含有することを特徴とする請求項13記載の複合金属酸化合物分散液の製造方法。
  16. 前記モリブデン酸分散液は、アミンおよびまたは4級アンモニウム化合物を含有し、前記タンタル酸分散液は、アミンおよびまたは4級アンモニウム化合物を含有することを特徴とする請求項14に記載の複合金属酸化合物分散液の製造方法。
  17. 請求項13~1の何れか1つに記載された複合金属酸化合物分散液の製造方法により、生成された混合液を、基材上に塗布し、乾燥することにより、複合金属酸化合物膜を生成する工程と、
    を有することを特徴とする複合金属酸化合物膜の製造方法。
  18. 請求項13~1の何れか1つに記載された複合金属酸化合物分散液の製造方法により、生成された混合物を乾燥し、焼成することにより、複合金属酸化合物粉末を生成する工程を有することを特徴とする複合金属酸化合物粉末の製造方法。
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