JP7322384B2 - 培地充填液、培地充填方法、培養容器、及び培地充填用気泡除去装置 - Google Patents
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Description
しかしながら、このようなピペットによる操作では気泡を除去できない場合があった。
また、この方法では、たとえ気泡を除去できても、培養容器の培養面が大きい場合には、非常に手間がかかり、また培養容器を長時間開放させた状態での操作が必要になるため、培養容器内を汚染する危険性が高くなるという問題もあった。
この加振装置には、培養容器を底面と直交する方向へ加振する加振部が備えられており、培養容器に振動を与えることによって、培養容器の凹部に溜まった気泡を除去する構成となっている。
このような加振装置によれば、気泡の大きさや形状によってはこれを除去することができるが、一方で振動だけでは除去できない場合があった。また、培養容器の培養面が大きい場合には手間がかかり、加振装置を用いるためのコストが必要になるという問題があった。さらに、振動によって培養容器から液が飛び出し、周辺に培地をこぼす危険性もあった。
この撹拌・脱泡装置によれば、直径が約2mm程度のウェル(1536ウェル)の場合は、気泡を除去できるが、直径が1mm以下のウェルや、さらに直径が0.2mm以下のウェルに対しては、この装置のような遠心による方法では、気泡を完全に除去することは難しかった。
また、培養容器に培地を充填するのに先だって、培養容器に培地充填液を充填した後、真空排気装置により培養容器を真空にさらすことにより、培養容器における微小凹部に溜まった気泡を効率よく除去できることを見いだした。
さらに、これらの方法によれば、培養面の大きな培養容器にも容易に適用することが可能であるため、スフェアなどの大量培養に好適に用いることが可能となる。
本実施形態の培地充填液は、複数の凹部が形成された培養面を有する培養容器に培地を充填する際に、培地の充填に先立って、凹部に溜まった気泡を除去する培地充填液であって、脱気されていることを特徴とする。
脱気は、減圧、加熱、超音波等の方法により行うことができる。減圧による脱気は、気圧を低くすることによって液体を沸騰させ、液体中に溶存していた空気を除去する方法である。減圧による真空度と水の沸騰する温度との関係は、以下の通りである。
100.0℃ 760 Torr
51.3℃ 100 Torr
37.8℃ 50 Torr
22.0℃ 20 Torr
17.5℃ 15 Torr
11.4℃ 10 Torr
7.9℃ 8 Torr
(1Torr≒133Pa)
本実施形態の培地充填液は、溶存空気量が50%以下に脱気されていることが好ましく、10%以下に脱気されていることがより好ましい。
ここで、培地充填液にタンパク質が含まれていると、培養容器の凹部から気泡が除去されて凹部の表面が一旦培地充填液によって濡れた後に、その状態を保持しやすいことが分かった。このため、培地充填液としては、培地を用いることが好ましく、また生理食塩水やリン酸緩衝液に例えばアルブミンなどのタンパク質を溶解したものを用いることも好ましい。
本実施形態の培地充填液をこのような構成にすれば、長期保存に適したものとすることができる。
左側の写真は、箱形(四角柱状)のウェルを備えたマイクロウェルプレートを示し、右側の写真は、四角錐状のウェルを備えたマイクロウェルプレートを示す。これらの凹部の開口部の一辺は、0.2mmである。
これらの図に示すように、いずれの写真でも全てのウェルに気泡が溜まっていることが分かる。
その結果、実施例1のマイクロウェルプレートでは、気泡が完全に除去されたことが分かる。これに対して、比較例1のマイクロウェルプレートでは、気泡の一部が自然になくなっているものの、完全には除去されてはおらず、多くの気泡がウェルに残存していることが分かる。
なお、凹部における開口部の形状は、円や多角形の場合がある。そのため、これらの直径として、多角形に内接する円の直径を含めている。
そこで、本実施形態の培地充填方法では、培地充填液を培養容器に充填して一定時間静置させ、気泡の除去が完了した後に、培養容器に培地を通液することによって、培地充填液を培地に混合し、培地充填液を培地に次第に置き換えていくようにしている。
真空チャンバ10は滅菌機能を有しており、大気開放弁12は、真空チャンバ10及び真空ポンプ11の間の配管部材に接続して備えられている。この滅菌機能としては、例えば、UVランプや160℃,2時間の乾熱滅菌などによるものとすることができる。また、フィルタ装置13は、大気開放弁12が備えられた配管部材の端部に備えられている。
例えば、培養容器の上面にガイドピンに沿って上下移動する押圧板を載せ、この押圧板の自重により培養容器を一定の圧力で押圧するように固定して、真空引きを行うことができる。また、ガイドピンにバネ材を設置し、押圧板を培養容器に適宜押し付けることによって、実現することも可能である。
本実施形態の培地充填方法をこのような方法にすれば、培養容器のサイズが比較的大きい場合でも、培養容器の全ての凹部から気泡を適切に除去することが可能である。
無菌フィルタ241としては、例えば0.2μmや0.45μmの孔を有するメンブレンフィルタや多孔質膜などを用いることができる。
このとき、真空チャンバ内において、培養容器2の内外で圧力差がないため、容器が破裂することはない。
このような本実施形態の培地充填用気泡除去装置を用いる真空引き方式によれば、上述した本実施形態の培地充填液を用いる脱気方式に比較して、極めて短時間で凹部における気泡を除去することが可能である。
この場合でも、本実施形態の培地充填用気泡除去装置を用いることで、培養容器の凹部から気泡を効率的に除去することが可能である。またこの場合、シャーレ本体と蓋の隙間で空気の出し入れが行われ、極端に強い大気開放をしない限り基本的には汚染することなく、隙間から空気を抜くことが可能になっている。
まず、本実施形態の培地充填液を次のように作成した。
培地(StemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N))500mLを1Lのボトルに入れ、これを真空排気装置(ヤマト科学株式会社,ADP300)内に静置して真空引きを行った。真空引きは、室温22℃の状態で20Torrの真空度で、1分程度保持することにより行った。これにより、溶存空気量が10%以下に脱気された培地充填液を得た。
培地充填液を充填した直後のマイクロウェルプレートにおける凹部の写真を図1(右側)に示す。また、12時間経過後のマイクロウェルプレートにおける凹部の写真を図2(実施例1)に示す。
これに対して、培地充填液を充填して12時間経過後のマイクロウェルプレートでは、全ての凹部から気泡が除去されていることが分かる。
このように、本実施形態の培地充填液によれば、微小凹部に溜まった気泡を効率よく除去できることが明らかとなった。
次に、脱気を行っていない通常の培地として、所定量のStemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N)をマイクロウェルプレート(株式会社クラレ,品番SQ200)に充填して12時間静置させた。マイクロウェルプレートは、実施例1のものと同じである。
培地充填液を充填した直後のマイクロウェルプレートにおける凹部は、図1(右側)と同様の状態であった。また、12時間経過後のマイクロウェルプレートにおける凹部の写真を図2(比較例1)に示す。
次に、実施例1の気泡が除去されたマイクロウェルプレートを用いて、スフェアを形成させた試験について説明する。
具体的には、このマイクロウェルプレートに10 mM Y-27632(和光純薬工業株式会社)を含むStemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N)を通液して、脱気に使用した培地充填液を当該培地に置き換えた。
同図に示されるように、各凹部において、スフェアが形成されていることが分かる。
このように、本実施形態の培地充填液によって気泡が除去されたマイクロウェルプレートを用いることで、スフェアを好適に形成できることが明らかとなった。
次に、比較例1の気泡が除去されていないマイクロウェルプレートを用いて、スフェアを形成させた試験について説明する。
具体的には、このマイクロウェルプレートの培地に10 mM Y-27632(和光純薬工業株式会社)を添加して、各凹部にiPS細胞(1231A3株)が500個ずつ収容されるように播種し、48時間培養してスフェアの形成を行った。その結果を図5(試験2)に示す。
同図に示されるように、各凹部に気泡が溜まっているため、凹部間の培養面に多くの細胞が堆積し、スフェアを適切に形成することができなかった。
培養容器として、図4の培養容器2に示すものを準備した。
培養容器の材料としては、ポリエチレン(東洋製罐製培養バッグ)を使用し、100mmx70mmの2枚のフィルムを作成した。培養容器の培養面には、開口部の直径が0.3mm、深さの0.2mmの凹部を0.4mmの間隔で形成した。そして、培養面を形成したフィルムと、もう一方のフィルムをヒートシールにより貼り合わせた。このとき、ポートを1つ形成し、このポートにチューブを介して無菌フィルタ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製,0.45μmメンブレンフィルタ723-2545)を接続した。
真空引きは、室温22℃の状態で20Torrの真空度で、1分程度保持することにより行った。これにより、培地充填液における溶存空気量を10%以下にすることができる。
その結果、培地充填液が毛細管現象により培養面全体に伝わり、凹部が培地充填液により濡れることによって、気泡を全ての凹部から除去することができた。
培養容器として、実施例2と同様の構成を備え、サイズがより大きいものを準備した。
培養容器の材料としては、ポリエチレン(東洋製罐製培養バッグ)を使用し、300mmx200mmの2枚のフィルムを作成した。培養容器の培養面には、開口部の直径が0.3mm、深さの0.2mmの凹部を0.4mmの間隔で形成した。そして、培養面を形成したフィルムと、もう一方のフィルムをヒートシールにより貼り合わせた。このとき、ポートを1つ形成し、このポートにチューブを介して無菌フィルタ((サーモフィッシャーサイエンティフィック社製,0.45μmメンブレンフィルタ723-2545)を接続した。
真空引きは、室温22℃の状態で20Torrの真空度で、1分程度保持することにより行った。これにより、培地充填液における溶存空気量を10%以下にすることができる。
実施例3で作成した培養容器を用いて、実施例3と異なる態様で真空引きを行った。
具体的には、図7に示すように、この培養容器に、培養面が直立した状態で、培養面の半分程度が浸漬するように、培地充填液として、培地(StemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N))を充填した。なお、図7において、培養容器の培養面に形成されている凹部は省略している。
すなわち、培養容器のサイズが大きいと、それに応じて培養面全体を濡らすために必要な培地充填液の量が多く必要になるが、培養面が直立した状態で設置すると、図7のように培地充填液が下方に多く溜まってしまう。このため、2枚のフィルムが離れ、毛細管現象が生じ得る状態にならず、培地充填液に浸漬していない上方の凹部の気泡を除去することができなかった。
実施例3で作成した培養容器を用いて、実施例3と異なる態様で真空引きを行った。
具体的には、この培養容器に、培地充填液として、所定量の培地(StemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N))を充填した。そして、図8に示すように、培養面が水平になるように、真空排気装置(ヤマト科学株式会社,ADP300)内に静置して、真空引きを行った。真空引きは、室温22℃の状態で20Torrの真空度で、1分程度保持することにより行った。なお、図8において、培養容器の培養面に形成されている凹部は省略している。
すなわち、押圧板がないため、まとまった気泡が中央に集まって、ポートが培地充填液3で塞がれてしまい、気泡がポート側に移動できなかった。そして、培養容器内と外部の圧力差が増大し、培養容器のフィルム材を伸ばしてしまう程に気泡が膨らみ、気泡を排出することはできなかった。
例えば、培養容器として、例えば50万個~100万個のスフェアを形成可能な大きさのものを用いるなど適宜変更することが可能である。
10 真空チャンバ
11 真空ポンプ
12 大気開放弁
13 フィルタ装置
2,2a 培養容器
20,20a 容器本体
21 凹部
22 ポート
23 チューブ
24,24a フィルタ装置
241 無菌フィルタ
3 培地充填液
4 押圧板
5 ガイドピン
6 気泡
Claims (8)
- 複数の凹部が形成された培養面を有する培養容器に培地を充填する際に、培地の充填に先立って、前記凹部に溜まった気泡を除去するために用いられる培地充填液であって、脱気されていることを特徴とする培地充填液。
- 溶存空気量が50%以下に脱気されていることを特徴とする請求項1記載の培地充填液。
- 培地、生理食塩水、又はリン酸緩衝液のいずれかを脱気させて得られたことを特徴とする請求項1又は2記載の培地充填液。
- ガスバリア性を有する容器に封入されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の培地充填液。
- 請求項1~4のいずれかに記載の培地充填液を、複数の凹部が形成された培養面を有する培養容器に充填して一定時間静置させ、ついで前記培養容器に培地を通液して、前記培地充填液を培地に置き換えることを特徴とする培地充填方法。
- 前記複数の凹部における開口部の円又は内接円の直径が2mm以下であることを特徴とする請求項5記載の培地充填方法。
- 複数の凹部が形成された培養面を有する培養容器に培地を充填する際に、培地の充填に先立って、前記凹部に溜まった気泡を除去するために用いられる培地充填液の充填方法であって、
前記培養容器に培地充填液を充填した後、前記培地充填液を充填した状態で前記培養容器を真空排気装置に入れて、前記培地充填液における溶存空気量が50%以下になるように真空引きを行う
ことを特徴とする培地充填液の充填方法。 - 前記培養容器の培養面が水平になるように、前記培養容器を前記真空排気装置内に配置し、前記培養容器を押圧板により押圧して、真空引きを行う
ことを特徴とする請求項7記載の培地充填液の充填方法。
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