以下、実施形態に係る鋳造用金型及び鋳物の製造方法について説明する。図1は鋳造用金型20及び鋳造用金型20内における鋳物10を示す概略斜視図である。図2は図1のII-II線における鋳造用金型20及び鋳物10の部分的な断面図である。図3は図2のIII-III線における断面図である。説明の便宜上、各図に重力方向を基準とする上下方向が参照される場合がある。
鋳物10は、鋳造によって成形された成形品である。鋳造方法は、アルミニウム合金等の金属を溶かして溶湯とし、この溶湯を鋳造用金型20に流し込み、溶湯を鋳造用金型20内で所定の形状に凝固させて成形する成形法である。鋳物10は、例えば、低圧鋳造法もしくは重力鋳造法によって製造される。
本実施形態において、鋳物10は、内燃機関におけるシリンダーヘッドである。シリンダーヘッドには、表面積を広くして放熱性を高めるためのフィンが設けられる場合がある。かかるシリンダーヘッドが自動二輪車に搭載された場合、外観に露出する部分となる。
鋳物10は、フィンを形成するフィン形状部分12を有する。フィン形状部分12は、平たい形状部分、言い換えると薄肉の板状部分である。本実施形態では、鋳物10は、本体部11と、複数のフィン形状部分12とを備える。本体部11は、複数のフィン形状部分12に連なる部分である。ここでは、本体部11は、一方に開口する空間を有する筒状に形成される。図1では、本体部11の開口は上方を向く。鋳造用金型20における鋳造時の上下方向と、製造された鋳物10の使用状態における上下方向とは一致しなくてもよい。各図に付された上下方向は、鋳造時の状態を基準とする。本体部11の外周囲に複数のフィン形状部分12が形成される。フィン形状部分12は、鋳物10の本体部11の外周囲から外側に向けて鍔状に張出す形状に形成される。複数のフィン形状部分12は、上下方向において間隔をあけて並んで形成される。フィン形状部分は、本体部の周囲において部分的に突出していてもよい。
鋳造用金型20は、鋳物10を製造するための鋳型である。本実施形態において、鋳造用金型20は、金属等によって形成されており、ベース金型28と、複数の中間金型30、32、34、36と、上金型40とを備える。複数の中間金型30、32、34、36は、ベース金型28と上金型40とで挟まれる金型である。ベース金型28、第1中間金型30、第2中間金型32、第3中間金型34、第4中間金型36、上金型40が、この順で、下から上に向けて、積重ねられる。ベース金型28と、複数の中間金型30、32、34、36と、上金型40との組合せ体の内部に、鋳物10を形成するための金型空間22が形成される。
ベース金型28は、鋳造用金型20において最も下側に位置し、鋳物10の下側部分の表面を形作る部分である。ここでは、ベース金型28は、一番下のフィン形状部分12の下側表面を形作るフィン側金型面28Aと、鋳物10の本体部11の下部表面を形作る本体側金型面28Bとを有する。ベース金型28の上部のうち金型面28A、28Bの周りを囲む部分に他の金型と対向する合わせ面29が形成される。より具体的には、ベース金型28は、上下方向に扁平な直方状に形成されている。ベース金型28のうちの上面における左右及び前後の中間部にフィン側金型面28Aと本体側金型面28Bがと形成される。合わせ面29は、重力方向に対して直交する水平面に沿うように形成されてもよい。ここでは、合わせ面29は、平面に形成される。上記本体側金型面28Bは、合わせ面29よりも低い位置で、水平方向に沿う平面に形成される。フィン側金型面28Aは、本体側金型面28Bの外周縁から外側に向けて水平方向に沿って延びると共に、その外周囲で外側に向うにつれて徐々に上方に向って合わせ面29に達する形状に形成される。ここでは、フィン側金型面28Aの外周部28Aaは、縦断面において斜め下外側に向けて凸となる湾曲面を形成する形状に形成される。
第1中間金型30は、ベース金型28上に重ねられる。第1中間金型30は、ベース金型28と対応する広がりを有する板状に形成される。第1中間金型30は、鋳物10のうち複数のフィン形状部分12によって区画される中間領域を形作る部分であり、各フィン形状部分12の厚み方向中間部に沿った面の延長上で他の金型と分れている。平面視における第1中間金型30の中間部に、上下方向に貫通するように金型面30A、30B、30Cが形成される。下金型面30Aは、一番下のフィン形状部分12の上側表面を形作る形状に形成される。つまり、上記ベース金型28におけるフィン側金型面28Aと、本下金型面30Aとが連続して配設されことで、一番下のフィン形状部分12を形作る扁平な金型空間が形成される。この際、フィン側金型面28Aはフィン形状部分12の下側の面を形成し、下金型面30Aは他のフィン形状部分12の上側の面を形成することになる。中間金型面30Bは、本体部11のうち一番下のフィン形状部分12と下から2番目のフィン形状部分12との間の外周表面を形作る形状に形成される。上金型面30Cは、下から2番目の一番下のフィン形状部分12の上側表面を形作る形状に形成される。第1中間金型30の下面のうち下金型面30Aを囲む部分は、合わせ面31Aに形成される。合わせ面31Aは、重力方向に対して直交する水平面に沿うように形成されていてもよい。この合わせ面31Aには、ガス抜き溝31G1、31G2が形成される。ガス抜き溝31G1、31G2の形成例については後で説明する。第1中間金型30の上面のうち上金型面30Cを囲む部分は、合わせ面31Bに形成される。合わせ面31Bは、重力方向に対して直交する水平面に沿うように形成されていてもよい。本実施形態では、合わせ面31Bは、平面に形成される。
上記中間金型面30Bは、合わせ面31A、31Bに対して上下方向中間領域で、環状を描く形状に形成される。下金型面30Aは、中間金型面30Bの下側縁から外側に向けて水平方向に沿って延びると共に、その外周囲で外側に向うにつれて徐々に下方に向って合わせ面31Aに達する形状に形成される。ここでは、下金型面30Aの外周部は、外側に凸となるように湾曲する形状に形成される。ベース金型28上に第1中間金型30が重ねられると、合わせ面31Aが合わせ面29に対向して配設される。また、下金型面30Aのうち水平方向に沿って延在する下向き部分が、フィン側金型面28Aのうち水平方向に沿って延在する上向き部分に対して対向して配設される。さらに、下金型面30Aのうち外周側の部分がフィン側金型面28Aのうち外周側部分の上側に連続して配設される。これにより、一番下のフィン形状部分12を形成可能な、上下方向に扁平な金型空間が形成される。この際、上金型面30Cはフィン形状部分12の一方面側(下側)を形成し、下金型面30Aはフィン形状部分12の他方面側(上側)を形成することになる。上金型面30Cは、中間金型面30Bの上側縁から外側に向けて水平方向に沿って延びると共に、その外周囲で外側に向うにつれて徐々に上方に向って合わせ面31Bに達する形状に形成される。ここでは、下金型面30Aの外周部は、外側に凸となるように湾曲する形状に形成される。
第2中間金型32、第3中間金型34、第4中間金型36は、上記第1中間金型30と同様構成であり、それぞれ金型面30A、30B、30C、合わせ面31A、31Bを有する。また、それぞれの合わせ面31Aにはガス抜き溝31G1、31G2が形成される。中間金型30、32、34、36が重ね合されると、上下に対向するものの間において、上側に位置する金型側の下金型面30Aと、下側に位置する金型側の上金型面30Cとによって、フィン形状部分12を形成可能な金型空間が形成される。また、合わせ面31Aと、合わせ面31Bとが対向して配置される。
上金型40は、鋳造用金型20において最も上側に位置し、鋳物10の上側部分を形作る部分である。上金型40は、鋳物10の内部の表面を形作ってもよい。ここでは、上金型40は、一番上のフィン形状部分12の上側表面を形作る金型面40Aを有する。上金型40は、平面視において第4中間金型36と対応する広がりを有する板状に形成される。上金型40の下面のうち金型面40Aを囲む部分は、合わせ面41に形成されている。合わせ面41は、重力方向に対して直交する水平面に沿うように形成されてもよい。ここでは、合わせ面41には、ガス抜き溝31G1、31G2が形成される。上金型40内には内金型140が配置される。この内金型は、鋳物10の本体部11の内部構造部分の表面を形作る内金型面40Bを有する。
金型面40Aは、金型面40Bの外周から外側に向けて水平方向に沿って延びると共に、その外周囲で外側に向うにつれて徐々に下方に向って合わせ面41に達する形状に形成される。ここでは、金型面40Aの外周部は、外側に凸となるように湾曲する形状に形成される。
第4中間金型36上に上金型40が重ねられると、合わせ面41が合わせ面31Bに対向して配設される。また、金型面40Aが上金型面30Cに対向して配置され、これにより、一番上のフィン形状部分12を形成可能な金型空間が形成される。内金型140は、中間金型面30Bで囲まれる空間内に配置される。
そして、金型面28A、28B、複数組の金型面30A、30B、30C、金型面40A、40Bによって、鋳物10を形成可能な金型空間22が形成される。なお、金型空間22に対して溶湯Lを供給可能な供給口24が設けられる(図2参照)。例えば、炉内で溶かされた溶湯が、気体圧によって押上げられて上記供給口24を介して金型空間22内に注湯される。
本実施形態のベース金型28と、複数の中間金型30、32、34、36と、上金型40のうち上下に組合わされる金型間の関係に関して、次のように把握してもよい。まず、下側の金型を第1金型、この下側の第1金型に形成され、上側の金型側に設けられる金型面及び合わせ面を、第1金型面及び第1合わせ面と把握してもよい。また、上側の金型を第2金型、この上側の金型に形成され、下側の金型側に設けられる金型面及び合わせ面を、第2金型面及び第2合わせ面と把握してもよい。
例えば、ベース金型28と一番下の第1中間金型30との関係に関して、ベース金型28を第1金型、第1中間金型30を第2金型と把握してもよい。この場合、ベース金型28に形成されるフィン側金型面28A、合わせ面29を、第1金型面、第1合わせ面と把握してもよい。また、第1中間金型30に形成される下金型面30A、合わせ面31Aを、第2金型面、第2合わせ面と把握してもよい。また、例えば、複数の中間金型30、32、34、36との関係に関して、例えば、第2中間金型32を第1金型、この上の第3中間金型34を第2金型と把握してもよい。この場合、第2中間金型32に形成される上金型面30C、合わせ面31Bを、第1金型面、第1合わせ面と把握してもよい。また、第3中間金型34に形成される下金型面30A、合わせ面31Aを、第2金型面、第2合わせ面と把握してもよい。第4中間金型36と上金型40との間に関しても、上記と同様に、第4中間金型36を第1金型、上金型40を第2金型と把握してもよい。
第2中間金型32と第3中間金型34との間に着目して、ガス抜き溝31G1、31G2についてより具体的に説明する。図4は図3の部分拡大図であり、図5は図4のV-V線における断面図である。図2から図5に示すように、上側にある第2合わせ面としての合わせ面31Aにガス抜き溝31G1、31G2が形成されている。ガス抜き溝31G1、31G2は、合わせ面29が延びる方向と平行に延びる。
ガス抜き溝31G1、31G2は、フィン形状部分12を形成するための金型面30A、30Cの境界からからさらに外方に向うように形成されている。
ガス抜き溝31G1、31G2は、金型空間22と金型外空間とを連通する通路として形成される。金型空間22に導かれた溶湯によって押出されたガスがガス抜き溝31G1、31G2を通過することで、金型空間22への溶湯の充填量を高めることができる。金型外空間の圧力を金型空間22内の圧力よりも低く設定することで、ガス抜き溝31G1、31G2へガスを導きやすくしてもよい。
ガス抜き溝31G1、31G2は、フィン形状部分12との関係では、当該フィン形状部分12の厚み方向に対して垂直姿勢で延びており、その開口がフィン形状部分12の先端部分に対向する。ここで、フィン形状部分12は、本体部11から離れる方向となる突出方向に進むにつれて厚み方向寸法が小さくなる先端形状を有している。ガス抜き溝31G1、31G2は、鋳造用金型20のうちフィン形状部分12と対向する位置から金型外空間に達するように形成される。鋳造用金型20において、ガス抜き溝31G1、31G2が、金型空間22の外側となる部分に形成されることで、ガス抜きのための構造が実現される。
本実施形態では、鋳造用金型20にはスライド型である。本実施形態では、鋳造用金型20は、重力方向に沿った分割面Bで分割されてスライド移動可能なスライド型である。例えば、鋳造用金型20に鋳物10が金型成形された後、鋳造用金型20が分割面Bで分れて互いに離れる方向にスライド移動することで(図1の分割面B、矢印P参照)、鋳造用金型20から鋳物10が離型される。
ガス抜き溝31G1、31G2は、上記鋳造用金型20のスライド方向と平行に延びる仮想面に平行に延びる。言換えると、ガス抜き溝31G1、31G2は、フィン形状部分12の厚み方向に垂直な方向に延びる平面に平行に延びる。
フィン形状部分12の先端部分は、フィン形状部分12の厚み方向に垂直な方向の縁辺に沿って延びる。ガス抜き溝31G1、31G2は、フィン形状部分12の縁辺を外側から囲む領域に形成される。ガス抜き溝31G1、31G2の内側開口は、フィン形状部分12の縁辺に沿って並ぶように形成される。本実施形態では、ガス抜き溝31G1、31G2の形成領域は、フィン形状部分12の縁辺を一周囲むように形成される。
本実施形態では、合わせ面31Aが形成される部分に対して、複数の直線状のガス抜き溝31G1が間隔をあけて並列状態で形成されている。また、合わせ面31Aが形成される部分に対して、複数の直線状のガス抜き溝31G2が間隔をあけて並列状態で形成されている。
複数のガス抜き溝31G1、31G2は、第1グループのガス抜き溝31G1と、第2グループのガス抜き溝31G2とを含む。第1グループのガス抜き溝31G1は、予め定める第1延在方向に延びて、前記第1延在方向に対して直交する第1並列方向にそれぞれ並ぶ。第2グループのガス抜き溝31G2は、第1延在方向とは異なる方向に延びる第2延在方向に延びて、前記第2延在方向に対して直交する第2並列方向にそれぞれ並ぶ。第1延在方向および第2延在方向は、鋳造用金型20のスライド方向に対して傾斜する方向に延びる。たとえば各延在方向は、スライド方向Pに対して±45度傾斜する。また各延在方向は、フィン形状部分12の基端部から先端部に延びる方向に対して傾斜する方向に延びる。言い換えると、フィン形状部分12の縁辺の法線に対して傾斜する方向に延びる。
第1グループに属する複数のガス抜き溝31G1の並ぶ間隔は、第2グループに属する複数のガス抜き溝31G2の並ぶ間隔に対して、同じであってもよいし、異なっていてもよい。合わせ面31Aにおいて、複数の直線状のガス抜き溝31G1と、複数のガス抜き溝31G2とが互いに交差する。この際の交差角度は任意である。交差角度は例えば90゜である。これにより、合わせ面31Aが形成される部分にガス抜き溝31G1、31G2が網目状、いわゆる格子状に形成される。
ガス抜き溝31G1、31G2が交差する交差域では、一方のガス抜き溝と他方のガス抜き溝が連通する連通個所となる。これによって一方のガス抜き溝を流れるガスは、交差域で他方のガス溝へ分岐して流れることが可能となる。
このため、複数のガス抜き溝31G1、31G2のうちの一部の入口が溶湯で塞がったとしても、入口が溶湯で塞がったガス抜き溝31G1、31G2のうち入口よりも金型外空間側の部分は、上記交差域において、他のガス抜き溝31G1、31G2に連通する。これにより、複数のガス抜き溝31G1、31G2のうち塞がれていない入口は、入口が溶湯で塞がれたガス抜き溝31G1、31G2を含む複数のガス抜き溝31G1、31G2のうち上記交差域よりも下流側部分を通じて効果的にガス抜きを行う。つまり、複数のガス抜き溝31G1、31G2のうちの一部の入口が溶湯で塞がったとしても複数のガス抜き溝31G1、31G2の交差位置よりも下流側経路は、ガス抜き経路として機能する状態が保たれる。これにより、ガス抜き効果が長期に亘って維持される。
このように複数のガス抜き溝31G1、31G2のうち、一部のガス抜き溝の入口が溶湯で塞がることを許容する分、入口の開口を小さくすることができる。これによって溶湯が深く入り込み難く、予定外に発生する突起又は凹みを抑制することができる。たとえばガス抜き溝31G1、31G2が、深さが0.3mm以下となるように浅い溝であっても、十分なガス抜き効果を得ることができる。
またガス抜き溝31G1、31G2は、例えば、円弧状に形成される。本実施形態では、延在方向に垂直な断面形状として、深さよりも幅方向寸法が大きく形成される。例えば、ガス抜き溝31G1、31G2は、曲率半径が深さよりも大きく形成され、曲率半径の倍の長さが溝幅よりも大きく形成される。溝幅は、ガス抜き溝31G1、31G2のうち合わせ面31A側に開口する最大幅である。ガス抜き溝31G1、31G2は、その曲率半径を半径とする半円溝よりも浅い溝である。例えば、ガス抜き溝31G1、31G2は、深さよりも溝幅が大きい浅い溝であってもよい。
このようにして比較的浅い溝を形成することができ、鋳造用金型20への凝固した溶湯の詰まりを抑えることができる。たとえば、同じ方向に並ぶガス抜き溝31G1、31G2のピッチは、ガス抜き溝31G1、31G2の幅の3倍よりも小さく形成される。具体的には、ガス抜き溝31G1、31G2の幅の2倍以下に形成される。このようにピッチが小さく形成されることで、ガス抜き溝31G1、31G2の数を増やすことができ、溝の大きさが小さい場合でも、ガス抜き効果を維持することができる。
本実施形態では、逆バリを防いでフィン形状部分12の先端部に対向するようにガス抜き溝31G1、31G2を形成する。たとえば薄皮程度のバリが生じたとしても、当該バリがフィン形状部分12の先端部に形成されることで、ショットブラストなどでバリにショットを衝突させやすく、ショットブラスト作業で容易に除去することができ、手作業による除去作業を不要とすることができる。
ここでは、本体部11側に供給口24が設けられ、溶湯Lは供給口24からフィン形状部分12に向けて流れ込むことが想定される。この場合、金型面30A、30C間の金型空間において、溶湯Lの主な流れの方向は、本体部11からフィン形状部分12の先端側に向う方向Aであると想定される。ガス抜き溝31G1の延びる方向とガス抜き溝31G2の延びる方向とは、両方、方向Aに対して傾いていてもよい。
また、ガス抜き溝31G1、31G2は、合わせ面31Aの全体に形成されていてもよい。これにより、ガス抜き溝31G1、31G2は、フィン形状部分12の外周の全体に面することができ、フィン形状部分12の外周の全体においてガス抜きを行うことができる。
ガス抜き溝31G1、31G2は、一例として、曲面を描きつつ凹む底面を含む曲面溝を含む形状であってもよい(図5参照)。例えば、ガス抜き溝31G1、31G2を、その延在方向に対して直交する横断面で観察すると、半円形又は半楕円形に凹む形状に形成される。ガス抜き溝31G1、31G2は、曲面溝でなくてもよい。ガス抜き溝は、横断面三角形状又は四角形状等の断面多角形の溝であってもよい。
合わせ面31A、31Bが形成された部分の少なくとも一方にエア抜き空間100が形成されていてもよい(図3参照)。エア抜き空間100は、フィン形状部分12を形成するための金型空間22Fの先端縁から間隔を離れた箇所で、当該金型空間22Fを囲むように形成された環状の環状空間101を含む。環状空間101は、外側通路102を通じて金型外空間に連通している。金型外空間に設けられたエア吸引装置によって、エアが吸引されてもよい。この場合、ガス抜き溝31G1、31G2内のエアは、エア吸引装置によって外側通路、環状空間101を介して吸引され、これにより、金型空間22内のガスがより効果的に吸引される。
上記鋳造用金型20を用いた鋳物10の製造方法について説明する。
上記ベース金型28、中間金型30、32、34、36及び上金型40を組合わせた状態で、それらの各金型面によって形成される金型空間22内に溶湯Lを流入させる(ステップ(a))。この際、低圧鋳造法によって本体部11側の下部に形成された供給口24から溶湯Lが供給されてもよい。
供給された溶湯Lは、図6に示すように、金型空間22を下側から上側に向けて順次満たしていく。1つのフィン形状部分12を形成する金型面30A、30C間の空間22Fを例とすると、図6に示すように、溶湯Lは、当該空間22Fを基端側及び下側から順次満たしていく。このため、空間22F内において、溶湯は、ガスを空間22Fの先端側斜め上方に押出す。これにより、空間22F内のガスは、上側のガス抜き溝31G1、31G2を通って円滑に抜かれる。
本ステップにおいて、金型空間22から合わせ面31A、31Bの境界に向う溶湯Lの流れの方向Aが、その境界で開口するガス抜き溝31G1、31G2の開口が延びる方向に対して交わる方向となるように、金型空間22内に溶湯Lを流入させてもよい。
金型空間22内に溶湯Lが流入した後、金型空間22内の溶湯Lを冷却等によって凝固させる(ステップ(b))。この後、ベース金型28、中間金型30、32、34、36及び上金型40を分解し、各金型面から鋳物10を離型すると、鋳物10が製造される。
このように構成された鋳造用金型20及び鋳物10の製造方法によると、合わせ面31A、31B等の少なくとも一方に、交差しつつ金型面30A、30C等の間から外方に向う複数のガス抜き溝31G1、31G2が形成される。このため、ガス抜き効果が長期に亘って維持される。
比較のため、合わせ面に複数のガス抜き溝が互いに交差しないで並列状態で形成されている場合を想定する。この場合、いずれかのガス抜き溝の入口が塞がれてしまうと、そのガス抜き溝の全体をガス抜き経路として利用できなくなる。
これに対して、本実施形態では、金型空間22から外部に向うガス抜きの経路が多数形成されることになる。このため、複数のガス抜き溝31G1、31G2の一部の入口が塞がったとしても、ガス抜き経路として機能する経路が多数残存する。例えば、ガス抜き溝31G1、31G2のうち塞がれた入口よりも外側に位置する部分は、他の塞がれない入口を外部に連通させるガス抜き経路として利用され得る。これにより、ガス抜き効果が長期に亘って維持される。
このように本実施例の金型を用いることで、鋳造用金型における鋳物に対して発生するバリまたは逆バリなどの成形不具合を抑制することができる。このように成形不具合の発生を抑制することによって、成形後に成形不具合を解消するための後工程、たとえばバリ取り作業や逆バリ解消のための肉盛り作業を減らすことができる。このような後工程を減らすことで、単位時間あたりに製造可能な製品数を増やすことができ、製造コストの低減を図ることができる。
また本実施例の鋳物は、自動二輪車のエンジン部品のように、外観部品として用いられることで、性能とともに外観も重視される鋳物である。上述したように成形不具合(バリおよび逆バリ)の発生を防ぐことができるので、後工程を減らして、外観性が要求される品質を維持することができる。
また、ガス抜き溝31G1、31G2は、曲面を描きつつ凹む底面を含む曲面溝に形成されている。ガス抜き溝31G1、31G2が曲面溝であれば、ガス抜き路の断面積が大きく確保され易い。例えば、断面三角である三角溝と曲面溝とが同じ深さであるとすると、曲面溝の断面積の方が三角溝の断面積よりも大きくなる。よって、三角溝と曲面溝とでガス抜きのために同じ断面積を確保しようとすると、曲面溝の深さを三角溝の深さよりも小さくすることができる。曲面溝の深さを小さくすることができれば、バリが発生し難くなる。
ガス抜き溝31G1、31G2が曲面を描きつつ凹む底面を含む曲面溝に形成されていなくても、三角溝で形成した場合よりも、ガス抜き溝を浅く形成することができれば、バリが発生し難くなる。例えば、ガス抜き溝は、断面三角形の溝よりも外側に膨らんだ境界によって規定される溝であってもよい。例えば、ガス抜き溝は、断面四角形、断面五角形等、4つ以上の角を有する多角形の断面形状を有していてもよい。また、例えば、ガス抜き溝は、断面が直線と2つ以上の曲線との組合せによって規定される形状を有しており、断面三角溝よりも浅く形成されていてもよい。ガス抜き溝は、深さよりも溝幅が大きく形成されることで、浅く形成された溝であってもよい。ここで深さは最大深さであり、溝幅は合わせ面側に開口する開口幅である。
また、角を有する溝に比べて曲面溝は加工し易い。また、かかるガス抜き溝31G1、31G2に溶湯Lの凝固物が残存したとしても、容易に除去され得る。このため、ガス抜き溝31G1、31G2については、内面が角をなす溝と比較して、クリーニング性を高め易い。そして、ガス抜き溝31G1、31G2をきれいにクリーニングできる結果、鋳造用金型20による鋳造を繰返し行った場合において、ガス抜き溝31G1、31G2からの離型性を高めることができる。例えば、ガス抜き溝が、曲面で囲まれる溝、又は、曲面と平面とで囲まれる溝であれば、角を有する溝と比べて、クリーニング性を高め易い。
また、ガス抜き溝31G1、31G2が、合わせ面31B等の第1合わせ面に対して、上側にある合わせ面31A等の第2合わせ面に形成されているため、溶湯が金型空間22のうちフィン形状部分12を形成する部分に下側から流れ込むと、溶湯はガスを斜め上方に押出す。このガスは、上側の第2合わせ面に形成されたガス抜き溝31G1、31G2を通って円滑に押出される。
また、フィン形状部分12を金型形成するためには、溶湯Lは、狭い空間を通ってフィン形状部分12の先端に行渡る必要がある。溶湯Lがフィン形状部分12の全体に十分に行渡らなかったり、フィン形状部分12の先端に空気が溜ったりしまうと、フィン形状部分12の周囲、特に、先端部において凹み等の成形不良が生じ易い。そこで、ガス抜き溝31G1、31G2が、上金型面30C等の第1金型面と下金型面30A等の第2金型面との境界であって、フィン形状部分12の周囲から外方に向うように形成されていると、成形不良が生じ易い箇所で円滑にガス抜きをおこなうことができ、フィン形状部分12を良好に金型成形できる。
また、複数のガス抜き溝31G1、31G2は、上金型面30C等の第1金型面と下金型面30A等の第2金型面とに向けて開口する部分において、複数方向に延びているため、複数のガス抜き溝31G1、31G2は、フィン形状部分12の周囲の全体領域において開口することができる。
比較のため、複数のガス抜き溝が交差せず平行に延びるように形成されている場合を想定する。この場合、複数のガス抜き溝は金型空間に対して同一方向からのみ開口できる。例えば、複数のガス抜き溝が型抜き方向に沿って形成されているとすると、フィン形状部分12を形成するための金型空間の周囲のうち型抜き方向と直交する縁辺については、複数のガス抜き溝が狭い間隔で多数開口することができる。しかしながら、フィン形状部分12を形成するための金型空間の周囲のうち型抜き方向と平行又は小さい傾きの縁辺については、ガス抜き溝は開口することができないか、広い間隔で少ない数開口できるに過ぎない。
これに対して、複数のガス抜き溝31G1、31G2が交差しつつ直線状に延びて網目状に形成されていると、複数のガス抜き溝31G1、31G2は、フィン形状部分12を形作る金型空間22Fのうち型抜き方向Pに対して直交する縁辺に対しても型抜き方向Pに沿う縁辺に対しても、狭い間隔で開口することができる。このため、フィン形状部分12を形作る金型空間22Fの周囲全体の縁辺に、複数のガス抜き溝31G1、31G2が多く開口することができ、個々のガス抜き溝31G1、31G2の断面積が小さくても、多数散在するガス抜き溝31G1、31G2によって効果的にガス抜きを行うことができる。そして、個々のガス抜き溝31G1、31G2の断面積を小さくできる結果、ガス抜き溝31G1、31G2に溶湯が入り込み難くなり、予定外に発生する突起又は凹みが抑制される。
なお、鋳物10の形状は特に限定されない。鋳物は、フィン形状部分を有していなくてもよい。鋳物を形成するための鋳造用金型において、複数の金型が合さる部分に対して、上記ガス抜き溝に関する構成を適用することができる。
複数の金型の合わせ面は、水平方向に沿っている必要は無く、重力方向に沿っていてもよいし、重力方向及び水平方向の両方に対して傾いていてもよい。
本実施形態では、鋳造用金型20が6つの金型28、30、32、34、36、40の組合せによって構成される例が説明された。しかしながら、鋳造用金型を構成する金型の数は任意である。鋳造用金型は、2つの金型の組合せによって構成されていてもよい。また、複数の金型は、上下方向に組合わされられる必要は無く、水平方向、斜め方向に組合わせられてもよい。
本実施形態では、対向する合わせ面のうちの一方、ここでは、上側の合わせ面31A、41にガス抜き溝31G1、31G2が形成されている例で説明した。ガス抜き溝は、対向する第1合わせ面と第2合わせ面の少なくとも一方に形成されていてもよい。例えば、ガス抜き溝は、下側の第1合わせ面に形成されていてもよい。また、第1合わせ面に第1ガス抜き溝が形成され、第2合わせ面に第2ガス抜き溝が形成され、第1合わせ面と第2合わせ面とが対向した状態で、第1ガス抜き溝と第2ガス抜き溝とが交差する構成であってもよい。
本実施形態では、複数のガス抜き溝31G1、31G2が網目状に形成されている例を説明した。複数のガス抜き溝が交差しつつ金型面の間から外方に向う形状例は当該例に限られない。例えば、複数のガス抜き溝が蛇行して交差し合いつつ金型面の間から外方に向ってもよい。
ガス抜き溝31G1、31G2は、曲面溝でなくてもよい。ガス抜き溝は、横断面三角形状又は四角形状の溝であってもよい。
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
本実施形態では、鋳造用金型はフィン形状部分を成形するための金型に用いられたが本発明は他の部分の成形にも適用されてもよい。鋳物は、シリンダーヘッド以外のエンジン部品でもよいし、エンジン以外の部品でも本発明を適用することできる。本発明は、薄肉形状および小径形状部分のように、先端部にガスが押込まれる可能性がある部分を形成するための金型に好適に用いられる。たとえば、フィン形状部分のほか、ブレード部分、鍔部分、針状部分などの突出部分でもあっても同様に本発明を適用することができる。このような製品であっても、先端部のガス抜きを図るともに、成形不良を防ぐことができ、好適に用いることができる。
本実施形態の金属型は一例であり、他の形態でもよい。すなわち2つの金型によって突出部分を成形する場合に本発明を適用することができる。突出部分を規定する空間を2つの金型で形成する。また、溶湯が流れて行き止まりとなる突出部分の先端部に対向するように上述したガス抜き溝が形成される。
ガス抜き溝は、直線形状の他、曲線状に延びるように形成されてもよい。ガス抜き溝が形成される領域の外側に通路面積が大きいガス通路が形成されてもよい。これによってガスが抜け出す通路をコントロールしやすくすることができ、金型外空間からのガスの吸引を図りやすくすることができる。本実施形態では、ガス抜き溝は、上下において対向する金型の両方に形成された例が説明されたが、ガス抜き溝は、上下型の下側又は上側の金型のみに形成されてもよい。
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
以上に説明したように、本明細書は、下記の各態様を含んでいる。
第1の態様は、第1金型面と第1合わせ面とを有する第1金型部品と、第2金型面と第2合わせ面とを有し、前記第1金型面と連続するように前記第2金型面を配設すると共に、前記第1合わせ面に対して前記第2合わせ面を対向させた状態で、前記第1金型部品と組合わされる第2金型部品と、を備え、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面の少なくとも一方に、交差しつつ前記第1金型面と前記第2金型面との間から外方に向う複数のガス抜き溝が形成されている、鋳造用金型である。
このように、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面の少なくとも一方に、交差しつつ前記第1金型面と前記第2金型面との間から外方に向う複数のガス抜き溝が形成されているため、ガス抜きの経路が多数形成されることなる。ガス抜き溝が交差する位置でガス抜きの経路が合流分岐することになる。このため、複数のガス抜き溝のうちの一部の入口が溶湯で塞がったとしても、交差位置の下流側経路をガス抜き経路として機能させることができる。これにより、ガス抜き効果が長期に亘って維持される。また、一部の入口が溶湯で塞がることを許容する分、入口の開口を小さくすることができる。これによって溶湯が入り込み難い。このため、予定外に発生する突起又は凹みが抑制される。
第1の態様の観点かららは、ガス抜き溝の断面形状は限定されず、曲面溝であっても、角を有する溝であってもよい。
第2の態様のように、第1の態様に係る鋳造用金型であって、前記複数のガス抜き溝は、曲面を描きつつ凹む底面を含む曲面溝を含むようにしてもよい。断面三角溝と曲面溝とで同じ断面積の確保しようとする場合、曲面溝の深さを断面三角溝の深さよりも小さくすることができる。曲面溝の深さを小さくすることができれば、さらに溶湯が入り込み難くなり、予定外に発生する突起又は凹みがさらに抑制される。
第3の態様は、第1又は第2の態様に係る鋳造用金型であって、前記第2金型面は、前記第1金型面に対して上側に対向して配置され、前記複数のガス抜き溝は、前記第2合わせ面に形成されたものを含む。この場合、ガス抜き溝が上側にあるため、第1金型面と第2金型面との間の金型空間に下側から流れ込む溶湯は、ガスを斜め上方に押出す。このガスは、上側にあるガス抜き溝によって円滑に押出される。もって、ガスが金型空間に残り難くなる。
第4の態様は、鋳物におけるフィン形状部分を金型形成するための第1から第3のいずれか1つの態様に係る鋳造用金型であって、前記第1金型面は、前記フィン形状部分の一方面側を形成する第1フィン形成金型面を含み、前記第2金型面は、前記フィン形状部分の他方面側を形成する第2フィン形成金型面を含み、前記複数のガス抜き溝は、前記第1金型面と前記第2金型面との境界であって、前記フィン形状部分の周囲から外方に向うように形成されているものである。フィン形状部分を金型成形するためには、溶湯は狭い空間を通ってフィン形状部分の先端に行渡るとよい。溶湯がフィン形状部分に十分に行渡らなかったり、フィン形状部分の先端に空気が溜ったりすると、フィン形状部分の周囲、特に、先端部において凹み等の成形不良が生じ易い。この部分において、円滑にガス抜きを行うことで、フィン形状部分を良好に金型成形できる。
第5の態様は、第1から第4のいずれか1つの態様に係る鋳造用金型であって、前記複数のガス抜き溝は、前記第1金型面と前記第2金型面とに向けて開口する部分において、複数方向に延びるものを含む。この場合、金型空間の周囲であって第1金型面と前記第2金型面とが合さる部分の全体において、複数のガス抜き溝が金型空間に向けて開口し、ガス抜きが効率よく行われる。これにより、ガス抜き溝の入口の開口を小さくすることができる。これによって溶湯が入り込み難い。このため、予定外に発生する突起又は凹みが抑制される。
また、第6の態様に係る鋳物の製造方法は、第1金型面と第1合わせ面とを有する第1金型部品と、第2金型面と第2合わせ面とを有し、前記第1金型面と連続するように前記第2金型面を配設すると共に、前記第1合わせ面に対して前記第2合わせ面を対向させた状態で、前記第1金型部品と組合わされる第2金型部品と、を備え、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面の少なくとも一方に、交差しつつ前記第1金型面と前記第2金型面との間から外方に向う複数のガス抜き溝が形成されている、鋳造用金型を用いた鋳物の製造方法であって、(a)前記第1金型部品と前記第2金型部品とを組合わせた状態で、前記第1金型面と前記第2金型面との内側に形成される金型空間内に溶湯が流入するステップと、(b)前記金型空間内の溶湯が凝固するステップと、を備える。この製造方法によると、形状不良が少ない鋳物を製造できる。