<第1実施形態>
以下、本発明に係る制御回路を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る制御回路は、電力変換器としての3相インバータに適用される。本実施形態において、インバータを備える制御システムは、電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載される。
図1に示すように、制御システムは、回転電機10及びインバータ15を備えている。回転電機10は、車載主機であり、そのロータが図示しない駆動輪と動力伝達可能とされている。本実施形態では、回転電機10として、同期機が用いられており、より具体的には、永久磁石同期機が用いられている。
インバータ15は、スイッチングデバイス部16を備えている。スイッチングデバイス部16は、上アームスイッチSWHと下アームスイッチSWLとの直列接続体を3相分備えている。各相において、上,下アームスイッチSWH,SWLの接続点には、回転電機10の巻線11の第1端が接続されている。各相巻線11の第2端は、中性点で接続されている。各相巻線11は、電気角で互いに120°ずらされて配置されている。ちなみに、本実施形態では、各スイッチSWH,SWLとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、より具体的には、IGBTが用いられている。上,下アームスイッチSWH,SWLには、フリーホイールダイオードである上,下アームダイオードDH,DLが逆並列に接続されている。
各上アームスイッチSWHの高電位側端子であるコレクタには、高電位側電気経路22Hを介して、高圧電源30の正極端子が接続されている。各下アームスイッチSWLの低電位側端子であるエミッタには、低電位側電気経路22Lを介して、高圧電源30の負極端子が接続されている。本実施形態において、高圧電源30は、2次電池であり、その出力電圧(定格電圧)が例えば百V以上である。
高電位側電気経路22Hには、第1遮断スイッチ23aが設けられ、低電位側電気経路22Lには、第2遮断スイッチ23bが設けられている。各スイッチ23a,23bは、例えば、リレー又は半導体スイッチング素子である。ここで、各スイッチ23a,23bは、インバータ15が備える制御回路50によって駆動されてもよいし、制御回路50に対して上位の制御装置によって駆動されてもよい。
インバータ15は、「蓄電部」としての平滑コンデンサ24を備えている。平滑コンデンサ24は、高電位側電気経路22Hのうち第1遮断スイッチ23aよりもスイッチングデバイス部16側と、低電位側電気経路22Lのうち第2遮断スイッチ23bよりもスイッチングデバイス部16側とを電気的に接続している。
制御システムは、車載電気機器25を備えている。電気機器25は、例えば、電動コンプレッサ及びDCDCコンバータのうち少なくとも一方を含む。電動コンプレッサは、車室内空調装置を構成し、車載冷凍サイクルの冷媒を循環させるべく、高圧電源30から給電されて駆動される。DCDCコンバータは、高圧電源30の出力電圧を降圧して車載低圧負荷に供給する。低圧負荷は、図2に示す低圧電源31を含む。本実施形態において、低圧電源31は、その出力電圧(定格電圧)が高圧電源30の出力電圧(定格電圧)よりも低い電圧(例えば12V)の2次電池であり、例えば鉛蓄電池である。
図2を用いて、制御回路50の構成について説明する。制御回路50は、入力回路60及び低圧電源回路61を備えている。入力回路60には、低圧電源31の正極端子が接続されている。低圧電源31の負極端子には、接地部位としてのグランドが接続されている。低圧電源回路61は、入力回路60が出力する第1電圧V1を降圧することにより、第2電圧V2(例えば5V)を生成する。
制御回路50は、マイコン62を備えている。マイコン62は、CPUと、それ以外の周辺回路とを備えている。周辺回路には、例えば、外部と信号をやり取りするための入出力部と、AD変換部とが含まれている。マイコン62には、低圧電源回路61の第2電圧V2が供給される。これにより、マイコン62が動作可能とされる。
マイコン62は、回転電機10の制御量をその指令値に制御すべく、スイッチングデバイス部16の各スイッチSWH,SWLに対するスイッチング指令を生成する。制御量は、例えばトルクである。マイコン62は、制御量をその指令値に制御すべく、各相において、上アームスイッチSWHと、下アームスイッチSWLとを交互にオンする通常時駆動制御を行うためのスイッチング指令を生成する。
制御回路50は、絶縁電源70、上アームドライバ71及び下アームドライバ72を備えている。本実施形態において、上アームドライバ71は、各上アームスイッチSWHに対応して個別に設けられ、下アームドライバ72は、各下アームスイッチSWLに対応して個別に設けられている。このため、ドライバ71,72は合わせて6つ設けられている。
絶縁電源70は、入力回路60の第1電圧V1に基づいて、上アームドライバ71に供給する上アーム駆動電圧VdHと、下アームドライバ72に供給する下アーム駆動電圧VdLとを生成して出力する。絶縁電源70及び各ドライバ71,72は、制御回路50において、低圧領域と、低圧領域とは電気的に絶縁された高圧領域との境界を跨いで低圧領域及び高圧領域に設けられている。具体的には、絶縁電源70は、3相の上アームドライバ71それぞれに対して個別に設けられた上アーム絶縁電源と、3相の下アームドライバ72に共通の下アーム絶縁電源とを備えている。なお、下アーム絶縁電源は、3相の下アームドライバ72それぞれに対して個別に設けられていてもよい。
続いて、図3を用いて、上,下アームドライバ71,72について説明する。
上アームドライバ71は、「駆動部」としての上アーム駆動部71aと、上アーム絶縁伝達部71bとを備えている。上アーム駆動部71aは、高圧領域に設けられている。上アーム絶縁伝達部71bは、低圧領域と高圧領域との境界を跨いで低圧領域及び高圧領域に設けられている。上アーム絶縁伝達部71bは、低圧領域及び高圧領域の間を電気的に絶縁しつつ、マイコン62から出力されたスイッチング指令を上アーム駆動部71aに伝達する。上アーム絶縁伝達部71bは、例えば、フォトカプラ又は磁気カプラである。
上アームドライバ71のうち、上アーム駆動部71a及び上アーム絶縁伝達部71bの高圧領域側の構成等は、絶縁電源70の上アーム駆動電圧VdHが供給されることにより動作可能に構成されている。上アームドライバ71のうち、上アーム絶縁伝達部71bの低圧領域側の構成等は、低圧電源回路61の第2電圧V2が供給されることにより動作可能に構成されている。
上アーム駆動部71aは、入力されたスイッチング指令がオン指令である場合、上アームスイッチSWHのゲートに充電電流を供給する。これにより、上アームスイッチSWHのゲート電圧VgHが閾値電圧Vth以上となり、上アームスイッチSWHがオンされる。一方、上アーム駆動部71aは、入力されたスイッチング指令がオフ指令である場合、上アームスイッチSWHのゲートからエミッタ側へと放電電流を流す。これにより、上アームスイッチSWHのゲート電圧VgHが閾値電圧Vth未満となり、上アームスイッチSWHがオフされる。
下アームドライバ72は、「駆動部」としての下アーム駆動部72aと、下アーム絶縁伝達部72bとを備えている。
下アームドライバ72のうち、下アーム駆動部72a及び下アーム絶縁伝達部72bの高圧領域側の構成等は、絶縁電源70の下アーム駆動電圧VdLが供給されることにより動作可能に構成されている。下アームドライバ72のうち、下アーム絶縁伝達部72bの低圧領域側の構成等は、低圧電源回路61の第2電圧V2が供給されることにより動作可能に構成されている。
下アーム駆動部72aは、入力されたスイッチング指令がオン指令である場合、下アームスイッチSWLのゲートに充電電流を供給する。これにより、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLが閾値電圧Vth以上となり、下アームスイッチSWLがオンされる。一方、下アーム駆動部72aは、入力されたスイッチング指令がオフ指令である場合、下アームスイッチSWLのゲートからエミッタ側へと放電電流を流す。これにより、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLが閾値電圧Vth未満となり、下アームスイッチSWLがオフされる。
図2及び図3を用いて、制御回路50のうち高圧領域の構成について説明する。
制御回路50は、異常用電源80及び信号用電源81を備えている。異常用電源80及び信号用電源81は高圧領域に設けられている。異常用電源80は、平滑コンデンサ24の出力電圧VHが供給されることにより、異常用駆動電圧Vepsを生成する。異常用駆動電圧Vepsは、信号用電源81に供給される。
信号用電源81は、異常用電源80の異常用駆動電圧Vepsが供給されることにより、ASC指令電圧Vsを生成する。ASC指令電圧Vsは、ASC(Active Short Circuit)制御を実施する旨を下アーム駆動部72aへと伝達する信号である。ASC制御とは、3相分の下アームスイッチSWLがオンされ、3相分の上アームスイッチSWHがオフされる制御である。本実施形態において、ASC指令電圧Vsは、下アーム駆動電圧VdL(例えば15V)よりも低い電圧に設定されている。なお、本実施形態において、異常用電源80が「駆動電源」に相当し、ASC制御が「短絡制御」に相当する。
制御回路50は、その高圧領域に、通常用電源経路85、通常用ダイオード86、異常用電源経路87及び異常用ダイオード88を備えている。通常用電源経路85は、絶縁電源70の出力側と下アーム駆動部72aとを接続し、下アーム駆動電圧VdLを下アーム駆動部72aに供給する。通常用ダイオード86は、アノードが絶縁電源70の出力側に接続された状態で、通常用電源経路85の中間位置に設けられている。
通常用電源経路85のうち通常用ダイオード86よりも下アーム駆動部72a側と、異常用スイッチ84のコレクタとは異常用電源経路87により接続されている。異常用ダイオード88は、アノードが異常用スイッチ84のコレクタに接続された状態で、異常用電源経路87上に設けられている。異常用スイッチ84のエミッタは異常用電源80の出力側に接続されている。異常用電源80の異常用駆動電圧Vepsは、異常用スイッチ84、異常用ダイオード88、異常用電源経路87及び通常用電源経路85を介して、下アーム駆動部72aに供給される。
本実施形態において、異常用電源80は常時起動の構成とされている。詳しくは、異常用電源80は、平滑コンデンサ24の出力電圧VHが供給され、自身の入力電圧が上昇し始めてから、その入力電圧が平滑コンデンサ24の出力電圧VHに到達するよりも前の期間のうち、その入力電圧が規定電圧に到達するタイミングで起動する。その後、異常用電源80は異常用駆動電圧Vepsを生成する。本実施形態において、異常用電源80の起動とは、異常用電源80が異常用駆動電圧Vepsを目標値に制御し始めることである。この制御が開始されることにより、異常用駆動電圧Vepsが目標値に向かって上昇し始める。規定電圧に到達するタイミングで異常用電源80を起動させることにより、異常用電源80の異常用駆動電圧Vepsが早期に制御可能な状態とされる。本実施形態では、この状態を、異常用電源80が常時起動されている状態とする。なお、異常用電源80として、スイッチング電源又はシリーズ電源等、種々の電源が用いられる。
制御回路50は、その高圧領域に、判定部82、信号伝達部83及び異常用スイッチ84を備えている。判定部82には、絶縁電源70の下アーム駆動電圧VdL及び平滑コンデンサ24の出力電圧VHが入力される。判定部82は、絶縁電源70の下アーム駆動電圧VdL及び平滑コンデンサ24の出力電圧VHに基づいて、ASC制御を実施するか否かを判定する。判定部82は、ASC制御を実施しないと判定した場合、判定部82の出力電圧レベルVjをHにする。一方、判定部82は、ASC制御を実施すると判定した場合、判定部82の出力電圧レベルVjをHからLに切り替える。
例えば、判定部82は、検出した下アーム駆動電圧VdLが低下し始めた後、検出した下アーム駆動電圧VdLが第1ASC判定値Vpを下回った場合に、ASC制御を実施すると判定してもよい。ここで、第1ASC判定値Vpは、上アームスイッチSWHがオフするまでの十分な期間が経過したと判定できる値に設定され、例えば、上記閾値電圧Vthと同じ値又は閾値電圧Vth未満の値に設定されていればよい。
また、例えば、判定部82は、検出した平滑コンデンサ24の出力電圧VHが第2ASC判定値Vqを上回った場合に、ASC制御を実施すると判定してもよい。ここで、第2ASC判定値Vqは、高圧電源30の直流電圧が大きく上昇し、高圧電源30、インバータ15及び電気機器25のうち少なくとも1つが、故障する可能性があることを判定できる値に設定されていればよい。
信号伝達部83には、信号用電源81のASC指令電圧Vsが供給される。下アームドライバ72は、第1~第4端子T1~T4を備えている。判定部82の出力電圧レベルVjがLにされた場合、ASC指令電圧Vsは、信号伝達部83を介して、下アームドライバ72に設けられている第1~第4端子T1~T4へと供給される。第1~第4端子T1~T4及び信号伝達部83については後述する。
異常用スイッチ84は、PNP型のバイポーラトランジスタである。異常用スイッチ84のベースは、判定部82の出力側に接続されている。判定部82の出力電圧レベルVjがLにされることで、異常用スイッチ84がオンされる。
続いて、図4を用いて、信号伝達部83及びその周辺構成について説明する。
下アームドライバ72は、第1~第4端子T1~T4を備えている。インバータ15は、温度検出部90及び第1信号伝達経路91を備えている。温度検出部90は、定電流源90a及び感温ダイオード90bを有している。感温ダイオード90bは、下アームスイッチSWLの温度に基づいて、順方向電圧Vfを変化させる半導体温度センサである。感温ダイオード90bのアノードが定電流源90aに接続され、感温ダイオード90bのカソードがグランドに接続されている。第1信号伝達経路91は、信号伝達部83を介して、感温ダイオード90bのアノードと、第1端子T1とを接続する。これにより、感温ダイオード90bの順方向電圧Vfが第1端子T1に伝達される。
第1端子T1に入力された順方向電圧Vfは、第1電圧信号VT1として、下アーム駆動部72aへと伝達される。下アーム駆動部72aは、第1電圧信号VT1に基づいて、下アームスイッチSWL及びその周辺構成の断線異常や下アームスイッチSWLの過熱異常を判定する。
インバータ15は、電圧検出回路92及び第2信号伝達経路93を備えている。電圧検出回路92は、下アームスイッチSWLのゲートに接続されている。電圧検出回路92は、下アーム駆動部72aが第2端子T2を介して下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLを検出可能とするために設けられており、例えば分圧用の抵抗体で構成されている。第2信号伝達経路93は、信号伝達部83を介して、電圧検出回路92と第2端子T2とを接続する。電圧検出回路92には、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLが入力される。電圧検出回路92は、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLを変圧(降圧)した監視用電圧を第2端子T2へと出力する。
第2端子T2に入力された監視用電圧は、第2電圧信号VT2として、下アーム駆動部72aへと伝達される。下アーム駆動部72aは、第2電圧信号VT2に基づいてオフ保持処理を行う。この処理は、下アームスイッチSWLのセルフターンオンの発生を防止すべく、下アーム駆動部72aに入力されたスイッチング指令がオフ指令の場合に下アームスイッチSWLのゲート及びエミッタを短絡する処理である。セルフターンオンとは、スイッチをオフに維持したいにもかかわらず、スイッチが誤ってオンに切り替えられてしまう現象である。
インバータ15は、センス抵抗体94及び第3信号伝達経路95を備えている。下アームスイッチSWLは、センス端子Stを備えている。センス端子Stには、下アームスイッチSWLのエミッタ電流と相関を有する微小電流が流れる。センス端子Stには、センス抵抗体94の第1端が接続され、センス抵抗体94の第2端には、グランドが接続されている。第3信号伝達経路95は、信号伝達部83を介して、センス抵抗体94の第1端と、第3端子T3とを接続する。
この構成によれば、センス端子Stに流れる微小電流によってセンス抵抗体94に電圧降下が生じる。このため、センス抵抗体94の電圧差(以下、センス電圧Vse)を、エミッタ電流の相関値として用いることができる。このセンス電圧Vseは、第3端子T3に入力される。
第3端子T3に入力されたセンス電圧Vseは、第3電圧信号VT3として、下アーム駆動部72aへと伝達される。下アーム駆動部72aは、第3電圧信号VT3に基づいて、下アームスイッチSWLの過電流異常又は短絡異常を判定する。ここで、短絡異常は、例えば、上下アーム短絡、相関短絡又は地絡によって発生する。
信号伝達部83は、第1抵抗体96、第1コンデンサ97及び第1指令用スイッチ98を備えている。第1指令用スイッチ98はPNP型のバイポーラトランジスタである。第1抵抗体96の第1端は、判定部82の出力側に接続されている。第1抵抗体96の第2端は、第1指令用スイッチ98のベース及び第1コンデンサ97の第1端に接続されている。第1コンデンサ97の第2端は、グランドに接続されている。第1指令用スイッチ98のエミッタは、信号用電源81の出力側に接続されている。第1指令用スイッチ98のコレクタは、第1信号伝達経路91を介して、第1端子T1に接続されている。
ASC制御を実施すると判定される前では、判定部82の出力電圧レベルVjがHであり、第1指令用スイッチ98がオフされている。そのため、第1端子T1には、感温ダイオード90bの順方向電圧Vfが入力される。一方、ASC制御を実施すると判定された場合、判定部82の出力電圧レベルVjがLに切り替えられ、第1指令用スイッチ98がオンに切り替えられる。これにより、信号用電源81のASC指令電圧Vsが第1端子T1へと入力される。第1端子T1は、順方向電圧Vf又はASC指令電圧Vsを下アーム駆動部72aへと伝達する。本実施形態において、ASC指令電圧Vsが「短絡指令」に相当する。
信号伝達部83は、第2抵抗体99、第2コンデンサ100及び第2指令用スイッチ101を備えている。第2指令用スイッチ101はPNP型のバイポーラトランジスタである。第2抵抗体99の第1端は、判定部82の出力側に接続されている。第2抵抗体99の第2端は、第2指令用スイッチ101のベース及び第2コンデンサ100の第1端に接続されている。第2コンデンサ100の第2端は、グランドに接続されている。第2指令用スイッチ101のエミッタは、信号用電源81に接続されている。第2指令用スイッチ101のコレクタは、第2信号伝達経路93を介して、第2端子T2に接続されている。
ASC制御を実施すると判定される前では、判定部82の出力電圧レベルVjがHであり、第2指令用スイッチ101がオフされている。そのため、第2端子T2には、電圧検出回路92の監視用電圧が入力される。一方、ASC制御を実施すると判定された場合、判定部82の出力電圧レベルVjがLに切り替えられ、第2指令用スイッチ101がオンに切り替えられる。これにより、信号用電源81のASC指令電圧Vsが第2端子T2へと入力される。第2端子T2は、監視用電圧又はASC指令電圧Vsを下アーム駆動部72aへと伝達する。
信号伝達部83は、第3抵抗体102、第3コンデンサ103及び第3指令用スイッチ104を備えている。第3指令用スイッチ104はPNP型のバイポーラトランジスタである。第3抵抗体102の第1端は、判定部82の出力側に接続されている。第3抵抗体102の第2端は、第3指令用スイッチ104のベース及び第3コンデンサ103の第1端に接続されている。第3コンデンサ103の第2端は、グランドに接続されている。第3指令用スイッチ104のエミッタは、信号用電源81に接続されている。第3指令用スイッチ104のコレクタは、第3信号伝達経路95を介して、第3端子T3に接続されている。
ASC制御を実施すると判定される前では、判定部82の出力電圧レベルVjがHであり、第3指令用スイッチ104がオフされている。そのため、第3端子T3には、センス電圧Vseが入力される。一方、ASC制御を実施すると判定された場合、判定部82の出力電圧レベルVjがLに切り替えられ、第3指令用スイッチ104がオンに切り替えられる。これにより、信号用電源81のASC指令電圧Vsが第3端子T3へと入力される。第3端子T3は、センス電圧Vse又はASC指令電圧Vsを下アーム駆動部72aへと伝達する。
信号伝達部83は、第4抵抗体105、第4コンデンサ106、第4指令用スイッチ107、第1分圧用抵抗体108及び第2分圧用抵抗体109を備えている。第4指令用スイッチ107はPNP型のバイポーラトランジスタである。第4抵抗体105の第1端は、判定部82の出力側に接続されている。第4抵抗体105の第2端は、第4指令用スイッチ107のベース及び第4コンデンサ106の第1端に接続されている。第4コンデンサ106の第2端は、グランドに接続されている。第4指令用スイッチ107のエミッタは、信号用電源81及び第1分圧用抵抗体108の第1端に接続されている。第1分圧用抵抗体108の第2端は、第4指令用スイッチ107のコレクタ、第2分圧用抵抗体109の第1端及び第4端子T4に接続されている。第2分圧用抵抗体109の第2端は、グランドに接続されている。
ASC制御を実施すると判定される前では、判定部82の出力電圧レベルVjがHであり、第4指令用スイッチ107がオフされている。そのため、第4端子T4には、信号用電源81のASC指令電圧Vsが第1,第2分圧用抵抗体108,109により分圧され、その分圧電圧が入力される。第4端子T4は、分圧電圧を下アーム駆動部72aへと伝達する。下アーム駆動部72aは、分圧電圧に基づいて、過電流閾値Voc及び短絡閾値Vscといった保護閾値を設定する。一方、ASC制御を実施すると判定された場合、判定部82の出力電圧レベルVjがLに切り替えられ、第4指令用スイッチ107がオンに切り替えられる。これにより、ASC指令電圧Vsが第4指令用スイッチ107を介して、第4端子T4へと入力される。第4端子T4は、分圧電圧又はASC指令電圧Vsを下アーム駆動部72aへと伝達する。
続いて、図5~図8を用いて、第1~第4端子T1~T4に入力される電圧信号の説明を行う。
図5を用いて、第1端子T1に入力される第1電圧信号VT1について説明する。第1電圧信号VT1の取り得る電圧範囲は、0Vから第1最大電圧VT1aまでの電圧範囲である。本実施形態において、0Vは、下アームスイッチSWLのエミッタの電位とする。また、本実施形態において、第1最大電圧VT1aは、ASC指令電圧Vs(例えば5V)である。第1電圧信号VT1の取り得る電圧範囲内には、過熱閾値Vh、及び過熱閾値Vhよりも高い断線閾値Vdが設定されている。第1電圧信号VT1が過熱閾値Vhを下回ることで、下アームスイッチSWLに過熱異常が発生していると判定される。また、第1電圧信号VT1が断線閾値Vdを上回ることにより、下アーム駆動部72aにより下アームスイッチSWL又はその周辺構成に断線異常が発生していると判定される。断線異常又は過熱異常が発生したと判定された場合、下アーム駆動部72aは保護動作を行う。保護動作として、例えば、下アーム駆動部72aは、下アームスイッチSWLをオフにするシャットダウン制御を行う。なお、上アーム駆動部71aも、上アームスイッチSWHにおける断線異常又は過熱異常が発生したと判定された場合、シャットダウン制御を行う。
過熱閾値Vhよりも高く、かつ、断線閾値Vdよりも低い電圧範囲に、感温ダイオード90bにより検出可能な温度検出範囲RT1aが設定されている。温度検出範囲RT1aの上,下限値は、感温ダイオード90bの温度検出対象の信頼性を維持できる温度に基づいて設定されている。本実施形態において、温度検出範囲RT1aが「第1電圧範囲」に相当する。
過熱閾値Vhよりも低くて、かつ、0Vよりも高い電圧として第1所定電圧VT1bが設定されている。第1所定電圧VT1bから過熱閾値Vhまでの電圧範囲が過熱異常範囲RT1hである。断線閾値Vdよりも高くて、かつ、第1最大電圧VT1aよりも低い電圧として第2所定電圧VT1cが設定されている。第2所定電圧VT1cは、例えば、下アームスイッチSWL又はその周辺構成に断線異常が発生したとしても検出されない電圧値である。断線閾値Vdから第2所定電圧VT1cまでの電圧範囲が断線異常範囲RT1dである。本実施形態において、過熱異常範囲RT1h及び断線異常範囲RT1dが「第1電圧範囲」に相当する。
第1電圧信号VT1の取り得る電圧範囲のうち、0Vから第1所定電圧VT1bまでの電圧範囲を低圧側ASC範囲RT1bLとする。また、第1電圧信号VT1の取り得る電圧範囲のうち、第2所定電圧VT1cから第1最大電圧VT1aまでの電圧範囲を高圧側ASC範囲RT1bHとする。本実施形態では、高圧側ASC範囲RT1bH内に第1ASC閾値Vasc1が設定され、具体的には、第1ASC閾値Vasc1が、高圧側ASC範囲RT1bの下限値である第2所定電圧VT1cに設定されている。第1端子T1を介して下アーム駆動部72aに入力される第1電圧信号VT1が第1ASC閾値Vasc1以上となることにより、ASC制御を実施する旨の信号(以下、ASC指令)が下アーム駆動部72aへと伝達される。なお、第1ASC閾値Vasc1が、高圧側ASC範囲RT1bHの中央値よりも下側の電圧範囲内に設定されることで、迅速にASC指令を下アーム駆動部72aに伝達できる。これは、中央値よりも下側の電圧範囲が温度検出範囲RT1aに近いためである。本実施形態において、高圧側ASC範囲RT1bHが「第2電圧範囲」に相当し、ASC指令が「短絡指令」に相当する。
図6を用いて、第2端子T2に入力される第2電圧信号VT2について説明する。第2電圧信号VT2の取り得る電圧範囲は、0Vから第2最大電圧VT2aまでの電圧範囲である。本実施形態において、第2最大電圧VT2aは、ASC指令電圧Vsである。0Vから第2最大電圧VT2aまでの電圧範囲内に、第2ASC閾値Vasc2が設定されている。第2ASC閾値Vasc2は、例えば、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLが取り得る範囲の上限値に基づいて設定されている。第2端子T2においては、0Vから第2ASC閾値Vasc2までの電圧範囲を監視用範囲RT2aとする。本実施形態において、監視用範囲RT2aが「第1電圧範囲」に相当する。
第2電圧信号VT2の取り得る電圧範囲のうち、第2ASC閾値Vasc2から第2最大電圧VT2aまでの電圧範囲が第2ASC範囲RT2bである。第2端子T2を介して下アーム駆動部72aに入力される第2電圧信号VT2が第2ASC閾値Vasc2以上となることにより、ASC指令が下アーム駆動部72aへと伝達される。本実施形態において、第2ASC範囲RT2bが「第2電圧範囲」に相当する。
図7を用いて、第3端子T3に入力される第3電圧信号VT3について説明する。第3電圧信号VT3の取り得る電圧範囲は、0Vから第3最大電圧VT3aまでの電圧範囲である。本実施形態において、第3最大電圧VT3aは、ASC指令電圧Vsである。0Vから第3最大電圧VT3aまでの電圧範囲内には、過電流閾値Voc、及び過電流閾値Vocよりも高い短絡閾値Vscが設定されている。第3電圧信号VT3が過電流閾値Vocより高く、かつ、短絡閾値Vscよりも低い電圧の場合、下アーム駆動部72aにより過電流異常が発生したと判定される。また、第3電圧信号VT3が短絡閾値Vscよりも高い電圧の場合、下アーム駆動部72aにより短絡異常が発生したと判定される。過電流異常又は短絡異常が発生したと判定された場合、下アーム駆動部72aは保護動作を行う。保護動作として、例えば、下アーム駆動部72aはシャットダウン制御を行う。
短絡閾値Vscよりも高い電圧として第3ASC閾値Vasc3が設定されている。第3ASC閾値Vasc3は、例えば、センス電圧Vseが取り得る範囲の上限値に基づいて設定される。0Vから第3ASC閾値Vasc3までの電圧範囲が過電流範囲RT3aとされている。本実施形態において、過電流範囲RT3aが「第1電圧範囲」に相当する。
第3電圧信号VT3の取り得る電圧範囲のうち、第3ASC閾値Vasc3から第3最大電圧VT3aまでの電圧範囲が第3ASC範囲RT3bとされている。第3端子T3を介して下アーム駆動部72aに入力される第3電圧信号VT3が第3ASC閾値Vasc3以上となることで、ASC指令が下アーム駆動部72aへと伝達される。本実施形態において、第3ASC範囲RT3bが「第2電圧範囲」に相当する。
図8を用いて、第4端子T4に入力される第4電圧信号VT4について説明する。第4電圧信号VT4の取り得る電圧範囲は、0Vから第4最大電圧VT4aまでの電圧範囲である。本実施形態において、第4最大電圧VT4aは、ASC指令電圧Vsである。0Vから第4最大電圧VT4aまでの電圧範囲内には、第4ASC閾値Vasc4が設定されている。0Vから第4ASC閾値Vasc4までの電圧範囲が閾値設定範囲RT4aとされている。本実施形態において、閾値設定範囲RT4aが「第1電圧範囲」に相当する。
第4電圧信号VT4の取り得る電圧信号のうち、第4ASC閾値Vasc4から第4最大電圧VT4aまでの電圧範囲が第4ASC範囲RT4bである。第4端子T4を介して下アーム駆動部72aに入力される第4電圧信号VT4が第4ASC閾値Vasc4以上となることで、ASC指令が下アーム駆動部72aへと伝達される。本実施形態において、第4ASC範囲RT4bが「第2電圧範囲」に相当する。
続いて、図9を用いて、制御回路50が実施する制御について説明する。この制御は所定周期で繰り返し実施される。
ステップS10において、判定部82は、下アーム駆動電圧VdLが第1ASC判定値Vpを下回っているか否か、又は平滑コンデンサ24の出力電圧VHが第2ASC判定値Vqを上回っているか否かを判定する。
ステップS10で否定判定された場合、ステップS11に進み、下アーム駆動部72aは通常時駆動制御又は保護動作を実施する。具体的には、下アーム駆動部72aは、第1端子T1に入力される第1電圧信号VT1が、過熱閾値Vhを下回って過熱異常が発生したと判定した場合、又は断線閾値Vdを上回って断線異常が発生したと判定した場合、保護動作としてのシャットダウン制御を実施する。また、下アーム駆動部72aは、第3端子T3に入力される第3電圧信号VT3が、過電流閾値Voc又は短絡閾値Vscを上回ったと判定した場合、保護動作としてのシャットダウン制御を実施する。下アーム駆動部72aは、過熱異常、断線異常又は過電流閾値Vocや短絡閾値Vscに基づく異常が発生していないと判定した場合、通常時駆動制御を実施する。
一方、ステップS10で肯定判定された場合、ステップS12に進み、判定部82は出力電圧レベルVjをLに切り替える。これにより、異常用スイッチ84及び第1~第4指令用スイッチ98,101,104,107がオンに切り替えられる。その結果、下アーム駆動部72aには、異常用電源80から異常用駆動電圧Vepsが供給される。また、第1~第4端子T1~T4には、ASC指令電圧Vsが入力される。
ステップS13において、下アーム駆動部72aは、各端子T1~T4に入力された各電圧信号VT1~VT4が、各ASC閾値Vasc1~Vasc4以上であるかを判定する。各端子T1~T4のうちいずれかの端子において、端子に入力される電圧信号が、対応するASC閾値以上でない場合、ステップS11に進む。一方、第1~第4端子T1~T4に入力される第1~第4電圧信号VT1~VT4全てが、第1~第4ASC閾値Vasc1~Vasc4以上である場合、ステップS14に進み、下アーム駆動部72aはASC制御を実施する。
本実施形態において、ASC制御は、通常時駆動制御又は保護動作よりも優先して実施される。詳しくは、下アーム駆動部72aは、ステップS11において通常時駆動制御又は保護動作を実施していたとしても、次の制御周期において、ステップS14に進む場合、ASC制御を実施する。
図10及び図11を用いて、制御回路50が行う制御についてさらに詳しく説明する。
図10は、低圧異常が発生して下アーム駆動電圧VdLが0Vまで低下する場合に、制御回路50が行う制御の一例である。ここで、低圧異常には、低圧電源31の異常と、絶縁電源70から電圧を出力できなくなる異常とが含まれる。絶縁電源70から電圧を出力できなくなる異常には、絶縁電源70の異常と、低圧電源31から絶縁電源70に給電できなくなる異常とが含まれる。ここで、低圧電源31から絶縁電源70に給電できなくなる異常は、例えば、入力回路60、低圧電源31から絶縁電源70までの電気経路が断線することで発生する。なお、上述した異常は、例えば車両の衝突により発生する。
図10において、(a)は下アーム駆動電圧VdLの推移を示し、(b)は出力電圧レベルVjの推移を示し、(c)は各電圧信号VT1~VT4の推移を示し、(d)は上アームスイッチSWHのゲート電圧VgHの推移を示し、(e)は下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLの推移を示す。なお、図10(c)では、便宜上、各電圧信号VT1~VT4の推移を1つのタイムチャートにまとめて示している。
時刻t1において、下アーム駆動電圧VdLが第1ASC判定値Vpを下回る。これに伴い、出力電圧レベルVjがHからLへ切り替えられる。これにより、異常用スイッチ84及び各指令用スイッチ98,101,104,107がオンに切り替えられる。その結果、異常用電源80の異常用駆動電圧Vepsが下アーム駆動部72aへと供給され、下アーム駆動部72aはASC制御を実行可能な状態となる。また、ASC指令電圧Vsが各端子T1~T4に入力されるため、各電圧信号VT1~VT4が上昇し始める。
時刻t2において、第1~第4電圧信号VT1~VT4が第1~第4ASC閾値Vasc1~Vasc4を上回る。これにより、各端子T1~T4から下アーム駆動部72aへとASC指令が伝達される。下アーム駆動部72aは、第1~第4端子T1~T4からASC指令を受け取った場合、第1~第4端子T1~T4のASC指令を受け取ったそれぞれの時刻のうち、最後のASC指令を受け取った時刻t2からフィルタ時間tdだけ経過した時刻t3において、ASC制御を開始する。そのため、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLが上昇し始める。一方、低圧異常が発生してから上アームスイッチSWHのゲート電圧VgHが低下し始め、時刻t2と時刻t3との間の時刻でオフされる。フィルタ時間tdは、上アームスイッチSWHがオフするまでの十分な期間を確保するために設けられている。これは、上下アーム短絡の発生を防止するためである。
時刻t4において、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLが閾値電圧Vthを上回ることにより、ASC制御が実施される。
図11は、平滑コンデンサ24の出力電圧VHが第2ASC判定値Vqを超えて上昇する過電圧異常が発生した場合に、制御回路50が行う制御の一例である。ここで、過電圧異常は、例えば、回転電機10等に異常が発生したと判定され、シャットダウン制御が行われることにより発生する。具体的には、シャットダウン制御が行われる場合において、回転電機10を構成するロータの回転によって巻線11に逆起電圧が発生していると、巻線11の線間電圧が、平滑コンデンサ24の出力電圧VHよりも高くなることがある。線間電圧が高くなる状況は、例えば、ロータの界磁磁束量が大きかったり、ロータの回転速度が高かったりする場合に発生し得る。この状況では、上,下アームスイッチSWH,SWLに逆並列に接続された上,下アームダイオードDH,DL、巻線11及び平滑コンデンサ24を含む閉回路に巻線11で発生した誘起電流が流れる回生が実施される。その結果、平滑コンデンサ24の出力電圧VHが第2ASC判定値Vqを超えて上昇し、過電圧異常となる。
図11において、(a)は平滑コンデンサ24の出力電圧VHの推移を示し、(b)~(e)は、先の図10(b)~(e)に対応している。
過電圧異常が発生し、時刻t1において平滑コンデンサ24の出力電圧VHが第2ASC判定値Vqを上回る。これに伴い、出力電圧レベルVjがHからLへ切り替えられる。これにより、第1~第4指令用スイッチ98,101,104,107がオンに切り替えられるため、各電圧信号VT1~VT4が上昇し始める。その後の時刻t2~時刻t4までの制御は、先の図11と同様であるため説明を省略する。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
下アームドライバ72は第1~第4端子T1~T4を有する。ASC制御を実施すると判定された場合、第1~第4端子T1~T4に入力される第1~第4電圧信号VT1~VT4に基づき、ASC指令が下アーム駆動部72aへと伝達される。下アーム駆動部72aは、第1~第4端子T1~T4全てからASC指令を受信した場合、ASC制御を実施する。このため、下アームドライバ72にASC指令を受信する1つの端子が設けられている構成と比較して、制御回路50に誤動作が生じることを抑制することができる。
例えば、第1~第4端子T1~T4のうちいずれか1つの端子に入力される電圧信号が、ASC制御を実施すべき状況でないにもかかわらず、ASC指令電圧Vsに固着した場合について説明する。この場合、第1~第4端子T1~T4のうち固着した電圧信号が入力される端子以外の端子にASC指令電圧Vsが入力されなければ、ASC制御が実施されない。そのため、1つの電圧端子にASC指令電圧Vsが入力されることでASC制御が実施される構成よりも、制御回路50にASC制御の不要作動が生じることを抑制することができる。
判定部82によりASC制御を実施すると判定された場合であっても、各電圧信号VT1~VT4の少なくとも1つの端子の異常により、複数の端子T1~T4のうち少なくとも1つの端子からASC指令が出力されない場合がある。
そこで、下アーム駆動部72aは、全ての端子T1~T4からASC指令を受信した場合のみASC制御を実施し、それ以外の場合では、ASC制御を実施せず、通常時駆動制御又は保護動作を実施する構成とした。これにより、制御回路50に異常が発生している可能性がある状況で、ASC制御が誤って実施されることを防止できる。
本実施形態の制御回路50とは異なり、ASC指令のみを伝達する専用端子が制御回路50に複数設けられる構成においては、下アームドライバ72に設けられる端子の数が増加してしまう。
そこで、本実施形態では、端子の数を削減すべく、各端子T1~T4に入力される各電圧信号VT1~VT4の電圧範囲が以下のように設定される構成とした。詳しくは、第1電圧信号VT1の電圧範囲には、温度検出範囲RT1a、過熱異常範囲RT1h、断線異常範囲RT1d及び各ASC範囲RT1bH,RT1bLが設けられる。第2電圧信号VT2の電圧範囲には、監視用範囲RT2a及び第2ASC範囲RT2bが設けられる。第3電圧信号VT3には、過電流範囲RT3a及び第3ASC範囲RT3bが設けられる。第4電圧信号VT4には、閾値設定範囲RT4a及び第4ASC範囲RT4bが設けられる。この構成において、第1端子T1には、感温ダイオード90bの順方向電圧Vf又はASC指令電圧Vsが共通の第1端子T1に入力される。第2端子T2には、下アームスイッチSWLのゲート電圧VgLに基づく監視用電圧又はASC指令電圧Vsが共通の第2端子T2に入力される。第3端子T3には、センス電圧Vse又はASC指令電圧Vsが共通の第3端子T3に入力される。第4端子T4には、保護閾値を定めるための分圧電圧又はASC指令電圧Vsが共通の第4端子T4に入力される。そのため、ASC指令のみを伝達する専用端子が複数設けられる場合よりも、下アームドライバ72に設けられる端子の数を削減することができる。
ASC制御を実施するための構成である下アーム駆動部72a、第1~第4端子T1~T4、高圧電源30及び異常用電源80が、低圧領域とは電気的に絶縁された高圧領域に設けられる構成とした。このため、低圧異常が発生したとしても、ASC制御を実施することができる。
異常用電源80が常時起動される構成とした。これにより、異常用電源80が起動した後、常時、ASC指令電圧Vsが信号伝達部83へと供給される。そのため、判定部82によりASC制御を実施すると判定された後に異常用電源80を起動する場合と比較して、早期にASC指令電圧Vsを信号伝達部83へと供給することができる。その結果、ASC制御を迅速に実施することができる。
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図12に示すように、下アームドライバ72及び信号伝達部83の構成が一部変更されている。なお、図12において、先の図4に示した構成については、便宜上、同一の符号を付している。
図12に示すように、下アームドライバ72は、第5端子T5を備えている。第5端子T5は、ASC指令のみを下アーム駆動部72aへと伝達する専用端子である。第5端子T5は、信号伝達部83を介して、判定部82の出力側と接続されている。
信号伝達部83は、第5抵抗体110、第5コンデンサ111、第5指令用スイッチ112を備えている。第5指令用スイッチ112はPNP型のバイポーラトランジスタである。第5抵抗体110の第1端は、判定部82の出力側に接続されている。第5抵抗体110の第2端は、第5指令用スイッチ112のベース及び第5コンデンサ111の第1端に接続されている。第5コンデンサ111の第2端は、グランドに接続されている。第5指令用スイッチ112のエミッタは、信号用電源81に接続されている。第5指令用スイッチ112のコレクタは、第5端子T5に接続されている。
第5端子T5には、第5電圧信号VT5が入力される。第5電圧信号VT5が取り得る電圧範囲には、第5ASC閾値Vasc5が設定されている。ASC制御を実施すると判定される前では、判定部82の出力電圧レベルVjがHであり、第5指令用スイッチ112がオフされている。そのため、第5端子T5には、第5ASC閾値Vasc5より低い電圧が入力される。よって、ASC指令が下アーム駆動部72aへと伝達されない。一方、ASC制御を実施すると判定された場合、判定部82の出力電圧レベルVjがLに切り替えられ、第5指令用スイッチ112がオンに切り替えられる。これにより、信号用電源81のASC指令電圧Vsが第5端子T5へと入力されるため、第5端子T5には、第5ASC閾値Vasc5よりも高い電圧が入力される。第5電圧信号VT5が第5ASC閾値Vasc5以上となることで、ASC指令が下アーム駆動部72aへと伝達される。
本実施形態では、先の図9のステップS13において、下アーム駆動部72aは、各端子T1~T5に入力された電圧信号VT1~VT5が、各ASC閾値Vasc1~Vasc5以上であるかを判定する。各端子T1~T5のうちいずれかの端子において、端子に入力される電圧信号が、対応するASC閾値以上でない場合、ステップS11に進む。一方、下アーム駆動部72aは、第1~第5端子T1~T5に入力される第1~第5電圧信号VT1~VT5全てが、第1~第5ASC閾値Vasc1~Vasc5以上である場合、ステップS14に進み、ASC制御を実施する。
<その他の実施形態>
・ASC制御として、3相分の上アームスイッチSWHをオン状態に切り替え、かつ、3相分の下アームスイッチSWLをオフ状態に切り替える制御が行われてもよい。
・第1実施形態のステップS13では、第1~第4端子T1~T4に入力される全ての第1~第4電圧信号VT1~VT4がASC閾値Vasc1~Vasc4以上である場合、ステップS14に進むとしたが、これを変更する。ステップS13では、第1~第4端子T1~T4に入力される第1~第4電圧信号VT1~VT4のうち、いずれか1つ、2つ又は3つの電圧信号が、対応するASC閾値以上である場合、ステップS14に進むとしてもよい。
この場合においても、制御回路50に誤動作が生じることを抑制することができる。例えば、第1~第4端子T1~T4のうちいずれか1つの端子に入力される電圧信号が、ASC指令が伝達されない電圧信号に固着した場合について説明する。この場合、第1~第4端子T1~T4のうち固着した電圧信号が入力される端子以外の少なくとも1つの端子に、ASC指令電圧Vsが入力された場合、ASC制御が実施される。そのため、1つの電圧端子にASC指令電圧Vsが入力されることでASC制御が実施される構成よりも、制御回路50に不作動が生じることを抑制することができる。
・第1実施形態において、第1~第4最大電圧VT1a~VT4aは、ASC指令電圧Vsとされていたが、これを変更し、ASC指令電圧Vsよりも高くて、かつ、下アーム駆動電圧VdL以下の値にされていてもよい。この場合、第1~第4ASC範囲RT1b~RT4bは、各端子T1~T4において、ASC指令電圧Vsから下アーム駆動電圧VdLまでの電圧範囲となる。この構成では、ASC指令電圧Vsよりも高い電圧が各端子T1~T4に入力されることにより、ASC制御が実施される。
・第1~第4ASC閾値Vasc1~Vasc4は、ASC指令電圧Vsとされていてもよい。
・第1実施形態において、高圧側ASC範囲RT1bHに代えて、低圧側ASC範囲RT1bL(「第2電圧範囲」に相当)内に第1ASC閾値Vasc1が設定されていてもよい。具体的には例えば、第1ASC閾値Vasc1が、低圧側ASC範囲RT1bLの下限値である第1所定電圧VT1bとされていてもよい。この場合、第1電圧信号VT1が第1ASC閾値Vasc1を下回る場合にASC制御が実施されるように制御回路50が構成される。
・第1実施形態において、第1~第4端子T1~T4にASC指令電圧Vsが入力されていたが、これを変更し、第1~第4端子T1~T4のいずれか1つにASC指令電圧Vsが入力されてもよい。本実施形態では、第1端子T1にASC指令電圧Vsが入力されることにより、ASC制御が実施される。これにより、下アームドライバ72に設けられる端子の数を削減することができる。
・第2実施形態において、第5電圧信号VT5が第5ASC閾値Vasc5を上回ることに代えて、第5電圧信号VT5が第5ASC閾値Vasc5を下回ることで、ASC制御が実施されるように制御回路50が構成されていてもよい。
・スイッチングデバイス部16を構成するスイッチSWH,SWLとしては、IGBTに限らず、例えばボディダイオードを内蔵するNチャネルMOSFETであってもよい。
・回転電機10の制御量としては、トルクに限らず、例えば、回転電機10のロータの回転速度であってもよい。
・回転電機10としては、永久磁石同期機に限らず、例えば巻線界磁型同期機であってもよい。また、回転電機10としては、同期機に限らず、例えば誘導機であってもよい。さらに、回転電機10としては、車載主機として用いられるものに限らず、電動パワーステアリング装置や空調用電動コンプレッサを構成する電動機等、他の用途に用いられるものであってもよい。
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。