JP7312606B2 - 炭素化された繊維の表面処理方法及び炭素繊維の製造方法並びに表面処理装置 - Google Patents

炭素化された繊維の表面処理方法及び炭素繊維の製造方法並びに表面処理装置 Download PDF

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Description

本発明は、炭素化された繊維の表面の濡れ性を改善するための表面処理に関する。
表面処理として、例えば、気相酸化処理、液相酸化処理、電解酸化処理などがあり、気相酸化処理の一方法として種々のガスをプラズマ化して表面処理する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
特開2016-078258号公報 特開2018-115395号公報
上記の特許文献の技術により炭素化された繊維の表面は改善されるが、より高い処理能力の表面処理方法が望まれている。
本発明は、上記した課題に鑑み、高い処理能力の表面処理方法及び炭素繊維の製造方法並びに表面処理装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る炭素化された繊維の表面処理方法は、炭素化された繊維にプラズマを照射する照射工程と、前記プラズマで副生するオゾンガスを接触させる接触工程とを含む。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る炭素繊維の製造方法は、耐炎化繊維を炭素化してなる炭素繊維の製造方法において、前記耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程と、炭素化された繊維の表面を改質する表面処理工程とを含み、前記表面処理工程では、上記の表面処理方法により前記表面の改質を行う。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る炭素化された繊維の表面処理装置は、走行する炭素化された繊維の表面を改質する表面処理装置において、前記炭素化された繊維の走行方向に延伸する筒状の筒部と、前記筒部の長手方向の中間部分に設けられ且つプラズマを照射する照射部とを有し、前記筒部内では、前記照射部で照射するプラズマで副生するオゾンガスが走行中の前記炭素化された繊維と接触する。
本発明の一態様に係る表面処理方法、製造方法及び表面処理装置は、表面処理能力を相対的に向上させることができる。
炭素繊維の製造工程を示す概略図である。 表面処理装置の概略図である。 オゾンガス濃度と繊維の表面酸素濃度との関係を示す図である。
<<概要>>
本発明の一態様に係る炭素化された繊維の表面処理方法は、炭素化された繊維にプラズマを照射する照射工程と、前記プラズマで副生するオゾンガスを接触させる接触工程とを含む。
なお、プラズマ照射とオゾンガスの組み合わせは、大気圧プラズマの場合、下記の文献1、文献2中に記載の反応のように、プラズマの原料ガス中のラジカル化していない酸素、或いは大気中の酸素に対して酸素ラジカルが接触することでオゾンを発生させる場合があるが、表面改質に寄与させたいラジカルがオゾンにより消費され酸素へと変換されたり、酸素へと変換される際に生じる酸素ラジカルがプラズマ中の電子のエネルギを奪うことが知られており、副生したオゾンを含むガスは速やかに系外へ排出されるのが一般的である。
文献1:神原信志著、「大気圧プラズマ反応工学ハンドブック」、株式会社エヌ・ティー・エス、2013年7月1日発行
文献2:杉光英俊著、「オゾンの基礎と応用」、株式会社光琳、1996年2月発行
本発明の一態様に係る炭素化された繊維の表面処理方法は、炭素化された繊維にプラズマを照射する照射工程と、前記プラズマで副生するオゾンガスを接触させる接触工程とを含む。
本発明の別態様に係る炭素化された繊維の表面処理方法において、前記炭素化された繊維の表面処理は表面処理装置内を前記炭素化された繊維が走行することで行われ、前記接触工程は、前記プラズマを照射する位置に対して前記炭素化された繊維の走行方向の上流側と下流側とで行われ、炭素繊維質量あたりのオゾンガス曝露時間が15~1,000,000sec/gである。これにより、表面処理能力を相対的に効率よく向上させることができる。
本発明の別態様に係る炭素化された繊維の表面処理方法において、前記表面処理装置は、前記炭素化された繊維の走行方向に延伸する筒状の筒部と、前記筒部の長手方向の中間部分に設けられ且つ前記プラズマを照射する照射部とを有し、前記炭素化された繊維は前筒部内を走行し、前記筒部における前記照射部の上流側の入り口での前記オゾンガス濃度が20~200ppmである。これにより、照射されたプラズマを有効に利用でき、オゾンガス発生装置を新たに追加することなく実施できる。
本発明の別態様に係る炭素化された繊維の表面処理方法において、前記筒部を同時に通過するすべての炭素化された繊維の合計の横断面積に対して、前記筒部の横断面積が5~4×10倍の内部空間を有する。これにより、多くの種類の炭素化された繊維の表面処理に適用できる。
本発明の一態様に係る炭素繊維の製造方法は、耐炎化繊維を炭素化してなる炭素繊維の製造方法において、前記耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程と、炭素化された繊維の表面を改質する表面処理工程とを含み、前記表面処理工程では、上記の表面処理方法により前記表面の改質を行う。これにより、相対的に表面処理能力が向上し、効率よく炭素繊維を製造できる。
本発明の一態様に係る表面処理装置は、走行する炭素化された繊維の表面を改質する表面処理装置において、前記炭素化された繊維の走行方向に延伸する筒状の筒部と、前記筒部の長手方向の中間部分に設けられ且つプラズマを照射する照射部とを有し、前記筒部内では、前記照射部で照射するプラズマで副生するオゾンガスが走行中の前記炭素化された繊維と接触する。これにより、相対的に表面処理能力が向上した表面処理装置が得られる。
本発明の別態様に係る表面処理装置は、前記筒部の横断面形状が円形状又は矩形状である。これにより、簡単な構造で処理能力を向上させることができる。
本発明の別態様に係る表面処理装置は、前記筒部を通過するすべての炭素化された繊維の合計の横断面積に対して、前記筒部の横断面積が5~4×10倍の内部空間を有する。これにより、多くの種類の炭素化された繊維の表面処理に使用できる。
本発明の別態様に係る表面処理装置は、前記照射部においてプラズマを照射するための照射口がスリット、円又は楕円、多角形のうちから選ばれる形状である。これにより、簡単な構造で処理能力を高めることができる。
<実施形態>
一実施形態の表面処理装置を利用した表面処理方法、炭素繊維の製造方法について説明する。ここでは、前駆体繊維の一例であるアクリロニトリル系繊維を用いる。
1.炭素繊維の製造工程
図1は、炭素繊維の製造工程を示す概略図である。
炭素繊維は、前駆体繊維であるプリカーサを用いて製造される。1本のプリカーサは、複数本、例えば、12,000本のフィラメントが束になったものである。場合によっては、前駆体繊維束や炭素繊維束ということもある。
プリカーサ1aは、アクリロニトリルを90質量%以上含有する単量体を重合した紡糸溶液を湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法において紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られる。なお、共重合する単量体としては、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸、アクリルアミド、イタコン酸、マレイン酸等が利用される。
通常、プリカーサ1aを製造する速さと、プリカーサ1aを炭素化して炭素繊維を製造する速さが異なる。このため、製造されたプリカーサ1aは、一旦、カートンに収容されたり、ボビンに巻き取られたりする。
プリカーサ1aは、図1に示すように、例えばボビン30から引き出され、下流側に向かって走行する。その途中で、各種の処理がなされて、炭素繊維としてボビン39に巻き取られる。
炭素繊維は、図1に示すように、プリカーサ1aを耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化された繊維(以下、「耐炎化繊維」という)1bを延伸させながら炭素化する炭素化工程と、炭素化された繊維1dの表面を改善する表面処理工程と、表面が改善された繊維(以下、「表面処理された繊維」ともいう)1eに樹脂を付着させるサイジング工程と、樹脂が付着した繊維1fを乾燥させる乾燥工程とを経て製造される。乾燥された繊維1gは、炭素繊維1gとしてボビン39に巻き取られる。なお、炭素繊維は炭素化された繊維に対して少なくとも表面処理を施した繊維であり、炭素化工程を終え且つ表面処理工程を経ていない炭素化された繊維と区別する。
ここで、プリカーサ1aを耐炎化する処理を耐炎化処理、耐炎化繊維1bを炭素化する処理を炭素化処理、炭素化された繊維1dの表面を改善する処理を表面処理、表面処理された繊維1eに樹脂を付着させる処理をサイジング処理、樹脂が付着した繊維1fを乾燥させる処理を乾燥処理とそれぞれいう。以下、処理、工程について説明する。
(1)耐炎化工程(耐炎化処理)
耐炎化工程は、炉内が200[℃]~350[℃]の酸化性雰囲気に設定された耐炎化炉3を利用して行う。具体的には、耐炎化は、空気雰囲気中の耐炎化炉3内をプリカーサ1aが1回又は複数回通過することで行われる。なお、酸化性雰囲気は、酸素、二酸化窒素等を含んでいてもよい。
耐炎化工程中のプリカーサ1aは、製造する炭素繊維に合わせて所定の張力で延伸される。耐炎化工程での延伸倍率は、例えば、0.7~1.3の範囲内である。プリカーサ1aの延伸は複数のローラにより行われる。例えば、延伸は、耐炎化炉3の入口の2個のローラ5,7や出口の3個のローラ9,11,13により行われる。
(2)炭素化工程(炭素化処理)
炭素化工程は、耐炎化繊維1bを加熱することで熱分解反応を生じさせて炭素化を行う工程であり、不活性雰囲気中で、最高温度が300~1,800[℃]で処理される。
炭素化は、耐炎化繊維1bが第1の炭素化炉15を通過し、さらに、第1の炭素化炉15を通過した繊維1cが第2の炭素化炉17を通過することで行われる。
ここで、第1の炭素化炉15で行われる炭素化を「第1の炭素化」や「第1の炭素化工程」とし、同様に、第2の炭素化炉17で行われる炭素化を「第2の炭素化」や「第2の炭素化工程」とする。
第1の炭素化は例えば最高温度が300~800[℃]で処理され、第2の炭素化は例えば最高温度が500~1,800[℃]で処理される。炭素化工程の加熱には、例えば、電気ヒータ、マイクロ波、プラズマ等が利用される。
第1の炭素化炉15と第2の炭素化炉17とは互いに独立した形態で設けられ、各炭素化炉15,17の間には繊維の張力を調整する調整手段を設けることができる。
第1の炭素化炉15の入口側にはローラ19が、第1の炭素化炉15と第2の炭素化炉17との間にはローラ21が、第2の炭素化炉17の出口側にはローラ23がそれぞれ設けられている。
具体的には、第1の炭素化工程では50~200[g/dtex]、第2の炭素化工程では200~1,000[g/dtex]のテンションを負荷することが好ましい。この範囲でテンションを負荷することで、より強度の高い炭素繊維1gを得ることができる。なお、炭素化された繊維1dの密度は1.77~1.82[g/cm]であることが好ましい。
(3)表面処理工程(表面処理)
表面処理工程は、炭素化された繊維1dが表面処理装置25内を通過することで行われる。表面処理装置25の出口側にはローラ26が設けられている。表面処理することで、炭素繊維1gを利用して複合材料とした場合、炭素繊維1gとマトリックス樹脂との親和性や接着性が向上する。
表面処理は、一般に炭素化された繊維1dの表面を酸化することにより行われる。表面処理として大気圧プラズマが利用されている。なお、表面処理装置25については後述する。
(4)サイジング工程(サイジング処理)
サイジング工程は、例えば、表面処理された繊維1eが樹脂液29内を通過することで行われる。樹脂液29は、樹脂浴27に貯留されている。サイジング工程により、表面処理された繊維1eの収束性が高まる。
サイジング工程中の表面処理された繊維1eは、樹脂浴27の内部や樹脂浴27の周辺に配された複数のローラ31,33等により走行方向を変更しながら樹脂液29内を通過する。樹脂液29は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を溶剤に溶解させた液やエマルション液が利用される。
(5)乾燥工程(乾燥処理)
乾燥工程は、繊維1fが乾燥炉35内を通過することで行われる。なお、乾燥した繊維1gは、乾燥炉35の下流側のローラ37を介してボビン39に巻き取られる(巻取工程である。)。
2.表面処理装置
表面処理装置25は、図2に示すように、炭素化された繊維1dの走行方向に延伸する筒状の筒部251と、筒部251の長手方向の中間部分に設けられ且つ大気圧プラズマを照射する照射部255とを有する。なお、炭素化された繊維1dは筒部251内を走行する。
(1)筒部
筒部251は、例えば、円形状、楕円形状、長円形状の無角形状、矩形状、方形状、六角形等の多角形状等の横断面形状を有する。なお、筒部251は、照射部255で生成したプラズマにより副生したオゾンガスを貯留する機能を有する。
筒部251の全長(上流側と下流側との合計である)は、走行する炭素化された繊維1dが内部に滞在する時間が0.1~10分間の範囲内となるように設定されている。なお、筒部251内に炭素化された繊維1dが滞在する間に、プラズマの照射は1回行われてもよいし、複数回行われてもよい。複数回行う場合、走行方向に照射部を複数配置することで実施できる。
筒部251は、照射部255で生成したプラズマにより副生したオゾンガスが拡散するのを規制する機能を有する。換言すると、筒部251はオゾンガスの流路を規制する機能を有する。筒部251の上流側の炭素化された繊維1dの入り口でのオゾン濃度は20~200[ppm]が好ましい。これにより、筒部251の内部を走行する炭素化された繊維1dは、プラズマ照射を受けると共にオゾンガスに暴露されることとなり、効率よく表面処理される。
なお、オゾンガスの濃度は、20~200[ppm]となるように、筒部251や照射部255が設定されている。具体的には、筒部251では長さや太さ等の寸法であり、照射部255では供給ガスの濃度、電極の印加電圧等である。
筒部251の走行方向の全長は、照射部255の走行方向の寸法に対して、100~10,000倍が好ましく、200~2,000倍がより好ましい。筒部251の全長は、筒部251におけるプラズマ照射方向の寸法に対して、20~2,000倍が好ましく、40~400倍がより好ましい。筒部251の全長は、走行方向に100~10,000[mm]が好ましく、200~2,000[mm]がより好ましい。なお、照射部255の走行方向の寸法については後述する。
ここでの筒部251は、その長手方向の中央(中間部分)に貫通孔253を有し、当該貫通孔253を利用して照射部255から大気圧プラズマが筒部251内に照射される。
筒部251は、横断面において、走行するすべての炭素化された繊維1dの合計の断面積に対して、5~4×10倍の内部空間を有する。
貫通孔253は、スリット形状、円形状又は楕円形状、或いは5角形等の多角形をしている。スリット形状は、炭素化された繊維1dの走行方向と交差する方向、又は走行方向と平行な方向に延伸してもよい。貫通孔253は、1個でもよく、複数個でもよく、走行する炭素化された繊維1dの本数に対応して適宜決定すればよい。
なお、貫通孔253は、プラズマ発生部からみると、当該貫通孔253を介して炭素化された繊維1dが見える状態で設けられることが好ましい。
(2)照射部
照射部255は、例えば、誘電体バリア放電を利用している。照射部255は、少なくとも一方の電極に誘電体が配される一対の電極と、一対の電極の周辺に酸化性ガスを供給するノズルとを備え、ノズルから供給される酸化性ガス(例えば、酸素である)中であって大気圧下で一対の電極により放電させることで、プラズマを発生させる。
一対の電極として、例えば、平板状の対向電極(平行平板電極)を利用している。対向電極は、例えば、炭素化された繊維1dの走行方向と交差する方向、又は走行方向と平行な方向に延伸する状態で、配置されている。
発生したプラズマは、ノズルからのガスにより筒部251の貫通孔(照射口)253から内部へと照射される。これにより、筒部251の内部を走行する炭素化された繊維1dに対して大気圧プラズマが照射される。
(3)照射部の走行方向の長さ
照射部255の走行方向の長さは、炭素化された繊維がプラズマ照射される領域における走行方向の長さとしている。照射部の長さは、プラズマを発生する構成、プラズマを炭素化された繊維に照射する構成等によって異なる。
スリット等の貫通孔を介してプラズマが照射される場合は、貫通孔の走行方向の最大寸法が照射部の長さとなる。対向電極が筒部内であって炭素化された繊維が電極間を通過しない位置に配され且つ炭素化された繊維と逆側からガスを炭素化された繊維に向けて吹き付ける場合は、対向電極における走行方向の寸法が長さとなる。対向電極が筒部内であって走行方向と平行に配された状態で炭素化された繊維が対向電極間を走行する場合、対向電極の走行方向の寸法が長さとなる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
ここでは、炭素化された繊維1dを表面処理する表面処理工程について説明する。
まず、実施例及び比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
<炭素化された繊維1d>
炭素化された繊維1dは、24,000本の前駆体繊維(プリカーサ)1aを酸化性雰囲気中で200~350[℃]で処理する耐炎化工程を経た後に、不活性雰囲気中で温度が300~800[℃]の第1の炭素化工程と温度が500~1,800[℃]の第2の炭素化工程を経て製造された繊維である。
炭素化された繊維1dの密度は1.5~1.9[g/cm]であり、繊維1dの直径は10[μm]であり、繊維1dの表面の酸素濃度は4[%]であった。
<表面酸素濃度(O/C)>
表面処理後の表面処理された繊維(1e)の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従ってXPS(ESCA)によって求めることができる。測定には、日本電子株式会社社製X線光電子分光装置ESCA JPS-9000MXを使用した。繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10-6[Pa]の真空度に保った。
測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギ値B.E.を284.6[eV]に合わせる。O1sピーク面積は、528~540[eV]の範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282~292[eV]の範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求めた。
<オゾンガス濃度>
株式会社ガステック製の濃度4~400[ppm]用のオゾンガス測定用検知管「18M」を、専用ガス吸引器「GV-110S」にセットし、筒部251にあけた直径3[mm]の孔に検知管を差し込み、吸引器のハンドルを引くことでガスを検知管へ導入する。オゾン濃度に応じて検知管の色が変化するため、それをオゾンガス濃度として読み取っている。なお、オゾンガスの温度は、プラズマが照射されている領域に温度検出端を照射部又はその周辺部に設けられた孔から挿入して測定している。
<表面処理>
表面処理装置25は筒部251と照射部255とを有する。照射部255としてリモート式大気圧プラズマ表面処理装置を1台利用し、当該1台の照射部255の上流側に600[mm]の上流側筒部と、下流側に300[mm]の下流側筒部とを有する。これらの筒部の断面形状は矩形とし、投入している繊維の全断面積に対する筒部の内部空間の断面積の比は40である。
表面処理装置25は、照射部255のノズルから供給する酸化性ガス中の酸素濃度を変化させることで、プラズマ発生時に副生するオゾンガスの濃度を調整する。なお、酸素濃度の調整は、窒素と酸素とを含む酸化性ガスにおいて酸素の濃度を調整することで行われる。
表面処理装置25(筒部251)内を走行する炭素化された繊維1dの速度を調整することで、プラズマ照射時間(プラズマ暴露時間)や、オゾンガスの暴露時間を調整できる。
〔実施例1〕
炭素化された繊維1dをプラズマ照射とオゾンガスとにより表面処理した。照射部255の電極への印加電圧は30,000[V]である。炭素化された繊維1dの走行速度は1.2[m/min]であり、照射時間は0.1[秒]であった(炭素化された繊維1dが照射部255を通過する時間でもある)。
電極の周辺に供給する酸化性ガス(キャリアガスともいう)中の酸素濃度は0.15[Vol%]であった。プラズマにより副生したオゾンガスのオゾン濃度は40[ppm]で、ガス温度は70[℃]であった。オゾンガス暴露時間は合計で45[秒]であり、照射部255の上流側での暴露時間が30[秒]であり、下流側の暴露時間が15[秒]であった。
上記の表面処理を実施した表面処理された繊維1eの表面酸素濃度(O/C)は16[%]であった。
表面処理条件及び表面処理された繊維1eの表面酸素濃度を表1に纏めて示した。なお、オゾンガスの温度は照射部255又はその付近に設けた直径3mmの孔から温度検出端を挿入し、プラズマが照射されている領域で測定した。
〔実施例2〕
キャリアガス中の酸素濃度を0.5[Vol%]に変更した以外は実施例1と同様の条件にして、炭素化された繊維1dに対して表面処理した。なお、酸素濃度の変更によりオゾン濃度が100[ppm]となった。実施例2の表面処理条件及び表面処理された繊維1eの表面酸素濃度を表1に纏めて示した。
〔実施例3〕
キャリアガス中の酸素濃度を1.0[Vol%]に変更した以外は実施例1と同様の条件にして、炭素化された繊維1dに対して表面処理した。なお、酸素濃度の変更によりオゾン濃度が160[ppm]となった。実施例3の表面処理条件及び表面処理された繊維1eの表面酸素濃度を表1に纏めて示した。
〔比較例1〕
炭素化された繊維1dをプラズマ照射により表面処理した。具体的には、筒部251を取り外した表面処理装置を利用した。
照射部255の電極への印加電圧、炭素化された繊維1dの走行速度、プラズマ照射時間は実施例1と同じであった。
キャリアガス中の酸素濃度は0.15[Vol%]であり、プラズマにより副生したオゾンガスのオゾン濃度は40[ppm]で、ガス温度は70[℃]であった。
炭素化された繊維1dは、プラズマ照射を受ける際に、当該プラズマにより副生したオゾンガス中を走行するためにオゾンガス暴露時間を照射時間である0.1[sec]とした。
上記の表面処理を実施した表面処理された繊維1eの表面酸素濃度(O/C)は13[%]であった。比較例1の表面処理条件及び表面処理された繊維1eの表面酸素濃度を表1に纏めて示した。
〔比較例2〕
キャリアガス中の酸素濃度を0.5[Vol%]に変更した以外は比較例1と同様の条件にして、炭素化された繊維1dに対して表面処理した。なお、酸素濃度の変更によりオゾン濃度が100[ppm]となった。比較例2の表面処理条件及び表面処理された繊維1eの表面酸素濃度を表1に纏めて示した。
〔比較例3〕
キャリアガス中の酸素濃度を1.0[Vol%]に変更した以外は比較例1と同様の条件にして、炭素化された繊維1dに対して表面処理した。なお、酸素濃度の変更によりオゾン濃度が160[ppm]となった。実施例3の表面処理条件及び表面処理された繊維1eの表面酸素濃度を表1に纏めて示した。
〔参考例〕
炭素化された繊維1dに対して表面処理をしていない場合の表面酸素濃度を表1に併せて示した。
Figure 0007312606000001

表1の実施例及び比較例の結果から、オゾンガス濃度と表面酸素濃度との関係を図3に示す。
<オゾンガスの暴露>
オゾンガスの濃度が40[ppm]で暴露時間が45[sec]の実施例1は、同じオゾンガス濃度であって暴露時間が0.1[sec]の比較例1に対して、表面酸素濃度が23[%]改善した。
同様に、オゾンガスの濃度が100[ppm]で暴露時間が45[sec]の実施例2は、同じオゾンガス濃度であって暴露時間が0.1[sec]の比較例2に対して、表面酸素濃度が14[%]改善し、オゾンガスの濃度が160[ppm]で暴露時間が45[sec]の実施例3は、同じオゾンガス濃度であって暴露時間が0.1[sec]の比較例3に対して、表面酸素濃度が27[%]改善した。
このように、オゾンガス中を炭素化された繊維1dを走行させることで、繊維の表面酸素濃度を改善できた。
炭素繊維質量あたりのオゾンガス曝露時間は、処理対象の繊維の処理量(暴露される繊維の本数)、処理対象の繊維の走行速度、処理対象の繊維の銘柄(繊度)等を考慮したものである。
より具体的には、オゾンガスの暴露があれば表面酸素濃度が向上しており、暴露時間の上限はとくにない。但し、実際の生産性を考慮すると、暴露時間の上限は10minである。また、繊維の走行速度は、実際の生産性を考慮すると、0.01~0.2[m/sec]であり、機台幅(走行方向の寸法)に対する処理量は、2~200[本/m]である。これらのパラメータを考慮すると、炭素繊維質量あたりのオゾンガス曝露時間は、15~1,000,000[sec/g]の範囲が好ましい。
また、導糸のし易さなどの生産性を考慮すると前記筒部を同時に通過するすべての炭素化された繊維の合計の横断面積に対して、前記筒部の横断面積が5~4×10倍の内部空間を有することが好ましい。
オゾンガスはプラズマ発生により副生されるため、オゾンガス発生用のエネルギを要しない。つまり、プラズマ発生時に副生するオゾンガスを有効に利用することで、単なるプラズマ照射による表面処理に対して、同じエネルギで表面酸素濃度を高めることができる。
また、表面処理装置は、照射部255に筒部251を設けるという簡単な構造で表面酸素濃度を改善できる。なお、筒部251の長手方向の長さを調整することで、オゾンガスの暴露時間を調整することができ、炭素化された繊維1dの走行速度を変更することなく、暴露時間を調整できる。
<オゾンガス濃度>
実施例1-3において、図3に示すように、オゾンガス濃度が100[ppm]のときに表面酸素濃度が最大であった。なお、オゾンガスの暴露時間が0.1[sec]の比較例1-3においてもオゾンガス濃度が100[ppm]のときに表面酸素濃度が最大であった。
この理由は、オゾンガスの濃度が高くなりすぎる(例えば160[ppm]である)と、オゾンガス中の酸素ラジカル同士の衝突が増えて酸素ラジカルの平均自由工程が減少し、オゾンガスの濃度が低くなりすぎる(例えば40[ppm]である)と、酸素ラジカルの密度が低くなると考えられる。
<<変形例>>
以上、実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態に限られない。例えば、以下で説明する変形例と実施形態の何れかを適宜組み合わせてもよいし、複数の変形例を適宜組み合わせてもよい。
実施形態では、フィラメント数が12,000本の炭素繊維の製造方法について説明したが、フィラメント数が3,000本、6,000本、24,000本等の他の本数の前駆体繊維を利用した炭素化された繊維の表面処理方法や炭素繊維の製造方法にも適用できる。
実施形態では、炭素化工程を含んだ炭素繊維の製造方法について説明したが、例えば、表面処理工程前に、さらに黒鉛化処理を行ってもよい。つまり、実施形態では、主に汎用品(弾性率240[GPa])の炭素繊維の製造方法について説明したが、表面処理工程は、高弾性品、中弾性高強度品等の高性能品の炭素繊維用の炭素化された繊維にも利用できる。当然に、高性能品の炭素繊維の製造方法にも利用できる。
実施形態の照射部255は、平行平板電極を利用しているが、例えば、同軸円筒電極等を利用してもよい。また、照射部255は、プラズマを発生させるために、誘電体バリア放電を利用しているが、例えば、コロナ放電、大気圧グロー放電等の他の手段を利用してもよい。
実施形態の照射部255は、筒部251の外部で発生したプラズマを貫通孔253から内部に吹き込んでいるが、例えば、一対の電極を筒部内に配置し、一対の電極間を炭素化された繊維が走行するようにしてもよい。
実施例では、1個の照射部255を有していたが、炭素化された繊維の走行方向に複数個配してもよい。
1 繊維
1a プリカーサ
1b 耐炎化繊維
1d 炭素化された繊維
25 表面処理装置
251 筒部
255 照射部

Claims (7)

  1. 炭素化された繊維にプラズマを照射する照射工程と、
    前記プラズマで副生するオゾンガスを接触させる接触工程と
    を含み、
    前記炭素化された繊維の表面処理は表面処理装置内を前記炭素化された繊維が走行することで行われ、
    前記表面処理装置は、前記炭素化された繊維の走行方向に延伸する筒状の筒部と、前記筒部の長手方向の中間部分に設けられ且つ前記プラズマを照射する照射部とを有し、
    前記炭素化された繊維は前記筒部内を走行し、
    前記接触工程は、前記プラズマを照射する位置に対して前記炭素化された繊維の走行方向の上流側と下流側とで行われ、炭素繊維質量あたりのオゾンガス曝露時間が15~1,000,000sec/gであり、
    前記筒部における前記繊維の走行方向の上流側の入り口での前記オゾンガス濃度が20~200ppmである、
    炭素化された繊維の表面処理方法。
  2. 前記筒部を同時に通過するすべての炭素化された繊維の合計の横断面積に対して、前記筒部の横断面積が5~4×10倍の内部空間を有する
    請求項に記載の表面処理方法。
  3. 耐炎化繊維を炭素化してなる炭素繊維の製造方法において、
    前記耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程と、
    炭素化された繊維の表面を改質する表面処理工程と
    を含み、
    前記表面処理工程では、請求項1又は2に記載の表面処理方法により前記表面の改質を行う
    炭素繊維の製造方法。
  4. 走行する炭素化された繊維の表面を改質する表面処理装置において、
    前記炭素化された繊維の走行方向に延伸する筒状の筒部と、
    前記筒部の長手方向の中間部分設けられ且つプラズマを照射する照射部と
    を有し、
    前記炭素化された繊維の表面処理は前記筒部内を前記炭素化された繊維が走行することで行われ、
    前記筒部内では、前記照射部で照射するプラズマで副生するオゾンガスが走行中の前記炭素化された繊維と接触し、
    前記オゾンガスの濃度は、前記筒部における前記繊維の走行方向の上流側の入り口において、20~200ppmであり、
    前記炭素化された繊維が前記オゾンガスに曝露される時間が、前記プラズマを照射する位置に対して前記炭素化された繊維の走行方向の上流側と下流側とを合わせて、炭素繊維質量あたり15~1,000,000sec/gである、
    表面処理装置。
  5. 前記筒部の横断面形状が円形状又は矩形状である
    請求項に記載の表面処理装置。
  6. 前記筒部を通過するすべての炭素化された繊維の合計の横断面積に対して、前記筒部の横断面積が5~4×10倍の内部空間を有する
    請求項又はに記載の表面処理装置。
  7. 前記照射部においてプラズマを照射するための照射口がスリット、円又は楕円、多角形のうちから選ばれる形状である
    請求項の何れか1項に記載の表面処理装置。
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