以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶用操舵装置を具備した船舶を示す平面図である。図2は、図1に示された船舶の側面図である。図1及び図2において、船舶1は、船体2と、この船体2の外部に搭載された船外機推進ユニット3とを具備している。
船体2には、船舶1の操船者が船体2の操舵操作を行うためのハンドル4と、操船者が船体2の航行操作を行うためのアクセルレバー5とが搭載されている。ハンドル4及びアクセルレバー5は、船体2の運転室に配置されている。アクセルレバー5は、ニュートラル位置と前進位置と後進位置とフルスロットル位置とを切り換え可能である。
船外機推進ユニット3は、船体2の船尾にブラケット6を介して取り付けられている。船外機推進ユニット3は、船体2の推進力を発生させるプロペラ7と、動力部8と、駆動部9と、操舵部10とを有している。
動力部8は、プロペラ7を回転させる駆動力を発生させるエンジン11を有している。駆動部9は、エンジン11の駆動力をエンジンシャフト及びギア機構(図示せず)を介してプロペラ7に伝達することで、プロペラ7を回転駆動させる。
操舵部10は、動力部8と駆動部9との間に配置されている。操舵部10は、船外機推進ユニット3の操舵を行う船舶用操舵装置12(後述)の一部を構成している。
図3は、本発明の一実施形態に係る船舶用操舵装置を概略的に示すブロック図である。図3において、本実施形態の船舶用操舵装置12は、ヘルムポンプ13と、1対の油圧シリンダ14,15と、変換機構16とを備えている。ヘルムポンプ13は、船体2に搭載されている。油圧シリンダ14,15及び変換機構16は、船外機推進ユニット3の操舵部10に搭載されている。
ヘルムポンプ13は、ハンドル4と連結された第1油圧ポンプである。ヘルムポンプ13は、ハンドル4の操作に応じて駆動される。
油圧シリンダ14は、シリンダチューブ17と、このシリンダチューブ17内に配置されたピストン18とを有している。シリンダチューブ17内におけるピストン18よりもボトム側の領域は、シリンダ室19を形成している。
シリンダチューブ17のボトム近傍には、オイル孔部17aが設けられている。ヘルムポンプ13とオイル孔部17aとは、オイル配管20を介して接続されている。シリンダ室19には、ハンドル4の操作量に応じてヘルムポンプ13より作動油が供給される。そして、シリンダ室19の作動油によってピストン18が油圧シリンダ14内を往復動する。
油圧シリンダ15は、油圧シリンダ14と向き合うように配置されている。油圧シリンダ15は、シリンダチューブ21と、このシリンダチューブ21内に配置されたピストン22とを有している。シリンダチューブ21内におけるピストン22よりもボトム側の領域は、シリンダ室23を形成している。
シリンダチューブ21のボトム近傍には、オイル孔部21aが設けられている。ヘルムポンプ13とオイル孔部21aとは、オイル配管24を介して接続されている。シリンダ室23には、ハンドル4の操作量に応じてヘルムポンプ13より作動油が供給される。そして、シリンダ室23の作動油によってピストン22が油圧シリンダ15内を往復動する。
変換機構16は、油圧シリンダ14,15のピストン18,22の往復運動を回転運動に変換する。変換機構16は、ラック部材25と、ピニオン部材26とを有している。ラック部材25は、ピストン18,22同士を連結する細長板状の部材である。ラック部材25の一面には、ラック歯車27が設けられている。
ピニオン部材26は、図4に示されるように、円筒状の回転部である。ピニオン部材26の外周面には、ラック歯車27と螺合するピニオン歯車28が設けられている。ピニオン部材26の上面26aには、突起部29が設けられている。ピニオン部材26の上端内周部には、段差加工が施された円環状の段差部30が設けられている。ピニオン部材26の下面26bは、駆動部9に固定されている。なお、ピニオン部材26の上面26a及び下面26bは、ピニオン部材26の互いに対向する面である。
ハンドル4が左操作されると、油圧シリンダ14のシリンダ室19の作動油がオイル配管20、ヘルムポンプ13及びオイル配管24を通って油圧シリンダ15のシリンダ室23に供給される。このため、ピストン18,22がラック部材25と共にシリンダチューブ17のボトム側に移動する。すると、ラック部材25の移動に伴って、ピニオン部材26が左側に回転することで、船外機推進ユニット3が左側に操舵され、船体2が左旋回する。
ハンドル4が右操作されると、油圧シリンダ15のシリンダ室23の作動油がオイル配管24、ヘルムポンプ13及びオイル配管20を通って油圧シリンダ14のシリンダ室19に供給される。このため、ピストン18,22がラック部材25と共にシリンダチューブ21のボトム側に移動する。すると、ラック部材25の移動に伴って、ピニオン部材26が右側に回転することで、船外機推進ユニット3が右側に操舵され、船体2が右旋回する。
また、船舶用操舵装置12は、図5に示されるように、油圧駆動部材31と、2つの回動部材32,33とを更に備えている。油圧駆動部材31及び回動部材32,33は、操舵部10に搭載されている。
油圧駆動部材31は、ピニオン部材26上に配置されている。油圧駆動部材31は、油圧を利用して、回動部材32,33の係合部44,47(後述)を舵角制限無し位置Pと舵角制限有り位置Qとの間で移動させる。
舵角制限無し位置Pは、船外機推進ユニット3の舵角角度範囲が±90度となるような第1位置である(図8(a)参照)。舵角制限有り位置Qは、船外機推進ユニット3の舵角角度範囲が±α度(<90度)となるような第2位置である(図8(b)参照)。αは、舵角制限角度である。つまり、舵角制限有り位置Qは、舵角制限無し位置Pよりも船外機推進ユニット3の舵角を制限するような位置である。
油圧駆動部材31は、図5及び図6に示されるように、ピニオン部材26に対して相対的に回転可能な環状壁部34と、この環状壁部34よりも環状壁部34の径方向内側に配置されたストッパ部35(第1ストッパ部)と、環状壁部34よりも環状壁部34の径方向内側におけるストッパ部35の両側に配置された2つのストッパ部36(第2ストッパ部)とを有している。
ストッパ部35,36は、環状壁部34の内周面に固定されている。ストッパ部35,36は、環状壁部34の周方向に沿って等間隔で配列されている。ストッパ部35,36は、環状壁部34及び回動部材32,33の環状部42,45(後述)と協働して、2つの湾曲状の収容部37を画成している。
環状壁部34には、ストッパ部35側において各収容部37と連通したオイル孔部38と、各ストッパ部36側において各収容部37と連通した2つのオイル孔部39とが設けられている。オイル孔部38は、作動油が流れる第1オイル孔部である。オイル孔部39は、作動油が流れる第2オイル孔部である。
ストッパ部35には、オイル孔部38と各収容部37とを連通させるT字型の連通孔40が設けられている。各ストッパ部36には、オイル孔部39と各収容部37とを連通させるL字型の連通孔41が設けられている。連通孔40は、作動油が流れる第1連通孔である。連通孔41は、作動油が流れる第2連通孔である。
回動部材32,33は、ピニオン部材26に回転可能に取り付けられている。回動部材32は、図5及び図7に示されるように、段差状の環状部42と、この環状部42の外周面42aに固定された当接部43及び係合部44とを有している。
環状部42は、油圧駆動部材31におけるストッパ部35,36よりも環状壁部34の径方向内側に配置されている。当接部43は、ストッパ部35と一方のストッパ部36との間に配置されている。つまり、当接部43は、一方の収容部37に収容されている。当接部43は、ストッパ部35,36に当接する。係合部44は、一方のストッパ部36に対して当接部43の反対側に配置されている。係合部44は、ピニオン部材26の突起部29と係合する。
回動部材33は、段差状の環状部45と、この環状部45の外周面45aに固定された当接部46及び係合部47とを有している。当接部46と係合部47との間隔は、当接部43と係合部44との間隔と等しい。
環状部45は、油圧駆動部材31におけるストッパ部35,36よりも環状壁部34の径方向内側に配置されている。当接部46は、ストッパ部35と他方のストッパ部36との間に配置されている。つまり、当接部46は、他方の収容部37に収容されている。当接部46は、ストッパ部35,36に当接する。係合部47は、他方のストッパ部36に対して当接部46の反対側に配置されている。係合部47は、ピニオン部材26の突起部29と係合する。
環状部45は、ピニオン部材26に対して回転可能となるようにピニオン部材26の段差部30に嵌め込まれている。環状部42は、環状部45に対して回転可能となるように重なっている。つまり、環状部42,45は、独立に回転可能となっている。当接部43,46及び係合部44,47の上端及び下端の高さ位置は、全て等しい。
上記の舵角制限無し位置Pは、図8(a)に示されるように、当接部43がストッパ部35の一端面に当接すると共に、当接部46がストッパ部35の他端面に当接する位置である。舵角制限無し位置Pでは、係合部44が一方のストッパ部36の一端面に当接すると共に、係合部47が他方のストッパ部36の一端面に当接する。舵角制限無し位置Pでは、舵角下限角度が-90度となり、舵角上限角度が+90度となる。
上記の舵角制限有り位置Qは、図8(b)に示されるように、当接部43が一方のストッパ部36の他端面に当接すると共に、当接部46が他方のストッパ部36の他端面に当接する位置である。舵角制限有り位置Qでは、舵角下限角度が-α度となり、舵角上限角度が+α度となる。
油圧駆動部材31の上部には、図5に示されるように、環状壁部34、ストッパ部35,36、収容部37及び回動部材32,33を覆い塞ぐ円環状の蓋プレート48が配置されている。蓋プレート48は、動力部8の下端部に固定されている。これにより、油圧駆動部材31内に存在する作動油の密封性を確保することができる。
図3に戻り、船舶用操舵装置12は、オイルタンク49と、別装ポンプ50と、方向制御弁51とを更に備えている。オイルタンク49、別装ポンプ50及び方向制御弁51は、操舵部10に搭載されている。
別装ポンプ50は、オイルタンク49に溜められた作動油を油圧駆動部材31に供給する第2油圧ポンプである。方向制御弁51は、別装ポンプ50と油圧駆動部材31との間で作動油が流れる方向を切り換える電磁切換弁である。
オイルタンク49と別装ポンプ50とは、オイル配管52を介して接続されている。オイル配管52は、オイルタンク49から別装ポンプ50に作動油が流れる配管である。別装ポンプ50と方向制御弁51とは、オイル配管53を介して接続されている。オイル配管53は、別装ポンプ50から方向制御弁51に作動油が流れる配管である。方向制御弁51とオイルタンク49とは、オイル配管54を介して接続されている。オイル配管54は、方向制御弁51からオイルタンク49に作動油が流れる配管である。
方向制御弁51と油圧駆動部材31のオイル孔部38とは、オイル配管55を介して接続されている。オイル配管55は、方向制御弁51とオイル孔部38との間で作動油が流れる配管である。方向制御弁51と油圧駆動部材31の各オイル孔部39とは、オイル配管56を介して接続されている。オイル配管56は、方向制御弁51とオイル孔部39との間で作動油が流れる配管である。
方向制御弁51では、閉位置(中立位置)と舵角制限無し用の開位置と舵角制限有り用の開位置とが切り換えられる。閉位置は、別装ポンプ50からオイル孔部38,39への作動油の供給を遮断する位置である。舵角制限無し用の開位置は、別装ポンプ50から各オイル孔部39への作動油の供給を許容すると共に、別装ポンプ50からオイル孔部38への作動油の供給を遮断する位置である。舵角制限有り用の開位置は、別装ポンプ50からオイル孔部38への作動油の供給を許容すると共に、別装ポンプ50から各オイル孔部39への作動油の供給を遮断する位置である。
方向制御弁51の位置が舵角制限無し用の開位置に切り換えられると、別装ポンプ50から吐出された作動油がオイル配管53、方向制御弁51、オイル配管56を流れて油圧駆動部材31の各オイル孔部39に供給される。すると、図8(a)に示されるように、作動油が各連通孔41を流れて各収容部37に供給されることで、回動部材32,33の当接部43,46に油圧がかかり、当接部43,46がストッパ部35まで移動する。そして、各収容部37の作動油は、連通孔40、オイル孔部38、オイル配管55、方向制御弁51及びオイル配管54を流れてオイルタンク49に戻る。これにより、回動部材32,33の係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pとなる。
一方、方向制御弁51の位置が舵角制限有り用の開位置に切り換えられると、別装ポンプ50から吐出された作動油がオイル配管53、方向制御弁51、オイル配管55を流れて油圧駆動部材31のオイル孔部38に供給される。すると、図8(b)に示されるように、作動油が連通孔40を流れて各収容部37に供給されることで、回動部材32,33の当接部43,46に油圧がかかり、当接部43,46が各ストッパ部36まで移動する。そして、各収容部37の作動油は、各連通孔41、各オイル孔部39、各オイル配管56、方向制御弁51及びオイル配管54を流れてオイルタンク49に戻る。これにより、回動部材32,33の係合部44,47の位置が舵角制限有り位置Qとなる。
また、船舶用操舵装置12は、船速センサ57と、アクセル位置センサ58と、舵角センサ59と、ディスプレイ60と、コントローラ61とを更に備えている。
船速センサ57は、船体2の航行速度(船速)を検出するセンサである。アクセル位置センサ58は、アクセルレバー5の位置を検出するセンサである。具体的には、アクセル位置センサ58は、アクセルレバー5の位置がフルスロットル位置(前述)にあるかどうかを検出する。アクセルレバー5の位置がフルスロットル位置にあるときは、船体2の速度及び加速度が上昇する。従って、船速センサ57及びアクセル位置センサ58は、船体2の状態として、船体2の速度及び加速度に関する状態を検知する検知部を構成している。
舵角センサ59は、船外機推進ユニット3の舵角量(舵角角度)を検出する舵角検出部を構成している。
ディスプレイ60は、船外機推進ユニット3の舵角制限状況(舵角制限の有無)及び舵角量等の情報を画面表示する。なお、ディスプレイ60は、画面表示による通知に加えて、ランプ、ブザーまたは音声等による通知を行ってもよい。
コントローラ61は、船体2の後側に配置されている(図1参照)。コントローラ61は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。コントローラ61は、図9に示されるように、船速センサ57、アクセル位置センサ58及び舵角センサ59の検出値を入力し、所定の処理を実行し、方向制御弁51及びディスプレイ60を制御する。
コントローラ61は、判断部62と、舵角制限制御部63と、通知制御部64とを有している。判断部62は、船速センサ57及びアクセル位置センサ58により検知された船体2の状態に基づいて、船体2の安定性の低下が予想される状況であるかどうかを判断する。
舵角制限制御部63は、判断部62により船体2の安定性の低下が予想される状況でないと判断されたときは、別装ポンプ50から油圧駆動部材31の各オイル孔部39に作動油が供給されることで、回動部材32,33の係合部44,47の位置を舵角制限無し位置Pに設定するように方向制御弁51を制御する。舵角制限制御部63は、判断部62により船体2の安定性の低下が予想される状況であると判断されたときは、別装ポンプ50から油圧駆動部材31のオイル孔部38に作動油が供給されることで、係合部44,47の位置を舵角制限有り位置Qに設定するように方向制御弁51を制御する。なお、舵角制限制御部63は、方向制御弁51を制御する制御部を構成している。
また、舵角制限制御部63は、係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pから舵角制限有り位置Qに切り換えられた後、別装ポンプ50から油圧駆動部材31への作動油の供給を停止させるように方向制御弁51を制御する。舵角制限制御部63は、係合部44,47の位置が舵角制限有り位置Qから舵角制限無し位置Pに切り換えられた後、別装ポンプ50から油圧駆動部材31への作動油の供給を停止させるように方向制御弁51を制御する。
通知制御部64は、舵角センサ59により検出された船外機推進ユニット3の舵角量が舵角制限有り位置Qに対応する角度範囲内でないときに、その旨の通知を行うようにディスプレイ60を制御する。舵角制限有り位置Qに対応する角度範囲は、上述したように-α度から+α度である。なお、通知制御部64及びディスプレイ60が、通知を行う通知部を構成している。
図10は、コントローラ61により実行される処理の手順を示すフローチャートである。本処理は、エンジン11が始動されると実行される。なお、本処理の実行前は、舵角制限フラグは0に設定され、舵角制限超えフラグは0に設定され、舵角制限変更動作時間は0に設定されている。
舵角制限フラグは、係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pであるか舵角制限有り位置Qであるかどうかを表すフラグである。係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pであるときは、舵角制限フラグは0にセットされる。係合部44,47の位置が舵角制限有り位置Qであるときは、舵角制限フラグは1にセットされる。
舵角制限超えフラグは、船外機推進ユニット3の舵角角度の絶対値が舵角制限角度αを超えているかどうかを表すフラグである。船外機推進ユニット3の舵角角度の絶対値が舵角制限角度αを超えていないときは、舵角制限超えフラグは0にセットされる。船外機推進ユニット3の舵角角度の絶対値が舵角制限角度αを超えているときは、舵角制限超えフラグは1にセットされる。
舵角制限変更動作時間は、係合部44,47が舵角制限無し位置Pから舵角制限有り位置Qに向けて移動するときの経過時間と、係合部44,47が舵角制限有り位置Qから舵角制限無し位置Pに向けて移動するときの経過時間とを表している。
図10において、コントローラ61は、まず船速センサ57、アクセル位置センサ58及び舵角センサ59の検出値を取得する(手順S101)。そして、コントローラ61は、船速センサ57の検出値に基づいて、船体2の船速が舵角制限適用速度V以上であるかどうかを判断する(手順S102)。舵角制限適用速度Vは、例えば船体2が急旋回したときに船体2の安定性が低下する可能性がある速度である。
コントローラ61は、船体2の船速が舵角制限適用速度V以上であると判断したときは、舵角制限有り処理を実行する(手順S103)。舵角制限有り処理については、後で詳述する。
コントローラ61は、船体2の船速が舵角制限適用速度V以上でないと判断したときは、アクセル位置センサ58の検出値に基づいて、アクセルレバー5の位置が舵角制限適用位置Dであるかどうかを判断する(手順S104)。舵角制限適用位置Dは、アクセルレバー5のフルスロットル位置である。
コントローラ61は、アクセルレバー5の位置が舵角制限適用位置Dであると判断したときは、舵角制限有り処理を実行する(手順S103)。コントローラ61は、アクセルレバー5の位置が舵角制限適用位置Dでないと判断したときは、舵角制限無し処理を実行する(手順S105)。舵角制限無し処理については、後で詳述する。
コントローラ61は、手順S103または手順S105を実行した後、現在の船外機推進ユニット3の舵角制限状況及び舵角量をディスプレイ60に画面表示させる(手順S106)。そして、コントローラ61は、上記の手順S101を再度実行する。
図11は、コントローラ61により実行される舵角制限有り処理の手順S103の詳細を示すフローチャートである。図11において、コントローラ61は、まず舵角制限フラグが0または舵角制限超えフラグが1であるかどうかを判断する(手順S111)。
コントローラ61は、舵角制限フラグが0または舵角制限超えフラグが1であると判断したときは、舵角制限変更動作時間を0に設定する(手順S112)。コントローラ61は、手順S112を実行した後、または手順S111で舵角制限フラグが0でなく且つ舵角制限超えフラグが1でないと判断したときは、舵角制限フラグを1に設定する(手順S113)。
続いて、コントローラ61は、舵角センサ59の検出値に基づいて、船外機推進ユニット3の舵角角度の絶対値が舵角制限角度αよりも大きいかどうかを判断する(手順S114)。コントローラ61は、船外機推進ユニット3の舵角角度の絶対値が舵角制限角度αよりも大きいと判断したときは、舵角制限超えフラグを1に設定する(手順S115)。
続いて、コントローラ61は、舵角角度の絶対値が舵角制限角度αよりも大きい旨をディスプレイ60に警告表示させる(手順S116)。続いて、コントローラ61は、方向制御弁51の位置を舵角制限有り用の開位置とするように制御する(手順S117)。
コントローラ61は、手順S114で船外機推進ユニット3の舵角角度の絶対値が舵角制限角度α以下であると判断したときは、舵角制限超えフラグを0に設定する(手順S118)。そして、コントローラ61は、舵角制限変更動作時間に時間Δtを加算する(手順S119)。
続いて、コントローラ61は、舵角制限変更動作時間が舵角制限変更動作完了時間Tに達したかどうかを判断する(手順S120)。ここでの舵角制限変更動作完了時間Tは、回動部材32,33の係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pから舵角制限有り位置Qに変更されるまでの時間である。
コントローラ61は、舵角制限変更動作時間が舵角制限変更動作完了時間Tに達していないと判断したときは、方向制御弁51の位置を舵角制限有り用の開位置とするように制御する(手順S117)。
コントローラ61は、舵角制限変更動作時間が舵角制限変更動作完了時間Tに達したと判断したときは、方向制御弁51の位置を中立位置とするように制御する(手順S121)。そして、コントローラ61は、舵角制限変更動作時間を0に設定する(手順S122)。
図12は、コントローラ61により実行される舵角制限無し処理の手順S105の詳細を示すフローチャートである。図12において、コントローラ61は、まず舵角制限フラグが1であるかどうかを判断する(手順S131)。
コントローラ61は、舵角制限フラグが1であると判断したときは、舵角制限変更動作時間を0に設定する(手順S132)。コントローラ61は、手順S132を実行した後、または手順S131で舵角制限フラグが1でないと判断したときは、舵角制限フラグを0に設定する(手順S133)。
続いて、コントローラ61は、舵角制限変更動作時間が舵角制限変更動作完了時間Tに達したかどうかを判断する(手順S134)。ここでの舵角制限変更動作完了時間Tは、回動部材32,33の係合部44,47の位置が舵角制限有り位置Qから舵角制限無し位置Pに変更されるまでの時間である。
コントローラ61は、舵角制限変更動作時間が舵角制限変更動作完了時間Tに達していないと判断したときは、方向制御弁51の位置を舵角制限無し用の開位置とするように制御する(手順S135)。そして、コントローラ61は、舵角制限変更動作時間に時間Δtを加算する(手順S136)。
コントローラ61は、手順S134で舵角制限変更動作時間が舵角制限変更動作完了時間Tに達したと判断したときは、方向制御弁51の位置を中立位置とするように制御する(手順S137)。そして、コントローラ61は、舵角制限変更動作時間を0に設定する(手順S138)。
以上において、判断部62は、図10における手順S101,S102,S104を実行する。舵角制限制御部63は、図10における手順S103のうち、図11における手順S111~S114,S117~S122と、図10における手順S105とを実行する。通知制御部64は、図10における手順S101,S106と、図10における手順S103のうち、図11における手順S114~S116とを実行する。
以上のように構成された船舶用操舵装置12において、船体2の船速が舵角制限適用速度Vよりも低く、且つアクセルレバー5の位置が舵角制限適用位置Dでないときは、通常状態であるとして、コントローラ61によって舵角制限無し処理が実行される。その状態では、図8(a)に示されるように、回動部材32,33の係合部44,47は舵角制限無し位置Pにある。従って、船外機推進ユニット3の舵角角度が-90度に達するまでは、ピニオン部材26の突起部29が係合部44に干渉することはなく、船外機推進ユニット3の舵角角度が+90度に達するまでは、ピニオン部材26の突起部29が係合部47に干渉することはない。
船体2の船速が舵角制限適用速度V以上になるか、またはアクセルレバー5の位置が舵角制限適用位置Dになると、コントローラ61によって舵角制限有り処理が実行され、方向制御弁51の位置が舵角制限有り用の開位置に切り換えられる。すると、別装ポンプ50からの作動油が油圧駆動部材31のオイル孔部38に供給されるため、油圧によって当接部43,46がストッパ部36まで移動する。
このため、図8(b)に示されるように、回動部材32,33の係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pから舵角制限有り位置Qに切り換わる。従って、船外機推進ユニット3の舵角角度が-α度に達すると、ピニオン部材26の突起部29が係合部44に干渉し、船外機推進ユニット3の舵角角度が+α度に達すると、ピニオン部材26の突起部29が係合部47に干渉する。
以上のような本実施形態の船舶用操舵装置12にあっては、ハンドル4が操作されると、ハンドル4の操作量に応じてヘルムポンプ13より油圧シリンダ14,15の一方に作動油が供給されることで、各油圧シリンダ14,15のピストン18,22が油圧シリンダ14,15の一方側から他方側に移動する。そして、変換機構16によってピストン18,22の往復運動が回転運動に変換されて、ピニオン部材26が回転することで、船外機推進ユニット3の操舵が行われる。ここで、船体2の状態が検知され、船体2の状態に基づいて、船体2の安定性の低下が予想される状況あるかどうかが判断される。船体2の安定性の低下が予想される状況でないと判断されたときは、2つの回動部材32,33の係合部44,47は、方向制御弁51及び油圧駆動部材31により舵角制限無し位置Pに設定される。船体2の安定性の低下が予想される状況であると判断されたときは、2つの回動部材32,33の係合部44,47は、方向制御弁51及び油圧駆動部材31により舵角制限有り位置Qに設定される。舵角制限有り位置Qは、舵角制限無し位置Pよりも船外機推進ユニット3の舵角を制限するような位置である。このため、係合部44,47の位置が舵角制限有り位置Qに設定された場合には、係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pに設定された場合に比べて、ハンドル4の操作量が大きいときに、ピニオン部材26の突起部29が早く係合部44,47に係合するようになる。従って、船外機推進ユニット3の舵角が制限される。
このような船舶用操舵装置12における油圧シリンダ14,15、変換機構16、油圧駆動部材31、回動部材32,33、別装ポンプ50及び方向制御弁51は、船体2の外部に搭載されている。これにより、油圧式の船舶用操舵装置12を採用する場合でも、船体2の搭載範囲に与える制約を軽減しつつ、船外機推進ユニット3の舵角制限を行うことができる。
また、本実施形態では、船体2の安定性の低下が予想される状況でないと判断されると、方向制御弁51によって別装ポンプ50からオイル孔部39に作動油が供給される。そして、作動油の油圧により回動部材32,33の当接部43,46が移動してストッパ部35に当接することで、係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pに設定される。船体2の安定性の低下が予想される状況であると判断されると、別装ポンプ50からオイル孔部38に作動油が供給される。そして、作動油の油圧により回動部材32,33の当接部43,46が移動してストッパ部36に当接することで、係合部44,47の位置が舵角制限有り位置Qに設定される。このように方向制御弁51の制御によって、係合部44,47の位置が舵角制限無し位置P及び舵角制限有り位置Qの一方から他方に容易に切り換えられる。
また、本実施形態では、別装ポンプ50からオイル孔部39に作動油が供給されると、作動油が連通孔41を流れて回動部材32,33の当接部43,46をストッパ部35側に押圧するため、当接部43,46がストッパ部35側にスムーズに移動する。別装ポンプ50からオイル孔部38に作動油が供給されると、作動油が連通孔40を流れて回動部材32,33の当接部43,46をストッパ部36側に押圧するため、当接部43,46がストッパ部36側にスムーズに移動する。
また、本実施形態では、係合部44,47の位置が舵角制限無し位置P及び舵角制限有り位置Qの一方から他方に切り換えられた後、別装ポンプ50から油圧駆動部材31への作動油の供給を停止させるように方向制御弁51が制御される。従って、係合部44,47の位置が舵角制限無し位置Pから舵角制限有り位置Qに切り換えられた後は、別装ポンプ50からオイル孔部38に作動油が供給されないため、油圧の力がストッパ部36に加わることが抑制される。係合部44,47の位置が舵角制限有り位置Qから舵角制限無し位置Pに切り換えられた後は、別装ポンプ50からオイル孔部39に作動油が供給されないため、油圧の力がストッパ部35に加わることが抑制される。従って、ストッパ部35,36の破損等が防止される。
また、本実施形態では、船体2の状態として、船体2の速度及び加速度に関する状態が検知される。船体2の速度及び加速度が高い状態で、船外機推進ユニット3の舵角量が大きいと、船体2の旋回力が増大するため、船体2の安定性が低下しやすくなる。そこで、船体2の速度及び加速度が高いときに、係合部44,47の位置を舵角制限無し位置Pから舵角制限有り位置Qに切り換えることにより、船外機推進ユニット3の舵角制限が効果的に行われる。
また、本実施形態では、船外機推進ユニット3の舵角量が舵角制限有り位置Qに対応する角度範囲内でないときに、通知が行われる。従って、船舶1の操船者は、船外機推進ユニット3の舵角量が舵角制限有り位置Qに対応する角度範囲内でない旨の通知によって、ハンドル4を元の状態に戻すことができる。
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば、上記実施形態では、船速センサ57により検出された船体2の船速と、アクセル位置センサ58により検出されたアクセルレバー5の位置とに基づいて、船体2の安定性の低下が予想される状況であるかどうかが判断されているが、特にその形態には限られず、船体2の速度及び加速度の少なくとも一方に関する状態を検知するセンサを使用すればよい。そのようなセンサとしては、船速センサ57及びアクセル位置センサ58以外にも、船体2の加速度を検出するセンサまたはエンジン11の回転数を検出するセンサ等を使用してもよい。
また、上述したセンサの検出値に加え、ハンドル4の操舵角、油圧シリンダ14,15内の作動油の圧力(油圧)及び温度(油温)等を用いて、船外機推進ユニット3の舵角制限の制御を詳細に行ってもよい。
また、上記実施形態では、油圧駆動部材31において、環状壁部34のオイル孔部38と各収容部37とは、ストッパ部35の連通孔40により連通され、環状壁部34の各オイル孔部39と各収容部37とは各ストッパ部36の連通孔41により連通されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、回動部材32,33の当接部43,46の両端面に突起を設けることで、環状壁部34に設けられたオイル孔部と収容部37とを直接連通させると共に、環状壁部34に設けられた他のオイル孔部と収容部37とを直接連通させてもよい。
また、上記実施形態では、舵角センサ59により検出された船外機推進ユニット3の舵角角度の絶対値が舵角制限角度αよりも大きいときに、その旨がディスプレイ60に警告表示されているが、特にその形態には限られず、ディスプレイ60に代えて、ランプ、ブザーまたは音声等による警告通知を行ってもよい。
また、上記実施形態では、回動部材32,33の係合部44,47の位置が舵角制限無し位置P及び舵角制限有り位置Qの一方から他方に変更される際に、舵角制限変更動作時間が計測されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、回動部材32,33の当接部43,46がストッパ部35,36に当接したかどうかを検出する位置センサまたは接触センサを備えてもよい。この場合には、舵角制限変更動作時間を計測しなくて済むため、コントローラ61による処理手順を簡素化することができる。
また、上記実施形態では、船外機推進ユニット3の舵角量の最大角度は±90度であるが、舵角量の最大角度としては、特に±90度でなくてもよい。