JP7300818B2 - 風味、食感、日持ち向上効果が改善された白焼きパン - Google Patents
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Description
(1)乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物、および穀物粉を基質として、酵母で発酵させて得られるパン種。
(2)パン種が、白焼きパン用のパン種である、(1)記載のパン種。
(3)(1)または(2)のパン種を用いるパンの製造方法。
(4)パンが、白焼きパンである、(3)記載の方法。
(5)パンに含まれる、マルトース、ラクトース、グルコースおよびフルクトースの総量が750ppm以下であり、遊離アミノ酸総量が30mg/100g以下であり、色差計によるL値が90以上、a値が-2から2であり、b値が20-25であるパン。
本発明において、発酵終了後の乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物は、そのまま本発明のパン種の原材料として用いても良いし、発酵後の品質を保つために成分調整して用いても良い。成分調整には、異性化糖、醸造酢、食塩、増粘多糖類等を用いることが出来る。
白焼きパンは、着色において通常のパンと区別される。例えば、色差計によるL値は90以上であり、a値は-2~2であり、b値は20~25程度である。
本発明において、パン種をパンに添加する方法は、特に限定されないが、添加するタイミングは原材料の混捏開始時に添加するとグルテン形成に影響を及ぼさず、均質に混合することが出来る。
パンの製造方法としては、後述する日持ち向上剤の使用を含め、本発明のパン種を用いる以外は通常のパンの製造方法を用いることができ、ストレート法、中種法、湯種法等の公知の方法を用いることができるが、焼成温度を140~220℃、好ましくは160~210℃とした場合、白焼きパンを得ることができるため好ましい。
分析試料の前処理として、フードカッターで粉砕したパン50gをビーカーに秤量し、75%エタノール溶液150mLを加え、マグネチックスターラ―で撹拌、抽出した。抽出液を吸引濾過した後、濾液を回収し、ブフナー漏斗上のパンは再び75%エタノール溶液150mLと混合して、アミノ酸を抽出をした。上記の手順を3回繰り返し、得られた抽出液はナス型フラスコに少量ずつ移して、遠心エバポレーターで水がなくなるまで全量濃縮した。ナス型フラスコに乾固された抽出物を1%スルホサリチル酸溶液で洗い取り、メスフラスコで25mLに定容した。得られた試料液は冷蔵庫で一晩静置保存した。翌日水層を回収し、0.45μm孔径ディスクフィルターでろ過後、濾液について全自動アミノ酸分析機(JLC-500V、日本電子株式会社)に供した。
本発明におけるHPLC法 分析条件を記す。
分析カラム:Shodex Asahipak NH2P-50G 4A
移動相:77%アセトニトリル
オーブン温度:40℃
流速:1.0 mL/min
分析試料の前処理として、焼成1日後の白焼きパンをフードカッターで粉砕し、20mL容のGC用スクリューキャップ付バイアル瓶に1g秤量した。内部標準物質は0.01%シクロヘキサノール水溶液とし、試料と一緒にGC用バイアル瓶に20μL封入し、PTFE被覆シリコンセプタムで密封した。
本発明におけるSPME-GC/MS法の分析条件を記す。
分析装置:GC本体-7980A(アジレントテクノロジー株式会社)
MS-700B(アジレントテクノロジー株式会社)
分析カラム:TC WAX (ジーエルサイエンス株式会社、60m×0.25mm i.d. 膜厚0.25μm)
移動相:He(ヘリウム)
シリンジ:DVB/Carboxen/PDMS(SPELCO)
吸着条件:50℃、30分
注入・脱離条件:250℃・3分、スプリットレス
加温条件:40℃・5分→2℃/分→100℃→8℃/分→240℃→240℃・5分
イオン源温度:230℃
イオン化電圧:70eV
同定:PBMアルゴリズムにてNISTデータベースで照合
圧縮率:60%
速度:600 mm/min
具体的には、強力粉、薄力粉、砂糖、食塩、イースト(ダイヤイースト、MCフードスペシャリティーズ株式会社製品)、イーストフード(パンダイヤC-500、MCフードスペシャリティーズ株式会社製品)、日持ち向上剤(MCフードスペシャリティーズ株式会社製品)、水、およびパン種をそれぞれ秤量し、縦型ミキサーで混捏した。日持ち向上剤とパン種は比較したい試験区により選んで添加した。ミキサーの撹拌速度を適宜調整し、生地内のグルテンが形成されたことを確認した後、ショートニングを添加し、再度混捏した。生地とショートニングが十分に混ざり合い、生地内にグルテンが再度形成させたことを確認してミキシングを終了し、この時の生地温度を捏上温度とした。また、混捏中に適宜冷却することによって、捏上温度を28±0.5℃以内に調節した。捏ね上げた生地は恒温槽で一次発酵させた。一次発酵終了後、生地を分割し、丸めて、ベンチタイムで生地を休ませた。ベンチタイム終了後、丸めた生地をモルダーでコッペに成型し、天板に等間隔に並べ、ホイロで二次発酵させた。発酵終了後、固定釜で焼成した。焼成後のパンは室温で90分冷却し、ビニール袋に詰めて、一部は25℃に設定した恒温槽で官能評価に用いるまで保管した。残りの一部は30℃に設定した恒温槽で生菌数測定を行うまで保存した。
本発明はこれらに限定されるものではない。
日持ち向上剤を添加していない白焼きパンは、呈味や発酵風味が弱く、粉臭や蒸れ臭が強いという課題があった。これらの課題を解決するために、白焼きパンに対するパン種の風味改善効果を比較した。
パン種の原材料と配合を表2に記した。実施区1、比較区1および比較区2はパン種を添加した試験区であり、各パン種は種類の異なるものを使用した。実施区1に使用したパン種は、穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を用いた。比較区1に使用したパン種は、発酵していない穀物粉を基質とした以外は、実施区1と同様に酵母で発酵させて得られたパン種を用いた。比較区2では、乳または乳製品の一例として生クリームを選択し、発酵させてない生クリームを、発酵させていない穀物粉と混ぜ合わせ、発酵基質として用いた以外は、実施区1および比較区1と同様に製出した。以上のパン種を表3に記載する試験区で白焼きパンに添加し、風味改善効果を官能評価で比較した。無添加区は、白焼きパンの基本配合であり、機能性を有した油脂、品質改良剤、糖類、発酵種等を含まない原材料で作製した。
実施例1における結果を表4に示した。表4には官能評価点の平均値と標準誤差値を示し、標準誤差を差し引きした値が表5のどの区分に入るかで効果の有無を判定し、記載した。実施区1では、ミルク様の甘い香りとフルーティーな甘い香りが強く、甘味と呈味も強かった。白焼きパンに不足する甘い香りや甘味、発酵風味の付与に対し、効果が高いことが示された。蒸れ臭と酸臭の低減については、大きな効果を得られなかったが、他の2試験区(比較区1及び2)がこれらの不快な香りを強めているのに対し、実施区1だけは弱めていることが示された。粉臭についても、実施区1は比較区1及び2とは異なり、添加効果を有することが示された。酸味では、実施区1は比較区1及び2よりも明確な添加効果を得られなかったが、当該パン種を添加することによって、酸味を弱める傾向にあることが示された。
以上のことから、乳または乳製品と穀物粉を基質としてパン種の原材料に使用する場合には、これらの原材料を各々発酵させた状態で用いることで、白焼きパンの風味を改善できることが示された。
日持ち向上剤を添加した白焼きパンは、アミノカルボニル反応による風味やイーストによる発酵風味が弱いことに加え、日持ち向上剤に含まれる酢酸ナトリウム等の酸味、酸臭を感じやすいという課題があった。これらの課題を解決するために、実施例1で添加効果の最も高かった実施区1のパン種を用いて、日持ち向上剤を添加した白焼きパンに対する風味改善効果を比較した。
日持ち向上剤とパン種を添加した白焼きパンの配合を表6に示した。日持ち向上剤とパン種の添加量は、当該製品の推奨添加量を基準とした。
実施例2における結果を表7に示した。表7には官能評価点の平均値と標準誤差値を示した。比較区3では、無添加区と比較して、ミルク様の甘い香りとフルーティーな甘い香りをわずかに感じ、酸臭と酸味もわずかに感じられた。比較区3と同量の日持ち向上剤を添加した実施区2では、ミルク様の甘い香りとフルーティーな甘い香りを強く感じ、酸臭と酸味は感じられないかわずかに弱まることが示された。比較区4は比較区3よりもミルク様の甘い香りが感じられなくなったが、実施区3ではミルク様の甘い香りもフルーティーな甘い香りもわずかに感じられ、酸臭と酸味を弱める傾向が示された。
以上の結果から、穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種は、日持ち向上剤を添加しても、甘い香りが付与され、酸臭と酸味をマスキング出来ることが示された。
白焼きパンは焼き色を付けないようにするために、焼成温度を下げて、焼成時間も短くするなどの工夫がされるため、生地中に水分が多く残され、食感は口内でぐちゃつきやすいという課題があった。これらの課題を解決するために、無添加区と実施区1、市販の白焼きパンA(比較区5)、市販の白焼きパンB(比較区6)の食感について官能評価を行い、パン種を添加したときの食感改良効果を調べた。
実施例3における結果を表8に示した。表8には官能評価点の平均値と標準誤差値を示し、標準誤差を差し引きした値が表5のどの区分に入るかで効果の有無を判定し、記載した。効果ありと判定された場合には、どのような食感に改質が可能か特性を効果の有無とともに併記した。実施区1では、しっとりさを高め、口内でのぐちゃつきを抑えることが示された。比較区5および6ではもっちりした歯切れを付与出来たが、口内でのぐちゃつきを感じられた。
以上の結果から、穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を白焼きパンに添加することによって、白焼きパンのぐちゃつきを改善出来ることが示された。
実施例3において、穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を白焼きパンに添加することによって、白焼きパンのぐちゃつきを改善出来ることが示された。そこで、無添加区と実施区1の白焼きパンについて、ぐちゃつきをテクスチャーアナライザーで数値化した。具体的な方法は本明細書の段落番号0037に記載した。
テクスチャーアナライザーでの測定結果を表9および図1に示した。図1は、食塊モデルに楔形プランジャーを押し込み、一定時間後に抜いたとき描かれる応力を示した。付着力はチェスニャクが食品のテクスチャーについて用語を体系化した定義に基づき、食品を手で触れたり,食して歯・舌・口腔に付着して,引き離そうとする力(N)とした。本発明においては、楔形プランジャーを抜くときに負荷される応力であり、マイナスの値を示す。実施区1は無添加区より負の方向に動く応力が小さく、付着性が低いことが示された。これらの結果から、実施区1の白焼きパンは、付着力を小さくすることで、口内でのぐちゃつきを抑制することが示された。
白焼きパンは焼き色を付けないようにするために、焼成温度を下げて、焼成時間も短くするなどの工夫がされているが、その結果、生地中に水分が多く残され、日持ちも通常のパンより悪いなどの短所があった。これらの課題を解決するため、実施例2と同様の日持ち向上剤を添加した白焼きパンを製出し、一般生菌に対する日持ち向上効果を比較、検証した。評価方法は本明細書の段落番号0038に準じて行った。
実施例5における結果を表10に示した。対粉0.2%の日持ち向上剤を添加した比較区3は、焼成後30℃で保存し、3日が経過した時点で一般生菌数が105CFU/gレベルに達し、製品価値が著しく低下したのに対し、穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を添加した実施区2は103CFU/gレベルを保ち、日持ち向上効果を高めた。対粉0.3%の日持ち向上剤を添加した比較区4は、上記と同じ保存時間で103CFU/gレベルだったが、穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を添加した実施区3は101CFU/gレベルであり、さらに日持ち向上効果を高めた。4日が経過した時点では、比較区4が105CFU/gレベルに達したが、実施区3は103CFU/gレベルだった。以上の結果から、日持ち向上剤にパン種を組み合わせることによって、保存3日後では日持ち向上剤の添加量を0.3%から0.2%に減らしても、0.3%と同等の日持ち向上効果を得られることが示された。また、対粉0.3%の日持ち向上剤に、穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を組み合わせることによって、日持ちを1日延ばすことが可能であることが示された。
無添加区と実施区1の白焼きパンについて、アミノ酸分析、糖分析、香気成分分析、およびL値、a値、b値をそれぞれ測定した。測定方法は本明細書の段落番号0034-0036に準じた。
無添加区と実施区1のアミノ酸分析結果を、図2に示した。両試験区のアミノ酸組成を比較したところ、アラニンが微増し、プロリンが微減したが、アミノ酸総量に差はほとんどなかった。穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を白焼きパンに添加すると、甘味を呈するアラニンが増えることから、風味改善に寄与することが示された。アミノ酸総量には変化がなかったことから、アミノカルボニル反応による焼き色の促進にはほとんど影響しないことが示された。
同試験区における糖の分析結果を、図3に示した。両試験区の糖組成を比較したところ、組成や検出濃度に差はほとんどなかった。本発明のパン種を白焼きパンに添加しても、焼き色の促進にはほとんど影響しないことが示唆された。
同試験区における香気成分分析の結果を、図4及び表11に示した。両試験区の香気成分を比較すると、実施区1ではカプロン酸エチル、オクタン酸エチル、酪酸およびカプロン酸が無添加区より高い濃度で検出された。これらの香気成分はいずれもミルク様の甘い香りやフルーティーな甘い香りを呈する物質であるため、風味改善に寄与したことが示唆された。
同試験区におけるL値、a値、b値の結果を、表12に示した。両試験区のいずれの値も大きな差はなかった。白焼きパンに穀物粉に乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物と、穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加え、酵母で発酵させて得られたパン種を添加しても、色調に変化がないことを示した。
以上の結果から、本発明のパン種は白焼きパンに添加してもアミノ酸総量と糖濃度を変えないため、アミノカルボニル反応を促進することはなく、色差計による分析値からも色調に影響していないことが示された。また、本発明のパン種を添加した試験区では、甘味や甘い香りを呈するアミノ酸や香気成分が増加し、白焼きパンの風味改善に寄与したことが示された。
Claims (2)
- 乳または乳製品を基質とした乳酸菌発酵物 と穀物粉を基質とした乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を異性化糖、醸造酢、食塩、増粘多糖類のいずれか1つ以上を用いて成分調整し、穀物粉を基質として、酵母で発酵させて得られる白焼きパン用のパン種の製造方法。
- 請求項1記載のパン種を用いる白焼きパンの製造方法。
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