JP7295536B2 - B型肝炎ワクチン - Google Patents

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Description

本発明は、HBs-L抗原を用いたB型肝炎ワクチンに関する。
B型肝炎ウィルス(HBV)の表面抗原は、L抗原(Pre-S1、Pre-S2及びS領域から形成)、M抗原(Pre-S2及びS領域から形成)及びS抗原(S領域のみから形成)の3種類が存在する(これらの抗原をそれぞれ、HBs-L抗原、HBs-M抗原、HBs-S抗原ともいう。)。B型肝炎用のワクチンは、S抗原が主に使用され、一部、M抗原も使われてきた。
HBVの表面抗原として機能するタンパク質のうち、Pre-S1領域はHBVウイルスがヒト肝細胞を認識し、結合するセンサーである。このため、Pre-S1領域の機能を中和する抗体はB型肝炎に対する予防ワクチンとして有望であるのみならず、体内でHBVウイルスが広がることを阻止する意味で治療ワクチンとしても重要である。
Lタンパク質をコードする遺伝子(L抗原遺伝子という)は、3つの翻訳開始サイトと共通の終止コドンを持っている。このためL抗原遺伝子をCHO細胞などの動物細胞で発現させると、L、M及びSの3種のタンパク質が形成される。この3種のタンパク質は一つの脂質粒子に提示されることでL、M及びSタンパク質が混合した抗原粒子が形成されることになる。
こうした状況下、3種の抗原であるL抗原、M抗原及びS抗原の混合物を利用したワクチンも知られている(例えば、市販の予防ワクチンであるSci-B-VacTM(VBI Vaccines Inc. イスラエル)。また、3種の抗原の混合物をB型肝炎の治療ワクチンとして利用しようとする考えもある(HBVワクチンおよびその製造方法:特表2010-516807)。
しかしながら、これらの抗原はL抗原、M抗原及びS抗原の混合物であり、L抗原だけを利用したワクチン開発は知られていない。
ところで、B型肝炎ウイルス(HBV)持続感染者は世界で約4億人存在すると推定されており、本邦におけるHBV感染率は1.5%に上る。本邦では、HBV母児感染予防、輸血のスクリーニング、高リスク群へのワクチン投与(セレクティブワクチネーション)などの各種予防策が功を奏し、HBV感染者数は減少傾向にある。一方で、これらの予防策の対象とならない多くの人は、HBVに対する免疫がなく、HBVに対して無防備な状態にあるため、現在でも一定数みられる水平初感染によるB型急性肝炎、劇症肝炎の患者となり得る。これらの水平感染の予防のため、本邦ではHBVに対するユニバーサルワクチネーションが本年から開始された。
前述のとおり、HBVのウイルス粒子表面にはHBs-L抗原、HBs-M抗原、HBs-S抗原の3種類の蛋白質が存在する(図1)。本邦では2種類のHBV予防ワクチンが使用されるが、いずれもHBs-S抗原を使用しており、約10%の人はいずれのワクチンでもHBs抗体の産生がみられず(HBワクチン無反応者)、HBVワクチン接種の恩恵が得られない。そのため、HBV水平感染の根絶には、HBVワクチン無反応者の少ない、より強力なワクチンが必要である。またHBs-S抗原を用いたB型肝炎に対する免疫治療も試みられているが、十分な治療効果は得られておらず、より強力な免疫治療法が求められる。
特表2010-516807号公報
Averhoff F,et al.Am J Prev Med.1998;15:1-8. Horiike N,et al.Hepatol Res.2002;23:38-47.
現行のワクチンは製造上の簡便性からHBs-S抗原が用いられている。しかし肝細胞に吸着する時にはLタンパク質のN末端が使われており、その領域に対する抗体又は細胞性免疫が誘導されていることが望ましい。
また、感染後にウィルスの活動性が持続すると慢性肝炎から肝硬変、肝細胞がん、肝不全に進展する。現在、B型肝炎治療にはPEG化IFNおよび核酸アナログであるエンテカビルが用いられている。PEG化IFNは免疫賦活作用や高ウィルス作用を有し、セロコンバージョン例では高効率で効果が持続するものの、高頻度かつ多彩な副作用が大きな問題である。また、エンテカビルはウィルスの複製阻害によりHBV DNA量を減少させるものの、その薬効は投与の中止によって速やかに消失し、肝炎が再燃してしまう。このような問題点から、従来とは異なるメカニズムの新規治療法の開発が強く望まれている。
そこで本発明は、B型肝炎に対する新規治療ワクチンを提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ビークル社で開発製造されているHBs-L抗原(図2)を免疫することで、現状よりもより強力な感染発症予防効果を示すワクチンの開発を試み、HBs-L抗原を用いることにより上記課題を解決することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)B型肝炎ウイルスのLタンパク質又はその変異体のみが脂質膜上に集合し、形成された表面抗原粒子を含む、B型肝炎ワクチン。
(2)Lタンパク質又はその変異体が、以下の(a)又は(b)のタンパク質である(1)又は(2)に記載のワクチン。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から385番目のS領域内で13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(3)Lタンパク質又はその変異体が、酵母により発現されたものである(1)又は(2)に記載のワクチン。
(4)被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する抗体が産生される、(1)~(3)のいずれか1項に記載のワクチン。
(5)被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する細胞性免疫が誘導される、(1)~(4)のいずれか1項に記載のワクチン。
(6)さらにB型肝炎ウイルスのコアタンパク質を含む、(1)~(6)のいずれか1項に記載のワクチン。
(7)被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する抗体が誘導される、(6)に記載のワクチン。
(8)被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する細胞性免疫が誘導される、(6)又は(7)に記載のワクチン。
(9)B型肝炎ウイルスに対する中和抗体価が、少なくとも2から1000である(1)~(8)のいずれか1項に記載のワクチン。
(10)B型肝炎ウイルスのヒト肝細胞への結合に対する阻害効果が、少なくとも50~100%である(1)~(9)のいずれか1項に記載のワクチン。
本発明により、B型肝炎ワクチンが提供される。本発明により、初めてB型肝炎ウイルスの中和抗体価を定量的に解析・提示し、その抗B型肝炎ウイルス効果を明確に示すことが可能となった。
HBVの構造を示す図である。 L抗原を示す図である。 L抗原の銀染色、並びにL抗原のS、Pre-S1及びPre-S2に対する抗体によるウエスタンブロットを示す図である。 ツパイへのHBV抗原の免疫方法を示す図である。 ウサギへのHBV抗原の免疫方法を示す図である。 抗HBs-L抗体のELISAによる検出結果を示す図である。 抗HBs-S抗体のELISAによる検出結果を示す図である。 ウサギ抗体(HBs-S抗原、HBs-L抗原免疫)のELISAによる検出結果を示す図である。 ツパイ免疫血清の中和抗体価を示す図である。 抗HBs-L抗体及び抗HBs-S抗体によるHBVの肝細胞結合阻害活性を示す図である。 精製したHBcAgの電気泳動結果を示す図である。 マウス抗体検出ELISAの結果を示す図である。 HBs-L及びHBc抗原投与による細胞性免疫の活性化試験の結果を示す図である。
本明細書において、Lタンパク質とは、L抗原を構成するタンパク質を意味し、Mタンパク質とは、M抗原を構成するタンパク質を意味し、Sタンパク質とは、S抗原を構成するタンパク質を意味する。
本発明は、HBs-L抗原を用いたB型肝炎ワクチンに関する。
B型肝炎に対する予防ワクチンとしてHBs-S抗原が用いられているが、約10%の人は同ワクチンを投与してもHBs抗体の産生がみられず(HBワクチン無反応者)、感染防御ができない。またB型肝炎の抗ウイルス療法として、核酸アナログ製剤の内服治療とインターフェロン治療が提案されているが、核酸アナログ治療については内服を始めると中断できず、一生継続する必要があり、インターフェロン治療は多くの副作用を伴う。また共に治療してもHBV抗原・抗体のセロコンバージョンは得られにくい。過去にB型肝炎のHBs-S抗原を用いた免疫治療も試みられているが、十分な治療効果は得られていない。そこで、B型肝炎ウイルス感染予防のために、現行ワクチンと異なる、より強力な免疫作用を持つHBs-L抗原による予防ワクチンの開発と、同抗原を治療ワクチンとして用いた免疫治療の開発を目的とした。
本発明者は、L抗原だけを提示する粒子を利用してB型肝炎ワクチン可能性を検討したところ、従来のものより優れた効果が期待できることを発見し、本発明を成すことに成功した。
HBVのウイルス粒子表面にはHBs-L抗原、HBs-M抗原、HBs-S抗原の3種類の蛋白質が存在する(図1、図2)。HBs-L抗原は、表面に提示されるタンパク質のN末からPre-S1領域、Pre-S2領域、S領域の3つの領域からなる。Pre-S1領域はHBVが感染する肝細胞を認識し結合するセンサー領域であり、HBV感染機構の最初のステップで重要な役割を持っている。Pre-S2領域は発癌との関与が推定されている他、HBVが感染細胞へ侵入する際に役割を果たすと言われている。また、S領域はHBVがウイルス粒子としての構造を保持するために重要な膜貫通ドメインを有している。HBs-L抗原は3つの領域から成っているが、HBs-M抗原はPre-S1領域を欠き、HBs-S抗原はPre-S1とPre-S2領域を持たず、S領域のみから成っている。HBs-L抗原を形成するLタンパク質は通常400個のアミノ酸からなっているが、欠失が多いタイプでは、例えば382個のアミノ酸からなるものもある。400個のアミノ酸からなる場合、Pre-S1領域はN末側からの1番から119番目まで、Pre-S2領域は120番から174番目まで、S領域は175~400番目までのアミノ酸で構成されている。種々の変異体を通じて、各領域の重要なアミノ酸配列は良く保存されており、欠失が多いものでも3つの領域を区別することは容易である。現行のワクチンは製造上の簡便性からHBs-S抗原が用いられている。しかしHBVが肝細胞に吸着する時にはL抗原のPre-S1領域が重要でありため、本領域に対する抗体又は細胞性免疫が誘導されていることが望ましい。
そこで本発明においては、ビークル社で開発製造されているHBs-L抗原(配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む)を免疫することで、現状よりもより強力な感染発症予防効果を示すワクチンの開発を試みた。ビークル社では、Pre-S1領域のN末の11アミノ酸を5個のシグナルペプチドと置き換え、且つ、163番目から168番目(Pre-S2領域の44から49番目)のアミノ酸を欠失させることで、Lタンパク質のみから成るHBs-L抗原の安定な大量製造に成功しているものである。
HBVが感染可能な小動物であるツパイ(図4)又はウサギ(図5)にHBs-L抗原又はHBs-S抗原を免疫し、その血清についてHBs-L抗原又はHBs-S抗原に対する抗体価をELISA法及び中和抗体価により定量化し比較した。
HBs-L抗原を免疫した動物の血清中にはHBs-L抗原と特異的に結合する抗体が、HBs-S抗原を免疫した動物の血清中にはHBs-S抗原と特異的に結合する抗体が多く産生されていた(図6,図7,図8)。
HBs-L抗原、あるいはHBs-S抗原を免疫した血清の中和抗体価について比較検討したところ、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方が高い中和抗体価を示した(図9)。また、この中和活性を示す抗体の結合強度を評価するために、それぞれを希釈して中和試験を行ったところ、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方がHBs-S抗原を免疫した方よりもより強い結合活性を示した(図10)。以上のことから、現行のHBs-S抗原によるワクチンよりもHBs-L抗原による予防ワクチンの方が優れていることが示された。
さらに、L抗原にアラムアジュバントを結合させたものを作製し、これをマウスに投与して血清を調製した。血清中の抗体価の測定を行った結果、Pre-S1抗体が、Pre-S2抗体及びS抗体に比べ、約10倍程度の高い抗体価を有するPre-S1抗体を作製することが分かった。
本発明は、B型肝炎ウイルスのLタンパク質、Mタンパク質及びSタンパク質のうち、Lタンパク質又はその変異体のみが脂質膜上に集合し、形成された表面抗原粒子を含む、B型肝炎ワクチンを提供する。
本発明のワクチンには、Lタンパク質のほか、その変異体を使用することもできる。例えば、本発明のLタンパク質又はその変異体として以下のタンパク質を例示することができる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から385番目のS領域において13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
上記(b)のタンパク質は、L抗原として機能するタンパク質である。「L抗原として機能するタンパク質」とは、動物にL抗原を接種したときに抗体を産生させ、当該抗体が、B型肝炎ウイルスして中和活性を有するようにワクチンとして機能するタンパク質であることを意味する。
また、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であってL抗原として機能するタンパク質も本発明において使用することができる。このようなタンパク質のアミノ酸配列としては、例えば、
(i)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から5番目のKVRQG(配列番号5)に代わってMGGWSSKPRKG(配列番号6)が挿入されたアミノ酸配列
(ii)配列番号1で表されるアミノ酸配列の156番と157番との間へSIFSRT(配列番号7)の6個のアミノ酸が挿入された配列
(iii)配列番号1で表されるアミノ酸配列の163番目から385番目のS領域において13個以下のアミノ酸が置換された配列
(iv)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から385番目のS領域内で13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換された配列(156番と157番の間への6個のアミノ酸の挿入を除く)
などが挙げられる。
本発明において、Lタンパク質及びその変異体の作製方法は特に限定されず、酵母などを用いる遺伝子工学的手法による合成でもよく、当業者に周知の方法を用いることができる。
Lタンパク質を遺伝子工学的に合成する場合は、まず、当該Lタンパク質をコードするDNAを設計し合成する。当該設計及び合成は、例えば、Lタンパク質をコードする遺伝子を含むベクター等を鋳型とし、所望のDNA領域を合成し得るように設計したプライマーを用いて、PCR法により行うことができる。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによってタンパク質発現用組換えベクターを得て、この組換えベクターを目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することによって形質転換体を得る(Sambrook J.et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(4th edition)(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))。
上記の変異体タンパク質を調製するために、該タンパク質をコードする遺伝子(DNA)に変異を導入する。変異導入には、変異を持った遺伝子情報を元に発現ベクターを構築するほか、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞又は昆虫が挙げられる。宿主への組換えベクターの導入方法は公知である。
そして、前記形質転換体を培養し、その培養物から抗原として使用されるLタンパク質を採取する。「培養物」とは、(a)培養上清、(b)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物のいずれをも意味するものである。
培養後、目的のLタンパク質が宿主内に生産される場合には、宿主を破砕することによりLタンパク質を抽出する。また、Lタンパク質が宿主外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により宿主を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で、又は適宜組み合わせて用いることにより、Lタンパク質を単離精製することができる。
本発明においては、無細胞合成系を用いたin vitro翻訳によりLタンパク質を得ることもできる。この場合は、RNAを鋳型にする方法とDNAを鋳型にする方法(転写/翻訳)の2通りの方法を用いることができる。無細胞合成系としては、市販のシステム、例えばExpresswayTMシステム(インビトロジェン社)等を用いることができる。
さらに、本発明において使用されるLタンパク質は、自己組織化能を有し、脂質膜上に集合して粒子を形成することにより抗原提示させることができる。すなわち、Sクンパク質、Mタンパク質及びLタンパク質は、何れも脂質親和性の高いS領域を持っており、いずれのタンパク質も、生物細胞を利用して製造すると脂質膜に突き刺さって存在する状態となる。これにより、当該タンパク質は安定な抗原粒子構造を取り、この粒子構造のため高い免疫原性を持つことになる。このように抗原提示させる方法として、第4085231号又は第4936272号特許に記載されている方法が挙げられる。
さらに、本発明においては、B型肝炎ウイルスのコアタンパク質を前記粒子と混合する他に、Lタンパク質粒子の表面又は内部に含めることもできる。コアタンパク質の作製法は、既に報告されている非特許文献(例えば、Rolland et al.J Chromatogr B Biomed Sci Appl.2001 25;753(1):51-65)などの方法を利用することが出来る。
本発明において得られるワクチンは、被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する抗体が産生される。また、被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する細胞性免疫が誘導される。さらに、コアタンパク質を含めたワクチンは、被検者への投与によりコアタンパク質に対する抗体が誘導され、あるいは、コアタンパク質に対する細胞性免疫が誘導される。
抗体が誘導されたことの確認は、ELISA等により行うことができる。また、本明細書において、「細胞性免疫」とは、食細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞等が体内の異物排除を担当する免疫系である。
このときのB型肝炎ウイルスに対する中和抗体価は、少なくとも2から1000であり、B型肝炎ウイルスのヒト肝細胞への結合に対する阻害効果は、少なくとも50~100%である。
本発明のワクチンは、あらゆる公知の方法、例えば、筋肉、腹腔内、皮内又は皮下等の注射、あるいは鼻腔、口腔又は肺からの吸入、経口投与により生体に導入することができる。さらに、本発明のワクチンに含まれるHBs-L抗原と、既存の抗ウイルス薬(例えばインターフェロン)を併用することも可能である。併用の態様は特に限定されるものではなく、本発明のワクチンと既存のワクチン又は抗ウイルス薬とを同時に投与することもできるし、一方を投与後、一定時間経過後に他方を投与する方法により生体に導入することもできる。
また、本発明のワクチンは、賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等公知の薬学的に許容される担体、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等と混合し、ワクチン組成物として使用することができる。
本発明のワクチン組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、シロップ剤等の経口投与剤、注射剤、噴霧剤、外用剤、坐剤等の非経口投与剤などの形態に応じて、経口投与又は非経口投与することができる。好ましくは、皮内、皮下、筋肉内、腹腔等への局部注射あるいは経鼻噴霧等が例示される。
ワクチン又はワクチン組成物の投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象、患者の年齢、体重、性別、症状その他の条件により適宜選択されるが、HBs-L抗原の一日投与量としては、皮下注射の場合は5~400マイクログラム程度、好ましくは10~100マイクログラム程度であり、経鼻噴霧の場合は5~400マイクログラム程度、好ましくは10~100マイクログラム程度である。本発明のワクチン又はワクチン組成物は、1日1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
L抗原の製造
本実施例においては、L抗原として、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる自己組織化能を有するLタンパク質が脂質膜上に集合して出来たウイルス様粒子を用い、特許第4085231号明細書に記載されている方法で調製した。具体的には、特許第4085231号明細書に記載の方法により、L抗原を発現する酵母を調製した。この酵母を培養し、培養後、特許第4936272号明細書に記載の方法により、ガラスビーズを利用して培養菌体を破砕した。得られた菌体破砕液を70℃にて20分間の熱処理に供した。熱処理後に遠心工程に供し、得られた上清を回収した、その後、回収された上清を硫酸セルロファインカラム及びゲル濾過カラムを用いて精製し、タンパク質濃度が0.2mg/mL以上となるように濃縮して、L抗原を得た。
[実施例2]
L抗原の生化学的・物理化学的性質
製造したL抗原を電気泳動し銀染色すると、図3左パネルに示すように45kDa付近の位置にL抗原のモノマーのバンドが見え、その2倍の分子量位置にL抗原のダイマーのバンドが見える。一方、L抗原をウェスタンブロットで検出すると図3右パネルに示すように、S抗体、Pre-S1抗体、及びPre-S2抗体の何れの抗体を利用しても、45kDa付近の位置とその約2倍の分子量の位置にバンドが見られた。
L抗原の粒子径はゼータサイザー(マルバーン社)を用いて動的光散乱法によって行った。その結果、粒子径は59.7nmであり、本抗原が粒子を形成していることが分かる。なお、乾燥状態で測定する電子顕微鏡では粒子径は凡そ20nm程度になるが、本方式では粒子サイズは水溶液中で測定するため、粒子径より大きくなる。
以上の結果は、このL抗原が、Sタンパク質及びMタンパク質を含まず、Lタンパク質のみからなる抗原であり、しかも粒子を形成していることを示している。
[実施例3]
チオレドキシン融合Pre-S1とPre-S2の作製
Pre-S1領域又はPre-S2領域のDNA断片は、HBsAg L-Protein遺伝子を含むpGLD-LIIP39-RcT(Kuroda et al,J Biol Chem,1992,267:1953-1961)から調製した。得られたDNA断片をpET-32a(Novagen)のBamHIサイトに挿入し、発現ベクターpET-32a-Pre-S1及びpET-32a-Pre-S2とした。これらの発現ベクターを発現用大腸菌BL21(DE3)pLysSに形質転換し、発現株を得た。発現菌体は、培養液にIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を添加し、発現誘導かけることで得た。
発現菌体を超音波破砕することでタンパク質を抽出し、Niカラム(Chelating Sepharose Fast Flow、GE Healthcare)かけ、イミダゾール濃度を上げることでPre-S1-TRXタンパク質及びPre-S2-TRXタンパク質を溶出させた。
精製物はPBS(phosphate buffered saline)で透析後、冷凍保存した。なお、タンパク質濃度を測定は、BCA Protein Assay Kit(Thermo)を用いて行った。
[実施例4]
L抗原投与時の抗体産生
L抗原にアラムアジュバントを結合させたものを調製した。これをマウス(ICR 日本チャールズリバー、n=3)に、1匹当りL抗原として5μgを2週間間隔で3回投与し、最終投与4週間後に採血し、血清を調製した。
血清中のPre-S1,Pre-S2,S抗体の測定は次の通り行った。
抗S抗体については、S抗原(adr型のS抗原粒子、ビークル社製)を固相化したELISAプレートに血清サンプルをアプライし、抗原に結合したS抗体を、HRP標識した抗マウスIgGを2次抗体として利用して測定した。なお、S抗体を定量するために、市販のマウスの抗S抗原モノクローナル抗体(HB5 EXBIO社)を検量線用の標準抗体として利用した。
Pre-S1抗体については次の通り行った。即ち、実施例3で調整したPre-S1-TRXタンパク質をELTSAプレートに固相化し、その後はS抗体の測定と同様に行った。
なお、検量線用の標準抗体としてはPre-S1モノクローナル抗体(Anti-HBs Pre-S1,mono 1、ビークル社製)を利用した。Pre-S2抗体の測定は、Pre-S1の場合と同じく、調製したPre-S2-TRXタンパク質をELISAプレートに固相化したものを利用して測定した。検量線用の標準抗体としてはPre-S2モノクローナル抗体(2APS42、(株)特殊免疫研究所)を利用した。得たれた結果を表1に示す。
Figure 0007295536000001
表1に示される通り、L抗原を投与すると、Pre-S1抗体はPre-S2やS抗体に比べ約10倍程度の高いPre-S1抗体を作ることが分かった。このことは、Lタンパク質だけで出来たL抗原は非常に大量のPre-S1抗体を作るのに適した抗原であることを示す。
[実施例5]
HBs-L抗原又はHBs-S抗原を、ウサギ、又はHBVが感染可能な小動物であるツパイに免疫後、経日的に採血を行った(図4、図5)。この血清についてHBs-L抗原、HBs-S抗原に対する抗体価をELISA法により定量化し比較した。また、HBV感染感受性培養細胞を用いて中和抗体誘導効果の定量化を行った。また、HBVが感染可能な小動物であるツパイからは経日的に末梢血を採取し、凍結保存した。この細胞を用いて細胞性免疫の誘導効果の定量化比較を行った。
1).ウイルス
B型肝炎ウイルス(HBV)は、ジェノタイプC(C_JPNAT)を使用した。本ウイルスをヒト初代培養肝細胞(PXB細胞;フェニックスバイオ社)に感染させ、ウイルスを増殖させた細胞の培養上清をウイルス液として使用した。
2).ウイルスと細胞
ウイルスの感染実験には、HepG2細胞にヒトのNTCP遺伝子を導入し発現させたHepG2-NTCP30細胞を用いた。HepG2-NTCP30細胞の培養にはDulbecco’s Modified Essential Medium/F12-Glutamax(Thermo Fisher)にHEPESを10mM、加熱非働化牛胎児血清(Fetal Calf Serum:FCS)を10%、Insulinを5μg/ml、Puromycinを1μg/ml、Penicillinが100units/ml、Streptomycinが100μg/mlとなるように加えたものを増殖用培地として用いた。
3).動物
ツパイ(Tupaia belangeri)は中国科学院昆明動物研究所より購入し、自家繁殖した個体を使用した。ウサギはSlc:NZW(日本エスエルシー株式会社)6週齢を用いた。
4).免疫抗原
各動物への免疫には、HBs S-抗原,HBs L-抗原,HBc抗原(ビークル社)を使用した。
5).動物への免疫
ツパイにおいては、HBs S-protein又はHBs L-proteinとHBc proteinとが、それぞれ100μg/mlとなるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した抗原液を100μl、3頭ずつツパイの背部に皮下接種した。免疫は2週間おきに5回行った後、4週間後に再度免疫を行った。採血は、免疫時および最終免疫の1週間後に実施し、EDTA採血管を用いた。血液は2,000rpmで10分間遠心し、血漿を分離した。血漿は使用時まで-80℃にて保存した。
ウサギへの初回免疫には、HBs S-protein(1mg/ml)又はHBs L-protein(1mg/ml)とフロイントコンプリートアジュバント(和光社)とを等量混合した抗原液を100μl、3頭ずつウサギの背部に皮下接種した。1か月後に2回目の免疫を行い、その際には、フロイントコンプリートアジュバントの代わりにインコンプリートアジュバント(和光社)を蛋白液と混合して抗原液を作製し、背部に皮下接種した。免疫1か月後に採血を行った。血液は15,000rpmで10分間遠心し、血清を分離した。血清は使用時まで-80℃にて保存した。
6).ツパイ検体からの抗体検出ELISAによる抗HBs抗体の検出
捕捉抗原として、HBs S-protein又はHBs L-proteinが2μg/mlとなるように0.05M NaCOカーボネートバッファー(pH9.6)で希釈した抗原液を96穴プレートに各穴50μlずつ分注して、4℃で一晩インキュベーションした。その後、これにブロッキングバッファー(1%ウシ血清アルブミン、0.5% Tween、2.5mM EDTA添加PBS)を各穴100μlずつ加え、37℃で2時間インキュベートしてブロッキングした。これを200μlの0.5% Tween添加PBS(PBST)で3回洗浄した後、ブロッキングバッファーで1,000倍に希釈した血漿を各穴50μlずつ加え、37℃で2時間インキュベーションした。
その後、再度200μlのPBSTで3回洗浄した後、2次抗体としてブロッキングバッファーで1μg/mlに希釈した抗ツパイIgGウサギ抗体を各穴50μlずつ加え、37℃で2時間インキュベーションした。その後、200μlのPBSTで3回洗浄した後、3次抗体としてブロッキングバッファーで10,000倍に希釈した抗ウサギIgGロバ抗体を各穴50μlずつ加え、37℃で1時間インキュベーションした。200μlのPBSTで3回洗浄した後、0.15Mクエン酸バッファー10mlあたりオルトフェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)を40mg溶解し、過酸化水素(H)を4μl加えたものを各穴100μlずつ加えた。室温で10分間発色させた後、反応停止液として2M H2SO4を各穴50μlずつ加え、492nmの吸光度を測定した。
7).中和試験
(1)細胞の調製
中和試験には、HepG2-NTCP30細胞を使用した。コラーゲンコートした48穴プレートに2.0×10cells/mlで各穴250μlずつ播種した。37℃で24時間培養後、培地を3%DMSO添加増殖用培地に置き換えた。さらに37℃で24時間培養した細胞を中和試験に用いた。
(2)中和試験の術式
検体の血清・血漿サンプルを増殖用培地で10倍希釈し、さらに2倍階段希釈を行った。これら血清・血漿サンプルおよびコントロールとして増殖用培地と6.0×10copies/mlに調製したウイルス液を等量ずつ混合し、37℃で1時間静置し、反応させた。反応後、48穴プレートに播種されたHepG2-NTCP30細胞に混合液を各穴125μl接種し、37℃で3時間静置し、反応させた。反応後、接種した混合液を除去し、125μlの増殖用培地を各穴注ぎ、5回洗浄を行った。洗浄後、細胞を先太チップで回収し、使用時まで-80℃に凍結保存した。
(3)ウイルス遺伝子の定量
凍結保存した細胞からの遺伝子抽出はスマイテストEX-R&D(日本ジェネティクス)を使用した。ウイルス遺伝子の定量はリアルタイムPCR法により決定した。PCR反応液30μlには、遺伝子が250ng、フォワードプライマーHB-166-S21(nucleotides[nts]166-186;5’-CACATCAGGATTCCTAGGACC-3’(配列番号2))が6pmol,リバースプライマーHB-344-R20(nts 344-325;5’-AGGTTGGTGAGTGATTGGAG-3’(配列番号3))が6pmol,TaqManプローブHB-242-S26FT(nts 242-267;5’-CAGAGTCTAGACTCGTGGTGGACTTC-3’(配列番号4))が9pmol,Thunderbird Probe qPCR Mix(東洋紡)が15μl含まれる。PCRサイクルは50℃ 2分、95℃ 10分の反応後、95℃ 20秒と60℃ 1分の反応を53回繰り返した。
(4)中和抗体価の決定
それぞれの細胞サンプルよりウイルス遺伝子量を定量し、コントロールサンプルとのウイルス遺伝子量と比較した。コントロールサンプルの遺伝子サンプルと比較して、ウイルス遺伝子量が10%以下となっているサンプルは抗体による中和反応陽性とみなし、中和抗体陽性とした。中和抗体価は、中和反応の見られた血漿・血清の最高希釈倍率の逆数で表した。
結果
HBVのウイルス粒子表面にはHBs-L抗原、HBs-M抗原、HBs-S抗原の3種類の蛋白質が存在する(図1、図2)。現行のワクチンは製造上の簡便性からHBs-S抗原が用いられている。しかしHBVが肝細胞に吸着する時にはL抗原のN末端が使われており、その領域に対する抗体又は細胞性免疫が誘導されていることが望ましい。そこでビークル社で開発製造されているHBs-L抗原(Ref.2)を免疫することで、現状よりもより強力な感染発症予防効果を示すワクチンの開発を試みた。HBVが感染可能な小動物であるツパイ(図4)又はウサギ(図5)にHBs-L抗原又はHBs-S抗原を免疫し、その血清についてHBs-L抗原又はHBs-S抗原に対する抗体価をELISA法及び中和抗体価により定量化し比較した。
HBs-L抗原を免疫した動物の血清中にはHBs-L抗原と特異的に結合する抗体が、HBs-S抗原を免疫した動物の血清中にはHBs-S抗原と特異的に結合する抗体が多く産生されていた(図6,図7,図8)。HBs-L抗原又はHBs-S抗原を免疫した血清の中和抗体価について比較検討したところ、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方が高い中和抗体価を示した(図9)。また、この中和活性を示す抗体の結合強度を評価するために、それぞれを希釈して中和試験を行ったところ、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方がHBs-S抗原を免疫した方よりもより強い結合活性を示した(図10)。
以上のことから、現行のHBs-S抗原によるワクチンよりもHBs-L抗原による予防ワクチンの方が優れていることが示された。
考察
HBs-L抗原でツパイ又はウサギに免役したところ、HBs-S抗体ができるとともに、HBs-S抗原と交叉性の少ないHBs-L抗原と特異的に反応するPre-S1又はPre-S2領域に対する抗体が主に産生されることが示された。また、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方が高い中和抗体価を示し、且つHBs-S抗原を免疫した方よりもより強い結合活性を示した。B型肝炎ウイルスは肝細胞に吸着・侵入する際にPre-S1又はPre-S2領域が使われており、その領域に対する抗体又は細胞性免疫が誘導されることで、現状のワクチンよりも強力な感染予防効果が期待される。
また、B型肝炎に対する治療ワクチンとしても(Ref.3,Ref.4)、HBs-L抗原を用いることで、HBs-S抗原に対する抗体と共に、Pre-S1又はPre-S2領域に対する抗体又は細胞性免疫によりウイルスの肝細胞への吸着・侵入を阻害できると考えられ、B型肝炎ウイルス抗原・抗体のセロコンバージョンを誘導しうる抗ウイルス治療薬として用いられる。
HBs-L抗原をユニバーサルワクチンとして用いることで、HBワクチン無反応者を減少させ、B型肝炎ウイルスのより強い感染予防、さらにB型肝炎の根絶につながる可能性がある。また、HBs-L抗原を治療ワクチンとして用いることで、核酸アナログ製剤やインターフェロンなど、現行の治療法の問題点を解消し、B型肝炎ウイルス抗原・抗体のセロコンバージョンを誘導しうる新しい抗ウイルス治療法として、B型肝炎患者に福音をもたらす可能性がある。
[実施例6]
C抗原の製造
HBcAgの全長DNA(ACC# X01587)をHis-tag等の配列を取り除いたpET-19bベクターに挿入し、HBcAgの発現ベクターを調製した。得られた発現ベクターを大腸菌(E.Coli)に導入し、発現株を得た。大腸菌株を培養し、菌体を得た。得られた菌体を破砕し、その上澄を硫安沈殿を行った。沈殿物を溶解しショ糖による密度勾配遠心によりHBcAg画分を得た。この画分をゲルろ過カラムを通して、HBcAgを精製した。精製したHBcAgは電気泳動後の銀染色により21kDaのシングルバンドを示した(図11)。なお、HBcAgは各コアタンパク質同士が相互に結合し、粒子を形成することが知られているが、粒子径はゼータサイザー(マルバーン社)を用いて動的光散乱法で測定した結果、45nmであり、粒子を形成していることが示された。
[実施例7]
マウス抗体検出ELISA(HBs-S,-M,-L抗原投与)
マウスにHBs-S、-M、-L抗原を投与して、Pre-S1ペプチド、Pre-S2ペプチド及びHBs-S抗原に対する結合を見ることで、Pre-S1、Pre-S2及びS抗原に対する各抗体量を測定した結果、L抗原を投与した場合のみPre-S1抗体が産生された(図12)。また、全体の約8割がPre-S1に対する抗体であった。
Pre-S1はHBVがヒト肝細胞に感染する時に肝細胞を認識する領域であるため、これに対する抗体が本当にHBVの感染防御効果があれば、L抗原はより強いHBV感染防御作用を持つことになる。
[実施例8]
HBs-L及びHBc抗原投与による細胞性免疫の活性化試験
HBs-L抗原、HBc抗原、及びHBs-L+HBc抗原を免疫したマウスから取り出した脾臓細胞を抗原で刺激し、細胞性免疫活性化(INF-γ上昇)を観察した(表2、図13)。
Figure 0007295536000002
HBs-L抗原で免疫したマウスではL抗原で刺激しても細胞性免疫は殆ど活性化されなかった。HBc抗原で免疫したマウスではHBc抗原及びHBs-L+HBc抗原で免疫すると細胞性免疫が活性化される。HBs-L+HBc抗原で免疫したマウスでは全体に細胞性免疫が活性化され、特に、HBs-L+HBc抗原刺激に対する活性化は大きかった。以上の結果は、HBs-L抗原とHBc抗原を混合して免疫すると細胞性免疫が強く活性化されることを示す。
[実施例9]
L抗原の安全性試験
L抗原について、ラット(各群5例)を用いた単回静脈内投与毒性試験を非GLP下で行った。対照群として、溶媒であるリン酸緩衝生理食塩水、及びL抗原として0.2、1、及び5mg/kgの投与量で投与した結果、いずれの群でも一般状態に異常は認められず、死亡例もなかった。体重推移や剖検でも異常は認められなかった。以上のことから、最大耐用量は5mg/kgを超えると推察された。
L抗原について、ラット(各群6例)を用いた28日間反復静脈内投与毒性試験を非GLP下で行った。対照群として溶媒であるリン酸緩衝生理食塩水、及びL抗原として0.05、0.25mg/kgの投与量で1日1回28日間投与した結果、いずれの群でも一般状態に異常は認められず、死亡例もなかった。また、体重推移でも異常は認められなかった。但し、脾臓重量の増加、及び白血球の増加が見られた。これらの異常は、L抗原を反復投与したことによる免疫反応と考えられた。以上のことから、毒性学的な最大無影響量は0.25mg/kgを超えると推察された。
関連情報・論文
1)特許第4085231号
2)Sanada T,Tsukiyama-Kohara K,Yamamoto N,Ezzikouri S,Benjelloun S,Murakami S,Tanaka Y,Tateno C,Kohara M.Property of hepatitis B virus replication in Tupaia belangeri hepatocytes.
Biochem Biophys Res Commun.2016 Jan 8;469(2):229-35.doi:10,1016/j.b brc.2015.11.121.
3)Akbar SM,Al-Mahtab M,Jahan M,Yoshida O,Hiasa Y.Novel insights into immunotherapy for hepatitis B patients.Expert Rev Gastroenterol Hepatol.10(2):267-76,2016.
4)Fazle Akbar SM,Al-Mahtab M,Hiasa Y.Designing immune therapy for chronic hepatitis B.J Clin Exp Hepatol.4(3):241-6,2014.
配列番号2:合成DNA
配列番号3:合成DNA
配列番号4:合成DNA
[配列表]
Figure 0007295536000003
Figure 0007295536000004
Figure 0007295536000005
Figure 0007295536000006
Figure 0007295536000007

Claims (9)

  1. B型肝炎ウイルスのLタンパク質又はその変異体のみが脂質膜上に集合し、形成された表面抗原粒子を含む、B型肝炎ワクチンであって、Lタンパク質又はその変異体が、以下の(a)又は(b) のタンパク質である前記ワクチン。
    (a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から388番目のS領域内で13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつB型肝炎ウイルスに対して中和活性を有する抗体を産生させる機能を有するタンパク質
  2. Lタンパク質又はその変異体が、酵母により発現されたものである請求項1に記載のワクチン。
  3. 被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する抗体が産生される、請求項1又は2に記載のワクチン。
  4. 被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する細胞性免疫が誘導される、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン。
  5. さらにB型肝炎ウイルスのコアタンパク質を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のワクチン。
  6. 被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する抗体が誘導される、請求項5に記載のワクチン。
  7. 被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する細胞性免疫が誘導される、請求項5又は6に記載のワクチン。
  8. B型肝炎ウイルスに対する中和抗体価が、少なくとも2から1000である請求項1~7のいずれか1項に記載のワクチン。
  9. B型肝炎ウイルスのヒト肝細胞への結合に対する阻害効果が、少なくとも50~100%である請求項1~8のいずれか1項に記載のワクチン。
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