JP7295536B2 - B型肝炎ワクチン - Google Patents
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Description
HBVの表面抗原として機能するタンパク質のうち、Pre-S1領域はHBVウイルスがヒト肝細胞を認識し、結合するセンサーである。このため、Pre-S1領域の機能を中和する抗体はB型肝炎に対する予防ワクチンとして有望であるのみならず、体内でHBVウイルスが広がることを阻止する意味で治療ワクチンとしても重要である。
こうした状況下、3種の抗原であるL抗原、M抗原及びS抗原の混合物を利用したワクチンも知られている(例えば、市販の予防ワクチンであるSci-B-VacTM(VBI Vaccines Inc. イスラエル)。また、3種の抗原の混合物をB型肝炎の治療ワクチンとして利用しようとする考えもある(HBVワクチンおよびその製造方法:特表2010-516807)。
しかしながら、これらの抗原はL抗原、M抗原及びS抗原の混合物であり、L抗原だけを利用したワクチン開発は知られていない。
また、感染後にウィルスの活動性が持続すると慢性肝炎から肝硬変、肝細胞がん、肝不全に進展する。現在、B型肝炎治療にはPEG化IFNおよび核酸アナログであるエンテカビルが用いられている。PEG化IFNは免疫賦活作用や高ウィルス作用を有し、セロコンバージョン例では高効率で効果が持続するものの、高頻度かつ多彩な副作用が大きな問題である。また、エンテカビルはウィルスの複製阻害によりHBV DNA量を減少させるものの、その薬効は投与の中止によって速やかに消失し、肝炎が再燃してしまう。このような問題点から、従来とは異なるメカニズムの新規治療法の開発が強く望まれている。
そこで本発明は、B型肝炎に対する新規治療ワクチンを提供することを目的とする。
(1)B型肝炎ウイルスのLタンパク質又はその変異体のみが脂質膜上に集合し、形成された表面抗原粒子を含む、B型肝炎ワクチン。
(2)Lタンパク質又はその変異体が、以下の(a)又は(b)のタンパク質である(1)又は(2)に記載のワクチン。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から385番目のS領域内で13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(3)Lタンパク質又はその変異体が、酵母により発現されたものである(1)又は(2)に記載のワクチン。
(4)被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する抗体が産生される、(1)~(3)のいずれか1項に記載のワクチン。
(5)被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する細胞性免疫が誘導される、(1)~(4)のいずれか1項に記載のワクチン。
(6)さらにB型肝炎ウイルスのコアタンパク質を含む、(1)~(6)のいずれか1項に記載のワクチン。
(7)被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する抗体が誘導される、(6)に記載のワクチン。
(8)被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する細胞性免疫が誘導される、(6)又は(7)に記載のワクチン。
(9)B型肝炎ウイルスに対する中和抗体価が、少なくとも2から1000である(1)~(8)のいずれか1項に記載のワクチン。
(10)B型肝炎ウイルスのヒト肝細胞への結合に対する阻害効果が、少なくとも50~100%である(1)~(9)のいずれか1項に記載のワクチン。
本発明は、HBs-L抗原を用いたB型肝炎ワクチンに関する。
B型肝炎に対する予防ワクチンとしてHBs-S抗原が用いられているが、約10%の人は同ワクチンを投与してもHBs抗体の産生がみられず(HBワクチン無反応者)、感染防御ができない。またB型肝炎の抗ウイルス療法として、核酸アナログ製剤の内服治療とインターフェロン治療が提案されているが、核酸アナログ治療については内服を始めると中断できず、一生継続する必要があり、インターフェロン治療は多くの副作用を伴う。また共に治療してもHBV抗原・抗体のセロコンバージョンは得られにくい。過去にB型肝炎のHBs-S抗原を用いた免疫治療も試みられているが、十分な治療効果は得られていない。そこで、B型肝炎ウイルス感染予防のために、現行ワクチンと異なる、より強力な免疫作用を持つHBs-L抗原による予防ワクチンの開発と、同抗原を治療ワクチンとして用いた免疫治療の開発を目的とした。
本発明者は、L抗原だけを提示する粒子を利用してB型肝炎ワクチン可能性を検討したところ、従来のものより優れた効果が期待できることを発見し、本発明を成すことに成功した。
そこで本発明においては、ビークル社で開発製造されているHBs-L抗原(配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む)を免疫することで、現状よりもより強力な感染発症予防効果を示すワクチンの開発を試みた。ビークル社では、Pre-S1領域のN末の11アミノ酸を5個のシグナルペプチドと置き換え、且つ、163番目から168番目(Pre-S2領域の44から49番目)のアミノ酸を欠失させることで、Lタンパク質のみから成るHBs-L抗原の安定な大量製造に成功しているものである。
HBVが感染可能な小動物であるツパイ(図4)又はウサギ(図5)にHBs-L抗原又はHBs-S抗原を免疫し、その血清についてHBs-L抗原又はHBs-S抗原に対する抗体価をELISA法及び中和抗体価により定量化し比較した。
HBs-L抗原、あるいはHBs-S抗原を免疫した血清の中和抗体価について比較検討したところ、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方が高い中和抗体価を示した(図9)。また、この中和活性を示す抗体の結合強度を評価するために、それぞれを希釈して中和試験を行ったところ、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方がHBs-S抗原を免疫した方よりもより強い結合活性を示した(図10)。以上のことから、現行のHBs-S抗原によるワクチンよりもHBs-L抗原による予防ワクチンの方が優れていることが示された。
さらに、L抗原にアラムアジュバントを結合させたものを作製し、これをマウスに投与して血清を調製した。血清中の抗体価の測定を行った結果、Pre-S1抗体が、Pre-S2抗体及びS抗体に比べ、約10倍程度の高い抗体価を有するPre-S1抗体を作製することが分かった。
本発明のワクチンには、Lタンパク質のほか、その変異体を使用することもできる。例えば、本発明のLタンパク質又はその変異体として以下のタンパク質を例示することができる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から385番目のS領域において13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
また、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であってL抗原として機能するタンパク質も本発明において使用することができる。このようなタンパク質のアミノ酸配列としては、例えば、
(i)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から5番目のKVRQG(配列番号5)に代わってMGGWSSKPRKG(配列番号6)が挿入されたアミノ酸配列
(ii)配列番号1で表されるアミノ酸配列の156番と157番との間へSIFSRT(配列番号7)の6個のアミノ酸が挿入された配列
(iii)配列番号1で表されるアミノ酸配列の163番目から385番目のS領域において13個以下のアミノ酸が置換された配列
(iv)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から385番目のS領域内で13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換された配列(156番と157番の間への6個のアミノ酸の挿入を除く)
などが挙げられる。
Lタンパク質を遺伝子工学的に合成する場合は、まず、当該Lタンパク質をコードするDNAを設計し合成する。当該設計及び合成は、例えば、Lタンパク質をコードする遺伝子を含むベクター等を鋳型とし、所望のDNA領域を合成し得るように設計したプライマーを用いて、PCR法により行うことができる。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによってタンパク質発現用組換えベクターを得て、この組換えベクターを目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することによって形質転換体を得る(Sambrook J.et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(4th edition)(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))。
上記の変異体タンパク質を調製するために、該タンパク質をコードする遺伝子(DNA)に変異を導入する。変異導入には、変異を持った遺伝子情報を元に発現ベクターを構築するほか、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
そして、前記形質転換体を培養し、その培養物から抗原として使用されるLタンパク質を採取する。「培養物」とは、(a)培養上清、(b)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物のいずれをも意味するものである。
培養後、目的のLタンパク質が宿主内に生産される場合には、宿主を破砕することによりLタンパク質を抽出する。また、Lタンパク質が宿主外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により宿主を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で、又は適宜組み合わせて用いることにより、Lタンパク質を単離精製することができる。
さらに、本発明において使用されるLタンパク質は、自己組織化能を有し、脂質膜上に集合して粒子を形成することにより抗原提示させることができる。すなわち、Sクンパク質、Mタンパク質及びLタンパク質は、何れも脂質親和性の高いS領域を持っており、いずれのタンパク質も、生物細胞を利用して製造すると脂質膜に突き刺さって存在する状態となる。これにより、当該タンパク質は安定な抗原粒子構造を取り、この粒子構造のため高い免疫原性を持つことになる。このように抗原提示させる方法として、第4085231号又は第4936272号特許に記載されている方法が挙げられる。
抗体が誘導されたことの確認は、ELISA等により行うことができる。また、本明細書において、「細胞性免疫」とは、食細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞等が体内の異物排除を担当する免疫系である。
このときのB型肝炎ウイルスに対する中和抗体価は、少なくとも2から1000であり、B型肝炎ウイルスのヒト肝細胞への結合に対する阻害効果は、少なくとも50~100%である。
また、本発明のワクチンは、賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等公知の薬学的に許容される担体、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等と混合し、ワクチン組成物として使用することができる。
ワクチン又はワクチン組成物の投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象、患者の年齢、体重、性別、症状その他の条件により適宜選択されるが、HBs-L抗原の一日投与量としては、皮下注射の場合は5~400マイクログラム程度、好ましくは10~100マイクログラム程度であり、経鼻噴霧の場合は5~400マイクログラム程度、好ましくは10~100マイクログラム程度である。本発明のワクチン又はワクチン組成物は、1日1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。
[実施例1]
本実施例においては、L抗原として、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる自己組織化能を有するLタンパク質が脂質膜上に集合して出来たウイルス様粒子を用い、特許第4085231号明細書に記載されている方法で調製した。具体的には、特許第4085231号明細書に記載の方法により、L抗原を発現する酵母を調製した。この酵母を培養し、培養後、特許第4936272号明細書に記載の方法により、ガラスビーズを利用して培養菌体を破砕した。得られた菌体破砕液を70℃にて20分間の熱処理に供した。熱処理後に遠心工程に供し、得られた上清を回収した、その後、回収された上清を硫酸セルロファインカラム及びゲル濾過カラムを用いて精製し、タンパク質濃度が0.2mg/mL以上となるように濃縮して、L抗原を得た。
[実施例2]
製造したL抗原を電気泳動し銀染色すると、図3左パネルに示すように45kDa付近の位置にL抗原のモノマーのバンドが見え、その2倍の分子量位置にL抗原のダイマーのバンドが見える。一方、L抗原をウェスタンブロットで検出すると図3右パネルに示すように、S抗体、Pre-S1抗体、及びPre-S2抗体の何れの抗体を利用しても、45kDa付近の位置とその約2倍の分子量の位置にバンドが見られた。
L抗原の粒子径はゼータサイザー(マルバーン社)を用いて動的光散乱法によって行った。その結果、粒子径は59.7nmであり、本抗原が粒子を形成していることが分かる。なお、乾燥状態で測定する電子顕微鏡では粒子径は凡そ20nm程度になるが、本方式では粒子サイズは水溶液中で測定するため、粒子径より大きくなる。
以上の結果は、このL抗原が、Sタンパク質及びMタンパク質を含まず、Lタンパク質のみからなる抗原であり、しかも粒子を形成していることを示している。
[実施例3]
Pre-S1領域又はPre-S2領域のDNA断片は、HBsAg L-Protein遺伝子を含むpGLD-LIIP39-RcT(Kuroda et al,J Biol Chem,1992,267:1953-1961)から調製した。得られたDNA断片をpET-32a(Novagen)のBamHIサイトに挿入し、発現ベクターpET-32a-Pre-S1及びpET-32a-Pre-S2とした。これらの発現ベクターを発現用大腸菌BL21(DE3)pLysSに形質転換し、発現株を得た。発現菌体は、培養液にIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を添加し、発現誘導かけることで得た。
発現菌体を超音波破砕することでタンパク質を抽出し、Niカラム(Chelating Sepharose Fast Flow、GE Healthcare)かけ、イミダゾール濃度を上げることでPre-S1-TRXタンパク質及びPre-S2-TRXタンパク質を溶出させた。
精製物はPBS(phosphate buffered saline)で透析後、冷凍保存した。なお、タンパク質濃度を測定は、BCA Protein Assay Kit(Thermo)を用いて行った。
[実施例4]
L抗原にアラムアジュバントを結合させたものを調製した。これをマウス(ICR 日本チャールズリバー、n=3)に、1匹当りL抗原として5μgを2週間間隔で3回投与し、最終投与4週間後に採血し、血清を調製した。
血清中のPre-S1,Pre-S2,S抗体の測定は次の通り行った。
抗S抗体については、S抗原(adr型のS抗原粒子、ビークル社製)を固相化したELISAプレートに血清サンプルをアプライし、抗原に結合したS抗体を、HRP標識した抗マウスIgGを2次抗体として利用して測定した。なお、S抗体を定量するために、市販のマウスの抗S抗原モノクローナル抗体(HB5 EXBIO社)を検量線用の標準抗体として利用した。
Pre-S1抗体については次の通り行った。即ち、実施例3で調整したPre-S1-TRXタンパク質をELTSAプレートに固相化し、その後はS抗体の測定と同様に行った。
[実施例5]
B型肝炎ウイルス(HBV)は、ジェノタイプC(C_JPNAT)を使用した。本ウイルスをヒト初代培養肝細胞(PXB細胞;フェニックスバイオ社)に感染させ、ウイルスを増殖させた細胞の培養上清をウイルス液として使用した。
ウイルスの感染実験には、HepG2細胞にヒトのNTCP遺伝子を導入し発現させたHepG2-NTCP30細胞を用いた。HepG2-NTCP30細胞の培養にはDulbecco’s Modified Essential Medium/F12-Glutamax(Thermo Fisher)にHEPESを10mM、加熱非働化牛胎児血清(Fetal Calf Serum:FCS)を10%、Insulinを5μg/ml、Puromycinを1μg/ml、Penicillinが100units/ml、Streptomycinが100μg/mlとなるように加えたものを増殖用培地として用いた。
ツパイ(Tupaia belangeri)は中国科学院昆明動物研究所より購入し、自家繁殖した個体を使用した。ウサギはSlc:NZW(日本エスエルシー株式会社)6週齢を用いた。
4).免疫抗原
各動物への免疫には、HBs S-抗原,HBs L-抗原,HBc抗原(ビークル社)を使用した。
ツパイにおいては、HBs S-protein又はHBs L-proteinとHBc proteinとが、それぞれ100μg/mlとなるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した抗原液を100μl、3頭ずつツパイの背部に皮下接種した。免疫は2週間おきに5回行った後、4週間後に再度免疫を行った。採血は、免疫時および最終免疫の1週間後に実施し、EDTA採血管を用いた。血液は2,000rpmで10分間遠心し、血漿を分離した。血漿は使用時まで-80℃にて保存した。
ウサギへの初回免疫には、HBs S-protein(1mg/ml)又はHBs L-protein(1mg/ml)とフロイントコンプリートアジュバント(和光社)とを等量混合した抗原液を100μl、3頭ずつウサギの背部に皮下接種した。1か月後に2回目の免疫を行い、その際には、フロイントコンプリートアジュバントの代わりにインコンプリートアジュバント(和光社)を蛋白液と混合して抗原液を作製し、背部に皮下接種した。免疫1か月後に採血を行った。血液は15,000rpmで10分間遠心し、血清を分離した。血清は使用時まで-80℃にて保存した。
捕捉抗原として、HBs S-protein又はHBs L-proteinが2μg/mlとなるように0.05M Na2CO3カーボネートバッファー(pH9.6)で希釈した抗原液を96穴プレートに各穴50μlずつ分注して、4℃で一晩インキュベーションした。その後、これにブロッキングバッファー(1%ウシ血清アルブミン、0.5% Tween、2.5mM EDTA添加PBS)を各穴100μlずつ加え、37℃で2時間インキュベートしてブロッキングした。これを200μlの0.5% Tween添加PBS(PBST)で3回洗浄した後、ブロッキングバッファーで1,000倍に希釈した血漿を各穴50μlずつ加え、37℃で2時間インキュベーションした。
(1)細胞の調製
中和試験には、HepG2-NTCP30細胞を使用した。コラーゲンコートした48穴プレートに2.0×105cells/mlで各穴250μlずつ播種した。37℃で24時間培養後、培地を3%DMSO添加増殖用培地に置き換えた。さらに37℃で24時間培養した細胞を中和試験に用いた。
検体の血清・血漿サンプルを増殖用培地で10倍希釈し、さらに2倍階段希釈を行った。これら血清・血漿サンプルおよびコントロールとして増殖用培地と6.0×106copies/mlに調製したウイルス液を等量ずつ混合し、37℃で1時間静置し、反応させた。反応後、48穴プレートに播種されたHepG2-NTCP30細胞に混合液を各穴125μl接種し、37℃で3時間静置し、反応させた。反応後、接種した混合液を除去し、125μlの増殖用培地を各穴注ぎ、5回洗浄を行った。洗浄後、細胞を先太チップで回収し、使用時まで-80℃に凍結保存した。
凍結保存した細胞からの遺伝子抽出はスマイテストEX-R&D(日本ジェネティクス)を使用した。ウイルス遺伝子の定量はリアルタイムPCR法により決定した。PCR反応液30μlには、遺伝子が250ng、フォワードプライマーHB-166-S21(nucleotides[nts]166-186;5’-CACATCAGGATTCCTAGGACC-3’(配列番号2))が6pmol,リバースプライマーHB-344-R20(nts 344-325;5’-AGGTTGGTGAGTGATTGGAG-3’(配列番号3))が6pmol,TaqManプローブHB-242-S26FT(nts 242-267;5’-CAGAGTCTAGACTCGTGGTGGACTTC-3’(配列番号4))が9pmol,Thunderbird Probe qPCR Mix(東洋紡)が15μl含まれる。PCRサイクルは50℃ 2分、95℃ 10分の反応後、95℃ 20秒と60℃ 1分の反応を53回繰り返した。
それぞれの細胞サンプルよりウイルス遺伝子量を定量し、コントロールサンプルとのウイルス遺伝子量と比較した。コントロールサンプルの遺伝子サンプルと比較して、ウイルス遺伝子量が10%以下となっているサンプルは抗体による中和反応陽性とみなし、中和抗体陽性とした。中和抗体価は、中和反応の見られた血漿・血清の最高希釈倍率の逆数で表した。
HBVのウイルス粒子表面にはHBs-L抗原、HBs-M抗原、HBs-S抗原の3種類の蛋白質が存在する(図1、図2)。現行のワクチンは製造上の簡便性からHBs-S抗原が用いられている。しかしHBVが肝細胞に吸着する時にはL抗原のN末端が使われており、その領域に対する抗体又は細胞性免疫が誘導されていることが望ましい。そこでビークル社で開発製造されているHBs-L抗原(Ref.2)を免疫することで、現状よりもより強力な感染発症予防効果を示すワクチンの開発を試みた。HBVが感染可能な小動物であるツパイ(図4)又はウサギ(図5)にHBs-L抗原又はHBs-S抗原を免疫し、その血清についてHBs-L抗原又はHBs-S抗原に対する抗体価をELISA法及び中和抗体価により定量化し比較した。
以上のことから、現行のHBs-S抗原によるワクチンよりもHBs-L抗原による予防ワクチンの方が優れていることが示された。
HBs-L抗原でツパイ又はウサギに免役したところ、HBs-S抗体ができるとともに、HBs-S抗原と交叉性の少ないHBs-L抗原と特異的に反応するPre-S1又はPre-S2領域に対する抗体が主に産生されることが示された。また、HBs-L抗原を免役したツパイ血清の方が高い中和抗体価を示し、且つHBs-S抗原を免疫した方よりもより強い結合活性を示した。B型肝炎ウイルスは肝細胞に吸着・侵入する際にPre-S1又はPre-S2領域が使われており、その領域に対する抗体又は細胞性免疫が誘導されることで、現状のワクチンよりも強力な感染予防効果が期待される。
[実施例6]
C抗原の製造
[実施例7]
マウス抗体検出ELISA(HBs-S,-M,-L抗原投与)
Pre-S1はHBVがヒト肝細胞に感染する時に肝細胞を認識する領域であるため、これに対する抗体が本当にHBVの感染防御効果があれば、L抗原はより強いHBV感染防御作用を持つことになる。
[実施例8]
HBs-L及びHBc抗原投与による細胞性免疫の活性化試験
[実施例9]
L抗原の安全性試験
L抗原について、ラット(各群6例)を用いた28日間反復静脈内投与毒性試験を非GLP下で行った。対照群として溶媒であるリン酸緩衝生理食塩水、及びL抗原として0.05、0.25mg/kgの投与量で1日1回28日間投与した結果、いずれの群でも一般状態に異常は認められず、死亡例もなかった。また、体重推移でも異常は認められなかった。但し、脾臓重量の増加、及び白血球の増加が見られた。これらの異常は、L抗原を反復投与したことによる免疫反応と考えられた。以上のことから、毒性学的な最大無影響量は0.25mg/kgを超えると推察された。
1)特許第4085231号
2)Sanada T,Tsukiyama-Kohara K,Yamamoto N,Ezzikouri S,Benjelloun S,Murakami S,Tanaka Y,Tateno C,Kohara M.Property of hepatitis B virus replication in Tupaia belangeri hepatocytes.
Biochem Biophys Res Commun.2016 Jan 8;469(2):229-35.doi:10,1016/j.b brc.2015.11.121.
3)Akbar SM,Al-Mahtab M,Jahan M,Yoshida O,Hiasa Y.Novel insights into immunotherapy for hepatitis B patients.Expert Rev Gastroenterol Hepatol.10(2):267-76,2016.
4)Fazle Akbar SM,Al-Mahtab M,Hiasa Y.Designing immune therapy for chronic hepatitis B.J Clin Exp Hepatol.4(3):241-6,2014.
Claims (9)
- B型肝炎ウイルスのLタンパク質又はその変異体のみが脂質膜上に集合し、形成された表面抗原粒子を含む、B型肝炎ワクチンであって、Lタンパク質又はその変異体が、以下の(a)又は(b) のタンパク質である前記ワクチン。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、6番目から113番目のPre-S1領域内で6個以下、114番目から162番目のPre-S2領域内で6個以下、163番目から388番目のS領域内で13個以下であって且つ合計で16個以下のアミノ酸が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつB型肝炎ウイルスに対して中和活性を有する抗体を産生させる機能を有するタンパク質 - Lタンパク質又はその変異体が、酵母により発現されたものである請求項1に記載のワクチン。
- 被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する抗体が産生される、請求項1又は2に記載のワクチン。
- 被検者への投与によりLタンパク質のPre-S1及び/又はPreS2領域に対する細胞性免疫が誘導される、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン。
- さらにB型肝炎ウイルスのコアタンパク質を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のワクチン。
- 被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する抗体が誘導される、請求項5に記載のワクチン。
- 被検者への投与により、さらにコアタンパク質に対する細胞性免疫が誘導される、請求項5又は6に記載のワクチン。
- B型肝炎ウイルスに対する中和抗体価が、少なくとも2から1000である請求項1~7のいずれか1項に記載のワクチン。
- B型肝炎ウイルスのヒト肝細胞への結合に対する阻害効果が、少なくとも50~100%である請求項1~8のいずれか1項に記載のワクチン。
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