本発明の一態様のエンジンは、複数のシリンダの吸気側の複数のスロットルバルブによって各シリンダの吸気量が調整されている。また、複数のシリンダのうち一部のシリンダ内の負圧が他のシリンダ内の負圧よりも大きく、複数のシリンダの間で負圧にバラツキが生じている。減速時等のスロットルバルブの閉弁時には、内部の負圧が大きな一部のシリンダの上流の一部のスロットルバルブが、他のシリンダの上流の他のスロットルバルブよりも大きな隙間を残して閉弁する。一部のシリンダでは過度な負圧による燃焼室へのエンジンオイルの吸い込みが防止され、他のシリンダでは負圧によるエンジンブレーキの十分な制動力が得られて、エンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果が両立される。
以下、本実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。ここでは、本実施例のエンジンを鞍乗型車両としての自動二輪車に適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることがない。例えば、エンジンを、バギータイプの自動三輪車等の他の鞍乗型車両に適用してもよい。また、以下の図では、車両前方を矢印FR、車両後方を矢印RE、車両左側を矢印L、車両右側を矢印Rでそれぞれ示している。図1は本実施例のエンジンの斜視図である。図2は本実施例のエンジンの側面図である。図3は本実施例のエンジンの下面図である。
図1から図3に示すように、エンジン10は、不等間隔爆発を行うV型エンジンであり、クランクケース12上に前側シリンダ13及び後側シリンダ14をV字状に配置したエンジン本体11を有している。前側シリンダ13は、車両前方に傾けられており、クランクケース12に突設されたシリンダブロック21上に、シリンダヘッド22及びヘッドカバー23を取り付けて形成されている。同様に、後側シリンダ14は、車両後方に傾けられており、クランクケース12に突設されたシリンダブロック25上に、シリンダヘッド26及びヘッドカバー27を取り付けて形成されている。
前側シリンダ13の後面には吸気ポート31(図4参照)が開口し、この吸気ポート31には第1の吸気管32が接続されている。後側シリンダ14の前面には吸気ポート41(図4参照)が開口し、この吸気ポート41には第2の吸気管42が接続されている。第1、第2の吸気管32、42は、それぞれ前後一対のシリンダ13、14から上方に向かって延び、外気を濾過するエアクリーナ15の下部に接続されている。第1の吸気管32の途中部分には前側シリンダ13用の第1のスロットルボディ33が設けられ、第2の吸気管42の途中部分には後側シリンダ14用の第2のスロットルボディ43が設けられている。
第1のスロットルボディ33には前側シリンダ13の吸気量を調整する第1のスロットルバルブ34(図4参照)が設けられ、第2のスロットルボディ43には後側シリンダ14の吸気量を調整する第2のスロットルバルブ44が設けられている(図4参照)。第1、第2のスロットルボディ33、43は、電子スロットルボディであり、第1、第2のスロットルバルブ34、44を開閉駆動するモータ35、45(図4参照)を有している。第1、第2のスロットルボディ33、43が個別にモータ35、45を持つことで、第1、第2のスロットルバルブ34、44を独立してシリンダ毎に吸気量を調整することが可能である。
前側シリンダ13の前面には排気ポート37(図4参照)が開口し、この排気ポート37には第1の排気管38が接続されている。後側シリンダ14の後面には排気ポート47(図4参照)が開口し、この排気ポート47には第2の排気管48が接続されている。第1、第2の排気管38、48は、それぞれ前後一対のシリンダ13、14から下方に向かって延びて、排気ガス中の大気汚染物質を浄化する触媒装置16に接続されている。触媒装置16は、車両後部であって、エンジン10の下方かつクランクケース12内のクランク軸の中心Cによりも車両後方に設置されている。
第1の排気管38よりも第2の排気管48が複雑な経路を通ってエンジン10の下方の触媒装置16に接続されている。このため、第1の排気管38と第2の排気管48とで排気ポート37、47の出口から触媒装置16の入口までの管長が異なり、後側シリンダ14に連なる第2の排気管48の管長よりも、前側シリンダ13に連なる第1の排気管38の管長が短く形成されている。なお、第1、第2の排気管38、48の管形状の詳細については後述する。また、第1、第2の排気管38、48は集合管17を介して触媒装置16に接続され、触媒装置16の下流側には排気音を消音する消音器(マフラ)18が設けられている。
このように構成されたエンジン10では、エアクリーナ15から第1、第2の吸気管32、42を介して前側シリンダ13及び後側シリンダ14に向けて空気が流入する。第1、第2のスロットルバルブ34、44によって前側シリンダ13及び後側シリンダ14に対する吸気量が調整され、燃料供給装置(不図示)によって空気に燃料が混合されて、各シリンダ13、14内に混合気が送り込まれる。燃焼後の排気ガスは、シリンダ13、14から第1、第2の排気管38、48を通じて触媒装置16に流れ込み、触媒装置16によって大気汚染物質が浄化された後に消音器18から排気される。
不等間隔爆発を行うエンジン10においては、前後のシリンダ13、14の燃焼状態が変わることがあり、特に前後のシリンダ13、14の第1、第2の排気管38、48の長さが異なると燃焼状態が変わる傾向が強くなる。これは、エンジン特有の走行フィーリングとしてユーザに認識されており、自動二輪車としてはメリットになっている。前後のシリンダ13、14の燃焼状態の差異は前後のシリンダ13、14の吸気量の違いを表している。このため、自動二輪車の減速時には、前後のシリンダ13、14内に発生する負圧にバラツキが生じる。
自動二輪車の減速時に、第1、第2のスロットルバルブ34、44を閉じて車速が落ちると、前後のシリンダ13、14内に負圧が発生する。前側シリンダ13には後側シリンダ14よりも短い排気管が接続されているため、スロットル開度を閉じて減速したときに、吸排気過程で発生する脈動によって前側シリンダ13の排気効率が良く、後側シリンダ14内の負圧よりも前側シリンダ13内の負圧が大きい。よって、前側シリンダ13内の負圧によって、ピストンリング64(図4参照)の合口隙間から燃焼室側にエンジンオイルが逆流するという不具合がある。一方で、前後のシリンダ13、14内の負圧はポンピングロスとなってエンジンブレーキとして作用する。
そこで、本実施例では前側シリンダ13が後側シリンダ14よりも負圧が大きなことに着目して、自動二輪車の減速時に前側シリンダ13の上流の第1のスロットルバルブ34を後側シリンダ14の上流の第2のスロットルバルブ44よりも大きな隙間を残して閉弁する。これにより、前側シリンダ13内の過度な負圧の発生が抑えられて、負圧による燃焼室へのエンジンオイルの吸い込みが防止される。自動二輪車の減速時にエンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果を両立して、前後のシリンダ13、14内に生じる負圧のバラツキ適した車両制御を実現することができる。
以下、図4及び図5を参照して、本実施例のエンジンの詳細構成について説明する。図4は、本実施例のエンジンの模式図である。図5は、本実施例の排気装置の斜視図である。
図4に示すように、前側シリンダ13の吸気側には、シリンダ内に混合気を取り込むように吸気ポート31を開閉する吸気バルブ61が設けられている。前側シリンダ13の排気側には、シリンダ内から排気ガスを排出するように排気ポート37を開閉する排気バルブ62が設けられている。前側シリンダ13のシリンダ内にはピストン63が往復動可能に収容されており、ピストン63にはピストン外面とシリンダ内壁面の隙間を封止するピストンリング64が装着されている。また、前側シリンダ13の上部には、燃焼室内の混合気を着火する点火プラグ65が突接されている。
後側シリンダ14は、前側シリンダ13と同様に形成されている。すなわち、後側シリンダ14には、吸気ポート41を開閉する吸気バルブ71と、排気ポート47を開閉する排気バルブ72と、シリンダ内に収容されたピストン73とが設けられている。また、後側シリンダ14の上部には、燃焼室内の混合気を着火する点火プラグ75が突接されている。前側シリンダ13及び後側シリンダ14では不等間隔爆発が生じており、前側シリンダ13及び後側シリンダ14の燃焼状態(吸気量)の違い等によってシリンダ内の負圧にバラツキが生じている。
前側シリンダ13の吸気ポート31には第1の吸気管32を介してエアクリーナ15が接続され、第1の吸気管32の途中には第1のスロットルボディ33が設けられている。第1のスロットルボディ33には、アクセルグリップ52の操作に応じて開閉する第1のスロットルバルブ34が設けられている。第1のスロットルバルブ34の開度に応じて前側シリンダ13内に送り込まれる吸気量が調整される。また、第1のスロットルボディ33には、第1のスロットルバルブ34に連結したモータ35と、第1のスロットルバルブ34の開度を検出するスロットルセンサ36とが設けられている。また、第1の吸気管32には吸気圧を検出するブーストセンサ等の吸気圧センサ39が設けられている。
同様に、後側シリンダ14の吸気ポート41には第2の吸気管42を介してエアクリーナ15が接続され、第2の吸気管42の途中には第2のスロットルボディ43が設けられている。第2のスロットルボディ43には、アクセルグリップ52の操作に応じて開閉する第2のスロットルバルブ44が設けられている。第2のスロットルバルブ44の開度に応じて後側シリンダ14内に送り込まれる吸気量が調整される。また、第2のスロットルボディ43には、第2のスロットルバルブ44に連結したモータ45と、第2のスロットルバルブ44の開度を検出するスロットルセンサ46とが設けられている。
前側シリンダ13の排気ポート37には第1の排気管38が接続され、後側シリンダ14の排気ポート47には第2の排気管48が接続されている。第1、第2の排気管38、48は集合管17によって1つにまとめられて触媒装置16に接続され、触媒装置16の下流側には消音器18が接続されている。触媒装置16では排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の大気汚染物質が浄化される。触媒装置16は低温では十分に機能しないが、高温になり過ぎると正常に機能せずに破損する恐れがある。このため、触媒装置16の近辺には排気温度を測定する排気温センサ51が設置されている。
このように、エンジン10には、第1の吸気管32から前側シリンダ13を通じて第1の排気管38に向かう流路と、第2の吸気管42から後側シリンダ14を通じて第2の排気管48に向かう流路とが独立して形成されている。第1、第2の排気管38、48は触媒装置16の上流の集合管17で合流するが、集合管17がクランクケース12内のクランク軸の中心Cよりも車両後方、かつ第2の排気管48の上流端49よりも車両前方の範囲Aに位置している。このため、前側シリンダ13から触媒装置16に延びる第1の排気管38よりも、後側シリンダ14から触媒装置16に延びる第2の排気管48に曲げが多く形成される。
より詳細には、図5に示すように、第1の排気管38は、前側シリンダ13の前面から後方に向かって斜め下に延出した後に、屈曲部56において車両後方に向かって緩やかな曲げ角度で屈曲している。第2の排気管48は、後側シリンダ14の後面から下方に延出した後に、屈曲部57において車両前方に向かって急な曲げ角度で屈曲し、さらに屈曲部58において車両内側(左側)に向かって急な曲げ角度で屈曲している。第2の排気管48は第1の排気管38よりも複雑な経路を通るため、第2の排気管48は第1の排気管38よりも急な曲げが多く、管長が長く形成されている。
また、図4に示すように、エンジン10には第1、第2のスロットルバルブ34、44の開閉動作を制御する制御部としてECU(Electrical Control Unit)50が設けられている。アクセルグリップ52の閉操作時には、第1、第2のスロットルバルブ34、44が閉弁されるように、ECU50によって第1、第2のスロットルボディ33、43のモータ35、45が駆動される。操作直後は、第1のスロットルバルブ34が、前側シリンダ13内の負圧が大きくなり過ぎないように、第2のスロットルバルブ44よりも大きな隙間を残して閉弁される。
上記したように、第1の排気管38は、急な曲げが少なく管長が短いため、スロットル開度を閉じて減速したときに、吸排気過程で生じる脈動によって前側シリンダ13の排気効率が高い。このため、アクセルグリップ52の閉操作時に、後側シリンダ14内の負圧よりも前側シリンダ13内の負圧が大きくなり易いが、第1のスロットルバルブ34が隙間を残して閉弁されるため、前側シリンダ13内に過度な負圧が発生することがない。このため、第1、第2のスロットルバルブ34、44を瞬時に全閉する構成と比較して、エンジンオイルの逆流によるオイル消費を抑えつつ、エンジンブレーキの制動効果を十分に得ることができる。
なお、ECU50にはプロセッサ及びメモリが実装されており、プロセッサがメモリに格納されているプログラムを読み出して実行することで、後述するスロットルバルブの制御処理が実施される。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)等が使用される。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶媒体で構成される。メモリには、プログラムの他、制御処理に使用される各種パラメータが記憶されている。また、ECU50にはアクセルグリップ52の操作を検出するアクセルポジションセンサ53が接続されている。
アクセルグリップ52の閉操作直後の第1のスロットルバルブ34の隙間は、前側シリンダ13内に過度な負圧が発生しない範囲内で、過去データ等から実験的、経験的又は理論的に求められた値が使用される。例えば、第1のスロットルバルブ34の隙間は、第1の排気管38の管長に基づいて設定されてもよい。
図6及び図7を参照して、アクセルグリップを全閉操作した場合のスロットルバルブの開度、エンジンオイルの消費量、車速の関係について説明する。図6は、本実施例のスロットルバルブの開度及び車速の関係を示す図である。図7は、比較例のスロットルバルブの開度及び車速の関係を示す図である。なお、図6及び図7において、実線W1が第1のスロットルバルブの開度、破線W2が第2のスロットルバルブの開度、実線W3が車速をそれぞれ示している。また、ここでは図4の符号を適宜使用して説明する。
図6の本実施例では、実線W1に示すように第1のスロットルバルブ34が段階的に閉弁され、破線W2に示すように第2のスロットルバルブ44が瞬時に閉弁されている。アクセルグリップ52の全閉操作時t1には、第2のスロットルバルブ44が走行時開度から瞬時に全閉され、第1のスロットルバルブ34が走行時開度から全閉に向けて高速(第1の速度)で閉弁される。このとき、吸気圧センサ39の検出値から前側シリンダ13の負圧をモニタリングして、負圧が過大にならない程度の速度で第1のスロットルバルブ34が閉弁される。操作直後の時刻t2では第1のスロットルバルブ34が隙間を残して低開度まで閉弁される。時刻t2の経過後に第1のスロットルバルブ34の閉弁速度が減速され、第1のスロットルバルブ34が全閉になるまで低速(第2の速度)で閉弁される。
上記したように、アクセルグリップ52の全閉操作時に、前側シリンダ13内の負圧が後側シリンダ14内の負圧よりも大きいが、第1のスロットルバルブ34が隙間を残して閉弁されるため、前側シリンダ13内の過度な負圧の発生が抑えられている。過度な負圧によってピストンリング64の合口隙間から燃焼室側にエンジンオイルが吸い込まれることがなく、前側シリンダ13におけるエンジンオイルの消費が抑えられている。また、第2のスロットルバルブ44が全閉しても後側シリンダ14内に過度な負圧が生じず、後側シリンダ14におけるエンジンオイルの消費が抑えられている。
実線W3に示すように、第1、第2のスロットルバルブ34、44の閉弁動作によって、前側シリンダ13及び後側シリンダ14にエンジンブレーキが作用して車速が低下する。このとき、第1のスロットルバルブ34が第2のスロットルバルブ44に僅かに遅れて閉弁されるため、時刻t2の経過後に車速が大きく低下し始めている。アクセルグリップ52の全閉操作時t1から時刻t2までは極めて短時間であり、時刻t1以降の第1のスロットルバルブ34の隙間も微小であるため、車両のエンジンブレーキの制動効果に大きな影響はない。
一方、図7の比較例では、実線W1及び破線W2に示すように、第1のスロットルバルブ34と第2のスロットルバルブ44が瞬時に閉弁されている。アクセルグリップ52の全閉操作時t1には、第1、第2のスロットルバルブ34、44が走行時開度から瞬時に全閉される。実線W3に示すように、前側シリンダ13及び後側シリンダ14に即座にエンジンブレーキが作用して車速が低下する。しかしながら、第1のスロットルバルブ34が瞬時に全閉されるため、前側シリンダ13内に過度な負荷が生じる。このため、エンジンオイルが燃焼室側に吸い込まれてエンジンオイルの消費量が増加する。
図8を参照して、アクセルグリップの全閉操作時のスロットルバルブの制御処理について説明する。図8は、本実施例のバルブ制御のフローチャートである。なお、ここでは、図4の符号を適宜使用して説明する。
図8に示すように、アクセルグリップ52が操作されると(ステップS01)、アクセルポジションセンサ53からECU50にアクセル開度が出力される。アクセルポジションセンサ53からのアクセル開度に基づいて、ECU50によってアクセルグリップ52の全閉操作か否かが判定される(ステップS02)。アクセルグリップ52が全閉操作ではないと判定されると(ステップS02でNo)、アクセルグリップ52の操作に追従して第1、第2のスロットルバルブ34、44が開閉される通常制御が実施される。通常制御中は全閉操作が検出されるまでステップS01、S02が繰り返される。
一方で、アクセルグリップ52の全閉操作であると判定されると(ステップS02でYes)、ECU50によってモータ35、45が同時に駆動されて、第1、第2のスロットルバルブ34、44の全閉制御が並行して開始される(ステップS03)。第1のスロットルバルブ34の全閉制御では、吸気圧センサ39による第1の吸気管32の吸気圧の検出値から前側シリンダ13の負圧がモニタリングされる(ステップS04)。そして、ECU50によって第1のスロットルバルブ34が高速で閉弁され、前側シリンダ13の負圧が所定の閾値を超えるか否かが判定される(ステップS05)。
前側シリンダ13の負圧が所定の閾値を超えない場合(ステップS05でNo)、ECU50によって前側シリンダ13の負圧が所定の閾値を超えるまでステップS04、S05の処理が実施される。前側シリンダ13の負圧が所定の閾値を超える場合(ステップS05でYes)、ECU50によって第1のスロットルバルブ34の低速で閉弁される(ステップS06)。第1のスロットルバルブ34が全閉されると、ECU50によって第1のスロットルバルブ34の閉弁が停止される。
第2のスロットルバルブ44の全閉制御では、ECU50によって第2のスロットルバルブ44が瞬時で全閉され(ステップS07)、第2のスロットルバルブ44の閉弁が停止される。このように、第1、第2のスロットルバルブ34、44は独立して制御され、第1のスロットルバルブ34はアクセルグリップ52の操作に追従せずに閉弁され、第2のスロットルバルブ44はアクセルグリップ52の操作に追従して閉弁される。第1のスロットルバルブ34がアクセルグリップ52の操作に追従して瞬時に全閉されないため、過度な負圧による前側シリンダ13のエンジンオイルの消費が抑えられると共に、エンジンブレーキの制動力によって車両が減速される。
第1、第2のスロットルバルブ34、44が全閉状態で停止すると、ECU50によってアクセルグリップ52の全閉操作か否かが判定される(ステップS08)。アクセルグリップ52の全閉操作であると判定されると(ステップS08でYes)、全閉操作が継続しているとして第1、第2のスロットルバルブ34、44が全閉状態に維持される。アクセルグリップ52の全閉操作ではないと判定されると(ステップS08でNo)、ECU50によって第1、第2のスロットルバルブ34、44のバルブ制御が全閉制御から通常制御に切り替えられる(ステップS09)。
以上、本実施例によれば、減速時等の第1、第2のスロットルバルブ34、44の閉弁時に、前側シリンダ13の上流の第1のスロットルバルブ34が、後側シリンダ14の上流の第2のスロットルバルブ44よりも大きな隙間を残して閉弁する。このため、前側シリンダ13では過度な負圧による燃焼室へのエンジンオイルの吸い込みが防止され、後側シリンダ14では負圧によるエンジンブレーキの制動力を十分に得ることができる。よって、エンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果を両立することができる。
なお、本実施形態では、前側シリンダ13内の負圧をモニタリングして、前側シリンダ13内の負圧が閾値を超えた場合に第1のスロットルバルブ34の速度を高速から低速に切り替える構成にしたが、この構成に限定されない。第1のスロットルバルブ34の開度が目標開度に到達したときに第1のスロットルバルブ34の速度を高速から低速に切り替えるようにしてもよい。以下、図9を参照して、他の実施例のスロットルバルブの制御処理について説明する。図9は、他の実施例のバルブ制御のフローチャートである。なお、ここでは、図4の符号を適宜使用して説明する。
ステップS11、S12の処理は本実施例のステップS01、S02と同様である。アクセルグリップ52の全閉操作であると判定されると(ステップS12でYes)、ECU50によって第1のスロットルバルブ34の目標開度と閉弁速度が設定される(ステップS13)。前側シリンダ13内に過度な負圧が生じないように、第1のスロットルバルブ34に対して目標開度と閉弁速度が2段階に分けて設定される。1段階目の目標開度として隙間を残すような低開度が設定され、1段階目の閉弁速度として高速が設定される。2段階目の目標開度として全閉が設定され、2段階目の閉弁速度として低速が設定される。
次に、ECU50によってモータ35、45が同時に駆動されて、第1、第2のスロットルバルブ34、44の全閉制御が並行して実施される。第1のスロットルバルブ34の全閉制御では、ECU50によって第1のスロットルバルブ34が高速で閉弁され(ステップS14)、第1のスロットルバルブ34が低開度まで閉弁されたか否かが判定される(ステップS15)。第1のスロットルバルブ34が低開度まで閉弁されていない場合(ステップS15でNo)、ECU50によって第1のスロットルバルブ34の開度が低開度になるまでステップS14、S15の処理が実施される。
第1のスロットルバルブ34が低開度まで閉弁されると(ステップS15でYes)、ECU50によって第1のスロットルバルブ34の低速で閉弁され(ステップS16)、第1のスロットルバルブ34が全閉されたか否かが判定される(ステップS17)。第1のスロットルバルブ34が全閉されていない場合(ステップS17でNo)、ECU50によって第1のスロットルバルブ34の全閉されるまでステップS16、S17の処理が実施される。第1のスロットルバルブ34が全閉されると(ステップS17でYes)、ECU50によって第1のスロットルバルブ34の閉弁が停止される。
第2のスロットルバルブ44の全閉制御では、ECU50によって第2のスロットルバルブ44が瞬時で全閉され(ステップS18)、第2のスロットルバルブ44の閉弁が停止される。このように、第1、第2のスロットルバルブ34、44は独立して制御され、第1のスロットルバルブ34はアクセルグリップ52の操作に追従せずに閉弁され、第2のスロットルバルブ44はアクセルグリップ52の操作に追従して閉弁される。第1のスロットルバルブ34がアクセルグリップ52の操作に追従して瞬時に全閉されないため、過度な負圧による前側シリンダ13のエンジンオイルの消費が抑えられると共に、エンジンブレーキの制動力によって車両が減速される。以下のステップ19、S20の処理は、本実施例のステップS08、S09と同様である。このような処理でも、エンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果を両立することができる。
また、本実施例のスロットルバルブの制御が2気筒のV型エンジンに適用された一例について説明したが、この構成に限定されない。本実施例のスロットルバルブの制御は、3気筒以上のエンジンに適用されてもよいし、V型エンジンに限らず直列エンジン、水平対向エンジンに適用されてもよい。例えば、3気筒以上のエンジンでは、最も負圧が大きなシリンダの上流のスロットルバルブを、その他のスロットルバルブよりも大きな隙間を残して閉弁する。
また、本実施例では、第2のスロットルバルブが全閉される構成にしたが、第2のスロットルバルブは全閉されなくてもよい。第2のスロットルバルブは、第1のスロットルバルブの隙間よりも小さな隙間を残して閉弁されてもよい。
また、本実施例では、第1のスロットルバルブが隙間を残して閉弁される構成にしたが、この構成に限定されない。第1のスロットルバルブが一度閉弁してから隙間を空けるように開弁してもよい。
また、本実施例では、第1のスロットルバルブが隙間を残して低開度まで閉弁した後に全閉する構成にしたが、この構成に限定されない。第1のスロットルバルブが隙間を残して低開度まで閉弁した後に低開度の状態を維持してもよい。
また、本実施例では、前側シリンダ内の負圧が後側シリンダ内の負圧よりも大きく形成されたが、この構成に限定されない。後側シリンダ内の負圧が前側シリンダ内の負圧よりも大きく形成されてもよい。この場合、第2の排気管が第1の排気管よりも短く形成されてもよい。
また、本実施例では、複数のシリンダとして車両前後方向に離間した前側シリンダ及び後側シリンダを例示したが、この構成に限定されない。複数のシリンダは、前後に分かれずに車両左右方向に並んで形成されていてもよい。
また、本実施例のエンジンは、前側シリンダ及び後側シリンダを有する構成にしたが、この構成に限定されない。エンジンは複数のシリンダを有していればよく、複数のシリンダのうち一部のシリンダ内の負圧が他のシリンダ内の負圧よりも大きく形成されていればよい。例えば、3つ以上のシリンダのうち2つのシリンダ内の負圧が他のシリンダ内の負圧よりも大きく形成されていてもよい。この場合、シリンダ内の負圧が大きな2つのシリンダの上流のスロットルバルブが、他のシリンダの上流のスロットルバルブよりも大きな隙間を残して閉弁する。また、エンジンが3つ以上のシリンダ内の負圧が異なるシリンダを有する場合には、シリンダ内の負圧が大きい順に、当該複数のシリンダの上流のスロットルバルブが大きな隙間を残して閉弁してもよい。
また、本実施例のスロットルバルブの制御が、自動二輪車に適用された構成について説明したが、この構成に限定されない。本実施例のスロットルバルブの制御は、スロットルバルブが設置される他の乗り物、例えば、自動四輪車、バギータイプの自動三輪車の他に、水上バイク、芝刈り機、船外機等の特機に適用することも可能である。
また、本実の施形態のスロットルバルブの制御処理のプログラムは記憶媒体に記憶されてもよい。記憶媒体は特に限定されないが、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等の非一過性の記憶媒体であってもよい。
以上の通り、本実施例のエンジン(10)は、複数のシリンダ(前側シリンダ13、後側シリンダ14)を有するエンジン本体(11)と、複数のシリンダの吸気側に位置する複数のスロットルバルブ(第1のスロットルバルブ34、第2のスロットルバルブ44)と、複数のスロットルバルブの開閉動作を制御する制御部(ECU50)と、を備えたエンジン(10)であって、複数のシリンダのうち一部のシリンダ(前側シリンダ13)内の負圧が他のシリンダ(後側シリンダ14)内の負圧よりも大きく、制御部は、複数のスロットルバルブの閉弁時に、一部のシリンダの上流の一部のスロットルバルブ(第1のスロットルバルブ34)を、他のシリンダの上流の他のスロットルバルブ(第2のスロットルバルブ44)よりも大きな隙間を残して閉弁する。この構成によれば、減速時等のスロットルバルブの閉弁時に、内部の負圧が大きな一部のシリンダの上流の一部のスロットルバルブが、他のシリンダの上流の他のスロットルバルブよりも大きな隙間を残して閉弁する。このため、一部のシリンダでは過度な負圧による燃焼室へのエンジンオイルの吸い込みが防止され、他のシリンダでは負圧によるエンジンブレーキの制動力を十分に得ることができる。よって、エンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果を両立することができる。
本実施例のエンジンにおいて、制御部は、複数のシリンダ内の負圧が大きい順に、当該複数のシリンダの上流の複数のスロットルバルブを大きな隙間を残して閉弁する。この構成によれば、複数のシリンダ内の負圧のバラツキに合わせてスロットルバルブの開度が調整され、エンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果の両立をより向上させることができる。
本実施例のエンジンにおいて、複数のシリンダの排気側に接続された複数の排気管(第1の排気管38、第2の排気管48)を備え、複数の排気管のうち一部のシリンダの排気側に接続された一部の排気管(第1の排気管38)が、他のシリンダの排気側に接続された他の排気管(第2の排気管48)よりも短く形成されており、制御部は、複数のスロットルバルブの閉弁時に、一部の排気管の上流の一部のスロットルバルブを、他の排気管の上流の他のスロットルバルブよりも大きな隙間を残して閉弁する。この構成によれば、短い排気管に接続された一部のシリンダの負圧が他のシリンダ内の負圧よりも大きくなり易い。一部のシリンダの上流の一部のスロットルバルブが、他のシリンダの上流の他のスロットルバルブよりも大きな隙間を残して閉弁することで、一部のシリンダに対する過度な負荷の発生を抑えることができる。
本実施例のエンジンにおいて、複数のシリンダは車両前後方向に離間した前側シリンダ(13)及び後側シリンダ(14)であり、一部の排気管は前側シリンダの排気側に接続された第1の排気管(38)であり、他の排気管は後側シリンダの排気側に接続された第2の排気管(48)であり、一部のスロットルバルブは前側シリンダの吸気側に位置する第1のスロットルバルブ(34)であり、他のスロットルバルブは後側シリンダの吸気側に位置する第2のスロットルバルブ(44)である。この構成によれば、複数のシリンダが前後に配置されたエンジンにおいて、エンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果の両立を図ることができる。
本実施例のエンジンにおいて、複数の排気管の下流側には触媒装置(16)が接続されており、エンジン本体はクランク軸を収容したクランクケース(12)を有し、第1の排気管及び第2の排気管が触媒装置の上流の集合管で合流し、当該集合管がクランク軸の中心よりも車両後方、かつ第2の排気管の上流端よりも車両前方に位置している。この構成によれば、前側シリンダから触媒装置に延びる第1の排気管よりも、後側シリンダから触媒装置に延びる第2の排気管に曲げが多く形成される。よって、第2の排気管に接続された後側シリンダよりも第1の排気管に接続された前側シリンダの排気効率が高く、前側シリンダ内の負圧が後側シリンダ内の負圧よりも大きくなり易い。第1のスロットルバルブが十分な隙間を残して閉弁されるため、前側シリンダに対する過度な負圧の発生を抑えることができる。
本実施例のエンジンにおいて、制御部は、第1のスロットルバルブを第1の速度で隙間を残して閉弁した後、第1の速度よりも低速な第2の速度で全閉まで閉弁し、第2のスロットルバルブを瞬時に全閉まで閉弁する。この構成によれば、前側シリンダにおける過度の負圧による燃焼室へのエンジンオイルの吸い込みを抑えながら、前側シリンダ及び後側シリンダのエンジンブレーキの制動力を高めることができる。
本実施例の車両は、上記のエンジンを搭載している。この構成によれば、複数のシリンダ内の負圧の大きさに応じてスロットルバルブの開閉動作を制御して、車両のエンジンオイルの消費抑制とエンジンブレーキの制動効果の両立を図ることができる。
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。