本発明の各実施形態に係るめっき装置の一例を、図を用いて説明する。なお、各図中に示す矢印Hは装置上下方向を示し、矢印Wは装置幅方向を示し、矢印Dは装置奥行き方向を示す。また、装置奥行き方向において、後述するオーバーフロータンク13が配置されている側を奥側とし、オーバーフロータンク13と対向する側を手前側とする。なお、装置上下方向は本発明の一方向に相当する。
さらに、「~」を用いて数値範囲を記載した場合は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む。
<第1の実施形態>
(全体構成)
第1の実施形態のめっき装置10は、例えば、画像形成装置の定着装置用のポリイミドベルト(以下、「ベルト」とする。)Bの表面に対して電解めっきによる金属層(以下、「めっき層」とする。)を形成するものである。ベルトBは基材の一例である。
図1、図2及び図6(A)に示されるように、めっき装置10は、めっき槽12と、回転ユニット20と、アノードバスケット40と、電源装置100と、制御部120と、循環装置60と、曝気装置80とを備えている。ここで、めっき槽12は槽の一例であり、回転ユニット20は回転部の一例であり、アノードバスケット40は籠の一例であり、電源装置100は電源の一例である。
(めっき槽)
めっき槽12は、電解液の一例であるめっき液Lが貯留されている。このめっき槽12には、ベルトBと後述する金属Mが収容されたアノードバスケット40とが浸漬されている。図1に示されるように、めっき槽12の装置奥行き方向の一端側の外壁面には、めっき槽12よりも小型の容器であるオーバーフロータンク13が設けられている。このオーバーフロータンク13とめっき槽12とは、めっき槽12の壁部に形成された矩形の開口14により接続されている。めっき槽12のめっき液Lの液面が開口14に達すると、オーバーフロータンク13に流れ込む。つまり、オーバーフロータンク13は、めっき槽12におけるめっき液Lの液面の上限を規定すると共に、めっき槽12から溢れるめっき液Lを回収する機能を有している。オーバーフロータンク13の底部には、後述する循環管66が接続されている。
また、めっき槽12の装置上方には、めっき槽12の装置幅方向外側の内壁面に沿って、装置奥行き方向に延びる角柱棒状のアノードバス16が設けられている。このアノードバス16は、めっき槽12の装置幅方向両側に設けられている。このアノードバス16には、導電性で網状のアノードバスケット40が吊るされている。
(回転ユニット)
回転ユニット20は回転部の一例である。図2に示されるように、回転ユニット20は、めっき槽12の装置幅方向に2列、装置奥行き方向に5列の合計10個設けられている。図1に示されるように、回転ユニット20は、装置幅方向一方側(図の上側)では、手前側から奥側に向けて回転ユニット20A、20B、20C、20D、20Eの順に定められた間隔で配置されている。また、回転ユニット20は、装置幅方向他方側(図の下側)では、手前側から奥側に向けて回転ユニット20F、20G、20H、20I、20Jの順に定められた間隔で配置されている。なお、以後の説明では、回転ユニット20を区別する必要がない場合には、符号末尾の「A」~「J」を省略する(アノードバスケット40、吐出口70、排出口90、第一入力部132及び第二入力部134に同じ)。
図3に示されるように、回転ユニット20は、装置上下方向に延在(延びて存在)しており、ベルトBが固定される従動部22と、従動部22を回転駆動するための駆動部30とを備えている。ベルトBは、回転ユニット20に固定された状態において、装置上下方向に延びる円筒体とされている。
従動部22は、円筒形状の保持部24と、保持部24の上部を支持する上部支持部25と、保持部24の下部を支持する下部支持部26と、装置上下方向に延びる円柱状の金属棒27と、上部支持部25の上端に設けられたホルダ29とを備えている。保持部24は、絶縁体のパイプであって、本実施形態では塩化ビニル製又はポリカーボネート製である。保持部24の装置上下方向の長さはベルトBの長さに等しいか、ベルトBよりも僅かに長い。保持部24は、その外周部においてベルトBを保持する。従動部22は、少なくとも保持部24を含む部分がめっき液Lに浸漬されている。
上部支持部25は導電体の部品であって、本実施形態ではステンレス製である。この上部支持部25は、断面視において逆T字状かつ円筒状の部材である。上部支持部25は、装置下方の本体部210の外径が保持部24の外径よりも僅かに大きく、装置上方の延長部212の外径は、保持部24の外径よりも小さい。上部支持部25は、軸心部分に装置上下方向に貫通する貫通孔214が形成されている。保持部24に保持されたベルトBの装置上方端部では、本体部210の外周部とベルトBとの境界部分を跨ぐように絶縁性の粘着テープTが巻かれている。
また、本体部210の外周部には、保持部24に向けて伸びる複数の板バネ部216が設けられている。この板バネ部216は導電体であって、上部支持部25と同じステンレス製である。板バネ部216は装置上方側端部のリング部分が本体部210に対して固定され、装置下方側が径方向に変位可能とされている。上部支持部25が保持部24を支持している状態において、板バネ部216は、装置下方側がベルトBを押圧(力を加えて押)している。これにより、ベルトBは上部支持部25に対して電気的に接続される。上部支持部25は、ベルトBの端部に設けられる電極の一例である。
下部支持部26は導電体の部品であって、本実施形態ではステンレス製である。この下部支持部26は、断面視においてT字状かつ円柱状の部材である。下部支持部26は、装置上方の本体部220の外径が保持部24の外径よりも僅かに大きく、装置下方の延長部222の外径は、保持部24の外径よりも小さい。下部支持部26は、本体部220の装置上方の面に装置下方に向けて挿入孔224が形成されている。保持部24に保持されたベルトBの装置下方端部では、本体部220の外周部とベルトBとの境界部分を跨ぐように粘着テープTが巻かれている。
また、本体部220の外周部には、保持部24に向けて伸びる複数の板バネ部226が設けられている。この板バネ部226は導電体であって、下部支持部26と同じステンレス製である。板バネ部226は装置下方側端部のリング部分が本体部220に対して固定され、装置上方側が径方向に変位可能とされている。下部支持部26が保持部24を支持している状態において、板バネ部226は、装置上方側がベルトBを押圧している。これにより、ベルトBは下部支持部26に対して電気的に接続される。下部支持部26は、ベルトBの端部に設けられる電極の一例である。
金属棒27は、上部支持部25及び保持部24の軸心部分を装置上下方向に貫通する導電体の棒である。ここで、本実施形態の金属棒27は銅製である。この金属棒27は配線の一例である。金属棒27の外径は、貫通孔214の内径及び保持部24の内径よりも小さいため、金属棒27は上部支持部25及び保持部24とは接触することがない。なお、従動部22の装置上方側において金属棒27と上部支持部25との間には、絶縁体である樹脂製のカラー28が設けられている。また、金属棒27は、下部支持部26の挿入孔224に嵌め込まれている。そのため、金属棒27は、上部支持部25に対して電気的に接続されず、下部支持部26に対して電気的に接続されている。
ホルダ29は、略円筒状の部材である。ホルダ29は、装置上方側の端部が後述する軸部31の外軸部310に対して固定される。
駆動部30は、略円柱状の軸部31と、軸部31を回転可能に支持する複数のベアリング32と、回転動力を伝達するギア部33と、後述する制御部120の入力部130に対して電気的に接続されるブラシ34と、従動部22との接続部である挟持部36とを備えている。また、駆動部30は、箱状のケース38を備えており、軸部31、ベアリング32、ギア部33及びブラシ34は、このケース38に収容されている。このケース38は、めっき槽12の装置上方に固定されている。
軸部31は、径方向外側に設けられる円筒状の外軸部310と、径方向内側に設けられ、断面視において略T字状で円柱状の内軸部312と、外軸部310及び内軸部312の間に設けられた中間部314とを有している。ここで、外軸部310及び内軸部312は導電体であって、中間部314は絶縁体である。一例として、外軸部310及び内軸部312は共にステンレス製であって、中間部314は樹脂製である。したがって、外軸部310と内軸部312とは絶縁されている。軸部31は、装置上方側の外周には内軸部312が露出しており、装置下方側の外周には外軸部310が露出している。
ベアリング32は、ケース38に対して軸部31を回転可能に支持している。ベアリング32は、軸部31の装置上方側を支持するラジアルベアリングである第一ベアリング320と、軸部31の装置下方側を支持するラジアルベアリングである第二ベアリング322とを有している。また、ベアリング32は、第二ベアリング322よりも装置下方側に軸部31の装置下方側端部を支持するスラストベアリングである第三ベアリング324を有している。
ギア部33は、装置上下方向において第一ベアリング320と第二ベアリング322との間に設けられている。このギア部33は、図示しない駆動装置に接続されるウォーム330と、外軸部310の外周部に固定されるウォームホイール332とを有している。駆動装置が作動すると、ギア部33は、軸部31及び軸部31に接続された従動部22を回転させる。
ブラシ34は、装置上下方向において第一ベアリング320とウォームホイール332との間に設けられた第一ブラシ340と、第一ベアリング320の装置上方側に設けられた第二ブラシ342とを有している。第一ブラシ340は外軸部310の外周部に接触し、第二ブラシ342は内軸部312の外周部に接触している。図4に示されるように、各ブラシ34は略E字形状の銅板の表面に白金めっきを施すことにより形成されている。すなわち、各ブラシ34は、軸部31に対してそれぞれ複数(本実施形態では3つの)の接点35を有している。
図3に示されるように、挟持部36は、内軸部312の下端に設けられた断面視において略逆U字状の部材であって、ホルダ29の内部に収容されている。挟持部36は、装置下方側が略円柱状のアダプタ37と嵌め合わされている。このアダプタ37には、金属棒27が装置下方から嵌め込まれている。
(アノードバスケット)
図2に示されるように、アノードバスケット40は、ベルトBよりも装置上下方向に長く、ベルトBと共にめっき液Lに浸漬されている。図1に示されるように、アノードバスケット40は、めっき槽12の装置幅方向に2列、装置奥行き方向に5列の合計10個設けられている。補足すると、アノードバスケット40は、装置幅方向一方側(図の上側)では、手前側から奥側に向けてアノードバスケット40A、40B、40C、40D、40Eの順に定められた間隔で配置されている。また、アノードバスケット40は、装置幅方向他方側(図の下側)では、手前側から奥側に向けてアノードバスケット40F、40G、40H、40I、40Jの順に定められた間隔で配置されている。各アノードバスケット40は、装置幅方向において回転ユニット20(従動部22)に対向して設けられている。例えば、装置幅方向において、アノードバスケット40Aは回転ユニット20Aの従動部22と対向し、アノードバスケット40Fは回転ユニット20Fの従動部22と対向している。
図2に示されるように、このアノードバスケット40は、イオン化する金属Mを収容する円筒状かつ網状の収容部41と、収容部41をアノードバス16に吊るすための略逆J字状のフック部42とを有している。フック部42には、後述する端子50が固定されている(図5(A)参照)。
ここで、収容部41に収容される金属Mは、めっきを施す金属によって異なる。例えば、ベルトBに銅めっきを施す場合、収容部41には銅ボールが収容される。また例えば、ベルトBにニッケルめっきを施す場合、収容部41にはニッケルボールが収容される。収容部41において、金属MはベルトBの長さよりも長くなるように積み重ねられている。
また、本実施形態のアノードバスケット40では、収容部41の外周部がポリエステル製の布であるアノードバック43により被覆されている。なお、図2においてアノードバスケット40Aは、説明のためにアノードバック43の一部を透過している。本実施形態によれば、不純物となるアノードスライムがアノードバスケット40からめっき槽12内に流れ出ないため、収容部41をアノードバック43で覆わない場合と比べて、ベルトBにおけるめっき層のザラが抑制される。ここで、アノードスライムとは、金属をアノードにして電解したとき、電気化学的に溶解しない残渣をいう。また、ザラとは、めっき槽中の固体異物粒子が、めっき層の中に入り込んでできるザラつき(凹凸状の欠陥)をいう。
さらに、本実施形態のアノードバスケット40では、アノードバック43により被覆された収容部41の一部が、絶縁体であるアノードマスク44により覆われることで遮蔽されている。例えば、本実施形態のアノードマスク44は塩化ビニル製である。アノードマスク44は、絶縁物の一例である。アノードマスク44は、収容部41の装置上方を覆う円筒状の上部マスク46と、収容部41の装置下方を覆う円筒状の下部マスク48とを有している。上部マスク46は、めっき液Lの液面を跨いで設置され、下部マスク48は筒状の下端部が閉口している。
アノードマスク44に覆われていない収容部41の露出部分は、装置上下方向においてベルトBと同範囲とされている(図2の点線部参照)。すなわち、装置上下方向における上部マスク46の装置下方側端部の位置はベルトBの装置上方側端部の位置と同等であり、下部マスク48の装置上方側端部の位置はベルトBの装置下方側端部の位置と同等である。つまり、本実施形態のアノードバスケット40の収容部41においては、装置幅方向においてベルトBと対向しない装置上下方向両側がアノードマスク44により覆われている。アノードマスク44に覆われた収容部41の遮蔽部分の周囲では、露出部分に対して電流放射が抑えられている。
端子50は、電源装置100の陽極102とアノードバスケット40との電気的な接続を確保するために設けられた導電性の部材である。本実施形態の端子50は銅製である。図5(A)に示されるように、本実施形態では、陽極102から延びるケーブル150の先端に圧着端子152が設けられており、端子50は圧着端子152を固定可能に形成されている。図5(B)に示されるように、端子50は、装置奥行き方向片側(図の左側)の壁面において装置上下方向に沿って設けられた溝部51を有している。また、端子50は、装置幅方向片側の(図の下側)の壁面から溝部51に向かう貫通孔に形成された第一めねじ部52と、第一めねじ部52に並んで形成された第二めねじ部53とを有している。
第一めねじ部52には、白金めっきが施された固定ボルト54がねじ込まれている。本実施形態の固定ボルト54は、第一めねじ部52にねじ込まれた際に、先端部55がフック部42を構成する金属板に接触するように形成されている。溝部51において、フック部42を構成する金属板が、端子50の壁部と固定ボルト54の先端部55とに挟まれることで、端子50はフック部42に固定される。
第二めねじ部53には、白金めっきが施された圧着ねじ56がねじ込まれている。本実施形態の圧着ねじ56は、軸部57を圧着端子152の孔に通してから第二めねじ部53にねじ込むことで、圧着端子152は端子50に対して固定される。
アノードバス16にフック部42を引掛けて、アノードバス16とアノードバスケット40とを導通させる場合、めっき液Lの影響でアノードバス16及びフック部42が腐食するとアノードバス16からアノードバスケット40にかけての抵抗が増加する。これに対して本実施形態の端子50を設けることにより、電源装置100の陽極102からアノードバスケット40にかけての抵抗を軽減し、アノードバス16にフック部42を引掛けて導通させる場合と比べて、導通の安定化を図ることができる。
(電源装置)
電源装置100は、回転ユニット20に固定されるベルトBと、アノードバスケット40の収容部41に収容される金属Mとの間に電圧を印加するものである。電源装置100は電源の一例である。
図6(A)に示されるように、電源装置100は、陽極102がケーブル150及び端子50を介してアノードバスケット40に接続され、陰極104が制御部120の出力部136に接続されている。また、各回転ユニット20から延びるケーブル151がそれぞれ制御部120の入力部130に接続されている。詳しくは、上部支持部25が第一ブラシ340及びケーブル151を介して入力部130の第一入力部132に接続され、下部支持部26が第二ブラシ342及びケーブル151を介して入力部130の第二入力部134に接続されている。第一入力部132及び第二入力部134は、回転ユニット20毎に形成されている。図6(A)では省略されているが、第一入力部132は、第一入力部132A~第一入力部132Jを含み、第二入力部134は、第二入力部134A~第二入力部134Jを含んでいる。
以上のように接続されためっき装置10では、次の括弧の順に電流が流れる電源回路が形成される。なお、ベルトBから制御部120に向けては2つの系統が形成される。
(1)電源装置100、(2)陽極102、(3)ケーブル150、(4)端子50、(5)アノードバスケット40、(6)金属M、(7)めっき液L、(8)ベルトB、
(9-1)上部支持部25、(10-1)ホルダ29、(11-1)外軸部310、(12-1)第一ブラシ340、(13-1)ケーブル151、(14-1)第一入力部132
(9-2-1)下部支持部26、(9-2-2)金属棒27、(10-2-1)アダプタ37、(10-2-2)挟持部36、(11-2)内軸部312、(12-2)第二ブラシ342、(13-2)ケーブル151、(14-2)第二入力部134
(15)制御部120、(16)出力部136、(17)陰極104、(18)電源装置100
(制御部)
制御部120は、電源回路において陰極104とベルトBの間に設けられ、ベルトBから電源装置100に帰還する電流を予め定めた値に制御するものである。上述のように、本実施形態の制御部120は、各ベルトBにおける装置上下方向の両端部にそれぞれ接続されている。
また、本実施形態の制御部120は、第一入力部132A~132J、及び第二入力部134A~134Jにおける電流値を個別に制御することができる。例えば、図6(B)に示されるように、各入力部130から出力部136までの回路上にそれぞれ可変抵抗(半導体を用いた電流制御回路を含む)を設けることにより、電流値を個別に制御することができる。これにより、例えば、各ベルトBにおける電流値を揃えたり、複数のベルトB毎に異なる電流値を設定したりすることができる。なお、図6(B)では省略されているが、電流値を制御する回路は、第一入力部132A及び第二入力部134Aに限らず、第一入力部132B~第一入力部132J、及び第二入力部134B~第二入力部134Jにもそれぞれ設けられている。
さらに、本実施形態では、電源装置100及び制御部120に対して、めっき処理を実行するための処理実行部140が接続されている。処理実行部140は、電源装置100を作動させることでベルトBと金属Mとの間に電圧を印加しめっき処理を実行させることができる。また、処理実行部140は、制御部120の各入力部130に入力され、制御部120の出力部136から出力され、電源装置100に帰還させる電流の電流値を、制御部120において個別に設定する。すなわち、処理実行部140は、各回転ユニット20に固定されるベルトBのめっき層の厚さを管理することができる。
(循環装置)
循環装置60は、めっき槽12において電解液であるめっき液Lを循環させるものである。図2に示されるように、循環装置60は、回転ユニット20の装置下方側、すなわちベルトBの装置下方側に、装置奥行き方向に沿って設置される液管62を有している。図7に示されるように、この液管62は、平面視においては、回転ユニット20に固定されたベルトBとアノードバスケット40との間に設けられている。また、液管62は、回転ユニット20A~回転ユニット20Eの装置下方側に設置される第一液管62Pと、回転ユニット20F~回転ユニット20Jの装置下方側に設置される第二液管62Sとを有している。各液管62にはそれぞれ、めっき液Lをめっき槽12内に向けて吐出する吐出口70が設けられている。
第一液管62P及び第二液管62Sは、奥側の端部が接続管63により連結され、手前側の端部にはそれぞれめっき槽12の外側に延びる流入管64が接続されている。流入管64は、第一液管62Pに接続される第一流入管64Pと、第二液管62Sに接続される第二流入管64Sとを有している。
各流入管64には、液管62を流れるめっき液Lの流量を調整するための調整弁65が設けられている。例えば、調整弁65としては、樹脂製のボールバルブ又はニードルバルブが採用される。また、調整弁65は、第一液管62Pの流量を調整するために第一流入管64Pに設けられた第一調整弁65Pと、第二液管62Sの流量を調整するために第二流入管64Sに設けられた第二調整弁65Sとを有している。
流入管64とオーバーフロータンク13との間には、循環管66が接続されている。循環管66は第一調整弁65Pにおいて第一流入管64Pに接続され、第二調整弁65Sにおいて第二流入管64Sに接続されている。また、循環管66において、オーバーフロータンク13と流入管64との間にはめっき液Lを圧送するためのポンプ67が設けられている。このポンプ67には、めっき液L中の不純物を除去するためのフィルタが設けられている。
以上、本実施形態の循環装置60によれば、めっき液Lに係る以下の循環系が形成される。すなわち、めっき液Lは、(1)めっき槽12、(2)オーバーフロータンク13、(3)循環管66(ポンプ67)、(4)流入管64、(5)液管62、(6)めっき槽12、の順に循環する。めっき槽12では、大局的に見て手前側である流入管64側がめっき液Lの流れFの上流となり、奥側であるオーバーフロータンク13側が流れFの下流となる。
一方、各液管62には、めっき液Lをめっき槽12内に向けて吐出する一対の吐出口70が設けられている。具体的に、第一液管62Pにおいては、回転ユニット20A~回転ユニット20Eに固定された各ベルトBに対応して吐出口70A~吐出口70Eが設けられている。また、第二液管62Sにおいては、回転ユニット20F~回転ユニット20Jに固定された各ベルトBに対応して吐出口70F~吐出口70Jが設けられている。
各吐出口70は、対応するベルトBに対して手前側、すなわち、めっき槽12の平面視においてめっき液Lの流れFの上流側に配置されている。例えば、吐出口70Bは、装置奥行き方向において回転ユニット20Aと回転ユニット20Bとの間に位置し、吐出口70Cは、装置奥行き方向において回転ユニット20Bと回転ユニット20Cとの間に位置している。
また、吐出口70は、回転ユニット20(ベルトB)側に形成された内側吐出口72と、アノードバスケット40(金属M)側に形成された外側吐出口74とを有している。図8に示されるように、各吐出口70は、各液管62の断面において装置上方に形成されている。一例として、内側吐出口72及び外側吐出口74は、それぞれ各液管62の断面中心から上方に延ばした垂線に対する中心線の角度Xが45度となる位置に形成されている。
さらに、各液管62においては、装置奥行き方向両端の吐出口70の内径が装置奥行き方向中央側の吐出口70の内径よりも大きい。詳しくは、第一液管62Pでは、吐出口70A及び70Eの内径が、吐出口70B、70C及び70Dの内径よりも大きい。また、第二液管62Sでは、吐出口70F及び70Jの内径が、吐出口70G、70H及び70Iの内径よりも大きい。補足すると、装置奥行き方向の両端の吐出口70の開口面積は、装置奥行き方向中央側の吐出口70の開口面積よりも10%から20%ほど大きく設定されている。
(曝気装置)
曝気装置80は、めっき液Lの内部に気体としての空気Aを供給するものである。図2に示されるように、曝気装置80は、回転ユニット20の装置下方側、すなわちベルトBの装置下方側に、装置奥行き方向に沿って設置される配管82を有している。図9に示されるように、この配管82は、回転ユニット20A~回転ユニット20Eの装置下方側に設置される第一配管82Pと、回転ユニット20F~回転ユニット20Jの装置下方側に設置される第二配管82Sとを有している。また、第一配管82Pは第一液管62Pに沿って、第二配管82Sは第二液管62Sに沿ってそれぞれ配置されている(図1及び図2参照)。各配管82にはそれぞれ、空気Aをめっき槽12内のめっき液Lに向けて排出する排出口90が設けられている。
第一配管82P及び第二配管82Sの装置奥行き方向両端には導入管84が接続されている。具体的に、第一配管82P及び第二配管82Sの手前側の端部にはめっき槽12の外側に延びる第一導入管84Pが接続され、第一配管82P及び第二配管82Sの奥側の端部にはめっき槽12の外側に延びる第二導入管84Sが接続されている。第二導入管84Sは、めっき槽12の外側を迂回して手前側に延びている。
各導入管84には、配管82における空気Aの圧力を調整するための調圧弁86が設けられている。例えば、調圧弁86としては、樹脂製のボールバルブ又はニードルバルブが採用される。また、調圧弁86は、第一導入管84Pに設けられた第一調圧弁86Pと、第二導入管84Sに設けられた第二調圧弁86Sとを有している。
また、各導入管84は、連結管87を介して図示しない空気の供給源(一例として、コンプレッサ)に接続されている。したがって、本実施形態の曝気装置80によれば、以下の流れで空気Aが排出される。すなわち、空気Aは、(1)コンプレッサ、(2)連結管87、(3)導入管84、(4)配管82、(5)めっき槽12、の順に流れる。導入管84により、第一配管82P及び第二配管82Sでは、空気Aが装置奥行き方向両端から圧送される。
一方、各配管82には、空気Aをめっき槽12内に向けて吐出する一対の排出口90が設けられている。具体的には、第一配管82Pにおいては、回転ユニット20A~回転ユニット20Eの各ベルトBに対応して排出口90A~排出口90Eが設けられている。また、第二配管82Sにおいては、回転ユニット20F~回転ユニット20Jの各ベルトBに対応して排出口90F~排出口90Jが設けられている。
各排出口90は、対応するベルトBに対して手前側、すなわち、めっき槽12の平面視においてめっき液Lの流れFの上流側に配置されている。また、各ベルトBを基準にすると排出口90は、吐出口70よりもベルトBの近くに設けられている。例えば、排出口90Bは、装置奥行き方向において回転ユニット20Aと回転ユニット20Bとの間に位置し、かつ吐出口70Bよりも回転ユニット20Bに近い位置に配置されている(図1参照)。また、排出口90Cは、装置奥行き方向において回転ユニット20Bと回転ユニット20Cとの間に位置し、かつ吐出口70Cよりも回転ユニット20Cに近い位置に配置されている(図1参照)。
また、排出口90は、回転ユニット20(ベルトB)側に形成された内側排出口92と、アノードバスケット40(金属M)側に形成された外側排出口94とを有している。図10(A)に示されるように、各排出口90は、各配管82の断面において装置下方に形成されている。一例として、内側排出口92及び外側排出口94は、それぞれ各配管82の断面中心から下方に延ばした垂線に対して中心線が0~50度の範囲(角度Y)、望ましくは20~50度の範囲(角度Z)に位置するように形成されている。
さらに、各配管82は、装置奥行き方向両端部の排出口90よりも外側に設けられ、かつ各配管82の断面において装置下方に形成された追加口96を有している。具体的に追加口96は、排出口90Aよりも手前側に形成された追加口96P1と、排出口90Eよりも奥側に形成された追加口96P2とを有している。また追加口96は、排出口90Fよりも手前側に形成された追加口96S1と、排出口90Jよりも奥側に形成された追加口96S2とを有している。
図10(B)に示されるように、追加口96は、内側排出口92と同様に、配管82の断面中心から下方に延ばした垂線に対して0~50度の範囲(角度Y)、望ましくは20~50度の範囲(角度Z)に形成されている。また、追加口96の開口面積は、内側排出口92の開口面積と外側排出口94の開口面積との総和の半分以下に設定されている。
(作用)
本実施形態のめっき装置10では、ベルトBに対して以下の各工程によりめっきを施してめっき部品を製造する。
ベルトBは、前処理工程においてポリイミド基材に対する無電解ニッケルメッキ及びストライク銅めっきが施される。そして、めっき装置10を用いて、電解銅めっき及び電解ニッケルメッキが施される。この前処理工程を経ることで、ベルトBは導電性を有することになる。
まず、前処理工程を経たベルトBは、回転ユニット20A~回転ユニット20Jに固定される。具体的に、作業者はベルトBを被せた保持部24を上部支持部25及び下部支持部26で挟み込む。そして、作業者は上部支持部25及び下部支持部26に対してベルトBを粘着テープTにて固定する。また、作業者は上部支持部25において板バネ部216を本体部210に対して固定し、下部支持部26において板バネ部226を本体部220に対して固定する。これにより従動部22が組み立てられる。
次に、作業者は従動部22のホルダ29を駆動部30の外軸部310に対して固定する(図3参照)。この際、金属棒27の先端に接続されたアダプタ37が挟持部36に嵌め込まれる。これにより従動部22は駆動部30に対して取り付けられ、回転ユニット20が組み上がる。
ベルトBが固定された回転ユニット20は、最初に銅めっき用のめっき槽12に収容される。つまり、各ベルトBは銅めっき液に浸漬される。次に、各回転ユニット20が回転を開始し、循環装置60が作動を開始し、曝気装置80が作動を開始する。そして、電源装置100が立ち上がり、金属Mとして銅ボールが収容されたアノードバスケット40と、ベルトBが固定された回転ユニット20との間に電圧が印加されることで、めっき工程として銅めっきが開始される。めっき工程中は、電源装置100の陰極104とベルトBとの間に接続される制御部120において電流値が予め定めた値で制御される。また、循環装置60がめっき槽12内のめっき液Lを循環させると共に、曝気装置80では、排出口90から空気Aが排出されることでベルトBに対してバブリングが行われる。
銅めっきが終了すると、回転ユニット20は銅めっき用のめっき槽12から取り出され、続いてニッケルメッキ用のめっき槽12に移される。ニッケルメッキ用のめっき槽12に収容されることで、各ベルトBはニッケルメッキ液に浸漬される。そして、銅めっきと同様にめっき工程としてニッケルめっきが開始される。工程の詳細は銅めっきの場合と同様である。
以上、本実施形態のめっき装置10による作用効果をまとめると以下のとおりとなる。
(1)電流制御による作用効果
電解めっきにおいて、ベルトBに流れる電流値は、めっき液Lの運動量と金属イオンのモル濃度によって左右される。そのため、めっき液Lの状態によってベルトBに流れる電流値が変動するとめっき層の厚さがばらついてしまう。
そこで、本実施形態のめっき装置10では、ベルトBから電源装置100に帰還する電流を制御すべく電流回路中に制御部120を設けた。特許文献1のめっき装置のように、定電流電源の出力側(陽極側)で電流を制御する電源の場合、上述のようにめっき液の環境変化が電流値に影響を及ぼしてしまう。これに対して、本実施形態によれば、電源から金属に向かう出力側で電流を制御する場合と比べて、ベルトBに流れる電流値の変化を抑制することができる。これにより、基材表面に形成されるめっき層の厚さのばらつきを抑制することができる。
また、本実施形態のめっき装置10では、複数のベルトBに対してめっきを施すことができる。そして、制御部120はベルトB毎に電流を制御することができる。すなわち、本実施形態によれば、ベルトB毎に流れる電流を一括して制御する場合と比べて、ベルトB毎のめっき層の厚さのばらつきを抑制できる。
また、本実施形態のめっき装置10では、ベルトBが装置上下方向の両端において制御部120に接続され、制御部120では別個に電流値が制御されている。本実施形態によれば、制御部120に対する接続箇所が1箇所の場合と比べて、ベルトB表面に形成されるめっき層のベルトBの長さ方向に対する厚さのばらつきを抑制できる。なお、本実施形態では、ベルトBの両端に電極を接続したが、この限りでなく、ベルトBの長さ方向において複数個所、電極を接続してもよい。
ここで、本実施形態のめっき装置10では、円筒形状のベルトBに対してめっきが施される。そのため、制御部120からベルトBの下端に至る配線は、ベルトBの内部を通すことができる。具体的に、本実施形態では、ベルトBの内部に金属棒27を通すことで、ベルトBの上端から制御部120に向かう回路とベルトBの下端から制御部120に向かう回路とを別系統にしている。本実施形態によれば、中実の部材の表面にめっきを施す場合と比べて、ベルトBの端部に接続される電極を容易に増やすことができる。
(2)アノードマスクによる作用効果
本実施形態のアノードバスケット40においては、装置幅方向においてベルトBと対向しない装置上下方向両側の部分がアノードマスク44により覆われている。ここで、アノードバスケット40(アノードバック43)の露出部分がベルトBの長さよりも長い場合、ベルトBの上下両端部においては、中央部よりも電流放射が大きい。そのため、ベルトBの端部では中央部よりもめっき層が成長することが考えられる。これに対して、本実施形態によれば、アノードバスケット40においてベルトBと対向する部分の装置上下方向両側が露出している場合と比べて、ベルトBの両端部のめっき層が他の部分よりも厚くなることを抑制できる。
また、本実施形態では、上部マスク46は、めっき液Lの液面を跨いで設置され、下部マスク48は筒状の下端部が閉口している。そのため、上部マスク46においては、アノードバスケット40の装置上方側から、下部マスク48においては、アノードバスケット40の装置下方側からの電流放射が抑制される。すなわち、ベルトBがアノードバスケット40から水平方向に電流放射を受けるようにすることで、ベルトBでは端部における電流密度の増加(エッジ効果)を抑制できるため、ベルトBの端部が他の部分と比較してめっき層の厚さが厚くなることを抑制できる。
(3)回転ユニットによる作用効果
本実施形態では、ベルトBを回転させる回転ユニット20を備えている。電解めっきにおいて、めっき液Lを移動する金属イオンの速度は当該金属イオンのモル濃度によって左右される。そのため、めっき対象物の表面積が増えることで、めっき対象物の周辺では金属イオンのモル濃度が低下する。例えば、本実施形態のように、回転ユニット20AのベルトBにおいては、アノードバスケット40A側と回転ユニット20F側とで金属イオンの濃度差が生ずる。そして、めっき槽12内において金属イオンに濃度差が生ずると電流密度にも差が生ずる。
そこで本実施形態のように、回転ユニット20によりベルトBを回転させることにより、次の効果を奏する。すなわち、本実施形態によれば、ベルトBが周方向に静止している場合と比べて、ベルトBが受ける電流密度のばらつきが抑制される。これにより、ベルトBの表面に形成されるめっき層の周方向に対する厚さのばらつきを抑制できる。
また、本実施形態では、ベルトBを回転させつつ電流を流すべく、回転ユニット20にブラシ34が設けられている。このブラシ34は、軸部31に接する複数の接点35を有している。本実施形態のブラシ34によれば、接点35を複数に分割することにより、一の接点35の腐食が他の接点35に波及することを抑制している。これにより、ブラシ34の接点が一つである場合と比較して、接点35が腐食した場合の電流値の変化を抑制できる。
(4)循環装置による作用効果
本実施形態のめっき槽12におけるめっき液Lは、大局的に見て装置奥行き方向をオーバーフロータンク13側に向けて流れている。オーバーフロータンク13において回収されためっき液Lは、ポンプ67を経て液管62に圧送され、液管62において回転ユニット20毎に設けられた吐出口70から再びめっき槽12内に吐出される。本実施形態では、吐出口70が対応する回転ユニット20に固定された各ベルトBに対して手前側、すなわち、めっき槽12の平面視においてめっき液Lの流れFの上流側に位置している。
流れFの最上流側のベルトB、つまり回転ユニット20AのベルトB及び回転ユニット20FのベルトBの周辺では、さらに上流側からめっき液Lを吐出しなければ、これら最上流側のベルトB付近の金属イオンの濃度は低下してしまう。これに対して、本実施形態のめっき装置10によれば、各吐出口70が対応するベルトBに対して奥側であるオーバーフロータンク13寄りに配置される場合と比べて、各ベルトBに提供される金属イオンの濃度のばらつきを抑制することができる。これにより、ベルトB毎のめっき層の厚さのばらつきが抑制される。
なお、装置奥行き方向における吐出口70の位置は、めっき液Lの流れFのベクトル分だけ上流側に設定すると好適である。
また、本実施形態の循環装置60において、液管62は、めっき槽12の平面視において回転ユニット20に固定されたベルトBとアノードバスケット40に収容された金属Mとの間に設けられており、一のベルトBに対応する吐出口70は、回転ユニット20(ベルトB)側の内側吐出口72と、アノードバスケット40(金属M)側の外側吐出口74とを有している。図11(A)及び(B)に示されるように、局所的には、内側吐出口72からベルトBに向かう流れf1と、外側吐出口74からアノードバスケット40に向かう流れf2とが発生している。
したがって、本実施形態のめっき装置10によれば、各吐出口70からベルトB側だけでなく金属M側にもめっき液Lを供給することにより、各アノードバスケット40の金属Mから生成される金属イオンの濃度のばらつきを抑制することができる。これにより、各吐出口70からベルトB側だけにめっき液Lを供給する場合と比べて、ベルトB毎のめっき層の厚さのばらつきが抑制される。
また、本実施形態の各液管62において装置奥行き方向両端の吐出口70は、装置奥行き方向中央側の吐出口70よりも10%から20%ほど開口面積が大きい。詳しくは、第一液管62Pでは、吐出口70A及び70Eの内径が、吐出口70B、70C及び70Dの内径よりも大きい。また、第二液管62Sでは、吐出口70F及び70Jの内径が、吐出口70G、70H及び70Iの内径よりも大きい。
第一液管62Pでは、第一流入管64Pから流れ込んだめっき液Lが吐出口70Aから吐出口70Eにかけて順に到達する。また、第二液管62Sでは、第二流入管64Sから流れ込んだめっき液Lが吐出口70Fから吐出口70Jにかけて順に到達する。ここで、最上流側の吐出口70(吐出口70A、70F)においては、めっき液Lの流速によりエジェクタ効果が発生する場合がある。また、最下流側の吐出口70(吐出口70E、70J)においては、液管62の端部で圧力反射が発生する。
したがって、各液管62において吐出口70径が全て同じ場合、装置奥行き方向両端の吐出口70では、装置奥行き方向中央側の吐出口70よりも吐出量が低下する恐れがある。これに対して、本実施形態のめっき装置10によれば、各吐出口70の開口面積がいずれも等しい場合と比べて、液管62の両端の吐出口70におけるめっき液Lの吐出量が液管62の中央側よりも低下することを抑制することができる。
また、本実施形態の循環装置60では、めっき槽12に対して液管62が2本配置されており、各液管62の終端部は接続管63により連結されている。
本実施形態のめっき装置10によれば、液管62が複数本配置されている場合に液管62の終端部を封止した場合と比べて、接続管63を通じて各液管62におけるめっき液Lの流量のばらつきを抑制することができる。なお、液管62が3本以上の場合であっても、端部を一の接続管により連結させることで、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態のめっき装置10では、各液管62と対応する流入管64に対して各々流量調整用の調整弁65が設けられている。これにより、本実施形態では、第一液管62Pと第二液管62Sとで個別にめっき液Lの流量を調整することができる。そして、本実施形態のめっき装置10によれば、各液管62に共通する調整弁を設けた場合と比べて、液管62及び流入管64の形状や経路の違いによるめっき液Lの流量のばらつきを調整することができる。
なお、液管62を追加した場合、当該追加した液管62に対応する調整弁65を設けることにより、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、一の液管62に対応する調整弁65を省き、残りの液管62に対応する調整弁65において流量を調整することにより、各液管62の流量のばらつきを調整してもよい。
(5)曝気装置による作用効果
本実施形態の曝気装置80では、空気Aが流れる配管82が装置奥行き方向に沿って延び、かつ回転ユニット20の下方、すなわちベルトBの下方に配置されている。この配管82は、断面の下方に複数の排出口90として、回転ユニット20(ベルトB)側に形成された内側排出口92と、アノードバスケット40(金属M)側に形成された外側排出口94とを有している。
めっき液L中に配管82を沈めた場合、空気Aの圧送前においては、配管82の内部はめっき液Lで満たされている。ここで、排出口が配管の断面の上方に形成されている場合、めっき液で満たされた配管の内部では、圧縮された空気で押し出すことができなかっためっき液が滞留する。また、この場合の配管では、装置奥行き方向両側の排出口付近の空気の流速が、装置奥行き方向中央側の排出口付近の流速よりも速い。これは、装置奥行き方向中央側の排出口から排出される空気を確保するため、及びめっき液により流路が狭くなっていることによる。そして、装置奥行き方向中央側よりも空気の流速の速い装置奥行き方向両側では、空気の流速増加によりエジェクタ効果が発生する場合がある。すると、装置奥行き方向両側の排出口では、装置奥行き方向中央側の排出口よりもバブリングにおける空気の泡の発生が軽減する恐れが生じる。
そこで、本実施形態では、排出口90を配管82の断面の下方に形成することで、断面の上方に形成した場合と比べて、配管82の内部のめっき液Lを排出することができる。これにより、排出口90毎の空気Aの泡の量、つまりバブリングの強度の偏りを抑制することができ、めっき槽12の装置上下方向における金属イオン濃度の偏りを抑制することができる。これにより、各ベルトBに形成されるめっき層の装置上下方向における厚さのばらつきが抑制される。
ここで、各配管82における排出口90は、配管82の断面中心から下方に延ばした垂線に対して中心線が0~50度の範囲に位置するように形成するとよい。このような範囲で排出口90を形成した場合は、次の効果を奏する。すなわち、配管82の断面中心から下方に延ばした垂線に対して50~90度の範囲に中心線が位置するように排出口90を形成した場合と比べて、配管82内部のめっき液Lを多く排出することができる。
また、めっき槽12の深さに余裕がない場合において、排出口90は、配管82の断面中心から下方に延ばした垂線に対して中心線が20~50度の範囲に位置するように形成するとなおよい。このような範囲で排出口90を形成した場合は、上記に加えて次の効果を奏する。すなわち、配管の断面中心から下方に延ばした垂線に対して0~20度の範囲に中心線が位置するように排出口を形成した場合と比べて、槽の底面から受ける圧力反射を抑制することができる。これにより、配管82内部のめっき液Lをさらに多く排出することができる。
また、本実施形態のめっき装置10における排出口90は、対応する回転ユニット20に固定されたベルトBに対して手前側、すなわち、めっき槽12の平面視においてめっき液Lの流れFの上流側に位置している。なおかつ、排出口90は、吐出口70よりもベルトBの近くに設けられている。例えば、排出口90Aは対応する回転ユニット20Aに固定されたベルトBに対して流れFの上流側に位置し、かつ吐出口70AよりもベルトBの近くに設けられている。
このように排出口90を配しためっき装置10によれば、図11(A)及び(B)に示されるように、吐出口70からベルトBに至るめっき液Lの局所的な流れf1の途中において、排出口90からバブリングが行われる。そのため、ベルトBの周方向において空気Aの供給が偏ることがなく、ベルトBは装置下方から装置上方にかけて全体的に空気Aの泡に覆われる。本実施形態によれば、排出口90が対応するベルトBに対して流れFの下流側、又は組みとなる吐出口70よりも遠くに配置される場合と比べて、ベルトBに供給される空気Aの泡のばらつきを抑制することができる。これにより、各ベルトBに形成されるめっき層の装置上下方向における厚さのばらつきが抑制される。
なお、排出口90の位置は、めっき液Lの局所的な流れf1のベクトルと空気Aの泡の上昇ベクトルとを合成したベクトルに対応する分だけ上流側に設定すると好適な位置となるが、本実施形態によれば、排出口90の位置を当該好適な位置に近づけることができる。
また、本実施形態の曝気装置80では、空気Aは配管82の装置幅方向両側の端部に接続された導入管84から圧送される。ここで、圧送される配管の終端部が封止されている場合、圧力反射の影響で封止された端部に最も近い排出口では、装置奥行き方向中央側の排出口よりも空気の泡の発生が軽減する。
これに対し、本実施形態のめっき装置10によれば、配管82の終端部を封止し、一端から空気Aを圧送する場合と比べて、終端部における圧力反射の影響を抑制することができる。つまり、各配管82では、排出口90毎の空気Aの排出量を均一化することができる。これにより、各ベルトBの装置奥行き方向の端部と中央部との間におけるめっき層の厚さのばらつきが抑制される。なお、配管82が3本以上の場合であっても、端部それぞれ導入管84に接続することで、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態の曝気装置80では、各導入管84には各々圧力調整用の調圧弁86が設けられている。そのため、本実施形態では、第一調圧弁86Pと第二調圧弁86Sとで個別に空気Aの圧力を調整することができる。
本実施形態のめっき装置10によれば、各導入管84に共通する調圧弁を設けた場合と比べて、配管82及び導入管84の形状や経路の違いによる空気Aの圧力のばらつきを調整することができる。
さらに、本実施形態の曝気装置80では、各配管82において装置奥行き方向両端の排出口90よりも外側にそれぞれ設けられ、配管82の断面の下方に形成された追加口96をさらに備えている。追加口96は、内側排出口92と同様に、配管82の断面中心から下方に延ばした垂線に対して中心線が0~50度の範囲、望ましくは20~50度の範囲に位置するように形成するとよい。本実施形態のめっき装置10によれば、配管82に排出口90のみが設けられている場合と比べて、配管82内に残存するめっき液Lの量をさらに減らすことができる。
バブリングにおいて、めっき液L中を上昇する空気Aの泡は、それぞれ互いに引き付けられ、そして併合されて大きくなる。そのため、追加口96を設けない場合、排出口90A、90Fから排出された空気Aは手前側に併合する泡が存在しないため上昇と共に奥側に流れ、排出口90E、90Jから排出された空気Aは奥側に併合する泡が存在しないため上昇と共に手前側に流れる。これに対して、本実施形態によれば、追加口96を設けたことにより排出口90A、90E、90F、90Jから排出される空気Aは、それぞれ装置奥行き方向外側に引き付けられる。これにより、各ベルトBが覆われる空気Aの泡のばらつきが抑制され、ベルトB毎のめっき層の厚さのばらつきが抑制される。
なお、追加口96の開口面積は、内側排出口92の開口面積と外側排出口94の開口面積との総和の半分以下に設定するとよい。このように設定することで、各配管82では装置奥行き方向両側の排出口90における空気Aの圧力の低下を抑制することができる。つまり、各配管82では、排出口90毎の空気Aの排出量をより均一化することができる。
(変形例)
本実施形態の回転ユニット20において、上部支持部25では板バネ部216によりベルトBを第一入力部132に対して電気的に接続し、下部支持部26では板バネ部226によりベルトBを第二入力部134に対して電気的に接続している。ただし、接続方法はこれに限らない。本実施形態の変形例として、図12に示されるように、粘着テープTに代えて導電体である銅製の粘着テープである銅テープTcを使用することで電気的な接続を行うことができる。具体的には、上部支持部25では、本体部210の外周部と保持部24に保持されたベルトBとの境界部分を跨ぐように銅テープTcを巻くことでベルトBを第一入力部132に対して電気的に接続することができる。また、下部支持部26では、本体部220の外周部と保持部24に保持されたベルトBとの境界部分を跨ぐように銅テープTcを巻くことでベルトBを第二入力部134に対して電気的に接続することができる。
(備考)
本実施形態のめっき装置10は、ベルトB毎に電流を制御することで各ベルトBに形成されるめっき層の厚さのばらつきを抑制することを特徴としている。一方、本実施形態によれば、ベルトB毎に異なる電流値を設定することで、一のめっき装置10において、めっき層の厚さが異なる複数種類のベルトBを同時に形成することができる。
本実施形態のめっき装置10においては、一つのベルトBに対して、一つのアノードとなるアノードバスケット40を装置幅方向において対向するように配置している。一方、本実施形態のように、対となるベルトB及びアノードバスケット40を複数組めっき槽12に対して浸漬した場合、装置奥行き方向両側のベルトBと装置奥行き方向中央側のベルトBでは電流密度に偏りが発生することが考えられる。具体的に、回転ユニット20Aに固定されるベルトBは、主にアノードバスケット40Aからの電流が流れると共に、アノードバスケット40Bからの電流も流れる。これに対して、回転ユニット20Bに固定されるベルトBは、主にアノードバスケット40Bからの電流が流れると共に、アノードバスケット40A及び40Cからの電流も流れる。つまり、装置奥行き方向両側のベルトBでは、対向するアノードバスケット40に隣接するアノードバスケット40は片側のみとなるため、装置奥行き方向中央側のベルトBよりも電流密度が小さくなる。
このように、装置奥行き方向における電流密度の偏りをすべく、アノードバスケット40の装置奥行き方向外側に、陽極102と接続した追加のアノードバスケットを設けることができる。この場合、追加のアノードバスケットとアノードバスケット40Aとの間隔は、アノードバスケット40Aとアノードバスケット40Bとの間隔に揃えるとよい。アノードバスケット40E、40F及び40Jの装置奥行き方向外側に追加のアノードバスケットを設ける場合についても同様である。本実施形態では、制御部120において電流を制御するため、電流密度に偏りが生じてもめっき層への影響を抑制することは可能であるが、制御部120により電流を制御しない場合であっても、上記の電流密度の偏りを抑制することができる。
本実施形態のめっき装置10において、めっき槽12における金属イオンの濃度や電流密度の偏りを抑制することができれば、必ずしもベルトB毎に電流を制御する必要はなく、制御部120は全ベルトBに対する電流を一律に制御することができる。また、この場合、ベルトBの制御部120に対する接続は装置上下方向の何れか一端としてもよい。
本実施形態のめっき装置10は、2列×5列の合計10個のベルトBに対してめっきを施す装置であるが、施工可能なベルトBの配列はこれに限らない。ベルトBに対応する回転ユニット20、アノードバスケット40、吐出口70、排出口90、第一入力部132及び第二入力部134を設けることができれば、ベルトBの配列及び数は自由である。1個のベルトBに対してめっきを施すことも可能である。
本実施形態では、ポリイミドベルトに対してめっき層を施す場合について説明したが、めっき処理が可能な基材はこれに限らない。例えば、めっき処理を行う基材として、樹脂製又は金属製のパイプ、シャフト、ピストン等の部品が挙げられる。
<第2の実施形態>
(構成)
第2の実施形態のめっき装置10は、装置に異常が発生した場合にその原因を特定可能に構成されている。以下、第1の実施形態との相違点について説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付すこととし、説明については割愛する。
図13に本実施形態の制御部120の構造を示す。制御部120は、入力部130、出力部136、定電流回路122、124、及び電圧測定部127、128を含んでいる。電圧測定部127、128は測定部の一例である。
定電流回路122及び電圧測定部127は、各第一入力部132に対応して設けられている。すなわち、定電流回路122はベルトB毎に定電流回路122A~122Jを有し、電圧測定部127はベルトB毎に電圧測定部127A~127Jを有している。また、定電流回路124及び電圧測定部128は、各第二入力部134に対応して設けられている。すなわち、定電流回路124はベルトB毎に定電流回路124A~124Jを有し、電圧測定部128はベルトB毎に電圧測定部128A~128Jを有している。
定電流回路122は、第一入力部132と、出力部136に接続されるコモン線125と、の間に設けられている。定電流回路122は、トランジスタTRと、オペアンプOPと、複数の抵抗Rと、可変抵抗VRと、を含んで構成されている。定電流回路122では、トランジスタTRのコレクタと第一入力部132とが接続され、トランジスタTRのエミッタとコモン線125とが接続されている。電圧測定部127は、第一入力部132(トランジスタTRのコレクタ)とコモン線125との間の電圧Vcを測定する。
定電流回路124は、第二入力部134と、出力部136に接続されるコモン線125と、の間に設けられている。定電流回路124は、トランジスタTRと、オペアンプOPと、複数の抵抗Rと、可変抵抗VRと、を含んで構成されている。定電流回路124では、トランジスタTRのコレクタと第二入力部134とが接続され、トランジスタTRのエミッタとコモン線125とが接続されている。電圧測定部128は、第二入力部134(トランジスタTRのコレクタ)とコモン線125との間の電圧Vcを測定する。
図14は、本実施形態に係る制御系のハードウェアの構成の一例を示すブロック図である。
図14に示されるように、本実施形態の制御部120は、処理実行部140に接続されている。この処理実行部140は、制御処理部142と、記憶部144と、モニタ146と、スピーカ148と、を備えている。モニタ146及びスピーカ148は報知部の一例である。
制御処理部142は、CPU(Central Processing Unit)142A、ROM(Read Only Memory)142B、RAM(Random Access Memory)142C、および入出力インタフェース(I/O)142Dを備えており、これら各部がバスを介して各々接続されている。
I/O142Dには、処理実行部140における記憶部144と、モニタ146と、スピーカ148と、を含む各機能部が接続されている。また、I/O142Dには、電源装置100と、制御部120の定電流回路122A~122Jと、電圧測定部127A~127Jと、定電流回路124A~124Jと、電圧測定部128A~128Jと、を含む各機能部が接続されている。これらの各機能部は、I/O142Dを介して、CPU142Aと相互に通信可能とされる。
記憶部144としては、例えば、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等が用いられる。記憶部144には、本実施形態に係る原因特定処理を実行するための処理プログラム144Aと、類型毎の異常の原因が定義された原因テーブル144Bが記憶されている。なお、処理プログラム144A及び原因テーブル144Bは、ROM142Bに記憶されていてもよい。
モニタ146は、装置に異常が発生した場合にその原因を画像で作業者に伝達するための表示装置である。また、スピーカ148は、装置に異常が発生した場合にその原因を音声で作業者に伝達するための出力装置である。
図15は、本実施形態に係る処理実行部140の機能的な構成の一例を示すブロック図である。本実施形態に係る処理実行部140は、電源管理部400、電流設定部402、電圧取得部404、原因報知部406として機能する。処理実行部140は、CPU142Aが記憶部144に記憶されている処理プログラム144Aを読み出し、RAM142Cを作業領域として当該処理プログラム144Aを実行することにより、図15に示す各部として機能する。
電源管理部400は、電源装置100の作動状態を管理する機能を有している。本実施形態の電源管理部400は、めっきの種類毎に予め設定された時間、ベルトBと金属Mとの間に電圧を印加させる。例えば銅めっきの場合は30分間、ニッケルめっきの場合は12分間、電源装置100を作動させる。
電流設定部402は、ベルトBから電源装置100に帰還する電流を予め定めた値に制御するべく、定電流回路122、124の設定を行う機能を有している。具体的に、電流設定部402は、定電流回路122A~122J、及び定電流回路124A~124Jの各々の可変抵抗VRを調整する。
電圧取得部404は、電圧測定部127A~127J、及び電圧測定部128A~128Jの各々において測定された電圧Vcを取得する。電源管理部400が電源装置100を作動させる時間(めっきの種類毎に予め設定された時間)に、電圧取得部404が取得した電圧Vcは、RAM142Cに記憶される。例えば、銅めっきの場合は、電圧測定部127A~127J及び電圧測定部128A~128Jの各々において予め定めた間隔(サンプリング周期)で30分間測定された電圧Vcの全てがRAM142Cに記憶される。サンプリング周期が1秒の場合、RAM142Cに記憶される電圧Vcの全てのデータの数は、30(分)×60(秒/分)×1(個/秒)×10(ベルトBの数)=18000個となる。
原因報知部406は、電圧取得部404が取得し、RAM142Cに記憶された電圧Vcのデータに基づいて、原因特定処理を実行する機能を有している。
(電圧Vcとめっき装置の異常との関係)
入力部130(トランジスタTRのコレクタ)とコモン線125との間の電圧Vcとめっき装置10の異常との関係について説明する。
まず、定電流回路122Aを例に、電圧Vcの変化について考察する。まず、定電流回路122Aでは、第一入力部132Aから入力された電源装置100に帰還する電流Iが予め設定した電流値から変化すると、当該変化に応じて電流検出電圧Voが変動し、電流検出電圧Voと電流設定電圧Vsとの間の電圧差が変化する。そうすると、オペアンプOPはトランジスタTRのゲートを調整して電流Iを予め設定した電流値となる定常状態とする。
以上のような、定電流回路122Aの調整作用において、何らかの原因で電流Iが低下した後、定常状態に戻った場合、トランジスタTRではゲートを開いてコレクタ-エミッタ間の電流を流しやすくするため、トランジスタTRの負荷は低減する(抵抗が減る)。この場合、結果として流れる電流Iは元のままであるから電圧Vcは低下する。一方、何らかの原因で電流Iが上昇した後、定常状態に戻った場合、トランジスタTRではゲートを絞ってコレクタ-エミッタ間の電流を流しにくくするため、トランジスタTRの負荷が増加する(抵抗が増える)。この場合、結果として流れる電流Iは元のままであるから電圧Vcは上昇する。
このように、めっき電流である電流Iが定常状態から変化しても定電流回路122、124側で電流Iが一定にされるため、トランジスタTRの負荷が何らかの原因で増減したことは電圧Vcを監視することで把握される。例えば、めっき装置10の回路における接続不良等は負荷が増加する方向に働くため電圧Vcが低下する。また例えば、銅めっき及びニッケルめっきを行う場合、めっき液Lの不足等は負荷が減少する方向に働くため電圧Vcが上昇する。
ここで、めっき装置10における接触不良により電圧Vcが低下する場合について検証する。同検証では、規定トルクで締め付けた固定ボルト54(図5(A)参照)を段階的に緩めた場合に銅めっきを行った際の電圧Vcを測定した。図16は締付け量と電圧Vcとの関係を説明する図である。規定トルクから最小トルク(手で端子50を容易に動かせる状態)に至るまで5段階で緩めている。図中の「緩和1」から「緩和5」に向けて固定ボルト54の締付けトルクが減少する。「緩和5」が最小トルクとなる。
検証の結果、固定ボルト54を規定トルクから一段緩めた段階(緩和1)で、電圧Vcが0.1V低下(0.025Ω分上昇)することが確認され、固定ボルト54を緩める程、電圧Vcが低下することが確認された。
一方、めっき液Lの状態変化に伴い、電圧Vcが上昇する場合について検証する。図17はめっき液Lの状態と電圧Vcとの関係を説明する図である。本実施形態ではベルトBに形成されるめっき層の厚さのばらつきを抑制すべく、循環装置60によりめっき液Lを循環させ、曝気装置80によりめっき液Lに空気Aを供給し、回転ユニット20によりベルトBを回転させているが、本検証では以下の条件を設定した。
(条件1)循環装置60、曝気装置80及び回転ユニット20はいずれも作動
(条件2)循環装置60は停止、曝気装置80及び回転ユニット20は作動
(条件3)回転ユニット20は停止、循環装置60及び曝気装置80は作動
検証の結果、条件2及び条件3は、共に定常状態である条件1と比べて、電圧Vcの上昇率(傾き)が増加している。これは、めっき媒体であるベルトBの周辺の金属イオンがベルトBに吸着されるため、ベルトB周辺の電導度が上がったことによる。
以上、2つの検証の結果を踏まえると、電圧Vcとめっき装置10の異常との関係は図18のとおりとなる。処理実行部140の原因テーブル144Bには、同図に基づいて、異常の原因毎にモニタ146に表示させる画像やスピーカ148に出力させる音声が記憶されている。
(原因特定処理の流れ)
次に、処理実行部140において実行される原因測定装置の流れについて、図19及び図20のフローチャートを用いて説明する。なお、上記検証の結果、電圧Vcの初期値は平均で4.7Vであるため、電圧Vcの初期値を定常状態とした原因特定処理が実行される。
まず、めっき装置10を用いてベルトBのめっき処理を実行する。そうすると、電源管理部400が電源装置100を作動させる時間の間、電圧取得部404が取得した電圧Vcは、その全てが電圧VcのデータとしてRAM142Cに記憶される。
次に、図19のステップS100において、CPU142Aは、RAM142Cに記憶された全ての電圧Vcのデータの中で、電圧Vcの初期値(4.7V)よりも低下したデータがあるか否かの判定を行う。CPU142Aは、電圧Vcの初期値よりも低下した電圧Vcのデータがあると判定した場合、ステップS101に進む。一方、CPU142Aは、電圧Vcの初期値よりも低下した電圧Vcのデータがないと判定した場合、図20のステップS110に進む。
図19のステップS101において、CPU142Aはめっき処理の際の全てのベルトBにおける電圧Vcのデータの平均値が4.6V(電圧Vcの初期値-0.1V)よりも低いか否かの判定を行う。CPU142Aは、全てのベルトBにおける電圧Vcのデータの平均値が4.6Vよりも低いと判定した場合、ステップS102に進む。一方、CPU142Aは、全てのベルトBにおける電圧Vcのデータの平均値が4.6Vよりも低くないと判定した場合、ステップS103に進む。
ステップS102において、CPU142Aは原因テーブル144Bを参照して報知態様Aを選択する。報知態様Aは、めっき槽12側の回路内に腐食及び/又は接触不良(ネジの緩み等)の原因がある旨を報知する態様である。この場合、全てのベルトBに流れる電流が通る箇所の腐食やネジの緩み等の接触不良の可能性が高い。報知態様Aは図18における状態のNo.1及び2に対応する。
ステップS103において、CPU142Aはめっき処理の際の特定のベルトBにおける電圧Vcのデータの平均値が4.6Vよりも低いか否かの判定を行う。換言すると、CPU142Aは、RAM142Cに記憶した電圧Vcのデータに基づいて、個々のベルトB(特定のベルトB)の平均値を計算し、当該平均値が4.6Vよりも低い特定のベルトBが少なくとも1つあるか否かの判定を行う。その結果、CPU142Aは、特定のベルトBにおける電圧Vcのデータの平均値が4.6Vよりも低いと判定した場合、ステップS104に進む。一方、CPU142Aは、特定のベルトBにおける電圧Vcのデータの平均値が4.6Vよりも低くないと判定した場合(全てのベルトBの平均値が4.6V以上と判定した場合)、ステップS105に進む。
ステップS104において、CPU142Aは原因テーブル144Bを参照して報知態様Bを選択する。報知態様Bは、ベルトBを固定する治具側に腐食及び/又は接触不良の原因がある旨を報知する態様である。報知態様Bでは、異常のあるベルトBの位置も合わせて報知される。報知態様Bは図18における状態のNo.3に対応する。ここで、異常のあるベルトBとは、電圧Vcのデータの平均値が4.6Vよりも低い特定のベルトBのことである。
ステップS105において、CPU142Aはめっき処理の際の全てのベルトBにおける電圧Vcのデータの瞬時値が4.6Vよりも低いか否かの判定を行う。換言すると、CPU142Aは、RAM142Cに記憶した電圧VcのデータをベルトBの個々について見たときに、全てのベルトBについて4.6Vよりも低いデータが少なくとも1個あるか否かの判定を行う。その結果、CPU142Aは、全てのベルトBにおける電圧Vcの瞬時値が4.6Vよりも低いと判定した場合(全てのベルトBが少なくとも1個の4.6Vよりも低い電圧Vcのデータを有していると判定した場合)、ステップS106に進む。一方、CPU142Aは、全てのベルトBにおける電圧Vcの瞬時値が4.6Vよりも低くないと判定した場合(全てのベルトBが4.6V以上の電圧Vcのデータを有していると判定した場合)、ステップS107に進む。
ステップS106において、CPU142Aは原因テーブル144Bを参照して報知態様Cを選択する。報知態様Cは、入力部130から出力部136までの回路で腐食及び/又は接触不良の原因がある旨を報知する態様である。報知態様Cは図18における状態のNo.4~7に対応する。そして、CPU142Aは原因特定処理を終了させる。
ステップS107において、CPU142Aはめっき処理の際の特定のベルトBにおける電圧Vcのデータの瞬時値が4.6Vよりも低いか否かの判定を行う。換言すると、CPU142Aは、RAM142Cに記憶した電圧Vcのデータを個々のベルトB(特定のベルトB)について見たときに、4.6Vよりも低いデータが少なくとも1個あるか否かの判定を行う。その結果、CPU142Aは、特定のベルトBにおける電圧Vcの瞬時値が4.6Vよりも低いと判定した場合、ステップS108に進む。一方、CPU142Aは、特定のベルトBにおける電圧Vcの瞬時値が4.6Vよりも低くないと判定した場合、ステップS109に進む。ここで、瞬時値とは、具体的には1個の電圧Vcのデータのことである。
ステップS108において、CPU142Aは原因テーブル144Bを参照して報知態様Dを選択する。報知態様Dは、ベルトBを固定する治具において腐食及び/又は接触不良の原因がある旨を報知する態様である。この治具は、ベルトBを押圧している板バネ部216及び板バネ部226を含むものである。報知態様Dでは、異常のあるベルトBの位置も合わせて報知される。報知態様Dは図18における状態のNo.4~7に対応する。そして、CPU142Aは原因特定処理を終了させる。ここで、異常のあるベルトBとは、電圧Vcのデータの瞬時値が4.6Vよりも低いものが少なくとも1個ある特定のベルトBのことである。
ステップS109において、CPU142Aは報知態様Eを選択する。報知態様Eは、今後、腐食や接触不良に起因する異常が発生する可能性を報知する態様である。そして、CPU142Aは原因特定処理を終了させる。
図20のステップS110において、CPU142Aは電圧Vcのデータが初期値より上昇したか否かの判定を行う。換言すると、CPU142Aは、RAM142Cに記憶した電圧Vcの全てのデータの中で、電圧Vcの初期値(4.7V)よりも高いデータが少なくとも1個あるか否かの判定を行う。その結果、CPU142Aは、電圧Vcが初期値よりも上昇したと判定した場合、ステップS111に進む。一方、CPU142Aは、電圧Vcが初期値よりも上昇していない(RAM142Cに記憶した電圧Vcの全てのデータが電圧Vcの初期値(4.7V)以下である)と判定した場合、原因特定処理を終了させる。
ステップS111において、CPU142Aはめっき処理の際の電圧Vcの変動量が0.02V以上になったか否かの判定を行う。換言すると、CPU142Aは、RAM142Cに記憶した電圧Vcのデータに基づいて、個々のベルトB(特定のベルトB)の予め定められた時間(例えば、150秒間)当たりの電圧Vcの変動量を計算し、当該変動量が0.02V以上の特定のベルトBがあるか否かの判定を行う。その結果、CPU142Aは、電圧Vcの変動量が0.02V以上になったと判定した場合(電圧Vcの変動量が0.02V以上である特定のベルトBが少なくとも1つあると判定した場合)、ステップS112に進む。一方、CPU142Aは、電圧Vcの変動量が0.02V以上ではないと判定した場合(電圧Vcの変動量が0.02V以上である特定のベルトBがないと判定した場合)、ステップS113に進む。
ステップS112において、CPU142Aは原因テーブル144Bを参照して報知態様Fを選択する。報知態様Fは、めっき液Lの循環異常及び/又はベルトBの回転停止の原因がある旨を報知する態様である。報知態様Fでは、異常のあるベルトBの位置も合わせて報知される。報知態様Fは図18における状態のNo.10に対応する。ここで、異常のあるベルトBとは、電圧Vcの変動量が0.02V以上である特定のベルトBのことである。
ステップS113において、CPU142Aはめっき処理の際の電圧Vcの瞬時変動量が0.02V以上になったか否かの判定を行う。換言すると、CPU142Aは、RAM142Cに記憶した電圧Vcのデータに基づいて、個々のベルトB(特定のベルトB)の予め定められた短時間(例えば、5秒間)当たりの電圧Vcの瞬時変動量を計算し、当該瞬時変動量が0.02V以上の特定のベルトBがあるか否かの判定を行う。その結果、CPU142Aは、電圧Vcの瞬時変動量が0.02V以上になったと判定した場合(瞬時変動量が0.02V以上である特定のベルトBが少なくとも1つあると判定した場合)、ステップS114に進む。一方、CPU142Aは、電圧Vcの瞬時変動量が0.02V以上ではないと判定した場合(全ての特定のベルトBについて、電圧Vcの瞬時変動量が0.02Vよりも低いと判定した場合)、ステップS115に進む。
ステップS114において、CPU142Aは原因テーブル144Bを参照して報知態様Gを選択する。報知態様Gは、めっき液Lの金属イオンの濃度の低下に原因がある旨を報知する態様である。報知態様Gは図18における状態のNo.9に対応する。
ステップS115において、CPU142Aはめっき処理の際の電圧Vcの変動量が0.1V以上になったか否かの判定を行う。換言すると、CPU142Aは、RAM142Cに記憶した電圧Vcのデータに基づいて、個々のベルトB(特定のベルトB)の予め定められた時間(例えば、150秒間)当たりの電圧Vcの変動量を計算し、当該変動量が0.1V以上の特定のベルトBがあるか否かの判定を行う。その結果、CPU142Aは、電圧Vcの変動量が0.1V以上になったと判定した場合(電圧Vcの変動量が0.1V以上の特定のベルトBが少なくとも1つある場合)、ステップS116に進む。一方、CPU142Aは、電圧Vcの変動量が0.1V以上ではないと判定した場合(全てのベルトBの電圧Vcの変動量が0.1Vよりも低い場合)、ステップS117に進む。
ステップS116において、CPU142Aは原因テーブル144Bを参照して報知態様Hを選択する。報知態様Hは、電源装置100の設定を誤った旨を報知する態様である。報知態様Hは図18における状態のNo.8に対応する。そして、CPU142Aは原因特定処理を終了させる。
ステップS117において、CPU142Aは報知態様Iを選択する。報知態様Iは、今後、めっき液Lの濃度変化等に起因する異常が発生する可能性を報知する態様である。そして、CPU142Aは原因特定処理を終了させる。
なお、以上の原因特定処理において、複数の報知態様が選択される場合があるが、この場合は、選択された全ての報知態様が作業者に向けて報知される。例えば、全てのベルトBにおける電圧Vcの平均値が4.6Vよりも低く、かつ、特定のベルトBにおける電圧Vcの瞬時値が4.6Vよりも低い場合は、報知態様Aと報知態様Dとが共に報知される。
(まとめ)
本実施形態のめっき装置10では、電源装置100の陰極104と同電圧のコモン線125と、定電流回路122、124の入力部130との間の電圧Vcを測定する電圧測定部127、128を備えている。本実施形態では、各電圧測定部127、128を備えることにより、ベルトB毎の電圧Vcの変化を捉えることができる。
本実施形態では、めっき処理中の電圧Vcとめっき処理の初期に計測した電圧Vcとの差を監視することで、電源回路における機械的な接触不良、腐食、漏電、及びめっき液の濃度変化等の経時変化を見出すことが容易になる。そのため、本実施形態のめっき装置10によれば、電圧Vcが変化するにも係らずめっき処理を行う場合と比べて、めっき装置10におけるめっき不良の原因が特定される。また、めっき処理を行う都度、Vcの変化量を積算することにより、めっき処理を行う度に、積算値の推移を示す工程管理図等を用いて異常傾向を認識することができる。
本実施形態のめっき装置10は、一度に10個(1ロット)のベルトBにめっき処理を行うものである。そのため、ベルトB毎に電圧Vcを計測することにより、ベルトB毎のめっき電流に対する負荷のばらつき、及びベルトB毎の電圧Vc経時変化の監視を行うことが可能になる。なお、RAM142Cに記憶される電圧Vcのデータは、ロット毎にリセット(消去)される。サンプリング周期を長く(例えば10秒)設定する、又はRAM142Cの容量を大容量にした場合は、RAM142Cに記憶される電圧Vcのデータは、ロット毎にリセット(消去)しなくても良い。
また、複数のベルトBに対して同時にめっき処理を施す場合、隣接するベルトB間でめっき電流の相互作用(すなわち、電流の取り合い)が発生し、めっき液Lの撹拌性や、めっき循環の整流性が悪化する。このことは金属イオンの分布が偏る等の原因となる。従来は、トライアルでめっき処理を実施してその膜厚などを計測して原因を調査する場合があった。これに対して本実施形態によれば、めっき処理を行いながらめっき液Lの濃度分布の異常が把握される。
本実施形態のめっき装置10は、電圧Vcの変化が予め定めた程度を超えた場合に報知が行われる報知部としてモニタ146及びスピーカ148を備えている。ここで、「電圧Vcの変化が予め定めた程度を超えた場合」とは、(1)電圧Vcが予め設定された下限閾値を下回った場合、(2)電圧Vcが予め設定された上限閾値を上回った場合、(3)電圧Vcの変化量が予め設定された範囲を超えた場合などが該当する。
本実施形態では、処理実行部140により実行される報知特定処理において、原因テーブル144Bを参照することにより、具体的な原因を作業者に対して知らせることができる。そのため、作業者はめっき装置10に生じた異常を迅速に排除することが可能である。本実施形態のめっき装置10によれば、電圧Vcを測定するだけの場合に比べて、めっき不良が抑制される。
(備考)
なお、処理実行部140のI/O142Dに対して、回転ユニット20の駆動部30に設けられた駆動装置(図示せず)と、循環装置60に設けられたポンプ67と、曝気装置80に対して設けられたコンプレッサ(図示せず)と、が接続されていてもよい。これにより、めっき処理に要する全ての動作を一元的に管理することができる。