JP7288808B2 - 育苗培土の製造方法、育苗培土及び植物の栽培方法 - Google Patents

育苗培土の製造方法、育苗培土及び植物の栽培方法 Download PDF

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Description

本発明は、育苗培土の製造方法、育苗培土及び植物の栽培方法に関する。
近年、農業分野及び園芸分野においては、作業効率の向上を目的として、各種作業の機械化及び自動化が進展しつつある。その中の1つとして、播種、苗の植付け等を自動で行う機械移植がある。機械移植は、育苗して得られた土付苗を移植機によって取り出した後、植付けるという手順により行われる。
機械移植を行う際には、土付苗が崩壊することなく良好な固化状態が保たれていることが望ましい。そのため、培土を固化するための種々の方法が検討されている。培土を固化する際には、良好な固化性に加えて、その材料が農地に残留しない生分解性、乾燥又は保水状態でも土付苗が崩壊しない強度、育苗容器からの離型性、水の浸透性、通気性、良好な作業性等の性能が求められる。
特許文献1には、培土基材に、特定の熱融着性繊維を配合したことを特徴とする育苗用培土を加熱処理して培土中の熱融着性繊維を溶融接着させることを特徴とする苗床の固化方法が開示されている。
特許文献2には、育苗培土基材とアルギン酸塩とを含む育苗培土の製造方法であって、上記育苗培土中の多価カチオン当量(me)が、上記アルギン酸塩のアニオン当量(me)の160%以上となるように、上記育苗培土基材とアルギン酸塩とを混合することを特徴とする育苗培土の製造方法が開示されている。
特開2003-339226号公報 特開2001-333635号公報
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、培土が固化する際に熱融着性繊維を加熱する必要があるため、加熱設備が必要となると共に、使用し得る育苗容器の材質にも制限が生じる。また、融着固化を可能にするほど繊維を培土に添加すると、育苗容器への充填作業中に繊維塊が生じる等、作業性が悪化する場合がある。また、これらの問題により、培土の購入者は事前に育苗容器内で培土を固化させたものを購入する必要性が高くなり、購入者側で固化の時期等を調整できない等、使用方法が制限される問題がある。更には、これらの材料は生分解性が低いため環境適合性に劣るという問題がある。
特許文献2に開示されている方法は、多価カチオンの供給源として、消石灰又は土に含まれる無機物化合物由来の多価カチオンを利用し、これとアルギン酸塩を反応させて固化させるものである。しかしながら、消石灰は多価カチオンの濃度が高く、例えば、育成ポット内で消石灰を配合した育苗培土とアルギン酸塩とを混合すると、培土の表面でのゲル化が速く進行しすぎ、育苗容器の内部にまでアルギン酸塩が浸透できない問題が生じる。また、消石灰又は土に含まれる無機化合物由来の多価カチオンは水に溶解するものであったり、或いはイオン状態で存在するものであるため、培土中における濃度及び分散性をコントロールすることが困難であり、良好な固化状態を容易に得ることができなかった。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立する育苗培土の製造方法、該製造方法で得られる育苗培土、及び該育苗培土を用いる植物の栽培方法を提供することである。
本発明者等は、上記の課題に関して鋭意検討を重ねた結果、特定の工程を含む育苗培土の製造方法によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は下記[1]~[11]に関する。
[1]培土基材(A)が固化剤によって固化された育苗培土の製造方法であって、下記工程1~3を含む、育苗培土の製造方法。
工程1:前記培土基材(A)と、アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液と、を混合して、培土基材混合物を得る工程
工程2:前記培土基材混合物を乾燥して、前記培土基材(A)が前記アルギン酸1価カチオン塩(B)によって固化された育苗培土中間体を得る工程
工程3:前記育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を含浸して、前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の少なくとも一部の1価カチオンを、前記多価カチオン塩(C)が有する多価カチオンとイオン交換させてなる前記固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
[2]前記工程2が、前記培土基材混合物を、水分含有量が20質量%以下になるまで乾燥する工程である、上記[1]に記載の育苗培土の製造方法。
[3]前記工程3が、前記育苗培土中間体を、前記多価カチオン塩(C)の水溶液に浸漬することによって含浸する工程である、上記[1]又は[2]に記載の育苗培土の製造方法。
[4]前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液におけるアルギン酸1価カチオン塩(B)の濃度が、2~5質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[5]前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の配合量が、前記培土基材(A)100質量部に対して、2~5質量部である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[6]前記多価カチオン塩(C)が、カルシウム塩である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[7]前記多価カチオン塩(C)が、塩化カルシウムである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[8]前記多価カチオン塩(C)の水溶液における多価カチオン塩(C)の濃度が、5~10質量%である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法によって製造される育苗培土。
[10]マット状である、上記[9]に記載の育苗培土。
[11]上記[9]又は[10]に記載の育苗培土を用いる植物の栽培方法。
本発明によると、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立する育苗培土の製造方法、該製造方法で得られる育苗培土、及び該育苗培土を用いる植物の栽培方法を提供することができる。
実施例1で得られた培土(乾燥状態)の落下試験後の外観写真である。
以下、本発明の一実施形態について詳述するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
[育苗培土の製造方法]
本実施形態の育苗培土の製造方法は、培土基材(A)が固化剤によって固化された育苗培土の製造方法であって、下記工程1~3を含む製造方法である。
工程1:前記培土基材(A)と、アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液と、を混合して、培土基材混合物を得る工程
工程2:前記培土基材混合物を乾燥して、前記培土基材(A)が前記アルギン酸1価カチオン塩(B)によって固化された育苗培土中間体を得る工程
工程3:前記育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を含浸して、前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の少なくとも一部の1価カチオンを、前記多価カチオン塩(C)が有する多価カチオンとイオン交換させてなる前記固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
以下、本実施形態の製造方法が含む各工程について順に説明する。
<工程1>
工程1は、培土基材(A)と、アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液と、を混合して、培土基材混合物を得る工程である。
本実施形態の製造方法は、培土基材(A)を固化させる固化剤の前駆体としてアルギン酸1価カチオン塩(B)を使用するものである。
アルギン酸1価カチオン塩(B)及びこれから得られる固化剤は生分解性に優れるものであるため、本実施形態の製造方法によって得られる育苗培土は環境適合性に優れたものとなる。
また、アルギン酸1価カチオン塩(B)は水に対する溶解性が高く、均一な溶液が得られる。そのため、本工程において、培土基材(A)とアルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液とを混合することで、アルギン酸1価カチオン塩(B)は、培土基材(A)の全体にムラなく行き渡る。その結果、工程3を経て形成されるアルギン酸1価カチオン塩(B)由来の固化剤も、ムラなく均質に培土基材(A)を固化させるものとなり、本実施形態の製造方法によって得られる育苗培土は、優れた固化強度を有するものとなる。
(培土基材(A))
工程1で使用する培土基材(A)は、育成する植物の種類に応じて、育苗用培土として公知のものを使用することができる。具体的には、赤玉土、鹿沼土、荒木田土、腐葉土、桐生砂等の各種園芸用土;川砂、海砂、浜砂、山砂等の砂類;パーライト、バーミキュライト、ロックウール、ゼオライト、鉱滓等の鉱物;ピートモス、ココピート、水苔、腐葉土、パーク堆肥、モミガラ、亜炭、薫炭、フスマ、炭粉等の有機質資材などが挙げられる。
培土基材(A)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて、無機質肥料、有機質肥料、化学堆肥等の肥料などを配合したものであってもよい。
(アルギン酸1価カチオン塩(B))
アルギン酸1価カチオン塩(B)は特に限定されず、例えば、アルギン酸リチウム塩、アルギン酸ナトリウム塩、アルギン酸カリウム塩等のアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム塩などが挙げられる。これらの中でも、汎用性及び培土の固化性の観点から、アルギン酸アルカリ金属塩が好ましく、アルギン酸ナトリウム塩がより好ましい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液粘度は、固化性、汎用性、水への溶解性の観点から、0.1~200Pa・sが好ましく、0.5~150Pa・sがより好ましく、5~100Pa・sがさらに好ましく、10~50Pa・sが特に好ましい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)のマンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)の比率であるM/G比は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、0.1~10が好ましく、0.4~5がより好ましく、0.5~3がさらに好ましい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)における1価カチオンの含有量は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、アルギン酸塩のモノマー単位(C)1モルに対して、0.5~3モルが好ましく、0.6~2モルがより好ましく、0.8~1.5モルがさらに好ましい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)の配合量は、良好な固化状態を得る観点から、培土基材(A)100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~8質量部がより好ましく、3~7質量部がさらに好ましい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)は水溶液の状態で培土基材(A)と混合されるものである。アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液におけるアルギン酸1価カチオン塩(B)の濃度は、適用する培土基材(A)及び植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.5~10質量%であり、1~8質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。また、上記の濃度を有するアルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液は、培土基材(A)に対するアルギン酸1価カチオン塩(B)の配合量が上記の好適な範囲となるように混合することが好ましい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液は、例えば、所定量のアルギン酸1価カチオン塩(B)をイオン交換水等に投入し、必要に応じて加熱及び撹拌することで調製することができる。
なお、アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲において、アルギン酸1価カチオン塩(B)及び水以外の成分を含んでいてもよい。
アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液は、必ずしも培土基材(A)と混合する前に調製する必要はなく、培土基材(A)とアルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液とを混合されてなる培土基材混合物が得られる方法であれば、各成分の混合順序は限定されない。例えば、培土基材(A)と粉末状のアルギン酸1価カチオン塩(B)とを混合し、該混合物に対して水を添加した後、更に混合することでも、培土基材(A)とアルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液とが混合されてなる培土基材混合物を得てもよい。
培土基材(A)とアルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液とを混合する方法は特に限定されず、例えば、公知のミキサー、捏和機等の機械による撹拌;手作業による撹拌などの方法が挙げられる。
<工程2>
工程2は、前記培土基材混合物を乾燥して、培土基材(A)がアルギン酸1価カチオン塩(B)によって固化された育苗培土中間体を得る工程である。
工程1で得られた培土基材混合物は、主に、培土基材(A)、アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液を含むものである。該培土基材混合物を、本工程で乾燥することにより、水分が除去され、培土基材(A)がアルギン酸1価カチオン塩(B)によって固化された育苗培土中間体が得られる。
本工程で培土基材混合物の乾燥を行うことで、培土基材同士の間隙に存在していた水分が除去され、後述する多価カチオン塩(C)の水溶液が培土基材混合物の内部にまで十分に浸透できるだけの間隙を有する構造が形成される。これによって、本実施形態の製造方法によって得られる育苗培土は、内部まで十分に固化されたものとなる。
工程2の乾燥を行う前に、培土基材混合物を容器に充填することが好ましい。容器内で乾燥して得られた育苗培土中間体は、上記容器内に充填されたまま後述する工程3に供されてもよい。そして、上記容器に充填された状態で形成された育苗培土は、そのままの状態で植物の育苗に使用することもできる。
工程2における乾燥条件は、培土基材混合物に含まれる水分量等に応じて適宜決定すればよく、自然乾燥であってもよいし、加熱乾燥させてもよい。
加熱乾燥させる場合の乾燥温度は、例えば、30~150℃であり、70~120℃が好ましい。また、加熱乾燥させる場合の乾燥時間は、例えば、3~24時間であり、5~12時間が好ましい。
加熱乾燥させる際の乾燥装置としては、特に限定されず、熱風乾燥機、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置等の公知の乾燥装置を用いて行えばよい。これらの乾燥機はバッチ式であっても連続式であってもよい。
なお、乾燥中、培土基材混合物が充填された容器を、適宜上下逆さまにする等して、アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液が均質に行き渡らせることが好ましい。
工程2は、前記培土基材混合物を、水分含有量が40質量%以下になるまで乾燥する工程であることが好ましく、30質量%以下になるまで乾燥する工程であることがより好ましく、20質量%以下になるまで乾燥する工程であることがさらに好ましい。
乾燥によって得られた育苗培土中間体の水分含有量は、未処理の育苗培土中間体と、該育苗培土中間体を、100℃で8時間加熱処理をして得た加熱処理後の育苗培土中間体の質量から、次式によって算出することができる。
育苗培土中間体の水分含有量(%)=〔(未処理の育苗培土中間体の質量)-(加熱処理後の育苗培土中間体の質量)〕×100/未処理の育苗培土中間体の質量
<工程3>
工程3は、前記育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を含浸して、前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の少なくとも一部の1価カチオンを、前記多価カチオン塩(C)が有する多価カチオンとイオン交換させてなる前記固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程である。
工程2で得られた育苗培土中間体は、培土基材(A)がアルギン酸1価カチオン塩(B)によって固化されてなるものである。
本工程では、上記育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を含浸することによって、培土基材(A)を結着させているアルギン酸1価カチオン塩(B)の1価カチオンを、多価カチオン塩(C)の多価カチオンとイオン交換させて固化剤を形成する。該固化剤はアルギン酸由来であることから生分解性に優れる一方で、多価カチオンを起点とした架橋構造を有するため、乾燥状態及び湿潤状態のいずれの状態においても優れた固化性を有するものとなる。
また、本実施形態の製造方法によると、育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を含浸するタイミングは育苗培土の購入者が決定できるため、培土の購入者は用途に応じた柔軟な使用方法が可能である。
(多価カチオン塩(C))
多価カチオン塩(C)を構成する多価カチオンとしては、例えば、カルシウムイオン(Ca2+)、バリウムイオン(Ba2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)等のアルカリ土類金属イオン;銅イオン(Cu2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、鉄イオン(Fe2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)等の2価の金属イオン;鉄イオン(Fe3+)、アルミニウムイオン(Al3+)、セシウムイオン(Ce3+)等の3価の金属イオンなどが挙げられる。
多価カチオン塩(C)としては、例えば、これらの多価カチオンの塩化物、臭化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硝酸塩、水酸化物等の無機塩;アルギン酸塩等の有機塩などが挙げられるが、取り扱い性及び経済性の観点からは、無機塩が好ましい。
これらの多価カチオン塩(C)の中でも、取り扱い性及び経済性の観点から、カルシウム塩が好ましく、塩化カルシウムがより好ましい。
多価カチオン塩(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を含浸する方法としては特に限定されず、例えば、育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を潅注する方法、多価カチオン塩(C)の水溶液に育苗培土中間体を浸漬する方法(以下、「浸漬法」ともいう)等が挙げられる。これらの中でも、良好な固化性が得られるという観点から、多価カチオン塩(C)の水溶液に育苗培土中間体を浸漬する方法が好ましい。
工程3の含浸を浸漬法で行う場合、育苗培土中間体を多価カチオン塩(C)の水溶液に浸漬する時間は特に限定されないが、例えば、3~60分間であり、5~30分間が好ましく、10~20分間がより好ましい。
また、育苗培土中間体を浸漬する多価カチオン塩(C)の水溶液の温度は特に限定されないが、例えば、0~50℃であり、5~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましい。
多価カチオン塩(C)の水溶液における多価カチオン塩(C)の濃度は、1~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、5~10質量%がさらに好ましい。多価カチオン塩(C)の濃度が上記下限値以上であると、アルギン酸1価カチオン塩(B)とのイオン交換速度が十分となり、作業性及び固化性に優れる。また、多価カチオン塩(C)の濃度が上記上限値以下であると、局所的にイオン交換が進むことを抑制し、得られる固化剤の均質性が良好なものとなる。
上記のようにして得られた育苗培土は、必要に応じて任意の加工が施された後、植物の育苗に用いることができる。
本実施形態の育苗培土の製造方法により製造された育苗培土は、野菜、花卉、苗木、稲等の農園芸作物に対して好適である。
<育苗培土の形状>
本実施形態の製造方法で得られる育苗培土の形状は特に限定されず、様々な形状を選択することができる。
育苗培土の形状は、例えば、工程2で使用する容器の形状によって調整してもよく、得られた育苗培土に対して、切り取り等の加工を施して調整してもよい。
工程2で使用する容器の形状によって調整する場合の容器としては、育苗ポット、育苗セル、育苗セルが複数個連なった育苗トレイ等の、公知の植物育成用容器が挙げられる、これらは、通常、底壁及び側壁を有し、底壁の形状が、略円形、略四角形、略六角形等の形状を有するものである。育苗ポット又は育苗セルのサイズは、例えば、開口部穴径が20~60mm、深さが40~65mm、容積は9~165cmである。
本実施形態の製造方法は、均質かつ良好に固化された育苗培土を得ることができるため、育苗マットを製造するのにも適している。
育苗マットの厚さは特に限定されず、育苗する植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.5~5cmであり、1~4cmが好ましく、2~3cmがより好ましい。
育苗マットの上面及び底面の面積は特に限定されず、育苗する植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、300~5,000cmであり、500~4,000cmが好ましく、1,000~2,000cmがより好ましい。
なお、本実施形態の製造方法によって育苗マットを製造する場合、上記した厚さ及び深さを与える育苗容器内で工程2及び工程3を実施することが好ましい。
[植物の栽培方法]
本実施形態の植物の栽培方法は、本実施形態の育苗培土を用いる植物の栽培方法である。
本実施形態の製造方法によって得られる育苗培土は、固化強度及び固化剤の生分解性に優れる。そのため、本実施形態の植物の栽培方法は、機械移植の作業性に優れると共に、環境適合性に優れる方法である。
本実施形態の植物の栽培方法によって栽培される植物は特に限定されず、野菜、花卉、苗木、稲等の農園芸作物が挙げられる。
以下、実施例を示し、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[育苗培土の固化性]
各例で得られた育苗容器内の育苗培土を、育苗容器を反転させて振動を加えて取り出し、その際に培土の崩壊が生じるか否かを目視にて確認した。更に、崩壊しなかったものについて30cmの高さより自然落下させる落下試験を行い、崩壊の有無を目視で確認し、下記基準に基づいて評価した。
なお、育苗培土は、抜き出す72時間前から水を添加せず、湿度50%、温度20℃の環境下に置いて乾燥させた状態(乾燥状態)と、抜き出す24時間前に水を添加し、湿度50%、温度20℃の環境下に置いた湿潤状態と、両方の状態で試験を行った。
A:落下試験したときに崩壊しなかった。
C:取り出したときに崩壊しなかったが、落下試験で崩壊した。
E:取り出したときに崩壊が生じた。
[アルギン酸ナトリウム塩水溶液の製造]
製造例1
アルギン酸ナトリウム塩(キミカ株式会社製、商品名:アルギテックスH)30gをイオン交換水1,000gに投入後、撹拌して溶解させ、アルギン酸ナトリウム塩水溶液(濃度:3質量%)を得た。
[育苗培土の製造]
実施例1
培土基材(ココピート)100質量部と、製造例1で調製したアルギン酸ナトリウム塩水溶液200質量部と、をミキサーの容器に投入後、撹拌混合して培土基材混合物を得た。
上記で得られた培土基材混合物3,000gを、育苗容器(底部面積:1,600cm、深さ:3cm)に充填した。
次に、育苗容器内に充填された状態のまま培土基材混合物を、80℃で8時間乾燥させて、培土基材がアルギン酸ナトリウム塩によって固化された育苗培土中間体を得た。なお、乾燥中、2時間毎に育苗容器に蓋を設置した上で、上下逆さまにしてアルギン酸ナトリウム塩が培土基材全体に行き渡るようにした。
得られた育苗培土中間体の水分含有量は20質量%であった。
続いて、育苗培土中間体を、濃度10質量%の塩化カルシウム水溶液に、25℃で10分間浸漬することで、アルギン酸ナトリウム塩を塩化カルシウムでイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で培土基材が固化された育苗培土を得た。実施例1で得た育苗培土の落下試験後の外観写真(乾燥状態)を図1に示す。
比較例1
実施例1で得られた育苗培土中間体をそのまま育苗培土として評価に供した。
比較例2
培土基材100質量部と、塩化カルシウム10質量部と、をミキサーの容器に投入後、撹拌混合したものを、実施例1と同じサイズの育苗容器に投入し、製造例1で調製したアルギン酸ナトリウム塩水溶液を潅注して育苗培土を得た。
比較例3
実施例1と同様にして得た培土基材混合物を、実施例1と同じサイズの育苗容器に投入し、乾燥させることなく、濃度10質量%の塩化カルシウム水溶液に、室温(25℃)で10分間浸漬して育苗培土を得た。
各例で得られた育苗培土に対して行った固化性の評価結果を表1に示す。
Figure 0007288808000001
表1から、本実施形態の製造方法によって得られた実施例1の育苗培土は、乾燥状態及び湿潤状態において優れた固化性を有していることが分かる。
一方、多価カチオン塩(C)を使用しなかった比較例1の育苗培土は、乾燥状態では良好な固化性を有していたものの、湿潤状態では容易に崩壊した。
また、塩化カルシウムを事前に培土基材と混合した比較例2の育苗培土、及び培土基材混合物の乾燥を経ずにアルギン酸ナトリウム塩水溶液を潅注した比較例3の育苗培土は、いずれも乾燥状態及び湿潤状態において十分な固化性を有していなかった。
比較例2の育苗培土が十分な固化強度を有していなかった原因としては、比較例2の育苗培土は、培土基材に直接塩化カルシウムを配合しているため、アルギン酸ナトリウム塩水溶液を潅注した際に表面で急激に固化が生じ、この表面の固化膜によって塩化カルシウム水溶液が内部まで浸透しなかったためであると予想される。
比較例3の育苗培土が十分な固化強度を有していなかった原因としては、比較例3の育苗培土は、培土基材混合物の乾燥を経ずにアルギン酸ナトリウム塩水溶液を潅注したため、培土基材混合物の表面に残存する水分が培土基材同士の間隙を塞ぎ、塩化カルシウム水溶液が内部まで浸透せず、表面のみで固化が生じたためであると予想される。

Claims (10)

  1. 培土基材(A)が固化剤によって固化された育苗培土の製造方法であって、下記工程1~3を含む、育苗培土の製造方法。
    工程1:前記培土基材(A)と、アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液と、を混合して、培土基材混合物を得る工程
    工程2:前記培土基材混合物を乾燥して、前記培土基材(A)が前記アルギン酸1価カチオン塩(B)によって固化された育苗培土中間体を得る工程
    工程3:前記育苗培土中間体に多価カチオン塩(C)の水溶液を含浸して、前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の少なくとも一部の1価カチオンを、前記多価カチオン塩(C)が有する多価カチオンとイオン交換させてなる前記固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
  2. 前記工程2が、前記培土基材混合物を、水分含有量が40質量%以下になるまで乾燥する工程である、請求項1に記載の育苗培土の製造方法。
  3. 前記工程3が、前記育苗培土中間体を、前記多価カチオン塩(C)の水溶液に浸漬することによって含浸する工程である、請求項1又は2に記載の育苗培土の製造方法。
  4. 前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の水溶液におけるアルギン酸1価カチオン塩(B)の濃度が、0.5~10質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
  5. 前記アルギン酸1価カチオン塩(B)の配合量が、前記培土基材(A)100質量部に対して、0.5~10質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
  6. 前記多価カチオン塩(C)が、カルシウム塩である、請求項1~5のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
  7. 前記多価カチオン塩(C)が、塩化カルシウムである、請求項1~6のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
  8. 前記多価カチオン塩(C)の水溶液における多価カチオン塩(C)の濃度が、1~20質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
  9. 前記培土基材(A)が固化剤によって固化された育苗培土がマット状である、請求項1~8のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法
  10. 請求項1~9のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法によって製造した育苗培土を用いる植物の栽培方法。
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