以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1実施形態〉
図2は、第1実施形態に係る応力測定装置を例示する図である。図2に示すように、応力測定装置1は、レーザ光源10と、偏光部材20と、偏光位相差可変部材30と、光供給部材40と、光変換部材50と、撮像素子60と、演算部70と、光波長選択部材80とを有する。
200は、被測定体となる強化ガラスである。強化ガラス200は、例えば、化学強化法や風冷強化法等により強化処理が施されたガラスである。
レーザ光源10は、光供給部材40から強化ガラス200の表面層にレーザ光Lを入射するように配置されており、レーザ光源10と光供給部材40との間に、偏光位相差可変部材30が挿入されている。
レーザ光源10としては、例えば、半導体レーザ、ヘリウムネオンレーザ、アルゴンレーザを用いることができる。半導体レーザは通常偏光があり、405nm、520nm、630nm等の波長の半導体レーザが実用化されている。レーザ光の波長が短いほどビーム径を絞れ、空間分解能を高くできる。
強化ガラス200の深さ方向の分解能を上げるためには、レーザ光の最小ビーム径の位置が強化ガラス200のイオン交換層内にあり、最小ビーム径が20μm以下であることが好ましい。レーザ光の最小ビーム径の位置を、強化ガラス200の表面210とすると、更に好ましい。なお、レーザ光のビーム径が深さ方向の分解能となるため、必要な深さ方向の分解能以下のビーム径にする必要がある。ここで、ビーム径とはビーム中央の輝度が最大になる時の1/e2(約13.5%)の幅を意味し、ビーム形状が楕円形状やシート状の場合、ビーム径は最小幅を意味する。但し、この場合は、ビーム径の最小幅がガラス深さ方向を向いている必要がある。
偏光部材20は、必要に応じて、レーザ光源10と偏光位相差可変部材30との間に挿入される。具体的には、レーザ光源10の出射するレーザ光Lが偏光でない場合、レーザ光源10と偏光位相差可変部材30との間に偏光部材20が挿入される。レーザ光源10の出射するレーザ光Lが偏光である場合、偏光部材20は挿入されても、挿入されなくてもよい。又、レーザ光Lの偏光面が強化ガラス200の表面210に対して45°になるよう、レーザ光源10、及び、偏光部材20が設置される。偏光部材20としては、例えば、回転可能な状態で配置された偏光板等を用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。
光供給部材40は、被測定体である強化ガラス200の表面210に光学的に接触した状態で載置されている。光供給部材40は、レーザ光源10からの光を強化ガラス200に入射させる機能を備えている。光供給部材40としては、例えば、光学ガラス製のプリズムを用いることができる。この場合、強化ガラス200の表面210において、光線がプリズムを介して光学的に入射するために、プリズムの屈折率は強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ(±0.2以内)にする必要がある。
光供給部材40と強化ガラス200との間に、強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ屈折率を持つ液体を挟んでもよい。これにより、強化ガラス200内に、効率よくレーザ光Lを入射できる。
強化ガラス200を通過するレーザ光Lは、微量の散乱光LSを発生する。散乱光LSの輝度は、レーザ光Lの散乱する部分の偏光位相差で変化する。又、レーザ光Lの偏光方向が、強化ガラス200の表面210に対して図3のθs2が45°(±5°以内)になるように、レーザ光源10が設置されている。そのため、強化ガラス200の面内方向にかかる応力の光弾性効果により複屈折を起こし、レーザ光Lが強化ガラス中を進むにつれ、偏光位相差も変化し、その変化に伴い散乱光LSの輝度も変化する。なお、偏光位相差とは、複屈折により生じる位相差(retardation)である。
又、レーザ光Lは、強化ガラスの表面210に対して、θs1は10°以上30°以下に設定される。これは10°を下回ると、光導波効果によりレーザ光がガラス表面を伝播し、ガラス内部の情報を取ることができなくなるからである。逆に30°を超えると、レーザ光路長に対するガラス内部の深さ分解能が下がり、測定方法として好ましくない。よって、好ましくはθs1=15°±5°に設定する。
次に、撮像素子60について、図3を用いて説明する。図3は、第1実施形態に係る応力測定装置を図2のH方向から見た図であり、撮像素子60の位置関係を示す図である。レーザ光Lの偏光が強化ガラス200の表面210に対して45°の角度で入射するため、散乱光LSも強化ガラス200の表面210に対して45°角度で放射される。そのため、この強化ガラスの面に対して45°で放射される散乱光LSを捉えるために、撮像素子60が、図3において、強化ガラス200の表面210に対して45°の方向に設置されている。すなわち、図3において、θs2=45°である。
又、撮像素子60と、レーザ光Lの間に、偏光位相差を可変されたレーザ光Lが強化ガラス200に入射されたことにより発する散乱光を撮像素子60に結像する光変換部材50が挿入されている。光変換部材50としては、例えば、ガラス製の凸レンズや、複数の凸レンズや凹レンズを組み合わせたレンズを用いることができる。
又、複数のレンズを組み合わせたレンズについて、主光線が光軸に平行であるテレセントリックレンズにすることにより、レーザ光Lより四方に散乱する散乱光中、主に強化ガラス200のガラス表面に対して45°方向(撮像素子方向)に散乱する光のみで結像することができ、ガラス表面の乱反射等の不必要な光を低減する効果がある。
レーザ散乱画像の解像度を決める要因は、光変換部材50のレンズ倍率及び撮像素子60の画素サイズで決まる解像度と、光変換部材50の光学的な回折限界で決まる解像度があり、トータルの解像度自体は、その両方の悪い方で決まる。一方、非特許文献2によると、スペックルパターンのサイズは結像する光変換部材50の光学的な解像度で決まる。光変換部材50の光学的な解像度と、光変換部材50のレンズ倍率及び撮像素子60の画素サイズで決まる解像度を適切な条件とすることにより、スペックルノイズを低減できる。
非特許文献2からスペックルサイズεは、レーザ光の波長λ、光変換部材50の開口率NAとすると、下記の式1により表わせる。
又、光変換部材50の倍率Mとすると、撮像素子60上でのスペックルサイズε
isは、下記の式2により表わせる。
ここで、撮像素子60の1画素の画素サイズdとすると、このスペックルサイズε
isを解像するには、下記の式3を満たす必要がある。
逆に、下記の式4を満たせば、スペックルを解像しなくなり、スペックルノイズを効果的に低減できることになる。
よって、光変換部材50のNAを、下記の式5を満たすように設定することにより、スペックルノイズの測定への影響が少なくなり、安定に精度良く、応力分布測定が可能となる。
例えば、一般的な画素ピッチである撮像素子(ソニー社製IMX252)では、画素サイズは3.45μmである。例えば、光変換部材50として倍率2倍のレンズを使い、レーザ光源波長を520nmとすると、式(5)のNAは0.151となる。つまり、NA>0.151で、かつ倍率2倍のレンズを使えばスペックルの影響が小さくなり、高精度な測定が可能となる。又、この時の強化ガラス中の深さ方向の分解能は1.2μmとなり、十分な分解能を得ている。
一方、レーザ光Lと撮像素子60との間に、少なくともレーザ光の波長+100nm以上と、-100nm以下の波長の光を50%以上、好ましくは90%透過させない光波長選択部材80を挿入してもよい。光波長選択部材80を挿入することにより、レーザ光Lより発生した蛍光光や外来光を除去し、散乱光LSだけを撮像素子60に集めることができる。光波長選択部材80としては、例えば、誘電体膜を多層にしたバンドパスフィルタや、ショートパスフィルタを用いることができる。
撮像素子60としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)素子やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ素子を用いることができる。図2及び図3には図示していないが、CCD素子やCMOSセンサ素子は、その素子を制御し、素子から画像の電気信号を取出す制御回路、電気信号をデジタル画像データにするデジタル画像データ生成回路、デジタル画像データを複数枚記録するデジタル記録装置に接続されている。更に、デジタル画像データ生成回路、デジタル記録装置は、演算部70に接続されている。
演算部70は、撮像素子60、或いは、上記撮像素子60に接続された、デジタル画像データ生成回路、デジタル記録装置から画像データを取り込み、画像処理や数値計算をする機能を備えている。演算部70は、これ以外の機能(例えば、レーザ光源10の光量や露光時間を制御する機能等)を有する構成としてもよい。演算部70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メインメモリ等を含むように構成できる。
この場合、演算部70の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。演算部70のCPUは、必要に応じてRAMからデータを読み出したり、格納したりできる。但し、演算部70の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、演算部70は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。演算部70としては、例えば、パーソナルコンピュータを用いることができる。又、演算部70にデジタル画像データ生成回路、デジタル記録装置の機能を持たせても良い。
偏光位相差可変部材30は、強化ガラス200へ入射するときの偏光位相差を時間的に変化させる。変化させる偏光位相差は、レーザ光の波長λの1倍以上であることが好ましいが、1倍未満であってもよい。変化させる偏光位相差をレーザ光の波長λの1倍以上とすることで、応力測定の精度をより向上できる。以降では、変化させる偏光位相差をレーザ光の波長λの1倍以上とする場合の例について説明する。
偏光位相差は、レーザ光Lの波面に対して均一でなければいけない。例えば、水晶楔は、楔の傾斜面のついた方向には偏光位相差が均一でないためレーザ光の波面は均一でない。そのため、偏光位相差可変部材30として水晶楔を用いることは好ましくない。
レーザ光の波面に均一で偏光位相差を電気的に1λ以上可変できる偏光位相差可変部材30としては、例えば、液晶素子を挙げることができる。液晶素子は、素子に印加する電圧により偏光位相差を可変することができ、例えば、レーザ光の波長が630nmである場合、3~6波長の可変が可能である。液晶素子において、印加する電圧で可変できる偏光位相差の最大値は、セルギャップの寸法で決まる。
通常の液晶素子は、セルギャップが数μmであるため、最大の偏光位相差は1/2λ(数100nm)程度である。又、液晶を使ったディスプレイ等では、それ以上の変化は要求されない。これに対して、本実施形態で使用する液晶素子は、レーザ光の波長が例えば630nmである場合、630nmの約3倍の約2000nmの偏光位相差を可変する必要があり、20~50μmのセルギャップが必要となる。
液晶素子に印加する電圧と偏光位相差は比例しない。一例として、セルギャップが30μmの液晶素子の印加電圧と偏光位相差との関係を図4に示す。図4において、縦軸は偏光位相差(波長630nmに対しての波長数)、横軸は液晶素子に印加する電圧(対数で描かれている)である。
液晶素子に印加する電圧が0Vから10Vで、約8λ(5000nm)の偏光位相差を可変できる。しかし、液晶素子は、一般的に0Vから1Vまでの低電圧では液晶の配向が安定せず、温度変化等で偏光位相差が変動する。又、液晶素子に印加する電圧が5V以上では、電圧の変化に対して偏光位相差の変化が少ない。この液晶素子の場合、1.5Vから5Vの印加電圧で使用することで、4λ~1λ、すなわち約3λの偏光位相差を安定に可変できる。
偏光位相差可変部材30として液晶素子を用いる場合、偏光位相差可変部材30は液晶を制御する液晶制御回路に接続され、撮像素子60と同期して制御される。この際、偏光位相差を時間的に直線的に可変させ、撮像素子60の撮像のタイミングに同期することが必要である。
図4は、液晶素子の印加電圧と偏光位相差との関係を例示する図である。図4で示すように、液晶素子の印加電圧と偏光位相差は直線的な変化をしない。そのため、偏光位相差がある時間内で直線的に変化するような信号を発生させ、液晶素子への駆動電圧として印加する必要がある。
図5は、液晶素子に偏光位相差が時間的に直線的に変化するような駆動電圧を発生させる回路を例示する図である。
図5において、デジタルデータ記憶回路301には、使用する液晶素子の印加電圧と偏光位相差とを予め測定したデータに基づいて、偏光位相差を一定間隔で変化させるための、偏光位相差に対応する電圧値が、必要な偏光位相差変化の範囲でデジタルデータとしてアドレス順に記録されている。表1に、デジタルデータ記憶回路301に記録されるデジタルデータの一部を例示する。表1の電圧の列が、記録されるデジタルデータであり、偏光位相差10nmの変化毎の電圧値である。
クロック信号発生回路302は、水晶振動子等を使い、周波数が一定であるクロック信号を発生させる。クロック信号発生回路302の発生したクロック信号は、デジタルデータ記憶回路301とDAコンバータ303に入力される。
DAコンバータ303は、デジタルデータ記憶回路301からのデジタルデータをアナログ信号に変換する回路である。クロック信号発生回路302の発生したクロック信号に従って、デジタルデータ記憶回路301から順次記憶された電圧値のデジタルデータが読み出され、DAコンバータ303へ送られる。
DAコンバータ303では、一定時間間隔で読み出された電圧値のデジタルデータをアナログ電圧に変換する。DAコンバータ303から出力されるアナログ電圧は、電圧増幅回路304を通して、偏光位相差可変部材30として用いる液晶素子へ印加される。
なお、図5では図示していないが、この液晶素子の駆動回路は、図3の撮像素子60を制御する回路と同期がとられ、液晶素子への駆動電圧の印加の開始とともに、撮像素子60で時間的に連続な撮像を開始する。
図6は、撮像素子に結像されたレーザ光Lのある瞬間の散乱光像を例示する図である。図6では、上に行くほど強化ガラス200の表面210からの深さが深くなる。図6において、点Aは強化ガラス200の表面210であり、強化ガラス200の表面210の散乱光が強いため、散乱光像は楕円状に広がっている。
強化ガラス200の表面部には強い圧縮応力がかかっているため、光弾性効果による複屈折により、レーザ光Lの偏光位相差が深さとともに変化する。そのため、レーザ光Lの散乱光輝度も深さとともに変化する。なお、レーザ光の散乱光輝度が、強化ガラスの内部応力により変化する原理については、例えば、Yogyo-Kyokai-Shi(窯業協会誌)80{4}1972、等に説明されている。
偏光位相差可変部材30により、強化ガラス200に入射する前のレーザ光Lの偏光位相差を時間的に連続して変化させることができる。これにより、図6の散乱光像の各点において、偏光位相差可変部材30で変化させた偏光位相差に応じて散乱光輝度が変化する。
図7は、図6の点Bと点Cでの散乱光の輝度(散乱光輝度)の時間的な変化を例示する図である。散乱光輝度の時間的な変化は、偏光位相差可変部材30の変化させた偏光位相差に応じ、レーザ光の波長λの周期で、周期的に変化する。例えば、図7において、点Bと点Cでは、散乱光輝度の変化の周期は同じであるが、位相が異なっている。これは、レーザ光Lが点Bから点Cへ進むときに、強化ガラス200中の応力による複屈折で更に偏光位相差が変化したためである。点Bと点Cとの位相差δは、点Bから点Cへレーザ光Lが進んだときに変化した偏光位相差を行路差で表現したものをq、レーザ光の波長をλとすると、δ=q/λとなる。
局所的に考えると、レーザ光L上の任意の点Sでの、偏光位相差可変部材30の時間的な偏光位相差の変化に伴う、周期的な散乱光輝度の変化の位相Fを、レーザ光Lに沿った位置sで表した関数F(s)に対して、sに対する微分値dF/dsが強化ガラス200の面内応力により発生した複屈折量である。強化ガラス200の光弾性定数Cと、dF/dsから、下記の式6により、点Sでの強化ガラス200の面内方向の応力σを計算できる。
一方、偏光位相差可変部材30は、ある時間内に時間的に連続に偏光位相差を1波長以上変化させる。その時間内に、撮像素子60により、複数枚の時間的に連続したレーザ光Lによる散乱光像を記録する。そして、この連続撮影をした散乱光像の各点における時間的な輝度の変化を測定する。
この散乱光像の各点の散乱光の変化は周期的であり、その周期は場所によらず一定である。そこで、その周期Tをある点の散乱光輝度の変化から測定する。或いは、複数の点での周期の平均を周期Tとしてもよい。
偏光位相差可変部材30では偏光位相差を1波長以上(1周期以上)変化させるため、散乱光輝度も1周期以上変化する。そのため、複数のピークやバレーの差、或いは、振幅の中点を通る時刻の差等から周期Tの測定が可能である。
なお、1周期以下でのデータでは1周期を知ることが原理的に不可能である。1周期以下でのデータを用いる場合には、偏光位相差可変部材30は、例えば図4に示すように電圧と偏光位相差の関係より駆動信号を発生させるが、この駆動信号より1周期を予測できる。但し、液晶等の偏光位相差可変部材の特性は温度等で変化し、正確に予測することが難しく、予測する1周期の精度は低い。
ある点での散乱光の周期的な変化のデータにおいて、上記で決めた周期Tを基に、三角関数の最小二乗法やフーリエ積分により、その点での位相Fを正確に求めることができる。
予め既知である周期Tでの三角関数の最小二乗法やフーリエ積分では、既知である周期Tでの位相成分だけが抽出され、他の周期のノイズを除去可能である。又、その除去能力は、データの時間的変化が長ければ長いほど高くなる。通常、散乱光輝度は弱く、又、実際に変化する位相量も小さいため、数λの偏光位相差の可変によるデータでの測定が必要となる。
撮像素子60により撮影した画像上のレーザ光Lに沿った散乱光像の各点での散乱光の時間的変化のデータを測定し、それぞれについて、上記と同様の方法で位相Fを求めると、レーザ光Lに沿った、散乱光輝度の位相Fを求めることができる。図8は、ガラス深さに応じた散乱光変化の位相の例である。
このレーザ光Lに沿った散乱光輝度の位相Fにおいて、レーザ光L上の座標での微分値を計算し、式6により、レーザ光L上の座標sでの応力値を求めることができる。更に、座標sをガラス表面からの距離に換算すれば、強化ガラスの表面からの深さに対する応力値を算出できる。図9は、図8の散乱光変化の位相データを基に、式6より応力分布を求めた例である。
図10は、異なる時刻t1、t2の実際の散乱光像の例であり、図10の点Aは強化ガラスの表面であり、強化ガラスの表面の荒れにより、表面散乱光が映っている。この表面散乱光像の中心が強化ガラスの表面に相当する。
図10において、レーザ光の散乱光像が各点で輝度が異なっていることがわかり、又、同じ点であっても、時刻t2での輝度分布は、時刻t1での輝度分布と同じでないことが分かる。これは、周期的な散乱光輝度変化の位相がずれているためである。
応力測定装置1において、レーザ光Lの入射面は、強化ガラス200の表面210に対して45°傾いた状態とすることが好ましい。これについて、図11及び図12を参照しながら説明する。
図11は、強化ガラス中のレーザ光Lの入射面の好ましくない設計例を示す図である。図11では、強化ガラス200中のレーザ光Lの入射面250が強化ガラスの表面210に対して垂直である。
図11(b)は図11(a)の方向Hから見た図である。図11(b)に示すように、撮像素子60は、強化ガラス200の表面210に対して45°傾けて設置されており、レーザ光Lを斜め45°から観察する。図11の場合、レーザ光L上の異なる2点、点A、点Bから撮像素子60までの距離を距離A、距離Bとすると、その距離が異なる。すなわち、点Aと点Bとで同時にピントを合わせることができず、必要な領域のレーザ光Lの散乱光像を良好な画像として取得することができない。
図12は、強化ガラス中のレーザ光Lの入射面の好ましい設計例を示す図である。図12では、強化ガラス200中のレーザ光Lの入射面250が強化ガラス200の表面210に対して45°傾いている。
図12(b)は図12(a)の方向Hから見た図である。図12(b)に示すように、撮像素子60は、強化ガラス200の表面210に対して45°傾けて設置されているが、レーザ光Lの通る面である入射面250も同様に45°傾いている。そのため、レーザ光L上のどの点においても撮像素子60までの距離(距離Aと距離B)が同じとなり、必要な領域のレーザ光Lの散乱光像を、良好な画像として取得できる。
特に、本実施形態ではレンズのNAを大きくするため、それに伴い、焦点深度が浅く、せいぜい数10μm程度であるため、強化ガラス200中のレーザ光Lの入射面250を強化ガラス200の表面210に対して45°傾け、レーザ光L上のどの点においても撮像素子60までの距離を同じにすることは、良好な画像を取得する上で極めて重要である。
(測定のフロー)
次に、図13及び図14を参照しながら測定のフローについて説明する。図13は、応力測定装置1の測定方法を例示するフローチャートである。図14は、応力測定装置1の演算部70の機能ブロックを例示する図である。
まず、ステップS401では、偏光のあるレーザ光源10、或いは偏光をかけたレーザ光源10からのレーザ光の偏光位相差を、偏光位相差可変部材30により、時間的に連続してレーザ光の波長に対して1波長以上可変する(偏光位相差可変工程)。
次に、ステップS402では、偏光位相差が可変されたレーザ光を、光供給部材40を介して、被測定体である強化ガラス200内に表面210に対して斜めに入射させる(光供給工程)。
次に、ステップS403では、偏光位相差を可変されたレーザ光が強化ガラス200に入射されたことにより発する散乱光を光変換部材50で結像し、光変換部材50に結像された散乱光を、撮像素子60を用いて所定の時間間隔で複数回撮像し、複数の画像を取得する(撮像工程)。
次に、ステップS404では、演算部70の輝度変化測定手段701は、撮像工程で得られた散乱光の時間的に間隔を置いた複数の画像を用いて、偏光位相差可変工程により可変された偏光位相差の時間的変化に伴う散乱光の周期的な輝度変化を測定する(輝度変化測定工程)。
次に、ステップS405では、演算部70の位相変化算出手段702は、強化ガラス200中に入射されたレーザ光に沿った、散乱光の周期的な輝度変化の位相変化を算出する(位相変化算出工程)。
次に、ステップS406では、演算部70の応力分布算出手段703は、強化ガラス200中に入射されたレーザ光に沿った、散乱光の周期的な輝度変化の位相変化に基づいて、強化ガラス200の表面210からの深さ方向の応力分布を算出する(応力分布算出工程)。なお、算出した応力分布を、表示装置(液晶ディスプレイ等)に表示させてもよい。
このように、応力測定装置1では、表面の導波光を利用した応力測定装置とは異なり、強化ガラスの屈折率分布に依存した応力測定を行わず、散乱光に基づいた測定を行う。そのため、強化ガラスの屈折率分布にかかわらず(強化ガラスの屈折率分布とは無関係に)、強化ガラスの応力分布を、強化ガラスの最表面から従来よりも深い部分まで測定可能となる。例えば、ある深さから、深さとともに屈折率が高くなる特徴を持つリチウム・アルミノシリケート系の強化ガラス等についても、応力測定が可能である。
又、レーザ光の偏光位相差を、偏光位相差可変部材30により、時間的に連続してレーザ光の波長に対して1波長以上可変する。そのため、散乱光の周期的な輝度変化の位相を、三角関数の最小二乗法や、フーリエ積分により求めることが可能となる。三角関数の最小二乗法やフーリエ積分では、従来のように波のピークやバレーの位置の変化により位相を検知する方法とは異なり、波の全データが扱われ、又、予め分かっている周期に基づいているため、他の周期のノイズを除去可能である。その結果、散乱光の周期的な輝度変化の位相を容易かつ正確に求めることが可能となる。
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、第1実施形態と基本構成は同じであるが、レーザ光の断面形状を特定の形状にすることで、測定される応力分布の精度及び安定性を向上可能な応力測定装置の例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図15は、第2実施形態に係る応力測定装置を例示する図であり、第1実施形態を説明する図2と同様に、図16のレーザ光の断面形状と位置関係を説明する図の断面位置を示している。図16は、図15のA方向から見たX-X方向の断面図で、光供給部材40と強化ガラス200の界面を拡大し、応力測定部分のレーザ光の断面形状と位置関係を説明する図である。
図16に示すように、強化ガラス200の中のレーザ光Lbの断面形状は、細長状であることが好ましい。ここで、細長状とは、短手方向の長さと長手方向の長さとの比率が1:3以上である形状を指し、例えば、短径と長径との比率が1:3以上の楕円形や、短辺と長辺との比率が1:3以上の四角形等が含まれる。
強化ガラス200の中のレーザ光Lbの断面形状は、短手方向の長さと長手方向の長さとの比率が1:4~1:10であることが特に好ましい。短手方向の長さと長手方向の長さとの比率が大きい方がスペックルによるバラつきを減らす効果は大きくなるが、長手方向を長くするとレーザ光のビーム断面積が大きくなるとともに、レーザ光のパワー密度が下がり撮像素子からの信号のS/Nが低くなるためである。
又、強化ガラス200の中のレーザ光Lbの断面形状の長手方向は、撮像素子60の撮像面と光学的に水平である。ここで、光学的に平行とは、撮像素子60とレーザの散乱位置の光軸がミラー等で曲げられて幾何学的に平行でなくとも、光軸に対して垂直すなわち、光学的に平行であれば良い。
強化ガラス200内のレーザ光Lbの形状は、撮像素子60から見て、奥行き方向は深さの解像度に影響するため、薄くなければならない。しかし、強化ガラス200内のレーザ光Lbの形状は、撮像素子60から見て、幅方向は長くなっても、直接、深さの分解能を落とすわけではない。すなわち、撮像素子60の画像の横方向の輝度を平均化することで、同じ深さでの散乱光強度を平均することになる。そのため、表面から深さ方向の輝度変化のデータが同じ深さ方向で平均化され、スペックルによるバラツキを減らすことが可能となり、安定で、精度高く散乱強度変化を測定することができ、更に、安定で、精度高く応力分布を測定できる。
図17は、従来及び本実施形態のレーザ光の断面の場合の散乱光画像を例示する図である。図17(a)は、従来の例であり、レーザ光の焦点を結ぶ強化ガラス中の応力を測定する部分におけるレーザ光の断面形状が直径10μmの円形であるレーザ光源を用いた場合の散乱光画像である。図17(a)では、散乱光画像もビーム径10μmと同じ太さで撮影されている。
一方、図17(b)は、本実施形態の一例を示すものであり、レーザ光の焦点を結ぶ強化ガラス中の応力を測定する部分におけるレーザ光の断面形状が長径:短径=50μm:10μmであるレーザ光源を用い、長径方向が撮像素子60の撮像面と平行になるように、設置されている場合の散乱光画像である。
図17(b)は、レーザ光の断面の幅が、図17(a)に示す従来の例よりも5倍の50μmの場合の散乱画像である。しかし、画像上に散乱光画像が幅広で写っていても、深さの解像度に係るのは奥行き方向で、その方向は10μmと薄く、深さ方向の分解能を維持している。
一方、図17(b)において、画像上の幅方向、例えばY-Y方向は同じ深さでの強化ガラス中の散乱画像位置である。Y-Y方向に輝度を平均化することで、スペックルによるデータのバラつきや、ガラス中の不均一性によるデータのバラツキを同じ深さで平均化することができ、高精度で、再現性のよい測定が可能となる。
図18は、強化ガラスの応力分布測定をする深さの領域で、楕円状のビーム形状を得るためのレーザ光源の例である。図18(a)は上面から見た図、図18(b)は側面から見た図、図18(c)はスリットの形状(拡大図)、図18(d)はレーザ光の断面形状(拡大図)を示している。
図18(a)及び図18(b)に示すレーザ光源10は、レーザ101とビームエクスパンダー102と、スリット103と、集光レンズ104とを有している。レーザ光源10において、レーザ101より放射されたレーザ光は、ビームエクスパンダー102で所定の大きさの円形で平行なビームになる。ビームエクスパンダー102に代えて、コリメータレンズ等のビームエクスパンダー102と同等の機能を発揮できる光学部品を用いてもよい。ビームエクスパンダー102の出力側では、例えば、φ1=8mmの円形のビームとなる。
仮に、図18(a)及び図18(b)において集光レンズ104の前にスリット103を配置しなければ、ビームエクスパンダー102の出力側の円形のビームは集光レンズ104により絞られ、開口率NAと波長により式7から求まる半径rの円形となる。例えば、図18(a)及び図18(b)において、集光レンズ104の焦点距離fを100mmとすると、NAは4/100であり、λを0.52μmとすると、集光レンズ104の焦点位置でのビームの断面形状は直径φ8μmの円形となる。
しかし、本実施形態では、図18(a)及び図18(b)に示すように、集光レンズ104の前に、図18(c)に示す所定の縦横比率を有するスリット103を配置し、スリット103を通過したレーザ光を集光レンズ104で絞っている。図18(c)において、例えば、幅W
1は6mmであり、幅W
2は1.2mmである。なお、図18(a)及び図18(b)では、スリット103は、長手方向(W
1の方向)が水平になるように配置されている。
スリット103を6mm×1.2mmとすることで、図18(a)ではスリット103により一旦ビームが6mm幅に制限され、その後集光レンズ104で絞られる。例えば、焦点距離fを100mmとすると、NAは3/100であり、λを0.52μmとすると、集光レンズ104の焦点位置でのビーム幅aは10μmとなる。
一方、図18(b)ではスリット103により一旦ビームが1.2mm幅に制限され、その後集光レンズ104で絞られる。例えば、焦点距離fを100mmとすると、NAは0.6/100であり、λを0.52μmとすると、集光レンズ104の焦点位置でのビーム幅bは50μmとなる。
すなわち、図18(d)に示すように、集光レンズ104の焦点位置でのビーム形状は、a×b=10μ×50μmの楕円状となる。ここで、スリット103の幅の広い方向が絞られたビームの狭い方となり、スリット103の幅の狭い方向が絞られたビームの広い方となる。
レーザ光源10を図18(a)及び図18(b)の構成とすることで、楕円状のビーム形状を生成できる。これを、第1実施形態の図2のレーザ光源10として装着することで、本実施形態に係る応力分布測定装置を得ることができる。
〈第3実施形態〉
第3実施形態では、第1実施形態と基本構成は同じであるが、2波長のレーザ光を混合させ、スペックルを低減することで、測定される応力分布の精度及び安定性を向上可能な応力測定装置の例を示す。なお、第3実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図19は、第3実施形態に係る応力測定装置を例示する図である。図19に示すように、応力測定装置2は、レーザ光源10が第1レーザ光源10A及び第2レーザ光源10Bに置換され、ハーフミラー90が追加された点が応力測定装置1(図2等参照)と相違する。
図19に示す応力測定装置2では、第1レーザ光源10Aから出射されたレーザ光は、そのレーザ光と45°の角度で設定してあるハーフミラー90を通って直進する。一方、第2レーザ光源10Bは、ハーフミラー90で反射された後のレーザ光が第1レーザ光源10Aから出射されたレーザ光と平行になるように設置されている。その結果、第1レーザ光源10Aから出射されたレーザ光と第2レーザ光源10Bから出射されたレーザ光は、ハーフミラー90を通ることで混合され、偏光部材20へ入射される。
第1レーザ光源10Aと第2レーザ光源10Bは、互いに波長の異なるレーザ光を出射する。第1レーザ光源10Aから出射されるレーザ光の波長と第2レーザ光源10Bから出射されるレーザ光の波長は、波長が5nm以上50nm以下離れていることが好ましく、5nm以上20nm以下離れていることがより好ましい。波長が5nm以上10nm以下離れている場合、測定精度を維持し、スペックル低減効果が得られる点で特に好ましい。第1レーザ光源10Aと第2レーザ光源10Bの各々の波長は、例えば、515nmと525nmである。第1レーザ光源10Aから出射されるレーザ光の出力と第2レーザ光源10Bから出射されるレーザ光の出力は、ほぼ同じであり、又、偏光方向も同じである。
例えば、第1レーザ光源10A及び第2レーザ光源10Bが半導体レーザ素子であれば、このような若干波長が異なる素子を作製可能である。この波長の異なる2つのレーザ光は、同時に強化ガラス200の内部に入射され、第1実施形態と同様に、強化ガラス200内のレーザ光の散乱光から、応力分布を測定できる。
通常レーザ光は単波長であることから、可干渉性が高くスペックルを発生させる。本実施形態では、若干波長の異なるレーザ光が混ざっているために、スペックルは発生しにくく、スペックルによるノイズを低減することができ、精度が高く、再現性の良い応力分布測定が可能となる。但し、あまり波長差が大きいと、図6及び図7を使って説明した位相差の測定の精度が落ちるため、波長差は2波長の平均値に対して±5%の範囲内にすることが好ましい。
〈第4実施形態〉
第4実施形態では、第1~第3実施形態の何れかの応力測定装置の近傍に、異なる手法の応力測定装置を設置し、1枚の強化ガラスについて同時に異なる2つの手法により異なる2つの深さ領域の応力分布を測定し合成することで、一度に表面から深い部分までの応力分布を測定する例を示す。なお、第4実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図20は、第4実施形態に係る応力測定装置を例示する図である。図20に示すように、応力測定装置3は、応力測定部3Aと応力測定部3Bとを有している。応力測定部3Aは、第1~第3実施形態で示した何れかの応力測定装置と同様の構成にできる。
応力測定部3Bは、強化ガラスの表面及び、表面付近の深さ領域の応力を測定するための応力測定装置であり、例えば、非特許文献1等で説明されている。図20に示すように、応力測定部3Bは、光源15と、光供給部材25と、光取出し部材35と、光変換部材45と、偏光部材55と、撮像素子65と、演算部75とを有する。そして、応力測定部3Aの光供給部材40と応力測定部3Bの光供給部材25及び光取出し部材35は、強化ガラス200の大きさの範囲内に収められている。これにより、応力測定部3Aと応力測定部3Bで異なる領域の応力分布を同時に測定可能となる。
応力測定部3Bにおいて、光源15は、光供給部材25から強化ガラス200の表面層に光線Laを入射するように配置されている。干渉を利用するため、光源15の波長は、単純な明暗表示になる単波長であることが好ましい。
光源15としては、例えば、容易に単波長の光が得られるNaランプを用いることができ、この場合の波長は589.3nmである。又、光源15として、Naランプより短波長である水銀ランプを用いてもよく、この場合の波長は、例えば水銀I線である365nmである。但し、水銀ランプは多くの輝線があるので、365nmラインだけを透過させるバンドパスフィルタを通して使用することが好ましい。
又、光源15としてLED(Light Emitting Diode)を用いてもよい。近年、多くの波長のLEDが開発されているが、LEDのスペクトル幅は半値幅で10nm以上あり、単波長性が悪く、温度により波長が変化する。そのため、バンドパスフィルタを通して使用することが好ましい。
光源15をLEDにバンドパスフィルタを通した構成にした場合、Naランプや水銀ランプほど単波長性はないが、紫外域から赤外域まで任意の波長を使うことができる点で好適である。なお、光源15の波長は、応力測定部3Bの測定の基本原理には影響しないため、上に例示した波長以外の光源を用いても構わない。
但し、光源15として紫外線を照射する光源を用いることで、測定の分解能を向上できる。すなわち、応力測定部3Bで測定する強化ガラス200の表面層は数μm~数十μm程度の厚さの場合であるため、光源15として紫外線を照射する光源を用いることにより適度な本数の干渉縞が得られ、分解能が向上する。一方、光源15として紫外線よりも長波長の光を照射する光源を用いると、干渉縞の本数が減るため分解能が低下する。
光供給部材25及び光取出し部材35は、被測定体である強化ガラス200の表面210に光学的に接触した状態で載置されている。光供給部材25は、強化ガラス200の圧縮応力層を有する表面層内に、光源15からの光を入射させる機能を備えている。光取出し部材35は、強化ガラス200の表面層内を伝播した光を、強化ガラス200の外へ出射させる機能を備えている。
光供給部材25及び光取出し部材35としては、例えば、光学ガラス製のプリズムを用いることができる。この場合、強化ガラス200の表面210において、光線がこれらプリズムを介して光学的に入射及び出射するために、これらプリズムの屈折率は強化ガラス200の屈折率よりも大きくする必要がある。又、各プリズムの傾斜面において、入射光及び出射光が略垂直に通過するような屈折率を選ぶ必要がある。
例えば、プリズムの傾斜角が60°で、強化ガラス200の屈折率が1.52の場合は、プリズムの屈折率は1.72とすることができる。なお、光供給部材25及び光取出し部材35として、プリズムに代えて、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。又、光供給部材25及び光取出し部材35を一体構造としてもよい。又、安定に光学的な接触をさせるために、光供給部材25及び光取出し部材35と強化ガラス200の間に、光供給部材25及び光取出し部材35の屈折率と強化ガラス200の屈折率の間の値となる屈折率の液体(ゲル状でもよい)を充填することもある。
光取出し部材35から出射された光の方向には撮像素子65が配置されており、光取出し部材35と撮像素子65との間に、光変換部材45と偏光部材55が挿入されている。
光変換部材45は、光取出し部材35を介して出射した光に含まれる、強化ガラス200と光取出し部材35との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、二種の輝線列、或いは、強化ガラス200と光供給部材25の屈折率差により臨界角で生じる二種の境界線、に変換して撮像素子65上に集光する機能を備えている。光変換部材45としては、例えば、凸レンズを用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。
偏光部材55は、強化ガラス200と光取出し部材35との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分のうち一方を選択的に透過する機能を備えている光分離手段である。偏光部材55としては、例えば、回転可能な状態で配置された偏光板等を用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。ここで、強化ガラス200と光取出し部材35との境界面に対して平行に振動する光成分はS偏光であり、垂直に振動する光成分はP偏光である。
なお、強化ガラス200と光取出し部材35との境界面は、光取出し部材35を介して強化ガラス200の外に出射した光の出射面と垂直である。そこで、光取出し部材35を介して強化ガラス200の外に出射した光の出射面に対して垂直に振動する光成分はS偏光であり、平行に振動する光成分はP偏光であると言い換えてもよい。
撮像素子65は、光取出し部材35から出射され、光変換部材45及び偏光部材55を経由して受光した光を電気信号に変換する機能を備えている。撮像素子65としては、例えば、撮像素子60と同様の素子を用いることができる。
演算部75は、撮像素子65から画像データを取り込み、画像処理や数値計算をする機能を備えている。演算部75は、これ以外の機能(例えば、光源15の光量や露光時間を制御する機能等)を有する構成としてもよい。演算部75は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メインメモリ等を含むように構成できる。
この場合、演算部75の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。演算部75のCPUは、必要に応じてRAMからデータを読み出したり、格納したりできる。但し、演算部75の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、演算部75は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。演算部75としては、例えば、パーソナルコンピュータを用いることができる。なお、応力測定部3Bの演算部75は、応力測定部3Aの演算部70と共用することもできる。
応力測定部3Bでは、光源15から光供給部材25を通して強化ガラス200の表面層に入射した光線Laは表面層内を伝播する。そして、光線Laが表面層内を伝播すると、光導波効果によりモードが発生し、幾つかの決まった経路を進んで光取出し部材35により、強化ガラス200の外へ取出される。
そして、光変換部材45及び偏光部材55により、撮像素子65上に、モード毎にP偏光及びS偏光の輝線となって結像される。撮像素子65上に発生したモードの数のP偏光及びS偏光の輝線の画像データは、演算部75へと送られる。演算部75では、撮像素子65から送られた画像データから、撮像素子65上のP偏光及びS偏光の輝線の位置を算出する。
このような構成により、応力測定部3Bでは、P偏光及びS偏光の輝線の位置に基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向の、P偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布を算出できる。又、算出したP偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布の差と、強化ガラス200の光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向の応力分布を算出できる。
このように、応力測定部3Bは、強化ガラスの表面層の導波光を利用して応力分布を測定可能な評価装置である。ここで、ガラス表面の導波光は、強化ガラス200の屈折率が表面から深くなるほど低くなる層で発生する。深くなるにつれ、屈折率が高くなる層では導波光は発生しない。例えば、リチウム・アルミノシリケート系ガラスにおいて、ガラスの最表面付近のみ、屈折率が深くなるにつれ低くなるが、ある深さから、深さとともに屈折率が高くなる。このような強化ガラスの場合、屈折率が深くなるにつれ低くなる最表面層だけに導波光が発生し、その部分すなわち、屈折率分布が反転する深さまでは応力分布が測定できる。
一方、第1実施形態1の図10に示した散乱光の画像で、図10中の点Aはガラス表面であり、表面散乱光が強く周囲に広がっている。この広がった表面散乱光は、表面点の情報を反映している。表面点Aでは、正しい情報であるが、例えば、表面点Aから少しガラスの深い部分でのレーザ光Lの散乱光は、本来のその点でのガラスの応力を反映した散乱光に表面点Aでの応力を反映した散乱光が混じっている状態であり、表面散乱光が重なっている部分については、正しく応力を測定することが困難である。
この表面散乱光が重なる部分の深さはガラスの質や、ガラスの表面状態で異なるが、通常10μm程度である。強化ガラスの強化層深さが深く、最表面付近、例えば、深さ数10μm程度の表面領域において、応力の深さ方向の変化が緩やかな、表面応力値が低い、或いは、強化層が深い強化ガラスでは、正確に測定されない深さ10μm以内でも、それより深い部分の応力の分布をガラス表面へ外挿しても正確な応力を推定できる。
しかし、強化ガラス200の応力分布が、最表面近傍、例えば、強化ガラス200の表面と深さ10μmの間で急に応力が高くなるような強化ガラスにおいては、外挿による最表面付近の応力値の推定値に大きな誤差が生じる。特に、最表面の応力値は誤差が大きい。しかし、この表面散乱光が邪魔をする領域以外では、絶対値として、正確に応力分布を測定可能である。
最表面の応力値、或いは最表面付近の応力分布を応力測定部3Bで測定した応力値、或いは応力分布と、応力測定部3Aで測定した応力分布のうち、表面散乱光で邪魔をされない最表面から十分深い部分の応力分布を合わせることにより、全体の応力分布を精度よく測定できる。
応力測定部3Aの十分信頼がおける深さ領域と応力測定部3Bの測定が可能な深さ領域が不連続の場合には、強化ガラスにおいて、理論的に予想される応力分布関数を使い、最小二乗法で、近似計算をすることにより、不連続な領域の応力も正確に推定可能である。
更に、応力測定部3Aの光供給部材40と応力測定部3Bの光供給部材25及び光取出し部材35は、強化ガラス200の大きさの範囲内に収められている。これにより、応力測定部3Aと応力測定部3Bで異なる領域の応力分布を同時に測定し、合成した結果を得ることができる。
図21は、応力測定部3A及び3Bで測定した応力分布を同じグラフに示した図である。より具体的には、表面から深さ10μm付近に応力の傾きが急に変化する領域を有するような、2段階で化学強化された応力分布を持つ強化ガラスを、応力測定部3Bで測定した最表面付近の応力分布(領域A)と、応力測定部3Aで測定した十分信頼がおける領域での応力分布(領域C)とを同じグラフに示している。
図21の例では、中間に、応力測定部3Aでも応力測定部3Bでも測定されない領域Bが存在する。領域A及びCの応力分布に基づいて、領域Bにおいて予想される応力分布の関数を最小二乗法で求めた曲線を点線で示す。この場合、屈曲点が含まれる領域の実データがなくとも、最小二乗法で求められた曲線から、屈曲点位置も推定可能である。
応力測定部3Bの撮像素子65で得られる縞画像は、通常2本以上の輝線列と、強化ガラス200と光供給部材25との屈折率差により臨界角で生じる境界線(以降、単に境界線とする)とを含む。例えば、後述の図25(a)や図25(b)が撮像素子で得られる縞画像の例である。例えば、図25(a)では、6本の輝線列と境界線(矢印bで示した部分)が得られている。
しかし、強化ガラス200の強化の条件や強化ガラス200の組成により、応力測定部3Bの縞(輝線)が1本しか観察できない場合や、全く観察できない場合(この場合、境界線のみが観察できる)がある。この場合、応力測定部3Bでは、応力分布を測定することができない。
P偏光、S偏光での1本の縞の位置は、ほぼ強化ガラス200の表面の応力値を示している。以降、1本の縞の位置から得られた応力値を表面近傍応力値と称する。応力測定部3Bで1本の縞の位置を測定して表面近傍応力値を取得し、応力測定部3Aで測定した応力分布と合成し、全体の応力分布を得ることができる。
又、縞(輝線)が1本も発生しない場合は、境界線の位置が強化ガラス200の表面の応力値を示している。以降、境界線の位置から得られた応力値を表面応力値と称する。応力測定部3Bで境界線の位置を測定して表面応力値を取得し、応力測定部3Aで測定した応力分布と合成し、全体の応力分布を得ることができる。
1本の縞の位置や境界線の位置を用いた測定、すなわち輝線列が得られなかった場合の測定では、強化ガラス200の表面付近の応力の深さ方向の勾配が分からないため、合成の精度が落ちるが、強化ガラス200の表面からが強化ガラス200の中央までの応力の積分値が0となることを利用して、強化ガラス200の表面付近の応力の深さ方向の勾配を推測し、合成の精度を維持できる。
(測定のフロー)
次に、図22及び図23を参照しながら測定のフローについて説明する。図22は、応力測定部3Bの測定方法を例示するフローチャートである。図23は、応力測定部3Bの演算部75の機能ブロックを例示する図である。
まず、ステップS407では、強化ガラス200の表面層内に光源15からの光を入射させる(光供給工程)。次に、ステップS408では、強化ガラス200の表面層内を伝播した光を強化ガラス200の外へ出射させる(光取出工程)。
次に、ステップS409では、光変換部材45及び偏光部材55は、光取出し部材35を介して出射した光に含まれる、強化ガラス200と光取出し部材35との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、二種の輝線列、二種の輝線、及び/又は二種の境界線に変換する(光変換工程)。なお、P偏光とS偏光で境界線の位置も異なるため、二種の境界線に変換する。
次に、ステップS410では、撮像素子65は、光変換工程により変換された二種の輝線列、二種の輝線、及び/又は二種の境界線を撮像する(撮像工程)。次に、ステップS411では、演算部75の位置測定手段751は、撮像工程で得られた画像から二種の輝線列、二種の輝線、又は二種の境界線の位置を測定する(位置測定工程)。
次に、ステップS412では、演算部75の応力分布等算出手段752は、二種の輝線列が得られた場合には、二種の輝線列の夫々の輝線の位置から、二種の光成分に対応した強化ガラス200の表面から深さ方向にわたる屈折率分布を算出する。そして、二種の光成分の屈折率分布の差とガラスの光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面から深さ方向にわたる応力分布を算出する(応力分布等算出工程)。
すなわち、応力分布等算出手段752は、位置測定手段751の測定結果に基づいて算出した二種の光成分に対応した強化ガラス200の表面から深さ方向にわたる第1の領域の応力分布を測定する。
但し、応力分布等算出手段752は、二種の輝線列が得られずに二種の輝線(P偏光、S偏光での1本の縞)のみが得られた場合には、二種の輝線の夫々の位置から、二種の光成分に対応した強化ガラス200の表面近傍応力値を算出する。又、応力分布等算出手段752は、輝線が1本も得られない場合には、二種の境界線の位置から、二種の光成分に対応した強化ガラス200の表面応力値を算出する。
次に、ステップS413では、演算部75の合成手段753は、ステップS412で算出した応力分布(第1の領域の応力分布)と、応力測定部3Aの演算部70の応力分布算出手段703が位相変化に基づいて算出した応力分布(第1の領域以外の応力分布)とを合成する。
但し、ステップS412で第1の領域の応力分布が得られずに表面近傍応力値が得られた場合には、合成手段753は表面近傍応力値と第1の領域以外の応力分布とを合成する。又、ステップS412で第1の領域の応力分布が得られずに表面応力値が得られた場合には、合成手段753は表面応力値と第1の領域以外の応力分布とを合成する。
なお、第1の領域の応力分布、表面近傍応力値、又は表面応力値と、第1の領域以外の応力分布とは、同時に測定できる。
〈第5実施形態〉
第5実施形態では、第4実施形態の応力測定装置の応力測定部3Bにおいて、光源が2つの異なる波長の光を切り替えて出射する機能を備え、それぞれの波長の光源での縞画像を撮影し、その2つの縞画像より、より精度良く応力を測定することを可能として応力測定装置の例を示す。なお、第5実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図24は、第5実施形態に係る応力測定装置の応力測定部を例示する図である。第4実施形態の応力測定装置3において、図20に示す応力測定部3Bに代えて、図24に示す応力測定部3Cを用いてもよい。図24に示す応力測定部3Cは、光源15が第1光源15A及び第2光源15Bに置換され、ハーフミラー95が追加された点が応力測定部3B(図20参照)と相違する。
図24に示す応力測定部3Cでは、第1光源15Aから出射された光は、その光と45°の角度で設定してあるハーフミラー95を通って直進する。一方、第2光源15Bは、ハーフミラー95で反射された後の光が第1光源15Aから出射された光と平行になるように設置されている。
第1光源15Aと第2光源15Bは、互いに波長の異なる光を出射する。第1光源15Aと第2光源15Bの波長は、例えば、365nmと596nmである。第1光源15Aと第2光源15Bは電気的に切り替え可能に構成されており、何れか一方のみが出射され、同時に出射されることはない。そのため、第1光源15Aと第2光源15Bから出射される各々の波長の光で、別々に縞画像(輝線)を撮影できる。
図25は、同じ強化ガラスを異なる波長の光源で測定した縞画像の一例であり、図25(a)は波長365nmの光源、図25(b)は波長596nmの光源の場合の縞画像である。
光供給部材25や強化ガラス200の屈折率は波長により異なるため、光学的な位置関係を変更しないで光源の波長を変えると、図25(a)と図25(b)の写真で左右位置がずれる。図25の波長365nmと波長596nmの縞画像は、光学的な位置関係を変え、同じ位置に来るようにして、撮影した場合を図示している。
図25に示すように、波長が異なると同じ強化ガラスでも、縞の間隔、位置が異なる。縞の位置が短い波長ほど、浅い位置に発生し、間隔も短くなる。この2つの波長が整数倍でなければ、長い波長のある次数と次の次数との間に、短い波長の縞が発生する。そのため、縞本数が増え、より精度良く応力分布を測定できる。縞が2本以上の場合、それぞれの波長での応力分布を測定し、2つの波長で測定した応力分布を平均することで、より精度の高い応力分布を測定可能となる。
又、従来は、縞が1本の場合は、この縞から算出された応力値を表面の応力として扱う場合があったが、縞が1本の場合、その縞は次数1の干渉での縞で、真の表面ではなく、数μmの深さの応力値となる。本実施形態では、異なる波長で実質2本の縞を得ることができ、真の表面の応力を測定できる。
但し、波長が異なると縞の発生する位置も異なり、2つの異なる波長の縞位置から直接応力値や応力分布を算出できない。例えば、特許文献2及び非特許文献1によると、モード1とモード2に対応する輝線の位置から、外挿でガラスの最表面での応力を求めるが、この最表面に外挿した位置がモード0に相当する。逆にモード0は縞が現れないので、モード1とモード2に対応する輝線から、表面に相当するモード0の仮想の輝線の位置を求め、表面の応力を測定する。
本実施形態では、縞が1本しか発生しない場合では、異なる2つの波長の縞の位置から、例えば、短い波長の縞の次数を長い波長の縞の次数に換算し、2つの縞位置から応力、応力分布を算出できる。例えば、2つの波長が365nmと596nmの場合、365nmでの次数1の縞は、596nmでは、次数が1×365/596=0.61とみなすことができ、次数0.61と次数1の2本の縞として、応力値、応力分布を計算できる。
測定のフローは第4実施形態と概ね同様であるが、以下の点が相違する。すなわち、本実施形態において、ステップS409では、光変換部材45及び偏光部材55は、光取出し部材35を介して出射した光に含まれる、強化ガラス200と光取出し部材35との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、2つの異なる波長の光による、二種の輝線列、二種の輝線、及び/又は二種の境界線に変換する(光変換工程)。
そして、ステップS410では、撮像素子65は、光変換工程により変換された2つの異なる波長の光による、二種の輝線列、二種の輝線、及び/又は二種の境界線を撮像する。そして、ステップS411では、演算部75の位置測定手段751は、撮像工程で得られた画像から2つの異なる波長の光による、二種の輝線列の位置、二種の輝線の位置、又は二種の境界線の位置を測定する。
そして、ステップS412では、演算部75の応力分布等算出手段752は、2つの異なる波長の光による、第1の領域の応力分布、表面近傍応力値、又は表面応力値の算出を行う。そして、ステップS413では、演算部75の合成手段753は、2つの異なる波長の光による、第1の領域の応力分布、表面近傍応力値、又は表面応力値と、第1の領域以外の応力分布と、を合成する。
〈第6実施形態〉
第6実施形態では、第1~第5実施形態の何れかの応力測定装置において、測定をする光源の波長の強化ガラスの屈折率を使って光弾性定数を推定する機能を追加する例を示す。なお、第6実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
第6実施形態に係る応力測定装置は、ガラスの光弾性効果を利用して応力を測定する方法を使用しているため、測定をする強化ガラスの光弾性定数が必要である。この光弾性定数は、波長により異なるため、第6実施形態に係る応力測定装置で使用する光源の波長に合わせた光弾性定数が必要である。
そのために、光弾性測定装置も応力測定装置の波長と同じ波長で測定できなければならない。しかし、市販されている光弾性測定装置は、通常Naランプの589.3nm或いはHeNeガスレーザの633nmの何れかであり、通常、応力を測定する強化ガラスの光弾性定数は1波長のみの値しか測定されていない。
本実施形態では、測定すべき強化ガラスの予め測定された一つの波長の光弾性定数と屈折率を元に、本実施形態で使用する光源の波長と、本実施形態で測定される屈折率から、その波長での光弾性定数を推定し、応力測定を行う。又、第1実施形態等のレーザ散乱光を利用した応力測定装置だけでなく、第4実施形態の応力測定部3Bや第5実施形態の応力測定部3Cの導波光を利用した応力測定装置にも適用可能である。
(屈折率の測定)
本実施形態に係る応力測定装置は、光源の入射角度、光供給部材(例えば、プリズム)、光変換部材(例えば、レンズ)、撮像素子が固定されていれば、撮像素子に結像されるレーザ散乱画像の角度は、強化ガラスの屈折率で一意に決定される。すなわち、撮像素子に写るレーザ散乱画像の角度を測定することで、強化ガラスのその波長での屈折率を求めることができる。又、第4実施形態の応力測定部3Bや第5実施形態の応力測定部3Cにおいても、強化ガラス中の導波光を光取り出し部材からの取出した光の角度を測定することで、強化ガラスの屈折率を算出できる。
(光弾性定数の推定方法)
光弾性効果は応力による複屈折を生じる現象であるため、光弾性定数はそのガラスの屈折率に深く関与する。又、屈折率は波長により変化するが、光弾性定数も同様に波長により変化し、変化のしかたも屈折率と同様な振る舞いをすると考えられる。
屈折率の波長依存性は、一般的にセルマイヤーの式8で表すことができる。式8において、nは屈折率、λは波長、A及びλrはガラスにより決まる定数である。
光弾性定数の波長による依存性も同様と仮定し、セルマイヤーの式はn
2-1が波長λの関数になっていることから、2つの波長λ
1、λ
2の屈折率n
1、n
2、光弾性定数C
1、C
2とすると、C
1とC
2との関係は式9で表わせる。
例えば、予め589nmで測定された屈折率をn
589、光弾性定数をC
589とし、任意の波長λでの屈折率をnとすると、光弾性定数Cは式10で表わせる。
つまり、光源の波長の屈折率が分かれば、光弾性定数も推測が可能である。本実施形態に係る応力測定装置で使用する光源波長は350~900nmであり、中心の589nmの屈折率に対して、350~900nmでの屈折率の変化は、通常のガラスでは大きくて±10%程度である。そのため、式10による、波長の違いによる基準の波長の光弾性定数に対して、補正される量の誤差が±30%あったとしても、光弾性定数の推定値の精度は±3%程度となり、実質的な精度は得られる。
このように、第1~第3実施形態に係る応力測定装置で使用するレーザ光の波長、及び/又は第4及び第5実施形態に係る応力測定装置で使用する光の波長での屈折率を各々の応力測定装置自身で測定する。そして、各々の応力測定装置自身で測定した屈折率と、予め他の屈折率測定装置及び光弾性定数測定装置で測定された任意の一つの波長の屈折率及び光弾性定数と、に基づいて、各々の応力測定装置で用いるレーザ光の波長での光弾性定数、及び/又は各々の応力測定装置で用いる光の波長での光弾性定数を推定できる。更に、各々の応力測定装置において、推定された光弾性定数を用いて、応力分布を測定できる。
なお、光弾性定数を推定する機能、及び推定された光弾性定数を用いて応力分布を測定する機能は、演算部70や演算部75に持たせることができる。又、応力測定装置自身による屈折率の測定は、応力分布や応力値の測定と同時に行うことが可能である。
以上、好ましい実施形態について詳説したが、上述した実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上記の各実施形態に係る応力測定装置において、光源を構成要素として説明したが、上記の各実施形態に係る応力測定装置は光源を有していない構成としてもよい。光源は、上記の各実施形態に係る応力測定装置の使用者が適宜なものを用意して使用できる。