以下、車両用通信装置の実施形態の一例について、図を用いて説明する。図1は、本開示に係る車両用通信装置を用いて構成されている車両用通信システムの概略的な構成の一例を示す図である。図1に示すように車両用通信システムは、車両Hvに搭載された車載システム1と、当該車両Hvのユーザによって携帯される通信端末である携帯端末2と、を備えている。車載システム1は、通信ECU11と車載通信機12とを備える。車載通信機12が車両用通信装置に相当する。
<全体の概要>
本実施形態の車載通信機12及び携帯端末2はそれぞれ、通信距離を10メートル程度に設定可能な所定の近距離無線通信規格に準拠した通信(以降、近距離通信とする)を実施可能に構成されている。ここでの近距離無線通信規格としては、例えばBluetooth Low Energy(Bluetoothは登録商標)や、Wi-Fi(登録商標)、ZigBee(登録商標)等を採用することができる。近距離無線通信規格は、例えば、数メートル~数10メートル程度の通信距離を提供可能なものであればよい。携帯端末2と車載通信機12との通信規格としては、見通し内における通信距離が5m以上(例えば10m)となる通信規格であることが好ましい。本実施形態の車載通信機12と携帯端末2とは一例としてBluetooth Low Energy規格に準拠して無線通信を実施するように構成されている。
携帯端末2は、車載通信機12と対応付けられてあって、例えば車両Hvの電子キーとして機能する装置である。携帯端末2は、上述の近距離通信機能を備えた、ユーザが携帯可能な装置であればよい。例えばスマートフォンを携帯端末2として用いることができる。もちろん、携帯端末2は、タブレット端末、ウェアラブルデバイス、携帯用音楽プレーヤ、携帯用ゲーム機等であってもよい。携帯端末2が近距離通信として送信する信号には、送信元情報が含まれている。送信元情報は、例えば携帯端末2に割り当てられた固有の識別情報(以降、端末IDとする)である。端末IDは他の通信端末と携帯端末2とを識別するための情報として機能する。
携帯端末2は、ユーザ操作に基づいて、車載通信機12と鍵交換プロトコルが実行(いわゆるペアリング)されている。ペアリングによって取得した車載システム1についての情報(以降、接続先情報)は、携帯端末2が備える不揮発性のメモリに保存されている。接続先情報とは、例えば、ペアリングによって交換した通信接続用の鍵や、端末IDなどである。交換した鍵の保存はボンディングとも称される。
携帯端末2は、送信元情報を含む通信パケットを所定の送信間隔で無線送信することで、近距離通信機能を備えた周囲の通信端末に対して、自分自身の存在を通知する(すなわちアドバタイズする)。以降では便宜上、アドバタイズを目的として定期的に送信される通信パケットのことをアドバタイズパケットと称する。
車載通信機12は、携帯端末2から送信されてくる信号(例えばアドバタイズパケット)を受信することで、携帯端末2が車載通信機12と近距離通信可能な範囲内に存在することを検出する。以降では、車載通信機12が携帯端末2と相互に近距離通信が可能な範囲のことを通信エリアとも記載する。
なお、本実施形態では一例として携帯端末2から逐次送信されるアドバタイズパケットを受信することで、車載通信機12は通信エリア内に携帯端末2が存在することを検出するように構成されているものとするが、これに限らない。他の態様として、車載通信機12がアドバタイズパケットを逐次送信し、携帯端末2との通信接続(いわゆるコネクション)が確立したことに基づいて、通信エリア内に携帯端末2が存在することを検出するように構成されていてもよい。
<車両Hvの構成について>
まずは、車両Hvの構成について図2を用いて説明する。車両Hvは例えば乗車定員人数が5人の乗用車である。ここでは一例として車両Hvは、前部座席と後部座席とを備えるとともに、左側に運転席(換言すればハンドル)が設けられている。なお、車両Hvは右側に運転席が設けられている車両であってもよい。また、後部座席を備えない車両をであってもよい。車両Hvは、トラックなどの貨物自動車などであってもよい。また、車両Hvはタクシーや、キャンピングカーであってもよい。その他、車両Hvは、車両貸出サービスに供される車両(いわゆるレンタカー)であってもよいし、カーシェアリングサービスに供される車両(いわゆるシェアカー)であってもよい。シェアカーには、個人所有の車両をこの車両の管理者が使用していない時間帯に他者に貸し出すサービスに用いられる車両も含まれる。車両は乗り合いバス等のライドシェアサービスに供される車両であってもよい。車両Hvが上記サービスに供される車両(以下、サービス車両)である場合には、それらのサービスの利用契約を行っている人物がユーザとなりうる。つまり、車両Hvを使用する権利を有する人物がユーザとなりうる。
車両Hvのボディは、主として金属部材を用いて実現されている。ここでのボディには、例えばBピラーなどのようにボディ本体部を提供するフレームのほかに、ボディパネルも含まれる。ボディパネルには、サイドボディパネルや、ルーフパネル、リアエンドパネル、ボンネットパネル、ドアパネルなどが含まれる。
金属板は電波を反射する性質を有するため、車両Hvのボディは電波を反射する。すなわち、車両Hvのボディは、電波の直進的な伝搬を遮断するように構成されている。ここでの電波とは、車載通信機12と携帯端末2との無線通信に使用される周波数帯の電波(以降、システム使用電波)のことを指す。ここでのシステム使用電波とは2.4GHz帯の電波を指す。ここでの遮断とは、理想的には反射であるが、これに限らない。電波を所定のレベル(以降、目標減衰レベル)以上減衰できる構成が、電波の伝搬を遮断する構成に相当する。目標減衰レベルは、車室内外で電波の信号強度に有意な差が生じる値とすればよく、例えば10dBとする。なお、目標減衰レベルは5dB以上の任意の値(例えば10dBや20dB)に設定することができる。
また、車両Hvは、ルーフパネルによって提供されるルーフ部41を有し、このルーフパネルを支持するための複数のピラー42を備える。車両Hvは、ピラー42として、Aピラー42A、Bピラー42B、及びCピラーを備える。Aピラー42Aは前部座席の前方に設けられたピラー42に相当する。Bピラー42Bは、前部座席と後部座席の間に設けられたピラー42に相当する。Cピラーは後部座席斜め後ろに設けられているピラー42に相当する。各ピラー42の一部又は全部は、高張力鋼鈑等の金属部材を用いて実現されている。もちろん、他の態様としてピラー42は、カーボンファイバー製であっても良いし、樹脂製であってもよい。さらに、種々の材料を組み合わせて実現されていても良い。
上記説明の通り車両Hvは全体として、全てのドアが閉じられている場合には、システム使用電波は窓部43を介してのみ車室外から車室内に進入したり、車室内から車室外に漏洩したりするように構成されている。つまり窓部43がシステム使用電波の通り道として作用するように構成されている。ここでの窓部43とは、フロントウインドウや、車両Hvの側面部分に設けられている窓(いわゆるサイドウインドウ)、リアウインドウなどである。
<車載通信機12の構成について>
次に、車載システム1の構成及び作動について述べる。車載システム1は、図1及び図3に示すように、通信ECU11及び車載通信機12を備える。
通信ECU11は、車載通信機12と連携(換言すれば協働)して、携帯端末2と近距離通信を実施する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)である。当該通信ECU11は、コンピュータを用いて実現されている。すなわち、通信ECU11は、CPU111、フラッシュメモリ112、RAM113、I/O114、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備えている。CPU111は、種々の演算処理を実行する演算処理装置である。フラッシュメモリ112は、書き換え可能な不揮発性の記憶媒体である。RAM113は揮発性の記憶媒体である。I/O114は、通信ECU11が、例えば車載通信機12など、車両Hvに搭載されている他の装置と通信するためのインターフェースとして機能する回路モジュールである。I/O114は、アナログ回路素子やICなどを用いて実現されればよい。
フラッシュメモリ112には、ユーザが所有する携帯端末2に割り当てられている端末IDが登録されている。また、フラッシュメモリ112には、コンピュータを通信ECU11として機能させるためのプログラム(以降、車両用プログラム)等が格納されている。なお、上述の車両用プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。CPU111が車両用プログラムを実行することは、車両用プログラムに対応する方法が実行されることに相当する。
通信ECU11は、携帯端末2宛のデータを生成し、車載通信機12に出力する。これにより、所望のデータに対応する信号を電波として送信させる。また、通信ECU11は、車載通信機12が受信した携帯端末2からのデータを受信する。通信ECU11は、携帯端末2と車載通信機12との通信接続が確立していることに基づいて、ユーザが車両Hv周辺に存在することを認識する。また、通信ECU11は、車載通信機12から、通信接続している携帯端末2の端末IDを取得する。このような構成によれば、車両Hvが複数のユーザによって共有される車両であっても、通信ECU11は、車載通信機12が通信接続している携帯端末2の端末IDに基づいて車両Hv周辺に存在するユーザを特定することができる。
その他、通信ECU11は、車載通信機12と連携して、通信相手がユーザの携帯端末2であることを確認(換言すれば認証)する処理を実施する。認証のための通信は、車載通信機12を介して暗号化されて実施される。つまり、認証処理は暗号通信によって実施される。認証処理自体は、チャレンジ-レスポンス方式など多様な方式を用いて実施されればよい。ここではその詳細な説明は省略する。認証処理に必要なデータ(例えば暗号鍵)などは携帯端末2と通信ECU11のそれぞれに保存されているものとする。
通信ECU11が認証処理を実施するタイミングは、例えば車載通信機12と携帯端末2との通信接続が確立したタイミングとすればよい。通信ECU11は、車載通信機12と携帯端末2とが通信接続している間、所定の周期で認証処理を実施するように構成されていても良い。また、ユーザによってドアボタンやスタートボタンが押下された場合など、車両Hvに対する所定のユーザ操作をトリガとして認証処理のための暗号通信を実施するように構成されていても良い。ドアボタンは、車両Hvの外側ドアハンドル又はその近傍に設けられた、ユーザが車両Hvのドアを開錠及び施錠するためのボタンである。スタートボタンは、車室内の運転席付近に設けられた、ユーザが駆動源(例えばエンジン)を始動させるためのプッシュスイッチである。
なお、Bluetooth規格において車載通信機12と携帯端末2との通信接続が確立したということは車載通信機12の通信相手が予め登録されている携帯端末2であることを意味する。故に、通信ECU11は、車載通信機12と携帯端末2との通信接続が確立したことに基づいて、携帯端末2の認証が成功したと判定するように構成されていても良い。
車載通信機12は、車両Hvに搭載されている、近距離通信を実施するための通信モジュールである。各車載通信機12は、2400MHzから2500MHzの電波(つまり2.4GHz-ISMバンドの電波)を送受信可能に構成されている。車載通信機12は専用の通信線又は車両内ネットワークを介して通信ECU11と相互通信可能に接続されている。
車載通信機12は、例えば車室内天井部の中央部に配置されている。なお、車載通信機12の設置位置としては、フロントウインドウの上端中央部(つまりルームミラー付近)や、オーバーヘッドコンソール、ピラーの室内面、インストゥルメントパネルの上端部なども採用可能である。車載通信機12は、車室内及び車室外を可能な限り見通せる位置に配置されていることが好ましい。或る車載通信機12にとっての見通し内とは、当該車載通信機12から送信された信号が直接到達可能な領域である。無線信号の伝搬経路には可逆性があるため、或る車載通信機12にとっての見通し内とは、換言すれば、携帯端末2から送信された信号を当該車載通信機12が直接的に受信可能な領域に相当する。また、或る車載通信機12にとっての見通し外とは、当該車載通信機12から送信された信号が直接到達しない領域である。無線信号の伝搬経路には可逆性があるため、或る車載通信機12にとっての見通し外とは、換言すれば、携帯端末2から送信された信号を当該車載通信機12が直接的には受信できない領域に相当する。なお、携帯端末2から送信された信号は種々の構造物で反射されることによって見通し外にも到達しうる。故に、携帯端末2が車載通信機12の見通し外に存在する場合であっても、構造物での反射等によって携帯端末2と車載通信機12とは無線通信を実施しうる。
車載通信機12は図3にて示すように、電気的な構成として、アンテナ121、送受信回路122、及び通信マイコン123を備える。アンテナ121は、携帯端末2との無線通信に用いられる周波数帯(以降、システム使用周波数帯)の電波を送受信するためのアンテナである。ここでのシステム使用周波数帯は、2400MHzから2500MHzまでの2.4GHz帯である。システム使用周波数帯は、アンテナ121にとっての動作帯域に対応する。なお、本実施形態におけるシステム使用周波数帯は、Bluetooth規格で使用される2400MHz~2480MHzを含んでいればよい。システム使用周波数帯の上限周波数や下限周波数は、携帯端末2との通信規格に応じて適宜変更可能である。アンテナ121の具体的な構成については別途後述する。
アンテナ121は送受信回路122と電気的に接続されている。アンテナ121の具体的な構成については別途後述する。送受信回路122は、アンテナ121で受信した信号を復調し、通信マイコン123に提供する。また、送受信回路122は、通信マイコン123を介して通信ECU11から入力された信号を変調して、アンテナ121に出力し、電波として放射させる。送受信回路122は通信マイコン123と相互通信可能に接続されている。
また、送受信回路122は、アンテナ121で受信した信号の強度を逐次検出する受信強度検出部124を備える。受信強度検出部124は多様な回路構成によって実現可能である。受信強度検出部124が検出した受信強度は、受信データに含まれる端末ID、及び当該データの受信に使用されたチャンネル番号と対応付けられて通信マイコン123に逐次提供される。チャンネル番号は、携帯端末2との通信に用いられた周波数を示す。なお、受信強度は、例えば電力の単位[dBm]で表現されればよい。便宜上、受信強度と端末IDとチャンネル番号とを対応づけたデータを受信強度データと称する。
通信マイコン123は、送受信回路122の動作を制御するマイクロコンピュータである。通信マイコン123は、別の観点によれば、通信ECU11とのデータの受け渡しを制御するマイクロコンピュータに相当する。通信マイコン123は、送受信回路122から入力された受信データを受信強度と対応付けて通信ECU11に提供する。また、通信マイコン123は、携帯端末2の端末IDを認証するとともに、通信ECU11からの要求に基づき、携帯端末2と暗号通信を実施する機能を備える。暗号化の方式としては、Bluetoothで規定されている方式など、多様な方式を援用することができる。IDの認証方式についても、Bluetoothで規定されている方式など、多様な方式を援用することができる。
なお、本実施形態ではセキュリティ向上のために車載通信機12及び携帯端末2は、認証等のためのデータ通信を暗号化して実施するように構成されているものとするが、これに限らない。他の態様として、車載通信機12及び携帯端末2は、暗号化せずにデータ通信を実施するように構成されていても良い。
通信マイコン123が備える不揮発性メモリには、端末情報が保存されている。端末情報とは、例えば、暗号鍵や、端末IDなどである。端末情報は、ユーザが鍵交換プロトコルの実行操作(いわゆるペアリング)を実施することで登録されれば良い。なお、車両Hvがサービス車両である場合、端末情報は、ユーザによるサービス車両の使用(例えば予約状況や運行状況)を管理する外部サーバから配信されても良い。車両Hvが複数のユーザによって使用される場合には、各ユーザが保有する携帯端末2の端末情報が保存される。
車載通信機12は、携帯端末2からのアドバタイズパケットを受信すると、保存済みの端末情報を用いて自動的に携帯端末2との通信接続を確立する。そして、通信ECU11が携帯端末2とデータの送受信を実施する。なお、車載通信機12は、携帯端末2との通信接続を確立すると、通信接続している携帯端末2の端末IDを通信ECU11に提供する。
なお、Bluetooth規格によれば、暗号化されたデータ通信は、周波数ホッピング方式で実施される。周波数ホッピング方式は、通信に使うチャンネルを時間で次々に切り替えていく通信方式である。具体的にはBluetooth規格では、周波数ホッピング・スペクトル拡散方式(FHSS:Frequency Hopping Spread Spectrum)によってデータ通信が行われる。Bluetooth Low Energyでは、0番から39番までの40のチャンネルが用意されており、そのうちの0番から36番までの37チャンネルがデータ通信に使用可能なチャンネル(以降、データ通信チャンネル)に設定されている。車載通信機12は、携帯端末2との通信接続が確立している場合、37個のデータ通信チャンネルを逐次変更しながら携帯端末2とデータの送受信を実施する。なお、37番から39番までの3チャンネルは、アドバタイズパケットの送受信に供されるチャンネル(以降、アドバタイジングチャンネル)である。アドバタイジングチャンネルは、デバイス間の通信接続を確立するための通信用のチャンネルに相当する。37番目~39番目のチャンネルには、番号の小さい順に、2402MHz、2426MHz、2480MHzが割り当てられている。
<車載通信機12の構造について>
次に車載通信機12の構造について説明する。以降ではシステム使用周波数帯の中心周波数(ここでは2.45GHz)の波長(以降、対象波長とも記載)を「λ」で表す。例えば「λ/2」及び「0.5λ」は対象波長の半分の長さを指し、「λ/4」及び「0.25λ」は対象波長の4分の1の長さを指す。なお、真空中及び空気中における2.45GHzの電波の波長(つまりλ)は122mmである。
車載通信機12は図4に示すように、回路基板5と、ケース6とを備える。回路基板5は、地板51、支持板52、対向導体板53、短絡部54、及び回路部55を備える。地板51、対向導体板53、及び短絡部54が組み合わさって成る構成が、車載通信機12にとってのアンテナ121に相当する。なお、図5は、回路基板5の外観斜視図である。図6は、図5に示すVI-VI線での断面図である。図5及び図6ではケース6の図示を省略している。便宜上以降では、地板51に対して対向導体板53が設けられている側を、車載通信機12にとっての上側として各部の説明を行う。つまり、地板51から対向導体板53に向かう方向が車載通信機12にとっての上方向に相当する。また、対向導体板53から地板51に向かう方向が車載通信機12にとっての下方向に相当する。
地板51は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。地板51は、支持板52の下側面に沿って設けられている。ここでの板状には金属箔のような薄膜状も含まれる。つまり、地板51はプリント配線板等の樹脂製の板の表面に電気メッキ等によってパターン形成されたものでもよい。この地板51は、例えば同軸ケーブルの外部導体と直接的又は間接的に電気的に接続されて、車載通信機12におけるグランド電位(換言すれば接地電位)を提供する。
地板51は、長方形状に形成されている。地板51の短辺の長さは、例えば、電気的に0.4λに相当する値に設定されている。また、地板51の長辺の長さは、電気的に1.2λに設定されている。ここでの電気的な長さとは、フリンジング電界や、誘電体による波長短縮効果などを考慮した、実効的な長さである。なお、支持板52が比誘電率4.3の誘電体を用いて形成されている場合、地板51表面での波長は、支持板52としての誘電体の波長短縮効果によって60mm程度となる。故に、電気的に1.2λに相当する長さとは、72mmとなる。
図4~図6等に示すX軸は地板51の長手方向を、Y軸は地板51の短手方向を、Z軸は上下方向をそれぞれ表している。Z軸は、アンテナ121にとっての上方向が正方向となるように設定されている。これらX軸、Y軸、及びZ軸によって構成される3次元座標系(以降、アンテナ座標系)は、車載通信機12の構成を説明するための概念である。なお、他の態様として地板51が正方形状である場合には、任意の1辺に沿う方向をX軸とすることができる。また、地板51が円形である場合には地板51に平行な任意の方向をX軸とすることができる。Y軸は、地板51に平行であってかつX軸に直交する方向とすればよい。なお、地板51が長方形や長楕円など、長手方向と短手方向とが存在する形状である場合には、その長手方向をX軸方向とすることができる。
地板51は、互いに直交する2つの直線のそれぞれを対称の軸として線対称な形状(以降、2方向線対称形状)であることが好ましい。2方向線対称形状とは、或る直線を対称の軸として線対称であって、かつ、その直線と直交する他の直線についても線対称な図形を指す。2方向線対称形状には、例えば、楕円形や、長方形、円形、正方形、正六角形、正八角形、ひし形などが該当する。地板51は、直径が1波長の円よりも大きく形成されていることが好ましい。或る部材の平面形状とは、当該部材を上方から見た形状を指す。
支持板52は、矩形状の平板部材である。支持板52は、地板51と対向導体板53とを所定の間隔をおいて互いに対向配置する役割を担う。支持板52は平面視において地板51とほぼ同じ大きさに形成されている。支持板52は所定の比誘電率を有する誘電体を用いて実現されている。支持板52は、例えばガラスエポキシ樹脂などを基材とするプリント基板を援用することができる。ここでは一例として支持板52は比誘電率4.3のガラスエポキシ樹脂(換言すれば、FR4:Flame Retardant Type 4)を用いて実現されている。
本実施形態では一例として支持板52の厚みは、例えば1.5mmに形成されている。支持板52の厚さは、地板51と対向導体板53との間隔に相当する。支持板52の厚さを調整することで、対向導体板53と地板51との間隔を調整することができる。支持板52の厚さの具体的な値はシミュレーションや試験によって適宜決定されれば良い。支持板52の厚さは、2.0mmや、3.0mmなどであってもよい。なお、支持板52での波長は、誘電体の波長短縮効果によって60mm程度となる。故に、厚さ1.5mmという値は、電気的に対象波長の40分の1(つまりλ/40)に相当する。なお、本実施形態において地板51と対向導体板53の間は、支持板52としての樹脂が充填された構成を採用するが、これに限らない。地板51と対向導体板53の間は、中空や真空となっていてもよい。さらに、以上で例示した構造が組み合わさっていてもよい。
対向導体板53は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。ここでの板状には、前述の通り、銅箔などの薄膜状も含まれる。対向導体板53は、支持板52を介し、地板51と対向するように配置されている。対向導体板53もまた地板51と同様にプリント配線板等の、樹脂製の板の表面にパターン形成されたものでもよい。また、ここでの平行とは完全な平行に限らない。数度から十度程度傾いていても良い。つまり概ね平行である状態(いわゆる略平行な状態)を含みうる。
対向導体板53と地板51とは、互いに対向配置されることで、対向導体板53の面積や、対向導体板53と地板51との間隔に応じた静電容量を形成する。対向導体板53は、短絡部54が備えるインダクタンスと、所定の第1周波数において並列共振する静電容量を形成する大きさに形成されている。第1周波数は、システム使用周波数帯に属する任意の周波数である。例えば第1周波数は、2420MHzである。他の態様として、第1周波数は、2402MHzや、2426MHz、2480MHzなどのアドバタイジングチャンネルに設定されていても良い。以降において第1周波数の電波の波長と、対象波長とを区別する必要がある場合、第1周波数の電波の波長のことを以降では「λ1」とも記載する。ただし、空気中におけるλ1とλとの差は1.5mm程度であり、本実施形態においてその差異は無視できる。
対向導体板53の面積は、所望の静電容量を提供するように(ひいては第1周波数で動作するように)適宜設計されればよい。例えば対向導体板53は、一辺が電気的に12mmmの正方形状に形成されている。対向導体板53の表面での波長は支持板52の波長短縮効果によって60mm程度となるため、12mmという値は、電気的に0.2λに相当する。もちろん、対向導体板53の一辺の長さは適宜変更可能であり、14mmや、15mm、20mm、25mmなどであっても良い。
なお、ここでは一例として対向導体板53の形状は正方形とするが、その他の構成として、対向導体板53の平面形状は、円形や、正八角形、正六角形などであってもよい。また、対向導体板53は、長方形状や長楕円形などであってもよい。対向導体板53は2方向線対称形状であることが好ましい。また、対向導体板53は、円形や正方形、長方形、平行四辺形など、点対称な図形であることがより好ましい。
なお、対向導体板53には、スリットが設けられたり、角部を丸められたりしていても良い。対向導体板53の縁部は、部分的に又は全体的にミアンダ形状に形成されていても良い。2方向線対称な形状には、その縁部に微小な(数mm程度の)凹凸が設けられている形状も含まれる。対向導体板53の縁部に設けられた、動作に影響を与えない程度の凹凸は無視して取り扱うことができる。当該対向導体板53の平面形状に対する技術思想は、前述の地板51についても同様である。
対向導体板53は、マイクロストリップ線路551を用いて回路部55と接続されている。対向導体板53とマイクロストリップ線路551との接続箇所が、アンテナ121にとっての給電点531に相当する。マイクロストリップ線路551は給電線に相当する。なお、対向導体板53への給電方式としては、直結給電方式のほか、電磁結合方式など多様な方式を採用可能である。電磁結合方式は、給電用のマイクロストリップ線路等と対向導体板53との電磁結合を利用した給電方式を指す。給電点531は、回路部55から見てアンテナ121の入出力インピーダンスが整合する位置に設けられればよい。換言すれば給電点531は、リターンロスが所定の許容レベルとなる位置に設けられればよい。給電点531は、例えば対向導体板53の縁部や中央領域など、任意の位置に配置することができる。
対向導体板53は、図7に示すように、或る1組の対辺がX軸と平行となり、かつ、他の組の対辺がY軸に平行となる姿勢で地板51と対向配置されている。ただし、その中心が地板51の中心からX軸方向に所定量ずれるように配置されている。具体的には、対向導体板53は、その中心が、地板51の中心からX軸方向へ電気的に対象波長の25分の1(つまり0.04λ)ずれた位置となるように配置されている。当該構成は、別の観点によれば地板51を対向導体板53に対して非対称に配置した構成に相当する。
なお、地板51の中心(以降、地板中心)と、対向導体板53の中心のX軸方向における距離(以降、地板オフセット量ΔSa)は、0.04λに限定されない。地板オフセット量ΔSaは0.05λや、0.08λ、0.25λなどであってもよい。地板オフセット量ΔSaは、0.125λ(=λ/8)に設定されていてもよい。地板オフセット量ΔSaは、上面視において対向導体板53が地板51の外側にはみ出さない範囲において適宜変更可能である。対向導体板53は、少なくとも全領域(換言すれば全面)が地板51と対向するように配置されている。地板オフセット量ΔSaは、地板51の中心と対向導体板53の中心のずれ量に相当する。地板オフセット量ΔSaは、別途後述する第2周波数において地板51が放射素子として機能するように設計されている。
なお、図7では地板51と対向導体板53の位置関係を明示するために、支持板52は透過させている(つまり図示を省略している)。図7に示す一点鎖線Lx1は、地板51の中心を通ってX軸に平行な直線を表しており、一点鎖線Ly1は、地板51の中心を通ってY軸に平行な直線を表している。二点鎖線Ly2は、対向導体板53の中心を通ってY軸に平行な直線を表す。別の観点によれば直線Lx1は、地板51や対向導体板53にとっての対称軸に相当する。直線Ly1は地板51にとっての対称軸に相当する。直線Ly2は対向導体板53にとっての対称軸に相当する。
対向導体板53は、地板51と同心となる位置からX軸方向へ所定量ずらして配置されているため、一点鎖線Lx1は、対向導体板53の中心も通る。つまり、一点鎖線Lx1は、X軸に平行な直線であって地板51と対向導体板53の中心を通る直線に相当する。直線Lx1と直線Ly1との交点が地板中心に相当し、直線Lx1と直線Ly2の交点が対向導体板53の中心(以降、導体板中心)に相当する。導体板中心は、対向導体板53の重心に相当する。本実施形態では対向導体板53が正方形状であるため、導体板中心とは、対向導体板53の2つの対角線の交点に相当する。なお、地板51と対向導体板53とが同心となる配置態様とは、上面視において対向導体板53の中心と地板51の中心とが重なる配置態様に相当する。
短絡部54は、地板51と対向導体板53とを電気的に接続する導電性の部材である。短絡部54は、一端が地板51と電気的に接続され、他端が対向導体板53と電気的に接続された線状の部材であればよい。短絡部54は、例えば支持板52としてのプリント基板に設けられたビアを用いて実現されている。短絡部54は、導電性のピンを用いて実現されていてもよい。短絡部54の径や長さを調整することによって、短絡部54が備えるインダクタンスを調整することができる。
短絡部54は、例えば導体板中心に位置するように設けられている。なお、短絡部54の形成位置は、厳密に導体板中心と一致している必要はない。短絡部54は導体板中心から数mm程度ずれていてもよい。短絡部54は、対向導体板53の中央領域に形成されていれば良い。対向導体板53の中央領域とは、導体板中心から縁部までを1:5に内分する点を結ぶ線よりも内側の領域を指す。中央領域は、別の観点によれば、対向導体板53を6分の1程度に相似縮小した同心図形が重なる領域に相当する。
回路部55は、送受信回路122や通信マイコン123、電源回路などを含む回路モジュールである。回路部55は、ICや、アナログ回路素子、コネクタなど、多様な部品の電気的集合体である。回路部55は、支持板52において対向導体板53が配置されている側の面(以降、基板上面52a)に形成されている。例えば回路部55は、基板上面52aにおいて非対称部511の上方に位置する領域を用いて形成されている。マイクロストリップ線路551は、対向導体板53に給電するための線状導体である。マイクロストリップ線路551の一端は対向導体板53に接続されており、他端は、回路部55と接続されている。なお、マイクロストリップ線路551は、支持板52の内部に形成されていても良い。対向導体板53への給電は、マイクロストリップ線路551の代わりに、導電性のピンやビアを用いて実現されていても良い。
ケース6は、回路基板5を収容する構成である。ケース6は例えば上下方向に分離可能に構成されているアッパーケースとロアケースとが組み合わさることで構成されている。ケース6は、例えばポリカーボネート(PC:polycarbonate)樹脂を用いて構成されている。なお、ケース6の材料としては、PC樹脂にアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(いわゆるABS)を混ぜた合成樹脂や、ポリプロピレン(PP:polypropylene)など、多様な樹脂を採用できる。
ケース6は、ケース底部61、ケース側壁部62、及びケース天井部63を備える。ケース底部61は、ケース6の底を提供する構成である。ケース底部61は、平板状に形成されている。ケース6内において回路基板5は、ケース底部61に形成されているリブ(以降、下側リブ611)を介して、地板51がケース底部61と対向するように配置されている。下側リブ611は、ケース底部61の所定位置から上側に向かって一体的に形成された凸状の構成である。下側リブ611は、ケース6内における回路基板5の位置を規制する役割を担う。下側リブ611は、地板51の縁部と当接するように設けられている。下側リブ611は、地板51とケース底部61との離隔がλ/25以下(つまり5mm以下)となるように形成されている。なお、下側リブ611は、側壁部62の内面から筐体内側に向かって突出するように形成されていてもよい。下側リブ611は、回路基板5を下側から支持するように構成されていればよく、側壁部62と一体的に形成されていてもよい。
ケース側壁部62は、ケース6の側面を提供する構成であって、ケース底部61の縁部から上方に向かって立設されている。ケース側壁部62の高さは、ケース天井部63の内面と対向導体板53との離隔がλ/25以下となるように設計されている。ケース天井部63は、ケース6の上面部を提供する構成である。本実施形態のケース天井部63は平板状に形成されている。なお、ケース天井部63の形状としては、その他、ドーム型など多様な形状を採用することができる。ケース天井部63は、内面が基板上面52a(ひいては対向導体板53)と対向するように構成されている。ケース天井部63の内側面には上側リブ631が形成されている。
上側リブ631は、ケース天井部63の内面の所定位置から下方に向かって形成された凸状の構成である。上側リブ631は、対向導体板53の縁部と当接するように設けられている。上側リブ631はケース6と一体的に形成されている。上側リブ631は、ケース6内における支持板52の位置を規制する。上側リブ631において対向導体板53の縁部と連接する垂直面(つまり外側面)には、銅箔等の金属パターンが付与されていても良い。なお、上側リブ631は任意の要素であって設けられていなくとも良い。
ケース6の内部には、より好ましい態様として、シール材7を充填されている。シール材7は封止材に相当する。シール材7としては、ウレタン樹脂(より具体的にはポリウレタンプレポリマー)や、エポキシ樹脂、シリコン樹脂など、多様な材料を採用することができる。ケース6内にシール材7を充填した構成によれば、防水性や防塵性、耐振動性も向上させる事ができる。加えて、ケース6内にシール材7を充填した構成によれば、対向導体板53の上方に位置するシール材7が、対向導体板53の端部から上側への地板垂直偏波の回り込みを抑制し、地板平行方向への放射利得を向上させる効果を奏する。ここでの地板平行方向とは、対向導体板53の中心からその縁部に向かう方向を指す。地板平行方向は、別の観点によれば、対向導体板53の中心を通る地板51への垂線に直交する方向を指す。地板平行方向は、車載通信機12にとっての横方向(換言すれば側方)に相当する。なお、シール材7は任意の要素であって、必須の要素ではない。
上側リブ631やシール材7は、後述する0次共振モードによって放射される垂直電界が、対向導体板53の縁部から対向導体板53の上側に回り込むことを抑制する構成(以降、電波遮断体)に相当する。本実施形態にて開示の構成は、対向導体板53の上側に、導体又は誘電体を用いて構成されている電波遮断体を配置した構成に相当する。なお、上側リブ631を含むケース6や、シール材7は、比誘電率が高く、かつ、誘電正接が小さいものが好ましい。例えば比誘電率が2.0以上であって、かつ、誘電正接が0.03以下であるものが好ましい。誘電正接が高いと放射エネルギーが熱損失として失われる量が増大する。そのため、ケース6やシール材7は、誘電正接がより小さい材料を用いて実現されていることが好ましい。また、ケース6やシール材7は、誘電率が高いほど電界の回り込みを抑制するように作用する。換言すれば、ケース6やシール材7の誘電率が高いほど、地板平行方向の利得を高める効果は強まる。故に、ケース6やシール材7の材料としては、誘電率が高い誘電体を用いて実現されていることが好ましい。
<車載通信機12の作動について>
このように構成された車載通信機12の動作を説明する。車載通信機12は、対向導体板53はその中央領域に設けられた短絡部54で地板51に短絡されており、かつ、対向導体板53の面積は、短絡部54が備えるインダクタンスと第1周波数において並列共振する静電容量を形成する面積となっている。
このため、第1周波数及びその近傍においては、インダクタンスと静電容量との間のエネルギー交換によって並列共振(いわゆるLC並列共振)が生じ、地板51と対向導体板53との間には、地板51および対向導体板53に対して垂直な電界が発生する。この垂直電界は、短絡部54から対向導体板53の縁部に向かって伝搬していき、対向導体板53の縁部において、地板垂直偏波となって空間を伝搬していく。ここでの地板垂直偏波とは、電界の振動方向が地板51や対向導体板53に対して垂直な電波を指す。車載通信機12が水平面に平行な姿勢で使用されている場合、地板垂直偏波は地面に垂直な偏波(つまり通常の垂直偏波)を指す。
垂直電界の伝搬方向は、図8に示すように短絡部54を中心として対称である。そのため、地板平行方向に対する放射特性は、図9に示すように無指向性(換言すれば全方向性)となる。故に、地板51が水平となるように配置されている場合、車載通信機12は水平方向にメインビームを備えるアンテナとして機能する。なお、ここでの地板平行面とは、地板51及び対向導体板53に平行な平面を指す。
なお、短絡部54は導体板中心に配置されているため、対向導体板53に流れる電流は、短絡部54を中心として対称となる。そのため、対向導体板53において導体板中心から或る方向に流れる電流が発するアンテナ高さ方向の電波は、逆向きに流れる電流が発する電波によって相殺される。つまり、対向導体板53に励起される電流は、電波の放射に寄与しない。故に、図10に示すように地板51に垂直な方向(以降、地板垂直方向)には電波を放射しない。地板垂直方向は、図面においてはZ軸正方向に相当する。以降では便宜上、地板51と対向導体板53との間に形成される静電容量と、短絡部54が備えるインダクタンスのLC並列共振によって動作するモードのことを0次共振モードと称する。0次共振モードとしてのアンテナ121は電圧系アンテナに相当する。なお、上記構成を備えるアンテナは、対向導体板53と地板51とが形成する静電容量と、短絡部54が備えるインダクタンスとを用いて、所定の第1周波数において並列共振するように構成されたアンテナに相当する。なお、0次共振モードの共振周波数は整合素子を用いて調整されてもよい。
また、アンテナ121は、対向導体板53から見て地板51が非対称に形成されていることに起因して、地板51からも電波を放射する。具体的には次の通りである。本実施形態の車載通信機12において対向導体板53は、地板51と同心となる位置からX軸方向へ電気的に0.04λずれた位置となるように配置されている。地板オフセット量ΔSaを0.04λに設定した態様によれば、X軸方向の端部から0.08λ以内となる領域が対向導体板53にとっての非対称部511となる。ここでの非対称部511とは、地板51において対向導体板53から見て非対称となる領域を指す。非対称部511のX軸方向の長さ(以降、非対称部幅W)は、第2周波数の共振電流が誘起する値に設定されていればよく、具体的な値は適宜変更可能である。非対称部幅Wは、0.1λや、0.125λ、0.25λ、0.5λなどに設定されていてもよい。なお、非対称部幅Wは地板オフセット量ΔSaの2倍値に相当する。故に、非対称部幅Wが0.25λとなる構成とは、地板オフセット量ΔSaを0.125λに設定した構成に相当する。
図11及び図12において非対称部511には、その領域を明示するためにドットパターンのハッチングを施している。便宜上、地板51において対向導体板53からみて対称性を有する最大領域を対称性維持部512とも記載する。対称性維持部512は、地板51の縁部の一部を含むように設定される。対称性維持部512の中央領域から端部までのX軸方向の長さはL/2-ΔSaとなる。対称性維持部512の中心と、対向導体板53の中心は上面視において一致する。
図11は地板51に流れる電流を概念的に示した図である。シミュレーションの結果、LC並列共振によって地板51に流れる電流は、主として、地板51の縁部に沿って流れることが確認されている。図11において矢印の大きさは電流の振幅を表している。図11では支持板52は透過させている(つまり図示を省略している)。
対向導体板53から短絡部54を通って地板51に流れ込む電流は、短絡部54から地板51のX軸方向の両端に向かって流れる。地板51にとっての電流の出入り口となる短絡部54は、対称性維持部512にとっての中心に位置する。そのため、対称性維持部512においては、短絡部54からX軸方向両端に向かって流れる電流は、向きが逆で大きさは等しい。故に、対称性維持部512の中央から或る方向(例えばX軸正方向)に流れる電流により生じる電磁波は、図12に示すように逆方向(例えばX軸負方向)に流れる電流が形成する電磁波によって相殺される(つまり打ち消される)。したがって、実質的には対称性維持部512からは電波は放射されない。
ただし、非対称部511に流れる電流が発する電波については打ち消されずに残る。換言すれば、非対称部511の縁部は放射素子(実態的には線状アンテナ)として作用する。地板51から放射される電波は、電界が地板51と平行な方向に振動する直線偏波(以降、地板平行偏波)となる。具体的には、地板51から放射される電波は、電界の振動方向がX軸に平行な直線偏波(以降、X軸平行偏波)となる。当該地板平行偏波はX軸に直交する方向に放射される。つまり、地板平行偏波は、車載通信機12にとっての上方向(以降、地板垂直方向)にも放射される。
以降では便宜上、地板51の非対称部511の縁部に流れる線状電流を利用する動作モードのことを地板励振モードと称する。地板励振モードは、非対称部511と対称性維持部512が連なる方向に電界が振動する直線偏波を、当該縁部に垂直な方向に放射する動作モードに相当する。地板励振モードとしての車載通信機12は、ダイポールアンテナやモノポールアンテナなどのポール型アンテナと同様に、電流が流れる方向(ここではX軸方向)と直交する方向に、電波を放射する。つまり、図13に例示するように、ポール型アンテナと同様の指向性を提供する。地板励振モードとしての車載通信機12は、誘起電流によって電波を放射する、電流系アンテナに相当する。車載通信機12が水平面に平行な姿勢で使用されている場合、地板平行偏波は、電界振動方向が地面に平行な直線偏波(つまり水平偏波)に相当する。
以上で述べたように、本実施形態の車載通信機12は、上記の構造を有することにより、地板平行方向にビームを形成する0次共振モードと、地板垂直方向にビームを形成する地板励振モードとの両方で同時に動作しうる。地板励振モードでの利得は、非対称部幅Wによって調整可能である。これに伴い、地板垂直方向の利得と地板平行方向の利得の比もまた非対称部幅Wに応じて変動する。非対称部幅Wは、所望の利得比が得られるように適宜調整されればよい。
なお、地板垂直方向の利得と地板平行方向の利得の比は、非対称部幅Wだけでなく、車載通信機12の背面に存在する金属と地板51との離隔の影響も受ける。本実施形態では、非対称部幅Wは、所定の第2周波数において、0次共振モードでの利得よりも地板励振モードでの利得が優勢となる値に調整されている。第2周波数は、システム使用周波数帯において、第1周波数とは異なる周波数である。例えば第2周波数は、2480MHzである。他の態様として、第2周波数は、2402MHzや、2426MHz、2450MHzなどに設定されていても良い。
第1周波数と第2周波数とは、20MHz以上(10チャンネル以上)乖離していることが好ましい。以降において第2周波数の電波の波長と、対象波長とを区別する必要がある場合には、第2周波数の電波の波長のことを以降では「λ2」とも記載する。ただし、空気中におけるλ2とλとの差は1.5mm程度であり、本実施形態においてその差異は無視できる。なお、システム使用周波数帯の比帯域幅は25%未満(具体的には約3.3%)である。第1周波数と第2周波数は周波数領域における距離が中心周波数の4分の1未満(実際には3.3%以下)となる周波数に相当する。本開示の車両用無線通信システムは、比帯域幅が中心周波数の5%や10%など、25%未満に設定されている無線通信システムに相当する。
図14は、地板オフセット量ΔSaを任意の値(例えば0.08λ)に設定した場合の、周波数ごとの各動作モードでの放射利得をシミュレーションした結果を示すものである。前述の第1周波数は、地板励振モードでの利得よりも0次共振モードでの利得が優勢となる周波数に相当する。第2周波数は、0次共振モードでの利得よりも地板励振モードでの利得が優勢となる周波数に相当する。つまり、第1周波数は、アンテナ121が主として0次共振モードで動作する周波数に相当し、第2周波数はアンテナ121が主として地板励振モードで動作する周波数に相当する。
なお、図14に示す例では、第1周波数での0次共振モードでの利得よりも、第2周波数での地板励振モードでの利得のほうが高くなっている例を示しているが、これに限らない。0次共振モードと地板励振モードはそれぞれ動作原理が異なるため、それぞれの共振周波数は独立して決めることができる。例えば、地板51と背面に位置する金属との離隔や、非対称部幅Wを調整することにより、地板励振モードの周波数特性は変更可能である。0次共振モードの周波数特性は、対向導体板53の面積や短絡部54の径などを調整する事により、適宜変更可能である。例えば図15に示すように、第1周波数での0次共振モードでの利得と、第2周波数での地板励振モードでの利得を揃えることもできる。また、システム使用周波数帯における地板励振モードでの利得のピーク値と、0次共振モードでのピーク値を揃えることもできる。さらに、アンテナ121は、所定の転換周波数(例えば2450MHz)よりも低周波側では0次共振モードで動作し、転換周波数よりも高周波側では地板励振モードで動作するように構成されていても良い。もちろん、所定の転換周波数よりも低周波側では地板励振モードで動作し、転換周波数よりも高周波側では0次共振モードで動作するように構成されていても良い。
その他、第1周波数及び第2周波数は、アンテナ121の動作モードごとの周波数特性から逆算して決定してもよい。第2周波数は、0次共振モードでの利得よりも地板励振モードでの利得が優勢となる周波数のうち、第1周波数での0次共振モードでの利得と同一の利得が得られる周波数に設定されていても良い。本実施形態ではより好ましい態様として、第1周波数は、0次共振モードとしての利得が地板励振モードでの利得よりも3dB以上(例えば5dBほど)高くなる周波数に設定されている。また、第2周波数は、0次共振モードでの利得よりも地板励振モードでの利得が優勢となる周波数のうち、第1周波数での0次共振モードでの利得と同一の利得が得られる周波数に設定されている。0次共振モードが第1モードに相当し、地板励振モードが第2モードに相当する。なお、第1モードには、0次共振モードと地板励振モードが共存しつつも、その利得差の関係からアンテナ121が主として(換言すれば実質的に)0次共振モードで動作しているとみなせる状態も含まれる。例えば、0次共振モードとしての利得が地板励振モードでの利得よりも3dB以上高くなる状態も第1モードに相当する。第2モードについても同様である。
なお、車載通信機12が電波を送信(放射)する際の作動と、電波を受信する際の作動は、互いに可逆性を有する。つまり上記車載通信機12によれば、地板平行方向から到来する地板垂直偏波を受信できるとともに、地板垂直方向から到来する地板平行偏波を受信できる。
以上で説明した通り、車載通信機12は、0次共振モードで動作することにより、地板平行方向の全方向に地板垂直偏波を送受信できる。また、それと同時に車載通信機12は地板励振モードで動作することにより、地板垂直方向に地板平行偏波を送受信できる。車載通信機12は、互いに直交する方向にそれぞれ異なる偏波面を有する電波を送受信できる。以降では、上述した構造を有するアンテナのことを地板延伸型0次共振アンテナとも称する。
<車載通信機12の取付態様(位置及び姿勢)について>
車載通信機12は、ルーフ部41の室内面に、地板51がルーフ部41の室内面と対向する姿勢で取り付けられている。より具体的には、X軸が車両前後方向に平行であり、且つ、Y軸が車幅方向に平行であり、かつ、Z軸正方向が車両にとっての下方に向いた姿勢で取り付けられている。なお、ここでの或る部材の室内面とは、当該部材において車室内側に向いている面を指す。また、以降では、或る部材において車室外側の面を、室外面と簡略化して記載する。ルーフ部41の室内面とは、別の観点によれば、車室内の天井部に相当する。地板51が室内面(たとえば車室内天井部)と対向する姿勢で取り付けられている態様には、地板51が上記車室内面に概ね平行である状態(いわゆる略平行な状態)を含みうる。また、上記取り付け姿勢には、地板51が上記室内面に沿うように取り付けられている構成も含まれる。
以上の取り付け姿勢によれば、車載通信機12にとっての地板平行方向は、車両の高さ方向に直交する平面(以降、車両水平面)と平行となる。また、車載通信機12にとっての地板垂直方向は、車両の高さ方向に沿う。故に、上記取り付け姿勢によれば車載通信機12は図16に示すように、0次共振モードが提供する指向性の中心が室外方向に向き、且つ、地板励振モードが提供する指向性の中心が車室内の天井部から下方に向く。また、車載通信機12が0次共振モードによって放射する直線偏波の電界振動方向は、ルーフ部41に対して垂直となり、地板励振モードによって室外方向に放射する直線偏波の電界振動方向は、ルーフ部41に対して平行となる。
なお、ここでの垂直とは厳密な垂直に限らず、30°程度傾いていても良い。すなわち、ここでの垂直には略垂直も含まれる。平行や対向といった表現についても同様に30°程度傾いている状態も含まれる。以降では、車両水平面に平行であって、車室内から車室外へ向かう方向を室外方向とも記載する。
<本実施形態の解決課題及び作用効果について>
以上の取付位置及び取付姿勢によれば、車載通信機12が0次共振モードで動作している場合には、図17に示すように、天井部の中央部から室外方向全方位に向けて、電界振動方向がルーフ部41に対して垂直な直線偏波が放射される。電界振動方向が金属板に対して垂直な電波は当該金属板に沿って伝搬する性質があるため、上記の直線偏波は、ルーフ部41の室内面に沿うように伝搬し、窓部43から車室外へと放射される。また、窓枠の上端部からルーフ部41の上側に回り込むようにも伝搬する。さらに、車載通信機12が0次共振モードによって放射する直線偏波は、室外方向だけでなく、室外方向から60度~75度程度下方へ向いた方向にも放射される。車載通信機12が0次共振モードによって放射する直線偏波は、ドアモジュール45においてサイドウインドウの下側窓枠として作用する部分(以降、下側窓枠部46)を介してドアモジュール45の車室外側へも回り込む。故に、車載通信機12が0次共振モードで動作することにより、車室内の大部分と、車室外の大部分以外には良好な通信エリアを形成することができる。ただし、車載通信機12の真下や、ピラー42の裏側などが不感地帯となりうる。なお、図17では室外方向に放射される電界振動方向を明示するために、その他の方向に放射される電波については図示を省略している。
一方、車載通信機12が地板励振モードで動作している場合、主として天井部から車両下方に向けて、電界振動方向が車両前後方向に平行な直線偏波が放射される。また、車載通信機12が地板励振モードによって放射する直線偏波は、真下方向だけでなく、図18に示すように、車幅方向にも或る程度放射される。加えて、2.4GHz帯の電波は車体金属部で反射されやすいため、車載通信機12が地板励振モードによって放射する直線偏波は、車体金属部での反射によっても窓部43付近に到達しうる。このように車載通信機12が地板励振モードにて放射する直線偏波は、直接的に又は間接的にピラー等の窓部43付近にも到達する。
ここで、電界振動方向が金属板に対して垂直な電波は当該金属板に沿って伝搬する性質があるため、車載通信機12が地板励振モードにて放射した直線偏波は、ピラーの裏側に回り込むように伝搬する。故に、上記の取付姿勢によればピラー等の柱状構造物の裏側にも通信エリアとすることができる。なお、地板励振モードにおいてはY軸方向がヌルとなるが、当該Y軸方向は、0次共振モードによってカバーされる。つまり、上記の構成によれば、車室内及び車両周辺において通信不能となる領域を抑制できる。換言すれば、車室内及び車両周辺における携帯端末2との通信の安定性(例えば通信の成功率)を高めることができる。
さらに、本実施形態の構成によれば、ダイポールアンテナやモノポールアンテナなどのポール型アンテナに比べてアンテナ121の高さ(換言すれば厚さ)を抑制できる。具体的にはモノポールアンテナではλ/4程度の高さが必要であるのに対し、本実施形態のアンテナ121はλ/100~λ/40程度の高さ(換言すれば厚み)で実現可能である。これに伴い、車載通信機12を薄型化可能であるため、車両のルーフ部41の室内面やピラー42の室内面などに搭載しやすいといった利点を有する。つまり、車両への搭載性を維持しつつ、車両周辺に不感地帯が生じる恐れを低減できる。
以上、本開示の車両用通信装置の実施形態の一例を説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。また、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
[変形例1(車載通信機の構成について)]
車載通信機12は、図19に示すように、樹脂製のケース6の内側底面部に、地板51よりも大きい金属板である親地板58が配置されていてもよい。なお、親地板58は、図19の(B)に示すように、車載通信機12のケース6の外側底面部に配置されていてもよい。ケース6と親地板58とは一体的に形成されていても良い。また、ケース6の底部は金属にて実現されていても良い。その場合には、金属製のケース底部61が親地板58に相当する。その他、親地板58としては、車体金属部を援用することもできる。シール材7が想定使用温度内にて固体を維持するものであれば、ケース天井部63及びケース底部61の何れか一方は省略可能である。つまり、ケース6は、上面又は底面が開口部として形成された扁平な箱型に形成されていても良い。なお、ケース6の開口面は、Bピラー42Bや、インナードアパネルなど、取付先の部材と当接されればよい。
以上では車載通信機12は、アンテナ121と送受信回路122等の電子部品とを一体的に備えるもの(いわゆる回路一体型アンテナ)としたがこれに限らない。送受信回路122や通信マイコン123は、アンテナ121とは別の筐体に収容されていてもよい。
その他、ケース底部61は、図20に示すように省略されていても良い。また、ケース6は、ケース天井部63が省略されていても良い。ケース6においてケース底部61及びケース天井部63の何れか一方が省略される場合、シール材7は車載通信機12が使用される環境の温度として想定される範囲(以降、使用温度範囲)において固形を維持する樹脂を用いて実現されていることが好ましい。使用温度範囲は例えば-30℃~100℃とすることができる。
[変形例2(車載通信機の取付位置について)]
車載通信機12の取付位置及び取付姿勢は上記の例に限定されない。車載通信機12は図21に示すように、Aピラー42AやBピラー42Bといった金属製のピラー42の室内面に取り付けることができる。例えば車載通信機12は、Bピラー42Bの室内面において、Z軸正方向が車室内に向く姿勢で取り付けられていても良い。換言すれば、X軸方向がBピラー42Bの長手方向に沿い、且つ、地板51がBピラー42Bの室内面と対向する姿勢で取り付けられていてもよい。当該取り付け姿勢によれば、アンテナ121にとっての上方及び側方は、0次共振モードと地板励振モードの少なくとも何れか一方によってカバーされる。また、車載通信機12が取り付けられているドアモジュール45の裏側には、0次共振モードによって放射される、Bピラー42Bの表面に対して電界振動方向が垂直な直線偏波が回り込む。故に、ピラー42の裏側が不感地帯となる恐れを低減できる。
[変形例3(車載通信機の取付位置について)]
また、車載通信機12は、ドアモジュール45(より具体的にはインナードアパネル)の室内面の窓付近に取り付けることもできる。例えば、車載通信機12は図22に示すように、ドアモジュール45の下側窓枠部46の室内面に、X軸方向が下側窓枠部46に沿い、且つ、Z軸方向が車室内に向く姿勢で取り付けられていても良い。当該取り付け姿勢によれば、アンテナ121にとっての上方及び側方は、0次共振モードと地板励振モードの少なくとも何れか一方によってカバーされる。また、車載通信機12が取り付けられているドアモジュール45の裏側には、0次共振モードによって放射される地板垂直偏波が回り込む。故に、車載通信機12が取り付けられているドアモジュール45の裏側も不感地帯になりにくい。なお、ここでの窓枠部とは、ドアモジュール45においてサイドウインドウの窓枠として機能する開口部から5cm以内となる領域を指す。
[変形例4]
車載通信機12は図23に示すように、ルーフ部41の室外面に取り付けられていてもよい。例えば車載通信機12は、ルーフ部41の室外面の中央部に、X軸方向が車両前後方向に沿い、且つ、Z軸正方向が車両上方に向いた姿勢で取り付けられていてもよい。当該取り付け姿勢によれば、車両側方は0次共振モード及び地板励振モードの少なくとも何れか一方によってカバーされる。車両上方は、地板励振モードによってカバーされる。ルーフ部41の裏側(つまり室内側)には、0次共振モードによって放射される、ルーフ部41の表面に対して電界振動方向が垂直な直線偏波が回り込む。故に、ルーフ部41よりも下側に位置する車室外(例えばドア付近)や車室内も不感地帯になりにくい。加えて、アンテナ121が地板励振モードで動作することにより、室外方向には水平偏波も放射される。水平偏波によれば人体や電柱などの柱状物体の裏側にも電波が回り込みやすい。故に、ダイポールアンテナ等の垂直偏波のみを放射する構成に比べて、車両周辺に不感地帯が生じる恐れを低減できる。
ところで、以上では車載通信機12の通信相手として携帯端末2を想定した実施の態様を開示したがこれに限らない。車載通信機12の通信相手は、他車両や、路側機、5G等の移動体無線通信サービスを提供する無線基地局、GNSS衛星などの衛星局などであっても良い。他車両と路側機などの通信規格としてはIEEE1609にて開示されているWAVE(Wireless Access in Vehicular Environment)規格や、DSRC(Dedicated Short Range Communications)規格など、任意のものを採用可能である。また、車載通信機12は、セルラーV2Xを実施するための通信機であってもよい。本変形例の取付位置及び姿勢によれば、天頂方向にも指向性を形成することができる。故に、衛星局や、道路の上方に設置されている路側機(例えばビーコン)からの電波など、車両上方から到来する電波も受信しやすくなる。
[変形例5]
車載通信機12のアンテナ121の構成は上述した構成に限定されない。アンテナ121が備える短絡部54は、図24に示すように、対向導体板53の中心からY軸方向に所定量(以降、短絡部オフセット量ΔSb)だけずれた位置に配置されていてもよい。当該構成によれば、対向導体板53上での電流分布の対称性が崩れ、対向導体板53からY軸方向に平行な直線偏波が放射されるようになる。具体的には次の通りである。
仮に短絡部54が対向導体板53の中心に配置されている構成においては、対向導体板53に流れる電流は、図25に示すように短絡部54を中心として対称となる。そのため、対向導体板53において短絡部54と対向導体板53との接続点(以降、短絡箇所)から見て或る方向に流れる電流が発する電波は、逆向きに流れる電流が発する電波によって相殺される。
対して、短絡部54が対向導体板53の中心からY軸方向に所定量ずれた位置に配置されている構成においては、図26の(A)に示すように対向導体板53に流れる電流分布の対称性が崩れる。そのため、同図(B)に示すようにY軸方向の電流成分が放射する電波が打ち消されずに残る。つまり、短絡部54が対向導体板53の中心からY軸方向に所定量ずれた位置に配置されている構成においては、電界の振動方向がY軸に平行な直線偏波(以降、Y軸平行偏波)が、対向導体板53から上方に向けて放射される。なお、X軸方向の電流成分は対称性が維持されるため、X軸方向に電界が振動する直線偏波は打ち消し合う。つまり、X軸方向に電界が振動する直線偏波は対向導体板53からは放射されない。
もちろん、上記の構成によれば、対向導体板53と地板51との間に形成される静電容量と短絡部54が提供するインダクタンスとの並列共振によって、地板平行方向への地板垂直偏波は放射される。つまり、上記の構成によれば、地板平行方向への地板垂直偏波、地板垂直方向へのX軸平行偏波、及び地板垂直方向へのY軸平行偏波それぞれ同時に放射可能となる。なお、地板垂直方向へのX軸平行偏波の放射は、地板51の非対称部511によって提供される。地板垂直方向へのY軸平行偏波の放射は、短絡部54のY軸方向へのオフセット配置によって提供される。
上記構成によれば、アンテナ121が0次共振モードで動作する際、短絡部54のオフセット配置によって提供されるY軸平行偏波は地板垂直方向(車両Hvにとっては室外方向)に放射される。つまり、対向導体板53の縁部から放射される地板垂直偏波だけでは通信エリアに設定できない領域が、Y軸平行偏波によって補完される。その結果、Z軸方向をより一層強電界エリアに設定することができる。
なお、対向導体板53の中心に対して短絡部54をずらす方向(以降、短絡部オフセット)は、導体板オフセット方向と直交する方向となっていればよい。当該構成によれば、地板垂直方向に放射される直線偏波として、電界振動方向が互いに直交する二種類の直線偏波を放射可能となる。
短絡部54は、対向導体板53の中央領域内に形成されていればよい。短絡部オフセット量ΔSbは、地板平行方向への全指向性(換言すれば無指向性)を維持するため0.04λ以下に設定されていることが好ましい。また、短絡部オフセット量ΔSbは例えば0.004λ(=0.5mm)や、0.008λ(=1.0mm)、0.012λ(=1.5mm)など、0.02λ(=2.5mm)以下の値に設定されている好ましい。短絡部オフセット量ΔSbを変更することにより、地板垂直方向へのY軸平行偏波の放射利得を調整することができる。また、短絡部オフセット量ΔSbを変更しても動作周波数が変化しない。なお、給電点531の位置を一定とする場合には、短絡部オフセット量ΔSbに応じて電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)は変動しうる。ただし、給電点531は任意の位置とすることができるため、短絡部オフセット量ΔSbに応じた位置に給電点531を設けることにより、第1周波数帯におけるVSWRは実用レベル(例えば3以下)に抑制することができる。つまり、短絡部54の位置に応じて給電点531の位置を調整することにより、リターンロスを所望の許容レベルに抑制できる。
[変形例6]
以上では、対向導体板53が、地板51の中心からずれた位置に配置されていることを前提とした構成を開示したが、アンテナ121の構成はこれに限定されない。アンテナ121が変形例5に開示のように、短絡部54が対向導体板53の中心からずれた位置に配置されている場合には、図27及び図28に示すように、対向導体板53は地板51と同心配置されていても良い。つまり、短絡部54が対向導体板53の中心からずれた位置に配置されている構成においては、地板51は非対称部511を備えていなくとも良い。図27に示すLx2、Ly2は対向導体板53の対称軸を示している。図28に示すLx1、Ly1は地板51の対称軸を示している。
[変形例7(アンテナ構造の変形例)]
アンテナ121は、特開2016-15688号公報に開示されている構成であってもよい。つまり、アンテナ121は図29に示すように、対向導体板53のX軸方向の長さを0.5λ2に設定されているとともに、給電点531をX軸に平行な対称軸上に設けられていることで、第2周波数ではパッチアンテナとして動作するように構成されていてもよい。そのような0次共振アンテナを本明細書では半波長型0次共振アンテナと記載する。半波長型0次共振アンテナにおいて給電点531は0次共振モードの給電点としても機能しうる。
本変形例の対向導体板53には、縮退分離素子として1組の対角に切り取り部が形成されていても良い。当該構成によれば円偏波を放射可能となり、携帯端末2の姿勢の影響を緩和することができる。上記の例ではX軸が第1対称軸に相当する。なお、対向導体板53において電気長さを0.5λ2に設定する方向は、Y軸方向であっても良い。つまり第1対称軸はY軸であってもよい。
上記構成によれば、アンテナ121は、0次共振アンテナとして動作するモード(つまり0次共振モード)と、パッチアンテナとして動作するモード(以降、パッチアンテナモード)とを備える。パッチアンテナは地板垂直方向(つまりZ軸方向)にメインビームを形成する。また、その電界振動方向は地板51(ここではX軸)に平行となる。故に、パッチアンテナモードが第2モードに相当する。給電点531から入力される0次共振モードの受信信号(換言すれば第1周波数帯の信号)と、パッチアンテナモードの受信信号(換言すれば第2周波数帯の信号)は、フィルタ等を用いて分離して処理されればよい。
[変形例8]
地板延伸型0次共振アンテナにおいて、対称性維持部512と非対称部511とは、図30に示すように物理的に分断されてあって、スイッチ513を用いて両者の電気的な接続状態が切替可能に構成されていても良い。対称性維持部512と非対称部511との離隔は、シミュレーションに基づき、第1周波数において両者が電磁結合しない程度の値に設定されていれば良い。スイッチ513は地板51の縁部に配置されている。対称性維持部512は、矩形状であって対向導体板53と同心配置されている板状導体部材に相当する。非対称部511は、対称性維持部512の側方に配置されている板状導体部材に相当する。スイッチ513がオフに設定されている場合、非対称部511は電気的に分離されるため、アンテナ121は0次共振モードでのみ動作する。スイッチ513がオンに設定されている場合、アンテナ121は0次共振モードと地板励振モードの両方で動作しうる。
なお、非対称部幅W、及び、背面金属(ここではBピラー42B)と地板51との離隔を調整することにより、スイッチ513がオンに設定されている際の、0次共振モードと地板励振モードの利得比は変更可能である。換言すれば、上記パラメータを調整することにより、スイッチ513がオンに設定されている場合には、実質的に地板励振モードでのみ動作するように構成することもできる。ここでは一例として、アンテナ121は、スイッチ513がオンに設定されている場合には、0次共振モードとしての利得は地板励振モードとしての利得に比べて十分に小さく、実質的に地板励振モードでのみ動作するように構成するものとする。例えば、非対称部幅Wはλ/4や、λ/2など、λ/4の整数倍に設定されていることが好ましい。そのような設定によれば、地板励振モードとしての利得を高めることができる。上記構成によれば、スイッチ513のオンオフによって、車載通信機12の動作モード、すなわち0次共振モードと地板励振モードのどちらで動作させるかを制御可能となる。
車載通信機12は、動作モードを選択するための構成として、図31に示すように、動作モード切替部125を備える。動作モード切替部125は、例えば通信ECU11から地板励振モードで動作するように指示されている場合には、スイッチ513をオンに設定する。また、動作モード切替部125は、通信ECU11から0次共振モードで動作するように指示されている場合には、スイッチ513をオフに設定する。なお、アンテナ121の動作モードを切り替えることは、アンテナ121の指向性及び偏波面を切り替えることに相当する。換言すれば、アンテナ121の動作モードを切り替えることは、車載通信機12が受信対象とする偏波や、通信方向を切り替えることに相当する。
ところで、本変形例にて開示の上記技術思想は、アンテナ121が半波長型0次共振アンテナとして構成されている場合にも適用可能である。例えば、半波長型0次共振アンテナの対向導体板53には、図32に示すように0次共振用の給電点531aとパッチアンテナとして動作するための給電点531bとが別々設けられていても良い。2つの給電点531a、531bを使い分けることで、アンテナ121の動作モードを使い分けることができる。どちらの給電点531を使用するかは、動作モード切替部125によって制御される。給電点531aが第1給電点に相当し、給電点531bが第2給電点に相当する。上記の構成は、第1周波数の信号を送受信するための第1給電点とは別に、対向導体板53の中心を通って第1対称軸に平行な直線上に、第2周波数の信号を送受信するための給電点である第2給電点が設けられている車両用通信装置に相当する。
また、半波長型0次共振アンテナにおいては、図33に示すように、アンテナ121と送受信回路122とは内部インダクタンス又は静電容量を調整可能に構成された整合回路59を介して接続されていてもよい。当該構成においては、動作モード切替部125は整合回路59の内部インダクタンス又は静電容量を調整することで動作モードを切り替えることができる。図33に示す例では、可変コンデンサ591の静電容量を調整することで、アンテナ121の共振周波数を変える構成を示している。可変コンデンサ591としては例えば所定の入力端子に印加する電圧レベルを変更することで静電容量が変化する素子(いわゆるバリアブルキャパシタ)を採用することができる。もちろん、内部インダクタンス又は静電容量を変更可能な整合回路59の具体的構成は適宜変更可能であって図33に示す構成に限定されない。例えば整合回路59が可変コイルを備える構成においては、当該可変コイルのインダクタンスを調整することでアンテナ121の共振周波数を変えてもよい。整合回路59のインダクタンス/静電容量は動作モード切替部125によって制御されれば良い。
上記構成は、インピーダンス可変素子の静電容量又はインダクタンスを変更することでアンテナの動作モードを切り替える動作モード切替部125を備える車両用通信装置に相当する。インピーダンス可変素子とは、アンテナが静電容量またはインダクタンスを可変に構成されている素子であって、可変コンデンサ591や可変コイルが該当する。
[変形例9]
通信マイコン123は図34に示すように、通信チャンネルごとの通信品質を評価する通信品質評価部126と、データ通信に使用する周波数を制限する周波数制限部127を備えていてもよい。通信品質評価部126は、例えば通信品質の指標として通信チャンネル毎に、携帯端末2からの信号に対する信号対雑音比(いわゆるSN比)を算出する。SN比は、通信チャンネルごとの受信強度に基づいて算出されれば良い。なお、通信チャンネル毎の通信品質は、SN比のほか、携帯端末2から送信された通信パケットの受信電力や、パケットロス率、キャリアの混雑度などを用いて判断することができる。指標としてどのパラメータを採用するかは適宜変更可能である。
周波数制限部127は、通信品質が良好でないことが予想されるデータ通信チャンネルを使用しないように、携帯端末2との通信に使用する周波数を制御する構成である。周波数制限部127は、通信品質評価部126の評価結果に基づいて、通信品質が所定の閾値以下であったアドバタイジングチャンネル(以降、不安定チャンネル)を特定する。例えばSN比が所定の許容閾値未満となっているアドバタイズチャンネルを不安定チャンネルに設定する。周波数制限部127は、不安定チャンネルが存在する場合、当該不安定チャンネルから一定範囲内(例えば±6MHz)のデータ通信チャンネルは、一定期間、携帯端末2とのデータ通信に使用しない。通信チャンネルの制限は、ソフトウェア的に実現されてもよいし、アンテナ121の動作モードを切り替えるなど、ハードウェア的に実現されても良い。
上記の構成によれば、複数のデータ通信のうち、通信が失敗する可能性が高い通信チャンネルを避けて携帯端末2とのデータ通信を実施できる。つまり、携帯端末2との通信成功率を高めることができる。その結果、携帯端末2の応答速度を向上させることができる。なお、本変形例に開示の構成は、通信相手として、携帯端末2以外の外部装置(例えば他車両等)を想定する場合にも適用可能である。また、本変形例の通信マイコン123は、通信相手に対して、データ通信に使用しない周波数の情報(以降、禁止周波数情報)を通知することが好ましい。例えば通信マイコン123は、データ通信に使用しない周波数が存在する場合には、送受信回路122と協働して、禁止周波数情報を示す無線信号を携帯端末2等の通信相手に無線送信する。そのような構成によれば、通信相手もまた、通信品質が良好でないことが予想されるデータ通信チャンネルを使用しないように作動することが可能となる。
[その他、変形例]
上述した実施形態では、携帯端末2と車載通信機12とがBluetooth規格で双方向に無線通信を実施する態様を開示したが、携帯端末2と車載通信機12との通信方式はこれに限定されない。携帯端末2と車載システム1は超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)通信で使用されるインパルス信号を用いて無線通信を実施するように構成されていても良い。換言すれば車載通信機12は、UWB通信を行う通信モジュールであってもよい。UWB通信で用いられるインパルス信号とは、パルス幅が極短時間(例えば2ns)であって、かつ、500MHz以上の帯域幅(つまり超広帯域幅)を有する信号である。UWB通信に利用できる周波数帯(以降、UWB帯)としては、3.1GHz~16GHzや、3.4GHz~4.8GHz、7.25GHz~16GHz、22GHz~29GHz等がある。
携帯端末2と車載システム1とが無線通信を実施するための規格や、無線通信に使用される電波(以降、システム使用電波)の周波数は適宜選定されればよい。例えば車載通信機12と外部装置との通信に使用する周波数は、760MHz、850MHz、900MHz、1.17GHz、1.28GHz、1.55GHz、5.9GHzなどであっても良い。車載通信機12は、700MHz以上(より好ましくは1GHz以上)の電波を用いて外部装置と通信するものであればよい。その他、車載通信機12は複数存在しても良い。車載通信機12の数は、2個、3個、4個以上であってもよい。
上述した実施形態では、金属製のボディを備える車両Hvに本開示に係る位置判定システムを適用した態様を開示したが、位置判定システムの適用先として好適な車両は、金属製のボディを備える車両に限らない。例えば車両Hvのボディを構成する種々のボディパネルは、電波の伝搬を5dB以上減衰させるほど十分な量のカーボンが充填されているカーボン系樹脂を用いて形成されていてもよい。このようなボディを備える車両もまた、位置判定システムの適用対象として好適である。もちろん、車両Hvのボディは、カーボンを含まない汎用樹脂を用いて形成されていてもよい。
<付言>
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
なお、ここでの制御部とは、例えば通信マイコン123である。通信マイコン123が提供する手段および/または機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。通信マイコン123が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。上述した実施形態では通信マイコン123の演算処理ユニットとしては、CPUや、MPU(Micro Processor Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、データフロープロセッサ(DFP:Data Flow Processor)など、多様なプロセッサを採用することができる。また、通信マイコン123は、CPUや、MPU、GPU、DFPなど、複数種類のプロセッサを組み合せて実現されていてもよい。さらに、通信マイコン123が提供すべき機能の一部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いて実現されていても良い。