以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る中空糸膜モジュール及びその洗浄方法について詳細に説明する。
(実施形態1)
<中空糸膜モジュール>
まず、本発明の実施形態1に係る中空糸膜モジュール1の全体構成について、図1を参照して説明する。中空糸膜モジュール1は、外圧濾過式のモジュールであり、図1に示すように、束状の中空糸膜11からなる中空糸膜束10と、ハウジング20と、散気部材30と、導水管40と、を主に備えている。「外圧濾過式」とは、中空糸膜11の外表面から内表面に向かって原水を膜壁に透過させることにより、中空糸膜11の内表面側の領域から濾過水を得る濾過方式である。以下、中空糸膜モジュール1の各構成要素についてそれぞれ説明する。
中空糸膜束10は、上下方向に延びる複数の中空糸膜11と、複数の中空糸膜11同士を束ねる固定部材12と、を有している。図1に示すように、中空糸膜束10は、各中空糸膜11の上端同士が固定部材12により固定され、且つ各中空糸膜11の下端同士が互いに固定されない片端フリー構造を有している。中空糸膜11の下端は、例えば樹脂などにより封止されていてもよいが、特に限定されない。また図1に示すように、固定部材12の外周面は、ハウジング20の内面に密着している。
中空糸膜11の素材としては、種々のものを用いることができるが、例えば、親水化されたポリフッ化ビニリデン(PVDF;Poly Vinylidene DiFluoride)を用いることができる。また固定部材12としては、例えばエポキシ系の接着樹脂を用いることができるが、これに限定されない。
ハウジング20は、中空糸膜束10を収容する中空円筒状の容器であり、図1に示すように上下方向に沿った縦置き姿勢で配置されている。ハウジング20は、ハウジング本体21と、上部キャップ23と、下部キャップ25と、上部カップリング27と、下部カップリング28と、を有している。
ハウジング本体21、上部キャップ23及び下部キャップ25は、例えばポリ塩化ビニル(PVC;Poly Vinyl Chloride)などの樹脂からなる。上部カップリング27及び下部カップリング28は、ハウジング本体21に上部キャップ23及び下部キャップ25を固定するためのリング状の留め具である。
ハウジング本体21は、上下方向に延びる中空円筒状の部材であり、中空糸膜束10を収容している。ハウジング本体21の上端及び下端はそれぞれ開口しており、上端開口が固定部材12により塞がれている。またハウジング本体21内の空間は、原水(中空糸膜11による濾過対象の水)が充たされる原水空間21Aとなっている。
上部キャップ23は、ハウジング本体21の上端開口を覆うように、上部カップリング27によりハウジング本体21の上端に取り付けられている。上部キャップ23内の空間は、濾過水が充たされる濾過水空間23Bとなっている。濾過水空間23Bは、各中空糸膜11の内表面側の空間と連通し、且つ原水空間21Aに対して固定部材12により液密に仕切られている。これにより、原水と濾過水との混水を防ぐことができる。図1に示すように、上部キャップ23の側部には、濾過水空間23Bから外部へ濾過水を取り出すための濾過水口23Aが設けられている。
下部キャップ25は、ハウジング本体21の下端開口を塞ぐように、下部カップリング28によりハウジング本体21の下端に取り付けられている。下部キャップ25内の空間とハウジング本体21内の空間は、互いに連通している。
図1に示すように、下部キャップ25の側部には、ハウジング20内の原水を外部へ排出するための排水口25Aが設けられている。排水口25Aは、下部キャップ25の側面から径方向外向きに延びる筒形状を有し、その内部空間が下部キャップ25内の空間と連通している。また排水口25Aには、排水配管22が接続されている。
排水口25Aは、中空糸膜束10の洗浄用気体(例えば洗浄用空気)の導入口を兼ねている。具体的には、図1に示すように、排水配管22に洗浄用気体の注入口22Aが設けられており、この注入口22Aに気体配管24Aが接続されている。そして、例えばエアーコンプレッサなどの気体発生源24で発生させた清浄な洗浄用気体を、気体配管24A及び排水配管22を順に通過させて、導入口25Aから下部キャップ25内に導入することができる。
散気部材30は、導入口25Aからハウジング20内に導入された洗浄用気体を、中空糸膜束10に向けて分散させるための部材である。これにより、中空糸膜11の下端から上端に向かって上昇する気泡が発生し、中空糸膜11を気体洗浄することができる。散気部材30は、ハウジング20と同様に例えばPVCなどの樹脂からなり、中空糸膜束10よりも下側に配置されている。なお、散気部材30の詳細な構造については後述する。
導水管40は、ハウジング20内に原水を導入するための部材であり、ハウジング20内に配置されている。図1に示すように、導水管40は、下部キャップ25の下面中央部及び散気部材30の中央部を貫通すると共に、中空糸膜束10の内側を上下方向に延びている。導水管40は、例えば中空円筒形状のものであり、上端が固定部材12に固定されると共に、下端に原水導入口44が設けられている。
導水管40の壁部には、複数の通水孔41が長さ方向及び周方向に互いに間隔を空けて形成されている。原水導入口44から導水管40内に導入された原水は、導水管40の下端から上端に向かって流れると共に、通水孔41を通じて原水空間21Aに供給される。
導水管40の上端近傍には、管内の空間を上下に仕切る管仕切り板42が設けられている。通水孔41は、全て、管仕切り板42よりも下側の管壁に形成されている。この管仕切り板42によって原水を堰き止めることができるため、導水管40内の原水が上端から抜けるのを防止することができる。
図1に示すように、導水管40において管仕切り板42よりも上側で且つ固定部材12よりも下側の壁部には、エア抜き孔43が形成されている。導水管40の上端には、導水管40と連通するエア抜き管26が接続されている。エア抜き管26は、上部キャップ23の上面中央部を貫通している。これにより、原水空間21Aからエア抜き孔43を通じて導水管40内の空間(管仕切り板42よりも上側の空間)に流入した空気を、エア抜き管26を通じてモジュール外に排出することができる。
次に、散気部材30の詳細な構造について、図1~図4を参照して説明する。図2は、散気部材30の平面図(散気部材30を上側から平面視した図)である。図3は、散気部材30の底面図(散気部材30を下側から平面視した図)である。図4は、図2中の線分IV-IVに沿った散気部材30の断面図である。
散気部材30は、導入口25Aから導入された洗浄用気体を受ける受け面37を有し、ハウジング20内において中空糸膜束10に向けて洗浄用気体を分散させる散気孔35が受け面37に形成された部材である。図1~図4に示すように、散気部材30は、受け面37を有し且つ複数の散気孔35が形成された円盤状の本体部31と、受け面37の下側の空間を内周側空間36Aと外周側空間36Bとに仕切る仕切り部32と、を有している。
図2及び図3に示すように、本体部31は、中央に貫通孔31Cが形成された樹脂製の円板であり、中空糸膜束10の径方向に広がる形状を有している。図1に示すように、本体部31は、中空糸膜11の下端よりも下側において、中空糸膜11の長さ方向に垂直な水平姿勢で配置されている。貫通孔31Cは、導水管40が挿通される部分であり、その内径が導水管40の外径よりも大きくなっている。なお、本体部31は、円板に限定されず、種々の形状のものを用いることが可能である。
散気孔35は、貫通孔31Cよりも小径の円形孔であって、本体部31を厚さ方向に貫通している。図2に示すように、散気孔35は、貫通孔31Cよりも径方向外側の領域において、径方向及び周方向に間隔を空けて複数形成されている。より具体的には、本体部31と同心状で且つ貫通孔31Cよりも径が大きい第1仮想円C1、本体部31と同心状で且つ第1仮想円C1よりも径が大きい第2仮想円C2及び本体部31と同心状で且つ第2仮想円C2よりも径が大きい第3仮想円C3をそれぞれ定義した場合において、散気孔35は、第1~第3仮想円C1~C3上において周方向に等間隔で形成されている。
また図2に示すように、散気孔35は、仕切り部32よりも径方向内側の領域(内周部31A)において、仕切り部32よりも径方向外側の領域(外周部31B)よりも密集して形成されている。以下の説明において、内周部31Aに形成された散気孔35を「内側散気孔35A」と称し、外周部31Bに形成された散気孔35を「外側散気孔35B」と称することがある。なお、本実施形態では、複数の散気孔35が全て同じ大きさ及び形状を有しているがこれに限定されず、互いに異なる大きさ及び形状を有していてもよい。
受け面37は、本体部31の下面、すなわち本体部31のうち中空糸膜束10と反対側を向く面(ハウジング20の下部側を向く面)である。つまり、受け面37は、ハウジング20の内底面と上下方向に対向している。また受け面37は、中空糸膜11の長さ方向に垂直な水平方向に延びている。導入口25Aからハウジング20内に導入された洗浄用気体は、受け面37で受けられた後、散気孔35を通じて中空糸膜束10に向かって分散する。
図3及び図4に示すように、仕切り部32は、貫通孔31Cよりも径が大きい円筒形状を有しており、本体部31と同心状になるように上端が受け面37に接続されている。仕切り部32は、受け面37に直交する方向に延びる。受け面37の下側において、仕切り部32よりも径方向内側の空間が内周側空間36Aであり、仕切り部32よりも径方向外側の空間が外周側空間36Bである。つまり、内周側空間36Aは、本体部31の内周部31Aの下側に位置する空間であり、外周側空間36Bは、本体部31の外周部31Bの下側に位置する空間である。内周側空間36A及び外周側空間36Bのそれぞれにおいて、散気孔35から分散する前の洗浄用気体を収容することができる。
図3に示すように、内周側空間36Aは貫通孔31Cを取り囲む平面視円環状の空間であり、外周側空間36Bは内周側空間36Aを取り囲む平面視円環状の空間である。また図4に示すように、仕切り部32は、外周側空間36Bに臨み且つ上下方向に延びる外周面32Aと、内周側空間36Aに臨み且つ上下方向に延びる内周面32Bと、を有している。
図5にも示すように、仕切り部32には、仕切り部32を貫通する連通孔32Cが形成されている。すなわち、連通孔32Cの外端は、仕切り部32の外周面32Aに開口し、連通孔32Cの内端は、仕切り部32の内周面32Bに開口している。したがって、外周側空間36Bに存在する洗浄用気体の一部を、仕切り部32を越流させなくても、内周側空間36Aに流入させることができる。
また、連通孔32Cの開孔率を調整することにより、仕切り部32を越流することなく、内周側空間36Aに流入する洗浄用気体の流量を調整することができる。つまり、連通孔32Cの開孔率を調整することにより、外周側空間36Bに存在する洗浄用気体の量と、内周側空間36Aに存在する洗浄用気体の量との比率を調整することができる。ここでいう連通孔32Cの開孔率は、外側散気孔35Bのトータル面積に対する連通孔32Cのトータル面積の割合を意味している。
連通孔の開孔率は、40%以上で250%以下であることが好ましく、50%以上で200%以下であることがより好ましい。連通孔32Cの開孔率がこのような範囲にある場合には、外周側空間36Bに洗浄用気体を行き渡らせつつ、内周側空間36Aへの越流量の周方向分布が導入口25Aの周方向における位置の影響を受け難くすることができる。
図5に示す例では、連通孔32Cが断面円形状に形成された例を示しているが、これに限られるものではなく、図6に示すように、連通孔32Cは、仕切り部32の軸方向よりも周方向に長い形状に形成されていてもよく、あるいは、図7に示すように、周方向よりも仕切り部32の軸方向に長い形状に形成されていてもよい。
連通孔32Cは、仕切り部32の高さ方向中央よりも上側に配置されている。したがって、連通孔32Cを通して外周側空間36Bから内周側空間36Aに流入し易くすることができる。この場合、連通孔32Cは、図7に示すように、受け面37に接するように形成されてもよい。なお、連通孔32Cを通して洗浄用気体が内周側空間36Aに流入し過ぎるような場合には、連通孔32Cは、仕切り部32の高さ方向中央よりも下側に配置されていてもよい。
連通孔32Cは、周方向に均等に配置されている。すなわち、連通孔32Cは周方向に等間隔に配置されている。なお、図5には、12個の連通孔が配置された構成が示されているが、連通孔の数は、これに限られるものではない。連通孔32Cは、周方向に一列に並ぶように配置されているが、これに限られるものではなく、上下二段のように上下方向に複数列に並ぶように配置されていてもよい。
連通孔32Cは、仕切り部32に直交する方向に仕切り部32を貫通している。このため、ハウジング20が傾いた状態で設置された場合等において、散気部材30が傾いた状態にある場合には、連通孔32Cも散気部材30の傾きに応じて貫通方向が変わることになる。これにより、仕切り部32を越流する流量と連通孔32Cを通して内周側空間36Aに流入する流量とのバランスが、場所によって変わることになる。しかしながら、連通孔32Cの存在によって越流する流量の変化を補うことができる。
この点について、図8を参照しつつ、具体的に説明すると、散気部材30が例えば左側に傾いているときには、仕切り部32における図8の左側の部位が相対的に下側に位置する一方で、右側の部位が相対的に上側に位置する。このとき、図8の左側の部位に形成された連通孔32Cは、外周側空間36Bから内周側空間36Aに向かって上向きとなり、右側の部位に形成された連通孔32Cは、外周側空間36Bから内周側空間36Aに向かって下向きとなる。この結果、仕切り部32のうち左側の部位を越流する洗浄用気体の流量が減る一方で、左側の部位に形成された連通孔32Cを通過する洗浄用気体の流量が増加する。一方、仕切り部32のうち右側の部位を越流する洗浄用気体の流量が増加する一方で、右側の部位に形成された連通孔32Cを通過する洗浄用気体の流量が減る。したがって、散気部材30が傾いた状態で設置されたとしても、越流量が場所によって変わるのを連通孔32Cによって補うことができる。
本実施形態における仕切り部32は、上端から下端まで内径が一定の円筒形状のものであるがこれに限定されず、上端から下端に向かって拡径する形状のものであってもよいし、上端から下端に向かって縮径する形状のものであってもよい。この場合において、連通孔32Cは、受け面37に平行な方向に仕切り部32を貫通してもよい。また仕切り部32は、円筒形状のものにも限定されず、例えば角筒形状など、種々の形状のものを用いることができる。
散気部材30は、内筒部34と、周壁部33と、をさらに有している。図3及び図4に示すように、内筒部34は、貫通孔31Cとほぼ同径の円筒形状を有し、本体部31と同心状となるように上端が受け面37に接続されている。この内筒部34を設けることにより、内周側空間36Aに収容された洗浄用気体が、貫通孔31Cから抜けるのを防ぐことができる。
図3に示すように、周壁部33は、本体部31の外縁部に沿うように、周方向に間隔を空けて複数(本実施形態では4つ)設けられている。図4に示すように、周壁部33は、本体部31の外縁部において受け面37に接続され、受け面37から下側に延びている。なお、本実施形態では、本体部31、仕切り部32、内筒部34及び周壁部33がそれぞれ別部材として形成されているがこれに限定されず、これらが一体形成されていてもよい。
導入口25Aは、外周側空間36Bに洗浄用気体を導入可能なように、ハウジング20(下部キャップ25)の側部に設けられている。具体的には、図1に示すように、導入口25Aは、外周側空間36Bに臨む位置であって、導入口25Aから導入された洗浄用気体が仕切り部32の外周面32Aに衝突する位置に設けられている。本実施形態では、導入口25Aの内周面の頂部25AAが仕切り部32の下端よりも上側に位置するように導入口25Aが設けられている。これにより、導入口25Aから径方向内向きにハウジング20内に導入された洗浄用気体を、仕切り部32の外周面32Aに容易に衝突させることができる。これにより、洗浄用気体が内周側空間36Aに直接導入されることを防ぎ、外周側空間36Bに洗浄用気体を確実に導入することができる。このように、中空糸膜モジュール1は、散気部材30の外周側から径方向内側に向かって洗浄用気体をハウジング20内に導入する構造となっている。なお、仕切り部32の下端は、導入口25Aの中央よりも上側に配置されていてもよい。
散気孔35は、外周側空間36Bに行き渡った洗浄用空気を内周側空間36A及び外周側空間36Bから中空糸膜束10に向けて分散させるように構成されている。すなわち、外周側空間36Bと連通する散気孔35(外側散気孔35B)と、内周側空間36Aと連通する散気孔35(内側散気孔35A)とが設けられている。特に本実施形態では、外側散気孔35Bの開孔率が内側散気孔35Aの開孔率よりも小さくなっている。
ここで、外側散気孔35Bの開孔率は、本体部31の外周部31Bの全体面積に対する、全ての外側散気孔35Bの面積の合計の比率として定義される。また内側散気孔35Aの開孔率は、本体部31の内周部31Aの全体面積に対する、全ての内側散気孔35Aの面積の合計の比率として定義される。
このように、外側散気孔35Bの開孔率を相対的に小さくすることにより、外周側空間36Bから外側散気孔35Bを通じて分散する洗浄用気体の量が相対的に少なくなる。これにより、洗浄用気体を、外周側空間36Bにおいて内周側空間36Aを取り囲むように周方向全体に行き渡らせることができる(図3中の矢印F1)。
そして、外周側空間36Bの全体に行き渡った洗浄用空気を、仕切り部32を超えて内周側空間36Aに流入させるとともに(図4中の矢印F2)、連通孔32Cを通して内周側空間36Aに流入させる。このようにすれば、ハウジング20の側部に導入口25Aを設けて散気部材30の外周側から洗浄用気体を導入する場合でも、散気部材30による洗浄用気体の分散量の周方向における偏りを少なくすることが可能になる。また、外周側空間36Bに流入した洗浄用気体の一部を、連通孔32Cを通して内周側空間36Aに流入させた上で中空糸膜束に向けて洗浄用気体を分散させることができる。すなわち、連通孔32Cの開孔率を調整することによって、外周側空間36Bから内周側空間36Aに流入される洗浄用気体の流量を調整することができる。また、ハウジング20内に導入される洗浄用気体の量が減少して仕切り部32を越流する量が減少する場合においても、外周側空間36Bから内周側空間36Aに流入される洗浄用気体の量を確保することができる。したがって、散気部材30の外周側から洗浄用気体を導入する場合においても、周方向における洗浄用気体の偏りを抑制しつつ内周側空間36Aからの分散量を調整することができる。
しかも、連通孔32Cが周方向に均等に配置されているため、外周側空間36Bにおいて周方向の全体に行き渡った洗浄用気体を、連通孔32Cにより、周方向において均等に内周側空間36Aに流入させることができる。したがって、洗浄用気体を周方向に均等に分散させることができる。
また、仕切り部32が受け面37に直交するとともに、連通孔32Cが仕切り部32に直交する方向に仕切り部32を貫通しているため、散気部材30の傾きによって、周方向の位置によっては越流する流量が少なくなることがあるとしても、その位置では、連通孔32Cによる洗浄用気体の流量増加によって周方向ばらつきが補正される。よって、散気部材32の傾きによる越流量の変動を連通孔32の存在によって補正することができ、周方向において洗浄用気体のばらたきが生ずることを抑制することができる。
<中空糸膜モジュールの洗浄方法>
次に、本発明の実施形態1に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法について、図9に示すフローチャートに沿って説明する。はじめに、この洗浄方法の前に行われる中空糸膜モジュール1による原水の濾過処理について説明する。
まず、充水工程(図9:S10)では、原水槽(図示しない)からポンプにより送られた原水を、原水導入口44から導水管40内に導入する。図10に示すように、原水は、導水管40内を下端から上端に向かって流れると共に、通水孔41を通じて原水空間21A内に導入される。これにより、原水空間21A内が原水で充たされる。このとき、原水空間21A内の空気は、原水の導入に伴って、エア抜き孔43から導水管40内の空間(管仕切り板42よりも上側の空間)に流入し、エア抜き管26を通じてハウジング20の外に排出される。
次に、濾過工程(図9:S20)では、原水空間21A内に供給された原水を、中空糸膜11の外表面から内表面に向かって膜壁に透過させる。これにより、SSなどの不純物が除去された濾過水が得られる。図11に示すように、濾過水は、各中空糸膜11の上端から濾過水空間23Bに流出した後、濾過水口23Aを通じて外部に取り出される。
ここで、濾過時間の経過に伴って原水中のSSが中空糸膜11の外表面に付着し、中空糸膜11の細孔が閉塞されることがある。この場合、原水の透過流速が低下し、中空糸膜11による濾過能力が低下する。そこで、濾過開始から一定時間が経過した後、以下に説明する本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法を実施することにより、中空糸膜束10を洗浄する。
この洗浄方法においては、まず、逆洗工程(図9:S30)が実施される。この工程では、図12に示すように、エアーコンプレッサなどで発生させた圧縮空気を、濾過水口23Aを通じて濾過水空間23B内に導入する。この圧縮空気により、中空糸膜11の内表面側の領域内の濾過水が加圧され、中空糸膜11の内表面側から外表面側に向かって濾過水が押し出される。この水圧により、中空糸膜11の外表面に付着したSSの密着力を弱めることができる。また原水空間21A内の水は、散気部材30の貫通孔31Cの孔壁面と導水管40の外周面との間の隙間を通過した後、排水口25Aからハウジング20の外に排出される。
次に、下側バブリング工程(図9:S40)が以下のようにして実施される。まず、原水空間21A内に原水が充たされた状態において、図13に示すように、洗浄用気体(洗浄用空気)を導入口25Aからハウジング20(下部キャップ25)内に導入する。そして、導入口25Aを通じて洗浄用気体を散気部材30の受け面37の下側における外周側空間36B(図3,図4)に流入させる。
ここで、仕切り部32の外周面32Aに洗浄用気体が衝突するように、導入口25Aを通じてハウジング20内に洗浄用気体を導入する。これにより、洗浄用気体が内周側空間36Aに直接導入されることを防ぎ、外周側空間36Bに洗浄用気体を確実に導入することができる。洗浄用気体は、仕切り部32よりも径方向外側の受け面37で受けられる。
そして、図3中の矢印F1で示すように、洗浄用気体を、外周側空間36Bにおいて内周側空間36Aを取り囲むように周方向全体に行き渡らせる。このように、洗浄用気体を外周側空間36Bにおいて周方向全体に行き渡らせることができるのは、上述のように外側散気孔35Bの開孔率が小さく、外周側空間36Bから外側散気孔35Bを通じた洗浄用気体の分散量が抑えられているためである。なお、洗浄用気体は、外周側空間36Bの全体に行き渡るように流れつつも、外側散気孔35Bを通じて少量は分散する。
また洗浄用気体を導入する際には、外周側空間36Bから外側散気孔35Bを通じて中空糸膜束10に向かって分散する洗浄用気体の量よりも多い量の洗浄用気体を外周側空間36Bに導入する。これにより、洗浄用気体を外周側空間36Bから確実に溢れさせることができる。そして、図4中の矢印F2で示すように、外周側空間36Bに行き渡った洗浄用気体の少なくとも一部が仕切り部32を超えて内周側空間36Aに流入するとともに連通孔32Cを通して内周側空間36Aに流入する。
内周側空間36Aに流入した洗浄用気体は、内側散気孔35Aを通じて中空糸膜束10に向けて分散する。また、内周側空間36Aに流入せずに外周側空間36Bに残った洗浄用気体は、外側散気孔35Bを通じて中空糸膜束10に向けて分散する。これにより、図13に示すように、中空糸膜11の下端から上端に向かって気泡B1が上昇し、気泡B1によって中空糸膜11が揺動することにより、膜表面に付着したSSが剥がれ落ちる。
次に、上側バブリング工程(図9:S50)では、図14に示すように、原水導入口44から洗浄用気体(洗浄用空気)を導水管40内に導入する。洗浄用気体は、導水管40内を上昇して管仕切り板42に衝突し、管仕切り板42の直ぐ下側の通水孔41を通じて原水空間21A内に供給される。これにより、中空糸膜11の上端近傍を気泡により洗浄することができる。また原水空間21A内の洗浄用気体は、エア抜き孔43を通じて導水管40内の空間(管仕切り板42よりも上側の空間)に流入し、エア抜き管26を通じてハウジング20の外に排出される。
その後、膜表面から除去されたSSを含む原水が排水口25Aからハウジング20の外に排出され、本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法が終了する。そして、上述した充水工程及び濾過工程が再開される。このように、本実施形態に係る中空糸膜モジュールの洗浄方法では、仕切り部32を有する散気部材30を下側バブリング工程において用いることにより、散気部材30の外周側から洗浄用気体を導入した場合でも、散気部材30による洗浄用気体の分散量の周方向における偏りを少なくすることができる。したがって、中空糸膜束10を周方向において均一に気体洗浄することが可能になる。
(その他実施形態)
ここで、本発明のその他実施形態について説明する。
実施形態1では、導入口25Aから導入された洗浄用気体が仕切り部32の外周面32Aに衝突する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、導入口25Aを図1に示す位置よりもさらに下側に設け(頂部25AAが仕切り部32の下端よりも下側に位置するように)、洗浄用気体が外周面32Aに衝突しない構成としてもよい。この場合でも、下部キャップ25内に導入された洗浄用気体が浮力によって上昇することにより、外周側空間36B内に洗浄用気体を導入することができる。
また導入口25Aがハウジング20の側部に設けられる場合にも限定されず、例えば、ハウジング20(下部キャップ25)の下部において、外周側空間36Bに洗浄用気体を導入可能なように、中央部から径方向外側にずれた位置に導入口25Aが設けられてもよい。
実施形態1では、内側散気孔35A及び外側散気孔35Bの両方が形成される場合について説明したが、これに限定されない。例えば、本体部31において、外側散気孔35Bが形成されず、内側散気孔35Aのみが形成されていてもよい。この場合でも、洗浄用気体を外周側空間36Bの全体に行き渡らせることが可能である。そして、実施形態1と同様に、外周側空間36Bから仕切り部32を超えて内周側空間36Aに流入した洗浄用気体を、中空糸膜束10に向けて分散させることができる。
実施形態1では、洗浄用気体の導入口25Aが原水の排出口25Aと兼用される場合について説明したが、これに限定されない。例えば、洗浄用気体の導入口と原水の排出口とが、ハウジング20において別々の箇所に設けられていてもよい。
実施形態1では、導水管40の通水孔41からハウジング20内に原水を供給する場合について説明したが、これに限定されない。図15に示す中空糸膜モジュール1Aのように、導水管40のうち通水孔41が形成された部位が省略され、ハウジング20(下部キャップ25)の下部に設けられた原水導入口から原水が導入されてもよい。
実施形態1では、中空糸膜束10が片端フリー構造を有する場合について説明したがこれに限定されず、両端固定タイプの中空糸膜束が用いられてもよい。
実施形態1では、仕切り部32を一つのみ形成する場合について説明したがこれに限定されず、互いに径が異なる複数の仕切り部32を受け面37に接続してもよい。この場合、各仕切り部32に連通孔32Cが形成されてもよく、一部の仕切り部32のみに連通孔が形成されてもよい。
実施形態1では、下側バブリング工程及び上側バブリング工程の両方を実施する場合について説明したがこれに限定されず、上側バブリング工程が省略されてもよい。また下側バブリング工程の後に上側バブリング工程が実施される順序にも限定されず、上側バブリング工程の後に下側バブリング工程を実施してもよい。
実施形態1では、洗浄用気体の一例として空気を説明したがこれに限定されず、中空糸膜11の洗浄に適した他の種類の気体が用いられてもよい。
今回開示された実施形態及び実験例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。