JP7271841B2 - ニオブ酸リチウム基板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、基板形状に加工されたニオブ酸リチウム単結晶(以後、基板状ニオブ酸リチウム単結晶と略称する)を還元処理してニオブ酸リチウム基板を製造する方法に係り、特に、ニオブ酸リチウム単結晶内に存在するマイクロボイドに起因したリング状色ムラの発生が抑制されて体積抵抗率の面内分布にバラツキの少ないニオブ酸リチウム基板を製造する方法に関するものである。
ニオブ酸リチウム(LiNbO3;以後、LNと略称する)単結晶は、融点が約1250℃、キュリー温度が約1140℃の人工の強誘電体結晶で、LN単結晶から得られるニオブ酸リチウム基板(以後、LN基板と称する)の用途は、主に移動体通信機器に用いられる電気信号ノイズ除去用の表面弾性波素子(SAWフィルター)用材料である。
上記SAWフィルターは、LN単結晶をはじめとする圧電材料で構成された基板上に、AlCu合金等の金属薄膜で櫛形電極を形成した構造となっており、この櫛形電極がデバイスの特性を左右する重要な役割を担っている。また、上記櫛形電極は、スパッタ法等により圧電材料上に金属薄膜を成膜した後、櫛形パターンを残しフォトリソグラフ技術により不要な部分をエッチング除去することにより形成される。
また、SAWフィルターの材料となるLN単結晶は、産業的にはチョクラルスキー法により、通常、白金るつぼを用い、酸素濃度が20%程度の窒素-酸素混合ガス雰囲気の電気炉中で育成され、電気炉内で所定の冷却速度で冷却された後、電気炉から取り出されて得られている。
育成されたLN単結晶は、無色透明若しくは透明感の高い淡黄色を呈している。育成後、育成時の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、更に単一分極とするためのポーリング処理、すなわち、LN単結晶を室温からキュリー温度以上の所定温度まで昇温し、単結晶に電圧を印加し、電圧を印加したままキュリー温度以下の所定温度まで降温した後、電圧印加を停止して室温まで冷却する一連の処理を行う。ポーリング処理後、単結晶の外形を整えるために外周研削されたLN単結晶(インゴット)はスライス、ラップ、ポリッシュ工程等の機械加工を経てLN基板となる。最終的に得られた基板はほぼ無色透明であり、体積抵抗率は1×1015Ω・cm程度以上である。
このような従来法で得られたLN基板では、SAWフィルター製造プロセスにおいて焦電破壊が問題となる。焦電破壊とは、LN単結晶の特性である焦電性のため、プロセスで受ける温度変化によって電荷がLN基板表面にチャージアップし、これにより生ずるスパークが原因となってLN基板表面に形成した櫛形電極が破壊され、更にはLN基板の割れ等が発生する現象のことである。焦電破壊は、素子製造プロセスでの歩留まり低下の大きな要因である。また、基板の高い光透過率は、素子製造プロセスの1つであるフォトリソグラフ工程で基板内を透過した光が基板裏面で反射されて表面に戻り、形成パターンの解像度を悪化させるという問題も生じさせる。
この問題を解決するため、特許文献1においては、ウェハ状のLN単結晶を、500~1140℃の範囲内で、アルゴン、水、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素およびこれ等の組合せから選択されたガスといった化学的還元性雰囲気に晒して黒化させることによりLN単結晶の抵抗値を低くし、焦電性を低減させる方法が提案されている。
尚、上記熱処理を施すことによりLN単結晶は無色透明であったものが有色不透明化する。そして、観察される有色不透明化の色調は透過光では褐色から黒色に見えるため、この有色不透明化現象をここでは「黒化」と称している。この黒化現象は、還元処理によってLN単結晶中に酸素欠陥(空孔)が導入されることでカラーセンターが形成されるためと考えられている。また、抵抗値の変化は、酸素欠陥生成によるチャージバランスのズレを補償するために、Nbイオンの価数が+5価から+4価に変化することで基板内にNbイオンから放出された自由電子が増えるためと考えられる。このため、黒化の程度と抵抗値はほぼ比例関係にある。
しかし、焦電性を低減させる特許文献1に記載の上記方法は、ウェハ状のLN単結晶を500℃以上の高い温度に加熱するため、処理時間は短い反面、処理バッチ間において黒化のバラつきが生じ易く、また、熱処理したLN単結晶(すなわちLN基板)内に黒化による色ムラ、すなわち、体積抵抗率の面内分布が生じ易く、素子製造プロセスでの歩留まり低下が依然として十分に防止できない問題があった。
このため、特許文献2においては、基板状LN単結晶を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の低温で熱処理する方法が提案されている。特許文献2に記載された方法は、処理温度が500℃未満と低温であるため、簡易な装置を用い、黒化による色ムラ、すなわち、体積抵抗率の面内分布にバラツキが少なく、焦電性が抑制されたLN基板の提供を可能とする方法であった。
但し、LN単結晶(融点が1250℃)は、同じくSAWフィルターに利用されるタンタル酸リチウム単結晶(融点が1650℃)に較べて還元され易い性質を有しているため、500℃未満の低温で還元処理がなされる特許文献2に記載の方法においても、LN単結晶面(LN基板面)内の僅かな処理条件の違いにより、黒化による色ムラ、すなわち体積抵抗率の面内分布にバラツキを生ずることがあり、また、処理されるLN単結晶面(LN基板面)内の僅かな結晶性の違いにより、体積抵抗率の面内分布にバラツキを生ずることがあった。
この場合、LN単結晶面(LN基板面)内における処理条件の問題は、LN単結晶面(LN基板面)内の位置による温度管理、および、LN単結晶面(LN基板面)内の位置によるAl、Ti、Si、Ca、Mg、Cから選択された元素の粉末中における濃度管理を厳密に行うことで対処することは可能であった。
しかし、LN単結晶面(LN基板面)内における結晶性の問題は、LN単結晶の結晶性に関係するため、体積抵抗率における面内分布のバラツキを少なくするにはLN単結晶の結晶性が改善される必要があった。
特開平11-92147号公報 特開平2005-179177公報
ところで、上述したチョクラルスキー法によるLN単結晶の育成法では、結晶化後において結晶内にマイクロボイド(空孔の集合体)を顕在化させる原料融液中のガス成分が育成中の結晶内に取込まれ易いことに起因し、LN単結晶の結晶肩部に近い部位から得られたLN基板(基板状LN単結晶)を特許文献2に記載の方法で熱処理した場合、LN単結晶内のマイクロボイドが存在する部位は、マイクロボイドの無い部位に較べ黒化され易いため(結晶にマイクロボイドが存在すると、マイクロボイドの酸素ポテンシャルが雰囲気の酸素ポテンシャルよりも低いためマイクロボイドが存在する部位は黒化され易い)、図3に示すようなリング状の色ムラ(還元ムラ)を生じさせる問題が存在した。
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、LN単結晶内に存在するマイクロボイドに起因したリング状色ムラの発生が抑制されて体積抵抗率の面内分布にバラツキの少ないLN基板を製造する方法を提供することにある。
そこで、リング状の色ムラ(還元ムラ)を生じさせる問題を解決するため、本発明者が鋭意研究を行ったところ、以下のような技術的発見をなすに至った。すなわち、上述したAl、Ti、Si、Ca等の粉末に埋め込まれる前の基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理した場合、そのメカニズムは不明であるが基板状ニオブ酸リチウム単結晶内に存在していたマイクロボイドが消滅することを発見するに至った。本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
チョクラルスキー法で育成されたニオブ酸リチウム単結晶を基板形状に加工し、該基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理してニオブ酸リチウム基板を製造する方法において、
上記粉末に埋め込まれる前の基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理する工程と、
熱処理された基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、上記粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理する工程、
を有することを特徴とする。
また、本発明に係る第2の発明は、
チョクラルスキー法で育成されたニオブ酸リチウム単結晶を基板形状に加工し、該基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理してニオブ酸リチウム基板を製造する方法において、
還元処理して製造されたニオブ酸リチウム基板から、リング状色ムラが発生したニオブ酸リチウム基板を選別する工程と、
選別されたニオブ酸リチウム基板を、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理する工程と、
熱処理されたニオブ酸リチウム基板を、上記粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で、再度、還元処理する工程、
を有することを特徴とする。
第1の発明に係るニオブ酸リチウム基板の製造方法によれば、
Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込まれる前の基板状ニオブ酸リチウム単結晶(基板形状に加工されたニオブ酸リチウム単結晶)を、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理する工程により、基板状ニオブ酸リチウム単結晶内に存在するマイクロボイドが消滅してニオブ酸リチウム単結晶の結晶性が改善され、かつ、マイクロボイドが消滅して結晶性が改善された基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、上記粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理する工程により、マイクロボイドに起因したリング状色ムラの発生が抑制されて体積抵抗率の面内分布にバラツキの少ないニオブ酸リチウム基板を安定して製造することが可能となる。
また、第2の発明に係るニオブ酸リチウム基板の製造方法によれば、
還元処理して製造されたニオブ酸リチウム基板から、リング状色ムラが発生したニオブ酸リチウム基板を選別し、選別されたニオブ酸リチウム基板を、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理する工程により、ニオブ酸リチウム基板内に存在するマイクロボイドが消滅してニオブ酸リチウム基板の結晶性が改善され、かつ、マイクロボイドが消滅して結晶性が改善されたニオブ酸リチウム基板を、上記粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で、再度、還元処理する工程により、マイクロボイドに起因したリング状色ムラの発生が抑制されて体積抵抗率の面内分布にバラツキの少ないニオブ酸リチウム基板を安定して製造することが可能となる。
ニオブ酸リチウム単結晶の育成方法に用いられる育成装置の一例を示す構成説明図。 図2(a)~(b)は原料融液の「自然対流」と「強制対流」による融液の流れを示す説明図。 マイクロボイドに起因するリング状色ムラ(還元ムラ)を示すニオブ酸リチウム基板の写真図。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(1)ニオブ酸リチウム単結晶の育成
図1を用いて、チョクラルスキー法(以下、Cz法と略称する)によるニオブ酸リチウム(LN)単結晶の育成装置10と育成方法について説明する。
図1は、高周波誘導加熱式単結晶育成装置10の概略構成を模式的に示す断面図であるが、LN単結晶の育成では抵抗加熱式単結晶育成装置も用いられている。高周波誘導加熱式単結晶育成装置と抵抗加熱式単結晶育成装置の違いは、高周波誘導加熱式の場合は、ワークコイル15によって形成される高周波磁場によりワークコイル15内に設置されている金属製坩堝12の側壁に渦電流が発生し、その渦電流によって坩堝12自体が発熱体となり、坩堝12内にある原料の融解や結晶育成に必要な温度環境の形成を行う。抵抗加熱式の場合は、坩堝の外周部に設置されている抵抗加熱ヒーターの発熱で原料の融解や結晶育成に必要な温度環境の形成を行っている。どちらの加熱方式を用いても、Cz法の本質は変わらないので、以下、高周波誘導加熱式単結晶育成装置による単結晶育成方法に関して説明する。
図1に示すように、高周波誘導加熱式単結晶育成装置10は、チャンバー11内に坩堝12を配置する。坩堝12は、坩堝台13上に載置される。チャンバー11内には、坩堝12を囲むように耐火材14が配置されている。坩堝12を囲むようにワークコイル15が配置され、ワークコイル15が形成する高周波磁場によって坩堝12壁に渦電流が流れ、坩堝12自体が発熱体となる。チャンバー11の上部には引き上げ軸16が回転可能かつ上下方向に移動可能に設けられている。引き上げ軸16下端の先端部には、種結晶1を保持するためのシードホルダ17が取り付けられている。
Cz法では、坩堝12内の単結晶原料18の融液表面に種結晶1となる単結晶片を接触させ、この種結晶1を引き上げ軸16により回転させながら上方に引き上げることにより結晶肩部とこれに続く結晶直胴部を育成する。結晶育成に際しては、成長界面で融液の結晶化によって生じる固化潜熱を、種結晶を通して上方に逃がす必要があるため、成長界面から上方に向って温度が低下する温度勾配下で行う必要がある。加えて、育成結晶の形状が曲がったり、捩れたりしないようにするため、原料融液内においても、成長界面から坩堝壁に向って水平方向に、かつ、成長界面から坩堝底に向って垂直方向に温度が高くなる温度勾配下で行う必要がある。
LN単結晶を育成する場合は、LN結晶の融点が1250℃であり、育成雰囲気に酸素が必要であることから、融点が1760℃程度で化学的に安定な白金(Pt)製の坩堝12が用いられる。育成時における引き上げ軸の引上速度は、通常、結晶肩部が2mm/hr程度、結晶直胴部が1.5mm/hr程度であり、また、引き上げ軸の回転数は、通常、3rpm以上で行われる。また、育成時の炉内は、大気若しくは酸素濃度20%程度の窒素-酸素の混合ガス雰囲気とするのが一般的である。このような条件下で、所望の大きさまで結晶を育成した後、引上速度の変更や融液温度を徐々に高くする等の操作を行うことで、育成結晶を融液から切り離し、その後、育成炉のパワーを所定の速度で低下させることで徐冷し、炉内温度が室温近傍となった後に育成炉内から結晶を取り出す。
このような方法で育成されたLN単結晶は、上述したように育成時の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、更に単一分極とするためのポーリング処理、すなわち、LN単結晶を室温からキュリー温度以上の所定温度まで昇温し、単結晶に電圧を印加し、電圧を印加したままキュリー温度以下の所定温度まで降温した後、電圧印加を停止して室温まで冷却する一連の処理を行う。ポーリング処理後、単結晶の外形を整えるために外周研削されたLN単結晶(インゴット)はスライス、ラップ、ポリッシュ工程等の機械加工を経てLN基板となる。
(2)マイクロボイドを顕在化させる原料融液中のガス成分
Cz法においては、原料融液の温度差に起因する「自然対流」[図2(a)に示すように坩堝12の底部から坩堝12壁に沿って上昇し、融液20表面に到達した後に融液20表面の中心部に向かって流れ、中心部において坩堝12の底部に向かう流れ]αと、育成される結晶の回転(引き上げ軸16の回転)により引き起こされる「強制対流」[図2(b)に示す融液20表面の中心部から坩堝12壁へ向かう流れ]βが生じており、図2(b)に示すように「自然対流」αによる融液20の流れ方向と「強制対流」βによる融液20の流れ方向が互いに反対であるため、原料融液における成長界面の近傍に「自然対流」αと「強制対流」βのバランスする位置[融液20の流れが停滞する位置A:図2(b)参照]が存在する。
そして、「自然対流」αと「強制対流」βのバランスする上記位置[融液20の流れが停滞する位置A]においては、融液20が結晶化する際、結晶に取込むことができないガス成分(結晶の溶解度に対して余剰となるガス成分)が成長界面の融液側に吐き出されてガス成分濃度が高くなっているため育成中のLN結晶内にガス成分が取込まれ易く、取込まれたガス成分は結晶化後に拡散によって集積し、上述したマイクロボイド(空孔の集合体)として顕在化される。このため、LN単結晶の結晶肩部に近い部位から得られたLN基板(基板状LN単結晶)を特許文献2に記載の方法で熱処理した場合、上述したようにマイクロボイド(空孔の集合体)の存在に起因したリング状の色ムラ(還元ムラ)を生じさせる問題を引き起こす。
(3)基板状ニオブ酸リチウム単結晶の黒化処理
LN単結晶は、結晶内に存在する酸素欠陥濃度によって体積抵抗率と色(光透過率スペクトル)が変化する。つまり、LN単結晶中に酸素欠陥が導入されると、-2価の酸素イオンの欠損によるチャージバランスを補償する必要から一部のNbイオンの価数が5+から4+に変わり、体積抵抗率に変化を生じる。加えて、酸素欠陥に起因したカラーセンターが生成することで光吸収を起こす。
体積抵抗率の変化は、キャリアである電子がNb5+イオンとNb4+イオンの間を移動するために生ずると考えられる。結晶の体積抵抗率は、単位体積あたりのキャリア数とキャリアの移動度の積で決まる。移動度が同じであれば、体積抵抗率は酸素空孔数に比例する。光吸収による色変化は、酸素欠陥に捕獲された準安定状態の電子が起因となって形成されるカラーセンターによるものと考えられる。
上記酸素空孔数の制御は、いわゆる雰囲気下熱処理により行うことができる。特定の温度におかれた結晶中の酸素空孔濃度は、その結晶がおかれている雰囲気の酸素ポテンシャル(酸素濃度)と平衡するように変化する。雰囲気の酸素濃度が平衡濃度より低くなれば結晶中の酸素空孔濃度は増加する。また、雰囲気の酸素濃度を一定として温度を高くすることで、雰囲気の酸素濃度を平衡濃度より低くしても酸素空孔濃度は増加する。従って、酸素空孔濃度を増やし、不透明度を上げるためには、高温でかつ雰囲気の酸素濃度を下げればよい。
ところで、結晶にマイクロボイド(空孔の集合体)が存在すると、マイクロボイドの酸素ポテンシャルが雰囲気の酸素ポテンシャルよりも低いため、マイクロボイド付近の色はマイクロボイドの無い部分よりも黒化する。すなわち、マイクロボイドの存在に起因した図3に示す「リング状の色ムラ(還元ムラ)」を生じさせてしまう。
そこで、本発明に係る第1の発明では、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込まれる前の基板状ニオブ酸リチウム単結晶(基板形状に加工されたニオブ酸リチウム単結晶)について、これを、大気雰囲気若しくは不活性ガス中、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理することにより基板状ニオブ酸リチウム単結晶内に存在するマイクロボイドを消滅させてニオブ酸リチウム単結晶の結晶性を改善させている。このため、マイクロボイドを消滅させて結晶性が改善された基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理することにより、マイクロボイドに起因したリング状色ムラの発生が抑制されて体積抵抗率の面内分布にバラツキの少ないニオブ酸リチウム基板を安定して製造することが可能となる。
また、本発明に係る第2の発明では、基板状ニオブ酸リチウム単結晶(基板形状に加工されたニオブ酸リチウム単結晶)を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理して製造されたニオブ酸リチウム基板から、リング状色ムラが発生したニオブ酸リチウム基板を選別し、選別されたニオブ酸リチウム基板を、大気雰囲気若しくは不活性ガス中、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理することによりニオブ酸リチウム基板内に存在するマイクロボイドを消滅させてニオブ酸リチウム基板の結晶性を改善させている。このため、マイクロボイドを消滅させて結晶性が改善されたニオブ酸リチウム基板を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で、再度、還元処理することにより、マイクロボイドに起因したリング状色ムラの発生が抑制されて体積抵抗率の面内分布にバラツキの少ないニオブ酸リチウム基板を安定して製造することが可能となる。
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
コングルエント組成のLN原料を用い、かつ、図1に示す高周波誘導加熱式単結晶育成装置を用いて結晶直胴部の結晶径が150mm、結晶肩部の長さが25mmで、結晶直胴部の長さが120mmであるLN単結晶の育成を行った。
尚、結晶肩部の育成中における引き上げ軸の回転数(種結晶の回転数)を10rpmに設定した。また、育成雰囲気は、酸素濃度約20%の窒素-酸素混合ガスである。
育成されたLN単結晶に対し均熱下で残留熱歪除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、結晶の外形を整えるため外周研削し、スライスしてLN基板(基板状LN単結晶)とした。
得られたLN基板(基板状LN単結晶)を、大気雰囲気中、1130℃の温度で240時間熱処理して、基板状LN単結晶内に存在するマイクロボイドを消滅させてその結晶性を改善させた後、結晶性が改善された基板状LN単結晶(LN基板)について、0.8%Al-Al23粉末中に埋め込み、真空雰囲気下で490℃、17時間の熱処理(黒化処理)を行った。尚、基板状LN単結晶内のマイクロボイドが消滅した確認は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて行っている。
熱処理(黒化処理)後のLN基板は暗緑褐色で、体積抵抗率は1×1010Ω・cm程度であり、基板面内における体積抵抗率のバラツキ(σ/Ave.)は3%未満であった。
また、目視によりLN基板の色ムラ(リング状色ムラ)を調べたところ、全てのLN基板で色ムラ、リング状色ムラは生じていなかった。
ここで、Aveとは基板中心部1点と外周部4点の面内5点測定の体積抵抗率の平均値、σはそれらの標準偏差のことである。尚、上記体積抵抗率は、JIS K-6911に準拠した3端子法により測定した。
[実施例2]
コングルエント組成のLN原料を用い、かつ、図1に示す高周波誘導加熱式単結晶育成装置を用いて結晶直胴部の結晶径が150mm、結晶肩部の長さが25mmで、結晶直胴部の長さが120mmであるLN単結晶の育成を行った。
尚、結晶肩部の育成中における引き上げ軸の回転数(種結晶の回転数)を10rpmに設定した。また、育成雰囲気は、酸素濃度約20%の窒素-酸素混合ガスである。
育成されたLN単結晶に対し均熱下で残留熱歪除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、結晶の外形を整えるため外周研削し、スライスしてLN基板(基板状LN単結晶)とした。
得られたLN基板(基板状LN単結晶)について、0.8%Al-Al23粉末中に埋め込み、真空雰囲気下で490℃、17時間の熱処理(黒化処理)を行った。
熱処理(黒化処理)後のLN基板は暗緑褐色で、体積抵抗率は1×1010Ω・cm程度であり、基板面内における体積抵抗率のバラツキ(σ/Ave.)は3%以上であった。
また、目視によりLN基板(基板状LN単結晶)の色ムラ(リング状色ムラ)を調べたところ、結晶肩部に近い部位から得られたLN基板(基板状LN単結晶)にリング状色ムラが生じており、10%のLN基板が色ムラ不良となった。
そこで、色ムラ不良となったLN基板を選別し、選別されたLN基板を、大気雰囲気中、1130℃の温度で240時間熱処理し、LN基板内に存在するマイクロボイドを消滅させてその結晶性を改善させた後、結晶性が改善されたLN基板について、0.8%Al-Al23粉末中に埋め込み、再度、真空雰囲気下で490℃、17時間の熱処理(黒化処理)を行った。
再度、熱処理(黒化処理)したLN基板は暗緑褐色で、体積抵抗率は1×1010Ω・cm程度であり、基板面内における体積抵抗率のバラツキ(σ/Ave.)は3%未満であった。
また、目視により、再度、熱処理(黒化処理)したLN基板の色ムラ(リング状色ムラ)を調べたところ、全てのLN基板で色ムラ、リング状色ムラは消滅していた。
[比較例1]
コングルエント組成のLN原料を用い、かつ、図1に示す高周波誘導加熱式単結晶育成装置を用いて結晶直胴部の結晶径が150mm、結晶肩部の長さが25mmで、結晶直胴部の長さが120mmであるLN単結晶の育成を行った。
尚、結晶肩部の育成中における引き上げ軸の回転数(種結晶の回転数)を10rpmに設定した。また、育成雰囲気は、酸素濃度約20%の窒素-酸素混合ガスである。
育成されたLN単結晶に対し均熱下で残留熱歪除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、結晶の外形を整えるため外周研削し、スライスしてLN基板(基板状LN単結晶)とした。
得られたLN基板(基板状LN単結晶)を、大気雰囲気中、1080℃の温度で240時間熱処理してその結晶性を改善させた後、結晶性が改善された基板状LN単結晶(LN基板)について、0.8%Al-Al23粉末中に埋め込み、真空雰囲気下で490℃、17時間の熱処理(黒化処理)を行った。
熱処理(黒化処理)後のLN基板は暗緑褐色で、体積抵抗率は1×1010Ω・cm程度であり、基板面内における体積抵抗率のバラツキ(σ/Ave.)は3%以上であった。
また、目視によりLN基板の色ムラ(リング状色ムラ)を調べたところ、結晶肩部に近い部位から得られたLN基板にリング状色ムラが生じており、5%のLN基板が色ムラ不良となった。
5%のLN基板が色ムラ不良になった原因は、上記LN基板(基板状LN単結晶)の結晶性を改善させる熱処理の温度条件が1080℃で、「1100℃以上1140℃未満」の範囲外であったため、基板状LN単結晶内のマイクロボイドが完全に消滅しなかったためと思われる。
[比較例2]
コングルエント組成のLN原料を用い、かつ、図1に示す高周波誘導加熱式単結晶育成装置を用いて結晶直胴部の結晶径が150mm、結晶肩部の長さが25mmで、結晶直胴部の長さが120mmであるLN単結晶の育成を行った。
尚、結晶肩部の育成中における引き上げ軸の回転数(種結晶の回転数)を10rpmに設定した。また、育成雰囲気は、酸素濃度約20%の窒素-酸素混合ガスである。
育成されたLN単結晶に対し均熱下で残留熱歪除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、結晶の外形を整えるため外周研削し、スライスしてLN基板(基板状LN単結晶)とした。
得られたLN基板(基板状LN単結晶)を、大気雰囲気中、1130℃の温度で200時間熱処理してその結晶性を改善させた後、結晶性が改善された基板状LN単結晶(LN基板)について、0.8%Al-Al23粉末中に埋め込み、真空雰囲気下で490℃、17時間の熱処理(黒化処理)を行った。
熱処理(黒化処理)後のLN基板は暗緑褐色で、体積抵抗率は1×1010Ω・cm程度であり、基板面内における体積抵抗率のバラツキ(σ/Ave.)は3%以上であった。
また、目視によりLN基板の色ムラ(リング状色ムラ)を調べたところ、結晶肩部に近い部位から得られたLN基板にリング状色ムラが生じており、5%のLN基板が色ムラ不良となった。
5%のLN基板が色ムラ不良になった原因は、上記LN基板(基板状LN単結晶)の結晶性を改善させる熱処理時間が200時間と短く、「240時間以上」の条件外であったため、基板状LN単結晶内のマイクロボイドが完全に消滅しなかったためと思われる。
発明に係るニオブ酸リチウム基板の製造方法によれば、マイクロボイドに起因したリング状色ムラの発生が抑制されて体積抵抗率の面内分布にバラツキの少ないニオブ酸リチウム基板を安定して製造することが可能となる。このため、表面弾性波素子(SAWフィルター)用の基板材料に用いられる産業上の利用可能性を有している。
α 自然対流
β 強制対流
1 種結晶
10 単結晶育成装置
11 チャンバー
12 坩堝
13 坩堝台
14、19 耐火物
15 ワークコイル
16 シード棒
17 シードホルダ
18 単結晶育成原料
20 原料融液

Claims (2)

  1. チョクラルスキー法で育成されたニオブ酸リチウム単結晶を基板形状に加工し、該基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理してニオブ酸リチウム基板を製造する方法において、
    上記粉末に埋め込まれる前の基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理する工程と、
    熱処理された基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、上記粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理する工程、
    を有することを特徴とするニオブ酸リチウム基板の製造方法。
  2. チョクラルスキー法で育成されたニオブ酸リチウム単結晶を基板形状に加工し、該基板状ニオブ酸リチウム単結晶を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で還元処理してニオブ酸リチウム基板を製造する方法において、
    還元処理して製造されたニオブ酸リチウム基板から、リング状色ムラが発生したニオブ酸リチウム基板を選別する工程と、
    選別されたニオブ酸リチウム基板を、1100℃以上、1140℃未満の温度条件で、240時間以上熱処理する工程と、
    熱処理されたニオブ酸リチウム基板を、上記粉末に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度条件で、再度、還元処理する工程、
    を有することを特徴とするニオブ酸リチウム基板の製造方法。
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