JP7267817B2 - エステル交換油脂の製造方法 - Google Patents
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Description
一般的に、ジアシルグリセロールは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応、グリセリンと油脂とのグリセロリシス反応の方法により製造される。これらの製造法は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルコキシド等の化学触媒を用いた化学法と、リパーゼ等の酵素を用いた酵素法に大別される(例えば、特許文献1、2)。反応後のジアシルグリセロールは、食用に適する品質にするために、活性白土等を加えて脱色や、高温減圧下で水蒸気と接触させる脱臭が行われる(例えば、特許文献3)。
従って、本発明の課題は、グリセロリシス反応触媒として用いた水酸化カルシウムの中和後に容易に濾過することのできるエステル交換油脂の製造方法を提供することにある。
本明細書において、「油脂」と「油」とは同義であり、油脂(油)を構成する物質にはトリアシルグリセロールのみならずモノアシルグリセロールやジアシルグリセロールも含まれる。すなわち、油脂(油)は、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものである。
具体的な油脂としては、トリアシルグリセロールを主体とするものであり、例えば、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、オリーブ油、米油、紅花油、綿実油、胡麻油、あまに油等の植物性油脂を挙げることができる。油脂中のトリアシルグリセロールの含有量は、油脂の劣化抑制の点から、90~99.5質量%、更に93~99質量%であるのが好ましい。
油脂は、エステル交換油脂の乳化特性、及び取り扱いのし易さの点から、油脂を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸が70~95質量%と多い油脂が好ましい。好ましい不飽和脂肪酸の炭素数は14~24、更に16~22であるが、得られるエステル交換油脂の利用性の観点から、油脂を構成する脂肪酸中のリノレン酸が4~70質量%、更に6~60質量%と多い油脂が好ましい。
油脂は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明で用いられる水酸化カルシウムは、反応触媒として用いられるものであればよい。グリセリンと油脂とのグリセロリシス反応の触媒に水酸化カルシウムを用いることで、副生成物であるグリシドール脂肪酸エステルの生成が大きく抑えられる。
水酸化カルシウムの使用量は、反応性の点から、反応原料、すなわちグリセリンと油脂の合計に対して0.03質量%以上が好ましく、また、中和剤の量を低減できる点から、1質量%以下が好ましい。より好ましくは、反応原料に対して0.05~0.5質量%である。また、水酸化カルシウムの使用量は、同様の点から、反応原料、すなわちグリセリンと油脂のグリセリン基に対するモル比が、0.0025以上であることが好ましく、0.11以下であることが好ましく、0.004~0.06であることがより好ましい。なお、ここでいう「グリセリン基」とは、グリセリン及び油脂中のグリセリン骨格部分の合計を指す。
グリセリン基のモル数に対する脂肪酸基のモル数の比[FA/GLY]は、下式で表される。
FA/GLY=(脂肪酸のモル数+モノアシルグリセロールのモル数+ジアシルグリセロールのモル数×2+トリアシルグリセロールのモル数×3)/(グリセリンのモル数+モノアシルグリセロールのモル数+ジアシルグリセロールのモル数+トリアシルグリセロールのモル数)
また、反応は、通常、減圧下でも常圧でもよい。減圧下で行う場合の圧力は、特に限定されないが、反応促進の点から、400Pa以上が好ましく、また、エステル交換油脂の酸化を抑制する点から、26,600Pa以下が好ましい。また、常圧で行う場合、得られるエステル交換油脂の酸化を抑制するため、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
中和剤としては、特に制限されないが、水や油脂に不溶で、濾過で容易に除去できる点から、硫酸、塩酸、リン酸等の酸が好ましく、リン酸がより好ましい。
吸着剤としては、多孔質吸着剤が好ましく、例えば、活性炭、二酸化ケイ素、及び固体酸吸着剤が挙げられる。固体酸吸着剤としては、酸性白土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なかでも、風味及び色相を良好とする点から、活性炭、固体酸吸着剤が好ましく、酸性白土、活性白土がより好ましい。
酸性白土としては、例えば、ミズカエース#20、ミズカエース#400(以上、水澤化学工業(株)製)等の市販品を用いることができ、活性白土としては、例えば、ガレオンアースV2R、ガレオンアースNV、ガレオンアースGSF(以上、水澤化学工業(株)製)等の市販品を用いることができる。
濾過手段としては、吸引濾過、加圧濾過、遠心濾過等のいずれでも実施可能であり、油脂の脱色工程で使用される濾過機を使用することができる。
圧力は、減圧でも加圧でもよい。圧力は、特に限定されないが、生産性の点から、ゲージ圧(以下、圧力の数値において同じ)で0.01MPa以上が好ましく、0.03MPa以上がより好ましい。また、設備の耐圧、及び安全性の点から、5MPa以下が好ましく、3MPa以下がより好ましい。
低温での流動性、乳化特性の点から、エステル交換油脂におけるモノアシルグリセロールは少ないことが好ましく、その含有量は、10質量%以下、更に7質量%以下が好ましい。
(i)グリセリド組成の測定
遠心分離が可能な試験管に反応生成物のサンプルを約3g採取し、3000r/minで10分間遠心分離を行い、沈降した触媒を除去した。次いで、ガラス製サンプル瓶に、上層を約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学(株)製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.5mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、グリセリド組成の分析を行った。
濾過装置に投入した質量[a]、濾過された脱色油の質量[b]を用いて、式(1)から収率を算出した。
収率=b/a×100(%) (1)
グリセロリシス反応の原料となる脱臭菜種油974.7g及びグリセリン25.3gを、攪拌羽根(90mm×24mm)を取り付けた2L4ツ口フラスコに入れた。グリセリン基のモル数に対する脂肪酸残基のモル数の比[FA/GLY]は2.4であった。
次に、400r/minで攪拌しながら、80℃、400Paの条件で30分間減圧脱水した。次に、常圧に戻し、触媒として水酸化カルシウム(成績書濃度97.9%、関東化学(株)製)1.5gを添加した。次に、8000Paの減圧下で、温度140℃の条件にてグリセロリシス反応を行った。
反応開始から300分でジアシルグリセロール含量が平衡に達した後、90℃に冷却し、中和剤としてリン酸(成績書濃度85.5%、富士フィルム和光純薬(株)製)を2.83g添加して、60分混合して反応生成物を得た。水酸化カルシウムに対するリン酸のモル比は1.25であった。また、反応生成物の分析結果は表1のとおりであった。
脱色開始から60分後、80℃に冷却し、80℃でジャケット保温された濾過装置に移して、定圧濾過を行い、濾液(脱色油)を回収した。濾過は、濾過面積39cm2、濾紙(No.24 安積濾紙(株)製)、加圧圧力0.08MPaの条件とした。
表1に、各条件、濾液が250mL得られる濾過時間、及び脱色油の収率を示した。
リン酸(成績書濃度85.5%)を3.17g添加した以外は、実施例1と同様にグリセロリシス反応、脱色処理、及び定圧濾過を行い、濾液(脱色油)を回収した。水酸化カルシウムに対するリン酸のモル比は1.40であった。
表1に、各条件、濾液が250mL得られる濾過時間、及び脱色油の収率を示した。
リン酸(成績書濃度85.5%)を4.23g添加した以外は、実施例1と同様にグリセロリシス反応、脱色処理、及び定圧濾過を行い、濾液(脱色油)を回収した。水酸化カルシウムに対するリン酸のモル比は1.86であった。
表1に、各条件、濾液が250mL得られる濾過時間、及び脱色油の収率を示した。
リン酸(成績書濃度85.5%)を5.29g添加した以外は、実施例1と同様にグリセロリシス反応、脱色処理、及び定圧濾過を行い、濾液(脱色油)を回収した。水酸化カルシウムに対するリン酸のモル比は2.33であった。
表1に、各条件、濾液が250mL得られる濾過時間、及び脱色油の収率を示した。
リン酸(成績書濃度85.5%)を1.76g添加した以外は、実施例1と同様にグリセロリシス反応、脱色処理、及び定圧濾過を行い、濾液(脱色油)を回収した。濾過が遅く120分で中止した。水酸化カルシウムに対するリン酸のモル比は0.78であった。
表1に、各条件、濾液が250mL得られる濾過時間、及び脱色油の収率を示した。
リン酸(成績書濃度85.5%)を2.38g添加した以外は、実施例1と同様にグリセロリシス反応、脱色処理、及び定圧濾過を行い、濾液(脱色油)を回収した。水酸化カルシウムに対するリン酸のモル比は1.05であった。濾過が遅く180分で中止した。
表1に、各条件、濾液が250mL得られる濾過時間、及び脱色油の収率を示した。
リン酸(成績書濃度85.5%)を2.65g添加した以外は、実施例1と同様にグリセロリシス反応、脱色処理、及び定圧濾過を行い、濾液(脱色油)を回収した。水酸化カルシウムに対するリン酸のモル比は1.16であった。濾過が遅く180分で中止した。
表1に、各条件、濾液が250mL得られる濾過時間、及び脱色油の収率を示した。
中和剤として塩酸(成績書濃度36.0%)を3.73g添加した以外は、実施例1と同様にグリセロリシス反応、脱色処理を行い、定圧濾過を行った。水酸化カルシウムに対する塩酸のモル比は1.86であった。表1に、各条件及び結果である濾液が250mL得られる濾過時間、脱色油の収率を示した。
Claims (6)
- 水酸化カルシウムの存在下、グリセリンと油脂を反応させる工程を含む、エステル交換油脂の製造方法であって、
グリセリンと油脂の合計に対して水酸化カルシウムを0.05~0.5質量%添加して、120~200℃にて反応させる工程の後、水酸化カルシウムに対して中和剤を1.2モル倍以上添加して、水酸化カルシウムを中和する工程を含む、エステル交換油脂の製造方法。 - グリセリンと油脂を反応させる工程におけるグリセリン基のモル数に対する油脂中の脂肪酸基のモル数の比が2.1以上、2.7以下である請求項1記載のエステル交換油脂の製造方法。
- 水酸化カルシウムを中和する工程における水酸化カルシウムに対する中和剤のモル比が1.8以上である請求項1又は2記載のエステル交換油脂の製造方法。
- 中和剤が硫酸、塩酸及びリン酸から選択される1種以上の酸である請求項1~3のいずれか1項に記載のエステル交換油脂の製造方法。
- 中和工程の後、中和油に吸着剤を接触させる脱色工程を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のエステル交換油脂の製造方法。
- 吸着剤が活性炭及び固体酸吸着剤から選択される1種又は2種以上である請求項5記載のエステル交換油脂の製造方法。
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