JP7267607B2 - 細胞培養装置、培養液アスピレータ及び細胞培養方法 - Google Patents

細胞培養装置、培養液アスピレータ及び細胞培養方法 Download PDF

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Description

本発明は、細胞培養装置、培養液アスピレータ及び細胞培養方法に関する。
[発明の背景]
胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞(pluripotent stem cell)を用いた再生医療の臨床応用のためには、ディッシュやフラスコを用いた実験室的培養手法を量的に拡大(スケールアップ)し、一定以上の品質の細胞を大量かつ低コストに製造可能な培養装置の開発が必要である。細胞の大量培養プロセスの確立には、酸素の供給や培養液の交換の効率化が重要であり、増殖因子の使用量削減などを介した低コスト化も求められる。
細胞の培養方法として、細胞外基質やフィーダー細胞で被覆した培養器表面に細胞を接着させて培養を行う接着培養と、培養液中に細胞を浮遊させて培養を行う浮遊培養(懸濁培養)とがある。接着培養では、細胞の最大収量は培養面積に依存するが、浮遊培養では、細胞の最大収量は培養液体積に依存する。このため、スケールアップには浮遊培養が有利である。
多能性幹細胞などの細胞は、浮遊培養されると凝集体を形成する。非特許文献1には、スピナーフラスコを用いて細胞の過剰な凝集を抑制しつつ培養液流による剪断応力によって細胞死が引き起こされないように培養液を撹拌し、多能性幹細胞を安定的に増殖させる技術が開示されている。
Olmer R, et al., "Suspension culture of human pluripotent stem cells in controlled, stirred bioreactors.", Tissue Eng. Part. C Methods, 2012, 18(10):772-84.
実験室的培養手法における培養液の交換は、遠心分離等によって細胞を培養液から分離し、分離した細胞を新たな培養液に再懸濁することによって行うことができる。しかし、浮遊培養による大量培養では、遠心分離等の細胞分離操作の実施は困難であるため、細胞の凝集体を自然沈降させることによって細胞と培養液とを分離して培養液の交換を行っている。この培養液の交換は、培養液の攪拌を一時停止して細胞の自然沈降を待つ時間が必要となるため、手間を要し、かつ当該時間における細胞増殖や細胞の性質の不安定化および不均質化を生じさせるおそれがあった。
本発明は、細胞の大量培養に好適な細胞浮遊培養装置を提供することを主な目的とする。
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]~[4h]を提供する。
[1] 外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータと、浮遊培養槽と、を備える細胞培養装置であり、
前記培養液アスピレータにおいて、
前記外管は、培養液を通液させるフィルタを備え、
前記内管は、前記フィルタを通液した培養液の吸引口を備え、
前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部とを連絡する空気孔が設けられている、細胞培養装置。
[1a] 前記培養液アスピレータを、前記フィルタをその下方に位置させて配置した場合に、前記空気孔が前記吸引口よりも上方に設けられている、[1]の細胞培養装置。
[1b] 前記内管は、前記浮遊培養槽への挿入方向先端が前記吸引口として構成され、反対端の管口がポンプに接続される、[1]又は[1a]の細胞培養装置。
[1c] 前記外管は、前記浮遊培養槽への挿入方向先端に前記フィルタを備え、反対端が前記内管の挿入口として構成され、
前記挿入口における、前記外管の内腔面と前記内管外面との間隙が前記空気孔として構成されている、[1b]の細胞培養装置。
[1d] 前記外管は、外周面に前記フィルタを備える、[1b]の細胞培養装置。
[2] 前記浮遊培養槽へ培養液を供給する培養液供給路をさらに備える、[1]、[1a]-[1d]のいずれかの細胞培養装置。
[2a] 前記浮遊培養槽が、培養液を攪拌するための攪拌器を備える、[1]、[1a]-[1d]、[2]のいずれかの細胞培養装置。
[2b] 前記培養液アスピレータの作動時に、前記攪拌器も作動するように構成された、[2a]の細胞培養装置。
[3] 外管と、該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータであり、
前記外管は、培養液を通液させるフィルタを備え、
前記内管は、前記フィルタを通液した培養液の吸引口を備え、
前記外管の培養液への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部とを連絡する空気孔が設けられている、培養液アスピレータ。
[3a] 前記内管は、培養液への挿入方向先端が前記吸引口として構成され、反対端の管口がポンプに接続される、[3]の細胞培養装置。
[3b] 前記外管は、培養液への挿入方向先端に前記フィルタを備え、反対端が前記内管の挿入口として構成され、
前記挿入口における、前記外管の内腔面と前記内管外面との間隙が前記空気孔として構成されている、[3a]の細胞培養液アスピレータ。
[3c] 前記外管は、外周面に前記フィルタを備える、[3a]の細胞培養装置。
[3d] [3]、[3a]-[3c]のいずれかの細胞培養液アスピレータを構成し、前記内管と組み合わせて用いられ得る前記外管。
[3e] [3]、[3a]-[3c]のいずれかの細胞培養液アスピレータを構成し、前記外管と組み合わせて用いられ得る前記内管。
[4] 浮遊培養槽における細胞培養方法であり、
外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータを用いて前記浮遊培養槽内の培養液を前記浮遊培養槽外に排出する手順を含み、
ここで、前記培養液アスピレータにおいて、
前記外管は、培養液を通液させるフィルタを備え、
前記内管は、前記フィルタを通液した培養液の吸引口を備え、
前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部を連絡する空気孔が設けられている、細胞培養方法。
[4a] 前記手順において前記浮遊培養槽への培養液の供給が同時に(concurrently)行われる、[4]の細胞培養方法。
[4b] 前記手順において前記浮遊培養槽へ培養液を供給しながら排出を行い、これによって培養液が交換される、[4a]の細胞培養方法。
[4c] 培養液の攪拌器を備えた、気密な浮遊培養槽における細胞培養方法であり、
外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータを用いて前記浮遊培養槽内の培養液を前記浮遊培養槽外に排出する手順を含み、
ここで、前記培養液アスピレータにおいて、
前記外管は、培養液を通液させるフィルタを備え、
前記内管は、前記フィルタを通液した培養液の吸引口を備え、
前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部を連絡する空気孔が設けられている、細胞培養方法。
[4d] 前記手順において前記攪拌器の作動が維持される、[4c]の細胞培養方法。
[4e] 前記手順において前記浮遊培養槽への培養液の供給が同時に(concurrently)行われる、[4d]又は[4c]の細胞培養方法。
[4f] 前記手順において前記浮遊培養槽へ培養液を供給しながら排出を行い、これによって培養液が交換される、[4e]の細胞培養方法。
[4g] 浮遊培養槽の培養液を排出する又は交換する方法であり、
外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータを用いて前記浮遊培養槽内の培養液を前記浮遊培養槽外に排出する手順を含み、
ここで、前記培養液アスピレータにおいて、
前記外管は、培養液を通液させるフィルタを備え、
前記内管は、前記フィルタを通液した培養液の吸引口を備え、
前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部を連絡する空気孔が設けられている、方法。
[4h] 多能性幹細胞又は多能性幹細胞由来細胞を浮遊培養層内で分化させる方法であり、
該浮遊培養槽の培養液を排出する又は交換する手順を含み、
該手順において、外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータを用いて前記浮遊培養槽内の培養液を前記浮遊培養槽外に排出する、
ここで、前記培養液アスピレータにおいて、
前記外管は、培養液を通液させるフィルタを備え、
前記内管は、前記フィルタを通液した培養液の吸引口を備え、
前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部を連絡する空気孔が設けられている、方法。
また、本発明は、上記課題解決のため、以下の[5]~[8]をも提供する。
[5] 浮遊培養槽と、培養液アスピレータと、を含んでなる細胞培養装置であり、
前記培養液アスピレータは近位端と遠位端とを有し、
該近位端の管口が培養液の吸引口として構成され、
該遠位端の管口がポンプに接続され、
前記浮遊培養槽は、培養液を攪拌するための攪拌器と、培養液を通流させるフィルタと、を備え、
前記フィルタは、前記浮遊培養槽の槽内を、前記攪拌器が配設されている第一の領域と、前記培養液アスピレータが挿入されている第二の領域とに区分する、
細胞培養装置。
[6] 前記フィルタが前記浮遊培養槽の槽内に鉛直あるいは略鉛直に配設されている、[5]の細胞培養装置。
[7] 前記培養液アスピレータの作動時に、前記攪拌器も作動するように構成された、[5]又は[6]の細胞培養装置。
[8] 前記浮遊培養槽へ培養液を供給する培養液供給路をさらに備える、[5]-[7]のいずれかの細胞培養装置。
本明細書において、「培養」または「培養する」とは、組織外又は体外で、例えば、細胞培養ディッシュ、フラスコ、あるいは培養槽(タンク)中で細胞を維持させ、持続させ、増殖させ、かつ/又は分化させることを意味する。好ましくは、「培養」または「培養する」とは、組織外又は体外で、培養槽(タンク)中で細胞を分化させることを意味する。
別の態様としては、好ましくは、「培養」または「培養する」とは、組織外又は体外で、培養槽(タンク)中で細胞を維持または増殖させることを意味する。
本明細書において、「多能性(pluripotency)」とは、種々の異なった形態や機能を持つ組織や細胞に分化でき、3胚葉のどの系統の細胞にも分化し得る能力を意味する。「多能性(pluripotency)」は、胚盤には分化できず、したがって個体を形成する能力はないという点で、胚盤を含めて、生体のあらゆる組織に分化しうる「全能性(totipotency)」とは区別される。
本明細書において、「多能性(multipotency)」とは、複数の限定的な数の系統の細胞へと分化できる能力を意味する。例えば、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞はmultipotentだが、pluripotentではない。
本発明により、細胞の大量培養に好適な細胞浮遊培養装置が提供される。
本発明に係る細胞培養装置の構成を説明する図である。 本発明の第一実施形態に係る培養液アスピレータの構成を説明する斜視図である。 本発明の第一実施形態に係る培養液アスピレータの構成を説明する断面図(図2中P-P断面)である。 本発明の第一実施形態に係る培養液アスピレータの変形例の構成を説明する断面図である。 本発明の第二実施形態に係る培養液アスピレータ、特に外管、の構成を説明する図である。 本発明の第二実施形態に係る培養液アスピレータ、特に内管、の構成を説明する図である。 本発明(第2発明)に係る細胞培養装置の構成を説明する図である。 実施例1の培養4日目の細胞の位相差顕微鏡像を示す。 比較例1の培養4日目の細胞の位相差顕微鏡像を示す。 実施例1及び比較例1の培養4日目の細胞凝集体のサイズ分布を示す。
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
[細胞培養装置(第1発明)]
本発明に係る細胞培養装置は、外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータと、浮遊培養槽と、を備える。培養液アスピレータにおいて、前記外管は、培養液を通液させるフィルタを備える。また、前記内管は、前記フィルタを通液した培養液の吸引口を備え、前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部とを連絡する空気孔が設けられている。なお、ここにいう「外管の外部」は、培養液アスピレータの浮遊培養槽への挿入時においては、培養槽内の気相に相当してもよい。
図1に、本発明に係る細胞培養装置の構成を示す。細胞培養装置Aは、本発明の第一実施形態に係る培養液アスピレータ1と、細胞と培養液とを貯留する、気密な浮遊培養槽2と、を備える。培養液アスピレータ1は、浮遊培養槽2内の培養液を外部に排出するために機能する。図中符号3は培養液供給路であり、符号4は空気供給路を示す。培養液供給路3は、浮遊培養槽2内へ培養液を供給するために機能する。空気供給路4は、浮遊培養槽2内へ空気を供給するために機能する。符号5は攪拌器であり、撹拌子51を備える。攪拌器5は、撹拌子51を回転又は上下動させることによって浮遊培養槽2内の培養液を攪拌する。培養液アスピレータ1は、培養供給路をかねていてもよい。
図1-図3を参照して本発明の第一実施形態に係る培養液アスピレータ1の構成を説明する。培養液アスピレータ1は、外管11と、外管11の内腔111に挿入された内管12とからなる二重管構造を有する。外管11は遠位端と近位端を有し、遠位端から近位端にいたる内腔111を有する。近位端を培養液アスピレータ1の浮遊培養槽2への挿入方向下側(図下方)、遠位端を同上側(図上方)と定義する。内管12も同様に遠位端と近位端を有し、遠位端から近位端にいたる内腔を有する。
外管11は、細胞の凝集体を透過させず、培養液を通液させるフィルタ13を備える。外管11におけるフィルタ13の配設位置は、浮遊培養槽2への挿入時に培養液中に浸漬され得る部位であれば特に限定されないが、例えば図に示すように浮遊培養槽2への挿入方向先端に設けることができる。
外管11の材質は、従来細胞の培養に用いられている、金属、ガラス、ポリスチレン及びポリプロピレン等の樹脂材料を好適に用いることができる。これらの材料には、細胞やタンパク質の付着を防止するためのコーティングを施してもよい。コーティング剤としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー、Pluronic F127、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられるが、MPCポリマーが好ましい。
外管11の形状や直径、長さは特に限定されない。形状は、円柱又は多角柱であってよく、一部又は全部がテーパ状に形成されていてもよい。直径(内径)及び長さは、浮遊培養槽2の容積(すなわち培養スケール)に応じて適宜設定され得る。
例えば浮遊培養槽2の容積が250mLの場合、直径は0.5cm程度であり、長さは5-10cm程度である。同容積が2000Lの場合、直径は10cm程度であり、長さは200-250cm程度である。したがって、外管11の直径は例えば0.5-10cm、長さは5-250cmである。外管11の長さは、培養液の深さD(図1参照)に対して5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは25%以上長くされる。
フィルタ13には、従来細胞の分離に用いられている、ナイロン及びポリエステル等の樹脂製メッシュ又はメンブレンを好適に用いることができる。フィルタ13の材質は、樹脂のほか、金属、ガラス及び繊維などであってもよい。これらの材料には、細胞やタンパク質の付着を防止するためのコーティングを施してもよい。コーティング剤としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー、Pluronic F127、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられるが、MPCポリマーが好ましい。メッシュサイズあるいはポアサイズは、培養の目的とする細胞と該細胞が形成する凝集体のサイズに応じて適宜設定され得る。フィルタ13の形状や直径、厚さは特に限定されない。形状は、円形又は多角形であってよい。直径は、例えば外管の直径に合わせて0.5-10cmであってよいが、外管11の直径よりも小さくてもよい。フィルタ13は、培養液交換の効率を上げるため、後述する第二実施形態のように、外管11の外周面に配設されてもよい。厚さは、例えば0.05~2mm程度である。フィルタ13は交換可能に配設されていてよい。フィルタ13は、外管11の一部もしくは全部と一体となって立体形状(例えば、球体、球体の変形立体、円錐、円錐台、多面体)を構成することもできる。
本発明において、培養の目的とする細胞には、浮遊培養下で増殖して凝集体を形成し得る細胞が広く含まれ得る。ここにいう「凝集体」には、細胞に加えて、該細胞が接着する担体が含まれていてもよい。細胞が付着可能な浮遊培養用の担体は、マイクロキャリアと称され、ポリスチレン、セルロース及びデキストランなどからなる粒子が市販されている。本発明の培養の目的とする細胞には、これらの担体への接着能を有し、担体への接着状態で浮遊培養され得る細胞も広く包含され得る。
培養の目的とする細胞は、1種類又は2種類以上であってよい。
例えば、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)、多能性幹細胞(multipotent stem cell)、多能性幹細胞由来細胞、癌細胞、及び株化細胞等が挙げられる。
「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」とは、胚性幹細胞(ES細胞)及びこれと同様の分化多能性、すなわち生体の様々な組織(内胚葉、中胚葉、外胚葉の全て)に分化する能力を潜在的に有する細胞を指す。ES細胞と同様の分化多能性を有する細胞としては、「人工多能性幹細胞」(本明細書中、「iPS細胞」と称することもある)が挙げられる。
「ES細胞」としては、マウスES細胞であれば、inGenious targeting laboratory社、理研(理化学研究所)等が樹立した各種マウスES細胞株が利用可能であり、ヒトES細胞であれば、米国ウイスコンシン大Thomsonら、米国NIH、理研、京都大学、Cellartis社が樹立した各種ヒトES細胞株が利用可能である。たとえば、ヒトES細胞株としては、NIHのCHB-1~CHB-12株、RUES1株、RUES2株、HUES1~HUES28株等、WisCell ResearchのH1株、H9株、理研のKhES-1株、KhES-2株、KhES-3株、KhES-4株、KhES-5株、SSES1株、SSES2株、SSES3株等を利用することができる。
「人工多能性幹細胞」とは、哺乳動物体細胞又は未分化幹細胞に、特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞を指す。現在、「人工多能性幹細胞」にはさまざまなものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPS細胞(Takahashi K, Yamanaka S., Cell, (2006) 126: 663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPS細胞(Takahashi K, Yamanaka S., et al. Cell, (2007) 131: 861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPS細胞(Okita, K., Ichisaka, T., and Yamanaka, S. (2007). Nature 448, 313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPS細胞(Nakagawa M, Yamanaka S., et al. Nature Biotechnology, (2008) 26, 101 - 106)、ウイルスフリー法で6因子を導入して樹立されたiPS細胞(Okita K et al. Nat. Methods 2011 May;8(5):409-12, Okita K et al. Stem Cells. 31(3):458-66.)も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4因子を導入して樹立された人工多能性幹細胞(Yu J., Thomson JA. et al., Science (2007) 318: 1917-1920.)、Daleyらにより作製された人工多能性幹細胞(Park IH, Daley GQ. et al., Nature (2007) 451: 141-146)、桜田らにより作製された人工多能性幹細胞(特開2008-307007号)等も用いることができる。
このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y., Ding S., et al., Cell Stem Cell, (2008) Vol3, Issue 5,568-574;、Kim JB., Scholer HR., et al., Nature, (2008) 454, 646-650;Huangfu D., Melton, DA., et al., Nature Biotechnology, (2008) 26, No 7, 795-797)、あるいは特許(例えば、特開2008-307007号、特開2008-283972号、US2008-2336610、US2009-047263、WO2007-069666、WO2008-118220、WO2008-124133、WO2008-151058、WO2009-006930、WO2009-006997、WO2009-007852)に記載されている当該分野で公知の人工多能性幹細胞のいずれも用いることができる。
人工多能性細胞株としては、NIH、理化学研究所(理研)、京都大学等が樹立した各種iPS細胞株が利用可能である。例えば、ヒトiPS細胞株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、京都大学のFf-WJ-18株、Ff-I01s01株、Ff-I01s02株、Ff-I01s04株、Ff-I01s06株、Ff-I14s03株、Ff-I14s04株、QHJI01s01株、QHJI01s04株、QHJI14s03株、QHJI14s04株253G1株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株、CDI社のMyCell iPS Cells(21525.102.10A)株、MyCell iPS Cells(21526.101.10A)株、等が挙げられる。
容易に入手可能な人工多能性細胞株としては、NIH、理研、京都大学等が樹立した各種iPS細胞株がある。例えば、ヒトiPS細胞株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、京都大学の253G1株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株等が挙げられる。
多能性幹細胞由来細胞とは、多能性幹細胞より分化誘導される細胞を示し、特に限定されないが、心筋細胞、胚体内胚葉細胞、原腸管細胞、後前腸細胞、膵前駆細胞、神経前駆細胞、肝細胞及び血管内皮細胞等が上げられる。
癌細胞としては、特に限定されないが、肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌及び食道癌等に由来する癌細胞が挙げられる。
株化細胞としては、特に限定されないが、MRC-5、GL37、Vero及びCHO等が挙げられる。
これらの細胞のサイズは、通常10~20μm程度である。細胞凝集体のサイズは、通常20~1000μm程度であり、培養の目的に応じて特には20-400μm程度である。
したがって、メッシュサイズあるいはポアサイズを目的とする細胞凝集体のサイズよりも小さく設定すれば、フィルタ13において、目的とするサイズ以上の大きさの細胞凝集体を透過させずに、目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非凝集細胞及び培養液を通液させることができる。非凝集細胞には死細胞が含まれ得る。メンブレンを用いる場合、そのポアサイズは、例えば15-995μm程度、例として15、50、100、150、200、250、300、350、395、450、500、550、600、650、700、750、800、850、995μmであり、好ましくは15-395μm程度、、特には15-40μm程度である。あるいは、ポアサイズは、目的とする細胞凝集体のサイズよりも5μm程度小さくされることが好ましい。メッシュサイズ(目開き)についても、ポアサイズと同じサイズでよい。
内管12は、フィルタ13を通液した培養液を吸引する吸引口121を備える。吸引口121からは、フィルタ13を通液した培養液とともに目的サイズ未満の細胞凝集体及び非凝集細胞、細胞破片(debris)も吸引される。吸引口121から吸引された培養液、目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体及び非凝集細胞は、内管12の内腔を通流して浮遊培養槽2の外部へ排出される。内管12における吸引口121の配設位置は、浮遊培養槽2への挿入時にフィルタ13を通液した培養液中に浸漬され得る部位であれば特に限定されないが、浮遊培養槽2への挿入方向先端(近位端)に設けられていることが好ましい。
吸引口121の形状や直径は特に限定されない。形状は、円孔又は多角孔であってよい。直径(内径)は、例えば0.01-3cm程度である。
内管12の材質は、外管11の材質と同様であってよく、金属、ガラス、ポリスチレン及びポリプロピレン等の樹脂材料が好適に用いられる。これらの材料には、細胞やタンパク質の付着を防止するためのコーティング(例えば、MPCコート)を施してもよい。
内管12の形状や直径、長さは特に限定されない。形状は、円柱又は多角柱であってよく、一部又は全部がテーパ状に形成されていてもよい。直径(内径)は、例えば0.04-3cm程度である。外管11の近位端に配設されたフィルタ13と、内管12の近位端に配設された吸引口121との距離h(図3参照)は、特に限定されないが、外管の長さの1/10~1/50程度とされることが好ましい。
内管12の吸引口121との反対端(遠位端)は、培養液等の吸引のための陰圧源となるポンプに接続されている。ポンプには、細胞培養装置において従来培養液を送液するために用いられているものを採用できる。ポンプによる培養液の吸引は、浮遊培養槽2の容積(培養スケール)に応じて適宜設定され得る。例えば浮遊培養槽2の容積が250mLの場合は毎分0.1-10ml程度であり、2000Lの場合は毎分0.8-80L程度である。ポンプによる培養液の吸引は、連続的あるいは間欠的に行われてよい。
外管11は、浮遊培養槽2への挿入方向遠位に、内腔111と外部とを連絡する空気孔112を有する。空気孔112は、外管11の内腔111内の陰圧を外部(浮遊培養槽2内の気相)に逃がすために機能する。
空気孔112の形状や大きさは特に限定されない。形状は、四角形、多角形、円形又は楕円形であってよい。大きさは、外管11の内腔111内の陰圧を外部に逃がすために十分な大きさであればよい。
外管11と内管12は、外管11の内腔111内の空気の通流を妨げないように結合される。例えば、図3に示されるように、内管12が外管11の上部端面を貫通する部位にて外管11と内管12との結合がなされていてよい。あるいは、外管11から内腔111へ支持部材を突設し、当該支持部材に内管11を結合してもよい。
別の態様として、外管11と内管12は結合していなくてもよく、例えば、図1に示されるように、外管11が浮遊培養槽2の底面に結合され、内管12が浮遊培養槽2の上面を貫通する部位にて内管12が浮遊培養槽2の上面に結合していてもよい。
内管12の吸引口121からの培養液等の吸引によって外管11の内腔111に過剰な陰圧が加わると、フィルタ13を介した培養液等の吸引圧が大きくなり過ぎ、メッシュサイズあるいはポアサイズ以上の大きさの細胞凝集体がフィルタ13に目詰まりしてしまうおそれがある。フィルタ13に目詰まりが生じると、培養液の交換が不能となったりフィルタ全面での均一ろ過が不能となって培養液の交換が遅滞したりする。内腔111内の陰圧が空気孔112から外部に逃げることより、内腔111に過剰な陰圧が加わることを防止できる。これによって、メッシュサイズあるいはポアサイズ以上の大きさの細胞凝集体がフィルタ13に目詰まりすることを抑制しつつ、目的サイズ未満の細胞凝集体及び非凝集細胞をフィルタ13に通過させて、目的サイズの大きさの細胞凝集体のみを浮遊培養槽2に残すことができる。また、仮にフィルタ13に目詰まりが生じたとしても、内管12による吸引を止めるだけで空気孔112から内腔111内に空気が流入して内腔111内の陰圧がキャンセルされるので、通常のフィルタを用いた培養液交換で目詰まりを解消するために必要とされるバックフロー作業をせずに目詰まりを解消できる。
外管11における空気孔112の配設位置は、外管11の浮遊培養槽2への挿入時に浮遊培養槽2内の気相に位置し得る部位(培養液中に浸漬されない部位)であれば特に限定されない。培養液アスピレータ1を、フィルタ13をその下方に位置させて配置した場合に、空気孔112が吸引口121よりも上方に設けられていることが必要である。さらに、外管11においてフィルタ13が浮遊培養槽2への挿入方向先端(近位端)に設けられる場合、フィルタ13と空気孔112との距離(図3中符号H参照)は、浮遊培養槽2における培養液の深さD(図1参照)に比べて十分大きくされることが好ましい。距離Hは、培養液の深さDに対して105%以上、好ましくは110%以上、より好ましくは115%以上、さらに好ましくは120%以上、特に好ましくは125%以上大きくされる。
空気孔112は、図4に示すように、外管11における内管12の挿入口として構成されていてもよい。この場合においては、挿入口における、外管11の内腔面と内管12の外面との間隙が空気孔112として機能する。
図5及び図6を参照して本発明の第二実施形態に係る培養液アスピレータ6の構成を説明する。培養液アスピレータ6は、第一実施形態に係る培養液アスピレータ1に比して、フィルタ63が外管61の外周面に配設されている点で異なる。以下に特に言及しない培養液アスピレータ6の構成は、培養液アスピレータ1の構成と同様であってよいものとする。
フィルタ63は、外管61に設けられた開口窓に張り付けられたものとできる。目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体及び非凝集細胞、細胞破片(debris)はフィルタ63を通過して内腔611に導入され、内管62の吸引口621から吸引されて内管62の内腔を通流し、外部へ排出される。
外管61及び内管62の材質、形状や直径、長さは、第一実施形態に係る培養液アスピレータ1と同様である。
外管61におけるフィルタ63の配設位置は、浮遊培養槽2への挿入時に培養液中に浸漬され得る部位であれば特に限定されない。フィルタ63は、外管61の外周面において、浮遊培養槽2への挿入方向先端(近位端)と空気孔612の配設位置との間の任意の領域に任意の面積で設けることができる。フィルタ63は外管61の外周面に1つ又は2つ以上配設されていてよい。外管61の外周面に占めるフィルタ63の合計面積の割合は、例えば10%、20%、30%、好ましくは40%、50%、60%、より好ましくは70%、80%、特に好ましくは90%、95%である。フィルタ63の形状や厚さも特に限定されない。形状は、円形又は多角形であってよい。厚さは、例えば0.1~2mm程度である。
内管62における吸引口621の配設位置は、浮遊培養槽2への挿入時にフィルタ63を通液した培養液中に浸漬され得る部位であれば特に限定されないが、浮遊培養槽2への挿入方向先端(近位端)に設けられていることが好ましい。吸引口621の形状や直径は、第一実施形態に係る培養液アスピレータ1と同様である。
外管61における空気孔612の配設位置は、外管61の浮遊培養槽2への挿入時に浮遊培養槽2内の気相に位置し得る部位(培養液中に浸漬されない部位)であれば特に限定されない。培養液アスピレータ6を、フィルタ63をその下方に位置させて配置した場合に、空気孔612が吸引口621及びフィルタ63よりも上方に設けられていることが必要である。
なお、浮遊培養槽2への挿入時において、フィルタ63の一部が、培養液中に浸漬されず、浮遊培養槽2内の気相に位置する場合がある。例えば、培養液の排出に伴って培養液の液面が下がった場合には、フィルタ63のうち上方部が浮遊培養槽2内の気相に露出することとなる。このように、フィルタ63の一部が、培養液中に浸漬されずに浮遊培養槽2内の気相に露出した場合には、フィルタ63の当該部分が、空気孔612と同様に、外管61の内腔611内の陰圧を外部(浮遊培養槽2内の気相)に逃がすために機能し得る。
浮遊培養槽2は、細胞と培養液とを貯留する機能を有する、気密なタンクである(図1を再参照)。
培養液供給路3は、新たな培養液を浮遊培養槽2内へ連続的あるいは間欠的に供給するために機能する。好ましくは、培養液供給路3は、連続的に培養液を供給するものとされる。この場合において、細胞培養槽Aは、浮遊培養槽2内から培養液アスピレータ1によって培養液を排出すると同時に、同量の新たな培養液を培養液供給路3によって浮遊培養槽2内に供給する灌流培養装置として構成され得る。
空気供給路4は、浮遊培養槽2内へ空気を供給するために機能する。空気供給路4は、浮遊培養槽2の底面に沿って延設されて該底面近くから上方に気泡を吐出するよう構成されることが好ましい。
攪拌器5には、例えば撹拌子51を回転又は上下動させることによって浮遊培養槽2内の培養液を攪拌する構成のものを採用できる。
浮遊培養槽2、培養液供給路3、空気供給路4及び攪拌器5には、従来細胞培養に用いられているタンクやチューブ、機器を適宜採用でき、上述した機能を発揮し得る機器等であれば広く採用可能である。
これらに加えて、細胞培養装置Aは、浮遊培養槽2内の培養液の温度を制御するための過冷却手段(サーマルジェット)や、培養液の温度や酸素濃度、栄養因子等の濃度などを検出するためのプローブを有していてもよい。また、プローブから出力を受け、プローブによる温度の検出値に基づいて過冷却手段の制御を行うシステムユニットを有していてもよい。システムユニットは、プローブから出力を受け、プローブによる酸素濃度や栄養因子等の濃度の検出値に基づいて、空気供給路4による空気供給量の制御や、培養液供給路3と培養液アスピレータ1による培養液の供給/排出量を制御するものであってもよい。
本発明に係る細胞培養装置Aでは、メッシュサイズあるいはポアサイズ以上の大きさの細胞凝集体がフィルタ13に目詰まりすることを抑制しつつ、目的サイズ未満の細胞凝集体及び非凝集細胞、細胞破片(debris)をフィルタ13に通過させて浮遊培養槽2から取り除き、目的サイズの大きさの細胞凝集体のみを浮遊培養槽2に残して、培養液を交換できる。したがって、本発明に係る細胞培養装置Aでは、大量培養時においても培養液交換のために攪拌器5を一時停止して細胞の自然沈降を待つ時間が必要なく、培養液交換にかかる時間を短縮でき、かつ細胞増殖や細胞の性質の不安定化および不均質化が生じることも抑制できる。特に、本発明に係る細胞培養装置Aによれば、従来培養液の攪拌を一時停止させる間に生じていた細胞の過剰な凝集(目的サイズよりも過大な凝集体の形成)を抑制できる。
[細胞培養装置(第2発明)]
本発明(第2発明)に係る細胞培養装置は、浮遊培養槽と、培養液アスピレータと、を含んでなる。前記培養液アスピレータは近位端と遠位端とを有し、該近位端の管口が培養液の吸引口として構成され、該遠位端の管口がポンプに接続される。前記浮遊培養槽は、培養液を攪拌するための攪拌器と、培養液を通流させるフィルタと、を備える。前記フィルタは、前記浮遊培養槽の槽内を、前記攪拌器が配設されている第一の領域と、前記培養液アスピレータが挿入されている第二の領域とに区分する。
図7を参照して本発明(第2発明)に係る細胞培養装置Bの構成を説明する。細胞培養装置Bは、細胞と培養液とを貯留する浮遊培養槽7と、浮遊培養槽7内の培養液を外部に排出する培養液アスピレータ9と、を備える。
図中符号3は培養液供給路であり、符号4は空気供給路を示す。培養液供給路3は、新たな培養液を浮遊培養槽7内へ連続的あるいは間欠的に供給するために機能する。好ましくは、培養液供給路3は、連続的に培養液を供給するものとされる。この場合において、細胞培養槽Bは、浮遊培養槽7内から培養液アスピレータ9によって培養液を排出すると同時に、同量の新たな培養液を培養液供給路3によって浮遊培養槽7内に供給する灌流培養装置として構成され得る。空気供給路4は、浮遊培養槽7内へ空気を供給するために機能する。空気供給路4は、浮遊培養槽7の底面に沿って延設されて該底面近くから上方に気泡を吐出するよう構成されることが好ましい。
符号5は攪拌器であり、撹拌子51を備える。攪拌器5は、撹拌子51を回転又は上下動させることによって浮遊培養槽7内の培養液を攪拌する。
培養液供給路3、空気供給路4、攪拌器5及び培養液アスピレータ9には、従来細胞培養に用いられているチューブや機器を適宜採用でき、上述した機能を発揮し得る機器等であれば広く採用可能である。
培養液アスピレータ9は、単一の管状構造を有するものであってよい。培養液アスピレータ9は遠位端と近位端を有し、遠位端から近位端にいたる内腔を有する。近位端を培養液アスピレータ9の浮遊培養槽7への挿入方向下側(図下方)、遠位端を同上側(図上方)と定義する。
培養液アスピレータ9は、培養液を吸引する吸引口91を備える。吸引口91からは、培養液とともに目的サイズ未満の細胞凝集体及び非凝集細胞、細胞破片(debris)も吸引される。吸引口91から吸引された培養液、目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体及び非凝集細胞、細胞破片(debris)は、培養液アスピレータ9の内腔を通流して浮遊培養槽7の外部へ排出される。培養液アスピレータ9における吸引口91の配設位置は、浮遊培養槽7への挿入時に培養液中に浸漬され得る部位であれば特に限定されないが、浮遊培養槽7への挿入方向先端(近位端)に設けられていることが好ましい。
吸引口91の形状や直径は特に限定されない。形状は、円孔又は多角孔であってよい。直径(内径)は、例えば0.01-3cm程度である。
培養液アスピレータ9の吸引口91との反対端(遠位端)は、培養液等の吸引のための陰圧源となるポンプに接続されている。ポンプには、細胞培養装置において従来培養液を送液するために用いられているものを採用できる。ポンプによる培養液の吸引は、浮遊培養槽7の容積(培養スケール)に応じて適宜設定され得る。例えば浮遊培養槽7の容積が250mLの場合は毎分0.1-10ml程度であり、2000Lの場合は毎分0.8-80L程度である。ポンプによる培養液の吸引は、連続的あるいは間欠的に行われてよい。
培養液アスピレータ9の材質は、従来細胞の培養に用いられている、金属、ガラス、ポリスチレン及びポリプロピレン等の材料を好適に用いることができる。これらの材料には、細胞やタンパク質の付着を防止するためのコーティングを施してもよい。コーティング剤としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー、Pluronic F127、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)PMEA)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられるが、MPCポリマーが好ましい。
培養液アスピレータ9の形状や直径、長さは特に限定されない。形状は、円柱又は多角柱であってよく、一部又は全部がテーパ状に形成されていてもよい。直径(内径)及び長さは、浮遊培養槽7の容積(すなわち培養スケール)に応じて適宜設定され得る。直径(内径)は、例えば0.04-3cm程度である。
浮遊培養槽7は、細胞と培養液とを貯留する機能を有するタンクである。浮遊培養槽7は、細胞の凝集体を透過させず、培養液を通液させるフィルタ8を備える。フィルタ8は、浮遊培養槽7の槽内を、攪拌器5が配設されている第一の領域71と、培養液アスピレータ9が挿入される第二の領域72とに区分する。培養液供給路3及び空気供給路4は、第一の領域71または第二の領域72にそれぞれ培養液及び空気を供給するよう構成されていてもよいが、第一の領域71にそれぞれ培養液及び空気を供給するよう構成されることが好ましい。フィルタ8は、浮遊培養槽7への培養液の充填時において培養液に浸漬される部分と浸漬されない部分が生じるように上下方向に張設され、好適には図に示すように鉛直又は略鉛直に配設される。
フィルタ8には、従来細胞の分離に用いられている、ナイロン及びポリエステル等の樹脂製メッシュ又はメンブレンを好適に用いることができる。フィルタ8の材質は、樹脂のほか、金属、ガラス及び繊維などであってもよい。これらの材料には、細胞やタンパク質の付着を防止するためのコーティングを施してもよい。コーティング剤としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー、Pluronic F127、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)PMEA)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられるが、MPCポリマーが好ましい。メッシュサイズあるいはポアサイズは、培養の目的とする細胞と該細胞が形成する凝集体のサイズに応じて適宜設定され得る。フィルタ8の形状は、浮遊培養槽7の形状に応じて適宜設計されえる。フィルタ8の厚さは、特に限定されないが、例えば0.05~2mm程度である。フィルタ8は交換可能に配設されていてよい。
上述のとおり、細胞のサイズは、通常10~20μm程度である。細胞凝集体のサイズは、通常20~1000μm程度であり、培養の目的に応じて特には20-400μm程度である。
したがって、メッシュサイズあるいはポアサイズを目的とする細胞凝集体のサイズよりも小さく設定すれば、フィルタ8において、目的とするサイズ以上の大きさの細胞凝集体を透過させずに、目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非凝集細胞及び培養液を通液させることができる。非凝集細胞には死細胞が含まれ得る。メンブレンを用いる場合、そのポアサイズは、例えば15-995μm程度、例として15、50、100、150、200、250、300、350、395、450、500、550、600、650、700、750、800、850、995μmであり、好ましくは15-395μm程度、特には15-40μm程度である。あるいは、ポアサイズは、目的とする細胞凝集体のサイズよりも5μm程度小さくされることが好ましい。メッシュサイズ(目開き)についても、ポアサイズと同じサイズでよい。
フィルタ8のうち培養液に浸漬されない部分(図7中、符号Vに相当する部分)は、第二の領域72の陰圧を第一の領域71に逃がし、第二の領域72内の圧と第一の領域71内の圧を平衡化するために機能する。
空気の通流を促進するため、フィルタ8に貫通孔を設けてもよい。貫通孔は、培養液に浸漬されることがない位置に設けられ、好ましくは浮遊培養槽7の上面近くに設けられる。この場合、貫通孔の形状や大きさは特に限定されない。形状は、四角形、多角形、円形又は楕円形であってよい。大きさは、第二の領域72の陰圧を第一の領域71に逃がすために十分な大きさであればよい。
培養液アスピレータ9の吸引口91からの培養液等の吸引によって第二の領域72に過剰な陰圧が加わると、フィルタ8を介した培養液等の吸引圧が大きくなり過ぎ、メッシュサイズあるいはポアサイズ以上の大きさの細胞凝集体がフィルタ8に目詰まりしてしまうおそれがある。フィルタ8に目詰まりが生じると、培養液の交換が不能となったりフィルタ全面での均一ろ過が不能となって培養液の交換が遅滞したりする。第二の領域72の陰圧がフィルタ8のうち培養液に浸漬されない部分を介して第一の領域71に逃げることより、第二の領域72に過剰な陰圧が加わることを防止できる。これによって、メッシュサイズあるいはポアサイズ以上の大きさの細胞凝集体がフィルタ8に目詰まりすることを抑制しつつ、目的サイズ未満の細胞凝集体及び非凝集細胞をフィルタ8に通過させて、目的サイズの大きさの細胞凝集体のみを第一の領域71に残すことができる。
細胞培養装置Bは、浮遊培養槽7内の培養液の温度を制御するための過冷却手段(サーマルジェット)や、培養液の温度や酸素濃度、栄養因子等の濃度などを検出するためのプローブを有していてもよい。また、プローブから出力を受け、プローブによる温度の検出値に基づいて過冷却手段の制御を行うシステムユニットを有していてもよい。システムユニットは、プローブから出力を受け、プローブによる酸素濃度や栄養因子等の濃度の検出値に基づいて、空気供給路4による空気供給量の制御や、培養液供給路3と培養液アスピレータ9による培養液の供給/排出量を制御するものであってもよい。
本発明に係る細胞培養装置Bでは、メッシュサイズあるいはポアサイズ以上の大きさの細胞凝集体がフィルタ8に目詰まりすることを抑制しつつ、目的サイズ未満の細胞凝集体及び非凝集細胞を第二の領域72へ通過させて、目的サイズの大きさの細胞凝集体のみを第一の領域71に残して、培養液を交換できる。したがって、本発明に係る細胞培養装置Bでは、大量培養時においても培養液交換のために攪拌器5を一時停止して細胞の自然沈降を待つ時間が必要なく、培養液交換にかかる時間を短縮でき、かつ細胞増殖や細胞の性質の不安定化および不均質化が生じることも抑制できる。特に、本発明に係る細胞培養装置Bによれば、従来培養液の攪拌を一時停止させる間に生じていた細胞の過剰な凝集(目的サイズよりも過大な凝集体の形成)を抑制できる。
[細胞培養方法]
また、本発明は、上述の細胞培養装置あるいは培養液アスピレータを用いた細胞培養方法をも提供する。本発明に係る細胞培養方法は、上述の培養液アスピレータを用いた浮遊培養槽内からの培養液の排出に特徴を有し、その詳細は、上述の細胞培養装置あるいは培養液アスピレータに関する記載を参照できる。
本発明に係る細胞培養方法では、大量培養時においても、培養液の攪拌を一時停止して細胞の自然沈降を待つことなく、攪拌器を作動させたまま培養液の交換を行うことができる。したがって、培養交換にかかる時間を短縮でき、大量の細胞を効率的に製造できる。また、特に、本発明に係る細胞培養方法によれば、従来培養液の攪拌を一時停止させる間に生じていた細胞の過剰な凝集(目的サイズよりも過大な凝集体の形成)を抑制できる。したがって、過剰な細胞凝集により細胞増殖の阻害が生じたり細胞の性質の不安定化および不均質化が生じたりすることを抑制して、高品質の細胞を製造できる。本発明に係る細胞培養方法はまた、攪拌せずに大量の培地交換(例えば50-95%の培地交換)を行う場合でも、細胞凝集体をある程度沈降させれば行えるため、時間短縮が可能である。
この細胞培養方法は、浮遊培養槽内から培養液アスピレータによって培養液を排出すると同時に、新たな培養液を浮遊培養槽内に供給する灌流培養とされ得る。灌流培養では、培養液を供給しながら排出することで培養液が交換される。灌流培養における培養液の供給量と排出量は等しくされることが好ましい。
灌流培養によらない場合には、浮遊培養槽内から培養液アスピレータによって一定量の培養液を排出した後に、新たな培養液を浮遊培養槽内に供給する。排出量は、浮遊培養槽内の培養液量の例えば10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%が挙げられ、好ましくは60%、より好ましくは70%、特に好ましくは80%である。一度の排出量を大きくし過ぎると、予期しない細胞の凝集を引き起こす可能性がある。培養液の供給量は、排出量と等しくされることが好ましい。
本発明に係る細胞培養方法は、多能性幹細胞又は多能性幹細胞由来細胞を浮遊培養層内で維持するためあるいは分化させるために好適に適用できる。本発明に係る細胞培養方法によれば、大量培養時においても目的サイズの大きさの多能性幹細胞の凝集体を効率的、安定的かつ均質に培養可能であるので、大量の未分化細胞あるいは分化細胞を効率的、安定的かつ均質に製造することが可能となる。分化細胞の製造のためには、従来公知の分化誘導手法を適用することができ、例えば後述する実施例では、多能性幹細胞からDE(胚体内胚葉)細胞を誘導しており、このDE細胞をさらに膵前駆細胞へ誘導することもできる。多能性幹細胞からの膵前駆細胞の誘導は、以下の4つの工程により行うことができる(Nature Biotechnology, 2014, Vol.32, No.11, p.1121-1133)。
工程1:ヒト多能性幹細胞から胚体内胚葉細胞を分化誘導する。
工程2:胚体内胚葉細胞から原腸管細胞を分化誘導する。
工程3:原腸管細胞から後前腸細胞を分化誘導する。
工程4:後前腸細胞から膵前駆細胞を分化誘導する。
本発明で一般に使用する培養液としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM(IMEM)培地、Improved MDM(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(High glucose、Low glucose)、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地が挙げられる。
ES細胞やiPS細胞のための培養液としては、例えば、10~15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)又は市販のiPS細胞用の培養液、例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTESR、Stemcell Technology社)、iPS/ES細胞増殖用培地/再生医療用培地(StemFit(登録商標)、Ajinomoto Healthy Supply Co., Inc.)が挙げられる。この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al.(2009), Proc Natl Acad Sci USA. 106:15720-15725)。
本発明で使用する培養液には、上記した成分のほか、必要に応じて、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(製品名)、非必須アミノ酸、ビタミン、抗生物質(例えば、Antibiotic-Antimycotic(本明細書中、AAと称することがある)、ペニシリン、ストレプトマイシン、又はこれらの混合物)、抗菌剤(例えば、アンホテリシンB)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を添加してもよい。
また、本発明の培養液には、分化誘導剤が含まれていてもよい。
浮遊培養では、撹拌または振盪により培養液成分および培養液内酸素濃度を均一化し、凝集体形成を介して細胞を増殖させる。好適な撹拌速度は、細胞密度と培養容器の大きさに応じて、適宜設定されるが、過度の撹拌または振盪は細胞に対して物理的ストレスを与え、細胞凝集体形成を阻害する。したがって、培養液成分および培養液内酸素濃度を均一化でき、かつ、凝集体形成を阻害しないように撹拌または振盪速度を制御する。
培養温度は、特に限定されないが、30~40℃(例えば、37℃)で行う。また、培養容器中の二酸化炭素濃度は例えば5%程度である。
[実施例1]
本発明に係る細胞培養装置を用いて、以下の条件でヒトiPS細胞の培養とDE(胚体内胚葉)細胞への分化誘導を行った。本実施例では、図5、図6に示した細胞培養装置と培養液アスピレータを用いた。
細胞:ヒトiPS細胞Ff-I14s04株
浮遊培養槽内の培養液容積:250 ml
攪拌器:HiD 4X4(佐竹化学機会工業)、攪拌翼上下動振幅20 mm、速度100 mm/s
アスピレータ
外管:金属製、長さ8.5 cm、直径1 cm
フィルタ:MPCコートポリエステル膜(ポアサイズ27μm、厚み0.05 mm)、外管の外側面に占める面積2880 cm2
空気孔:外管の上端(遠位端)に面積50 cm2で設けた。
内管:金属製、長さ146 mm、直径6.35 mm
吸引口:外管の下端(近位端)から0.4 cmの位置に直径6.35 mmで設けた。
浮遊培養槽に充填したStemFit(登録商標)(味の素ヘルシーサプライ)にY-27632(CAS RN: 129830-38-2)を添加した培養液250 mlにiPS細胞を播種し(2×105 cells/ml)、1日培養後(培養1日目)、浮遊培養槽内の培養液の40%量をアスピレータで吸引し、浮遊培養槽外へ排出した。同量の分化誘導用培養液を浮遊培養槽内に加えた後、再度、浮遊培養槽内の培養液の40%量をアスピレータで吸引し、浮遊培養槽外へ排出した。同量の分化誘導用培養液を浮遊培養槽内に加えた後、培養を再開した。分化誘導用培養液には、文献(Nature Biotechnology, 2014, Vol.32, No.11, p.1121-1133)等に記載の分化誘導因子を含む培地を使用した。
培養2日目以降もDE(胚体内胚葉)細胞への分化を続けた。培養2日目及び3日目に上記と同様に培養液交換操作を行い、合計4日間培養を行った。培養4日目にDE細胞への分化が生じていることを確認した。培養4日目以降さらにDE細胞をインスリン産生細胞まで分化誘導する。
培養1日目、2日目及び3日目の培養液交換直前の細胞、並びに培養4日目の細胞を採取し、位相差顕微鏡で観察を行った。細胞の位相差顕微鏡像を図8に示す。また、目詰まりを確認するために、培養1日目、2日目及び3日目の培養液交換後のフィルタも観察した。
培養4日目の細胞の顕微鏡写真から画像解析ソフトを用いて細胞凝集体のサイズ分布(直径)を計測した。結果を図10に示す。
培養1日目のiPS細胞の維持培養において、細胞の過剰な凝集は確認されなかった。
培養2-4日は分化誘導を実施したステージであるが、培養4日目において、細胞凝集体は30-90 μmの範囲に主に分布し、60 μmを中心とするサイズ分布の凝集体の集団がほとんどであり、150 μmを超える過大凝集体の割合が少なかった。細胞凝集体サイズの平均値は65 μmであり、標準偏差は25 μmであった。培養1-4日目のいずれの時点においても、細胞が適切なサイズの凝集体として培養されていることが確認された。
また、フィルタへの細胞凝集体の目詰まりはみられなかった。本発明に係る細胞培養装置によれば、培養液交換のために培養液の攪拌を一時停止することなく、目的とするサイズの細胞凝集体を安定的かつ均質に培養できることが確認できた。
[比較例1]
使い捨て50 mlピペットを装着した電動ピペットを培養液アスピレータとして用い、かつ、培養交換の際に攪拌を一時停止させた以外は、実施例1と同様の条件で細胞の浮遊培養を行った。
浮遊培養槽に充填した培養液250 mlに細胞を播種し(2×10cells/ml)、1日培養後(培養1日目)、培養液の攪拌を停止し、細胞を自然沈降させた。浮遊培養槽内の培養液の80%量をアスピレータで吸引し、浮遊培養槽外へ排出した。同量の培養液を浮遊培養槽内に加えた後、培養を再開した。同様の培養液交換操作を培養2日目及び3日目に行い、合計4日間培養を行った。培養4日目にDE細胞への分化が生じていることを確認した。培養4日目以降さらにDE細胞をインスリン産生細胞まで分化誘導する。
培養1日目、2日目及び3日目の培養液交換直前の細胞、並びに培養4日目の細胞を採取し、位相差顕微鏡で観察を行った。細胞の位相差顕微鏡像を図9に示す。
培養4日目の細胞の顕微鏡写真から画像解析ソフトを用いて細胞凝集体のサイズ分布を計測した。結果を図10に示す。
培養1日目において細胞の過剰な凝集が生じ始めており、培養日数を経るにしたがって細胞凝集体がさらに過大となって、培養4日目では170 μm以上のサイズの細胞凝集体の集団が見られた。細胞凝集体サイズの平均値は109 μmであった。細胞凝集体サイズの標準偏差は60 μmであり、サイズ分布のばらつききが大きかった。培養液の攪拌を一時停止した間に、過剰な細胞凝集が生じたと考えられた。
本発明により、過剰な細胞凝集を生じさせることなく、培地交換の手間を要さず、3次元培養で細胞の維持培養及び分化誘導を実施することができた。
A:細胞培養装置、B:細胞培養装置、1:培養液アスピレータ、11:外管、111:内腔、112:空気孔、12:内管、121:吸引口、13:フィルタ、2:浮遊培養槽、3:培養液供給路、4:空気供給路、5:攪拌器、51:撹拌子、6:培養液アスピレータ、61:外管、611:内腔、612:空気孔、62:内管、621:吸引口、63:フィルタ、7:浮遊培養槽、71:第一の領域、72:第二の領域、8:フィルタ、9:培養液アスピレータ、91:吸引口

Claims (5)

  1. 浮遊培養槽と、外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有し前記浮遊培養槽内の培養液を前記浮遊培養槽外に排出する培養液アスピレータと、を備える細胞培養装置であり、
    前記培養液アスピレータにおいて、
    前記外管は、目的サイズ以上の大きさの細胞凝集体を通過させずに、目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非細胞凝集体及び培養液を通液させるフィルタを備え、
    前記内管は、前記フィルタを通液した目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非細胞凝集体及び培養液の吸引口を備え、
    前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部とを連絡する空気孔が設けられ、
    前記内管の前記吸引口は、前記内管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端に設けられ、
    前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端と、前記吸引口が配設された前記内管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端との間の距離が、前記外管の長さの1/50-1/10である、
    細胞培養装置。
  2. 前記浮遊培養槽へ培養液を供給する培養液供給路をさらに備える、請求項1記載の細胞培養装置。
  3. 外管と、該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有し浮遊培養槽内の培養液を前記浮遊培養槽外に排出する培養液アスピレータであり、
    前記外管は、目的サイズ以上の大きさの細胞凝集体を通過させずに、目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非細胞凝集体及び培養液を通液させるフィルタを備え、
    前記内管は、前記フィルタを通液した目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非細胞凝集体及び培養液の吸引口を備え、
    前記外管の培養液への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部とを連絡する空気孔が設けられ、
    前記内管の前記吸引口は、前記内管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端に設けられ、
    前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端と、前記吸引口が配設された前記内管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端との間の距離が、前記外管の長さの1/50-1/10である、
    培養液アスピレータ。
  4. 浮遊培養槽における細胞培養方法であり、
    外管と該外管の内腔に挿入された内管とからなる二重管構造を有する培養液アスピレータを用いて前記浮遊培養槽内の培養液を前記浮遊培養槽外に排出する手順を含み、
    ここで、前記培養液アスピレータにおいて、
    前記外管は、目的サイズ以上の大きさの細胞凝集体を通過させずに、目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非細胞凝集体及び培養液を通液させるフィルタを備え、
    前記内管は、前記フィルタを通液した目的サイズ未満の大きさの細胞凝集体と非細胞凝集体及び培養液の吸引口を備え、
    前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向遠位に、該外管の内腔と外部を連絡する空気孔が設けられ、
    前記内管の前記吸引口は、前記内管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端に設けられ、
    前記外管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端と、前記吸引口が配設された前記内管の前記浮遊培養槽への挿入方向先端との間の距離が、前記外管の長さの1/50-1/10である、
    細胞培養方法。
  5. 前記手順において前記浮遊培養槽への培養液の供給が同時に行われる、請求項4記載の細胞培養方法。
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