以下、本実施の形態である眼科装置を、図1から図5を用いて説明する。先ず、眼科装置10の全体構成を説明する。
(眼科装置の全体構成)
眼科装置10は、図1に示すように、基台11と検眼用テーブル12と支柱13とアーム14と駆動機構(駆動部)15と一対の測定ヘッド16とを備える。眼科装置10では、検眼用テーブル12と正対する被検者が、両測定ヘッド16の間に設けられた額当部17に額を当てた状態で、被検者の被検眼の情報を取得する。なお、本明細書を通じて図1に記すようにX軸、Y軸及びZ軸を取り、被検者から見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(測定ヘッド16の奥行き方向)をZ方向とする。
検眼用テーブル12は、後述する表示部兼検者用コントローラ(以下、単に検者用コントローラ25と称する)25や被検者用コントローラ26を置いたり検眼に用いるものを置いたりするための机であり、基台11により支持されている。検眼用テーブル12は、Y方向での位置(高さ位置)を調節可能に基台11に支持されていてもよい。
支柱13は、検眼用テーブル12の後端部でY方向に伸びるように基台11により支持されており、先端にアーム14が設けられている。
アーム14は、検眼用テーブル12上で駆動機構15を介して両測定ヘッド16を吊り下げるもので、支柱13から手前側へとZ方向に伸びている。アーム14は、支柱13に対してY方向に移動可能とされている。なお、アーム14は、支柱13に対してX方向及びZ方向に移動可能とされていてもよい。アーム14の先端には、駆動機構15により吊り下げられて一対の測定ヘッド16が支持されている。
測定ヘッド16は、被検者の左右の被検眼に個別に対応すべく対を為して設けられ、以下では個別に述べる際には左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rとする。左眼用測定ヘッド16Lは、被験者の左側の被検眼の情報を取得し、右眼用測定ヘッド16Rは、被験者の右側の被検眼の情報を取得する。左眼用測定ヘッド16Lと右眼用測定ヘッド16Rとは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。
各測定ヘッド16には偏向部材であるミラー18が設けられ、ミラー18を通じて後述する測定光学系21により対応する被検眼の情報が取得される。
各測定ヘッド16には、被検眼の眼情報を取得する測定光学系21(個別に述べる際には右眼用測定光学系21R及び左眼用測定光学系21Lとする)が設けられている。測定光学系21の詳細構成については後述する。
両測定ヘッド16は、アーム14の先端から吊り下げられたベース部19に設けられた駆動機構15により移動可能に吊り下げられている。駆動機構15は、本実施の形態では、図4、図5に示すように、左眼用測定ヘッド16Lに対応する左眼用鉛直駆動部22L、左眼用水平駆動部23L及び左眼用回旋駆動部24Lと、右眼用測定ヘッド16Rに対応する右眼用鉛直駆動部22R、右眼用水平駆動部23R及び右眼用回旋駆動部24Rとを有する。
左眼用測定ヘッド16Lに対応する各駆動部の構成と、右眼用測定ヘッド16Rに対応する各駆動部の構成とは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされており、個別に述べる時を除くときは単に鉛直駆動部22、水平駆動部23及び回旋駆動部24と記す(図4参照)。
図4に示すように、鉛直駆動部22はベース部19と水平駆動部23との間に設けられ、ベース部19に対して水平駆動部23をY方向(鉛直方向)に移動させる。水平駆動部23は鉛直駆動部22と回旋駆動部24との間に設けられ、鉛直駆動部22に対して回旋駆動部24をX方向及びZ方向(水平方向)に移動させる。
鉛直駆動部22及び水平駆動部23は、例えばパルスモータのような駆動力を発生するアクチュエータと、例えば歯車の組み合わせやラック・アンド・ピニオン等のような駆動力を伝達する伝達機構とが設けられて構成される。水平駆動部23は、例えばX方向とZ方向とで個別にアクチュエータ及び伝達機構の組み合わせを設けることで、容易に構成できるとともに水平方向の移動の制御を容易なものにできる。
回旋駆動部24は、水平駆動部23に対して対応する測定ヘッド16を、対応する被検眼の眼球回旋軸を中心に回転させる。回旋駆動部24は、例えば、アクチュエータからの駆動力を受けた伝達機構が円弧状の案内溝に沿って移動する構成として、案内溝の中心位置が眼球回旋軸と一致されることで、被検眼の眼球回旋軸を中心に測定ヘッド16を回転させる。
なお、回旋駆動部24は、自らに設けた回転軸線回りに回転可能に測定ヘッド16を支持するとともに水平駆動部23と協働して測定ヘッド16を支持する位置を変更しつつ回転させるものでもよい。
これにより、駆動機構15は、各測定ヘッド16を個別にまたは連動させて、X方向、Y方向及びZ方向に移動させることができるとともに、被検眼の眼球回旋軸を中心に回転させることができる。
図1及び図5に示すように、基台11には、眼科装置10の各部を統括的に制御する制御部27が設けられている。制御部27は検者用コントローラ25と近距離無線通信可能な通信部27bを有する。
検者用コントローラ25は、例えばタブレット端末、スマートフォン等、制御部27と近距離通信可能な通信部25dを有する情報処理装置である。検者用コントローラ25は、検者が眼科装置10を操作するために用いられる。検者用コントローラ25は、制御部27から送出される表示制御信号に基づいて所定の画面を表示面25aに表示させる。また、表示面25aの上にはタッチパネル式の入力部25cが設けられている。入力部25cが受け入れた操作入力信号は通信部25dを介して制御部27に送出される。
本実施の形態の眼科装置10では、検者用コントローラ25は携帯可能に構成されており、検眼用テーブル12上に配置された状態で操作されてもよく、また、検者が手に持って操作されてもよい。
眼科装置10の機能構成については後に詳述する。
(眼科装置の光学系)
図2は本実施の形態である眼科装置のうち右眼用測定光学系21Rの詳細構成を示す図である。なお、左眼用測定光学系21Lの構成は右眼用測定光学系21Rと同一であるので、その説明は省略することとし、右眼用測定光学系21Rについてのみ説明する。
右眼用測定光学系21Rは、図2に示すように、観察系31、視標投影系32、眼屈折力測定系33、アライメント系35、アライメント系36及びケラト系37を有する。
観察系31は被検眼Eの前眼部を観察し、視標投影系32は被検眼Eに視標を呈示し、眼屈折力測定系33は眼屈折力の測定を行う。
眼屈折力測定系33は、本実施の形態では、被検眼Eの眼底Efに所定の測定パターンを投影する機能と、眼底Efに投影した測定パターンの像を検出する機能とを有する。
アライメント系35及びアライメント系36は、被検眼Eに対する光学系の位置合わせ(アライメント)を行い、アライメント系35が観察系31の光軸に沿う方向(前後方向)の、アライメント系36が当該光軸に直交する方向(上下方向、左右方向)のアライメントをそれぞれ行う。
観察系31は、対物レンズ31a、ダイクロイックフィルタ31b、ハーフミラー31c、リレーレンズ31d、ダイクロイックフィルタ31e、結像レンズ31f及び撮像素子(CCD:画像取得部)31gを有する。
観察系31では、被検眼E(前眼部)で反射された光束を、対物レンズ31aを経て結像レンズ31fにより撮像素子31g上に結像する。これにより、撮像素子31g上には、後述するケラトリング光束やアライメント光源35aの光束やアライメント光源36aの光束(輝点像Br)が投光(投影)された前眼部画像E′が形成される。観察系31の撮像素子31gはこの前眼部画像E′を撮影する。制御部27は、撮像素子31gから出力される画像信号に基づく前眼部画像E′等を検者用コントローラ25の表示面25aに表示させる。
対物レンズ31aの前方には、ケラト系37が設けられている。ケラト系37は、ケラト板37a及びケラトリング光源37bを有する。ケラト板37aは、観察系31の光軸に関して同心状のスリットが設けられた板状を呈し、対物レンズ31aの近傍に設けられている。ケラトリング光源37bは、ケラト板37aのスリットに合わせて設けられている。
ケラト系37では、点灯したケラトリング光源37bからの光束がケラト板37aのスリットを経ることで、被検眼E(角膜Ec)に角膜形状の測定のためのケラトリング光束(角膜曲率測定用リング状視標)を投光(投影)する。ケラトリング光束は、被検眼Eの角膜Ecで反射されることで、観察系31により撮像素子31g上に結像される。これにより、撮像素子31gがリング状のケラトリング光束の像(画像)を検出(受像)し、制御部27が、その測定パターンの像を表示面25aに表示させ、かつ当該画像(撮像素子31g)からの画像信号に基づき角膜形状(曲率半径)を周知の手法により測定する。
なお、本実施の形態では、角膜形状測定系として、リングスリットが1重から3重程度で角膜の中心付近の曲率測定を行うケラト板37aを用いる例(ケラト系37)を示しているが、角膜形状を測定するものであれば、多重のリングを有し角膜全面の形状を測定可能なプラチド板を用いるものでもよく、他の構成でもよく、本実施の形態の構成に限定されない。
ケラト系37(ケラト板37a)の後方にはアライメント系35が設けられている。アライメント系35は、一対のアライメント光源35a及び投影レンズ35bを有し、各アライメント光源35aからの光束を各投影レンズ35bで平行光束とし、ケラト板37aに設けたアライメント用孔を通して被検眼Eの角膜Ecに当該平行光束を投光(投影)する。
制御部27または検者は、角膜Ecに投光(投影)された輝点(輝点像)に基づき、測定ヘッド16を前後方向に移動させることで、観察系31の光軸に沿う方向(前後方向)のアライメントを行う。この前後方向のアライメントは、撮像素子31g上のアライメント光源35aによる2個の点像の間隔とケラトリング像の直径の比を所定範囲内とするように測定ヘッド16の位置を調整して行う。
ここで、制御部27は、当該比率からアライメントのずれ量を求めて、このアライメントのずれ量を表示面25aに表示させても良い。なお、前後方向のアライメントは、後述するアライメント光源36aによる輝点像Brのピントが合うように測定ヘッド16の位置を調整することで行ってもよい。
また、観察系31にはアライメント系(平行光学系)36が設けられている。アライメント系36はアライメント光源36a及び投影レンズ36bを有し、ハーフミラー31c、ダイクロイックフィルタ31b及び対物レンズ31aを観察系31と共用する。
アライメント系36は、アライメント光源(点光源)36aからの光束を、対物レンズ31aを経て平行光束として被検眼Eの角膜Ecに投光(投影)する。アライメント系36から被検眼Eの角膜Ecに投影された平行光束Kは、角膜頂点Eptと角膜曲率中心R0の略中間位置に、アライメント光の輝点Qを形成する(図7参照)。制御部27または検者は、角膜Ecに投光(投影)された輝点Qの像(輝点像)Brに基づき、測定ヘッド16を前後方向に移動させることで、観察系31の光軸に直交する方向(上下方向、左右方向)のアライメントを行う。
このとき、制御部27は、輝点像Brが形成された前眼部画像E′に加えて、アライメントマークの目安となるアライメントマークALを表示面25aに表示させる。制御部27は、アライメントが完了すると測定を開始するように制御する構成としてもよい。
アライメント光源36aは、点光源駆動部(図5参照)36cにより、アライメント系36の光軸に直交する平面上において移動可能とされている。点光源駆動部36cによりアライメント光源36aが移動すると、これに対応して、角膜Ec上に投影された輝点像Brも角膜Ec上で移動する。
なお、アライメント光源36aは、アライメント系36によるアライメント動作中にこのアライメント光源36aを被検者が視認することを抑止するために、赤外光(例えば940nm)を発光する発光ダイオードとされる。
視標投影系32は、被検眼Eを固視、雲霧させる為に視標を投影し、眼底Efに呈示する光学系である。視標投影系32は、ディスプレイ32a、ロータリープリズム32A、32B、結像レンズ32b、移動レンズ32c、リレーレンズ32d、フィールドレンズ32f、ミラー32h及びダイクロイックフィルタ32iを有し、ダイクロイックフィルタ31b及び対物レンズ31aを観察系31と共用する。
ディスプレイ32aは、他覚検査及び自覚検査を実施する際に、固視及び雲霧を行う風景チャートの他、ランドルト環やE文字視標等、検眼視標等を表示する。
このディスプレイ32aは、EL(エレクトロルミネッセンス)や液晶ディスプレイ(LCD)で形成することができ、制御部27の制御下で任意の画像を表示する。ディスプレイ32aは、視標投影系32の光路上において被検眼Eの眼底Efと共役となる位置に光軸に沿って移動可能に設けられている。
ロータリープリズム32A、32Bは、斜位検査においてプリズム度数及びプリズム基底方向を調整するために用いられる。ロータリープリズム32A、32Bは、パルスモータ等(図示せず)の駆動によってそれぞれ独立に回転される。図3に示すように、ロータリープリズム32A、32Bが互いに逆方向に回転されるとプリズム度数が連続的に変更され、同じ方向に一体的に回転されるとプリズム基底方向が連続的に変更される。
移動レンズ32cは、駆動モータ(図示せず)により光軸に沿って進退駆動される。移動レンズ32cを被検眼E側に移動させることで、屈折力をマイナス側に変位させることができると共に、移動レンズ32cを被検眼Eから離反する方向に移動させることで、屈折力をプラス側に変位させることができる。従って、移動レンズ32cの進退駆動により、ディスプレイ32aに表示された視標の呈示距離を変更可能、即ち視標像の呈示位置を変更可能であると共に、被検眼Eを固視、雲霧させることができる。
眼屈折力測定系33は、被検眼Eの眼底Efにリング状の測定パターンを投影するリング状光束投影系33A、及び眼底Efからのリング状の測定パターンの反射光を検出(受像)するリング状光束受光系33Bを有する。
リング状光束投影系33Aは、レフ光源ユニット部33a、リレーレンズ33b、瞳リング絞り33c、フィールドレンズ33d、穴開きプリズム33e及びロータリープリズム33fを有し、ダイクロイックフィルタ32iを視標投影系32と共用し、ダイクロイックフィルタ31b及び対物レンズ31aを観察系31と共用する。レフ光源ユニット部33aは、例えばLEDを用いたレフ測定用のレフ測定光源33g、コリメータレンズ33h、円錐プリズム33i及びリングパターン形成板33jを有し、それらが制御部27の制御下で眼屈折力測定系33の光軸上を一体的に移動可能とされる。
リング状光束受光系33Bは、穴開きプリズム33eの穴部33p、フィールドレンズ33q、反射ミラー33r、リレーレンズ33s、合焦レンズ33t及び反射ミラー33uを有し、対物レンズ31a、ダイクロイックフィルタ31b、ダイクロイックフィルタ31e、結像レンズ31f及び撮像素子31gを観察系31と共用し、ダイクロイックフィルタ32iを視標投影系32と共用し、ロータリープリズム33f及び穴開きプリズム33eをリング状光束投影系33Aと共用する。
次に、眼屈折力測定モードの際の動作について説明する。制御部27はレフ測定光源33gを点灯させ、かつリング状光束投影系33Aのレフ光源ユニット部33aとリング状光束受光系33Bの合焦レンズ33tとを光軸方向に移動させる。リング状光束投影系33Aでは、レフ光源ユニット部33aがリング状の測定パターンを出射し、その測定パターンをリレーレンズ33b、瞳リング絞り33c及びフィールドレンズ33dを経て穴開きプリズム33eに進行させ、その反射面33vで反射し、ロータリープリズム33fを経てダイクロイックフィルタ32iに導く。リング状光束投影系33Aでは、その測定パターンをダイクロイックフィルタ32i及びダイクロイックフィルタ31bを経て対物レンズ31aに導くことで、被検眼Eの眼底Efにリング状の測定パターンを投影する。
リング状光束受光系33Bでは、眼底Efに形成されたリング状の測定パターンを対物レンズ31aで集光し、ダイクロイックフィルタ31b、ダイクロイックフィルタ32i及びロータリープリズム33fを経て穴開きプリズム33eの穴部33pに進行させる。リング状光束受光系33Bでは、その測定パターンをフィールドレンズ33q、反射ミラー33r、リレーレンズ33s、合焦レンズ33t、反射ミラー33u、ダイクロイックフィルタ31e及び結像レンズ31fを経ることで、撮像素子31gに結像させる。これにより、撮像素子31gがリング状の測定パターンの像を検出し、制御部27は、その測定パターンの像を表示面25aに表示させ、その画像(撮像素子31g)からの画像信号に基づき、眼屈折力としての球面度数、円柱度数、軸角度を周知の手法により測定する。
また、眼屈折力測定モードでは、制御部27は、視標投影系32においてディスプレイ32aに固定固視標を表示させる。ディスプレイ32aからの光束は、ロータリープリズム32A、32B、結像レンズ32b、移動レンズ32c、リレーレンズ32d、フィールドレンズ32f、ミラー32h、ダイクロイックフィルタ32i、ダイクロイックフィルタ31b、対物レンズ31aを経て、被検眼Eの眼底Efに投光(投影)する。検者または制御部27は、呈示した固定固視標を被検者に固視させた状態でアライメントを行い、眼屈折力(レフ)の仮測定の結果に基づいて被検眼Eの遠点に移動レンズ32cを移動させた後にさらに雲霧状態として、調節休止時の眼屈折力を測定する。
なお、眼屈折力測定系33、アライメント系35、アライメント系36及びケラト系37等の構成や、眼屈折力(レフ)、自覚検査及び角膜形状(ケラト)の測定原理等は、公知であるので、詳細な説明は省略する。
(眼科装置の制御系)
図5を参照して、本実施の形態の眼科装置10の機能構成について説明する。制御部27には、上記した測定光学系21と、駆動機構15としての鉛直駆動部22、水平駆動部23及び回旋駆動部24とに加えて、検者用コントローラ25と被検者用コントローラ26と記憶部28とが接続されている。
検者用コントローラ25は、制御部27から送出された表示制御信号に基づいて表示面25aに画面を表示する表示部25bを有する。表示部25bの表示面25aの上には、タッチパネル式の入力部25cが設けられている。表示部25bは、前眼部画像E′における瞳孔中心及び角膜反射の位置を示す模式図を表示する。また、表示部25bは、後述する測定ヘッド制御部27fにより右被検眼及び左被検眼に固視標を固視させる特定位置と右被検眼または左被検眼との間の距離を表示する。さらに、表示部25bは、右被検眼及び左被検眼の水平方向の断面にこれら右被検眼及び左被検眼の視軸及び光軸を表記した断面図を表示する。表示部25bにより表示される画面の詳細については後述する。
検者用コントローラ25と制御部27とは、それぞれ検者用コントローラ25及び制御部27に設けられた通信部25d、27bにより近距離無線通信可能とされている。
被検者用コントローラ26は、被検眼の各種の眼情報の取得の際に、被検者が応答するために用いられる。被検者用コントローラ26は、例えばキーボード、マウス、ジョイスティック等の入力装置を備える。制御部27は、被検者用コントローラ26と有線または無線の通信路を介して接続されている。
制御部27は、接続された記憶部28または内蔵する内部メモリ27aに記憶したプログラムを例えばRAM上に展開することにより、適宜検者用コントローラ25や被検者用コントローラ26に対する操作に応じて、眼科装置10の動作を統括的に制御するとともに、後述する瞳孔中心検出部27c、角膜反射位置検出部27d、視軸算出部27e、測定ヘッド制御部27f、及び点光源制御部27gとして機能する。本実施の形態では、内部メモリ27aはRAM等で構成され、記憶部28は、ROMやEEPROM等で構成される。
瞳孔中心検出部27cは、観察系31の撮像素子31gが取得した右被検眼及び左被検眼の前眼部画像E′から、これら右被検眼及び左被検眼の瞳孔中心を検出する。角膜反射位置検出部27dは、アライメント系36のアライメント光源36aからの平行光束K(図7参照)が右被検眼及び左被検眼内で結像して得られる輝点Qに基づいて、これら右被検眼及び左被検眼の角膜反射、すなわち輝点Qの像である輝点像Brの位置を検出する。図7に示すように、アライメント光源36aからの平行光束Kが眼球に入射すると、角膜Ec内部の位置Q(角膜の曲率半径rの半分、r/2)にスポット状の像(プルキンエ像)、すなわち角膜反射Brが形成される。視軸算出部27eは、これら瞳孔中心と角膜反射の位置とに基づいて、右被検眼及び左被検眼の視軸を求める。さらに、視軸算出部27eは、算出した右被検眼及び左被検眼の視軸に基づいてこれら右被検眼及び左被検眼のプリズム基底方向及びプリズム度数を算出する。
測定ヘッド制御部27fは、右被検眼及び左被検眼の前方にある特定位置において、これら右被検眼及び左被検眼の少なくとも一方により、視標投影系32のディスプレイ32aに表示される固視標を固視させるように、駆動機構15により測定ヘッド16を回転させる。
点光源制御部27gは、角膜反射の位置を瞳孔中心に略一致させるように、点光源駆動部36cによりアライメント光源36aを移動させる。
また、本実施の形態に係る眼科装置10では、表示部25bに左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像EL′,ER′を表示させている(図15参照)。そのため、検者がこれらを視認することで、例えば、アライメントや検査がうまくできなかった原因等を把握することができる。つまりアライメント等がうまくできない原因として、例えば、固視ができていない、両眼視ができていない、斜視や斜位がある、眼瞼下垂がある、抑制がある、瞳孔の縮瞳がある、頭部が傾いている、などが挙げられる。アライメント等の実行中に、表示部25bに表示される左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像EL′,ER′を視認することで、検者はアライメント等ができない原因を明確に把握することが可能となる。そして、頭部の位置を修正したり、被検者に注意を促したりして、迅速に対策を講じることができ、再度のアライメント等の成功率を向上できる。
制御部27が有するこれら機能実現手段については後に詳述する。
なお、既に詳述したように、測定光学系21は、観察系31、視標投影系32、眼屈折力測定系33、アライメント系35、アライメント系36及びケラト系37を有する。
(原理)
次に、図6~図13を用いて、本実施の形態である眼科装置10の測定原理について説明する。
本実施の形態である眼科装置10は、被検眼Eの斜視を定量的に測定する装置である。ここに、斜視とは、右被検眼と左被検眼の視線が異なる場所に向かっていることである。斜視のない被検眼Eであれば、右被検眼及び左被検眼により共通の固視標を固視すると、右被検眼と左被検眼の視線は略前方の共通の場所(固視標)に向かう。しかしながら、斜視のある被検眼Eであると、右被検眼または左被検眼の一方の視線は固視標に向かわず、従って、これら被検眼Eの視線は異なる場所に向かう。なお、本実施の形態である眼科装置10では、右被検眼または左被検眼のいずれかの被検眼Eの視線が固視標に向かわないときの検査を行う。
図6は、右被検眼ERを上方から見た場合の水平断面図である。図6において左側が前方、右側が後方にあたる。右被検眼ERが固視をしている固視標(固視点)と瞳孔中心PCとを結ぶ軸が、右被検眼ERがどこを見ているかを示す視軸VXである。一方、瞳孔中心PCから角膜Ecと垂直方向に出る軸は、右被検眼ERが向いている方向を示す瞳孔軸PXである。斜視のない被検眼Eであっても、視軸VXは瞳孔軸PXよりもやや鼻側(図6において下方)にずれている。視軸VXと瞳孔軸PXとのなす角度をラムダ角(図中λで示す)と称する。このラムダ角は、斜視のない正常な被検眼Eでも個体差があるが、平均値は+5°である。斜視の定量的検査を行うときは、このラムダ角λを加味する必要がある。
ここに、被検眼Eにおける視軸VX及び瞳孔軸PXは、アライメント光源36aに基づく輝点像Br(以下、これを角膜反射Brと称する)の位置から知ることができる。また、被検眼Eにおける瞳孔軸PXは、瞳孔中心PCの位置から知ることができる。視軸VX、瞳孔軸PXの詳細な算出方法については後述する。
図8は、様々な斜視における瞳孔Pと角膜反射Brとの位置関係を示す図である。図8に示すように、斜視のある被検眼E(図8に示す例では右被検眼ER)において、角膜反射Brの位置が瞳孔の中心(以下、これを瞳孔中心PCと称する)からずれていることがわかる。そこで、本実施の形態である眼科装置10では、瞳孔中心PCと角膜反射Brの位置とのずれ量(距離d0)を求め、このずれ量から瞳孔軸PXと測定光学系21の光軸とのなす角度θを求め、この角度θ及び瞳孔軸PXと視軸VXとのなすラムダ角λに基づいて、視軸VXと光軸とのなす角度θ1を求め、これによって斜視の定量的検査を行う。
本実施の形態である眼科装置10では、ヒルシュベルグ(Hirschberg)法に基づいて視軸VXと光軸とのずれを求める。ヒルシュベルグ法では、光源を被検者の被検眼Eから33cmの距離に置き、被検者にこの光源を固視するように指示した上で、光源と同軸の位置にある検者が瞳孔中心PCと角膜反射Brの位置との関係を測定し、他覚的な定量検査を行っている。
本実施の形態である眼科装置10では、角膜反射Brをもたらすアライメント光源36aと観察系31の撮像素子31gとは同一光軸上にあるので、この撮像素子31gで撮像した前眼部画像E′から瞳孔中心PCを求め、また、前眼部画像E′における角膜反射Brの位置を求めることで、ヒルシュベルグ法に則った他覚的な斜視の定量検査を行うことができる。
図9は、観察系31の撮像素子31gにより撮像された前眼部画像E′の一例を示す図である。この図9中、Brは角膜反射を示し、Epは瞳孔像を示し、PCは瞳孔像Epの瞳孔中心を示し、Irは虹彩像を示す。
図9(a)は、特定の視点(固視点)を固視するように指示した状態における斜視のない被検眼Eの前眼部画像E′である。既に説明したように、斜視のない被検眼Eであれば、前眼部画像E′中の瞳孔像Epの中心すなわち瞳孔中心PCと角膜反射Brとは同一位置にある。
次に、図9(b)は特定の視点(固視点)を固視するように指示した状態における斜視のある被検眼Eの前眼部画像E′である。斜視のある被検眼Eの視線は固視点を向いておらず、従って、これも既に説明したように、前眼部画像E′における角膜反射Brの位置は瞳孔像Epの瞳孔中心PCからずれる。
以下、固視点を固視するように指示した状態における斜視のない被検眼Eを固視眼、同様に固視点を固視するように指示した状態における斜視のある被検眼Eを非固視眼と称することがある。
本実施の形態である眼科装置10は、ヒルシュベルグ法に従い、被検眼Eの33cm前方に固視標を呈示し、被検者にこの固視標を固視するように指示する。
具体的には、制御部27は、眼科装置10の視標投影系32のディスプレイ32aに固視標を表示させる。次いで、制御部27の測定ヘッド制御部27fは、駆動機構15により測定ヘッド16R、16Lを右被検眼ER及び左被検眼ELの眼球回旋軸を中心として回転させ、被検眼Eの33cm前方にある固視点PO(図13参照)に表示される固視標を固視するように指示する。これにより、右被検眼ER及び左被検眼ELを輻輳させて固視標を注視させる。
この際、ディスプレイ32aに表示される固視標は、右被検眼ER及び左被検眼ELの融像を高める観点から、点状の固視標の周囲に矩形状等の融像枠を同時に表示したものとしてもよい。
測定ヘッド16R、16Lの回旋角は次のようにして求めることができる。図13に示すように、左被検眼EL(又は右被検眼ER)から固視標の提示位置までの提示距離をL(ヒルシュベルグ法では33cm)とし、被検者の瞳孔間距離をPDとし、瞳孔間距離の半分をhPDとすると、右被検眼ERまたは左被検眼ELの輻輳角Θは次式(1)により与えられる。
この輻輳角Θは、測定ヘッド16R、16Rの回旋角である。
この状態で本実施の形態である眼科装置10の制御部27の瞳孔中心検出部27c及び角膜反射位置検出部27dは、前眼部画像E′における瞳孔像Epの瞳孔中心PCと角膜反射Brの位置とをそれぞれ求める。そして、制御部27の視軸算出部27eは、瞳孔中心検出部27c及び角膜反射位置検出部27dが算出した瞳孔中心PCと角膜反射Brとに基づいて、瞳孔中心PCと角膜反射Brの位置とのずれ量を求め、瞳孔軸PXと測定光学系21の光軸とのなす角度θを求め、視軸VXと光軸とのなす角度θ1を求める。
さらに、視軸算出部27eは、前眼部画像E′における瞳孔中心PCと角膜反射Brの位置とを示す模式図を作成し、これを検者用コントローラ25の表示部25bに表示させる。
表示部25bに表示される模式図の一例を図10に示す。図10(a)は左被検眼ELが外斜視(図8参照)である被検眼Eの模式図を示す図であり、図10(b)は実際の被検眼Eの瞳孔P及び角膜反射Brの位置を示す図である。図10(a)に示す模式図において、内側の円C1は瞳孔Pの縁部を示し、外側の円C2は角膜Ecの縁部を示す。そして、角膜反射Brの位置は×で示している。右被検眼ERの角膜反射Brの位置は瞳孔Pの中心(瞳孔中心PC)と略一致し、一方、左被検眼ELの角膜反射Brの位置は瞳孔Pの中心(瞳孔中心PC)と一致していない(実際には角膜Ecの縁部にまで至っている)。
瞳孔中心検出部27cによる前眼部画像E′における瞳孔中心PCの位置を求める手法は周知のものから適宜選定すればよい。一例として、瞳孔中心検出部27cは、前眼部画像E′から瞳孔像Epの縁部を検出し、この瞳孔像Epの境界座標を算出する。瞳孔像Epの縁部は、例えば、前眼部画像E′における瞳孔像Epと虹彩像Irとの間の明度の差に基づいて検出することが可能である。
次に、瞳孔中心検出部27cは、瞳孔像Epの境界座標を楕円近似して、瞳孔近似楕円の中心を算出する。まず、瞳孔中心検出部27cは、瞳孔像Epの境界座標から、最小自乗法により、次式(2)に示す楕円の一般式における係数a、b、c、d及びhを求める。
そして、瞳孔中心検出部27cは、楕円の一般式(2)における係数から、瞳孔近似楕円の中心座標を次式(3)により求める。
式(3)により求められた瞳孔近似楕円の中心座標が瞳孔中心PCの座標である。
また、角膜反射位置検出部27dは、前眼部画像E′における角膜反射Brの位置座標を求める。本実施の形態である眼科装置10では、アライメント光源36aが赤外光であるので、撮像素子31gの出力信号から赤外光領域の信号のみを取り出すことで、アライメント光源36aからの反射光に基づく角膜反射Brの位置を簡易にかつ正確に求めることができる。
視軸算出部27eは、求められた瞳孔中心PCの座標及び角膜反射Brの位置座標に基づき、瞳孔中心PCの位置に対する角膜反射Brの位置のずれ量を求める。
例えば、図11(a)に示すような模式図で示される瞳孔中心PCの位置座標及び角膜反射Brの位置座標が求められたものとする。図11に示す例では、左被検眼ELが外斜視及び下斜視である。そこで、視軸算出部27eは、瞳孔中心PCの位置に対する角膜反射Brの位置のずれ量(距離d0)を、図11(b)に示すように、図中水平方向のずれ量dx及び垂直方向のずれ量dyとして求める。
次いで、視軸算出部27eは、瞳孔軸PXと測定光学系21の光軸とのなす角度θを求める。その算出手順を、図12を参照して説明する。図12(a)は斜視のない被検眼Eにおけるアライメント光源36aの輝点Qの位置を示し、図12(b)は斜視のある被検眼Eの輝点Qの位置を示す。既に説明したように、輝点Qの位置は前眼部画像E′における角膜反射Brの位置として求められる。
この角度θは、一般的には次式(4)に基づいて、角膜の曲率半径r(つまり角膜曲率中心R0から角膜頂点Eptまでの距離)と、角膜頂点Eptの位置と角膜反射Brの位置との距離dとを用いて算出できる。
sinθ = d/r ・・・(4)
しかし、ここでは視軸算出部27eは、瞳孔中心PCの位置に対する角膜反射Brの位置のずれ量d0(dx及びdyを区別せずに説明する場合はずれ量d0として説明する)と、角膜曲率中心R0から瞳孔中心PCまでの距離r0を用いて、次式(4-1)に基づいて、角度θを求める。これにより、前眼部画像E′に基づいて、より効率的に角度θ等を算出できる
sinθ = d0/r0 ・・・(4-1)
上記式(4-1)に、先に求めた距離d0を代入することにより、角度θを算出できる。距離r0は、例えば平均値を用いることができる。具体的には、距離r0は、角膜の曲率半径rから、角膜頂点Eptと瞳孔中心PCとの距離r’を差分することで求められる。rの平均値=7.7mm、r’の平均値=3.6mm(ただし、瞳孔中心PCを水晶体の前面とした場合の平均値)とした場合、距離r0=(7.7-3.6)mm=4.1mmとなる。
なお、瞳孔中心PCと角膜反射Brの各位置は、角膜の屈折作用の影響を受け易く、また、距離r0には個人差がある。そのため、図12(a)のような斜視のない被検眼Eの瞳孔軸PXや、他の様々な方向を向いた被検眼Eの瞳孔軸PXに関する、距離d0、距離r0を収集し、これらの連立方程式に基づいて、距離r0を最適化してもよい。または、ケラト測定により取得された角膜の曲率半径rの実測値から、距離r0を最適化してもよい。
また、上記(4)、(4-1)を用いた算出手順に代えて、次式(5)によっても、角度θを算出することができる。次式(5)中、L0は角膜頂点Eptから眼球回旋点Oまでの距離を示し、Dは角膜頂点Eptの位置と眼球回旋点Oの位置との距離を示す。なお、角膜頂点Eptから眼球回旋点Oまでの距離L0は予め決められた値(例えば、平均的な値である13mm)であってよい。あるいは、別の機器による測定において、実距離が既知である場合にはこの値を入力可能としてもよい。角膜の曲率半径rは、ケラト測定により取得された実測値を用いることが可能である。また、角膜の曲率半径rは、初期値として平均値(7.7mm)を用いてもよい。またこの場合も、距離L0に代えて瞳孔中心PCから眼球回旋点Oまでの距離を用い、距離Dに代えて、前眼部画像E′における瞳孔中心PCの位置と眼球回旋点Oの位置との距離を用いて算出してもよい。
sinθ = D/L0 ・・・(5)
さらに異なる角度θの算出手法として、例えば、角膜反射Brの変位Δ(図12(b)参照)を用いることもできる。変位Δは、ずれが検出された被検眼Eのみに固視標を固視させて、図12(a)の状態での各数値を求め、眼球回旋点Oからの角膜反射Brのずれ量として表すことができる。
角膜頂点Eptから眼球回旋点Oまでの距離をL0とし、角膜の曲率半径をrとすると、図12(b)に示す角膜反射Brの変位Δは、次式(6)のように表される。この場合も、角膜頂点から眼球回旋点Oまでの距離L0は予め決められた値(例えば、平均的な値である13mm)であってよい。あるいは、別の機器による測定において、実距離が既知である場合にはこの値を入力可能としてもよい。角膜の曲率半径rは、ケラト測定により取得された実測値または平均値(7.7mm)を用いることが可能である。
Δ=(L0 - r)・sinθ・・・(6)
次に、点光源制御部27gは、ずれ量d0または変位Δが求められた被検眼Eにおいて、このずれ量d0または変位Δを打ち消すような位置にアライメント光源36aを移動させる。つまり、アライメント光源36aを移動させた後に再度アライメント系36によるアライメントを行って、前眼部画像E′において瞳孔中心PCと角膜反射Brの位置とが重なるように、点光源制御部27gはアライメント光源36aを光軸に直交する平面上において移動させる。
ここで、アライメント光源36aと撮像素子31gの受光面とは共役であると考えられるので、点光源制御部27gによるアライメント光源36aの移動量は前眼部画像E′におけるずれ量d0または変位Δと略等しくすればよい。
(眼科装置の動作)
次に、図14に示すフローチャート及び図15を参照して、本実施の形態である眼科装置10の動作の概略について説明する。
図14に示すフローチャートは、いずれかの被検眼Eにおいて斜視が発見された後、斜視検査を眼科装置10により行うためのものである。
まず、ステップS1では、ヒルシュベルグ法に則り、測定ヘッド制御部27fが固視標の提示位置を33cmとすべく、測定ヘッド16を回転させる。この状態で、ステップS2では、視標投影系32がそのディスプレイ32aに固視標を表示させる。この状態で、検者は被検者に対して固視標を固視するように指示し、右被検眼ER及び左被検眼ELを輻輳させる。
ステップS3では、被検者に固視標を固視させた状態で、アライメント系36がXYアライメント動作を行う。ステップS4では、瞳孔中心検出部27cが前眼部画像E′中の瞳孔中心PCの位置を検出し、角膜反射位置検出部27dが前眼部画像E′中の角膜反射Brの位置を検出する。そして、視軸算出部27eが瞳孔軸PXと光軸とのなす角度θを算出し、この角度θ及び瞳孔軸PXと視軸VXとのなすラムダ角λに基づいて、視軸VXと光軸とのなす角度θ1を求める。
ステップS5では、ステップS4において算出された角度θに基づき、点光源制御部27gがアライメント光源36aを移動させる。ステップS6では、ステップS5において移動されたアライメント光源36aに基づく前眼部画像E′中の角膜反射Brの位置及び瞳孔中心PCに基づき、視軸算出部27eが瞳孔軸PXと光軸とのなす角度θ、及び視軸VXと光軸とのなす角度θ1を改めて算出する。なお、何点かの固視点を被検者に提示し、問題なく固視しているか自覚判断を行い、この自覚判断に基づいて角度θ1を補正してもよい。また、これらの平均補正値を実装してもよい。
ステップS7では、ステップS6において算出された角度θ1が閾値未満であるか否かが判定され、閾値未満である(ステップS7においてYES)と判定されたらプログラムはステップS8に進み、閾値以上である(ステップS7においてNO)と判定されたらプログラムはステップS5に戻り、点光源制御部27gがさらにアライメント光源36aを移動させる。ここに、閾値は任意に設定可能であるが、斜視のない被検眼Eにおけるラムダ角(+5°)を加味して角度θ1の閾値に設定することが好ましい。
なお、ステップS7において算出された角度θ1が閾値未満であると判定されたときのアライメント光源36aの移動量は角膜反射Brのずれ量d0または変位Δと略同一であると考えられるので、アライメント光源36aの移動量を斜視の定量的検査の値、すなわちプリズム度数であるとしてもよい。
ステップS8では、ステップS4で算出された視軸VXと光軸とのなす角度θ1、またはアライメント光源36aの移動量に基づき、視標投影系32のロータリープリズム32A、32Bを回転駆動させ、これらロータリープリズム32A、32Bによりプリズム基底方向及びプリズム度数を与える。この状態で、検者は被検者に対して、視標投影系32により呈示される固視標が右被検眼ER及び左被検眼ELでずれて(ブレて)いるかどうかの自覚検査を行う(ステップS9)。その後、検者は、検者用コントローラ25等を用いてロータリープリズム32A、32Bの回転駆動を指示し、ロータリープリズム32A、32Bにより与えられるプリズム基底方向及びプリズム度数の微調整を行い、最終的に固視標がずれて検出されない状態での右被検眼ERまたは左被検眼ELの斜視の度合いをプリズム基底方向及びプリズム度数として求める。
図15は、本実施の形態の眼科装置10の検者用コントローラ25の表示面25aに表示される画面の一例を示す図である。図15に示す画面は、図14のフローチャートにおけるステップS4、S6で実施される視軸VXと光軸とのずれ量算出後に表示される。
図15に示す画面の中央部の左には右被検眼ERの前眼部画像ER′が、右には左被検眼ELの前眼部画像EL′がそれぞれ表示されている。既に説明したように、これら前眼部画像ER′、EL′は観察系31の撮像素子31gにより撮像されたものである。
また、これら前眼部画像ER′、EL′の下には、現在視標投影系32のディスプレイ32aにより呈示されている固視標40R、40Lがそれぞれ表示されている。そして、これら固視標40R、40Lの下には、瞳孔中心検出部27c及び角膜反射位置検出部27dの検出結果である模式図41R、41Lがそれぞれ表示されている。
(眼科装置の効果)
このように構成された本実施の形態である眼科装置10では、瞳孔中心検出部27c及び角膜反射位置検出部27dがそれぞれ検出した瞳孔中心PCの位置及び角膜反射Brの位置に基づいて、視軸算出部27eが右被検眼ER及び左被検眼ELの視軸VXのずれ量として瞳孔中心PCの位置にと角膜反射Brとのずれ量d0または輝点像Brの変位Δ、さらには視軸VXと光軸とのなす角度θ1を算出している。
このずれ量d0または変位Δ及び角度θ1は被検眼Eの斜視の定量値である。従って、本実施の形態である眼科装置10によれば、被検眼Eの斜視、斜位の検査を自動的にかつ精密に行うことが可能となる。
また、検者用コントローラ25の表示部25bは、前眼部画像E′における瞳孔中心及び角膜反射の位置を示す模式図を表示するので、被検眼Eの斜視の度合いを検者が直感的かつ簡易に把握することができる。これにより、斜視の定性的検査を行うことができる。
また、測定ヘッド制御部27fが、右被検眼ER及び左被検眼ELの前方にある特定位置において、これら右被検眼ER及び左被検眼ELの少なくとも一方により固視標を固視させるように駆動機構15により測定ヘッド16を回転させ、瞳孔中心検出部27c及び角膜反射位置検出部27dは、測定ヘッド制御部27fにより測定ヘッド16が回転させられた状態で瞳孔中心及び前記角膜反射の位置を検出するので、右被検眼ER及び左被検眼ELを輻輳させた状態で、ヒルシュベルグ法に則った斜視の定量的検査を行うことができる。
さらに、測定光学系21は、アライメント光源36aと、このアライメント光源36aから出射される拡散光を平行光に変換して右被検眼ER及び左被検眼ELに入射させるアライメント系36と、アライメント光源36aを光軸に直交する平面上で移動させる点光源駆動部36cとを有する。点光源制御部27gは、角膜反射Brの位置を瞳孔中心PCに略一致させるように点光源駆動部36cによりアライメント光源36aを移動させる。従って、このアライメント光源36aの移動量により被検眼Eの斜視の度合い、すなわち角膜反射Brのずれ量d0または変位Δ、及び/または視軸VXと光軸とのなす角度θ1を算出、確認することができる。
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
一例として、検者用コントローラ25の表示部25bの画面に、固視標の提示位置と右被検眼または左被検眼との間の距離を表示させてもよい(図13における距離L)。また、表示部25bの画面に、視軸算出部27eによる算出結果に基づく視軸と瞳孔軸の関係を示す図、一例として、図6に示すような、右被検眼及び左被検眼の水平方向の断面図に、実際の測定結果に基づく視軸VX及び光軸を書き加えたような図を表示させてもよい。
また、上述の実施の形態である眼科装置10では、ヒルシュベルグ法に則った斜視の定量的検査を行っていた。このため、固視標を被検眼Eから33cmだけ前方の所定位置に配置していた。つまり、実施の形態である眼科装置10では、近位における斜視の定量的検査を行っていた。しかし、固視標の表示位置は、上述の実施の形態における33cmに限定されず、他の所定位置、例えば無限遠位置に固視標を配置して斜視の定量的検査を行ってもよい。