JP7262172B2 - 高Mnオーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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Description
これらのことから、このような鋼材は、70MPaの高圧かつ低温の水素ガスに曝されることが想定される。
したがって、このような高温・高圧の水素ガスに曝されるタンクや配管、熱交換器などに適用される鋼材に関しては、水素ステーションの長期的な安定運用の観点から、新たに90ppmの水素を予め含有した状態でも、さらに高圧かつ低温の水素ガス中での機械的特性が劣化しない優れた耐水素脆化特性を有することが求められる。これに加え、水素ステーションのより一層の普及のためには低コストである鋼材の開発が必要不可欠と言える。
また従来、オーステナイト系ステンレス鋼において、水素環境下における耐水素脆化特性を高める技術が種々検討されている。
従来、Alは、変形双晶の発現により強度・延性バランスを向上させたTWIP鋼の延性改善のために添加される元素であるが、Alを添加した高Mn鋼の耐水素脆化特性は非特許文献1で示す通り不十分であることが知られている。
(2)質量%で、Cu:0.1~4.0%を含むことを特徴とする(1)に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(3)質量%で、Mo:0.1~2.0%を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(4)質量%で、REM:0.010%以下、B:0.0080%以下を1種または2種含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(5)質量%で、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下を1種または2種以上含むことを特徴とする(1)~(4)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(6)質量%で、W:0.5%以下を含むことを特徴とする(1)~(5)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(7)質量%で、Co:1.0%以下を含むことを特徴とする(1)~(6)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(8)質量%で、Sn:0.1%以下、Sb:0.01%以下を1種または2種含むことを特徴とする(1)~(7)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(9)水素ガスおよび液体水素のタンク本体およびライナー、配管、バルブで用いることを特徴とする(1)~(8)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(10)水素ステーションの圧縮機および熱交換器で用いることを特徴とする(1)~(9)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(11)300℃、90MPa水素ガス中に72時間曝露し鋼内に水素を含有させた鋼を水素曝露材、水素を含有させていない鋼を非水素曝露材とした場合、-40℃の大気中での引張試験で得られた非水素曝露材の破断伸びに対する、-40℃の90MPaの水素ガス中での引張試験で得られた水素曝露材の破断伸びの比が、0.90以上であることを特徴とする(1)~(10)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
Cは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化特性の向上に寄与する。また、固溶強化による強度増加にも寄与する。これら効果を得るため、C含有量を0.010%以上とすることが好ましい。一方、過剰にCを含有させることは、Cr系炭化物の過剰な析出やCr-C短範囲規則相の生成を招き、耐水素脆化特性の低下に繋がる。このため、C含有量の上限を0.200%以下とする必要がある。好ましいC含有量の上限は0.150%以下であり、より好ましくは0.100%以下である。
ここで、短範囲規則相とは、長範囲規則相(析出物)の前駆体であり、析出物と比べて崩れやすく脆い状態である。鋼中において部分的に短範囲規則状態が崩れた面では障害物が無くなるため、他の領域と比較してすべり変形が生じやすくなり、その結果、粒界等に転位が堆積してしまい、この転位と水素の相互作用によりき裂が生成するおそれがある。すなわち、短範囲規則相は、き裂の生成による延性の低下を招くおそれがあることから、抑制することが望まれる。
Siは、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。オーステナイト相の安定化により耐水素脆化特性を向上させるため、Si含有量を0.10%以上とする必要がある。Si含有量は0.30%以上であることが好ましい。一方、過剰にSiを含有させることは、シグマ相などの金属間化合物の生成を促進させ、熱間加工性や靭性低下を招く。このため、Si含有量の上限を2.00%とする必要がある。Si含有量は、好ましくは1.500%以下である。
Mnは、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。また本実施形態では、鋼中に予め水素が含有しているような過酷な状態下でも耐水素脆化特性を向上させる観点から、Mnは重要な元素である。これらのことから、オーステナイト相の安定化による加工誘起マルテンサイト相の生成抑制により耐水素脆化特性をさらに向上させるため、Mn含有量を6.0%以上とする必要がある。Mn含有量は7.5%以上であることがさらに好ましい。一方、過剰にMnを含有させることは、水素脆化による割れ発生の起点となるε相の生成を促進させるため、上限を20.0%以下とする必要がある。好ましいMn含有量の上限は15.0%以下である。
Pは、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼中に不純物として含まれる。Pは、熱間加工性を低下させる元素であるため、極力低減させることが好ましい。具体的には、P含有量は0.060%以下と制限し、0.050%以下と制限することが好ましい。しかし、P含有量の極度の低減は製鋼コストの増大に繋がるため、P含有量は0.008%以上であることが好ましい。
Sは、熱間加工時にオーステナイト粒界に偏析し、粒界の結合力を弱めることで熱間加工時の割れを誘発する元素である。そのため、S含有量の上限を0.0080%と制限する必要がある。S含有量の好ましい上限は0.0050%以下である。S含有量は、極力低減させることが好ましいため、特に下限は設けないが、極度の低減は製鋼コストの増大に繋がる。このためS含有量は0.0001%以上であることが好ましい。
Niは、オーステナイト系ステンレス鋼の耐水素脆化特性を向上させる効果が大きい元素である。この効果を十分に得るため、Ni含有量を4.0%以上とする必要がある。Ni含有量は5.0%以上であることが好ましい。一方、過剰にNiを含有させることは材料コストの上昇を招くため、Ni含有量の上限を12.0%とする。Ni含有量は、好ましくは10.0%以下である。
Crは、ステンレス鋼に要求される耐食性を得るために欠くことのできない元素である。加えて、Crは、オーステナイト系ステンレス鋼の強度上昇にも寄与する元素である。一般的な腐食環境下で既存のSUS316鋼と遜色のない耐食性を確保するため、Cr含有量は10.0%以上とする必要がある。Cr含有量は、好ましくは13.5%以上である。一方、過剰にCrを含有することは、Cr系炭窒化物の過剰な析出やCr-C短範囲規則相の生成を招き、耐水素脆化特性を低下させる。このため、Cr含有量の上限を25.0%以下とする必要がある。Cr含有量は、好ましくは18.0%以下である。
Nは、オーステナイト相の安定化と耐食性向上に有効な元素である。また、固溶強化により強度上昇に寄与する。一方でAlを多量に含有させることはAlNの生成を助長して、Alの耐水素脆化特性を向上させる効果を十分に得ることができない上、鋼材製造時の熱間加工性の低下を招くため、上限を0.100%以下とする必要がある。好ましくは0.080%以下である。N含有量の下限は特に設けないが、過剰の低減は製錬時のコスト増加に繋がるため、好ましい下限は0.010%以上である。
Alは、上述したように、これまで耐水素脆化特性を劣化させると考えられてきたが、本発明者らの鋭意検討の結果、所定の成分系ではオーステナイト系ステンレス鋼の耐水素脆化特性の向上に有効な元素であることが分かった。この効果を十分に得るため、Al含有量を0.16%以上とする必要がある。好ましくは0.30%以上、より好ましくは0.50%以上である。一方、多量にAlを含有させることは耐水素脆化特性を劣化させる加工誘起マルテンサイトの過剰な生成に繋がる。また、Niなどと金属間化合物を形成し、鋼材の製造性を劣化させる。したがって、上限を4.0%以下とする必要がある。より好ましい上限は3.5%以下である。
Mg、Caはともに、脱酸および熱間加工性の向上に有効な元素である。また、本実施形態において耐水素脆化特性を向上させるAl2O3-CaO-MgOの生成に寄与する元素である。これら効果を十分に得るため、Mg、Caの含有量はそれぞれ0.0002%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがさらに好ましい。一方、これら元素を過剰に含有することは、製造コストの著しい増加を招く。このため、Mg、Caの含有量の上限をそれぞれ0.0100%以下とする必要がある。
なお、本実施形態における「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であり、不可避的に混入する成分も含む。
Cuは、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。オーステナイト相の安定化により耐水素脆化特性を向上させるため、Cuを含有させる場合のその含有量は0.1%以上とする必要がある。Cu含有量は、好ましくは0.3%以上である。一方、過剰にCuを含有させることは、強度低下につながり、熱間加工性も損なわれるため、Cuを含有させる場合にはCu含有量の上限を4.0%以下とする必要がある。Cu含有量は、より好ましくは3.5%以下である。
Moは、オーステナイト系ステンレス鋼の強度上昇と耐食性向上に寄与する元素である。しかしながら、Moを多量に含有させることは合金コストの増加を招く。したがって、Moを含有させる場合のMo含有量は2.0%以下とすることが好ましい。一方、Moはスクラップ原料から不可避に混入する元素である。Mo含有量の過度な低減は溶解原料の制約を招き、製造コストの増加に繋がる。したがって、上記効果と製造コストの抑制を両立させるため、Moを含有させる場合のMoの下限は0.1%以上とすることが好ましい。
REM、Bはともに、脱酸および熱間加工性、耐食性の向上に有効な元素である。必要に応じてこれらのうちから選んだ1種または2種の元素を含有してもよい。ただし、これら元素を過剰に含有することは、製造コストの著しい増加を招く。このため、REM、Bを含有させる場合には、上限をREM:0.01%以下、B:0.008%以下とする必要がある。これら元素の下限は特に設ける必要はないが、脱酸効果を十分に得るため、REM:0.001%以上、B:0.0002%以上とすることが好ましい。
ここで、REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。本実施形態でいう「REM」とは、これら希土類元素から選択される1種以上で構成されるものであり、「REM量」とは、希土類元素の合計量である。
Ti、Nb、Vは鋼中に固溶または炭窒化物として析出し、強度を増加させるために有効な元素である。必要に応じてこれらのうちから選んだ1種または2種以上の元素を含有してもよい。ただし、Ti、Nb、Vの各含有量が1.0%より多くなると生成した炭窒化物が熱間加工時の製造性を低下させる。したがって、Ti、Nb、Vを含有させる場合には、Ti、Nb、V含有量の上限をそれぞれ1.0%以下とする必要がある。これらの好ましい含有量の上限はそれぞれ0.5%である。
Wはオーステナイト系ステンレス鋼の強度増加や耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて含有してもよい。本効果を得るため、0.001%以上含有することが好ましい。一方、Wを過剰に含有することは製造コストの増加を招くため、上限を0.5%以下とする必要がある。好ましい含有量の上限は0.3%以下である。
Coは耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて含有してもよい。本効果を得るため、0.04%以上含有することが好ましい。一方、Coを過剰に含有することは加工誘起マルテンサイト相の生成を助長し、耐水素脆化特性を低下させるため、上限を1.0%以下とする必要がある。好ましい含有量の上限は0.8%以下である。
Sn、Sbは耐酸化性の向上に有効な元素であり、必要に応じて少なくともいずれかを含有してもよい。本効果を得るため、Snは0.001%以上、Sbは0.0005%以上含有することが好ましい。一方、これら元素を過剰に含有することは熱間加工性を低下させるため、Snの上限を0.1%以下、Sbの上限を0.01%以下とする必要がある。好ましい含有量の上限はSnが0.08%以下、Sbが0.008%以下である。
さらに、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、上述した本発明者らの新たな知見に基づき、Cr、Mn、Ni、Alを含む合金成分組成をバランスよく最適化することによって、鋼中に予め水素が含有しているような過酷な状態下でも耐水素脆化特性を向上させることができる。そのため、従来の水素環境用ステンレス鋼で使用を想定している環境よりもさらに過酷な状況であっても、耐水素脆化特性を劣化させることなく、好適にしようすることができる。
なお、表中の下線は本発明範囲から外れているものを示す。
得られた厚さ2mmの冷延焼鈍板の長手方向から、JIS13号B引張試験片を採取した。
(2)高圧水素ガス中引張試験は、試験環境を「90MPa水素ガス中」としたこと以外は、(1)の大気中引張試験と同条件で実施した。
相対破断伸び(破断伸び比)として、「(水素曝露材・高圧水素ガス中での破断伸び/非水素曝露材・大気中での破断伸び)」および「(非水素曝露材・高圧水素ガス中での破断伸び/非水素曝露材・大気中での破断伸び)」の値を算出し、この値が0.90以上0.95未満のものを「○」、0.95以上のものを「◎」、0.90未満のものを「×」とし、0.90以上の場合(「○」および「◎」の場合)に高圧水素ガス中での耐水素脆化特性が合格であると評価した。
これら試験(1)~(3)の結果を表2に示す。
Claims (11)
- 質量%で、C:0.024~0.200%、Si:0.10~2.00%、Mn:6.0~20.0%、P:0.060%以下、S:0.0080%以下、Ni:4.0~12.0%、Cr:10.0~25.0%、N:0.010~0.100%、Al:0.30~4.0%、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、Cu:0~4.0%、Mo:0~2.0%、REM:0~0.010%、B:0~0.0080%、Ti:0~1.0%、Nb:0~1.0%、V:0~1.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
水素ガスおよび液体水素環境中で用いることを特徴とする高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。 - 質量%で、Cu:0.1~4.0%を含むことを特徴とする請求項1に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、Mo:0.1~2.0%を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、REM:0.010%以下、B:0.0080%以下を1種または2種含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下を1種または2種以上含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、W:0.5%以下を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、Co:1.0%以下を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、Sn:0.1%以下、Sb:0.01%以下を1種または2種含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 水素ガスおよび液体水素のタンク本体およびライナー、配管、バルブで用いることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 水素ステーションの圧縮機および熱交換器で用いることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
- 300℃、90MPa水素ガス中に72時間曝露し、鋼内に水素を含有させた鋼を水素曝露材とし、水素を含有させていない鋼を非水素曝露材とした場合、
-40℃の大気中での引張試験で得られた非水素曝露材の破断伸びに対する、-40℃の90MPaの水素ガス中での引張試験で得られた水素曝露材の破断伸びの比が、0.90以上となることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
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