JP7012557B2 - 高Mnオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents

高Mnオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高Mnオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法に関し、特に、高圧水素ガスおよび液体水素環境下で使用可能な高Mnオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法に関する。
近年、地球温暖化防止の観点から、温室効果ガス(CO、NO、SO)の排出を抑制するため、水素をエネルギーの輸送・貯蔵媒体として利用する技術開発が進んでいる。このため、水素の貯蔵・輸送用機器で使用する金属材料の開発が期待されている。
従来、圧力40MPa程度までの水素ガスは、厚肉のCr-Mo鋼製ボンベに高圧ガスとして充填・貯蔵されている。また、配管用材料あるいは燃料電池自動車の高圧水素ガスタンクライナーとしては、JIS規格のSUS316系オーステナイト系ステンレス鋼(以下、「SUS316鋼」と記載)が使用されている。SUS316鋼は、高圧水素ガスおよび液体水素環境下(以下、単に水素環境下ともいう。)での耐水素脆化特性が、例えば上記のCr-Mo鋼を含む炭素鋼や、JIS規格のSUS304系オーステナイト系ステンレス鋼(以下、「SUS304鋼」と記載)と比較して良好である。
近年、燃料電池自動車の販売が開始され、各地で水素ステーションの建設が進行中である。水素ステーションにおいては、燃料電池自動車のタンクに充填する水素を-40℃程度の低温に予冷するプレクールと呼ばれる技術が実用化されている。また、大量の水素を液体水素として貯蔵でき、かつ液体水素を昇圧して70MPa以上の高圧水素ガスとして供給可能な水素ステーションが実証段階にあり、この場合、水素ステーションのディスペンサーに付随する液体水素用貯蔵容器(タンク)や水素ガス配管などに用いる鋼材は液体水素温度(-253℃)から室温までの温度域に曝される。
これらのことから、このような鋼材は、70MPaの高圧かつ低温の水素ガスに曝されることが想定される。
また、水素ステーションにおいて、蓄圧器に貯蔵された水素ガスは圧縮機により最終圧力まで圧縮された後、燃料電池自動車へと充填される。70MPa級水素ステーションの場合、圧縮直後の水素ガスの圧力は90MPa程度、温度は250℃程度に達する。
長期的な水素ステーションの運用を想定した場合、90MPa、250℃程度の水素ガスに曝された鋼材には水素の侵入が生じることが考えられ、その水素侵入量は90ppm程度に達する。
したがって、このような高温・高圧の水素ガスに曝されるタンクや配管、熱交換器などに適用される鋼材に関しては、水素ステーションの長期的な安定運用の観点から、新たに90ppmの水素を予め含有した状態でも、さらに高圧かつ低温の水素ガス中での機械的特性が劣化しない優れた耐水素脆化特性を有することが求められる。これに加え、水素ステーションのより一層の普及のためには低コストな鋼材の開発が必要不可欠である。
水素環境下で水素脆化しない金属材料として、Niを13%程度、Moを2%程度含有したSUS316鋼およびSUS316L鋼が挙げられ、これら2鋼種を国内の70MPa級水素ステーションで使用することが高圧ガス保安協会の定める例示基準にて認められている。
また従来、オーステナイト系ステンレス鋼において、水素環境下における耐水素脆化特性を高める技術が種々検討されている。
例えば、特許文献1(国際公開第2004/83477号)で開示されたステンレス鋼は、Nの固溶強化による高強度化を指向した高圧水素ガス用ステンレス鋼である。室温で良好な耐水素脆化特性を確保しつつ、SUS316鋼を上回る強度を有している。
特許文献2(国際公開第2007/052773号)および特許文献3(国際公開第2012/043877号)で開示されたステンレス鋼は、MnおよびCuの活用により耐水素脆化特性を確保しつつ、低Ni化を試みた高Mnオーステナイト系ステンレス鋼であり、高圧水素ガス中で優れた耐水素脆化特性を有している。
特許文献4(特開2014-114471号公報)で開示されたステンレス鋼は、Mo添加を省略しているため安価であり、-40℃において優れた耐水素脆化特性を有する。
特許文献5(特開2014-47409号公報)で開示されたステンレス鋼は、金属間化合物の析出強化により引張強さを1150MPa以上にまで高めており、さらに優れた耐水素脆化特性を有している。
国際公開第2004/083477号 国際公開第2007/052773号 国際公開第2012/043877号 特開2014-114471号公報 特開2014-47409号公報
「Hydrogen environment embrittlement of stable austenitic steels」INTERNATIONAL JOURNAL OF HYDROGEN ENERGY、第37巻 、p16231~16246 「オーステナイト系ステンレス鋼の加工誘起変態に対する化学組成の影響」塑性と加工、第41巻 第468号、p64~68
上記のように、近年では、高温・高圧の水素ガスに曝されるタンクや配管、バルブ、熱交換器などに適用される鋼材に対し、予め水素を含有した過酷な状態でも、水素環境下での機械的特性が劣化しない優れた耐水素脆化特性を有するとともに、高価な元素を極力低減した経済性に優れた鋼材の開発が求められる。
しかしながら、特許文献1に記載のステンレス鋼は、室温・高圧水素ガス中での耐水素脆化特性を評価したものであり、予め水素を含有した状態での高圧水素ガス中の耐水素脆化特性については不明である。また、実質Ni含有量が10%以上となるため、経済性に課題がある。
特許文献2および特許文献3に記載のステンレス鋼は、室温~-100℃・高圧水素ガス中での耐水素脆化特性を評価したものであり、予め水素を含有した状態での高圧水素ガス中の耐水素脆化特性については不明である。
特許文献4に記載のステンレス鋼は、-40~90℃・高圧水素ガス中での耐水素脆化特性を評価したものであり、予め水素を含有した状態での高圧水素ガス中の耐水素脆化特性については不明である。
特許文献5に記載のステンレス鋼は、常温・高圧水素ガス中での耐水素脆化特性を評価したものであり、予め水素を含有した状態での高圧水素ガス中の耐水素脆化特性については不明である。また、実質20%程度のNiを含有しており、経済性に課題がある。
このように、予め水素を含有した状態での高圧水素ガスならびに液体水素環境中の耐水素脆化特性と経済性を兼ね備えたオーステナイト系ステンレス鋼は、未だ出現していないのが現状である。
本発明は、前述の現状に鑑みなされたもので、高圧水素ガスおよび液体水素環境下で好適に使用できる耐水素脆化特性に優れた高Mnオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、オーステナイト系ステンレス鋼において、90ppm程度の水素を予め含有した状態での高圧水素ガスおよび液体水素環境下による延性低下抑制に対してAlが有効に作用することを新たに発見した。
従来、Alは、変形双晶の発現により強度・延性バランスを向上させたTWIP鋼の延性改善のために添加される元素であるが、Alを添加した高Mn鋼の耐水素脆化特性は非特許文献1で示す通り不十分であることが知られている。
また、非特許文献2で示す通り、Alはオーステナイト相の安定性を低下させることで加工誘起マルテンサイト相の生成を助長する元素であり、耐水素性の観点からは耐水素脆化特性を悪化させる元素であると推察されるのが一般的であった。
ここで発明者らは、主要元素であるCr、Mn、Ni、Alと微量元素で構成されている高Mnオーステナイト系ステンレス鋼の合金成分組成と高圧水素ガスおよび液体水素環境下による延性低下抑制の関係について鋭意研究を行った。その結果、これまで耐水素脆化特性を劣化させると考えられてきたAlが、ある限られた成分系では耐水素脆化特性の発現・向上に有効に作用することが新たなに分かった。具体的に、本発明者らは以下(a)~(i)の新しい知見を得た。
(a)オーステナイト相に固溶した水素は、オーステナイト相の変形組織を、水素脆化感受性の高い局所的な転位構造へと変化させる作用を有する。
(b)引張変形時に生成する加工誘起マルテンサイトは、オーステナイト相と比較して水素の固溶度が小さい。このため、加工誘起マルテンサイト中に過飽和に固溶している水素はオーステナイト相へと拡散し、加工誘起マルテンサイトとオーステナイト相の界面近傍において水素の濃化領域が形成される。
(c)また、高圧水素ガスおよび液体水素中においてはさらに鋼材表層からの水素供給が生じるため、鋼材内部と比較して鋼材表層近傍はより厳しい水素脆化環境となる。
(d)上記鋼材表層近傍の加工誘起マルテンサイトとオーステナイト相の界面近傍における水素の濃化領域で、転位と水素の相互作用によりき裂が生成し、伝ぱすることでステンレス鋼の延性を低下させる。
(e)Alはオーステナイト相の安定度を低下させる一方で、オーステナイト相の変形組織形態のセル状化に大きく寄与する元素であることが分かった。上記(a)のとおり、オーステナイト相に固溶した水素によってオーステナイト相の変形組織は、水素脆化感受性の高い局所的な転位構造へと変化し、応力集中部が形成されてしまう。しかし、成分系をAlを含む所定の合金成分とすることで変形組織形態がセル状になった場合、オーステナイト相中の局所的な応力集中が緩和される。その結果、加工誘起マルテンサイトとオーステナイト相の界面近傍における水素の濃化領域でのき裂の生成が抑制され、結果として耐水素脆化特性の向上に寄与したと考えられる。
(f)さらに、Alを含有させることでAl-CaO-MgO系介在物の生成が助長される。本介在物は高圧水素ガス雰囲気から鋼材へ侵入した水素を固溶することができ、さらに本介在物とオーステナイト相界面で水素をトラップする効果があることが新たに分かった。本効果により転位との相互作用によってき裂を生じさせる水素の量を軽減することができる。
(g)上記のトラップ効果を十分に得るためには、Al-CaO-MgO系介在物が、大きさが0.5μm以上で、かつ鋼中の500μm×500μmの領域において、3個以上存在している必要がある。ここで、介在物の大きさとは介在物の長径と短径の平均値を意味する。
(h)通常、オーステナイト系ステンレス鋼はSi脱酸により製造されるため、生成する介在物はSiO-CaO-MgO系が主体となる。これに対し、Al脱酸によって製造することでAl-CaO-MgO系介在物の生成を助長させることが可能となる。
(i)通常、オーステナイト系ステンレス鋼は冷間圧延前、熱延板を軟質化させるために熱処理(熱延板焼鈍)を行う。ここで、本発明者らが、Al-CaO-MgO系介在物の存在状態に影響を及ぼす製造方法について調査した結果、Al-CaO-MgO系介在物に導入されている歪を利用し冷延時に粉砕することで、介在物の大きさや分布状態を制御できることが分かった。すなわち、熱間圧延後のAl-CaO-MgO系介在物には歪が導入されているが、熱延板焼鈍を行ってしまうとこの歪は消失してしまい冷延時に粉砕できないため、冷間圧延前の熱延板焼鈍を省略することで、次工程の冷間圧延によるAl-CaO-MgO系介在物の粉砕が容易となり、(g)に記載の介在物の存在状態を効率的に得ることができることが分かった。
本発明は、上記(a)~(i)の知見に基づきなされたもので、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.200%以下、Si:0.10~2.00%、Mn:6.0~20.0%、P:0.060%以下、S:0.0080%以下、Ni:4.0~12.0%、Cr:10.0~25.0%、N:0.100%以下、Al:0.01~4.0%、Ca:0.0002~0.0100%、Mg:0.0002~0.0100%、Cu:0~4.0%、Mo:0~2.0%、REM:0~0.010%、B:0~0.0080%、Ti:0~1.0%、Nb:0~1.0%、V:0~1.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、長径と短径の平均値が0.5~5μmのAl-CaO-MgO系介在物を、500μm×500μmの領域に3~20個の範囲で含むことを特徴とする高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(2)質量%で、Cu:0.1~4.0%を含むことを特徴とする(1)に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(3)質量%で、Mo:0.1~2.0%を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(4)質量%で、REM:0.010%以下、B:0.0080%以下を1種または2種含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(5)質量%で、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下を1種または2種以上含むことを特徴とする(1)~(4)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(6)質量%で、W:0.5%以下を含むことを特徴とする(1)~(5)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(7)質量%で、Co:1.0%以下を含むことを特徴とする(1)~(6)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(8)質量%で、Sn:0.1%以下、Sb:0.01%以下を1種または2種含むことを特徴とする(1)~(7)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(9)水素ガスまたは液体水素環境中で用いることを特徴とする(1)~(8)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(10)水素ガスまたは液体水素のタンク本体およびライナー、配管、バルブで用いることを特徴とする(1)~(9)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(11)水素ステーションの圧縮機および熱交換器で用いることを特徴とする(1)~(10)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
(12)(1)~(8)のいずれか一項に記載の成分を有する鋳片をAl脱酸により製造し、さらに、熱間加工後、熱処理を施すことなく冷間加工を行うことを特徴とする、(1)~(11)のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
本発明によれば、耐水素脆化特性に優れた高Mnオーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供することができる。
本実施形態の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼(以下、単にオーステナイト系ステンレス鋼とも記す。)の成分組成について説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
<C:0.200%以下>
Cは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化特性の向上に寄与する。また、固溶強化による強度増加にも寄与する。これら効果を得るため、C含有量を0.010%以上とすることが好ましい。一方、過剰にCを含有させることは、Cr系炭化物の過剰な析出やCr-C短範囲規則相の生成を招き、耐水素脆化特性の低下に繋がる。このため、C含有量の上限を0.200%以下とする必要がある。好ましいC含有量の上限は0.150%以下であり、より好ましくは0.100%以下である。
ここで、短範囲規則相とは、長範囲規則相(析出物)の前駆体であり、析出物と比べて崩れやすく脆い状態である。鋼中において部分的に短範囲規則状態が崩れた面では障害物が無くなるため、他の領域と比較してすべり変形が生じやすくなり、その結果、粒界等に転位が堆積してしまい、この転位と水素の相互作用によりき裂が生成するおそれがある。すなわち、短範囲規則相は、き裂の生成による延性の低下を招くおそれがあることから、抑制することが望まれる。
<Si:0.10~2.00%>
Siは、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。オーステナイト相の安定化により耐水素脆化特性を向上させるため、Si含有量を0.10%以上とする必要がある。Si含有量は0.30%以上であることが好ましい。一方、過剰にSiを含有させることは、シグマ相などの金属間化合物の生成を促進させ、熱間加工性や靭性低下を招く。このため、Si含有量の上限を2.00%とする必要がある。Si含有量は、好ましくは1.500%以下である。
<Mn:6.0~20.0%>
Mnは、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。また本実施形態では、鋼中に予め水素が含有しているような過酷な状態下でも耐水素脆化特性を向上させる観点から、Mnは重要な元素である。これらのことから、オーステナイト相の安定化による加工誘起マルテンサイト相の生成抑制により耐水素脆化特性をさらに向上させるため、Mn含有量を6.0%以上とする必要がある。Mn含有量は7.5%以上であることがさらに好ましい。一方、過剰にMnを含有させることは、水素脆化による割れ発生の起点となるε相の生成を促進させるため、上限を20.0%以下とする必要がある。好ましいMn含有量の上限は15.0%以下である。
<P:0.060%以下>
Pは、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼中に不純物として含まれる。Pは、熱間加工性を低下させる元素であるため、極力低減させることが好ましい。具体的には、P含有量は0.060%以下と制限し、0.050%以下と制限することが好ましい。しかし、P含有量の極度の低減は製鋼コストの増大に繋がるため、P含有量は0.008%以上であることが好ましい。
<S:0.0080%以下>
Sは、熱間加工時にオーステナイト粒界に偏析し、粒界の結合力を弱めることで熱間加工時の割れを誘発する元素である。そのため、S含有量の上限を0.0080%と制限する必要がある。S含有量の好ましい上限は0.0050%以下である。S含有量は、極力低減させることが好ましいため、特に下限は設けないが、極度の低減は製鋼コストの増大に繋がる。このためS含有量は0.0001%以上であることが好ましい。
<Ni:4.0~12.0%>
Niは、オーステナイト系ステンレス鋼の耐水素脆化特性を向上させる効果が大きい元素である。この効果を十分に得るため、Ni含有量を4.0%以上とする必要がある。Ni含有量は5.0%以上であることが好ましい。一方、過剰にNiを含有させることは材料コストの上昇を招くため、Ni含有量の上限を12.0%とする。Ni含有量は、好ましくは10.0%以下である。
<Cr:10.0~25.0%>
Crは、ステンレス鋼に要求される耐食性を得るために欠くことのできない元素である。加えて、Crは、オーステナイト系ステンレス鋼の強度上昇にも寄与する元素である。一般的な腐食環境下で既存のSUS316鋼と遜色のない耐食性を確保するため、Cr含有量は10.0%以上とする必要がある。Cr含有量は、好ましくは13.5%以上である。一方、過剰にCrを含有することは、Cr系炭窒化物の過剰な析出やCr-C短範囲規則相の生成を招き、耐水素脆化特性を低下させる。このため、Cr含有量の上限を25.0%以下とする必要がある。Cr含有量は、好ましくは18.0%以下である。
<N:0.100%以下>
Nは、オーステナイト相の安定化と耐食性向上に有効な元素である。また、固溶強化により強度上昇に寄与する。一方でNを多量に含有させることはAlNの生成を助長して、Alの耐水素脆化特性を向上させる効果を十分に得ることができない上、鋼材製造時の熱間加工性の低下を招くため、上限を0.100%以下とする必要がある。好ましくは0.080%以下である。N含有量の下限は特に設けないが、過剰の低減は製錬時のコスト増加に繋がるため、好ましい下限は0.010%以上である。
<Al:0.010~4.00%>
Alは、上述したように、これまで耐水素脆化特性を劣化させると考えられてきたが、本発明者らの鋭意検討の結果、所定の成分系ではオーステナイト系ステンレス鋼の耐水素脆化特性の向上に有効な元素であることが分かった。さらに、Alの含有によってAl-CaO-MgO系介在物の生成を促し、このAl-CaO-MgO系介在物によるトラップ効果によって、き裂生成の起因となる水素の量を軽減することができることが分かった。これらの効果を十分に得るため、Al含有量を0.010%以上とする必要がある。好ましくは0.020%以上、より好ましくは0.100%以上である。一方、多量にAlを含有させることは耐水素脆化特性を劣化させる加工誘起マルテンサイトの過剰な生成に繋がる。また、Niなどと金属間化合物を形成し、鋼材の製造性を劣化させる。したがって、上限を4.00%以下とする必要がある。より好ましい上限は3.50%以下である。
<Mg、Ca:0.0002~0.0100%以下>
Mg、Caはともに、脱酸および熱間加工性の向上に有効な元素である。また、本実施形態において耐水素脆化特性を向上させるAl-CaO-MgOの生成に寄与する元素である。これら効果を十分に得るため、Mg、Caの含有量はそれぞれ0.0002%以上とし、0.0010%以上とすることが好ましい。一方、これら元素を過剰に含有することは、製造コストの著しい増加および熱間加工性の劣化を招く。このため、Mg、Caの含有量の上限をそれぞれ0.0100%以下とする必要がある。
本実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、上述してきた元素以外(残部)は、Fe及び不純物からなるが、後述する任意元素についても含有させることができる。よって、Cu、Mo、REM、B、Ti、Nb、V、W、Co、Sn、Sbの含有量の下限は0%以上である。
なお、本実施形態における「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であり、不可避的に混入する成分も含む。
<Cu:0.1~4.0%>
Cuは、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。オーステナイト相の安定化により耐水素脆化特性を向上させるため、Cuを含有させる場合のその含有量は0.1%以上とする必要がある。Cu含有量は、好ましくは0.3%以上である。一方、過剰にCuを含有させることは、強度低下につながり、熱間加工性も損なわれるため、Cuを含有させる場合にはCu含有量の上限を4.0%以下とする必要がある。Cu含有量は、より好ましくは3.5%以下である。
<Mo:0.1~2.0%>
Moは、オーステナイト系ステンレス鋼の強度上昇と耐食性向上に寄与する元素である。しかしながら、Moを多量に含有させることは合金コストの増加を招く。したがって、Moを含有させる場合のMo含有量は2.0%以下とすることが好ましい。一方、Moはスクラップ原料から不可避に混入する元素である。Mo含有量の過度な低減は溶解原料の制約を招き、製造コストの増加に繋がる。したがって、上記効果と製造コストの抑制を両立させるため、Moを含有させる場合のMoの下限は0.1%以上とすることが好ましい。
<REM:0.010%以下、B:0.0080%以下>
REM、Bはともに、脱酸および熱間加工性、耐食性の向上に有効な元素である。必要に応じてこれらのうちから選んだ1種または2種の元素を含有してもよい。ただし、これら元素を過剰に含有することは、製造コストの著しい増加を招く。このため、REM、Bを含有させる場合には、上限をREM:0.01%以下、B:0.0080%以下とする必要がある。これら元素の下限は特に設ける必要はないが、脱酸効果を十分に得るため、REM:0.001%以上、B:0.0002%以上とすることが好ましい。
ここで、REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。本実施形態でいう「REM」とは、これら希土類元素から選択される1種以上で構成されるものであり、「REM量」とは、希土類元素の合計量である。
<Ti、Nb、V:1.0%以下>
Ti、Nb、Vは鋼中に固溶または炭窒化物として析出し、強度を増加させるために有効な元素である。必要に応じてこれらのうちから選んだ1種または2種以上の元素を含有してもよい。ただし、Ti、Nb、Vの各含有量が1.0%より多くなると生成した炭窒化物が熱間加工時の製造性を低下させる。したがって、Ti、Nb、Vを含有させる場合には、Ti、Nb、V含有量の上限をそれぞれ1.0%以下とする必要がある。これらの好ましい含有量の上限はそれぞれ0.5%である。
<W:0.5%以下>
Wはオーステナイト系ステンレス鋼の強度増加や耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて含有してもよい。本効果を得るため、0.001%以上含有することが好ましい。一方、Wを過剰に含有することは製造コストの増加を招くため、上限を0.5%以下とする必要がある。好ましい含有量の上限は0.3%以下である。
<Co:1.0%以下>
Coは耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて含有してもよい。本効果を得るため、0.04%以上含有することが好ましい。一方、Coを過剰に含有することは加工誘起マルテンサイト相の生成を助長し、耐水素脆化特性を低下させるため、上限を1.0%以下とする必要がある。好ましい含有量の上限は0.8%以下である。
<Sn:0.1%以下、Sb:0.01%以下>
Sn、Sbは耐酸化性の向上に有効な元素であり、必要に応じて少なくともいずれかを含有してもよい。本効果を得るため、Snは0.001%以上、Sbは0.0005%以上含有することが好ましい。一方、これら元素を過剰に含有することは熱間加工性を低下させるため、Snの上限を0.1%以下、Sbの上限を0.01%以下とする必要がある。好ましい含有量の上限はSnが0.08%以下、Sbが0.008%以下である。
本実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることが出来る。
さらに、Al-CaO-MgO系介在物の存在状態およびその存在状態を得るための製造方法について説明する。
<Al-CaO-MgO系介在物の存在状態>
Al-CaO-MgO系介在物には、介在物中への水素の固溶、ならびにオーステナイト相との界面で水素をトラップすることで耐水素脆化特性を向上させる効果がある。本効果を十分に得るためには、長径と短径の平均値が0.5μm以上であるAl-CaO-MgO系介在物が、500μm×500μmの範囲に3個以上存在する必要がある。Al-CaO-MgO系介在物の長径と短径の平均値が0.5μm未満の場合、耐水素脆化特性を向上させる効果を得ることができない。一方、Al-CaO-MgO系介在物の長径と短径の平均値が過剰な場合、その周囲に過剰の水素がトラップされてしまい、耐水素脆化特性の劣化を招くため、Al-CaO-MgO系介在物の長径と短径の平均値は、好ましくは5μm以下である。また介在物の存在個数については、3個未満の場合、耐水素脆化特性を向上させる効果を得ることができない。しかし、存在個数が過剰な場合、トラップされる水素量が多くなりすぎてしまい、耐水素脆化特性の劣化を招くおそれがある上、製造性を劣化させる。そのため、Al-CaO-MgO系介在物の好ましい個数の上限は20個以下である。
Al-CaO-MgO系介在物の長径と短径の平均値、および存在個数は以下の方法によって測定することができる。
まず、冷延板から試料を切り出し、L断面が観察面となるように樹脂に埋め込んだ後、鏡面仕上げの研磨を施した後にSEMによる介在物観察を行う。任意に決定した複数視野(1視野:500μm×500μm)において存在する種々の介在物の組成をエネルギー分散型X線分析(EDS)により分析し、Al、Ca、Mg、Oが検出された介在物をAl-CaO-MgO系介在物と見なし、その視野における本介在物数をカウントした。全視野の平均個数をその試料の介在物数とする。
また、Al-CaO-MgO系介在物の大きさを前述の介在物観察によるSEM写真から測定する。具体的には、本介在物の長径と短径の平均値をその介在物の大きさと定義し、全視野で観察されたすべての介在物の大きさを求め、それらの平均値をその試料の介在物の大きさとする。
<製造方法>
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、脱酸の際、Alを用いて脱酸することによってAl-CaO-MgO系介在物の存在状態を制御する。すなわち、Al脱酸を行うことでAl-CaO-MgO系介在物の生成を助長させることが可能となる。
熱間鍛造や熱間圧延等の熱間加工後の鋼中のAl-CaO-MgO系介在物には歪が導入されている。このように歪が導入されたまま鋼材に冷間加工を加えると、本介在物が粉砕しやすくなることが分かった。しかし、熱間加工後に熱処理(焼鈍)してしまうとこの歪は消失してしまう。そのため、本実施形態では、熱間加工後の熱処理を省略し、次工程の冷間加工を行うこととする。これにより、熱間加工で導入された歪を残したまま次工程の冷間加工を行うことができ、その結果、Al-CaO-MgO系介在物の粉砕が容易となり、上記の介在物の存在状態を効率的に得ることができる。
なお、本実施形態における鋼の製造方法において、前述のような脱酸を行うこと、熱延板焼鈍を省略すること以外の各条件等については特に限定せず、例えば、冷間加工の後に最終圧延を施しても構わない。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼によれば、Alを含む所定の成分系とすることによって、変形組織形態を、加工誘起マルテンサイトとオーステナイト相の界面近傍における水素濃化領域でのき裂の生成抑制に効果的なセル状とすることができ、その結果、耐水素脆化特性を向上させることが可能となり、高圧水素ガスおよび液体水素環境中でも好適に使用できる。
さらに、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、上述した本発明者らの新たな知見に基づき、Cr、Mn、Ni、Alを含む合金成分組成をバランスよく最適化することによって、鋼中に予め水素が含有しているような過酷な状態下でも耐水素脆化特性を向上させることができる。そのため、従来の水素環境用ステンレス鋼で使用を想定している環境よりもさらに過酷な状況であっても、耐水素脆化特性を劣化させることなく、好適にしようすることができる。
また、Al含有によって、オーステナイト相界面で水素をトラップする効果を有するAl-CaO-MgO系介在物を生成することができ、このトラップ効果によって転位との相互作用によってき裂を生じさせる水素の量を軽減することができる。
また、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、棒鋼や鋼板等形状を問うことなく、従来よりも優れた耐水素脆化特性を享受できる。そのため、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、高圧水素ガスおよび液体水素のタンク本体およびライナー、配管、バルブ、水素ステーションの圧縮機および熱交換器等、水素ガスや液体水素に曝される環境下で好適に用いることが可能である。
なお、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は特に限定することなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定してよい。例えば、前述の化学組成を有する鋼塊を溶製した後、鋳造ままあるいは鍛造や分解圧延により、例えばビレットとし、その後、熱間押出しや熱間鍛造、熱間圧延等の熱間加工を行ってよい。また熱間加工後、適宜、熱処理を行ってもよく、必要に応じて冷間加工を加えてもよい。
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
なお、表中の下線は本発明範囲から外れているものを示す。
表1の成分組成を有するステンレス鋼供試材をAl脱酸により溶製し、厚さ50mmの鋳片を製造した。この鋳片を1180℃で1時間加熱して厚さ6mmまで熱間圧延した後、水冷した。得られた厚さ6mmの熱延板を、熱処理を施すことなく、厚さ2mmまで冷間圧延を行った後、1050℃で30秒の熱処理後、空冷し冷延焼鈍板とした。
なお、比較のため試験片29についてはSi脱酸で、試験片30については1180℃で1時間の熱延板熱処理後、厚さ2mmまで冷間圧延を行った。表2に各試験片の製造条件を示す。
次に、介在物の観察を行った。
まず、冷延焼鈍板から試料を切り出し、L断面が観察面となるように樹脂に埋め込んだ後、鏡面仕上げの研磨を行った。次に樹脂埋め込み試料に対してSEMによる介在物観察を実施した。任意に決定した3視野(1視野:500μm×500μm)において存在する介在物の組成をEDSにより分析し、Al、Ca、Mg、Oが検出された介在物をAl-CaO-MgO系介在物と見なし、その視野における本介在物数をカウントした。3視野の平均個数をその試料のAl-CaO-MgO系介在物の個数とした。
また、本介在物の大きさを前述の介在物観察によるSEM写真から測定した。具体的には、Al-CaO-MgO系の長径と短径の平均値をその介在物の大きさと定義し、3視野で観察されたすべての介在物の大きさの平均値をその試料の介在物の大きさとした。脱酸条件および熱延板焼鈍の有無と介在物の存在状態との関係を表2に示した。
次に、引張試験を行うため、得られた厚さ2mmの冷延焼鈍板の長手方向から、JIS13号B引張試験片を採取した。
次に、引張試験を実施する事前処理として、上記引張試験片を300℃、90MPa水素ガス中に72時間曝露し試験片内に水素を含有させて水素曝露材とした。なお、上記引張試験片と合わせて水素含有量分析用試料も水素ガス曝露しており、溶融法により測定した結果、水素侵入量は約90ppmであることを確認した。水素ガス曝露した引張試験片は引張試験直前まで液体窒素中に保管し、鋼中から水素が脱離するのを防止した。
次に、以下に示す方法により(1)大気中引張試験、(2)高圧水素ガス中引張試験、(3)液体水素中引張試験を行った。
(1)大気中引張試験は、試験温度:-40℃、試験環境:大気、歪速度:5×10-5/sの条件で実施した。
(2)高圧水素ガス中引張試験は、試験環境を「90MPa水素ガス中」としたこと以外は、(1)の大気中引張試験と同条件で実施した。
相対破断伸び(破断伸び比)として、「(水素曝露材・高圧水素ガス中での破断伸び/非水素曝露材・大気中での破断伸び)」および「(非水素曝露材・高圧水素ガス中での破断伸び/非水素曝露材・大気中での破断伸び)」の値を算出し、この値が0.90以上0.95未満のものを「○」、0.95以上のものを「◎」、0.90未満のものを「×」とし、0.90以上の場合(「○」および「◎」の場合)に高圧水素ガス中での耐水素脆化特性が合格であると評価した。
(3)液体水素中引張試験は、試験温度:-253℃、歪速度:5×10-5/sの条件で実施し、引張強さ(MPa)と破断伸び(%)の積(引張強さ×破断伸び)を求めた。液体水素中での耐水素脆性は、当該積の値が、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値に対し上回るものを「○」、下回るものを「×」とし、「○」の場合に液体水素中の耐水素脆性が合格であると評価した。
これら試験(1)~(3)の結果を表2に示す。
試験片1~24は、本発明の成分範囲を満たす供試材(発明例)である。これらの相対絞り値は0.90以上であり、また液体水素下においても、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を上回り、水素ガス下ならびに液体水素下の両環境下において優れた耐水素脆化特性を有することを確認できた。
試験片25は、Mn含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、引張変形時に水素脆化感受性の高いε相が生成し、ε相を起点として水素誘起の脆性破壊が生じ、相対破断伸びが低下し、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を下回った。
試験片26は、Al含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、引張変形時に多量の加工誘起マルテンサイト相が生成して鋼中に過剰の水素が侵入し、相対破断伸びが低下し、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を下回った。
試験片27は、N含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、オーステナイト相にAlNの析出が生じ、Alの耐水素脆化特性を向上させる効果を十分に得ることができず、相対破断伸びが低下した。
試験片28は、C含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、Cr-Cの短範囲規則相が形成されてオーステナイト相の変形組織がプラナーな転位構造を呈し、変形の局所化が生じ、その応力集中部で水素誘起のき裂の生成・伝ぱが生じた結果、相対破断伸びが低下し、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を下回った。
試験片29は、Si含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、供試材を製造する過程の熱間圧延時に金属間化合物を起点とした欠陥が生じ、引張変形時にその欠陥を起点とした破壊が生じた結果、相対破断伸びが低下し、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を下回った。
試験片30は、Mn含有量が本発明の範囲を下回る。その結果、引張変形時に多量の加工誘起マルテンサイト相が生成して鋼中に過剰の水素が侵入した結果、相対破断伸びが低下し、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を下回った。
試験片31は、Cr含有量が本発明の範囲を上回る。Cr-Cの短範囲規則相が形成されて変形組織がプラナーな転位構造を呈し、変形の局所化が生じ、その応力集中部で水素誘起のき裂の生成・伝ぱが生じた結果、相対破断伸びが低下し、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を下回った。
試験片32は、P含有量が本発明の範囲を上回る。供試材を製造する過程の熱間圧延時に凝固割れを起点とした欠陥が生じ、引張変形時にその欠陥を起点とした破壊が生じた結果、相対破断伸びが低下し、SUS316Lの引張強さ(MPa)×破断伸び(%)の値を下回った。
試験片33は、Al含有量が本発明の範囲を下回る。その結果、Alの耐水素脆化特性を向上させる効果を十分に得ることができず、相対破断伸びが低下した。
試験片34は、Ca含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、熱間延性の低下により熱間圧延時に供試材内部に微細な割れが生じ、その割れの先端に水素が濃化することで相対破断伸びが低下した。
試験片35は、Ca含有量が本発明の範囲を下回る。その結果、耐水素脆化特性の向上に寄与するAl-CaO-MgO系介在物の個数を十分に得ることができず、耐水素脆化特性が低下した。
試験片36は、Mg含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、熱間延性の低下により熱間圧延時に供試材内部に微細な割れが生じ、その割れの先端に水素が濃化することで相対破断伸びが低下した。
試験片37は、Mg含有量が本発明の範囲を下回る。その結果、耐水素脆化特性の向上に寄与するAl-CaO-MgO系介在物の個数を十分に得ることができず、耐水素脆化特性が低下した。
試験片38は脱酸工程をSi脱酸とし、また試験片39は冷間圧延前に熱延板熱処理を行った例であり、ともに製造方法が本発明の規定を満たしていない。その結果、本発明で規定するAl-CaO-MgO系介在物の存在状態を得ることができず、耐水素脆化特性を向上させることができなかった。特に試験片39は、熱延板熱処理によって歪みが消失してしまい、その後の冷間圧延において介在物を十分に粉砕できず、介在物サイズが粗大となってしまった。
試験片40は、Mn含有量が本発明の範囲を下回り、Ni含有量が本発明の範囲を上回る。その結果、Ni-Alの金属間化合物が生成して鋼中に局所的な歪の集中が起こり、高圧水素ガス下の引張試験において、非水素曝露材の相対破断伸びは良好であったものの、水素曝露材の相対破断伸びおよび液体水素中の引張強さ×破断伸びの低下が生じた。
Figure 0007012557000001
Figure 0007012557000002
本発明の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼は、低温・40MPa超の高圧の水素ガス中および液体水素中で極めて優れた耐水素脆化特性が得られる。このため、本発明の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼は、圧力が40MPaを超える水素ガスを貯蔵する高圧水素ガス用タンク、高圧水素用ガスタンクライナー、高圧水素ガスおよび液体水素用配管、圧縮機、熱交換器などの材料として適用可能である。

Claims (12)

  1. 質量%で、C:0.200%以下、Si:0.10~2.00%、Mn:6.0~20.0%、P:0.060%以下、S:0.0080%以下、Ni:4.0~12.0%、Cr:10.0~25.0%、N:0.100%以下、Al:0.010~4.00%、Ca:0.0002~0.0100%、Mg:0.0002~0.0100%、Cu:0~4.0%、Mo:0~2.0%、REM:0~0.010%、B:0~0.0080%、Ti:0~1.0%、Nb:0~1.0%、V:0~1.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
    長径と短径の平均値が0.5~5μmのAl-CaO-MgO系介在物を、500μm×500μmの領域に3~20個含むことを特徴とする高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  2. 質量%で、Cu:0.1~4.0%を含むことを特徴とする請求項1に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  3. 質量%で、Mo:0.1~2.0%を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  4. 質量%で、REM:0.010%以下、B:0.0080%以下を1種または2種含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  5. 質量%で、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下を1種または2種以上含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  6. 質量%で、W:0.5%以下を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  7. 質量%で、Co:1.0%以下を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  8. 質量%で、Sn:0.1%以下、Sb:0.01%以下を1種または2種含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  9. 水素ガスまたは液体水素環境中で用いることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  10. 水素ガスまたは液体水素のタンク本体およびライナー、配管、バルブで用いることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  11. 水素ステーションの圧縮機および熱交換器で用いることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼。
  12. 請求項1~8のいずれか一項に記載の成分を有する鋳片をAl脱酸により製造し、さらに、熱間加工後、熱処理を施すことなく冷間加工を行うことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の高Mnオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
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