次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図2は、制御装置90と各セルとの電気的な接続関係を示すブロック図である。このガスセンサ100は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関の排ガス管などの配管に取り付けられている。ガスセンサ100は、内燃機関の排ガスを被測定ガスとして、被測定ガス中のNOxやアンモニアなどの特定ガスの濃度を検出する。本実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。ガスセンサ100は、長尺な直方体形状をしたセンサ素子101と、センサ素子101の一部を含んで構成される各セル15,21,41,50,80~83と、ガスセンサ100全体を制御する制御装置90と、を備えている。
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の先端部側(図1の左端部側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
また、被測定ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11を通じて導入された被測定ガスに酸素を汲み入れるための空間(予備室)としての役割も果たす。緩衝空間12への酸素の汲み入れは、予備ポンプセル15が作動することによって行われる。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
予備ポンプセル15は、緩衝空間12に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた予備ポンプ電極16と、センサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6と、を備えた電気化学的ポンプセルである。予備ポンプ電極16は、被測定ガス流通部内の複数の電極のうち最も上流側に配設された電極である。予備ポンプ電極16と外側ポンプ電極23との間に配設された可変電源17が印加するポンプ電圧Vp0sによって、予備ポンプ電極16と外側ポンプ電極23との間にポンプ電流Ip0sを流すことにより、予備ポンプセル15は外部空間の酸素を緩衝空間12内に汲み入れることが可能である。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3及び大気導入層48を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
予備ポンプ電極16,内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,及び測定電極44は、それぞれ、触媒活性を有する貴金属を含んでいる。触媒活性を有する貴金属としては、例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくともいずれかが挙げられる。外側ポンプ電極23及び基準電極42も、触媒活性を有する貴金属を含んでいる。補助ポンプ電極51は、上記の貴金属の特定ガスに対する触媒活性を抑制させる触媒活性抑制能を有する貴金属も含んでいる。これにより、補助ポンプ電極51は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力が弱められている。触媒活性抑制能を有する貴金属としては、例えばAuが挙げられる。これに対し、予備ポンプ電極16と内側ポンプ電極22との少なくとも一方は、触媒活性抑制能を有する貴金属を含んでいない。測定電極44は、触媒活性抑制能を有する貴金属を含まないことが好ましい。外側ポンプ電極23及び基準電極42についても、触媒活性抑制能を有する貴金属を含まないことが好ましい。各電極16,22,23,42,44,51は、それぞれ、貴金属と酸素イオン導電性を有する酸化物(例えばZrO2)とを含むサーメットであることが好ましい。各電極16,22,23,42,44,51は、それぞれ、多孔質体であることが好ましい。本実施形態では、各電極16,22,23,42,44は、いずれも、PtとZrO2との多孔質サーメット電極とした。また、補助ポンプ電極51は、Auを1%含むPtとZrO2との多孔質サーメット電極とした。
制御装置90は、CPU92及びメモリ94などを備えたマイクロプロセッサである。制御装置90は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80にて検出される起電力V0、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される起電力V2、センサセル83にて検出される起電力Vref、予備ポンプセル15にて検出されるポンプ電流Ip0s、主ポンプセル21にて検出されるポンプ電流Ip0、補助ポンプセル50にて検出されるポンプ電流Ip1及び測定用ポンプセル41にて検出されるポンプ電流Ip2を入力する。また、制御装置90は、予備ポンプセル15の可変電源17、主ポンプセル21の可変電源24、補助ポンプセル50の可変電源52及び測定用ポンプセル41の可変電源46へ制御信号を出力する。
制御装置90は、予備ポンプセル15のポンプ電流Ip0sが目標値Ip0s*となるように、可変電源17の電圧Vp0sをフィードバック制御する。制御装置90は、緩衝空間12に酸素を汲み入れるように電圧Vp0sを制御し、緩衝空間12から酸素を汲み出すように電圧Vp0sを制御することはない。また、本実施形態では、制御装置90は、目標値Ip0s*が一定値として定められている。この目標値Ip0s*は、センサ素子101の外部の被測定ガスが低酸素雰囲気(例えば、酸素濃度が0.1体積%以下,0.2体積%未満,1体積%未満などの雰囲気)であっても、予備ポンプセル15での酸素の汲み入れ後の被測定ガス(すなわち第1内部空所20に導入される被測定ガス)が低酸素雰囲気にならないような値として定められている。ここで、被測定ガスの空燃比が理論空燃比より小さい場合つまりリッチ雰囲気の場合、被測定ガスには未燃の燃料が含まれているため、その燃料を過不足なく燃焼させるのに必要な酸素量から酸素濃度を求めることができる。この場合、酸素濃度はマイナスで表される。そのため、例えば、目標値Ip0s*は、以下のようにして定めておく。まず、ガスセンサ100を使用する内燃機関の種々の運転状態における排ガスの酸素濃度の最低値(マイナスの値まで低下する場合を含む)を予め調べておく。そして、最低値の酸素濃度の被測定ガスを低酸素雰囲気より酸素濃度の高い状態(例えば酸素濃度が0.1体積%超過,0.2体積%以上,1体積%以上など)まで上昇させるために必要な酸素の量に基づいて、目標値Ip0s*を定める。目標値Ip0s*が一定値として定められているため、制御装置90は、一定の流量の酸素が緩衝空間12内に汲み入れられるように予備ポンプセル15を制御する。目標値Ip0s*の値は、上記のように実験に基づいて適宜定めればよいが、例えば0.5mA以上3mA以下としてもよい。
制御装置90は、起電力V0が目標値(目標値V0*と称する)となるように(つまり第1内部空所20の酸素濃度が一定の目標濃度となるように)可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御する。そのため、ポンプ電流Ip0は被測定ガスに含まれる酸素濃度及び予備ポンプセル15が汲み入れる酸素の流量に応じて変化する。
また、制御装置90は、起電力V1が一定値(目標値V1*と称する)となるように(つまり第2内部空所40の酸素濃度がNOxの測定に実質的に影響がない所定の低酸素濃度となるように)可変電源52の電圧Vp1をフィードバック制御する。これとともに、制御装置90は、電圧Vp1によって流れるポンプ電流Ip1が一定値(目標値Ip1*と称する)となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて起電力V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)する。これにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となる。また、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧が、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御される。
更に、制御装置90は、起電力V2が一定値(目標値V2*と称する)となるように(つまり第3内部空所61内の酸素濃度が所定の低濃度になるように)可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御する。これにより、被測定ガス中のNOxが第3内部空所61で還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。そして、制御装置90は、特定ガス(ここではNOx)に由来して第3内部空所61で発生する酸素に応じた検出値としてポンプ電流Ip2を取得し、このポンプ電流Ip2に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
メモリ94には、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との関係式として、例えば一次関数の式が記憶されている。この関係式は、予め実験により求めておくことができる。
こうして構成されたガスセンサ100の使用例を以下に説明する。制御装置90のCPU92は、上述した各ポンプセル15,21,41,50の制御や、上述した各センサセル80~83からの各電圧V0,V1,V2,Vrefの取得を行っている状態とする。この状態で、被測定ガスがガス導入口10から導入されると、被測定ガスは、まず、第1拡散律速部11を通過した後に緩衝空間12に導入され、緩衝空間12で予備ポンプセル15によって酸素が汲み入れられる。続いて、酸素が汲み入れられた後の被測定ガスが第1内部空所20に到達する。次に、第1内部空所20及び第2内部空所40において被測定ガスの酸素濃度が主ポンプセル21及び補助ポンプセル50によって調整され、調整後の被測定ガスが第3内部空所61に到達する。そして、CPU92は、取得したポンプ電流Ip2とメモリ94に記憶された関係式とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を検出する。
このように予備ポンプセル15によって緩衝空間12への酸素の汲み入れを行うのは、上述したように低酸素雰囲気の被測定ガスが第1内部空所20に導入されるのを抑制するためである。このようなことを行う理由について説明する。本発明者らは、ガス導入口10に導入される前の被測定ガスの酸素濃度と目標値Ip0s*の値とを種々変化させたときの、ポンプ電流Ip0及びポンプ電流Ip2を調査した。被測定ガスは、モデルガスを調整して用いた。モデルガスは、ベースガスとして窒素、特定ガス成分として500ppmのNO、燃料ガスとして1000ppmの一酸化炭素ガス及び1000ppmのエチレンガスを用い、水分濃度が5体積%、酸素濃度が0.005~20体積%となるように調整した。モデルガスの温度は250℃とし、直径20mmの配管内を流量50L/minで流通させた。ただし、この調査では、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22が補助ポンプ電極51と同様にAuを含有しているガスセンサ(以下、参考例のガスセンサ)を使用した。参考例のガスセンサは、上記以外の点は本実施形態のガスセンサ100と同じである。
図3は、目標値Ip0s*を0mA,1mA,2mAとした場合の各々における、被測定ガス中の酸素濃度とポンプ電流Ip0との関係を示すグラフである。図3の左側のグラフは、図3の右側のグラフの破線で囲んだ部分の拡大図(但し横軸は対数表記)である。図4は、図3と同じ場合の各々における、被測定ガス中の酸素濃度とポンプ電流Ip2との関係を示すグラフである。図5は、図4のうち酸素濃度10体積%以下の領域を拡大したグラフであり、横軸は対数で表している。横軸の酸素濃度は、調整したモデルガスの酸素濃度、すなわちセンサ素子101の外部での被測定ガスの酸素濃度である。また、図5の横軸には、モデルガスのA/Fも括弧書きで併記した。A/Fは、HORIBA社製のMEXA-730λを用いて測定した値である。
図4,5からわかるように、モデルガスの酸素濃度が1体積%以上の場合は、目標値Ip0s*が0mA,1mA,2mAのいずれの場合も、同じ酸素濃度に対応するポンプ電流Ip2の値はほぼ同じであった。これに対し、モデルガスの酸素濃度が0.1体積%以下の場合は、目標値Ip0s*が0mAすなわち予備ポンプセル15による酸素の汲み入れを全く行わなかった場合のポンプ電流Ip2が、予備ポンプセル15による酸素の汲み入れを行った場合のポンプ電流Ip2とべて小さい値になっていた。すなわちNOx濃度に対するポンプ電流Ip2の感度が低下していた。
図3では、モデルガスの酸素濃度が同じ値でも、目標値Ip0s*が大きいほどポンプ電流Ip0が大きくなることが確認された。ただし、目標値Ip0s*が0mAの場合のポンプ電流Ip0と比較したポンプ電流Ip0の上昇量は、目標値Ip0s*が1mAの場合と2mAの場合とで、2倍にはならなかった。すなわちポンプ電流Ip0の上昇量は目標値Ip0s*に正比例はしなかった。これは、目標値Ip0s*を大きくしても、緩衝空間12に汲み入れられた酸素の一部がガス導入口10から拡散によって外部に抜けてしまい、汲み入れられた酸素の全てが第1内部空所20に到達するわけではないためと考えられる。また、図3ではIp0s*が0mA且つモデルガスの酸素濃度が0.1体積%以下の場合(図3左側に示す、酸素濃度が0.005体積%,0.01体積%,0.1体積%の場合)のみポンプ電流Ip0が負の値になっており、ポンプ電流Ip0が負の値である場合にポンプ電流Ip2の感度が低下していることが図3~5から確認された。ポンプ電流Ip0が負の値であるということは、主ポンプセル21が第1内部空所20からの酸素の汲み出しではなく第1内部空所20への酸素の汲み入れをしている(第1内部空所20の酸素分圧が目標値V0*になるように酸素を汲み入れている)ことを意味する。すなわち、ポンプ電流Ip0が負の値であるということは、第1内部空所20に導入される被測定ガスの酸素濃度が、目標値V0*で表される酸素濃度よりも低いことを意味する。
以上の結果から、第1内部空所20に導入される被測定ガスの酸素濃度が低い場合には、特定ガスの測定精度が低下することがわかる。これに対し、予備ポンプセル15を動作させる場合には、上述したように予備ポンプセル15によって酸素が供給された後の被測定ガスが第1内部空所20に導入されるため、図3に示すようにIp0の値を大きくする(=第1内部空所20に導入される被測定ガスの酸素濃度を高める)ことができる。そのため、低酸素雰囲気の被測定ガスが第1内部空所20に到達しにくく、被測定ガスが低酸素雰囲気である場合に生じる測定精度の低下を抑制することができる。図3~5の結果からは、酸素濃度が0.1体積%以下の被測定ガスが第1内部空所20に到達しないように、すなわち第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度が0.1体積%超過となるように予備ポンプセル15が緩衝空間12に酸素を汲み入れれば、測定精度の低下を抑制できると考えられる。また、予備ポンプセル15は、第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度が0.2体積%以上となるようにすることが好ましく、1体積%以上となるようにすることがより好ましいと考えられる。
予備ポンプセル15による汲み入れを行わない場合において、被測定ガスが低酸素雰囲気であると測定精度が低下する理由は定かではないが、例えば以下のように考えられる。第1内部空所20に低酸素雰囲気の被測定ガスが導入されると、内側ポンプ電極22が触媒として作用し、第3内部空所61に到達する前に第1内部空所20内でNOxの還元が生じてしまうことが考えられる。被測定ガスがリッチ雰囲気の場合には被測定ガス中に未燃成分として炭化水素(HC)や一酸化炭素などが存在することから、これらとNOxとが反応してしまいNOxが第1内部空所20内でより還元されやすくなることも考えられる。例えばガソリンエンジンの場合は、被測定ガスが理論空燃比付近で推移することが多いため、被測定ガスが常に低酸素雰囲気の場合もある。そのような場合でも、予備ポンプセル15による汲み入れを行うことで精度良く特定ガス濃度を検出できる。また、制御装置90は、ポンプ電流Ip1が一定値となるように目標値V0*をフィードバック制御しているが、これも被測定ガスが低酸素雰囲気である場合の測定精度の低下に関係している可能性がある。例えば、第1内部空所20に導入される被測定ガスの酸素濃度が一時的に低下した場合でも第2内部空所40にその影響が出るまでには時間差が生じる。これにより、ポンプ電流Ip1に基づいて目標値V0*が適切な値に変更されるまでに時間差が生じて、一時的に第1内部空所20の酸素を汲み出し過ぎる現象が生じる可能性がある。そして、この現象によって第1内部空所20内の酸素濃度が低くなり過ぎた場合には、第1内部空所20内でNOxの還元が生じてしまうことが考えられる。これに対し、予備ポンプセル15を動作させる場合には、予備ポンプセル15によって酸素が供給されているため、上記のような被測定ガスの酸素濃度の一時的な低下が生じたとしても、NOxが第1内部空所20で還元されるほどには第1内部空所20内の酸素濃度が低くならず、測定精度の低下が抑制されると考えられる。
また、本実施形態のガスセンサ100では、被測定ガスの雰囲気がリッチ雰囲気とリーン雰囲気との間で急変した時に生じるポンプ電流Ip1及びポンプ電流Ip2のスパイクノイズを抑制することもできる。本発明者らは、上述した参考例のガスセンサを用いて、ガス導入口10に導入される被測定ガスをリッチ雰囲気からリーン雰囲気に急変させたときの、ポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2の挙動を調査した。被測定ガスは、モデルガスを調整して用いた。モデルガスは、酸素濃度を0.05体積%としたリッチ雰囲気のガスと、酸素濃度を0.65体積%としたリーン雰囲気のガスとを用意し、リッチ雰囲気のガスを配管内に流し始めてから30秒経過後にリーン雰囲気のガスに切り替えを行った。モデルガスの酸素濃度以外の条件は、図3~5の測定に用いたモデルガスと同じとした。なお、上記の通りモデルガスには燃料ガス(1000ppmの一酸化炭素ガス及び1000ppmのエチレンガス)が含まれているため、酸素濃度が0.05体積%のモデルガスはリッチ雰囲気となる。図6は、目標値Ip0s*を0mAとした場合のポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2の時間変化のグラフである。図7は、目標値Ip0s*を1mAとした場合のポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2の時間変化のグラフである。
図6,7から分かるように、目標値Ip0s*を1mAとした場合(図7)では、図6と異なり被測定ガスがリッチ雰囲気である時間帯(経過時間が0~30秒)であってもポンプ電流Ip0が負の値にならず、常に正の値であった。また、図7では、図6と比べて、リッチ雰囲気からリーン雰囲気に切り替わった際のポンプ電流Ip1,Ip2のスパイクノイズが低減されていた。これは、ポンプ電流Ip0の正負が切り替わる際に、ポンプ電流Ip1,Ip2のスパイクノイズが生じやすいためであると考えられる。例えばガソリンエンジンの場合は、被測定ガスが理論空燃比付近で推移することが多いため、予備ポンプセル15が緩衝空間12に酸素を汲み入れない場合にはポンプ電流Ip0の正負の切り替えが頻繁に生じて、スパイクノイズが頻繁に生じる可能性がある。本実施形態のガスセンサ100では、そのようなポンプ電流Ip0の正負の切り替えの発生を抑制できる。
ここで、上述した参考例のガスセンサは、予備ポンプ電極16,内側ポンプ電極22及び補助ポンプ電極51のいずれもAuを含有している。本発明者らは、これらの各電極のAuの含有の有無を表1のように異ならせた実験例1~8のガスセンサを用意した。実験例1~8のいずれについても、予備ポンプ電極16,内側ポンプ電極22及び補助ポンプ電極51は全て貴金属とZrO2との多孔質サーメット電極とした。表1の「0.8」は、電極が貴金属としてPtとAuとを含有し、電極中のPtに対するAuの質量割合が0.8wt%であることを意味する。表1の「-」は、電極が貴金属としてPtのみを含有し、Auを含有しないことを意味する。
この実験例1~8のガスセンサの各々について、目標値Ip0s*を1mAとしたときの、被測定ガス中の特定ガス濃度とポンプ電流Ip2との関係を調査した。被測定ガスは、特定ガス成分としてNO濃度を0ppm,250ppm,500ppm含む3種類のモデルガスを調整して用いた。3種類のモデルガスは、いずれも、ベースガスとして窒素を用い、水分濃度が3体積%、酸素濃度が1体積%となるように調整した。モデルガスの温度は250℃とし、直径20mmの配管内を流量50L/minで流通させた。実験例1~8のガスセンサの、NO濃度とポンプ電流Ip2との関係を、表2及び図8に示す。
表2及び図8に示す結果から、補助ポンプ電極51がAuを含まない実験例3,4,7,8は、NO濃度を変えてもIp2がほとんど変化せず、且つポンプ電流Ip2はほぼ0μAであった。これは、補助ポンプ電極51の触媒活性によってNOが測定電極44に到達する前に還元されてしまっているためと考えられる。これに対し、補助ポンプ電極51がAuを含む実験例1,2,5,6は、NO濃度とIp2とが比例関係にあった。また、実験例1,2,5,6は、NO濃度に対応するIp2の値が互いにほぼ同じであった。すなわち、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22がAuを含むか否かの違いは、ポンプ電流Ip2に影響しなかった。この結果は、補助ポンプ電極51がAuを含んでいれば、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22についてはAuを含まなくとも、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22によるNOの還元は生じないことを意味している。この結果から、本発明者らは、予備ポンプセル15による酸素の汲み入れを行うことで、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の少なくとも一方について、Auを含有させる必要がないことを見いだした。本実施形態のガスセンサ100は、この結果に基づき、予備ポンプ電極16と内側ポンプ電極22との少なくとも一方についてAuを含有させないようにしつつ、補助ポンプ電極51についてはAuを含有させている。すなわち、実験例2,5,6が本実施形態のガスセンサ100に相当し、ひいては本発明のガスセンサの実施例に相当する。実験例1,3,4,7,8は、本発明の比較例に相当する。
上記のような結果となる理由は、以下のように考えられる。まず、ガスセンサ100の使用時には、上述したCPU92の制御によって、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50での酸素濃度の調整前の被測定ガスに対して、予備ポンプセル15が被測定ガスに酸素を供給している。そのため、予備ポンプセル15は酸素を汲み入れ、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50は酸素を汲み出している。これにより、被測定ガス流通部内の各電極の周囲の酸素濃度の大小関係は、(予備ポンプ電極16の周囲)≧(内側ポンプ電極22の周囲)>(補助ポンプ電極51の周囲)>(測定電極44の周囲)となっていると考えられる。すなわち、被測定ガス流通部に導入される前の被測定ガスが例え低酸素雰囲気であったとしても、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の周囲については、補助ポンプ電極51の周囲よりも酸素濃度が高く保たれる。そして、NOxの還元は、酸素濃度が高いほど起きにくい。そのため、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の少なくとも一方が触媒活性抑制能を有する貴金属(ここではAu)を含まなくとも、その電極によるNOxの還元は生じにくい。一方、補助ポンプ電極51の周囲には、主ポンプセル21が酸素を汲み出した後の被測定ガスが到達するため、補助ポンプ電極51によるNOxの還元が生じやすくなっている。しかし、補助ポンプ電極51は、Auを含んでいることで、NOxの還元を抑制できる。以上のことから、本実施形態のガスセンサ100では、測定電極44に到達する前にNOxを還元してしまうことが十分抑制されており、特定ガス濃度の検出精度が十分なものとなる。
また、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22が共にAuを含有していると、ガスセンサ100の使用に伴ってこれらの電極からAuが蒸散して、測定電極44に付着する場合がある。測定電極44にAuが付着すると、測定電極44の触媒活性が抑制されるから、測定電極44の周囲でNOxを十分還元できなくなる。その結果、NOx濃度に対応する正しいポンプ電流Ip2と比べて実際のポンプ電流Ip2が減少することになり、特定ガス濃度の検出精度が低下する。これに対して、本実施形態のガスセンサ100では、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の少なくとも一方が、触媒活性抑制能を有する貴金属を含まないから、ガスセンサ100の使用に伴うこの貴金属の蒸散を抑制でき、使用に伴う検出精度の低下を抑制できる。
以上のことから、本実施形態のガスセンサ100は、特定ガス濃度の検出精度を長期間維持できる。これに対し、例えば実験例3,4,7,8のように補助ポンプ電極51もAuを含有していない場合には、ガスセンサの使用開始時点で既に特定ガス濃度の検出精度が低くなってしまう。また、例えば実験例1のように予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22が共にAuを含んでいる場合には、ガスセンサの使用に伴って特定ガス濃度の検出精度が低下しやすくなる。すなわちガスセンサの耐久性が低下する。
なお、補助ポンプ電極51はAuを含有するが、補助ポンプ電極51内のAuは比較的蒸散しにくい。これについて説明する。上述した、電極からのAuの蒸散は、酸素濃度が高いほど生じやすい。例えば、PtとAuとを含む電極においては、酸素濃度が高いほどPtが酸化してPtO2が生じやすくなる。PtO2は、Ptと比べて飽和蒸気圧が高いことから、Ptよりも蒸散しやすい。そして、PtがPtO2となって蒸散すると、残されたAuも蒸散しやすくなる。Pt-Au合金よりもAu単体の方が飽和蒸気圧が高いためである。これに対して、補助ポンプ電極51の周囲は、上述したように酸素濃度が低くなっているから、補助ポンプ電極51内のAuは比較的蒸散しにくい。したがって、補助ポンプ電極51がAuを含有していても、ガスセンサ100の使用に伴う上述した検出精度の低下は生じにくい。
予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22は、両方とも、触媒活性抑制能を有する貴金属を含まないことが好ましい。こうすれば、触媒活性抑制能を有する貴金属の蒸散をより抑制できるから、特定ガス濃度の検出精度を長期間維持する効果が高まる。
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1と第2基板層2と第3基板層3と第1固体電解質層4とスペーサ層5と第2固体電解質層6との6つの層がこの順に積層された積層体が本発明の素子本体に相当し、緩衝空間12が予備室に相当し、予備ポンプセル15が予備ポンプセルに相当し、第1内部空所20が第1内部空所に相当し、主ポンプセル21が主ポンプセルに相当し、第2内部空所40が第2内部空所に相当し、補助ポンプセル50が補助ポンプセルに相当し、第3内部空所61が測定室に相当し、測定電極44が測定電極に相当し、基準電極42が基準電極に相当し、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が測定用電圧検出手段に相当し、ポンプ電流Ip2が検出値に相当し、制御装置90のCPU92が特定ガス濃度検出手段に相当し、予備ポンプ電極16が内側予備ポンプ電極に相当し、内側ポンプ電極22が内側主ポンプ電極に相当し、補助ポンプ電極51が内側補助ポンプ電極に相当する。また、ポンプ電流Ip0sが予備ポンプ電流に相当し、CPU92が予備ポンプ制御手段に相当し、メモリ94が記憶手段に相当し、ポンプ電流Ip0が主ポンプセルのポンプ電流に相当し、CPU92が酸素濃度検出手段に相当し、外側ポンプ電極23が被測定ガス側電極に相当する。
以上説明した本実施形態のガスセンサ100によれば、主ポンプセル21による酸素濃度の調整前に予備ポンプセル15が被測定ガスに酸素を供給するため、被測定ガス流通部に導入される前の被測定ガスが低酸素雰囲気であったとしても、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の周囲が低酸素雰囲気にならないようにすることができる。これにより、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の少なくとも一方が、触媒活性抑制能を有する貴金属(例えばAu)を含まなくとも、その電極による特定ガスの還元が生じにくくなる。また、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の少なくとも一方が、触媒活性抑制能を有する貴金属を含まないから、ガスセンサ100の使用に伴ってこの貴金属が蒸散して測定電極44に付着することを抑制できる。以上により、ガスセンサ100は、特定ガス濃度の検出精度を長期間維持できる。
また、CPU92は一定の予備ポンプ電流(目標値Ip0s*)が流れるように予備ポンプセル15を制御するから、比較的簡単な制御によって、緩衝空間12内で低酸素雰囲気の被測定ガスに酸素を供給することができる。
さらに、CPU92は、素子本体の外部の被測定ガスが低酸素雰囲気であるか否かに関わらず、メモリ94に記憶された同じ関係式を用いて特定ガス濃度を検出する。本実施形態のガスセンサ100は、図4,5を用いて説明したように、被測定ガスが低酸素雰囲気である場合でもポンプ電流Ip2の感度の低下が生じにくい。そのため、被測定ガスが低酸素雰囲気である場合とそうでない場合とで異なる関係式を用いなくとも、ガスセンサ100は精度良く特定ガス濃度を検出できる。そのため、ガスセンサ100は特定ガス濃度を容易に且つ精度良く検出できる。
さらにまた、予備ポンプセル15は、外側ポンプ電極23の周囲から緩衝空間12に酸素を汲み入れる。こうすれば、例えば基準電極42の周囲から緩衝空間12に酸素を汲み入れる場合と比較して、汲み入れ時の電流による電圧降下で基準電極42の電位が変化することによる測定精度の低下を抑制できる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、CPU92は、ポンプ電流Ip2と、メモリ94に記憶されたポンプ電流Ip2とNOx濃度との関係式と、に基づいて特定ガス濃度を検出したが、これに限られない。例えば、CPU92は、センサ素子101の外部の被測定ガスの酸素濃度に基づいて補正した特定ガス濃度を検出してもよい。例えば、図5における目標値Ip0s*を1mA,2mAにしたデータでは、被測定ガスの酸素濃度が常に5%以下の場合には酸素濃度が変化しても特定ガスの実際の濃度(実濃度)が同じであればポンプ電流Ip2の値はあまり変化しない(図5参照)。一方、被測定ガスの酸素濃度がより大きい範囲で変動しうる場合には、図4に示すように酸素濃度に応じてポンプ電流Ip2が変化する場合がある。このように酸素濃度に応じたポンプ電流Ip2の変化が比較的大きい場合には、CPU92が、この酸素濃度に基づく補正を伴って特定ガス濃度を検出することで、特定ガス濃度の測定精度が向上する。例えば、図4における目標値Ip0s*を1mA,2mAにしたデータでは、特定ガス濃度が同じ場合には、酸素濃度に応じてポンプ電流Ip2が線形的に変化するため、酸素濃度とポンプ電流Ip2との関係を一次関数で近似できる。そこで、CPU92は、この一次関数の式(補正用関係式)を用いて、測定用ポンプセル41から取得したポンプ電流Ip2から酸素濃度の影響を除いた補正後ポンプ電流を導出し、この補正後ポンプ電流と上述した実施形態でメモリ94に記憶された関係式とに基づいて、特定ガス濃度を検出してもよい。この場合、メモリ94が補正用関係式も記憶していてもよい。あるいは、上述した実施形態でメモリ94に記憶されていた関係式の代わりに、補正用関係式を加味した関係式、すなわちポンプ電流Ip2と特定ガス濃度とセンサ素子101の外部の被測定ガスの酸素濃度との関係式を記憶しておき、CPU92はこの関係式を用いて補正後の特定ガス濃度を検出してもよい。これらの補正用関係式及び補正用関係式を加味した関係式についても、上述した実施形態でメモリ94に記憶された関係式と同様に、センサ素子101の外部の被測定ガスが低酸素雰囲気であるか否かに関わらず同じ式を用いて精度良く特定ガス濃度を検出できる。
上記のようにCPU92が補正を行う場合、センサ素子101の外部の被測定ガスの酸素濃度をCPU92が検出してもよい。ここで、一定のポンプ電流Ip0s(すなわち目標値Ip0s*)は、緩衝空間12内に予備ポンプセル15が汲み入れた酸素の流量に対応する。また、ポンプ電流Ip0は、第1内部空所20から汲み出した酸素の流量に対応する。したがって、CPU92は、ポンプ電流Ip0s及びポンプ電流Ip0と第1内部空所20内の酸素濃度の目標濃度とに基づいて、予備ポンプセル15による酸素の汲み入れ及び主ポンプセル21による酸素の汲み出しが行われる前の被測定ガスの酸素濃度、すなわちセンサ素子101の外部の被測定ガスの酸素濃度を検出することができる。これにより、補正に必要な酸素濃度をガスセンサ100が検出できる。他に、CPU92は、例えば基準電極42と外側ポンプ電極23との間の電圧Vrefに基づいてセンサ素子101の外部の被測定ガスの酸素濃度を検出することもできる。あるいは、CPU92は、他のセンサやエンジンECUなどガスセンサ100以外の装置からセンサ素子101の外部の被測定ガスの酸素濃度を取得して、補正に用いてもよい。
上述した実施形態では、予備ポンプセル15は外側ポンプ電極23の周囲から緩衝空間12に酸素を汲み入れたが、これに限らず例えば基準電極42の周囲から緩衝空間12に酸素を汲み入れてもよい。こうすれば、基準ガス(ここでは大気)は被測定ガスと比べて酸素濃度が高いため、例えば外部の被測定ガスから酸素を汲み入れる場合と比較して、低い印加電圧で緩衝空間12に酸素を汲み入れることができる。これに対し、外側ポンプ電極23の周囲から緩衝空間12に酸素を汲み入れる場合には、特に外側ポンプ電極23の周囲が低酸素雰囲気であると被測定ガス中の一酸化炭素又は水などを還元させて酸素イオンを生じさせる必要があるため、可変電源17の電圧Vp0sを比較的高くする必要がある。
上述した実施形態では、緩衝空間12と第1内部空所20との間に第2拡散律速部13が存在したが、これに限られない。例えば、第2拡散律速部13を省略して、緩衝空間12と第1内部空所20とが1つの空間として構成されていてもよい。
上述した実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を検出したが、これに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものを第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、CPU92はこの酸素に応じた検出値を取得して特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスを酸化物に変換(例えばアンモニアであればNOに変換)することで、変換後のガスが第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、CPU92はこの酸素に応じた検出値を取得して特定ガス濃度を検出できる。例えば予備ポンプ電極16がアンモニアの酸化を促進する触媒機能を有する金属を含んでいれば、予備ポンプ電極16の触媒機能により緩衝空間12内で特定ガスを酸化物に変換することができる。内側ポンプ電極22についても同様のことが可能である。アンモニアは酸化物としてNOに変換されるため、アンモニア濃度測定は、基本的にはNOx濃度測定と同じ原理によって行われる。
上述した実施形態では、CPU92は一定の予備ポンプ電流(目標値Ip0s*)が流れるように予備ポンプセル15を制御したが、これに限られない。例えば、CPU92は、予備ポンプ電極16と基準電極42との間の電圧に基づいて検出される緩衝空間12内の酸素濃度が目標値になるように、電圧Vp0sをフィードバック制御してもよい。あるいは、センサ素子101の外部の酸素濃度が低いほど多量の酸素を緩衝空間12内に汲み入れるように電圧Vp0sを制御してもよい。この場合、CPU92は、センサ素子101の外部の酸素濃度を上述した手法で検出したりガスセンサ100以外の装置から取得したりすればよい。また、CPU92は電圧Vp0sを一定に制御してもよい。
上述した実施形態では、内燃機関の種々の運転状態における最低値の酸素濃度の被測定ガスを低酸素雰囲気より酸素濃度の高い状態(例えば酸素濃度が0.1体積%超過,0.2体積%以上,1体積%以上など)まで上昇させるために必要な酸素の量に基づいて、目標値Ip0s*を定めたが、これに限られない。例えば、内燃機関の種々の運転状態における最低値の酸素濃度の被測定ガスがセンサ素子101の被測定ガス流通部に導入された場合でもポンプ電流Ip0が負にならないような値として、目標値Ip0s*を定めてもよい。すなわち、予備ポンプセル15は、「ポンプ電流Ip0が負にならないように」することで、「低酸素雰囲気の被測定ガスが第1内部空所20に到達しないように」してもよい。いずれにしても、予備ポンプセル15が緩衝空間12に汲み入れる酸素の量は、被測定ガスの成分の取り得る変動範囲に応じて、その変動範囲の中で測定精度の低下を抑制できるように(例えば図4,5で示したNOx濃度に対するポンプ電流Ip2の感度が低下する状態が生じにくくなるように)、実験により定めることができる。
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、図9のセンサ素子201のように、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。図9に示した変形例のセンサ素子201では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al2O3)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のセンサ素子201であっても、上述した実施形態と同様に例えばポンプ電流Ip2に基づいてNOx濃度を検出できる。この場合、測定電極44の周囲が測定室として機能することになる。
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23は、予備ポンプセル15の被測定ガス側電極(外側予備ポンプ電極),主ポンプセル21の外側主ポンプ電極,補助ポンプセル50の外側補助ポンプ電極,及び測定用ポンプセル41の外側測定電極を兼ねていたが、これに限られない。外側予備ポンプ電極,外側主ポンプ電極,外側補助ポンプ電極,及び外側測定電極のうちのいずれか1以上を、外側ポンプ電極23とは別に素子本体の外側に被測定ガスと接触するように設けてもよい。
上述した実施形態では、センサ素子101の素子本体は複数の固体電解質層(層1~6)を有する積層体としたが、これに限られない。センサ素子101の素子本体は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を少なくとも1つ含み、且つ被測定ガス流通部が内部に設けられていればよい。例えば、図1において第2固体電解質層6以外の層1~5は固体電解質以外の材質からなる層(例えばアルミナからなる層)としてもよい。この場合、センサ素子101が有する各電極は第2固体電解質層6に配設されるようにすればよい。例えば、図1の測定電極44は第2固体電解質層6の下面に配設すればよい。また、基準ガス導入空間43を第1固体電解質層4の代わりにスペーサ層5に設け、大気導入層48を第1固体電解質層4と第3基板層3との間に設ける代わりに第2固体電解質層6とスペーサ層5との間に設け、基準電極42を第3内部空所61よりも後方且つ第2固体電解質層6の下面に設ければよい。
上述した実施形態では、制御装置90は、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて起電力V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)し、起電力V0が目標値V0*となるようにポンプ電圧Vp0をフィードバック制御したが、他の制御を行ってもよい。例えば、制御装置90は、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいてポンプ電圧Vp0をフィードバック制御してもよい。すなわち、制御装置90は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80からの起電力V0の取得や目標値V0*の設定を省略して、ポンプ電流Ip1に基づいて直接的にポンプ電圧Vp0を制御(ひいてはポンプ電流Ip0を制御)してもよい。
上述した「内燃機関の種々の運転状態における最低値の酸素濃度」は、例えば-11体積%(ガソリンエンジンのA/Fで表すと値11)としてもよい。例えば、上述した実施形態で説明した方法で目標値Ip0s*を定めておく際には、緩衝空間12に酸素濃度が-11体積%の被測定ガスが流入した場合にその被測定ガスの酸素濃度を低酸素雰囲気より酸素濃度の高い状態(0.1体積%超過,好ましくは0.2体積%以上,より好ましくは1体積%以上)まで上昇させるために必要な酸素の量に基づいて、目標値Ip0s*が定められていてもよい。
予備ポンプセル15は、-11体積%以上0.1体積%以下のいずれの酸素濃度の被測定ガスが緩衝空間12に流入してきた場合でも、第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度(=第2拡散律速部13の出口での酸素濃度)が0.1体積%超過となるように、緩衝空間12に酸素を汲み入れることが好ましい。上述した実験例1~8において、第2内部空所40に到達する被測定ガスの酸素濃度(=第3拡散律速部30の出口での酸素濃度)を調べたところ、0.1体積%であった。そのため、補助ポンプ電極51の周囲では酸素濃度が0.1体積%以下となっていることで、補助ポンプ電極51にはAuを含ませることが必要になっていると考えられる。一方、上述した被測定ガス流通部内の各電極の周囲の酸素濃度の大小関係から分かるように、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22の周囲では酸素濃度が0.1体積%より高くなっており、これにより予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22についてはAuを含まなくともNOの還元が生じなかったと考えられる。したがって、予備ポンプセル15が、-11体積%以上0.1体積%以下のいずれの酸素濃度の被測定ガスが緩衝空間12に流入してきた場合でも、第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度が0.1体積%より高くなるように、緩衝空間12に酸素を汲み入れれば、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22が触媒活性抑制能を有する貴金属を含まなくとも、これらの電極による特定ガスの還元又は特定ガスに由来する酸化物の還元がより確実に生じにくくなる。すなわち、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22について、触媒活性抑制能を有する貴金属の含有をより確実に不要にできる。また、このような酸素の汲み入れが行われるように、CPU92が予備ポンプセル15を制御することが好ましい。例えば、上述した実施形態で説明した方法で目標値Ip0s*を定めておく際には、緩衝空間12に酸素濃度が-11体積%の被測定ガスが流入した場合でも、第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度を0.1体積%より高い値に上昇させることができるような値として、目標値Ip0s*が定められていてもよい。同様に、上述した変形例で説明した、「CPU92は電圧Vp0sを一定に制御」する場合には、電圧Vp0sが一定値に制御されている状態で流れるポンプ電流Ip0sが、緩衝空間12内に流入した-11体積%の酸素濃度の被測定ガスを0.1体積%超過の酸素濃度まで上昇させることができるように、電圧Vp0sの目標値(一定値)が設定されていてもよい。上述した変形例で説明した、「緩衝空間12内の酸素濃度が目標値になるように、電圧Vp0sをフィードバック制御」する場合には、緩衝空間12内の酸素濃度の目標値(予備ポンプ電極16と基準電極42との間の電圧の目標値)が、0.1体積%をわずかに超える値(又は所定のマージンを設けた0.1体積%より大きい値)に設定されていてもよい。上述した変形例で説明した「センサ素子101の外部の酸素濃度が低いほど多量の酸素を緩衝空間12内に汲み入れるように電圧Vp0sを制御」する場合には、緩衝空間12に酸素濃度が-11体積%以上0.1体積%以下のいずれの被測定ガスが流入した場合でも第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度を0.1体積%より高い値まで上昇させることができるように、外部の酸素濃度と電圧Vp0sの目標値との対応関係が予め定められており、その対応関係に基づいてCPU92が電圧Vp0sを制御すればよい。また、予備ポンプセル15は、第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度が1体積%以上となるように緩衝空間12酸素を汲み入れることが好ましい。より具体的には、-11体積%以上1体積%未満のいずれの酸素濃度の被測定ガスが緩衝空間12に流入してきた場合でも、第1内部空所20に到達する被測定ガスの酸素濃度が1体積%以上となるように、緩衝空間12に酸素を汲み入れることが好ましい。こうすれば、予備ポンプ電極16及び内側ポンプ電極22について、触媒活性抑制能を有する貴金属の含有をさらに確実に不要にできる。また、このような酸素の汲み入れが行われるように、CPU92が予備ポンプセル15を制御することが好ましい。
上述した実施形態において、主ポンプセル21は、第2内部空所40に到達する被測定ガスの酸素濃度が0.1体積%未満にならないように第1内部空所20の酸素を汲み出してもよい。こうすることで、内側ポンプ電極22の周囲の酸素濃度が低くなることを抑制できる。そのため、内側ポンプ電極22が触媒活性抑制能を有する貴金属を含まない場合に、内側ポンプ電極22による特定ガスの還元又は特定ガスに由来する酸化物の還元がより確実に生じにくくなる。また、このような酸素の汲み出しが行われるように、CPU92が主ポンプセル21を制御することが好ましい。例えば、第2内部空所40に到達する被測定ガスの酸素濃度が0.1体積%未満にならないような範囲として、上述した目標値V0*の許容範囲を予め実験により定めておいてもよい。そして、CPU92は、ポンプ電流Ip1に基づいて目標値V0*を設定するにあたり、この許容範囲内で目標値V0*を設定するようにしてもよい。